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特許7533830破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用組成物及び骨代謝改善用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用組成物及び骨代謝改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20240806BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240806BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20240806BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20240806BHJP
【FI】
A23L33/135
A61K35/17
A61P19/00
A61P43/00 105
A61P19/10
A61K35/747
A61K35/744
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023522277
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022013051
(87)【国際公開番号】W WO2022244447
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2021083347
(32)【優先日】2021-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-08607
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306019030
【氏名又は名称】ハウスウェルネスフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 翼
(72)【発明者】
【氏名】北村 幸平
(72)【発明者】
【氏名】中井 寛子
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 義隆
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-096476(JP,A)
【文献】特開2017-114814(JP,A)
【文献】特開平11-228425(JP,A)
【文献】特開2010-095465(JP,A)
【文献】国際公開第2019/045037(WO,A1)
【文献】木元広実,Lactococcus lactis H61 の老化抑制効果と作用機構の解明に向けて,日本乳酸菌学会誌,2018年,29(2),pp.69-78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61K,A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・プランタラム L-137株(Lactobacillus plantarum L-137)又はその処理物の存在下に、貪食細胞を含む免疫細胞を培養して得られる培養上清又はその処理物を含有することを特徴とする、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用組成物。
【請求項2】
ラクトバチルス・プランタラム L-137株(Lactobacillus plantarum L-137)又はその処理物の存在下に、貪食細胞を含む免疫細胞を培養して得られる培養上清又はその処理物を含有することを特徴とする、骨代謝改善用組成物。
【請求項3】
骨粗鬆症の予防、改善及び/又は治療用であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
骨密度低下抑制用であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
以下の工程(a)~(c)を含むことを特徴とする、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用、骨代謝改善用及び/又は骨密度低下抑制用組成物の製造方法。
(a)ラクトバチルス・プランタラム L-137株(Lactobacillus plantarum L-137)又はその処理物の存在下に、貪食細胞を含む免疫細胞を培養して培養物を得る工程、
(b)工程(a)で得られた培養物から、ラクトバチルス・プランタラム L-137株又はその処理物及び前記免疫細胞を除去することを含む、前記免疫細胞の培養上清又はその処理物を得る工程、及び
(c)工程(b)で得られた培養上清又はその処理物と、担体及び/又は賦形剤とを混合する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用組成物及び骨代謝改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は、骨が脆くなり、骨折しやすくなる病気である。骨中には骨形成を担当する骨芽細胞と骨吸収を担当する破骨細胞の2種類の細胞が存在するが、破骨細胞が活性化する等して、両細胞の活性のバランスが崩れることがある。そして、骨形成量に対し骨吸収量が相対的に上回った状態が続くと、骨量が減少し、骨粗鬆症を発症する。国内では約1000万人以上の患者がおり、高齢化に伴い、骨粗鬆症の患者数は増加傾向にある。骨粗鬆症を改善する方法の1つとして、破骨前駆細胞(破骨細胞の前駆細胞)に対し、破骨細胞への分化を抑制することなどが知られている(特許文献1)。
一方、乳酸菌には、免疫賦活作用等があることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-235534号公報
