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  • 特許-ピロリジジンアルカロイドの分析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ピロリジジンアルカロイドの分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240806BHJP
【FI】
G01N27/62 V
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020212915
(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公開番号】P2021110738
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】202010013660.9
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520506947
【氏名又は名称】シマヅ (チャイナ) シーオー エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】SHIMADZU (CHINA) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Zone B, 6F, Building A1, Tangchen Yuanqu, 381 Futexiyi Road, Shanghai Free Trade Zone, Shanghai 200120, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン ヂェンホー
(72)【発明者】
【氏名】リー シャオドン
(72)【発明者】
【氏名】濱田 尚樹
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109169387(CN,A)
【文献】米国特許第05021427(US,A)
【文献】国際公開第94/002159(WO,A1)
【文献】特開2008-195696(JP,A)
【文献】特開平03-139274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
探針エレクトロスプレーイオン化質量分析法を用いて、分析対象とする試料に含まれるピロリジジンアルカロイドを分析する方法であって、
前記方法は、
前記試料中に緩衝液を添加して希釈を行う希釈ステップと、
希釈後の前記試料について探針エレクトロスプレーイオン化を行い、質量分析装置に導入する質量分析ステップと
を有し、
前記緩衝液は、酸解離定数(pKa)が4.8以下のカルボン酸と該カルボン酸のアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する
ことを特徴とするピロリジジンアルカロイドの分析方法。
【請求項2】
前記酸解離定数(pKa)が4.8以下のカルボン酸と該カルボン酸のアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の前記緩衝液中の総含有量が、0.05~0.2重量パーセントであることを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記試料は、野菜、飼料、穀物、茶、漢方薬材、漢方エキス、及び漢方製剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記試料は、センリコウ、カントウカ、ハイラン、ヤバツイ、シソウ、テンシソウ、タクラン、カクシツ、シオン、イッテンコウ、スイゼンジナ、ルリジサ、キクサンシチ、ハクハイサンシチ、ヒレハリソウからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項3に記載の分析方法。
【請求項5】
前記試料は、ハチミツ、ビーポーレン、ロイヤルゼリー、乳及び乳製品からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項6】
前記試料は固体の試料であり、前記希釈ステップの前に、更に、
前記固体試料を粉砕する粉砕ステップと、
粉砕した前記固体試料に抽出溶媒を添加して抽出を行い、試料抽出液を得る抽出ステップと
を有し、
前記試料抽出液を前記希釈ステップに供することを特徴とする請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項7】
前記抽出溶媒は、酸解離定数(pKa)が4.8以下のカルボン酸を含有することを特徴とする請求項6に記載の分析方法。
【請求項8】
前記緩衝液は、水と有機溶媒とを含有することを特徴とする請求項1又は2の分析方法。
【請求項9】
前記有機溶媒と水との体積比は、70/30~20/80であることを特徴とする請求項8に記載の分析方法。
【請求項10】
前記有機溶媒は、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、及び炭素数が2~4のアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項8に記載の分析方法。
【請求項11】
