(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】木質系耐火構造部材
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20240806BHJP
E04C 3/29 20060101ALI20240806BHJP
B32B 21/04 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
E04B1/94 R
E04B1/94 V
E04C3/29
B32B21/04
(21)【出願番号】P 2021003298
(22)【出願日】2021-01-13
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2020047932
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】池畠 由華
(72)【発明者】
【氏名】馬場 重彰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達朗
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-078044(JP,A)
【文献】特開2017-002614(JP,A)
【文献】特開昭59-010644(JP,A)
【文献】特開2010-144377(JP,A)
【文献】特開平04-073342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
E04C 3/29
B32B 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷重を負担する木質の荷重支持部を有する建物の耐火構造部材であって、
荷重支持部の外周面に水分遮断層が設けられており、
耐火被覆層の付着を向上させる付着層、
流動性のある石膏を主成分とする湿式の素材を充填して形成された耐火被覆層、
表面に燃代層の性能を有さない仕上材層を備えて
おり、
前記付着層は、前記荷重支持部の外周面、および前記耐火被覆層の内部または前記耐火被覆層の外側表面に設けられていることを特徴とする木質系耐火構造部材。
【請求項2】
前記仕上材層は、塗布層であることを特徴とする請求項1記載の木質系耐火構造部材。
【請求項3】
前記付着層は、網状物又は突起状物であることを特徴とする請求項1又は2記載の木質系耐火構造部材。
【請求項4】
前記荷重支持部から表面側に向けて連結
材が配置されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の木質系耐火構造部材。
【請求項5】
前記耐火被覆層が湿式耐火被覆材であり、
前記連結材が乾式耐火被覆材であることを特徴とする請求項4に記載の木質系耐火構造部材。
【請求項6】
次の工程からなることを特徴とする
請求項1~5に記載されたいずれかの木質系耐火構造部材の製造方法。
第1工程:荷重支持部を準備し、外周面に水分遮断層を形成する。
第2工程:付着材を荷重支持部の表面に取り付けて付着層を形成する。
第3工程:
前記荷重支持部の表面に接着剤で連結材を取り付ける。
第4工程:
前記連結材の外端
又は耐火被覆層の内部に第2の付着材を取り付け、その外周に型枠を設置する。
第5工程:
前記型枠の空隙に石膏を充填して硬化させて耐火被覆層を形成し、型枠を脱型する。
第6工程:脱型後の表面に仕上げ層を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系構造材に対する耐火技術に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、なじみがある素材であって、古来より住宅などの建築に利用されてきており、戦後造林された森林資源も充実してきている。一方、木材は、可燃性材料であって、単木では品質のばらつきがあることなど建築材料としては使いにくい点がある。
