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特許7533770基地局装置、無線通信システム、および無線通信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】基地局装置、無線通信システム、および無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 28/10 20090101AFI20240806BHJP
   H04W 24/10 20090101ALI20240806BHJP
   H04W 72/0457 20230101ALI20240806BHJP
   H04W 72/1273 20230101ALI20240806BHJP
   H04W 92/20 20090101ALI20240806BHJP
【FI】
H04W28/10
H04W24/10
H04W72/0457 110
H04W72/1273
H04W92/20
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023510049
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021013902
(87)【国際公開番号】W WO2022208758
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 公久
【審査官】石田 信行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-36873(JP,A)
【文献】国際公開第2021/009883(WO,A1)
【文献】Huawei,Downlink Flow control for EN-DC,3GPP TSG RAN WG3 adhoc_R3_AH_NR_1706 R3-172456,Internet<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG3_Iu/TSGR3_AHGs/R3_AH_NR_1706/Docs/R3-172456.zip>,2017年06月29日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00 - 99/00
H04B 7/24 - 7/26
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1,4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接基地局を利用して端末にデータを送信する基地局装置であって、
前記隣接基地局から前記端末へのデータ送信の状態を表す状態報告を前記隣接基地局から受信する受信部と、
前記受信部が受信した状態報告を保存する保存部と、
所定の周期で設定される処理タイミング毎に、前記保存部に保存されている状態報告に基づいて前記隣接基地局へのデータ送信を制御する送信制御部と、を備え、
第1の処理タイミングにおいて前記保存部に保存されている状態報告の量が所定の閾値を越えるときは、前記送信制御部は、前記保存部に保存されている状態報告の一部に基づいて前記隣接基地局へのデータ送信を制御し、前記第1の処理タイミングよりも後の第2の処理タイミングにおいて残りの状態報告に基づいて前記隣接基地局へのデータ送信を制御する
ことを特徴とする基地局装置。
【請求項2】
隣接基地局を利用して端末にデータを送信する基地局装置であって、
前記隣接基地局から前記端末へのデータ送信の状態を表す状態報告を要求する報告要求を、所定の周期で前記隣接基地局に送信する要求部と、
前記隣接基地局から受信する状態報告に基づいて前記隣接基地局へのデータ送信を制御する送信制御部と、を備え、
前記要求部は、前記状態報告により表される状態の変化に基づいて、前記隣接基地局に前記報告要求を送信する周期を変化させる
ことを特徴とする基地局装置。
【請求項3】
当該基地局装置から前記隣接基地局に送信されるパケットにはシーケンス番号が付与されており、
前記状態報告は、前記隣接基地局が前記報告要求を受信したときに前記端末への転送が完了しているパケットのシーケンス番号を表し、
前記要求部が第1の周期で前記報告要求を送信しているときに、前記隣接基地局から受信する状態報告が表すシーケンス番号の変化が所定の閾値より小さくなると、前記要求部は、前記第1の周期よりも長い第2の周期で前記報告要求を送信する
ことを特徴とする請求項2に記載の基地局装置。
【請求項4】
前記要求部が第1の周期で前記報告要求を送信しているときに、前記状態報告に基づいて推定される前記隣接基地局と前記端末との間の伝送レートの変化が所定の閾値より小さくなると、前記要求部は、前記第1の周期よりも長い第2の周期で前記報告要求を送信する
ことを特徴とする請求項2に記載の基地局装置。
【請求項5】
第1の基地局および第2の基地局が端末と接続する無線通信システムであって、
前記第1の基地局は、
前記第2の基地局から前記端末へのデータ送信の状態を表す状態報告を要求する報告要求を、所定の周期で前記第2の基地局に送信する要求部と、
前記第2の基地局から受信する状態報告に基づいて前記第2の基地局へのデータ送信を制御する送信制御部と、を備え、
前記第2の基地局は、
前記第1の基地局から受信するデータを保存するデータ保存部と、
前記データ保存部に保存されているデータを前記端末に転送する転送部と、
前記報告要求を受信したときに、前記状態報告を前記第1の基地局に送信する報告送信部と、を備え、
前記データ保存部に保存されているデータの量が所定の閾値を越えたことを表す状態報告が前記第2の基地局から前記第1の基地局に送信されると、前記要求部は、前記第2の基地局への報告要求の送信を停止する
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項6】
前記データ保存部に保存されているデータの量が所定の閾値を越えたことを表す状態報告が前記第2の基地局から前記第1の基地局に送信されると、前記送信制御部は、前記第2の基地局へのデータ送信を停止する
ことを特徴とする請求項5に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記データ保存部に保存されているデータの量が前記閾値以下になったことを表す状態報告が前記第2の基地局から前記第1の基地局に送信されると、前記要求部は、前記第2の基地局への報告要求の送信を再開する
ことを特徴とする請求項5に記載の無線通信システム。
【請求項8】
第1の基地局および第2の基地局が端末と接続する無線通信システムであって、
前記第1の基地局は、
