(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】減速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2020179793
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】520420757
【氏名又は名称】清泉精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石原 康人
(72)【発明者】
【氏名】金 明洙
(72)【発明者】
【氏名】周 清泉
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-132155(JP,A)
【文献】特開2011-002084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線上に配置された入力部材と可撓性部材と固定部材とを備え、
前記固定部材は、前記中心線回りに回転しないようにされており、且つ、前記中心線と交差する仮想平面上で前記中心線回りに位置する複数の歯を有しており、
前記可撓性部材には前記固定部材の歯数とは異なる歯数となる複数の歯が前記仮想平面に沿って前記中心線回りに位置するように形成されており、
前記入力部材は、前記可撓性部材と向かい合うように位置する端面と、その端面に前記可撓性部材に向けて突出するよう形成された山部と、を有しており、
前記中心線回りで回転する前記入力部材の山部で前記可撓性部材を前記固定部材に向けて突出するよう変形させるとともに、その変形に基づき前記可撓性部材における前記山部に対応して位置する歯を前記固定部材の歯に噛み合わせることにより、前記可撓性部材を前記入力部材よりも低い回転速度で前記中心線回りに回転させる減速機において、
前記中心線と交差する方向についての前記可撓性部材の位置を定める位置決め構造を有
するとともに、前記固定部材に対し前記中心線と交差する方向に連なるよう配置された回転部材を備えており、
前記回転部材は、前記中心線回りに回転可能とされており、且つ、前記仮想平面上で前記中心線回りに位置する複数の歯を有しており、
前記回転部材における複数の歯は、前記固定部材の歯数とは異なる歯数とされており、且つ、前記可撓性部材の歯のうち前記入力部材の山部に対応して位置する歯と噛み合っている減速機。
【請求項2】
前記入力部材の端面と前記可撓性部材とを互いに接近する方向に付勢する付勢部材を備えており、前記入力部材の端面は前記固定部材に近づくほど前記中心線に近づくよう傾斜する楕円錐面となっている請求項1に記載の減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
小型かつ減速比の高い減速機として、例えば特許文献1に示される波動減速機が知られている。
この減速機は、中心線上に配置された入力部材と可撓性部材と固定部材とを備えている。固定部材は、中心線回りに回転しないようにされており、且つ、中心線と交差する仮想平面上で中心線回りに位置する複数の歯を有している。可撓性部材には、複数の歯が形成されている。可撓性部材における複数の歯は、上記仮想平面に沿って中心線回りに位置している。可撓性部材の歯数は、固定部材の歯数とは異なっている。入力部材は、端面と山部とを有している。端面は、可撓性部材と向かい合うように位置している。山部は、可撓性部材に向けて突出するように上記端面に形成されている。
【0003】
上記減速機においては、中心線回りで回転する入力部材の山部により、可撓性部材が固定部材に向けて突出するよう変形させられる。その結果、可撓性部材における山部に対応して位置する歯が、固定部材の歯に噛み合わされる。これにより、可撓性部材が入力部材よりも低い回転速度で中心線回りに回転し、同可撓性部材の回転が減速機から出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の減速機では、中心線と交差する方向において、可撓性部材が固定部材及び入力部材に対しずれるおそれがある。これは、可撓性部材の周辺の部品との関係が、入力部材及び固定部材との次のような関係に限られているためである。すなわち、可撓性部材は、入力部材に対し接触しているだけであり、且つ、固定部材に対し一部の歯同士が噛み合っているだけである。
【0006】