【文献】特開2010-6801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、乳酸菌又はその処理物の存在下に免疫細胞を培養して得られる免疫細胞の培養上清が、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化を抑制することや、骨代謝を改善することは知られていない。さらに、乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137。以下、「L-137株」とも呼ぶことがある)が、上記した免疫細胞の培養上清と同様の作用を有することは知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、(1)乳酸菌又はその処理物の存在下に免疫細胞を培養して得られる培養物の培養上清が、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制作用、骨代謝改善作用及び/又は骨密度低下抑制作用、好ましくは、骨における骨吸収特性を抑制する作用を有することを見出した。さらに、(2)乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムL-137株が、上記(1)の培養上清と同様の効果を有すること、及び(3)(1)の培養上清と(2)L-137株とが、骨粗鬆症等の治療又は予防に有用であることを知得し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]乳酸菌又はその処理物の存在下に免疫細胞を培養して得られる培養上清又はその処理物を含有することを特徴とする、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用組成物。
[2]乳酸菌又はその処理物の存在下に免疫細胞を培養して得られる培養上清又はその処理物を含有することを特徴とする、骨代謝改善用組成物。
[3]乳酸菌がラクトバチルス(Lactobacillus)属の菌であることを特徴とする、前記[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]乳酸菌がラクトバチルス・プランタラム L-137株(Lactobacillus plantarum L-137)であることを特徴とする、前記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]ラクトバチルス・プランタラム L-137株(Lactobacillus plantarum L-137)又はその処理物を含有することを特徴とする、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用組成物。
[6]ラクトバチルス・プランタラム L-137株(Lactobacillus plantarum L-137)又はその処理物を含有することを特徴とする、骨代謝改善用組成物。
[7]骨粗鬆症の予防、改善及び/又は治療用であることを特徴とする、前記[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]骨密度低下抑制用であることを特徴とする、前記[1]~[7]のいずれか1項に記載の組成物。
[9]以下の工程(a)~(c)を含むことを特徴とする、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用、骨代謝改善用及び/又は骨密度低下抑制用組成物の製造方法。
(a)乳酸菌又はその処理物の存在下に免疫細胞を培養して培養物を得る工程、
(b)工程(a)で得られた培養物から、乳酸菌又はその処理物及び免疫細胞を除去することを含む、免疫細胞の培養上清又はその処理物を得る工程、及び
(c)工程(b)で得られた培養上清又はその処理物と、担体及び/又は賦形剤とを混合する工程
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用組成物、骨代謝改善用及び/又は骨密度低下抑制作用組成物、好ましくは、骨粗鬆症の予防、改善又は治療用の組成物を提供することができる。また、そのような組成物の製造方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、破骨前駆細胞に、sRANKL(骨代謝研究用試薬)と免疫細胞の培養上清を加えて48時間経過した後の、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化及び骨吸収活性抑制を評価したグラフを示す。
図2図2は、破骨前駆細胞に、sRANKL(骨代謝研究用試薬)と免疫細胞の培養上清を加えて72時間経過した後の、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化及び骨吸収活性抑制を評価したグラフを示す。
図3図3は、破骨前駆細胞に、sRANKL(骨代謝研究用試薬)とL-137株を加えて48時間経過した後の、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化及び骨吸収活性抑制を評価したグラフを示す。
図4図4は、破骨前駆細胞に、sRANKL(骨代謝研究用試薬)とL-137株を加えて72時間経過した後の、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化及び骨吸収活性抑制を評価したグラフを示す。
図5図5は、L-137株含有食品の摂取の有無による、ヒト踵骨内の標準化された超音波伝播速度(s-SOS)への影響を評価したグラフを示す。白グラフは、試験開始前を示し、色付きグラフは、組成物摂取3ヶ月後を示す。Mean (+/-) SD、*: p < 0.05 v.s. 試験開始前
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)免疫細胞の培養上清又はその処理物
本発明は、免疫細胞と乳酸菌又はその処理物の混合物の培養により得られる免疫細胞の培養上清又はその処理物を含有し、好ましくは、培養上清を得るために用いた該乳酸菌又はその処理物自体は実質的に含まないことを特徴とする、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用組成物及び骨の骨代謝改善用組成物、特に好ましくは、骨吸収抑制用組成物を含む。
