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特許7533918ホスホリパーゼD、及びエタノールアミン型プラズマローゲンの定量方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ホスホリパーゼD、及びエタノールアミン型プラズマローゲンの定量方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/16 20060101AFI20240806BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240806BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240806BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240806BHJP
   C12R 1/465 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
C12N9/16 Z ZNA
C12N15/55
C12Q1/34
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12R1:465
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020036298
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021136896
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】599035339
【氏名又は名称】株式会社 レオロジー機能食品研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】杉森 大助
(72)【発明者】
【氏名】川村 柚葉
(72)【発明者】
【氏名】野澤 俊貴
(72)【発明者】
【氏名】藤野 武彦
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 志郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 豊春
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-210179(JP,A)
【文献】Protein J.,2010年11月,Vol.29, No.8,pp.598-608
【文献】Database UniProtKB/TrEMBL [online], Accession No.A0A3N4ZE18,2023年11月17日検索,2019年12月11日,<https://rest.uniprot.org/unisave/A0A3N4ZE18?format=txt&versions=4>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1-1)~(1-3)のいずれか記載のポリペプチドを含む、エタノールアミン型プラズマローゲンを基質とするホスホリパーゼD。
(1-1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(1-2)配列番号1における27番目~528番目に記載のアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有し、エタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用を有し、かつエタノールアミン型プラズマローゲンを基質とした場合のリン酸エステル結合への加水分解活性を100とした場合に、エタノールアミン型リゾプラズマローゲンを基質とした場合の相対活性値が5以下、ホスファチジルエタノールアミンを基質とした場合の相対活性値が5以下、及び/又はリゾホスファチジルエタノールアミンを基質とした場合の相対活性値が5以下であるポリペプチド;
(1-3)配列番号1における27番目~528番目に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が付加、置換、欠失及び/又は挿入されたポリペプチドであって、エタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用を有し、かつエタノールアミン型プラズマローゲンを基質とした場合のリン酸エステル結合への加水分解活性を100とした場合に、エタノールアミン型リゾプラズマローゲンを基質とした場合の相対活性値が5以下、ホスファチジルエタノールアミンを基質とした場合の相対活性値が5以下、及び/又はリゾホスファチジルエタノールアミンを基質とした場合の相対活性値が5以下であるポリペプチド;
【請求項2】
エタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用を有するホスホリパーゼDであって、ストレプトマイセス ポリクロモゲネス(Streptomyces polychromogenes)、ストレプトマイセス ラセモクロモゲネス(Streptomyces racemochromogenes)、又はストレプトマイセス ポリクロモゲネス(Streptomyces polychromogenes)の基準株(NBRC13072)若しくはストレプトマイセス ラセモクロモゲネス(Streptomyces racemochromogenes)の基準株(NBRC12906)の16SrDNA部分配列と99.8%以上の相同性を示すストレプトマイセスに属する微生物由来であり、
以下の(2-1)~(2-4)の性質を有するホスホリパーゼD。
(2-1)エタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用を有し、かつエタノールアミン型プラズマローゲンを基質とした場合のリン酸エステル結合への加水分解活性を100とした場合に、エタノールアミン型リゾプラズマローゲンを基質とした場合の相対活性値が5以下、ホスファチジルエタノールアミンを基質とした場合の相対活性値が5以下、及び/又はリゾホスファチジルエタノールアミンを基質とした場合の相対活性値が5以下である;
(2-2)分子量 50,000~60,000である;
(2-3)至適温度 pH7.0、30分間反応の条件下で、40~60℃である;
(2-4)至適pH 37℃、30分間反応の条件下でpH5.5~7.5である;
【請求項3】
試料と請求項1又は2に記載のホスホリパーゼDとを作用させる工程を含むことを特徴とする、前記試料中のエタノールアミン型プラズマローゲンの定量方法。
【請求項4】
請求項1記載のホスホリパーゼDをコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクター。
【請求項5】
請求項記載の発現ベクターが導入された形質転換体。
【請求項6】
請求項記載の形質転換体を培養してホスホリパーゼDを産生する工程を含有する、ホスホリパーゼDの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホスホリパーゼDや、エタノールアミン型プラズマローゲンの定量方法や、発現ベクターや、前記発現ベクターが導入された形質転換体や、前記形質転換体を培養してホスホリパーゼDを産生する工程を含有する、ホスホリパーゼDの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマローゲンは抗酸化作用、イオン輸送、コレステロール排出等の機能を持ったリン脂質の一種である。かかるプラズマローゲンは哺乳動物の全ての組織に存在し、人体のリン脂質の約18%を占めているといわれており、特に脳神経細胞、心筋、リンパ球、マクロファージ等に多く含まれている。
【0003】
近年、プラズマローゲンがアルツハイマー型認知症や軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)の患者の脳において有意に減少していることや(非特許文献1、2参照)、アルツハイマー型認知症患者の血液中のプラズマローゲン濃度が低下していること(非特許文献3、4参照)が開示され、アルツハイマー型認知症とプラズマローゲンとの関係が注目されている。
【0004】
こうした中、プラズマローゲンの測定に関する研究も進んできた。たとえば、(A)被験血液サンプルに含有される赤血球に含まれるプラズマローゲン量を高速液体クロマトグラフィーを用いて測定する工程、及び(B)(i)被験血液サンプルに含有される赤血球に含まれるプラズマローゲン量と、(ii)被験血液サンプルを採取した哺乳動物と同一種の健常哺乳動物由来の赤血球に含まれるプラズマローゲン量とを、比較する工程を含む、被験血液サンプルが認知症哺乳動物由来であるかを判定するための検査方法(特許文献1参照)が提案されている。
