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特許7533826支持パラジウム膜を構成する材料の回収および再利用のためのプロセス
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  • 特許-支持パラジウム膜を構成する材料の回収および再利用のためのプロセス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】支持パラジウム膜を構成する材料の回収および再利用のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   B01D 65/00 20060101AFI20240806BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20240806BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240806BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240806BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20240806BHJP
   B01D 71/04 20060101ALI20240806BHJP
   B01D 71/06 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B01D65/00
B01D53/22
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
B01D71/04
B01D71/06
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2020554367
(86)(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2018074347
(87)【国際公開番号】W WO2019120649
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】201731460
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520223284
【氏名又は名称】ハイドロゲン オンサイト、 エス.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パチェコ タナカ、デビッド アルフレッド
(72)【発明者】
【氏名】リョサ タンコ、マーゴット アナベル
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス、エカイン
(72)【発明者】
【氏名】メレンデス、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】アラティベル、アルバ
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-537049(JP,A)
【文献】国際公開第2017/017647(WO,A1)
【文献】特開2004-181412(JP,A)
【文献】Wei Feng, Ying Liu, Lixian Lian, Lixia Peng, Jun Li,Effect of surface oxidation on the surface condition and deuterium permeability of a palladium membrane,Applied Surface Science,NL,Elsevier,2011年06月17日,257,9852-9857
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持Pd膜を再利用するための、前記支持Pd膜のPd層を前記支持Pd膜の支持体から分離するプロセスであって、前記プロセスは、
i)容器内の支持Pd膜を、1kPaと等しいまたはそれより大きい水素分圧および30℃と等しいまたはそれより高く、150℃と等しいまたはそれより低い温度で、少なくとも1%の水素を含むガスと接触させる段階と、
ii)前記支持Pd膜を水素以外のガスと接触させることにより前記容器から前記水素を除去する段階と
を備える、プロセス。
【請求項2】
再利用される前記支持Pd膜が、金属、ガラス、セラミック、ゼオライト、有機ポリマー、およびこれらの混合物から選択される材料の支持体を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記支持Pd膜が、前記支持体とPd層との間に中間層を含み、前記中間層が、セラミック、酸化バナジウム、ニッケル、または窒化物の層である、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記支持Pd膜が、Pdの層またはPd合金の層を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記Pd合金の前記層が、Pd-Ag、Pd-Au、またはPd-Ag-Auである、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