なお、本明細書において、破骨細胞の前駆細胞を、「破骨前駆細胞」と略称することもある。また、本明細書において、「培養上清」とは、通常、免疫細胞を培養して得られる培養物を、例えば、遠心分離によって分離した上澄み液のことである。好ましい遠心分離の条件としては、例えば、1~40度、好ましくは、4~37度の温度、2000~20000rpmの回転数等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0010】
本発明で用いられる乳酸菌は、特に限定されないが、例えば、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、ラクトコッカス属、又はビフィズス属等に属する乳酸菌等を用いることができる。さらに詳しくは、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトバチルス・デルブルッキー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、エンテロコッカス・フェーカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum)又はビフィドバクテリウム・サーモフィラム(Bifidobacterium thermophilum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)又はビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0011】
本発明において、特に限定されないが、免疫細胞は、好ましくは、上記した乳酸菌を食する(貪食する)ことが出来る細胞を含む細胞であり、好ましくは、ラクトバチルス・プランタラム属(Lactobacillus plantarum)の乳酸菌を食することが出来る細胞を含む細胞であり、より好ましくは、ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137、受託番号:FERM BP-08607号)を食することが出来る細胞を含む細胞である。
【0012】
なお、L-137株は、当分野で汎用されているラクトバチルス属の乳酸菌、例えば、ラクトバチルス・プランタラムJCM1149株等よりも、多くのリポテイコ酸(Lipoteichoic acid)を細胞表面に露出し、ある種の細胞に食べられやすいことが知られている(Int Immunopharmacol. 2015, 25(2) 321-331)。詳細は不明であるが、このようなL-137株の性質が、本発明の破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制効果又は骨代謝改善効果を得るために有用な可能性がある。
【0013】
本発明で用いられる好ましい免疫細胞として、例えば、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、樹状細胞、B細胞、T細胞を含む細胞が挙げられるが、これらに限定されない。免疫細胞は市販品を用いてもよい。このような市販品として、例えば、iQ Bioscience社のIQB-MSP103、日本チャールスリバー株式会社、日本クレア株式会社などが取り扱う製品を好適に挙げることが出来るが、これらに限定されない。
【0014】
また、本発明で用いられる好ましい破骨前駆細胞としては、例えば、RANKL (receptor activator of NF-κB ligand)、GM-CSF (Granulocyte Macrophage colony-stimulating Factor)等の試薬により、破骨細胞へ分化誘導される細胞が好ましく、例えば、骨髄由来の単球、マクロファージ系の前駆細胞、マクロファージ様細胞などの初代細胞、あるいはそれらの細胞株等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
以下に、乳酸菌又はその処理物の存在下に免疫細胞を培養する方法について説明する。 免疫細胞の培養方法について、培養温度、培養時間は、使用する細胞によって適宜選択してよく、特に限定されない。培養温度は、例えば、特に限定されないが、好ましくは、30~40度であり、より好ましくは、35~37度である。また、培養時間は、例えば、特に限定されないが、好ましくは、24~96時間であり、より好ましくは、48~72時間である。
【0016】
免疫細胞の培養に用いる培地としては、特に限定されず、例えば、無機塩類、炭水化物、アミノ酸、ビタミン、タンパク質、ペプチド、脂肪酸、脂質、血清等を含有するものが好ましく用いられる。市販品を用いても良い。例えば公知の合成汎用培地としてはRPMI1640、DMEM、MEM、MEMα、IMDM、McCoy’s5Aなどが好適に挙げられるがこれらに限定されない。
なお、破骨前駆細胞の培養方法及び培地についても、上記した免疫細胞と同様のものを好ましく用いることが出来る。
【0017】
本発明において、免疫細胞の培養上清の「処理物」とは、好ましくは、本発明の方法で得られる免疫細胞の培養物を精製又は加工し、必要に応じてこれをさらに遠心分離したものであるが、これらに限定されない。得られた培養物を精製又は加工する際に、当分野で公知の、例えば、自然濾過、精密濾過、限外濾過等の方法が用いられてよい。好ましい遠心分離の条件としては、例えば、1~40度(℃)、好ましくは、4~37度の温度、2000~20000rpmの回転数等が挙げられるが、これらに限定されない。なお本発明の免疫細胞の培養上清又はその処理物には、通常、培養上清を得るために用いた乳酸菌又はその処理物及び免疫細胞自体は実質的に含まれない。
【0018】
また、本発明においては、免疫細胞の培養上清又はその処理物を、そのまま用いてもよく、凍結乾燥、低温乾燥、噴霧乾燥、又はL-乾燥等やこれらを組み合わせて粉末状にして用いてもよい。また、当該処理物は、適切な溶媒(例えば、水、アルコール、有機溶剤等)で希釈して用いてもよく、適切な添加剤を加えて、ゲルや固形剤するなど加工して、用いてもよい。
【0019】
本発明の組成物中の、免疫細胞の培養上清又はその処理物の含有量は、特に限定されないが、組成物100質量%中、例えば、約0.1質量%~約100質量%の範囲であってもよく、好ましくは、約5質量%~約40質量%の範囲であってよい。
