(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】血中半減期の向上のための抗体Fc変異体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20240806BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240806BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240806BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240806BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240806BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240806BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240806BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240806BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20240806BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C07K16/00 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/00 C
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2022125460
(22)【出願日】2022-08-05
(62)【分割の表示】P 2020504084の分割
【原出願日】2018-04-06
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】10-2017-0045142
(32)【優先日】2017-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0047821
(32)【優先日】2017-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0047822
(32)【優先日】2017-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512145572
【氏名又は名称】国民大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】KOOKIMIN UNIVERSITY INDUSTRY ACADEMY COOPERATION FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】77, Jeongneung-ro,Seongbuk-gu,Seoul,Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】519361461
【氏名又は名称】オソン メディカル イノベーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,サン テク
(72)【発明者】
【氏名】コ,サンファン
(72)【発明者】
【氏名】イ,テ ギュ
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ソ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ス ハン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ミョン ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ス ジン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ソ ラ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジョン シク
(72)【発明者】
【氏名】リム,ジュ ヒョン
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098357(WO,A1)
【文献】特表2012-524522(JP,A)
【文献】特許第7264381(JP,B1)
【文献】The Journal of Immunology,2009年,Vol.182, p.7663-7671
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトIgG1またはIgG4抗体Fc変異体を含むポリペプチドであって、前記Fc変異体は野生型に比べて30%以上増加した半減期を有しており、
前記増加した半減期は前記野生型のヒト抗体のFcドメインにおけるアミノ酸置換によるものであり、
前記半減期の30%以上の増加のための前記アミノ酸置換は、野生型(wild type)ヒト抗体FcドメインでカバットのEUナンバリングシステム(Kabat EU numbering system)に従うM428L及びQ311R
のみからなる、ポリペプチド。
【請求項2】
請求項1のポリペプチドを含む抗体。
【請求項3】
前記抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ミニボディー(minibody)、ドメイン抗体、二重特異的抗体、抗体模倣体、キメラ抗体、抗体接合体(conjugate)、ヒト抗体又はヒト化抗体であるか、又はその断片であることを特徴とする、請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
請求項1のポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項5】
請求項4の核酸分子を含むベクター。
【請求項6】
請求項5のベクターを含む宿主細胞。
【請求項7】
請求項1のポリペプチド、請求項2の抗体、請求項4の核酸分子又は請求項5のベクターを含む組成物。
【請求項8】
請求項1のポリペプチド、請求項4の核酸分子又は請求項5のベクターを含む組成物であり、
前記組成物は、抗体又はタンパク質治療剤の血中半減期(Half-life)増加用の組成物であることを特徴とする、組成物。
【請求項9】
下記の段階を含む、野生型に比べて半減期が増加したヒト抗体Fc変異体を含むポリペプチドの製造方法:
a)請求項1のポリペプチドをコードする核酸分子を含むベクターを含む宿主細胞を培養する段階;及び
b)前記宿主細胞により発現したポリペプチドを回収する段階。
【請求項10】
下記の段階を含む、野生型に比べて半減期が増加した抗体の製造方法:
a)請求項1のポリペプチドを含む抗体を発現させる宿主細胞を培養する段階;及び
b)前記宿主細胞から発現した抗体を精製する段階。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中半減期が向上した新規な抗体Fc変異体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全世界的に遺伝子組換え、細胞培養などの生命工学技術の発達に伴ってタンパク質の構造と機能に対する研究が活発に行われてきている。これは、生命現象に対する理解を高めるだけでなく、各種疾病の発病機作を糾明する上で決定的な役割を果たすことにより、効果的な疾病診断と治療の道を拓き、生活の質を向上させるのに大きく寄与している。特に、1975年にB細胞(B Cell)と骨髄癌細胞(Myeoloma cell)を融合して単一クローン抗体を生産するハイブリドーマ技術(Hybridoma technology)が開発(Kohler and Milstein,Nature,256:495-497,1975)されながら、癌、自己免疫疾患、炎症、心血管疾患、感染などの臨床分野において治療用抗体を用いた免疫治療(Immunotherapy)に対する研究開発が活発に行われている。
【0003】
治療用抗体は、既存の低分子薬物に比べてターゲットに非常に高い特異性を示し、生体毒性が低く、副作用が少ないだけでなく、約3週の優れた血中半減期を有することから、最も効果的な癌治療方法の一つとされている。実際に全世界の大手製薬会社と研究所で癌発病因子をはじめとする、癌細胞に特異的に結合して効果的に除去する治療用抗体の研究開発に拍車をかかっている。治療用抗体医薬品の開発企業は、ロシュ、アムジェン、ジョンソンエンドジョンソン、アボット、ビーエムエスなどの製薬企業が主流であり、特に、ロシュは、坑癌治療目的のハーセプチン(Herceptin)、アバスチン(Avastin)、リツキサン(Rituxan)などが代表商品であり、この3種の治療用抗体をもって2012年には世界市場で約195億ドルの売上げを達成するなど、大きな利回りを上げている他、世界の抗体医薬品市場をリードしている。レミケード(Remicade)を開発したジョンソンエンドジョンソンも、売上げの増加で世界抗体市場において急成長しており、アボットとビーエムエスなどの製薬企業も最終開発段階の治療用抗体を多数保有していることが知られている。その結果、低分子医薬品が主流だった世界製薬市場において、疾病ターゲットに特異的であるとともに副作用の低い治療用抗体を含むバイオ医薬品が急速にそのシェアを広げていっている。
【0004】
