(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20240806BHJP
B60K 1/00 20060101ALI20240806BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B62D25/08 E
B60K1/00
B60L9/18 J
(21)【出願番号】P 2023531272
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2021024873
(87)【国際公開番号】W WO2023276087
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕章
(72)【発明者】
【氏名】菅原 佳則
(72)【発明者】
【氏名】丹野 裕介
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-153229(JP,A)
【文献】特開2011-84198(JP,A)
【文献】特開2019-38333(JP,A)
【文献】特開2016-199142(JP,A)
【文献】特開2005-280539(JP,A)
【文献】特開平10-329701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B60K 1/00
B60L 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュパネルと、
前記ダッシュパネルのモータルーム側且つ運転席側に配置され車室内のブレーキペダルと繋がるマスターシリンダと、
前記モータルーム内で車両左右方向に横並びに配置されるインバータ、モータ及びギアボックスを有する電動ユニットと、
を備える電動車両であって、
前記電動ユニットは、前記モータルーム内において前記マスターシリンダより車両前後方向前方且つ下方に配置されるか、或いは前記マスターシリンダと前後方向位置が部分的に重なり合うように前記マスターシリンダより下方に配置される、
電動車両。
【請求項2】
前記モータルーム内において車両左右方向両側に配置されるサイドメンバそれぞれに接続し、前記マスターシリンダより下方に配置されるユニットメンバをさらに有し、
前記電動ユニットは、前記ユニットメンバに左右2箇所で上方から上側マウントにより支持されるとともに、前記電動ユニットの下方後方部で下側マウントにより支持され、
前記左右2箇所に配置される前記上側マウントそれぞれのうち一方の上側マウントは、他方の上側マウントよりマウント部の剛性が低い、
請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記マスターシリンダと前記ギアボックスとは、車両左右方向で対角に配置され、
前記上側マウントそれぞれのうち前記ギアボックス側に配置される上側マウントは、前記インバータ側に配置される上側マウントよりマウント部の剛性が高い、
請求項2に記載の電動車両。
【請求項4】
前記マスターシリンダと前記ギアボックスとは、車両左右方向で同じ側に配置され、
前記上側マウントそれぞれのうち前記ギアボックス側に配置される上側マウントは、前記インバータ側に配置される上側マウントよりマウント部の剛性が高い、
請求項2に記載の電動車両。
【請求項5】
前記ギアボックスは、車両左右方向位置が前記マスターシリンダと重複しない位置に配置される、
請求項3又は4に記載の電動車両。
【請求項6】
前記マスターシリンダは、前記サイドメンバそれぞれのうちいずれかの直上に位置し、
前記上側マウントそれぞれのうち前記運転席側に配置される上側マウントは、車両左右方向で前記マスターシリンダより車両内側に配置される、
請求項5に記載の電動車両。
【請求項7】
前記下側マウントは、前記上側マウントそれぞれのうちマウント部の剛性が高いほうの上側マウントよりマウント部の剛性が低い、
請求項2に記載の電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
JP6606995Bには、ダッシュパネルに固定されブレーキ構成要素を内部に収容する保護部材を備える車両の変形抑制構造が開示されている。この変形抑制構造では、車両の衝突時に保護部材のガイド面に重量構成要素が当接すると、重量構成要素の後退にともない保護部材が固定部を支点にして車両上方に向かって変位する。これによりダッシュパネルの後退量が低減されるので、ブレーキ系の構成要素を保護しながらも、ブレーキ系の構成要素によるダッシュパネルの車室内空間の内部への変形が抑制される。
