IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 井上 虎男の特許一覧

<>
  • 特許-サイフォン排水設備 図1
  • 特許-サイフォン排水設備 図2
  • 特許-サイフォン排水設備 図3
  • 特許-サイフォン排水設備 図4
  • 特許-サイフォン排水設備 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】サイフォン排水設備
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/18 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
E02B7/18
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020194072
(22)【出願日】2020-11-24
(65)【公開番号】P2022082907
(43)【公開日】2022-06-03
【審査請求日】2023-09-25
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】000118970
【氏名又は名称】井上 虎男
(72)【発明者】
【氏名】井上 虎男
(72)【発明者】
【氏名】井上 晃一
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特許第5956789(JP,B2)
【文献】特開2014-163202(JP,A)
【文献】特開2014-196656(JP,A)
【文献】特開平10-131156(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0132591(KR,A)
【文献】特開2008-088896(JP,A)
【文献】実開昭59-069232(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイフォン排水設備において、サイフォン排水管の吐出端を、該サイフォン排水管口径よりも高くして開口させ、該サイフォン排水管内水が滞留して封水し得る上下方向の窪みを設けて吐出させ、併置した水噴射で吸気するエジェクターの気水排出口端水を該窪み部に流入させるようにして封水し、該エジェクターの吸気口を、該サイフォン排水管の頭頂近くに接続連通して、該サイフォン排水管内空気を抽気させて呼び水を行うようにしたサイフォン排水設備。
【請求項2】
併置するエジェクターの駆動水にサイフォン排水管と同一吸水域内水を、該エジェクターとの落差を持って供給するようにした請求項1のサイフォン排水設備。
【請求項3】
サイフォン排水管の吐出端近くの一定長さを、流入側を低く、流出側を該サイフォン排水管の流入側よりも該サイフォン排水管口径以上高くして開口させ、併置したエジェクターの気水排出口端水を該サイフォン排水管内に導入すべく接続連通させて一体化し、該サイフォン排水管の流入側をサイフォン排水管の流出側端に接続しやすくして開口させると共に、併置した該エジェクターの吸気口を該サイフォン排水管の抽気ホースに接続しやすくして開口させた請求項1、請求項2いずれかのサイフォン排水設備のエジェクターユニット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、峡谷河川が山崩れ等で埋まり生じる“せき止め湖”の排水を行う場合や、台風豪雨で発生する閉鎖水域の排水、砂防堰に堆積する砂泥を下流に流下させ、砂防堰の防災機能回復を図る越堤流砂、水処理施設の沈殿物除去等に使用するサイフォン排水管始動時の呼び水に関するものであり、大口径サイフォン排水においても電気、エンジン等の動力を使用することなく、人力作業でサイフォン排水の呼び水通水作業が行えるようにするものである。
【背景技術】
【0002】
無動力のサイフォン排水が最も役に立つのは災害時であり、その多くが山間僻地、足場の悪い場所での緊急作業である。
サイフォン現象を利用した排水を行うためには、サイフォン排水管内を満水に近い状態に呼び水する必要があり、小径ホースの場合では、あらかじめ都合の良い場所で満水にしたホースを使用することや、人力で注水呼び水することも比較的簡単に行えて、手軽な排水方法であるが、サイフォン排水管端部を手のひらで封止でき難い口径以上では、口径が大きくなるに連れ、人力による呼び水作業は困難になる。
【0003】
