(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】抗酸化剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 15/34 20060101AFI20240806BHJP
A61K 8/9794 20170101ALN20240806BHJP
A61Q 19/00 20060101ALN20240806BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20240806BHJP
【FI】
C09K15/34
A61K8/9794
A61Q19/00
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2021000287
(22)【出願日】2021-01-04
【審査請求日】2023-11-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501174550
【氏名又は名称】国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(72)【発明者】
【氏名】小杉 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 宏美
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-203848(JP,A)
【文献】特開2001-200250(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0215145(US,A1)
【文献】特開2001-288035(JP,A)
【文献】特開平07-133216(JP,A)
【文献】特開昭62-195254(JP,A)
【文献】特開2013-100506(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0241254(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K15/00-15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルパーム幹
の搾汁液、及び、オイルパームの葉柄
の搾汁液の少なくともいずれか一
方からなり、一重項酸素消去能を有する、抗酸化剤。
【請求項2】
一重項酸素消去能を有する抗酸化剤の製造方法であって、
前記抗酸化剤の製造方法は、オイルパーム幹を搾汁し
て樹液
を得る工程、及び、オイルパームの葉柄を搾汁し
て葉柄液
を得る工程の少なくともいずれか一方
を得る工程を含み、
前記樹液及び前記葉柄液は水溶性液体
である、抗酸化剤の製造方法。
【請求項3】
前記オイルパーム幹の樹液が、外皮又は葉柄を除く前記オイルパーム幹の上部部分、中部部分、下部部分の何れかから得られる樹液、又は、外皮又は葉柄を含んだ前記オイルパーム幹の上部部分、中部部分、下部部分の何れかから得られる樹液である、請求項2に記載の抗酸化剤の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性液体を、加熱濃縮、凍結、乾燥、凍結乾燥、膜濃縮、超音波霧化分離又はpH調整
することにより
、前記水溶性液体中の抗酸化成分を濃縮する
工程を含む、請求項2に記載の抗酸化剤の製造方法。
【請求項5】
前記抗酸化剤
を、前記水溶性液体から溶媒により抽出
する工程を含む、請求項2に記載の抗酸化剤の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒は、エタノール、アセトン及びエーテルから選ばれる有機溶媒の何れかである、請求項5に記載の抗酸化剤の製造方法。
【請求項7】
前記水溶性液体から
前記溶媒により抽出され
た抽出液を、濃縮、凍結、乾燥、膜濃縮、超音波霧化分離、又はpH調整
することにより
、前記抽出液中の抗酸化成分を抽出する
工程を含む、請求項5又は6に記載の抗酸化剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の抗酸化剤を含む、食品。
