(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】造水方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20240806BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240806BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20240806BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C02F1/44 D
C02F1/44 C
B01D69/02
B01D61/14
B01D65/02 500
(21)【出願番号】P 2023557453
(86)(22)【出願日】2023-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2023032767
【審査請求日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2022152225
(32)【優先日】2022-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】花田 茂久
(72)【発明者】
【氏名】花川 正行
(72)【発明者】
【氏名】志村 俊
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-217504(JP,A)
【文献】特開2016-040029(JP,A)
【文献】特開2007-14902(JP,A)
【文献】特開2014-233658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透膜供給水を半透膜によって処理して透過水と濃縮水に分離する膜処理工程と、次の(A)~(C)の少なくともいずれか1つの工程とを有する造水方法であって、
(A)被処理水を前処理して前記半透膜供給水を得る前処理工程
(B)前記半透膜に対して洗浄を行う洗浄工程
(C)前記半透膜に対して殺菌剤添加を行う殺菌剤添加工程
前記半透膜供給水を重量平均分子量4万Daのデキストラン除去率が60%以上95%以下である限外ろ過膜でろ過した際のろ過抵抗上昇度(δA)が、所定の閾値を上回った際に、前記前処理工程、前記洗浄工程及び前記殺菌剤添加工程の少なくともいずれか1つの工程の運転条件を追加または強化する造水方法。
【請求項2】
前記前処理工程が重量平均分子量4万Daのデキストラン除去率が60%以上95%以下である限外ろ過膜を用いて前記被処理水を前処理することを含み、前記半透膜供給水を該限外ろ過膜に逆流させた際のろ過抵抗上昇度(δA)が所定の閾値を上回った際に、前記前処理工程、前記洗浄工程及び前記殺菌剤添加工程の少なくともいずれか1つの工程の運転条件を追加または強化する、請求項
1に記載の造水方法。
【請求項3】
前記ろ過抵抗上昇度(δA)の閾値が2.5×10
-12/m
2である、請求項
1または
2に記載の造水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜を用いて海水やかん水などの脱塩を行うことにより淡水を得たり、下廃水処理水や工業排水等を浄化して再利用水を得たりする造水方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半透膜を用いた造水システムは、海水の淡水化を始め、多くの産業や水処理分野で応用され、他の分離方法と比較し、分離性能やエネルギー効率等の点で優位性が実証されてきている。一方、該造水システムでは、膜面での微生物増殖、あるいは膜面への生物膜(バイオフィルム)の付着、すなわちバイオファウリングにより、膜差圧が急上昇し、膜の透過性、分離性が低下するという問題がある。
【0003】
バイオファウリングにより、膜差圧が上昇したり、膜の透過性、分離性が低下したりした場合は、膜を洗浄することが一般的である。洗浄方法としては、一旦ろ過を停止し、原水やろ過水を膜面に供給して洗浄する、いわゆるフラッシング洗浄や、洗浄剤を用いて洗浄する薬品洗浄が挙げられる。しかし、ファウリングがいったん進行すると、たとえ洗浄を行ったとしても膜差圧、透過性、分離性が完全に回復せず、次第に洗浄の頻度が多くなり、ついには運転不可能となり、膜の交換が必要となる。よって、ファウリングが進行する前の適切な段階で膜を洗浄し、ファウリングの進行を抑えることが重要である。
【0004】
また、ファウリングの進行を抑える手段として、被処理水にバイオフィルムの増殖を抑制する薬剤(以下、「殺菌剤」という)を添加する技術も有効な手法として数多く提案されている。これら殺菌剤の添加濃度、頻度、時間等は少なすぎればファウリングの進行を抑えることができない。一方、多すぎればファウリングの進行を抑えることはできるものの、薬品コストの増大を招く。よって、ファウリングの進行を抑えるための殺菌剤添加の適正な濃度、頻度、時間等の条件を把握することが重要である。
【0005】
また、被処理水に濁質などの成分が含まれている場合は、直接半透膜でろ過すると、膜表面に付着する該成分が多くなり、差圧が急上昇し、運転不可能となる。これを避けるため、あらかじめ原水を前処理してから、半透膜に供給することになるが、この前処理工程の運転条件も半透膜のファウリングの進行に影響を与えるため、半透膜のファウリングの進行を抑えるには、前処理工程の運転条件を適切に制御することが必要である。
【0006】
以上を踏まえると、半透膜のファウリングの進行を抑えるには、被処理水の持つバイオファウリングポテンシャルを適正に評価し、洗浄、殺菌剤添加、前処理工程の条件を適切に制御することが重要である。
【0007】
特許文献1、特許文献2では、被処理水中の有機物の一部として含まれているバイオポリマーに着目し、被処理水中のバイオポリマーを所定閾値以下となるように調整し、膜分離を行う方法が開示されており、その所定閾値は9μg/L以上12μg/L以下、ないしは9μg/L以上17μg/L以下の範囲のいずれかの値となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特許第6561082号公報
【文献】日本国特許第6630689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、特許文献2の技術は、膜分離として精密ろ過膜または限外ろ過膜を想定しており、半透膜のファウリング機構とは異なるため、そのまま適用することは困難である。また、これらの文献で開示されている所定閾値は非常に低い濃度であり、一般的な海水、下廃水処理水などの被処理水で実現することは困難である。
【0010】
そこで、本発明は、膜を用いて海水やかん水などの脱塩を行うことにより淡水を得る場合、下廃水処理水や工業排水等を浄化して再利用水を得る場合などにおいて、半透膜のファウリングの進行を抑える手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、被処理水の持つバイオファウリングポテンシャルを適正に評価し、半透膜の洗浄、殺菌剤添加、前処理工程の条件を適切に制御することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明における造水方法は、以下の構成のいずれかからなる。
(1) 半透膜供給水を半透膜によって処理して透過水と濃縮水に分離する膜処理工程と、次の(A)~(C)の少なくともいずれか1つの工程とを有する造水方法であって、
(A)被処理水を前処理して前記半透膜供給水を得る前処理工程
(B)前記半透膜に対して洗浄を行う洗浄工程
(C)前記半透膜に対して殺菌剤添加を行う殺菌剤添加工程
前記半透膜供給水のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回った際に、あるいは、前記膜処理工程における前記透過水の回収率をRとした場合、前記濃縮水のバイオポリマー濃度が75×1/(1-R)μgC/Lを上回った際に、前記前処理工程、前記洗浄工程及び前記殺菌剤添加工程の少なくともいずれか1つの工程の運転条件を追加または強化する造水方法。
(2) 前記前処理工程において、凝集剤の添加により、前記前処理工程の運転条件を追加または強化する、(1)に記載の造水方法。