【0005】
また、エタノールアミン型プラズマローゲンを検出・定量する方法としては、サンプル中のエタノールアミン型プラズマローゲンをホスホリパーゼA1で加水分解処理してエタノールアミン型リゾプラズマローゲンを生成し、その後、ホスホリパーゼDで処理する工程を含むプラズマローゲンの検出・定量方法(特許文献2-4、非特許文献5参照)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/090625号パンフレット
【文献】特開2016-111929号公報
【文献】特開2016-45112号公報
【文献】国際公開第2014/013538号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【文献】Guan Z, et al., J Neuropathol Exp Neurol; 58(7):740-747 (1999)
【文献】Fujino et al., J Alzheimers Dis Parkinsonism; 8(1) DOI: 10.4172/2161-0460.1000419
【文献】Goodenowe DB et al., J Lipid Res Nov;48(11): 2485-2498 (2007)
【文献】Oma et al., Dement Geriatr Cogn Disord Extra;2:298-303(2012)
【文献】Sakasegawa SI et al., Biotechnol Lett;38(1):109-16(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のプラズマローゲンの測定方法では、高速液体クロマトグラフィーを用いるなど、測定のための設備が大型かつ高額であった。また、アルツハイマー型認知症の指標としては、エタノールアミン型プラズマローゲンが用いられる。このエタノールアミン型プラズマローゲンの測定には、まずホスホリパーゼA1で加水分解する方法が行われていたが、反応が二段階で複雑・煩雑であると共に高コストとなるという問題や、大腸菌を用いた組換え体によるホスホリパーゼA1の生産が難しいという問題があった。また、これまで知られているホスホリパーゼは基質特異性、特にエタノールアミン型プラズマローゲンに対する基質特異性が低く、アルツハイマー型認知症のバイオマーカーとなるプラズマローゲン以外のリン脂質も加水分解するという問題があった。そこで本発明の課題は、エタノールアミン型プラズマローゲンに対して基質特異性が高いホスホリパーゼDを提供すること、及び、かかるホスホリパーゼDを用いたエタノールアミン型プラズマローゲンの定量方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ストレプトマイセス ポリクロモゲネス(Streptomyces polychromogenes)又はストレプトマイセス ラセモクロモゲネス(Streptomyces racemochromogenes)に近縁のストレプトマイセス属AK461株由来のホスホリパーゼDがエタノールアミン型プラズマローゲンに対して基質特異性が高いことを見いだした。さらに、かかるホスホリパーゼDを用いれば、エタノールアミン型プラズマローゲンを検出若しくは定量でき、さらに選択的に定量でき得ることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
〔1〕以下の(1-1)~(1-3)のいずれか記載のポリペプチドを含む、ホスホリパーゼD。
(1-1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(1-2)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有し、かつエタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用を有するポリペプチド;
(1-3)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が付加、置換、欠失及び/又は挿入されたポリペプチドであって、エタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用を有するポリペプチド;
〔2〕エタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用を有するホスホリパーゼDであって、以下の(2-1)~(2-5)の性質を有するホスホリパーゼD。
(2-1)エタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用を有する;
(2-2)分子量 50,000~60,000である;
(2-3)至適温度 pH7.0、30分間反応の条件下で、40~60℃である;
(2-4)至適pH 37℃、30分間反応の条件下でpH5.5~7.5である;
(2-5)ストレプトマイセス属に属する微生物由来である;
〔3〕ストレプトマイセス ポリクロモゲネス(Streptomyces polychromogenes)又はストレプトマイセス ラセモクロモゲネス(Streptomyces racemochromogenes)に近縁の微生物由来であることを特徴とする、上記〔2〕記載のホスホリパーゼD。
〔4〕エタノールアミン型プラズマローゲンを基質とした場合のリン酸エステル結合への加水分解活性を100とした場合に、エタノールアミン型リゾプラズマローゲンを基質とした場合の相対活性値が5以下、ホスファチジルエタノールアミンを基質とした場合の相対活性値が5以下、及び/又はリゾホスファチジルエタノールアミンを基質とした場合の相対活性値が5以下であることを特徴とする上記〔2〕又は〔3〕記載のホスホリパーゼD。
〔5〕試料と上記〔1〕~〔4〕のいずれか記載のホスホリパーゼDとを作用させる工程を含むことを特徴とする、前記試料中のエタノールアミン型プラズマローゲンの定量方法。
〔6〕上記〔1〕記載のホスホリパーゼDをコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクター。
〔7〕上記〔6〕記載の発現ベクターが導入された形質転換体。
〔8〕上記〔7〕記載の形質転換体を培養してホスホリパーゼDを産生する工程を含有する、ホスホリパーゼDの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のホスホリパーゼDによりエタノールアミン型プラズマローゲンを加水分解することが可能となる。したがって、本発明のホスホリパーゼDにより、エタノールアミン型プラズマローゲンを容易かつ迅速に検出若しくは定量することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例2で作成したAK461株の16SリボソームDNA遺伝子約1500塩基対に基づく分子系統樹である。
図2】実施例3において、精製した本発明のホスホリパーゼD(以下「PlsEtn-PLD」ともいう)(DEAE画分)をSDS-PAGEにより解析した結果である。
図3】実施例5において、精製したPlsEtn-PLD(DEAE画分)を用いてホスホリパーゼD活性を測定した結果を示す図である。PlsEtn 22:6を基質とした場合のホスホリパーゼD活性を100とした場合の相対活性で示してある。
図4】実施例5において、精製したPlsEtn-PLDの至適温度を調べた結果である。
図5】実施例5において、精製したPlsEtn-PLDの至適pHを調べた結果である。
図6】実施例8において、ホタテから分取したエタノールアミン型プラズマローゲンの検出結果を示す図である。
図7】比較例において、大豆由来のホスファチジルエタノールアミン(PE)の検出結果を示す図である。
図8】実施例9において、血漿中のエタノールアミン型プラズマローゲンの検出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[ホスホリパーゼD]
本発明のホスホリパーゼD-(1)は、
(1-1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(1-2)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有し、かつエタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用を有するポリペプチド;
(1-3)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が付加、置換、欠失及び/又は挿入されたポリペプチドであって、エタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用を有するポリペプチド;