【発明の概要】
【0003】
軽自動車等の小型車ではモータルーム内のスペースが前後左右方向共に狭い。このような小型電動車両では電動ユニットを構成するインバータ、モータ及びギアボックスをモータルーム内で車両左右方向に横並びに配置することがある。
【0004】
しかしながら、モータルーム内のスペースがもともと狭いことから、このように配置された電動ユニットとダッシュパネルとの間隔は狭い。このため、車両衝突時に電動ユニットがマスターシリンダや乗員前方の部分のダッシュパネルに干渉すると、マスターシリンダや乗員前方の部分のダッシュパネルが車両後方へ大きく後退し、乗員に影響を及ぼす虞がある。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、車両衝突時の乗員の安全性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の電動車両ではインバータ、モータ及びギアボックスがモータルーム内で車両左右方向に横並びに配置された電動ユニットが、マスターシリンダより車両前後方向前方且つ下方に配置されるか、或いはマスターシリンダと前後方向位置が部分的に重なり合うようにマスターシリンダより下方に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、電動車両のモータルーム内を上方から見た図である。
【
図2】
図2は、電動車両のモータルーム内を車両正面から見た図である。
【
図3】
図3は、電動車両のモータルーム内を斜め上方から見た図である。
【
図4】
図4は、電動車両のモータルーム内を斜め下方から見た図である。
【
図6】
図6は、第1上側マウントのマウント部の説明図である。
【
図7】
図7は、車両衝突時の様子を示す図の第1図である。
【
図8】
図8は、車両衝突時の様子を示す図の第2図である。
【
図9】
図9は、車両衝突時の様子を示す図の第3図である。
【
図10】
図10は、第1上側マウントのマウント部の第1変形例を示す図である。
【
図11】
図11は、第1上側マウントのマウント部の第2変形例を示す図である。
【
図12】
図12は、第1上側マウントのマウント部の第3変形例を示す図である。
【
図13】
図13は、第1上側マウントのマウント部の第4変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0009】
図1は電動車両1のモータルームR1内を上方から見た図である。
図2は電動車両1のモータルームR1内を車両正面から見た図である。
図3は電動車両1のモータルームR1内を斜め上方から見た図である。
図4は電動車両1のモータルームR1内を斜め下方から見た図である。
図5は電動ユニット4の斜視図である。
【0010】
電動車両1は軽自動車等の小型電動車両であり、右ハンドル仕様とされる。このため、運転席は車両左右方向右側に位置する。電動車両1はダッシュパネル2を備える。ダッシュパネル2はモータルームR1と車室R2とを区分する。電動車両1はモータルームR1内にマスターシリンダ3と電動ユニット4とを備える。
【0011】
マスターシリンダ3はブレーキペダルBPの踏力をブレーキ液圧に変換する。マスターシリンダ3はダッシュパネル2のモータルームR1側且つ運転席側に配置され、車室R2内のブレーキペダルBPと繋がる。マスターシリンダ3は後述するサイドメンバ5それぞれより上方に位置する。マスターシリンダ3はサイドメンバ5それぞれのうちいずれかのサイドメンバ5である第1サイドメンバ51の真上に位置する。従って、マスターシリンダ3は第1サイドメンバ51と車両左右方向位置の重なり合いを有する。
【0012】
電動ユニット4はモータルームR1内においてマスターシリンダ3より車両前後方向前方且つ下方に配置される。電動ユニット4はインバータ41とモータ42とギアボックス43とを有する。インバータ41はモータ42を駆動し、モータ42から減速機であるギアボックス43を介して駆動輪に駆動力が伝達される。モータ42は駆動輪からの動力により発電を行うこともできる。
【0013】
インバータ41、モータ42及びギアボックス43はモータルームR1内で車両左右方向に横並びに配置される。インバータ41、モータ42及びギアボックス43はこの順に配置され、車両左右方向右側にはインバータ41が配置される。
【0014】
ギアボックス43は出力軸が入力軸に対してオフセットする構造を有し、