(3) 前記半透膜供給水のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回った際に、その濃度をP[μgC/L]とした場合、前記凝集剤として塩化第二鉄を(P-75)×0.1[mg-Fe/L]以上、(P-75)×0.33[mg-Fe/L]以下の濃度で添加する、(2)に記載の造水方法。
(4) 前記前処理工程が精密ろ過膜法または限外ろ過膜法を含む、(1)から(3)のいずれか1つに記載の造水方法。
(5) 前記限外ろ過膜法で用いられる限外ろ過膜の重量平均分子量20万Daのデキストラン除去率が55%以上99%以下である、(4)に記載の造水方法。
(6) 前記限外ろ過膜法で用いられる限外ろ過膜の重量平均分子量4万Daのデキストラン除去率が60%以上95%以下である、(4)または(5)に記載の造水方法。
(7) 前記限外ろ過膜の表面孔数が200個/μm2以上2000個/μm2以下である、(5)または(6)に記載の造水方法。
(8) 前記限外ろ過膜の表面孔径の平均値が5.0nm以上12.0nm以下である、(5)から(7)のいずれか1つに記載の造水方法。
(9) 前記限外ろ過膜の表面孔数を前記限外ろ過膜の表面孔径の平均値で除した値が30個/μm2/nm以上100個/μm2/nm以下である、(5)から(8)のいずれか1つに記載の造水方法。
(10) 半透膜供給水を半透膜によって処理して透過水と濃縮水に分離する膜処理工程と、次の(A)~(C)の少なくともいずれか1つの工程とを有する造水方法であって、
(A)被処理水を前処理して前記半透膜供給水を得る前処理工程
(B)前記半透膜に対して洗浄を行う洗浄工程
(C)前記半透膜に対して殺菌剤添加を行う殺菌剤添加工程
前記半透膜供給水を重量平均分子量4万Daのデキストラン除去率が60%以上95%以下である限外ろ過膜でろ過した際のろ過抵抗上昇度(δA)が、所定の閾値を上回った際に、前記前処理工程、前記洗浄工程及び前記殺菌剤添加工程の少なくともいずれか1つの工程の運転条件を追加または強化する造水方法。
(11) 前記前処理工程が重量平均分子量4万Daのデキストラン除去率が60%以上95%以下である限外ろ過膜を用いて前記被処理水を前処理することを含み、前記半透膜供給水を該限外ろ過膜に逆流させた際のろ過抵抗上昇度(δA)が所定の閾値を上回った際に、前記前処理工程、前記洗浄工程及び前記殺菌剤添加工程の少なくともいずれか1つの工程の運転条件を追加または強化する、(10)に記載の造水方法。
(12) 前記ろ過抵抗上昇度(δA)の閾値が2.5×10-12/m2である、(10)または(11)に記載の造水方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、半透膜の洗浄、殺菌剤添加、前処理工程の条件を適切に制御し、半透膜のファウリングの進行を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の造水方法の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、海水淡水化プラントAの処理方法を示す概略図である。
【
図3】
図3は、海水淡水化プラントAの別の処理方法を示す概略図である。
【
図4】
図4は、下水再利用プラントBの処理方法を示す概略図である。
【
図5】
図5は、本発明の造水方法の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1を用いて本発明について詳しく説明するが、本発明の内容はこの図の態様に限定されるものではない。
尚、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。
【0016】
本発明の造水方法は、被処理水1を半透膜2によって処理し、透過水3と濃縮水4に分離する造水システムにおいて実施される。
【0017】
被処理水としては、例えば海水、かん水、河川水、湖沼水、地下水、下水、下水二次処理水等が挙げられる。被処理水に濁質などの固形成分が含まれている場合は、直接半透膜でろ過すると、膜表面に付着する固形成分が多くなり、差圧が急上昇し、運転不可能となるため、その場合は、あらかじめ被処理水を前処理部5で処理してから半透膜に供給する。
【0018】
一般的に用いられる前処理方法は原水に凝集剤を添加し、固形成分をフロック化させ、砂やアンスラサイト等でろ過する凝集砂ろ過法である。一方、この方法では原水変動の影響を受けやすく処理水質が不安定であるため、精密ろ過膜や限外ろ過膜で処理する膜前処理も採用することができる。また、原水が下水等の有機性廃水の場合は、廃水中に含まれる有機物を低減するため、活性汚泥処理を行った後、活性汚泥を分離するために固液分離を行う前処理を実施することもできる。固液分離の方法は、従来から用いられている沈殿池を用いた沈殿分離でもよく、処理水質の向上などを目的として、精密ろ過膜や限外ろ過膜などの分離膜を用いて固液分離する方法も採用することができる。
【0019】
前処理を施された被処理水、すなわち、半透膜供給水6は、送水ポンプ7で高圧ポンプ8に送り、高圧ポンプ8で加圧することにより、ろ過に必要な圧力で半透膜2に供給され、透過水3と濃縮水4に分離される。供給配管の途中では、半透膜におけるバイオファウリングの進行を抑えるための殺菌剤9が添加される場合もある。殺菌剤を添加する装置については、殺菌剤の添加条件を制御するために、添加量や添加時間、添加頻度などがコントロールできるバルブやポンプを有する制御機構を備えていることが好ましい。
【0020】
また半透膜2の上流には、薬品洗浄のために、洗浄剤10を導入する管路が設けられる。洗浄剤を導入する地点は特に限定されるものではないが、洗浄剤の種類によっては、高圧ポンプ8を腐食させるおそれがあるため、その下流が好ましい。また通常は洗浄剤は濃縮水4の配管の途中から導出され、循環される。
【0021】
半透膜は、被処理水を飲料水、工業用水、都市用水などに利用できるように、塩濃度を下げることができるものであれば、いかなる素材のものを用いてもよいが、例えば、酢酸セルロース系、ポリアミド系の素材により構成されるものが挙げられる。この中でも、本発明の方法において特に有効であるのは、ポリアミド系の素材により構成されるものである。ポリアミド系の膜は、バイオフィルムの増殖を防ぐために殺菌剤として最も一般的に用いられる塩素に対する耐性が低く、わずかな濃度の塩素であっても膜劣化が顕著に起こるため、バイオファウリングを防止することが難しい。よって本発明を実施することによる効果が顕著に現れる。
【0022】
本発明の造水方法は、かかる造水システムにおいて、半透膜供給水を半透膜によって処理して透過水と濃縮水に分離する膜処理工程と、次の(A)~(C)の少なくともいずれか1つの工程とを有し、
(A)被処理水を前処理して前記半透膜供給水を得る前処理工程
(B)前記半透膜に対して洗浄を行う洗浄工程
(C)前記半透膜に対して殺菌剤添加を行う殺菌剤添加工程
前記半透膜供給水のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回った際に、あるいは、前記膜処理工程における前記透過水の回収率をRとした場合、前記濃縮水のバイオポリマー濃度が75×1/(1-R)μgC/Lを上回った際に、前記前処理工程、前記洗浄工程及び前記殺菌剤添加工程の少なくともいずれか1つの工程の運転条件を追加または強化することを特徴とする。
【0023】
バイオポリマーは有機物の中で概ね10~20kDa以上の分子量を有する親水性の高分子有機物(多糖類、タンパク等)である。バイオポリマーの定義、測定方法としては、たとえば、Huber,S.A.,Balz,A.,Abert, M., Pronk, W., 2011.Characterisation of aquatic humic and non-humic matter with size-exclusion chromatography e organic carbon detection e organic carbon detection e organic nitrogen detection(LC-OCD-OND).Water Research 45(2),879-885に記載されているように、有機炭素検出型排除クロマトグラフ法(LC-OCD)で測定することができる。ここで、LC-OCD法とは、試料中の全有機炭素(TOC)成分を分子量ごとに分画し、クロマトグラムとして示す分析法であり、クロマトグラム上では、分子量および親水性の大きい有機物ほど保持時間が短くなる傾向がある。LC-OCD法の測定条件としては、カラムとして250mm×20mmのTSK HW50Sを用い、流速を1.1mL/minにし、サンプル注入量を1mLにし、UV波長を254nmにし、湿式全有機炭素計測器(OCD計)への酸注入量を0.2mL/minにし、溶離液としてpH6.85 リン酸バッファを用い、酸性化溶液として1L超純水に対し、4mL O-リン酸(85%)およびペルオキソ二硫酸カリウム0.5gを添加した溶液を用いるというものを採用することができる。LC-OCD法に用いる測定装置としては、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にOCD計を接続したLC-OCD装置(DOC-Labar製)を用いることができる。