の(1-1)~(1-3)のいずれか記載のポリペプチドを含むホスホリパーゼDであり、以下、「本件ホスホリパーゼD-(1)」ともいう。なお、後述のように配列番号1におけるN末端側26アミノ酸、つまり配列番号1における1~26番目のアミノ酸はSec分泌シグナルであると考えられる。そのため、配列番号1における1~26番目のアミノ酸等のSec分泌シグナルと考えられるアミノ酸を除いた配列、たとえば配列番号1における27番目~528番目のアミノ酸配列を有するポリペプチドや、配列番号1における27番目~528番目のアミノ酸配列を有するポリペプチドのN末端側に他の分泌シグナル配列を結合したポリペプチドをホスホリパーゼDとしてもよい。
【0014】
また、本発明のホスホリパーゼD-(2)は、
(2-1)エタノールアミン型プラズマローゲンにおけるリン酸エステルの加水分解作用を有する;
(2-2)分子量 50,000~60,000である;
(2-3)至適温度 pH7.0、30分間反応の条件下で、40~60℃である;
(2-4)至適pH 37℃、30分間反応の条件下で5.5~7.5である;
(2-5)ストレプトマイセス属に属する微生物由来である;
の(2-1)~(2-5)の性質を有し、エタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用を有するホスホリパーゼDであり、以下、「本件ホスホリパーゼD-(2)」ともいう。また、上記本件ホスホリパーゼD-(1)及び本件ホスホリパーゼD-(2)を総称して、以下、「本件ホスホリパーゼD」又は「本件PLD」ともいう。
【0015】
本明細書におけるエタノールアミン型プラズマローゲン(以下、「PlsEtn」ともいう)は、グリセロリン脂質のサブクラスの一つで、グリセロリン脂質のC1(sn-1)位にアルケニル(ビニル)エーテル結合した炭化水素鎖、C2(sn-2)位に脂肪酸エステル結合を持つアルケニルエーテル型グリセロリン脂質であって、塩基がエタノールアミンであるものであればよく、以下の式(I)にその構造を示す。
【0016】
【化1】
【0017】
式中、R及びRは、それぞれ独立して、脂肪族炭化水素基である。Rは、通常、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基で、例えば、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコサニル基等が挙げられる。Rは、通常、脂肪酸残基由来の脂肪族炭化水素基で、例えば、オクタデカジエノイル基、オクタデカトリエノイル基、イコサレトラエノイル基20:4、イコサペンタエノイル基、ドコサテトラエノイル基、ドコサペンタエノイル基、ドコサヘキサエノイル基22:6などが挙げられる。
【0018】
本件ホスホリパーゼDは、エタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用、具体的には以下の式(II)に示すようにエタノールアミン型プラズマローゲン分子内のsn-3位リン酸エステルを加水分解してプラズメニルホスファチジン酸とエタノールアミンを遊離させる作用を有する酵素である。
【0019】
【化2】
【0020】
エタノールアミン型プラズマローゲンにおいてリン酸エステルへの加水分解作用を有するか否かは、たとえばエタノールアミン型プラズマローゲンにホスホリパーゼDを作用させて、加水分解により遊離されるエタノールアミンを定量することによって行うことができる。エタノールアミンの定量は、例えば、エタノールアミンにエタノールアミンオキシダーゼ(EAO:特開2014-233219号公報)を作用させて発生した過酸化水素を定量する方法によって行うことができる。
【0021】
上記エタノールアミンオキシダーゼは、エタノールアミンを過酸化水素とアンモニアとグリコールアルデヒドに酸化する作用を触媒する酵素であればよく、モノエタノールアミンオキシダーゼ(EC1.4.3.8)、モノアミンオキシダーゼ(EC1.4.3.4)、及び一級アミンオキシダーゼ(EC1.4.3.21)等を用いることができる。
【0022】
上記過酸化水素を定量する方法としては、分光光度法、過酸化水素電極を用いる方法等を挙げることができる。具体的には、例えばペルオキシダーゼ(POD)の作用により4-Aminoantipyrine(4-AA)とN,N-ビス(4-sulfobutyl)-3-methylaniline, disodium (TODB)とを定量的に酸化縮合させて生成した青紫色の色素であるキノン色素に基づく吸光度(550nm)を測定する方法を挙げることができる。なお、キノン色素量は遊離したエタノールアミン量と1:1の関係となるため、キノン色素の量を測定することでエタノールアミン量を測定することとなる。なお、本明細書中、1分間に1μmolのエタノールアミンを遊離する酵素量を1Uと定義した。
【0023】
上記本件ホスホリパーゼD-(1)の(1-2)のポリペプチドにおける「配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも85%の同一性を有し、かつエタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用を有するポリペプチド」としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%以上、93%以上、95%以上、又は98%以上の同一性を有し、かつエタノールアミン型プラズマローゲン分子内のリン酸エステル結合への加水分解作用を有するポリペプチドを挙げることができる。
【0024】
上記本件ホスホリパーゼD-(1)の(1-3)のポリペプチドにおける「1又は数個のアミノ酸が付加、置換、欠失及び/又は挿入されたポリペプチド」とは、例えば1~10個、1~5個、1~3個、1~2個、又は1個の任意の数のアミノ酸が付加、置換、欠失及び/又は挿入されたポリペプチドを挙げることができる。なお、上記「1又は数個のアミノ酸が付加、置換、欠失及び/又は挿入されたポリペプチド」は、配列番号1における192番目及び462番目のH、194番目及び464番目のK、199番目及び469番目のD以外、好ましくは192番目~199番目のHSKLVVVD、及び462番目~469番目のHHKLVSVDのHxKxxxxDモチーフ(Hはヒスチジン、Kはリジン、Dはアスパラギン酸、Sはセリン、Lはロイシン、Vはバリン、xは任意のアミノ酸:HSKモチーフ)以外における1又は数個のアミノ酸が付加、置換、欠失及び/又は挿入されたポリペプチドであることが好ましい。なお、上記HSKモチーフは、ホスホリパーゼDにおいて触媒反応に寄与するアミノ酸配列である。
【0025】
上記本件ホスホリパーゼD-(1)の(1-2)のポリペプチド又は(1-3)のポリペプチドとしては、エタノールアミン型プラズマローゲンを基質とした場合のリン酸エステルへの加水分解活性を100とした場合に、エタノールアミン型リゾプラズマローゲン(LyPlsEtn)を基質とした場合の相対活性値が5以下、好ましくは3以下、ホスファチジルエタノールアミン(PE)を基質とした場合の相対活性値が5以下、好ましくは3以下、及び/又はリゾホスファチジルエタノールアミンを基質とした場合の相対活性値が5以下、好ましくは3以下であるポリペプチドを好適に挙げることができる。
【0026】
上記本件ホスホリパーゼD-(2)は、電気泳動条件等により若干変化し得るが、SDS-PAGEにおける分子量が50,000~60,000(Da)、好ましくは52,000~54,000(Da)を挙げることができる。また、等電点(Genetyxによる計算値)としては6~6.5を挙げることができる。本等電点は実測値とは異なる可能性がある。
【0027】
上記本件ホスホリパーゼD-(2)は、pH7.0、30分間反応の条件下において、至適温度が40~60℃、好ましくは45℃~55℃を挙げることができる。
【0028】
上記本件ホスホリパーゼD-(2)は、37℃、30分間反応の条件下において、至適pHが5.5~7.5、好ましくは6.0~7.0を挙げることができる。
【0029】