従来の大口径サイフォン排水管の呼び水作業では、吸水口端を吸水域に没水させ、排水側端部にバルブを設け、排水管頭頂部に真空ポンプを備えて真空引きする方法と、サイフォン排水管の吸水端にもフートバルブを備えて、排水管頭頂部や、排水管途中にポンプで注水して満水させる方法等が通常行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許 第5956789号
【文献】特開2014-163202
【文献】特開2014-196656
【文献】特開1998-131156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無動力が最大の利点であるサイフォン排水においても、口径が大きくなるに連れ、人力での始動時呼び水が容易でなくなり、揚水ポンプや真空ポンプを使用するようになり、駆動するエンジン動力、大口径バルブ類が必要になるばかりでなく、作業量も増え、まったくの無動力でもなくなる問題がある。
【0006】
サイフォン排水を使用できる状況の工業的な設備、常用的な施設、特には泥土沈殿物を取扱う水処理施設に於いても、呼び水に真空ポンプを使用するならば、手軽で簡単、静かな水中ポンプ排水の方が安心と、省エネ化の支障にもなっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、サイフォン排水管が吸水端から堰堤越えして排水端に至る、該サイフォン排水管の吐出端を該排水管口径よりも高くして、該吐出端近くの管路に上下方向に中窪みした封水域を設けて吐出させ、該封水域管路外に水噴射で吸気するエジェクターを併置し、該エジェクターの気水排出管端を該サイフォン排水管の封水域に接続連通して、該気水排出管端水を該封水域に流入滞留させ、該サイフォン排水管端管路を封水する。
【0008】
該エジェクターの駆動水には、通常サイフォン排水管と同一吸水域内水をホース等の給水管を使用してサイフォン吸水させて水位差加圧状態で供給して使用する。
該駆動水ホースの初期呼び水は、予め満水した駆動水ホースを接続することや、エジェクターに接続した駆動水ホースの堰堤頭頂部付近に給水口を設けて注水する、或いは、頭頂部堰堤上に駆動水ホースの吸水口を引き上げて注水し、満水させた状態で吸水域に放り込む等の手作業で呼び水するけれども、小口径であり取り扱いやすく、注水量も少なく、難渋しない程度の作業範囲にできる。
【0009】
該エジェクターの吸気口は、抽気ホースを配設してサイフォン排水管の頭頂部に設けた抽気口に接続連通して、サイフォン排水管内空気を吸入させ呼び水する。
【0010】
工業的設備に使用する場合のサイフォン排水設備のエジェクター駆動水は、使用場所、状況に応じて該サイフォン排水域内水や外部水源水をポンプ加圧して供給することや、工業用水道水を接続給水することでサイフォン排水管の呼び水を行うことができ、サイフォン排水作業を容易に開始でき、工業的制御、自動化もできやすい。
【0011】
災害時に使用するサイフォン排水設備の場合では、必要機材の中の一部をユニット化して、予め用意しておくと便利である。
即ち、サイフォン排水管の抽気接続口と排水停止時の吸気口を備えた頭頂接続管と、サイフォン排水管の吐出端近くに封水域を形成する排水管部とエジェクターを一体化し、泥湿地で搬送しやすくすらせ板を備える等して一体化したエジェクターユニットにした準備があれば、他の機材部品は一般市場品として購入が容易なものであり緊急時の対応ができやすくなる。
【0012】
災害時現場においては、前記するような準備した機材を搬入敷設し、いずれかの方法での呼び水作業を人力で行い駆動水ホースに通水すればエジェクターが稼働する。
稼働と同時にサイフォン排水管内の抽気作業が始まり、吐出端近くの封水域に、エジェクターの気水排出口からの噴出水が溜まり始め、空気分は下流排水管端、或いは、必要に応じて設ける排気管から放出される。
封水域に溜まる封水が管路の天井に達した時点から排水管路の封水域前後が封止され、該サイフォン排水管の吸水側吸水域水面から該封水域間管路の抽気が進行して負圧が上昇する。
【0013】
該負圧の進行に応じてサイフォン排水管の両端水位は、吸水口側排水管内水位の上昇高さと同高さの、排水側封水域内方(上流側)水位がエジェクターからの気水排出口水で補給される形で上昇し、水位のバランスを保ちながら必要管内負圧を得て吸水側サイフォン排水管内水が頭頂部を超え排水を開始し、排水による排気作用も加わり、やがて排水管路が満水状態になり吸水域水面水位と、サイフォン排水管の吐出口高さとの水位差で排水する。
