(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】メッセンジャーRNAキャップのその5’末端に導入された2つのRNA配列での置換
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240806BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20240806BHJP
C12N 15/40 20060101ALI20240806BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240806BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20240806BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20240806BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240806BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240806BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240806BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N15/115 Z ZNA
C12N15/40
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12P19/34 A
A61K31/7105
A61K48/00
A61P37/04
A61P31/14
(21)【出願番号】P 2020564651
(86)(22)【出願日】2019-05-15
(86)【国際出願番号】 FR2019051103
(87)【国際公開番号】W WO2019220058
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-13
(32)【優先日】2018-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】520443941
【氏名又は名称】メッセンジャー、ビオファルマ
【氏名又は名称原語表記】MESSENGER BIOPHARMA
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム、ルモワーヌ
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/112492(WO,A2)
【文献】国際公開第2014/186334(WO,A1)
【文献】SCIENCE,2016年,VOL.354, NO.6316,P.1148-1152
【文献】Drug Delivery System,1998年,Vol.13, No.2,pp.87-93
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’から3’方向に:
-少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N
7-19)GCCA(N
12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列を含んでなる5’-UTR領域であって、前記NがA、U、GまたはCであり、前記Rがプリン(A、G)、かつ、前記Yがピリミジン(U、C)を示す;
-内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列のコピー;および
-オープンリーディングフレーム
を含んでなる、キャップ分子を欠くメッセンジャーリボ核酸(mRNA)分子。
【請求項2】
2コピーのxrRNAを含んでなる、請求項1に記載のmRNA分子。
【請求項3】
配列番号1~44の少なくとも1つの配列番号を含んでなる、請求項1または2に記載のmRNA分子。
【請求項4】
脳心筋炎ウイルス(EMCV)のIRES配列を含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載のmRNA分子。
【請求項5】
ステムループを含んでなり、前記ステム-ループ
が5’-UTR領域の5’末端に位置する、請求項1~4のいずれか一項に記載のmRNA分子。
【請求項6】
配列番号64の配列を有するアプタマーAおよび配列番号66の配列を有するアプタマーCから選択される少なくとも1つのアプタマーを含んでなる、請求項1~5のいずれか一項に記載のmRNA分子。
【請求項7】
請求項6
に記載の
、アプタマーAを含んでなるmRNA分子であって、前記mRNA分子は、ポリヒスチジンタグと融合された細胞膜透過ペプチド(CPP)にさらに結合している、mRNA分子。
【請求項8】
前記CPPが配列番号75の配列を有するM12-H6、配列番号76の配列を有するCPP1-H6、配列番号77の配列を有するCPP2-H6、および配列番号78の配列を有するCPP3-H6から選択される、請求項7に記載のmRNA分子。
【請求項9】
前記オープンリーディングフレームがHRV2ウイルスの2Aproタンパク質をコードする、請求項1~8のいずれか一項に記載のmRNA分子。
【請求項10】
-請求項1~9のいずれか一項に記載のmRNAをコードする配列
;および
-配列番号46により表される配列を含んでなる、T7 RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーター
を含んでなる、
デオキシリボ核酸(DNA)分子。
【請求項11】
請求項5または6に記載のmRNAをコードする配列を含んでなる、デオキシリボ核酸(DNA)分子。
【請求項12】
-5’-UTR領域が、配列番号50、71、72、73、85、または86により表される配列を含んでなり;かつ
-3’-UTR領域が、配列番号53、54、55、および56により表される配列から選択される配列を含んでなる、
請求項10または11に記載のDNA分子。
【請求項13】
請求項1~5のいずれか一項に記載のmRNA分子または請求項10~12のいずれか一項に記載のDNA
分子を含んでなるベクター。
【請求項14】
細菌ベクター、ウイルスベクターまたは合成RNAベクターである、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
請求項10~12
のいずれか一項に記載のDNA分子を少なくとも1種類のRNAポリメラーゼと接触させることを含んでなる、
請求項1~9のいずれか一項に記載の少なくとも1種類のmRNAの
、イン・ビトロ(in vitro)生産方法。
【請求項16】
前記mRNAを精製する工程を含んでなる、請求項
15に記載の生産方法。
【請求項17】
請求項1~9のいずれか一項に記載のmRNAと生理学的に許容される賦形剤および/またはアジュバントとを含んでなる、薬学上許容される組成物。
【請求項18】
遺伝子療法または遺伝子ワクチン接種において使用するための請求項
17に記載の組成物。
【請求項19】
請求項1~9のいずれか一項に記載の少なくとも2つの異なるmRNA分子を含んでなり、前記mRNA分子の少なくとも1つが、2Aproタンパク質をコードしているオープンリーディングフレームを含む、請求項
17または
18に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リボ核酸の分野、より詳しくは、メッセンジャーリボ核酸(mRNA)のイン・ビトロ(in vitro)合成、その安定性および特にトランスフェクト細胞におけるポリペプチドへのその翻訳に関する。
【背景技術】
【0002】
緒論
mRNAは、工業規模でのポリペプチドの生産において不可欠な分子である。その安定性ならびにその転写および翻訳の効率は、下流のポリペプチドの収量、従ってそれらのコストに多大な影響を及ぼす。
【0003】
mRNAはまた、遺伝子療法および遺伝子ワクチン接種で使用される医薬組成物において選択される分子である。実際には、DNA分子とは対照的に、トランスフェクト細胞のゲノムへのmRNA分子の組込みはこれまでに実証されたことはない。しかしながら、mRNA分子はリボヌクレアーゼによる分解を受けやすいので、溶液中でのその安定性は低い。従って、最適な治療効力に必要とされるmRNAの量を低減し、従ってそれらのコストを低減するためにはイン・ビトロおよびイン・ビボ(in vivo)で安定なRNA分子の合成が重要である。さらに、より少量のより安定なmRNAを使用することで治療に関連する副作用のリスクも減る。
【0004】
イン・ビボ合成は、酵母または細菌などの培養細胞で行われる。しかしながら、この方法には多くの欠点がある。対象とする無傷のmRNAの精製は、特に、分解の問題と他の細胞RNAの存在のために高価であり、複雑となる。この方法で生成するものは一般に、イン・ビトロ転写によって得られるものよりも低収量である。
【0005】
結果として、慣用される大規模mRNA合成法は、無細胞イン・ビトロ転写系である。この方法は、少数の精製化合物(すなわち、反応バッファー、遺伝子を含むDNA分子、組換えRNAポリメラーゼおよび4種類のリボヌクレオチド三リン酸)を使用するだけで、生産されるRNAは合成しようとするmRNAだけである。反応混合物中にRNアーゼが存在しないために、反応末端にmRNA分解産物は存在しない。また、他のRNA種も存在せず、これが培養細胞によるmRNA合成に優る主要な利点となる。従って、mRNAの精製は大幅に簡略化される。
【0006】
真核細胞におけるその安定性を確保するために、mRNAはその5’末端に、エキソリボヌクレアーゼからそれを保護するキャップ分子を有する。このキャップは、2つのグアノシンがそれらの5’炭素で3つのリン酸基の鎖によって連結されたものから構成される複合分子である。末端のグアノシンは、グアニンの7位でメチル化されている。mRNAは、Xrn1エキソリボヌクレアーゼによって遂行される段階的な5’から3’への酵素分解に対するこのキャップの耐性によって安定化される。mRNAの安定化におけるその役割に加え、キャップはリボソームの動員(Cowling、2010)を含む他の機能も遂行する。そのために、キャップは翻訳開始因子の動員を始め、次にこの翻訳開始因子がリボソームを動員する。その後、このリボソームがmRNAをタンパク質へと翻訳する。
【0007】
工業規模で、トランスフェクト細胞内でmRNAの安定性を高め、mRNAのポリペプチドへの効率的な翻訳を可能とするためには、キャップ分子が5’末端に組み込まれなければならない。イン・ビトロ転写の際、キャップ分子は、転写後の段階で、ワクシニアウイルス由来の2’-O-メチルトランスフェラーゼなどのキャッピング酵素を用いて付加され得る(Martin et al.,1975)。しかしながら、この付加工程は合成の複雑さを増し、キャッピング酵素の精製を要し、あまり効率的でない(Contreas et al.,1982)。さらに、この酵素は、水溶液中で不安定な分子であるS-アデノシル-L-メチオニンを必要とする。
【0008】
イン・ビトロ転写を簡単にするために、従来技術においてキャップ類似体が開発されているが、しかしながら、これらは満足のいくものではない。一例として、P1-(5’-7-メチル-グアノシル)P3-(5’-(グアノシル))三リン酸)類似体またはP1-(5’-2,2,7-トリメチル-グアノシル)P3-(5’-(グアノシル))三リン酸)類似体を引用することができる。これらの類似体は、ファージRNAポリメラーゼにより媒介される共転写キャッピングを可能とし、それにより、キャップ合成の追加工程をなくし、mRNAの安定性も高め得る。しかしながら、類似体のタイプによって、組み込まれる50%までの分子が逆配向を有し、7-メチルグアノシンヌクレオチドが末端の位置ではなくRNA分子に隣接し、従って、安定性およびmRNA翻訳の効率が低下する(Pasquinelli et al.,1995)。これ以来、米国特許第7074596号に記載のものなど、「アンチリバース」型キャップ類似体(ARCA)が開発された。これらの類似体は、分子の逆組み込みを防ぐ。しかしながら、これらの類似体も、それらを使用するとイン・ビトロmRNA合成の収量に実質的低下が起こるためやはり満足のいくものではない。さらに、キャップ分子およびその化学的に修飾された多くの類似体の合成は、これらの化合物の複雑さのために高価である。工業規模でのイン・ビトロ転写反応混合物にこれらの分子の1つを含めると、mRNA合成のコストが大幅に増す。
【0009】
実際に、イン・ビトロ転写の際に高いキャッピング効率を確保するためには、キャップ類似体を過剰量で提供する必要があり、従って、原料の高コストの一因となる。実際に、各mRNA分子がキャップを有する機会を最大にするためには、GTP分子当たりに4つのキャップ類似体分子という比率が推奨される。これにも関わらず、キャップを有するものは合成されるmRNAの80%だけと推定される。さらに、GTP濃度は、他の3種類のリボヌクレオチド三リン酸の5分の1となり、転写収量が5分の1となる。
【0010】
イン・ビトロ転写の高いコストを低減する1つの方法は、この方法に使用されるDNAおよび/またはRNAポリメラーゼの生産コストを引き下げることである。しかしながら、得られたコスト低減はなお比較的小さい。あるいは、無細胞系でのイン・ビトロ転写により環状無キャップのmRNAを合成することも可能である(WO2014/186334A1)。しかしながら、著者らは、トランスフェクト細胞において、環状mRNAはキャップ付きの線状mRNAよりも翻訳効率が低いことを示している(WO2014/186334A1の例えば、
図2および3ならびに段落[00121]および[00131]参照)。
【発明の概要】
【0011】
結果として、高い安定性ならびに高い翻訳効率を有する、好ましくは、キャップ付きのmRNA分子と少なくとも同等に高い安定性および翻訳効率を有するmRNA分子がなお必要である。また、簡単な生産方法を持ち、製造コストが著しく低減されるRNA分子も必要である。
【0012】
説明
本発明は、高い効率で翻訳され得る安定な無キャップmRNA分子に関する。このmRNAは、その生産コストがキャップ分子またはその類似体を含んでなる従来のmRNAよりもずっと低いため特に有利である。本発明はまた、イン・ビトロ転写収量がキャップ分子またはその類似体を含んでなる従来のmRNAに比べて向上しているmRNA分子に関する。実際に、本発明のmRNAはまた、その生産コストが著しく低減され、かつ/またはその合成収量が高まっているにもかかわらず、前記mRNAは、培養細胞および組織にトランスフェクトする際に従来のキャップ付きのmRNAと少なくとも同等の効率であるため有利である。実際に、本発明者らは、極めて意外なことに、イン・ビボトランスフェクション後に得られる発現レベルおよび発現期間がキャップ付きのmRNAのものと少なくとも同等の高さであることを実証した。特に、Caco-2細胞におけるリポータータンパク質の発現動態は、本発明のmRNAでトランスフェクトしても対照のキャップ付きのmRNAでトランスフェクトしても同じである(
図2および3)。同様に、本発明者らは、極めて意外なことに、本発明のmRNAがイン・ビボにおいてマウスの真皮または筋肉にトランスフェクトされた場合に、リポータータンパク質の発現が、対照のキャップ付きのmRNAがトランスフェクトされた場合の2倍~約10倍であることを示した(
図5および
図15)。しかしながら、この反応は、追加のキャッピング工程の必要がないため簡略化される。また、イン・ビトロ転写の際に反応混合物にキャップ類似体分子を含む必要もない。従って、本発明のmRNA分子は、発現が少なくとも同等の高さである従来技術のmRNAに比べて、低いコストおよび容易な生産という点で明らかに有利である。
【0013】
本願の目的において、用語「mRNA分子」は、いずれの直鎖リボヌクレオチドも意味する。本願において、これらの配列は、5’-UTR領域で始まって5’から3’方向に表される。
【0014】
「リボヌクレオチド」とは、いずれの天然リボヌクレオチド(例えば、グアニン、シチジン、ウリジン、アデノシン)、ならびにこれらのヌクレオチドの類似体ならびに化学的または生物学的に修飾された塩基(例えば、メチル化、アルキル化、アシル化、チオール化などによる)、インターカレートされた塩基、修飾されたリボース基および/または修飾されたリン酸基を有するヌクレオチドも意味する。
【0015】
本発明者らは、意外にも、本明細書において、mRNA分子の5’末端のキャップが、フラビウイルス属のウイルスの3’-UTR領域の由来するXrn1エキソリボヌクレアーゼ(xrRNA)に耐性があり、好ましくは、オープンリーディングフレームにより内部リボソーム進入部位(IRES)を伴う少なくとも1コピーの配列で置換され得ることを示した。極めて有利には、このようなmRNA分子のイン・ビトロ転写による生産コストは、キャップ付きのmRNA分子の約30分の1となり、その収量が向上する。さらに、本発明のmRNA分子は、トランスフェクト細胞内で特に安定であり、しかも無キャップであっても効率的に翻訳される。
【0016】
「キャップ」とは、mRNAから転写された最初のヌクレオチドに5’-5’三リン酸結合により連結可能な7-メチルグアノシン(N7-メチルグアノシンまたはm7G)ヌクレオシドならびにその任意の突然変異体、変異体、類似体またはフラグメントを意味する。限定されるものではないが、キャップ類似体には、非メチル化類似体(例えば、P1-(グアノシル)P3-(5’-(グアノシル))三リン酸)、モノメチル化類似体(例えば、P1-(5’-7-メチル-グアノシル)P3-(5’-(グアノシル))三リン酸)、トリメチル化類似体(例えば、P1-(5’-2,2,7-トリメチル-グアノシル)P3-(5’-(グアノシル))三リン酸)、またはm7グアニン部分3’-OH基の3’-O-メチル基での置換を有する類似体(例えば、ARCA P1-(5’-(3’-O-メチル)-7-メチル-グアノシル)P3-(5’-(グアノシル))三リン酸)が含まれる。