そして、中心線と交差する方向において、可撓性部材が固定部材及び入力部材に対しずれると、次のようなことが生じる。入力部材の山部に押された可撓性部材が固定部材に向けて突出するよう変形したとき、可撓性部材の歯と固定部材の歯とに噛み合い不良が生じる。そして、その噛み合い不良に伴い、入力部材がロックするという状況を招くおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する減速機は、中心線上に配置された入力部材と可撓性部材と固定部材とを備える。固定部材は、中心線回りに回転しないようにされており、且つ、中心線と交差する仮想平面上で中心線回りに位置する複数の歯を有している。可撓性部材には固定部材の歯数とは異なる歯数となる複数の歯が仮想平面に沿って中心線回りに位置するように形成される。入力部材は、可撓性部材と向かい合うように位置する端面と、その端面に可撓性部材に向けて突出するよう形成された山部と、を有している。上記減速機においては、中心線回りで回転する入力部材の山部で可撓性部材を固定部材に向けて突出するよう変形させるとともに、その変形に基づき可撓性部材における山部に対応して位置する歯を固定部材の歯に噛み合わせることにより、可撓性部材が入力部材よりも低い回転速度で中心線回りに回転する。上記減速機は、中心線と交差する方向についての可撓性部材の位置を定める位置決め構造を有する。
【0008】
上記構成によれば、位置決め構造により、中心線と交差する方向についての可撓性部材の位置ずれが抑制される。このため、可撓性部材の歯と固定部材の歯とに噛み合い不良が生じることを抑制でき、その噛み合い不良に伴って入力部材がロックすることを抑制できる。
【0009】
上記減速機は、入力部材の端面と可撓性部材とを互いに接近する方向に付勢する付勢部材を備えるものとすることが考えられる。更に、上記入力部材の端面は固定部材に近づくほど中心線に近づくよう傾斜する楕円錐面とされる。
【0010】
この構成によれば、付勢部材により、入力部材の端面と可撓性部材とが互いに接近する方向に付勢される。これにより、入力部材の端面が楕円錐面であっても、可撓性部材を上記端面に沿うように変形させることができる。その結果、可撓性部材の歯のうち、山部に対応して位置する歯を固定部材の歯に噛み合わせるとともに、山部に対応して位置する歯以外の歯を固定部材の歯から離れるようにすることができる。
【0011】
上記減速機は、固定部材に対し前記中心線と交差する方向に連なるよう配置された回転部材を備えるものとすることが考えられる。そして、回転部材は、中心線回りに回転可能とされ、且つ、仮想平面上で中心線回りに位置する複数の歯を有するものとされる。回転部材における複数の歯は、固定部材の歯数とは異なる歯数とされ、且つ、可撓性部材の歯のうち入力部材の山部に対応して位置する歯と噛み合うものとされる。
【0012】
上記構成によれば、回転部材の回転を減速機の出力回転とすることにより、減速機の減速比をより大きくすることができる。また、回転部材が固定部材に対し中心線と交差する方向に連なるため、回転部材の追加によって減速機の中心線方向についての大型化を招くことも抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】同減速機の入力部材及びその周辺を示す側面図。
【
図10】同減速機のリング歯車及び回転部材を示す斜視図。
【
図11】同減速機の可撓性部材、板、及びローラーベアリングを示す斜視図。
【
図12】同減速機の入力部材及びその周辺を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下、減速機の第1実施形態について、
図1~
図4を参照して説明する。
図1に示す減速機は、波動減速機であって、中心線Lc上に配置された入力部材1と可撓性部材2と固定部材3とを備えている。入力部材1と可撓性部材2とは、中心線Lcに沿って並んでいる。固定部材3は、中心線Lc回りで入力部材1及び可撓性部材2を囲むように配置されている。固定部材3は、所定の箇所に固定されることにより、中心線Lc回りに回転しないようにされる。上記減速機では、入力部材1に対して回転が入力される。入力部材1の回転は可撓性部材2に伝達される。この可撓性部材2の回転が減速機から出力される。減速機の出力回転における回転速度は、減速機の入力回転における回転速度よりも低くされる。
【0015】
固定部材3は、中心線Lcに沿って並ぶハウジング4とリング歯車5と支持体6とを備えている。リング歯車5及び支持体6は、ボルト7によってハウジング4に固定されている。リング歯車5は、ハウジング4と支持体6との間に位置している。
図2は、リング歯車5を
図1の斜め上方から見た状態を示している。
図2から分かるように、リング歯車5は、中心線Lc回りに位置する複数の歯8を有している。これらの歯8は、中心線Lcと交差する仮想平面VF(
図1)上に位置している。
図1に示すように、ハウジング4には壁9が形成されている。壁9は、ハウジング4におけるリング歯車5と反対側の端部から中心線Lcに向けて突出している。
【0016】
