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特許7533873リチウム硫黄二次電池、および、リチウム硫黄二次電池の製造方法
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  • 特許-リチウム硫黄二次電池、および、リチウム硫黄二次電池の製造方法 図1
  • 特許-リチウム硫黄二次電池、および、リチウム硫黄二次電池の製造方法 図2
  • 特許-リチウム硫黄二次電池、および、リチウム硫黄二次電池の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】リチウム硫黄二次電池、および、リチウム硫黄二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/136 20100101AFI20240806BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240806BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20240806BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240806BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/66 A
H01M4/80 Z
H01M4/38 Z
H01M4/1397
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020100730
(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公開番号】P2021197216
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 哲彌
(72)【発明者】
【氏名】三栗谷 仁
(72)【発明者】
【氏名】山吹 一大
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-200827(JP,A)
【文献】特開2017-174539(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0072248(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはニッケルを主成分とし、気孔率が50%以上98%以下である多孔金属である集電体と、
前記集電体に配設された硫黄担持量が、4mg/cm以上の正極活物質の層と、
前記正極活物質の層を覆う、スルホン酸基を有するポリマー膜と、を具備し、
前記ポリマー膜が、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、アクリル酸エチルスルホン酸、アクリル酸ブチルスルホン酸およびイソプレンスルホン酸から選択されるいずれか1種をモノマーとする化学架橋型のポリマーを含むことを特徴とするリチウム硫黄二次電池。
【請求項2】
前記ポリマーが、ポリ2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム硫黄二次電池。
【請求項3】
前記ポリマー膜が、電解液が含侵されたゲル電解質膜であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム硫黄二次電池。
【請求項4】
前記ポリマー膜が、架橋剤として、テトラエチレングリコールジアクリラートまたはメチレンビスアクリルアミドを含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリチウム硫黄二次電池。
【請求項5】
前記ポリマー膜が、リチウム塩を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリチウム硫黄二次電池。
【請求項6】
集電体に正極活物質を配設することによって正極を作製する工程と、
スルホン酸基を有するモノマーと架橋剤と開始剤とを含むモノマー溶液を前記正極に塗布し、前記正極活物質をモノマー膜によって覆う工程と、
前記モノマー膜に紫外線を照射する工程と、を順に含むことを特徴とするリチウム硫黄二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記集電体が、アルミニウムまたはニッケルを主成分とし、気孔率が50%以上98%以下である多孔金属であり、前記正極の硫黄担持量が、4mg/cm以上であることを特徴とする請求項6に記載のリチウム硫黄二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記モノマーが、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸であることを特徴とする請求項7に記載のリチウム硫黄二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記架橋剤が、テトラエチレングリコールジアクリラートまたはメチレンビスアクリルアミドであることを特徴とする請求項8に記載のリチウム硫黄二次電池の製造方法。