前記第2の基地局から前記端末へのデータ送信の状態を表す状態報告を要求する報告要求を、ベアラ毎に、前記第2の基地局に送信する要求部と、
前記第2の基地局から受信する状態報告に基づいて前記第2の基地局へのデータ送信を制御する送信制御部と、を備え、
前記第2の基地局は、前記報告要求を受信したときに、前記状態報告を前記第1の基地局に送信する報告送信部を備え、
前記第2の基地局が所定期間内に複数のベアラに対する報告要求を受信したときは、前記報告送信部は、前記複数のベアラに対する状態報告を多重化して前記第1の基地局に送信する
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項9】
第1の基地局および第2の基地局が複数のベアラを収容する無線通信システムであって、
前記第1の基地局は、
前記第2の基地局から端末へのデータ送信の状態を表す状態報告を要求する報告要求を、前記第2の基地局に送信する要求部と、
前記第2の基地局から受信する状態報告に基づいて、ベアラ毎に、前記第2の基地局へのデータ送信を制御する送信制御部と、
各ベアラの無線通信の品質に基づいて、前記複数のベアラを2以上のグループに分類する分類部と、を備え、
前記要求部は、グループ毎に報告要求の送信パターンを決定する
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項10】
前記要求部は、グループ毎に、代表ベアラのみに対して報告要求を送信する
ことを特徴とする請求項9に記載の無線通信システム。
【請求項11】
前記送信制御部は、前記代表ベアラの状態報告に基づいて、前記代表ベアラが属するグループ内の各ベアラのデータ送信を制御する
ことを特徴とする請求項10に記載の無線通信システム。
【請求項12】
前記要求部は、グループ毎に、代表ベアラに対して第1の周期で報告要求を送信すると共に、他のベアラに対して前記第1の周期よりも長い第2の周期で報告要求を送信する
ことを特徴とする請求項9に記載の無線通信システム。
【請求項13】
第1の基地局および第2の基地局が連携して端末にデータを送信する無線通信方法であって、
前記第1の基地局は、前記第2の基地局から前記端末へのデータ送信の状態を表す状態報告を要求する報告要求を、所定の周期で前記第2の基地局に送信し、
前記第1の基地局は、前記第2の基地局から受信する状態報告に基づいて前記第2の基地局へのデータ送信を制御し、
前記第1の基地局は、前記状態報告により表される状態の変化に基づいて、前記第2の基地局に前記報告要求を送信する周期を変化させる
ことを特徴とする無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局装置、無線通信システム、および無線通信方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
ダウンリンクの平均スループットを向上させる技術の1つとして、デュアルコネクティビティ(Dual Connectivity)が検討されている。デュアルコネクティビティは、複数の基地局により実現される。たとえば、マスタ基地局は、ユーザデータDをデータD1およびデータD2に分割する。データD1はユーザ端末に送信され、データD2はセカンダリ基地局に送信される。そして、セカンダリ基地局は、データD2をユーザ端末に送信する。これにより、ユーザ端末は、ユーザデータDを取得する。
【0003】
デュアルコネクティビティでダウンリンクデータを送信するときは、マスタ基地局およびセカンダリ基地局は、DDDS(Downlink Data Delivery Status)手順を実行する。例えば、マスタ基地局は、セカンダリ基地局に対してDDDSレポートを要求する。セカンダリ基地局は、この要求に応じて、マスタ基地局にDDDSレポートを送信する。そして、マスタ基地局は、DDDSレポートに基づいて、ダウンリンクデータのフロー制御を実行する。
【0004】
なお、デュアルコネクティビティについては、例えば、特許文献1~2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2020/026835
【文献】WO2019/097705
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したDDDS手順は、ベアラ毎に行われる。このため、基地局に収容されるベアラの数が増加すると、DDDS手順を実行するために必要な資源(例えは、CPUの容量)が増加する。この結果、基地局の処理能力が十分でないケースでは、ユーザプレーンの伝送レート(又は、ユーザスループット)が制限されるおそれがある。
【0007】
本発明の1つの側面に係わる目的は、デュアルコネクティビティにおけるユーザスループットを向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様に係わる基地局装置は、隣接基地局を利用して端末にデータを送信する。この基地局装置は、前記隣接基地局から前記端末へのデータ送信の状態を表す状態報告を要求する報告要求を、所定の周期で前記隣接基地局に送信する要求部と、前記隣接基地局から受信する状態報告に基づいて前記隣接基地局へのデータ送信を制御する送信制御部と、を備える。前記要求部は、前記状態報告により表される状態の変化に基づいて、前記隣接基地局に前記報告要求を送信する周期を変化させる。
【発明の効果】
【0009】
上述の態様によれば、デュアルコネクティビティにおけるユーザスループットが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係わる無線通信システムの一例を示す図である。
図2】基地局の無線プロトコルの構成例を示す図である。
図3】デュアルコネクティビティの動作シーケンスの一例を示す図である。
図4】基地局の構成の一例を示す図である。
図5】DDDS報告のフォーマットの一例を示す図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係わるDDDS手順の一例を示す図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係わるDDDS手順の一例を示す図である。
図8】第2の実施形態におけるマスタ基地局の動作の一例を示すフローチャートである。
図9】本発明の第3の実施形態に係わるDDDS手順の一例を示す図である。
図10】DDDS報告に基づいて推定される無線レートの一例を示す図である。
図11】第3の実施形態におけるマスタ基地局の動作の一例を示すフローチャートである。
図12】本発明の第4の実施形態に係わるDDDS手順の一例を示す図である。
図13】バッファレポートビットを含むDDDS報告のフォーマットの一例を示す図である。