段階i)の前記温度が、100℃と等しいまたはそれより低い、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記水素分圧が5kPaと等しいまたはそれより高い、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記水素分圧が101kPa(1atm)であり、前記温度が30℃から100℃である、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記水素分圧が150kPa以上200kPa以下であり、前記温度が30℃から100℃である、請求項1から8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
a)前記支持Pd膜が、Pd-Ag1%の層、Pd-Ag5%の層、またはPd-Ag10%の層を含み、前記水素分圧が200kPaであ、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
段階i)で使用される水素を含む前記ガスが、純Hである、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
段階i)で使用される水素を含む前記ガスが、1%から99.90%のHの量を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記容器が石英管であり、前記支持Pd膜が内部に配置され、純水素ガスが1L/分の流量で前記石英管の中に導入されて、101kPa(1atm)の圧力を達成する、請求項1から12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記支持Pd膜が、容器内で、101kPa (1atm)の分圧、かつ150℃以下の温度で水素と接触し、その後、そのように加圧した前記容器が減圧される、請求項1から12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
段階i)が、少なくとも、水素での前記容器の1回の加圧と、それに続く前記容器の減圧を実行することを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
2回以上の加圧および減圧サイクルが実行される、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
段階i)の前記水素が前記容器から除去され、前記支持Pd膜が、前記容器内で水素以外のガスと接触させられる、請求項1から16のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記水素以外のガスが、不活性ガス、または不活性ガスの混合物、または空気である、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記容器が石英管であり、前記水素がパージによって除去されて、前記容器への前記ガスの流れにより導入される水素以外のガスにより置き換えられる、請求項17または18に記載のプロセス。
【請求項20】
段階ii)が、前記容器を開くことにより実行される、請求項17または18に記載のプロセス。
【請求項21】
前記容器を開く段階および、
支持体のPd層が剥がれるように、前記容器の内部で前記支持Pd膜を空気と接触させたままにする段階、
または前記支持Pd膜を前記容器から取り出して空気と接触させたままにする段階とを含む、請求項1から20のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項22】
以前に支持体から分離されたPd層を、Pdの、または、Pd合金の金属の少なくとも1種の酸化剤と、少なくとも1種の可溶化剤とを含む反応媒体と接触させて、前記Pd、または、前記Pd合金の他の金属成分を前記支持体から分離された前記Pd層から得る段階を含む、請求項1から21のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項23】
前記酸化剤が、前記Pd層の前記金属を酸化させることができる化学化合物である、請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
前記酸化剤が、硝酸、H、過塩素酸、次亜塩素酸塩、塩素酸塩、およびこれらの混合物ら選択される、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
