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特許7533953嚥下評価装置、嚥下評価システム、嚥下評価方法及び嚥下評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】嚥下評価装置、嚥下評価システム、嚥下評価方法及び嚥下評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
A61B5/11 310
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021100455
(22)【出願日】2021-06-16
(62)【分割の表示】P 2021514440の分割
【原出願日】2020-10-23
(65)【公開番号】P2022069382
(43)【公開日】2022-05-11
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】520382569
【氏名又は名称】PLIMES株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】ジャヤティラカ プラバーット ドゥシヤンタ
(72)【発明者】
【氏名】下柿元 智也
(72)【発明者】
【氏名】仁田坂 淳史
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-051129(JP,A)
【文献】特表2018-516616(JP,A)
【文献】特表2019-509094(JP,A)
【文献】鈴木 健嗣,AIを活用した嚥下用POCT機器の実現に向けて,嚥下医学,2020年09月20日,Vol.9, No.2,pp.166-170,ISSN:2186-3199
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
象者の嚥下の履歴を管理する嚥下履歴管理部と、
前記対象者から取得したバイタルサインを管理するバイタルサイン管理部と、
前記バイタルサインからバイタルサイン異常を検出するバイタルサイン異常検出部と、
前記バイタルサイン異常と前記嚥下との時間的因果関係を含むデータとに基づいて、誤嚥性による肺炎が発生した可能性があるかを示す誤嚥サインを評価の結果として出力する誤嚥サイン評価部と、
前記評価の結果に基づいて出力を制御する出力制御部と、
を備え、
前記誤嚥サイン評価部は、前記バイタルサイン異常に関わる前記バイタルサインの変化が生じた時刻と、前記嚥下の時刻とを用いて、前記バイタルサイン異常の前に嚥下がある場合に、誤嚥に起因して肺炎が起きた可能性があるとして前記誤嚥サインを出力する
ことを特徴とする嚥下評価装置。
【請求項2】
嚥下に関連する動作である嚥下関連動作の履歴を管理する嚥下関連動作管理部をさらに備え、
前記誤嚥サイン評価部は、前記嚥下関連動作の履歴をさらに用いて前記誤嚥の発生を評価する
ことを特徴とする請求項1に記載の嚥下評価装置。
【請求項3】
前記嚥下関連動作管理部は、前記対象者の姿勢、咳、呼吸音のうち少なくともいずれか一つを前記嚥下関連動作として管理することを特徴とする請求項2に記載の嚥下評価装置。
【請求項4】
前記誤嚥サイン評価部は、呼吸音の異常が検出されていれば、誤嚥の可能性を高く評価し、誤嚥のリスクを高める姿勢を取っていれば、誤嚥の可能性を高く評価することを特徴とする請求項3に記載の嚥下評価装置。
【請求項5】
前記誤嚥サイン評価部は、前記対象者の異常な呼吸音および行動の履歴をさらに用い、前記バイタルサイン異常がウイルス性であるか否かをさらに評価することを特徴とする請求項1に記載の嚥下評価装置。
【請求項6】
対象者のバイタルサインを外部から取得し、該バイタルサインからバイタルサイン異常を検出するバイタルサイン異常検出部と、