【0020】
(2)ラクトバチルス・プランタラムL-137株
さらに本発明は、上記(1)とは別の態様として、乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137、受託番号:FERM BP-08607号)を含有することを特徴とする、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用組成物及び骨代謝改善用組成物を含む。
破骨前駆細胞及び免疫細胞については、上記(1)で説明した通りである。
【0021】
本発明で用いられる乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(現:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター;住所:郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に、受託番号:FERM BP-08607号(平成7年11月30日に寄託されたFERM P-15317号より移管)として寄託されている。なお、ラクトバチルス・プランタラムL-137の変異株であっても、ラクトバチルス・プランタラムL-137の特徴を備えるものはラクトバチルス・プランタラムL-137の範疇である。なお、ラクトバチルス・プランタラムL-137株と共に他の乳酸菌が本発明の組成物に含まれていてもよい。
【0022】
本発明の組成物中の、ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)又はその処理物の含有量は、特に限定されないが、組成物100質量%中、例えば、約0.0001質量%~0.1質量%の範囲であってもよく、好ましくは、0.005~0.05質量%の範囲であってよい。
【0023】
また、本発明のラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)又はその処理物の摂取量は、経口又は注射投与の場合は、摂取者の年齢及び体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して決定できる。例えば、成人1人(約60kg)1日当たり、ラクトバチルス・プランタラムL-137株を乾燥死菌体として、好ましくは約0.5~200mg、より好ましくは約1~100mg、さらに好ましくは約2~50mg摂取されるように設定するのが好ましい。または、成人1人(約60kg)1日当たり、ラクトバチルス・プランタラムL-137を生菌換算で、好ましくは約5×10~2×1011cfu(Colony forming unit;コロニー形成単位)、より好ましくは約1×10~1×1011cfu摂取されるように設定するのが好ましい。摂取回数は、1日1回又は複数回に分けて行うことができる。外用塗布の場合も、適用する皮膚面積に応じて、ラクトバチルス・プランタラムL-137株又はその処理物の塗布量を適宜選択することができるが、通常、当該塗布量は、適用部位の面積約10cmに対して、1日につき、好ましくは約0.01~2.5mg、より好ましくは約0.02~1mgである。前記の投与用量を、1日あたり、1回~数回に分けて投与又は適用するとよい。
【0024】
以下、上記(1)及び(2)で記載した発明について、共通の部分をさらに説明する。
[乳酸菌の培養]
本発明において、ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)及び他の乳酸菌は、天然培地、合成培地及び半合成培地等の培地で培養したものいずれであってもよい。本発明において、乳酸菌の培養は、公知方法、自体公知の方法又はそれらに準じる方法に従って行われてよい。
【0025】
前記培地としては、特に限定されず、例えば、窒素源及び/又は炭素源を含有するものが好ましく用いられる。前記窒素源としては、特に限定されず、例えば、肉エキス、ペプトン、グルテン、カゼイン、酵母エキス、又はアミノ酸等が挙げられる。前記炭素源としては、特に限定されず、例えば、グルコース、キシロース、フラクトース、イノシトール、マルトース、水アメ、麹汁、澱粉、バガス、フスマ、糖蜜、又はグリセリン等が挙げられる。これらは1種で又は2種以上を組合せて用いてもよい。
前記培地は、前記窒素源及び/又は炭素源に加えて、さらに、無機質を添加してもよい。前記無機質としては、特に限定されず、例えば、硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、食塩、鉄、マンガン、モリブデン又は各種ビタミン類等が挙げられ、これらを1種で又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0026】
ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)及び他の乳酸菌の培養温度及び培養時間は、培養が効率的に実施できれば特に限定されないが、本発明の1つの態様において、培養温度は、例えば、通常約25~40度(℃)、好ましくは約27~35度としてもよい、培養時間は、例えば、約12~48時間としてもよい。また、本発明の1つの態様において、乳酸菌の培養は、通気振盪により実施してもよい。また、培地のpHは、特に限定されないが、本発明の1つの態様において、通常約pH3~6、好ましくは約pH4~6としてもよい。
【0027】
〔乳酸菌の処理物〕
ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)及び他の乳酸菌の「処理物」とは、好ましくは、当該乳酸菌を加工したもの又は当該乳酸菌の培養物であるが、これらに限定されない。また、菌は、生菌でもよく、死菌体でもよいが、安定性及び取扱いの容易性等の観点から、死菌体を用いることが好ましい。この死菌体も、乳酸菌の処理物に含まれる。
【0028】
本発明においては、このような処理物を、そのまま用いてもよく、凍結乾燥、低温乾燥、噴霧乾燥、又はL-乾燥等やこれらを組み合わせて粉末状にして用いてもよい。また、これらの処理物は、適切な溶媒(水、アルコール、有機溶剤等)で希釈して用いてもよいし、適切な添加剤を加えて、ゲルや固形剤にして、用いてもよい。