前記可溶化剤が、無機酸、有機酸、または前記金属と錯体を形成することができる化合物である、請求項22から24のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項26】
前記可溶化剤が、HSO、HCl、酢酸、およびこれらの混合物から選択される酸、または塩化物アニオン(Cl)、NH、酢酸塩、クエン酸塩、およびイオン性液体のアルカリおよびアルカリ土類塩から選択される錯化化合物である、請求項25に記載のプロセス。
【請求項27】
前記Pd層が、硝酸および塩酸の水溶液と接触させられる、請求項22から26のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項28】
前記Pd層がPd-Agであり、硝酸が酸化剤として使用され、塩化物アニオンが可溶化剤として使用される、請求項22から26のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持Pd膜を再利用および再使用するためのプロセスに関し、本プロセスは、膜が低温で水素に接触したときの水素化Pdの形成を含むPd層の脆化プロセスの利点を利用して、支持体からPd層を分離することを含む。支持体から分離されたPd層は、例えば新しいPd膜の調製において再使用され得る塩を得るために、Pd層の成分を可溶化することによって再利用することができる。支持体もまた、例えば新しいPd層を上に堆積させることによって再使用することができる。
【背景技術】
【0002】
その用途の多さから、産業分野における水素の需要は増え続けている。とりわけ、エネルギー源としてのその用途は、特に、環境により優しい新しいエネルギー源の開発および成長の観点から、ますます魅力的になっている。
【0003】
このシナリオでは、現在の純度の需要、および水素の多くの最終用途に要求される低コストを満たす、水素分離方法の技術的および経済的な最適化のために研究努力が続けられている。このフレームワークでは、様々な供給源からの水素の分離および精製のためのパラジウム膜にますます興味が引かれている。パラジウム膜は、比較的非常に高い水素流を有し、その比類ない透過機構による水素に対する独占的な選択制および透過性を有する。
【0004】
H2の分離および精製のためのPd膜の使用から離れると、Pd膜反応器として既知である触媒反応器内でPd膜を組み込むことが最新の技術水準で既知であり、Pd膜反応器において、異なる原材料(例えば、メタン、メタノール、エタノール、および他の炭化水素)の水蒸気改質または自己熱改質などの水素生成を伴う反応が実行される。これらの膜反応器は、生成された水素の抽出を可能にし、純水素を生成することにより、改質装置の下流に水素精製ユニットを有する必要を排除し、その結果、反応器体積および反応温度もまた低減する(より安価な材料を要する)。主にPdおよび支持体のコストを理由にPd膜反応器の大規模な用途は今日では適していないものの、より小さい規模でのPd合金膜の用途は非常に有力である。Pd膜およびPd膜反応器の両方において、使用条件がそれらの耐用年数を短くするため、時間が経過するにつれて欠陥が生じ得る。その高いコストにより、支持Pd膜の成分の再利用可能性は、このタイプのPd膜またはPd膜反応器のコストに低減のための興味深い選択肢である。使用済みで欠陥のある膜のみでなく、良好な透過特性を有さない、または操作、保存、もしくは組み立て中に損傷した、製造されたPd膜にも適用される点で、再利用は興味深い。
【0005】
支持Pd合金膜の再利用は、実際に、強力な酸および酸化剤によって処理することにより実現することができる。Li Y.等は、2mol/LのHClおよび1mol/LのHでの処理による、アルミナ中で支持されたPd膜からのPdの再利用について開示している。支持体の性質によっては、それが再利用および再使用を防ぐように支持体が損傷する可能性があるため、この方法はすべての支持Pd膜には適していない。したがって、支持体が多孔質セラミックである場合、濃縮した酸または塩基、例えば、HSO(>20%)、HPO(>10%)、HNO(>15%)、およびNaOH(>15%)の使用は適切ではない。
【0006】
最新の技術水準では、WO2017/017647(A1)号明細書が既知であり、当該出願は、鋼基板上に支持されたPd-Agの管状膜を構成する材料の回収および再利用のプロセスを開示しており、当該プロセスは、PdおよびAgの湿式冶金の浸出の段階を含み、鋼で形成されたこの特定のタイプの支持体の統合性を保全することができる。開示されたプロセスの始めに、浸出剤がPd-Ag層を排他的に攻撃することを可能にするために、鋼基板の表面をエポキシ樹脂で保護する必要がある。その後、強力な酸および酸化浸出媒体:3M HNO+1体積%のH(30体積%)中での湿式冶金処理中に、浸出されたPdおよびAgの抽出が実行される。接触時間は3時間30分であり、温度は60度であり、撹拌速度は300rpmである。得られた浸出液は、存在するPdの排除のために20℃で活性炭で処理され、その後、硝酸鉄および硝酸銀酸を排除するために沈殿により酸がCaCOで中和される(硝酸鉄は支持体の変化の指標となる)。次いで、溶液を濾過して金属析出物を分離し、さらに、溶媒を100℃で蒸発させることによりCa(NOを得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】支持体が多孔性金属である、支持Pd層の剥離の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