抗体のFc部位は、免疫白血球又は血清補体分子を募集し、癌細胞又は感染した細胞のような損傷された細胞が除去され得るように働く。Cγ2及びCγ3ドメインの間のFc上の部位は新生(neonatal)受容体FcRnとの相互作用を媒介し、その結合は、エンドソーム(endosome)から血流(bloodstream)へ細胞内移入された抗体を再循環させる(Raghavan et al.,1996,Annu Rev Cell Dev Biol 12:181-220;Ghetie et al.,2000,Annu Rev Immunol 18:739-766)。この過程は、全長IgG(full-length IgG)抗体分子の巨大なサイズに起因して腎臓濾過(kidney filtration)による体内除去減少と関連付けられ、1週~3週範囲の有利な抗体血清半減期(antibody serum half-life)を有する。また、FcRnに対するFcの結合は、抗体運搬においても重要な役目を担当する。したがって、Fc部位は、細胞内輸送(intracellular trafficking)及びリサイクル機作によって抗体が循環して延長された血清持続性(prolonged serum persistence)を維持するのに必須の役割を果たす。
【0005】
治療剤として抗体又はFc融合タンパク質の投与は、半減期の特性を考慮して、定められた頻度の注射を必要とする。生体内でより長い半減期は、より低い頻度の注射又はより少ない投与量を可能にするという明白な長所がある。このため、現在進行されている多くの臨床研究において、抗体の半減期を増加させるためにFc部位に突然変異を導入したり、ADCC効果を極大化させるために変異を導入したFcドメインを用いた次世代坑癌抗体治療剤や坑癌タンパク質治療剤の開発に多くの努力を注いでいる(Modified from Cancer Immunol Res.2015/ Thomson Reuters)。
【0006】
しかしながら、上記研究陣はFcドメインに一部の突然変異を導入し、増加したFcRn結合親和性及び生体内半減期を有する一部のタンパク質及び抗体を見出すために努力しているものの、まだ生体内半減期を大きく向上できずにいるのが現実であり、より最適化した突然変異を導入した抗体の開発が切実に望まれている。
【0007】
上記の背景技術として説明された事項は、本発明の背景に関する理解増進のためのものに過ぎず、この技術分野における通常の知識を有する者に既に知られた従来技術に該当することを認めるものとして解釈されてはならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、既存のタンパク質又は抗体治療剤の体内半減期を効率的に増加させるために鋭意努力した。その結果、野生型Fcドメインの一部のアミノ酸配列を他のアミノ酸配列に置換して最適化することによって、タンパク質又は抗体治療剤の優れた活性を保有しながら血中半減期を極大化させることができる方法を確認し、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の目的は、ヒト抗体Fcドメインのアミノ酸配列のうちの一部が他のアミノ酸配列に置換されたFc変異体を含むポリペプチドを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、前記ポリペプチドを含む抗体を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、前記ポリペプチドをコードする核酸分子を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、前記核酸分子を含むベクターを提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、前記ベクターを含む宿主細胞を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、前記ポリペプチド、抗体、核酸分子又はベクターを含む組成物を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、前記ポリペプチド又は抗体の製造方法を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、前記ポリペプチドのスクリーニング方法を提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、請求範囲及び図面によってさらに明確になるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様によれば、本発明は、ヒト抗体Fcドメインのアミノ酸配列の一部が他のアミノ酸配列に置換されたFc変異体を含むポリペプチドを提供する。
【0019】
本発明の他の態様によれば、本発明は、ヒト抗体Fcドメインのアミノ酸配列の一部が他のアミノ酸配列に置換されたFc変異体を含むポリペプチドを含む抗体又はタンパク質治療剤の血中半減期(Half-life)増加用の組成物を提供する。
【0020】
本発明者らは、既存のタンパク質又は抗体治療剤の体内半減期を効率的に増加させるための方法として、野生型Fcドメインの一部のアミノ酸配列を他のアミノ酸配列に置換及び最適化してFc変異体を製造することによって、これを含むタンパク質又は抗体治療剤の半減期を極大化できる方法を見出そうとした。
【0021】
抗体は特定抗原に特異的に結合を示すタンパク質であり、天然抗体は通常、2個の同じ軽鎖(L)及び2個の同じ重鎖(H)で構成された、約150,000ダルトンのヘテロダイマー糖タンパク質である。
【0022】
本発明で用いられるヒト抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5個の主要クラスがあり、好ましくはIgGである。抗体のパパイン分解は2個のFab断片と1個のFc断片を形成し、ヒトIgG分子において、Fc領域はCys226のN-末端をパパイン分解することによって生成される(Deisenhofer,Biochemistry 20:2361-2370,1981)。
【0023】
抗体Fcドメインは、IgA、IgM、IgE、IgD、又はIgG抗体のFcドメイン、或いはそれらの変形であり得る。一実施態様においては、前記ドメインはIgG抗体のFcドメイン(例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、又はIgG4抗体のFcドメイン)である。一実施態様においては、前記FcドメインはIgG1Fcドメイン(例えば、抗HER2抗体のFcドメイン、好ましくはトラスツズマブのFcドメイン、より好ましくは配列目録第28配列のFcドメイン)であり得る。本発明のFcドメインを含むポリペプチドは、ポリペプチドの一部又は全部が糖化していなくても糖化していてもよい。また、ポリペプチドに、Fcドメインに加えて、抗体に由来する一つ以上の領域が含まれてもよい。さらに、前記ポリペプチドには抗体由来の抗原結合ドメイン(antigen binding domain)が含まれてもよく、複数のポリペプチドが抗体又は抗体型タンパク質を形成してもよい。
【0024】
本明細書において抗体Fcドメインのアミノ酸残基番号は、当業界で通常用いられるカバットのEUナンバリングシステム(Kabat EU numbering system)に従う(Kabat et al.,in “Sequences of Proteins of Immunological Interest” 5th Ed.,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242,1991におけるようなEU指数番号)(EU numbering as described in the Kabat et al.(1991)と同じ意味)。
【0025】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の置換されたFc変異体は、カバットのEUナンバリングシステムに従うM428Lのアミノ酸置換を含む。
【0026】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の置換されたFc変異体は、カバットのEUナンバリングシステムに従う下記のアミノ酸置換を含む:a)M428L;及びb)Q311R又はL309G。
【0027】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の置換されたFc変異体は、カバットのEUナンバリングシステムに従うP228L及びM428Lのアミノ酸置換を含む。
【0028】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の前記P228L及びM428Lアミノ酸置換を含むFc変異体は、カバットのEUナンバリングシステムに従う234、264、269、292、309、342、359、364、368、388、394、422、434及び445番のアミノ酸からなる群から選ばれる1つ以上の更なるアミノ酸置換を含む。
【0029】
前記更なるアミノ酸置換は、L309R及びN434Sであり得る。
【0030】
前記更なるアミノ酸置換は、V264M、L368Q、E388D、V422D及びP445Sであってもよい。
【0031】
前記更なるアミノ酸置換は、R292L、T359A及びS364Gであってもよい。
【0032】
前記更なるアミノ酸置換は、L234F、E269D、Q342L、E388D及びT394Aであってもよい。
【0033】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の置換されたFc変異体は、カバットのEUナンバリングシステムに従う下記のアミノ酸置換を含む:a)M428L;及びb)P230Q又はP230S。
【0034】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の前記a)M428L;及びb)P230Q又はP230S位置でアミノ酸置換を含むFc変異体は、カバットのEUナンバリングシステムに従う243、246、295、320、356、361、384及び405番のアミノ酸からなる群から選ばれる1つ以上の更なるアミノ酸置換を含む。