固定部材3の内部には、可撓性部材2が配置されている。
図3は、可撓性部材2を
図1の斜め下方から見た状態を示している。
図3から分かるように、可撓性部材2は、中心部10と鍔部11とを備えている。中心部10は、リング状に形成されている。鍔部11は板状に形成されている。鍔部11は、中心部10に対して、中心線Lcから離れる方向に突出している。鍔部11の端には複数の歯13が形成されている。これらの歯13は、上記仮想平面VF(
図1)に沿って中心線Lc回りに位置している。
図1に示すように、可撓性部材2(鍔部11)の歯13は、固定部材3(リング歯車5)の歯8と対向している。可撓性部材2(鍔部11)の歯数は、固定部材3(リング歯車5)の歯数とは異なっている。
【0017】
可撓性部材2の中心部10には、出力部材14が固定されている。この固定は、ボルト24及びピン25によって実現される。出力部材14は、固定部材3の支持体6に回転可能に支持されている。これにより、出力部材14及び可撓性部材2は、中心線Lc回りに回転することが可能となる。また、出力部材14が支持体6に回転可能に支持されることにより、出力部材14及び可撓性部材2は中心線Lcと交差する方向についての位置が定められる。言い換えれば、減速機は、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材2の位置を定める位置決め構造を有している。
【0018】
固定部材3の内部であって、可撓性部材2よりも
図1の上側には、入力部材1が配置されている。入力部材1は、筒部15と押圧部16とを備えている。筒部15は、固定部材3のハウジング4の壁9に対し、ベアリング17を介して接している。押圧部16は、筒部15における可撓性部材2側の端部に位置しており、板状に形成されている。押圧部16は、筒部15に対して、中心線Lcから離れる方向に突出している。押圧部16の突出方向の端部と可撓性部材2の鍔部11との間には、多数のコロ18が中心線Lcを囲むように配置されている。そして、ベアリング17及び多数のコロ18により、入力部材1は中心線Lc回りに回転可能となっている。
【0019】
図4に示すように、入力部材1の押圧部16は、可撓性部材2(
図1)と向かい合う端面19を有している。端面19は、固定部材3のリング歯車5(
図1)に近づくほど中心線Lcに近づくよう傾斜する楕円錐面となっている。端面19には山部20が形成されている。山部20は、可撓性部材2に向けて、すなわち
図4の下に向けて突出している。
図1に示すように、入力部材1の押圧部16と固定部材3(ハウジング4)の壁9との間には、ウェーブスプリング21、板22、及びコロ23が配置されている。
【0020】
図4に示すように、コロ23は、板22と押圧部16との間に配置されている。
図1に示すように、ウェーブスプリング21は、壁9と板22との間に配置されている。ウェーブスプリング21の弾性力は、板22及びコロ23を介して入力部材1の押圧部16に作用する。これにより、入力部材1は、ウェーブスプリング21の弾性力により、可撓性部材2の鍔部11に向けて付勢される。言い換えれば、ウェーブスプリング21の弾性力により、押圧部16の端面19が可撓性部材2の鍔部11に対して接近する方向に付勢される。ウェーブスプリング21、板22、及びコロ23は、端面19と鍔部11とを互いに接近する方向に付勢する付勢部材として機能する。
【0021】
次に、本実施形態における減速機の動作について説明する。
減速機においては、入力部材1における押圧部16の端面19が可撓性部材2の鍔部11に対して接近する方向に付勢されることにより、その端面19に沿うように可撓性部材2の鍔部11が変形する。このとき、鍔部11は、端面19の山部20によって固定部材3のリング歯車5に向けて突出するように変形する。その結果、鍔部11の歯13のうち、山部20に対応して位置する歯13がリング歯車5の歯8に噛み合わされる。また、山部20に対応して位置する歯13以外の歯13がリング歯車5の歯8から離れる。
【0022】
減速機の入力部材1に対し回転が入力されると、入力部材1が中心線Lc回りに回転する。その結果、鍔部11の歯13のうち山部20に対応して位置する歯13、すなわちリング歯車5の歯8と噛み合う歯13が、入力部材1の回転に伴って中心線Lc回りで変化してゆく。このとき、鍔部11の歯数とリング歯車5の歯数とが異なっているため、上述した歯13と歯8との噛み合い位置の変化に伴い、可撓性部材2が入力部材1よりも低い回転速度で中心線Lc回りに回転する。こうした可撓性部材2の回転は、出力部材14の回転として減速機から出力される。
【0023】
