(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】骨修復インプラント及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/28 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
A61F2/28
(21)【出願番号】P 2020535746
(86)(22)【出願日】2019-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2019030631
(87)【国際公開番号】W WO2020031933
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2018149414
(32)【優先日】2018-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502437894
【氏名又は名称】学校法人大阪医科薬科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591163960
【氏名又は名称】大阪冶金興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】植野 高章
(72)【発明者】
【氏名】中島 世市郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 誠二
(72)【発明者】
【氏名】松下 富春
(72)【発明者】
【氏名】北垣 壽
(72)【発明者】
【氏名】森 重雄
【審査官】松山 雛子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05769637(US,A)
【文献】特表2005-512702(JP,A)
【文献】中国実用新案第203988499(CN,U)
【文献】特表2009-501575(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107157566(CN,A)
【文献】特表2017-536160(JP,A)
【文献】特開平07-163582(JP,A)
【文献】特開昭60-236656(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0035024(US,A1)
【文献】米国特許第06712851(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の骨
欠損部に設置するためのチタン又はチタン合金からなる骨修復インプラントであって、
前記骨
欠損部を有する骨の表面形状に対応する表面形状を少なくとも部分的に有し、且つ少なくとも部分的に前記骨の表面形状に沿ったトレイ状に湾曲した形状に形成された板状部を備え、
前記板状部のトレイ状の湾曲は、前記患者の前記骨
欠損部を跨ぐように設置した場合に前記板状部における前記骨
欠損部を跨ぐ方向に対して垂直な方向の断面形状がトレイ状に湾曲するものであり、
前記板状部は、該板状部に設けられた湾曲又は窪みによって構成された移植組織を設置するための空間をなす組織設置部を有し、
前記板状部には、該板状部を前記骨
欠損部の周囲の骨部分に締結するための締結具が通ることができる貫通孔が設けられていることを特徴とする骨修復インプラント。
【請求項2】
前記板状部は、前記骨
欠損部を有する骨を支持できる位置に設置されるように構成されており、当該設置部位の骨の表面形状に対応する表面形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の骨修復インプラント。
【請求項3】
前記板状部は、前記骨
欠損部を有する骨の下部の表面形状に対応する表面形状を有し、
前記板状部が前記骨
欠損部の下部を覆って、前記骨
欠損部を有する骨を下方から支持するように該骨
欠損部を有する骨に設置されるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の骨修復インプラント。
【請求項4】
前記板状部には、前記骨
欠損部における骨欠損部分を少なくとも部分的に埋めるための人工骨部が一体形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の骨修復インプラント。
【請求項5】
前記板状部及び人工骨部は、前記骨
欠損部の周囲の骨部分に相当する力学特性を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の骨修復インプラント。
【請求項6】
前記骨
欠損部
の周囲の骨部分に接する表面には生体活性能が付与されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の骨修復インプラント。
【請求項7】
前記生体活性能が付与された部分は、チタン酸化物で構成されていることを特徴とする請求項6に記載の骨修復インプラント。
【請求項8】
前記板状部及び人工骨部の少なくとも一部には、抗菌性が付与されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の骨修復インプラント。
【請求項9】
少なくとも一部に多孔質構造を有していることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の骨修復インプラント。
【請求項10】
骨修復インプラントの製造のための積層造形装置の作動方法であって、
CT撮像技術を利用して患者の骨
欠損部を有する骨の三次元座標データを得るステップと、
前記三次元座標データに基づいて、チタン又はチタン合金を材料として、前記積層造形装置が、前記骨
欠損部を有する骨の表面形状に対応する表面形状を少なくとも部分的に有し、少なくとも部分的に前記骨の表面形状に沿ったトレイ状に湾曲した形状に形成され且つ貫通孔を有する板状部を造形するステップとを備え、
前記板状部のトレイ状の湾曲は、前記患者の前記骨
欠損部を跨ぐように設置した場合に前記板状部における前記骨