前記対象者の嚥下を示す情報を外部から取得し、前記嚥下と前記バイタルサイン異常との時間的因果関係を含むデータに基づいて、誤嚥性による肺炎が発生した可能性があるかを示す誤嚥サインを評価の結果として出力する誤嚥サイン評価部と、
前記評価の結果に基づいて出力を制御する出力制御部と
を備え、
前記誤嚥サイン評価部は、前記バイタルサイン異常に関わる前記バイタルサインの変化が生じた時刻と、前記嚥下の時刻とを用いて、前記バイタルサイン異常の前に嚥下がある場合に、誤嚥に起因して肺炎が起きた可能性があるとして前記誤嚥サインを出力する
ことを特徴とする嚥下評価装置。
【請求項7】
象者の嚥下の履歴を管理する嚥下履歴管理部と、
前記対象者のバイタルサインを取得するバイタルセンサと、
前記バイタルサインからバイタルサイン異常を検出するバイタルサイン異常検出部と、
前記バイタルサイン異常と前記嚥下との時間的因果関係を含むデータに基づいて、誤嚥性による肺炎が発生した可能性があるかを示す誤嚥サインを評価の結果として出力する誤嚥サイン評価部と、
前記評価の結果に基づいて出力を制御する出力制御部と
を備え、
前記誤嚥サイン評価部は、前記バイタルサイン異常に関わる前記バイタルサインの変化が生じた時刻と、前記嚥下の時刻とを用いて、前記バイタルサイン異常の前に嚥下がある場合に、誤嚥に起因して肺炎が起きた可能性があるとして前記誤嚥サインを出力する
ことを特徴とする嚥下評価システム。
【請求項8】
コンピュータが、対象者の嚥下の発生を判定するステップと、
前記コンピュータが、前記対象者のバイタルサインからバイタルサイン異常を検出するバイタルサイン異常検出ステップと、
前記コンピュータが、前記バイタルサイン異常と前記嚥下との時間的因果関係を含むデータに基づいて、誤嚥性による肺炎が発生した可能性があるかを示す誤嚥サインを評価の結果として出力する誤嚥サイン評価ステップと、
前記コンピュータが、前記評価の結果に基づいて出力を制御する出力制御ステップと
を含み、
前記誤嚥サイン評価ステップは、前記バイタルサイン異常に関わる前記バイタルサインの変化が生じた時刻と、前記嚥下の時刻とを用いて、前記バイタルサイン異常の前に嚥下がある場合に、誤嚥に起因して肺炎が起きた可能性があるとして前記誤嚥サインを出力する
ことを特徴とする嚥下評価方法。
【請求項9】
コンピュータに、
対象者の嚥下の発生を判定するプロセスと、
前記対象者のバイタルサインからバイタルサイン異常を検出するバイタルサイン異常検出プロセスと、
前記バイタルサイン異常と前記嚥下との時間的因果関係を含むデータに基づいて、誤嚥性による肺炎が発生した可能性があるかを示す誤嚥サインを評価の結果として出力する誤嚥サイン評価プロセスと、
前記評価の結果に基づいて出力を制御する出力制御プロセスと
を実行させ、
前記誤嚥サイン評価プロセスは、前記バイタルサイン異常に関わる前記バイタルサインの変化が生じた時刻と、前記嚥下の時刻とを用いて、前記バイタルサイン異常の前に嚥下がある場合に、誤嚥に起因して肺炎が起きた可能性があるとして前記誤嚥サインを出力する
ことを特徴とする嚥下評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の嚥下を評価する嚥下評価装置、嚥下評価システム、嚥下評価方法及び嚥下評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、加齢に伴って、飲み込みの能力すなわち嚥下機能の低下が見られる。嚥下機能の低下は、高齢者の日常的な食事の妨げとなる。また、加齢以外にも、片麻痺や脳卒中などの障害によって嚥下障害の症状が顕れる場合があり、嚥下障害の患者数は増加の傾向にある。嚥下障害の患者は、誤嚥を引き起こす可能性が高い。誤嚥は、窒息の危険性を高めるのみならず、口腔内の雑菌が肺に入ることで誤嚥性肺炎の原因となりえる。
【0003】
肺炎による死亡は、日本人の年間死亡原因の上位であり、極めて多い。さらに、嚥下障害における肺炎は再発性が高く、悪化により死亡する例が多く見られる。特に食事中や就寝中など日常生活中のなかで継続的に嚥下機能を計測し、嚥下障害の程度を早期に知るとともに、そこから適した治療、リハビリテーションを行う事が重要である。