【請求項9】
請求項1に記載の抗酸化剤を含む、化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の抽出液からなる抗酸化剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物の体内では、体内に取り入れられた酸素が、活性酸素と呼ばれるより反応性の高い化合物に変化している。活性酸素は殺菌力が強く、免疫機能を果たす一方で、過剰に生産された場合細胞を傷つけ、老化をはじめとする様々な障害や癌、心血管障害を引き起こす要因となっている。
活性酸素には、アルコキシラジカル活性、ヒドロキシルラジカル活性、一重項酸素活性の3種類がある。
体内の過剰な活性化酸素を除去する、あるいは、その酸化作用を抑制する物質が、抗酸化剤であり、ポリフェノールやカロテノイドにその効果が知られている。ポリフェノールやカロテノイドは植物由来の成分であり、緑茶、紅茶、アロエ搾汁液、ブラックベリー搾汁液、キュウリ搾汁液、レモン、トマトジュース等の作物に含まれている。そして、ポリフェノールやカロテノイドの抗酸化作用は、アルコキシラジカルやヒドロキシルラジカルの消去能により、効果の程度が測定されている。
【0003】
しかし、ポリフェノール構造の多様性もあって、根本的に信頼のできるラジカル消去能の程度を測定することは難しい。特に、一重項酸素の活性除去能については、その測定方法が確立していなかったこともあり、これまで一重項酸素活性除去能の測定例は極めて少なかった。
近年になってORAC法(Oxygen Radical Absorbance Capacity)により食品などに含まれる種々の抗酸化物質(カテキン、フラボノイド、ビタミンEなど)の抗酸化能力(機能性)を分析する方法が開発された。そして、このORAC法を元にしたSOAC法(一重項酸素消去能 (single oxygen absorption capacity))測定法により、ORAC測定法では測定できなかったカロテノイド類等の抗酸化能を定量する方法が開発された。しかし、SOAC法はカロテノイドなど油脂系溶剤に溶けやすい食品の一重項消去活性評価に特化しているので、水溶性のサンプルの評価に適していない。
【0004】
一重項酸素は、生体分子との直接的な反応やレドックスが関わる細胞内情報伝達経路の調節により多様な生命現象に関与する活性酸素種である。生体内における一重項酸素の生成は,光に依存する機構と光に依存しない機構があり、どちらも、病気に繋がることが明らかになっている。また、一重項酸素は、特に、皮膚表面での反応が大きいことが知られており、皮膚表面に発生する一重項酸素が原因となり、皮膚の酸化やニキビ菌の産生、その他にもポルフィリン症などの遺伝性代謝異常疾患にも関わるものである。一重項酸素の消去能を持つ抗酸化剤を水溶性とすることで、肌に塗布可能で、かつ、肌に浸透しやすくできるので、化粧水または美容液として肌トラブルの予防、解消に非常に有効である(非特許文献1)。
【0005】
本発明者らは、これまでオイルパーム樹液の利用に関する研究に長年従事しており、これまでも、オイルパーム中に含まれる糖分(特許文献1)を活用したエタノールの製造法を提案している。しかしながら、オイルパーム樹液には、糖濃度の低い樹液があることが知られており(特許文献2)、これらのエタノール製造に適さない糖濃度の低いオイルパーム樹液を含め、オイルパーム及びその樹液について、さらに付加価値が高く、かつ、活用の幅を広げる技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4065960号
【文献】特開2009-254311号
【非特許文献】
【0007】
【文献】寺尾純二,「生体における一重項酸素の生成と消去-酸化ストレスとの関わりを考える-」,ビタミン 90巻11号(11月2016年)
【文献】亀谷宏美、庄司俊彦、小田切雄司、小幡明雄、TRIVITTAYASIL Vipavee、蔦瑞樹、ESRスピントラップ法によるトマトジュースの活性酸素消去能評価、日本食生活学会誌、27巻、ページ267‐272,2017年,DOI:1609753029132_0.4_267