前記有機溶媒は、イソプロパノール及び/又はエタノールであることを特徴とする請求項10に記載の分析方法。
【請求項12】
前記pKaが4.8以下のカルボン酸は、ギ酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項13】
前記ピロリジジンアルカロイドは、モノクロタリンN-オキシド、アドニホリン、レトロルシン、セネシフィリン、セネシオニン、ラシオカルピン、セネシオニンN-オキシド、セネシフィリンN-オキシド、センキルキンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項14】
前記質量分析装置は、トリプル四重極型質量分析計であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分析方法。
【請求項15】
前記質量分析ステップでは、多重反応モニタリングモードでピロリジジンアルカロイドの分析を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析化学、質量分析、漢方生薬分析等の分野、特に、ピロリジジンアルカロイドの分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロリジジンアルカロイド(PAs)は広範に分布する植物毒素である。PAsは既に13の科の植物から検出されているが、多くがムラサキ科(ヒレハリソウ属とキダチルリソウ属)、キク科(キオン属、コウリンカ属、メタカラコウ属及びヒヨドリバナ属)及びマメ科(クロタラリア属)に属する。PAsは大部分が肝毒性を持ち、一部のPAsには発がん性、変異原性及び催奇形性といった毒性もある。
【0003】
PAsの毒性に対する認識が深まるにつれ、規定されるPAs摂取量もますます厳しいものとなっている。2014年、欧州医薬品庁はすべての由来の短期内服薬に含まれるPAsの1日の摂取制限値を0.005μg/kg(平均体重65kgとして)とすることを求めた。センリコウはよく見られる漢方生薬だが、アドニホリン(adonifoline)を多く含有している。中国薬典(中国薬局方、2015年版)は、センリコウ中のアドニホリン含有量が0.004%(40μg/g)未満でなければならないとしている。PAsは薬用植物、茶葉、穀物の中に広範に存在し、食物連鎖によって人体に入り、ヒトの健康に危害を与え得る。このため、迅速なスクリーニング方法を開発し、その含有量を有効的にモニタリングすることが切実に求められている。
【0004】
ピロリジジンアルカロイドの定性、定量についての従来の方法は、一般的にまず抽出して、精製又は希釈した後、クロマトグラフィーを行ってから検査するというものである。例えば、従来のピロリジジンアルカロイドの分析方法は、あるものは固相抽出法で試料の精製を行うため、活性化、ローディング、リンス、及び溶出の4つのステップが必要で、煩雑である。また、多相抽出システムを基にした漢方製剤中のピロリジジンアルカロイドに対する精製の方法(特許文献1参照)も開示されている。その後の液体クロマトグラフィーの際には、分析時間は長く[化合物の分析時間は通常20分間(min)超]、大量の有機溶媒を消費し、環境汚染を引き起こす。最後に紫外線、蛍光又は質量分析によって検査測定を行う。APCI又はESIイオン化源によって検査測定を行う場合、更に大量の脱溶媒ガス及び噴霧ガスを消費する必要がある。
【0005】
近年では、ピロリジジンアルカロイドを検査測定する方法として、例えばGC-MS、LC-(ESI)-MS/MSによる植物エキス中のピロリジジンアルカロイドの同定と定量(非特許文献1)、UPLC-UVとHPLC-TOF-MSによるPAs分析(非特許文献2)、及びLC-MS/MS法によるハチミツ中の5種のPAsの測定(非特許文献3)が報告されている。ここでは、各方法はいずれもクロマトグラフィーを行った後に、MSで検査測定を行っている。中でも非特許文献1に記載のGC-MS法は、更にMS分析の前に還元と誘導体化のステップを行う必要がある。このため、手順が煩雑で、分析には時間がかかる。例えば上述の非特許文献に記載の方法では、分析時間は往々にして数分から数十分も必要となる。
【0006】
上述したように、既存の技術では、質量分析法によってピロリジジンアルカロイドの定量分析を行うには、予めGC又はLC分離ステップが必須となり、分析時間は非常に長くなる。また一方で、高解像度質量分析技術により、比較的迅速な定性分析が実現する可能性はあっても、信頼性の高い定量分析の実現は期待できない。また、既知のDESI(脱離エレクトロスプレーイオン化)、DART(リアルタイム直接分析)等のアンビエント質量分析はいずれもピロリジジンアルカロイドの信頼性の高い定量分析は実現できない。
【0007】
このため、漢方薬や食物中のピロリジジンアルカロイドを迅速にスクリーニング・定量分析するニーズがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】中国特許出願公開第108169387号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】Alexandra Sixto, Andres Perez-Parada, Silvina Niell, Horacio Heinzen. GC-MS and LC-MS/MS workflows for the identification and quantitation of pyrrolizidine alkaloids in plant extracts, a case study: Echium plantagineum. Revista Brasileira de Farmacognosia, 2019, 29(4),500-503