集成材などにして、均一性の高い木質系素材も開発され、大型建築にも利用可能となっている。可燃性対策も各種検討されている。例えば、難燃薬剤を含浸させる方法や難燃材や耐火材で被覆する方法などがある。
一方、平成22年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されたことに伴い、建築物への木材利用の機運が高まっている。
【0003】
可燃性対策に関する従来の提案をいくつか紹介する。
特許文献1(特開2012-136939号公報)には、荷重支持部の外隅部に難燃化処理材を配置し、米松などの外周材を設けて、耐火性能を向上させる提案がなされている。
特許文献2(特開2006-218707号公報)には、内層集成材と外層集成材をエポキシ樹脂、イソシアネート樹脂、又はウレタン樹脂の接着剤で接合し、かつ内層集成材にレゾルシノール樹脂接着剤を用いた木質系構造材が提案されている。
特許文献3(特開2005-53195号公報)には、荷重支持層の外側にモルタルや金属などの不燃材を配置した複合木質構造材が提案されている。
特許文献4(特開2012-180700号公報)には、木質部の外側に発泡層と金属膜を複数層設ける技術が開示されている。
特許文献5(特開2017-2614号公報)には、荷重支持部と燃代層との隙間に流動状の石膏を上から流し込んで充填し、充填後に石膏が硬化することで燃止層を形成して燃代層の燃焼熱が燃止層に効果的に吸収されるようにした耐火性の木質柱が開示されている。
本出願人は、特許文献6(特開2019-78044号公報)として、木質荷重支持部と、木質荷重支持部の外側面に設けられる水分遮断層と、水分遮断層を被覆する発泡性耐火被覆層と、発泡性耐火被覆層の外側に設けられた仕上げ木材層とを備え、耐火被覆層に配置された連結部材に仕上げ木材層を固定された木質耐火部材を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-136939号公報
【文献】特開2006-218707号公報
【文献】特開2005-053195号公報
【文献】特開2012-180700号公報
【文献】特開2017-2614号公報
【文献】特開2019-78044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐火性能を有する木質系構造材を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、木質の耐火構造材として、木質の荷重支持部の外周面に水分遮断層および金網層などの付着層を設けてその上に耐火被覆層を設けることによって、耐火被覆層の付着向上と耐火被覆層から木質部への水分移動を防止することにより、耐火性と含水率変化による木材の物性変化を防止した木質系構造材を開発した。
本発明の主な解決手段は次のとおりである。
1.荷重を負担する木質の荷重支持部を有する建物の耐火構造部材であって、
荷重支持部の外周面に水分遮断層が設けられており、耐火被覆層の付着向上させる付着層、流動性のある石膏を主成分とする湿式の素材を充填して形成された耐火被覆層、表面に燃代層の性能を有さない仕上材層を備えており、
前記付着層は、前記荷重支持部の外周面、および前記耐火被覆層の内部または前記耐火被覆層の外側表面に設けられていることを特徴とする木質系耐火構造部材。
2. 前記仕上材層は、塗布層であることを特徴とする1.記載の木質系耐火構造部材。
3. 前記付着層は、網状物又は突起状物であることを特徴とする1.又は2.記載の木質系耐火構造部材。
4. 前記荷重支持部から表面側に向けて連結材が配置されていることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の木質系耐火構造部材。
5.前記耐火被覆層が湿式耐火被覆材であり、前記連結材が乾式耐火被覆材であることを特徴とする4.に記載の木質系耐火構造部材。
