(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】超硬合金および切削工具
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20240806BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240806BHJP
C22C 1/051 20230101ALN20240806BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 B
C22C1/051 G
(21)【出願番号】P 2023565264
(86)(22)【出願日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2023020474
【審査請求日】2024-06-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山川 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】山西 貴翔
(72)【発明者】
【氏名】引地 将仁
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-006304(JP,A)
【文献】国際公開第2013/002270(WO,A1)
【文献】特開2022-136020(JP,A)
【文献】特開平02-131803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/04- 1/059
C22C 29/00-29/18
B23B 27/00-29/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1相と、第2相と、第3相と、を含む超硬合金であって、
前記第1相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、
前記超硬合金の前記第1相の含有率は、65体積%以上85体積%以下であり、
前記第2相は、コバルトからなり、
前記超硬合金のコバルト含有率C5は、3質量%以上15質量%以下であり、
前記第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなり、
前記第3相は、炭化タングステンを含まず、
前記超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率Cは、2質量%以上8質量%以下であり、
前記超硬合金のビッカース硬度aは、12.5GPa以上14.5GPa以下であり、
前記ビッカース硬度aは、前記超硬合金において、前記超硬合金の表面から、前記表面の法線方向に沿う距離が5μmである地点P1で測定され、
前記超硬合金は、前記表面からの距離が5μmである仮想面Q1と、前記表面からの距離が200μmである仮想面Q4とに挟まれる第1領域を含み、
前記第1領域は、前記表面からの距離が10μmである仮想面Q2と、前記表面からの距離が50μmである仮想面Q3と、に挟まれる第2領域を有し、
前記第1領域において、ビッカース硬度の最大値であるビッカース硬度bを示す地点P2は前記第2領域に存在し、
前記ビッカース硬度bと、前記ビッカース硬度aとの差b-aは1.8GPa以上である、超硬合金。
【請求項2】
前記超硬合金において、前記表面から、前記表面の法線方向に沿う距離が200μmである地点P4におけるチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率C1に対する、前記地点P2におけるチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率C2の割合C2/C1は、1.1以上1.5以下である、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項3】
前記超硬合金において、前記表面から、前記表面の法線方向に沿う距離が200μmである地点P4におけるコバルトの質量基準の含有率C3に対する、前記地点P1におけるコバルトの質量基準の含有率C4の割合C4/C3は、1.1以上2.0以下である、請求項1または請求項2に記載の超硬合金。
【請求項4】
前記超硬合金の
前記コバルト含有率C5は、4質量%以上11質量%以下である、請求項1
または請求項2に記載の超硬合金。
【請求項5】
前記ビッカース硬度bと、前記超硬合金において、前記表面から、前記表面の法線方向に沿う距離が200μmである地点P4におけるビッカース硬度cとの差b-cは0.3GPa以上1.0GPa以下である、請求項1
または請求項2に記載の超硬合金。
【請求項6】
前記超硬合金において、前記表面から、前記表面の法線方向に沿う距離が200μmである地点P4におけるビッカース硬度cと、前記ビッカース硬度aとの差c-aは1.2GPa以上である、請求項1
または請求項2に記載の超硬合金。
【請求項7】
請求項1
または請求項2に記載の超硬合金を備える切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超硬合金および切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相と、鉄族元素を主成分とする結合相とを備える超硬合金が、切削工具の素材に利用されている。特許文献1に記載される超硬合金は、硬質相として、WCを主成分とする硬質相に加え、タングステン(W)と、タングステン以外の金属元素とを含む炭化物、窒化物及び炭窒化物の少なくとも一種の複合化合物からなる相を備える。該超硬合金では、WC粒子と複合化合物粒子とを結合させることで耐欠損性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の超硬合金は、
第1相と、第2相と、第3相と、を含む超硬合金であって、
前記第1相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、
前記超硬合金の前記第1相の含有率は、65体積%以上85体積%以下であり、
前記第2相は、コバルトからなり、
前記超硬合金のコバルト含有率C5は、3質量%以上15質量%以下であり、
前記第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなり、
前記第3相は、炭化タングステンを含まず、
前記超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率Cは、2質量%以上8質量%以下であり、
前記超硬合金のビッカース硬度aは、12.5GPa以上14.5GPa以下であり、
前記ビッカース硬度aは、前記超硬合金において、前記超硬合金の表面から、前記表面の法線方向に沿う距離が5μmである地点P1で測定され、
前記超硬合金は、前記表面からの距離が5μmである仮想面Q1と、前記表面からの距離が200μmである仮想面Q4とに挟まれる第1領域を含み、
前記第1領域は、前記表面からの距離が10μmである仮想面Q2と、前記表面からの距離が50μmである仮想面Q3と、に挟まれる第2領域を有し、
前記第1領域において、ビッカース硬度の最大値であるビッカース硬度bを示す地点P2は前記第2領域に存在し、
前記ビッカース硬度bと、前記ビッカース硬度aとの差b-aは1.8GPa以上である、超硬合金である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施形態1の超硬合金の断面を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態1の超硬合金の表面からの距離とビッカース硬度との関係の一例、および、実施形態1の超硬合金の表面からの距離と、チタン、タンタル、ニオブおよびコバルトのそれぞれの含有率(質量%)との関係の一例を示すグラフである。
【
図3】
図3は、超硬合金のビッカース硬度の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、切削加工において被削材の難削化が進んでいる。さらに、加工能率の向上の要求から、切削速度、送り量および切り込み量が増加するなど、加工の条件が厳しくなっている。
【0007】