【0024】
本発明では上記方法によって測定される半透膜供給水のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回った際に前記半透膜の洗浄条件および/または殺菌剤添加条件を追加または強化する。ここで洗浄条件としては、フラッシング洗浄の場合はその時間、頻度、方法、薬品洗浄の場合は、洗浄剤の種類、濃度、注入方法、時間、方法などが挙げられる。例えばフラッシング洗浄では、高圧ポンプを一旦停止し、ろ過を止め、送水ポンプのみを稼働させて、半透膜供給水で膜面に付着したバイオフィルムを剥離・洗浄除去する。洗浄を追加または強化する方法としては、洗浄時間、頻度を増やす(普段実施していなかったのを実施することも含む)、流量を増やす、その増減を繰り返す、空気などを一緒に流入させて洗浄効果を上げるなどが挙げられる。
【0025】
薬品洗浄では、洗浄剤の種類は特に限定されるものではないが、バイオファウリングの場合はアルカリで洗浄することが一般的であり、洗浄剤として例えば0.1%の水酸化ナトリウム溶液などが挙げられる。洗浄剤は通常、洗浄用タンクなどに入れられ、ポンプで高圧ポンプの下流からRO配管に導入され、濃縮水の配管の途中から導出され、循環される。洗浄方法としては、例えば1時間程度循環洗浄した後(場合によっては2~3回繰り返し)、ファウリングの程度にもよるが、2~24時間浸漬し、最後にリンスをして洗浄を完了する。洗浄を追加または強化する方法としては、洗浄時間、頻度を増やす(普段実施していなかったのを実施することも含む)、流量を増やす、その増減を繰り返す、空気などを一緒に流入させて洗浄効果を上げるなどが挙げられる。
【0026】
また殺菌剤添加条件としては、殺菌剤の種類、濃度、注入方法・時間などが挙げられる。殺菌剤の種類としては、例えば上記した2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンまたは5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンまたはこれらの塩およびこれらの混合物を有効成分とする殺菌剤や2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド(DBNPA)、硫酸などが挙げられる。濃度としては、例えばDBNPAの場合は半透膜供給水の最終濃度で10ppmになるように注入したり、硫酸の場合は半透膜供給水のpHが3になるように注入したりする。注入方法としては、連続的に添加してもよいし、例えば1日に1回1時間など、間欠的に添加してもよいが、間欠添加の方が一般的に殺菌剤コストは低減できる。殺菌剤添加条件を追加または強化する方法としては、濃度を増やす、時間を増やす、頻度を増やす(普段実施していなかったのを実施することも含む)などが挙げられる。
【0027】
また、バイオポリマー濃度を測定する対象水を半透膜供給水ではなく、濃縮水としてもよい。この場合、バイオポリマーは半透膜によって濃縮されるため、透過水の回収率をRとした場合、濃縮水のバイオポリマー濃度が75×1/(1-R)μgC/Lを上回った際に前記半透膜の洗浄条件および/または殺菌剤注入条件を追加または強化する。
【0028】
また、半透膜供給水のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回った際に前処理部の運転条件を追加または強化してもよい。運転条件の追加または強化方法としては、凝集剤を添加し、バイオポリマーを低減するのが最も運転管理上、適用しやすい方法である。具体的には半透膜供給水のバイオポリマー濃度が超過した濃度に応じて凝集剤を添加することが効率的であり、半透膜供給水のバイオポリマー濃度をP[μgC/L]とした場合、凝集剤として塩化第二鉄を(P-75)×0.1[mg-Fe/L]以上、(P-75)×0.33[mg-Fe/L]以下の濃度で添加することが効果・コストの面で効率的で好ましい。(P-75)は75μgC/Lからの超過分を表し、この超過分の0.1倍以上、0.33倍以下の濃度で添加することを意味する。またバイオポリマー濃度の超過分の0.1倍以上、0.2倍以下の濃度で添加することが更に効率的で好ましい。
【0029】
また、前処理方法としては、上述した凝集砂ろ過法、膜前処理法など濁質などの固形成分を除去可能な方法であれば、特に限定されるものではないが、膜前処理法を採用すると、より好ましい。前処理方法が凝集砂ろ過法の場合は、凝集剤添加濃度は被処理水中の濁質成分のフロックを形成させるために最適化されている場合があり、半透膜供給水中のバイオポリマー濃度を調整するために凝集剤添加濃度を増加させることで、本来除去すべき濁質成分の除去性能に影響を及ぼすこともある。一方、精密ろ過膜法もしくは限外ろ過膜法といった膜前処理法の場合は、濁質成分の除去は膜前処理そのもので達成されるため、濁質除去率は常に安定している。また、濁質成分のための凝集剤添加は必要ないので、バイオポリマー濃度が75μgC/Lを超えたときだけ、バイオポリマー濃度を下げるためのみに凝集剤添加を行えばよいので効率的である。
【0030】
なお、凝集剤を添加することなく、膜前処理でのバイオポリマー除去率を上げる手段として、精密ろ過膜または限外ろ過膜の比ろ過抵抗を高くすることも挙げられる。これはあえて精密ろ過膜または限外ろ過膜を目詰まりさせることにより、バイオポリマーの除去率を上げる方法である。比ろ過抵抗は下記式(1)で表される。
Rm=(TMP-TMP0)/(μ×J) ・・・式(1)
ここで、Rm:比ろ過抵抗[1/m]、TMP:運転時の膜間差圧[Pa]、TMP0:初期の膜間差圧[Pa]、μ:水の粘性係数[Pa・s]、J:膜ろ過流束[m/s]である。
【0031】
精密ろ過膜または限外ろ過膜の運転は一般的に以下のように行われる。まず、被処理水を供給し、所定の膜ろ過流束で一定時間(20~30分)ろ過を行う。その後、ろ過水を用いた逆流洗浄やブロワを用いた空気洗浄(物理洗浄)を一定時間(30~60秒)行い、またろ過を開始し、このサイクルを繰り返す。逆流洗浄を行う際に洗浄効果を高めるために酸、アルカリ、次亜塩素酸ナトリウムなどの薬液を注入する場合もある(薬液逆流洗浄)。精密ろ過膜または限外ろ過膜を目詰まりさせて比ろ過抵抗を高くする方法としては、膜ろ過流束を上げる、ろ過時間を長くする(物理洗浄頻度を低減する)、物理洗浄の1回あたりの流量や時間を低減する、薬液逆流洗浄の頻度を低減する、薬液逆流洗浄の1回あたりの流量や時間を低減するなどが挙げられる。このような方法でバイオポリマーの除去率を上げることにより、凝集剤を添加する必要がないため、薬品コストを低減することができる。
【0032】
限外ろ過膜としては、重量平均分子量20万Daのデキストラン除去率が55%以上99%以下であることが好ましい。また重量平均分子量4万Daのデキストラン除去率が60%以上95%以下であることがより好ましい。重量平均分子量4万Daのデキストラン除去率は、68%以上90%以下であることが更に好ましく、70%以上90%以下であることが特に好ましい。このような膜を使用することにより、膜のバイオポリマー除去率自体が高くなるため、半透膜供給水のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回る回数が減少する、あるいは上回った際の濃度もそれほど高くならないため、運転制御が容易となるだけでなく、凝集剤添加量も少なくできる。
【0033】