【0004】
このため、特許文献1が開示する嚥下機能データ測定装置は、対象者の嚥下動作に伴う喉頭動作音を測定し、喉頭動作音を解析して嚥下動作の終了を判定し、判定結果を提示することで、嚥下機能を簡易に確認可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5952536号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1は、対象者に負担なく、嚥下を簡易に確認可能な点で非常に有用である。しかし、嚥下機能の確認や誤嚥への対応の観点からは、嚥下の確認に留まらず、誤嚥または誤嚥に伴う肺炎の発生の可能性まで評価することが求められている。
【0007】
そこで、本発明は、誤嚥や誤嚥に伴う肺炎の発生の可能性を評価することのできる嚥下評価装置、嚥下評価システム、嚥下評価方法及び嚥下評価プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、代表的な本発明の嚥下評価装置の一つは、対象者の頸部の振動を解析して嚥下音を抽出する音解析部と、前記対象者から取得したバイタルサインを管理するバイタルサイン管理部と、前記バイタルサインからバイタルサイン異常を検出するバイタルサイン異常検出部と、前記バイタルサイン異常と前記嚥下音との時間的因果関係を含むデータに基づいて誤嚥または誤嚥性による肺炎の発生の徴候を評価する誤嚥サイン評価部と、前記評価の結果に基づいて出力を制御する出力制御部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、代表的な本発明の嚥下評価装置の一つは、対象者のバイタルサインを外部から取得し、該バイタルサインからバイタルサイン異常を検出するバイタルサイン異常検出部と、前記対象者の嚥下音を外部から取得し、該嚥下音と前記バイタルサイン異常との時間的因果関係を含むデータに基づいて誤嚥または誤嚥性による肺炎の発生の徴候を評価する誤嚥サイン評価部と、前記評価の結果に基づいて出力を制御する出力制御部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、代表的な本発明の嚥下評価システムの一つは、対象者の頸部の振動に基づく信号を取得する振動センサと、前記対象者の頸部の振動を解析して嚥下音を抽出する音解析部と、前記対象者のバイタルサインを取得するバイタルセンサと、前記バイタルサインからバイタルサイン異常を検出するバイタルサイン異常検出部と、前記バイタルサイン異常と前記嚥下音との時間的因果関係を含むデータに基づいて誤嚥または誤嚥性による肺炎の発生の徴候を評価する誤嚥サイン評価部と、前記評価の結果に基づいて出力を制御する出力制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、代表的な本発明の嚥下評価方法の一つは、対象者の頸部の振動を解析して嚥下音を抽出する音解析ステップと、前記対象者のバイタルサインからバイタルサイン異常を検出するバイタルサイン異常検出ステップと、前記バイタルサイン異常と前記嚥下音との時間的因果関係を含むデータに基づいて誤嚥の発生を評価する誤嚥サイン評価ステップと、前記評価の結果に基づいて出力を制御する出力制御ステップとを含むことを特徴とする。
【0012】
また、代表的な本発明の嚥下評価プログラムの一つは、コンピュータに、対象者の頸部の振動を解析して嚥下音を抽出する音解析プロセスと、前記対象者のバイタルサインからバイタルサイン異常を検出するバイタルサイン異常検出プロセスと、前記バイタルサイン異常と前記嚥下音との時間的因果関係を含むデータに基づいて誤嚥または誤嚥性による肺炎の発生の徴候を評価する誤嚥サイン評価プロセスと、前記評価の結果に基づいて出力を制御する出力制御プロセスとを実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、誤嚥や誤嚥に伴う肺炎の発生の可能性を評価することができる。この他の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例における嚥下評価の説明図。