【0035】
前記更なるアミノ酸置換は、F243Y、K246E、N361S及びN384Iであり得る。
【0036】
前記更なるアミノ酸置換は、Q295L、K320M、D356E及びF405Iであってもよい。
【0037】
本発明は、FcRn(neonatal Fc receptor)に対する結合及び解離を調整するアミノ酸置換を含むFc変異体に関する。特に、酸性条件(pH7よりも低いpH条件)でFcRnに対する増加した結合親和度(binding affinity)を示し、中性pH条件では非常に低いFcRn結合力を示すFc変異体、又はその機能的変異体を含む。
【0038】
本明細書において半減期を増加させようとする“抗体治療剤”は特に制限されず、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ミニボディー(minibody)、ドメイン抗体、二重特異的抗体、抗体模倣体、キメラ抗体、抗体接合体(conjugate)、ヒト抗体又はヒト化抗体であるか、その断片を含む。
【0039】
モノクローナル抗体としては、例えば、パニツムマブ(ベクチビックス)、オファツムマブ(アーゼラ)、ゴリムマブ(シンポニー)、イピリムマブ(ヤーボイ)などのヒト抗体;トシリズマブ(アクテムラ)、トラスツズマブ(ハーセプチン)、ベバシズマブ(アバスチン)、オマリズマブ(ゾレア)、メポリズマブ(ボサトリア)、ゲムツズマブオゾガマイシン(マイロターグ)、パリビズマブ(シナジス)、ラニビズマブ(ルセンティス)、セルトリズマブ(シムジア)、オクレリズマブ、モガムリズマブ(ポテリジオ)、エクリズマブ(ソリリス)などのヒト化抗体;リツキシマブ(リツキサン)、セツキシマブ(アービタックス)、インフリキシマブ(レミケード)、バシリキシマブ(シムレクト)などのキメラ抗体などを上げることができる。
【0040】
本明細書において半減期を増加させようとする“タンパク質治療剤”は特に制限されず、インスリンなどのホルモン、成長因子(Growth Factor)、インターフェロン、インターロイキン、エリスロポエチン、好中球増殖因子、変形性成長因子などのサイトカイン、エタネルセプト(エンブレル)、アフリベルセプト(アイリーア、ザルトラップ)、アバタセプト(オレンシア)、アレファセプト(アメビブ)、ベラタセプト(ニューロジクス)、リロナセプト(アルカリスト)などのFc融合タンパク質、テリパラチド(フォルテオ)、エキセナチド(バイエッタ)、リラグルチド(ビクトーザ)、ランレオチド(ソマチュリン)、プラムリンチド(シムリン)、エンフビルチド(フゼオン)などのペプチド治療剤、VEGF受容体、Her2受容体、G-タンパク質連結受容体、イオンチャネルなどの細胞表面受容体の全部或いは一部のポリペプチドなどを含む。
【0041】
前記抗体又はタンパク質治療剤は、本発明のポリペプチド又はこれをコードする核酸に結合されるか、或いは前記核酸を発現させるためのベクターに共に挿入され、それらの半減期の増加に有用に用いられ得る。
【0042】
本発明の好ましい具現例によれば、前記Fc変異体は、pH5.6~6.4(好ましくはpH5.8~6.2)においてFcRnに対する結合親和度(binding affinity)が、野生型Fcドメインに比べて10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上又は100%以上増加するか、或いは野生型Fcドメインに比べて2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上又は100倍以上増加し得る。
【0043】
本発明の好ましい具現例によれば、前記Fc変異体は、pH7.0~7.8(好ましくはpH7.2~7.6)においてFcRn(neonatal Fc receptor)から解離(dissociation)する程度が、野生型Fcドメインと比較して同一であるか或いは実質的に変化しなくて済む。
【0044】
本発明の一実施例によれば、本発明の置換されたFc変異体は、野生型Fc又は既に開発された他のFc変異体と比較して、弱酸性条件(例えば、pH5.8~6.2)では非常に向上した結合親和度を示し、中性条件(例えば、pH7.4)では同一であるか、実質的に同等又はそれ以上のレベルの解離程度を示した(実施例4及び8)。
【0045】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の置換されたFc変異体は、野生型に比べて半減期(Half-life)が増加したものである。
【0046】
本発明の置換されたFc変異体の半減期は、野生型Fcドメインに比べて10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上又は100%以上増加するか、或いは野生型Fcドメインに比べて2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上又は10倍以上増加し得る。
【0047】
本発明の一実施例によれば、本発明の置換されたFc変異体は野生型に比べて顕著に向上した体内半減期を示した(実施例11、表3)。
【0048】
本明細書において、“Fcガンマ受容体”又は“FcγR”は、IgG抗体Fc領域に結合するタンパク質系の任意の構成員を意味し、FcγR遺伝子によってエンコードされる。その例として、FcγRIa、FcγRIb及びFcγRIcを含むFcγRI(CD64);FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);FcγRIIIa及びFcγRIIIbを含むFcγRIII(CD16)、並びに任意の発見されないFcγR又はFcγRが含まれるが、これに制限されない。FcγRは、ヒト、マウス、ネズミ、ウサギ及びサルが含まれるが、その他の任意の生物体から由来してもよい。
【0049】
本明細書において、“FcRn”又は“neonatal Fc receptor”とは、IgG抗体Fc領域に結合するタンパク質を意味し、少なくとも部分的にFcRn遺伝子によってエンコードされる。前記FcRnは、ヒト、マウス、ネズミ、ウサギ及びサルが含まれるが、任意の生物体から由来してもよい。機能的FcRnタンパク質は、軽鎖及び重鎖と呼ばれる2個のポリペプチドを含む。軽鎖はベータ-2-マイクログロブリンであり、重鎖はFcRn遺伝子によってエンコードされる。
【0050】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記ポリペプチドを含む抗体を提供する。
【0051】
本明細書でいう用語“抗体”は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ミニボディー(minibody)、ドメイン抗体、二重特異的抗体、抗体模倣体、キメラ抗体、抗体接合体(conjugate)、ヒト抗体又はヒト化抗体であるか、その断片(例えば、抗原に結合する抗体断片)を意味する。
【0052】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明は、抗体Fc領域の最適化(例えば、M428L及びQ311R;又はM428L及びL309Gなど)によってFcドメイン又はこれを含むポリペプチドの半減期を極大化することができる。
【0053】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記ポリペプチドをコードする核酸分子、該核酸分子を含むベクター、又は該ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0054】
本発明の核酸分子は単離したものであるか、組み換えられたものであり得、一本鎖及び二本鎖形態のDNA及びRNAだけでなく、対応する相補性配列が含まれる。“単離した核酸”は、天然生成源から単離した核酸である場合、核酸が単離した個体のゲノムに存在する周辺遺伝配列から分離された核酸である。鋳型から酵素的に又は化学的に合成された核酸、例えばPCR産物、cDNA分子、又はオリゴヌクレオチドの場合、このような手順から生成された核酸が単離した核酸分子として理解され得る。単離した核酸分子は、別の断片の形態又はより大きい核酸構築物の成分としての核酸分子を表す。核酸は他の核酸配列と機能的関係で配置される時に“作動可能に連結”される。例えば、全配列又は分泌リーダ(leader)のDNAは、ポリペプチドが分泌される前の形態である前タンパク質(preprotein)として発現する場合、ポリペプチドのDNAに作動可能に連結され、プロモーター又はエンハンサーはポリペプチド配列の転写に影響を与える場合、コーディング配列に作動可能に連結され、又はリポソーム結合部位は翻訳を促進するように配置されるとき、コーディング配列に作動可能に連結される。一般に、“作動可能に連結された”とは、連結されるDNA配列が隣接して位置することを意味し、分泌リーダの場合、隣接して同一リーディングフレーム内に存在することを意味する。しかし、エンハンサーは隣接して位置する必要はない。連結は、便利な制限酵素部位でライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーを通常の方法によって使用する。
【0055】
本明細書でいう用語“ベクター”は、核酸配列を複製可能な細胞への導入のために核酸配列を挿入できる伝達体を意味する。核酸配列は外生(exogenous)又は異種(heterologous)であり得る。ベクターとしてはプラスミド、コスミド及びウイルス(例えばバクテリオファージ)を挙げることができるが、これに制限されない。当業者は標準的な組換え技術によってベクターを構築することができる(Maniatis,et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1988;及びAusubel et al.,In:Current Protocols in Molecular Biology,John,Wiley & Sons,Inc,NY,1994など)。