そこで、本開示は、工具材料として用いた場合に、耐摩耗性および耐欠損性に優れ、長い工具寿命を有することのできる切削工具を提供することのできる超硬合金、ならびに、長い工具寿命を有する切削工具を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、工具材料として用いた場合に、耐摩耗性および耐欠損性に優れ、長い工具寿命を有することのできる切削工具を提供することのできる超硬合金、ならびに、長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能となる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の超硬合金は、
第1相と、第2相と、第3相と、を含む超硬合金であって、
前記第1相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、
前記超硬合金の前記第1相の含有率は、65体積%以上85体積%以下であり、
前記第2相は、コバルトからなり、
前記超硬合金のコバルト含有率C5は、3質量%以上15質量%以下であり、
前記第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなり、
前記第3相は、炭化タングステンを含まず、
前記超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率Cは、2質量%以上8質量%以下であり、
前記超硬合金のビッカース硬度aは、12.5GPa以上14.5GPa以下であり、
前記ビッカース硬度aは、前記超硬合金において、前記超硬合金の表面から、前記表面の法線方向に沿う距離が5μmである地点P1で測定され、
前記超硬合金は、前記表面からの距離が5μmである仮想面Q1と、前記表面からの距離が200μmである仮想面Q4とに挟まれる第1領域を含み、
前記第1領域は、前記表面からの距離が10μmである仮想面Q2と、前記表面からの距離が50μmである仮想面Q3と、に挟まれる第2領域を有し、
前記第1領域において、ビッカース硬度の最大値であるビッカース硬度bを示す地点P2は前記第2領域に存在し、
前記ビッカース硬度bと、前記ビッカース硬度aとの差b-aは1.8GPa以上である、超硬合金である。
【0010】
本開示の超硬合金は、工具材料として用いた場合に、耐摩耗性および耐欠損性に優れ、長い工具寿命を有することのできる切削工具を提供することができる。
【0011】
(2)上記(1)において、
前記超硬合金において、前記表面から、前記表面の法線方向に沿う距離が200μmである地点P4におけるチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率C1に対する、前記地点P2におけるチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率C2の割合C2/C1は、1.1以上1.5以下であってもよい。
【0012】
これは、ビッカース硬度の大きい場所では、ビッカース硬度の小さい場所に比べて、チタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率が大きいことを示している。チタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムは、超硬合金の耐酸化性を向上させることができる。割合C2/C1が1.1以上1.5以下の超硬合金では、ビッカース硬度bを示す領域は、優れた耐酸化性を有すると推察される。
【0013】
(3)上記(1)または(2)において、
前記超硬合金において、前記表面から、前記表面の法線方向に沿う距離が200μmである地点P4におけるコバルトの質量基準の含有率C3に対する、前記地点P1におけるコバルトの質量基準の含有率C4の割合C4/C3は、1.1以上2.0以下であってもよい。
【0014】
これによると、超硬合金の表面からの距離が5μmである地点P1は、超硬合金の表面からの距離が200μmの地点P4よりも、コバルトの質量基準の含有率が大きい。コバルトの含有率が多いと、靭性が向上する傾向がある。割合C4/C3が1.1以上2.0以下を満たす超硬合金は、表面側のコバルトの含有率が多いことにより、表面側において優れた靭性を有すると推察される。
【0015】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、
前記超硬合金のコバルト含有率C5は、4質量%以上11質量%以下であってもよい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0016】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、
前記ビッカース硬度bと、前記超硬合金において、前記表面から、前記表面の法線方向に沿う距離が200μmである地点P4におけるビッカース硬度cとの差b-cは0.3GPa以上1.0GPa以下であってもよい。
【0017】
これによると、ビッカース硬度cは、ビッカース硬度aよりも大きく、かつ、ビッカース硬度bよりも小さい。該超硬合金を備える切削工具は、切削に伴い、切削工具の表面側からの摩耗が進行した場合であっても、耐摩耗性と耐欠損性とのバランスに優れ、安定した切削性能を有することができる。
【0018】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、
前記超硬合金において、前記表面から、前記表面の法線方向に沿う距離が200μmである地点P4におけるビッカース硬度cと、前記ビッカース硬度aとの差c-aは1.2GPa以上であってもよい。
【0019】
これによると、切削に伴い、切削工具の表面側からの摩耗が進行した場合であっても、切削工具は、耐摩耗性と耐欠損性とのバランスに優れ、安定した切削性能を有することができる。
【0020】
(7)本開示の切削工具は、上記(1)から(6)のいずれかに記載の超硬合金を備える切削工具である。本開示の切削工具は、耐摩耗性および耐欠損性に優れ、長い工具寿命を有することができる。
【0021】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の超硬合金および切削工具を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0022】
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0023】
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0024】
本開示において、数値範囲下限及び上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。例えば、下限として、a1以上、b1以上、c1以上が記載され、上限としてa2以下、b2以下、c2以下が記載されている場合は、a1以上a2以下、a1以上b2以下、a1以上c2以下、b1以上a2以下、b1以上b2以下、b1以上c2以下、c1以上a2以下、c1以上b2以下、c1以上c2以下が開示されているものとする。
【0025】
[実施形態1:超硬合金]
本開示の一実施形態(以下「実施形態1」とも記す。)の超硬合金は、
第1相と、第2相と、第3相と、を含む超硬合金であって、
該第1相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、
該超硬合金の該第1相の含有率は、65体積%以上85体積%以下であり、
該第2相は、コバルトからなり、
該超硬合金のコバルト含有率C5は、3質量%以上15質量%以下であり、
該第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなり、
該第3相は、炭化タングステンを含まず、
該超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率Cは、2質量%以上8質量%以下であり、
該超硬合金のビッカース硬度aは、12.5GPa以上14.5GPa以下であり、
該ビッカース硬度aは、該超硬合金において、該超硬合金の表面から、該表面の法線方向に沿う距離が5μmである地点P1で測定され、
該超硬合金は、該表面からの距離が5μmである仮想面Q1と、該表面からの距離が200μmである仮想面Q4とに挟まれる第1領域を含み、
該第1領域は、該表面からの距離が10μmである仮想面Q2と、該表面からの距離が50μmである仮想面Q3と、に挟まれる第2領域を有し、
該第1領域において、ビッカース硬度の最大値であるビッカース硬度bを示す地点P2は該第2領域に存在し、
該ビッカース硬度bと、該ビッカース硬度aとの差b-aは1.8GPa以上である、超硬合金である。
【0026】
本開示の超硬合金は、工具材料として用いた場合に、耐摩耗性および耐欠損性に優れ、長い工具寿命を有することのできる切削工具を提供することができる。この理由は明らかではないが、以下の通りと推察される。