減速機は、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材2の位置を定める位置決め構造を有している。この位置決め構造により、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材2の位置ずれが抑制される。このため、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材2の位置ずれにより、可撓性部材2における鍔部11の歯13と固定部材3におけるリング歯車5の歯8とに噛み合い不良が生じることを抑制できる。更に、その噛み合い不良に伴って入力部材1がロックすることを抑制できる。
【0024】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)入力部材1における押圧部16の山部20により、可撓性部材2の鍔部11がリング歯車5に向けて押されると、鍔部11における山部20に対応する部分がリング歯車5に向けて突出するよう変形する。このとき、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材2の位置ずれが生じることは抑制されるため、鍔部11の歯13とリング歯車5の歯8とに噛み合い不良が生じることは抑制される。
【0025】
(2)入力部材1は、ウェーブスプリング21の弾性力により、可撓性部材2の鍔部11に向けて付勢される。言い換えれば、ウェーブスプリング21の弾性力により、押圧部16の端面19が可撓性部材2の鍔部11に対して接近する方向に付勢される。これにより、入力部材1における押圧部16の端面19が楕円錐面であっても、可撓性部材2の鍔部11が上記端面19に沿うように変形する。その結果、可撓性部材2における鍔部11の歯13のうち、山部20に対応して位置する歯13を、固定部材3におけるリング歯車5の歯8に噛み合わせるとともに、山部20に対応して位置する歯13以外の歯13をリング歯車5の歯8から離れるようにすることができる。
【0026】
[第2実施形態]
次に、減速機の第2実施形態について、
図5~
図8を参照して説明する。
図5に示すように、減速機は、中心線Lc上に配置された入力部材31と可撓性部材32と固定部材33とを備えている。入力部材31は、中心線Lc回りで可撓性部材32を囲むように配置されている。固定部材33は、中心線Lc回りで入力部材31を囲むように配置されている。この減速機では、入力部材31に対して回転が入力されると、入力部材31の回転が可撓性部材32に伝達され、可撓性部材32の回転が減速機から出力される。減速機の出力回転における回転速度は、減速機の入力回転における回転速度よりも低くされる。
【0027】
入力部材31と可撓性部材32との間には、複数のボールベアリング39が配置されている。複数のボールベアリング39は、中心線Lcの延びる方向に沿って互いに接するように配置されている。入力部材31と固定部材33との間には、複数のボールベアリング39が配置されている。複数のボールベアリング40は、中心線Lcの延びる方向に沿って互いに接するように配置されている。ボールベアリング39,40は、外輪41と内輪42とボール43とを備えている。ボール43は、外輪41と内輪42との間で転がることが可能となっている。
【0028】
入力部材31及び可撓性部材32は、ボールベアリング39,40により、中心線Lc回りに回転することが可能となっている。また、ボールベアリング39,40により、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材32及び入力部材31の位置が定められている。言い換えれば、減速機は、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材2の位置を定める位置決め構造を有している。
【0029】
固定部材33は、中心線Lcに沿って並ぶハウジング34とリング歯車35とを備えている。ハウジング34は、抑え部材36を有している。抑え部材36は、中心線Lcの延びる方向におけるハウジング34の一方の端面に、ボルト36aによって取り付けられている。リング歯車35は、中心線Lcの延びる方向におけるハウジング34の端面のうち、抑え部材36を取り付けた端面と反対側の端面に、ボルト37によって固定されている。
図6に示すように、リング歯車35は、中心線Lc回りに位置する複数の歯38を有している。これらの歯38は、中心線Lcと交差する仮想平面VF(
図5)上に位置している。
【0030】
図7に示すように、可撓性部材32は、中心部44と鍔部45とを備えている。中心部44は、筒状に形成されている。鍔部45は板状に形成されている。鍔部45は、中心部44に対して、中心線Lcから離れる方向に突出している。鍔部45の端には複数の歯46が形成されている。これらの歯46は、上記仮想平面VF(