【0029】
以下に、ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)及び他の乳酸菌の死菌体を調製する方法について、具体的に説明する。
本発明において、前記死菌体の調製方法は、本発明の効果を失しない限り、特に限定されないが、例えば、(I)培養終了後に乳酸菌の生菌体を培養液から分離した後に、前記生菌体を殺菌処理して死菌体の状態とする方法、(II)培養液中で乳酸菌の生菌体を殺菌処理して死菌体の状態とし、その後に前記死菌体を培養液から分離する方法等のいずれの方法によって調製してもよい。
【0030】
培養液から菌体を分離する方法としては、この分野で通常用いられる種々の方法を採用してもよく、特に限定されない。本発明のひとつの態様において、具体的には、例えば、培養液から遠心分離等の手段によって上清を除くことによって、培養液と菌体とを分離する方法等を採用してもよい。なお、この態様においては、培養液に蒸留水を加えて遠心分離を行った後に上清を除去した後、所望により、上清を除去した残留物にさらに蒸留水を加えて遠心分離を行う操作を何度か繰り返してもよい。本発明のひとつの態様において、分離操作として濾過工程を含んでいてもよい。
【0031】
続いて、ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)及び他の乳酸菌の生菌体の殺菌処理方法について具体的に説明する。前記殺菌処理方法としては、特に限定されず、例えば、加熱、紫外線照射、ホルマリン処理等の処理が挙げられる。なお、前記殺菌処理は、採取された生菌体に対して行ってもよく、生菌体を含んだ培養液に対して行ってもよい。
【0032】
前記加熱処理を行う場合、加熱温度は特に限定されないが、例えば、通常約60~100度(℃)、好ましくは約70~90度としてもよい。加熱手段としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、ヒーター等の手段であってもよい。加熱時間は、殺菌処理が十分に完了できれば特に限定されないが、例えば、加熱時間は所望の温度に達した後、通常約5~40分、好ましくは約10~30分としてもよい。
【0033】
上記のようにして得られた前記死菌体は、さらに摩砕、破砕又は凍結乾燥処理等を行い、死菌体処理物としてもよい。本発明においては、前記死菌体処理物も死菌体として好適に用いることができる。
【0034】
[破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用、骨の骨代謝改善用、骨粗鬆症等の予防、改善若しくは治療用、又は骨密度低下抑制用組成物]
本発明の組成物は、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制作用及び/又は骨代謝改善作用を有することを特長とする。好ましくは、組成物が、骨粗鬆症、骨形成不全、高カルシウム血症、骨軟化症、骨石灰脱失症、骨溶解性骨疾患、骨壊死、関節リウマチ、変形性関節症、炎症性関節炎、骨髄炎、癌又は加齢等による骨の喪失、骨折、又は腰痛の予防、改善又は治療に用いられる場合であり、より好ましくは、組成物が、骨粗鬆症、関節リウマチ、又は骨折の予防、改善又は治療に用いられる場合であり、さらに好ましくは、組成物が、骨粗鬆症の予防、改善又は治療に用いられる場合であるが、これらの場合に限定されない。別の、あるいは、さらなる本発明の組成物の好ましい例としては、組成物が骨密度低下抑制作用を有する組成物が挙げられるが、これに限定されない。
【0035】
本発明の組成物の好ましい例としては、飲食品用及び/又は医薬品用(動物薬も含む)である。別の好ましい例としては、本発明の組成物は、飲食品用の添加剤として使用される。
飲食品用、飲食品用添加剤用又は医薬品用である組成物は、上記した本発明の培養上清又はその処理物、あるいは、L-137株又はその処理物とさらに薬学的に許容される担体、添加剤等を適宜配合して製剤化等することができる。そのための製剤化方法や製剤化技術は従来十分に確立されているので、それに従ってよい。例えば、医薬品用の場合、具体的には、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤、注射剤、輸液、坐剤、軟膏、パッチ剤等の非経口剤とすることができる。担体または添加剤の配合割合については、飲食品、医薬品又は獣医学分野において通常採用されている範囲に基づいて適宜設定すればよい。
【0036】
薬学的に許容される担体又は添加剤は特に制限されないが、担体の例としては、水性または油性基剤等の各種担体が挙げられ、水性の担体としては、例えば、水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、多糖ガム系天然高分子類等が挙げられ、油性の担体としては、例えば、ワセリン、スクワラン、パラフィン等の適切な油類やワックス類等が挙げられるが、これらに限定されない。
添加剤の例としては、酵素、pH調整剤、保存料、殺菌料、酸化防止剤、防カビ剤、日持向上剤、漂白剤、光沢剤、香料、甘味料、酸味料、調味料、苦味料、乳化剤、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊料、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等が挙げられるが、これらに限定されない。これらに関する技術は、従来十分に確立されているので、本発明において、それらに従ってよい。
【0037】
また、本発明の組成物が、飲食品用である場合、このような飲食品には、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、病者用食品が含まれる。飲食品の形態は特に限定されないが、具体例には、例えば、いわゆる栄養補助食品またはサプリメントとしての錠剤、顆粒剤、散剤、ドリンク剤等を挙げることができる。これ以外には、例えば、茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料、そば、うどん、中華麺、即席麺等の麺類、飴、キャンディー、ガム、チョコレート、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子およびパン類、ハム、ソーセージ、はんぺん、ちくわ等の水産・畜産加工食品、加工乳、発酵乳等の乳製品、サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂および油脂加工食品、ソース、たれ等の調味料、カレー、シチュー、丼、お粥、雑炊等のレトルトパウチ食品、アイスクリーム、シャーベット等の冷菓などを挙げることができるが、これらに限定されない。これらに関する技術は、従来十分に確立されているので、本発明において、それらに従ってよい。
