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  • 特許-テンドンの頭部保護構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】テンドンの頭部保護構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/80 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
E02D5/80 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023040423
(22)【出願日】2023-03-15
【審査請求日】2023-12-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593153428
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391009291
【氏名又は名称】弘和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】菅 浩亮
(72)【発明者】
【氏名】石橋 円正
(72)【発明者】
【氏名】野口 明
(72)【発明者】
【氏名】越後 隆介
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-122736(JP,U)
【文献】実開平04-037628(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0107813(KR,A)
【文献】韓国公開実用新案第20-2019-0002694(KR,U)
【文献】韓国登録特許第10-2224991(KR,B1)
【文献】韓国登録特許第10-2079574(KR,B1)
【文献】特許第6807482(JP,B1)
【文献】実開平03-059511(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/80
E02D 17/20
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着部材を型枠で囲う作業が完了した後、前記型枠の中に液体の状態でシリコーン樹脂を充填し固化させて形成た保護材が、前記型枠の取り除かれた状態で、前記定着部材を覆うヘッドキャップの中に配置され、前記保護材の表面と前記ヘッドキャップの内面の間に空隙が設けられていることを特徴とするテンドンの頭部保護構造。
【請求項2】
前記定着部材に含まれるアンカーヘッドと受圧構造物の間に配置される支圧板の上面において、前記ヘッドキャップのフランジの配置される位置に、径方向に伸びる溝の複数が形成され、前記溝が前記ヘッドキャップの内部と外部を連通させる換気路として機能する請求項1に記載のテンドンの頭部保護構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地すべりなどを防止するための、斜面・のり面の地山安定対策工に使用されるグラウンドアンカー工法において、地山に定着させたグラウンドアンカー(以下、テンドンという)の頭部を保護する構造に関するものである。
【0002】
グラウンドアンカー工法において、地山表面の、のり枠や受圧板などの受圧構造物に定着させたテンドンの頭部は、地表に露出し腐食しやすい環境におかれている。そこで、この頭部を保護するための処理がなされている。具体的には、テンドンの頭部を定着させる部材(アンカーヘッド、くさび、マンション、ナットなど、以下「定着部材」とする)をヘッドキャップで覆い、キャップ内に防錆油等の防食用材料が充填されている。
【0003】
ヘッドキャップ内に充填される防食用材料は、テンドンの伸長や収縮を妨げることなく、点検作業等のためにキャップが外された際には周囲へ流出することなく定着部材に付着した状態を保つものでなければならない。そこで、これらの要件を満たすグリースが、防食用材料として広く採用されている。
【0004】
しかしながら、グリースは、流動性が極めて小さく、定着部材の中の小さな隙間に充填することが難しく、小さな隙間における腐食を防止できず全体として十分な防食効果を果たさない場合がある、などの問題を有している。そのため、グリースの代わりとなる、他の防食用材料を用いて、定着部材の保護を図ることが望ましい。
【0005】
そして、防食用材料にグリースを用いることなく定着部材の保護を図る手法として、実開平4-122736号公報には、変性ポリサルファイド、変性シリコーン等の保護材が充填され、蓋が装着されたプラスチック製コップ状容器を、アンカーヘッドに装着することが提案されている。
【0006】
また、本出願人らは、特許第6807482号公報で、構築時において、定着部材を覆うヘッドキャップの中に、時間の経過に伴い固化する液体材料がヘッドキャップに設けられた注入口を介して充填され、常態において、定着部材を、液体材料が固化して形成された、可撓性を有し所定の耐熱性を備える固形材で被覆することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開平4-122736号公報