【0027】
(i)本開示の超硬合金は、複数の炭化タングステン粒子(以下、「WC粒子」とも記す。)からなる第1相を65体積%以上85体積%以下含む。炭化タングステン粒子は、高い硬度および高い熱伝導率を有する。よって、本開示の超硬合金も、高い硬度および高い熱伝導率を有し、該超硬合金を備える切削工具は、優れた耐摩耗性を有することができる。
【0028】
(ii)本開示の超硬合金は、コバルトを3質量%以上15質量%以下含む。コバルトは高い靭性を有する。よって、本開示の超硬合金も、高い靭性を有し、該超硬合金を備える切削工具は、優れた耐欠損性を有することができる。
【0029】
(iii)本開示の超硬合金は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなる第3相を含む。第3相は、超硬合金の耐反応性および耐酸化性を向上させることができる。よって、該超硬合金を備える切削工具は、耐反応性および耐酸化性が向上し、これによって耐摩耗性が向上する。
【0030】
(iv)本開示の超硬合金は、表面からの距離が5μmである地点P1でのビッカース硬度aが12.5GPa以上14.5GPa以下である。該超硬合金の表面側は比較的硬度が低く、適度な靱性を有するため、該超硬合金を備える工具は、切削初期の欠損が抑制される。
【0031】
(v)本開示の超硬合金では、第1領域内のビッカース硬度の最大値であるビッカース硬度bを示す地点P2が、表面からの距離が10μm以上50μm以内である第2領域内に存在する。さらに、ビッカース硬度bと、ビッカース硬度aとの差b-aは1.8GPa以上である。
【0032】
該超硬合金では、表面からの距離が10μm以上50μm以内である第2領域領域内に、これよりも表面側である地点P1の硬度よりも、1.8GPa以上高い硬度を示す領域が存在する。該超硬合金を備える切削工具は、切削初期に超硬合金の表面が摩耗除去された場合であっても、第2領域領域内に存在する表面側よりも硬度が高い領域により、優れた耐摩耗性を有することができる。
【0033】
<第1相>
≪第1相の組成≫
実施形態1の超硬合金において、第1相は、複数の炭化タングステン粒子からなる。ここで、炭化タングステン粒子には、「純粋なWC粒子(不純物元素が一切含有されないWC、不純物元素の含有量が検出限界未満であるWCも含む。)」だけではなく、「本開示の効果を損なわない限りにおいて、内部に不純物を含むWC粒子」も含まれる。不純物は、例えば、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、硫黄(S)が挙げられる。
【0034】
≪超硬合金の第1相の含有率≫
実施形態1の超硬合金において、超硬合金の第1相の含有率は、65体積%以上85体積%以下である。超硬合金の第1相の含有率の下限は、硬度向上の観点から、65体積%以上であり、66体積%以上でもよく、70体積%以上でもよく、72体積%以上でもよく、75体積%以上でもよい。超硬合金の第1相の含有率の上限は、靭性向上の観点から、85体積%以下であり、84体積%以下でもよく、80体積%以下でもよく、78体積%以下でもよい。超硬合金の第1相の含有率は、70体積%以上84体積%以下でもよく、72体積%以上80体積%以下でもよい。
【0035】
本開示において、超硬合金の第1相の含有率は、以下の手順で測定される。
(A1)超硬合金の任意の表面または任意の断面を鏡面加工する。鏡面加工の方法としては、例えば、ダイヤモンドペーストで研磨する方法、集束イオンビーム装置(FIB装置)を用いる方法、クロスセクションポリッシャー装置(CP装置)を用いる方法、およびこれらを組み合わせる方法が挙げられる。
【0036】
(B1)超硬合金の加工面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「S-3400N」)で撮影して反射電子像を得る。反射電子像を6枚準備する。6枚の反射電子像の撮影領域はそれぞれ異なる。撮影箇所は任意に設定することができる。条件は、観察倍率5000倍、加速電圧10kVとする。
【0037】
(C1)上記(B1)で得られた6枚の反射電子像を画像解析ソフトウェア(ImageJ、version 1.51j8:https://imagej.nih.gov/ij/)でコンピュータに取り込み、二値化処理を行い、6枚の二値化処理後の画像を得る。二値化処理は、画像を取り込んだのちに、コンピュータ画面上の「Make Binary」との表示を押すことにより、画像解析ソフトウェアに予め設定された条件で実行される。二値化処理後の画像において、第1相からなる第1領域と、第2相および第3相からなる第2領域とは、色の濃淡で識別できる。例えば、二値化処理後の画像において、第1相は黒色領域で示され、第2相および第3相は白色領域で示される。
【0038】
(D1)得られた6枚の二値化処理後の各画像中に縦25.3μm×幅17.6μmの矩形の測定視野を1つ設定する。上記画像解析ソフトウェアを用いて、6つの測定視野のそれぞれにおいて、測定視野の全体を分母として第1相の面積百分率(面積%)を測定する。
【0039】
(E1)6つの測定視野で得られた第1相の面積百分率(面積%)の平均を算出する。本開示において、6つの測定視野で得られた第1相の面積百分率(面積%)の平均が、超硬合金の第1相の含有率(体積%)とする。
【0040】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を測定視野の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0041】
≪炭化タングステン粒子の平均粒径≫
実施形態1の超硬合金において、炭化タングステン粒子の平均粒径は特に制限されず、超硬合金に用いられる従来公知の平均粒径とすることができる。炭化タングステン粒子の平均粒径は、例えば、0.5μm以上2.0μm以下でもよく、0.7μm以上1.7μm以下でもよい。
【0042】
本開示において、炭化タングステン粒子の平均粒径は、下記の手順で測定される。
(A2)超硬合金の第1相の含有率の測定方法に記載の(A1)~(C1)と同一の方法で6枚の二値化処理後の画像を得る。
【0043】
(B2)得られた6枚の二値化処理後の各画像中に縦25.3μm×幅17.6μmの矩形の測定視野を設定する。画像解析ソフトウェア(ImageJ、version 1.51j8:https://imagej.nih.gov/ij/)を用いて、6つの測定視野中の全ての炭化タングステン粒子(第1相)のそれぞれについて、円相当径(Heywood径:等面積円相当径)を測定する。
【0044】
(C2)6つの測定視野中の炭化タングステン粒子のうち、円相当径が0.22μm以下の炭化タングステン粒子を除くすべての炭化タングステン粒子に基づき、円相当径の個数基準の算術平均値を算出する。本開示において、該算術平均値が、WC粒子の平均粒径に該当する。平均粒径を算出するにあたり、円相当径が0.22μm以下の炭化タングステン粒子を除外する理由は、本発明者らが測定したところ、円相当径が0.22μm以下の粒子は、画像解析において誤って炭化タングステン粒子として検出されたノイズに該当する場合が多いことが確認されたたためである。
【0045】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を、測定視野の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0046】
<第2相>
≪第2相の組成≫
実施形態1の超硬合金において、第2相は、コバルトからなる。第2相は、第1相を構成する炭化タングステン粒子同士を結合させる結合相である。
【0047】
本開示において、「第2相はコバルト(Co)からなる」とは、「本開示の効果を損なわない限りにおいて、第2相がコバルトとともに不純物を含む」場合も含まれる。不純物は、例えば、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、モリブデン(Mo)、硫黄(S)、アルミニウム(Al)が挙げられる。
【0048】
≪超硬合金のコバルト含有率≫
実施形態1の超硬合金において、超硬合金のコバルト含有率C5は、3質量%以上15質量%以下である。超硬合金のコバルト含有率C5の下限は、靭性向上の観点から、3質量%以上であり、4質量%以上でもよく、5質量%以上でもよく、6質量%以上でもよい。超硬合金のコバルト含有率C5の上限は、硬度向上の観点から、15質量%以下であり、11質量%以下でもよく、9質量%以下でもよい。超硬合金のコバルト含有率は、4質量%以上11質量%以下でもよく、5質量%以上9質量%以下でもよい。