図14】第4の実施形態におけるセカンダリ基地局の動作の一例を示すフローチャートである。
図15】第4の実施形態におけるマスタ基地局の動作の一例を示すフローチャートである。
図16】本発明の第5の実施形態に係わるDDDS手順の一例を示す図である。
図17】複数のベアラを多重化可能なDDDS報告のフォーマットの一例を示す図である。
図18】第5の実施形態におけるセカンダリ基地局の動作の一例を示すフローチャートである。
図19】本発明の第6の実施形態に係わるDDDS手順の一例を示す図である。
図20】第6の実施形態におけるマスタ基地局の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係わる無線通信システムの一例を示す。本発明の実施形態に係わる無線通信システム100は、デュアルコネクティビティを提供する。デュアルコネクティビティは、1つの端末装置(例えば、UE)と2つの基地局との間でパケットデータを伝送する。
【0012】
基地局1は、この実施例ではgNBであり、マスタ基地局として動作する。また、基地局2は、この実施例ではeNBであり、セカンダリ基地局として動作する。基地局1および基地局2は、Non-Ideal backhaul(たとえば、X2)インタフェースで接続されている。ユーザ端末3は、この実施例ではUE(User Equipment)である。そして、ユーザ端末3は、基地局1および基地局2と通信を行うことができる。また、ユーザ端末3は、基地局1および基地局2の双方から同時にダウンリンクデータを受信できる。
【0013】
図2は、基地局の無線プロトコルの構成例を示す。この例では、スプリットベアラアーキテクチャによりデュアルコネクティビティが実現される。
【0014】
基地局1、2は、PDCP(Packet Data Convergence Protocol)レイヤ、RLC(Radio Link Control)レイヤ、MAC(Medium Access Control)レイヤを含む。セカンダリ基地局として動作する基地局2は、LTE(Long Term Evolution)のRLCレイヤおよびNR(New Radio)のRLCレイヤを備える。そして、基地局1のPDCPレイヤと基地局2のRLCレイヤとの間が、X2(Xn)インタフェースにより接続される。
【0015】
図3は、デュアルコネクティビティの動作シーケンスの一例を示す。この実施例では、基地局1がマスタ基地局として動作し、基地局2がセカンダリ基地局として動作する。また、コアネットワークからユーザ端末3に送信されるダウンリンクデータが基地局1に与えられる。
【0016】
基地局1は、コアネットワークから与えられるユーザデータをデータ1およびデータ2に分割する。そして、基地局1は、データ1を基地局2に送信し、データ2をユーザ端末3に送信する。基地局2は、基地局1から受信したデータ1をユーザ端末3に転送する。この結果、ユーザ端末3は、データ1およびデータ2を受信する。すなわち、デュアルコネクティビティが実現される。
【0017】
基地局1および基地局2は、DDDS(Downlink Data Delivery Status)手順を実行して基地局1と基地局2との間のデータ送信を制御する。すなわち、基地局1から基地局2に送信されるデータパケットには、ポーリングビット(図3では、P)が付与される。ポーリングビットは、基地局2からユーザ端末3へのデータ送信の状態を表すDDDS報告を要求するか否かを表す。具体的には、ポーリングビットが「0」であれば、基地局2は、DDDS報告を基地局1に送信しない。ポーリングビットが「1」であれば、基地局2は、DDDS報告を基地局1に送信する。
【0018】
基地局1は、所定の周期で、基地局2にDDDS報告を要求する。所定の周期は、例えば、基地局1から基地局2に送信されるデータパケットの個数で表される。一例として、100個のデータパケットに対して1個のDDDS報告が必要であるものとする。この場合、1~99番目のデータパケットにそれぞれ「P=0」が付与され、100番目のデータパケットに「P=1」が付与される。また、101~199番目のデータパケットにそれぞれ「P=0」が付与され、200番目のデータパケットに「P=1」が付与される。
【0019】
基地局1は、DDDS報告に基づいて、基地局2からユーザ端末3へのデータ送信の状態を推定する。例えば、基地局2とユーザ端末3との間の無線状況および基地局2のデータバッファの状態などが推定される。そして、基地局1は、新たに推定した状態に基づいて基地局2へのデータ送信を制御する。
【0020】
上述のDDDS手順は、ベアラ毎に実行される。ベアラは、以下の記載では、データパケットの経路に対応する。したがって、基地局1および基地局2が多数のベアラを収容するケースでは、DDDS手順が頻繁に実行され、基地局1および基地局2(特に、基地局1)の資源が消費される。そして、DDDS手順を実行するために消費される資源が増加すると、ユーザプレーンの伝送レートが制限されることがある。なお、1つのユーザ端末との間に複数のベアラが設定されることがある。例えば、1つの端末に対して、音声データを伝送するためのベアラ、画像データを伝送するためのベアラ、HTMLデータを伝送するためのベアラが同時に設定され得る。
【0021】
上記課題に対して、DDDS報告を要求する周期を長くすれば、DDDS手順を実行するために消費される資源が少なくなる。ただし、DDDS報告を要求する周期を長くすると、基地局2の状態を精度よく推定できないことがある。そこで、本発明の実施形態に係わる無線通信システムは、上記トレードオフを緩和する機能を提供する。
【0022】
図4(a)は、マスタ基地局として動作する基地局1の一例を示す。基地局1は、データ送信制御部11、DDDS要求部12、DDDS受信部13、DDDS保存部14、およびベアラ分類部15を備える。なお、基地局1は、図4(a)に示してない他の機能を備えてもよい。また、図4(a)は、デュアルコネクティビティ通信のマスタ基地局に係わる機能を示している。
【0023】
データ送信制御部11は、コアネットワークから与えられるダウンリンクデータを基地局2およびユーザ端末3に送信する。このとき、データ送信制御部11は、基地局2から受信するDDDS報告に基づいて、基地局2へのデータ送信を制御する。なお、ダウンリンクデータは、データパケットに格納されて送信される。
【0024】
