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特許7533927タール汚れ洗浄剤及びタール汚れ洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】タール汚れ洗浄剤及びタール汚れ洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 1/722 20060101AFI20240806BHJP
   C11D 1/72 20060101ALI20240806BHJP
   C10B 43/08 20060101ALI20240806BHJP
   C10K 1/16 20060101ALI20240806BHJP
   C10B 27/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C11D1/722
C11D1/72
C10B43/08
C10K1/16
C10B27/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020101767
(22)【出願日】2020-06-11
(65)【公開番号】P2021195429
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】竹中 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】太田 文清
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-137292(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0087449(US,A1)
【文献】特開昭57-049699(JP,A)
【文献】特開2016-079258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00 - 19/00
C10K 1/00 - 3/06
C10K 1/00 - 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種含み、前記化合物の含有率が40重量%以上である、タール汚れ洗浄剤(但し有効成分として、環状不飽和炭化水素、芳香族炭化水素又はリモネン-エタノール混合溶剤(混合比(リモネン/エタノールが1/1))を含むものを除く)
-O-(EO)(PO)(BO)(PEO)-R (I)
(Rは、水素原子、フェニル基、又は、直鎖、分岐鎖若しくは不飽和の炭素原子数1~18のアルキル基、Rは水素原子又は直鎖、分岐鎖若しくは不飽和の炭素原子数1~4のアルキル基、EOはエチレンオキシド、POはプロピレンオキシド、BOはブチレンオキシド、PEOはペンテンオキシド、w~zの合計は1~20、前記EOと前記POと前記BOと前記PEOとはブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい、ただし前記Rと前記Rとが水素原子である場合を除く)
【請求項2】
一般式(I)で表される化合物の重量平均分子量が、1000以下である請求項1に記載のタール汚れ洗浄剤。
【請求項3】
一般式(I)で表される化合物は、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、フェノキシエタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンメチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンステアリルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載のタール汚れ洗浄剤。
【請求項4】
水を60重量%以下含む請求項1、2又は3に記載のタール汚れ洗浄剤。
【請求項5】
コールタール及び/又はコークス炉ガス(COG)を製造、貯蔵、輸送及び使用する設備で発生するタール汚れを洗浄する方法であって、前記タール汚れを有する洗浄対象に請求項1、2、3又は4に記載のタール汚れ洗浄剤を接触させることを特徴とするタール汚れ洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タール汚れ洗浄剤及びタール汚れ洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄工程において鉄鉱石とともに高炉に装入される石炭は、事前にコークス炉の炭化室で、約1000℃で24時間蒸し焼きにされる。この工程により、石炭から、製鉄原料のコークスだけでなく、コークス炉ガスが産出される。コークス炉ガス(COG)は安水(アンモニア水)によって冷却され、その後濃縮される。濃縮物は分離槽で安水とタール(コールタール)に分けられ、タールはタールタンクに貯蔵され、使用に際し、該タンクから引き抜かれて配管で移送され、或いは、車両等で輸送され、貯蔵される。
【0003】
コークス炉ガス(COG)の精製設備は、COGを安全でクリーンなガスに再生するだけでなく、ガス精製工程において抽出される有効成分を回収するため、冷却装置、脱硫装置、脱アンモニア装置及び軽油回収装置などから構成される。特許文献1は、コークス炉ガスの脱硫方法においてスクラバー水とピクリン酸又はナフトキノリンスルホン酸ソーダとが使用されることを開示する。