【文献】亀谷 宏美, 金崎 未香, 小田切 雄司, 小幡 明雄,色調の異なるトマトジュースの活性酸素消去能のESRスピントラップ法による評価,日本家政学会誌 70(5), 250-258, 2019
【文献】日本食品科学工学会誌, 57, 525-531(2010)
【文献】Akihiko Kosugi, Ryohei Tanaka, Kengo Magara, Yoshinori Murata, Takamitsu Arai, Othman Sulaiman, Rokiah Hashim, Zubaidah Aimi Abdul Hamid, Mohd Khairul Azri Yahya, Mohd Nor Mohd Yusof, Wan Asma Ibrahim, Yutaka Mori, “Ethanol and lactic acid production using sap squeezed from old oil palm trunks felled for replanting”, J Biosci Bioeng, 2010 Sep;110(3):322-5., doi: 10.1016/j.jbiosc.2010.03.001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、オイルパーム樹液に含まれるポリフェノールに着目し、その抗酸化力をORAC法及び電子スピン共鳴法(Electron Spin Resonance;以下、ESR法と呼ぶ)を用いて調べていたところ、従来知られている緑茶、紅茶、アロエ搾汁液、ブラックベリー搾汁液、キュウリ搾汁液、レモン、トマトジュース等のポリフェノールとは異なる抗酸化活性があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み完成されたオイルパーム樹液の活用に関する技術であり、樹液に含まれる糖成分以外の成分の活用を図るものである。さらに、これに加え、従来の抗酸化剤として知られているポリフェノールに比べ、抗酸化活性が強く、多様な抗酸化活性を有する抗酸化剤及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の抗酸化剤は、植物から得られる抽出液からなり、アルコキシラジカル消去能、ヒドロキシラジカル消去能及び一重項酸素消去能の少なくとも一つ以上のフリーラジカル消去能を有する。特に、本発明の抗酸化剤のフリーラジカル消去能は、ポリフェノールの抗酸化作用に比べ、強い一重項酸素消去能を有することを特徴とする。ここで、植物は、好ましくは熱帯性植物であり、オイルパーム又はサトウキビである。さらに好ましくは、抽出液が、(1)オイルパーム幹又はサトウキビ茎の樹液、(2)前記オイルパーム又はサトウキビの葉柄から採取した葉柄液のうちの何れかである。抽出液は、好ましくは水又は溶媒を利用した抽出液である。
本発明の抗酸化剤の製造方法は、抽出液が、オイルパームの幹、葉柄、繊維、粉砕チップ、又はサトウキビの茎、葉柄、繊維、粉砕チップのうちの何れかから水溶性液体として採取される方法である。
オイルパーム幹の樹液は、好ましくは、外皮又は葉柄を除く前記オイルパーム幹の上部部分、中部部分、下部部分の何れかから得られる樹液、又は、外皮又は葉柄を含んだ前記オイルパーム幹の上部部分、中部部分、下部部分の何れかから得られる樹液である。
前記水溶性液体は、好ましくは、加熱濃縮、凍結、乾燥、凍結感想、膜濃縮、超音波霧化分離又はpH調整により抗酸化成分を濃縮する。
この水溶性液体から、極性を有しないあるいは極性を有する溶媒により成分を抽出、あるいは分画し、次いで水溶性としてもよい。
前記溶媒は、好ましくは、エタノール、アセトン及びエーテルから選ばれる有機溶媒の何れかである。
水溶性液体から溶媒により抽出される抽出液を、好ましくは、濃縮、凍結、乾燥、膜濃縮、超音波霧化分離、又はpH調整により、抗酸化成分を抽出する。
上記の何れかに記載の抗酸化剤を含む、食品でもよい。
上記の何れかに記載の抗酸化剤を含む、化粧品でもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗酸化剤は、これまで樹液の糖分を活用するだけであったオイルパーム樹液の新たな活用とその製造方法を提供するものである。本発明の抗酸化剤は、特に、植物由来のポリフェノールのアルコキシラジカルやヒドロキシルラジカルに対する消去能と少なくとも同等の活性を有するだけでなく、一重項酸素活性の消去能が、従来知られている植物由来のポリフェノールと比較して格段に優れている。