図5)に沿って中心線Lc回りに位置している。
図5に示すように、可撓性部材32(鍔部45)の歯46は、固定部材33(リング歯車35)の歯38と対向している。可撓性部材32(鍔部45)の歯数は、固定部材33(リング歯車35)の歯数とは異なっている。中心部44は、抑え部材49を有している。抑え部材49は、中心線Lcの延びる方向における中心部44の一方の端面に、ボルト49aによって取り付けられている。
【0031】
入力部材31は、筒部47と押圧部48とを備えている。筒部47は、抑え部材50を有している。抑え部材50は、中心線Lcの延びる方向における筒部47の一方の端面に、ボルト50aによって取り付けられている。押圧部48は、中心線Lcの延びる方向における筒部47の端面のうち、抑え部材50を取り付けた端面と反対側の端面に形成されている。押圧部48と可撓性部材32の鍔部45との間には、多数のコロ51が中心線Lcを囲むように配置されている。
【0032】
図8に示すように、入力部材31の押圧部48は、可撓性部材32の鍔部45(
図5)と向かい合う端面52を有している。端面52は、固定部材33のリング歯車35(
図5)に近づくほど中心線Lcに近づくよう傾斜する楕円錐面となっている。端面52には山部53が形成されている。山部53は、可撓性部材32の鍔部45に向けて、すなわち
図8の下に向けて突出している。
【0033】
次に、減速機におけるボールベアリング39,40回りの構造について説明する。
図5に示すように、入力部材31における筒部47の内周面には凹部54が形成されている。筒部47の外周面には凹部55が形成されている。可撓性部材32における中心部44の外周面には、筒部47の凹部54と対向するように凹部56が形成されている。固定部材33におけるハウジング34の内周面には、筒部47の凹部55と対向するように凹部57が形成されている。
【0034】
ボールベアリング40の外輪41は、ハウジング34の凹部57に収容されている。ボールベアリング40の内輪42は、筒部47の凹部55に収容されている。ボールベアリング39の外輪41は、筒部47の凹部54に収容されている。ボールベアリング39の内輪42は、中心部44の凹部56に収容されている。
【0035】
そして、ハウジング34に抑え部材36が取り付けられるとともに、筒部47に抑え部材50が取り付けられることにより、ボールベアリング40が凹部55と凹部57との間に保持される。また、筒部47に抑え部材50が取り付けられるとともに、中心部44に抑え部材49が取り付けられることにより、ボールベアリング39が凹部54と凹部56との間に保持される。
【0036】
上述したようにボールベアリング39が凹部54と凹部56との間に保持されたとき、可撓性部材32の鍔部45が入力部材31の押圧部48に向けて付勢される。すなわち、こうした付勢が行われるように可撓性部材32の凹部56と鍔部45との相対位置が定められている。このときには、可撓性部材32の鍔部45が押圧部48の端面52に対して接近する方向に付勢される。ボールベアリング39、凹部56を有する中心部44、抑え部材49、及びボルト49aは、端面52と鍔部45とを互いに接近する方向に付勢する付勢部材としての役割を担う。
【0037】
次に、本実施形態における減速機の動作について説明する。
減速機においては、可撓性部材32の鍔部45が入力部材31における押圧部48の端面52に対して接近する方向に付勢されることにより、その端面52に沿うように可撓性部材32が変形する。このとき、鍔部45は、端面52の山部53によって固定部材33のリング歯車35に向けて突出するように変形する。その結果、鍔部45の歯46のうち、山部53に対応して位置する歯46がリング歯車35の歯38に噛み合わされる。また、山部53に対応して位置する歯46以外の歯46がリング歯車35の歯38から離れる。
【0038】
減速機の入力部材31に対し回転が入力されると、入力部材31が中心線Lc回りに回転する。その結果、鍔部45の歯46のうち山部53に対応して位置する歯46、すなわちリング歯車35の歯38と噛み合う歯46が、入力部材31の回転に伴って中心線Lc回りで変化してゆく。このとき、鍔部45の歯数とリング歯車35の歯数とが異なっているため、上述した歯46と歯38との噛み合い位置の変化に伴い、可撓性部材32が入力部材31よりも低い回転速度で中心線Lc回りに回転する。こうした可撓性部材32の回転が減速機から出力される。
【0039】