【0004】
コークス炉ガスは、硫黄、コールタール、ピッチ、アンモニア、ベンゾール、ナフタリン、硫化水素又はシアン化合物等の不純物を含む。コークス炉ガスの精製過程において使用されるスクラバー水は、コークス炉ガスと接触するとコールタールを含有するようになる。また、該スクラバー水は循環使用される場合もある。よって、コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水が接する部分において、タールを含む汚れ(タール汚れ)が発生する。このため、コークス炉ガスの精製設備では、定期的に設備を停止して洗浄が行われる。
【0005】
特許文献2は、炭素数8~20の鎖状第2級アルコールの混合物に酸化エチレンを3~20モル付加して得られた非イオン系界面活性剤と、オルトケイ酸塩又はトリポリリン酸塩等とを含む洗浄組成物を用いてタール物質を洗浄する方法であって、洗浄組成物のpHを10以上のアルカリ性として使用することを開示する。
特許文献3は、タール酸を所定の割合で含む溶液を用いて、コークス炉ガス脱硫設備に付着した硫黄閉塞物を洗浄する方法を開示する。
特許文献4は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方を含む水溶液を用いて、コークス炉ガス脱硫設備に付着した硫黄閉塞物を洗浄する方法を開示する。
特許文献5は、高級脂肪族アミンエチレンオキシド付加物及び高級脂肪酸アミドエチレンオキシド付加物の少なくとも一方を含む汚れ防止剤を使用して、安水処理設備の運転を停止することなく該設備の汚れを防止する方法を開示する。
特許文献6は、スクラバー水に非イオン界面活性剤等を添加して、該スクラバー水が接する部分におけるタール汚れを抑制する方法、及びそのための組成物等を開示する。
特許文献7は、コークス炉ガス精製設備で使用されるスクラバー水が接触する部分におけるタール汚れを、上記コークス炉ガス精製設備の運転を停止して洗浄するための薬剤であって、ポリオキシエチレン脂肪族アミンである非イオン界面活性剤を含むタール汚れ洗浄剤を開示する。
【0006】
しかしながら、コールタール及び/又はコークス炉ガス(COG)の製造、貯蔵、輸送及び使用から生じるいずれのタール汚れも効率よく洗浄するタール汚れ洗浄剤、及び、タール汚れ洗浄方法は開示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-271074号公報
【文献】特開昭57-49699号公報
【文献】特開昭61-66794号公報
【文献】特開昭61-108695号公報
【文献】特開2014-201697号公報
【文献】特開2016-70258号公報
【文献】特開2018-145259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
コールタール及び/又はコークス炉ガス(COG)の製造、貯蔵、輸送及び使用から生じるいずれのタール汚れも効率よく洗浄できる方法が求められている。そこで、本発明は、一又は複数の実施形態において、コールタール及び/又はコークス炉ガスの製造、貯蔵、輸送及び使用から生じるいずれのタール汚れも効率よく洗浄可能なタール汚れ洗浄剤及びタール汚れ洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、発明者らは、下記一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種含むタール汚れ洗浄剤を用いることにより、コールタール及び/又はコークス炉ガスの製造、貯蔵、輸送及び使用から生じるいずれのタール汚れも効率よく洗浄できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のタール汚れ洗浄剤、及び、タールの汚れ洗浄方法を提供する。
【0010】
本発明は、一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種含むタール汚れ洗浄剤である。
-O-(EO)(PO)(BO)(PEO)-R (I)
(Rは、水素原子、フェニル基、又は、直鎖、分岐鎖若しくは不飽和の炭素原子数1~18のアルキル基、Rは水素原子又は直鎖、分岐鎖若しくは不飽和の炭素原子数1~4のアルキル基、EOはエチレンオキシド、POはプロピレンオキシド、BOはブチレンオキシド、PEOはペンテンオキシド、w~zの合計は1~20、上記EOと上記POと上記BOと上記PEOとはブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい、ただし上記Rと上記Rとが水素原子である場合を除く)
本発明のタール汚れ洗浄剤は、上記一般式(I)で表される化合物の重量平均分子量が、1000以下であることが好ましい。
上記一般式(I)で表される化合物は、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、フェノキシエタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンメチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンステアリルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