上記本件ホスホリパーゼD-(2)は、ストレプトマイセス属に属する微生物由来であり、ストレプトマイセス属に属する微生物としては、ストレプトマイセス ポリクロモゲネス(Streptomyces polychromogenes)若しくはストレプトマイセス ラセモクロモゲネス(Streptomyces racemochromogenes)、又はこれらに近縁の微生物のほか、ストレプトマイセス カトラエ(Streptomyces katrae)、ストレプトマイセス フラボトリチニ(Streptomyces flavotricini)、ストレプトマイセス トキシトリチニ(Streptomyces toxytricini)、ストレプトマイセス ヤングプエンシス(Streptomyces yangpuensis)、ストレプトマイセス アムリトサレンシス(Streptomyces amritsarensis)、ストレプトマイセス シンナモネンシス(Streptomyces cinnamonensis)、ストレプトマイセス バージニアエ(Streptomyces virginiae)、ストレプトマイセス シラツス(Streptomyces cirratus)、ストレプトマイセス ノジリエンシス(Streptomyces nojiriensis)、ストレプトマイセス コロンビエンシス(Streptomyces colombiensis)、ストレプトマイセス ナシュビレンシス(Streptomyces nashvillensis)、ストレプトマイセス セロスタティカス(Streptomyces cellostaticus)、ストレプトマイセス ベトナメンシス(Streptomyces vietnamensis)を挙げることができる。なお、近縁の微生物か否かは、例えば近隣結合法等により系統樹を推定し、分子系統解析を行うことによって判断することができる。
【0030】
さらに、上記本件ホスホリパーゼD-(2)は、エタノールアミン型プラズマローゲンを基質とした場合のリン酸エステルへの加水分解活性を100とした場合に、エタノールアミン型リゾプラズマローゲン(LyPlsEtn)を基質とした場合の相対活性値が5以下、好ましくは3以下、ホスファチジルエタノールアミン(PE)を基質とした場合の相対活性値が5以下、好ましくは3以下、及び/又はリゾホファチジルエタノールアミンを基質とした場合の相対活性値が5以下、好ましくは3以下であるホスホリパーゼDを好適に挙げることができる。
【0031】
上記本件ホスホリパーゼD-(2)をストレプトマイセス属に属する微生物から調製する場合には、ストレプトマイセス属に属する微生物を培養し、培養上清を回収した後、公知の酵素精製方法、例えば、硫安沈殿、さらに陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、及び/又はアフィニティークロマトグラフィーを適宜組み合わせて行うことにより精製して調製することができる。
【0032】
[エタノールアミン型プラズマローゲンの定量方法]
本発明の試料中のエタノールアミン型プラズマローゲンの定量方法は、試料と上記ホスホリパーゼDとを作用させる工程を含む、試料中のエタノールアミン型プラズマローゲンの定量方法(以下、「本PlsEtnの定量方法」ともいう)であればよく、本ホスホリパーゼDの基質特異性からエタノールアミン型プラズマローゲンを精度よく定量することが可能となる。具体的には以下の工程(A)~(D)を行う方法を挙げることができる。
1)試料を、本件ホスホリパーゼDを用いて加水分解処理する工程(A);
2)前記工程(A)で得られた処理液を、エタノールアミンオキシダーゼで処理する工程(B);
3)前記工程(B)で得られた処理液を、ペルオキシダーゼ及び発色剤若しくは蛍光試薬で処理をする工程(C);
4)前記工程(C)で得られた処理液を、分光光度計又は蛍光光度計による測定に付する工程(D);
【0033】
上記試料としては、被験体から採取された血漿、血清、血液、唾液、髄液、尿、リンパ液、汗等の体液を挙げることができる。血清及び血漿は、被験体から通常の採血方法(例えば、シリンジ採血又は真空採血)で得られる血液を、遠心(例えば、1000×g,5分間)して、上清を回収する等の公知の方法により処理することによって得ることができる。採血をする際には、EDTA、フッ化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ヘパリンナトリウム、モノヨード酢酸等の抗凝固剤や解糖阻止剤を用いることもできる。
【0034】
上記被験体としては、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ等の哺乳動物の他、鳥類、魚類、両生類、ホタテ等の海洋生物、なまこ等の軟体生物、乳酸菌やカビ・酵母に至る各種微生物を挙げることができる。
【0035】
上記発色剤としては、フェノール若しくはその誘導体又はアニリン誘導体と4-アミノアンチピリンとの組み合わせや、ロイコ色素や、ジフェニルアミン誘導体や、トリアリルイミダゾール誘導体等を挙げることができ、4-アミノアンチピリン(4-AA)及びN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-トルイジン(TOOS)やN,N-ビス(4-スルホブチル)-3-メチルアニリン(TODB)等のトリンダー試薬との組み合わせを好適に挙げることができる。
【0036】
上記蛍光試薬としては、アンプレックスレッドを挙げることができる。
【0037】
発色剤を用いる場合におけるエタノールアミン型プラズマローゲンの定量の原理は以下の通りである。まず、前記工程(A)でエタノールアミンが産生する。工程(A)で得られた処理液に対して、エタノールアミンオキシダーゼで処理すると、過酸化水素(H)が産生する。さらに、ペルオキシダーゼで処理すると、産生した過酸化水素と蛍光試薬がペルオキシダーゼによってキノン色素に変化し、分光光度計でエタノールアミンの定量が可能となる。こうして、エタノールアミン型プラズマローゲンの定量が可能となる。
【0038】
上記工程(A)~工程(C)は適切な緩衝液中で行うことができ、例えば工程(A)は0.2Mトリス塩酸緩衝液(pH7.0、37℃)、工程(B)は0.2Mビストリス塩酸緩衝液(pH7.5、45℃)を挙げることができる。また、上記工程(A)ではエタノールアミン型プラズマローゲンの溶解性を高めるため、上記工程(C)では発色液の濁りを抑制するために界面活性剤の存在下で行ってもよい。かかる界面活性剤としては、好ましくは非イオン系界面活性剤、より好ましくはポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、さらに好ましくはトリトンX-100を挙げることができる。また、界面活性剤の使用量については、例えば、0.001~10質量%を挙げることができる。
【0039】
なお、工程(A)で得られた処理液に対して、エタノールアミンオキシダーゼで処理することによって産生した過酸化水素(H)を、上記の他、電極法、吸光法、発光法、KMnOを利用した酸化還元法等の公知の方法を用いて定量しても良い。
【0040】
エタノールアミン型プラズマローゲンの定量方法は、試料として既知濃度のエタノールアミン型プラズマローゲンを用いて上記工程(A)~(D)により検量線を作成し、測定対象の試料を用いて上記工程(A)~(D)により得られた測定値を比較してエタノールアミンプラズマローゲン量を算出することが可能となる。
【0041】
[発現ベクター]
本発明の発現ベクターは、本件ホスホリパーゼDをコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクター(以下、本件発現ベクターともいう)であればよく、本件ホスホリパーゼDをコードするポリヌクレオチドとしては、例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとして、配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、配列番号2に記載の塩基配列のうち、1~78番目の塩基(配列番号1における1~26番目のアミノ酸に対応)は分泌シグナルをコードする塩基配列であると考えられることから、本発明のベクターを用いて形質転換し、本件ホスホリパーゼDを細胞外に分泌させる場合には、上記1~78番目等の分泌シグナルと予想される塩基の全部又は一部を削除して用いてもよく、また上記1~78番目等の分泌シグナルと予想される塩基の全部又は一部を他の分泌シグナルをコードする塩基配列に置き換えて用いてもよい。
【0042】
発現ベクターの種類としては環状、直鎖状等いかなる形態のものであってもよい。また、使用する宿主細胞に応じて適宜選択でき、プラスミドべクター、ウイルスベクター、ファージを挙げることができ、市販の発現ベクターを用いることができる。プラスミドベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、pET24a、pET22b等のpETベクター、pMAL-p5x等のpMALベクター、pGEXベクター,pColdベクター、pFN18、pPAL7、pBR322、pBR325等のpBRベクター、pACYC184ベクター、pUC12、pUC13、pUC18、pUC19、pUC118等のpUCベクター、BluescriptKS+ベクター等を挙げることができ、放線菌を宿主とする場合にはpUC702ベクター、pIJ680ベクター、pIJ702ベクター、pTONa5ベクター、pTONashortベクター、pTipベクター、pNitベクター等を挙げることができる。さらに、グラム陽性菌を宿主とする場合にはpBICベクター、pWH 1520ベクター、pMM1522ベクター、pHIS1522ベクター等を挙げることができる。酵母、特にサッカロマイセス・セレビジアエを宿主とする場合にはYRp7ベクター、pYC1ベクター、YEp13ベクター等を挙げることができる。