【0049】
本開示において、超硬合金のコバルト含有率C5は、コバルト滴定法により測定される。コバルト滴定法は、日本機械工具工業会規格(TAS0054:2017)またはISO3909:1976に準拠して行われる。具体的には以下の手順で行われる。超硬合金からなる試料を粉砕し、49メッシュの篩を通す。試料を硝酸、フッ化水素酸に溶解し、クエン酸アンモニウム及びアンモニア水を加えた後、白金及び飽和カロメル(タングステン)電極を用い、フェリシアン化カリウム(赤血塩)で電位差滴定を行う。測定装置は、東亜ディーケーケー社製「AUT-501」を用いる。
【0050】
<第3相>
≪第3相の組成≫
実施形態1の超硬合金において、第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなる。第3相は、炭化タングステンを含まない。第3相は、超硬合金の耐反応性および耐酸化性を向上させることができる。よって、該超硬合金を備える切削工具は、耐反応性および耐酸化性が向上する。
【0051】
本開示において、「第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなる。」とは、「本開示の効果を損なわない限りにおいて、第3相が不純物を含む」場合も含まれる。不純物は、例えば、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、モリブデン(Mo)、硫黄(S)、アルミニウム(Al)が挙げられる。
【0052】
第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも2種の元素を含んでいてもよい。
【0053】
第3相は、例えば、炭化チタン(TiC)、炭化タンタル(TaC)、炭化ニオブ(NbC)、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、炭窒化ジルコニウム(ZrCN)、炭化ジルコニウム(ZrC)およびこれらの化合物由来の固溶体からなる群より選択される少なくとも1種を含むことができる。固溶体としては、例えば、WTiCN、WTiTaCN、WTiTaNbZrCNが挙げられる。
【0054】
本開示において、第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなり、かつ、第3相は、炭化タングステンを含まないことは、以下の手順で確認される。
【0055】
(A3)超硬合金の任意の位置をイオンスライサ(装置:日本電子社製 IB09060CIS(商標))を用いて薄片化し、厚さ30~100nmのサンプルを作製する。イオンスライサの加速電圧は、薄片化加工では6kV、仕上加工では2kVである。
【0056】
(B3)上記サンプルを走査透過型電子顕微鏡(STEM)(装置:日本電子社製のJFM-ARM300F(商標))にて50000倍で観察することによってSTEM-HAADF(high-angle annular dark field scanning transmission electron microscope)像を得る。STEM-HAADF像の撮影領域は、サンプルの中央部、すなわち、超硬合金の表面近傍などバルク部分とは明らかに性状が異なる部分を含まない位置(撮像領域がすべて超硬合金のバルク部分となる位置)に設定する。測定条件は、加速電圧200kVである。
【0057】
(C3)STEM-HAADF像中に存在する第3相に対してSTEMに付属するEDX(STEM-EDX)により、スポット分析を実行し、第3相を構成する元素を定量する。スポットサイズは第3相毎に、第3相のみを含む範囲に設定する。構成元素を定量化した結果、以下の(a)および(b)を満たす場合、第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなることが確認される。
(a)第3相に、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、が存在する。
(b)第3相に、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、タングステン、炭素および窒素以外の不純物元素が確認されない、または、これらの不純物元素含有率が0.1質量%未満である。
【0058】
第3相に対して、上記EDX(STEM-EDX)によりスポット分析を実行した結果、タングステンと炭素のみが検出され、タングステンと炭素の合計質量に対する炭素の含有率が約6.1質量%である場合、第3相が炭化タングステンを含むと判断される。換言すれば、第3相に対して、上記EDX(STEM-EDX)によりスポット分析を実行した結果、タングステンおよび炭素以外の元素が確認される場合、第3相は炭化タングステンを含まないと判断される。
【0059】
≪超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率C≫
実施形態1の超硬合金において、超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率Cは、2質量%以上8質量%以下である。超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率Cの下限は、耐反応性および耐酸化性向上の観点から、2質量%以上であり、3質量%以上でもよく、4質量%以上でもよい。超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率Cの上限は、超硬合金の熱伝導率向上の観点から、8質量%以下であり、7質量%以下でもよく、6質量%以下でもよい。超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率Cは、2質量%以上8質量%以下であり、3質量%以上7質量%以下でもよく、4質量%以上6質量%以下でもよい。ここで、第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも2種の元素を含んでいてもよい。本開示において、超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率Cとは、超硬合金がチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの全てを含む場合は、これらの全ての元素の合計含有率を意味し、超硬合金が、チタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムからなる群より選ばれる1種以上3種以下の元素を含む場合は、含まれる元素の合計含有率を示す。
【0060】
本開示において、超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率Cは、ICP発光分光分析法により測定される。
【0061】
<ビッカース硬度>
実施形態1の超硬合金におけるビッカース硬度について、
図1および
図2を用いて説明する。
図1は、実施形態1の超硬合金の断面を模式的に示す図である。
図2は、実施形態1の超硬合金の表面からの距離とビッカース硬度との関係の一例を示すグラフである。
図2のグラフにおいて、X軸は、超硬合金の表面からの距離(単位:μm)を示し、左側のY軸は、ビッカース硬度(単位:GPa)を示す。ここで、「超硬合金の表面からの距離」とは、超硬合金の表面の法線方向に沿う、超硬合金の表面から内部側への距離(単位:μm)と同義である。なお、
図2には、実施形態1の超硬合金の表面からの距離と、チタン、タンタル、ニオブおよびコバルトのそれぞれの含有率(質量%)との関係の一例も示されている。この場合、
図2のグラフにおいて、X軸は、超硬合金の表面からの距離(単位:μm)を示し、右側のY軸は、各元素の含有率(質量%)を示す。
【0062】
実施形態1の超硬合金は、表面S1から、表面S1の法線方向に沿う距離が5μmである地点P1でのビッカース硬度aが12.5GPa以上14.5GPa以下である。
図1において、地点P1は、表面S1からの超硬合金の内部側への距離が5μmである仮想面Q1上に位置する。該超硬合金の表面側は比較的硬度が低く、適度な靱性を有するため、該超硬合金を備える工具は、切削初期の欠損が抑制される。
【0063】
図1に示されるように、実施形態1の超硬合金は、表面S1からの超硬合金の内部側への距離が5μmである仮想面Q1と、表面S1から超硬合金の内部側への距離が200μmである仮想面Q4とに挟まれる第1領域A1を含む。第1領域A1は、超硬合金の表面S1から超硬合金の内部側への距離が10μmである仮想面Q2と、表面S1から超硬合金の内部側への距離が50μmである仮想面Q3と、に挟まれる第2領域A2を含む。