本発明のタール汚れ洗浄剤は、上記一般式(I)で表される化合物の含有率が40重量%以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、コールタール及び/又はコークス炉ガス(COG)を製造、貯蔵、輸送及び使用する設備で発生するタール汚れを洗浄する方法であって、上記タール汚れを有する洗浄対象に上記タール汚れ洗浄剤を接触させることを特徴とするタール汚れ洗浄方法でもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コールタール及び/又はコークス炉ガス(COG)の製造、貯蔵、輸送及び使用から生じるいずれのタール汚れも効率よく洗浄できるタール汚れ洗浄剤及びタール汚れ洗浄方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、上記一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種含むタール汚れ洗浄剤を用いることにより、コールタール及び/又はコークス炉ガス(COG)の製造、貯蔵、輸送及び使用から生じるいずれのタール汚れも洗浄できるという知見に基づく。
コールタールは、石炭の乾留により発生する高温ガス状物質を冷却して得られる液状製品であり、コークス炉ガス(COG)は、コークス炉で副生されるガスである。コークス炉ガスは、上述の通り、硫黄、コールタール、ピッチ、アンモニア、ベンゾール、ナフタリン、硫化水素又はシアン化合物等の不純物を含むため、コークス炉ガスの精製過程において使用されるスクラバー水は、コークス炉ガスと接触するとコールタールを含有するようになる。すなわち、コールタールは、石炭の乾留工程のみならず、コークス炉ガスが精製される工程においても生じるものである。
そのため、本発明における「コールタール及び/又はコークス炉ガス(COG)の製造、貯蔵、輸送及び使用から生じるタール汚れ」とは、例えば、石炭乾留工程、ベンゾール回収工程、ベンゾール加圧・水添脱硫精製工程、ベンゾール蒸留工程、コールタール蒸留工程等のタール製品の各製造工程で生じるタール汚れが挙げられ、これらの他にもコールタール及び/又はコークス炉ガスを取り扱う工程で生じるタール汚れを含むものである。
【0014】
上記一般式(I)で表される化合物がタールの洗浄作用を有することのメカニズムは、詳細には明らかではないが、以下のように推測される。すなわち、疎水性成分を主として構成されるタールは、ベンゼン環骨格の重合や結合に基づき強い分子間力が働いており、これによりタールの汚れが強固なものになっていると考えられる。ここに、疎水基と親水性の両方を持つ上記一般式(I)で表される化合物の疎水基が配位することで、タール成分の分子表面に親水基が修飾されたような状態となる。このわずかな親水化によって、本質的には疎水性であるタール成分の分子同士で反発力が生じ、分子間力が弱まり、タール汚れが洗浄されやすくなると推測される。上記一般式(I)で表される化合物の疎水基と親水基の形状や大きさのバランスによって、タール成分への配位しやすさが異なるため、上記一般式(I)で表される化合物のR及びRにおける炭素数によってタール汚れ洗浄効果に差があると推測される。但し、本発明はこのメカニズムに限定されなくてもよい。
【0015】
本発明にかかるタール汚れ洗浄剤は、一又は複数の実施形態において、一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種含む。
-O-(EO)(PO)(BO)(PEO)-R (I)
(Rは、水素原子、フェニル基、又は、直鎖、分岐鎖若しくは不飽和の炭素原子数1~18のアルキル基、Rは水素原子又は直鎖、分岐鎖若しくは不飽和の炭素原子数1~4のアルキル基、EOはエチレンオキシド、POはプロピレンオキシド、BOはブチレンオキシド、PEOはペンテンオキシド、w~zの合計は1~20、上記EOと上記POと上記BOと上記PEOとはブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい、ただし上記Rと上記Rとが水素原子である場合を除く)
【0016】
上記一般式(I)で表される化合物は、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、ブチレンオキシド(BO)、ペンテンオキシド(PEO)、又はこれらの混合物を含む。w、x、y及びzは、平均付加モル数であり、タール汚れの洗浄効果を向上させる点から、w~zの合計(w+x+y+z)は1~20であればよい。なお、ペンテンオキシドは、イソペンテンオキシドであることが好ましい。
【0017】
上記一般式(I)で表される化合物におけるRが直鎖、分岐鎖若しくは不飽和のアルキル基である場合、炭素原子数が1~18であることが好ましい。
【0018】
上記一般式(I)で表される化合物におけるRは、水素原子又は直鎖、分岐鎖若しくは不飽和の炭素数が1のアルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0019】
本発明において、上記一般式(I)で表される化合物の重量平均分子量が、1000以下であることが好ましい。重量平均分子量が1000を超えると、一般式(I)で表される化合物の流動性が低下し、取り扱い性が悪くなる可能性が生じるためである。
上記一般式(I)で表される化合物の重量平均分子量は、650以下であることがより好ましく、500以下であることがさらに好ましく、200以下であることが最も好ましい。
【0020】