DDDS要求部12は、DDDS報告を要求する報告要求を基地局2に送信する。報告要求は、基地局1から基地局2に送信される各データパケットに付与されるポーリングビットPにより実現される。具体的には、DDDS報告を要求するときは、DDDS要求部12は、ポーリングビットPに「1」を設定する。また、DDDS報告を要求しないときは、DDDS要求部12は、ポーリングビットPに「0」を設定する。すなわち、報告要求は、ポーリングビットPに「1」を設定することで実現される。なお、DDDS要求部12は、例えば、所定の周期で、基地局2にDDDS報告を要求する。ただし、DDDS要求部12は、DDDS報告を要求する周期を変更できる。
【0025】
DDDS受信部13は、基地局2から送信されるDDDS報告を受信する。DDDS受信部13が受信したDDDS報告は、DDDS保存部14に保存される。なお、ベアラ分類部15については後で説明する。
【0026】
データ送信制御部11、DDDS要求部12、DDDS受信部13、およびベアラ分類部15は、例えば、ソフトウェアプログラムを実行するプロセッサにより実現される。すなわち、プロセッサがソフトウェアプログラムを実行することにより、データ送信制御部11、DDDS要求部12、DDDS受信部13、およびベアラ分類部15の機能が提供される。ただし、データ送信制御部11、DDDS要求部12、DDDS受信部13、およびベアラ分類部15の機能の一部は、ハードウェア回路で実現してもよい。また、DDDS保存部14は、例えば、半導体メモリにより実現される。
【0027】
図4(b)は、セカンダリ基地局として動作する基地局2の一例を示す。基地局2は、パケットバッファ21、パケット転送部22、DDDS作成部23、およびDDDS送信部24を備える。なお、基地局2は、図4(b)に示してない他の機能を備えてもよい。また、図4(b)は、デュアルコネクティビティ通信のセカンダリ基地局に係わる機能を示している。
【0028】
パケットバッファ21は、例えばFIFOメモリであり、基地局1から受信するデータパケットを保存する。パケット転送部22は、パケットバッファ21に保存されているデータパケットをユーザ端末3に送信する。なお、各受信パケットに付与されているポーリングビットPは、DDDS作成部23に導かれる。DDDS作成部23は、基地局2がDDDS要求を受信すると、DDDS報告を作成する。そして、DDDS送信部24は、DDDS報告を基地局1に送信する。なお、DDDS報告のフォーマットは、図5に示す通りである。このフォーマットは、3GPPのTS38.425に規定されている。
【0029】
パケット転送部22、DDDS作成部23、およびDDDS送信部24は、例えば、ソフトウェアプログラムを実行するプロセッサにより実現される。すなわち、プロセッサがソフトウェアプログラムを実行することにより、パケット転送部22、DDDS作成部23、およびDDDS送信部24の機能が提供される。ただし、パケット転送部22、DDDS作成部23、およびDDDS送信部24の機能の一部は、ハードウェア回路で実現してもよい。また、パケットバッファ21は、例えば、半導体メモリにより実現される。
【0030】
<第1の実施形態>
マスタ装置として動作する基地局1は、上述したように、セカンダリ基地局として動作する基地局2にDDDS要求を送信する。そうすると、基地局2はDDDS報告を作成して基地局1に送信し、基地局1はDDDS報告を受信する。そして、基地局1において、受信したDDDS報告はDDDS保存部14に保存される。このとき、DDDS報告は、基地局2においてベアラ毎に作成され、基地局1においてベアラ毎に保存される。
【0031】
図6は、本発明の第1の実施形態に係わるDDDS手順の一例を示す。なお、図6に示す□印は、DDDS保存部14に保存されているDDDS報告を表す。また、この実施例では、基地局1は、処理タイミング毎に、5個のベアラに対してフロー制御を実行するものとする。
【0032】
時刻Nにおいては、図6(a)に示すように、データ送信制御部11は、ベアラ1~5に対してそれぞれフロー制御を行う。このとき、データ送信制御部11は、DDDS保存部14からベアラ1~5のDDDS報告を読み出し、各DDDS報告に基づいてフロー制御を行う。例えば、時刻Nにおいて、ベアラ1に対して4個のDDDS報告が保存されている。この場合、データ送信制御部11は、ベアラ1に対して、4個のDDDS報告に基づいてフロー制御を行う。
【0033】
ただし、1回の制御サイクルにおいてデータ送信制御部11がベアラ毎に実行できるDDDS報告の数は制限されている。この実施例では、データ送信制御部11がベアラ毎に実行できるDDDS報告の数は5個である。
【0034】
時刻N+1においては、図6(b)に示すように、データ送信制御部11は、ベアラ6~10に対してそれぞれフロー制御を行う。ただし、ベアラ8に対して7個のDDDS報告が保存されている。この場合、データ送信制御部11は、ベアラ8に対しては、5個のDDDS報告に基づいてフロー制御を実行する。すなわち、2個のDDDS報告は、DDDS保存部14から読み出されない。
【0035】
時刻N+2においては、図6(c)に示すように、データ送信制御部11は、ベアラ11~15に対してそれぞれフロー制御を行う。このとき、DDDS保存部14には、時刻N+1において読み出されなかったベアラ8のDDDS報告が残っている。そして、DDDS保存部14に残っているDDDS報告は、ベアラ6~10に対する次の処理タイミングにおいて実行される。すなわち、DDDS手順に係わる処理が時間領域において分散される。
【0036】
このように、第1の実施形態では、フロー制御のためにDDDS保存部14から読み出されるDDDS報告の個数が制限されるので、基地局1においてDDDS手順を実行するために消費されるプロセッサ資源が抑制される。すなわち、ユーザプレーンの処理に対して十分なプロセッサ資源が割り当てられる。よって、ユーザスループットが向上する。
【0037】
<第2の実施形態>
図7は、本発明の第2の実施形態に係わるDDDS手順の一例を示す。なお、図7においては、基地局1からユーザ端末3への直接的なデータ送信は省略されている。また、以下の実施形態の説明においても、同様に、基地局1からユーザ端末3への直接的なデータ送信を省略することがある。
【0038】
基地局1は、基地局2にデータパケットを送信する。各データパケットには、シーケンス番号SNおよびポーリングビットPが付与される。シーケンス番号SNは、各データパケットを識別する。よって、基地局2は、シーケンス番号SNを利用してパケット損失を検出できる。以下の記載では、シーケンス番号SNが「i」であるデータパケットを「パケットSNi」と呼ぶことがある。また、ポーリングビットPは、上述したように、DDDS報告を要求するか否かを表す。具体的には、ポーリングビットが「0」であれば、基地局2は、DDDS報告を基地局1に送信しない。ポーリングビットが「1」であれば、基地局2は、DDDS報告を基地局1に送信する。
【0039】