6.次の工程からなることを特徴とする1.~5.に記載されたいずれかの木質系耐火構造部材の製造方法。
第1工程:荷重支持部を準備し、外周面に水分遮断層を形成する。
第2工程:付着材を荷重支持部の表面に取り付けて付着層を形成する。
第3工程:前記荷重支持部の表面に接着剤で連結材を取り付ける。
第4工程:前記連結材の外端又は耐火被覆層の内部に第2の付着材を取り付け、その外周に型枠を設置する。
第5工程:前記型枠の空隙に石膏を充填して硬化させて耐火被覆層を形成し、型枠を脱型する。
第6工程:脱型後の表面に仕上げ層を形成する。
【発明の効果】
【0007】
1.本発明は、木質荷重支持部の外周面に水分遮断層を設けることで、石膏、モルタル、コンクリートなどで形成した耐火被覆層から荷重支持部への水分の移動を防止できる。特に、石膏、モルタル、コンクリートなどの耐火材を流動状態の湿式で充填して形成する場合は、木質部の水分量が増加して、木材の物性値が低下することを防止することができる。
木材は、乾燥状態を保持することが寸法安定性や物性値を維持するためには重要であり、本発明は高含水率の耐火材を使用しても水分遮断層を設けて、水分が木質の荷重支持部へ移行することを防止している。
さらに、付着層を設けることにより、耐火被覆層を木質荷重支持部にしっかりと付着させることができる。特に、本発明では、仕上げ材に燃え代層の性能を期待しないので、耐火被覆層の付着性は重要である。
本発明の木質系耐火構造部材は2時間以上の耐火性を発揮することができる。
2.付着層は、木質荷重支持部の周囲、耐火被覆層の内部(中間部)、耐火被覆層の外表面に設けることができ、いずれか、あるいは複数設けることができる。付着層は、網状物や突起状物を用いることができる。網状物としては、金網などのメッシュ材、有孔材、突起状物としては、釘、ビス、コーン、ステープルなどを用いることができ、金属材料、耐熱性のプラスチック材料、木製、紙製の素材を用いることができる。また、大きさは、面状、釘などの単体、短い材料、長い材料などの形態で用いることができる。
付着層を設けることにより、耐火被覆層の脱落を防止して、木質荷重支持部に耐火被覆層をしっかりと付着させて一体化することができ、耐火性を維持できる。本発明は、耐火被覆層の外側に、仕上げ材を外装するとしても、仕上げ材に耐火機能を期待していないので、耐火被覆層が被熱しても脱落せずにしっかり木質荷重支持部に付着していることが重要である。耐火被覆層の外表面あるいは内外の両側などの二層に付着層を設けることにより、耐火被覆層と木質荷重支持部が全面的に付着して一体化しているので、耐火被覆層の部分脱落等も防止でき、耐火性を維持できる。
3.木質荷重支持部に外側に向けて連結材を設けて、耐火被覆層形成用のスペーサ機能を持たせることにより、耐火被覆層の層厚管理を行うことができる。特に、耐火被覆層の中間部や外表面に第2付着層を設ける場合、連結材を付着層の支持材として利用することができ、耐火被覆層形成用の隙間を一定にすることができ、層厚管理ができる。
また、連結材を利用して、耐火被覆層に外装する仕上げ材等を取り付けることができる。
乾燥材で形成された連結材を用いることにより、耐火被覆層から水分が木材に浸透することを防止できる。また、耐火被覆層と同材質の連結材を用いることにより、連結材と耐火被覆層の親和性が高くなり、しっかり付着することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図6】石膏接触面の水分浸透による木材の変色を示す図
【
図10】耐火被覆層の内部(中間部)に中間付着層を設けた例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、木質系の耐火構造部材に関する発明である。
本発明は、建物の耐火構造部材であって、荷重を負担する木質の荷重支持部と、荷重支持部の外周面に設けられた水分遮断層と、水分遮断層の外側に設けられた耐火被覆層と、付着層を備えている。付着層は、荷重支持部の外周面、耐火被覆層の内部又は耐火被覆層の外側表面のうち、少なくともいずれかに設けられている。付着層は、荷重支持部の外周面及び耐火被覆層の内部又は外側表面に第2付着層が設けられることが好ましい。