【請求項10】
前記開始剤が、2、2´―アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩であることを特徴とする請求項9に記載のリチウム硫黄二次電池の製造方法。
【請求項11】
前記モノマー溶液が、リチウム塩を含むことを特徴とする請求項9または請求項10に記載のリチウム硫黄二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノマー膜に覆われた正極を具備するリチウム硫黄二次電池、および、モノマー膜に覆われた正極を具備するリチウム硫黄二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話端末の普及、および、電気自動車の研究開発に伴い、高容量の二次電池が要望されている。このような二次電池としては、リチウムイオン二次電池が広く普及している。
【0003】
リチウムイオン二次電池よりさらに高容量の二次電池として、正極活物質として硫黄を有するリチウム硫黄電池が着目されている。硫黄の理論容量(1670mAh/g)は、リチウムイオン電池の代表的な正極活物質であるLiCoOの理論容量(約140mAh/g)よりも10倍程度高い。また、硫黄は、低コストで資源が豊富である。
【0004】
リチウム硫黄電池においては、放電時には正極において、単体硫黄(S8)が還元され多硫化物アニオンとなり、最終的にLi2Sが生成する。一方、負極では、リチウムがリチウムイオンとして放出され、電解液を経由して正極へと到達し、Li2S生成のためのLi源となる。
【0005】
ここで、硫黄多硫化物(多硫化アニオン)とリチウムとからなる反応中間物である多硫化リチウムは有機溶媒に溶解しやすく電池の電解液にも溶出する。多硫化リチウムが溶出すると正極活物質が減少するため、容量維持率が低下する。
【0006】
さらに、充電中に、電解液に溶出した多硫化アニオンは、負極表面に到達すると還元され、正極表面に到達すると酸化される。このため、電解液中で、物質移動による短絡が起こる。すると、充電電流を加え続けても充電されないという、いわゆるシャトル効果によって充放電効率が著しく低下してしまう。
【0007】
特開2005-79096号公報には、非水電解質を含むモノマーをコーティングしてから重合することによって、正極の表面が高分子フィルムに被覆されたリチウム硫黄二次電池が開示されている。
【0008】
しかし、上記電池では、容量維持率、例えば、初期容量に対する10サイクル後の容量は60%であった。これは、上記高分子フィルムは、多硫化リチウムの電解液への溶出を十分に抑制できていないためと推察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-79096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の実施形態は、充放電効率および容量維持率の高いリチウム硫黄二次電池、および、充放電効率および容量維持率の高いリチウム硫黄二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態のリチウム硫黄二次電池は、アルミニウムまたはニッケルを主成分とし、気孔率が50%以上98%以下である多孔金属である集電体と、前記集電体に配設された硫黄担持量が、4mg/cm以上の正極活物質の層と、前記正極活物質の層を覆う、スルホン酸基を有するポリマー膜と、を具備し、前記ポリマー膜が、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、アクリル酸エチルスルホン酸、アクリル酸ブチルスルホン酸およびイソプレンスルホン酸から選択されるいずれか1種をモノマーとする化学架橋型のポリマーを含む。
【0012】
本発明の実施形態のリチウム硫黄二次電池の製造方法は、集電体に正極活物質を配設することによって正極を作製する工程と、スルホン酸基を有するモノマーと架橋剤と開始剤とを含むモノマー溶液を前記正極に塗布し、前記正極活物質をモノマー膜によって覆う工程と、前記モノマー膜に紫外線を照射する工程と、を順に含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、充放電効率および容量維持率の高いリチウム硫黄二次電池、および、充放電効率および容量維持率の高いリチウム硫黄二次電池の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態のリチウム硫黄二次電池の構成図である。
図2】実施形態のリチウム硫黄二次電池の正極の多孔金属の写真である。
図3】第2実施形態のリチウム硫黄二次電池の充放電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
図1に示すように、本実施形態のリチウム硫黄二次電池10(以下、「電池」ともいう。)は、多孔集電体21を含む正極20と、セパレータ30と、リチウムイオンを吸蔵脱離する負極活物質を含む負極40と、を主要構成要素として具備する。電池10は、コインセルケース51/ガスケット52/負極40/電解液35を含むセパレータ30/正極20/スペーサ53/スプリングワッシャー54/上蓋55が、順に配置されている。