図4に示すようにインバータ41やモータ42よりも車両前後方向後方に張り出す。このため、電動ユニット4はギアボックス43でダッシュパネル2等の後方に配置された構成との間隔が特に狭くなる。
【0015】
このことから、ギアボックス43は車両左右方向でマスターシリンダ3に対して対角に配置される。ギアボックス43は車両左右方向位置がマスターシリンダ3と重複しない位置に配置される。
【0016】
モータルームR1内にはサイドメンバ5とクロスメンバ6とユニットメンバ7とブラケット8とが設けられる。サイドメンバ5はモータルームR1内において車両左右方向両側それぞれに配置され、車両前後方向に延伸する。第1サイドメンバ51は車両左右方向右側に配置されるサイドメンバ5を示し、第2サイドメンバ52は車両左右方向左側に配置されるサイドメンバ5を示す。クロスメンバ6はサスペンションメンバであり、車体に下方から接続する。
【0017】
ユニットメンバ7は左右のサイドメンバ5それぞれに接続する。ユニットメンバ7はブラケット8を介してサイドメンバ5に接続する。ブラケット8はサイドメンバ5及びユニットメンバ7それぞれに上方から接続する。第1ブラケット81は車両左右方向右側に配置されるブラケット8を示し、第2ブラケット82は車両左右方向左側に配置されるブラケット8を示す。ユニットメンバ7はマスターシリンダ3より下方に配置される。ユニットメンバ7には上側マウント9を介して電動ユニット4が支持される。
【0018】
上側マウント9はユニットメンバ7の車両左右方向両側それぞれに配置される。上側マウント9はペンデュラムマウントであり、電動ユニット4を吊り下げた状態で支持する。換言すれば、電動ユニット4はユニットメンバ7に上側マウント9を介して上方から支持される。上側マウント9は、ユニットメンバ7の上面に取り付けられるメンバ側ブラケットにゴム等のマウント要素が一体化された筒状の構造を有し、電動ユニット4を弾性支持する。上側マウント9はユニットメンバ7を貫通して設けられ、電動ユニット4は上側マウント9の下端部に取り付けられる。
【0019】
車両左右方向右側の上側マウント9である第1上側マウント91には、インバータ41が取り付けられる。車両左右方向左側の上側マウント9である第2上側マウント92には、ギアボックス43が取り付けられる。第1上側マウント91は車両左右方向でマスターシリンダ3より車両内側に配置される。第1上側マウント91は左右2箇所に配置される上側マウント9それぞれのうち運転席側に配置される上側マウント9に相当する。
【0020】
電動ユニット4はさらに、電動ユニット4の下方後方部4aで下側マウント10により支持される。従って、電動ユニット4は第1上側マウント91、第2上側マウント92及び下側マウント10により3点支持される。下方後方部4aはギアボックス43の一部であり、インバータ41及びモータ42より下方且つ車両前後方向後方に位置する。下方後方部4aにはボス43aが設けられ、ボス43aにはボルト穴が形成される。
【0021】
下側マウント10はトルクロッドであり、両端部の外筒及び内筒間にゴム等のマウント要素を有する。下側マウント10は、ペンデュラム方式でマウントされた電動ユニット4を下方から弾性支持する。
【0022】
下側マウント10は、一端部でボス43aにボルト締結により固定されるとともに、他端部でクロスメンバ6にボルト締結により固定される。下側マウント10は車両左右方向で第1上側マウント91及び第2上側マウント92間に配置される。下側マウント10は車両左右方向で第1上側マウント91とは反対側に配置される。
【0023】
図5に示すように、インバータ41はボス41aを有し、ギアボックス43はボス43bを有する。ボス41aはインバータ41の上面部に設けられ、ボス43bはギアボックス43の上面部に設けられる。ボス41aとボス43bとにはボルト穴が形成される。ボス41aは1つ設けられ、ボス43bは4つ設けられる。
【0024】
ボス41aには第1上側マウント91を挿通させたボルトが締め込まれる。これにより、電動ユニット4が第1上側マウント91に固定される。ボス43bにはユニットブラケットがボルト締結により固定される。ユニットブラケットは、ボス43bそれぞれに四隅で固定されるベース部の中央に軸部が起立するタワー状の構造を有し、軸部の先端部にはねじが形成される。電動ユニット4は、ボス43bそれぞれに固定されたユニットブラケットの軸部を第2上側マウント92に挿通させ、挿通させた軸部にナットを締め込むことにより、第2上側マウント92に固定される。
【0025】
