(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】分散液の製造方法、金属酸化物粒子の製造方法、及び、セラミックシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20240806BHJP
C01G 23/047 20060101ALI20240806BHJP
C04B 35/468 20060101ALI20240806BHJP
C09C 1/00 20060101ALI20240806BHJP
C09C 3/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C01G23/00 C
C01G23/047
C04B35/468
C09C1/00
C09C3/00
(21)【出願番号】P 2023503379
(86)(22)【出願日】2021-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2021042714
(87)【国際公開番号】W WO2022185629
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2021033284
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】細倉 匡
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-148970(JP,A)
【文献】特開2004-067504(JP,A)
【文献】特開2018-090438(JP,A)
【文献】特開2018-172242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00 - 23/08
C04B 35/468
C09C 1/00
C09C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸で修飾された金属酸化物粒子を、無機酸及び酢酸の少なくとも一方と溶媒とを含む第1溶液に入れて攪拌する、第1攪拌工程と、
前記第1攪拌工程で攪拌された前記金属酸化物粒子を、洗浄した後で回収する、洗浄回収工程と、
前記洗浄回収工程で回収された前記金属酸化物粒子を、アミン及びアンモニアの少なくとも一方と極性溶媒とを含む第2溶液に入れて攪拌する、第2攪拌工程と、を備える、ことを特徴とする分散液の製造方法。
【請求項2】
前記第2溶液に含まれる前記極性溶媒は、水である、請求項1に記載の分散液の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸は、酢酸、クエン酸、シュウ酸、プロピオン酸、オレイン酸、リノール酸、及び、リノレン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の分散液の製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物粒子を構成する金属酸化物は、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化セリウム、及び、酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載の分散液の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物粒子の粒径は、15nmよりも大きく、100nm以下である、請求項1~4のいずれかに記載の分散液の製造方法。
【請求項6】
前記無機酸は、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、及び、ホウ酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれかに記載の分散液の製造方法。
【請求項7】
前記無機酸は、硝酸である、請求項6に記載の分散液の製造方法。
【請求項8】
前記アミンは、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、及び、トリエチルアミンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~7のいずれかに記載の分散液の製造方法。
【請求項9】
前記アミンは、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドである、請求項8に記載の分散液の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の分散液の製造方法により分散液を製造する、分散液製造工程と、
前記分散液に含まれる前記金属酸化物粒子の界面に、Mg、Ca、Sr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Eu、Tm、Yb、及び、Luからなる群より選択される少なくとも1種の金属がイオン化した金属イオンを吸着させる、金属イオン吸着工程と、を備える、ことを特徴とする金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項11】
前記金属イオン吸着工程では、前記分散液に含まれる前記金属酸化物粒子を、前記金属イオンを含む金属塩が水に溶解した金属塩水溶液に入れる、請求項10に記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項12】
前記金属塩は、塩化物塩、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及び、ホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項11に記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項1~9のいずれかに記載の分散液の製造方法により分散液を製造する、分散液製造工程と、
前記分散液を基材上でシート状に成形する、成形工程と、を備える、ことを特徴とするセラミックシートの製造方法。
【請求項14】
前記成形工程で成形されたシートに含まれる前記金属酸化物粒子の界面に、Mg、Ca、Sr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Eu、Tm、Yb、及び、Luからなる群より選択される少なくとも1種の金属がイオン化した金属イオンを吸着させる、金属イオン吸着工程を更に備える、請求項13に記載のセラミックシートの製造方法。
【請求項15】