【文献】Bharathi Avula, Yan-Hong Wang, Mei Wang, Troy J. Smillie, Ikhlas A. Khan. Simultaneous determination of sesquiterpenes and pyrrolizidine alkaloids from the rhizomes of Petasites hybridus (L.) G.M. et Sch. and dietary supplements using UPLC-UV and HPLC-TOF-MS methods. Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, 2012, 70, 53-63
【文献】于海豊、張蘭、申利その他。LC-MS/MS法によるハチミツ中の5種のピロリジジンアルカロイド類物質の回収率測定[J]。食品安全導刊、2018(15):75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、既存の技術に存在する、迅速かつ正確なピロリジジンアルカロイドの定性/定量分析が難しいという課題を解決するための、ピロリジジンアルカロイドの分析方法を提供することにある。該方法は、探針エレクトロスプレーイオン化法を基に、特定の緩衝液で希釈した試料のイオン化を行い、質量分析法によってピロリジジンアルカロイドを分析するもので、これにより質量分析に供する前にクロマトグラフィーを行う必要がなく、迅速かつ正確な定性及び定量分析の実現が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、以下の手段を用いて迅速かつ正確にピロリジジンアルカロイドの定性及び定量分析を行うという技術的課題を解決している。
【0012】
つまり、探針エレクトロスプレーイオン化質量分析法を用いて、分析対象とする試料に含まれるピロリジジンアルカロイドを分析する方法であって、
前記方法は、
前記試料中に緩衝液を添加して希釈を行う希釈ステップと、
希釈後の前記試料について探針エレクトロスプレーイオン化を行い、質量分析装置に導入する質量分析ステップと、を有し、
前記緩衝液は、酸解離定数(pKa)が4.8以下のカルボン酸と該カルボン酸のアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する
ことを特徴とする。
【0013】
上記方法において、前記酸解離定数(pKa)が4.8以下のカルボン酸と該カルボン酸のアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の前記緩衝液中の総含有量が、0.05~0.2重量パーセントであってもよい。
【0014】
上記方法において、前記試料は、野菜、飼料、穀物、茶、漢方薬材、漢方エキス、及び漢方製剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0015】
上記方法において、前記試料は、センリコウ、カントウカ、ハイラン、ヤバツイ、シソウ、テンシソウ、タクラン、カクシツ、シオン、イッテンコウ、スイゼンジナ、ルリジサ、キクサンシチ、ハクハイサンシチ、ヒレハリソウからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0016】
上記方法において、前記試料は、ハチミツ、ビーポーレン、ロイヤルゼリー、乳及び乳製品からなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0017】
上記方法において、前記試料は固体の試料であり、前記希釈ステップの前に、更に、
前記固体試料を粉砕する粉砕ステップと、
粉砕した前記固体試料に抽出溶媒を添加して抽出を行い、試料抽出液を得る抽出ステップと
を有し、
前記試料抽出液を前記希釈ステップに供してもよい。
【0018】
上記方法において、前記抽出溶媒は、酸解離定数(pKa)が4.8以下のカルボン酸を含有してもよい。
【0019】
上記方法において、前記緩衝液は、水と有機溶媒とを含有してもよい。
【0020】
上記方法において、前記有機溶媒と水との体積比は、70/30~20/80であってもよい。
【0021】
上記方法において、前記有機溶媒は、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、及び炭素数が2~4のアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0022】
上記方法において、前記有機溶媒は、イソプロパノール及び/又はエタノールであってもよい。
【0023】
上記方法において、前記pKaが4.8以下のカルボン酸は、ギ酸であってもよい。
【0024】