ポーリングビットPは、所定の周期で「1」が設定される。この実施例では、100個のデータパケットを送信するときに、1個のデータパケットにおいて「P=1」が設定される。例えば、100個のパケット(SN0~SN99)を送信するときは、パケットSN0~SN98に対して「P=0」が付与され、パケットSN99に対して「P=1」が付与される。
【0040】
基地局2は、基地局1から受信するデータパケットをユーザ端末3に転送する。たとえば、パケットSN0~SN99を受信したときは、基地局2は、パケットSN0~SN99をユーザ端末3に転送する。
【0041】
また、基地局2は、DDDS要求を受信すると、DDDS報告を作成して基地局1に送信する。すなわち、基地局2は、「P=1」が付与されたデータパケットを受信すると、DDDS報告を作成して基地局1に送信する。この実施例では、基地局2は、パケットSN99を受信したときに、DDDS報告を作成して基地局1に送信する。
【0042】
DDDS報告は、図5に示す情報を含む。そして、第2の実施形態においては、基地局2が最後にユーザ端末3に転送したデータパケットのシーケンス番号SNが使用される。具体的には、基地局2が最後にユーザ端末3に転送したデータパケットのシーケンス番号SNは、「Highest successfully delivered NR PDCP Sequence Number」または「Highest transmitted NR PDCP Sequence Number」として、基地局2から基地局1に報告される。この実施例では、基地局2は、パケットSN0~SN99をユーザ端末3に転送している。したがって、DDDS報告において「SN=99」が基地局1に報告される。
【0043】
続いて、基地局1は、パケットSN100~SN199を基地局2に送信する。このとき、パケットSN100~SN198に対して「P=0」が付与され、パケットSN199に対して「P=1」が付与される。そして、基地局2は、パケットSN100~SN199をすべてユーザ端末3に転送するものとする。この場合、基地局2が最後にユーザ端末3に転送したデータパケットのシーケンス番号SNは「199」である。したがって、DDDS報告において「SN=199」が基地局1に報告される。
【0044】
基地局1は、新たなDDDS報告で報告されたシーケンス番号SNと、前回のDDDS報告で報告されたシーケンス番号SNとの差分ΔSNを計算する。この実施例では、差分ΔSNは100である。
【0045】
同様に、基地局1は、パケットSN200~SN299を基地局2に送信する。このとき、パケットSN200~SN298に対して「P=0」が付与され、パケットSN299に対して「P=1」が付与される。そして、基地局2は、パケットSN200~SN299をすべてユーザ端末3に転送するものとする。この場合、基地局2が最後にユーザ端末3に転送したデータパケットのシーケンス番号SNは「299」である。したがって、DDDS報告において「SN=299」が基地局1に報告される。
【0046】
基地局1は、差分ΔSNを計算する。この実施例では、差分ΔSNは100である。さらに、基地局1は、差分ΔSNの変化を計算する。この実施例では、前回の差分ΔSNと新たな差分ΔSNとが一致している。この場合、基地局1は、基地局2とユーザ端末3との間の無線環境が安定していると推定する。ここで、基地局2とユーザ端末3との間の無線環境が安定しているときは、DDDS報告に基づくフロー制御の頻度を低くしても、
基地局1が基地局2とユーザ端末3との間のデータ送信の状態を精度良く推定できると考えられる。そして、基地局2とユーザ端末3との間のデータ送信の状態を精度良く推定できれば、適切なフロー制御が可能である。よって、前回の差分ΔSNと新たな差分ΔSNとが一致しているときは、基地局1は、DDDS報告を要求する周期を長くする。すなわち、基地局1は、DDDS要求を送信する周期を長くする。
【0047】
なお、上述の実施例では、差分ΔSNの値が2回連続して同じであるときにDDDS要求の送信周期が長くなるが、第2の実施形態はこの方法に限定されるものではない。すなわち、差分ΔSNの値が所定回数連続して同じであるときにDDDS要求の送信周期を長くしてもよい。また、上述の実施例では、差分ΔSNの変化がゼロであるときにDDDS要求の送信周期を長くするが、第2の実施形態はこの方法に限定されるものではない。すなわち、差分ΔSNの変化が所定の閾値より小さいときにDDDS要求の送信周期を長くしてもよい。
【0048】
この例では、DDDS要求の送信周期が「100パケット」から「200パケット」に延長される。したがって、パケットSN300~SN399の送信時には、すべてのデータパケットに対して「P=0」が付与される。この場合、基地局2は、DDDS報告を作成しない。続いて、パケットSN400~SN499の送信時には、パケットSN400~SN498に対して「P=0」が付与され、パケットSN499に「P=1」が付与される。そして、基地局2は、パケットSN499を受信したときに、DDDS報告を作成して基地局1に送信する。
【0049】
このように、第2の実施形態では、基地局2とユーザ端末3との間の無線環境が安定しているときは、基地局1は、DDDS報告を要求する周期を長くする。これにより、基地局1がDDDS報告を受信する頻度が少なくなり、DDDS報告に基づくDDDS手順の実行頻度が低くなる。したがって、基地局1においてDDDS手順を実行するために消費されるプロセッサ資源が抑制される。すなわち、ユーザプレーンの処理に対して十分なプロセッサ資源が割り当てられ、データスループットが向上する。
【0050】
図8は、第2の実施形態におけるマスタ基地局(基地局1)の動作の一例を示すフローチャートである。なお、図8においては、ダウンリンクデータを送信する処理は省略されている。
【0051】
S1において、DDDS要求部12は、基地局2にDDDS要求を送信する。DDDS要求は、ポーリングビットにより実現される。また、DDDS要求は、所定の周期で送信される。
【0052】
S2において、DDDS受信部13は、DDDS報告を受信する。S3において、DDDS要求部12は、DDDS報告から送達SNを抽出する。送達SNは、ここでは、基地局2が最後にユーザ端末3に転送したデータパケットを識別するシーケンス番号を表す。S4において、DDDS要求部12は、差分ΔSNを計算する。差分ΔSNは、新たに抽出した送達SNと前回の送達SNとの差分を表す。
【0053】
S5において、DDDS要求部12は、差分ΔSNが所定回数連続して閾値より小さいか否かを判定する。この判定の結果が「No」であるときは、基地局1の処理はS1に戻る。この場合、基地局1がDDDS要求を送信する周期は変わらない。一方、差分ΔSNが所定回数連続して閾値より小さいときは、S6において、DDDS要求部12は、DDDS要求の送信周期を長くする。この後、基地局1の処理はS1に戻る。この場合、基地局1は、初期値よりも長い周期でDDDS要求を送信することになる。