前記金属イオン吸着工程では、前記シートを、前記金属イオンを含む金属塩が水に溶解した金属塩水溶液に入れる、請求項14に記載のセラミックシートの製造方法。
【請求項16】
前記金属塩は、塩化物塩、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及び、ホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項15に記載のセラミックシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散液の製造方法、金属酸化物粒子の製造方法、及び、セラミックシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器に対する特性向上の要求に伴い、その構成材料として用いられる金属酸化物粒子のサイズ及び形状を制御することが求められている。
【0003】
このような金属酸化物粒子の製造方法として、特許文献1には、水酸化バリウム水溶液と、水溶性チタン錯体の水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液と、アミン化合物と、有機カルボン酸とを混合して溶液を得て、溶液を加熱して合成すること、及び、上記溶液において、バリウム1モルに対するアミン化合物のモル数が2以上16以下であり、バリウム1モルに対する有機カルボン酸のモル数が2以上8以下であること、を特徴とするチタン酸バリウムナノ結晶の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のチタン酸バリウムナノ結晶の製造方法によれば、単分散性を有し、微細であり、かつ、制御された六面体状の構造を有するチタン酸バリウムナノ結晶を合成することができる、とされている。また、このように製造されたチタン酸バリウムナノ結晶は、サイズ及び形状が揃っているため、例えば、2次元又は3次元の配列を有するように集積させて構造体を形成することが可能となり、新たな性能や機能を有する機器への応用が期待される、とされている。また、このように製造されたチタン酸バリウムナノ結晶は、微細であるため、電子機器の微細化にも対応し得る、とされている。更に、このように製造されたチタン酸バリウムナノ結晶は、自己配列しやすいという特徴を有する、とされている。
【0006】
特許文献1に記載のチタン酸バリウムナノ結晶は、例えば、積層セラミックコンデンサの誘電体層に利用される。このような誘電体層は、通常、チタン酸バリウムナノ結晶の分散液を基材上で成形することにより製造される。このように、特許文献1に記載のチタン酸バリウムナノ結晶を用いて誘電体層を製造する際、チタン酸バリウムナノ結晶が有する上述した特徴をいかすためには、チタン酸バリウムナノ結晶の分散性に優れた分散液を用いることが重要となる。
【0007】
特許文献1に記載のチタン酸バリウムナノ結晶の製造方法によれば、オレイン酸等の炭素鎖が長い有機カルボン酸が、ナノ結晶合成の間、ナノ結晶の(100)面に配位して、ナノ結晶の(100)面の結晶成長を抑制することで、チタン酸バリウムナノ結晶のサイズ及び形状を制御している。つまり、特許文献1に記載のチタン酸バリウムナノ結晶は、有機カルボン酸で修飾されている。特許文献1には、得られたチタン酸バリウムナノ結晶をトルエンに分散させ、次いでその溶液をシリコン基板上に滴下した後溶媒を乾燥除去しただけで、緻密な配列が生じ得る、と記載されている。このように、特許文献1に記載のチタン酸バリウムナノ結晶を用いて分散液を製造する際には、チタン酸バリウムナノ結晶をトルエン等の非極性溶媒に分散させている。
【0008】
これに対して、本発明者は、特許文献1に記載のチタン酸バリウムナノ結晶のような、有機酸で修飾された金属酸化物粒子を、極性溶媒に分散させることを検討した。特に、有機酸で修飾された金属酸化物粒子を、極性溶媒としての水に分散させることができれば、その分散液を基材上で成形する際に、水の表面張力の大きさを利用することで、金属酸化物粒子を互いに引き寄せて、緻密に、より具体的には、2次元又は3次元の配列を有するように基材上で集積させることが、低コストで可能となると、本発明者は考えた。
【0009】
しかしながら、有機酸で修飾された金属酸化物粒子は疎水性を示すため、トルエン等の非極性溶媒には容易に分散するが、水等の極性溶媒には分散しない。したがって、有機酸で修飾された金属酸化物粒子を単に極性溶媒に分散させるだけでは、金属酸化物粒子の分散性に優れた分散液を製造できないことが分かった。
【0010】
更に、チタン酸バリウムのような複合金属酸化物の粒子を電子機器、電子部品等に利用する場合には、複合金属酸化物の粒子を、単純な組成のままで用いるよりも、元素の置換等を行った上で用いる方が、電子機器、電子部品等の特性を向上させやすくなることがある。
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載のチタン酸バリウムナノ結晶については、単純な組成で製造されるのが通常であり、元素の置換等を行うことが困難である。そのため、特許文献1に記載のチタン酸バリウムナノ結晶を電子機器、電子部品等に利用しても、電子機器、電子部品等の特性を向上させにくい。
【0012】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、有機酸で修飾された金属酸化物粒子を出発材料として用いても、極性溶媒への金属酸化物粒子の分散性に優れた分散液を製造可能な分散液の製造方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、電子機器、電子部品等の特性を向上可能な金属酸化物粒子を製造可能な金属酸化物粒子の製造方法を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、上記分散液の製造方法を用いるセラミックシートの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の分散液の製造方法は、有機酸で修飾された金属酸化物粒子を、無機酸及び酢酸の少なくとも一方と溶媒とを含む第1溶液に入れて攪拌する、第1攪拌工程と、上記第1攪拌工程で攪拌された上記金属酸化物粒子を、洗浄した後で回収する、洗浄回収工程と、上記洗浄回収工程で回収された上記金属酸化物粒子を、アミン及びアンモニアの少なくとも一方と極性溶媒とを含む第2溶液に入れて攪拌する、第2攪拌工程と、を備える、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の金属酸化物粒子の製造方法は、本発明の分散液の製造方法により分散液を製造する、分散液製造工程と、上記分散液に含まれる上記金属酸化物粒子の界面に、Mg、Ca、Sr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Eu、Tm、Yb、及び、Luからなる群より選択される少なくとも1種の金属がイオン化した金属イオンを吸着させる、金属イオン吸着工程と、を備える、ことを特徴とする。