したがって、背景技術の観点から、本発明の目的の一つは、時間が短縮され、かつより経済的な、より単純なプロセスを提供することであり、本プロセスは、一方では支持体と、他方ではPdの膜との両方を再利用および再使用することを可能にする条件下で実行することができる。
【0009】
本発明の別の目的は、支持体およびPd層を個別に回収および再使用するために、再利用可能なプロセスを提供することであり、本プロセスにおいて、Pd層を支持体から分離するために酸または腐食性化学物質は使用されず、したがって、より環境に優しく、支持体を化学的に損傷せず、その結果、支持体を有利に再使用することができる。
【0010】
本発明の別の目的は、Pd膜を支持体から分離した後に、Pd層を単離し、例えば支持Pd膜の製造のためにその後に再使用され得るPd、および該当する場合、Pd合金の金属をそこから回収することを可能にするプロセスを提供することである。
【0011】
本発明は、上述の最新の技術水準の欠点を少なくとも部分的に克服し、第1の態様において、以下の段階を含む、支持Pd膜を再利用するためのプロセスを提供する。
【0012】
i)容器内の支持Pd膜を、1kPaと等しいまたはそれより大きい水素分圧および150℃と等しいまたはそれより低い温度で水素を含むガスと接触させる段階と、
ii)支持Pd膜を水素以外のガスと接触させることにより反応器から水素を除去する段階。
【0013】
本発明のプロセスは、プロセス条件が緩やかであるため支持体を化学的に変性させず、これにより再利用が可能になるため、支持体の性質とは無関係に、任意のタイプの支持Pd膜を再利用するために有利に使用することができる。本発明のプロセスにより再利用され得る、支持Pd膜に通常使用される支持体の例は、他の材料の中でも、金属(例えば、鉄、鉄合金、例えばステンレス鋼、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、およびこれらの組み合わせ)の支持体、ガラス、セラミック、例えば、αアルミナ、γアルミナ、ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、チタニア、セリア、ならびにアルミナ-ジルコニア等のセラミック材料の混合物、ゼオライト等の材料の支持体、または有機ポリマーの支持体、またはこれらの混合物である。
【0014】
支持体は、Pd膜に機械的安定性を与え、その結果、膜の厚さを大きく低減することができ、それと共にコストも低減されると同時に、H2透過流が改善される。
【0015】
支持Pd膜は、支持体とPd層とを含み、Pd層は、支持体上に直接、または支持体とPd層との間に位置する中間層上に堆積され得る。
【0016】
一般に、表面の粗さおよび大きな孔の存在は薄いパラジウム膜の堆積を抑制するため、Pd膜が堆積される表面は小さく均一な孔径分布を有し、かつ平滑である必要があることは既知である。
【0017】
非対称の多孔質セラミックは、非常に薄いPdベースの膜(<5μm)を支持するのに良好な表面性情を有する。
【0018】
多孔性の金属支持体は、高い機械的抵抗性を有し、熱衝撃に対して良好な抵抗を提供し、熱膨張係数はPdのそれと同様であり、金属反応器内で容易に組み立てることができる。しかしながら、一方では、小さく均一な孔径分布を有する金属支持体を製造することは困難であり、また、金属支持体は、水素の存在により還元され得、支持体の材料は、合金を形成するPd膜に向かって拡散し得、これにより水素透過が著しく低減される。
【0019】
この理由から、金属支持体に上記の中間層を含めることが当技術分野において一般的な慣習である。これらの中間層は、例えば、セラミックタイプ、例えば、アルミナ、酸化バナジウム、ニッケル、または窒化物であってもよく、表面性情を改善し、かつ/または支持体に対するPdの移動のリスクを最小化することができる。
【0020】
本発明のプロセスに従い再利用することができる、当技術分野において既知である支持体の例は、出願第WO2017/017647 A1号明細書に引用される支持体であり、当該支持体は、316Lステンレス鋼の非対称の多孔性金属基板とTiNの中間層とからなる。
【0021】
本発明の再利用プロセスに供することができる支持Pd膜に関して制限はなく、すなわち、それは任意のPd膜、または、支持Pd膜の実際の役割は果たさないものの、単に基板上に堆積されたPdの層であってよい。この意味では、「支持Pd膜」という用語は、本発明の文脈において理解されるべきである。Pd膜は、高い水素流および非常に良好な透過性および水素に対する排他的な選択制を有するため、特定の用途において特に興味深く、有利である。