第1上側マウント91等のマウント部について説明すると、マウント部はマウント、マウント取付部、マウントの取り付けに用いられるボルト、上述のユニットブラケット等の取付ブラケットを含む。但し、本実施形態ではマウントやボルトや取付ブラケットには十分な強度が与えられている。従って、本実施形態ではマウント部の剛性は、マウント取付部の剛性を比較することにより比較することができる。換言すれば、本実施形態ではマウント取付部をマウント部とみなすことができる。
【0026】
このことから、第1上側マウント91の場合、マウント部はボス41a、及びユニットメンバ7の第1上側マウント91取付部とされる。第2上側マウント92の場合、マウント部はボス43b、及びユニットメンバ7の第2上側マウント92取付部とされる。
【0027】
第1上側マウント91は1つのボス41aに1本のボルトで取り付けられ、第2上側マウント92は4つのボス43bそれぞれに4本のボルトで取り付けられる。ボス41aの強度は計4つのボス43bの強度より低く設定される。また、第1上側マウント91と第2上側マウント92とが取り付けられる部分のユニットメンバ7は互いに同様である。
【0028】
このため、本実施形態ではインバータ41に取り付けられた第1上側マウント91のほうがギアボックス43に取り付けられた第2上側マウント92よりマウント部の剛性は低い。換言すれば、第2上側マウント92のほうが第1上側マウント91よりマウント部の剛性は高い。第2上側マウント92はマスターシリンダ3に対して車両左右方向で対角に配置されるギアボックス43側の上側マウント9に相当し、第1上側マウント91は車両左右方向でインバータ41側に配置される上側マウント9に相当する。
【0029】
下側マウント10の場合、マウント部はボス43a、及びクロスメンバ6の下側マウント10取付部とされる。
図4に示すように、下側マウント10は1つのボス43aに1本のボルトで取り付けられるとともに、クロスメンバ6の下側マウント10取付部である取付部6aに1本のボルトで取り付けられる。
図5に示すように、第2上側マウント92は4つのボス43bそれぞれに4本のボルトで取り付けられる。ボス43aの強度と取付部6aの強度とはともに、計4つのボス43bの強度より低く設定される。
【0030】
このため、下側マウント10は、左右2箇所に配置される上側マウント9それぞれのうちマウント部の剛性が高いほうの上側マウント9である第2上側マウント92より、マウント部の剛性が低い。従って、3点支持される電動ユニット4では第2上側マウント92がマウント部の剛性が最も高いマウントとなる。
【0031】
第1上側マウント91のマウント部の剛性はさらに次のようにして低下される。
【0032】
図6は第1上側マウント91のマウント部の説明図である。インバータ41では、ボス41aが設けられる上面41bの直下部分が鋳抜き構造とされる。これは上面41bの平面確保のためであり、上面41bは直下部分を鋳抜いて形成される下方面41cとの二面構造とされる。これにより、車両衝突時に電動ユニット4に衝突荷重が入力された際に上面41bが破損し、インバータ41内の強電部品の露出が回避される。上面41bはボス41aとともに第1上側マウント91の取付部を構成することにより、本実施形態における第1上側マウント91のマウント部を構成する。
【0033】
次に車両衝突時の様子について
図7から
図9を用いて説明する。
図7では車両衝突前の電動ユニット4及びユニットメンバ7を二点破線で示す。
図8ではギアボックス43を図示省略した状態で電動ユニット4を示す。
【0034】
図7に示すように、電動車両1がバリアBに正面衝突すると、矢印A1で示すようにバリアBがサイドメンバ5を前方から潰す。すると車体がピッチングし、矢印A2で示すようにユニットメンバ7が前方側から持ち上げられる。続いて、矢印A3で示すようにバリアBが電動ユニット4の下側を押す。この際には、
図8に示すように衝突荷重が電動ユニット4のインバータ41及びモータ42に入力される。前述の通り、第1上側マウント91のほうが第2上側マウント92よりマウント部の剛性は低い。
【0035】
このため、電動ユニット4に衝突荷重が入力されると、
図9に示すように第1上側マウント91のマウント部がまず破断する。これにより、電動ユニット4が第2上側マウント92と下側マウント10の一端部とを支点にして後方に押し込まれる。結果、電動ユニット4は上方から見て矢印A4で示すように回転しつつ後退する。
【0036】