上記方法において、前記ピロリジジンアルカロイドは、モノクロタリンN-オキシド、アドニホリン、レトロルシン、セネシフィリン、セネシオニン、ラシオカルピン、セネシオニンN-オキシド、セネシフィリンN-オキシド、センキルキンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする
【0025】
上記方法において、前記質量分析装置は、トリプル四重極型質量分析計であってもよい。
【0026】
上記方法において、前記質量分析ステップでは、多重反応モニタリングモードでピロリジジンアルカロイドの分析を行ってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の上述の技術的解決手段の実施によって、以下のような有益な効果を得ることができる。
【0028】
本発明が提供するピロリジジンアルカロイドの分析方法によれば、探針エレクトロスプレーイオン化を採用して、試料の各種の前処理過程を最大限度減らし、簡単な方法で被験試料を作製することができる。しかも、質量分析の前にクロマトグラフィーを行う必要がなく、迅速な定性及び定量分析の実現が可能で、かつ移動相を消費する必要もない。更に、大気圧化学イオン化法(APCI)やエレクトロスプレーイオン化法(ESI)と比べると、本発明は探針エレクトロスプレーイオン化を使用するため、脱溶媒ガスや噴霧ガスを消費する必要がない。このほか、本発明の分析方法では各試料又は各化合物の分析時間は通常20秒(sec)未満である。このため、分析効率を大幅に引き上げ、時間や労力、コストを大幅に引き下げられる。
【0029】
本発明が提供するピロリジジンアルカロイドの分析方法によれば、探針エレクトロスプレーイオン化を採用することで、DESI、DART等、定性及び半定量分析しか行えない通常のアンビエントイオン化技術と比べて、ピロリジジンアルカロイドの正確な定量分析を行うことができる。
【0030】
本発明が提供するピロリジジンアルカロイドの分析方法によれば、酸解離定数(pKa)が4.8以下のカルボン酸と該カルボン酸のアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する緩衝液を使用することで、ピロリジジンアルカロイドの検出結果が高感度で、良好な線形相関係数を持つようになり、しかも再現性がよく、回収率も高くなる。このため、安定し、かつ正確な定性及び定量分析を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】複数のピロリジジンアルカロイドの標準試料のMRMクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する技術的特徴の説明は、本発明の代表的な実施形態、具体例を基に行っているが、本発明はこれらの実施形態、具体例には限定されない。本明細書中の「数値A~数値B」が表す数値の範囲は、基準値A及びBを含んだ範囲を指すことに留意されたい。
【0033】
本発明では、ピロリジジンアルカロイドの分析方法を提供しているが、それは分析対象とする試料について、探針エレクトロスプレーイオン化質量分析法を使用してピロリジジンアルカロイドを分析する方法であって、
前記方法は、
前記試料中に緩衝液を添加して希釈を行う希釈ステップと、
希釈後の前記試料について探針エレクトロスプレーイオン化を行い、質量分析装置に導入する質量分析ステップと
を有し、
前記緩衝液には酸解離定数(pKa)が4.8以下のカルボン酸と該カルボン酸のアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0034】
検出対象とする試料は、植物由来であっても、動物由来であってもよい。
【0035】
例えば、動物由来である場合、典型的には、試料は動物の組織及び細胞を含有しない動物性製品であり、例えば、蜂製品、乳及び乳製品等であってよい。該蜂製品としては、典型的には、蜜源植物中にピロリジジンアルカロイドを含有する植物が含まれる状況で獲得される蜂製品であり、ハチミツ、ロイヤルゼリー、ビーポーレン等が挙げられる。上述の乳及び乳製品としては、典型的には、乳源としてウシ又はヒツジ等の動物がピロリジジンアルカロイドを含有する植物又は飼料を食べる状況で獲得される乳及び乳製品である。
【0036】
また、植物由来の場合、植物の根、茎、葉、花、果実、種子等任意の部位を由来としてよい。一実施形態では、前記試料は野菜、飼料、穀物、茶、漢方薬材、漢方エキス、及び漢方製剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0037】
このうち、前記野菜は、生鮮野菜であってよく、また冷凍野菜、乾燥野菜又はフリーズドライ野菜であっても、更に調理済みの野菜であってもよい。具体的な例として、イッテンコウ、スイゼンジナ、ベニバナボロギク、ルリジサ、ハクシサイ、ヒレハリソウ、Ligularia mongolica、Ligularia jaluensis等の野菜が挙げられる。薬食同源の植物はその形態、用途等に応じて適宜野菜又は漢方薬材に分類してよいことに留意されたい。例えば、生鮮のハクシサイは野菜に分類し、乾燥したハクシサイ(つまりハクハイサンシチ)は漢方薬材に分類してもよい。上述の飼料としては、典型的には、原料中にピロリジジンアルカロイドを含有する植物が含まれる飼料である。上述の穀物としては、典型的には、収穫時にピロリジジンアルカロイドを含有する植物が混じる穀物である。上述の茶としては、典型的には、ピロリジジンアルカロイドを含有する植物を故意に添加した、又は意図せず混在する植物を使用して製造する茶葉、ハーブティー、健康茶、調味茶、及び茶系飲料である。