【0017】
よって、第1の態様によれば、本発明は:
・少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N7-19)GCCA(N12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列を含んでなる5’-UTR領域、
・少なくとも1コピーの内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列;および
・少なくとも1つのオープンリーディングフレーム
を含んでなる、キャップ分子を欠くメッセンジャーリボ核酸(mRNA)分子に関する。
【0018】
好ましくは、IRES RNA配列は、各オープンリーディングフレームの上流に位置する。
【0019】
好ましい実施形態によれば、本発明は、5’から3’方向に:
・少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N7-19)GCCA(N12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列を含んでなる5’-UTR領域、
・内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列のコピー;および
・オープンリーディングフレーム
を含んでなる、キャップ分子を欠くメッセンジャーリボ核酸(mRNA)分子に関する。
【0020】
好ましくは、mRNA分子はまた、3’-UTR領域も含んでなる。
【0021】
好ましくは、mRNA分子はまた、mRNA分子の細胞への、好ましくは、筋細胞への浸透を促進する少なくとも1つのRNAアプタマーも含んでなる。このRNAアプタマーは、直接またはペプチドを介して間接的に浸透を著しく促進し得る。
【0022】
好ましくは、mRNA分子はさらに、5’末端にステム-ループを含んでなる。
【0023】
好ましい実施形態では、本発明は、5’から3’方向に:
・少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N7-19)GCCA(N12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列を含んでなる5’-UTR領域、
・内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列のコピー;および
・オープンリーディングフレーム
からなる、キャップ分子を欠くメッセンジャーリボ核酸(mRNA)分子に関する。
【0024】
従来技術において、フラビウイルスの3’-UTR非翻訳領域はXrn1を遮断し、従って、下流配列を保護する特性を有することが示されている(Chapman et al.,2014)。RNAのこの領域は、それ自体で折り畳まれて、Xrn1の進行および従ってウイルスサブゲノムRNAの分解を阻害する複雑な三次元構造を形成する少なくとも1つの配列から構成される。しかしながら、このような配列は、これまでにはmRNAの5’側に挿入されたことはなかった。実際に、これらの配列はそれらの機能を遂行するためにフラビウイルスゲノムの3’-UTRと前後関係がある必要があると思われた。特に、これらの三次元構造は、フラビウイルス3’-UTR領域の配列がもはや前後にない場合には正しく折り畳まれない可能性がある。
【0025】
従来技術は、xrRNA配列は翻訳を阻害することを示唆するが、本発明者らは、意外にも、キャップの保護機能および翻訳開始機能が、翻訳効率に影響を及ぼさずに、好ましくはEMCVウイルス由来の少なくとも1コピーのxrRNA配列および少なくとも1コピーのIRES配列に上手く置換できることを示した。意外にも、xrRNA配列およびIRES配列の使用は、劇的に改善された翻訳効率を可能としさえする。
【0026】
「フラビウイルス」とは、黄熱ウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルス(WNV)、ジカウイルス、日本脳炎ウイルス、ロシオウイルス、マレーバレーウイルス、バガザウイルス、ココベラウイルス、ウンタヤウイルス、ケドゥグウイルス、セピックウイルス、セントルイスウイルス、ウスツウイルス、アルファイウイルス、ウェッセルスブロンウイルス、イルヘウスウイルス、ブスクアラウイルス、テンブスウイルス、チャオヤンウイルス、ヨコセウイルス、ドウカンウイルスならびにフラビウイルス属の他のいずれかのウイルスを含む、フラビウイルス属のいずれのウイルスも意味する。
【0027】
よって、本発明は、mRNAの5’領域に少なくとも1コピーのxrRNA配列を含んでなる安定なmRNA分子に関する。前記mRNAは、キャップ付きの分子の場合と同等のレベルで同等の期間、効率的にタンパク質に翻訳される。本発明の好ましい実施形態によれば、mRNA分子は、2コピーのxrRNAを含んでなる。
【0028】
「Xrn1に耐性のあるRNA配列」または「xrRNA」とは、Xrn1エキソリボヌクレアーゼによるmRNAの分解を低下、緩徐化または防止することを可能とするいずれのポリヌクレオチド配列も意味する。好ましくは、xrRNA配列は、コンセンサス配列を含んでなる。
【0029】
「コンセンサス配列」とは、5’-GUCAGRYC(N7-19)GCCA(N12-19)UGCNRYCUG-3’により表される配列を少なくとも含んでなるいずれの配列も意味し、ここで、各Nは独立にA、C、T、G、およびUから選択されるヌクレオチドまたはその類似体を表し得る。各Rはプリンを表し、各Yはピリミジンを表す。保存されている塩基間のNヌクレオチドの数は、示されているように、コンセンサス配列内で5’から3’方向に7~19塩基および12~19塩基で可変である。前記配列は、ステム-ループ型の三次元構造を形成する。
【0030】
好ましくは、mRNA分子は、配列番号1~配列番号44により表される配列から選択される少なくとも1コピーのxrRNA配列を含んでなる。mRNA分子が2コピー以上の前記配列を含んでなる場合、それらのコピーは同じであっても異なっていてもよい。よって、より好ましくは、mRNA分子は、配列番号11および配列番号26により表される配列の1つを少なくとも1コピー含んでなる。いっそうより好ましくは、mRNA分子は、配列番号11により表される1コピーの配列および配列番号26により表される1コピーの配列を含んでなる。
【0031】
好ましくは、5’-UTR領域に2つのxrRNA配列が存在する場合、それらはスペーサー配列により分離される。同様に、xrRNA配列とIRES配列の間にスペーサー配列が存在してもよい。好ましくは、2つのxrRNA配列間のスペーサー配列は、配列番号47に相当する。好ましくは、xrRNA配列とIRES配列の間のスペーサー配列は、配列番号48に相当する。mRNA分子が少なくとも2つのオープンリーディングフレームを含んでなる場合には、スペーサー配列は、2つのオープンリーディングフレーム間またはオープンリーディングフレームとIRES配列の間に存在することもできる。
【0032】
「スペーサー配列」とは、前記ペーサー配列から上流の配列を下流配列から物理的に分離することを可能とするいずれの非コードポリヌクレオチド配列も意味する。本発明によるmRNA分子は、特に、1以上のスペーサー配列を含んでなる。
【0033】
いくつかの実施形態では、スペーサー配列は、2~300ヌクレオチド長であり得る。好ましくは、スペーサー配列は、2~10ヌクレオチド、いっそうより好ましくは2~5ヌクレオチドである。あるいは、スペーサー配列は、10~150ヌクレオチド、いっそうより好ましくは15~40ヌクレオチドであり得る。好ましくは、スペーサー配列は、二次構造を形成しない。
【0034】
本発明のmRNAはさらに、少なくとも1つの内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列を含んでなる。
【0035】
「内部リボソーム進入部位」または「IRES」とは、mRNA分子の翻訳をキャップとは独立に開始させることを可能とするいずれのポリヌクレオチド配列も意味する。このような配列は、翻訳開始因子と直接相互作用し、この翻訳開始因子は次に翻訳開始コドンにリボソームを動員する。多くのIRES配列が知られている(Mokrejs et al.,2010)。よって、当業者は、IRESとして機能する配列を同定し、本発明の実装形態に好適なものを選択することができる。よって、本発明によるIRES配列は、真核生物起源またはウイルス起源、例えば、ピコルナウイルス属由来のものであり得る。好ましくは、IRES配列は、脳心筋炎ウイルス(EMCV)(Borman et al. 1995)またはヒトelF4G mRNA由来である。いっそうより好ましくは、IRESのDNA配列は、配列番号45に相当する。
【0036】
IRES配列は通常、5’-UTR領域に位置する。IRES配列はまた、2つのオープンリーディングフレームの間に位置してもよく、これにより、単一のmRNAからバイシストロン性またはポリシストロン性の翻訳を開始させることが可能となる。好ましい実施形態では、本発明のmRNAは、前記mRNAの5’領域に単一コピーのIRES配列を含んでなる。好ましい実施形態によれば、第2コピーのIRES配列は2つのオープンリーディングフレームの間に位置する。さらに別の好ましい実施形態によれば、本発明のmRNAは、5’領域に1コピーのIRES配列と2つのオープンリーディングフレームの間に1コピーのIRES配列を含んでなる。有利には、前記IRES配列はxrRNA配列の下流に位置する。この構成は有利には、これらの配列をXrn1エキソリボヌクレアーゼから保護することを可能とする。mRNA分子が少なくとも2つのIRES配列を含んでなる場合、前記配列は同じであっても異なっていてもよい。特に、1以上のIRES配列は翻訳の開始におけるそれらの効率に応じて選択することができる。mRNA分子が少なくとも2つの異なるオープンリーディングフレームを含んでなり、第1のオープンリーディングフレームに望まれる翻訳効率が第2のオープンリーディングフレームに望まれる翻訳効率とは異なる場合には、2つの異なるIRES配列を選択することが特に有利である。
【0037】
IRESエレメントもまた、複雑な三次元構造を有する。従って、xrRNA配列とIRES配列の間の相互干渉が、これら2つの領域のそれぞれからのRNA配列間の対合の形成を介して可能となる。このような干渉は、それぞれxrRNA配列およびIRES配列の適正な構造の形成を妨げ得る。さらに、xrRNA構造は、IRESによる翻訳開始因子およびリボソームの動員を著しく妨げ得る。いっそうより予測できないことに、本発明者らは、xrRNA配列とIRES配列の存在がトランスフェクト細胞において、キャップ付きのmRNA分子で得られるものと少なくとも同等のタンパク質発現収量を得ることを可能とすることを示した。従って、xrRNA配列とIRES配列は一緒にキャップまたはキャップ類似体分子に取って代わることができる。これらの配列は、本発明のmRNAに含まれるオープンリーディングフレームの翻訳及びmRNAの安定性を確保するために不可欠である。
【0038】
よって、トランスフェクト細胞において、本発明のmRNAは、キャップ付きのmRNAと少なくとも同等の安定であり、しかも少なくとも効率的に翻訳される。さらに、イン・ビトロ転写によるその合成のコストはキャップ付きのmRNAの場合に比べて大幅に低減される。
【0039】
特定の実施形態によれば、本発明のmRNAは、コンセンサス配列GUCAGRYC(N7-19)GCCA(N12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)の上流の5’-UTR領域に、好ましくは、mRNA分子の5’末端に、ステム-ループをさらに含んでなる。
【0040】
「ステム-ループ」とは、一方の鎖の5’末端が、対合していないループを介してもう一方の鎖の3’末端に物理的に連結されている二重らせん型の構造を形成するいずれのポリヌクレオチド配列も意味する。従って、ステム-ループは、二本鎖ステムと対合していない一本鎖ループから構成される。前記の物理的結合は共有結合または非共有結合のいずれかであり得る。好ましくは、前記物理的結合は共有結合である。このRNAループのサイズは、例えば、3~30ヌクレオチドであり得る。ループのサイズは好ましくは、少なくとも3ヌクレオチド、好ましくは少なくとも4ヌクレオチドである。二本鎖ステムの長さは、例えば5~50ヌクレオチドであり得る。ステムの長さは好ましくは、5~50、5~40、5~30、5~25、またはより好ましくは、5~10ヌクレオチドである。いっそうより好ましくは、ステムの長さは、6、7、または8ヌクレオチドである。
【0041】
本発明に関して、ステム-ループは好ましくは、mRNA分子の5’末端に形成される。好ましい実施形態によれば、ステム-ループは、配列番号87の配列を有する。ステム-ループは好ましくは、スペーサー配列によってxrRNA配列から分離される。好ましくは、前記スペーサー配列は、5ヌクレオチド以下(すなわち、5、4、3、または2ヌクレオチド)の長さである。実際に、本発明者らは、極めて意外なことに、mRNA分子の5’末端におけるステム-ループ構造の付加(本明細書では5’末端のステム-ループに関して5’-SLとも呼ばれる)は、xrRNA配列の近位(例えば5ヌクレオチド以下)にある場合に、イン・ビボ翻訳のさらなる向上を可能とすることを示した。実際に、発明者らは、5’末端に置かれたステム-ループがおよそ70ヌクレオチドの長さのスペーサー配列によってxrRNA配列から分離されている場合には有利な効果を認めなかった(
図15参照)。
【0042】
理論に縛られるものではないが、極めて意外なことに、xrRNA配列は、少なくともこの配列がステム-ループの形態であり、近接している場合に、その5’末端をホスファターゼおよびXrn1からマスクすると推察することができる。
【0043】
従って、好ましい実施形態では、本発明は、5’から3’方向に:
・少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N7-19)GCCA(N12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列を含んでなる5’-UTR領域、
・内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列のコピー;および
・オープンリーディングフレーム
を含んでなり、さらに5’末端にステム-ループを含んでなる、キャップ分子を欠くメッセンジャーリボ核酸(mRNA)分子に関する。
【0044】
mRNA分子は、第2のIRES配列とその後に第2のオープンリーディングフレームをさらに含んでなり得る。mRNA分子は、ステム-ループとxrRNA配列の間、好ましくはxrRNA配列とIRES配列の間に位置する、本明細書で定義されるようなRNAアプタマーをさらに含んでなり得る。mRNA分子は、本明細書で定義されるような3’-UTR領域をさらに含んでなり得る。
【0045】
好ましい実施形態では、本発明は、5’から3’方向に:
・5’末端のステム-ループと、その後に少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N7-19)GCCA(N12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列を含んでなる5’-UTR領域、
・場合により、RNAアプタマー;
・内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列のコピー;および
・オープンリーディングフレーム
を含んでなる、キャップ分子を欠くメッセンジャーリボ核酸(mRNA)分子に関する。
【0046】
好ましい実施形態では、本発明は、5’から3’方向に:
・5’末端のステム-ループと、その後に少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N7-19)GCCA(N12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列を含んでなる5’-UTR領域、
・場合により、RNAアプタマー;
・内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列のコピー;および
・オープンリーディングフレーム;および
・3’-UTR領域
からなる、キャップ分子を欠くメッセンジャーリボ核酸(mRNA)分子に関する。
【0047】
「アプタマー」とは、特にモノクローナル抗体と類似の特定の三次元構造を採るその能力に関連した認識および特異性の特性を有するいずれの核酸も意味する(例えば、Dunn et al.,2017参照)。アプタマーは、DNA、RNAおよび/または修飾されたRNA、好ましくはRNAから構成され得る。前記アプタマーは、上記で定義されるようなリボヌクレオチドなどの6~50ヌクレオチドから構成され得る。限定されない例として、アプタマーは、1回以上のイン・ビトロ選択サイクルによるかまたは反復選択法(「SELEX」技術)によるランダム配列の多数の化合物のコンビナトリアルライブラリーからのアプタマーのイン・ビトロ同定などの、当業者の周知の様々な技術に従って単離することができる。選択によるアプタマーのイン・ビトロ同定は有利には、前記アプタマーが対象とする標的を知る必要もなく、精密な効果または機能を有するアプタマーを得ることを可能とする。アプタマーの製造または選択は、例えば、欧州特許出願EP0533838に記載されている。有利には、RNAアプタマーは、本発明において、対象とする細胞、より詳しくは、組織細胞、好ましくは、筋細胞(例えば、筋線維細胞)に浸透するそれらの能力に従って同定されたものである。有利には、本発明によるアプタマーは、細胞膜、より好ましくは哺乳動物細胞の原形質膜および/またはエンドソーム膜を通過することができる。