【0056】
本明細書でいう用語“発現ベクター”は、転写される遺伝子産物の少なくとも一部分をコードする核酸配列を含むベクターを意味する。一部の場合には、その後にRNA分子がタンパク質、ポリペプチド、又はペプチドに翻訳される。発現ベクターには様々な調節配列を含むことができる。転写及び翻訳を調節する調節配列と共にベクター及び発現ベクターには、他の機能も提供する核酸配列も含まれ得る。
【0057】
本明細書でいう用語“宿主細胞”は、真核生物及び原核生物を含み、前記ベクターを複製できるか、ベクターによってコードされる遺伝子を発現できる任意の形質転換可能な生物を意味する。宿主細胞は前記ベクターによって形質感染(transfected)又は形質転換(transformed)可能であり、これは外生の核酸分子が宿主細胞内に伝達又は導入される過程を意味する。
【0058】
本発明の宿主細胞は好ましくは、細菌(bacteria)細胞、CHO細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、BHK-21細胞、COS7細胞、COP5細胞、A549細胞、NIH3T3細胞などを挙げることができるが、これに制限されるものではない。
【0059】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、下記の段階を含むヒト抗体Fc変異体を含むポリペプチドの製造方法を提供する:
a)前記ポリペプチドをコードする核酸分子を含むベクターを含む宿主細胞を培養する段階;及び
b)前記宿主細胞により発現したポリペプチドを回収する段階。
【0060】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、下記の段階を含む抗体の製造方法を提供する:
a)前記ポリペプチドを含む抗体を発現する宿主細胞を培養する段階;及び
b)前記宿主細胞から発現した抗体を精製する段階。
【0061】
本発明の製造方法において、抗体の精製は、濾過、HPLC、陰イオン交換又は陽イオン交換、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、親和度クロマトグラフィー、又はそれらの組合せを含むことができ、好ましくはプロテインA(Protein A)を使用する親和クロマトグラフィーを用いることができる。
【0062】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、下記の段階を含むFc変異体を含むポリペプチドのスクリーニング方法を提供する:
a)カバットのEUナンバリングシステムに従うM428L突然変異を含むFc変異体ライブラリーを構築する段階;及び
b)前記M428L突然変異を含むFc変異体から、pH5.6~6.4でFcRnに対する親和度が野生型に比べて高いFc変異体を選別する段階。
【0063】
本発明のM428L突然変異を含むFc変異体は、更なるアミノ酸置換を含むことができる。
【0064】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の更なるアミノ酸置換は、Q311R又はL309G突然変異を含む。
【0065】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の更なるアミノ酸置換は、P228L突然変異を含む。
【0066】
本発明のP228L突然変異を含むFc変異体は、更なるアミノ酸置換を含むことができる。
【0067】
前記更なるアミノ酸置換は特に制限されず、好ましくはカバットのEUナンバリングシステムに従う234、264、269、292、309、342、359、364、368、388、394、422、434及び445番のアミノ酸からなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸において突然変異を含む。
【0068】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の更なるアミノ酸置換は、P230Q又はP230S突然変異を含む。
【0069】
本発明のP230位置に突然変異を含むFc変異体は、更なるアミノ酸置換を含むことができる。
【0070】
前記更なるアミノ酸置換は特別に制限されず、好ましくはカバットのEUナンバリングシステムに従う243、246、295、320、356、361、384及び405番のアミノ酸からなる群から選ばれる1つ以上のアミノ酸において突然変異を含む。
【0071】
本発明のスクリーニング方法は、蛍光標識細胞分離(FACS)スクリーニング、又は他の自動化したフロサイトメトリー技術を用いることができる。フロサイトメトリーを実施するための機器は当業者に公知である。かかる機器の例には、FACSAria、FACS Sta r Plus、FACScan及びFACSort機器(Becton Dickinson,Foster City,CA)、Epics C(Coulter Epics Division,Hialeah,FL)、MOFLO(Cytomation,Colorado Springs,Colo.)、MOFLO-XDP(Beckman Coulter,Indianapolis,IN)を挙げることができる。一般に、フロサイトメトリー技術には、液体試料中の細胞又は他の粒子の分離が含まれる。典型的には、フロサイトメトリーの目的は、分離された粒子をそれらの一つ以上の特性(例えば、標識されたリガンド又は他の分子の存在)に対して分析することである。粒子はセンサーによって一つずつ通過し、大きさ、屈折、光散乱、不透明度、照度、形状、蛍光などに基づいて分類される。
【0072】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記アミノ酸置換を含むFc変異体を含むポリペプチド、前記抗体、前記核酸分子又は前記ベクターを含む組成物を提供する。
【0073】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の組成物は、癌の予防又は治療用薬剤学的組成物である。
【0074】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の薬剤学的組成物(又は、ポリペプチド、抗体、核酸分子又はベクター)は癌抗原を認識する。
【0075】
本発明の一実施例によれば、本発明のFc変異体は、対照群(例えば、トラスツズマブ)に比べて同等又はそれ以上のADCC(antibody dependent cellular cytotoxicity)活性を示し、前記顕著な半減期の増加とともに高い坑癌活性を有する(実施例13、
図18)。
【0076】
本発明の薬剤学的組成物は、(a)前記ポリペプチド、抗体、前記ポリペプチドをコードする核酸分子又は該核酸分子を含むベクター;及び(b)薬剤学的に許容される担体を含むことができる。
【0077】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記薬剤学的組成物を対象(subject)に投与する段階を含む癌の予防又は治療方法を提供する。
【0078】
本発明が予防又は治療しようとする癌の種類は制限されず、白血病(leukemias)及び急性リンパ球白血病(acute lymphocytic leukemia)、急性非リンパ球白血病(acute nonlymphocytic leukemias)、慢性リンパ球白血病(chronic lymphocytic leukemia)、慢性骨髄白血病(chronic myelogenous leukemia)、ホジキン病(Hodgkin’s Disease)、非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin’s lymphomas)及び多発骨髄腫(multiple myeloma)などのリンパ腫(lymphomas)、脳腫瘍(brain tumors)、神経芽細胞腫(neuroblastoma)、網膜芽細胞腫(retinoblastoma)、ウィルムス腫瘍(Wilms Tumor)、骨腫瘍(bone tumors)及び軟部組織肉腫(soft-tissue sarcomas)などの小児固形腫瘍(childhood solid tumors)、肺癌(lung cancer)、乳癌(breast cancer)、前立腺癌(prostate cancer)、尿路癌(urinary cancers)、子宮癌(uterine cancers)、口腔癌(oral cancers)、膵癌(pancreatic cancer)、黒色腫(melanoma)及びその他皮膚癌(skin cancers)、胃癌(stomach cancer)、卵巣癌(ovarian cancer)、脳腫瘍(brain tumors)、肝癌(liver cancer)、喉頭癌(laryngeal cancer)、甲状腺癌(thyroid cancer)、食道癌(esophageal cancer)及び精巣癌(testicular cancer)などの成人の通常の固形腫瘍(common solid tumors)を含めて多数の癌を治療するように投与することができる。
【0079】
本発明の薬剤学的組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は製剤時に通常用いられるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルジネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、滑石、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。適切な薬剤学的に許容される担体及び製剤はRemington’s Pharmaceutical Sciences(19th