従って、電動ユニット4は車両前後方向後方に真っ直ぐに後退せずに、運転席及び助手席の間の部分でダッシュパネル2に干渉する。結果、電動ユニット4がマスターシリンダ3や乗員前方の部分のダッシュパネル2に干渉することが回避され、車両衝突時の乗員の安全性が高められる。また、助手席側の第2上側マウント92と下側マウント10とが電動ユニット4を支持して、電動ユニット4の干渉によるダッシュパネル2の後退量を抑制するので、これによっても乗員の安全性が高められる。
【0037】
次に本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0038】
電動車両1は、ダッシュパネル2と、ダッシュパネル2のモータルームR1側且つ運転席側に配置され車室R2内のブレーキペダルBPと繋がるマスターシリンダ3と、モータルームR1内で車両左右方向に横並びに配置されるインバータ41、モータ42及びギアボックス43を有する電動ユニット4とを備える。電動ユニット4はモータルームR1内においてマスターシリンダ3より車両前後方向前方且つ下方に配置される。
【0039】
このような構成によれば、上記のように電動ユニット4を配置したので、ダッシュパネル2と電動ユニット4との車両前後方向の間隔が狭くても、車両衝突時に電動ユニット4がマスターシリンダ3と干渉し難くなる。このため、ブレーキペダルBPが後退して運転者に衝撃を与えることを回避し易くすることで、車両衝突時の乗員の安全性を高めることができる。
【0040】
電動車両1は、モータルームR1内において車両左右方向両側に配置されるサイドメンバ5それぞれに接続し、マスターシリンダ3より下方に配置されるユニットメンバ7をさらに有する。電動ユニット4は、ユニットメンバ7に左右2箇所で上側マウント9により上方から支持されるとともに、電動ユニット4の下方後方部4aで下側マウント10により支持される。左右2箇所に配置される上側マウント9それぞれのうち一方の上側マウント9は、他方の上側マウント9よりマウント部の剛性が低い。
【0041】
このような構成によれば、車両衝突時に上側マウント9それぞれのうち一方の上側マウント9がまず破断する。結果、電動ユニット4は他方の上側マウント9と下側マウント10の一端部とを支点として回転しつつ後退し、運転席及び助手席の間の部分でダッシュパネル2に干渉する。つまり、電動ユニット4は車両前後方向後方に真っ直ぐに後退せずに、後方に乗員がいない部分でダッシュパネル2に干渉する。これにより、電動ユニット4とダッシュパネル2との間隔が狭くても、マスターシリンダ3や乗員前方の部分のダッシュパネル2への電動ユニット4の干渉を生じ難くすることができ、車両衝突時の乗員の安全性が高められる。また、一方の上側マウント9が破断しても他方の上側マウント9と下側マウント10とが電動ユニット4を支持するので、電動ユニット4の干渉によるダッシュパネル2の後退量も抑制される。結果、これによっても乗員の安全性が高められる。
【0042】
マスターシリンダ3とギアボックス43とは車両左右方向で対角に配置される。上側マウント9それぞれのうちギアボックス43側に配置される上側マウント9である第2上側マウント92は、インバータ41側に配置される上側マウント9である第1上側マウント91よりマウント部の剛性が高い。
【0043】
このような構成によれば、マスターシリンダ3とギアボックス43とが対角に配置されるので、ギアボックス43が車両前後方向後方に張り出しても、車両衝突時に電動ユニット4がマスターシリンダ3に干渉し難くなる。また、第2上側マウント92のほうが第1上側マウント91よりマウント部の剛性が高いので、車両衝突時にギアボックス43が後方に押し込まれ難くなる結果、ダッシュパネル2にも干渉し難くなる。
【0044】
ギアボックス43は、車両左右方向位置がマスターシリンダ3と重複しない位置に配置される。このような構成によれば、仮に車両衝突時に電動ユニット4が車両前後方向後方に真っ直ぐ後退したとしても、マスターシリンダ3とギアボックス43との干渉を回避し易くすることができる。
【0045】
マスターシリンダ3はサイドメンバ5それぞれのうちいずれかのサイドメンバ5である第1サイドメンバ51の真上に位置する。上側マウント9それぞれのうち運転席側に配置される上側マウント9である第1上側マウント91は、車両左右方向でマスターシリンダ3より車両内側に配置される。
【0046】
このような構成によれば、マスターシリンダ3が車両左右方向で第1サイドメンバ51と位置の重なり合いを有する一方、第1上側マウント91と位置の重なり合いを有しない配置となる。このため、マスターシリンダ3と電動ユニット4との干渉を回避し易い構成が得られる。
【0047】