【0048】
本発明によるアプタマーは好ましくは、6~50ヌクレオチド、より好ましくは10~45ヌクレオチド、20~40ヌクレオチド、いっそうより好ましくは30~40ヌクレオチドを含んでなる。好ましくは、アプタマーは、上記で定義されるものなどのリボヌクレオチドから構成される。好ましくは、本発明によるアプタマーは、配列番号64の配列を有するアプタマーA、配列番号65の配列を有するアプタマーB、または配列番号66の配列を有するアプタマーCと少なくとも70%の同一性、より好ましくは少なくとも80%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも96%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、いっそうより好ましくは少なくとも99%の同一性を有する。
【0049】
本発明の記載に関して参照される同一性パーセンテージは、NeedlemanおよびWunsch,1970のアルゴリズムなどの当業者に周知のいずれかのアルゴリズムを用いて、比較する配列のグローバルアラインメントに基づいて、すなわち、全長にわたって全体的に行った配列のアラインメントに対して決定される。この配列比較は、当業者に周知のいずれかのソフトウエア、例えば、10.0に相当する「ギャップオープン」パラメーター、0.5に相当する「ギャップエクステンド」パラメーターおよびBlosum 62マトリックスを用いるNeedleソフトウエアを用いて実行することができる。
【0050】
好ましくは、本発明によるアプタマーは、配列番号64の配列を有するアプタマーA、配列番号65の配列を有するアプタマーB、および配列番号66の配列を有するアプタマーCから選択され、いっそうより好ましくは、配列番号64の配列を有するアプタマーAおよび配列番号66の配列を有するアプタマーCから選択される。
【0051】
好ましくは、本発明によるmRNA分子は、膜、好ましくは、哺乳動物原形質膜および/またはエンドソーム膜を通過することができる少なくとも1コピーのアプタマーを含んでなる。よって、有利には、本発明によるRNA分子がアプタマーを含んでなる場合、前記アプタマーは、細胞、好ましくは、筋細胞または皮膚細胞へのその浸透を促進する。好ましくは、本発明によるmRNA分子は、少なくとも1コピーの配列番号64の配列を有するアプタマーA、配列番号65の配列を有するアプタマーB、および/または配列番号66の配列を有するアプタマーCを含んでなる。
【0052】
mRNA分子の標的細胞への浸透を促進するアプタマーは、主として細胞のサイトゾルで起こる、エキソヌクレアーゼによる分解から必ずしも保護する必要はない。従って、特定の実施形態によれば、mRNA分子は、1以上のGUCAGRYC(N
7-19)GCCA(N
12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列の上流の5’-UTR領域にアプタマーを含んでなる。別の実施形態によれば、アプタマーは、1以上のGUCAGRYC(N
7-19)GCCA(N
12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列の下流であって、IRES配列およびオープンリーディングフレームから上流の5’-UTR領域に位置する(これらの2つの可能性の代表的な図として
図1Jおよび1Kを参照)。よって、好ましい実施形態によれば、本発明は、5’から3’方向に:
・好ましくは哺乳動物細胞の、細胞膜、好ましくは、原形質膜および/またはエンドソーム膜を通過することができる少なくとも1つのアプタマー、好ましくは、本明細書に記載のアプタマーA、B、およびCから選択される少なくとも1つのアプタマーと、少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N
7-19)GCCA(N
12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列とを含んでなる5’-UTR領域;
・内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列のコピー;および
・オープンリーディングフレーム
を含んでなる、キャップ分子を欠くメッセンジャーリボ核酸(mRNA)分子に関する。
【0053】
好ましくは、mRNA分子は、GUCAGRYC(N
7-19)GCCA(N
12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列の上流の5’-UTR領域にアプタマーを含んでなる(例えば、
図1F参照)。しかしながら、RNA分子はまた、GUCAGRYC(N
7-19)GCCA(N
12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列の下流、例えば、xrRNAコンセンサス配列とIRES配列の間にアプタマーを含んでなり得る。
【0054】
よって、好ましい実施形態によれば、本発明は、5’から3’方向に:
・5’末端のステム-ループと、その後に少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N7-19)GCCA(N12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列を含んでなる5’-UTR領域、
・細胞膜を通過することができる少なくとも1つのアプタマー;
・内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列のコピー;および
・オープンリーディングフレーム
を含んでなる、キャップ分子を欠くmRNA分子に関する。
【0055】
アプタマーBおよびCは筋線維細胞に浸透するそれらの能力に関して選択されたが、アプタマーAはTsuji et al.,2013により同定された「shot47」アプタマーに相当する。アプタマーAは有利には、ポリヒスチジン型ペプチドモチーフに高い親和性で結合する。よって、アプタマーAは、ポリヒスチジンタグ(例えば、HHHHHHモチーフ)を含んでなるいずれの分子(例えば、ペプチドまたはタンパク質)とも結合する。限定されない例として、本発明によるmRNA分子は、「細胞浸透ペプチド」または「CPP」(前記CPPはポリヒスチジンタグを含んでなる)などの、それが細胞により良く浸透することを可能とする分子にアプタマーAを介して連結させることができる。
【0056】
「細胞浸透ペプチド」または「CPP」とは、哺乳動物細胞の細胞膜、より好ましくは、原形質膜およびエンドソーム膜を通過することができるいずれのペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質も意味する。有利には、CPPは、それが別の分子、特に、mRNA分子に連結される場合にもこの特性を保持し、従って、そのmRNA分子の膜通過を引き起こす。本発明に関しては、例えば、エネルギー依存性輸送機構(すなわち、能動的、例えば、エンドサイトーシス)およびエネルギー非依存性輸送機構(例えば、拡散)を含め、可能性のあるいずれの膜通過機構も企図される。一般に、CPPは陽イオンペプチドである(Poillot and De Waard,2011)。限定されない例として、mRNA分子は、その負電荷のために静電気的相互作用および/または疎水性を利用してCPPに非共有結合的に結合され得る。あるいは、mRNA分子は、CPPに共有結合され得る。CPPは、少なくとも2つの同じまたは異なるペプチド分子からなるオリゴマーを形成し得る。本発明に関して、CPPは好ましくは、RNAアプタマーに非共有結合的に結合している。実際に、この種の結合は、CPPとmRNA分子の単純な混合、その低コストおよびこれらの分子が完全に生分解性であるということによるその簡便性を考えれば有利である。実際に、非天然化学基および非生分解性化学基は必要でない。
【0057】
本発明によるCPPの長さは好ましくは、約8アミノ酸残基~約60アミノ酸残基である。より好ましくは、その長さは8~40アミノ酸残基、より好ましくは8~30アミノ酸残基、いっそうより好ましくは10~25アミノ酸残基(例えば、13または20アミノ酸残基)である。しかしながら、当業者は、CPPの長さは上記のものに必ずしも限定されないことを認識するであろう。例えば異なる長さを有する、本明細書に記載のCPPの誘導体が、特に、遺伝学的知識を考慮して当業者により作出できる。
【0058】
限定されない例として、本発明のCPPは、Gao X. et al.,2014により記載されているような「M12」CPP、Kamada et al.,2007により記載されているような「CPP2」または「CPP3」CPP、またはLee et al.,2012により記載されているようなCPP「CPP1」、ならびにこれらの任意の変異体または誘導体であり得る。好ましい実施形態によれば、前記CPPは、好ましくはスペーサーにより前記CPPに連結されたポリヒスチジンモチーフ(例えば、ヘキサヒスチジン)を含んでなる。好ましくは、スペーサーは、親水性スペーサー、有利には構造化されていないものおよび電荷を有さないもの、いっそうさらに有利にはグリシンおよびセリンから構成されるものである。好ましくは、スペーサーは、約21アミノ酸、好ましくは21アミノ酸の長さである。
【0059】
好ましくは、本発明によるCPPは、配列番号75の配列を有するM12-H6ペプチド、配列番号76の配列を有するCPP1-H6ペプチド、配列番号77の配列を有するCPP2-H6ペプチド、または配列番号78の配列を有するCPP3-H6ペプチドと少なくとも70%の同一性、より好ましくは少なくとも80%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも96%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、いっそうより好ましくは少なくとも99%の同一性を有する。特定の好ましい実施形態によれば、本発明によるCPPは、配列番号75の配列を有するM12-H6、配列番号76の配列を有するCPP1-H6、配列番号77の配列を有するCPP2-H6、および配列番号78の配列を有するCPP3-H6から選択され、いっそうより好ましくは、配列番号76の配列を有するCPP1-H6、配列番号77の配列を有するCPP2-H6、および配列番号78の配列を有するCPP3-H6から選択される。有利には、CPPは、mRNA分子に非共有結合的にまたは共有結合的に、好ましくは非共有結合的に連結される。有利には、CPPは、mRNA分子内に含まれるRNAアプタマー(すなわち、CPPがポリヒスチジンタグを含んでなる場合にはアプタマーA)に連結される。
【0060】
好ましくは、本発明のCPPは、原形質膜を通過した後にそれらの標的細胞に対して有意な細胞傷害性効果および/または免疫原性効果を有さない、すなわち、CPPは細胞の生存力、細胞のトランスフェクションおよび/または浸透に干渉しない。用語「有意でない」は、本明細書で使用する場合、CPPに連結されたmRNA分子が原形質膜を通過し、従って、細胞によるインターナリゼーションを受けた後に死滅する標的細胞は、50%未満、好ましくは40%または30%未満、好ましくは20%または10%未満、特に5%未満であることを意味する。当業者は、所与の化合物の細胞傷害性および/またはそのような化合物が適用された標的細胞の生存率を決定するための方法に精通している(例えば、Ausubel et al.,2001参照)。対応するアッセイキットは種々の供給者から市販されている。特定の実施形態では、本発明のCPPの潜在的な固有の細胞傷害性効果および/または免疫原性効果は、例えば、化学合成または組換えDNAの手段によりペプチドに1以上の修飾を導入することによって「マスク」することができる。このような修飾としては、例えば、官能基の付加、除去もしくは置換またはこれらの官能基の位置の変更を含み得る。当業者には、所与のペプチドに関してこのような「マスキング」がどのように達成され得るかは周知である。
【0061】
よって、好ましい実施形態によれば、本発明は、5’から3’方向に:
・配列番号64のアプタマーA RNAおよび少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N7-19)GCCA(N12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列を少なくとも含んでなる5’-UTR領域、
・内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列のコピー、および
・オープンリーディングフレーム
を含んでなり、前記mRNA分子はポリヒスチジンタグと融合された細胞膜透過ペプチド(CPP)に連結され、前記CPPは好ましくは配列番号75の配列を有するM12-H6、配列番号76の配列を有するCPP1-H6、配列番号77の配列を有するCPP2-H6、および配列番号78の配列を有するCPP3-H6から選択される、キャップ分子を欠くmRNA分子に関する。好ましくは、前記CPPは、アプタマーに非共有結合的に連結されている。
【0062】
「オープンリーディングフレーム」とは、対象とするポリペプチドに翻訳され得るいずれのポリヌクレオチド配列も意味する。オープンリーディングフレームは、コドン(各コドンは1個のアミノ酸を表す)と呼ばれる3つの連続するヌクレオチドのブロックで読み取られる。翻訳の際、ポリペプチドは、前記オープンリーディングフレームのコドンをリボソームによって翻訳することにより合成される。
【0063】
ポリペプチドの最初のアミノ酸は一般に、mRNA分子上に、オープンリーディングフレームの開始を示すAUGコドンにより示されている。AUNまたはNUGなどの他の開始コドンも知られており、NはA、C、UまたはGに相当する。ポリペプチドの末端は、mRNA分子上にUAA、UGA、またはUAG終止コドンの形で示されている。終止コドンは、mRNA分子上でオープンリーディングフレームの末端を示す。
【0064】
本発明によるオープンリーディングフレームは、より詳しくは、トランスフェクト細胞内での翻訳がヒト医学または獣医学における適用に治療薬またはワクチンの対象となる産物を生成するオープンリーディングフレームである。好ましくは、治療薬の対象となる産物はタンパク質である。
【0065】
治療薬の対象となるタンパク質のうち、あるものはより詳しくは、酵素、血液誘導体、ホルモン、リンホカイン:インターロイキン、インターフェロン、TNFなど(FR9203120)、増殖因子、神経伝達物質またはそれらの前駆体もしくは合成酵素、栄養因子:BDNF、CNTF、NGF、IGF、GMF、aFGF、bFGF、NT3、NT5など、アポリポタンパク質:ApoAl、ApoAIV、ApoEなど(FR9305125)、ジストロフィンまたはミニジストロフィン(FR9111947)、腫瘍抑制タンパク質:p53、Rb、Rap1A、DCC、k-revなど(FR9304745)、凝固関連因子:因子VII、VIII、IXなど、アポトーシス促進タンパク質:チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼなど、またはさらには天然もしくは人工免疫グロブリンの全てもしくは一部(Fab、ScFvなど、例えば、WO2011/089527参照)、RNAリガンド(WO91/19813)などを指し得る。
【0066】
mRNAによりコードされる対象とするタンパク質はまた、ワクチンの実現のためにヒトまたは動物で免疫応答を生じ得る抗原であってもよい。これらのタンパク質は、特に、エプスタイン・バーウイルス、HIVウイルス、B型肝炎ウイルス(EP185573)、偽狂犬病ウイルスに特異的な、またはさらには腫瘍に特異的な(EP259212)抗原タンパク質であり得る。最後に、対象とするタンパク質は、ワクチンの有効性を高めるために免疫応答を刺激するアジュバントタンパク質であり得る。
【0067】
mRNAによりコードされる対象とするタンパク質は、無キャップmRNA分子または前記分子により発現されるタンパク質に対して有利な効果を有するタンパク質であり得る。この有利な効果は、種々の機構から得られるものであり得る。限定されない例として、無キャップmRNAによりコードされるタンパク質は、前記分子に結合することにより、またはRNアーゼ活性を有する少なくとも1つのタンパク質を分解することにより無キャップmRNA分子の安定性を増強し得る。限定されない例として、無キャップmRNAによりコードされるタンパク質は、開始因子の動員を促進することにより、またはそれらの翻訳を阻害するためにキャップ付きの細胞内mRNAと結合することにより、前記分子の翻訳を増強し得る。限定されない例として、mRNAによりコードされる対象とするタンパク質は、ヒトライノウイルス2型(HRV2)などのピコルナウイルス由来の2Aproタンパク質である。理論に縛られるものではないが、2Aproタンパク質は、elF4G開始因子のN末端を切断し、従って、前記開始因子がキャップ付きのmRNAを認識しないようにし、そのプロテアーゼ活性のために無キャップmRNAの発現を増強すると推測することができる。この切断は、イン・ビボにおける本発明のmRNAとキャップ付きのmRNAの間の競合の低減を可能とし得る。実際に、本発明者らは、意外にも、2Aproをコードする本発明による第1のmRNAとリポータータンパク質をコードする本発明による第2のmRNAでの細胞の同時トランスフェクションがそのリポータータンパク質の発現の増強を可能とすることを示した。従って、この2Aproタンパク質の存在は、本発明の無キャップmRNAによりコードされるタンパク質の特異的発現の増強を可能とするため特に有利である(