図2】嚥下評価装置の外観図。
図3】嚥下評価装置の構成図。
図4】嚥下評価装置の機能ブロック図。
図5】誤嚥の評価と出力の具体例。
図6】嚥下評価装置の処理手順を示すフローチャート。
図7】嚥下評価装置が蓄積したデータの利用についての説明図。
図8】誤嚥の機械学習についての説明図。
図9】嚥下評価装置の変形例についての説明図。
図10】ウイルス性肺炎をさらに識別する構成の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例
【0016】
図1は、実施例における嚥下評価の説明図である。図1では、嚥下評価の対象者は、嚥下評価装置10を頸部に装着している。詳細については後述するが、嚥下評価装置10は、対象者のバイタルサイン(生命兆候)、嚥下音、咳、呼吸音、姿勢を検知することができる。ここで、本実施例においては、血中酸素飽和度(SpO2)、脈拍数、体温、呼吸数をバイタルサインとして用いることとする。
【0017】
嚥下評価装置10は、バイタルサインから固有の健康状態の変化や肺炎の徴候を示す変動のようなバイタルサイン異常を検出する。特徴的なバイタルサイン異常は、各バイタルサインの値に基づいて、肺炎が起きている可能性を示すものである。バイタルサインから肺炎の可能性を探る手順は広く知られている。一般に、各バイタルサインに閾値(基準値)を設定し、閾値を超えるバイタルサインが存在する場合には肺炎が疑われる。そして、閾値を超えるバイタルサインの数が増えるほど、肺炎の可能性が高くなる。
【0018】
また、嚥下評価装置10は、嚥下音を検出した場合に嚥下履歴に登録することで、いつ嚥下が発生したかを管理する。さらに、嚥下評価装置10は、咳、呼吸音、姿勢など、嚥下に関連する動作の履歴を管理する。
【0019】
嚥下評価装置10は、バイタルサイン異常と嚥下との時間的因果関係に基づいて誤嚥の発生を評価する。具体的には、肺炎の徴候を示す変動といった異常なバイタルサインの前に嚥下の履歴があるならば、誤嚥に起因して肺炎が起きた可能性がある。このため、誤嚥が発生した可能性があることを示す誤嚥サインを評価の結果として出力する。このとき、嚥下関連動作の履歴をさらに用いることで、誤嚥の評価を精度良く行うことができる。また、嚥下及び嚥下関連動作の後、呼吸音の異常(咳やむせ等)が検出されていれば、同様に誤嚥の可能性が高くなる。また、頸部後屈のように誤嚥のリスクを高める姿勢を取っていれば、誤嚥の可能性が高くなる。
【0020】
嚥下評価装置10は、対象者や医療関係者を誤嚥サインの出力先とする。嚥下評価装置10は、出力先に応じて出力する情報を異ならせる。例えば、誤嚥性肺炎が発生した可能性があると判定した場合には、嚥下評価装置10は、まず、対象者に医療機関の受診を勧告する出力を行う。その後、対象者が医療機関を受診したときに、嚥下評価装置10は、医療関係者に対して診断を支援する情報(バイタルサインの値、嚥下のタイミング、嚥下関連動作の履歴)を提供する。
【0021】
このように、嚥下評価装置10が出力先に応じて出力する情報を異ならせることにより、誤嚥性肺炎への対処を迅速かつ円滑に行うことが可能となる。
【0022】
図2は、嚥下評価装置10の外観図である。図2に示したように、嚥下評価装置10は、円環の一部を欠いた弧状の装着用フレームに、各種センサ等とデータ処理機能を搭載している。装着用フレームは、頸部の形状に合わせた形状、サイズで、弾性を有する素材(例えば樹脂)を用いることが好適である。
【0023】