減速機は、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材32の位置を定める位置決め構造を有している。この位置決め構造により、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材32の位置ずれが抑制される。このため、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材32の位置ずれにより、可撓性部材32における鍔部45の歯46と固定部材33におけるリング歯車35の歯38とに噛み合い不良が生じることを抑制できる。更に、その噛み合い不良に伴って入力部材31がロックすることを抑制できる。
【0040】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(3)入力部材31における押圧部48の山部53により、可撓性部材32の鍔部45がリング歯車35に向けて押されると、鍔部45における山部53に対応する部分がリング歯車35に向けて突出するよう変形する。このとき、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材32の位置ずれが生じることは抑制されるため、鍔部45の歯46とリング歯車35の歯38とに噛み合い不良が生じることは抑制される。
【0041】
(4)ボールベアリング39が凹部54と凹部56との間に保持されたとき、可撓性部材32の鍔部45が入力部材31の押圧部48に向けて付勢されるように、可撓性部材32の凹部56と鍔部45との相対位置が定められている。上述した鍔部45の押圧部48に向けた付勢により、鍔部45が押圧部48の端面52に対し接近する方向に付勢される。これにより、入力部材31における押圧部48の端面52が楕円錐面であっても、可撓性部材32の鍔部45が上記端面52に沿うように変形する。その結果、可撓性部材32における鍔部45の歯46のうち、山部53に対応して位置する歯46を、固定部材33におけるリング歯車35の歯38に噛み合わせるとともに、山部53に対応して位置する歯46以外の歯46をリング歯車35の歯38から離れるようにすることができる。
【0042】
[第3実施形態]
次に、減速機の第3実施形態について、
図9~
図12を参照して説明する。
図9に示すように、減速機は、中心線Lc上に配置された入力部材61と可撓性部材62と固定部材63と回転部材66とを備えている。入力部材61と可撓性部材62と回転部材66は、中心線Lcに沿って並んでいる。固定部材63は、中心線Lc回りで入力部材61、可撓性部材62、及び回転部材66を囲むように配置されている。この減速機では、入力部材61に対して回転が入力されると、入力部材61の回転が可撓性部材62に伝達され、可撓性部材62の回転が回転部材66に伝達される。この回転部材66の回転が減速機から出力される。減速機の出力回転における回転速度は、減速機の入力回転における回転速度よりも低くされる。
【0043】
固定部材63は、中心線Lcに沿って並ぶハウジング64とリング歯車65とを備えている。リング歯車65は、ボルト67によってハウジング64に固定されている。リング歯車5は、中心線Lcの延びる方向におけるハウジング64の一方の端部に位置している。回転部材66は、リング状に形成されており、固定部材63のリング歯車65によって囲まれている。回転部材66は、リング歯車65に対し、中心線Lcと交差する方向に連なるよう配置されている。回転部材66は、リング歯車65により、中心線Lc回りに回転可能に支持されている。
【0044】
図10は、リング歯車65及び回転部材66を
図9の斜め上方から見た状態を示している。
図10から分かるように、リング歯車65は、中心線Lc回りに位置する複数の歯68を有している。これらの歯68は、中心線Lcと交差する仮想平面VF(
図9)上に位置している。回転部材66は、中心線Lc回りに位置する複数の歯70を有している。これらの歯70は、中心線Lcと交差する仮想平面VF(
図9)上に位置している。回転部材66における複数の歯70は、リング歯車65の歯数とは異なる歯数とされている。
図9に示すように、固定部材63のハウジング64には壁69が形成されている。壁69は、ハウジング64におけるリング歯車65と反対側の端部から中心線Lcに向けて突出している。
【0045】
図11に示すように、可撓性部材62は、中心部71と鍔部72とを備えている。中心部71は、リング状に形成されている。鍔部72は板状に形成されている。鍔部72は、中心部71に対して、中心線Lcから離れる方向に突出している。鍔部72の端には複数の歯73が形成されている。これらの歯73は、上記仮想平面VF(
図9)に沿って中心線Lc回りに位置している。
図9に示すように、可撓性部材62(鍔部72)の歯73は、固定部材63(リング歯車65)の歯68と対向しているとともに、回転部材66の歯70と対向している。可撓性部材62(鍔部72)の歯数は、固定部材63(リング歯車65)の歯数とは異なっている。