ed.,1995)に詳細に記載されている。
【0080】
本発明の薬剤学的組成物は経口又は非経口で投与でき、好ましくは非経口投与であり、例えば、静脈内注入、局所注入及び腹腔注入などで投与できる。
【0081】
本発明の薬剤学的組成物投与の対象(subject)は制限されないが、好ましくは脊椎動物、より好ましくはヒト、チンパンジーを含む霊長類、イヌ、ネコなどの愛玩動物、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類などの哺乳動物を含む意味として解釈される。
【0082】
本発明の薬剤学的組成物の適度な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって様々であり、普通の熟練した医師は所望の治療又は予防に効果的な投与量を容易に決定及び処方することができる。本発明の好ましい具現例によれば、本発明の薬剤学的組成物の1日投与量は、0.0001~100mg/kgである。
【0083】
本発明の薬剤学的組成物は、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる方法によって、薬剤学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することにより、単位容量の形態で製造したり、又は多用量容器内に内入させて製造することができる。この時、剤形は、オイル又は水性媒質中の溶液、懸濁液又は乳化液の形態であるか、エキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態であり得、分散剤又は安定化剤をさらに含むことができる。
【0084】
本発明の薬剤学的組成物は、単独の療法として用いることができるが、他の通常の化学療法又は放射療法と共に用いてもよく、このような併行療法を実施する場合にはより効果的に癌治療ができる。本発明の組成物と共に使用できる化学療法剤は、シスプラチン(cisplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、プロカルバジン(procarbazine)、メクロレタミン(mechlorethamine)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、イソホスファミド(ifosfamide)、メルファラン(melphalan)、クロランブシル(chlorambucil)、ビスフファン(bisulfan)、ニトロソウレア(nitrosourea)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、ドキソルビシン(doxorubicin)、ブレオマイシン(bleomycin)、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン(mitomycin)、エトポシド(etoposide)、タモキシフェン(tamoxifen)、タキソール(taxol)、トランスプラチナ(transplatinum)、5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)、ビンクリスチン(vincristin)、ビンブラスチン(vinblastin)及びメトトレキサート(methotrexate)などを含む。本発明の組成物と共に利用可能な放射療法は、X線走査及びγ-線走査などである。
【発明の効果】
【0085】
本発明の特徴及び利点を要約すると、次の通りである:
(i)本発明は、ヒト抗体Fcドメインのアミノ酸配列の一部が他のアミノ酸配列に置換されたFc変異体を含むポリペプチド又はこれを含む抗体を提供する。
【0086】
(ii)また、本発明は、前記ポリペプチド又は抗体の製造方法を提供する。
【0087】
(iii)本発明のFc変異体は、一部のアミノ酸配列の最適化によって体内半減期を極大化でき、癌の治療に有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【
図1】tetrameric FcRnとdimeric FcRnの発現及び精製のための発現用ベクター及び精製後SDS-PAGEゲル写真である。
【
図2】M252及びM428に18種のアミノ酸が含まれるように作製するためのライブラリー模式図である。
【
図3】2Mライブラリー探索過程及び選別されたM428L変異体を示す。
【
図4】M428Lを基本として作製されたエラーライブラリーとポイントライブラリーの模式図を表す。
【
図5】エラーライブラリー(
図5A)及びポイントライブラリー(
図5B)から見出した変異体のFACS蛍光強度測定結果である。
【
図6】トラスツズマブの重鎖及び軽鎖を動物細胞内で発現させるためのプラスミドを示す。
【
図7】野生型トラスツズマブの発現及び精製結果である。
【
図8】商業用トラスツズマブ及び研究室で作製したトラスツズマブの物性比較結果である(a:CE-cIEF、b:SEC)。
【
図9】N-グリカンプロファイリングによる商業用トラスツズマブ及び研究室で作製したトラスツズマブの物性比較結果である。
【
図10】10種のトラスツズマブFc変異体の発現及び精製結果である(
図10A:親和度クロマトグラフィー 、
図10B:SDS-PAGE分析、
図10C:最終収率目録)。
【
図11】トラスツズマブFc変異体のSEC特性分析結果である。
【
図12】ELISAを用いたトラスツズマブFc変異体のFcRn結合力測定結果である。
【
図13】BiaCoreによるpH6.0と7.4におけるトラスツズマブFc変異体とhFcRnとの結合力測定結果である(
図13A:pH6.0(capture method)、
図13B:pH7.4(Avid Format)での結合力測定)。
【
図14】一般マウス(C57BL/6J(B6))とヒトFcRn Tgマウスにおける商業用及び研究室作製のトラスツズマブの薬動学比較結果である。
【
図15】ヒトFcRn TgマウスにおけるFc変異体の薬動学分析結果である(静脈注射で各変異体5mg/kg注射、n=5)。
【
図16】ELISAを用いたトラスツズマブFc変異体のFcγRs結合力測定結果である。
【
図17】Normal IgGと対照群(トラスツズマブ)に対する評価トラスツズマブFc変異体の効果器機能(Effector Function)比較結果である(ADCCアッセイ)。
【
図18】トラスツズマブFc変異体の効果器機能(ADCC)比較結果である。
【
図19】ELISAを用いたトラスツズマブFc変異体のC1q結合力測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0089】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって、本発明の範囲がそれらの実施例に制限されないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0090】
[実施例]
[実施例1.Fc変異体ライブラリーを探索するためのFcRn(neonatal Fc receptor)の発現及び精製]
FcRnにpH-依存的結合力が向上したFc変異体を探索するためにtetrameric FcRnとdimeric FcRnの発現及び精製を行うための発現用ベクターを準備した(
図1)。tetrameric FcRnを得るためにpMAZ-β2microglobulin-GSlinker-FcRnα-chain-streptavidin-HisのDNAプラスミドを確保した。このDNAをHEK293F細胞にコトランスフェクション(co-transfection)し、300ml規模で臨時発現させた。培養を終えた培養液は、7000rpm、10分間遠心分離によって除去し、上澄み液を取って25xPBSを用いて平衡化した。ボトルトップフィルターを用いて0.2μmフィルター(Merck Millipore)で濾過した。PBSで平衡化した後、Ni-NTAレジン(Qiagen)を入れ、16時間4℃でFcRnとレジンを結合させた。FcRnと結合したレジンをカラムに流してから、50ml wash-1バッファー(PBS)、25ml wash-2バッファー(PBS+10mMイミダゾール)、25ml wash-3バッファー(PBS+20mMイミダゾール)、200μl wash-4バッファー(PBS+250mMイミダゾール)を流してtFcRn以外のタンパク質を除去した。そして、2.5ml溶出バッファー(PBS+250mMイミダゾール)を流し、tFcRnを得た。そして、バッファーを変えるためにCentrifugal Filter Units(Merck Millipore)を使用した。Dimeric FcRnを得るためにOslo大学から受けたpcDNA-FcRnα-chain-GST-β2 microglobulinプラスミドを確保した。このDNAをHEK293F細胞にコトランスフェクションし、300ml規模で臨時発現させた。培養済み培養液は7000rpm、10分間遠心分離して除去し、上澄み液を取って25xPBSを用いて平衡化した。ボトルトップフィルターを用いて0.2μmフィルター(Merck Millipore)で濾過した。PBSで平衡化した後、Glutathione agarose 4B(incospharm)レジンを入れて16時間4℃でFcRnとレジンを結合させた。FcRnと結合したレジンをカラムに流してから10ml洗浄バッファー(PBS)を流し、dFcRn以外のタンパク質を除去した。そして、2.5ml溶出バッファー(50mM Tris-HCl+10mM
GSH pH8.0)を流し、バッファーを変えるためにCentrifugal Filter Units 3K(Merck Millipore)を使用した。精製後、SDS-PAGEゲルを用いて大きさを確認した(
図1)。精製されたtetrameric FcRnとdimeric FcRnに蛍光信号が生成されるようにAlexa