本発明は、木質の荷重支持部の外周に耐火被覆層を設けて耐火性を発揮するものであって、火災時に耐火層が脱落することなく荷重支持部に付着していることで長時間の耐火性を発揮するものである。木質系の荷重支持部の外周に金網などの付着層を設けることによって、接着力を維持している。
また、耐火被覆層は、石膏やモルタル、コンクリートなどを高含水率の流動性のある状態で、付着層に被覆することによって、付着層の凸凹や網目に喰い込ませることで高い付着性を得ることができる。一方木質材は、乾燥状態に保つことが重要であるとされている。例えば、繊維飽和点以上では、微生物が繁殖して、木材を腐朽させるなどの影響がでる。水分遮断層を設けることにより、石膏やモルタルなどから水分が木質の荷重支持部に移行することを防止でき、木質の荷重支持部の乾燥が保たれる。
付着性を高めるために流動性の石膏などを耐火被覆層の原料として使用しても、木質荷重支持部に水分が移行しないように、木質荷重支持部の表面に水分遮断層を設けている。 さらに、耐火被覆層の外面側にも金網などの第2付着層を配置すると、耐火被覆層の表面剥離も防止できる。
【0010】
荷重支持部と第2付着層(第2金網層)との間に連結材(スペーサ)を配置すると、荷重支持部の表面に形成する耐火被覆層の層厚を管理することができる。この連結材に型枠の面材を取り付けることにより、耐火被覆層を打設充填して形成することができる。また、型枠の面材を外した後に仕上げ材を取り付ける支持材としても利用することができる。
連結材は、直接荷重支持部に接触させて取り付けることが好ましく、連結材を通して水分が移行しないように、乾燥材、さらに、防水塗料などで処理することが好ましい。また、耐火被覆層の材料と同じ材料を用いた場合は、両者の親和性が高く、付着維持しやすい。
【0011】
<木質荷重支持部>
木製荷重支持部は、建物の梁材や柱材として建物の荷重を負担する部分であって、木質集成材や一本の木材で構成される。一本の木材は、原木ごとのばらつきがあるので、一定の強度に揃えるには木質集成材が適している。木質集成材は、太さと長さも設計できる。
本発明において集成材には、CLT(Cross Laminated Timber)、LVL(単板積層材)も含まれる。
集成材からなる木質荷重支持部は、建物躯体(例えば、屋根、梁、床等)を支持することが可能な断面寸法(例えば、600×600mm)以上の太いサイズを実現することができ、高層建築物の柱など構造材として使用できる。柱や梁として用いる構造材の形状は、角や円などが一般的であるが、構造設計を満足する限り意匠設計は自由である。荷重支持部として、120mm角程度の木質材も利用でき、建物の設計に応じた強度の柱、梁材に適用することができる。
使用する木材は、杉、松、カラマツ、桧、栂、米桧、米松など建築用に用いられている針葉樹、さらに、ケヤキやブナなどの広葉樹も利用することができる。
木質荷重支持部材は、繊維飽和点以下に乾燥された状態で使用される。木材の強度物性や寸法変化は含水率に影響され、大きく変化するので、木材は乾燥を維持し、含水率を変化させないようにすることが重要である。
【0012】
<水分遮断層>
水分遮断層は、耐火被覆層から木質荷重支持部に水分が浸透しないように設けられる。
水分遮断層は、塗料、フィルム、金属薄材(金属箔)などを用いて形成することができる。
水分遮断層は、木質荷重支持部の周囲を被覆している。水分遮断層は、構造部材ではない。水分遮断塗膜としては、油性や水性の木材用防水塗料や水ガラスなどがあり、造膜タイプや非親水性や疎水性の組成が適している。例えば、キシラデコール コンゾラン(商品名)等がある。フィルム材としては、水分遮断シートであるエア・ドライ(登録商標)等)、または、防水紙をあげることができる。