【0022】
支持Pd膜の例は、例えば、当技術分野において、例えば合成ガスからのHの分離および精製に使用される支持Pd膜である。
【0023】
また、支持Pd膜は、Pd膜反応器として既知である触媒反応器内で組み込まれたものであり、Pd膜反応器では、水素を生成する特定の化学反応が生じ、ガスの混合物の残りからの水素の分離を結びつける。一般に、触媒膜反応器には、小型床および流動床の2つのタイプのものがある。これらのタイプの化学反応は、例えば、水蒸気改質、水性ガス転化反応、アルカンの脱水素、または異なる原材料(例えば、一酸化炭素、メタン、メタノール、エタノールおよび他の炭化水素)の自己熱改質である。
【0024】
本発明のプロセスに供することができる支持Pd膜は、幅広い範囲で変動するPd層厚を有し得る。このタイプの膜の典型的な厚さは通常、限定的であり、0.1から500μmである。好ましくは、厚さは、例えば、0.1から25μm、または0.5から20μm、または1から15μm、または2から5μmである。
【0025】
支持Pd膜の大きさおよび形は様々である。支持Pd膜は、円盤状、板状、管状等の形態で知られている。
【0026】
本発明の文脈における支持Pd膜は、Pd層を含むか、またはPd合金層を含む。Pd合金は、金属を含む合金(二元合金)、2種の金属を含む合金(三元合金)、または3種以上の合金形成金属を含む合金であり得る。一般に、膜のPd合金は、1種の金属(二元)または2種の金属(三元)を含む合金である。合金形成金属は、Pdのみを含む膜の性質を変性させ、合金の金属、および合金中のそれらの割合に応じて多様な特徴を与える。この点で、合金のいくつかの元素は水素のより高い透過性を与え、Cu等の他の元素は、H透過を漸減させ、最終的に膜を破壊することになる、例えば天然ガス中に存在するHS等の硫黄(S)を含有するガスによる水素への毒作用に対する抵抗性を与える。Pd合金の金属の例は、Ag、Au、Cu、Gd、Y、Ru、In、Nb、V、Taである。
【0027】
本発明のプロセスにより再利用され得る支持Pd膜のいくつかの例は、Auおよび/またはAg等の合金形成金属、すなわち、Pd-Ag、Pd-Au、およびPd-Ag-Auを含む膜である。Pd-Ag膜の場合、Agパーセンテージは通常、1%から30%であり、例えば、5から25%、または10から20%である。Pd-Au膜の場合、Auパーセンテージは通常、1%から10%であり、例えば、2%から8%、または例えば3から5%である。Pd-Ag-Au膜の場合、Agパーセンテージは通常、1%から25%であり、Auパーセンテージは通常、1%から10%である。
【0028】
支持Pd膜の具体的な合金のいくつかの非限定的な例は、Pd-Ag30%、Pd-Ag23%、Pd-Au5%、Pd-Cu40%、Pd-Cu20%、Pd-Gd11.4%、Pd-Y9%、Pd92Ag5Au3である。
【0029】
支持Pd膜が段階i)で接触させられる温度および水素分圧の条件は、支持膜のPd層の組成に応じて変動する。各事例における条件は、当該技術分野の専門家によって容易に決定され得る。
【0030】
一般に、段階i)を実行する温度は、150℃と等しいまたはそれより低い場合があることが見出されている。プロセスのいくつかの例では、温度は、100℃と等しいまたはそれより低く、好ましくは70℃と等しいまたはそれより低く、より好ましくは30℃と等しいまたはそれより低く、さらにより好ましくは25℃と等しいまたはそれより低く、さらにより好ましくは20℃と等しいまたはそれより低い。本発明のプロセスのいくつかの例では、プロセスが実行される温度は、150℃から0℃、または例えば125℃から10℃、または例えば100℃から20℃、または例えば80℃から25℃を含み得る。
【0031】
また、一般に、反応器内の水素分圧は、1kPaと等しいまたはそれより大きくてよいことが見出された。プロセスのいくつかの例では、水素分圧は、5kPaと等しいまたはそれより大きく、好ましくは25kPaと等しいまたはそれより大きく、より好ましくは50kPaと等しいまたはそれより大きく、さらにより好ましくは80kPaと等しいまたはそれより大きく、さらにより好ましくは100kPaと等しいまたはそれより大きい。本発明のプロセスの一例によると、圧力は、101kPa(1atm)である。本発明のプロセスのいくつかの他の例では、プロセスが実行され得る水素圧力は、100kPaから400kPa、または例えば150kPaから350kPa、または例えば200から300kPaである。本発明のプロセスの他の例では、プロセスが実行され得る水素圧力は、200kPaから4000kPa、例えば500kPaから3500kPa、または例えば750から3000kPa、または1000から2000kPaである。
【0032】