【0064】
第1領域A1において、ビッカース硬度の最大値であるビッカース硬度bを示す地点P2は第2領域A2に存在する。該超硬合金では、表面からの距離が10μm以上50μm以内である第2領域内に、これよりも表面側である地点P1の硬度よりも、1.8GPa以上高い硬度を示す領域が存在する。よって、該超硬合金を備える切削工具は、切削初期に超硬合金の表面が摩耗除去された場合であっても、第2領域内に存在する表面よりも硬度が高い領域により、優れた耐摩耗性を有することができる。
【0065】
ビッカース硬度bを示す位置が、基材の表面からの距離が10μm未満の領域内であると、基材の表面近傍に存在する、比較的硬度が低く、適度な靱性を有する領域が小さくなり、切削初期の欠損の抑制効果が低下する傾向にある。ビッカース硬度bを示す位置が、基材の表面からの距離が50μm超の領域内であると、比較的硬度の低い領域が大きくなり、切削工具の耐摩耗性が低下する傾向にある。
【0066】
実施形態1の超硬合金において、ビッカース硬度aの下限は、過剰な摩耗の発生を抑制する観点から、12.5GPa以上であり、12.6GPa以上でもよく、12.9GPa以上でもよく、13.0GPa以上でもよい。ビッカース硬度aの上限は、耐欠損性向上の観点から、14.5GPa以下であり、14.4GPa以下でもよく、14.2GPa以下でもよく、14.1GPa以下でもよく、14.0GPa以下でもよい。ビッカース硬度aは、12.6GPa以上14.4GPa以下でもよく、12.9GPa以上14.2GPa以下でもよく、13.0GPa以上14.0GPa以下でもよい。
【0067】
実施形態1の超硬合金において、ビッカース硬度bとビッカース硬度aとの差b-aの下限は、超硬合金の表面付近の硬度を高くし、超硬合金の耐摩耗性を向上させる観点から、1.8GPa以上であり、2.0GPa以上でもよく、2.1GPa以上でもよく、2.3GPa以上でもよく、2.6GPa以上でもよい。差b-aの上限は、3.5GPa以下でもよく、3.4GPa以下でもよく、3.3GPa以下でもよく、3.2GPa以下でもよく、3.1GPa以下でもよい。差b-aは、1.8GPa以上3.5GPa以下でもよく、2.0GPa以上3.4GPa以下でもよく、2.1GPa以上3.3GPa以下でもよく、2.3GPa以上3.2GPa以下でもよく、2.6GPa以上3.1GPa以下でもよい。
【0068】
実施形態1の超硬合金において、ビッカース硬度bの下限は、耐摩耗性向上の観点から、14.0GPa以上でもよく、14.3GPa以上でもよく、14.5GPa超でもよく、14.6GPa以上でもよく、14.8GPa以上でもよい。ビッカース硬度bの上限は、耐欠損性向上の観点から、18.0GPa以下でもよく、17.9GPa以下でもよく、17.8GPa以下でもよい。ビッカース硬度bは、14.0GPa以上18.0GPa以下でもよく、14.3GPa以上17.9GPa以下でもよく、14.5GPa超17.8GPa以下でもよく、14.6GPa以上17.7GPa以下でもよく、14.8GPa以上17.6GPa以下でもよい。
【0069】
実施形態1の超硬合金において、ビッカース硬度bと、超硬合金の表面から、表面の法線方向に沿う超硬合金の内部側への距離が200μmである地点P4におけるビッカース硬度cとの差b-cは0.3GPa以上1.0GPa以下であってもよい。
【0070】
実施形態1の超硬合金において、ビッカース硬度bとビッカース硬度cとの差b-cの下限は、0.1GPa以上でもよく、超硬合金の内部での耐摩耗性と耐欠損性とのバランスの観点からは、0.3GPa以上でもよく、0.4GPa以上でもよく、0.5GPa以上でもよい。差b-cの上限は、1.5GPa以下でもよく、超硬合金の内部での耐摩耗性と耐欠損性とのバランスの観点からは、1.0GPa以下でもよく、0.9GPa以下でもよく、0.8GPa以下でもよい。差b-cは、0.3GPa以上1.0GPa以下でもよく、0.4GPa以上0.9GPa以下でもよく、0.5GPa以上0.8GPa以下でもよい。
【0071】
実施形態1の超硬合金において、超硬合金の表面から、表面の法線方向に沿う超硬合金の内部側への距離が200μmである地点P4におけるビッカース硬度cと、ビッカース硬度aとの差c-aは1.2GPa以上であってもよい。差c-aの下限は、0.6GPa以上でもよく、超硬合金の内部での耐摩耗性と耐欠損性とのバランスの観点からは、1.2GPa以上でもよく、1.5GPa以上でもよく、1.6GPa以上でもよく、1.7GPa以上でもよい。差c-aの上限は特に制限されないが、例えば、2.8GPa以下でもよい。差c-aは、1.2GPa以上2.8GPa以下でもよく、1.5GPa以上2.6GPa以下でもよい。
【0072】
実施形態1の超硬合金において、ビッカース硬度cの下限は、耐摩耗性向上の観点から、14.0GPa以上でもよく、14.2GPa以上でもよく、14.5GPa超でもよく、14.6GPa以上でもよく、14.8GPa以上でもよい。ビッカース硬度bの上限は、耐欠損性向上の観点から、18.0GPa以下でもよく、17.9GPa以下でもよく、17.8GPa以下でもよい。ビッカース硬度bは、14.0GPa以上18.0GPa以下でもよく、14.3GPa以上17.9GPa以下でもよく、14.5GPa超17.8GPa以下でもよく、14.6GPa以上17.7GPa以下でもよく、14.8GPa以上17.6GPa以下でもよい。
【0073】
本開示において、超硬合金のビッカース硬度は、マイクロビッカース硬さ試験機(ヒューチュアテック社製「FM810」(商標))を用いて測定される。測定条件は、試験荷重500g、荷重保持時間10秒、測定温度18℃以上28℃以下である。
【0074】
本開示において、超硬合金のビッカース硬度の測定は、以下の手順で行われる。超硬合金を樹脂に埋め込んだ状態で、ダイヤモンドペーストで研磨し、
図3に示されるように、超硬合金の表面S1とのなす角度θが5.7°である断面S2を露出させることにより、測定用試料を得る。測定用試料において、断面S2上に任意の地点B1を設定した場合、超硬合金の表面S1と地点B1との断面S2に沿う最短距離L2は、表面S1と同一面上の仮想面S11と地点B1との表面S1の法線方向に沿う距離L1の10倍となる。この関係に基づき、断面S2上で超硬合金のビッカース硬度を測定することにより、超硬合金の表面S1から所定の距離におけるビッカース硬度を得ることができる。
【0075】
ビッカース硬度の測定では、断面S2に対して垂直な方向に圧子を押し込む。測定位置は、断面S2に設けられた表面S2と交差する仮想の直線上に設定される。直線上に以下(a)および(b)に記載の地点を設定し、各地点において、ビッカース硬度の測定を行う。
(a)仮想面S11から表面S1の法線方向に沿う距離が5μmである地点。
(b)仮想面S11から表面S1の法線方向に沿う距離が10μm以上200μm以内であって、法線方向に沿って10μm間隔毎の地点。仮想面S11からの距離が10μmの地点、および、仮想面S11からの距離が200μmの地点も含む。
【0076】
上記の測定を、異なる3本の仮想の直線上のそれぞれで行う。本開示において、仮想面S11からの距離Lが同一である3箇所での超硬合金のビッカース硬度の測定値の平均が、超硬合金の表面S1からの距離Lの地点におけるビッカース硬度に該当する。
【0077】
出願人が測定する限りでは、上記ビッカース硬度の測定を、同一の試料において測定位置を変更して複数回行っても、測定結果にほとんどばらつきがないことが確認されている。
【0078】
<チタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率>
実施形態1の超硬合金におけるチタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Ni)およびジルコニウム(Zr)の質量基準の合計含有率について、
図1および
図2を用いて説明する。
図2は、実施形態1の超硬合金の表面からの距離と、チタン、タンタル、ニオブおよびコバルトのそれぞれの含有率(質量%)との関係の一例を示すグラフである。
図2では、超硬合金が、チタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムのうち、チタン、タンタルおよびニオブを含み、ジルコニウムを含まない場合が示されている。実施形態1の超硬合金は、チタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムのうち、少なくとも1種の元素を含むことができる。