上記一般式(I)で表される化合物は、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、フェノキシエタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンメチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンステアリルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
上記一般式(I)で表される化合物は、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、フェノキシエタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0022】
本発明に係るタール汚れ洗浄剤は、洗浄対象のタール汚れの洗浄率が50%以上となるように、一般式(I)で表される化合物の少なくとも1種を含むことが好ましく、洗浄対象のタール汚れの洗浄率が60%以上となるように一般式(I)で表される化合物の少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0023】
また、本発明に係るタール汚れ洗浄剤は、一般式(I)で表される化合物の含有率が40重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましい。
【0024】
本発明に係るタール汚れ洗浄剤は、一又は複数の実施形態において、本発明の効果を奏する範囲内であれば、上記一般式(I)で表される化合物以外の成分を含んでもよく、含まなくてもよい。上記一般式(I)で表される化合物以外の成分としては、上記一般式(I)で表される化合物の取り扱い性を向上させるために使用される溶媒が挙げられる。具体的には、水や、発明の効果を阻害しない範囲で、本発明のタール汚れ洗浄剤に使用される成分以外の親水性有機溶媒やアルコール等の溶媒が挙げられる。
【0025】
本発明に係るタール汚れ洗浄剤は、上記一般式(I)で表される化合物以外の成分として水を含んでもよい。タール汚れ洗浄剤中の水の配合量は60重量%以下であることが好ましい。水の配合量の上限が60重量%であることにより、本発明の効果を奏しつつ、タール汚れ洗浄剤の取り扱い性が向上するためである。
【0026】
本発明に係るタール汚れ洗浄剤は、本発明の洗浄効果を阻害しない範囲で、上記一般式(I)で表される化合物以外の界面活性剤(アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤又はノニオン界面活性剤)を含んでもよい。
【0027】
また、本発明は、コールタール及び/又はコークス炉ガス(COG)を製造、貯蔵、輸送及び使用する設備で発生するタール汚れを洗浄する方法であって、上記タール汚れを有する洗浄対象に上述のタール汚れ洗浄剤を接触させることを特徴とするタール汚れ洗浄方法でもある。
【0028】
本発明の洗浄方法は、本発明のタール汚れ洗浄剤を、タール汚れに接触させることを含む。この洗浄剤の接触は、タール汚れを有する洗浄対象に対し本発明のタール汚れ洗浄剤を噴霧すること等により行われてもよく、また、本発明のタール汚れ洗浄剤中に洗浄対象を浸漬すること等により行われてもよい。タール汚れを有する洗浄対象が設備である場合は、設備の運転の停止の有無は問わない。なお、洗浄対象設備の運転を停止する場合は、一又は複数の実施形態において、洗浄剤を接触させる部分をオフラインにすることや、オフラインにしていなくても本発明のタール汚れ洗浄剤ではない原料やスクラバー水を供給しないこと、充填材を取り出してから洗浄すること等が、洗浄対象設備の運転の停止として挙げられる。
【0029】
設備に対する本発明のタール汚れ洗浄剤の接触は、一又は複数の実施形態において、一時的に設置される洗浄ラインを用いて行うこと、又は、洗浄用に供される別系統で行うこと等が挙げられる。
一時的に設置される洗浄ラインを用いた洗浄液の接触としては、一又は複数の実施形態において、既存の循環ラインを使用すること等が挙げられ、例えば、該循環ラインに本発明のタール汚れ洗浄剤を注入し、又は配管バルブ等によって調整して当該循環ラインにのみ本発明のタール汚れ洗浄剤を循環させること等が挙げられる。
洗浄用に供される別系統を用いた本発明のタール汚れ洗浄剤の接触としては、一又は複数の実施形態において、上記の既存の循環ラインとは別箇に設置された仮設の洗浄剤タンク等を洗浄対象と配管等によって接続し、又は洗浄剤タンクと洗浄対象とを循環させることが挙げられる。
【0030】
本発明の洗浄方法が、タール汚れを有する洗浄対象に本発明のタール汚れ洗浄剤を噴霧により接触させる場合、本発明のタール汚れ洗浄剤は、上記一般式(I)で表される化合物を、洗浄対象におけるタール汚れ洗浄率が50%以上となるように含むことが好ましい。
また、本発明の洗浄方法が、タール汚れを有する洗浄対象に本発明のタール汚れ洗浄剤を浸漬により接触させる場合、本発明のタール汚れ洗浄剤は、上記一般式(I)で表される化合物を、洗浄対象におけるタール汚れ洗浄率が60%以上となるように含むことが好ましい。
本発明の洗浄方法は、タール汚れを有する洗浄対象に対し本発明のタール汚れ洗浄剤を接触させるものであり、その接触方法は上述の通り限定されるものではないが、噴霧、浸漬又は循環により本発明のタール汚れ洗浄剤を洗浄対象に接触させる場合は、上記範囲のタール汚れ洗浄率となるようにタール汚れ洗浄剤が調製されていることで、より効果的にタール汚れを洗浄することができる。