【0046】
可撓性部材62の中心部71は、回転部材66に対し、ベアリング74,85によって中心線Lc回りに回転可能に支持されている。このように可撓性部材62(中心部71)が回転部材66に対し回転可能に支持されるとともに、その回転部材66が固定部材3のリング歯車65に対し回転可能に支持されることにより、可撓性部材62及び回転部材66は中心線Lcと交差する方向についての位置が定められる。言い換えれば、減速機は、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材62の位置を定める位置決め構造を有している。
【0047】
固定部材63の内部であって、可撓性部材62よりも
図1の上側には、入力部材61が配置されている。入力部材61は、リング部75と押圧部76とを備えている。リング部75は、固定部材63のハウジング64の壁69に対し、ベアリング77を介して接している。押圧部76は、リング部75における可撓性部材62側の端部に位置しており、板状に形成されている。押圧部76は、リング部75に対して、中心線Lcから離れる方向に突出している。押圧部76の突出方向の端部と可撓性部材62の鍔部72との間には、ローラーベアリング78及び円環状の板79が中心線Lcを囲むように配置されている。これらローラーベアリング78及び板79を
図11に示す。そして、
図9に示すベアリング77及びローラーベアリング78により、入力部材61は中心線Lc回りに回転可能となっている。
【0048】
図12に示すように、入力部材61の押圧部76は、可撓性部材62(
図9)と向かい合う端面80を有している。端面80は、固定部材63のリング歯車65(
図9)に近づくほど中心線Lcに近づくよう傾斜する楕円錐面となっている。端面80には山部81が形成されている。山部81は、可撓性部材62に向けて、すなわち
図12の下に向けて突出している。
図9に示すように、入力部材61の押圧部76と固定部材63(ハウジング64)の壁69との間には、ウェーブスプリング82、板83、及びローラーベアリング84が配置されている。
【0049】
ローラーベアリング84は、板83と押圧部76との間に配置されている。ウェーブスプリング82は、壁69と板83との間に配置されている。ウェーブスプリング82の弾性力は、板83及びウェーブスプリング82を介して入力部材61の押圧部76に作用する。これにより、入力部材61は、ウェーブスプリング82の弾性力により、可撓性部材62に向けて付勢される。言い換えれば、ウェーブスプリング82の弾性力により、押圧部76の端面80が可撓性部材62の鍔部72に対して接近する方向に付勢される。ウェーブスプリング82、板83、及びローラーベアリング84は、端面80と鍔部72とを互いに接近する方向に付勢する付勢部材として機能する。
【0050】
次に、本実施形態における減速機の動作について説明する。
減速機においては、入力部材61における押圧部76の端面80が可撓性部材62の鍔部72に対して接近する方向に付勢されることにより、その端面80に沿うように可撓性部材62の鍔部72が変形する。このとき、鍔部72は、端面80の山部81によって固定部材63のリング歯車65及び回転部材66に向けて突出するように変形する。その結果、鍔部72の歯73のうち、山部81に対応して位置する歯73がリング歯車65の歯68及び回転部材66の歯70に噛み合わされる。また、山部81に対応して位置する歯73以外の歯73がリング歯車65の歯68及び回転部材66の歯70から離れる。
【0051】
減速機の入力部材61に対し回転が入力されると、入力部材61が中心線Lc回りに回転する。その結果、鍔部72の歯73のうち山部81に対応して位置する歯73、すなわちリング歯車65の歯68及び回転部材66の歯70と噛み合う歯73が、入力部材61の回転に伴って中心線Lc回りで変化してゆく。このとき、鍔部72の歯数とリング歯車65の歯数とが異なっているため、上述した歯73と歯68,70との噛み合い位置の変化に伴い、可撓性部材62が入力部材1よりも低い回転速度で中心線Lc回りに回転する。更に、リング歯車65の歯数と回転部材66の歯数とが異なっており、それら歯数の調整及びリング歯車65の歯数の調整によって、回転部材66を可撓性部材62よりも低い回転速度で中心線Lc回りに回転させることができる。こうした回転部材66の回転が減速機から出力される。
【0052】