さらに、本発明の組成物には、本発明の効果を失しない限り、例えば、医学、薬学、獣医学、畜産、飼料又は食品等の分野で知られる任意の成分が含有されていてもよい。
【0038】
〔破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制作用及び骨代謝改善作用とその確認方法〕
本発明の組成物の効果を確認する方法としては、例えば、本発明の培養上清又はその処理物、あるいは、ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)又はその処理物を含有する組成物が、培養上清又はその処理物、あるいは、L-137株又はその処理物のいずれも含有しない組成物に比べて、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制活性及び/又は骨代謝改善活性に優れることを確認する方法が挙げられる。
【0039】
具体的には、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制効果及び/又は骨代謝改善効果の確認方法は、例えば、RANKL (receptor activator of NF-κB ligand) 試薬添加後のTRAP(酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ: tartrate-resistant acid phosphatase)活性の評価を行う方法等が挙げられる。分化誘導シグナルとして知られるRANKLは、破骨前駆細胞の細胞膜上の受容体(RANK)に結合し、破骨細胞への分化を誘導する。一方、破骨細胞は、細胞質に強いTRAP活性を示すため、RANKL添加後又は投与後のTRAP活性を評価すれば、破骨細胞へ分化したことを確認出来る。すなわち、ここでのTRAP活性は破骨前駆細胞が破骨細胞へ分化した指標と言え、また、TRAP活性が抑制されると骨破壊が抑制され、骨代謝も改善されると考えられるので、結果、骨粗鬆症の抑制の有無の確認にも有効であると考えられる。なお、本願明細書において、骨代謝が改善されるとは、例えば、生体内での骨形成と骨吸収のバランスがより好ましい状態になることを指す。
【0040】
その他、上記以外の公知の骨評価、骨分化確認用試薬を用いてもよく、ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay:試料溶液中に含まれる目的の抗原又は抗体を、特異抗体又は抗原で捕捉するとともに、酵素反応を利用し、検出・定量する方法)、Bone resorption assay(pit formation assay)等、当該分野において十分に確立されている方法に従って評価を行ってよい。
これらの方法の一例として、後述の実施例を参照することができる。
【0041】
〔骨密度低下抑制作用とその確認方法〕
本発明の組成物の骨密度低下抑制効果を確認する方法としては、例えば、本発明の培養上清又はその処理物、あるいは、ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)又はその処理物を含有する組成物が、培養上清又はその処理物、あるいは、L-137株又はその処理物のいずれも含有しない組成物に比べて、骨密度低下抑制作用に優れることを確認する方法が挙げられる。
具体的には、骨密度低下抑制効果の確認方法は、例えば、単位時間当たりの超音波伝播距離(m/sec)、すなわち、骨内における超音波伝播速度(Speed Of Sound、SOS)、を測定する方法が挙げられる。
本方法は、被曝がなく、妊婦や子供でも測定できる利点がある。SOSは、通常、踵骨で測定され、踵骨のような海綿骨を多く含む部位の骨密度と強い相関を有する。SOSの値が大きい場合、骨密度は高い。SOSは測定機種やその製造会社ごとに定義や基準値が異なり、機種間の測定値の互換性を確保するため、標準化された超音波伝播速度(standardized-SOS:s-SOS)も使用される。本発明においては、例えば、Benus evo (澁谷工業株式会社製)を用いることが出来るが、当分野で公知の他の機器を用いることも出来る。なお、骨密度のみで骨強度のほとんど(約7割程度)が説明出来るとする説もあり、本方法は、骨粗鬆症の抑制の有無の確認にも有効である。
上記したSOS法は、定量的超音波測定法(QUS: quantitative ultrasound)に分類され、他に、減衰係数 (BUA: broadband ultrasound attenuation)を測定する方法等もあり、SOS法以外のQUS法も本発明の組成物の評価等に用いることが出来る。また、上記以外の公知の骨密度測定方法、例えば、DEA (dual energy X ray absorptiometry) 法、MD (microdensitometry) 法、RA (radiographic absorptiometry) 法、定量的CT(QCT)測定法等を用いてもよく、上記した踵骨の代わりに、あるいは、踵骨と合わせて、大腿骨、脊椎、橈骨等の部位が測定されてもよいが、これらに限定されない。
【0042】
本発明の組成物を飲食品、動物用飼料、医薬品(動物用医薬も含む)、又は医薬部外品の形態に調製した場合、当該飲食品、飼料、医薬品、若しくは医薬部外品、その添付説明書又はその包装箱等には、本発明の組成物の作用に鑑みて、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制作用及び骨代謝改善作用を有する旨を表示することができる。
【0043】