このため、本発明は、他の植物由来の抗酸化剤とは異なる付加価値の高い抗酸化剤を提供し、さらに、その製造方法を提供する。
本発明の抗酸化剤は、一重項酸素の消去能を有し、かつ、水溶液の状態で使用可能なので、肌に塗布可能で、かつ、肌に浸透しやすい。したがって、香水、化粧水または美容液として肌トラブルの予防、解消に非常に有効である。本発明の抗酸化剤は、食品組成物に添加し、生体ラジカル消去剤として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】オイルパーム樹液(パーム幹の上部(T)、中部(M)、下部(B))及び標準物質のヒドロキシラジカル消去能の測定結果を表す図である。
【
図2】オイルパーム樹液(パーム幹の上部(T)、中部(M)、下部(B))及び標準物質のアルコキシラジカル消去能の測定結果を表す図である。
【
図3】オイルパーム樹液(パーム幹の上部(T)、中部(M)、下部(B))及び標準物質の一重項酸素ラジカル消去能の測定結果を表す図である。
【
図4】オイルパーム樹液(パーム幹の上部(T)、中部(M)、下部(B))及び標準物質について、ORAC法を用い、標準物質とオイルパーム樹液との抗酸化作用の強さを比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、植物から得られる抽出液からなり、アルコキシラジカル消去能、ヒドロキシラジカル消去能及び一重項酸素消去能のうち少なくとも一つ以上のフリーラジカル消去能を有する抗酸化剤である。
以下に、熱帯性由来植物の抽出液の抗酸化力として、アルコキシラジカル消去能、ヒドロキシラジカル消去能及び一重項酸素消去能を示し、本発明を説明する。
なお、以下に熱帯性植物をオイルパーム及びサトウキビを例にして示すが、これに限定されるものではなく、アルコキシラジカル消去能、ヒドロキシラジカル消去能及び一重項酸素活性の消去能が、ブラックベリー、緑茶(べにふうき緑茶)、紅茶(BOH)、キュウリ、アロエ、トマトジュース、リコピン及びβカロチンと同等以上のものであれば特に限定されるものではない。
【0014】
抽出液とは、植物の幹や茎から得られる樹液、植物の葉柄から得られる葉柄液、及び植物体から得られた粉砕物やチップからの抽出液である。なお、植物の幹や茎に化学的な処理を施して、樹液や葉柄液を採取し易くしてもよい。オイルパーム幹の樹液を用いる場合は、外皮又は葉柄を除くオイルパーム幹の上部部分、中部部分、下部部分の何れかから得られる樹液であってもよく、又は、外皮又は葉柄を含んだオイルパーム幹の上部部分、中部部分、下部部分の何れかから得られるものであってもよい。抽出する際は、前記オイルパーム幹であれば、上部部分、中部部分、下部部分の何れかに分割し、抽出操作をし易くすることも可能である。例えば、上記3部分に分割することも、上下部分に2分割してもよく、抽出操作をするのに容易であれば、上部、中部、下部を細かく粉砕し、混合させて抽出操作へ用いても構わない。またチップにしなくても板状であってもよく、そのまま用いても構わない。さらに、水溶液体を十分得るためには、オイルパーム幹の乾燥を避けるために、切断されたオイルパーム幹の断面にペンキや塗料を塗ったのち、上記方法を用いて粉砕することもできる。好ましくはオイルパーム幹の伐採直後から一か月以内に採取することが好ましい。オイルパーム幹は外皮がついているが、外皮を含めて抽出しても構わない。
本発明の抗酸化剤は、樹液や葉柄液のような水溶性液体であるが、熱水や冷水、又は中性、酸性やアルカリ性の水溶液により効率よく抽出することも出来る。また得られる水溶液は、糖を含むことが知られているが(非特許文献5参照)、腐敗防止や成分抽出を効率的にするために、前記水溶性液体を、加熱濃縮、乾燥、減圧濃縮、真空濃縮、凍結乾燥、膜による濃縮、超音波霧化分離、又はpHを酸性やアルカリ性側沈殿や他の不純物の除去など何れかの方法により、抗酸化成分を抽出や濃縮してもよい。