図7)。
【0068】
好ましい実施形態によれば、本発明のmRNAは、2Aproタンパク質、好ましくはピコルナウイルス由来の、いっそうより好ましくはHRV2ウイルス由来の2Aproタンパク質をコードする。特定の実施形態によれば、2Aproタンパク質は、配列番号81の配列を有する。特定の実施形態によれば、2Aproタンパク質は、配列番号80の配列を有するmRNAによりコードされている。
【0069】
オープンリーディングフレームはまた、治療mRNAをコードしてもよい。これは、例えば、標的細胞内での発現が細胞のmRNAの転写または翻訳の制御を可能とするアンチセンス配列であり得る。このような配列は、特許EP140308に記載される技術に従い、例えば、標的細胞内で細胞のmRNAと相補的なRNAに転写され、従って、それらのタンパク質への翻訳を遮断し得る。
【0070】
好ましくは、本発明のmRNAは、xrRNA配列およびIRES配列に加え、対象とするポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含んでなる。好ましくは、このオープンリーディングフレームは、xrRNA配列の下流に位置する。当業者は、mRNAが複数のオープンリーディングフレームを含み得ることを容易に理解するであろう。よって、mRNAは、モノシストロン性、バイシストロン性またはポリシストロン性であり得る。mRNAは、単一のオープンリーディングフレームしか持たない場合、モノシストロン性である。mRNAは、2つのオープンリーディングフレームを含む場合にバイシストロン性であり、少なくとも2つのオープンリーディングフレームを含む場合にポリシストロン性である。
【0071】
本発明のmRNAはまた、1以上の非コード領域も含み得る。これらの非コード領域は、特に、2つのオープンリーディングフレーム間の領域であり得る。この場合、IRES配列は、有利には、2つのオープンリーディングフレーム間に位置するこれらの非コード領域に存在する。
【0072】
特定の実施形態によれば、キャップまたはキャップ類似体分子を欠くメッセンジャーリボ核酸(mRNA)分子は、5’から3’方向に:
・少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N7-19)GCCA(N12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列を含んでなり、前記配列コピーの後に単一コピーの内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列が続く5’-UTR領域;
・オープンリーディングフレーム;および
・ポリ(A)配列を含んでなる3’-UTR領域
を含んでなる。
【0073】
有利には、前記mRNA分子はまた、前記分子の標的細胞、好ましくは筋細胞への浸透を促進する少なくとも1つのRNAアプタマーも含んでなる。有利には、前記mRNA分子は、配列番号64の配列を有するアプタマーA、配列番号65の配列を有するアプタマーB、および配列番号66の配列を有するアプタマーCから選択される少なくとも1つのアプタマーを含んでなる。
【0074】
別の特定の実施形態によれば、キャップまたはキャップ類似体分子を欠くメッセンジャーリボ核酸(mRNA)分子は、5’から3’方向に:
・少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N7-19)GCCA(N12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列を含んでなり、前記配列コピーの後に単一コピーの内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列が続く5’-UTR領域;
・オープンリーディングフレーム;および
・ポリ(A)配列を含んでなる3’-UTR領域
からなる。
【0075】
「5’-UTR領域」とは、翻訳開始コドンの上流にある核酸のいずれの領域も意味する。この領域は非コードであるが、下流のmRNA発現を調節するエレメントを含み得る。xrRNAエレメントおよびIRESエレメントに加え、この領域はリボスイッチおよび/またはT-ボックスなどの他のエレメントを含んでよい。いくつかの実施形態では、5’-UTR領域は、10~2000ヌクレオチド長であり得る。好ましくは、5’-UTR領域は、50~1500ヌクレオチド、およびより好ましくは200~1000ヌクレオチドを含んでなる。
【0076】
「3’-UTR領域」とは、翻訳終結コドンの下流に位置する核酸のいずれの領域も意味する。この領域は、mRNAの発現および/または安定性、細胞内におけるその位置に影響を及ぼし得るか、またはタンパク質または低分子干渉RNAまたはマイクロRNAのための結合部位を含み得る。この領域は、例えば、ポリアデニル化テール(ポリ(A))、ヒストンステム-ループ構造、および/またはピリミジンもしくはプリンリッチな領域などのエレメントを含み得る。この領域は、コードまたは非コード配列を含み得る。いくつかの実施形態では、3’-UTR領域は、50~500ヌクレオチド長であり得る。好ましくは、3’-UTR領域は、50~200ヌクレオチド、より好ましくは50~100ヌクレオチドから構成される。好ましい実施形態では、mRNAは、10~300ヌクレオチド、好ましくは50~100ヌクレオチドのアデニンまたはその類似体もしくは変異体のヌクレオチド配列を含んでなるポリアデニル化テール(ポリ(A))を含んでなる。
【0077】
第2の態様によれば、本発明は、本発明のmRNA分子に転写され得るポリヌクレオチドを含んでなるデオキシリボ核酸(DNA)分子に関する。好ましくは、DNA分子は、配列番号50、71、72、73、85、または86の5’-UTR領域を含んでなる。
【0078】
好ましくは、前記DNA分子は、発現カセットに含まれる。
【0079】
「発現カセット」とは、本明細書において、例えばプロモーター配列およびエンハンサー配列などの遺伝子配列の発現を制御する1以上の調節エレメントに機能的に連結された対象とするポリヌクレオチド、例えば、本発明のmRNA分子に転写され得るポリヌクレオチドを含んでなるDNA断片を意味する。
【0080】
ポリヌクレオチドは、調節エレメントと、これらの異なる核酸配列が、一方の機能が他方に影響を受けるように単一の核酸断片上に組み合わせられる場合に「機能的に連結されている」。例えば、調節DNA配列はRNAまたはタンパク質をコードするDNA配列に、これらの2つの配列が、調節DNA配列がDNAコード配列の発現に影響を及ぼす(言い換えれば、DNAコード配列がプロモーターの転写制御下にある)ように配置されていれば、「機能的に連結されている」。コード配列は、センス配向ならびにアンチセンス配向に調節配列に機能的に連結することができる。好ましくは、本発明のコード配列は、センス配向に調節配列に機能的に連結される。
【0081】
「調節配列」または「調節エレメント」とは、それらが連結されたコード配列の発現および成熟に影響を及ぼす必要のあるポリヌクレオチド配列を意味する。このような調節配列は、特に、転写開始配列、転写終結配列、プロモーター配列およびエンハンサー配列;スプライシングシグナルおよびポリアデニル化シグナルなどの効率的なRNA成熟のシグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を高める配列(例えば、Kozak配列);タンパク質の安定性を高める配列;および、必要に応じて、タンパク質分泌を高める配列を含む。
【0082】
好ましくは、本発明の調節配列は、プロモーター配列を含んでなり、すなわち、本発明のmRNAをコードする遺伝子は好ましくは、前記の対応するmRNAの発現を可能とするプロモーターに機能的に連結される。本発明のmRNAをコードする遺伝子は、好ましくは、プロモーターの下流、すなわち、その3’側に位置する場合に、プロモーターに機能的に連結され、それにより、発現カセットを形成する。
【0083】
用語「プロモーター」は、本明細書で使用する場合、ほとんどの場合にコード配列の上流(5’)に置かれる、RNAポリメラーゼおよび転写に必要な他の因子により認識され、それにより前記コード配列の発現を制御するヌクレオチド配列を指す。「プロモーター」は、本明細書で使用する場合、特に、最小プロモーター、すなわち、TATAボックスおよび転写開始部位の特定を可能とする他の配列から構成される短いDNA配列を含む。本発明の意味の範囲内で「プロモーター」は、最小プロモーターおよびコード配列の発現を制御し得る調節エレメントを含むヌクレオチド配列も含んでなる。例えば、本発明のプロモーター配列は、遺伝子の発現レベルに影響を及ぼし得るエンハンサー配列などの調節配列を含み得る。
【0084】
有利には、本発明によるプロモーターは、無細胞転写系で使用されるRNAポリメラーゼとともに機能するものである。例えば、SP6およびT7ファージのRNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターは、当業者に広く知られている。よって、以下の実験の節では、T7 RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターを有するpMBx-luc2ベクター(Roge and Betton,2005)を使用した。さらに、このようなプロモーターを含むベクターは市販されている。
【0085】
特定の実施形態では、本発明は、少なくとも1つの調節エレメントに機能的に連結された、本発明のmRNAをコードするDNA分子を含んでなる。好ましくは、本発明のmRNAをコードするDNA分子は、上流に位置するプロモーター配列に機能的に連結され、それにより発現カセットを形成する。別の実施形態では、本発明は、上流に位置するプロモーター配列に機能的に連結された、本発明のmRNAをコードするDNA分子からなり、それにより発現カセットを形成する。
【0086】
いっそうより好ましくは、本発明のDNA分子は:
・T7 RNAポリメラーゼにより認識され、配列番号46により表される配列を含んでなるプロモーター;
・配列番号50、71、72、73、85、または86により表される配列を含んでなる5’-UTR領域;
・オープンリーディングフレーム;および
・配列番号53、54、55、および56により表される配列から選択される配列を含んでなる3’-UTR領域
を含んでなる。
【0087】
有利には、本発明の調節配列は、転写ターミネーター配列を含んでなり、すなわち、本発明のmRNAをコードする遺伝子は好ましくは転写ターミネーターに機能的に連結されている。用語「転写ターミネーター」は、本明細書において、遺伝子またはオペロンのメッセンジャーRNAへの転写の末端をマークするゲノム配列を表す。転写終結の機構は原核生物と真核生物とで異なる。当業者には、種々の細胞種に応じて使用するためのシグナルは既知である。例えば、本発明のmRNAを細菌で発現させようとする場合、Rho非依存性ターミネーター(逆方向反復配列とそれ続く一連のT(転写されたRNAではウラシル))またはRho依存性ターミネーター(Rhoタンパク質により認識されるコンセンサス配列から構成される)が使用される。本発明のmRNAをコードする遺伝子は好ましくは、それがターミネーターの上流、すなわち、その5’側に位置する場合に、ターミネーターに機能的に連結され、それにより、発現カセットを形成する。
【0088】
有利には、本発明によるターミネーターは、無細胞転写系で使用されるRNAポリメラーゼとともに機能するものである。例えば、SP6およびT7ファージのRNAポリメラーゼにより認識されるターミネーターが当業者に広く知られている。このようなターミネーターを含むベクターは市販されている。
【0089】
特定の実施形態では、本発明は、少なくとも1つの調節エレメントおよび少なくとも1つの転写ターミネーターに機能的に連結された本発明のmRNAをコードするDNA分子を含んでなる。
【0090】
第3の態様において、本発明はまた、少なくとも本発明によるDNAまたはmRNA分子を含んでなるベクターに関する。
【0091】
用語「ベクター」は、本明細書で使用される場合、それが連結された別の核酸を輸送し得る核酸分子を指す。1つのタイプのベクターが「プラスミド」であり、これは付加的DNAセグメントが連結され得る一本鎖DNAの環状二重ループを指す。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、付加的DNAセグメントをウイルスゲノムに連結することができる。あるいは、ウイルスベクターは、ウイルスゲノム(例えば、レトロウイルスまたはRNAウイルス)内にmRNAを含んでなり得る。ある種のベクターは、それらが導入される宿主細胞で自律的複製能を有する(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、組み込み哺乳動物ベクター)は、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれ、従って、宿主ゲノムとともに複製される。
【0092】
真核生物または原核生物宿主細胞に導入し維持するために、対象とする核酸分子を挿入することができる多くのベクターが当業者に知られている。適当なベクターの選択は、このベクター(例えば、対象とする配列の複製、この配列の発現、染色体外形態でのこの配列の維持またはさらには宿主の染色体物質への組込み)、ならびに宿主細胞の性質(例えば、プラスミドは好ましくは細菌細胞に導入され、YACは好ましくは酵母で使用される)に関して、意図される使用に依存する。これらの発現ベクターは、プラスミド、YAC、コスミド、レトロウイルス、EBVに由来するエピソーム、および当業者が前記配列の発現に適当であると考え得る任意のベクターであり得る。本発明の好ましい実施形態では、本発明のmRNAをコードするために使用されるベクターは、細菌で増幅し得るベクターである。より好ましくは、このプラスミドは、SP6およびT7ファージのものなど、無細胞転写系で使用されるRNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターを含んでなる。いっそうより好ましくは、このプラスミドが有するこのプロモーターは、少なくとも前記RNAポリメラーゼの存在下で本発明のmRNAの発現を命令することができる。
【0093】
好ましくは、本発明のベクターは、宿主細胞での前記ベクターの増殖を可能とするために複製起点を含んでなる。用語「複製起点」(oriとも呼ばれる)は、複製の開始を可能とする独特なDNA配列である。一方向または二方向複製が始まるのはこの配列からである。当業者には複製起点の構造がある種と別の種では異なることが知られ、従って、それらが全てある種の特徴を有するにもかかわらず特異的である。この配列においてタンパク質複合体が形成され、DNAの開放および複製の開始を可能とする。
【0094】
有利には、本発明の発現カセットを含むベクターは、特に形質転換後に前記ベクターを含む細胞の同定を容易にするために、さらに選択マーカーを含んでなる。本発明による「選択マーカー」は、前記ベクターを有する細胞の同定および選択を可能とする、ベクターが有するポリヌクレオチド配列である。選択マーカーは当業者に周知である。好ましくは、選択マーカーは、抗生物質耐性を付与するタンパク質をコードする遺伝子である。
【0095】
本発明の対象とする核酸を含んでなる本発明のベクターは、当業者により慣用されている方法によって調製される。得られたクローンは、宿主細胞にポリヌクレオチドを導入するために当業者に公知の標準的な方法によって適当な宿主に導入することができる。このような方法は、デキストランを用いる形質転換、リン酸カルシウムによる沈降、ポリブレンを用いるトランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、ポリヌクレオチドのリポソームへの封入、微粒子銃注入および核へのDNAの直接マイクロインジェクションであり得る。また、前記DNAまたはmRNA配列(単離されたまたはプラスミドもしくはウイルスベクターに挿入された)と、ナノ輸送体のような輸送体またはリポソーム調製物もしくは陽イオンポリマーなどの宿主細胞の膜を通過することを可能とする物質を組み合わせることも可能である。さらに、例えば、リポソームとエレクトロポレーションの併用によるなど、これらの方法は有利に組み合わせることができる。
【0096】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明のベクターは、本発明のmRNAをコードするDNA分子を含んでなる。好ましくは、本発明のベクターは、プラスミドである。いっそうより好ましくは、本発明のベクターは、発現カセット、転写ターミネーター、複製起点、および選択マーカーを含んでなる。別の好ましい実施形態では、ベクターは、発現カセットからなる。
【0097】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、ベクターは、本発明のmRNA分子を含んでなる。好ましくは、本発明のベクターは、ウイルスベクターまたは合成RNAベクターである。
【0098】
別の態様によれば、本発明は、前記ベクターを含んでなる宿主細胞に関する。用語「宿主細胞」は、本明細書で使用する場合、組換え発現ベクターが本発明のmRNAを発現するために導入された細胞を指すものとする。この用語は、前記特定の宿主細胞だけでなくその後代も包含すると理解されるべきである。突然変異または環境の影響のために世代にわたってある種の改変が起こり得ると理解される。結果として、後代は、親細胞と全く同一でない場合があるが、やはり、本明細書で使用される用語「宿主細胞」に含まれる。