下側マウント10は、上側マウント9それぞれのうちマウント部の剛性が高いほうの上側マウント9である第2上側マウント92よりマウント部の剛性が低い。このような構成によれば、車両衝突時に最終的に第2上側マウント92を残すことで、第2上側マウント92を支点に電動ユニット4を回転させることや、電動ユニット4の下部がめくれ上がるようにして電動ユニット4を後退させることができる。結果、電動ユニット4が車両前後方向後方に真っ直ぐに後退しなくなるので、車両衝突時に電動ユニット4がマスターシリンダ3や乗員前方の部分のダッシュパネル2に干渉することを回避し易くなる。
【0048】
第1上側マウント91では以下のようにしてマウント部の剛性をさらに下げてもよい。
【0049】
図10から
図13は第1上側マウント91のマウント部の変形例を示す図である。
図10に示す第1変形例では、車両左右方向のほうが車両前後方向よりもボス41aの幅が狭く設定される。結果、その逆の場合と比較して矢印A3で示す衝突荷重の入力方向に対してボス41aの幅が狭くなる。このため、ボス41aに応力が集中し易くなり、ボス41aの車両前方側の根元部分から上面41bを破断させ易くすることができる。
【0050】
図11に示す第2変形例では、ボス41aの車両前方側の壁部と上面41bとを繋ぐリブ41dが設けられる。この場合、電動ユニット4が衝突荷重を受けた際にリブ41dに応力が集中し易くなるので、ボス41aの車両前方側の根元部分から上面41bを破断させ易くすることができる。
【0051】
図12に示す第3変形例では、ボス41aの車両前方側の根元に車両左右方向に延びる溝41eが設けられる。この例では溝41eに応力が集中し易くなるので、ボス41aの車両前方側の根元部分から上面41bを破断させ易くすることができる。
【0052】
図13に示す第4変形例では、上面41bの車両前後方向両端部それぞれに車両左右方向に延びる溝41fが設けられる。この例では2つの溝41fそれぞれに応力が集中し易くなるので、2つの溝41f間の上面41b全体を破断させ易くすることができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0054】
例えば
図14に示すように、電動ユニット4はマスターシリンダ3と前後方向位置が部分的に重なり合うようにマスターシリンダ3より下方に配置されてもよい。この例では、ギアボックス43がマスターシリンダ3と前後方向位置の重なり合いを有する。この場合でも、車両衝突時に電動ユニット4がマスターシリンダ3と干渉し難くなるので、乗員の安全性を高めることができる。
【0055】
図15に示すように、マスターシリンダ3とギアボックス43とは、車両左右方向で同じ側に配置されてもよい。この場合、上側マウント9それぞれのうちギアボックス43側に配置される上側マウント9である第2上側マウント92が、インバータ41側に配置される上側マウント9である第1上側マウント91よりマウント部の剛性が高い構成とすることができる。この場合、車両衝突時にマスターシリンダ3側で電動ユニット4を後退させ難くすることで、マスターシリンダ3と電動ユニット4との干渉を生じ難くしたり、マスターシリンダ3の後退量を抑制したりすることができる。
【0056】
このような構成は、電動車両1が左ハンドル仕様の場合にも有効である。これは、
図16に示すように電動車両1が左ハンドル仕様の場合は、マスターシリンダ3が車両左右方向左側に配置され、且つマスターシリンダ3と電動ユニット4とで車両左右方向位置が重なり合うためである。この場合、第1上側マウント91は車両左右方向右側、第2上側マウント92は車両左右方向左側に配置される。
【0057】
その一方で、
図15に示す例では、車両左右方向位置がマスターシリンダ3と重複しない位置にギアボックス43を配置することで、マスターシリンダ3とギアボックス43との干渉を回避し易くすることができる。また、
図15に示す例では、第1サイドメンバ51の直上にマスターシリンダ3を位置させ、運転席側に配置される第2上側マウント92を車両左右方向でマスターシリンダ3より車両内側に配置することで、マスターシリンダ3と電動ユニット4との干渉を回避し易い構成を得ることができる。
【0058】
上述した実施形態では、電動車両1が軽自動車等の小型電動車両の場合について説明した。しかしながら、上述した実施形態のようにして乗員の安全性を高めることは、車格に関わらず、例えば電動車両1に要求されるモータパワーが上がり、これに応じて電動ユニット4が大きくなる結果、モータルームR1における電動ユニット4の占有率が高くなった場合にも有効である。