488を用いて蛍光標識をした。
【0091】
[実施例2.Fc変異体2Mライブラリー(library)の作製]
トラスツズマブ(Trastzumab)にあるFc部分の遺伝子(配列目録第29配列)を、SfiI制限酵素を用いてpMopac12-NlpA-Fc-FLAGを作製した。作製されたベクターに基づいて、Fc内に2つのMet部分をcysとMet以外の残り18個の他のアミノ酸に置換され得るように、pMopac12-seq-Fw、Fc-M252-1-Rv、Fc-M252-2-Rv、Fc-M252-3-Rv、Fc-M428-Fw、Fc-M428-1-Rv、Fc-M428-2-Rv、Fc-M428-3-Rv、Fc-M428-frg3-Fw、pMopac12-seq-Rvプライマーを用いてライブラリーインサートを作製した(表1、
図2)。作製されたインサートをSfiI制限酵素処理して同じSfiIで処理されたベクターとライゲーションした。その後、大腸菌Jude1((F’[Tn10(Tet
r)proAB+lacI
qΔ(lacZ)M15]mcrAΔ(mrr-hsdRMS-mcrBC)Φ80dlacZΔM15ΔlacX74deoR recA1araD139Δ(ara leu)7697 galU galKrpsLendA1nupG)に形質転換し、巨大Fc変異体2Mライブラリー(ライブラリーサイズ:1×10
9)を構築した。
【0092】
【0093】
[実施例3.バクテリア培養及びフローサイトメトリー(flow cytometry)を用いたFc変異体2Mライブラリー探索]
構築された2M Fc変異体ライブラリー探索のために、大腸菌Jude1細胞に形質転換されているFc変異体ライブラリー細胞1mlを37℃250rpm振盪(shaking)条件で2%(w/v)グルコースに、抗生剤はクロラムフェニコール(40μg/mL)の含まれたTB(Terrific Broth)培地に入れて4時間培養した。振盪培養されたライブラリー細胞をTB培地に1:100で接種した後、37℃250rpm振盪によりOD
600が0.5に到達するまで培養した。その後、冷却(cooling)のために20分間25℃で培養した後、1mM isopropyl-1-thio-β-D-galactopyranoside(IPTG)を入れて発現誘導をした。培養が終わった後、細胞を回収してOD
600ノーマライズによって均一の量ずつ14000rpm、1分間遠心分離して細胞を収穫した。1mlの10mM Tris-HCl(pH8.0)を添加して細胞を再懸濁(resuspension)し、1分間遠心分離する洗浄過程を2回反復した。1mlのSTE[0.5Mスクロース、10mM Tris-HCl、10mM EDTA(pH8.0)]で再懸濁して37℃、30分間回転させ、細胞外膜を除去した。遠心分離して上澄み液を捨てた後、1mlの溶液A[0.5Mスクロース、20mM MgCl
2,10mM MOPS pH6.8]を添加して再懸濁及び遠心分離をした。1mlの溶液Aと50mg/mlリゾチーム溶液20μlを混合した溶液を1ml添加して再懸濁した後、37℃、15分間回転させてペプチドグリカン層を除去した。遠心分離後に上澄み液を除去し、1mlのPBSで再懸濁した後に300μlを取り、700μlのPBSと蛍光標識されたtetrameric FcγRIIIa-Alexa 488 flourプローブを共に入れて常温で回転させ、スフェロプラスト(spheroplast)に蛍光プローブをラベリングした。ラベリング後、1mlのPBSで1回洗浄した後にフローサイトメトリー(Flow cytometry:S3 sortor(Bio-rad))を用いて、高い蛍光を示す上位3%細胞を回収するために選別(sorting)作業を行い、蛍光が高い細胞の純度を高めるために、選別された細胞をさらに再選別(resorting)した。再選別したサンプルを、pMopac12-seq-FwとpMopac12-seq-Rvプライマーを用いてTaqポリマーレイズ(Biosesang)によりPCRで遺伝子増幅し、SfiI制限酵素処理、ライゲーション、形質転換過程を経てソートされた細胞の遺伝子が増幅されたサブライブラリーを作製した。この過程を総2ラウンドにわたって反復した後、約40個の個別クローンをそれぞれ分析し、野生型Fcに比べてpH5.8でFcRnと高い親和度を示すM428L変異体を選別した(
図3)。
【0094】
[実施例3.Fc変異体エラーライブラリー及びポイントライブラリーの作製]
見出されたM428Lを鋳型とし、さらに2種のライブラリーを作製した。一番目のライブラリーは、error prone PCR手法を用いてFcに変異を導入し、エラーライブラリーを作製した。エラー率は、Fc(680bp)に0.3%エラー(2.04bp)が入るようにep-Fc-Fw、ep-Fc-Rvプライマーを用いてライブラリー(ライブラリーサイズ:2×10
8)を作製した。二番目のライブラリーは、M428Lを鋳型とし、FcとFcRn結合部位を選定し、該当の部位に無作為に突然変異が導入されるように、pMopac12-seq-Fw、pMopac12-seq-Rv、Fc-Sub#0-Rv、Fc-Sub#1-1-Fw、Fc-Sub#1-2-Fw、Fc-Sub#1-3-Fw、Fc-Sub#1-4-Fw、Fc-Sub#1-5-Fw、Fc-Sub#1-Rv、Fc-Sub#2-1-Fw、Fc-Sub#2-2-Fw、Fc-Sub#2-3-Fw、Fc-Sub#2-Rv、Fc-Sub#3-1-Fw、Fc-Sub#3-2-Fw、Fc-Sub#3-3-Fw、Fc-Sub#3-4-Fwプライマーを用いてポイントライブラリーを作製した(
図4)。その後、上記のような方法でJude1に形質転換してFc変異体ライブラリーを構築した。
【0095】
[実施例4.バクテリア培養及びフローサイトメトリーを用いたFc変異体エラー及びポイントライブラリー探索と、PFc3、PFc29、PFc41、EFc29、EFc41、EFc82、EFc88などの変異体選別]
先に見出されたM428Lを基本としてさらに作製されたエラーライブラリーとポイントライブラリーに対して、上記のような方法で選別及び再選別作業を行った。エラーライブラリーは5ラウンドにわって反復し、ポイントライブラリーは1回選別を行った後、両ライブラリーから得られたグループでそれぞれ約100個の個別クローンを分析し、pH5.8でFcRnに高い親和度を示し、pH7.4では低い親和度を示すFc変異体を選別した。FACSを用いてそれぞれを分析した結果、エラーライブラリーから見出されたEFc6、EFc29、EFc41、EFc46、EFc70、EFc90EFc82、EFc88の方が野生型Fcに比べてpH5.8において高い蛍光強度を示したが、先行研究で見出されたメディミューン(Medimmune)のYTE(Gabriel J.Robbie et al.,Antimicrob Agents Chemother.2013Dec;57(12):6147-6153)やゼンコア(Xencor)のLS(米国特許登録番号第8,324,351号)に比べてはpH5.8で高い蛍光強度を示し、pH7.4でLSに比べて低い蛍光を示す変異体はEFc6、EFc29、EFc41、EFc82、EFc88であることを確認した。また、ポイントライブラリーから見出された変異体PFc3、PFc29、PFc41はYTEやLSに比べてpH5.8で高い蛍光強度を示したが、PFc30は低い蛍光強度を示した。そして、PFc29、PFc41は、pH7.4でLSに比べて低い蛍光を示すことを確認した。最終的に、血中半減期を向上させるものと予想されるEFc6、EFc29、EFc41、EFc82、EFc88、PFc3、PFc29、PFc41を選定した(表2、
図5)。
【0096】
【0097】
突然変異位置はカバットのEUナンバリングシステム(Kabat et al.,in “Sequences of Proteins of Immunological Interest”,5th Ed.,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242,1991)におけるようなEU指数番号に従う。
【0098】
[実施例5.Fc変異体導入のための対照群トラスツズマブの生産及び精製]
本発明では、IgG1治療用抗体の代表であるトラスツズマブ(trastuzumab,Herceptin(登録商標))を選定して、見出されたFc変異体を導入し、後に対照群としようとした。
【0099】
野生型トラスツズマブ遺伝子は、Drug Bank(http://www.drugbank.ca/)のアミノ酸配列からback-translationと同時にmammalian codon optimizationによって重鎖可変領域と軽鎖可変領域のそれぞれを合成(Genscript)した。合成されたトラスツズマブ重鎖遺伝子はpOptiVEC-Fcベクターに、トラスツズマブ軽鎖遺伝子はpDNA3.3ベクターにそれぞれサブクローニングした(
図6)。トラスツズマブ重鎖及び軽鎖をコードしている動物細胞発現用プラスミドをそれぞれ製造し、HEK293細胞で発現及び精製した。
【0100】
HEK293Fで培養後、プロテインA親和度クロマトグラフィー(AKTA prime plus,cat #11001313)とゲル濾過クロマトグラフィー(HiTrap MabselectSure,GE,cat #11-0034-95)を用いて野生型トラスツズマブを精製し、300ml培養液から7.7mgの高純度野生型トラスツズマブを確保した(
図7)。
【0101】
[実施例6.研究室作製(in-house)及び商業用(commercial)トラスツズマブ物性の比較分析]