【0054】
<第3の実施形態>
図9は、本発明の第3の実施形態に係わるDDDS手順の一例を示す。この例では、3つのベアラが設定されている。こられのベアラは、同じユーザ端末にダウンリンクデータを送信するコネクションであってもよいし、異なるユーザ端末にダウンリンクデータを送信するコネクションであってもよい。
【0055】
基地局1は、ベアラ1のデータパケットを基地局2に送信する。このとき、基地局1は、所定の周期C1でDDDS要求を基地局2に送信する。そして、基地局2は、DDDS要求に応じて、ベアラ1に係わるDDDS報告を基地局1に送信する。同様に、基地局1は、所定の周期C2でベアラ2のためのDDDS要求を基地局2に送信し、基地局2は、ベアラ2に係わるDDDS報告を基地局1に送信する。また、基地局1は、所定の周期C3でベアラ3のためのDDDS要求を基地局2に送信し、基地局2は、ベアラ3に係わるDDDS報告を基地局1に送信する。なお、周期C1~C3は、互いに同じであってもよいし、互いに同じでなくてもよい。
【0056】
基地局1は、ベアラ毎に、基地局2と対応するユーザ端末との間の無線レートを推定する。尚、図5に示すDDDS報告から無線レートを推定する方法は、公知の技術なので、説明を省略する。この後、基地局1は、DDDS報告を受信するごとに、各ベアラの無線レートを推定する。そして、基地局1は、各ベアラの無線レートの変化をモニタする。
【0057】
図10は、DDDS報告に基づいて推定される無線レートの一例を示す。この実施例では、ベアラ1の推定無線レートは、時刻N+400以降はほぼ一定である。ベアラ2の推定無線レートは、時刻N+500以降はほぼ一定である。ベアラ3の推定無線レートは、時刻N+200以降はほぼ一定である。
【0058】
ここで、複数のベアラが設定される場合、基地局2とユーザ端末との間の無線状況が安定すると、各ベアラに対して割り当てられる無線帯域の割合はほぼ一定になる。即ち、基地局2とユーザ端末との間の無線状況が安定すると、各ベアラの無線レートはそれぞれほぼ一定になる。換言すれば、各ベアラの無線レートの変動が所定の閾値よりも小さくなったときは、基地局2とユーザ端末との間の無線状況が安定していると推定される。
【0059】
そこで、基地局1は、各ベアラの無線レートの変動が所定の閾値よりも小さくなると、DDDS要求の送信周期を長くする。例えば、時刻N+500以降は、ベアラ1~3の推定無線レートがそれぞれほぼ一定である。この場合、基地局1は、ベアラ1~3のためのDDDS要求の送信周期をそれぞれC1~C3よりも長く設定する。
【0060】
或いは、基地局1は、ベアラ毎にDDDS要求の送信周期を変更してもよい。例えば、ベアラ1のためのDDDS要求の送信周期を時刻N+400においてC1よりも長く設定し、ベアラ2のためのDDDS要求の送信周期を時刻N+500においてC2よりも長く設定し、ベアラ3のためのDDDS要求の送信周期を時刻N+200においてC3よりも長く設定するようにしてもよい。
【0061】
このように、第3の実施形態においても、基地局2とユーザ端末3との間の無線環境が安定すると、基地局1は、DDDS報告を要求する周期を長くする。したがって、第2の実施形態と同様に、第3の実施形態においても、基地局1においてDDDS手順を実行するために消費されるプロセッサ資源が抑制される。
【0062】
図11は、第3の実施形態におけるマスタ基地局(基地局1)の動作の一例を示すフローチャートである。なお、図11では、ダウンリンクデータを送信する処理は省略されている。
【0063】
S11~S12は、図8に示すS1~S2と実質的に同じである。すなわち、DDDS要求部12は、ベアラ毎に、所定の周期で基地局2にDDDS要求を送信する。そして、DDDS受信部13は、DDDS報告を受信する。
【0064】
S13において、基地局1は、ベアラ毎に、DDDS報告に基づいて基地局2とユーザ端末との間の無線レートを推定する。S14において、基地局1は、無線レートが一定であるか否かを判定する。ここで、「一定」は、無線レートの変動が所定の閾値より小さい状態を含む。
【0065】
無線レートの変動が一定でないときは、基地局1の処理はS11に戻る。この場合、基地局1がDDDS要求を送信する周期は変わらない。一方、無線レートが一定またはほぼ一定になると、S15において、DDDS要求部12は、DDDS要求の送信周期を長くする。この後、基地局1の処理はS11に戻る。この場合、基地局1は、初期値よりも長い周期でDDDS要求を送信することになる。
【0066】
<第4の実施形態>
図12は、本発明の第4の実施形態に係わるDDDS手順の一例を示す。第4の実施形態においても、基地局1は、所定の周期でDDDS要求を基地局2に送信する。基地局2は、DDDS要求に応じてDDDS報告を基地局1に送信する。そして、基地局1は、DDDS報告に基づいてフロー制御を行う。
【0067】
基地局2において、基地局1から受信するデータパケットは、図4(b)に示すパケットバッファ21に保存される。そして、パケット転送部22は、パケットバッファ21からデータパケットを読み出してユーザ端末3に送信する。このとき、DDDS作成部23は、常時、パケットバッファ21に保存されているデータパケットの量(以下、バッファ量)をモニタする。そして、バッファ量が所定の閾値TH1を越えると、DDDS作成部23は、自律的にDDDS報告を作成して基地局1に送信する。すなわち、この場合、基地局1からDDDS要求が受信されないときであっても、自律的にDDDS報告が作成される。このDDDS報告は、バッファ量が閾値を越えたことを基地局1に報告するために使用される。
【0068】
バッファ量が閾値を越えたことの報告は、この実施例では、図13に示す「バッファレポートビット(Buffer Report)」に「1」を設定することで実現される。なお、バッファレポートビットは、図5に示すフォーマットにおいて使用されてない領域を利用して設定される。
【0069】
基地局1は、基地局2のバッファ量が閾値を越えたことを認識すると、基地局2へのデータ送信を停止する。この場合、基地局1は、ユーザ端末3のみにデータパケットを送信する。
【0070】
基地局2は、ユーザ端末3へのデータ転送を継続する。よって、基地局1から基地局2へのデータ送信が停止すると、バッファ量が減少していく。そして、バッファ量が所定の閾値TH2より少なくなると、DDDS作成部23は、自律的にDDDS報告を作成して基地局1に送信する。このDDDS報告は、バッファ量が閾値より少なくなったことを基地局1に報告するために使用される。また、この報告は、上述したバッファレポートビットに「0」を設定することで実現される。なお、閾値TH1および閾値TH2は、互いに同じであってもよいし、閾値TH1より閾値TH2を小さくしてもよい。そして、基地局1は、基地局2のバッファ量が閾値より少なくなったことを認識すると、基地局2へのデータ送信を再開する。また、基地局1は、DDDS要求の送信も再開する。