【0016】
正極20は、多孔金属である集電体21(図2)と、集電体21の内部空孔の壁面に配設されている硫黄系の正極活物質22と、を有する。
【0017】
正極20の母材である集電体21は、例えば、発泡アルミニウムであるセルメット(登録商標)である。正極活物質22は、単体硫黄(S)と結着剤と導電剤とを含む。
【0018】
集電体21は表面積が広い多孔体であるため、多くの正極活物質を担持できる。例えば、金属箔からなる集電体は、0.3mg/cm程度の硫黄しか担持できない。これに対して、後述するように、実施形態の集電体21の硫黄担持量は、4mg/cm以上である。このため、電池10は正極単位面積あたりのエネルギー密度が高い。
【0019】
正極活物質22は、ポリマー膜25によって覆われている。ポリマー膜25は、(式1)に示す直鎖高分子である分子量2、000、000のポリAMPS(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)である。ポリマー膜25は、電池組立後は、電解液が含浸したゲル電解質膜となっている。
【0020】
(式1)
【0021】
負極40は、厚さ200μmの金属リチウム板である。
【0022】
負極40としては、リチウム、リチウム合金、リチウムを吸蔵脱離可能な炭素からなる群から選択される1以上の負極活物質を含んでいればよい。負極に含まれる負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵脱離する。
【0023】
正極20と負極40の間に配置されているセパレータ30は、必須の構成要素ではないが、セパレータ30は、極間距離を短くする機能および電解液35を担持する機能を有する。
【0024】
セパレータ30としては、例えば、電解液35を吸収保持するガラス繊維製セパレータ、樹脂からなる多孔シートおよび不織布を挙げることができる。多孔シートは、例えば、多孔樹脂で構成される。電池10では、セパレータ30は、ポリプロピレン多孔シートである。
【0025】
電解液は、1モルのリチウム塩を、1、2-ジメトキシエタン(DME)1モルおよび1.3-ジオキソラン(DOL)1モルからなる溶媒に溶解した有機電解液である。
【0026】
リチウム塩は、Li-TFSI(リチウム(トリフルオロメタンスルフォニル)イミドである。
【0027】
リチウム塩として、例えば、(LiBF)、(Li[FSA]:リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド)、または、(LiClO)を用いてもよい。電解液35の溶媒には、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメトキシエタン(DME)または、それらの混合物を用いてもよい。
【0028】
また、電解液35には、エーテルとリチウム塩とが錯体を形成した非プロトン性溶媒和イオン液体も、難揮発性、低粘性、高リチウムイオン濃度、高いリチウムイオン導電性を有するため、特に好ましく用いられる。また、非プロトン性溶媒和イオン液体に、溶媒を添加し、希釈した電解液も用いることができる。添加溶媒には、錯体の構造を壊さない溶媒が好ましく用いられる。このような添加溶媒としては、フッ素系の溶媒である、HFCFCHC-O-CFCFH、および、FCHC-O-CFCFHなどのハイドロフルオロエーテル(HFE)が例示される。
【0029】
<電池の製造方法>
次に、電池10の製造方法を説明する。
【0030】
<ステップS10:正極作製工程>
【0031】
集電体21に用いたセルメットは、気孔率98%、比表面積8500m/m、孔径0.45mm、厚さ1.0mmである。
【0032】
集電体21の比表面積は、1500m/m以上が好ましく、3000m/m以上が特に好ましい。広い表面積を得るために、集電体21は、気孔率が50%以上で、連続気孔を有し、さらに、閉気孔をほとんど含まないことが好ましい。なお、空孔率が98%超の集電体21は機械的強度が弱く取り扱いが容易ではない。
【0033】
二次元表面を有する平板状の集電体の表面積は平面視寸法に比例する。これに対して三次元網目構造を有する集電体21の表面積は、平面視寸法(外面面積)および厚さに比例する。集電体21の表面積は、同じ平面視寸法の二次元表面を有する集電体の表面積の2倍以上が好ましく、5倍以上が特に好ましい。なお、技術的な観点から集電体21の表面積は、同じ平面視寸法の二次元表面を有する集電体の表面積の100倍以下である。
【0034】
比表面積は、例えば、静電容量法によって測定される。静電容量法は、試料の静電容量が表面積に比例することを利用する測定方法である。表面積が既知の金属板等を複数枚用意し、それぞれの静電容量を測定する。そして、「静電容量」対「面積」の検量線を作成することで、試料の表面積が検量法により算出される。一方、気孔率は、試料の比重と体積とから算出される。
【0035】
なお、集電体21には、発泡金属、金属不織布、金属繊維集合体、または金属粒子集合体等の金属多孔体を用いることができる。金属表面にカーボンがコーティングされていてもよい。