【0015】
本発明のセラミックシートの製造方法は、本発明の分散液の製造方法により分散液を製造する、分散液製造工程と、上記分散液を基材上でシート状に成形する、成形工程と、を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有機酸で修飾された金属酸化物粒子を出発材料として用いても、極性溶媒への金属酸化物粒子の分散性に優れた分散液を製造可能な分散液の製造方法を提供できる。また、本発明によれば、電子機器、電子部品等の特性を向上可能な金属酸化物粒子を製造可能な金属酸化物粒子の製造方法を提供できる。更に、本発明によれば、上記分散液の製造方法を用いるセラミックシートの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1-1の分散液について、粒度分布の測定結果を示すグラフである。
【
図2】実施例2-1の分散液について、粒度分布の測定結果を示すグラフである。
【
図3】実施例3-1の分散液について、粒度分布の測定結果を示すグラフである。
【
図4】実施例4-1の分散液について、粒度分布の測定結果を示すグラフである。
【
図5】実施例1-2のセラミックシートの平面構造を示す模式図である。
【
図6】実施例1-2のセラミックシートの断面構造を示す模式図である。
【
図7】実施例2-2のセラミックシートの平面構造を示す模式図である。
【
図8】実施例2-2のセラミックシートの断面構造を示す模式図である。
【
図9】実施例1-3のセラミック焼結層について、比誘電率及び誘電正接の温度特性の測定結果を示すグラフである。
【
図10】実施例2-3のセラミック焼結層について、比誘電率及び誘電正接の温度特性の測定結果を示すグラフである。
【
図11】実施例1-4のセラミックシートの断面を示すSTEM像である。
【
図12】
図11に示すSTEM像におけるTiの分布状態を示す元素マッピング図である。
【
図13】
図11に示すSTEM像におけるBaの分布状態を示す元素マッピング図である。
【
図14】
図11に示すSTEM像におけるYの分布状態を示す元素マッピング図である。
【
図15】実施例1-4のセラミックシートの製造過程のイメージを示す模式図である。
【
図16】実施例2-4のセラミックシートの断面を示すSTEM像である。
【
図17】
図16に示すSTEM像におけるTiの分布状態を示す元素マッピング図である。
【
図18】
図16に示すSTEM像におけるBaの分布状態を示す元素マッピング図である。
【
図19】
図16に示すSTEM像におけるMnの分布状態を示す元素マッピング図である。
【
図20】実施例2-4のセラミックシートの製造過程のイメージを示す模式図である。
【
図21】実施例1-5のセラミック焼結層について、比誘電率の温度特性の測定結果を示すグラフである。
【
図22】実施例2-5のセラミック焼結層について、比誘電率の温度特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の分散液の製造方法と、本発明の金属酸化物粒子の製造方法と、本発明のセラミックシートの製造方法とについて説明する。なお、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更されてもよい。また、以下において記載する個々の好ましい構成を複数組み合わせたものもまた本発明である。
【0019】
[分散液の製造方法]
本発明の分散液の製造方法は、有機酸で修飾された金属酸化物粒子を、無機酸及び酢酸の少なくとも一方と溶媒とを含む第1溶液に入れて攪拌する、第1攪拌工程と、上記第1攪拌工程で攪拌された上記金属酸化物粒子を、洗浄した後で回収する、洗浄回収工程と、上記洗浄回収工程で回収された上記金属酸化物粒子を、アミン及びアンモニアの少なくとも一方と極性溶媒とを含む第2溶液に入れて攪拌する、第2攪拌工程と、を備える、ことを特徴とする。
【0020】
<第1攪拌工程>
有機酸で修飾された金属酸化物粒子を、無機酸及び酢酸の少なくとも一方と溶媒とを含む第1溶液に入れて攪拌する。これにより、第1溶液に含まれる無機酸及び酢酸の少なくとも一方が、金属酸化物粒子に修飾している有機酸を切り離し、金属酸化物粒子をプロトン化する。
【0021】
有機酸で修飾された金属酸化物粒子は、特許文献1に記載のチタン酸バリウムナノ結晶のように、単分散性を有している、つまり、サイズ及び形状が揃っている。よって、分散液を製造する際の出発材料として、有機酸で修飾された金属酸化物粒子を用いることにより、後述するように、サイズ及び形状が揃った金属酸化物粒子が分散された分散液を製造できる。そのため、後述するようにセラミックシートを製造する際にこのような分散液を用いることにより、金属酸化物粒子を、緻密に、より具体的には、2次元又は3次元の配列を有するように、基材上で集積させることができる。
【0022】
有機酸は、酢酸、クエン酸、シュウ酸、プロピオン酸、オレイン酸、リノール酸、及び、リノレン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
金属酸化物粒子を構成する金属酸化物は、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化セリウム、及び、酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
金属酸化物粒子の形状としては、例えば、多面体状、球状等が挙げられる。例えば、チタン酸バリウム粒子及びチタン酸ストロンチウム粒子は六面体状に属する直方体状であり、酸化セリウム粒子は八面体状であり、酸化チタン粒子は球状である。後述するようにセラミックシートを製造する際に、金属酸化物粒子を最密充填してセラミックシートを緻密化する観点からは、金属酸化物粒子は直方体状であることが好ましい。ここで、直方体状には、完全な直方体状の他に、各頂点が面取りされたような不完全な直方体状も含まれる。当然のことながら、直方体状には立方体状も含まれる。また、球状には、完全な球状の他に、不完全な球状も含まれる。
【0025】
金属酸化物粒子の粒径は、15nmよりも大きく、100nm以下であることが好ましい。金属酸化物粒子の粒径が大きいと分散させることが困難になるが、本発明の分散液の製造方法によれば、極性溶媒への金属酸化物粒子の分散性に優れた分散液を製造できる。金属酸化物粒子の粒径が100nm以下である場合、後に得られる分散液において、金属酸化物粒子が自重により落下しにくいため、金属酸化物粒子の分散性に優れた分散液を製造できる。