【0043】
また、かかる発現ベクターには、プロモーターやターミネーター等の制御配列や、薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子等の選択マーカー配列を含有していてもよい。さらに、宿主細胞外に分泌しやすくするために分泌シグナル配列を含有してもよい。分泌シグナルとしては、OmpAシグナル(ペリプラズム移行シグナルとして機能)、pelBシグナル(ペリプラズム移行シグナルとして機能)、アフィニティー及び可溶性タグとしてはMBPタグ(ペリプラズム移行シグナルとしても機能)、GSTタグ、TFタグ、Haloタグ、Hisタグ、SKIKタグ(Kato et al., J. Biosci. Bioeng. 10.1016/j.jbiosc.2016.12.004 (2017))、Profinity eXact fusionタグ等を挙げることができる。
【0044】
上記ポリヌクレオチドは、ストレプトマイセス属に属する微生物等の天然由来のポリヌクレオチドでも人工合成のポリヌクレオチドでもよく、本件発現ベクターを導入する微生物の種類に応じて適宜選択でき、配列情報は、公知の文献やNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等のデータベースを検索して適宜入手することができる。上記ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの塩基配列の情報に基づき、化学合成する方法や、PCRによって増幅する方法等の公知の技術によって作製することができる。なお、アミノ酸をコードするために選択されるコドンは、用いる宿主細胞の種類に応じて、発現を最適化してもよい。
【0045】
[形質転換体]
本発明の形質転換体は、上記本件発現ベクターを宿主に導入した形質転換体(以下、「本件形質転換体」ともいう)であればよく、宿主としては、用いる発現ベクターに応じて適宜選択でき、BL21、SHuffle等の大腸菌、ストレプトマイセス リビダンス(Streptomyces lividans)等のストレプトマイセス属に属する放線菌、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)L88等の放線菌、バチラス・サチリス(Bacillus subtilis)、バチラス メガテリウム(Bacillus megaterium)、ブレビバチルス(Brevibacillus:Bacillus brevis)、コリネバクテリウム グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)等のグラム陽性菌,シュードモナス プチダ(Pseudomonas putida)等のグラム陰性菌、サッカロマイセス・セレビジアエ、ピキア・パストリス等の酵母、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)やアスペルギルス・ニガー(Aspergillus nigar)等のアスペルギルス(Aspergillus)属の糸状菌を挙げることができる。
【0046】
本件発現ベクターを宿主に導入する方法としては、公知の方法を用いることができ、コンピテントセル法、リポフェクション法、リン酸カルシウム共沈殿法、リポソーム法等の化学的方法;ウイルスベクターを利用する方法、特異的受容体を利用する方法、細胞融合法等の生物学的方法;エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法、超音波遺伝子導入法等の物理的方法;等の公知の方法を例示することができる。
【0047】
[ホスホリパーゼDの製造方法]
本発明のホスホリパーゼDの製造方法は、上記本件形質転換体を培養してホスホリパーゼDを産生する工程を含有する、ホスホリパーゼDの製造方法であればよく、かかる方法により、本件ホスホリパーゼDを効率よく産生することができる。培養方法としては宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。例えば、宿主が大腸菌又は放線菌の場合は、温度条件が10~45℃、好ましくは20~42℃、より好ましくは25~37℃、pH条件がpH5.5~8.5、好ましくはpH6.2~7.5、培養時間が10~80時間、好ましくは10~48時間で、振とう培養又は通気攪拌培養等の好気的条件下若しくは嫌気的条件下で培養することができる。本件ホスホリパーゼDは培養液又は破砕した本件形質転換体から回収することができ、かかる回収する方法としては、公知のタンパク質の回収方法、例えば、遠心分離、次いで、ゲルろ過、イオン交換、アフィニティ等のクロマトグラフィーにより回収する方法を挙げることができる。
【0048】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの
例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
(エタノールアミン型プラズマローゲンに対して基質特異性が高いホスホリパーゼDを産生する微生物の探索)
本発明者らは、エタノールアミン型プラズマローゲンに対して基質特異性が高いホスホリパーゼD(PlsEtn-PLD)を産生する微生物としてこれまでの経験に基づいて放線菌に着目して以下の工程により探索を行った。
1)グリセロールストック(-80℃保存)した放線菌株を寒天培地に白金耳で塗抹し、28℃で培養した。
2)生育したコロニーを白金耳で取り、MPD培地(1%(w/v)グルコース、0.75%(w/v)モルトエキス、0.75%(w/v)ペプトン、0.3%(w/v)NaCl、0.1%(w/v)MgSO・7HO:pH7.0)若しくはISP2培地(1%(w/v)モルトエキス、0.4%(w/v)イーストエキス、0.4%(w/v)グルコース:pH7.2)5mLに植菌した。その後、28℃、160spm(strokes per minute)で72時間振とう培養を行った。培養液1mLをMPD培地に100mLに接種し、28℃、160rpmで72時間振とう培養を行った。
【0050】
次に、以下の方法でホスホリパーゼDの加水分解作用(ホスホリパーゼD活性)を測定した。
1)培養液を遠心分離(21,600×g、10分、4℃)し、得られた上清を酵素サンプルとした。
2)以下の酵素反応液を37℃で30分保温した。基質としてはPlsEtn(Avanti Polar Lipids:AVT社)及びホタテ由来PlsEtn(レオロジー機能食品研究所社)を用いた。
3)以下の呈色反応液を加え、45℃で10分保温した。
4)反応後、遠心分離(21,600×g、5分、4℃)した。遠心上清200μLを96穴マイクロウェルプレート(96MP)に移し、マイクロプレートリーダー(Thermo Fisher社)を用いて、550nmにおける吸光度(A550)を測定した。
【0051】
(酵素反応液)
0.2M Tris-HCl(pH7.0、37℃) 25μL
0.01M CaCl 5μL
1%基質/0.1%TritonX-100 10μL
酵素サンプル 10μL
【0052】
(呈色反応液)
0.2M BisTris-HCl(pH7.5、45℃) 100μL
50U/mL ペルオキシダーゼ(POD) 20μL
0.2%(w/v)TODB 20μL
0.3%(w/v)4-AA 20μL
2% TritonX-100 10μL
0.06U/mL エタノールアミンオキシダーゼ 20μL
超純水(UPW) 10μL
【0053】
上記によりPlsEtnに対するホスホリパーゼD活性が確認された菌株のうち、活性が高い菌株を対象に基質特異性試験を行った。基質特異性試験では、ホタテ由来PlsEtn(レオロジー機能食品研究所社)、PlsEtn22:6(AVT社)、PlsEtn20:4(AVT社)、PlsEtn18:1(AVT社)、PE(1-Hexadecanoyl-2-(9Z-octadecenoyl)-sn-glycero-3-phosphoethanolamine)(AVT社)、LPE(L-α-Lysophosphatidylethanolamine)(SRL社)、LyPlsEtn(1-O-1'-(Z)-Octadecenyl-2-hydroxy-sn-glycero-3-phosphoethanolamine)(AVT社)の7種類の脂質へのホスホリパーゼD活性を測定した。ホスホリパーゼD活性の活性測定は上記と同様に行った。そのなかで、PlsEtnに対して最も高いホスホリパーゼD活性を示す株としてAK461株をPlsEtn-PLD産生菌として選抜した。