【0036】
正極活物質22は、硫黄系活物質である単体硫黄(S)と導電剤であるKBとを含むケッチェンブラック(KB)複合体である。KB複合体の重量比は、(S/KB=6/4)である。結着剤は、CMC(カルボキシメチルセルロース)およびSBR(スチレン・ブタジエン・ラバー)を含み、重量比は、(CMC/SBR=2/1)である。結着剤は、電解液35と反応しないものであれば特に限定されることはなく、例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、または、ポリテトラフルオロエチレンでもよい。正極活物質22の重量比は、(KB複合体/KB/結着剤=60/30/3)である。
【0037】
正極活物質22は、S/KB複合体と結着剤とに適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて混錬して得られた活物質スラリーを、集電体21に滴下してから、乾燥することにより配設される。
【0038】
第1の主面と第2の主面とを有する平板の集電体21の表面(主面)に活物質スラリーを滴下すると、活物質スラリーは多孔体である集電体21の内部の空間に吸い込まれていく。適量のスラリーを滴下後に、60℃にて24時間の乾燥処理を行い、集電体21の内部の壁面に正極活物質22を配設した。
【0039】
なお、正極活物質22の硫黄量(担持量)は、活物質配設の前後の重量測定から算出される。集電体21に配設された活物質22の硫黄量は、主面の面積を基準とすると、10.0mg/cmであった。
【0040】
<ステップS20:ポリマー膜配設工程>
正極活物質22が配設された正極20に、(式1)に示したスルホン酸基を有するポリマーの15重量水溶液をディップコーティングした。そして、60℃にて15時間の減圧乾燥を行うことで、正極活物質22がポリマー膜25によって覆われた正極20が作製された。
【0041】
ポリマー膜25を配設する前の正極20の重量W1に対して、ポリマー膜25を配設後の正極の重量W2は、119重量%であった。
【0042】
<ステップS30:組立工程>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、正極20に電解液35を滴下してから、正極20の上にセパレータ30が配設される。さらに、セパレータ30に電解液35を適量加えてから、60℃で60分間保持することによって電解液35をセパレータ30に浸漬させた。
【0043】
正極20の上のセパレータ30に負極40を配設し、さらに電解液35を注入した後、2032型のコインセルケース51(SUS304製、厚さ3.2mm)に入れて、負極40の上にセパレータ30を載置した。セパレータ30の上にスプリングワッシャー54を配置した。スプリングワッシャー54の上から上蓋55でコインセルケース51を封止し、図1に示す構造のリチウム硫黄電池10を作製した。なお、コインセルケース51の側壁にはガスケット52が介装されている。
【0044】
組立工程では、正極活物質を含む正極20と、負極活物質を含む負極40とは、電解液35を含むセパレータ30を間に挾んだ状態において、コインセルケース51の内部に封止される。
【0045】
<電池の特性>
上記方法で作製した実施形態の電池10の特性評価結果を以下に示す。なお、比較のため、電池10と同じ構成で、正極20にポリマー膜25が配設されていない比較例の電池110も作製し、同様に評価した。
【0046】
充放電評価は、カットオフ電位を、1.5V-3.0V(vs.Li/Li+)、充放電速度を0.1Cとした。サイクリックボルタンメトリー測定(CV)は、カットオフ電位を、1.5V-3.0V(vs.Li/Li+)、走査速度を0.1mV/sとした。なお、充放電速度の0.1Cは、10時間率(電極活物質の理論容量をn時間で放電または充電する電流値をC/nと表す。)である。
【0047】
電池10、110の2サイクル目の容量は、ともに、約900mAh/g-Sであった。しかし、10サイクル後に、電池10は、容量維持率が83%、充放電効率が90%であったのに対して、電池110は、容量維持率が77%、充放電効率は、80%以下であった。
【0048】
電池10は、ポリマー膜25によって、正極20からの硫黄の溶出が防止されているために、電池110よりも、容量維持率および充放電効率がよい。
【0049】
特に、電池10は、ポリマー膜25がスルホン酸基を有するために、マイナス電荷の多硫化アニオンは、強いマイナス電荷を有するスルホン酸基との反発によって正極20からの溶出が防止される。すなわち、スルホン酸基を有するポリマー膜25は、スルホン酸基を有していないポリマー膜よりも、多硫化アニオンの電解液への溶出を抑制している。
【0050】
<第2実施形態>
第2実施形態の電池10Aは、ポリマー膜25Aだけが、電池10のポリマー膜25と異なる。このため、他の構成要素の説明は省略する。
【0051】
電池10Aのポリマー膜25Aは、スルホン酸基を有するモノマーと、架橋剤と開始剤とを含むモノマー膜の紫外線硬化処理によって作製される。
【0052】
電池10Aの製造方法は、ステップS10(正極作製工程)および、ステップS30(組立工程)は、電池10の製造方法と略同じである。一方、ポリマー膜配設工程(ステップS20)は、モノマー膜配設工程(ステップS22)と、紫外線硬化工程(ステップS24)とを含む。