植物の粉砕物やチップからは、これらを物理的に圧搾や研磨して樹液を得るのが好ましいが、採取可能であれば、水による浸漬抽出や加水抽出、又は溶媒を用いて抽出、何れの方法を採用しても構わない。
【0015】
抽出液は、水溶性液体であるが、極性のない溶媒または極性を有する溶媒でさらに成分を分画、抽出していてもよい。これらの溶媒としては、有機溶媒のエタノール、メタノール、酢酸エチル、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン等を挙げることができる。有機溶媒であっても、水と混和した溶媒を用いることもできる。例えば、50%水を含んだエタノール、メタノールなどがあげられる。溶媒として好ましくはエタノール、メタノール、アセトン、エーテル及びヘキサンの何れかであり、さらに好ましくはエタノール、メタノール、又はアセトンである。前記水溶性液体から溶媒により抽出される抽出液を、濃縮、凍結、乾燥、膜濃縮、又はpH調整により抗酸化成分を抽出してもよい。
【0016】
本発明の抗酸化剤は、一重項酸素の消去能を有し、かつ、水溶液の状態で使用可能なので、肌に塗布可能で、かつ、肌に浸透しやすい。したがって、香水、化粧水または美容液として肌トラブルの予防、解消に非常に有効である。本発明の抗酸化剤は、食品組成物に添加し、生体ラジカル消去剤として用いることができる。さらに、本発明の抗酸化剤は、生体ラジカル消去剤として、シャンプーや石けんなどの洗剤又は医薬品が引き起こす酸化や酸化ストレスを解消させる酸化防止剤として、単独又は適量混合させて使用することができる。医薬品以外にも、他の抗酸化成分や薬効を持つ食品や化粧品、洗剤の酸化保護成分として適切な量を混合させることもできる。
【0017】
オイルパーム樹液、サトウキビ樹液と、比較例となるブラックベリー、緑茶、紅茶、キュウリ、アロエとのヒドロキシラジカルの消去能(実施例1)、アルコキシラジカルの消去能(実施例2)をESR法により調べた。
【0018】
(実施例1)
(ヒドロキシラジカルの消去能)
(測定試料の調整)
マレーシア国クアラルンプール近郊又はセランゴール州又はペナン州から調達したオイルパーム幹の樹液調製は、以下のように行った。樹齢、約10~25年以上経つオイルパーム幹をランダムに選抜し、オイルパーム幹30~40本を伐採後、直ちに直射日光や雨を避けられる屋根付きの場所へ移動させた。伐採したパーム幹は、部位ごとの活性を比較検討するために、伐採直後にパーム幹の上部(T)、中部(M)、下部(B)と上部から約4~5m間隔にて3つの箇所に分割した。その幹から経日的に適当な大きさに切断し小型搾汁機により圧力をかけ、樹液を採取した。葉柄は上部から刈り取り、裁断したあと、同じく小型搾汁機により圧力をかけ、葉柄液を採取し、同じく上部部分として用いた。
採取した樹液および葉柄液は-20℃にて凍結し、測定まで保存した。解凍後、ラジカル消去能の測定のため、樹液は蒸留水で段階的に希釈し、測定サンプルとした。
オイルパーム樹液のラジカル消去能力の強さを比較するため、ラジカル消去能を有するサンプルとして、ブラックベリー、緑茶(べにふうき緑茶)、紅茶(BOH)、キュウリ、アロエの抽出液を用いた。標準サンプルはすべて茨城県つくば市のスーパーマーケットにて調達した。
アロエ、キュウリ、ブラックベリーは、100グラムを秤取り、乳鉢にて粉砕、Whatman 4番の濾紙にて濾過することで、搾汁液を調整し-20℃にて凍結保存した。
また、緑茶や紅茶は、それぞれ2gを90℃~95℃の200mlの熱水に浸し、5分間抽出した。
次いで、Whatman 4番の濾紙にて濾過することで、抽出液を得た。抽出液は同様に使用時まで-20℃にて凍結保存した。測定時、必要であれば蒸留水にて適当に希釈を行い測定に用いた。
また、ラジカル消去能があると証明されているトマトジュース(群馬県産)リコピン及びβカロチンは、亀谷らが報告している文献値を参考にした(非特許文献2)。
また、オイルパーム幹樹液と類似した成分や糖濃度を示すとされる、サトウキビ搾汁液も比較対象として用いた。凍結サトウキビ(石垣島産)は、非特許文献2に記載の小型搾汁機を用い、同条件にて搾汁液を得て直接測定に使用した。
【0019】
(ヒドロキシラジカル消去能の測定方法)