デキストラン除去率は、市販のデキストランが1000ppm、25℃となるように調製したデキストラン水溶液を用いて、多孔質膜に対してクロスフロー線速度1.0m/sec、膜間差圧10kPaでろ過し、下記式(2)で算出することができる。
デキストラン除去率T(%)={(原液の屈折率)-(透過液の屈折率)}/(原液の屈折率)×100 ・・・式(2)
ここで、クロスフロー線速度は、ろ過原液のろ過方向と垂直な方向の流量を、該流れの流路の断面積で除した値である。また、膜間差圧とは、多孔質膜を隔てたろ過原液側の圧力と、透過液側の圧力の差である。
【0034】
また、限外ろ過膜において、高いバイオポリマー除去率と、ろ過流束およびその維持率にはトレードオフの関係がある。限外ろ過膜が高いバイオポリマー除去率を発現しつつ、ろ過流束を高く維持するためには、限外ろ過膜の表面孔数が200個/μm2以上2000個/μm2以下であることが好ましい。これにより、ろ過の進行とともにろ過原液中の汚れ成分が限外ろ過膜の表面孔を一部閉塞したとしても、ろ過原液が限外ろ過膜を透過する流路の数を十分に確保できるため、限外ろ過膜が優れた耐汚れ性を示しやすく、好ましい。限外ろ過膜の表面孔数は290個/μm2以上1500個/μm2以下であることがさらに好ましく、350個/μm2以上1000個/μm2以下であることが特に好ましい。
【0035】
限外ろ過膜の表面孔数は、限外ろ過膜の表面を観察したSEMで得た画像をフリーソフト「ImageJ」を使って二値化する。二値化する際は、Subtract Backgroundにて1pixelとしてCreate Backgroundした後、Threshold(二値化の閾値)で条件:RenyiEntropyを選択する。得られた二値化画像を元にしてAnalyze Particlesで解析して得ることができる。解析した画像の面積で、表面孔の数を除すことで、単位面積当たりの孔の数とする。孔径と同様に孔を千個以上を含む画像を解析して算出する。
【0036】
また、限外ろ過膜の表面孔径の平均値が5.0nm以上12.0nm以下であることで、ろ過原液中の粗大な汚れ物質(濁質)や除去対象物であるバイオポリマーが限外ろ過膜内に侵入することを防ぎ、高い耐汚れ性を示しやすく、好ましい。表面孔径[nm]の平均値は5.0nm以上9.0nm以下であることがさらに好ましく、5.0nm以上8.0nm以下であることが特に好ましい。
【0037】
表面孔径とは、限外ろ過膜の表面を観察したときに面内に在る孔の径である。限外ろ過膜の表面孔径を求める場合には、限外ろ過膜の表面を観察したSEMで得た画像を、フリーソフト「ImageJ」を使って二値化する。二値化する際は、Subtract Backgroundにて1pixelとしてCreate Backgroundした後、Threshold(二値化の閾値)で条件:RenyiEntropyを選択する。得られた二値化画像において、Analyze ParticlesでAreaを選択することで、各孔の面積を求め、各孔を円と仮定して算出した直径を表面孔径とする。表面孔径の平均値を求める際は、千個以上の孔の孔径を平均して求める。
【0038】
また、限外ろ過膜の表面孔数を表面孔径の平均値で除した値:Xが30個/μm2/nm以上100個/μm2/nm以下であることで、ろ過原液中の粗大な汚れ物質(濁質)や除去対象物であるバイオポリマーが限外ろ過膜内に侵入することを防ぎつつ、かつ、ろ過原液が限外ろ過膜を透過する流路の数を十分に確保できるため、優れた耐汚れ性を示しやすく、好ましい。Xが大きいことは、小さな孔が多いことを意味する。通常、孔径が小さい場合には、孔数が少なくなりやすく、孔径と孔数はトレードオフの関係にある。発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、孔が小さいことでろ過原液中の粗大な汚れ物質(濁質)や除去対象物であるバイオポリマーが限外ろ過膜内に侵入することを防ぎつつ、かつ、孔が多いことで、ろ過原液が限外ろ過膜を透過する流路の数を十分に確保し、また汚れ成分を分散できるため、優れた耐汚れ性を示しやすいことを見出した。孔数と孔径が相関関係にあり、いずれもが耐汚れ性に寄与するため、両者を勘案したX値を耐汚れ性の指標とすることが好ましい。本発明で用いる限外ろ過膜は、Xが30個/μm2/nm以上100個/μm2/nm以下であることで、優れた耐汚れ性を示すため好ましく、32個/μm2/nm以上80個/μm2/nm以下であることが更に好ましく、50個/μm2/nm以上70個/μm2/nm以下であることが特に好ましい。
【0039】
限外ろ過膜の素材となる高分子は、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ナイロン、セルロースアセテート若しくはセルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド若しくはポリメタクリル酸メチル等のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの重合体、或いはこれらの共重合体等が挙げられる。
【0040】
特に、限外ろ過膜を長期間ろ過に使用するためには、蓄積した汚れ成分を定期的に薬品洗浄することが好ましく、特に耐薬品性に優れたポリフッ化ビニリデン系樹脂を含むことが好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンの単独重合体又はフッ化ビニリデンの共重合体をいう。ここでフッ化ビニリデンの共重合体とは、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーをいう。フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーは、典型的には、フッ化ビニリデンモノマーと、それ以外のフッ素系モノマー等との共重合体である。そのようなフッ素系モノマーとしては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン又は三フッ化塩化エチレンが挙げられる。上記フッ化ビニリデンの共重合体においては、本発明の効果を損なわない程度に、上記フッ素系モノマー以外のエチレン等が共重合されていても構わない。
【0041】
限外ろ過膜の素材となる高分子は複数種を混合して用いてもよく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、限外ろ過膜の重量を100%としたときに、50重量%以上含むことがより好ましく、60重量%以上含むことが特に好ましい。
【0042】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む限外ろ過膜は、表面をATR法(全反射測定法)で測定した際に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶部におけるα型構造結晶(Hα)とβ型構造結晶(Hβ)の比率(Hα/Hβ)が0以上0.50以下であることが好ましい。ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶構造としては、α型及びβ型、存在が極少量のγ型の3つの構造が知られている。この中で、β型構造結晶はTTTTの平面ジグザグ構造であり、双極子モーメントは同じ方向に配置され、膜表面に電子供与成分が多く、極性を有するとされている。したがって、同様に極性を持つ水分子との相互作用が強く、逆に有機物は吸着しにくい。Hα/Hβが0~0.50であることで有機物に対して優れた耐汚れ性を発現する。なお、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶部におけるα型構造結晶(Hα)とβ型構造結晶(Hβ)との比率(Hα/Hβ)は、ATR法でIRスペクトル得たスペクトルにおいて、763cm-1の位置に現れるα型構造結晶のシグナルのピーク高さ(Hα)と、840cm-1に現れるβ型構造結晶のシグナルのピーク高さ(Hβ)から、下記式(3)を用いてα型構造結晶とβ型構造結晶の比率を算出できる。Hα/Hβは、より好ましくは0.25以上0.40以下、さらに好ましくは0.30以上0.40以下である。
α型/β型構造結晶の比率=Hα/Hβ ・・・式(3)
【0043】