本発明の組成物において、培養上清又はその処理物は、組成物の全量に対し、好ましくは、約0.1~100重量%、より好ましくは約5~60重量%、さらに好ましくは、約20~40重量%含まれることが好ましい。
また、本発明の組成物において、ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)又はその処理物は、組成物の全量に対し、好ましくは、約0.001~10重量%、より好ましくは、約0.01~1重量%、さらに好ましくは、約0.05~0.5重量%含まれることが好ましい。
【0044】
[破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用及び/又は骨代謝改善用組成物の製造方法]
本発明は、好ましくは、以下の工程(a)~(c)を含むことを特徴とする、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制用及び/又は骨代謝改善用組成物の製造方法を含む。
(a)乳酸菌又はその処理物の存在下に免疫細胞を培養して培養物を得る工程、
(b)工程(a)で得られた培養物から、乳酸菌又はその処理物及び免疫細胞を除去することを含む、免疫細胞の培養上清又はその処理物を得る工程、及び
(c)工程(b)で得られた培養上清又はその処理物と、担体及び/又は賦形剤とを混合する工程
【0045】
上記工程(a)において、免疫細胞を含む培養液と乳酸菌又はその処理物とを接触させて混合物を得る場合に、特に、限定されないが、免疫細胞が、乳酸菌又はその処理物(好ましくは、L-137株)を食べる(貪食する)ことが好ましい。
【0046】
また、上記工程(b)において、工程(a)で得られた混合物から、乳酸菌又はその処理物及び免疫細胞を除去することの好ましい例としては、該混合物から、遠心分離等の当分野で公知の方法により、乳酸菌又はその処理物及び免疫細胞を除去することが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
さらに、上記工程(c)において用いられる、好ましい担体は、従来、食品又は医薬分野で十分に確立されているため、本発明もそれに従ってよいが、例えば、水性または油性基剤等の各種担体が挙げられ、水性の担体としては、例えば、水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、多糖ガム系天然高分子類等が挙げられ、油性の担体としては、例えば、ワセリン、スクワラン、パラフィン等の適切な油類やワックス類等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
また、上記工程(c)において用いられる、好ましい賦形剤は、従来、食品又は医薬分野で十分に確立されているため、本発明もそれに従ってよいが、例えば、乳糖、白糖、マンニトール、トウモロコシデンプン、粉末セルロース、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム等を好ましく用いることが出来るが、これらに限定されない。
【0049】
本発明の組成物は、組成物中に本発明の培養上清又はその処理物、あるいは、ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)又はその処理物を添加する以外は、一般的な組成物の製造方法により、適宜加工及び製造することができる。すなわち、本発明は、さらに、培養上清又はその処理物と、所望により、その他の成分とを混合する工程を含有する組成物の製造方法を包含する。あるいは、本発明は、ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)又はその処理物と、所望により、その他の成分とを混合する工程を含有する組成物の製造方法を包含する。
【0050】
培養上清又はその処理物、あるいは、ラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)又はその処理物と、その他の成分とを混合する工程では、各成分が、組成物全体において均一となるように、公知の方法又は自体公知の方法により混合又は撹拌することが好ましい。混合又は撹拌の方法は、当該分野において十分に確立されているので、その方法に従ってよい。
【実施例
【0051】
以下に実施例及び試験例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
[試験例1]培養上清による破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制及び骨吸収活性抑制の評価
試験方法:<1.培養上清を得る工程>
免疫細胞(日本クレア株式会社より購入したマウス由来脾臓細胞)を5.0×106 cells/mLとなるように10%FBS含有RPMI1640培地に懸濁し、免疫細胞懸濁液とした。ラクトバチルス・プランタラムL-137死菌体が1000ng/mLとなるように10%FBS含有RPMI1640で懸濁し、免疫細胞刺激用検液とした。免疫細胞刺激用検液と免疫細胞懸濁液を100μLずつ、96well培養プレートに添加し(免疫細胞終濃度:2.5×106 cells/mL、菌体終濃度:500ng/mL)、5%CO2インキュベータ内で37℃、24時間培養し、上清を得た。得られた上清に対し遠心分離(条件:20℃、2,000rpm、20min)を行い、L-137株と免疫細胞を除去した培養上清を得た。
【0053】
<2.破骨前駆細胞の破骨細胞への分化誘導工程>
RANKLのみで破骨細胞に誘導される、マウス由来単球白血病細胞株である破骨細胞前駆細胞RAW264.7(ECACC株番号91062702;DSファーマバイオメディカル株式会社)を用いて破骨細胞分化評価を行った。破骨前駆細胞RAW264.7細胞を10%FBS含有MEMα培地で7.0×104cells/mLとなるように懸濁し、96well培養プレートに50μLずつ添加した(3,500cells/well)。さらに、sRANKL(製品番号47187000;オリエンタル酵母工業株式会社)を10%FBS含有MEMα培地で267ng/mLに希釈して、上記したRAW264.7細胞を添加した96well培養プレートに75μLずつ添加した。さらにL-137で刺激した免疫細胞の培養上清を12.5μL、25μL、75μL添加した。培養上清を12.5μL添加したwellには62.5μLの10%FBS含有MEMα培地を、培養上清を25μL添加したwellには50μLの10%FBS含有MEMα培地を添加し、全量を200μLとした。すなわちsRANKLの終濃度は100ng/mL、免疫細胞の培養上清割合は6.25%,12.5%,37.5%(v/v)として、分化誘導培養を5%CO2インキュベータ内で37℃、48時間、72時間行った。