【0099】
上記のDNAおよび/またはベクターは、大量の本発明のmRNAを生産するために特に有用である。
【0100】
別の態様によれば、本発明は、上記のDNAまたはベクターを用いて本発明のmRNAを生産するための方法に関する。よって、このmRNAは当業者に公知のいずれの方法によって生産することもできる。これは、例えば、化学合成、イン・ビボ発現またはイン・ビトロ発現によって行うことができる。
【0101】
好ましくは、このmRNAは、イン・ビトロにて、無細胞mRNA発現系を用いて発現される。「無細胞mRNA発現系」とは、本発明に関して、細胞の不在下で本発明のmRNAの合成を可能とする生化学系を意味する。無細胞系は、外因性の遺伝情報から特定のmRNAを生産するために、生物の転写機構の使用に基づく。従って、本発明に関して、無細胞mRNA発現系は、細胞の不在下でmRNAを生産するために必要なエレメントを全て含む。この機構が抽出される生物は多く、様々であり、原核生物および真核生物に由来する。
【0102】
特に、この系は、とりわけ、細胞由来の転写機構を含んでなる。より詳しくは、この系は、上記の発現カセットのプロモーターを認識し得るRNAポリメラーゼを含んでなる。よって、適当なヌクレオチドの存在下、かつ、適当なイオン条件下で、このRNAポリメラーゼは、本発明のmRNAをコードする遺伝子の転写を命令することができる。このような系は、数十年間、当業者に周知である(総説としては、例えば、Beckert and Masquida,2011参照)。無細胞系においてDNAをRNAに転写するために多くの方法が利用可能である。また、多くの会社によって提供されるキットを使用することも可能である:New England Biolabs、Sigma Aldrich、Thermo Scientific、Promega、Roche Diagnostics、Ambion、Invitrogenなど。
【0103】
RNAポリメラーゼに加え、無細胞イン・ビトロ転写系は、反応バッファーを含む。有利には、前記系は、4種類のリボヌクレオチド三リン酸のそれぞれを含んでなる。極めて有利には、これらの4種類のリボヌクレオチド三リン酸は、同一の濃度で存在する。特に、GTPの濃度は、他の3種類のリボヌクレオチド三リン酸の濃度と同一である。よって、本発明のmRNAのイン・ビトロ転写の収量は、イン・ビトロ反応から得られるキャップ付きのmRNAの収量よりもはるかに高く、これがmRNA合成のコストを大幅に低減する。
【0104】
好ましくは、この生産方法は、前記mRNAを精製する工程を含んでなる。
【0105】
好ましい実施形態では、ファージRNAポリメラーゼにより認識されるプロモーターと、その後に対象とするmRNAをコードするDNA配列を含んでなるプラスミドDNAを無細胞イン・ビトロ転写系でファージRNAポリメラーゼと接触させる。次に、前記方法により合成されたmRNAを精製することができる。好ましくは、前記プラスミドDNAは、無細胞イン・ビトロ転写系でRNAポリメラーゼと接触させる前に線状化される。より好ましくは、前記DNAは、3’-UTR領域の下流での酵素消化によって線状化される。いっそうより好ましくは、前記DNAは、Ssp1またはEco53kIでの酵素消化によって線状化される。
【0106】
好ましくは、RNAポリメラーゼは、バクテリオファージT7 RNAポリメラーゼである。
【0107】
このmRNA分子は、それが導入される真核生物において対象とするポリペプチドの生産を命令することができる。従って、このmRNA分子は、遺伝子療法または遺伝子ワクチン接種に特に好適である。よって、本発明のmRNA分子は、薬物またはワクチンとして使用することができる。
【0108】
別の態様によれば、本発明はまた、医薬組成物またはワクチン組成物に関する。
【0109】
よって、より詳しくは、本発明は、本発明のmRNAを含んでなる医薬またはワクチン組成物に関する。組成物中に含まれるmRNAは細胞をトランスフェクトし、これが次にタンパク質に翻訳され得る。好ましくは、これらのタンパク質は、予防活性または治療活性を有する。
【0110】
実際に、本発明者らは、意外にも、本発明によるmRNAが組織トランスフェクションの際に従来のキャップ付きのmRNAよりも有効であることを示した。実際に、本発明者らは、極めて意外なことに、イン・ビボトランスフェクション後に得られた発現のレベルおよび期間がキャップ付きのmRNAの場合と少なくとも同等であることを示した。特に、マウスの真皮または筋肉での本発明のmRNAのイン・ビボ発現は、対照のキャップ付きのmRNAよりも大きい(
図5、
図15)。さらに、本発明者らは、極めて意外なことに、本発明によるmRNAが細胞内で長期間(すなわち、7週間を超えて)持続することを示した。最後に、本発明者らは、意外にも、2Aproタンパク質をコードする本発明による第1のmRNAと第2のタンパク質をコードする本発明による第2のmRNAでの細胞の同時トランスフェクションがこの第2のタンパク質の翻訳の増強を可能とすることを示した。
【0111】
よって、本発明の別の態様によれば、医薬組成物は、2Aproタンパク質または前記タンパク質をコードするmRNAを含んでなる。好ましくは、2Aproタンパク質は、配列番号81の配列を有する。好ましくは、前記タンパク質をコードするmRNAは、配列番号80の配列を有する。本発明の特定の実施形態によれば、医薬組成物は、5’から3’方向に:
・少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N7-19)GCCA(N12-19)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列を含んでなる5’-UTR領域、
・内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列のコピー;および
・オープンリーディングフレーム
を含んでなる、無キャップメッセンジャーリボ核酸(mRNA)の少なくとも2つの異なる分子を含んでなり、これらのmRNA分子の少なくとも一方が2Aproタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含んでなる。
【0112】
好ましくは、前記医薬組成物は、2Aproタンパク質をコードするリーディングフレームを含んでなる第1のmRNA分子と、対象とする第2のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含んでなる少なくとも1つの第2のmRNA分子とを含んでなる。より好ましくは、対象とする前記第2のタンパク質は、2Aproタンパク質でない。いっそうより好ましくは、対象とする前記第2の分子は、上記で定義されるものなどの抗原または治療タンパク質である。本発明の特定の実施形態によれば、第1のmRNAと第2のmRNAのモル比は、540:1~240:1、好ましくは540:1~315:1、いっそうより好ましくは465:1である。
【0113】
好ましくは、前記組成物には、賦形剤および/または薬学上許容されるビヒクルが添加される。本明細書において、薬学上許容されるビヒクルという用語は、医薬組成物中に含まれる、副作用を引き起こさず、かつ、例えば、有効化合物の投与の容易さの改善、体内でのその寿命および/もしくは有効性の増大、溶液中でのその溶解度の増大またはさらには保存の向上を可能とする化合物または化合物の組合せを指す。これらの薬学上許容されるビヒクルは周知であり、選択された有効化合物の性質および投与様式に応じて、当業者によって適合される。本明細書において、用語「薬学上許容される賦形剤」は、医薬組成物中に含まれ、副作用を引き起こさず、かつ、例えば、有効化合物の投与の容易さの改善、生物中でのその寿命および/もしくは有効性の増大、溶液中でのその溶解度の増大またはさらには保存の向上を可能とする化合物または化合物の組合せを指す。前記賦形剤は、特に、例えば、RNAが凍結乾燥物の形態で保存される場合に、投与直前に組成物に加えることができる。薬学上許容される賦形剤/ビヒクルは周知であり、選択された有効化合物の性質および投与様式に応じて、当業者によって適合される。様々な賦形剤が特に、The Science and Practice of Pharmacy by Remington, 第22版, Pharmaceutical Press, London, UK (2013)に記載されている。一例として、薬学上許容される組成物は、賦形剤として無菌水および/またはクロロキンを含んでなる。「クロロキン」賦形剤はまた、プリマキンなどのそのいずれの変異体または類似体も含む。
【0114】
実際に、本発明者らは、意外にも、特定の条件下で、クロロキンとmRNAの同時注入がトランスフェクション効率の向上を可能とすることを示した。特に、トランスフェクション効率は、「CPP」型ペプチドと組み合わせたmRNAで向上した(
図10参照)。
【0115】
好ましい実施形態によれば、医薬組成物は、クロロキンをさらに含んでなる。限定されない例として、医薬組成物は、1:0.5~1:4のmRNA:クロロキンの重量比、より詳しくは1:1のmRNA:クロロキンの重量比を含んでなる。限定されない例として、医薬組成物は、5μgのRNA:2.5~20μgのクロロキンをさらに含んでなる。
【0116】
好ましい実施形態によれば、医薬組成物は、本発明によるmRNA分子に非共有結合的に連結された、本明細書に記載の少なくとも1つのCPPをさらに含んでなる。有利には、CPPは、mRNAの標的細胞への浸透を促進するように選択される(例えば、器官または細胞株のタイプ、例えば、筋肉か皮膚細胞かによる)。
【0117】
好ましくは、これらの組成物は、筋肉内、皮内、腹腔内または皮下経路によるか、呼吸器経路によるか、または局所経路によって投与される。これらの組成物は好ましくは、哺乳動物組織、いっそうより好ましくはヒトへの注射を意図する。これらの組成物は好ましくは、当業者に公知の方法に従って、筋肉内、静脈内、皮内、腹腔内または皮下経路により注射されることを意図する。本発明の医薬組成物は、経時的に交互に数回投与してよい。その投与様式、用量および最適な剤形は、例えば、患者の年齢または体重、患者の健康状態の重篤度、処置に対する忍容性、および見られる副作用など、患者に適合した処置を確立する上で一般に考慮される基準に従って決定され得る。
【0118】
非経口的に投与可能な形態としては、薬理学的に適合する分散剤および/または湿潤剤を含有し得る水性懸濁液、等張性生理食塩水、または無菌注射溶液が含まれる。呼吸器経路により投与可能な形態としては、エアロゾルが含まれる。局所的に投与可能な形態としては、パッチ、ゲル、クリーム、軟膏、ローション、スプレー、点眼剤が含まれる。
【0119】
非経口的に投与可能な化合物を調製するための方法は当業者に既知または自明であり、例えば、Pharmaceutical Sciences of Remington, 第17版, Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1985)ならびにその第18版および第19版により詳細に記載されている。薬学上有効な物質のための媒体および薬剤の使用は当技術分野で周知である。投与に好適な薬学上許容される組成物を得るためには、前記組成物は、治療上有効とするに十分な量のmRNA分子を含んでなる。
【0120】
本発明の化合物の有効用量は、例えば、選択される投与経路、体重、年齢、性別、治療される病態の進行状態、および治療される個体の感受性などの多くのパラメーターによって異なる。
【0121】
特定の態様によれば、本発明は、遺伝子療法におけるその使用のための前記組成物に関する。本発明の組成物は、様々な疾患、例えば、癌、遺伝病(血友病、サラセミア、アデノシンデアミナーゼ欠乏症、アルファ-1アンチトリプシン欠乏症など)、糖尿病、アルツハイマー病およびパーキンソン病などの脳障害、アレルギー、自己免疫疾患、および心血管疾患の治療または調整において使用され得る。
【0122】
別の態様によれば、本発明は、遺伝子ワクチン接種におけるその使用のための前記組成物に関する。一例として、本発明の組成物は、癌およびインフルエンザ、ならびに他のウイルスおよび細菌病原体に対するワクチン接種において使用することができる。ワクチン接種は、ヒトならびにペットおよび家畜に関するものであり得る。
【0123】
本発明者らは、特に、本発明のmRNAがイン・ビボで安定であることを示した。実際に、本発明のmRNAは、イン・ビボにおいてキャップ付きのmRNAの場合と少なくとも同等の量のタンパク質の合成を誘導し、Xrn1に対するその耐性がキャップ付きのmRNAの場合と少なくとも同等の効率であることを示す。さらに、本発明者らは、特に、本発明のmRNAが細胞内で長期間持続することを示した。このようなmRNA分子はまた、その生産コストがキャップ付きのmRNA分子の生産コストよりもはるかに低いため極めて有利である。最後に、本発明者らは、細胞に直接浸透するRNAアプタマー(例えば、RNAアプタマーC)またはCPPペプチドを介して浸透するRNAアプタマー(例えば、RNAアプタマーA)を含んでなるmRNAがより効率的に細胞をトランスフェクトし、これが対象とする1以上のタンパク質の生産を向上させることを示した。
【0124】
本発明は以下の通りである。
[1] 5’から3’方向に:
-少なくとも1コピーのGUCAGRYC(N
7-19
)GCCA(N
12-19
)UGCNRYCUG(xrRNA)コンセンサス配列を含んでなる5’-UTR領域;
-内部リボソーム進入部位(IRES)RNA配列のコピー;および
-オープンリーディングフレーム
を含んでなる、キャップ分子を欠くメッセンジャーリボ核酸(mRNA)分子。
[2]2コピーのxrRNAを含んでなる、上記[1]に記載のmRNA分子。
[3]配列番号1~44の少なくとも1つの配列番号を含んでなる、好ましくは、配列番号11および配列番号26を含んでなる、上記[1]または[2]に記載のmRNA分子。
[4]脳心筋炎ウイルス(EMCV)のIRES配列を含んでなる、上記[1]~[3]のいずれかに記載のmRNA分子。
[5]好ましくは配列番号87のステム-ループを含んでなり、前記ステム-ループは5’-UTR領域の5’末端に位置する、上記[1]~[4]のいずれかに記載のmRNA分子。
[6]配列番号64の配列を有するアプタマーAおよび配列番号66の配列を有するアプタマーCから選択される少なくとも1つのアプタマーを含んでなる、上記[1]~[5]のいずれかに記載のmRNA分子。
[7]上記[6]のアプタマーAを含んでなるmRNA分子であって、前記mRNA分子は、ポリヒスチジンタグと融合された細胞膜透過ペプチド(CPP)に結合し、前記CPPは好ましくは配列番号75の配列を有するM12-H6、配列番号76の配列を有するCPP1-H6、配列番号77の配列を有するCPP2-H6、および配列番号78の配列を有するCPP3-H6から選択される、mRNA分子。
[8]オープンリーディングフレームがHRV2ウイルスの2Aproタンパク質をコードする、上記[1]~[7]のいずれかに記載のmRNA分子。
[9]好ましくは、
-配列番号46により表される配列を含んでなる、T7 RNAポリメラーゼにより認識されるプロモーター;
-配列番号50、71、72、73、85、または86により表される配列を含んでなる5’-UTR領域;
-オープンリーディングフレーム;および
-配列番号53、54、55、および56により表される配列から選択される配列を含んでなる3’-UTR領域
を含んでなる、上記[1]~[8]のいずれかに記載のmRNAをコードする配列を含んでなるデオキシリボ核酸(DNA)分子。
[10]上記[1]~[5]のいずれかに記載のmRNA分子または上記[9]に記載のDNAを含んでなるベクター。
[11]上記[9]に記載のDNA分子を少なくとも1種類のRNAポリメラーゼと接触させることを含んでなる、少なくとも1種類のmRNAのイン・ビトロ(in vitro)生産方法。
[12]前記mRNAを精製する工程を含んでなる、上記[11]に記載の生産方法。
[13]上記[1]~[7]のいずれかに記載のmRNAと生理学的に許容される賦形剤および/またはアジュバントとを含んでなる、薬学上許容される組成物。
[14]遺伝子療法または遺伝子ワクチン接種において使用するための上記[13]に記載の組成物。
[15]上記[1]~[7]のいずれかに記載の第2のmRNA分子を含んでなり、オープンリーディングフレームが2Aproタンパク質をコードする、上記[13]または[14]に記載の組成物。
以下、実施例により本発明をより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【
図1】
図1:メッセンジャーRNAのスキーム。(A)キャップ付きMB5-luc2 mRNAは、5’末端および3’-UTR領域にポリ(A)テールを含んでなるキャップ類似体を有する、ルシフェラーゼをコードする従来のメッセンジャーRNAに相当する。(B)MB5-luc2 mRNAは、それがキャップ類似体を欠いていること以外は(A)と同じである。(C)MB7-luc2 mRNAは、キャップを欠き、5’末端にステム-ループおよびEMCVウイルスの内部リボソーム進入部位(IRES)を有する。(D)MB8-luc2 mRNAは、キャップを欠き、5’UTR領域にステム-ループ、西ナイルウイルス(WNV)由来の2つのXrn1耐性配列(xrRNA1およびxrRNA2)およびEMCVウイルス由来のIRESを有する。(E)MB9-luc2 mRNAは、その3’-UTRおよびポリ(A)がクンジンウイルス(KUN)由来の3’-UTRで置換されていること以外は(D)と同様である。(F)無キャップMB11-luc2 mRNAは、5’領域において西ナイルウイルス(WNV)由来の2つのXrn1耐性配列(xrRNA1およびxrRNA2)およびEMCVウイルスのIRESの上流にアプタマーAが付加されていること、およびステム-ループを有さないこと以外は(D)と同様である。MB13-luc2(G)およびMB14-luc2(H)mRNAは、この同じ構成を有するが、5’ステム-ループとその後にそれぞれRNAアプタマーBおよびCを含んでなる。(I)キャップ付きMB15-luc2 mRNAは、5’領域においてキャップの後にアプタマーAが付加されていること以外は(A)と同様である。(J)MB17-luc2 mRNAは、5’側のステム-ループとxrRNA配列の間にアプタマーAが付加されていること以外は(D)と同様である。(K)MB18-luc2 mRNAは、5’領域においてxrRNA配列の下流、IRES配列の上流にAアプタマーが置かれていること以外は(J)と同様である。