【0079】
実施形態1の超硬合金において、超硬合金の表面から表面の法線方向に沿う超硬合金の内部側への距離が200μmである地点P4におけるチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率C1に対する、ビッカース硬度bを示す地点P2におけるチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率C2の割合C2/C1は、1.1以上1.5以下であってもよい。これは、ビッカース硬度の大きい場所では、ビッカース硬度の小さい場所に比べて、チタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率が大きいことを示している。チタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムは、超硬合金の耐酸化性を向上させることができる。割合C2/C1が1.1以上1.5以下の超硬合金では、ビッカース硬度bを示す領域は、優れた耐酸化性を有すると推察される。
【0080】
実施形態1において、割合C2/C1の下限は、1.0以上でもよく、超硬合金の内部での耐摩耗性と耐欠損性とのバランスの観点からは、1.1以上でもよく、1.2以上でもよい。割合C2/C1の上限は、2.0以下でもよく、超硬合金の内部での耐摩耗性と耐欠損性とのバランスの観点からは、1.5以下でもよく、1.4以下でもよい。割合C2/C1は、1.1以上1.5以下でもよく、1.2以上1.4以下でもよい。
【0081】
例えば、
図2に示される超硬合金では、地点P4では、Tiの含有率は2.6質量%、Taの含有率は3.3質量%、Nbの含有率は0.7質量%であり、Ti、TaおよびNbの合計含有率C1は6.6質量%である。
図2では、地点P2では、Tiの含有率は2.8質量%、Taの含有率は4.1質量%、Nbの含有率は0.9質量%であり、Ti、TaおよびNbの合計含有率C2は7.8質量%である。
図2に示される超硬合金は、C2/C1が1.2である。
【0082】
実施形態1において、合計含有率C1の下限は、2.0質量%以上でもよく、3.0質量%以上でもよく、4.0質量%以上でもよい。合計含有率C1の上限は、8.0質量%以下でもよく、7.1質量%以下でもよく、6.0質量%以下でもよい。合計含有率C1は、2.0質量%以上8.0質量%以下でもよく、3.0質量%以上7.1質量%以下でもよく、4.0質量%以上6.0質量%以下でもよい。
【0083】
実施形態1において、合計含有率C2の下限は、2.0質量%以上でもよく、2.2質量%以上でもよく、2.4質量%以上でもよく、3.6質量%以上でもよく、4.8質量%以上でもよい。合計含有率C2の上限は、16.0質量%以下でもよく、12.0質量%以下でもよく、11.0質量%以下でもよく、10.0質量%以下でもよい。合計含有率C2は、2.0質量%以上16.0質量%以下でもよく、3.6質量%以上12.0質量%以下でもよく、4.8質量%以上11.0質量%以下でもよい。
【0084】
本開示において、地点P4におけるチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率C1、および、地点P2におけるチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率C2は、走査型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分光装置(SEM-EDX、オックスフォード・インストゥルメンツ社製の「EMAX-ACT」)を用いて、ビッカース硬度の測定時と同一の超硬合金の断面S2において測定される。EDXの測定条件は、観察倍率3000倍、加速電圧15kVである。合計含有率C1および合計含有率C2は、ビッカース硬度の測定時と同一の超硬合金の断面において測定される。
【0085】
合計含有率C1の測定手順は以下の通りである。超硬合金の断面S2において、超硬合金の表面から、表面の法線方向に沿う超硬合金の内部側への距離が200μmに対応する位置であり、かつ、互いに重複しない3箇所でチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率の測定を行い、3箇所での該合計含有率の平均を算出する。該平均が、合計含有率C1に該当する。
【0086】
合計含有率C2の測定手順は以下の通りである。超硬合金の断面S2において、ビッカース硬度bの測定された地点に形成された圧子による窪み(圧痕)の外縁からの距離が200μm以内の位置の1箇所でチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率の測定を行う。測定は、3つの圧痕のそれぞれの外縁からの距離が200μm以内の位置で行い、3箇所での該合計含有率の平均を算出する。該平均が、合計含有率C2に該当する。
【0087】
<コバルト含有率>
実施形態1の超硬合金におけるコバルト(Co)の質量基準の含有率について、
図1および
図2を用いて説明する。実施形態1の超硬合金において、超硬合金の表面S1から、表面S1の法線方向に沿う超硬合金の内部側への距離が200μmである地点P4におけるコバルトの質量基準の含有率C3に対する、超硬合金の表面S1におけるコバルトの質量基準の含有率C4の割合C4/C3は、1.1以上2.0以下であってもよい。該超硬合金の表面は、超硬合金の表面からの距離が200μmの地点よりも、コバルトの質量基準の含有率が大きい。コバルトの含有率が多いと、靭性が向上する傾向がある。割合C4/C3が1.1以上2.0以下を満たす超硬合金は、表面のコバルトの含有率が多いことにより、表面において優れた靭性を有すると推察される。
【0088】
実施形態1の超硬合金において、割合C4/C3の下限は、切削初期の耐欠損性の向上の観点から1.1以上でもよく、1.2以上でもよく、1.3以上でもよい。割合C4/C3の上限は、超硬合金の内部での耐摩耗性と耐欠損性とのバランスの観点から、2.0以下でもよく、1.9以下でもよい。割合C4/C3は、1.2以上1.9以下でもよく、1.3以上1.8以下でもよい。
【0089】
例えば、
図2に示される超硬合金では、地点P4のCoの含有率C3は6.2質量%であり、表面のCoの含有率C4は9.4質量%であり、C4/C3が1.5
である。
【0090】
実施形態1において、コバルトの含有率C3の下限は、3質量%以上でもよく、4質量%以上でもよい。コバルトの含有率C3の上限は、15質量%以下でもよく、14質量%以下でもよい。コバルトの含有率C3は、3質量%以上15質量%以下でもよく、4質量%以上14質量%以下でもよい。
【0091】
実施形態1において、コバルトの含有率C4の下限は、3.9質量%以上でもよく、4質量%以上でもよく、5質量%以上でもよい。コバルトの含有率C4の上限は、30質量%以下でもよく、20質量%以下でもよい。コバルトの含有率C4は、4質量%以上30質量%以下でもよく、5質量%以上20質量%以下でもよい。
【0092】
<ジルコニウム含有率>
実施形態1の超硬合金は、ジルコニウム(Zr)を含むことができる。ジルコニウムは超硬合金の高温硬度を向上させる作用を有する。超硬合金において、コバルトの質量に対するジルコニウムの質量の百分率は、0%以上6%以下でもよい。これによると、超硬合金の高温硬度が向上するため、工具寿命が向上する。超硬合金において、コバルトの質量に対するジルコニウムの質量の百分率が6%を超えると、ジルコニウムのコバルトへの固溶限界を超え、超硬合金中にジルコニウムが炭化物などの形態で析出し、超硬合金の耐欠損性が悪化する傾向がある。
【0093】
超硬合金において、コバルトの質量に対するジルコニウムの質量の百分率の上限は、耐欠損性と高温硬度向上のバランスの観点から、6%以下でもよく、5%以下でもよく、4%以下でもよい。超硬合金において、コバルトの質量に対するジルコニウムの質量の百分率の下限は、高温硬度向上の観点から、1%以上でもよく、2%以上でもよい。超硬合金において、コバルトの質量に対するジルコニウムの質量の百分率は、1%以上5%以下でもよく、2%以上4%以下でもよい。
【0094】
超硬合金のジルコニウム含有率は、ICP発光分光分析法により測定される。
【0095】
<超硬合金の組成>