【0031】
本発明の洗浄方法が、タール汚れを有する洗浄対象に本発明のタール汚れ洗浄剤を噴霧、浸漬又は循環により接触させる場合、本発明のタール汚れ洗浄剤は、上記一般式(I)で表される化合物をタール汚れの状況に応じて任意に希釈してもよく、40重量%以上含むことが好ましい。
【0032】
本発明の洗浄方法において、タール汚れを有する洗浄対象の素材は特に限定されず、例えば、スチール、ステンレス、アルミ等の金属であってもよく、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどの樹脂素材(プラスチック)であってもよい。
【0033】
以下の実施例及び比較例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例
【0034】
(実施例1~16、比較例1~5)
薬剤によるタール汚れの洗浄試験を、スプレー噴霧洗浄試験(試験例1)及び薬剤液への浸漬洗浄試験(試験例2)により行った。洗浄対象として、気液接触用充填材(トーヨーハイレックス200(PVC)/トーヨー社製)にコールタールを2g塗布し、設備等のタール汚れの状態を再現したもの、又は、ステンレス版(3×5cm、厚さ1mm)にコールタール1g塗布し、設備等のタール汚れの状態を再現したものを使用した。以下、各試験方法について説明する。
【0035】
<試験例1:スプレー噴霧洗浄試験>
(1)洗浄対象(ハイレックスにコールタールを2g塗布したもの、及び、ステンレス板に1gのコールタールを塗布したもの)について、重量(Wb)を測定した。
(2)下記表2に記載の化合物を用いて実施例及び比較例にかかる薬剤を調製した。なお、薬剤中に上水を含む場合、大阪市水を用いた。また、実施例及び比較例で用いた各化合物の詳細は下記表1に記載している通りである。
(3)洗浄対象を垂直に固定し、市販の100mL家庭用霧吹きを用いて、霧吹きの吹出口から洗浄対象まで約10cm離した状態で、実施例及び比較例にかかる薬剤が洗浄対象に対し垂直に当たるように噴霧した。なお、タールを塗布したハイレックスに対しては20mLの薬剤を噴霧し、タールを塗布したステンレス板に対しては10mLの薬剤を噴霧した。なお、洗浄対象をステンレス板とする試験は、一部薬剤についてのみ実施した。
(4)各薬剤噴霧後、2時間静置して噴霧した薬液留分が滴下しない状態で洗浄対象(ハイレックス及びステンレス板)の重量(Wa)を測定した。薬剤噴霧前後の汚れ成分の重量(Wb-Wa)(g)から、下記式により汚れ洗浄率(%)を算出した。
(式1)洗浄率(%)=(Wb-Wa)/Wb×100
測定結果を下記表2に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
上記表2を確認することにより、一般式(I)で表される化合物を含む薬剤液をタール汚れを有する洗浄対象に噴霧処理することにより、タール汚れの洗浄率が50%以上と優れた洗浄効果を有することを確認した。なお、本洗浄効果は、タール汚れを有する洗浄対象の素材により大きく変化するものではなく、ハイレックス(PVC)及びステンレス板のいずれにおいても同様の効果を奏することを確認した。
一方、比較例1~4の結果から、一般式(I)で表される化合物を含まない場合は、噴霧処理におけるタール汚れ洗浄率が50%未満と低く、所望のタール汚れ洗浄効果を示さないことを確認した。
【0039】
また、洗浄対象(ハイレックスにコールタールを2g塗布したもの、及び、ステンレス板に1gのコールタールを塗布したもの)に上記実施例1にかかる薬剤を噴霧した場合の洗浄対象の外観の変化を下記表3及び表4に示す。表3及び表4には、比較例5として、洗浄対象に上水(大阪市水)のみを噴霧した場合の洗浄対象の外観の変化を示す。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
以上、表3及び表4の結果から、実施例1にかかる薬剤液をタール汚れを有する洗浄対象に噴霧処理した場合、外観で明確に把握できる程度に充分なタール汚れ洗浄効果を有することを確認した。
【0043】
<試験例2:薬剤液への浸漬試験>
(1)洗浄対象(ハイレックスにコールタールを2g塗布したもの)について、重量(Wb)を測定した。
(2)下記表5に記載の化合物を用いて実施例及び比較例にかかる薬剤を調製した。なお、薬剤中に上水を含む場合、大阪府の水道水を用いた。また、実施例及び比較例で用いた各化合物の詳細は上記表1に記載している通りである。
(3)タールを塗布したハイレックスを実施例及び比較例にかかる各薬剤液200mL中で撹拌しながら1時間浸漬した。
(4)各薬剤に1時間浸漬後、洗浄対象を薬剤液から取り出し、2時間静置して薬剤液留分が滴下しない状態で洗浄対象(ハイレックス)の重量(Wa)を測定した。薬剤液浸漬前後の汚れ成分の重量(Wb-Wa)(g)から、上記式(式1)により汚れ洗浄率(%)を算出した。測定結果を下記表5に示す。
【0044】
【表5】
【0045】
上記表5を確認することにより、一般式(I)で表される化合物を含む薬剤液にタール汚れを有する洗浄対象を浸漬処理することにより、タール汚れの洗浄率が60%以上と優れた洗浄効果を有することを確認した。
一方、比較例1~4の結果から、一般式(I)で表される化合物を含まない場合は、浸漬処理におけるタール汚れ洗浄率が60%未満と低く、所望のタール汚れ洗浄効果を示さないことを確認した。