本発明のプロセスの特定の実施形態によると、水素分圧は101kPa(1atm)であり、温度は0℃から100℃、例えば20℃から80℃、または例えば25℃から70℃、または例えば30℃から50℃である。本プロセスの段階i)のためのこれらの条件は、Pd-Ag膜に好適である。
【0033】
本発明のプロセスの別の特定の実施形態によると、水素分圧は150から200kPaであり、温度は0℃から100℃、例えば20℃から80℃、または例えば25℃から70℃、または例えば30℃から50℃である。本プロセスの段階i)のためのこれらの条件は、Pd-Ag膜に適用可能である。一般に、段階i)で使用される水素を含むガスは、H2を含有する任意のガスであり得る。
【0034】
好ましい実施形態では、本発明のプロセスの段階i)に使用される水素を含むガスは純H2、すなわち、供給業者に依存する純度(例えば、Praxairの>99.95%の濃度)を呈する市販のH2である。これらの事例において、本発明の水素分圧は、全水素圧力と同等である。
【0035】
本発明のプロセスの他の例では、H2の量が幅広く変動し得る、ガスが使用される。いくつかの実施形態では、1%v/v未満の水素を有し得るガスが使用される。本プロセスの他の例では、ガス中の水素の量は、1%v/vと等しいまたはそれより大きくてよく、例えば、1%から99.90%、または例えば20%から90%、または例えば25%から85%、または例えば30%から80%であってよい。例えば40から70%、または50から60%の量のH2を含むガスも使用することができる。
【0036】
代替的に、本発明のプロセスの別の例では、化学反応によりその場で生成され得るH2を含むガスが使用される。
【0037】
本発明のプロセスを実装するために使用され得る容器は、プロセスに化学的に干渉せず、かつ必要なH2圧力に抵抗するものであり得る。本発明のプロセスの一例では、プロセスを実行するのに使用される容器は石英管である。この場合、支持Pd膜は内部に配置され、水素ガスが管の中に導入されて、101kPa(1atm)の圧力を達成することができる。段階i)のこれらの条件は、例えば、1L/分などの流量で純水素流を導入することによって達成することができる。
【0038】
本発明のプロセスの別の実施形態では、容器は、ステンレス鋼反応器、例えば316Lステンレス鋼反応器等の反応器である。支持Pd膜は内部に配置され、次いで、上に定義した分圧が達成されるまで水素含有ガスが導入される。
【0039】
プロセスの段階i)において、臨海α-β相転移温度と等しいまたはそれより低い温度に達することが重要である。この臨界温度は、合金の金属およびその比率によって、かつ水素圧力によって、各タイプの支持Pd膜毎に変動し、これは従来の試験により当業者によって容易に決定され得る。Pdの層のみである特定の事例の膜の場合、αからβへの相転移、およびそれと共に水素の脆化が生じる温度は、200kPaの水素圧力で約200℃であり、2kPaの圧力で約30℃である。Pd合金膜の場合、同じ圧力で、臨界温度は典型的には、Pdのみの膜のものよりも低い。支持Pd-Ag膜の場合、本発明者らは、Agのパーセンテージによって、所与の水素圧力での臨界温度は、Agのパーセンテージが増加すると臨界温度が低下するという様式で変動することを観測した。したがって、1%のAgの含有量を有するPd-Ag膜のプロセスの一例では、水素分圧は200kPaであり、プロセス温度は約200℃以下である。5%のAgの含有量を有するPd-Ag膜のプロセスの別の例では、水素分圧は200kPaであり、プロセス温度は約170℃以下である。10%のAgの含有量を有するPd-Ag膜おプロセスの別の例では、水素分圧は200kPaであり、プロセス温度は約150℃以下である。
【0040】
本プロセスの段階i)の例示的な実施形態によると、支持Pd膜は、容器(例えば好適な反応器)内で、約101kPa(1atm)より高い、例えば150kPaの水素分圧で、かつ150℃と等しいかまたはそれより低い温度で水素と接触させられ、容器のこの加圧の後、これらの条件下で容器は減圧される。
【0041】
水素での容器の加圧と、それに続く容器の減圧の組み合わせは、本発明において、サイクルと呼ばれるものを構成する。本発明のプロセスの一例によると、段階i)は、少なくとも、1回の加圧と、それに続く減圧を実行することを含む。したがって、本発明のプロセスの例示的な実施形態によると、段階i)は、1回のサイクルを実行することを含む。本プロセスの別の実施形態では、2回のサイクルが実行される。本プロセスの別の実施形態では、3回のサイクルが実行される。本プロセスのさらなる例では、4回のサイクルが実行される。一般に、本発明のプロセスは、1から6回のサイクル、例えば2から5回のサイクル、または例えば3から4回のサイクルを実行することを含む。いずれの場合においても、専門家は、各支持Pd膜毎に好適なサイクル数を容易に決定することができる。
【0042】
1回のみのサイクルの減圧の後、または該当する場合、最後のサイクルの減圧の後、または対応する容器内の水素を含むガス流を停止させた後、容器内に残った水素が除去される。この意味で、本発明のプロセスは、段階i)からの水素が容器から除去され、支持Pd膜が容器内で水素以外のガスと接触させられる段階ii)を含む。この操作は、容器をパージし、当該ガスを導入することによって実行され得る。