限外ろ過膜は、純水透水性が0.25m3/m2/h/50kPa以上1.2m3/m2/h/50kPa以下であることで、汚れやすいろ過原液に対しても比較的低い圧力でろ過運転しやすく、汚れ成分が高い圧力で膜面に押しつけられないため、限外ろ過膜の吸着および閉塞を抑制し、汚れ成分が多いろ過原液に対するろ過においても十分な透過液を得やすい。純水透水性はより好ましくは0.30m3/m2/h/50kPa以上1.2m3/m2/h/50kPa以下であり、さらに好ましくは0.40m3/m2/h/50kPa以上1.2m3/m2/h/50kPa以下である。
【0044】
限外ろ過膜は、中空糸状であり、中空糸膜外側の表面弾性率が200MPa以上であることにより、中空糸膜の擦過を抑制し、除去率低下を低減しやすい。これにより、擦過による除去率低下を起こさずに安定して高い除去率を維持しやすい。中空糸膜の外表面の表面弾性率は、押し込みに対して膜が有する復元力の指標であり、復元力が大きいほど、不可逆な変形が起きにくい。不可逆な変形、つまり塑性変形が起こると、中空糸膜の孔の形状が変化し、中空糸膜で除去すべき成分が透過液に漏洩しやすい。表面弾性率が高い中空糸膜を用いることによって、濁質が中空糸膜に接触し、中空糸膜を擦って擦過しようとした際にも、強い復元力によって擦過を抑制しやすいことを見出した。表面弾性率は、濁質が押しつけられた際に十分な復元力を発揮するために、230MPa以上が好ましく、250MPa以上がさらに好ましく、300MPa以上が特に好ましい、また、中空糸膜が靱性を有し、濁質が衝突した際の割れを抑制するために、表面弾性率は450MPa以下が好ましく、400MPa以下がさらに好ましく、350MPa以下が特に好ましい。
【0045】
表面弾性率は市販のナノインデンターを用いて、ISO14577に準拠した方法で試験および算出することができる。中空糸膜を測定する場合、乾燥した中空糸膜を金属またはガラス板状に固定し、最大荷重を0.1mN、印加時間を15秒、最大荷重保持時間を30秒として室温で測定し、中空糸膜の外表面を構成する主成分のポアソン比を用いて、押し込み深さ0.4μm以上0.8μm以下の範囲で算出する。ポアソン比は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の場合、0.35であり、ポリスルホンの場合0.37であり、ポリエーテルスルホンの場合0.40であり、酢酸セルロースの場合0.30の値を用いることができる。ここで、中空糸膜を構成する成分の内、重量分率が50%以上の成分を主成分とする。主成分は一般的な組成分析機器を用いて、公知の技術で求めることができる。例えば、IR、NMR、ICP等である。表面弾性率は、測定箇所を変えて同じ中空糸膜で5回表面弾性率を測定し、さらに3本の異なる中空糸膜に対して測定を行い、それら全ての測定値の平均を算出することで求める。
【0046】
限外ろ過膜は、中空糸状であり、ポリフッ化ビニリデンを含む結晶性の高分子樹脂が主成分であり、且つ中空糸膜の外表面から50μm以内において、中空糸膜を構成する高分子樹脂の結晶化度が30%以上であることが好ましい。結晶化度が30%以上であることで、濁質が中空糸膜に衝突した際に、孔の変形を抑制しやすく、また濁質が膜表面から跳ね返りやすくなり、好ましい。孔の変形抑制と、濁質の跳ね返りをよくするため、結晶化度は35%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。しかしながら結晶化度が80%を超えると、中空糸膜の柔軟性が失われ、例えば、クロスフロー運転などによる運転で破損しやすくなるため80%以下が好ましい。
【0047】
中空糸膜の結晶化度を求める場合には、示差走査熱量計(以下、DSC)の測定結果から算出することができる。結晶化度の測定に用いる、中空糸膜の外表面から50μm以内の切片は、市販の凍結ミクロトームで採取して用いる。ミクロトームでは中空糸膜を一定の移動距離で動かした後に、刃を中空糸膜に接触させて切断することができる。中空糸膜の表面に並行な向きに刃を設置する。まず、移動距離を5μm間隔で刃に近づけて中空糸膜を1回切削する。その後、移動距離を40μmとして、さらに1回切削することで、表面から厚み40~45μmの表面部を採取することができる。
【0048】
また、バイオポリマー濃度は上記に述べたLC-OCD法で測定するのが一般的であるが、
図5に示すように、半透膜供給水6を重量平均分子量4万Daのデキストラン除去率が60%以上95%以下である限外ろ過膜72でろ過した際のろ過抵抗上昇度(δA)をバイオポリマー濃度の代替として用いてもよい。限外ろ過膜のろ過抵抗上昇度(δA)を指標とすることで、オンラインでの測定と測定結果に基づく運転制御が容易であり、好ましい。限外ろ過膜72はバイオポリマー除去率の高い膜で、一方、低分子成分は透過させる。また半透膜供給水はあらかじめ前処理を行った水であるため、濁質などの固形成分は含まれていない。よって半透膜供給水6を限外ろ過膜72でろ過した際のろ過抵抗上昇度(δA)はバイオポリマー由来のものとなるため、δAはバイオポリマー濃度の代替指標となる。
【0049】
δAは例えば次のように求められる。半透膜供給水を所定のろ過圧力P1で限外ろ過膜に供給し、ろ過を行い、所定量W1のろ過水を得られるまでの時間をt1とすると、ろ過抵抗R1[1/m]は以下の式(4)のように求められる。
(ろ過抵抗R1)=(ろ過圧力P1)×(ろ過するのに要した時間t1)×(膜面積A)/{(原水の粘度μ)×(所定量W1)} ・・・式(4)
【0050】
ろ過を連続的に行うことで、ろ過抵抗R1を連続的に取得し、横軸に単位膜面積あたりの総ろ過水量、縦軸にR1をプロットし、単位膜面積あたりの総ろ過水量に対するろ過抵抗の変化率(傾き)をろ過抵抗上昇度(δA)とする。なお、ろ過流量q1を流量計等で測定し、以下の式(5)からろ過抵抗R1を求めてもよい。
(ろ過抵抗R1)=(ろ過圧力P1)×(膜面積A)/{(原水の粘度μ)×(ろ過流量q1)} ・・・式(5)
【0051】
また、前処理部5に重量平均分子量4万Daのデキストラン除去率が60%以上95%以下である限外ろ過膜が使用されている場合は、半透膜供給水6を該限外ろ過膜に逆流させた際のろ過抵抗上昇度(δA)をバイオポリマー濃度の代替指標としてもよい。
図5に示すように、前処理部5に限外ろ過膜が使用される場合は、ろ過を行うことで限外ろ過膜に付着した汚れ成分を洗浄・除去するために限外ろ過膜のろ過水(半透膜供給水)を用いて逆流洗浄を行う機能が通常備え付けられているため、δAを測定するための新たな装置を追加する必要がない。
【0052】
δAは逆流洗浄を行う際の膜間差圧(ろ過圧力)から上記式(5)より算出されるろ過抵抗R1を用いて求めることができる。ただ通常の限外ろ過膜の運転では、20~30分ろ過を行った後、30~60秒逆流洗浄を行うが、この逆流洗浄期間の膜間差圧は膜中に残存している汚れ成分由来の抵抗を含んだものとなるため、正確なδAの測定が難しい場合がある。よって、δAの測定時は逆流洗浄の期間を通常よりも延ばし、膜中に残存している汚れの除去が終了後、膜間差圧の上昇が観察される期間のデータからδAを求めることが望ましい。また、限外ろ過膜の運転では、1日に1~2回程度、薬液15(次亜塩素酸ナトリウム等)を注入して逆流洗浄し、20分程度薬液に限外ろ過膜を浸漬させることにより、膜中の汚れを除去する工程を設ける場合も多いが、この薬液逆流洗浄工程終了後に逆流洗浄を行い、δAを求めてもよい。
【0053】
本発明では、上記の方法で求められるδAが所定の閾値を上回った際に、前記前処理工程、前記洗浄工程、前記殺菌剤添加工程の少なくともいずれかの条件を追加または強化するが、δAの閾値は2.5×10-12/m2であることが好ましい。これにより、効率的に半透膜のファウリングの進行を抑えることができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例の態様のみに限定されるものではない。
【0055】
(参考例1)
以下の製法で得た支持膜を含む中空糸多孔質膜Aを得た。
38質量%のPVDF(クレハ社製;KF1300、重量平均分子量35万Da)と、62質量%のγ-ブチロラクトンを混合し、160℃で溶解して、支持膜原液を調製した。この支持膜原液を、85質量%γ-ブチロラクトン水溶液を中空部形成液体として随伴させながら二重管口金から吐出した。吐出した支持膜原液を、口金の30mm下方に設置した温度20℃の85質量%γ-ブチロラクトン水溶液が入った冷却浴中で凝固させて、球状構造を有する中空糸状の支持膜を作製した。
【0056】