【0038】
上述の漢方薬材として、その形態、等級、加工、炮製(漢方製剤の加工処理)の方法は特に限定されない。具体的な例としては、センリコウ、カントウカ、ハイラン、ヤバツイ、シソウ、テンシソウ、タクラン、カクシツ、シオン、キクサンシチ、ハクハイサンシチ等が挙げられる。漢方薬材の原料としての植物自体は、本発明中の漢方薬材の範囲に含まれることに留意されたい。
【0039】
本発明での、漢方薬エキスとは、植物又は動物等を原料として、中医薬理論の指導のもとで、抽出した最終製品の用途についての必要に応じて、物理、化学的な抽出分離過程を経て、植物又は動物中のある種の又は複数種の有効成分を取得し、濃縮することに方向付けを行い、その有効成分の構造を改変せずに形成する製品を指す。本発明での、漢方薬エキスの具体的な例としては、上述した漢方薬材のうち少なくとも1種のエキスが挙げられる。漢方薬エキスの形態は特に限定されず、乾燥エキス、液体エキス、軟質エキス等であってよい。
【0040】
漢方製剤とは、薬局方、製剤総則及びその他所定の処方に基づき、漢方薬の原薬を、一定の規格を持つように加工製造し、直接病気の予防、病気の治療に用いることができる医薬品を指す。本発明での、漢方薬製剤の具体的な例としては、原料中に上述の漢方薬材を含む漢方製剤が挙げられる。前記漢方製剤の剤形は特に限定されず、錠剤、注射剤、噴霧剤、丸剤、散剤、ペースト等であってよい。
【0041】
ピロリジジンアルカロイド分析における実際の必要という観点から、試料はムラサキ科(Boraginaceae)、キク科のサワギク連(Senecioneae)及びヒヨドリバナ連(Eupatorieae)、並びにマメ科のタヌキマメ属(Crotalaria)の植物であることが好適であり、スイゼンジナ、ハクシサイ、センリコウ、シオンであることが更に好適である。取得と処理の容易さから、乾物形態で漢方薬材として市販されているハクハイサンシチ、センリコウ、シオンであることがより一層好適である。このうち、特にシオンについて言うと、現在漢方薬市場にこれと同科の植物であるサンシオン(別名オタカラコウ)の乾燥根及び根茎がシオンを薬用にする際に混入する現象が見られるが、サンシオン中のピロリジジンアルカロイドの含有量はシオンを遥かに上回るため、シオン中のピロリジジンアルカロイドの分析は、漢方薬の真偽と毒性を識別する上で重要な実用的意義を持つ。
【0042】
一実施形態において、本発明の方法で分析するピロリジジンアルカロイドの例として、モノクロタリン(monocrotaline)、モノクロタリンN-オキシド(Monocrotaline N-Oxide)、アドニホリン(Adonifoline)、レトロルシン(retrorsine)、セネシフィリン(seneciphyllinine)、セネシオニン(senecionine)、ラシオカルピン(lasiocarpine)、セネシオニンN-オキシド(Senecionine N-Oxide)、セネシフィリンN-オキシド(Seneciphylline N-oxide)、センキルキン(Senkirkin)、クリボリン(clivorine)、ペタシテニン(Petasitenine)、インテゲリミン(integerrimine)、イサチジン(Isatidine)、プラチフィリン(platyphylline)、ヤマタイミン(yamataimine)、12-アセチルヤマタイミン(12-acetylyamataimine)、リデリイン(riddelliine)等が挙げられる。
【0043】
ピロリジジンアルカロイド分析における実際の必要という観点から、本発明の方法で分析するピロリジジンアルカロイドは、毒性があると既に実証されたピロリジジンアルカロイドであることが好適であり、モノクロタリンN-オキシド、アドニホリン、レトロルシン、セネシフィリン、セネシオニン、ラシオカルピン、セネシオニンN-オキシド、セネシフィリンN-オキシド、センキルキン等が挙げられる。
【0044】
本発明での、ピロリジジンアルカロイドを分析する方法は、試料中に緩衝液を添加して希釈を行う希釈ステップ、及び希釈後の前記試料について探針エレクトロスプレーイオン化を行い、質量分析装置に導入する質量分析ステップを有する。
【0045】
一実施形態では、前記試料が固体試料、代表的には漢方薬材のセンリコウ及びシオンである場合に、希釈ステップの前に更に、前記固体試料を粉砕する粉砕ステップ、及び粉砕した前記固体試料に抽出溶媒を添加して抽出を行い、試料抽出液を得る抽出ステップを有する。
【0046】
上述の粉砕ステップで使用する粉砕設備は、臼、乳鉢、研磨機、粉砕機等、適宜公知の設備を使用してよい。上述の抽出溶媒は、試料の種類、成分に応じて適宜公知の抽出溶媒を使用してよい。例えば、水、有機溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒等が挙げられる。抽出溶媒として、ピロリジジンアルカロイドの抽出効率という観点から、水、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、炭素数1~8のアルコール、及びそれらの混合溶媒の使用が好適であり、水と炭素数1~4のアルコールの混合溶媒が更に好適であって、水とメタノールの混合溶媒、水とエタノールの混合溶媒の使用がより一層好適であり、水とメタノールの混合溶媒の使用が最も好適である。水とメタノールの混合溶媒を使用する場合、水とメタノールの比率は適宜通常の比率を使用してよい。例えば、10/90~50/50であってよく、20/80~40/60が好適である。