実施形態1の超硬合金は、第1相と、第2相と、第3相と、を含む。実施形態1の超硬合金は、第1相と、第2相と、第3相と、からなってもよい。本開示の効果を損なわない限りにおいて、実施形態1の超硬合金は、第1相、第2相および第3相に加えて、その他の相を含むことができる。その他の相としては、例えばクロムの炭化物が挙げられる。本開示の効果を損なわない限りにおいて、実施形態1の超硬合金は、第1相、第2相および第3相に加えて、不純物を含むことができる。不純物は、例えば、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、硫黄(S)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、が挙げられる。超硬合金の不純物の含有率(不純物を構成する元素が2種類以上の場合は、それらの合計濃度。)は、0.1質量%未満でもよい。超硬合金の不純物の含有率は、ICP発光分光分析法により測定することができる。
【0096】
<超硬合金の製造方法>
実施形態1の超硬合金は、例えば、原料粉末の準備工程、混合工程、成形工程、焼結工程、冷却工程を前記の順で行うことにより製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0097】
≪原料粉末の準備工程≫
原料粉末の準備工程では、超硬合金を構成する材料の全ての原料粉末を準備する。原料粉末として、第1相の原料である炭化タングステン粉末、第2相の原料であるコバルト(Co)粉末、第3相の原料である炭化チタン(TiC)粉末、窒化チタン(TiN)粉末、炭化タンタル(TaC)粉末、炭化ニオブ(NbN)粉末、炭化ジルコニウム(ZrC)粉末(以下「第3相原料粉末」とも記す。)を準備する。必要に応じて、粒成長抑制剤として、炭化クロム(Cr3C2)粉末を準備することができる。これらの原料粉末は、市販のものを用いることができる。
【0098】
炭化タングステン粉末(以下、「WC粉末」とも記す。)の平均粒径は、1.5μm以上6.0μm以下とすることができる。コバルト粉末の平均粒径は、0.5μm以上3.0μm以下とすることができる。第3相原料粉末の平均粒径は、0.5μm以上4.0μm以下とすることができる。炭化クロム粉末の平均粒径は、1.0μm以上2.0μm以下とすることができる。本開示において、これらの粉末の平均粒径は、FSSS(Fisher Sub-Sieve Sizer)法により測定される平均粒径を意味する。該平均粒径は、Fisher Scientific社製の「Sub-Sieve Sizer モデル95」(商標)を用いて測定される。
【0099】
≪混合工程≫
混合工程において、準備工程で準備した各原料粉末を混合して混合粉末を得る。混合粉末の各原料粉末の含有率は、超硬合金の第1相、第2相および第3相の各成分の含有率を考慮して、適宜調整される。
【0100】
混合方法は特に制限されず、ボールミルやアトライターなど、従来公知の方法を用いることができる。混合条件も特に制限されず、従来公知の条件を用いることができる。
【0101】
混合工程の後、必要に応じて混合粉末を造粒してもよい。混合粉末を造粒することで、後述する成形工程の際にダイまたは金型へ混合粉末を充填し易い。造粒には、公知の造粒方法が適用でき、例えば、スプレードライヤー等の市販の造粒機を用いることができる。
【0102】
≪成形工程≫
成形工程は、混合工程で得られた混合粉末を所定の形状に成形して、成形体を得る工程である。成形工程における成形方法および成形条件は、一般的な方法および条件を採用すればよく、特に問わない。所定の形状としては、例えば、切削工具形状とすることが挙げられる。
【0103】
≪焼結工程≫
焼結工程において、成形工程で得られた成形体を焼結して、超硬合金を得る。まず、焼結開始から液相出現前の温度(例えば、1300℃)まで加熱する際は、焼結炉内の真空度を低くした条件下(例えば、アルゴン導入により2kPaG以上10kPaG以下)で加熱する。この条件により、原料粉末からの脱窒が抑制された状態で、原料粉末が加熱される。その後、同様の圧力条件を維持したまま、温度を1450℃付近(1400℃以上1450℃以下)まで加熱し、1450℃付近に到達した時点で、焼結炉内を、短時間(例えば300秒以内)で真空(圧力0.1kPaG)に引く。この操作により、粉末からの脱窒が短時間で急激に進行し、超硬合金の表面側に存在するチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムが、超硬合金の内部側へ移動しにくくなり、超硬合金の表面領域にチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの濃度の高い領域を形成することができる。この状態で20分以上40分以下維持して、成形体を焼結させて超硬合金を得る。
【0104】
≪冷却工程≫
冷却工程は、焼結完了後の超硬合金を冷却する工程である。1300℃までの冷却速度は、緩やかな条件(例えば-2℃/分)とする。これにより、超硬合金の表面にコバルトが移動しやすく、超硬合金の表面にコバルト濃度の高い領域を形成することができる。
【0105】
[実施形態2:切削工具]
実施形態2の切削工具は、実施形態1の超硬合金を備える。実施形態2の切削工具は、少なくとも実施形態1の超硬合金からなる刃先を含むことができる。本開示において、刃先とは、切削に関与する部分を意味し、超硬合金において、その刃先稜線と、該刃先稜線から超硬合金側への距離が0.5mm以内である領域を意味する。
【0106】
切削工具としては、例えば、切削バイト、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切り工具、リーマまたはタップ等を例示できる。
【0107】
実施形態2の超硬合金は、これらの工具の全体を構成していてもよいし、一部を構成するものであってもよい。ここで「一部を構成する」とは、任意の基材の所定位置に実施形態2の超硬合金をロウ付けして刃先部とする態様等を示している。
【0108】
実施形態2の切削工具は、超硬合金からなる基材の表面の少なくとも一部を被覆する硬質膜を更に備えてもよい。硬質膜としては、例えば、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンド、Al2O3またはTiCNからなる膜を用いることができる。硬質膜は化学気相成長法(CVD法)により成膜されたCVD膜であってもよい。
【実施例】
【0109】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0110】
<超硬合金の作製>
≪原料粉末の準備工程≫
原料粉末として、表1の「原料」欄に示す組成の粉末を準備した。炭化タングステン(WC)粉末の平均粒径は3.2μmであり、コバルト(Co)粉末の平均粒径は1.2μmであり、炭化クロム(Cr3C2)粉末の平均粒径は1.5μmであり、炭化チタン(TiC)粉末の平均粒径は1.5μmであり、窒化チタン(TiN)粉末の平均粒径は2.0μmであり、炭化タンタル(TaC)粉末の平均粒径は1.0μmであり、炭化ニオブ(NbC)粉末の平均粒径は1.1μmであり、炭化ジルコニウム(ZrC)粉末の平均粒径は1.5μmである。
【0111】
≪混合工程≫
各原料粉末を表1の「原料」の「含有率 質量%」欄に示される配合量で混合し、混合粉末を作製した。表1の「原料」欄の「質量%」とは、原料粉末の合計質量に対する、各原料粉末の質量の百分率を示す。混合はアトライターを用いて行った。混合時間は8時間とした。得られた混合粉末をスプレードライ乾燥して造粒粉末とした。
【0112】
≪成形工程≫
得られた造粒粉末をプレス成形して、チップ形状の成形体を作製した。
【0113】
≪焼結工程≫
成形体を焼結炉に入れ、加熱して焼結させた。焼結開始から1300℃まで加熱する際の焼結炉内の圧力は、表2の「焼結」の「~1300℃ 圧力」欄に記載の通りである。その後、同様の圧力条件を維持したまま、温度を1450℃まで加熱した。
【0114】
表2の「焼結」の「真空引き」欄に「有」と記載されている試料では、温度が1450℃に到達した時点で、焼結炉内を300秒以内で真空(圧力0.1kPaG)に引いた。この状態で20分以上40分以下維持して、成形体を焼結させて超硬合金を得た。
【0115】
表2の「焼結」の「真空引き」欄に「無」と記載されている試料では、温度が1450℃に到達した時点で、焼結炉内の圧力を1kPaGとし、この状態で20分以上40分以下維持して、成形体を焼結させて超硬合金を得た。
【0116】
≪冷却工程≫
焼結完了後、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中、徐冷して、超硬合金を得た。各試料での1300℃までの冷却速度は表2の「冷却」の「速度」欄に記載の通りである。
【0117】
【0118】
【0119】
<超硬合金の評価>
≪超硬合金の組成≫