【0043】
本発明の発明者らは、本発明のプロセス中に以下が生じることを観測した。まず、支持Pd膜が接触させられたH2がPd膜により吸収され、水素化パラジウム(PdH)を形成する。PdHの割合が増加すると、Pd膜の結晶ネットワークのαからβへの相転移が生じ、相βは相αに対して膨張した構造であるため、これは結晶ネットワークのの膨張を伴う。ネットワークの膨張は、亀裂または変形を生み出す過酷な応力を伴う。該当する場合、減圧が実行されるとき、膜に存在する水素の一部が放出され、これによりβからαへの別の相変化およびさらなる応力が生じる。これは、Pd層の脆化をもたらす。加圧および減圧のサイクルは脆化を達成し、その後のPd層の剥離を確実にするのに十分である場合がある。他の場合には、適切な脆化を実現し、この剥離に助力するために、1回より多いサイクルを実行した方が良いと考えられている。次に、段階ii)において、残りの水素が容器から除去され、そのために支持Pd膜は水素以外のガスと接触させられる。この段階ii)において、残りの水素はPd層から放出され、これは脆化にさらに寄与する。最後に、これらの変化、応力、亀裂はすべて、本発明のプロセスの終わりにPd層が支持体からフィルムのように剥がれて剥離されることにつながる。
【0044】
段階ii)は、いくつかの代替的な方法で実行することができる。一実施形態によると、不活性ガス、例えば、N、He、またはArを、水素とは異なる他のガスとして使用することができる。その低いコストにより、好ましくは窒素が使用される。窒素は、高い純度(>99.998%)を有し得るが、低い純度(>90%)のN2を使用することも可能である。N、He、またはAr等の不活性ガスの混合物を使用することもできる。本プロセスの別の例では、水素以外のガスとして空気が使用される。
【0045】
本発明のプロセスの一例では、容器が石英管である場合、水素を含有するガスがパージされ、水素以外のガスで置き換えられる。このガスは、例えば、例えば、1L/分の流量で当該ガスの流れにより導入され得る。
【0046】
容器が、例えばステンレス鋼の反応器であるとき、単に反応器を開くことにより段階ii)を実行することができ、その結果、水素を含有するガスが除去され、水素以外のガスが導入される。
【0047】
段階ii)の後、いくつかの場合では、支持体のPd層が既に支持体から剥離していることが観測された。この場合、支持体とPd層とは、容器から別々に取り出される。他の場合では、この剥離が未だ観測されていない場合、空気と接触させて支持Pd膜を容器の内部に残してもよく、または支持Pd膜を容器から取り出して空気と接触させてもよく、一定時間の後に、典型的には数分以内に、最終的にPd層が支持体から剥離することが観測された。図1は、剥がれるかのようにPd層がどのように支持体から剥離するかを示す。一般に、図1に示すフィルムの形態で、Pd層は完全に剥離される。
【0048】
一方で、Pd層とは別に、支持体は化学的変性を受けずにそのままであることが観測されている。これは、支持体が、例えば新しい膜の製造のための支持体として再使用され得るという利点を有する。他方で、支持体の剥がれたPd層は、そこからそれを構成する金属を得るように機能する。
【0049】
支持体からPd(またはPd合金)層を分離した後、その各々を独立して回収することができる。したがって、本発明のプロセスは、支持体から分離したPd層から、Pdまたは合金の構成金属を得ることをさらに含み得る。このように、本発明のプロセスはまた、Pd等の一般に高価な金属、およびその合金元素、Ag、Au等の回収を可能にし、それに付随する経済的利点を伴う。例えば、そのように再利用された金属を、その後、新しいPd膜の製造のために再使用することができ、その製造コストは、市販の材料を開始材料として使用した場合よりもはるかに低くなる。
【0050】
そこからPd膜の構成金属を得ることは、Pdまたは対応する合金の金属を可溶化することに基づく。可溶化は、例えば、酸化および対応するカチオンの形成により実行され得る。Pd2+、および任意に当の合金の金属の他のカチオンを含む溶液がこのように得られる。合金によって、これらは例えば、他のものの中でも、Ag、Au1+、Cu2+であり得る。カチオンは、その後、互いに分離され得る。例えば、カチオンは、異なる塩の形態で沈殿させることができ、その結果、カチオンを単離し、別個に回収することができる。とりわけ、カチオンを塩の形態で有利に得ることができ、これをその後、例えば、塩化Pd、酢酸Pd、または塩化銀の形態等で、これらの膜の製造プロセスにおいて前駆体として使用することができる。
【0051】