欠損部を跨ぐ方向に対して垂直な方向の断面形状がトレイ状に湾曲するものであり、
前記造形するステップにおいて、前記板状部に湾曲又は窪みを形成することで、移植組織を設置するための空間をなす組織設置部を有する形状に前記板状部を造形することを特徴とする骨修復インプラントの製造のための積層造形装置の作動方法。
【請求項11】
前記造形するステップにおいて、前記骨
欠損部を有する骨を支持できる前記板状部の設置に適する位置の骨の表面形状に対応する表面形状を有する前記板状部を造形することを特徴とする請求項10に記載の骨修復インプラントの製造のための積層造形装置の作動方法。
【請求項12】
前記造形するステップにおいて、前記骨
欠損部を有する骨の下部の表面形状に対応する表面形状を有する前記板状部を造形することを特徴とする請求項11に記載の骨修復インプラントの製造のための積層造形装置の作動方法。
【請求項13】
前記骨
欠損部におけ
る骨欠損部分を少なくとも部分的に埋めるための人工骨部が前記板状部と一体形成されることを特徴とする請求項10~12のいずれか1項に記載の骨修復インプラントの製造のための積層造形装置の作動方法。
【請求項14】
前記造形するステップの後に、前記板状部及び人工骨部の表面の少なくとも一部に生体活性処理を施すステップをさらに含むことを特徴とする請求項10~13のいずれか1項に記載の骨修復インプラントの製造のための積層造形装置の作動方法。
【請求項15】
前記生体活性処理を施すステップは、前記インプラントに酸処理をするステップと、前記インプラントに加熱処理をするステップとを含むことを特徴とする請求項14に記載の骨修復インプラントの製造のための積層造形装置の作動方法。
【請求項16】
前記造形するステップの後に、前記板状部及び人工骨部の少なくとも一部に抗菌処理を施すステップをさらに含むことを特徴とする請求項10~15のいずれか1項に記載の骨修復インプラントの製造のための積層造形装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨損傷部に設置される骨修復インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の疾病や事故等で骨を部分的に欠損した場合、欠損した骨の代わりに自己の当該骨欠損部以外の骨を移植し、さらに金属等からなる固定具により固定することが行われている。
【0003】
例えば、顎骨の場合、
図14に示すように、顎骨100の骨欠損部Aに、他の部位から取得した骨101を移植し、顎骨100の形状に沿うように加工された金属製固定具102によって顎骨100と移植骨101とをつなぐ。具体的には金属製固定具102には長手方向に沿って複数の孔部103が設けられており、金属性固定具102はその孔部103を通るスクリュー等の締結具により顎骨100及び移植骨101に締結される。これにより、移植骨101は顎骨100に固定されることとなる。このような従来の方法を採用する場合、患者は骨欠損部A以外の骨を喪失することとなり、また、術者にとっても骨欠損部A以外からの骨採取、固定具102を顎骨形状に沿わせるための成形が必要となり、手術時間が長時間に亘ることとなり負担が大きい。
【0004】
そこで、近年、骨形成誘導能を有するインプラントを骨欠損部に設置することが検討されている。このような方法を用いると、他の部位の骨を骨欠損部に移植する必要がなく、患者及び術者の負担を軽減することができる。このようなインプラントは、例えば特許文献1等に開示されている。特許文献1のインプラントは、チタンを材料として電子ビームを用いて造形された三次元メッシュ構造物に、骨形成因子(BMP)を複合化させることにより骨形成誘導を達成するものである。当該インプラントは、骨欠損部の形状の三次元座標データに基づいて製造されるため、形状制御が容易であり、さらにBMPを含むため、骨欠損部に設置することにより骨形成を誘導することができる。
【0005】
また、上記BMPのような骨形成誘導因子を用いることなく、チタン材料に簡便な生体活性化処理を行うことにより、骨伝導による骨修復材料を製造する技術が特許文献2等に開示されている。具体的に、特許文献2では、チタンからなる基材に酸処理及び加熱処理をすることにより、当該基材の表面に生体骨との結合に有利なアパタイト層を形成できる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-188419号公報
【文献】国際公開2010/087427号
【非特許文献】
【0007】
【文献】T. Kawai, M. Takemoto, S. Fujibayashi, H. Akiyama, M. Tanaka, S. Yamaguchi, D.K. Pattanayak , K. Doi, T. Matsushita, T. Nakamura, T. Kokubo, S. Matsuda, Osteoinduction on Acid and Heat Treated Porous Ti Metal Samples in Canine Muscle, PLOS ONE, 9(2014), e88366.
【文献】T Kawai, M Takemoto, S Fujibayashi, H Akiyama, S Yamaguchi, D K Pattanayak, K Doi, T Matsushita, T Nakamura, T Kokubo, S Matsuda, Osteoconduction of porous Ti metal enhanced by acid and heat treatments, J Mater Sci Mater Med, 24-7(2013),1707-15.