【文献】特許第6807482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
テンドンの頭部を覆う保護材は、経時劣化に伴い保護機能が低下するため、その状態を定期的に点検するとともに、劣化している場合には入れ替えが必要となる。
【0009】
ところが、保護材として粘ちょう性の高い物質が用いられると、入れ替え作業を行う際に、定着部材に付着した保護材を取り除く作業に手間を有する問題があった。また、上記特許文献1において提案されている、保護材と定着部材の間にプラスチックフィルムが配置される構造では、保護材の定着部材への付着を避けることはできるものの、プラスチックフィルムと定着部材の間に空気層が生じるため、保護機能が不十分なものとなるおそれがあった。
【0010】
これに対し、上記特許文献2において提案されている、時間の経過に伴い固化する液体材料を保護材として用いる場合、定着部材は、液体材料が固化して形成された、可撓性を有し所定の耐熱性を備える固形材で隙間なく被覆されるため、十分な保護機能を有するものとなる。しかも、入れ替え作業を行う際にも、保護材である固形材を定着部材から容易に取り外すことができる。
【0011】
更に、上記特許文献2において提案されているように、保護材である固形材の形成に公知の造形用シリコーンを用いる場合、固形材は透光性を有するものとなり、固形材の内部にある定着部材の状態を容易に点検することが可能となる。
【0012】
しかしながら、液状の造形用シリコーンを、定着部材を覆うヘッドキャップの中に、ヘッドキャップに設けられた注入口を介して充填して形成された固形材は、経時劣化する前に白濁化し、劣化による入れ替えが不要な状態でありながら、その内部にある定着部材の状態を確認できなくなる問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、テンドンの頭部の定着部材を保護材により保護しながら、定着部材の状態の点検を可能とする機能を、保護材の入れ替えが必要となるときまで維持することができ、保護材の入れ替え作業が必要になった場合にも、保護材を手間なく容易に入れ替えることができる、テンドンの頭部保護構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るテンドンの頭部保護構造では、定着部材を囲う型枠の中に液体の状態で充填されたシリコーン樹脂が固化して形成された保護材が、前記型枠の取り除かれた状態で、前記定着部材を覆うヘッドキャップの中に配置され、前記保護材の表面と前記ヘッドキャップの内面の間に空隙が設けられている。
【0015】
前記ヘッドキャップの内部と外部を連通させる換気路が設けられてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るテンドンの頭部保護構造によれば、定着部材を囲う型枠の中に液体の状態で充填されたシリコーン樹脂が固化して形成された保護材は、透光性を有しながら定着部材の表面を隙間なく覆うものとなるので、定着部材の保護を図りながら、定着部材の状態を容易に点検することもできる。
【0017】
また、保護材は、型枠の取り除かれた状態で、定着部材を覆うヘッドキャップの中に配置され、保護材の表面とヘッドキャップの内面の間に空隙が設けられているため、その白濁化を防止することができる。従って、テンドンの頭部の定着部材を保護材により保護しながら、定着部材の状態の点検を可能とする機能を、保護材の入れ替えが必要となるときまで維持することができる。
【0018】
更に、シリコーン樹脂が固化して形成された保護材は、外から力を加えて破壊することにより、定着部材の表面に付着させることなく取り除くことができる。従って、保護材を手間なく容易に入れ替えることができる。
【0019】
更にまた、ヘッドキャップの内部と外部を連通させる換気路が設けられることにより、ヘッドキャップの中の温度低下に伴う湿度上昇を抑え、保護材の白濁化防止を図ることができる。従って、寒暖差の大きくなる環境においても、定着部材を保護材により保護しながら、定着部材の状態の点検を可能とする機能を、保護材の入れ替えが必要となるときまで維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るテンドンの頭部保護構造の実施形態を、ヘッドキャップの周壁を切断した状態で示す正面図である。
図2図1に示す実施形態の、ヘッドキャップの周壁が切断されていない常態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1及び図2を参照しながら、本発明に係るテンドンの頭部保護構造の実施形態を説明する。
図1及び図2に示す実施形態では、くさび2を挿入できるテーパー状のくさび受部が設けられ、テンドン挿通孔が貫通する円盤状のアンカーヘッド1と、くさび2を使用し、アンカーヘッド1と受圧構造物の間に配置される支圧板4を介して、テンドン8の頭部が受圧構造物に定着されるものとなっている。
【0022】