試料又は標準試薬(マンニトール)に、活性酸素生成試薬として0.25%のH2O2、スピントラップ剤として5mM CYPMPO(5-(2,2-dimethyl-1,3-propoxy cyclophosphoryl)-5-methyl-1- pyrroline N-oxide)とDTPA(Diethylenetriaminepentaacetic Acid)の混合液に5秒間UV照射し測定を行った。
検量線の標準試薬はマンニトールを用いた。
ESR法の測定にはブルカージャパン株式会社のEMX-plusを用いて測定を行った。
ラジカル消去能の評価は、ESR法において、ESRスピントラップによるMULTIS法により、測定を行った(非特許文献3参照)。
【0020】
ヒドロキシラジカル消去能の測定結果を表1に示す。
なお、ヒドロキシラジカル消去能の活性の単位は、「mmol マンニトール等量/mL」で表す。
【0021】
【0022】
オイルパーム幹の上部(T)から調製した樹液では平均4,984.6 mmol マンニトール等量/mL、中部(M)から調製した樹液では平均5,454.6 mmol マンニトール等量/mL、下部(B)から調製した樹液では平均2,122.5 mmol マンニトール等量/mLのヒドロキシラジカル消去活性を有していた。
ヒドロキシラジカル消去活性能は、オイルパーム幹の上部(T)や中部(M)の樹液において比較的高い消去活性を示しており、下部(B)においては、トマトジュースほどの消去能があることが分かった。
サトウキビ搾汁液のヒドロキシラジカルの消去能は、(5,587.5 mmol マンニトール等量/mL)であった。
【0023】
一方、比較の試料のヒドロキシラジカルの消去能は、ブラックベリー(5,299.2 mmol マンニトール等量/mL)、緑茶(1,962.5 mmol マンニトール等量/mL)、紅茶(306.7 mmol マンニトール等量/mL)、キュウリ(3,578.8 mmol マンニトール等量/mL)、アロエ(6213.1 mmol マンニトール等量/mL)、トマトジュース(1,844 mmol マンニトール等量/mL)、リコピン(111 mmol マンニトール等量/mL)、βカロチン(436 mmol マンニトール等量/mL)であった。
【0024】
オイルパーム樹液、標準物質のヒドロキシラジカル消去能の結果を
図1に示す。
なお、ヒドロキシラジカル消去能の活性の単位は、「mmol マンニトール等量/mL」で表す。
【0025】
以上の結果から、オイルパーム樹液と共にサトウキビ搾汁液も強いヒドロキシラジカル消去能を持っていることが明らかであり、熱帯植物より得られるジュース又は樹液においては、ヒドロキシラジカル消去能が比較的強いことが想定される。
【0026】
(実施例2)
(アルコキシラジカルの消去能)
(アルコキシラジカル消去能の測定方法)
試料又は標準試薬(トロロックス(Trolox))に、活性酸素生成試薬として1mMのAAPH(2,2-アゾビス(2-アミノジプロパン)二塩酸塩(2,2’-azobis[2-aminodipropane]dihydrochloride))とスピントラップ剤として5mMのCYPMPO(5-(2,2-dimethyl-1,3-propoxy cyclophosphoryl)-5-methyl-1- pyrroline N-oxide) の混合液に5秒間UV照射し測定を行った。検量線の標準試薬は、トロロックスを用いた。測定結果を表2に示す。
また、普遍性を示すために分布図として、箱ひげ図としてオイルパームの幹の上部(T)、中部(M)、下部(B)各約30サンプルずつの各部位ごとにラジカル消去活性分布として
図2に示した。活性単位は「mmol trolox等量/mL」で表す。
【0027】
【0028】
この結果から、オイルパーム樹液のアルコキシラジカルの消去能について、抗酸化効果の知られているブラックベリー(16.4 mmol trolox等量/mL)、緑茶(11.4 mmol trolox等量/mL)、紅茶(0.40 mmol trolox等量/mL)、キュウリ(5.3 mmol trolox等量/mL)、アロエ(14.9 mmol trolox等量/mL)、トマトジュース(12.0 trolox等量/mL)、リコピン(0.5 trolox等量/mL)、βカロチン(7.1 trolox等量/mL)サトウキビ搾汁液(4.7 trolox等量/mL)のそれらと比較した。オイルパーム樹液のアルコキシラジカルの消去能は、上部(T)から調製した樹液では平均11.8 mmol trolox等量/mL、中部(M)から調製した樹液では平均10.6 mmol trolox等量/mL、下部(B)から調製した樹液では平均9.9 mmol trolox等量/mLと、同等もしくは比較的高いアルコキシラジカル消去活性を有していることがわかる。