【0071】
このように、第4の実施形態においては、基地局1から基地局2へのデータ送信量が基地局2の容量を超えたときには、ポーリングを行うことなく、フロー制御が実現される。したがって、DDDS手順に係わる処理を削減することが可能である。
【0072】
図14は、第4の実施形態におけるセカンダリ基地局(基地局2)の動作の一例を示すフローチャートである。なお、図14では、DDDS報告を送信する処理に係わるステップのみが描かれている。
【0073】
S21において、基地局2は、基地局1からDDDS要求を受信しているか否かをチェックする。そして、DDDS要求を受信してれば、S22において、DDDS作成部23は図5に示すDDDS報告を作成し、DDDS送信部24はそのDDDS報告を基地局1に送信する。
【0074】
DDDS要求を受信していときは、S23~S24において、DDDS作成部23は、バッファ量をモニタする。そして、バッファ量が閾値TH1を超えたときは、S25において、DDDS作成部23は、図13に示すDDDS報告を作成する。このとき、バッファレポートビットに「1(NG)」が設定される。そして、DDDS送信部24は、このDDDS報告を基地局1に送信する。一方、バッファ量が閾値TH2より小さくなったときは、S26において、DDDS作成部23は、図13に示すDDDS報告を作成する。このとき、バッファレポートビットに「0(OK)」が設定される。そして、DDDS送信部24は、このDDDS報告を基地局1に送信する。
【0075】
図15は、第4の実施形態におけるマスタ基地局(基地局1)の動作の一例を示すフローチャートである。なお、図15では、DDDS要求を送信する処理は省力されている。
【0076】
S31において、DDDS受信部13は、基地局2から送信されるDDDS報告を待ち受ける。なお、基地局1が基地局2にデータパケットを送信している期間は、所定の周期でDDDS要求が基地局2に送信されるので、基地局1は定期的にDDDS報告を受信することになる。
【0077】
DDDS受信部13がDDDS報告を受信すると、S32において、基地局1は、データ送信制御部11が基地局2にデータパケットを送信しており、且つ、DDDS報告のバッファレポートビットが「NG(バッファ量>閾値)」を表しているか否かを判定する。そして、上記2つの条件が満たされているときは、S33において、データ送信制御部11は基地局2へのデータ送信を停止する。なお、データ送信制御部11は、ユーザ端末3へのデータ送信を継続してもよい。
【0078】
S32の判定が「No」であるときは、S34において、基地局1は、データ送信制御部11が基地局2にデータ送信を停止しており、且つ、DDDS報告のバッファレポートビットが「OK(バッファ量<閾値)」を表しているか否かを判定する。そして、上記2つの条件が満たされているときは、S35において、データ送信制御部11は基地局2へのデータ送信を再開する。一方、S34の判定が「No」であるときには、S36において、データ送信制御部11は通常のフロー制御を行う。
【0079】
<第5の実施形態>
図16は、本発明の第5の実施形態に係わるDDDS手順の一例を示す。第5の実施形態においては、複数のベアラ(1~3)が設定されている。すなわち、基地局1は、ベアラ毎に、データパケットを基地局2に送信する。また、基地局1は、各ベアラについて、所定の周期でDDDS要求を基地局2に送信する。なお、図16においては、DDDS要求は「P1」と表記されている。
【0080】
例えば、基地局1がベアラ3のDDDS要求を送信すると、基地局2は、ベアラ3に対応するDDDS報告を作成して基地局1に送信する。このとき、基地局2は、例えば、図5に示すフォーマットのDDDS報告を基地局1に送信する。
【0081】
ここで、各ベアラに対してDDDS要求を送信するタイミングは、互いに同期していないので、短い期間内に複数のベアラに対してDDDS要求が送信されることがある。すなわち、基地局2は、短い期間内に複数のベアラに対するDDDS要求を受信することがある。この場合、基地局2は、複数のベアラが多重化されたDDDS報告を基地局1に送信する。
【0082】
例えば、図16に示すように、基地局1は、ベアラ1のDDDS要求およびベアラ2のDDDS要求をほぼ同時に基地局2に送信するものとする。この場合、基地局2は、ベアラ1のDDDS要求およびベアラ2のDDDS要求をほぼ同時に受信する。そうすると、基地局2は、ベアラ1およびベアラ2が多重化されたDDDS報告(MUX_DDDS)を作成して基地局1に送信する。
【0083】
図17は、複数のベアラを多重化可能なDDDS報告のフォーマットの一例を示す。多重ベアラ数は、1つのDDDS報告の中に多重化されるベアラの数を表す。例えば、図16に示すケースでは、ベアラ1およびベアラ2が多重化されるので、多重ベアラ数Nは2である。ベアラ番号は、多重化されるベアラを識別する。DDDS関連情報は、例えば、図5に示す情報に相当する。なお、このフォーマットは、3GPPのTS38.425において、例えば、PDU Type3として追加され得る。
【0084】
なお、図17に示すフォーマットは、複数のベアラを多重化するときに使用されるが、1つのベアラのDDDS報告を伝送するときに使用してもよい。この場合、多重ベアラ数Nは1である。
【0085】
図18は、第5の実施形態におけるセカンダリ基地局(基地局2)の動作の一例を示すフローチャートである。なお、図18では、DDDS報告を送信する処理に係わるステップのみが描かれている。
【0086】
S41において、基地局2は、基地局1から送信されるDDDS要求を待ち受ける。DDDS要求を受信すると、S42において、DDDS報告作成部23は、DDDS要求に応じてDDDS報告を作成する。S43において、DDDS報告作成部23はタイマを起動する。このタイマは、他のベアラのDDDS要求を待ち受ける期間をカウントする。
【0087】
S44~S45において、基地局2は、他のベアラのDDDS要求を待ち受ける。そして、タイマが満了する前に基地局2が他のベアラのDDDS要求を受信すると、S46において、DDDS報告作成部23はDDDS報告を作成する。このとき、新たなDDDS報告は、図17に示すフォーマット内に追加される。これにより、ベアラの多重化が実現される。そして、タイマが満了すると、S47において、DDDS送信部24は、DDDS報告を基地局1に送信する。