【
図2】
図2:4日間にわたるCaco-2細胞におけるルシフェラーゼ発現動態。 コンフルエントのCaco-2細胞をMB5-luc2キャップ付き(◆)および無キャップ(●)mRNA、ならびにMB7-luc2(▲)およびMB8-luc2(■)mRNAでトランスフェクトした。発現動態を4日間追跡した。
【
図3】
図3:10日間にわたるCaco-2細胞におけるルシフェラーゼ発現動態。 コンフルエントのCaco-2細胞をキャップ付きMB5-luc2(◆)、MB8-luc2(■)およびMB9-luc2(▲)mRNAでトランスフェクトした。発現動態を10日間追跡した。
【
図4】
図4:ヒト間葉系幹細胞における長期ルシフェラーゼ発現動態。 間葉系幹細胞を、48ウェルプレートで、pepMB1ペプチド正電荷:mRNA負電荷比約2.2:1でpepMB1ペプチドと複合体を形成したMB8-luc2 mRNA 1ウェル当たり2μgで1時間トランスフェクトした。その後、ルシフェラーゼ活性をおよそ48日間、経過観察した。
【
図5】
図5:マウス筋肉および真皮のトランスフェクション。 雄BALB/cByJマウスの筋肉および真皮を、それぞれ10μgおよび5μgの無キャップMB8-luc2 mRNAまたはキャップ付きMB5-luc2 mRNAでトランスフェクトした。注入のそれぞれ16時間および18時間後に筋肉および皮膚で、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【
図6】
図6:MB8-2Apro mRNAの毒性試験。 2Aproタンパク質発現の細胞傷害効果を評価するために、C2C12細胞にMB8-luc2 mRNA単独またはMB8-luc2 mRNAとMB8-2Apro mRNAの465:1または9:1比の混合物でトランスフェクトした。細胞傷害性は、細胞外培地へ放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を測定することにより決定した。LDH活性は、490nmにおける吸光度を測定することにより決定する。陰性対照:溶解を行わない、非トランスフェクト細胞またはMB8-luc2 mRNA単独でトランスフェクトした細胞。陽性対照:Triton X-100で溶解した非トランスフェクト細胞。
【
図7】
図7:MB8-luc2 mRNA:MB8-2Apro mRNAモル比に応じた、ルシフェラーゼ発現に対する2Aproタンパク質の効果。 C2C12細胞に、漸増量のMB8-2Apro mRNAの存在下、MB8-luc2 mRNAでトランスフェクトした。MB8-luc2 mRNA:MB8-2Apro mRNAのモル比は、540:1~240:1であった。トランスフェクトしたmRNAの総量は、ウェル当たり750ngであった。トランスフェクションの18時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。
【
図8】
図8:MB8-2Apro mRNAの存在下または不在下での7日間にわたるルシフェラーゼ発現動態。 コンフルエントのC2C12細胞に、MB8-luc2 mRNA単独で(黒線)またはMB8-2Apro mRNAと組み合わせて(グレーの点線)トランスフェクトした。MB8-luc2 mRNA:MB8-2Apro mRNAのモル比は465:1である。ルシフェラーゼ活性のレベルにより測定される発現動態を7日間にわたって追跡した。
【
図9】
図9:種々のメッセンジャーRNAのルシフェラーゼ発現に対する2Aproタンパク質の効果 種々のメッセンジャーRNAからのルシフェラーゼ発現に対する2Aproタンパク質の効果を評価した。各場合において、ルシフェラーゼをコードするmRNAを単独でトランスフェクトするか(-)または2Aproタンパク質をコードし、最適モル比465:1で同じ特徴を有する第2のmRNAで同時にトランスフェクトした(+)。(1)MB8-luc2 mRNA単独;(2)MB8-luc2 mRNAとMB8-2Apro mRNAの同時トランスフェクション;(3)キャップ付きMB5-luc2 mRNA単独;(4)キャップ付きMB5-luc2 mRNAと無キャップMB8-2Apro mRNAの同時トランスフェクション;(5)キャップ類似体を欠くMB5-luc2単独;(6)キャップ類似体を欠くMB5-luc2 mRNAとキャップ類似体を欠くMB8-2Apro mRNAの同時トランスフェクション;(7)MB7-luc2 mRNA単独;(8)MB7-luc2 mRNAとMB8-2Apro mRNAの同時トランスフェクション。トランスフェクションの18時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。
【
図10】
図10:筋肉におけるキャップ付きmRNA分子のトランスフェクション効率に対する種々のアプタマーの効果。 雄BALB/cByJマウスの筋肉に5μgのクロロキンの存在下、5μgのMB8-luc2 mRNA、MB13-luc2 mRNA、MB14-luc2 mRNA、MB11-luc2 mRNAとM12-H6ペプチドの複合体、またはMB11-luc2 mRNAとM12-H6ペプチドの複合体でトランスフェクトした。注入の16時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。
【
図11】真皮におけるCPP3-H6ペプチド:MB11-luc2 mRNAのモル比に応じたmRNAのトランスフェクション効率。 雄OF1マウスの真皮に漸増モル比(1:8~1125:1のCPP3-H6:MB11-luc2 mRNAモル比)でCPP3-H6ペプチドと複合体を形成したMB11-luc2 mRNA 5.6μgでトランスフェクトした。注入の18時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。最適なトランスフェクションを可能とするモル比は、1 CPP3-H6:4 MB11-luc2 mRNAであった。
【
図12】
図12:真皮におけるCPP1-H6ペプチド:MB11-luc2 mRNAのモル比に応じたmRNAのトランスフェクション効率。 雄OF1マウスの真皮に漸増モル比(1:8~3:1のCPP1-H6:MB11-luc2 mRNAモル比)でCPP1-H6ペプチドと複合体を形成したMB11-luc2 mRNA 5.6μgでトランスフェクトした。注入の18時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。最適なトランスフェクションを可能とするモル比は、1 CPP1-H6:4 MB11-luc2 mRNAであった。
【
図13】
図13:真皮におけるCPP2-H6ペプチド:MB11-luc2 mRNAのモル比に応じたmRNAのトランスフェクション効率。 雄OF1マウスの真皮に漸増モル比(1:4~2.75:1のCPP2-H6:MB11-luc2 mRNAモル比)でCPP2-H6ペプチドと複合体を形成したMB11-luc2 mRNA 5.6μgでトランスフェクトした。注入の18時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。最適なトランスフェクションを可能とするモル比は、2 CPP2-H6:1 MB11-luc2 mRNAであった。
【
図14】
図14:真皮におけるキャップ付きmRNA分子のトランスフェクション効率に対するアプタマーAの効果。 従来のキャップ付きMB5-luc2 mRNAの5’-UTRにRNAアプタマーAを挿入してキャップ付きMB15-luc2 mRNAを作出した。雄OF1マウスの真皮に、これまでに得られた結果(
図12参照)を考慮して、2 CPP2-H6:1 MB15-luc2 mRNAのモル比でCPP2-H6ペプチドと複合体を形成した、または形成しないキャップ付きMB15-luc2 mRNA 5.6μgでトランスフェクトした。AアプタマーまたはCPP2-H6ペプチドの存在下でも不在下でもこの構築物でトランスフェクションは改善されなかった。
【
図15】
図15:真皮におけるmRNA分子のトランスフェクション効率に対する5’-SLの効果。 ステム-ループを欠くmRNA(MB11-luc2 mRNA)およびステム-ループがxrRNA1のさらに70ヌクレオチド上流に位置するmRNA(MB17-luc2 mRNA)と比較した、ステム-ループの5ヌクレオチド下流にxrRNA1配列が続く場合(MB8-luc2およびMB18-luc2 mRNA)の場合のトランスフェクション効率に対するステム-ループ(ここでは、配列番号87の配列を有する「5’-SL」)の効果。従来のMB5-luc2キャップ付きmRNAは、5’-SLの後に2つのxrRNA配列が続く場合の有効性の対照となる。雄OF1マウスの真皮に、種々のmRNAそれぞれ5.6μgでトランスフェクトし、注入の18時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。MB11-luc2のアプタマーAはペプチドに連結されておらず、従って、このmRNAのトランスフェクション効率に効果を及ぼさない。
【実施例】
【0126】
本発明を以下の限定されない例により説明する。これらの教示は、当業者に認識されるように、代替、改変および等価物を含む。
【0127】
実施例1:プラスミドの構築
配列番号49、配列番号50、または配列番号51の5’非コード配列に相当するDNA配列を化学合成し、DNAベクターに組み込み、ProteoGenixにより配列決定を行った。DNA断片を制限酵素で切断した。pMBx-luc2系のプラスミドを同じ制限酵素で消化し、DNA断片をT4 DNAリガーゼの作用によってこれらのプラスミドに組み込んだ。これらのプラスミドは、バクテリオファージT7プロモーターの下流に挿入されたルシフェラーゼ酵素をコードする遺伝子(配列番号62)を含有する。配列番号53の、短い非コード3’-UTR配列とそれに続く転写ポリアデニル化配列は、ルシフェラーゼ遺伝子の下流に位置する。種々の非コード5’-UTR配列が、プロモーターをルシフェラーゼ遺伝子から分離している。このようにして構築されたプラスミドを増幅し、確認し、制限酵素により、転写ポリアデニル化配列の下流で線状化した。
【0128】
実施例2:プラスミドの線状化およびmRNAのイン・ビトロ転写
Ssp1制限部位は各プラスミドのポリ(A)のすぐ下流に位置する(配列番号54参照)。10μgのプラスミドを1倍CutSmartバッファー中、37℃で4時間、20単位のSsp1-HF制限酵素(New Engrand Biolabs)で消化した。
【0129】
次に、Ssp1-HFにより線状化した8μlのプラスミドを2μlの10倍T7 RNAポリメラーゼ反応バッファー、各2μlの4種類のヌクレオチド三リン酸(ATP、GTP、CTPおよびUTP)および2μlのT7 RNAポリメラーゼ溶液(New England Biolabs)と混合した。キャップ付きmRNAの合成に関しては、この反応混合物にキャップ類似体を含めた。無キャップmRNAの合成に関しては、これを除いた。
【0130】
転写には3~10時間かかり、37℃のブロックヒーターで行った。次に、プラスミドを分解するために1μLのTURBO DNアーゼ(Thermo Fissher)を加え、この混合物を37℃で15分間インキュベートした。
【0131】
MB5-luc2 mRNAは、ルシフェラーゼをコードする従来のmRNAである。これは翻訳の最適な開始のために選択された配列番号57の5’非コード配列(UTR)、ならびに配列番号60のポリ(A)テールを含んでなる3’-UTR領域を有する。このmRNAをキャップ有りまたは無しで合成した(
図1(A)および(B)参照)。
【0132】
無キャップMB7-luc2 mRNAは、その5’末端に、MB5-luc2 mRNAの5’-UTRの代わりに、5’末端にステム-ループとその後にEMCVウイルスのIRES配列を有する。よって、前記は、キャップが存在しないにもかかわらず、リボソームを効率的に動員することができる。しかしながら、このmRNAはXrn1酵素に感受性があると思われる(
図1(C)参照)。MB7-luc2 mRNAの5’-UTR領域は配列番号58に相当し、3’-UTR領域は配列番号60に相当する。
【0133】
無キャップMB8-luc2 mRNAは、その5’末端にステム-ループと、その後の5’-UTR領域にxrRNA1およびxrRNA2(Kieft et al.,2015)と呼ばれるフラビウイルスWNVの3’-UTRに由来するXrn1耐性の2つの連続配列を有する。これらの配列にEMCVウイルスのIRESの配列が続き、従って、これはXrn1耐性の2つの配列により保護される(
図1(D)参照)。MB8-luc2 mRNAの5’-UTR領域は配列番号59に相当し、3’-UTR領域は配列番号60に相当する。無キャップMB8-luc2 mRNAを生産するコストは、キャップ付きmRNAを生産するコストの約30分の1である。
【0134】
無キャップMB9-luc2 mRNAは、その3’末端だけが無キャップMB8-luc2 mRNAと異なる。実際には、MB8-luc2の3’-UTRおよびポリ(A)配列は、クンジンウイルスの3’-UTR領域で置換されている。この領域はポリ(A)配列を有さない(
図1(E)参照)。MB9-luc2 mRNAの3’-UTR領域は配列番号61に相当する。
【0135】
無キャップMB11-luc2 mRNAは、5’末端にステム-ループが存在せず、5’領域の、Xrn1耐性の2つの連続配列の上流にアプタマーが存在するだけが無キャップMB8-luc2 mRNAと異なる(
図1(F)参照)。MB11-luc2 mRNAは、配列番号64のAアプタマーを含んでなり、よって、MB11-luc2 mRNAの5’-UTR領域は配列番号67に相当する。
【0136】
無キャップMB13-luc2およびMB14-luc2 mRNAは、5’領域の、Xrn1耐性の2つの連続配列の上流にアプタマーが存在することだけが無キャップMB8-luc2 mRNAと異なる(
図1(G、H)参照)。MB13-luc2 mRNAは、配列番号65のBアプタマーを含んでなり、よって、MB13-luc2 mRNAの5’-UTR領域は、配列番号68に相当する。MB14-luc2 mRNAは配列番号66のCアプタマーを含んでなり、よって、MB14-luc2 mRNAの5’-UTR領域は配列番号69に相当する。
【0137】
MB15-luc2 mRNAは、5’-UTR領域にAアプタマー(配列番号64)が挿入されているキャップ付きMB5-luc2 mRNAに相当し(
図1(I)参照)、よって、MB15-luc2 mRNAの5’-UTR領域は配列番号70に相当する。
【0138】
MB17-luc2 mRNAは、5’末端のアプタマーAの上流にステム-ループが存在することだけが無キャップMB11-luc2 mRNAと異なる(
図1(J)参照)。MB17-luc2 mRNAは、配列番号64のAアプタマーを含んでなり、よって、MB17-luc2 mRNAの5’-UTR領域は配列番号83に相当する。
【0139】
無キャップMB18-luc2 mRNAは、5’領域のXrn1耐性の2つの連続配列とIRES配列の間にアプタマーが存在することでだけが無キャップMB8-luc2 mRNAと異なる(
図1(K)参照)。MB18-luc2 mRNAは、配列番号64のAアプタマーを含んでなり、従って、MB18-luc2 mRNAの5’-UTR領域は配列番号84に相当する。
【0140】
実施例3:メッセンジャーRNAの精製
種々のルシフェラーゼmRNAの精製は、MegaClearキット(Ambion)を用いて行った。79μlの溶出溶液、350μlの結合溶液濃縮物および250μlの100%エタノールを21μlの従前の混合物に加えた。これら700μlをフィルターカートリッジに載せ、10,000xgで1分間遠心分離した。フィルターはメッセンジャーRNAを保持した。500μlの洗浄溶液を用い、10,000xgで1分間遠心分離して2回の洗浄を行った。次に、50μlの溶出溶液を2回加え、ブロックヒーターで10分間70℃に加熱することにより、フィルターからRNAを溶出させた。溶出は、10,000xgで1分間の遠心分離により得られた。
【0141】
第2の精製工程は、塩化リチウムを用いた沈澱により行った。60μlのLiCl沈澱溶液を100μlの溶出液に加えた。この混合物を-20℃で1時間冷却した後、最大速度にて4度で15分間遠心分離した。ペレットを500μlの70%エタノールで洗浄し、最大速度にて4度で5分間、最終の遠心分離を行った。メッセンジャーRNAペレットを数分間風乾し、無菌脱イオン水に再懸濁させた。このmRNA溶液の濃度を、分光光度計を用い、260nmにおける吸光度を測定することにより決定した。
【0142】
実施例4:メッセンジャーRNA/pepMB1複合体の構築
陽イオンペプチドpepMB1を合成し、精製し、ProteoGenixにより凍結乾燥させた。そのアミノ酸配列は以下の通りである:CRRRRRRRRC。この凍結乾燥物を無菌脱イオン水に再懸濁させた。