【0026】
金属酸化物粒子の粒径は、金属酸化物粒子が多面体状である場合はその最大辺の長さを意味し、金属酸化物粒子が球状である場合はその直径を意味する。金属酸化物粒子の粒径は、動的光散乱測定装置により測定される個数平均粒径で定められる。
【0027】
第1溶液は、無機酸及び酢酸の少なくとも一方と溶媒とを含んでいる。より具体的には、第1溶液は、無機酸及び溶媒を含んでいてもよいし、酢酸及び溶媒を含んでいてもよいし、無機酸、酢酸、及び、溶媒を含んでいてもよい。
【0028】
無機酸は、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、及び、ホウ酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、無機酸は、硝酸であることがより好ましい。無機酸として硝酸を用いると、塩酸に比べて腐食性が低いため、攪拌時に金属酸化物粒子を腐食させにくくなる。
【0029】
第1溶液に含まれる溶媒は、極性溶媒であることが好ましい。第1溶液に含まれる極性溶媒としては、水、エタノール等が挙げられる。中でも、第1溶液に含まれる極性溶媒は、水であることが好ましい。第1溶液が極性溶媒として水を含む場合、第1溶液は、無機酸及び酢酸の少なくとも一方を水溶液として含んでいてもよい。
【0030】
本明細書中、極性溶媒は、比誘電率が6.0よりも大きい溶媒を意味する。
【0031】
第1溶液に含まれる無機酸及び酢酸の少なくとも一方が、金属酸化物粒子に修飾している有機酸を切り離し、金属酸化物粒子をプロトン化することが可能な条件であれば、第1溶液に含まれる無機酸及び酢酸の少なくとも一方の濃度、攪拌時間等の攪拌条件は、特に限定されず、第1溶液に入れた金属酸化物粒子の量によって適宜調整される。
【0032】
<洗浄回収工程>
第1攪拌工程で攪拌された金属酸化物粒子を、洗浄した後で回収する。
【0033】
本工程は、例えば、以下のようにして行われる。まず、第1攪拌工程で得られた攪拌液に対して遠心分離を行うことにより、金属酸化物粒子と第1溶液とを分離する。次に、第1溶液を捨てて残渣の金属酸化物粒子を回収した後、金属酸化物粒子を水等の洗浄液に入れて攪拌することにより、金属酸化物粒子を洗浄する。そして、得られた攪拌液に対して遠心分離を行うことにより、金属酸化物粒子と洗浄液とを分離する。その後、洗浄液を捨てて、残渣の金属酸化物粒子を回収する。このようにして回収された金属酸化物粒子は、プロトン化されている。
【0034】
<第2攪拌工程>
洗浄回収工程で回収された金属酸化物粒子を、アミン及びアンモニアの少なくとも一方と極性溶媒とを含む第2溶液に入れて攪拌する。これにより、第2溶液に含まれるアミン及びアンモニアの少なくとも一方が、プロトン化された金属酸化物粒子の表面に吸着することで、金属酸化物粒子が親水化する。その結果、親水化した金属酸化物粒子が、第2溶液に含まれる極性溶媒に分散しやすくなる。
【0035】
第2溶液は、アミン及びアンモニアの少なくとも一方と極性溶媒とを含んでいる。より具体的には、第2溶液は、アミン及び極性溶媒を含んでいてもよいし、アンモニア及び極性溶媒を含んでいてもよいし、アミン、アンモニア、及び、極性溶媒を含んでいてもよい。
【0036】
アミンは、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、及び、トリエチルアミンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、作業環境の観点から、アミンは、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドであることがより好ましい。
【0037】
第2溶液に含まれる極性溶媒としては、水、エタノール等が挙げられる。
【0038】
第2溶液に含まれる極性溶媒は、水であることが好ましい。第2溶液が極性溶媒として水を含む場合、本工程により、金属酸化物粒子が水に分散した分散液が得られる。水は液体の中でも表面張力が比較的大きいものであるため、後述するようにセラミックシートを製造する際に、金属酸化物粒子が水に分散した分散液を用いると、金属酸化物粒子が、水の表面張力で互いに引き寄せられて、2次元又は3次元の配列を有するように基材上で集積しやすくなる。よって、表面張力が大きい水への金属酸化物粒子の分散が可能となることで、後述するようにセラミックシートを製造する際に、大きな粒径の金属酸化物粒子を集積させたり、大きな面積で金属酸化物粒子を集積させたりすることが、低コストで可能となる。
【0039】
第2溶液が極性溶媒として水以外のエタノール等を含む場合であっても、第2溶液に含まれるアミン及びアンモニアの少なくとも一方の作用により、金属酸化物粒子が極性溶媒に分散しやすくなる。
【0040】
第2溶液が極性溶媒として水を含む場合、第2溶液は、アミン及びアンモニアの少なくとも一方を水溶液として含んでいてもよい。
【0041】
第2溶液に含まれるアミン及びアンモニアの少なくとも一方が、プロトン化された金属酸化物粒子の表面に吸着し、金属酸化物粒子を親水化することが可能な条件であれば、第2溶液に含まれるアミン及びアンモニアの少なくとも一方の濃度、攪拌時間等の攪拌条件は、特に限定されず、第2溶液に入れた金属酸化物粒子の量によって適宜調整される。
【0042】
以上により、本発明の分散液の製造方法によれば、有機酸で修飾された金属酸化物粒子を出発材料として用いても、極性溶媒への金属酸化物粒子の分散性に優れた分散液を製造できる。
【0043】
[金属酸化物粒子の製造方法]
本発明の金属酸化物粒子の製造方法は、本発明の分散液の製造方法により分散液を製造する、分散液製造工程と、上記分散液に含まれる上記金属酸化物粒子の界面に、Mg、Ca、Sr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Eu、Tm、Yb、及び、Luからなる群より選択される少なくとも1種の金属がイオン化した金属イオンを吸着させる、金属イオン吸着工程と、を備える、ことを特徴とする。
【0044】
<分散液製造工程>
上述した本発明の分散液の製造方法により、分散液を製造する。
【0045】
<金属イオン吸着工程>
分散液に含まれる金属酸化物粒子の界面に、Mg、Ca、Sr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Eu、Tm、Yb、及び、Luからなる群より選択される少なくとも1種の金属がイオン化した金属イオンを吸着させる。これにより、分散液に含まれる金属酸化物粒子の界面において、金属酸化物粒子に修飾しているイオン化したアミン及びアンモニアの少なくとも一方が金属イオンと交換される、いわゆるカチオン交換がなされる。金属イオンのサイズは、イオン化したアミン及びアンモニアのサイズよりも小さいため、金属酸化物粒子に対して上述したカチオン交換がなされることにより、金属酸化物粒子が緻密に配列可能となる。