【実施例2】
【0054】
(AK461株の分類学上の同定)
実施例1で選抜したAK461株の分類学上の同定をした。まず、AK461株をISP2培地(日本製薬社)で30℃、72時間培養した。培養後、アクロモペプチダーゼ(和光純薬工業社)を用いてDNAを抽出した。かかる抽出したDNAをPCR法の鋳型として用い、文献(中川恭好、川崎浩子 日本放線菌学会編 東京:日本学会事務センター 88-117(2001))に記載のプライマーを用いてPCRを行い、16SrDNAを約1500bp増幅した。
【0055】
増幅した16SrDNAの塩基配列をChromasPro 2.1(Technelysium社)により決定した。増幅した前記16SrDNAの塩基配列を、BLAST相同検索を用い、国際塩基配列データベースDDBJ、ENA(EMBL)、GenBankからから得た既知の微生物のrDNA塩基配列と比較して、既知の微生物とのDNA相同性の一致の程度を比較した。近隣結合法として知られている文献(Saitou&Nei,1987;Mol.Biol.Evol.4406-425)に記載のClustal W プログラムを用いて、系統樹を作成した。その系統樹を図1に示す。左上の線はスケールバー、系統枝の分岐に位置する数字はブートストラップ値、株名の末尾のTはその種の基準株(Type strain)をそれぞれ示す。
【0056】
BLAST相同性検索の結果、AK461株の16SrDNA部分配列は、ストレプトマイセス ポリクロモゲネス(Streptomyces polychromogenes)の基準株(NBRC13072)又はストレプトマイセス ラセモクロモゲネス(Streptomyces racemochromogenes)の基準株(NBRC12906)に対して相同率99.8%の相同性を示した。
【0057】
さらに、簡易形態観察を行ったところ、しわ状のコロニーを示し、色調は表面・裏面共に淡黄色を呈した。また、微視的観察の結果からは、気菌糸及び連鎖胞子の形成が見られた。
【0058】
図1の系統樹及び簡易形態観察結果から、AK461株はストレプトマイセス(Streptomyces)に属し、もっとも近縁の微生物はストレプトマイセス ポリクロモゲネス(Streptomyces polychromogenes)又はストレプトマイセス ラセモクロモゲネス(Streptomyces racemochromogenes)であることが確認された。
【実施例3】
【0059】
(PlsEtn-PLDの精製)
AK461株が生成するPlsEtn-PLDを、以下の方法で精製した。
(1)MPDプレート上のコロニー生育したAK461株のコロニーを白金耳で取り、MPD試験管培地5mLに植菌した。28℃、160spmで2~3日間振とう培養を行った(前培養)。前培養液1mLを、MPDフラスコ培地 100mLに植菌した。28℃、160rpmで3~4日間振とう培養を行った(本培養)。なお、特に記載しない限り、以下のPlsEtn-PLDの精製の工程はすべて氷中又は4℃で行った。
(2)上記で得られたAK461株の培養液を遠心分離機(18,800×g、30分)を用いて、この培養液から培養上清(Culture sup.)を回収した。
(3)回収した培養上清に1M Tris-HCl(pH8.0)を終濃度20mMになるように加えた後、氷上で60%(w/v)飽和となるように粉末硫酸アンモニウムを添加し、生じた沈殿を遠心分離(18,800×g、30分)により回収した。この沈殿を20mM トリス-塩酸緩衝液(pH8.0)で懸濁し粗酵素液(60%AS)を得た。
(4)(3)で得られた粗酵素液に終濃度1Mになるよう粉末硫酸アンモニウムを氷中で加え、スタ-ラーで撹拌しながら、完全に溶解させて以下の条件でカラムクロマトグラフィーを行った。
【0060】
(5)(4)で得られた粗酵素液を、1M 硫酸アンモニウム/20mMトリス-塩酸緩衝液(pH8.0)で予め平衡化したToyopearl(登録商標)-Phenyl-650Mカラム(東ソー社)にアプライした。同緩衝液でカラムを洗浄した後、20mMMES-NaOH(pH5.5)に緩衝液を変更し、硫酸アンモニウム(1Mから0Mまで)のリニアグラジェントにより溶出させ、活性画分(Phenyl)を得た。
【0061】
(6)(5)で得られた活性画分(Phenyl)を、20mM MES-NaOH(pH5.5)で予め平衡化したToyopearl-MX-Trp-650Mカラム(東ソー社)にアプライした。同緩衝液でカラムを洗浄した後、20mM Tris-HCl(pH8.0)に緩衝液を変更し、塩化ナトリウム(0Mから0.5Mまで)のリニアグラジェントにより溶出させ、活性画分(Mx-Trp)を得た。
(7)(6)で得られた活性画分(MX-Trp)を、20mMトリス-塩酸緩衝液(pH9.0)で予め平衡化したToyopearl DEAE-650Mカラム(東ソー社)にアプライした。同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから2Mまで)のリニアグラジェントにより溶出させ、活性画分(DEAE)を得た。
【0062】
各精製工程における収量、収率、ホスホリパーゼD活性等を表1に示す。ホスホリパーゼD活性は実施例1と同様の方法で測定した。上記工程により、精製度(Purification fold)及び比活性(Specific activity)が925倍向上した精製PlsEtn-PLDを得た。また、精製したPlsEtn-PLD(DEAE画分)をSDS-PAGE(12%(w/v)ポリアクリルアミドゲル)により解析した結果を図2に示す。左レーン(M:Marker)は分子量マーカーであり、右レーンは、活性化区分(DEAE)のバンドを示す。その結果、約66kDa、約53kDa、約45kDa、約32kDaの4つのバンドが観察された。
【0063】
【表1】
【実施例4】
【0064】
(精製したPlsEtn-PLDの内部アミノ酸配列の解析)
図2に示すSDS-PAGEにおける4つの矢印で示すバンドのゲルを切り出し、トリプシンを用いてゲル内消化を行った。そして、得られたペプチドサンプルについて液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS/MS)により内部アミノ酸配列の解析を行った。その結果、53kDaのバンドのLC-MS/MSによる内部アミノ酸配列解析で表2に示す7つのペプチド配列がデータベース中のタンパク質のアミノ酸配列の一部と相同性があった。一方、66kDa、45kDa、32kDaのバンドはLC-MS/MS解析で相同性があるタンパク質が見出されなかった。
【0065】
【表2】
【0066】
53kDaのバンドのLC-MS/MSによる内部アミノ酸配列解析でヒットした7つのペプチド配列をプロテオミクス支援システム "ProteinLynx Global サーバー(PLGS)"によって解析した。その結果、表3に示すようにPLGS Scoreにおいてストレプトマイセス ラセモクロモゲネス(Streptomyces racemochromogenes)のホスホリパーゼD(Uniprot entry No. E0D7I2:配列番号3)が688と最も高いことが明らかとなった。したがって、53kDaのバンドのタンパク質がPlsEtn-PLDの可能性が高いと考えられた。
【0067】
【表3】
【実施例5】
【0068】
(精製したPlsEtn-PLDの性質)
精製したPlsEtn-PLDの基質特異性、至適温度、至適pHを調べた。
◆PlsEtn-PLDの基質特異性
上記で精製したPlsEtn-PLDを用いて実施例1と同様の方法でホスホリパーゼD活性を測定し、基質特異性を調べた。基質としてはPlsEtn22:6、PlsEtn20:4、PlsEtn18:1、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)、及びエタノールアミン型リゾプラズマローゲン(LyPlsEtn)を用いた。PlsEtn22:6、PlsEtn20:4、PlsEtn18:1を式(III)~式(V)に示す。
【0069】
(1)PlsEtn22:6
1-(1Z-octadecenyl)-2-docosahexaenoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine
CAS Number:206059-98-5
【0070】
【化3】
【0071】
(2)PlsEtn20:4
1-(1Z-octadecenyl)-2-arachidonoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine
CAS Number:144371-69-7
【0072】
【化4】
【0073】
(3)PlsEtn18:1
1-(1Z-octadecenyl)-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine
CAS Number:144371-68-6
【0074】
【化5】
【0075】
PlsEtn 22:6を基質とした場合のホスホリパーゼD活性を100とした場合の相対活性を図3に示す。図3から明らかなように、PlsEtn 20:4を基質とした場合の相対活性は約15、PlsEtn 18:1を基質とした場合の相対活性は約8であった。一方、基質としてホスファチジルエタノールアミン(PE)、リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)、及びエタノールアミン型リゾプラズマローゲン(LyPlsEtn)を用いて実施例1と同様の方法でホスホリパーゼD活性を測定したところ、ホスホリパーゼD活性を100とした場合の相対活性はいずれもほぼ0であった。このように、精製したPlsEtn-PLDは、エタノールアミン型プラズマローゲンに対する基質特異性が極めて高いことが明らかとなった。
【0076】
◆PlsEtn-PLDの至適温度
基質となる0.2% PlsEtn 22:6と、Tris-HCl(pH7.0、各温度)50mMとの溶液に精製したPlsEtn-PLDを10あるいは20%(v/v)となるように加え、合計量50μLとなる反応液を調製した。この反応液を37℃にて30分間反応させた。その後、加水分解作用を測定した。結果を図4に示す。図4中、横軸が温度、縦軸がΔA550(試料の550nmの吸光度と盲検液の吸光度の差、以下同じ)である。図4から明らかなように、精製したPlsEtn-PLDは、30℃~70℃で加水分解作用を有し、特に40℃~60℃で加水分解作用が高いことが明らかとなった。
【0077】
◆PlsEtn-PLDの至適pH
基質となる0.2% PlsEtn 22:6と、酢酸-酢酸Na(グラフ中酢酸Na:pH4.5~6)、BisTris-HCl(グラフ中Bis Tris HCl:pH6~7)、又は、Tris-HCl(グラフ中Tris HCl:pH7~9)から選ばれる緩衝液(pH4.5、5、6、6.5、7、7.5、8、又は9、温度37℃)50mMとの溶液に、精製したPlsEtn-PLDを10あるいは20%(v/v)となるように加え、合計量50μLとなる反応液を調製した。この反応液を各pH条件にて30分間、酵素反応させた。その後の呈色反応は実施例1と同様の方法で行い、酵素活性を測定した。結果を図5に示す。図5中、横軸がpH、縦軸がΔA550である。図5に基づき、精製したPlsEtn-PLDは、pH5~8.5、特にpH6~7で処理しても加水分解作用を有していた。
【実施例6】
【0078】
(PlsEtn-PLDのクローニング)
AK461株由来PlsEtn-PLDのクローニングを以下の方法により行った。
【0079】
(ゲノムDNAの調製)
AK461株を、実施例1と同様の方法でMPD培地を用いて28℃で2日間培養し、集菌した。次いで、この菌体を、SET buffer5mLとリゾチーム10mg(終濃度2mg/mL)を加えて転倒混和し、37℃で2時間保温した。次に、これに10%SDS溶液(0.2N NaOH)670μL(終濃度1%)、3mg/mLのproteinase K 1mL(終濃度0.5mg/mL)を添加し、ハイブリダイザ-でゆっくりと回しながら55℃で2時間保温した。この溶液に5M Nacl 4mL及びクロロホルム10mLを加えて攪拌し、遠心分離後に上清を別チューブに回収し、上清体積の0.6倍量の2-プロパノールを加え、遠心分離(4,000×g、5分、4℃)した。沈殿したゲノムDNAを回収し、10mMトリス-塩酸緩衝液(pH7.5)に溶解した。これに、RNase Aを終濃度0.1mg/mLとなるように加え、37℃で20分処理した後、0.8MのNaClを含む13%PEG溶液を500μL加え攪拌し、遠心分離した。上清を除去し、10mM Tris-EDTA buffer(pH7.5)500μLに沈殿を溶解した後、フェノール/クロロホルム(1:1、v/v)混合液500μLを加えて攪拌し、遠心分離により、水相を分取した。この水相に体積の0.1倍量の3M酢酸ナトリウム(pH5.2)及び2倍量のエタノールを添加混合し、AK461株のゲノムDNAを回収した。回収したDNAを70%(v/v)エタノールに浸漬した後、10mMトリス-塩酸緩衝液(pH7.5)からなる溶液に溶解してゲノムDNA(gDNA)溶液を調製した。
【0080】
(AK461株由来PlsEtn-PLDの部分塩基配列のクローニング)
1.PCR増幅
上記で調製したAK461株ゲノムDNAを鋳型にPCRを行った。その後PCR増幅産物のサブクローニングとシークエンスを行い、PlsEtn-PLD遺伝子の部分塩基配列を解析した。
【0081】
まず、実施例4で明らかになった内部アミノ酸配列に対応するコドンのうち、Streptomyces属においてコドン使用頻度が10%以上であるコドンを選び、配列番号4に記載のフォワードプライマー(PlsEtn-FW1)及び配列番号5に記載のリバースプライマー(PlsEtn-RV1)を設計した。
【0082】
上記PCRプライマーを用いてPCR反応を行った。PCRの反応液組成は次のとおりである。
【0083】
2×Gflex PCR buffer 12.5μL
10μM PlsEtn-FW1 0.75μL
10μM PlsEtn-RV1 0.75μL
33.27ng/μL AK461 gDNA 2μL
1.25U/μL Gflex DNA polymerase 0.5μL
超純水(UPW) 8.5μL
【0084】
PCR反応条件は次のとおりである。
ステップ1;94℃、2分;
ステップ2;98℃、10秒;
ステップ3;65℃、30秒;
ステップ4;68℃、2分;
ステップ2からステップ4を30サイクル繰り返す;
ステップ5;68℃、2分;
【0085】
2.PCR増幅産物のサブクローニング及びシークエンス
上記で得られた1400bpのPCR増幅産物をDNAシークエンスするため、以下の方法によりMighty TA-cloning Reagent SET for PrimeSTAR(登録商標)を用いて、pMD20-Tベクターにサブクローニングを行った。次に、大腸菌(HST08)に形質転換して培養し、ブルー・ホワイトコロニーセレクションにより白色コロニーを選択し、コロニーPCRにより目的サイズのバンドが確認できたコロニーを培養し、High Pure Plasmid Isolation kit(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いてプラスミドを精製した。精製したプラスミドを配列番号6に記載のフォワードプライマー(M13R-pUC)及び配列番号7に記載のリバースプライマー(M13M4)を用いてシークエンスを行った。
【0086】
(PlsEtn-PLDの未知領域の解析)
PlsEtn-PLDの未知領域を解析するために、制限酵素消化したAK461株のゲノムDNAを鋳型にInvers PCRを行い、クローニングとシークエンスを行った。
【0087】
まず、上記「2.PCR増幅産物のサブクローニング及びシークエンス」で得られた部分塩基配列を参考に、Invers PCR用のプライマーとして配列番号8に記載のフォワードプライマー(PlsEtn-FW2)及び配列番号9に記載のリバースプライマー(PlsEtn-RV2)を設計した。次に、AK461株のゲノムDNAを6種類の制限酵素(BamHI、EcoRI、KpnI、NdeI、PstI、SmaI)で消化した。その後、アガロース電気泳動で消化を確認し、フェノール・クロロフォルム抽出とエタノール沈殿を行い、制限酵素とAK461株のゲノムDNAを除去した。その後セルフライゲーション、フェノール・クロロフォルム抽出とエタノール沈殿を行い、Invers PCRの鋳型DNAを作製した。
【0088】
上記で得られたInvers PCRの鋳型DNA、及びInvers PCR用のプライマーを用いてInvers PCRを行った。PCRの反応液組成は次のとおりである。
【0089】
2×Gflex PCR buffer 12.5μL
10μM PlsEtn-FW2 0.75μL
10μM PlsEtn-RV2 0.75μL
ライゲーション反応液 2μL
1.25U/μL Glex DNA polymerase 0.5μL
超純水(UPW) 8.5μL
【0090】
PCR反応条件は次のとおりである。
ステップ1;94℃、2分;
ステップ2;98℃、10秒;
ステップ3;65℃、30秒;
ステップ4;68℃、2分;
ステップ2からステップ4を30サイクル繰り返す;