【0088】
このように、第5の実施形態のセカンダリ基地局は、複数のベアラが多重化されたDDDS報告を送信できる。したがって、マスタ基地局がDDDS報告を受信する回数が少なくなり、マスタ基地局においてDDDS手順を実行するために消費されるプロセッサ資源が抑制される。
【0089】
なお、タイマの設定時間を長くすると、1個のDDDS報告内に多重化されるベアラの数が多くなり、DDDSに関連する処理の効率が高くなる。ただし、タイマの設定時間が長すぎると、フロー制御の遅延が発生しやすくなり、伝送レートを適切に制御できないことがある。よって、タイマの設定時間は、これらの要因を考慮して適切に決定することが好ましい。
【0090】
<第6の実施形態>
図19は、本発明の第6の実施形態に係わるDDDS手順の一例を示す。第6の実施形態においては、ベアラ1~3が設定されている。ベアラ1~3は、異なるユーザ端末に対してダウンリンクデータを伝送する。この実施例では、ベアラ1~3は、それぞれユーザ端末UE1~UE3にダウンリンクデータを伝送する。
【0091】
この場合、各ベアラの無線品質は、ユーザ端末の位置に依存する。例えば、ユーザ端末が基地局の近くに位置するときは無線品質が高くなりやすく、ユーザ端末がセル端に位置するときは無線品質が低くなりやすい。
【0092】
第6の実施形態では、基地局1は、各ベアラの無線品質を推定する。すなわち、基地局1は、基地局2と各ユーザ端末との間の無線品質を推定する。各ベアラの無線品質は、公知の技術により推定される。例えば、DDDS報告に基づいて各ベアラの無線品質を推定することができる。そして、基地局1は、無線品質に基づいて複数のベアラをグループ化する。この実施例では、ベアラ1~2が品質グループAに分類され、ベアラ3が品質グループBに分類されている。なお、ベアラのグループ化は、図4(a)に示すベアラ分類部15により行われる。
【0093】
ここで、同じ品質グループに属する複数のベアラの状態は、互いに近似していると推定される。図19に示す例では、ベアラ1の状態およびベアラ2の状態は互いに近似していると推定される。よって、基地局1は、品質グループ毎にフロー制御を行うことが可能である。そこで、基地局1は、各品質グループ内で代表ベアラを選択する。そして、基地局1は、代表ベアラのDDDS報告を取得することで、同じ品質グループに属する各ベアラのフロー制御を実行する。
【0094】
例えば、品質グループAにおいて代表ベアラとしてベアラ1が選択されるものとする。この場合、基地局1は、ベアラ1のDDDS要求を所定の周期で基地局2に送信するが、ベアラ2のDDDS要求は送信しない。そうすると、基地局2は、ベアラ1のDDDS報告を基地局1に送信する。そして、基地局1は、ベアラ1のDDDS報告に基づいて、ベアラ1およびベアラ2のフロー制御を実行する。これにより、DDDS手順に係わる処理が削減される。
【0095】
なお、上述の実施例では、代表ベアラのDDDS要求のみが送信されるが、第6の実施形態はこの方法に限定されるものではない。例えば、代表ベアラのDDDS要求を送信する周期と比較して、他のベアラのDDDS要求を送信する周期を長くしてもよい。
【0096】
図20は、第6の実施形態におけるマスタ基地局(基地局1)の動作の一例を示すフローチャートである。なお、図20では、DDDS手順に係わるステップのみが描かれている。
【0097】
S51において、ベアラ分類部15は、各ベアラの無線品質を推定する。S52において、ベアラ分類部15は、無線品質に基づいてベアラをグループ化する。すなわち、ベアラは品質グループに分類される。S53において、ベアラ分類部15は、各品質グループにおいて代表ベアラを選択する。S54において、DDDS要求部12は、代表ベアラに対するDDDS要求を基地局2に送信する。S55において、DDDS受信部13は、代表ベアラのDDDS報告を基地局2から受信する。そして、S56において、データ送信制御部11は、代表ベアラのDDDS報告に基づいて、品質グループ内の各ベアラのフロー制御を実行する。
【0098】
<本発明の実施形態による効果>
上述したように、本発明の実施形態によれば、DDDSに関する処理が時間領域において分散(または、平均化)される。また、DDDS多重化により、単位時間当たりのDDDS報告の数が削減される。さらに、無線品質単位でフロー制御を行うことにより、DDDSに関する処理が削減される。
【0099】
例えば、分散処理を実施しないときに、ユーザプレーンの負荷がCPU資源の80パーセントに相当し、DDDS処理の負荷もCPU資源の80パーセントに相当するものとする。この場合、ユーザプレーンに割り当てられるCPU資源が不足し、データスループットが低くなる。これに対して、DDDS処理を時間領域で平均化することにより、たとえば、DDDS処理のピーク時の負荷をCPU資源の20パーセントに削減できるものとする。そうすると、ユーザプレーンに十分なCPU資源を割り当てることができ、データスループットが向上する。
【0100】
また、一例として、ダウンリンクのデータレートが5Gbpsであり、SDU長が1500バイトであり、無線通信システムが1つのベアラを収容する場合、1000ミリ秒当たりのPPSは約417000パケットとなる。一方、DDDSに必要なPPSは約200パケットである。すなわち、DDDSに係わる処理の負荷は小さい。ところが、無線通信システムが1000ベアラを収容する場合、DDDSに必要なPPSは約200000パケットである。すなわち、DDDSに係わる処理の負荷は、ユーザプレーンの負荷の約50パーセントに相当する。これに対して、例えば、1回のDDDS報告で10ベアラを多重化すれば、DDDSに係わる処理の負荷は、ユーザプレーンの負荷の約5パーセントに削減される。
【0101】
ベアラ単位でフロー制御を行うと、収容されるベアラの数に比例する処理が発生する。これに対して、品質グループ毎にフロー制御を行う場合、処理量が大幅に削減される。例えば、無線通信システムが1000ベアラを収容し、10個の品質グループが設定される場合、DDDSに関する処理量は、約100分の1に削減される。
【0102】
これらの結果、ユーザプレーンに十分なCPU資源を割り当てることができ、データスループットが向上する。
【符号の説明】
【0103】
1 基地局(マスタ基地局)
2 基地局(セカンダリ基地局)
3 ユーザ端末
11 データ送信制御部
12 DDDS要求部
13 DDDS受信部
14 DDDS保存部
15 ベアラ分類部
21 パケットバッファ
22 パケット転送部
23 DDDS作成部
24 DDDS送信部
100 無線通信システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20