12質量%のPVDF(アルケマ社製;Kynar(登録商標)710、重量平均分子量18万Da)、4.0質量%のセルロースジアセテート(イーストマン社製;CA-398-3)、4.0質量%のセルローストリアセテート(イーストマン社製;CA-436-80S)、80.0質量%のN-メチル-2-ピロリドンを混合して120℃で4時間撹拌し、高分子溶液を調製した。
【0057】
次いで、上記の中空糸状の支持膜の外表面に、高分子溶液を、10m/minで均一に塗布した(厚み50μm)。ポリマー溶液を塗布した支持膜を10m/minで引取、塗布から1秒後に、25℃の蒸留水の凝固浴に10秒浸漬するように通過させて凝固させ、三次元網目構造を有する多孔質膜Aを形成した。得られた多孔質膜Aを評価した結果、重量平均分子量20万Daのデキストラン除去率は94%、重量平均分子量4万Daのデキストラン除去率は55%、表面孔の数は196個/μm2、表面孔径の平均値は15nm、表面孔数を表面孔径の平均値で除した値:Xは13個/μm2/nmであった。また、α型/β型構造結晶の比率=Hα/Hβは1.0、純水透水性は0.41m3/m2/h/50kPa、表面弾性率は150MPa、結晶化度は11%であった。
【0058】
ここで、重量平均分子量20万Daのデキストラン除去率は、以下の手順で求めた。デキストラン(Aldrich社製;重量平均分子量20万Da)を1000ppm蒸留水に混合して、デキストラン水溶液を調製した。調製したデキストラン水溶液を25℃で多孔質膜に膜間差圧10kPaとなるように供給して、クロスフロー線速度1.0m/secでクロスフローろ過し、透過液をサンプリングした。ここで、クロスフロー線速度は、ろ過原液のろ過方向と垂直な方向の流量を、該流れの流路の断面積で除した値である。また、膜間差圧とは、多孔質膜を隔てたろ過原液側の圧力と、透過液側の圧力の差である。透過液をサンプリングしたタイミングで多孔質膜に供給したデキストラン水溶液(原液)をサンプリングした。透過液と原液の屈折率を測定し、次式(2)に基づいて除去率:Tを求めた。
デキストラン除去率T(%)={(原液の屈折率)-(透過液の屈折率)}/(原液の屈折率)×100 ・・・式(2)
【0059】
重量平均分子量4万Daのデキストラン除去率は、重量平均分子量20万Daのデキストラン除去率と同様の試験方法で、用いるデキストランをAldrich社製;重量平均分子量4万Daとした。
【0060】
多孔質膜を25℃で1晩、真空乾燥した後、SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製;S-5500)を用いて、3万~10万倍の倍率で観察した。多孔質膜の表面を観察したSEMで得た画像を、フリーソフト「ImageJ」を使って二値化した。二値化する際は、Subtract Backgroundにて1pixelとしてCreate Backgroundした後、Threshold(二値化の閾値)で条件:RenyiEntropyを選択した。得られた二値化画像において、Analyze ParticlesでAreaを選択することで、各孔の面積を求め、各孔を円と仮定して算出した直径を表面孔径とした。表面孔径の平均値を求める際は、千個以上の孔の孔径を平均して求めた。孔の数は、観察した領域の面積で除して、単位面積当たりの孔数とした。
【0061】
株式会社島津製作所製のIRTracer-100を用いて、ATR法(全反射測定法)により分解能8cm-1で限外ろ過膜表面のIRスペクトルを測定した。得られたスペクトルにおいて763cm-1の位置に現れるα型構造結晶のシグナルのピーク高さ(Hα)と、840cm-1に現れるβ型構造結晶のシグナルのピーク高さ(Hβ)から、次式(3)を用いてα型構造結晶とβ型構造結晶の比率を算出した。
α型/β型構造結晶の比率=Hα/Hβ ・・・式(3)
【0062】
結晶化度の測定に用いる、中空糸状の限外ろ過膜の外表面から50μm以内の切片は、市販の凍結ミクロトーム(Leica社製;Jung CM3000)で採取して用いた。蒸留水中に浸漬した中空糸膜を、凍結ミクロトーム(Leica社製;Jung CM3000)を用いて-20℃で凍結し、中空糸膜の表面に平行な向きに刃を設置した。まず、移動距離を5μm間隔で刃に近づけて中空糸膜を1回切削した。その後、移動距離を40μmとして、さらに1回切削することで、表面から厚み40~45μmの中空糸膜切片を採取した。DSC(SEIKO社製:DSC6200)に切片セットして室温から300℃まで5℃/分で上昇させたとき、それぞれの高分子樹脂の吸熱ピークを融解熱とみなし、該熱量を高分子樹脂の完全結晶融解熱量で除し、百分率として算出した。例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂については、100~190℃の範囲に見られる吸熱ピークをポリフッ化ビニリデン系樹脂の融解熱と見なし、該熱量を、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の完全結晶融解熱量である104.6J/gで除して、百分率として算出した。
【0063】
中空糸状の限外ろ過膜の表面弾性率の測定は、KLM社製Nano Indenter SA2にダイヤモンド製Berkovich圧子を装着し、ISO14577に準拠した方法で圧縮負荷を印加-除荷試験を室温大気中で行った。乾燥した中空糸膜を長さ約1cmにカットし、1cm四方の金属板上に両面テープで固定し、測定に用いた。最大荷重を0.1mN、印加時間を15秒、最大荷重保持時間を30秒として大気中室温で測定し、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする中空糸膜を測定した場合、ポアソン比は0.35として表面弾性率を算出した。N=5でそれぞれ別の場所を押し込み、押し込み深さ0.4μm~0.8μmの範囲で表面弾性率を算出した。異なる中空糸膜3本を用いて同様の測定を行い、全ての測定値の平均値を表面弾性率の測定結果とした。
【0064】
中空糸状の限外ろ過膜の純水透水性の測定は、中空糸膜1~10本程度からなる長さ約10cmの小型モジュールを作製し、温度25℃、ろ過差圧18.6kPaの条件で表面Aから蒸留水を送液して全量ろ過し、一定時間の透過水量(m3)を測定して得た値を、単位時間(hr)、単位有効膜面積(m2)、50kPa当たりに換算して算出した。
【0065】
(参考例2)
参考例1の製膜において、高分子溶液の組成比を12質量%のPVDF(アルケマ社製;Kynar(登録商標)710、重量平均分子量18万Da)、4.8質量%のセルロースジアセテート(イーストマン社製;CA-398-3)、2.4質量%のセルローストリアセテート(イーストマン社製;CA-436-80S)、68.7質量%のN-メチル-2-ピロリドン、12.1質量%の2-ピロリドンに変更した以外は、同様に製膜して多孔質膜Bを得た。
得られた多孔質膜Bを参考例1と同様の方法で評価した結果、重量平均分子量20万Daのデキストラン除去率は96%、重量平均分子量4万Daのデキストラン除去率は71%、表面孔の数は444個/μm2、表面孔径の平均値は7.2nm、表面孔数を表面孔径の平均値で除した値:Xは62個/μm2/nmであった。また、α型/β型構造結晶の比率Hα/Hβは0.37、純水透水性は0.43m3/m2/h/50kPa、表面弾性率は310MPa、結晶化度は49%であった。
【0066】
(参考例3)
参考例1の製膜において得た中空糸支持膜を多孔質膜Cとした。
得られた多孔質膜Cを参考例1と同様の方法で評価した結果、重量平均分子量20万Daのデキストラン除去率は48%、表面孔の数は0.1個/μm2、表面孔径の平均値は1230nm、表面孔数を表面孔径の平均値で除した値:Xは8×10-5個/μm2/nmであった。また、純水透水性は1.3m3/m2/h/50kPa、表面弾性率は130MPaであった。
【0067】
(実施例1)
海水淡水化プラントAで、
図2に示すような処理方法で海水の処理を行った。まず海水21を取水し、海水貯槽22に貯めた。次に海水を供給ポンプ23で砂ろ過槽24(ろ過面積:17m
2、ろ層高さ:1.5m、ろ材:砂(平均孔径0.6mm))に供給し、ろ過を行うことにより、海水の前処理を行った。ろ過速度は10m/hで、1日に1回、逆圧洗浄と空気洗浄を行った。また砂ろ過槽の前段では凝集剤25(塩化第二鉄3mg-Fe/L)を添加した。凝集砂ろ過法で前処理された海水はいったん半透膜供給水貯槽26に貯めた後、送水ポンプ27で高圧ポンプ28に送り、高圧ポンプで加圧することにより半透膜29でろ過し、透過水30と濃縮水31を得た。