また、弧状の装着用フレームは、頸部の頸椎側から装着され、装着用フレームの両端は頸部の喉側に接する。そして、フレーム端部の内側には、温度センサ22と振動センサ23が設けられている。このため、温度センサ22及び振動センサ23は、対象者の頸部の皮膚に接触し、体温の計測と振動の検知を行うことができる。また、フレーム端部の外側、すなわち周囲の人物から視認可能な側には、LED(light emitting diode)25が設けられている。このため、嚥下の結果などをLED25の点灯状態で示し、周囲の人物に報知することができる。
【0024】
さらに、装着用フレームの内側の頸椎近傍には、パルスオキシメーター21及び慣性センサ24が設けられている。パルスオキシメーター21は、発光素子と受光素子の組合せを有し、血中酸素飽和度(SpO2)及び脈拍数の計測が可能である。慣性センサ24は、直交3軸に対する地磁気の磁気強度、直交3軸に沿う方向の加速度、直交3軸を中心軸とする角速度をそれぞれ検出する。
【0025】
図3は、嚥下評価装置10の構成図である。図3に示すように、嚥下評価装置10は、すでに説明したパルスオキシメーター21、温度センサ22、振動センサ23、慣性センサ24及びLED25に加え、通信部26と、制御部30と、記憶部40とを備える。通信部26は、対象者の所持する端末装置、医療関係者の端末装置、外部のサーバなどとの通信を行う。
【0026】
制御部30は、嚥下評価装置10の動作に係る各種処理を実行するデータ処理機能部である。制御部30は、音解析部31、嚥下履歴管理部32、嚥下関連動作管理部33、バイタルサイン管理部34、バイタルサイン異常検出部35、誤嚥サイン評価部36及び出力制御部37を有する。これらの機能部は、それぞれが回路構成により実現されるものであってもよいし、プロセッサがソフトウェアを実行することで実現されるものであってもよい。
【0027】
記憶部40は、フラッシュメモリなどの記憶デバイスであり、嚥下履歴データ41、嚥下関連動作履歴データ42、バイタルサイン履歴データ43、バイタルサイン異常検出データ44及び誤嚥サイン評価データ45を格納する。
【0028】
図4は、嚥下評価装置10の機能ブロック図である。この図4を参照し、図3に示した構成要素の動作を説明する。
【0029】
パルスオキシメーター21は、対象者の血中酸素飽和度及び脈拍数を計測し、バイタルサイン管理部34に出力する。温度センサ22は、対象者の体温を計測し、バイタルサイン管理部34に出力する。
【0030】
振動センサ23は、対象者の頸部の皮膚の振動を検知し、音データとして音解析部31に出力する。慣性センサ24は、対象者の姿勢を示す情報として、直交3軸に対する地磁気の磁気強度、直交3軸に沿う方向の加速度、直交3軸を中心軸とする角速度を検出し、対象者の姿勢を示す情報として、嚥下関連動作管理部33に出力する。
【0031】
音解析部31は、振動センサ23が出力した音データを解析し、嚥下音と、呼吸音と、咳とを識別する。また、呼吸音の識別結果を計数することで、呼吸数を求める。音解析部31は、呼吸数をバイタルサイン管理部34に出力し、嚥下音を嚥下履歴管理部32に出力する。また、咳及び呼吸音を嚥下関連動作管理部33に出力する。
【0032】
バイタルサイン管理部34は、対象者から取得したバイタルサインと時刻を対応付けてバイタルサイン履歴データ43に登録することで、バイタルサインの履歴を管理する。バイタルサインには、血中酸素飽和度、脈拍数、体温、呼吸数が含まれる。
【0033】
嚥下履歴管理部32は、音解析部31が嚥下音を検出したときに、嚥下音と時刻を対応付けての嚥下履歴データ41に登録することで、嚥下の履歴を管理する。この嚥下の履歴は、誤嚥サイン評価部36によって読み出される。
【0034】
嚥下関連動作管理部33は、嚥下に関連する動作である嚥下関連動作を時刻に対応付けて嚥下関連動作履歴データ42に登録することで、嚥下関連動作の履歴を管理する。嚥下関連動作には、対象者の姿勢、咳、呼吸音が含まれる。この嚥下関連動作の履歴は、誤嚥サイン評価部36によって読み出される。