減速機は、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材62の位置を定める位置決め構造を有している。この位置決め構造により、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材62の位置ずれが抑制される。このため、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材62の位置ずれにより、可撓性部材62における鍔部72の歯73とリング歯車65の歯68及び回転部材66の歯70とに噛み合い不良が生じることを抑制できる。更に、その噛み合い不良に伴って入力部材61がロックすることを抑制できる。
【0053】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(5)入力部材61における押圧部76の山部81により、可撓性部材62の鍔部72がリング歯車65及び回転部材66に向けて押されると、鍔部72における山部81に対応する部分がリング歯車65及び回転部材66に向けて突出するよう変形する。このとき、中心線Lcと交差する方向についての可撓性部材62の位置ずれが生じることは抑制されるため、鍔部72の歯73とリング歯車65の歯68及び回転部材66の歯70とに噛み合い不良が生じることも抑制されるようになる。
【0054】
(6)入力部材61は、ウェーブスプリング82の弾性力により、可撓性部材62の鍔部72に向けて付勢される。言い換えれば、ウェーブスプリング82の弾性力により、押圧部76の端面80が鍔部72に対して接近する方向に付勢される。これにより、入力部材61における押圧部76の端面80が楕円錐面であっても、可撓性部材62の鍔部72が上記端面80に沿うように変形する。その結果、可撓性部材62における鍔部72の歯73のうち、山部81に対応して位置する歯73を、固定部材63におけるリング歯車65の歯8及び固定部材63の歯70に噛み合わせるとともに、山部81に対応して位置する歯73以外の歯73をリング歯車65の歯68及び固定部材63の歯70から離れるようにすることができる。
【0055】
(7)可撓性部材62の歯73がリング歯車65の歯68及び回転部材66の歯70と噛み合う。そして、可撓性部材62、リング歯車65、及び回転部材66の歯数の調整により、回転部材66の回転を可撓性部材62の回転よりも低くすることができる。この回転部材66の回転を減速機の出力回転とすることにより、減速機の減速比をより大きくすることができる。また、回転部材66が固定部材63のリング歯車65に対し中心線Lcと交差する方向に連なるため、回転部材66の追加によって減速機の中心線Lc方向についての大型化を招くことも抑制される。
【0056】
[その他の実施形態]
なお、上記各実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0057】
・第3実施形態において、リング歯車65の歯数と回転部材66の歯数とが異なるとともに、リング歯車65の歯数と可撓性部材62の歯数とが異なっていることを条件に、それら歯数を適宜変更してもよい。
【0058】
・第3実施形態において、回転部材66を省略し、可撓性部材62の回転を減速機からの出力回転としてもよい。
・第1~第3実施形態において、入力部材の端面と可撓性部材との互いに接近する方向についての付勢は、必ずしもスプリングやベアリングを利用して行うものである必要はなく、ねじの締め込み等を利用して行うものであってもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…入力部材、2…可撓性部材、3…固定部材、4…ハウジング、5…リング歯車、6…支持体、7…ボルト、8…歯、9…壁、10…中心部、11…鍔部、13…歯、14…出力部材、15…筒部、16…押圧部、17…ベアリング、18…コロ、19…端面、20…山部、21…ウェーブスプリング、22…板、23…コロ、24…ボルト、25…ピン、31…入力部材、32…可撓性部材、33…固定部材、34…ハウジング、35…リング歯車、36…抑え部材、36a…ボルト、37…ボルト、38…歯、39…ボールベアリング、40…ボールベアリング、41…外輪、42…内輪、43…ボール、44…中心部、45…鍔部、46…歯、47…筒部、48…押圧部、49…抑え部材、49a…ボルト、50…抑え部材、50a…ボルト、51…コロ、52…端面、53…山部、54…凹部、55…凹部、56…凹部、57…凹部、61…入力部材、62…可撓性部材、63…固定部材、64…ハウジング、65…リング歯車、66…回転部材、67…ボルト、68…歯、69…壁、70…歯、71…中心部、72…鍔部、73…歯、74…ベアリング、75…リング部、76…押圧部、77…ベアリング、78…ローラーベアリング、79…板、80…端面、81…山部、82…ウェーブスプリング、83…板、84…ローラーベアリング、85…ベアリング。