【0068】
半透膜は膜材質がポリアミド、脱塩率が99.8%、膜面積が37m2のスパイラル型の逆浸透膜であった。運転は膜ろ過流束14L/m2/hr、回収率37%であった。なお、この回収率とは、透過水の流量/(透過水の流量+濃縮水の流量)×100で算出される。また、半透膜の運転では、半透膜供給水と濃縮水との圧力差(以下、運転差圧)をモニタリングし、運転性能の変化を観察した。また送水ポンプと高圧ポンプの間では殺菌剤32を添加できるようにした。また、高圧ポンプと半透膜の間には、洗浄薬品33を導入する管路を設け、薬品洗浄が行えるようにした。また洗浄薬品は濃縮水の配管の途中から導出し、循環洗浄が行えるようにした。
【0069】
プラントAの運転では、定期的に半透膜供給水中のバイオポリマー濃度をLC-OCD法で測定した。そしてバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回る期間はバイオファウリングポテンシャルの高い期間とみなし、洗浄工程の条件の追加として、定期的に半透膜供給水によるフラッシング洗浄を行った。具体的には高圧ポンプを一旦停止し、ろ過を止め、送水ポンプのみを稼働させて、30~60分洗浄を行い、洗浄後、高圧ポンプを再稼働し、運転を再開させた。バイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回る期間は合計で3か月間程度存在したが、その期間は週1回フラッシング洗浄を行った。このような運転を行うことにより、プラントAでは1年間での運転差圧上昇が初期差圧の10%以内であり、薬品洗浄を行うことなく、運転することができた。
【0070】
(実施例2)
プラントAの別の系列では、半透膜供給水中のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回る期間にフラッシング洗浄を行う代わりに、殺菌剤添加工程の条件の追加として、殺菌剤を添加した。具体的には2日に1回、1時間、DBNPAを最終濃度10ppmとなるように添加した。このような運転を行うことにより、この系列では1年間での運転差圧上昇が初期差圧の10%以内であり、薬品洗浄を行うことなく、運転することができた。
【0071】
(実施例3)
プラントAの別の系列では、定期的に濃縮水中のバイオポリマー濃度を測定し、バイオポリマー濃度が75×1/(1-R)μgC/L(Rは回収率、プラントAでは回収率37%なので、R=0.37)を上回る期間に、実施例2と同様の方法で、殺菌剤添加工程の条件の追加として、殺菌剤を添加して運転した。このような運転を行うことにより、この系列では1年間での運転差圧上昇が初期差圧の10%以内であり、薬品洗浄を行うことなく、運転することができた。
【0072】
(実施例4)
プラントAの別の系列では、定期的に半透膜供給水中のバイオポリマー濃度を測定したところ、運転開始当初は、バイオポリマー濃度は65μgC/L前後を推移していたが、ある期間、約90μgC/Lまで上昇したため、前処理工程の条件の強化として、砂ろ過槽24に入る前の原水に凝集剤25として塩化第二鉄の添加濃度を増加させた。
まず、塩化第二鉄の添加濃度を1mg-Fe/L(75μgC/Lからの超過分の0.07倍)増加させた(すなわち添加濃度は4mg-Fe/L)が、半透膜供給水中のバイオポリマー濃度は75μgC/Lを下回らなかった。次に2mg-Fe/L(75μgC/Lからの超過分の0.13倍)増加させた(すなわち添加濃度は5mg-Fe/L)ところ、砂ろ過における濁質の除去率がやや低下したものの、半透膜供給水中のバイオポリマー濃度は75μgC/Lを下回ったため、この条件で運転を継続した。その後、半透膜供給水中のバイオポリマー濃度が40μgC/Lまで低下したため、凝集剤の添加濃度を元の3mg-Fe/Lに戻したところ、半透膜供給水中のバイオポリマー濃度は60μgC/L前後となったため、そのまま運転を継続した。その後も半透膜供給水中のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回ったときには、75μgC/Lからの超過分の0.1倍以上、0.33倍以下の塩化第二鉄を追加添加することで、この系列では1年間での運転差圧上昇が初期差圧の15%以内であり、薬品洗浄を行うことなく、運転することができた。なお、前処理工程の条件の強化を行っていない期間における前処理でのバイオポリマーの平均除去率は約50%であった。
【0073】
(実施例5)
プラントAの別の系列では、
図3に示すような処理方法で海水の処理を行った。まず海水41を取水し、海水貯槽42に貯めた。次に供給ポンプ43で精密ろ過膜44に供給し、ろ過を行うことにより、海水の前処理を行った。この精密ろ過膜は、参考例3に示した多孔質膜Cである。膜ろ過流束は1.0m/dで、20分に1回、逆流洗浄と空気洗浄(物理洗浄)を行った。また1日に1回、次亜塩素酸ナトリウム45を最終濃度300mg/Lとなるように、逆流洗浄水46に注入し、薬液逆流洗浄を実施した。前処理された海水はいったん半透膜供給水貯槽47に貯めた後、送水ポンプ48で高圧ポンプ49に送り、高圧ポンプで加圧することにより半透膜50でろ過し、透過水51と濃縮水52を得た。
【0074】
半透膜は膜材質がポリアミド、脱塩率が99.8%、膜面積が37m2のスパイラル型の逆浸透膜であった。運転は膜ろ過流束14L/m2/hr、回収率37%であった。半透膜の運転では、運転差圧をモニタリングし、運転性能の変化を観察した。
プラントAのこの系列の運転では、実施例4の場合と同様に、半透膜供給水中のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回ったときには、前処理工程の条件の追加として、75μgC/Lからの超過分の0.1倍以上、0.33倍以下の塩化第二鉄を添加する運転を行った。但し、膜前処理のため、半透膜供給水中のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回らないときは塩化第二鉄は添加しなかった。その結果、この系列では、1年間での運転差圧上昇が初期差圧の10%以内であり、薬品洗浄を行うことなく、運転することができた。また、膜前処理のため、前処理での濁質除去率は常に安定していた。なお、前処理工程の条件の追加を行っていない期間における前処理でのバイオポリマーの平均除去率は約50%であった。
【0075】
(実施例6)
プラントAの別の系列では、前処理で使用している精密ろ過膜を、参考例1に示した多孔質膜Aである限外ろ過膜に変更して前処理を行い、実施例5の場合と同様に、半透膜供給水中のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回ったときには、前処理工程の条件の追加として、75μgC/Lからの超過分の0.1倍以上、0.33倍以下の塩化第二鉄を添加する運転を行った。その結果、この系列では1年間での運転差圧上昇が初期差圧の10%以内であり、薬品洗浄を行うことなく、運転することができた。また、前処理工程の条件の追加を行っていない期間における前処理でのバイオポリマーの平均除去率は約70%であり、実施例5の場合と比較し、除去率が向上したため、添加する凝集剤量を1年間で1/4に低減することができた。
【0076】
(実施例7)
プラントAの別の系列では、前処理で使用している精密ろ過膜を、参考例2に示した多孔質膜Bである限外ろ過膜に変更して前処理を行い、実施例5の場合と同様に、半透膜供給水中のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回ったときには、前処理工程の条件の追加として、75μgC/Lからの超過分の0.1倍以上、0.33倍以下の塩化第二鉄を添加する運転を行った。その結果、この系列では1年間での運転差圧上昇が初期差圧の10%以内であり、薬品洗浄を行うことなく、運転することができた。また、前処理工程の条件の追加を行っていない期間における前処理でのバイオポリマーの平均除去率は約90%であり、実施例5の場合と比較し、除去率が更に向上したため、添加する凝集剤量を1年間で1/10に低減することができた。
【0077】
(実施例8)
下水再利用プラントBで、