【文献】T Kawai, M Takemoto, S Fujibayashi, M Neo, H Akiyama, S Yamaguchi, DK Pattanayak, T Matsushita, T Nakamura, Kokubo T, Bone-bonding properties of Ti metal subjected to acid and heat treatments. J Mater Sci Mater Med, 23-12 (2012), 2981-92.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のインプラントでは、骨形成誘導能を付加するためにBMPを用いているが、通常、基材となるチタンに直接BMPを付着させることは困難であるため、基材の表面処理を行ったり、BMPの付着後にデキストリン溶液を塗布したり、種々の処理が行われている。このため、製造工程が煩雑となるし、また、上記処理を行ったとしても十分な骨形成誘導能を発揮できる量のBMPをインプラントに付与できないおそれもある。加えて、BMPそのものが現在では、安価で大量生産不可能なことから臨床での使用には問題が残されている。さらに、特許文献1のインプラントは、骨欠損部の形状の三次元座標データに基づいて製造されているが、その形状は、単に骨欠損部に補綴する形状となっているだけであり、骨欠損部が生じた骨自体を固定・支持できるような構成とはなっていない。従って、実際には上述するような固定具が別途必要となる。
【0009】
また、特許文献2に開示の技術(さらに、非特許文献1~3も参照。)では、特許文献1のような処理を要せず、基材に対して酸処理および加熱処理といった簡便な処理のみでチタン板材やチタン多孔体に骨結合能(骨伝導能)や周囲に骨が存在しない環境下においても新生骨が誘導されることに関する動物実験の報告例がある。しかしながら、上記特許文献および非特許文献において、骨欠損部の修復に活用する方法を開示するものはない。さらに、特許文献2において、特許文献1と同様に、骨欠損部が生じた骨自体を固定できるような構成のインプラントについての開示は無い。
【0010】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便な方法で骨損傷部を有する骨自体を支持及び固定でき、且つ、優れた骨形成能を有する骨修復インプラントを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、患者の骨損傷部を有する骨の三次元座標データを利用して骨欠損部を有する骨の表面形状に対応する表面形状を有するインプラントを造形することで、従来のような手術者による形状加工を必要とせず、簡便に骨損傷部を有する骨に設置でき、当該骨を支持及び固定できる骨修復インプラントを完成した。
【0012】
本発明に係る骨修復インプラントは、患者の骨損傷部に設置するためのチタン又はチタン合金からなる骨修復インプラントであって、前記骨損傷部を有する骨の表面形状に対応する表面形状を少なくとも部分的に有する板状部を備え、前記板状部には、該板状部を前記骨損傷部の周囲の骨部分に締結するための締結具が通ることができる貫通孔が設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る骨修復インプラントによると、骨損傷部を有する骨の表面形状に対応する表面形状で形成されているため、術中にインプラントを骨に適合するように成形する必要もなく、比較的容易に設置することができる。特に、本発明のインプラントにおける骨と接触する面の表面形状を少なくとも部分的に当該骨の表面形状に対応するように形成することで、少なくとも部分的にインプラントを当該骨と密接して設置することができる。これに加えて、本発明のインプラントには、締結具が通る貫通孔が設けられているため、締結具により、骨損傷部の周囲の骨部分に締結することにより、当該骨損傷部の周囲に位置する骨を一体的に容易に固定することができる。その結果、従来のような手術者による加工等を不要とすることができ、その負担を軽減できる。
【0014】
本発明に係る骨修復インプラントにおいて、前記板状部は、移植組織を設置するための空間をなす組織設置部を有するような形状に形成されていてもよい。
【0015】
このようにすると、上記組織設置部において板状部に骨修復のために重要な移植組織を設置でき、すなわち骨修復の促進に必要な血管や皮膚等の組織を配設できるスペースとしての組織設置部が形成されているため、それらの配設が容易となり、術者の作業負担を軽減することができる。
【0016】
本発明に係る骨修復インプラントにおいて、前記板状部は、前記骨損傷部を有する骨を支持できる位置に設置されるように構成されており、当該設置部位の骨の表面形状に対応する表面形状を有していることが好ましい。例えば、前記板状部は、前記骨損傷部を有する骨の下部の表面形状に対応する表面形状を有し、前記板状部が前記骨損傷部の下部を覆って、前記骨損傷部を有する骨を下方から支持するように該骨損傷部を有する骨に設置される構成であってもよい。
【0017】
このようにすると、板状部が骨損傷部の下部を覆って、該骨損傷部を有する骨を下方から支持するため、骨損傷部を有する骨をインプラントにより固定した際の安定性を向上できる。また、固定前の設置手術中においても骨損傷部を有する骨を下方から支持できるため、インプラントの設置手術を容易にでき、術者の負担を軽減することができる。
【0018】
本発明に係る骨修復インプラントにおいて、前記板状部には、前記骨損傷部における骨損傷部分を少なくとも部分的に埋めるための人工骨部が一体形成されていてもよい。
【0019】
本発明に係る骨修復インプラントにおいて、前記板状部及び人工骨部は、前記骨損傷部の周囲の骨部分に相当する力学特性を有することが好ましい。
【0020】
このようにすると、骨損傷部とその周囲の骨との間の力学特性の不連続性を低減することができ、板状部が骨損傷部の周囲の骨の動きに対して正常に共動できて、患者への負担を低減でき、当該部分の機能障害を防止できる。
【0021】
また、本発明に係る骨修復インプラントにおいて、前記骨損傷部に接する表面には生体活性能が付与されていることが好ましい。生体活性能が付与された部分は、チタン酸化物で構成されていてもよい。また、本発明に係る骨修復インプラントにおいて、少なくとも一部に多孔質構造を有していることが好ましい。
【0022】