【0046】
本工程では、金属イオンとして、Mg、Ca、Sr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Eu、Tm、Yb、及び、Luからなる群より選択される少なくとも1種の金属がイオン化した金属イオンが用いられる。
【0047】
本工程では、例えば、以下のように金属酸化物粒子に金属塩を付与する方法により、金属酸化物粒子の界面に金属イオンを吸着させることができる。
【0048】
本工程では、分散液に含まれる金属酸化物粒子を、金属イオンを含む金属塩が水に溶解した金属塩水溶液に入れてもよい。
【0049】
あるいは、本工程では、金属イオンを含む金属塩を、分散液に入れてもよい。
【0050】
あるいは、本工程では、分散液と、金属イオンを含む金属塩が水に溶解した金属塩水溶液とを混合してもよい。
【0051】
金属塩は、塩化物塩、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及び、ホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、金属塩は、塩化物塩及び硝酸塩の少なくとも一方であることがより好ましい。
【0052】
以上の工程で製造された金属酸化物粒子を用いて、後述するようにセラミックシートを製造すると、緻密化されたセラミックシートを得ることができる。更に、セラミックシートの内部構造を、例えば、金属酸化物粒子のシェルとして金属イオンが存在するようなコアシェル構造とすることができる。そのため、本発明の金属酸化物粒子の製造方法によれば、金属酸化物粒子の界面制御、ひいては、磁気構造の制御が可能となる。例えば、金属酸化物粒子としてのチタン酸バリウム粒子を、上述した方法によるカチオン交換でコアシェル構造とした上で、積層セラミックコンデンサの誘電体層に利用すると、誘電体層の比誘電率の温度変化が小さく、信頼性に優れた積層セラミックコンデンサを実現できる。
【0053】
以上により、本発明の金属酸化物粒子の製造方法によれば、電子機器、電子部品等の特性を向上可能な金属酸化物粒子を製造できる。
【0054】
[セラミックシートの製造方法]
本発明のセラミックシートの製造方法は、本発明の分散液の製造方法により分散液を製造する、分散液製造工程と、上記分散液を基材上でシート状に成形する、成形工程と、を備える、ことを特徴とする。
【0055】
<分散液製造工程>
上述した本発明の分散液の製造方法により、分散液を製造する。
【0056】
<成形工程>
分散液を基材上でシート状に成形する。これにより、セラミックシートが基材上に製造される。
【0057】
本工程は、例えば、以下のようにして行われる。まず、分散液を、浸漬塗布法、ダイコート法、グラビアコート法等の方法で基材の表面に塗工する。その後、分散液の塗膜を乾燥させることにより、セラミックシートが基材上に製造される。
【0058】
以上により、金属酸化物粒子が極性溶媒に分散した分散液を用いて、セラミックシートを製造できる。分散液では、サイズ及び形状が揃った金属酸化物粒子が極性溶媒に分散しているため、セラミックシートを製造する際にこのような分散液を用いることにより、金属酸化物粒子を、緻密に、より具体的には、2次元又は3次元の配列を有するように、基材上で集積させることができる。特に、分散液中の極性溶媒が水である場合は、上述したように、金属酸化物粒子が、水の表面張力で互いに引き寄せられて、2次元又は3次元の配列を有するように基材上で集積しやすくなる。
【0059】
その後、セラミックシートを焼成することで金属酸化物粒子を焼結させると、セラミック焼結層が得られる。このようなセラミック焼結層は、例えば、積層セラミックコンデンサの誘電体層として利用される。上述したように緻密化されたセラミックシートを用いて、積層セラミックコンデンサの誘電体層を製造すると、導電経路となり得る隙間が誘電体層に存在しにくくなるため、積層セラミックコンデンサの内部電極層同士が誘電体層を介して短絡することが防止される。
【0060】
<金属イオン吸着工程>
本発明のセラミックシートの製造方法は、成形工程で成形されたシートに含まれる金属酸化物粒子の界面に、Mg、Ca、Sr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Eu、Tm、Yb、及び、Luからなる群より選択される少なくとも1種の金属がイオン化した金属イオンを吸着させる、金属イオン吸着工程を更に備えてもよい。
【0061】
本工程により、シートに含まれる金属酸化物粒子の界面において、金属酸化物粒子に修飾しているイオン化したアミン及びアンモニアの少なくとも一方が金属イオンと交換される、いわゆるカチオン交換がなされる。金属イオンのサイズは、イオン化したアミン及びアンモニアのサイズよりも小さいため、金属酸化物粒子に対して上述したカチオン交換がなされることにより、金属酸化物粒子が緻密に配列可能となる。つまり、本工程により、緻密化されたセラミックシートを得ることができる。更に、セラミックシートの内部構造を、例えば、金属酸化物粒子のシェルとして金属イオンが存在するようなコアシェル構造とすることができる。そのため、本工程によれば、金属酸化物粒子の界面制御、ひいては、磁気構造の制御が可能となる。例えば、成形工程で成形されたシートに対して、金属酸化物粒子としてのチタン酸バリウム粒子を、上述した方法によるカチオン交換でコアシェル構造とした上で、積層セラミックコンデンサの誘電体層に利用すると、誘電体層の比誘電率の温度変化が小さく、信頼性に優れた積層セラミックコンデンサを実現できる。
【0062】
本工程では、金属イオンとして、Mg、Ca、Sr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Eu、Tm、Yb、及び、Luからなる群より選択される少なくとも1種の金属がイオン化した金属イオンが用いられる。
【0063】
本工程では、例えば、以下のようにシートに金属塩水溶液を付与する方法により、金属酸化物粒子の界面に金属イオンを吸着させることができる。
【0064】
本工程では、シートを、金属イオンを含む金属塩が水に溶解した金属塩水溶液に入れてもよい。
【0065】
あるいは、本工程では、金属イオンを含む金属塩が水に溶解した金属塩水溶液を、シートに塗工してもよい。
【0066】