図4に示すような処理方法で下水二次処理水の処理を行った。まず下水二次処理水61を取水し、下水二次処理水貯槽62に貯めた。次に供給ポンプ43で限外ろ過膜44に供給し、ろ過を行うことにより、下水二次処理水の前処理を行った。この限外ろ過膜は、参考例2に示した多孔質膜Bである。膜ろ過流束は1.0m/dで、20分に1回、逆流洗浄と空気洗浄(物理洗浄)を行った。また1日に1回、次亜塩素酸ナトリウム45を最終濃度300mg/Lとなるように、逆流洗浄水46に注入し、薬液逆流洗浄を実施した。前処理された下水二次処理水はいったん半透膜供給水貯槽47に貯めた後、送水ポンプ48で高圧ポンプ49に送り、高圧ポンプで加圧することにより半透膜50でろ過し、透過水51と濃縮水52を得た。
【0078】
半透膜は膜材質がポリアミド、脱塩率が99.8%、膜面積が37m2のスパイラル型の逆浸透膜であった。運転は膜ろ過流束14L/m2/hr、回収率75%であった。半透膜の運転では、運転差圧をモニタリングし、運転性能の変化を観察した。また送水ポンプと高圧ポンプの間では殺菌剤32を添加できるようにした。
プラントBの運転では、定期的に半透膜供給水中のバイオポリマー濃度をLC-OCD法で測定した。そしてバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回る期間はバイオファウリングポテンシャルの高い期間とみなし、殺菌剤添加工程の条件の追加として、殺菌剤を添加した。具体的には2日に1回、1時間、DBNPAを最終濃度10ppmとなるように添加した。このような運転を行うことにより、この系列では1年間での運転差圧上昇が初期差圧の10%以内であり、薬品洗浄を行うことなく、運転することができた。
【0079】
(実施例9)
プラントA(前処理工程は実施例5と同じ)の運転において、半透膜供給水中のバイオポリマー濃度を測定する代わりに、半透膜供給水を参考例2に示した多孔質膜Bである限外ろ過膜でろ過した際のろ過抵抗上昇度(δA)を測定した。具体的には半透膜供給水をポンプを用いて上記限外ろ過膜(膜面積0.18m2)に圧力60kPaで供給し、ろ過流量を流量計で測定し、上記式(5)からろ過抵抗R1を求め、ろ過を連続的に行うことで、R1を連続的に取得し、横軸に単位膜面積あたりの総ろ過水量、縦軸にR1をプロットし、単位膜面積あたりの総ろ過水量に対するろ過抵抗の変化率(傾き)をろ過抵抗上昇度δAとして求めた。δAの取得後、限外ろ過膜の洗浄のため、プラントAのRO透過水を用いて逆流洗浄し、その後再びろ過を開始し、δAを取得した。この運転サイクルを繰り返すことにより、δAを経時的に測定し続けた。そしてδAが2.5×10-12/m2を上回る期間に、殺菌剤添加工程の条件の追加として殺菌剤を添加した。具体的には2日に1回、1時間、DBNPAを最終濃度10ppmとなるように添加した。このような運転を行うことにより、この系列では1年間での運転差圧上昇が初期差圧の10%以内であり、薬品洗浄を行うことなく、運転することができた。
【0080】
(実施例10)
プラントA(前処理工程は実施例7と同じ)の運転において、半透膜供給水中のバイオポリマー濃度を測定する代わりに、半透膜供給水を前処理工程の限外ろ過膜に逆流させた際のろ過抵抗上昇度(δA)を測定した。具体的には20分に1回行われる物理洗浄工程(逆流洗浄と空気洗浄)終了後、1つの膜ユニットのみ、更に逆流洗浄を継続し、膜間差圧が上昇に転じてから上記式(5)からろ過抵抗R1の経時データを取得し、横軸に単位膜面積あたりの総ろ過水量、縦軸にR1をプロットし、単位膜面積あたりの総ろ過水量に対するろ過抵抗の変化率(傾き)をろ過抵抗上昇度δAとして求めた。δA取得後、該膜ユニットのろ過を再開した。これを繰り返すことにより、δAを経時的に測定し続けた。そしてδAが2.5×10-12/m2を上回る期間に、殺菌剤添加工程の条件の追加として殺菌剤を添加した。具体的には2日に1回、1時間、DBNPAを最終濃度10ppmとなるように添加した。このような運転を行うことにより、この系列では1年間での運転差圧上昇が初期差圧の10%以内であり、薬品洗浄を行うことなく、運転することができた。
【0081】
(比較例1)
プラントAの運転において、半透膜供給水中のバイオポリマー濃度を測定することなく、運転差圧をモニタリングして、運転差圧が基準値を超えた際に薬品洗浄を行うようにした。薬品洗浄の方法としては、洗浄剤10として0.1%の水酸化ナトリウム溶液を使用し、洗浄用タンクに入れ、ポンプで高圧ポンプ8の下流からRO配管に導入し、濃縮水4の配管の途中から導出し、循環して1時間洗浄を行った。その後、一晩浸漬し、最後にリンスをして洗浄を完了した。運転の結果、運転開始から3ヵ月後、バイオファウリングによる急激な運転差圧上昇が起こった。薬品洗浄を行ったものの、運転差圧は十分に回復せず、その後1ヶ月で再び運転差圧上昇が起き、これにより膜交換を余儀なくされた。
【0082】
(比較例2)
プラントAの別の運転期間において、定期的に半透膜供給水中のバイオポリマー濃度をLC-OCD法で測定したが、運転当初から半透膜供給水中のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回り、80~85μgC/Lの間で推移した。それにも関わらず、前処理工程、洗浄工程、殺菌剤添加工程のいずれの追加または強化も実施しなかったところ、運転開始から3ヵ月後、バイオファウリングによる急激な運転差圧上昇が起こった。薬品洗浄を行ったものの、運転差圧は十分に回復せず、その後1ヶ月で再び運転差圧上昇が起き、これにより膜交換を余儀なくされた。
【0083】
(比較例3)
プラントAの別の運転期間において、定期的に半透膜供給水中のバイオポリマー濃度をLC-OCD法で測定したが、バイオポリマー濃度が75μgC/L以下の期間が1年程度続いた。このとき、前処理工程、洗浄工程、殺菌剤添加工程の条件をいずれも追加または強化することなく運転したところ、1年間での運転差圧上昇は初期差圧の10%以内であり、薬品洗浄を行うことなく、運転することができた。
【0084】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は2022年9月26日付で出願された日本特許出願(特願2022-152225)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、膜を用いて海水やかん水などの脱塩を行うことにより淡水を得たり、下廃水処理水や工業排水等を浄化して再利用水を得たりする際に、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 被処理水
2 半透膜
3 透過水
4 濃縮水
5 前処理部
6 半透膜供給水
7 送水ポンプ
8 高圧ポンプ
9 殺菌剤
10 洗浄剤
11 供給ポンプ
12 凝集剤
13 逆流洗浄ポンプ
14 逆流洗浄水
15 薬液
16 逆流洗浄排水
21 海水
22 海水貯槽
23 供給ポンプ
24 砂ろ過槽
25 凝集剤
26 半透膜供給水貯槽
27 送水ポンプ
28 高圧ポンプ
29 半透膜
30 透過水
31 濃縮水
32 殺菌剤
33 洗浄薬品
41 海水
42 海水貯槽
43 供給ポンプ
44 精密ろ過膜または限外ろ過膜
45 次亜塩素酸ナトリウム
46 逆流洗浄水
47 半透膜供給水貯槽
48 送水ポンプ
49 高圧ポンプ
50 半透膜
51 ろ過水
52 濃縮水
53 逆流洗浄ポンプ
61 下水二次処理水
62 下水二次処理水貯槽
71 供給ポンプ
72 限外ろ過膜
【要約】
本発明は、膜を用いて海水やかん水などの脱塩を行うことにより淡水を得る場合、下廃水処理水や工業排水等を浄化して再利用水を得る場合などにおいて、半透膜のファウリングの進行を抑える手段を提供する。本発明の造水方法は、半透膜供給水を半透膜によって処理して透過水と濃縮水に分離する膜処理工程と、(A)被処理水を前処理して半透膜供給水を得る前処理工程、(B)半透膜に対して洗浄を行う洗浄工程、および(C)半透膜に対して殺菌剤添加を行う殺菌剤添加工程の少なくともいずれ1つかの工程を有し、半透膜供給水のバイオポリマー濃度が75μgC/Lを上回った際に、あるいは、膜処理工程における前記透過水の回収率をRとした場合、濃縮水のバイオポリマー濃度が75×1/(1-R)μgC/Lを上回った際に、前処理工程、洗浄工程及び殺菌剤添加工程の少なくともいずれか1つの工程の運転条件を追加または強化する。