【0029】
(実施例3)
(一重項酸素ラジカルの消去能)
(一重項酸素ラジカル消去能の測定)
一重項酸素ラジカル消去の測定は、ORAC法を用い、渡辺純等の方法(非特許文献3参照)に準じて行った。
【0030】
ラジカル発生剤である2,2'-Azobis(2-methylpropionamidine)Dihydrochloride (AAPH)より発生した、ペルオキシラジカルによって、標識物質であるフルオレセイン(Fluorescein)が分解される過程を、フルオレセインの蛍光強度を経時的に測定することにより評価した。検量線の標準物質はトロロックス(Trolox)を用いた。
【0031】
試料又は標準試薬(グルタチオン(GSH))に、活性酸素生成試薬として0.1mMのPterineとスピントラップ剤として10mM N、N、N'、N'-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン(TMPD)と1mMのDTPAの混合液に30秒間可視光照射して測定した。検量線の標準試薬はグルタチオンを使用した。
【0032】
結果を表3と
図3に示す。
消去能活性の単位は「GSH等量/mL」で表す。
【0033】
【0034】
一重項酸素ラジカル消去能は、ブラックベリー(15.8 mmol GSH等量/mL)、緑茶(20.4 mmol GSH等量/mL)、紅茶(25.1 mmol GSH等量/mL)、キュウリ(34.6 mmol GSH等量/mL)、アロエ(43.8 mmol GSH等量/mL)、トマトジュース(63.0 GSH等量/mL)、リコピン(1.7 GSH等量/mL)、βカロチン(5.8 GSH等量/mL)、サトウキビ搾汁液(63.0 GSH等量/mL)のそれらと比較し、オイルパーム樹液の一重項酸素ラジカル消去能は、上部(T)から調製した樹液では平均387.7 mmol GSH等量/mL、中部(M)から調製した樹液では平均239.6 mmol GSH等量/mL、下部(B)から調製した樹液では平均343.6 mmol GSH等量/mLであった。
【0035】
以上の結果から、オイルパーム樹液の一重項酸素ラジカル消去能は、抗酸化効果の知られているブラックベリー、緑茶、紅茶、キュウリ、アロエ、トマトジュース、βカロチン、リコピン及びサトウキビ搾汁液のそれと比べ、著しく高い活性を有していることがわかる。
【0036】
(参考例)
ここでは、オイルパーム樹液と標準試薬(マンニトール及びトロロックス)との抗酸化作用の違いを比較検討した。
図4は、オイルパーム樹液(パーム幹の上部(T)、中部(M)、下部(B))及び標準物質について、ORAC法を用い、標準物質とオイルパーム樹液との抗酸化作用の強さを比較した結果を示す図である。
図4の横軸は、活性単位であり、「mmol trolox等量/mL」で表す。
図4に示すように、オイルパーム幹の樹液は、ほぼ同等、もしくはやや劣る抗酸化能力を示した。
この結果は、ESR法により測定した結果(実施例1及び2)と、従来のORAC法で想定される既知の抗酸化物質(カテキン、フラボノイド、ビタミンEなど)の結果とは乖離があることを示している。
しかし、ESR法の結果は、ORAC法では検知困難な抗酸化能を含む物質が、オイルパーム樹液中に含まれていることを示しており、オイルパーム樹液には、既存の抗酸化物質とは異なる強いラジカル消去作用の存在が示された。
実施例3の結果を考慮すると、オイルパーム樹液が有する既知の抗酸化物質とは異なるラジカル消去能は、一重項酸素ラジカル消去能であることが考えられる。
【0037】
以上、本発明を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。