【0035】
バイタルサイン異常検出部35は、バイタルサインから固有の健康状態の変化や肺炎の徴候を示す変動のようなバイタルサイン異常を検出する。バイタルサイン異常の検出は、既存の技術により行うことができる。例えば、既に説明したように、各バイタルサインに閾値を設定し、閾値を超えるバイタルサインの種類と数に基づいて、肺炎の可能性の高さを評価し、バイタルサイン異常として出力する。また、バイタルサイン異常検出部35は、バイタルサイン異常と、バイタルサイン異常の評価に用いたバイタルサインの値と、バイタルサイン異常の時刻とを対応付けてバイタルサイン異常検出データ44に登録する。
【0036】
誤嚥サイン評価部36は、バイタルサイン異常と嚥下音との時間的因果関係に基づいて誤嚥または誤嚥性による肺炎の発生の徴候を評価する誤嚥サイン評価部である。誤嚥サイン評価部36は、嚥下履歴データ41、嚥下関連動作履歴データ42、バイタルサイン履歴データ43、バイタルサイン異常検出データ44を参照して誤嚥の発生の評価に用いる。具体的には、誤嚥サイン評価部36は、バイタルサイン異常に関わるバイタルサインの変化が生じた時刻と、嚥下の時刻とを比較し、異常なバイタルサインを検出する前に嚥下の履歴があるならば、誤嚥に起因して肺炎が起きた可能性があるとして誤嚥サインを出力する。この誤嚥サインは、誤嚥または誤嚥性による肺炎が発生した可能性がどれだけあるかを示すものである。
【0037】
また、誤嚥サイン評価部36は、嚥下関連動作の履歴をさらに用いて誤嚥の発生を評価する。具体的には、誤嚥サイン評価部36は、呼吸音の異常(咳やむせ等)が検出されていれば、誤嚥の可能性を高く評価する。また、頸部後屈のように誤嚥のリスクを高める姿勢を取っていれば、誤嚥サイン評価部36は、誤嚥の可能性を高く評価する。
【0038】
誤嚥サイン評価部36は、誤嚥サインを時刻に対応付けて、誤嚥サイン評価データ45に登録する。
【0039】
出力制御部37は、誤嚥サイン評価部36による評価の結果に基づいて出力を制御する。出力の制御には、LED25の点灯制御や、通信部26による通信が含まれる。LED25による点灯制御は、嚥下の結果などを周囲の人物に報知する際に用いられる。通信部26による通信は、対象者の端末装置(スマートフォンなど)に対し、医療機関の受診を勧告する表示を行うよう要求する場合や、医療関係者の端末装置に対して診断を支援する情報(バイタルサインの値、嚥下のタイミング、嚥下関連動作の履歴)を提供する場合に用いられる。
【0040】
出力制御部37による出力は、誤嚥サインの発生や嚥下の検知をトリガーとして行う場合と、外部からの要求をトリガーとして行う場合とがある。対象者への受診の勧告は前者であり、医療関係者への情報提供は後者である。また、これらに限らず、誤嚥サインの発生をトリガーとして規定の連絡先や医療機関に報知を行うことや、定期的に蓄積したデータをサーバに提供することも可能である。
【0041】
図5は、誤嚥の評価と出力の具体例である。図5では、バイタルサイン異常を2段階に分け、嚥下履歴の有無を3つに区分している。バイタルサイン異常における「バイタルサイン異常検出」の一例として、肺炎が発生した可能性がある状態を示す「バイタルサイン異常あり」と、肺炎が発生した可能性を示すバイタルの異常がみられない「バイタルサイン異常なし」の2段階に分ける場合を示している。
【0042】
嚥下履歴における「異常嚥下あり」とは、バイタルサイン異常に関係するバイタルサインの時刻から所定の範囲内に、嚥下の履歴があり、かつ咳やむせなどの異常が見られた状態に対応する。嚥下履歴における「正常嚥下あり」とは、バイタルサイン異常に関係するバイタルサインの時刻から所定の範囲内に、嚥下の履歴があり、咳やむせなどの異常が見られない状態に対応する。嚥下履歴における「嚥下なし」とは、バイタルサイン異常に関係するバイタルサインの時刻から所定の範囲内に、嚥下の履歴がない状態に対応する。