【0143】
5μgのルシフェラーゼmRNAを5μgのpepMB1とRNA終濃度20μg/mlで混合した。混合物を室温(20~25℃)で15分間インキュベートした後、-80℃で凍結させた。次に、mRNA/pepMB1複合体を約20時間凍結乾燥させた。
【0144】
実施例5:Caco-2またはC2C12細胞のトランスフェクション
材料および方法:
a)Caco-2株またはC2C12株の細胞の培養および播種
全ての細胞操作は層流フード下で行った。Caco-2細胞株(ECACC)は、非必須アミノ酸、抗生物質混合物ならびに抗真菌剤、およびウシ胎児血清(最終15%)を添加したDMEM(Gibco)中で培養した。培養は、37℃、75cm2フラスコ(Corning)内で行った。
【0145】
48ウェルプレート(Corning)に播種するために必要な細胞数に達した際に、3mlのTryPLE Select 1X(Gibco)を用い、37℃で5分間、細胞をフラスコの底から剥離した。7mlのDMEMを加えてTryPLE Select 1Xを中和した。これらの細胞を室温で10分間、100xgで遠心分離した。次に、細胞ペレットを10mlの培養培地に再懸濁させた。250μlのこの細胞懸濁液を48ウェルプレートの各ウェルに導入し、これを、5%CO2を含む37℃のインキュベーターに入れた。
【0146】
C2C12細胞は、播種後約12日間、48ウェルプレートウェルで、コンフルエントで維持することができる。この期間を過ぎると、これらの細胞は腸管上皮へ分化し、mRNA翻訳に影響が出る。これに対して、ヒト間葉系幹細胞は、7週間を超えてコンフルエントの培養で保存することができる。このようにして、間葉系幹細胞(Millipore、Human Mesenchymal Stem Cell(Bone Marrow))を48ウェルプレート(Corning)の使用準備済み培地(Millipore、間葉系幹細胞増殖培地)中で48日間まで培養した。トランスフェクション後5日より後に溶解させる細胞については、培養培地を週に3回交換した。
【0147】
b)Caco-2細胞またはC2C12細胞のトランスフェクション
Caco-2細胞の場合、各mRNAでのトランスフェクションは5つの異なるウェルで行った。mRNA/pepMB1複合体(Proteogenix)の凍結乾燥物を750μlのトランスフェクションバッファー(20mM Hepes、40mM KCIおよび100mMトリフルオロ酢酸塩)に再懸濁させた。
【0148】
C2C12細胞の場合、MB8 mRNAでのトランスフェクションは以下に示すように行う。MB8-luc2 mRNA/pepMB1複合体(Proteogenix)を、正電荷ペプチド:負電荷mRNA比およそ2.2のペプチドの存在下、室温で30分間、mRNAをインキュベートすることにより構築した。次に、この溶液を3倍DMEMで希釈して最終DMEMを1倍とした。
【0149】
両場合とも、150μlのRNA/pepMB1複合体溶液(Caco-2細胞の場合にはウェル当たり1μgのmRNAに相当し、C2C12細胞の場合にはウェル当たり2μgに相当する)を導入するために、ウェルが含んでいた培養培地を空にした。細胞をCO2インキュベーターにて37℃で30分間(Caco-2細胞)または1時間(C2C12細胞)インキュベートした。次に、mRNA/pepMB1複合体溶液を吸引し、250μlの培養培地に置き換えた。その後、細胞をCO2インキュベーターにて37℃で、細胞種によって6時間~48日間インキュベートした。
【0150】
c)Caco-2細胞またはC2C12細胞の溶解およびルシフェラーゼ活性の測定
トランスフェクションの6時間~48日後に、ルシフェラーゼタンパク質の発現動態を調べるために細胞を溶解させた。培養培地を吸引し、250μlの溶解バッファー(ルシフェラーゼアッセイシステム、Promega)に置き換えた。20μlの各細胞溶解液をルミノメーター(Berthold Technologies)に好適なチューブに入れた。ルミノメーターにより、100μlのルシフェラーゼ基質(Promega)を細胞溶解液に加えた。次に、これはルシフェラーゼにより触媒される酵素反応によって発せられた光の量を測定した。結果は相対発光量(RLU)で表される。ルシフェラーゼmRNAによってCaco-2細胞またはC2C12細胞が生産したルシフェラーゼタンパク質の量を、660nmタンパク質アッセイキット(Pierce)を用いて総細胞タンパク質をアッセイすることにより正規化した。このために、100μlの細胞溶解液を1.5mlの試薬と混合し、660nmで吸光度を測定した。較正範囲はウシ血清アルブミン溶液を用いて定めた。よって、ルシフェラーゼ活性はタンパク質1ミリグラム当たりのRLUで表される。
【0151】
結果:
結果を
図2、3および4に示す。無キャップMB5-luc2 mRNAは、Caco-2細胞において、ルシフェラーゼタンパク質の低く短い発現を誘導する。キャップが存在しないと、mRNAはタンパク質にまれにしか翻訳されず、Xrn1によって急速に分解される(
図2参照)。
【0152】
無キャップMB7-luc2 mRNAは、Caco-2細胞において、無キャップMB5-luc2 mRNAよりも強く、持続するルシフェラーゼタンパク質発現を示す。IRES領域はリボソームを動員するが、有意なXrn1耐性は与えない(
図2参照)。
【0153】
無キャップMB8-luc2 mRNAは、キャップ付きMB5-luc2 mRNAで得られたものと同様のルシフェラーゼ発現動態を誘導する(
図2および3参照)。これは、WNVウイルスのXrn1に耐性のある2つの配列の付加が、mRNAにMB5-luc2 mRNAキャップと同様のXrn1耐性を与えることを意味する。キャップおよびXrn1に耐性の配列を欠くMB7-luc2 mRNAは、無キャップMB8-luc2 mRNAと無キャップMB5-luc2 mRNAの間の中間のルシフェラーゼ発現を誘導する(
図2参照)。
【0154】
MB9-luc2 mRNAは、その3’-UTR末端がポリ(A)を欠くことでMB8-luc2 mRNAと異なる。それがCaco-2細胞において誘導するルシフェラーゼ発現は、MB8-luc2 mRNAによって誘導されるものよりも著しく低く、持続性も低い(
図3参照)。
【0155】
ヒト間葉系幹細胞では、MB8-luc2 mRNAは、意外なことに有利にも、極めて長期間持続するルシフェラーゼ発現を誘導する。実際に、発現が経時的に低下するとしても、それはトランスフェクションの48日後でもなお検出可能である(
図4参照)。
【0156】
実施例6:マウス筋肉および真皮のトランスフェクション
材料および方法:
a)動物の飼育:
筋肉の場合、8週齢の雄BALB/cByJマウスをオープンケージで、ケージ当たり5個体として飼育した。昼/夜サイクルは自動装置で管理した(12時間昼/12時間夜)。マウスに餌をやり、濾過水を自由に摂らせた。皮膚の場合、6週齢雄OF1マウスをオープンケージで、ケージ当たり4個体として飼育した。
【0157】
b)mRNAサンプル即時調製:
各筋肉内注射のために、230mMのNaClを含有する裸のmRNA溶液100μlを調製した。
【0158】
各皮内注射のために、160mMのNaClを含有する裸のmRNA溶液17μlを調製した。
【0159】
CPP-H6ペプチドを用いた場合、これをmRNAと混合し、5mM Hepes pH7.5および0.7mM MgCl2の存在下、室温で30分間インキュベートした。
【0160】
c)mRNAの皮内注射および筋肉内注射:
マウスの麻酔はイソフルランを用いて行った。筋肉内注射の場合、ブプレノルフィンの注射によって鎮痛を与えた。皮内注射の場合、背部の皮膚を3~4日早く剃った(詳細は実施例10を参照)。
【0161】
100μlおよび17μlのmRNA溶液をそれぞれ大腿二頭筋および皮膚に注射した。動物を翌朝までケージに戻した。
【0162】
d)皮膚および筋肉サンプル:
筋肉の場合、注射の16時間後にマウスをCO2で安楽死させた。皮膚の場合、マウスをイソフルランで麻酔し、注射の18時間後に頚椎脱臼により安楽死させた。皮膚および筋肉注射部位を採取した。これらの生検を生理食塩水で洗浄し、細片とし、溶解バッファー(Promega)を含有するチューブに入れた。これらのチューブを液体窒素中ですぐに凍結させた。
【0163】
e)皮膚および筋肉生検からの細胞の溶解:
各皮膚および筋肉生検に対して3回の凍結/解凍サイクルを行った。実際には、生検と溶解バッファーを含有するチューブを-80℃で10分間凍結させた。次に、それらを水浴中、室温で2分間解凍し、ボルテックスを用いて軽く混合した。組織残渣を沈降させ、細胞溶解液の明澄な上清を得るためにチューブを5000xg、20℃で5分間遠心分離した。
【0164】
f)ルシフェラーゼ活性の測定:
20μlの各細胞溶解液を各生検でルシフェラーゼ発現を測定するために使用した。チューブルミノメーターは各サンプルに100μlのルシフェラーゼ基質(Promega)を加え、発せられた光の量を10秒間測定した。結果は、相対発光量すなわちRLUで表す。
【0165】
次に、660nmタンパク質アッセイキット(Pierce)を用いるタンパク質アッセイのために、細胞溶解液を8~20倍希釈した。100μlの希釈細胞溶解液を1.5mlの試薬と6分間混合し、吸光度を660nmで測定した。較正範囲は0~750μg/mlのウシ血清アルブミンで行った。
【0166】
結果:
結果を
図5に示す。骨格筋(A)および皮膚(B)では、無キャップMB8-luc2 mRNAは、それらの注射の16時間後(筋肉の場合)または18時間後(真皮の場合)にキャップ付きMB5-luc2 mRNAよりも大きいルシフェラーゼ発現を誘導する。これらの結果は、これら2つのxrRNA配列(ここではWNVウイルス由来)およびIRES(ここではEMCV由来)の存在が、mRNAにイン・ビボにおいてMB5-luc2 mRNAのキャップよりも優れたXrn1耐性および翻訳効率を与えることを示す。実際に、極めて意外にも、マウスの筋肉組織における10μgのMB8-luc2 mRNAのトランスフェクションは、同用量のキャップ付きMB5-luc2 mRNAで見られるものの2.6倍高いルシフェラーゼ発現をもたらす(
図5A参照)。同様に、皮膚における5μgのMB8-luc2 mRNAのトランスフェクションは、同用量のキャップ付きMB5-luc2 mRNAで見られるものの9.3倍高いルシフェラーゼ発現をもたらす(
図5B参照)。
【0167】
従って、MB8-luc2 mRNAは、キャップ付きMB5-luc2 mRNAに完全に取って代わることができ、しかもより有利でありさえする。
【0168】
実施例7:MB8-2Apro mRNAの細胞毒性
材料および方法:
哺乳動物細胞における2Aproタンパク質の発現は、アポトーシスまたはネクローシスにより細胞死を引き起こすまでに毒性を誘導し得る(Goldstaub et al.,2000)。これらの過程で、細胞は乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を細胞外環境に放出する。このLDH活性は市販のキットCytoTox96 Non-Radioactive細胞傷害性アッセイ(Promega)を用いて測定することができる。
【0169】
MB8-2Apro mRNA(配列番号80)は、ヒトライノウイルス2(HRV2)ゲノム由来の2A非構造タンパク質(配列番号81の配列を有する2Apro)をコードするmRNAである。このmRNAは、MB8-luc2 mRNAのものと同一の配列番号57の5’非コード配列(UTR)、ならびにポリ(A)テールを含んでなる配列番号60の3’-UTR領域を有する。
【0170】
実施例4に記載されるように、750ngのMB8-luc2 mRNA単独またはMB8-luc2 mRNAとMB8-2Apro mRNAの混合物を、pepMB1ペプチドとの複合体とした。
【0171】
MB8-luc2 mRNA単独またはMB8-luc2 mRNAとMB8-2Apro mRNAの2種類の異なるモル比での混合物をC2C12細胞にトランスフェクトした。具体的には、48ウェルプレートの1ウェルからのC2C12細胞をmRNA/pepMB1複合体とともに1時間インキュベートした。18時間後、ルシフェラーゼ活性を測定した(
図6)。非トランスフェクト・非溶解C2C12細胞を陰性対照とし、培養培地へ全てのLDHを放出させるためにTriton X-100で溶解した非トランスフェクトC2C12細胞を陽性対照とした。
【0172】
結果:
mRNA混合物は、最高のモル比(MB8-luc2 mRNA:MB8-2Apro mRNA比9:1)であっても細胞傷害性を誘導しなかった。これはウイルスプロテアーゼの発現が細胞傷害性を誘導しないことを示す(
図9)。
【0173】
実施例8:MB8-luc2 mRNAおよびMB8-2Apro mRNAの同時トランスフェクションにより最適化されたルシフェラーゼ発現動態
材料および方法:
上記の方法に従い、毒性なく、MB8-luc2mRNAとMB8-2Apro mRNAは種々の比率でC2C12細胞に同時トランスフェクトされた。18時間後、ルシフェラーゼ活性を測定した(
図7)。次に、上記の方法に従い、トランスフェクション後わずか18時間にルシフェラーゼ発現の改善が見られたかどうかを決定するために、トランスフェクション後6時間~7日の動態を調べた。
【0174】
結果:
意外にも、MB8-luc2 mRNAとMB8-2Apro mRNAの同時トランスフェクションは、C2C12細胞において、全ての試験比で少なくとも2.5倍、MB8-luc2 mRNAのルシフェラーゼ発現を増強した。最良のMB8-luc2 mRNA:MB8-2Apro mRNAモル比は465:1であり、ルシフェラーゼ発現を3.4倍増強した。
【0175】
トランスフェクション後6時間~7日に調べた動態は、意外にも、ルシフェラーゼ発現の改善が少なくとも1週間見られたことを示す。実際に、ルシフェラーゼ発現は平均で2.4倍に増大した(
図7)。
【0176】
実施例9:筋肉におけるmRNAトランスフェクションの効率に対するRNAアプタマーの効果
本発明によるmRNA分子のインターナリゼーションを改善するために、種々のアプタマーを、下記のようにRNA分子に組み込んだ。次に、ルシフェラーゼ発現の改善が見られ得るかどうかを決定するためにこれらのアプタマーの効果をイン・ビボで評価した。
【0177】
材料および方法:
アプタマーの選択
C2C12細胞に浸透するアプタマーを選択した。まず、5’プライマーをハイブリダイズさせた後に一本鎖DNAライブラリーから一本鎖DNAを伸張させることによって二本鎖DNAを作出した。このようにして得られた二本鎖DNAを次に、当業者に周知の方法に従って、沈降させ、精製した。
【0178】
次に、精製した断片を、T7 DuraScribe転写キット(20μl/回)を用いて転写した後、ssDNAおよびRNA精製キットを用いてRNA精製を行うことによってRNAアプタマーライブラリーを得た。最後に、混入DNAを除去するために、この溶液をDNアーゼIで処理する。アプタマーを1倍DMEM+ITSに8μM RNA(1288μg/5ml)で溶解させる。アプタマーを選択するために、抗生物質または血清不含のDMEMで予め2回洗浄した細胞に5mlのDMEM/ITS/RNA溶液を加える。混合物を含有するフラスコを15分毎に軽く振盪しながら、細胞を37℃で1時間インキュベートする。細胞を含有するフラスコを次に氷上に置き、細胞に浸透しなかったRNAアプタマーを除去するために細胞を15mLの冷1倍PBSで5回洗浄する。その後、細胞をTRIzol(Invitrogen)で溶解させ、フェノール-クロロホルム法により全RNAを抽出する。内在RNAをRNアーゼAで消化すると3’プライマーとハイブリダイズしたRNAが残り、スーパースクリプトIII酵素(ThermoFisher)により逆転写した後、5’プライマー(100μM)、3’プライマー(100μM)、Q5 High Fidelity DNAポリメラーゼ(NEB)および1倍濃度のQ5 High-Fidelity Master Mixバッファーの存在下でPCR増幅を行う。アプタマーRNAライブラリーの取得を可能とするこれらの工程の全てを繰り返す。よって、C2C12細胞に浸透するRNAアプタマーの2サイクルの選択が実行される。
【0179】
C2C12細胞に浸透する2つのRNAアプタマー(BおよびC)を選択し、配列決定を行った(それぞれ配列番号65および66)。次に、RNAアプタマーBおよびCをMB8-luc2 mRNAの5’-UTR中のxrRNA1の上流に挿入して、それぞれMB13-luc2およびMB14-luc2 mRNAを作出した。
【0180】
ポリヒスチジンペプチドモチーフに強く結合するアプタマー
mRNAのインターナリゼーションを向上させることを狙いとした第2の戦略は、マグネシウムの存在下でポリヒスチジンペプチドモチーフに強く結合し得る別のRNAアプタマー(アプタマーA)をMB8-luc2 mRNAの5’-UTR中のxrRNA1の上流に挿入することからなった。RNAアプタマーAを組み込んだmRNAはMB11-luc2と呼称した。マウス筋線維浸透ペプチドM12(Gao et al.,2014参照)は、スペーサーを介して(ここでは、グリシンおよびセリンアミノ酸を含んでなる)ヘキサヒスチジンモチーフと連結した。種々のスペーサーは,例として、配列番号75(RRQPPRSISSHPGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGHHHHHH)、配列番号76(PQRDTVGGRTTPPSWGPAKAGGGGSGGGGSGGGGHHHHHH)、配列番号77(GPFHFYQFLFPPVGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGHHHHHH)または配列番号78(GSPWGLQHHPPRTGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGHHHHHH)(スペーサー配列に下線)の配列により示される。このようにして形成されたペプチドはM12-H6(配列番号75)と呼称した。MB11-luc2 mRNAを室温で30分間、M12-H6ペプチドとともにインキュベートした後、マウスの大腿二頭筋に注射した。