金属塩は、塩化物塩、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及び、ホウ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、金属塩は、塩化物塩及び硝酸塩の少なくとも一方であることがより好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の分散液の製造方法と本発明のセラミックシートの製造方法とをより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
[実施例1-1]
実施例1-1の分散液を、以下の方法で製造した。
【0069】
<第1攪拌工程>
オレイン酸で修飾され、粒径が一辺50nmの立方体状のチタン酸バリウム粒子1gを、0.1mol/Lの硝酸水溶液30mLに入れて24時間攪拌した。これにより、硝酸が、チタン酸バリウム粒子に修飾しているオレイン酸を切り離し、チタン酸バリウム粒子をプロトン化した。
【0070】
<洗浄回収工程>
まず、第1攪拌工程で得られた攪拌液に対して遠心分離を行うことにより、チタン酸バリウム粒子と硝酸水溶液とを分離した。次に、硝酸水溶液を捨てて残渣のチタン酸バリウム粒子を回収した後、チタン酸バリウム粒子を水に入れて攪拌することにより、チタン酸バリウム粒子を洗浄した。そして、得られた攪拌液に対して遠心分離を行うことにより、チタン酸バリウム粒子と水とを分離した。その後、水を捨てて、残渣のチタン酸バリウム粒子を回収した。このようにして回収されたチタン酸バリウム粒子は、プロトン化されていた。
【0071】
<第2攪拌工程>
洗浄回収工程で回収されたチタン酸バリウム粒子を、0.2mol/Lのテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液30mLに入れて24時間攪拌した。これにより、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドが、プロトン化されたチタン酸バリウム粒子の表面に吸着することで、チタン酸バリウム粒子が親水化した。その結果、チタン酸バリウム粒子が水に分散した白い分散液が得られた。
【0072】
以上により、実施例1-1の分散液を製造した。
【0073】
[実施例2-1]
実施例2-1の分散液を、以下の方法で製造した。
【0074】
<第1攪拌工程>
オレイン酸で修飾され、粒径が一辺100nmの立方体状のチタン酸バリウム粒子1gを、1mol/Lの硝酸水溶液30mLに入れて1時間攪拌した。これにより、硝酸が、チタン酸バリウム粒子に修飾しているオレイン酸を切り離し、チタン酸バリウム粒子をプロトン化した。
【0075】
<洗浄回収工程>
まず、第1攪拌工程で得られた攪拌液に対して遠心分離を行うことにより、チタン酸バリウム粒子と硝酸水溶液とを分離した。次に、硝酸水溶液を捨てて残渣のチタン酸バリウム粒子を回収した後、チタン酸バリウム粒子を水に入れて攪拌することにより、チタン酸バリウム粒子を洗浄した。そして、得られた攪拌液に対して遠心分離を行うことにより、チタン酸バリウム粒子と水とを分離した。その後、水を捨てて、残渣のチタン酸バリウム粒子を回収した。このようにして回収されたチタン酸バリウム粒子は、プロトン化されていた。
【0076】
<第2攪拌工程>
洗浄回収工程で回収されたチタン酸バリウム粒子を、0.02mol/Lのテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液30mLに入れて18時間攪拌した。これにより、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドが、プロトン化されたチタン酸バリウム粒子の表面に吸着することで、チタン酸バリウム粒子が親水化した。その結果、チタン酸バリウム粒子が水に分散した白い分散液が得られた。
【0077】
以上により、実施例2-1の分散液を製造した。
【0078】
[実施例3-1]
実施例3-1の分散液を、以下の方法で製造した。
【0079】
<第1攪拌工程>
プロピオン酸で修飾され、粒径が一辺100nmの立方体状のチタン酸ストロンチウム粒子1gを、0.5mol/Lの塩酸水溶液30mLに入れて24時間攪拌した。これにより、塩酸が、チタン酸ストロンチウム粒子に修飾しているプロピオン酸を切り離し、チタン酸ストロンチウム粒子をプロトン化した。
【0080】
<洗浄回収工程>
まず、第1攪拌工程で得られた攪拌液に対して遠心分離を行うことにより、チタン酸ストロンチウム粒子と塩酸水溶液とを分離した。次に、塩酸水溶液を捨てて残渣のチタン酸ストロンチウム粒子を回収した後、チタン酸ストロンチウム粒子を水に入れて攪拌することにより、チタン酸ストロンチウム粒子を洗浄した。そして、得られた攪拌液に対して遠心分離を行うことにより、チタン酸ストロンチウム粒子と水とを分離した。その後、水を捨てて、残渣のチタン酸ストロンチウム粒子を回収した。このようにして回収されたチタン酸ストロンチウム粒子は、プロトン化されていた。
【0081】
<第2攪拌工程>
洗浄回収工程で回収されたチタン酸ストロンチウム粒子を、0.5mol/Lのトリエタノールアミン水溶液30mLに入れて24時間攪拌した。これにより、トリエタノールアミンが、プロトン化されたチタン酸ストロンチウム粒子の表面に吸着することで、チタン酸ストロンチウム粒子が親水化した。その結果、チタン酸ストロンチウム粒子が水に分散した白い分散液が得られた。
【0082】
以上により、実施例3-1の分散液を製造した。
【0083】
[実施例4-1]
実施例4-1の分散液を、以下の方法で製造した。
【0084】
<第1攪拌工程>
オレイン酸で修飾され、粒径が直径60nmの球状の酸化チタン粒子1gを、0.05mol/Lの硝酸と1mol/Lの酢酸との混合水溶液30mLに入れて24時間攪拌した。これにより、硝酸及び酢酸が、酸化チタン粒子に修飾しているオレイン酸を切り離し、酸化チタン粒子をプロトン化した。
【0085】
<洗浄回収工程>
まず、第1攪拌工程で得られた攪拌液に対して遠心分離を行うことにより、酸化チタン粒子と混合水溶液とを分離した。次に、混合水溶液を捨てて残渣の酸化チタン粒子を回収した後、酸化チタン粒子を水に入れて攪拌することにより、酸化チタン粒子を洗浄した。そして、得られた攪拌液に対して遠心分離を行うことにより、酸化チタン粒子と水とを分離した。その後、水を捨てて、残渣の酸化チタン粒子を回収した。このようにして回収された酸化チタン粒子は、プロトン化されていた。
【0086】
<第2攪拌工程>
洗浄回収工程で回収された酸化チタン粒子を、0.2mol/Lのアンモニア水溶液30mLに入れて24時間攪拌した。これにより、アンモニアが、プロトン化された酸化チタン粒子の表面に吸着することで、酸化チタン粒子が親水化した。その結果、酸化チタン粒子が水に分散した白い分散液が得られた。