塗料は、木質荷重支持部の外周面への吹付け塗付、または刷毛やローラによる塗布で所定の塗膜を形成できる。また、水分遮断シートや防水紙を採用する場合には、接着などにて木質荷重支持部の外周面に固定する。
水分遮断性としては、非親水性剤あるいは疎水性剤が適しているが、耐火被覆層との親和性上は、親水性が適しており、水分遮断層は、非疎水性の造膜塗料や、フィルム材などが好ましい。
キシラデコールは木材防虫剤、木材防腐・防カビ剤を配合した屋外用のステインタイプの浸透型の油性塗料で、日本では1971年から発売されている。キシラデコールは、アルキド樹脂に木材防虫剤、木材防腐・防カビ剤、脂肪族石油ナフサ、芳香族石油ナフサ、酸化鉄、酸化チタンなどの顔料が含まれている。
キシラデコール コンゾランは、成分的にはキシラデコールと同様であって、造膜性塗料である。
【0013】
<耐火被覆層>
耐火被覆層は、耐火材で形成され水分遮断層の外側周囲を被覆している。
耐火被覆層は、例えば、2時間耐火など建築材料として使用可能な基準を満足する厚みに形成される。耐火被覆材としては、石膏、モルタル、コンクリートなどを主成分とする材料を使用することができる。石膏やモルタル、コンクリートは不燃材であり断熱性がある材料であり、結晶水などの水分を内包しているので熱に曝露した場合、水分が蒸発して、昇温が抑制されて、木質系の荷重支持部の加温を抑えることができる。
これらの耐火材は、流動性のある湿式の素材を、吹付、充填、塗り付けなどの手段で、形成することができる。あるいは、板材などの乾式の素材を貼り付けることもできる。
石膏やモルタルに含まれる水分が木質の荷重支持部に浸透しないように、水分遮断層が設けられるが、特に、湿式材として石膏やモルタルを使用した場合、硬化するまでに、多量の水分が存在するので、水分遮断層が重要である。
耐火被覆材を湿式材で形成した場合は、荷重支持部の外形及び金網などの付着層に隙間なく密着した耐火被覆層を形成することができる。
【0014】
さらに、本発明では、耐火構造部材の外表面の仕上げ材に燃え代層などの耐火性能を期待しておらず、仕上げ材が脱落したり燃え尽きてもこの耐火被覆層で耐火性能を実現するものであるので、耐火被覆層が火災時に熱に曝露して脱落などせずにしっかりと付着していることが重要となる。本発明では、この付着性を確保するために、水分遮断層と耐火被覆層との間に金網などの付着層を設けている。さらに、耐火被覆層の外側にも付着層を設けて、部分剥離などが生じないようしている。
耐火被覆層の厚さは、目的とする耐火時間により、採用する材質に応じて適宜確認試験により決定することができる。例えば、石膏を耐火被覆層に使用した場合、層厚は50mm以上とすることができる。
【0015】
<付着層>
付着層は、木質の荷重支持部に耐火被覆材をしっかりと付着させて、脱落などせずに耐火機能を発揮させるために設けられる。前述したように、本発明は、外装の仕上げ材が木材であっても燃え代層として期待しないものである。
従来例に示すように木質荷重支持部の外周に燃え止まり層、さらにその外周に燃え代層を設ける耐火構造材が提案されている。この場合、燃え代層は、火災時に燃え代層は燃えながら炭化して、荷重支持部を保護する機能をはたす。そのため、必要な耐火時間経過後には、炭化層として残ることが前提であり、その内側の燃え止まり層が露出しない。木材の炭化速度は、一般的に0.6mm/分といわれ、1時間では36mm焼失し、2時間では、少なくとも72mmの厚みが必要となる。両面の厚みは、150mmほど必要になることとなる。そして、必要耐火時間経過後も燃え代層が炭化層として最外層に残るので、燃え止まり層に石膏などを用いたとしても、露出することは無く、脱落する危険は小さい。
本発明では、このような厚さの燃え代層を必要とせず、通常の仕上げ材を用いることができる。
【0016】
付着層は、網状物や突起状物を用いることができる。網状物としては、金網、ラス網などのメッシュ材、パンチングメタルなどの有孔材、耐熱性のプラスチック製多孔材、表面凸凹材などを用いることができる。突起状物としては、釘、ビス、コーン、ステープルなどを用いることができる。素材は、金属材料、耐熱性のプラスチック材料、木製、紙製などを用いることができる。また、大きさは、面状、釘などの単体、短い材料、長い材料などの形態で用いることができる。