CHO懸濁培養で生産された商業用(commercial)トラスツズマブと違い、研究室で作製(in-house)されたin-houseトラスツズマブはHEK293で生産したので、選別されたFc-変異体を導入してその機能を分析する前に、2種の基本特性分析を行った。CE(Capillary Electrophoresis:PA800 Plus,Beckman coulter)による分析は、pH3~10の勾配を形成するPharmalyte 3-10両性担体(GE Healthcare,17-0456-01)を使って試料のpI値及びCharge variantsを分析した。分析の結果、SEC(Size Exclusion Chromatography:Tskgel G3000swxl,Tosoh)によるimpurityはなく、CE(Capillary Electrophoresis:PA800 Plus,Beckman coulter)によるcharge variantによるpI値は、商業用では8.27~8.74であり、メインピークのPIが8.62であり、自体生産したトラスツズマブのPIは8.29~8.78、メインピークは8.65であって、両者が類似していた(
図8)。しかし、cIEF分析の結果、研究室で作製したトラスツズマブではメインピーク以外のピークにおける若干の含量差が観察され、これは、商業用はCHOで生産されるが、研究室で作製したトラスツズマブの生産細胞株がHEK293であって、グリカンパターンが異なるため、シアル酸などによる酸化(oxdation)である可能性もあり、グリカン分析も行った(
図9)。
【0102】
グリカン分析は、タンパク質からPNGase F(NEB,186007990-1)を用いてN-glycanを剥がした後、RapiFluor-MS試薬(Waters,186007989-1)を用いてラベリング後、UPLCシステム(Acquity UPLC I class,Waters,FLR detector)を用いて分析した。グリカン分析の結果、糖パターンは類似しており、各組成当たりの含有量差だけが示され、これはシアル酸による酸化が原因であるとは考えられず、生産細胞株の差異によって現れるものと考えられたし、結合力分析及び薬動学分析には大きな影響がないことを確認し(Data not shown)、選別されたFc変異体を導入して生産した。
【0103】
[実施例7.Fc変異体の生産、精製及び物成分析]
商業用と研究室で作製した野生型に加えて、LS(XenCor)、YTE(MedImmune)、428Lなどの対照群変異体5種と、PFc29、PFc41、EFc29、EFc41及びEFc82などの5種の選別された変異体をHEK293F動物細胞に形質注入した。形質注入一日前にHEK293F細胞を1×106cells/mlの密度で300ml継代培養し、翌日、ポリエチレンイミン(PEI,Polyscience,23966)を用いて形質注入した。Freestyle293発現培養液(Gibco,12338-018)30mlに変異体の重鎖遺伝子と軽鎖遺伝子を2:1の割合でまず混ぜ、次にPEI:変異体遺伝子=1:2割合で混ぜて常温で20分間置いてから、前日に継代培養しておいた細胞に混ぜて振盪CO2インキュベーターで37℃、125rpm、8%CO2条件で6日間培養した後、遠心分離して上澄み液だけを取った。
【0104】
上澄み液からのタンパク質の精製は、HiTrap MabselectSureカラムを装着したAKTA prime plusを用いて親和クロマトグラフィーで行った。上澄み液300mlを1分当たり3mlの速度で流し、100mlの1xPBSで洗浄した後、IgG溶出バッファー(Thermo scientific ,21009)を1分当たり5mlの速度で5mlずつ6個の切片(fraction)を収集し、1M
Tris(pH9.0)500ulを混ぜて中和させた後、各切片を、Bradford(BioRad,5000001)溶液でタンパク質を確認して新しいチューブに取った。30K Amicon ultra centrifugal filter(UFC903096)を用いて精製された変異体を濃縮した後、物成分析した(
図10及び
図11)。
【0105】
研究室作製野生型トラスツズマブ以外の各Fc変異体は、protein Aで精製後、SDS-PAGEによって純度90%以上の純度及び分子量を確認した。効能評価及び純度分析に要求される高純度タンパク質試料の確保(純度97%以上)のためにSEC-HPLC(
図11A)実験を行った。等張条件(isocratic condition)(移動相1XPBS pH7.0、1ml/min流速)で分析した結果、Fc変異体はいずれもメインピークに対する保持時間(retention time)が同一であり、分子量予測の結果、予想分子量として確認した(
図11B)。
【0106】
[実施例8.ELISAを用いたFc変異体のFcRn結合力の測定]
先に準備した変異体のFcRn pH-依存的結合力と効果機能を示させ得るFcγRs、C1qとの結合力を測定するためにELISA測定を行った。まず、FcRnにpH-依存的結合力を測定するために、0.05M Na
2CO
3、pH9.6に4μg/mlで希釈したIgG Fc変異体をそれぞれ50μlずつ底平ポリスチレン高結合96ウェルマイクロプレート(Flat Bottom Polystyrene High Bind 96 well microplate)(costar)に4℃、16時間固定化した後、100μlの4%スキームミルク(GenomicBase)(in 0.05% PBST pH5.8/pH7.4)で常温で2時間ブロッキングした。0.05% PBST(pH5.8/pH7.4)180μlで4回ずつ洗浄過程を行った後、1% スキームミルク(in 0.05% PBST pH5.8/pH7.4)で連続して希釈されたFcRnを50μl各ウェルに分注し、常温で1時間反応させた。洗浄過程後、anti-GST-HRP conjugate(GE Healthcare)50μlずつを用いて常温で1時間抗体反応を行い、洗浄過程を行った。1-Step
Ultra TMB-ELISA基質溶液(Thermo Fisher Scientific)を50μlずつ添加して発色した後、2M H
2SO
4を50μlずつ入れて反応を終了した後、Epoch Microplate Spectrophotometer(BioTek)を用いて分析した。見出した変異体は、FcRnに対してpH5.8ではLS変異体と類似な結合力を有し、pH7.4ではLSに比べて解離しやすいことが観察された(
図12)。
【0107】
[実施例9.pH6.0とpH7.4でトラスツズマブFc変異体とmonomeric hFcRnとの結合力測定の比較分析]
このように、物成分析から確認された商業用及び研究室作製トラスツズマブ以外の選別されたFc変異体のpHによるヒトFcRnとの結合力差を比較するために、Biacore T200(GE Healthcare)装備を用いてK
D値を測定比較した。pH6.0条件では文献(Yeung YA.et al.,J.Immunol,2009)によってantigen-mediated antibody capture方式でヒトFcRnを検体(analyte)とした。HER2 ECDドメインが~3,000RU(response units)レベルで固定されたCM5チップ表面にFc変異体をリガンドとして展開液(running buffer)(50mM Phosphate、pH6.0、150mM NaCl、0.005% surfactant P20、pH6.0)に希釈して~300RUレベルで注入しキャプチャーした。検体であるmonomeric FcRn(Sinobiological inc.,CT009-H08H)は、125nMから始めてFcRn展開液に順次に希釈して30ul/min流速で2分間注入し、2分間解離(dissociation)して結合力を測定した。各サイクルごとに10mMグリシン(pH1.5)の30ml/minの流速で30秒間regenerationを行った。センソグラムはBIAevaluation software(Biacore)で1:1結合モデル(binding model)を適用して分析した。その結果、Fc変異体は、対照群として用いられた商業用トラスツズマブ(15nM)及び研究室作製トラスツズマブ(16.9nM)とbackboneとして用いられた428L(9nM)に比べては結合力が良くなったが(PFc3:5.6nM、PFc29:6.8nM、PFc41:5.9nMなど)、世界最高として知られたYTE(5.7nM)及びLS(4.1nM)に比べては結合力が多少劣った。しかし、その値の差はほとんど誤差範囲内であり、類似していることを確認した。pH7.0条件では、リガンドと検体(analytes)がよく結合しないので、monomeric hFcRnを直接固定化(direct immobilization)した後、Fc変異体を濃度別に注入するavid format(Zalevsky J et al.Nat.Biotechnol,2010)で測定した。ヒトFcRn
ECDドメイン(Sino Biological)をCM5チップ表面に~1,500RUレベルで固定化した。FcRnが固定されたチップの表面にFc変異体を3000nMから始めてHBS-EP(pH7.4)に順次に希釈して5ml/minの流速で2分間注入した。結合したFc変異体は2分間解離させ、各cycleが終わると、チップ表面を100mM Tris(pH9.0)でregenerationした(conatat time 30秒;流速30ul/min)。このうち、Fc変異体の2種(PFc29、PFc41)がpH6.0条件で高い結合力を維持しながらpH7.4条件ではYTEとLSよりも速く解離すること(ELISA結果と一致)から、半減期増加効果を期待できることを予想し(
図13)、実際にヒトFcRn Tgマウスで体内薬動学実験を進行した。
【0108】
[実施例10.一般B6マウスとhFcRn Tgマウスで商業用及び研究室作製トラスツズマブ生体内(in vivo)PK実験の比較分析]