【0053】
<ステップS22:モノマー膜配設工程>
スルホン酸基を有するモノマーと架橋剤と開始剤とを含むモノマー溶液を、正極活物質22が配設された正極に塗布し、正極活物質22をモノマー膜によって覆う。
【0054】
モノマーは、(式2)に示す、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)である。
(式2)
【0055】
架橋剤は、(式3)に示す、N―N`―メチレンビスアクリルアミド(MBAA)である。
(式3)
【0056】
開始剤は、(式4)に示す、2、2`―アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(AMPA)である。
(式4)
【0057】
モノマー溶液は、1.8ミリモルのモノマーと、0.2ミリモルの架橋剤と、0.09ミリモルの開始剤とを、3mLの水に溶解することによって調製した。すなわち、モノマー溶液の(モノマー:架橋剤:開始剤)のモル比は、(9:1:0.45)である。
【0058】
活物質22が配設された集電体21にモノマー溶液が含浸されてから、15時間の真空乾燥(40℃)が行われることによって、モノマー膜が作製された。
【0059】
<ステップS24:紫外線硬化工程>
モノマー膜に紫外線を照射することによって、正極活物質22を覆う、スルホン酸基を有するポリマー膜25Aが作製された。
【0060】
例えば、波長365nm、1080mW/cmの紫外線が20秒間、モノマー膜に照射された。
【0061】
なお、モノマー膜を配設前の正極の重量W1に対する、ポリマー膜25Aを配設した正極の重量W2は225%であった。すなわち、ポリマー膜25Aの重量は、ポリマー膜25Aを配設前の正極の重量に対して125重量%であった。
【0062】
図3に、電池10Aのサイクル特性を示す。初期容量は約900mAh/g-Sであった。10サイクル後における、容量維持率は、88%であり、図示しないが充放電効率は95%である。さらに、25サイクルにおける容量維持率は、78%であり、充放電効率は95%であった。
【0063】
電池10Aが、電池10よりも高性能な原因は、ポリマー膜25、25Aの構造の相違である。ポリマー膜25Aは、化学架橋型であるため、分子間のつなぎ目である架橋点が多く、3次元の緻密な網目構造を形成しているスルホン酸ネットワークポリマーである。
【0064】
ポリマー膜25Aは、3次元の緻密な網目構造によって、物理的に多硫化アニオンを通過しにくい。さらに、ポリマー膜25Aでは、多硫化アニオンとスルホン酸基との電気的反発作用も、3次元の緻密な網目構造によって強化されている。
【0065】
スルホン酸基が緻密な網目構造を形成しているポリマー膜25Aの狭い隙間に含浸している電解液には、正極活物22において生成された多硫化アニオンは溶出し難い。
【0066】
なお、ポリマー膜25Aがアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸と架橋剤と開始剤とを含むモノマー溶液の紫外線硬化処理によって作製されていることは、膜として特定する文言を見いだすことはできず、さらに、構造解析等により特定することは、非常に困難で非実際的である。
【0067】
なお、ポリマー膜25Aの重量W2がポリマー膜25Aを配設前の正極の重量W1に対して150重量%の電池では、サイクル特性が電池10Aほどは良くなかった。また、ポリマー膜25Aの重量がポリマー膜25Aを配設前の正極の重量に対して250重量%の電池では、抵抗が高くレート特性が電池10Aほどは良くなかった。このため、ポリマー膜25の重量は、ポリマー膜25を配設前の正極の重量に対して50重量%超かつ150重量%未満であることが好ましい。
【0068】
なお、スルホン酸基を有するモノマーは、スルホン酸基を有していれば、AMPSに限られるものではない。例えば、モノマーとして、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、 アリルスルホン酸、アクリル酸エチルスルホン酸、アクリル酸ブチルスルホン酸、イソプレンスルホン酸を挙げることができる。
【0069】
また、架橋剤も、MBAAに限られるものではない。例えば、架橋剤として、(式5)に示す、N、N`―テトラエチレングリコールジアクリラートを用いたポリマー膜25Bを有する電池10Bの特性(容量維持率、充放電効率)は、電池10Aと略同じ特性であった。
【0070】
(式5)
【0071】
一方、架橋剤として、(式6)に示す化合物を用いたポリマー膜25Cを有する電池10Cの特性(容量維持率、充放電効率)は、電池10A、10Bよりも、やや低下した。
【0072】
(式6)
N,N'-{[(2-acrylamido-2-[(3-acrylamidopropoxy)methyl]propane-1,3-diyl)bis(oxy)]bis(propane-1,3-diyl)}diacrylamide
【0073】
また、架橋剤として、(式7)に示す化合物を用いたポリマー膜25Dを有する電池10Dの特性(容量維持率、充放電効率)は、電池10Cと同程度であった。