アンカーヘッド1の外周には、アンカーヘッド1の外周に形成された雄ねじに螺合するナット(以下、「調整リング3」とする)が、アンカーヘッド1の外周に嵌装されている。そして、この調整リング3の位置を調整することによりテンドン8の引張力を調整することができるものとされている。なお、図1、2において、アンカーヘッド1の外周に形成された雄ねじの図示は省略されている。
【0023】
この実施形態において、アンカーヘッド1、くさび2、及び調整リング3が、本発明の定着部材に相当するものとなっている。そして、テンドン8を定着させた状態にある、これら定着部材は、テンドン8の端部と共に、ヘッドキャップ5で覆われている。
【0024】
くさび2の構成部材の夫々には、テンドン8の外周に適合する形状の凹陥部が設けられており、この凹陥部をテンドン8の外周に当てがい、2つの構成部材でテンドン8を挟持することにより、テンドン8の外周にくさび2が配置された状態となる。そして、くさび2をアンカーヘッド1のくさび受口に嵌め込むことにより、テンドン8を緊張させた状態で定着させるものとなっている。なお、くさび受口の形状は公知であるため、図示及び説明は省略する。
【0025】
テンドン8には、支圧板4に形成された孔の隙間からの水の侵入を防ぐ止水部材6が嵌められている。そして、この止水部材6よりもテンドン8の端部側にくさび2が固定されている。
【0026】
ヘッドキャップ5は、アンカーヘッド1、くさび2、調整リング3、及びテンドン8の端部(定着部材)を内包するための内部空間を有している。内部空間は上側が塞がれ下側で開口し、開口の縁の周囲にはフランジ51が設けられている。また、周壁52には、内部空間を視認できる窓部53が設けられている。なお、図1においてヘッドキャップ5は、周壁52が軸線を含む面で軸線に沿って切断された状態で示されている。
【0027】
フランジ51は支圧板4に対するねじ止めが可能とされている。また、フランジ51の下面にはシールリングが配置されている。そして、支圧板4に対し密着するものとなっている。
【0028】
この実施形態では、ヘッドキャップ5として、アルミニウムの鋳造品が用いられているが、耐食性を有するものであれば材質に制限はなく、また、採用する材質に適した方法で製造すればよい。例えば、樹脂の成型品であってもよい。
【0029】
支圧板4の上面においてフランジ51の配置される位置には、径方向に伸びる溝41の複数が、周方向に等間隔で形成されている。溝41の長さ寸法は、フランジ51の幅寸法よりも僅かに大きくされ、フランジ51が支圧板4に固定された状態で、ヘッドキャップ5の内部と外部を連通する換気路として機能するものとなっている。
【0030】
定着部材(アンカーヘッド1、くさび2、調整リング3、及びテンドン8の端部)は、保護材7で覆われている。
【0031】
保護材7は、定着部材を囲う型枠の中に液体の状態で充填されたシリコーン樹脂が固化して形成されている。そして、テンドン8の伸長や収縮に追随し変形する可撓性を有し、日射によりもたらされる高温環境においても熱劣化しない耐熱性を備えるとともに、透光性を有するものとなっている。
【0032】
保護材7を形成するために用いる型枠は、液状のシリコーン樹脂が、固化前に周囲へ流出することを防止できるものであればよく、作業環境に応じて最適な形状や材質を採用すればよい。なお、型枠の材質を紙とすれば、シリコーン樹脂が固化した後、容易に取り外すことができ、廃棄処理も容易となり、コストも低減される利点を得ることができる。
【0033】
本発明の定着部材は、図1及び図2に示す実施形態において、テンドン8の頭部の保持に使用される部材に限定されるものではない。テンドン8の頭部を保持するために、その他の金属製部材が使用される場合は、その部材も本発明の定着部材に含まれる。また、本発明の頭部保護構造が適用される頭部定着構造は、図1及び図2に示すアンカーヘッド定着型に限定されず、マンションとマンションの外周に嵌装された定着ナットを定着部材とする、圧着グリップネジ定着型の構造に適用することもできる。
【0034】
また、図1及び図2に示す実施形態では、ヘッドキャップ5に窓部53が設けられ、内部の視認が可能とされているが、ヘッドキャップ5全体を、透光性を有する材質で形成し、ヘッドキャップ5の、どの部分からでも、内部を視認できるものとしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 アンカーヘッド
2 くさび
3 調整リング(定着ナット)
4 支圧板
5 ヘッドキャップ
6 止水部材
7 保護材
8 テンドン
41 溝
51 フランジ
52 周壁
53 窓部
【要約】      (修正有)
【課題】テンドンの頭部の定着部材を保護材により保護しながら、定着部材の状態の点検を可能とする機能を、保護材の入れ替えが必要となるときまで維持することができ、保護材の入れ替え作業が必要になった場合にも、保護材を手間なく容易に入れ替えることができる、テンドンの頭部保護構造を提供する。
【解決手段】定着部材(1,2,3,8)を囲う型枠の中に液体の状態で充填されたシリコーン樹脂が固化して形成された保護材(7)が、型枠の取り除かれた状態で、定着部材(1,2,3,8)を覆うヘッドキャップ(5)の中に配置され、保護材(7)の表面とヘッドキャップ(5)の内面の間に空隙が設けられている。
【選択図】図1
図1
図2