上記のようにすると、骨損傷部に接する表面の生体活性能により、骨との結合が促進されるため、骨とインプラントの一体化が術後に促進される。特に、上記骨損傷部分を埋めることができる人工骨部を設けて生体活性処理を施しておくと、術後数か月で骨損傷部を修復できる。したがって、自己の他部位の骨を移植したり、別途金属製固定具を用いたりする必要が無い。さらに、本発明のインプラントは生体適合性の金属であるチタン又はチタン合金からなり、骨損傷部の周囲の骨とも融合しやすい多孔構造とすることにより、設置後に患者から取り出す必要もない。従って、本発明に係る骨修復インプラントによると、患者及び術者の負担を軽減することが可能となる。
【0023】
また、本発明に係る骨修復インプラントにおいて、前記板状部及び人工骨部の少なくとも一部には、抗菌性が付与されていることが好ましい。このようにすると、骨修復インプラントの設置によって、患者に感染症等を引き起こすことを防止できる。
【0024】
本発明に係る骨修復インプラントの製造方法は、患者の骨損傷部を有する骨の三次元座標データを得るステップと、前記三次元座標データに基づいて、チタン又はチタン合金を材料として、前記骨損傷部を有する骨の表面形状に対応する表面形状を少なくとも部分的に有し、且つ貫通孔を有する板状部を造形するステップとを備えていることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る骨修復インプラントの製造方法によると、患者の骨損傷部を有する骨の三次元座標データに基づいて製造されるため、患者の骨損傷部を有する種々の骨の形状に合わせて、種々の形状のインプラントを容易に製造することができる。特に、上記特徴を有する本発明に係るインプラントを容易に製造することができる。
【0026】
本発明に係る骨修復インプラントの製造方法において、前記造形するステップは、積層造形技術を用いることが好ましい。このようにすると、骨損傷部を有する種々の骨の形状に対応するように正確且つ簡便に造形でき、またその内部構造を多孔質構造にすることもできる。
【0027】
本発明に係る骨修復インプラントの製造方法は、前記造形するステップにおいて、移植組織を設置するための空間をなす組織設置部を有するような形状に前記板状部を造形してもよい。
【0028】
本発明に係る骨修復インプラントの製造方法は、前記造形するステップにおいて、前記骨損傷部を有する骨を支持できる前記板状部の設置に適する位置の骨の表面形状に対応する表面形状を有する前記板状部を造形することが好ましく、例えば上記のような骨損傷部を有する骨の下部の表面形状に対応する表面形状を有する前記板状部を造形してもよい。
【0029】
本発明に係る骨修復インプラントの製造方法において、前記骨損傷部における骨欠損部分を少なくとも部分的に埋めるための人工骨部を前記板状部と一体形成してもよい。また、前記造形するステップの後に、前記板状部及び人工骨部の表面の少なくとも一部に生体活性処理を施すステップをさらに含むことが好ましく、該ステップは、前記インプラントに酸処理をするステップと、前記インプラントに加熱処理をするステップとを含むことが好ましい。
【0030】
このようにすると、インプラントに骨形成能を促す表面層を形成できるため、インプラントにおいて優れた骨形成能を付与できる。
【0031】
本発明に係る骨修復インプラントの製造方法は、前記造形するステップの後に、前記板状部及び人工骨部の少なくとも一部に抗菌処理を施すステップをさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る骨修復インプラント及びその製造方法によると、簡便な方法で周囲の骨を支持及び固定でき、且つ、優れた骨形成誘導能を有する骨修復インプラントを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】(a)~(c)は本発明の一実施形態に係る骨修復インプラントを示す図であり、(a)は骨修復インプラントを骨損傷部を有する顎骨に設置した状態を示し、(b)は骨修復インプラントの斜視図であり、(c)は別方向の斜視図である。
【
図2】(a)~(c)は本発明の一実施形態の一変形例に係る骨修復インプラントを示す図であり、(a)は骨修復インプラントを骨損傷部を有する顎骨に設置した状態を示し、(b)は骨修復インプラントの斜視図であり、(c)は別方向の斜視図である。
【
図3】(a)及び(b)は、
図2(a)のIII-III線における断面を示す図である。
【
図4】(a)~(c)は本発明の一実施形態の他の変形例に係る骨修復インプラントを示す図であり、(a)は骨修復インプラントを骨損傷部を有する顎骨に設置した状態を示し、(b)は骨修復インプラントの斜視図であり、(c)は別態様の斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態の他の変形例に係る骨修復インプラントを示し、(a)骨修復インプラントを骨損傷部を有する顎骨に設置した状態を示す図であり、(b)~(d)はそれぞれ骨修復インプラントの右側面、正面及び左側面を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態の他の変形例に係る、積層造形技術で作製された骨修復インプラントを示す写真である。
【
図7】(a)~(d)は本発明の一実施形態の他の変形例に係る、積層造形技術で作製された骨修復インプラントを示す図であり、(a)は側面を示し、(b)は正面を示し、(c)は下面を示し、(d)はインプラントが締結具により骨に締結された状態を示す断面図である。
【
図8】(a)~(d)は本発明の実施例1におけるラットの骨欠損部への骨修復インプラントの設置方法を説明するための写真である。
【
図9】本発明の実施例1における骨修復インプラントが設置されたラットの設置後2週間時点の骨欠損部におけるマイクロCTの写真及び非脱灰研磨標本の写真である。
【
図10】本発明の実施例1における骨修復インプラントが設置されたラットの設置後2週間及び7週間の新生骨量を示すグラフである。
【
図11】本発明の実施例3の応力シミュレーションの条件を説明するための図である。
【
図12】本発明の実施例3の応力シミュレーションの条件を説明するための図である。
【
図13】本発明の実施例3の応力シミュレーションの結果の一部を示す図である。
【
図14】従来の骨修復インプラントを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0035】