【0047】
本発明では、ピロリジジンアルカロイドの抽出効率をより一層向上させ、しかも、後続の質量分析ステップの探針エレクトロスプレーイオン化と良好な適応性を持たせることで、本願の効果のより一層の実現を図るとの観点から、前記抽出溶媒中には、酸解離定数(pKa)が4.8以下のカルボン酸を含むことが好適である。該カルボン酸の含有量については特に限定されないが、探針エレクトロスプレーイオン化との適応性の観点から、抽出溶媒に対して例えば2重量パーセント以下とするが、1重量パーセント以下とすることが好適であり、0.05~0.2重量パーセントとすることが更に好適である。探針エレクトロスプレーイオン化との適応性をよりいっそう高め、ひいては質量分析の感度と正確性を高めるとの観点から、pKaが4.75以下のカルボン酸とすることが好適であり、pKaが4.75以下の一価カルボン酸とすることが更に好適であって、酢酸、ギ酸とすることがより一層好適であり、ギ酸とすることが最も好適である。
【0048】
一実施形態では、上述の抽出ステップは次のように行われる。必要に応じて、粉砕後の固体試料に水とメタノールの混合溶媒等の抽出溶媒を添加し、例えば加熱、撹拌、振とう、超音波処理によって固体試料中の成分を抽出溶媒中に溶解させ、必要に応じて静置、ろ過、遠心分離等の処理を通じて固液分離を行い、それで得られた液体部分を試料抽出液とする。
【0049】
前記抽出ステップの後、前記試料抽出液を後続の希釈ステップに供する。試料自体の性質、状態、成分に応じて、試料を直接希釈ステップに供しても、又は試料を一般的な溶媒で溶解してから希釈ステップに供してもよいことに留意されたい。
【0050】
本発明では、希釈ステップで使用する緩衝液は、酸解離定数(pKa)が4.8以下のカルボン酸と該カルボン酸のアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する。前記緩衝液は、水、有機溶媒、又はそれらの混合物を溶媒としてよい。ピロリジジンアルカロイドの溶解性及び質量分析の感度と精度という観点から、前記緩衝液には水と有機溶媒を含有することが好適であり、前記有機溶媒はジメチルスルホキシド、ホルムアミド及び炭素数が2~4のアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種とすることが更に好適であって、前記有機溶媒はジメチルスルホキシド、ホルムアミド及び炭素数が2~4の一価アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種とすることがより一層好適であり、イソプロパノールと水の混合物、エタノールと水の混合物を溶媒とすることが特に好適である。
【0051】
好適な一実施形態において、80/20~20/80の範囲から有機溶媒と水の体積比を選択し、70/30~20/80とすることが更に好適である。そのような体積比を採用することで、希釈した試料は適切な粘度があって探針により高効率で付着することが可能であり、これにより質量分析の精度が向上する。エタノールと水の混合物を使用する場合は、希釈後の試料の粘度の適切な調整、質量分析の精度の向上という観点から、エタノール/水の体積比は70/30~30/70とすることが好適であり、68/32~35/65とすることが更に好適であって、65/35~45/55とすることがより一層好適であり、62/38~50/50とすることが特に好適であって、60/40が最も好適である。もう1つの例として、イソプロパノールと水の混合物を使用する場合、希釈後のサンプルの粘度、質量分析の精度の向上の観点から、イソプロパノール/水の体積比は65/35~25/75とすることが好適であり、60/40~30/70とすることが更に好適である。55/45~45/55とすることがより一層好適であり、50/50が特に好適である。
【0052】
本発明は、pKaが4.8以下のカルボン酸及び/又は該カルボン酸のアンモニウム塩を使用することで、正イオンモードでの付加イオンの生成を促進し、質量分析の感度と精度を向上させることができる。本発明の効果をより一層発揮させるという観点から、緩衝液はpKaが4.8以下のカルボン酸を含有することが好適である。
【0053】
本発明において使用するpKaが4.8以下のカルボン酸の例として、酢酸、ギ酸、シュウ酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸等、揮発性のあるカルボン酸が挙げられる。質量分析の感度と精度をより一層向上させるとの観点から、pKaが4.75以下のカルボン酸とすることが好適であり、pKaが4.75以下の一価カルボン酸とすることが更に好適である。酢酸、ギ酸とすることがより一層好適であり、ギ酸とすることが最も好適である。前記pKaが4.8以下のカルボン酸の濃度は、質量分析で通常採用する濃度としてよい。例えば、0.02~0.8wt%としてもよく、0.04~0.5wt%とすることが好適である。0.06~0.3wt%とすることが更に好適であり、0.08~0.2wt%とすることがより一層好適である。