付着層として、合板に防水被膜層とセメント層を表面に設けたラスカット(登録商標)と称されるモルタル下地材を木質荷重支持部に貼着することができる。この場合は、水分遮断層も兼用することができる。付着層には耐熱性材料が用いられる。表面側の付着層にはより高い耐熱性が必要である。コーンとしては、コンクリート型枠のセパレータに用いられるセパレータコーンなどを利用することができる。
付着層は、木質の荷重支持部の表面や耐火被覆層の内部(中間部)、表面側に設けることができる。耐火被覆層の表面側に設ける付着層は、耐火被覆層を表面側から抑える機能を果たし、荷重支持部と耐火被覆層の結合強度を高めて、火災時に脱落や剥落が発生することを防止する。
付着層は、網状物などを全面に形成することができ、あるいは、突起状物を点状に分布させることができ、あるいは、線状に設けることができる。
【0017】
付着層の形成材料の例を
図8に示す。
ラス金網51などの網状の例を(a)に、逆台形のコーン52の例を(b)に、釘53やビス54の例を(c)に、三角ステープル55や四角の角ステープル56の例を(d)に、長尺の台形57の例を(e)に、山折りにしたメッシュ58の例を(f)に示す。
付着層形成材を荷重支持部となる木材に取り付けた例を
図9に示す。
図9(a)は、木質材である荷重支持部2の全面に金網51を設けた例を示している。なお、図示は一面のみの表示に省略してある。
図9(b)は、木質材である荷重支持部2の表面に各種の支持材を設けた例をを示している。多種類の支持材を混ぜて使用することもできるし、単一の材料を用いることができる。釘打ちしたコーン52、釘53、角ステープル56を例示している。
図10に耐火被覆層の内部(中間部)に中間付着層43を設けた例を示す。
円柱状の荷重支持部22の表面から浮かして金網51を角ステープル56で支持しており、石膏などの耐火被覆層4の中間に付着層が形成されている。
【0018】
<連結材>
連結材は、耐火被覆層を貫通して表面仕上げ材に接触している。第2付着層を設ける場合は、第2付着層に接触させることもできる。連結材は、木質の荷重支持部と表面仕上げ材や第2付着層と固着して、接合する役目を果たすことができる。
木質の荷重支持部の外側に型枠を設けて、流動性の石膏やモルタル、コンクリートなどを充填する場合は、型枠のスペーサの機能を果たすことができる。型枠の内側に第2の付着層を保持させて、充填することもできる。中間部に設ける付着層の支持具として利用することもできる。
連結材は、耐火被覆層を形成する材料と同質系を用いることにより、両者の親和性が高く、密着性が良い。連結材は不燃性材であるが、火災の熱の進入路とならないように、熱伝導性の低い材料が適している。
【0019】
<その他>
耐火性が求められる建築構造材としての荷重強度、耐火性能は、以上の構成で満足することができる。建物としては、この構造材の表面に各種の仕上げ材が施されるが、耐火被覆層にダメージを与えない限り、通常の仕上げ材を用いることができる。仕上げ材の取り付け基材として連結材を用いることができる。木質系の化粧材を用いた場合でも、燃え代層のような厚さは必要はなく、通常の化粧材が使用できることとなる。
【0020】
<木材への水分の移行試験>
耐火被覆層から木質の荷重支持部への水分移行を確認する予備試験を行った。
1.試験体
ア.試験体:120×120×60mm角の木材片の上に同サイズとなる石膏を打設し、
図4(a)記載の120mm角の立方体とする。防水層(水分遮断層)は、木材片と石膏片の接合面に設ける。
イ.木材:杉材、気乾含水率(約12%)
ウ.石膏:石膏、減水材、遅延材を調整
エ.水分遮断剤:防水層形成剤
a.なし
b.キシラデコール(登録商標):アルキド樹脂に木材防虫剤、木材防腐・防カビ剤、脂肪族石油ナフサ、芳香族石油ナフサ、酸化鉄、酸化チタンなどの顔料が含まれているステインタイプの浸透型の油性塗料