【0043】
誤嚥サイン評価部36は、バイタルサイン異常検出の結果が「バイタルサイン異常あり」で嚥下履歴が「異常嚥下あり」である場合に、誤嚥性肺炎の可能性があると評価する。同様に、バイタルサイン異常検出の結果が「バイタルサイン異常あり」で嚥下履歴が「正常嚥下あり」である場合においては、誤嚥性肺炎(特に不顕性誤嚥による肺炎)、もしくは非誤嚥性肺炎の可能性があると評価する。
【0044】
さらに、誤嚥サイン評価部36は、バイタルサイン異常検出の結果が「バイタルサイン異常あり」で嚥下履歴が「嚥下なし」である場合に、非誤嚥性肺炎の可能性があると評価する。
【0045】
さらに、誤嚥サイン評価部36は、バイタルサイン異常検出の結果が「バイタルサイン異常なし」で嚥下履歴が「異常嚥下あり」である場合に、誤嚥発生の可能性があると評価する。バイタルサイン異常検出の結果が「バイタルサイン異常なし」で嚥下履歴が「正常嚥下あり」又は「嚥下なし」である場合に、異常なしと評価する。
【0046】
図5において、誤嚥サイン評価部36が肺炎の可能性ありとの評価を行ったならば、出力制御部37は、対象者に医療機関の受診を勧告し、規定の連絡先に報知する。その後、対象者が医療機関を受診したときに、出力制御部37は、医療関係者に対して診断を支援する情報(バイタルサインの値、嚥下のタイミング、嚥下関連動作の履歴)を提供する。また、誤嚥サイン評価部36が誤嚥の可能性があるとの評価を行ったならば、出力制御部37は、LED25の点灯状態による報知や、規定の連絡先への報知を行う。
【0047】
図6は、嚥下評価装置10の処理手順を示すフローチャートである。図6に示した処理手順は、対象者が嚥下評価装置10を装着した状態で繰り返し実行される。処理を開始すると、まず、慣性センサ24が対象者の姿勢を取得する(ステップS101)。また、振動センサ23は、対象者の頸部の皮膚の振動を音データとして取得する(ステップS102)。
【0048】
音解析部31は、振動センサ23により取得された音データを解析する(ステップS103)。解析の結果、嚥下がありであれば(ステップS104;Yes)、嚥下履歴管理部32は、嚥下履歴データ41及び嚥下関連動作履歴データ42への登録を行う(ステップS105)。
【0049】
ステップS105の後、又は嚥下が発生していない場合(ステップS104;No)、パルスオキシメーター21や温度センサ22がバイタルサインを取得する(ステップS106)。バイタルサイン管理部34は、取得されたバイタルサインをバイタルサイン履歴データ43に登録する(ステップS107)。
【0050】
バイタルサイン異常検出部35は、バイタルサインからバイタルサイン異常を検出するバイタルサイン異常検出処理を実行し(ステップS108)、バイタルサイン異常が検出されなければ(ステップS109;No)、そのまま処理を終了する。
【0051】
バイタルサイン異常が検出されたならば(ステップS109;Yes)、バイタルサイン異常検出部35は、バイタルサイン異常検出データ44に登録する。その後、誤嚥サイン評価部36が誤嚥サイン評価処理を実行して、誤嚥の発生を評価する(ステップS111)。誤嚥サイン評価部36は、評価結果を誤嚥サイン評価データ45に登録する(ステップS112)。そして、出力制御部37が評価結果を出力して(ステップS113)、処理を終了する。
【0052】
図7は、嚥下評価装置10が蓄積したデータの利用についての説明図である。図7に示したように、複数の嚥下評価装置10がそれぞれ蓄積したデータを定期的にサーバ11に送信してデータベースに集約し、機械学習などに用いることができる。
【0053】
図8は、誤嚥の機械学習についての説明図である。図8では、バイタルサイン異常を教師データ、嚥下履歴及び嚥下関連動作履歴を学習用データとして機械学習を行い、誤嚥サイン評価モデルを生成するケースを示している。
【0054】