【0054】
本発明では、希釈ステップの希釈倍数は特に限定されず、試料の種類、分析対象となるピロリジジンアルカロイドの種類及び予測濃度、分析方法に応じて適宜確定してよい。一実施形態において、分析対象となるピロリジジンアルカロイドの希釈後の濃度が0.2ppb~1ppmの範囲となる方式で希釈を行い、更に、内部標準法を採用して質量分析を行う。また、一実施形態において、分析対象となるピロリジジンアルカロイドの希釈後の濃度が0.2ppm~1000ppmの範囲となる方式で希釈を行い、更に、外部標準法を採用して質量分析を行う。
【0055】
本発明では、質量分析ステップにおいて、分析設備として、例えば探針エレクトロスプレーイオン源(PESI)を備えた質量分析計を使用してよい。分析の感度という観点から、前記質量分析計はトリプル四重極型質量分析計とすることが好適である。分析設備の具体例としては、株式会社島津製作所製のDPiMS-2020アンビエント探針イオン化質量分析計、トリプル四重極型質量分析計(例:株式会社島津製作所製のLCMS-8060、LCMS-8045、又はLCMS-8050)上に株式会社島津製作所製の探針エレクトロスプレーイオン化装置を取り付けて構成する設備が挙げられる。
【0056】
質量分析ステップでは、探針エレクトロスプレーイオン化で正イオンモード又は負イオンモードのいずれを採用してもよいが、感度の観点から、正イオンモードの採用が好適である。好適な一実施形態において、質量分析ステップでは、多重反応モニタリングモードでピロリジジンアルカロイドの定性/定量分析を行ってもよい。多重反応モニタリングモードで使用する検査条件は、既存の公知の条件を使用してもよい。
【0057】
上述の探針エレクトロスプレーイオン源の放電電圧は通常の電圧であればよく、典型的には±0.5kV~±4kVであるが、これに限定されない。上述の探針エレクトロスプレーイオン源で使用する探針は特に限定されず、既存で公知の探針エレクトロスプレーイオン化質量分析法用の探針を使用してよい。例えば、株式会社島津製作所製の17928A1探針を使用してよい。ピロリジジンアルカロイドの高精度分析という観点から、探針の先端直径は300nm~5μmとすることが好適であり、350nm~3μmとすることが更に好適である。400nm~2μmとすることがより一層好適である。放電電圧が±1.5kV~±3.5kVで、かつ、探針の先端直径が450nm~1μmであるとき、ピロリジジンアルカロイドは安定し、かつ高い信号強度を示すため、特に好適である。
【0058】
また、本発明では、質量分析ステップで正規化法、内部標準法、外部標準法及び標準添加法等任意の分析方法を使用してよい。本発明では、外部標準法を採用した場合、標準曲線の線形相関係数は通常0.9~0.99である。一方、内部標準法を採用した場合、モノクロタリンN-オキシド、アドニホリン、レトロルシン、セネシフィリン、セネシオニン、ラシオカルピン、セネシオニンN-オキシド、セネシフィリンN-オキシド、センキルキン等複数のピロリジジンアルカロイドがいずれも線形相関係数の高い標準曲線、例えばRが0.99以上、状況によっては0.999以上を獲得することができる。また、感度と検出限界も通常は外部標準法より優れている。このため、基質効果を減らし、分析の感度、精度を高めるという観点から、内部標準法を採用してピロリジジンアルカロイドの分析を行うことが好適である。ピロリジジンアルカロイドの分析については、既存の技術のうち常用される内部標準物質を使用してよく、低コストで購入しやすいという観点から、モノクロタリンの使用が好適である。
【0059】
実施例
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0060】
本実施例では、探針エレクトロスプレーイオン源タンデムトリプル四重極型質量分析計を採用して、漢方薬センリコウ、シオン中のモノクロタリンN-オキシド、アドニホリン、レトロルシン、セネシフィリン、セネシオニン、ラシオカルピン、セネシオニンN-オキシド、セネシフィリンN-オキシド、センキルキンを分析する。
【0061】
以下、装置の構成及び検出の条件、ステップ及び結果について具体的に説明する。
【0062】
本実施例では、以下のステップで試料とするセンリコウ、シオンをそれぞれ破砕した後、メタノール水溶液で抽出し、希釈後に探針エレクトロスプレーイオン源タンデムトリプル四重極型質量分析計に送り、内部標準法で分析を行う。
(1)0.2gの試料を50mLの遠沈管に正確に秤取する
(2)10mLのメタノール(0.1wt%ギ酸)を加え、秤量し、40min超音波抽出する
(3)メタノール(0.1wt%ギ酸)で損失した重量パーセントを補充する
(4)4000rpmで10min遠心分離する
(5)50μLの上澄み液を取り、エタノール/水(体積比60/40、0.1wt%ギ酸)溶液で1mLに希釈する
(6)9.0μLの希釈液を取って試料導入し、分析する。
【0063】
装置及びその動作条件
本実施例では、株式会社島津製作製のトリプル四重極型質量分析計LCMS-8060上に株式会社島津製作所製の探針エレクトロスプレーイオン化装置を取り付けて、探針エレクトロスプレーイオン源タンデムトリプル四重極型質量分析計(以下、DPiMS-8060とも称する)を構成し、質量分析装置とする。
【0064】