【0087】
以上により、実施例4-1の分散液を製造した。
【0088】
[評価1]
実施例1-1、実施例2-1、実施例3-1、及び、実施例4-1の分散液について、Malvern Instruments社製の動的光散乱測定装置「Zetasizer nano」を用いて、ゼータ電位及び粒度分布を測定した。また、実施例1-1、実施例2-1、実施例3-1、及び、実施例4-1の分散液について、ゼータ電位及び粒度分布の測定後に30日以上放置した状態で、沈殿の有無を確認した。結果は、以下の通りであった。
【0089】
実施例1-1の分散液については、ゼータ電位が-39.4mVで、粒度分布が
図1のようにシャープな分布を示した。
図1は、実施例1-1の分散液について、粒度分布の測定結果を示すグラフである。また、実施例1-1の分散液を、ゼータ電位及び粒度分布の測定後に30日以上放置しても、沈殿が見られなかった。よって、実施例1-1の分散液では、極性溶媒としての水へのチタン酸バリウム粒子の分散性が高いことが確認された。
【0090】
実施例2-1の分散液については、ゼータ電位が-35.3mVで、粒度分布が
図2のようにシャープな分布を示した。
図2は、実施例2-1の分散液について、粒度分布の測定結果を示すグラフである。また、実施例2-1の分散液を、ゼータ電位及び粒度分布の測定後に30日以上放置しても、沈殿が見られなかった。よって、実施例2-1の分散液では、極性溶媒としての水へのチタン酸バリウム粒子の分散性が高いことが確認された。
【0091】
実施例3-1の分散液については、ゼータ電位が-23.7mVで、粒度分布が
図3のようにシャープな分布を示した。
図3は、実施例3-1の分散液について、粒度分布の測定結果を示すグラフである。また、実施例3-1の分散液を、ゼータ電位及び粒度分布の測定後に30日以上放置しても、沈殿が見られなかった。よって、実施例3-1の分散液では、極性溶媒としての水へのチタン酸ストロンチウム粒子の分散性が高いことが確認された。
【0092】
実施例4-1の分散液については、ゼータ電位が-30.5mVで、粒度分布が
図4のようにシャープな分布を示した。
図4は、実施例4-1の分散液について、粒度分布の測定結果を示すグラフである。また、実施例4-1の分散液を、ゼータ電位及び粒度分布の測定後に30日以上放置しても、沈殿が見られなかった。よって、実施例4-1の分散液では、極性溶媒としての水への酸化チタン粒子の分散性が高いことが確認された。
【0093】
[実施例1-2]
実施例1-1の分散液を用いて、以下の方法で、実施例1-2のセラミックシートを製造した。まず、実施例1-1の分散液を、浸漬塗布法でPt/Si基板の表面に塗工した。より具体的には、Pt/Si基板を、実施例1-1の分散液に浸漬した後、1μm/分の速度で引き上げた。その後、実施例1-1の分散液の塗膜を乾燥させることにより、実施例1-2のセラミックシートをPt/Si基板上で成形した。
【0094】
[実施例2-2]
実施例2-1の分散液を用いたこと以外、実施例1-2のセラミックシートと同様にして、実施例2-2のセラミックシートを製造した。
【0095】
[評価2]
実施例1-2及び実施例2-2のセラミックシートについて、チタン酸バリウム粒子の集積状態を確認した。結果は、以下の通りであった。
【0096】
図5は、実施例1-2のセラミックシートの平面構造を示す模式図である。
図6は、実施例1-2のセラミックシートの断面構造を示す模式図である。
図5及び
図6に示すように、実施例1-2のセラミックシート10Aでは、チタン酸バリウム粒子15Aが、緻密に、より具体的には、3次元の配列を有するように、Pt/Si基板20上で集積していることが確認された。
【0097】
図7は、実施例2-2のセラミックシートの平面構造を示す模式図である。
図8は、実施例2-2のセラミックシートの断面構造を示す模式図である。
図7及び
図8に示すように、実施例2-2のセラミックシート10Bでは、チタン酸バリウム粒子15Bが、緻密に、より具体的には、3次元の配列を有するように、Pt/Si基板20上で集積していることが確認された。
【0098】
[実施例1-3]
実施例1-2のセラミックシートを1100℃で焼成することでチタン酸バリウム粒子を焼結させることにより、実施例1-3のセラミック焼結層を製造した。
【0099】
[実施例2-3]
実施例2-2のセラミックシートを用いたこと以外、実施例1-3のセラミック焼結層と同様にして、実施例2-3のセラミック焼結層を製造した。
【0100】
[評価3]
実施例1-3及び実施例2-3のセラミック焼結層に対して、Pt/Si基板と反対側の表面上にPt電極を形成することにより、コンデンサを構成した。そして、各コンデンサについて、LCRメータを用いた1kHz、10mVでの測定を行うことにより、実施例1-3及び実施例2-3のセラミック焼結層の比誘電率及び誘電正接の温度特性を測定した。結果は、以下の通りであった。
【0101】
図9は、実施例1-3のセラミック焼結層について、比誘電率及び誘電正接の温度特性の測定結果を示すグラフである。
図9に示すように、実施例1-3のセラミック焼結層の比誘電率は、広い温度範囲で高く、室温で約700であった。なお、
図9に示した誘電正接が低い値を示したことから、
図9に示した比誘電率の測定結果は、実施例1-3のセラミック焼結層自体の比誘電率を実質的に示せている、と言える。よって、実施例1-3のセラミック焼結層を、例えば、積層セラミックコンデンサの誘電体層として利用すると、広い温度範囲で大きな静電容量が得られると考えられる。また、
図9に示した比誘電率及び誘電正接の測定結果から、実施例1-3のセラミック焼結層として、チタン酸バリウム粒子を用いた緻密なセラミック焼結層が得られていると考えられる。
【0102】
図10は、実施例2-3のセラミック焼結層について、比誘電率及び誘電正接の温度特性の測定結果を示すグラフである。
図10に示すように、実施例2-3のセラミック焼結層の比誘電率は、広い温度範囲で高く、室温で約1500であった。なお、
図10に示した誘電正接が低い値を示したことから、
図10に示した比誘電率の測定結果は、実施例2-3のセラミック焼結層自体の比誘電率を実質的に示せている、と言える。よって、実施例2-3のセラミック焼結層を、例えば、積層セラミックコンデンサの誘電体層として利用すると、広い温度範囲で、実施例1-3のセラミック焼結層を利用した場合よりも大きな静電容量が得られると考えられる。また、
図10に示した比誘電率及び誘電正接の測定結果から、実施例2-3のセラミック焼結層として、チタン酸バリウム粒子を用いた緻密なセラミック焼結層が得られていると考えられる。