本発明に係る骨修復インプラントは、患者の骨損傷部に設置するためのチタン又はチタン合金からなる骨修復インプラントである。チタンは、生体適合性の金属であり、インプラントの材料として用いるのに極めて有利である。本発明において、骨損傷部とは、手術等により骨の一部が欠損した部分や骨折した部分、その他種々の形態異常が生じた骨部分であり、完全な状態でない骨部分を含むものである。
【0036】
本発明の骨修復インプラントの表面には生体活性処理が施されていることが好ましい。生体活性処理は、インプラント表面と骨との結合を強固にできる処理であれば、特に限定されないが、例えばインプラント表面において、チタン酸化物で構成された骨形成を促す表面層を形成することが好ましい。当該表面層は、加熱処理を施されることによりインプラントの表面のチタンが酸化して形成される。さらに、当該表面層は、加熱処理される前に酸処理を施されることで骨形成能が付与されていることが好ましい。本発明の骨修復インプラントでは、当該酸処理及び加熱処理によって優れた骨形成能を発揮する。特に、インプラントに優れた骨形成能を付与するために、塩酸、硫酸、硝酸及びフッ酸のうちの少なくとも2つ以上を含む混酸溶液を用いることが好ましい。また、加熱処理における温度は、500℃~750℃であることが好ましい。
【0037】
また、本発明の骨修復インプラントは、上記生体活性処理の他に、抗菌処理が施されていることが好ましい。抗菌処理は、インプラント表面に抗菌性を付与できる処理であれば、特に限定されないが、例えば、インプラントを銀、ガリウム、又はヨウ素等の抗菌作用を示すイオン含有水溶液にインプラントを浸漬する処理が挙げられる。これにより、インプラントの表面から抗菌作用を有する銀、ガリウム、又はヨウ素等のイオンを放出することができる。さらに、上記抗菌処理の前に、骨結合性を向上できることが知られているアパタイトの形成能を向上するために、カルシウムイオンを含む水溶液にインプラントを浸漬する処理を行ってもよい。なお、これらの処理をする前に、上記各イオンをインプラントに高濃度で保持させるために、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液にインプラントを浸漬する処理を行ってもよい。また、この抗菌処理は、上記生体活性処理と共に行うこともでき、例えば上記混酸処理及び加熱処理の後に、上記水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液による処理、及びカルシウムイオンを含む水溶液による処理後、硝酸銀水溶液等の銀イオン含有水溶液や三塩化ヨウ素水溶液等のヨウ素イオン含有水溶液に浸漬することにより行われてもよい。
【0038】
また、本発明に係る骨修復インプラントは、患者の骨損傷部を有する骨の表面形状に対応する形状を少なくとも部分的に有する板状部で構成されており、また、貫通孔を有する構造であることを特徴とする。本発明において、板状部は、平板に限らず、湾曲部を有する湾曲板であってもよく、設置する部分の形状に適合するように湾曲していることが好ましい。特に曲げ強度の観点から略U字状又は略J字状等の断面形状を有することが好ましい。また、上記板状部の表面形状は、少なくとも部分的に患者の骨損傷部を有する骨の表面形状に対応する形状とするために、本発明に係る骨修復インプラントは、患者の骨損傷部を有する骨の三次元座標データに基づいて形成される。形成方法は、特に限定されないが、例えば積層造形技術を用いることができる。特に、積層ピッチが小さいSLM法を利用した3Dプリンタを用いることで、骨損傷部を有する種々の骨の形状に対応するように正確且つ簡便に造形でき、またその内部構造を多孔質構造にすることもできる。積層ピッチは、例えば0.01mm~0.05mmである。多孔質構造にすることで、インプラントを軽量にすることができ、また、骨とも融合しやすい構造とすることができる。多孔質構造としては例えば海綿状構造である。また、本発明のインプラントは、後に説明するが、設置後のインプラントに発生する応力を低減し、破損を防止する観点から、患者の骨損傷部を有する骨のできるだけ広い範囲を覆うような形態であることが好ましい。
【0039】
本発明に係る骨修復インプラントは、上記の通り、例えば3Dプリンタを用いて形成されるため、患者への設置部位に合わせて種々の形状に形成できて多様なデザイン性を有し、さらに種々の使用形態に対応することができる。例えば、上記のように略U字状又は略J字状等の断面形状を有するインプラントを採用すると、骨損傷部を下方から支持するトレイのような形態で用いることができる。そうすると、当該トレイ状のインプラント上に粉砕した海綿骨等の骨修復を促進する材料を載置することも可能となって好ましいが、当然にインプラント上に何も載置せずに用いることもできる。また、トレイ状ではなく平板状のインプラントを採用した場合、インプラントの一方の面に例えば血管柄付きの骨筋皮弁を固定し、それを骨損傷部に設置するような態様で用いることもできる。また、腓骨等の移植骨を当該インプラントに固定した状態で患者の骨損傷部に設置することもでき、この場合、インプラント形状に合わせて移植骨を分割して固定して用いることもできる。
【0040】
本発明に係る骨修復インプラントは、上記の通り、患者の骨損傷部を有する骨の表面形状に対応する形状を少なくとも部分的に有する板状部で構成されるが、当該板状部には、移植組織を設置するための空間をなす組織設置部が形成されていてもよい。このようにすると、板状部における患者の骨損傷部を有する骨の表面形状に対応する形状部分が患者の骨等の組織と接し、この部分において板状部と患者の骨とをスクリュー等の締結具で接続できる一方で、上記組織設置部において板状部に骨修復のために重要な血管や皮膚等の移植組織を設置できる。上記組織設置部は、板状部に上記移植組織を設置できるような形態で形成されており、以下の構成に限定はされないが、例えば板状部に僅かな窪みを設けたり、移植組織を設ける側と反対側に僅かに湾曲させたりして、移植組織を容易に設置できる形状に構成されていてもよい。組織設置部によって、板状部に移植組織を配設できるスペースが十分に得られるので、上記血管等の配設にかかる術者の作業負担を軽減することができる。