【発明の効果】
【0014】
前記するような本発明は、大口径サイフォン排水の呼び水作業もエジェクターの駆動水ホースの小口径ホースの呼び水作業に替わり、人力で可能な作業に軽減でき、ポンプや真空ポンプ、発電機、エンジン等をまったく必要とせず、サイフォン排水管路に於いては、バルブ類も必要としない設備にできる。
【0015】
更に大きな超大口径サイフォン排水の場合であっても、エジェクター駆動水ホースに、もう1段のエジェクターユニットを付加することにより、1段大きなエジェクターを使用してサイフォン排水管の呼び水を行うことや、超大口径サイフォン排水管に2基、3基のエジェクターを並置して抽気させて、呼び水作業時間の短縮を図ることもできる。
【0016】
サイフォン排水管の抽気呼び水を行うエジェクター駆動水のノズル噴出水速度は、エジェクター駆動水の圧力(サイフォン落差給水の場合は大略、吸水域水位とノズル噴出口の水位差)とノズル外周辺圧力(抽気ホースで接続したサイフォン排水管内頭頂部負圧)の差で噴出する構成となるために、サイフォン排水管内抽気の進行に連れ差圧は大きくなり、噴出水速度が上昇し、吸気能力が増大する機能は非常に好都合に作用する。
特に、低水位差のサイフォン排水設備のエジェクター駆動水の場合には、吸気力を助長して呼び水機能を高める効果が大きい。
【0017】
本発明サイフォン排水設備は、設備に機械的な回動部品がなく、構成がシンプルであり低コスト設備にできるばかりでなく、搬送や取扱い操作が非常に容易である。
【0018】
又、サイフォン排水路にまったく仕切弁等のバルブを設けない管路は、最大の夾雑物を通過させることができ、災害時の排水設備にふさわしいものである。
サイフォン排水を浚渫作業や水処理施設の除泥排水に使用する場合に於いても、管路材以外の消耗品のない低コストの設備にするばかりでなく、耐蝕性、耐摩耗への対応もできやすい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施例装置の堰堤部近傍の断面図である。
図2】呼び水用エジェクターユニットの三面図を示す。
図3】サイフォン排水管の頭頂接続管を示す。
図4】タンク部を備えたエジェクターユニットの二面図である。
図5】エジェクターの内部構造図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図1図5に基づいて説明する。
【実施例1】
【0021】
本発明の第1実施例であるサイフォン排水設備を示す図1は、せき止め湖、湖沼、溜池、砂防堰、等の堰堤1の断面方向の設置形態を示すものである。
サイフォン排水管11は、吸水域2内水をストレーナー11Cを通し、吸水口aから吸水し、吸水側サイフォン排水管11A、頭頂接続管31、排出側サイフォン排水管11Bを介在させ、堰堤1を越えてエジェクター取付管41に接続連通し、吐出口cから排出する。
該エジェクター取付管41の吐出口cは、該エジェクター取付管41の管路口径よりも高くして吐出させ、該吐出口cの上流側に溜り部、即ち、封水部を設けて吐出させる、該下流は必要に応じてホース等を接続介在させて排水口dから排水溝3に排水する。
【0022】
エジェクター取付管41には、サイフォン排水管11の始動時呼び水を行うための、水噴射で吸気するエジェクター51を併置し、駆動水接続口51Aに駆動水ホース20を接続して、サイフォン配管して吸水域2内水を水位差で加圧供給して稼働させる。
該エジェクター51の内部構造は、図5に示す通りである。
【0023】
該エジェクター51の吸気接続口51Cは、抽気ホース40を接続配管して、堰堤1の頭頂接続管31の抽気接続口31Aに接続連通して、サイフォン排水管11内空気を抽気させる。
【0024】
エジェクター51の構造図、図5のj部に接続する気水排出口51Bは、エジェクター取付管41に下流方向に傾斜させて接続連通し、該気水排水口51Bの噴出水が該エジェクター取付管41又は排水側サイフォン排水管11Bのいずれかを満たし封水を開始した後は、サイフォン排水管11内負圧が上昇するために、封水上流側水面水位が上昇する分の水量を補充しつつ、残分は混入空気と共に吐出口cから排出される構成にしたものである。
【0025】
エジェクター駆動水ホース20のサイフォン配管による給水の始動時呼び水については、駆動水ホース20の配管径は、サイフォン排水管11に比較し小径であり取扱いやすく、注水する水量も少ない。