各試料の超硬合金について、超硬合金の第1相含有率、超硬合金のコバルト含有率C5、超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率Cを測定した。ここで、超硬合金のコバルト含有率C5は、超硬合金全体におけるコバルト含有率を意味し、超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率Cは、超硬合金全体におけるチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率を意味する。具体的な測定方法は、実施形態1に記載の通りである。結果を表3の「超硬合金」の「第1相含有率」、「Co含有率」の「C5(全体)」、表4の「Ti,Ta,Zr,Nb合計含有率」の「C(全体)」欄に示す。「Ti,Ta,Zr,Nb含有率」との記載は、必ずしも、各試料がTi、Ta、ZrおよびNbの全てを含むことを示すものではない。
【0120】
≪炭化タングステン粒子の平均粒径≫
全ての試料において、炭化タングステン粒子の平均粒径は、0.5μm以上2.0μm以下であることが確認された。
【0121】
≪第2相の組成≫
全ての試料において、第2相はコバルトからなることが確認された。
【0122】
≪第3相の組成≫
各試料において、第3相に含まれる元素を、STEM-EDXにより特定した。具体的な特定方法は、実施形態1に記載の通りである。結果を表3の「第3相」の「組成」欄に示す。全ての試料において、第3相は表3に記載の元素からなること、および、第3相は炭化タングステンを含まないことが確認された。
【0123】
≪ビッカース硬度≫
各試料の超硬合金について、超硬合金の表面からの距離が5μmである仮想面Q1と、表面からの距離が200μmである仮想面Q4とに挟まれる第1領域において、ビッカース硬度を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。表面からの距離が5μmである地点P1でのビッカース硬度aを表5の「超硬合金」の「ビッカース硬度」の「a(P1)」欄に示す。超硬合金の表面から、表面の法線方向に沿う超硬合金の内部側への距離が200μmである地点P4におけるビッカース硬度cを表5の「超硬合金」の「ビッカース硬度」の「c(P4)」欄に示す。
【0124】
全ての試料において、ビッカース硬度の最大値であるビッカース硬度bを示す地点P2は、超硬合金の表面から超硬合金の内部側への距離が10μmである仮想面Q2と、表面から超硬合金の内部側への距離が50μmである仮想面Q3と、に挟まれる第2領域に存在することが確認された。ビッカース硬度bを表5の「超硬合金」の「ビッカース硬度」の「b(P2)」欄に示す。得られた「a」、「b」、「c」に基づき、「b-a」、「b-c」、「c-a」を算出した。結果を表5に示す。
【0125】
≪チタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率≫
各試料の超硬合金について、超硬合金の表面から、表面の法線方向に沿う超硬合金の内部側への距離が200μmである地点P4におけるチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率C1、および、ビッカース硬度bを示す地点P2におけるチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの質量基準の合計含有率C2を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表4の「Ti、Ta、Ni、Zr合計含有率」の「C1(P4)」および「C2(P2)」欄に示す。得られた「C1」および「C2」に基づき、「C2/C1」を算出した。結果を表4の「C2/C1」欄に示す。
【0126】
≪コバルトの質量基準の含有率≫
各試料の超硬合金について、超硬合金の表面から、表面の法線方向に沿う超硬合金の内部側への距離が200μmである地点P4におけるコバルトの質量基準の含有率C3、および、超硬合金の表面から、前記表面の法線方向に沿う距離が5μmである地点P1におけるコバルトの質量基準の合計含有率C4を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表3の「Co含有率」の「C3(P4)」および「C4(P1)」欄に示す。得られた「C3」および「C4」に基づき、「C4/C3」を算出した。結果を表3の「C4/C3」欄に示す。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
<切削試験1>
各試料の切削工具(工具型番:CNMG120408N-GU(住友電工ハードメタル社製))を用いて以下の条件で旋削加工を行い、15分間切削後の切削工具の逃げ面側の平均摩耗量Vb(mm)を測定した。平均摩耗量Vb(mm)が小さいほど、耐摩耗性が優れており、工具寿命が長いことを示す。切削試験1では、平均摩耗量Vb(mm)が0.40mm以下の場合、耐摩耗性が優れており、工具寿命が長いと判断される。結果を表6の「切削試験1」欄に示す。
【0131】
≪切削条件≫
被削材:S45C
加工:丸棒外径旋削
切削速度:350m/min
送り量:0.25mm/rev
切込み量:2.0mm
切削液:水溶性切削油
上記の切削条件は、高速加工に該当する。
【0132】
<切削試験2>
各試料の切削工具(工具型番:CNMG120408N-GU(住友電工ハードメタル社製))を20個準備し、これらを用いて以下の条件で旋削加工を行い、20秒間切削時の破損率(%)を測定した。破損率が小さいほど、耐欠損性が優れており、工具寿命が長いことを示す。切削試験2では、破損率が25%以下の場合、工具寿命が長いと判断される。結果を表6の「切削試験2」欄に示す。
【0133】
≪切削条件≫
被削材:SCM440(溝付き丸棒)
加工:溝付き丸棒外径断続旋削
切削速度:120m/min
送り量:0.15mm/rev
切込み量:2.0mm
切削液:なし
【0134】
本実施例において、切削試験1において、平均摩耗量Vbが0.40mm以下であり、かつ、切削試験2において、破損率が25%以下の場合、工具寿命が長いと判断される。
【0135】
【0136】
<考察>
試料1~試料17の超硬合金および切削工具は実施例に該当する。試料101~試料113の超硬合金および切削工具は比較例に該当する。試料1~試料17は、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有し、切削試験1および切削試験2のいずれにおいても、長い工具寿命を示した。試料101、試料104および試料107は、耐摩耗性が不十分であり、切削試験1において、工具寿命が不十分であった。試料102、試料103、試料105、試料106、試料108~試料113は、耐欠損性が不十分であり、切削試験2において、工具寿命が不十分であった。
【0137】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0138】
A1 第1領域、A2 第2領域、S1 超硬合金の表面、Q1,Q2,Q3,Q4 仮想面。
【要約】
第1相と、第2相と、第3相と、を含む超硬合金であって、前記第1相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、前記超硬合金の前記第1相の含有率は、65体積%以上85体積%以下であり、前記第2相は、コバルトからなり、前記超硬合金のコバルト含有率C5は、3質量%以上15質量%以下であり、前記第3相は、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウムおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素および窒素の少なくともいずれかと、からなり、前記第3相は、炭化タングステンを含まず、前記超硬合金のチタン、タンタル、ニオブおよびジルコニウムの合計含有率Cは、2質量%以上8質量%以下であり、前記超硬合金のビッカース硬度aは、12.5GPa以上14.5GPa以下であり、前記ビッカース硬度aは、前記超硬合金において、前記超硬合金の表面から、前記表面の法線方向に沿う距離が5μmである地点P1で測定され、前記超硬合金は、前記表面からの距離が5μmである仮想面Q1と、前記表面からの距離が200μmである仮想面Q4とに挟まれる第1領域を含み、前記第1領域は、前記表面からの距離が10μmである仮想面Q2と、前記表面からの距離が50μmである仮想面Q3と、に挟まれる第2領域を有し、前記第1領域において、ビッカース硬度の最大値であるビッカース硬度bを示す地点P2は前記第2領域に存在し、前記ビッカース硬度bと、前記ビッカース硬度aとの差b-aは1.8GPa以上である、超硬合金である。