ステップ5;68℃、2分;
【0091】
その後、上記「AK461株由来PlsEtn-PLDの部分塩基配列のクローニング」と同様の方法でPCR増幅産物をクローニングし、シークエンスを行った。
【0092】
上記シークエンス解析により、PlsEtn-PLDのアミノ酸配列は、配列番号1に記載された528アミノ酸からなる配列であり、Signal Pプログラムによる予測によりN末端側26アミノ酸はSec分泌シグナルであると考えられる。また、PlsEtn-PLDのアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号2に記載された塩基配列であることが確認された。なお、GENETYX-MACプログラムによる推定分子量は52,963Da、推定の等電点は6.16であった。この等電点は推定値であり、実測値とは異なる可能性がある。さらに、HKDモチーフを2カ所(配列番号1における192番目~199番目、462番目~469番目)有していた。
【実施例7】
【0093】
(大腸菌によるPlsEtn-PLDの発現及び調製)
配列番号10に記載のフォワードプライマー(PlsEtn-FW3)及び配列番号11に記載のリバースプライマー(PlsEtn-RV3)を用いてPCRを行い、配列番号2に記載の塩基配列からなるPlsEtn-PLD遺伝子のSecシグナル配列と考えられる配列を除いた配列(配列番号12に示す塩基配列)において、5’末端にNdeIサイトを、3’末端側にHindIIIサイトを付加するように増幅した。PCR副産物をNdeIとHindIIIで消化し、発現ベクターであるpET24a(+)のNdeI-HindIII部位に挿入して、組換えプラスミドを得た。次に、得られた組換えプラスミドを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、組換え大腸菌を得た。得られた組換え大腸菌を、30μg/mLのカナマイシンを含む100mLのOvernight Express TB培地(Novagen社)で、30℃又は37℃にて24時間培養した。得られた培養液を遠心分離して菌体を回収した。菌体は20mMトリス-塩酸緩衝液(pH7.0)で懸濁した後、超音波破砕し、遠心上清を生酵素とした(約0.04U/mL)。
【0094】
次に、基質としてPlsEtn、LyPlsEtn、POPE、及びLPEを用い、上記生酵素又は熱失活Ctrlを10μL加えてホスホリパーゼD活性を測定した。同時に、酵素なしのコントロール(酵素なし(Ctrl))も行った。ホスホリパーゼD活性の測定は実施例1と同様の方法で行った。表4に示すように、PlsEtn-PLDはPlsEtnに対して高い特異性を有することが確認された。
POPE:1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(1-Palmitoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine)(Avanti Polar Lipids社)
LPE:リゾホスファチジルエタノールアミン(L-α-Lysophosphatidylethanolamine、Egg)(DOOSAN Serdary Research Laboratories 社)
【0095】
【表4】
【実施例8】
【0096】
(ホタテ分取エタノールアミン型プラズマローゲンの検量線の作成)
実施例7で調製したPlsEtn-PLDを用いて、ホタテから分取したエタノールアミン型プラズマローゲン(ホタテ由来PlsEtn)の検出を行った。なお、ホタテ由来PlsEtnの定量は、実施例1に記載のようにPlsEtnが加水分解されて得られるエタノールアミンを定量することで行った。
【0097】
1.ホタテ由来PlsEtnの調製
ホタテ類の食用部位から分取したホタテ由来PlsEtn 1mg(レオロジー機能食品研究所社)を、50mM Tris-HCl Buffer 1mLに加えて超音波でエマルションにして調製した。
2.PlsEtn-PLD溶液の調製
実施例7で調製したPlsEtn-PLD 15mLを凍結乾燥後、1.5mLの50mM Tris-HCl Bufferに溶解した(10倍に濃縮)。
3.ホスホリパーゼD活性の測定
以下の方法で蛍光強度を測定することでホスホリパーゼD活性を測定した。
1)PlsEtn-PLD(0.042U/mL)を10倍に濃縮したものを0.42U/mL酵素サンプルとした。
2)ホタテ由来PlsEtn(レオロジー機能食品研究所社)及び大豆由来のホスファチジルエタノールアミン(シグマアルドリッチ社)、血漿を96穴ウェルプレートに分注した。
3)以下の蛍光法酵素反応液と酵素サンプルを加え、1分間振とうした。
[蛍光法酵素反応液]
50mM Tris-HCl(pH7.4)
50mM NaCl
0.75mM CaCl
0.2% TritonX-100
2.5U/mL ペルオキシダーゼ(POD)
1U/mL チラミンオキシダーゼ
50μM Amplex Red
上記総量 100μL
0.42U/mL 酵素サンプル 10μL
4)37℃で10分間保温した。
5)反応後、プレートリーダー (BECKMAN COULTER社)を用いて、蛍光光度(EX535nm、EM595nm)を測定した。
【0098】
なお、基質としては、ホタテ由来PlsEtn 10、15、20、25、又は50μgを用いた。結果を図6に示す。
【0099】
図6に示すように、実施例7で調製したPlsEtn-PLDを用いればホタテ由来plsEtnの検出ができること、及びホタテ由来PlsEtnの濃度依存的に蛍光強度が増加していることが確認された。
【0100】
[比較例]
大豆にはプラズマローゲンが含まれていないことが知られている。そこで、比較例として大豆由来のホスファチジルエタノールアミン(PE)を用いて測定を行った。
【0101】
1.大豆由来のホスファチジルエタノールアミン(PE)の調製
大豆由来のホスファチジルエタノールアミン(PE)1mgを、50mM Tris-HCl Buffer(pH7.4)1mLに加えて超音波でエマルションにして調製した。
2.蛍光光度計による分析
ホタテ由来PlsEtnの代わりに大豆由来のホスファチジルエタノールアミン(PE)を10、15、20、25又は50μg用いた以外は上記実施例8と同様の方法で反応させた。結果を図7に示す。
【0102】
図7に示すように、大豆由来のPE量が増加しても蛍光強度はほとんど増加しておらず、蛍光強度はほぼ一定であった。したがって、PlsEtn-PLDはホスファチジルエタノールアミン(PE)には活性を示さないことが明らかとなった。
【0103】
以上のとおり、実施例7で調製したPlsEtn-PLDを用いれば、PlsEtnを特異的に定量できることが確認された。
【実施例9】
【0104】
(血漿中のエタノールアミン型プラズマローゲンの定量)
1.血漿の調製
血清及び血漿は細胞膜ではないため、赤血球や白血球と比べて、これらに含まれるプラズマローゲンは極めて少ない。したがって、血清や血漿中のプラズマローゲン量を測定することはこれまでの技術では困難であった。一方、近年、プラズマローゲンはアルツハイマー型認知症のバイオマーカーとなると考えられており、血清又は血漿中のプラズマローゲンを定量することはアルツハイマー型認知症等の疾患の発症リスクの判定に重要である。そこで、実施例7で調製したPlsEtn-PLDを用いて血漿中のエタノールアミン型プラズマローゲンの定量が可能かどうかを調べた。
【0105】
血漿の準備は、特開2016-111929号公報に記載の方法に準じて行った。簡潔に説明すると、ヘパリン入り採血管(テルモ社)を用いて静脈血を採取し、1000×g,5分間遠心して、上清(すなわち血漿)を回収した。
2.血漿サンプルの調製
上記で回収した血漿を冷凍保存し、測定前に解凍し50mM Tris-HCl Bufferで調整した。
3.蛍光光度計による分析
ホタテ由来PlsEtnの代わりに上記血漿サンプルを20、30、40又は50μL用いた以外は実施例8と同様の方法で反応させた。結果を図8に示す。
【0106】
図8に示すように血漿サンプルの量に比例して蛍光強度が増加していることが確認された。実施例8の結果と合わせると、実施例7で調製したPlsEtn-PLDを用いれば血漿中のエタノールアミン型プラズマローゲンを定量できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のホスホリパーゼDを用いれば、血漿等に含まれるエタノールアミン型プラズマローゲンを安価で検出又は定量可能とするものであり、産業上の有用性は高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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