【0103】
[実施例1-4]
実施例1-2のセラミックシートを、Pt/Si基板付きの状態で、3mol/LのYCl3水溶液100mLに24時間浸漬した。その後、Pt/Si基板付きのセラミックシートをYCl3水溶液から引き上げ、乾燥空気中で乾燥させることにより、Pt/Si基板上に設けられた実施例1-4のセラミックシートを得た。
【0104】
[実施例2-4]
実施例1-2のセラミックシートを、Pt/Si基板付きの状態で、1mol/LのMn(NO3)2水溶液100mLに24時間浸漬した。その後、Pt/Si基板付きのセラミックシートをMn(NO3)2水溶液から引き上げ、乾燥空気中で乾燥させることにより、Pt/Si基板上に設けられた実施例2-4のセラミックシートを得た。
【0105】
[評価4]
実施例1-4及び実施例2-4のセラミックシートに対して、Pt/Si基板付きの状態で、集束イオンビーム(FIB)を用いて断面加工を行った。そして、各セラミックシートの断面に対して、走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(STEM-EDS)による元素マッピングを行った。結果は、以下の通りであった。
【0106】
図11は、実施例1-4のセラミックシートの断面を示すSTEM像である。
図12は、
図11に示すSTEM像におけるTiの分布状態を示す元素マッピング図である。
図13は、
図11に示すSTEM像におけるBaの分布状態を示す元素マッピング図である。
図14は、
図11に示すSTEM像におけるYの分布状態を示す元素マッピング図である。
図15は、実施例1-4のセラミックシートの製造過程のイメージを示す模式図である。
【0107】
図11に示すように、実施例1-4のセラミックシートでは、粒子が配列していることが確認された。そして、これらの配列した粒子は、
図12に示すTiの分布、及び、
図13に示すBaの分布から、チタン酸バリウム粒子であることが確認された。更に、
図14に示すYの分布から、Yがチタン酸バリウム粒子の界面に存在していることが確認された。そのため、実施例1-4のセラミックシートでは、Yがチタン酸バリウム粒子のシェルのように存在していると考えられる。
【0108】
以上のことから、実施例1-4のセラミックシートを製造する際に、
図15に示すように、実施例1-2のセラミックシート(
図15中の最も上側の状態)をYCl
3水溶液に浸漬することにより(
図15中の中央の状態)、チタン酸バリウム(BaTiO
3)粒子に修飾していたテトラブチルアンモニウムヒドロキシドイオン(TBA+)がYイオン(Y
3+)と交換(カチオン交換)され、Yイオン(Y
3+)がチタン酸バリウム(BaTiO
3)粒子の界面に析出したこと(
図15中の最も下側の状態)が確認された。
【0109】
図16は、実施例2-4のセラミックシートの断面を示すSTEM像である。
図17は、
図16に示すSTEM像におけるTiの分布状態を示す元素マッピング図である。
図18は、
図16に示すSTEM像におけるBaの分布状態を示す元素マッピング図である。
図19は、
図16に示すSTEM像におけるMnの分布状態を示す元素マッピング図である。
図20は、実施例2-4のセラミックシートの製造過程のイメージを示す模式図である。
【0110】
図16に示すように、実施例2-4のセラミックシートでは、粒子が配列していることが確認された。そして、これらの配列した粒子は、
図17に示すTiの分布、及び、
図18に示すBaの分布から、チタン酸バリウム粒子であることが確認された。更に、
図19に示すMnの分布から、Mnがチタン酸バリウム粒子の界面に存在していることが確認された。そのため、実施例2-4のセラミックシートでは、Mnがチタン酸バリウム粒子のシェルのように存在していると考えられる。
【0111】
以上のことから、実施例2-4のセラミックシートを製造する際に、
図20に示すように、実施例1-2のセラミックシート(
図20中の最も上側の状態)をMn(NO
3)
2水溶液に浸漬することにより(
図20中の中央の状態)、チタン酸バリウム(BaTiO
3)粒子に修飾していたテトラブチルアンモニウムヒドロキシドイオン(TBA+)がMnイオン(Mn
2+)と交換(カチオン交換)され、Mnイオン(Mn
2+)がチタン酸バリウム(BaTiO
3)粒子の界面に析出したこと(
図20中の最も下側の状態)が確認された。
【0112】
[実施例1-5]
実施例1-4のセラミックシートを700℃で焼成することでチタン酸バリウム粒子を焼結させることにより、実施例1-5のセラミック焼結層を製造した。
【0113】
[実施例2-5]
実施例2-4のセラミックシートを用いたこと以外、実施例1-5のセラミック焼結層と同様にして、実施例2-5のセラミック焼結層を製造した。
【0114】
[評価5]
実施例1-5及び実施例2-5のセラミック焼結層に対して、Pt/Si基板と反対側の表面上にPt電極を形成することにより、コンデンサを構成した。そして、各コンデンサについて、LCRメータを用いた1kHz、10mVでの測定を行うことにより、実施例1-5及び実施例2-5のセラミック焼結層の比誘電率の温度特性を測定した。結果は、以下の通りであった。
【0115】
図21は、実施例1-5のセラミック焼結層について、比誘電率の温度特性の測定結果を示すグラフである。
図21に示すように、実施例1-5のセラミック焼結層の比誘電率は、広い温度範囲で高くかつほとんど変化なく、室温で約750であった。よって、実施例1-5のセラミック焼結層を、例えば、積層セラミックコンデンサの誘電体層として利用すると、広い温度範囲で比誘電率がほとんど変化せずに大きな静電容量が得られると考えられる。また、
図21に示した比誘電率の測定結果から、実施例1-5のセラミック焼結層として、チタン酸バリウム粒子を用いた緻密なセラミック焼結層が得られていると考えられる。
【0116】
図22は、実施例2-5のセラミック焼結層について、比誘電率の温度特性の測定結果を示すグラフである。
図22に示すように、実施例2-5のセラミック焼結層の比誘電率は、広い温度範囲で高くかつほとんど変化なく、室温で約780であった。よって、実施例2-5のセラミック焼結層を、例えば、積層セラミックコンデンサの誘電体層として利用すると、広い温度範囲で比誘電率がほとんど変化せずに大きな静電容量が得られると考えられる。また、
図22に示した比誘電率の測定結果から、実施例2-5のセラミック焼結層として、チタン酸バリウム粒子を用いた緻密なセラミック焼結層が得られていると考えられる。
【符号の説明】
【0117】
10A、10B セラミックシート
15A、15B チタン酸バリウム粒子
20 Pt/Si基板