【0054】
<3.TRAP活性測定工程>
分化誘導培養後、上清を除去し、アセトンとエタノールを1:1の割合で混合した固定液を100μLずつ細胞の入った96well培養プレートに添加した。1分経過後に固定液を除き、30分風乾させた。その後はTRAP solution kit(製品番号 NIB 47249000;オリエンタル酵母)に従い操作し、プレートリーダーを用いて415nmで吸光度を測定した。
【0055】
結果:評価結果は下記の表1及び図1~2に記載の通りである。48時間培養後及び72時間培養後において、上記で得られた免疫細胞の培養上清は、濃度依存的に、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制作用及び骨における骨吸収抑制作用を示した。
【0056】
【表1】
【0057】
[試験例2]L-137株による破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制及び骨吸収活性抑制の評価
試験方法:<1.破骨細胞分化誘導工程>
RANKLのみで破骨細胞に誘導される、マウス由来単球白血病細胞株である破骨細胞前駆細胞RAW264.7(ECACC株番号91062702;DSファーマバイオメディカル株式会社)を用いて破骨細胞分化評価を行った。破骨前駆細胞RAW264.7細胞を10%FBS含有MEMα培地で7.0×104cells/mLとなるように懸濁し、96well培養プレートに50μLずつ添加した(3,500cells/well)。さらに、sRANKL(製品番号47187000;オリエンタル酵母工業株式会社)を10%FBS含有MEMα培地で267ng/mLに希釈して、上記したRAW264.7細胞を添加した96well培養プレートに75μLずつ添加した。さらにラクトバチルス・プランタラムL-137株(Lactobacillus plantarum L-137)の死菌体を10%FBS含有MEMα培地で134 ng/mL, 1.34 μg/mL, 13.4 μg/mLとなるように懸濁し、RAW264.7細胞を添加した96well培養プレートに75μLずつ添加し、全量を200μLとした。すなわちsRANKLの終濃度は100 ng/mL、L-137死菌体の終濃度は50 ng/mL, 500 ng/mL, 5 μg/mLとして、分化誘導培養を5%CO2インキュベータ内で37℃、48時間、72時間行った。
【0058】
<2.TRAP活性測定工程>
分化誘導培養後、上清を除去し、アセトンとエタノールを1:1の割合で混合した固定液を100μLずつ細胞の入った96well培養プレートに添加した。1分経過後に固定液を除き、30分風乾させた。その後はTRAP solution kit(製品番号 NIB 47249000;オリエンタル酵母)に従い操作し、プレートリーダーを用いて415nmで吸光度を測定した。
【0059】
結果:評価結果は下記の表2及び図3~4に記載の通りである。48時間培養後及び72時間培養後において、乳酸菌L-137株は、濃度依存的に、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制作用及び骨吸収抑制作用を示した。
【0060】
【表2】
【0061】
[試験例3]乳酸菌L-137株を含有する組成物による骨密度低下抑制作用の評価
試験方法:<1.使用した組成物>
本発明の組成物として、1錠 (300 mg)当たり、加熱処理されたラクトバチルス・プランタラム L-137株を10 mg含む市販の錠剤(製品名:まもり高める乳酸菌L-137 サプリメント)を用いた。錠剤には、L-137株以外の成分(乳糖、デンプン、ショ糖脂肪酸エステル等)も含まれているが、これらの成分は以下の実験に特に影響しない。
【0062】
<2.組成物の摂取とs-SOSの測定>
40~73歳の男女31名の被験者を2群に分けた(非摂取群:10名、L-137株摂取群:21名)。L-137株摂取群にはL-137株を含有する上記組成物を1日1錠で3ヶ月間摂取させた。
試験開始前及び組成物摂取3ヶ月後に各被験者の踵骨にて、s-SOSを測定した。被験者の片足踵周辺をエタノールで洗浄し、超音波検査用ゼリーを十分に塗布した。ゼリーが馴染んだ後、被験者の踵を装置計測部に挿入して、測定し、s-SOSを得た。
被験者の踵骨のs-SOS 評価には、Benus evo (澁谷工業株式会社製)を用いて行った。
【0063】
結果:評価結果は図5に記載の通りである。L-137株含有組成物非摂取群のs-SOS は、試験開始前から3ヶ月後にかけて、経日により有意に低下した(すなわち、骨密度が低下した)。これに対し、L-137株含有組成物摂取群のs-SOS は、試験開始前から組成物摂取3ヶ月の間、有意差は認められなかった(すなわち、骨密度低下が抑制された)。
上記結果から、本発明の乳酸菌L-137株を含有する組成物が、骨密度低下抑制作用を示すことが明らかとなった。なお、L-137株の代わりに、試験例1の方法で得られた培養上清やその処理物を用いた組成物を用いた場合にも、同様の効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
(1)本発明の免疫細胞の培養上清を含む組成物、及び(2)乳酸菌L-137株を含む組成物は、それぞれ、独立して、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化抑制作用、骨代謝改善作用及び/又は骨密度低下抑制作用を有した。そのため、(1)及び(2)の組成物は、それぞれが、骨粗鬆症の予防・治療薬、さらには、飲食品、飼料、医薬品又は医薬部外品、及び化粧品等として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5