c.キシラデコール コンゾラン(商品名):キシラデコールと同系の組成である造膜タイプの塗剤
d.酢酸ビニル系接着剤:水溶性樹脂である酢酸ビニルを主剤とする接着剤
2.計測方法
試験体製造後、1月経過後、木材片の中央部の20mm角部分を上下部分は5mm厚、中央部分は10mm厚の切片として採取し、増加重量を計測し、含水率を測定する。
図4(b)(c)参照。
【0021】
3.結果
結果を
図5に示す。
この試験では、石膏からの距離が30mm以上では各試験体の含水率の差は小さく、水分遮断層の影響が深さ30mmまで認められた。防水層なし(a)の試験体よりも、キシラデコール層(b)と酢酸ビニル系接着剤層(d)の試験体では、含水率が高く計測されており、水分遮断性能が悪い結果である。これは、キシラデコールが浸透性であること、酢酸ビニルが水溶性であることが親水性を高めた結果と考えられる。なお、この試験では、木材への水分の浸透が30mmまで認められたが、これは石膏に含まれる水分量に依拠すると想定され、石膏の量や含水率の高い石膏を用いた場合は、木材のさらに深い箇所まで、水分が浸透すると考えられる。
これに対して、造膜系キシラデコール コンゾランは、形成した皮膜が水分を遮断した結果、ほぼ気乾含水率を示しており、石膏層の水分の木質荷重支持部への浸透がほとんど観察されていない。
この試験結果から、皮膜によって、水分移行が遮断され、木質の荷重支持部が乾燥状態に維持されることがわかる。そして、水溶性の樹脂や浸透性の薬剤では、水分は遮断されず、無処理よりも、水分の浸透を促進する傾向があることが示された。
建築材料に使用される木材は、乾燥されており、水分によって、強度変化や寸法変化、腐朽が大きく影響する繊維飽和点以下の含水率で使用されるので、本発明では、水分の増加を抑えることが重要である。
なお、防水層なしの試験体では石膏に接触した面から変色が認められた(
図6参照)。
【0022】
4.参考 木材の強度と含水率の関係
図7に木材の強度と含水率の一般的な関係が示されている。この図に示すように、木材は約30重量%である繊維飽和点以下の含水率では、含水率に応じて大きく強度が変化する。また、寸法も安定せず、含水率によって伸縮することとなる。一方、高含水率では、腐朽菌や害虫の影響があるので、含水率20%以下(梁では25%以下)の乾燥材木材(JASの乾燥材定義)に調整されるのが一般的である。
なお、木材中に自由水がなく、結合水のみ含み得る最大含水率(約28~30)の時点を繊維飽和点といい、この繊維飽和点を境にして木材の性質は大きく変化する。(自由水:木材の細胞の内腔や空隙に存在する水分。結合水:木材の細胞の細胞壁に含まれる水分)
【実施例】
【0023】
図1、2に、柱材である耐火構造部材の断面例を示す。
図1は横断面、
図2は縦断面を示している。
荷重を負担するスギの集成材からなる荷重支持部2と、荷重支持部2の外周面に設けられた水分遮断層3とラス金網5と、ラス金網5の外側に設けられた石膏からなる耐火被覆層4(湿式耐火被覆材41)と、耐火被覆層4の表面側に設けられた第2ラス金網6と、耐火被覆層4を貫通して一端が荷重支持部2の表面に接合し、他端が第2ラス金網6に接合する連結材7および表面塗装8から構成されている。
耐火構造部材である柱材の上下端は、荷重支持部がスラブや梁に挿入されるので、耐火被覆層は設けられていない。
なお、荷重支持部に熱電対を取り付けた耐火構造部材1を用いて、加熱試験を行い耐火性能確認を行った。
【0024】
なお、連結材7は、荷重支持部2の表面に直に接合する必要はなく、表面側の第2ラス金網6を支えることができる接合強度を得ることができれば水分遮断層3を介して設けることもできる。
また、ラス金網5は付着層に、第2ラス金網6は第2付着層に該当する。連結材7には乾燥した石膏(乾式耐火被覆材71)が用いられ、水分遮断層3はキシラデコール コンゾランによって形成されている。