【0041】
以下に、本発明の一実施形態として下顎骨の骨損傷部としての骨欠損部を有する部位に本発明に係る骨修復インプラントを設置する場合について
図1を参照しながら説明する。具体的に、
図1(a)は、下顎骨の一部が欠損した骨欠損部Aに本発明に係る骨修復インプラント10を設置した状態を示し、
図1(b)、(c)はそれぞれ骨修復インプラント10の別方向を示す斜視図である。
図1に示すように、骨修復インプラント10は、骨欠損部Aを有する骨(下顎骨)の表面形状に対応するように湾曲した板状に形成されている。具体的に、骨修復インプラント10は、骨欠損部Aを有する骨に設置される板状部11で構成されており、板状部11はその中央部12の両側に位置する接続部13に貫通孔14が設けられている。骨修復インプラント10は、中央部12が骨欠損部Aの一部を覆うように設置される。特に、本実施形態において、骨修復インプラント10は、中央部12が骨欠損部Aの下部を覆うように装着され、下方からその骨欠損部Aを有する骨を骨修復インプラント10が支持する。また、上述の通り、中央部12の両側に接続部13が配置されており、特に接続部13は骨欠損部Aの両側に位置する骨部分Bの表面形状に対応する表面形状を有しており、その部分に接する、好ましくは密接するように形成されている。また、上述の通り接続部13には貫通孔14が設けられているため、骨修復インプラント10の設置時にはスクリュー等の締結具をその貫通孔14に通し、接続部13と骨欠損部Aの両側に位置する骨部分Bとを締結する。これにより、骨修復インプラント10は、骨欠損部Aを有する骨に設置され、骨欠損部Aを有する骨が支持・固定されることとなる。なお、本実施形態に係る骨修復インプラント10において、板状部11の骨と接する側の面には、骨との結合を強固にするための生体活性処理が施されている。上述の通り、生体活性処理は、上記作用を付与できる処理であれば特に限定されないが、特に混酸加熱処理が好ましい。
【0042】
また、上記実施形態の一変形例について
図2を参照しながら説明する。
図2に示すように、本変形例は上記実施形態に係る骨修復インプラントと比較して、板状部21の中央部22に人工骨部25が突設されていることを特徴とする。人工骨部25は、骨欠損部Aの形状に適合する形状に形成されている。従って、骨修復インプラント20を設置することにより、骨欠損部Aを人工骨部25により埋めることが可能となる。このような人工骨部25は、板状部21と同様に、患者の骨の三次元座標データに基づいて形成でき、例えば積層造形技術を用いることができる。このため、人工骨部25は板状部21と一体に形成することができる。また、人工骨部25は、多孔質構造であり、骨と接する面には、板状部21と同様に、骨との結合を強固にするための生体活性処理が施されている。上記実施形態と同様に、生体活性処理は、上記作用を付与できる処理であれば特に限定されないが、特に混酸加熱処理が好ましい。このような構成により、人工骨部25とその周囲の骨との一体化を促進することが可能となり、骨欠損部における骨修復を促進することができる。
【0043】
人工骨部25は、上記の通り板状部21と一体に形成できる他に、別体として形成されてもよく、その場合、人工骨部25と板状部21とは例えばスクリュー等の締結具によって接続される。この場合、人工骨部25は板状部21と同様にチタン又はチタン合金を材料として用いることができ、人工骨部25の表面に生体活性処理が施されていることが好ましい。また、人工骨部25の表面のうち患者の骨と接触する部分については多孔チタンや粗面チタンからなることが好ましく、他の表面は平滑状であってよい。人工骨部25の内部構造については特に限定されないが、空洞であってもよいし、多孔構造であってもよい。人工骨部25の材料としては、上記のようなチタンの他に、例えばハイドロキシアパタイト等の生体活性セラミックを用いてもよい。表面に生体活性能を有する人工骨部25を用いることによって、人工骨部25が移植された骨欠損部Aの周囲の骨部分Bとの結合を促進できる。
【0044】
本実施形態において、上記板状部21及び人工骨部25は、骨欠損部Aの周囲の骨部分Bに相当する力学特性を有することが好ましい。このようにすると、骨欠損部Bとその周囲の骨部分Bとの間の力学特性の不連続性を低減することができ、板状部が骨欠損部Aの周囲の骨部分Bの動きに対して正常に共動できて、患者への負担を低減できる。
【0045】
本実施形態において、人工骨部25は、
図3(a)に示すように例えば略J字状(逆J字状)の板状部21の上に直接に設けられていてもよいし、この他に、
図3(b)に示すように、板状部21の上に設けられた例えば板状部21と同等の材料からなる台座部21aの上に設けられてもよい。
【0046】
本実施形態の他の変形例として、
図4に示すように板状部31は、少なくとも一部、例えば締結具が挿入される貫通孔が設けられる部分以外にメッシュ形状部分36を有していてもよい。患者の骨欠損部に板状部31を設置する際に、
図4(c)に示すように板状部31に移植骨40を載置し、当該移植骨40により骨欠損部Aを補填する場合がある。この場合、板状部31の剛性が高いと、骨欠損部Aの周囲の骨にかかる負荷は板状部31に支持されて、移植骨40には負荷が作用しない応力遮蔽が生じてしまう。応力遮蔽とは、移植骨ではなくインプラント側に荷重が集中することで、移植骨に負荷がかからず、移植骨が骨吸収によって萎縮することを引き起こす原因となる現象である。
図4に示すように、板状部31における移植骨40を載置する部分をメッシュ状にすることは、板状部31の剛性を低減できるため、上記応力遮蔽を防止できて好ましい。
【0047】
また、上記実施形態及び変形例では、下顎骨に設けられるインプラントを例示したが、
図5に示すように、インプラントが下顎枝にまで及んでもよい。この場合、インプラントにおける下顎枝に及ぶ部分にも貫通孔が設けられており、下顎枝において締結具により締結できるように構成されていることが好ましい。
【0048】
さらに、本実施形態の他の変形例として、
図6に示すように、骨修復インプラントは、複数の貫通孔を有する外形を有していてもよい。このようなインプラントについて、