【0074】
(式7)
N,N'-diacryloyl-4,7,10-trioxa-1,13-tridecanediamine
【0075】
なお、電池10C、10Dはいずれも、電池10よりは高特性であった。
【0076】
架橋剤としては官能基としてラジカル重合性の官能基、特にビニル基を有する架橋剤が好ましい。架橋剤が有する官能基の数は2以上であればよい。例えば、架橋剤として、芳香族ビニル単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体、アクリル酸エステル単量体、メタクリル酸エステル単量体等のエステル系単量体、アクリル酸単量体、メタクリル酸単量体等の不飽和カルボン酸単量体、無水マレイン酸単量体を用いてもよい。
【0077】
架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、ダイアセトンジアクリルアミド、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジイソプロペニルベンゼン、P-キノンジオキシム、P、P`-ジベンゾイルキノンジオキシム、フェニルマレイミド、アリルメタクリレート、N、N`-m-フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、1、2-ポリブタジエンが挙げられる。
【0078】
また、開始剤は、光によって分解し開始ラジカルを発生する化合物であればよい。開始剤として、例えば、アシルホスフィンオキサイド、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジル、ベンゾフェノン、および、アンスラキノン、および、水溶性アゾ系開始剤から選ばれる1種以上を用いてもよい。
【0079】
開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2、2-ジメトキシ-1、2-ジフェニルエタン-1-オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3-メチルアセトフェノン、ベンゾフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4、4`-ジメトキシベンゾフェノン、4、4`-ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-プロパン-1-オン、2-ベンジルー2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、2、4、6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2、6-ジメトキシベンゾイル)-2、4、4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパノン)が挙げられる。
【0080】
<第3実施形態>
第3実施形態の電池10Eは、電池10Aと類似し同じ効果を有するため、同じ機能の構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0081】
電池10Eでは、重合前のモノマー溶液が、リチウム塩を含む。すなわち、電池10Eのポリマー膜25Eは、組立工程の前から、リチウム塩を含む。
【0082】
電池10Eのポリマー膜25Eを製造するためのモノマー溶液は、1.8ミリモルのAMPSと、0.2ミリモルのMBAAと、0.09ミリモルのAMPAと、0.5ミリモルのLi-TFSIと、を、3mLの水に溶解することによって調製した。
【0083】
電池10Eの10サイクルにおける充放電効率は98%であった。さらに、50サイクルにおける充放電効率も98%であった。
【0084】
さらに、電池10Eは1Cにおける放電量が0.1Cにおける放電容量の64%と、電池110と略同じレート特性であった。なお、電池10Eの抵抗値(DC)は、電池10Bの2/3であった。
【0085】
モノマー溶液に加えるリチウム塩は、モノマーに対して、10モル%以上が好ましい。リチウム塩の添加量が、前記範囲未満では効果が顕著ではない。なお、リチウム塩の添加量の上限は、1モル%程度である。
【0086】
なお、以上の説明では、簡単な構造の電池10等について説明した。しかし、本発明の電池は、電池10等のような単位セルを複数個積層した構造の組電池、または、同じ積層構造のセルを巻回してケースに収容した構造の電池等であってもよい。
【0087】
本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更、組み合わせ、および応用が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0088】
10、10A~10E・・・リチウム硫黄二次電池
20・・・正極
21・・・集電体
22・・・正極活物質
25、25A~25E・・・ポリマー膜
30・・・セパレータ
35・・・電解液
40・・・負極
51・・・コインセルケース
52・・・ガスケット
54・・・スプリングワッシャー
55・・・上蓋
図1
図2
図3