該駆動ホース20は、吸水端に逆止弁を備えたフートバルブを使用し、他端にバルブと接続金具を備えた物を使用する場合は、事前に満水にした駆動水ホース20として搬入することや、吸水域2の足場の良い所で満水にした後、接続し使用する。
該駆動水ホース20の頭頂部に注水口を設けて注水して満水させることもできる。
【0026】
又、駆動水ホース20の吸水端にフートバルブを備えないホースにあっては、エジェクター51に接続を終了した駆動水ホース20の吸水端を堰堤上に引き上げ、吸水端から注水満水させて、吸水域2に放り込む形で投入して後、接続端のバルブを開き通水し、エジェクター51を稼働させ、サイフォン排水管11の抽気呼び水を行う。
【0027】
サイフォン排水設備を水処理施設や工場プラント等の通常施設に使用する場合のエジェクターの駆動水に於いては、サイフォン排水する水域と同一吸水域内水や、別途水源水をポンプ加圧して使用することや、工業用水道水を接続して使用することで高い圧力水が得やすくなり、より簡単便利にエジェクターでの吸気、呼び水が行える。
【0028】
常に一体的に取り扱う必要のあるエジェクター51と、吐出口cを備えたエジェクター取付管41は一体化して、図2に図示するように、すらせ板41Bを備えて、エジェクターユニット50Aとすることによって、災害時対応の取扱い搬送や保管が行いやすい。
【0029】
図4に図示するエジェクターユニット50Bは、取付長さが制限される場合に使用するものであり、エジェクター取付管の高さが変位する部分のみのエジェクター取付管42上に、該エジェクター取付管42の上半を囲う形のタンク42Cを設け、該タンク上にエジェクター52を載置一体化し、気水排出口52Bをタンク42Cに接続し開放、タンク42C上辺には排気口42Aを立設すると共に、該タンク42C内の傾斜したエジェクター取付管42の上半上方に空気穴e、下方に通水穴fを開窄した構成のエジェクターユニットである。
【0030】
エジェクターユニット52Bは、エジェクター取付管42の水平部のない構成であるけれども、上流側に接続する排出側サイフォン排水管11Bは堰堤1を上方に向け配設するものであり、エジェクター取付管42との間に封水部が形成される。
タンク42Cに噴入する気水排出口52の気水はタンク42C内で分離され、水は通水穴fからエジェクター取付管42内に流入して封水となり、空気は排気管42Aから放出される。
又、サイフォン排水管11内に発生、或いは、混入する空気は、空気穴eからタンク42C内に入り、排気管42Aから排出される。
【0031】
呼び水が進行し、サイフォン排水管11が正常な排水状態になった後の駆動水ホース20、及び、抽気ホース40は、吸水域2内水を使用する場合は、そのまま放置しても支障するものではないが、それぞれのホースに設けたバルブを閉止して停止できる。
【0032】
尚、駆動水ホース20の頭頂部に呼び水の注水口を設けたものにあっては、該注水口を開放吸気させて停止することもできるが、再稼働時には再度の呼び水作業が必要になる。
【0033】
バルブをまったく設けないサイフォン排水管11の排水を排水途中で停止する場合は、頭頂接続管31に設けた開放弁31Bを開放し吸気させて停止する。
【産業上の利用可能性】
【0034】
温暖化に依る異常気象の今日、動力不要のサイフォン排水設備は積極的に使用されるべき設備であるが、使用開始時の呼び水の問題で使用が敬遠されてきた。
本発明のサイフォン排水設備は、通常の工業的設備として設置する場合に於いても、災害時非常用設備として準備保管して、災害時に使用する物に於いても、保管が容易、メンテナンス不要、設備費も安く動力費も掛からない、唯一の問題点は使用開始時の呼び水であった、この問題点をエジェクターユニットとして解決できた本発明サイフォン排水設備は一つの揚水手段として使用されやすいと思慮する。
【符号の説明】
【0035】
1 堰堤
2 吸水域
3 排水溝
11 サイフォン排水管/全体を指す
11A 吸水側サイフォン排水管
11B 排出側サイフォン排水管
11C ストレーナー
20 駆動水ホース
21C ストレーナー
31 頭頂接続管
31A 抽気接続口
31B 開放弁
40 抽気ホース
41、42 エジェクター取付管
41A、42A 排気管
41B、42B すらせ板
42C タンク
50A、50B エジェクターユニット
51、52 エジェクター
51A、52A 駆動水接続口
51B、52B 気水排出口
51C、52C 吸気接続口
a 吸水口
b 接続口
c 吐出口
d 排水口
e 空気穴
f 通水穴
g タンク水
h ノズル
i 吸気室
j (気水排出管)接続口


図1
図2
図3
図4
図5