図6のように下顎骨の上方から設置する形態のものに限らず、
図7に示すように、下顎骨の下方から設置する形態であってもよい。これらのような形状の場合、当該インプラントを締結具により骨に締結できる位置の自由度を向上でき、また、当該インプラントを骨欠損部に設置した状態においても、複数の貫通孔を介して骨欠損部を目視し易くなるため、術者の作業負担を低減できる。特に、
図7に示す下顎骨の下方から設置されるインプラント50の場合、インプラント50の表面の全体にわたって複数の貫通孔54が形成されているため、上方を除く、下方、側方及び斜め方向等の最適な方向からスクリュー等の締結具60により骨に固定可能であるので、固定力の確保に極めて有利である。なお、本発明に係る骨修復インプラントは、上述の通り、患者の骨損傷部の三次元座標データに基づいて、例えば積層造形技術を用いて形成されるため、下顎骨に限らず、その他の種々の骨の骨損傷部に適用可能である。
【0049】
次に、本発明に係る骨修復インプラントの製造方法について説明する。本発明に係る骨修復インプラントの製造方法は、患者の骨損傷部を有する骨の三次元座標データを得るステップと、当該三次元座標データに基づいて、例えば積層造形技術や切削法等の技術を用いて、骨損傷部を有する骨の表面形状に対応する表面形状を少なくとも部分的に有し、且つ貫通孔を有する板状部を造形するステップを備えている。
【0050】
患者の骨損傷部を有する骨の三次元座標データを得るステップでは、まず、患者の骨損傷部を有する骨を例えばX線CTスキャン等のX線撮像技術を用いて撮影する。そして、その撮影画像をコンピュータにより画像解析ソフトを用いて三次元データを設計し、該三次元データが一定のピッチにスライスされて例えばSTLデータ等の三次元座標データを得る。
【0051】
次に、得られた三次元座標データに基づいて、積層造形装置等を用い、チタン又はチタン合金粒子を材料としてインプラントを造形する。3Dプリンタを用いる場合、SLM(selective laser melting)法を利用した積層ピッチが小さいものを用いることが好ましく、例えばピッチは0.01mm~0.05mmであり、特にピッチが0.02mm~0.03mmであることが好ましい。このようにすることで、患者の骨損傷部を有する骨の表面形状に対応する表面形状を有するインプラントを正確且つ容易に製造することができる。また、小さいピッチで造形されることによりインプラントに多孔質構造にすることができ、このため、骨とインプラントが一体的に融合することができて互いの結合を強固にすることができる。
【0052】
この後に得られたインプラントに対して、特に患者の骨に接する面に対して生体活性処理を施すことが好ましい。生体活性処理は、当該インプラントと患者の骨との結合を強固にできるような処理であれば特に限定されないが、生体活性処理として混酸加熱処理を行うことが特に好ましい。用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸及びフッ酸のうちの少なくとも2つ以上を含む混酸溶液を用いることが好ましい。これらの混酸溶液を用いることによって、当該インプラントに優れた骨形成能を発揮できる表面層を形成することができる。酸処理の方法は、上記混酸溶液にインプラントを浸漬するのが簡便でよく、浸漬時間は約1時間が好ましい。しかしながら、当然に混酸溶液をインプラントに接触できれば上記方法に限られない。また、酸処理は、インプラントのうち骨形成を促したい部位にのみ行うことがより好ましい。
【0053】
次に、インプラントに加熱処理を施す。その温度は、500℃~750℃が好ましく、その時間は1時間程度が好ましい。
【0054】
さらに、本発明に係る製造方法において、上記の通り、当該インプラントに対して抗菌処理を施すステップを備えていてもよい。その処理方法については、特に限定されないが、上述したようなインプラントを銀、ガリウム、又はヨウ素等のイオン含有水溶液にインプラントを浸漬する方法等が挙げられる。
【0055】
上記工程により、簡便な方法で優れた骨形成能を有する本発明に係る骨修復インプラントを得ることができる。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明に係る骨修復インプラント及びその製造方法を詳細に説明するための実施例を示す。本実施例では、上記方法により得られた骨修復インプラントが、酸処理や加熱処理が施されることにより、さらに優れた骨形成能を有することを説明する。
【0057】
(実施例1)
まず、上記方法により得られたチタン製インプラントを5つ準備し、それぞれに異なる条件の酸処理及び加熱処理を施した。具体的に、Group1では、塩酸と硫酸との混酸溶液を用いて酸処理を行い、600℃で1時間の加熱処理を施した。Group2では、NaOHによるアルカリ処理を行い、600℃で1時間の加熱処理を施した。Group3では、NaOH・50mM HClによる処理を行い、600℃で 1時間の加熱処理を施した。Group4では、NaOH・CaCl2による処理を行い、600℃で1時間の加熱処理及び80℃で24時間の温水処理を施した。Group5は無処理とした。
【0058】
次に、骨欠損ラットを作成した。その方法は、
図8に示すように、まず、麻酔を施したラットの頭部を切開し、骨膜を開けてラウンドバーにより骨欠損を作製した(
図8(a)の写真)。続いて、上記のように作製されたインプラント(SLMメッシュ)を骨欠損部に適合させ、KLsマーチン1.0×8mmマイクロスクリューによって固定した(
図8の(b)、(c)の写真)。その後、切開部を縫合した(
図8の(d)の写真)。
【0059】
インプラントを設置して2週間後及び7週間後に、X線マイクロCTスキャナを用いて設置部位のX線写真を撮り、また、設置部位の非脱灰研磨標本を作製して、トリジンブルーで染色し、当該標本の写真を撮った。その結果を
図9に示す。
図9に示すように、インプラントを設置して2週間後、Group1~5のいずれにおいても、程度に差異はあるものの骨欠損部において設置されたインプラントの下部(図の破線で囲う領域)に新生骨の形成が認められた。特に、Group1において優れた新生骨の形成能が認められた(非脱灰研磨標本における矢印で示す濃いグレーで示す部分)。また、同様のことはインプラントを設置して7週間後においても認められ、また、Group1では、特に優れた新生骨の形成能が認められた。