【0181】
イン・ビボトランスフェクション
雄BALB/cByJマウスの大腿二頭筋に、クロロキンの存在下または不在下、5μgのMB8-luc2 mRNA、MB13-luc2 mRNA、MB14-luc2 mRNA、またはMB11-luc2 mRNAとM12-H6ペプチドの複合体でトランスフェクトした。注射の16時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。
【0182】
結果:
MB13-luc2 mRNAは、MB8-luc2 mRNAとまさに同様に筋肉にトランスフェクトした(
図10)。極めて有利なことに、Cアプタマーを含んでなるMB14-luc2 mRNAは、MB8-luc2 mRNAよりも2.1倍効率的に大腿二頭筋にトランスフェクトした。従って、RNAアプタマーCは、筋線維に挿入されたmRNA分子のインターナリゼーションを向上させた。
【0183】
MB11-luc2 mRNAのトランスフェクション効率は中程度であった(
図10)。意外にも、しかしながら、5μgのMB11-luc2 mRNA、M12-H6ペプチドおよび5μgのクロロキンの同時注射は、クロロキンを含まない、ペプチドの存在下のMB11-luc2 mRNAに比べて、トランスフェクション効率を31倍向上させた。さらに、M12-H6およびクロロキンの存在下のMB11-luc2 mRNAで見られたルシフェラーゼ発現は、極めて有利なことに、MB8-luc2 mRNAで見られたものの2.7倍高かった。
【0184】
理論に縛られるものではないが、MB11-luc2 RNAとM12-H6ペプチドと複合体の、クロロキンの存在下での高いトランスフェクション効率は、mRNAが細胞に浸透した後のクロロキンによるエンドソームの酸性化の遅延によって有利となったと推定できる。クロロキンは、酸性pHでヘキサヒスチジンのプロトン化を遅延させることができ、従って、MB11-luc2 mRNAとM12-H6ペプチドの間の複合体の不安定化を防ぐ。結果として、エンドソームから逃れたmRNAは、なお複合体を形成しているM12-H6の助けでエンドソーム膜を通過することによってサイトゾルへの侵入が促進され得、そこでmRNAが翻訳される。
【0185】
実施例10:マウスにおける皮内注射プロトコール
a-溶液の調製
20μgのmRNAを含有する60μlの溶液を各マウスに対して調製した。このために、脱塩水、50mM Hepes(1/8のHepes、7/8のナトリウムHepes)、NaCl(最終160mM)、MgCl2、mRNA、および場合によりペプチドを混合した。室温で30分のインキュベーション後、ペプチドはRNAに結合することができた。mRNAがペプチドと複合体を形成しない場合は、インキュベーションは無かった。mRNA溶液は、注射されるまで保存のために-80℃で凍結させた。
【0186】
b-皮内注射および生検採取
6週齢の雄OF1マウスを使用した(Charles River)。これらのマウスを皮内注射の3~4日前に剃毛した。麻酔は、マスクを用いて行った。麻酔の誘導は4%イソフルラン(Piramal Heathcare)で達成した。2%のイソフルランで麻酔を維持した。注射前、予め剃毛した背部の皮膚をアルコールワイプで清浄にした。0.3mm×8mm U-100(30G)インスリンシリンジ(Becton-Dickinson)に充填するために、mRNA溶液を室温でゆっくり解凍した。各マウスの剃毛した背部の皮膚に、およそ17μlのRNA溶液の注射を3回行った。丘疹が生じた後に消散した。翌日に生検を行う皮膚領域を特定することを可能とするために油性マーカーを用いてこれらの輪廓を描いた。また、同じケージの動物間の識別を行うためにマーカーを用いてテールにタグ付けを行った。
【0187】
注射の18時間後に、注射領域から皮膚生検を採取した。このために、マウスを麻酔した後、頚椎脱臼により安楽死させた。細胞の溶解を容易にするためにハサミを用いて生検を細片とし、500μlの1倍溶解バッファー(5倍Luciferase Cell Culture Lysis(Promega)、水で希釈)を含有するチューブに入れた。各チューブを次の工程まで-20℃で凍結させた。
【0188】
c-細胞溶解、ルシフェラーゼおよびタンパク質アッセイ
採集した組織の溶解は、3回の凍結/解凍サイクル(-80℃で10分間、水浴にて室温で3分)を行い、ボルテックスミキサーを用いて数秒間混合することによって得た。次に、チューブを20℃にて5000xgで5分間遠心分離して組織残渣を沈降させた。上清を別のチューブに移した。
【0189】
ルシフェラーゼアッセイは、ルシフェラーゼアッセイシステムキット(Promega)を用いて行った。20μlの各サンプルを、ルミノメーター用チューブ(Berthold AutoLumat Plus LB 953)に入れた。この装置は100μlの基質を注入し、発せられた光の量(RLU)を測定した。
【0190】
タンパク質アッセイは、Pierce 660nmタンパク質アッセイキット(Thermo scientific)を用いて行った。較正範囲はウシ血清アルブミン(Thermo scientific)および希釈剤としての1倍溶解バッファーで行った。この範囲には100~500μgタンパク質/mlの範囲が含まれた。ブランクは100μlの1倍溶解バッファーを用いて得た。場合によっては、溶解液を1倍溶解バッファーで希釈した。100μlの各サンプルをタンパク質アッセイに使用した。1.5mlの試薬をブランクおよびサンプルに加えた。室温、暗所での正確に5分のインキュベーションの後に、各サンプルの吸光度を、分光光度計を用いて660nmで測定した。
【0191】
実施例11:皮膚におけるmRNAトランスフェクションの効率に対するCPPの効果
細胞浸透ペプチド(CPP)をRNAアプタマーAに結合させることにより裸のmRNAのインターナリゼーションを向上させる戦略は、上記実施例9に記載されるように筋肉に限定されない。ここでは、この戦略を、種々のCPPを用いてマウスの皮膚に適用した。
【0192】
材料および方法:
ここでは3種類のCPPを使用した:CPP1、CPP2およびCPP3(Kamada et al.,2007およびLee et al.,2012参照)。それらをグリシンおよびセリンから構成されるスペーサーによりヘキサヒスチジンに連結して、それぞれ配列番号76、77、および78の配列を有するペプチドCPP1-H6、CPP2-H6およびCPP3-H6を形成した。
【0193】
MB11-luc2 mRNAを、160mM NaCl、0.7mM MgCl2および5mM Hepesを含んでなる予め最適化したバッファー中、漸増量のCPP3-H6、CPP1-H6、またはCPP2-H6ペプチドとともに30分間インキュベートした。160mMのNaClを添加した無菌の超純粋脱イオン水に希釈したMB11-luc2 mRNA単独およびMB8-luc2 mRNAも注射し、ここで対照として使用した。
【0194】
実施例10に詳説したプロトコールに従い、OF1マウスに5.6μgのMB8-luc2 mRNAまたはMB11-luc2の皮内注射を行った。また、皮内注射後に、MB11-luc2 mRNA中に存在するRNAアプタマーAからCPP3-H6ペプチドが解離可能であるかどうかを決定するために、マウス皮膚に、1:1比のMB11-luc2 mRNAとMB8-luc2 mRNAの混合物、および0.5モル比の場合と同量のCPP3-H6の注射も行った。注射の18時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。
【0195】
結果:
予想されたように、MB8-luc2 mRNAの注射は、効率的な皮膚トランスフェクションをもたらした。CPP3-H6、0.7mM MgCl
2および5mM HepesとMB8-luc2 mRNAを同時注射してもトランスフェクション効率に有意な影響はなかった(
図11)。
【0196】
MB11-luc2 mRNA単独に比べて転写効率を有利にも9.2倍に増大させるCPP3-H6ペプチドの最適量は、1 CPP3-H6ペプチド:2 mRNAのモル比に相当する(
図11)。さらに、ルシフェラーゼ活性は極めて有利には、MB8-luc2 mRNAで得られるものの2.1倍高く、および従来のMB5-luc2キャップ付きmRNAで得られるものの19.5倍高い。
【0197】
いずれの2つのmRNAも一方がCPP3-H6と結合しなければ、トランスフェクションは12.3分の1に低下する(
図11、各2.8μgのMB8-luc2 mRNAおよびMB11-luc2 mRNA)。これは、皮内注射後にCPP3-H6ペプチドは、MB11-luc2 mRNA中に存在するRNAアプタマーAから解離し得ることを意味する。mRNAの半数がRNAアプタマーAを欠く場合(MB8-luc2 mRNA)、CPP3-H6は効果的にトランスフェクションを向上させることができない。
【0198】
MB11-luc2 mRNAはまた、種々のモル比のCPP1-H6ペプチドとともにインキュベートした。最良のモル比は、1 CPP1-H6ペプチド:4 MB11-luc2 mRNAであった(
図12)。トランスフェクション効率は、MB11-luc2 mRNA単独の5.4倍に増大した。
【0199】
よって、CPP1-H6は、CPP3-H6よりも低い結果であった。これは、皮膚細胞の原形質膜中に存在する各CPPの受容体のコピー数およびその受容体に対する各CPPの親和性によって説明することができる。
【0200】
最後に、MB11-luc2 mRNAをCPP2-H6とも種々のモル比でインキュベートした。最良のモル比は、2 CPP2-H6ペプチド:1 MB11-luc2 mRNAであった(
図13)。トランスフェクション効率はMB11-luc2 mRNA単独の10.6倍に増大し、CPP3-H6ペプチドで得られたものよりも高い。よって、ルシフェラーゼ発現は、従来のMB5-luc2 mRNAで得られるものの22.8倍高い。
【0201】
実施例12:皮膚におけるキャップ付きmRNAのトランスフェクション効率に対するCPP-H6の効果
材料および方法:
キャップ付きmRNAのトランスフェクション効率に対するCPP(ここでは、CPP2-H6)の効果を評価するために、アプタマーAを従来のキャップ付きMB5-luc2 mRNAの5’-UTRに挿入し、配列番号70の配列を有するキャップ付きMB15-luc2 mRNAを作出した。実施例11で上記したように、MB15-luc2 mRNAを、0.7mM MgCl2および5mM Hepesを含んでなるバッファー中で30分間、CPP2-H6とともにインキュベートした。
【0202】
実施例10で詳説したプロトコールに従い、OF1マウスで、5.6μgのMB15-luc2 mRNAの皮内注射を行った。注射の18時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。
【0203】
結果:
CPP2-H6ペプチドの不在下で、キャップ付きMB15-luc2 mRNAで得られたルシフェラーゼ発現は、キャップ付きMB5-luc2 mRNAで得られたものの1.68分の1低い。
【0204】
キャップ付きMB15-luc2 mRNAとCPP2-H6ペプチドの、mRNA当たり2ペプチドのモル比での同時注射は、MB15-luc2 mRNA単独の1.48倍にトランスフェクション効率を向上させるに過ぎなかった。これは、従来のキャップ付きmRNAの5’-UTRへのRNAアプタマーAの挿入およびこのRNAアプタマーへのCPP-H6ペプチドの結合が、キャップ付きmRNAであるMB11-luc2で見られるものに比べてトランスフェクション効率を向上させないことを示す(10.6倍)。キャップ付きmRNA分子(アプタマーを含むまたは含まない、CPP2-H6 CPPに連結されているまたはされていない)にかかわらず、トランスフェクション効率はMB8-luc2 mRNAおよびMB11-luc2 mRNAに関して見られたものよりずっと低いままである。従って、キャップ付きmRNA分子よりも本発明のmRNA分子を使用することが極めて有利である。
【0205】
実施例13:皮膚におけるイン・ビボルシフェラーゼ発現に対する5’-SLの効果
材料および方法:
上記の実施例10に詳説したプロトコールに従い、以下のmRNA:MB8-luc2、MB11-luc2、MB17-luc2、MB18-luc2、およびキャップ付きMB5-luc2を皮膚に注射し、注射の18時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。
【0206】
結果:
図15に示すように、少なくとも1つのxrRNA配列およびIRES配列を含んでなる本発明によるmRNA(MB11-luc2)は、皮膚におけるルシフェラーゼ発現を、キャップ付きmRNA(MB5-luc2)のおよそ2倍増大させる。極めて意外なことに、ステム-ループ(ここでは、配列番号87の配列を有する5’-SL)の付加は、ステム-ループがxrRNA1配列の5ヌクレオチド上流に位置する場合には(MB8-luc2およびMB18-luc2)、皮膚におけるルシフェラーゼ発現を、xrRNAおよびIRES配列単独の場合(MB11-luc2)のさらに約4.3増大させる。
【0207】
しかしながら、ステム-ループがxrRNA配列のおよそ70ヌクレオチド上流位置する場合には、このステム-ループは、そのステム-ループが存在しない場合にすでに見られるものを超えて効率を向上させることはない。実際に、MB11-luc2 mRNAとMB17-luc2 mRNAの翻訳効率は同等である。xrRNA配列とIRES配列の間にアプタマーAが位置すると(MB18-luc2)、極めて意外なことに、MB11-luc2 mRNAおよびMB17-luc2 mRNAに比べていっそう翻訳効率が高まる。よって、MB8-luc2 mRNAおよびMB18-luc2 mRNAは同等の翻訳効率を有する。
【0208】
結論:
本発明によるmRNA分子は、少なくとも2倍、好ましくは約10倍増大するタンパク質発現収量を持ちつつ、キャップ付きmRNA分子のおよそ30分の1の合成コストである。さらに、本発明のmRNAは、キャップ付きmRNAと少なくとも同等に安定であり、イン・ビトロ転写によるその生産は、キャップ分子またはその類似体が存在しないことで簡単となる。HRV2の2Aプロテアーゼをコードする本発明のmRNAは、対象とするタンパク質をコードするmRNAの翻訳を、これらの2つの分子が同時トランスフェクトされた場合に増強することを可能とする。さらに、筋肉または皮膚などの組織におけるトランスフェクションの効率は、例えば、本発明によるmRNA分子の5’-UTR領域に、細胞に直接浸透するRNAアプタマー、CPP(上記のようなRNAアプタマーに結合)を挿入することにより、および/またはxrRNA配列の上流の5’-UTR領域の5’末端にステム-ループを付加することによって向上させることができる。
【0209】
参考文献
Ausubel et al., 2001, Current Protocols in Molecular Biology, Wiley & Sons, Hoboken, N.J., USA.
Beckert and Masquida, 2011, Methods Mol Biol. 703: 29-41.
Borman et al., 1995, Nucl. Acids Res. 23(18): 3656-3663.
Chapman et al., 2014, eLife, 3: e01892.
Contreas et al., 1982, Nucl. Acids Res. 10: 6353-6363.
Cowling, 2010, Biochem. J. 425: 295-302.
Dunn et al., 2017, Nat Rev Chem. 1. s41570-017. 10.1038/s41570-017-0076.
Gao et al., 2014, Molecular Therapy 22(7): 1333-41.
Goldstaub et al., 2000, Mol Cell Biol, 20: 1271-1277.
Kamada et al., 2007, Biol. Pharm. Bull. 30(2): 218-23.
Kieft et al., 2015, RNA Biology, 12(11): 1169-77.
Lee et al., 2012, Biotechnol. 7: 387-96.
Martinez Salas et al., 2013, Int J Mol Sci. Nov; 14(11): 21705-21726.
Martin et al., 1975, JBC, 250 : 9322-9329.
Mokrejs et al., 2010, Nucl. Acids Res. 38 (suppl 1): D131-D13.
Needleman and Wunsch, 1970, J Mol Biol. 48(3):443-53.
Pasquinelli et al., 1995, RNA, 1: 957-967.
Poillot and De Waard, 2011, Med Sci (Paris). 27(5):527-34.
Roge and Betton, 2005, Microb Cell Fact. 4: 18.
Tsuji S. et al., 2013, PLoS ONE 8(12): e83108.
【配列表】