【0025】
本実施例の柱材の仕様は次のとおりである。
全長:3300mm、縦横:250mm角、
荷重支持部;120mm角、(なお、本実施例では、耐火性能を確認するためのものであるので、荷重支持部の大きさは120mm角で十分であるとした)
耐火被覆層:石膏65mm厚(石膏100重量部、水45重量部、減水材3重量部、遅延材0.1重量部)、
連結材:50mm角、65mm長、
水分遮断層:キシラデコール コンゾラン(塗布量250g/m2)、
付着層(第2付着層):ラス金網、
表面塗装:キシラデコールインテリアファイントップコート(塗布量500g/m2)
【0026】
図3に本実施例の製造工程を示す。
第1工程:荷重支持部2を準備し、外周面にキシラデコール コンゾラン250g/m
2を塗布して、水分遮断層3を形成する。
なお、測温のために荷重支持部の一部に溝を切って、熱電対を設置したのちに水分遮断層を形成する。
第2工程:ラス金網を荷重支持部2の表面に取り付けて付着層5を形成する。
第3工程:荷重支持部2の表面に接着剤で連結材7を取り付ける。この場合、部分的にラス金網を切除して連結材を荷重支持部に接着する。
第4工程:連結材7の外端に第2のラス金網6とその外周に型枠9を設置する。第2ラス金網は型枠9内面に連結材部分を切除して仮接着してある。
第5工程:石膏を充填して硬化させて耐火被覆層4を形成し、型枠9を脱型する。
第6工程:脱型後の表面にキシラデコールインテリアファイントップコートを塗布量500g/m
2塗布して、表面塗装8を形成して仕上げ層とする。
【0027】
加熱試験の結果、荷重支持部は燃えずに十分な強度を保つことができた。
<耐火試験>
この実施例で作成した柱材を試験体として、耐火試験を行った。耐火試験は、(一般財団)建材試験センターの防耐火性能試験・評価業務方法書の規定に準じて行った。
加熱炉の加熱温度変化を
図11に示す。
加熱は、120分間の間に1000℃以上に達するように加熱し、その後480分まで放熱した。
試験体の温度は、荷重支持部である木材の角部と辺央部を測定した。複数個所測定したが、同様の結果であったので、それぞれ1か所の温度変化を
図12に示す。
【0028】
30分後加熱温度は800℃以上となっているが、試験体の角部の温度は100℃であり、さらに120分にかけて加熱温度は1100℃以上に達するが、試験体の温度は100℃を維持している。その後試験体の角部の温度は300分で約200℃に達して、その緩やかに低下して150℃となった。
試験体の辺央部の温度は、30分後に100℃、120分でも100℃を維持し、その後上昇して330分で約175℃に達し、その後緩やかに低下して、150℃となった。
特に、加熱30分で試験体の温度が100℃に達すると、その後しばらく100℃であって、加熱後120分以上を維持していることは、石こうの断熱と石こうに含まれる結晶水が蒸発する気化熱によって、試験体の表面温度の上昇が防止されていることが確認された。
加熱後の試験体の表面には、浅いひびがみられたが、石こうは剥落しておらず、切断した切断面には、荷重支持部に達するひび割れは観察されなかった。切断面観察でも、荷重支持部は炭化していなかった。
この結果、この試験体は、十分に2時間耐火を満足することを確認することができた。
なお、石こう層を70mmとした試験体でも同様の耐火試験を行った結果、試験体の100℃維持時間が延びることと、試験体の最高温度が角部も辺央部も175℃以下に抑えられることが、確認できている。
【符号の説明】
【0029】
1 耐火構造部材
2 荷重支持部
21・・・円柱状荷重支持部
3 水分遮断層
4 耐火被覆層
41 湿式耐火被覆材
42 端部耐火層(乾燥体)
43・・・中間付着層
5 付着層
51・・・ラス金網
52・・・コーン
53・・・釘
54・・・ビス
55・・・三角ステープル
56・・・角ステープル
57・・・台形
58・・・メッシュ
6 第2付着層(第2金網層)
7 連結材(スペーサ)
71 乾式耐火被覆材
8 表面塗装
9 型枠