探針エレクトロスプレーイオン源の設定は以下のような動作条件とする。
試料採取時間:50sec
放電電圧:2.3kV(+)/3.0kV(-)
試料採取位置:46.0mm
探針洗浄:0.05min(+)/0.05min(-)
イオン化時間:220msec
探針周波数:2.78Hz
探針型番:17928A1(株式会社島津製作所製)、先端直径700nm
【0065】
トリプル四重極型質量分析計の設定は以下のような動作条件とする。
イオン源:PESI(+)
DL管温度:250℃
ポート電圧:2.5kV
加熱モジュール温度:30℃
走査方式:多重反応モニタリング(MRM)
MRMパラメータ:表1参照
【0066】
【表1】
【0067】
図1に、内標準(モノクロタリン)、モノクロタリンN-オキシド、アドニホリン、レトロルシン、セネシフィリン、セネシオニン、ラシオカルピン、セネシオニンN-オキシド、セネシフィリンN-オキシド、センキルキンの標準試料のMRMクロマトグラムを示す。モノクロタリンN-オキシド、アドニホリン、レトロルシン、セネシフィリン、セネシオニン、ラシオカルピン、セネシオニンN-オキシド、セネシフィリンN-オキシド、センキルキンの標準曲線の回帰方程式、線形相関係数、線形範囲、検出限界、定量限界は表2に示すとおりである。
【0068】
【表2】
【0069】
表2で、線形範囲(単位:μg/L)は分析ステップのうち内標準の溶液濃度を添加した線形範囲を表し、検出限界と定量限界(単位:μg/g)は分析方法全体(すなわち、抽出、希釈及び分析ステップを含む)の検出限界と定量限界を表す。
【0070】
表2から、線形相関係数は0.996を上回り、検出限界は0.04~0.37μg/gの範囲内、定量限界は0.11~1.10μg/gの範囲内にあって、高感度となっていることが分かる。ここで、上述した標準曲線を使用して、それぞれ1.00μg/L、30.0μg/L(アドニホリンを除く。その濃度はそれぞれ0.09μg/L、2.3μg/L)の濃度において各ピロリジジンアルカロイドの標準試料の精度(n=7)を測定した結果を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
センリコウ及びシオンの試料に、100ppbの標準溶液と5.0ppbの内標準(モノクロタリン)を添加し、その後試料の前処理方法によって抽出し、分析した結果を表4に示す。ここで、100ppbのラベリングの対応する乾燥薬材中の含有量は5μg/gであり、中国薬局方の規制値(40μg/g)を下回る。
【0073】
【表4】
【0074】
表4から、本実施例では、センリコウ、シオンについて、簡単な抽出、及び特定の緩衝液を使用した希釈処理の後、本発明の探針エレクトロスプレーイオン化質量分析法を基にした分析方法を使用してモノクロタリンN-オキシド、レトロルシン、セネシフィリン、セネシオニン、ラシオカルピン、セネシオニンN-オキシド、セネシフィリンN-オキシド、センキルキンの測定を行っているが、その結果、検査した化合物のうち、シオン中のセネシフィリンの回収率のみが50%~60%であることが分かる。その他の化合物の回収率は63%~111%であり、スクリーニング分析の要件を満たすことができる。
【0075】
また、DPiMS-8060とLC-MS/MSを用いて同時にセンリコウとシオン中のピロリジジンアルカロイド含有量を測定し、LC-MS/MSを標準として、DPiMS-8060の分析結果を評価した。具体的には、DPiMS-8060によって各ピロリジジンアルカロイドに対して7回の平行測定を行った分析結果及びその平均値を後出の表5に示す。LC-MS/MSによって各ピロリジジンアルカロイドに対して2回の平行測定を行った分析結果及びその平均値は後出の表6に示すとおりである。DPiMS-8060、LC-MS/MSによって得られた分析結果の平均値は後出の表7に記載し、更に、これらの平均値を基に、以下の基準で評価を行って、得られた結果を表7に示す。
【0076】
G-良好:定性結果が確認され、DPiMSとLCMSの比の値は5より小さい
M-中レベル:定性結果が確認され、DPiMSとLCMSの比の値は5より大きい
B-不良:存在が確認されない
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
上述の表5から、LC-MS/MSの測定結果と比べて、DPiMS-8060の精度は78%(評価結果は中レベル以上)であることが分かる。特にアドニホリンのDPiMS-8060とLC-MS/MSの測定結果は同じである。つまり、実施例では、探針エレクトロスプレーイオン化法を基に、特定の緩衝液で希釈した試料のイオン化を行い、質量分析法でピロリジジンアルカロイドを分析することによって、迅速かつ正確な定性及び定量分析が実現していることが分かる。
【0081】
ここまで本発明の各実施例を記述してきたが、上述の説明は例示的なものであり、網羅的なものではない。しかも、開示された各実施例に限定されない。説明した各実施例の範囲や精神を逸脱しない状況において、当分野の一般の技術者にとって多くの修正や変更はいずれも自明のことである。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の分析方法により、試料の前処理のプロセスの簡略化が可能となり、高感度、高精度、かつ、より迅速な検出が実現し、ピロリジジンアルカロイドの分析用途に有用である。
図1