【0060】
また、
図10に各Groupにおけるインプラントを設置して2週間後及び7週間後の新生骨量を測定した結果を示す。新生骨量は、CT写真における面積比に基づいて算出した。
図10に示すように、いずれのGroupにおいても設置から2週間後及び7週間後において、新生骨量が増加していたが、特にGroup1のインプラントが設置されたラットでは、新生骨量が他のGroupのインプラント設置されたラットよりも多いことが認められた。
【0061】
以上の結果から本発明に係るインプラントを用いることで、骨形成を促進することができ、特に、上記酸処理及び加熱処理を施したインプラントは、優れた骨形成能を示すことが明らかとなった。
【0062】
(実施例2)
次に、チタンからなるインプラントに抗菌処理が施されることにより、優れた抗菌性を付与できることを説明する。本実施例では、抗菌処理の一例として特にヨウ素処理による抗菌処理について説明する。
【0063】
まず、純チタンからなる基材を#400のダイヤモンドパッドを用いて研磨し、アセトン、2-プロパノール及び超純水で各30分間超音波洗浄した後、5Mの水酸化ナトリウム水溶液5mlに60℃で24時間浸漬し(アルカリ処理)、超純水で30秒間洗浄した。このチタン板を100mMの塩化カルシウム水溶液10mlに40℃で24時間浸漬し(カルシウム処理)、超純水で30秒間洗浄した。次いで、チタン板を電気炉中で常温から600℃まで5℃/minの速度で昇温し、大気中600℃で1時間保持して、炉内で放冷した。その後、10mMの三塩化ヨウ素水溶液10mlに80℃で24時間浸漬し(ヨウ素処理)、超純水で30秒間洗浄することにより、試料Aを製造した。また、ヨウ素処理において、10mMの三塩化ヨウ素水溶液に代えて100mMの三塩化ヨウ素水溶液を用い、浸漬温度を60℃に変更して、その他の条件を上記試料Aの場合と同様にして、試料Bを製造した。また、上記処理のいずれも行わないチタン板を試料Cとした。
【0064】
上記試料A~Cに対して、JIS Z 2801:2012の規定に準拠してメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する抗菌性試験を行った。試験回数は繰り返し各2回とし、2回の平均コロニー数を算出した。なお、当初平均コロニー数は4.2×104個/cm2であった。結果を表1に示す。また、抗菌効果の安定性を調べるために、試料A及び試料Bに対しては、80℃、相対湿度95%の環境下で1週間保持する耐湿試験と、リン酸緩衝生理食塩水中に36.5℃で50ストローク/分の速度で揺らしながら1週間保持する耐水試験を行った。それらの結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
表1に示すように、未処理の試料Cと比較して、上記ヨウ素処理による抗菌処理が施された試料A及び試料Bでは、生菌数が0となり、強い抗菌性を示した。特に試料Aでは、耐湿試験及び耐水試験後でも強い抗菌性を示し、抗菌安定性に優れていることがわかった。
【0067】
次に、上記試料A及び試料Cに対して、JIS Z 2801:2012の規定に準拠して大腸菌に対する抗菌性試験を行った。なお、当初平均コロニー数は4.1×103個/cm2であった。また、試料Aに対しては、上記耐湿試験及び耐水試験も行った。結果を表2に示す。
【0068】
【0069】
表2に示すように、当該試験においても未処理の試料Cと比較して、試料Aは強い抗菌性を示し、さらに、耐湿試験及び耐水試験後でも強い抗菌性を示し、抗菌安定性に優れていることがわかった。
【0070】
(実施例3)
次に、本発明に係るインプラントにおいて、その形状(骨に対する設置範囲)を変化させた場合の荷重支持能力を、既存の数値シミュレーションソフトを用いて比較検討した。
図11に示すように、下顎骨モデルとして直径20mmの平面視U字状で且つ一部に欠損部を有する形態とし、欠損部に板状インプラントを設置した状態とした。インプラントは、純チタン製であり厚み1.8mmとし、両端に直径3.1mmの2つの貫通孔をそれぞれに有するものとした。また、インプラントを締結するためのボルトも純チタン製とし呼び長さを12mm、呼び径を3.0mmとし、4本使用した。また、
図11に示すように、下顎骨に荷重を与えるために剛球を採用した。また、シミュレーション時の拘束条件は、
図11に示す拘束条件を採用した。さらに、本シミュレーションでは、インプラントと骨とが接している部分が結合している場合のモデルと結合していない場合のモデルとを比較して、インプラントに生体活性処理を施すことによる優位性について検討した。これに加えて、インプラントが骨を覆う範囲を変えて、発生する応力の増減について検討した。具体的には、
図12に示すように、インプラントが骨を覆う範囲を40°、90°、135°、180°として、それぞれの応力を比較検討した。インプラントが骨を覆う範囲を40°とし、インプラントと骨とが結合していない場合の応力シミュレーション結果を
図13に示す。
図13に示すように、この場合では、インプラントの表側(骨と反対側)に最大で301MPa、インプラントの内側(骨側)に最大で300MPa、ボルトに最大で290MPaの応力がそれぞれ発生した。これと同様に他の条件で行った応力シミュレーションにおいて、発生した最大応力を以下の表3に示す。
【0071】
【0072】
表3に示すように、数値シミュレーションの結果、インプラントについて骨を覆う範囲を大きくするに従って、インプラントに発生する応力を低減できることが明らかとなった。さらに、インプラント表面と骨表面とを結合させることにより、インプラントに発生する応力を低減できることが明らかとなった。この応力は覆う範囲を広くすることにより顕著に低くなる。この結果から、インプラントは、できるだけ骨を覆うような形態であることが好ましく、インプラントの骨と接する面に生体活性処理を施すことで、インプラントと骨との結合を促進させることが応力発生の観点からも有益であることが明らかとなった。