ヒトFcRn Tgマウスと遺伝的バックグラウンドが同じB6一般マウス(中央実験動物センター、C57BL/6J(B6))におけるPK分析の結果、論文で報告された通り、一般マウスFcRnとヒト抗体のFcとの親和力が、ヒトFcRnとヒト抗体Fcに比べて高いことを確認した。しかし、一般マウスにおけるPK値は、研究室作製及び商業用抗体間の差異(variation)があり、研究室作製抗体が不安定(unstable)に見えたが、Tgマウス(B6.Cg-Fcgrttm1Dcr Prkdcscid Tg(Jackson lab,CAGFCGRT)276Dcr/DcrJ)では、一般マウスよりはAUCが多少低いが、研究室作製及び商業用抗体間の薬動学傾向は類似に測定されることが確認された。したがって、Tgマウスにおける実際の体内薬動学分析において、HEK293で生産した研究室作製由来Fc変異体の実験測定に問題がないことを確認した(
図14)。
【0109】
[実施例11.LS、YTE外2種の変異体(PFc29及びPFc41)の4種に対するhFcRn Tgマウス薬動学]
ELISAとBiaCore装備でpH6.0及びpH7.4で測定した結合力結果に一貫性があり、これに基づいて、pH6.0酸性条件でLSと同等に結合力が良く、pH7.4で解離力がLSよりも高かった、PFc29とPFc41の2種類を選別した。これと同時に、現在世界最高とされているXenCorのLS mutantとMedImmuneのYTEを対照群とし、総4種のトラスツズマブFc変異体をヒトFcRn Tgマウス20匹(各群当たり5匹ずつ5mg/kgをI.V(微静脈)で注射後、顔面静脈から採血(総12回→0秒、30秒、1時間、6時間、24時間、3日、7日、14日、21日、28日、35日、42日、50日))から得られた血液を用いてELISAで濃度分析した後、WinNonlinでNCA(non-compartmental analysis)した。ELISAとBiaCore分析の結果において、予想の通り、Fc変異体の2種(PFc29及びPFc41)とも体内半減期増加効果を示し、特にPFc29の場合、先行研究で見出されたLSに比べても高い半減期効果を示した(
図15、表3)。
【0110】
【0111】
t1/2,terminal half-life;Tmax,time at maximal concentration;C0,extrapolated zero
time concentration;Cmax,maximal concentration;AUClast,area under the curve from
administration to the last measured concentration;AUCinf, area under the curve from administration to infinity;AUC%Extrap,percentage of the extrapolated area under the curve at the total area under the curve;Vz,volume of distribution;CL,clearance。
【0112】
[実施例12.ELISAを用いたFc変異体のFcγRs結合力の測定]
FcγRsとの結合力を測定するために0.05M Na
2CO
3 pH9.6に4μg/mlで希釈したIgG Fc変異体をそれぞれ50μlずつ底平ポリスチレン高結合96ウェルマイクロプレート(costar)に4℃、16時間固定化した後、100μlの4%スキームミルク(GenomicBase)(in 0.05% PBST pH7.4)で常温で2時間ブロッキングした。0.05% PBST(pH7.4)180μlで4回ずつ洗浄過程を行った後、1%スキームミルク(in 0.05% PBST pH7.4)で連続希釈されたFcγRsを50μl各ウェルに分注し、常温で1時間反応させた。洗浄過程後、FcRsはanti-GST-HRP conjugate(GE Healthcare)50μlずつを用いて常温で1時間抗体反応を行い、洗浄過程を行った。1-Step Ultra TMB-ELISA基質溶液(Thermo Fisher Scientific)を50μlずつ添加して発色した後、2M H
2SO
4を50μlずつ入れて反応を終了した後、Epoch Microplate
Spectrophotometer(BioTek)を用いて分析した。各実験はいずれも2連(duplicate)で行い、ELISAの結果、それぞれのFcγRs[FcγRI、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIb、FcγRIIIa(V)、FcγRIIIa(F))に対する結合力が確認できた(
図16)。
【0113】
[実施例13.Fc変異体の抗体依存性細胞-媒介の細胞毒性(ADCC)による作動体機能(効果器機能)測定]
トラスツズマブFc変異体の抗体依存性細胞-媒介の細胞毒性ADCC(Antibody-dependent cellular cytotoxicity)活性は、ADCCリポーターバイオアッセイキット(reporter bioassay kit,Promega,G7010)を用いて評価した。具体的に、標的細胞(Target
cells)として用いられるSKBR-3を96-ウェル組織培養プレートの各ウェルに5X103cells/100μlずつ分注した後、37℃ CO2培養器で20時間培養した。20時間経過後、マルチピペットを用いてプレートの各ウェルにSU95μlの培養培地を除去し、ADCCリポーターバイオアッセイキットから提供されたADCCアッセイバッファー25μlを各ウェルに分注した。Normal IgG、トラスツズマブとトラスツズマブFc変異体は、ADCCアッセイバッファーに濃度別に希釈して準備した後、細胞が存在する96-ウェル組織培養プレートの各ウェル当たり25μlずつ分注し、効果器細胞(effector cells)を添加するまで常温に置いた。キットから提供する効果器細胞は、37℃恒温水槽で2~3分間溶かした後に630μlを取り、ADCCアッセイバッファー3.6mLと混合した。標的細胞と抗体希釈物を含むプレートに、準備した効果器細胞をウェル当たり25μlずつ分注した後、37℃ CO2培養器で6時間反応させた。時間が経過するとプレートを取り出して15分間常温に置いた後、Bio-GloTMルシフェラーゼアッセイ試薬をウェル当たり75μlずつ添加し、5分間常温で反応させた。反応後、ルミノメーター(luminometer,Enspire multimode plate reader)を用いて各ウェルのルミネセンス(luminescence)を測定した。各試験抗体のADCC活性度は、実験した結果の平均値を誘導倍率(Fold induction)で表示し、次の式によって決定した:
Fold induction=
RLU(induced1-background2)/RLU(noantibodycontrol3-background)
1.induced:標的細胞、試験抗体そして効果器細胞が混合された試料から得られたRLU値
2.background:ADCCアッセイバッファーから得たRLU値
3.no antibody control:標的細胞と効果器細胞だけが混合された試料から得たRLU値。
【0114】
SKBR-3に対するトラスツズマブとトラスツズマブFc変異体(LS、YTE、PFC29及びPFC41)のADCC活性を相互比較した(
図17)。その結果、最高濃度における最大活性値を基準にして、各試験物質のADCC活性は、陽性)対照物質であるトラスツズマブに比べて、LSは約1.5倍、PFc29は1.18倍、そしてPFc41は1.27倍高かったが、YTEは4.2倍低い活性を示した。結果的に、トラスツズマブFc変異体2種(PFc29及びPFc41)と対照変異体LSは、既存対照薬(Trastuzumab)よりも1.18~1.5倍向上したADCC活性を示した。しかし、次の図に見られるように、測定された変異体それぞれのEC50値では、対照群LS(EC50=0.05575ug/mL)に比べて本発明で見出したFc変異体PFc29(EC50=0.04543ug/mL)とPFc41(EC50=0.05405ug/mL)の方がより安定した効能を示すことを確認した(
図18)。
【0115】
[実施例14.ELISAを用いたFc変異体のC1q結合力の測定]
C1qとの結合力を測定するために0.05M Na
2CO
3 pH9.6に4μg/mlで希釈したIgG Fc変異体をそれぞれ50μlずつ底平ポリスチレン高結合96ウェルマイクロプレート(costar)に4℃、16時間固定化した後、100μlの4%スキームミルク(GenomicBase)(in 0.05% PBST pH7.4)で常温で2時間ブロッキングした。0.05% PBST(pH7.4)180μlで4回ずつ洗浄過程を行った後、1%スキームミルク(in 0.05% PBST pH7.4)で連続希釈されたComplement C1q Human(Millipore)を50μl各ウェルに分注して常温で1時間反応させた。洗浄過程後、anti-C1q-HRP conjugate(Invitrogen)50μlずつを用いて常温で1時間抗体反応を行い、洗浄過程を行った。1-Step Ultra TMB-ELISA基質溶液(Thermo Fisher Scientific)を50μlずつ添加して発色した後、2M H
2SO
4を50μlずつ入れて反応を終了させた後、Epoch Microplate Spectrophotometer(BioTek)を用いて分析した。分析の結果、C1q結合力が、先行研究で見出されたLSとYTEに比べて、本研究で見出したPFc29の方が高かった(
図19)。
【0116】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は単なる好ましい具現例に過ぎず、それらに本発明の範囲が制限されないという点は明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付する請求項とその同等物によって定義されるべきであろう。
【配列表】