これらの膜の調製のための多数のプロセスが最新の技術水準では既知であり、この理由から、これらのプロセスで前駆体として機能し得、したがってそれらの製造において再使用可能である化合物は、当業者には明らかである。その製造のための最も一般的な方法は、化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)、電着(EDP)、および無電解めっき(ELP)である。これらの中で、ELPは非常に費用効果が高くて単純であり、一般に好ましい製造方法である。ELPは、支持体の表面上、または支持体上に堆積した中間層上の金属塩錯体の自己触媒還元に基づいている。したがって、本発明のプロセスは、以下の段階をさらに含み得る。
【0052】
-以前に支持体から分離されたPd層を、Pdの、および該当する場合、Pd合金の金属の少なくとも1種の酸化剤と、少なくとも1種の可溶化剤とを含む反応媒体と接触させる段階。
【0053】
この段階の条件は、Pd合金の金属、およびそれらを分離するために所望される方法によって変動し得る。反応媒体は通常は水であるが、水と有機溶媒との混合物であってもよい。
【0054】
Pd層の金属を酸化させることができる任意の化学化合物を酸化剤として使用することができる。
【0055】
酸化剤の例は、硝酸、H、過塩素酸、次亜塩素酸塩、または塩素酸塩である。好ましい実施形態によると、硝酸が使用される。酸化剤は、金属をその酸化状態(oxidation state)(0)から酸化状態(oxidized state)(カチオン)に変換する。
【0056】
本発明の文脈において、可溶化剤という用語は、溶液中のPdカチオン、および該当する場合、他の合金金属のカチオンを維持することができる任意の化学化合物として理解されるべきである。各事例において、当業者は、可溶化剤として作用する化合物を容易に決定することができる。典型的な可溶化剤としては、無機酸または有機酸、およびこれらのカチオンと錯体を形成することができる化合物が挙げられる。これらの酸の例は、HSO、塩酸、酢酸である。錯化化合物の例は、例えばNaClとして使用され得る塩化物アニオン(Cl)、NH、酢酸塩、クエン酸塩、またはイオン性液体のアルカリまたはアルカリ土類塩である。
【0057】
本発明のプロセスの一例では、Pd層は、硝酸(酸化剤および可溶化剤)および塩酸(可溶化剤)の水溶液と接触させられる。
【0058】
Pd-Ag層の例示的な実施形態によると、硝酸は酸化剤として使用され、塩化物アニオンは可溶化剤として使用される。Pdは、アニオン[PdCl-2の塩として回収され得、合金のAgは、塩化物アニオンを含む媒体から回収され得、この場合、AgClは媒体中で不溶性で沈殿し、これをその後単離することができる。
【0059】
本プロセスのこの段階の実行において撹拌を伴っても伴わなくてもよく、好ましくは、化学反応に助力する撹拌を伴う。それが行われている化学的プロセスに助力する場合には、温度を上げることも可能である。
【0060】
本発明のプロセスから生じる生成物は、例えば無電解めっきによる新しい膜の製造に使用することができる。したがって、PdCl、Pd(NO、PdBr、または酢酸パラジウム等の塩は、ヒドラジンを還元剤としてめっき浴を調製するために機能する。
【0061】
ここで、以下の実施例は、本発明のプロセスを例示するために提示され、これは決して本発明の範囲を限定するものと見なすべきではない。
実施例
実施例1:金属支持体上のPdAg膜の再利用。
【0062】
1cm直径のHastelloy X金属管上に支持された3~4μmの厚さの3つのパラジウム‐銀膜(銀含有量は約8%)を個々に処理した。膜M38を316Lステンレス鋼反応器内に導入し、水素を用いて室温(約20℃)で反応器を150kPaで加圧した。30分後に、反応器を減圧し、直後に再加圧した。合わせて3回の加圧および減圧サイクルを実行した。次に、反応器をパージしてすべての水素を除去した。反応器の膜を取り出し、銀PdAg層にしわがある(脆化した)ことを観測した。膜を環境下で15分間置いた。この間、Pd-Ag層が自然に剥離し始めたことを観測した。200kPaの圧力を使用し、かつM40膜では2回のサイクルを使用したことを除いてM38と同じ手順を使用して、M39およびM40膜のPdAg層を剥離させた(表A)。膜M39およびM40も自然な剥離が生じた。
【表1】
実施例2 多孔質セラミック支持体上のPdAg膜の再利用。
【0063】
直径1cmの非対称アルミナ管の外表面(表面の孔径は100nm)上に支持されたPdAg(銀含有量は約6~8%)の5つの膜を石英管に導入し、これに水素(1L/分)を室温(約25℃)で2時間供給した。その後、管に含まれる水素を、1L/分の流量の窒素で数分間置き換えた。管から膜を取り出し、環境下に15分間置いた。この間、5つの膜のPd-Ag層が自然に剥離し始めたことを観測した。実施例3Pd-Ag層からのPdおよびAg金属の可溶化および再利用
【0064】
約1グラムの重量のPd-Ag層を、約20mlの硝酸-塩酸混合物(王水)と共にテフロン(登録商標)反応器内に導入した。テフロン(登録商標)反応器を閉じ、130℃に約12時間供した。次いで、得られた溶液を濃縮し、PdClおよびClAgを得た。
図1