このようにして生成された誤嚥サイン評価モデルは、嚥下履歴と嚥下関連動作履歴を入力として受け付けた場合に、誤嚥サイン評価結果を出力することができる。すなわち、嚥下音、咳、むせ、姿勢から、バイタルサインを用いることなく誤嚥の発生を評価することができる。
【0055】
図9は、嚥下評価装置の変形例についての説明図である。図9では、スマートフォンなどの端末装置60が、対象者に装着された各種センサと通信することで、誤嚥の発生の評価を行う嚥下評価システムを構成している。
【0056】
具体的には、対象者の額には温度センサ52が装着され、頸部の喉側には振動センサ53が装着され、頸部の頸椎側には慣性センサ54が装着されている。パルスオキシメーター51は、対象者の耳、指先、腕などに装着することができる。また、スマートウォッチなどの腕時計型携帯端末と通信し、腕時計型携帯端末が取得した血中酸素飽和度や脈拍数を受信して利用してもよい。
【0057】
この構成では、端末装置60は、対象者のバイタルサインや嚥下音などを外部から取得し、バイタルサイン異常を検出し、誤嚥の発生を評価して出力する嚥下評価装置として機能することになる。また、端末装置60は、例えば、嚥下評価プログラムを実行することで、これらの機能を実現してもよい。
【0058】
これまでの説明では、誤嚥性肺炎とその他の肺炎を識別する構成を例示して説明を行ったが、対象者の行動履歴をさらに取得し、ウイルス性肺炎、誤嚥性肺炎、その他の肺炎の識別を行うことも可能である。
【0059】
図10は、ウイルス性肺炎をさらに識別する構成の説明図である。図10では、対象者の端末装置60aは、他者の端末装置と近距離無線通信で通信を行い、対象者と他者との接触の頻度などを行動履歴として蓄積し、ウイルス性の疾病への感染リスクを管理している。そこで、端末装置60から行動履歴を取得し、嚥下評価装置10aで取得したバイタルサイン異常、嚥下履歴及び嚥下関連動作履歴とともに誤嚥サインの評価を行うことで、ウイルス性肺炎、誤嚥性肺炎、その他の肺炎の可能性を評価することが可能となる。
【0060】
上述してきたように、本実施例に係る嚥下評価装置10は、対象者の頸部の振動を解析して嚥下音を抽出する音解析部31と、前記対象者から取得したバイタルサインを管理するバイタルサイン管理部34と、前記バイタルサインから固有の健康状態の変化や肺炎の徴候を示す変動のような異常なバイタルサインを検出するバイタルサイン異常検出部35と、前記バイタルサイン異常と前記嚥下音との時間的因果関係を含むデータに基づいて誤嚥または誤嚥性による肺炎の発生の徴候を評価する誤嚥サイン評価部としての誤嚥サイン評価部36と、前記評価の結果に基づいて出力を制御する出力制御部37とを備える。かかる構成及び動作により、嚥下評価装置10は、誤嚥や誤嚥に伴う肺炎の発生の可能性を評価することができる。
【0061】
また、嚥下評価装置10は、前記音解析部31による解析結果に基づき、前記対象者の嚥下の履歴を管理する嚥下履歴管理部32をさらに備え、前記誤嚥サイン評価部は、前記バイタルサイン異常に関わる前記バイタルサインの変化が生じた時刻と、前記嚥下の時刻とを用いて前記バイタルサイン異常が誤嚥性、つまり顕性もしくは不顕性の誤嚥に起因するか否かを評価する。このため、バイタルサインの変化に関係する可能性のある嚥下の存在に基づいて、誤嚥性であるか否かの評価が可能である。
【0062】
また、嚥下評価装置10は、前記頸部の皮膚に接触して前記頸部の振動に基づく信号を取得する振動センサ23と、前記バイタルサインを取得するバイタルセンサとしてのパルスオキシメーター21及び温度センサ22をさらに備え、前記対象者の首に装着される装着用フレームに前記振動センサ23及び前記バイタルセンサを設けている。かかる構成により、必要なデータの取得と評価を一体側の装置で完結することができる。
【0063】
また、前記バイタルサイン管理部34は、血中酸素飽和度、脈拍数、体温、呼吸数のうち、少なくともいずれかを前記バイタルサインとして管理する。このため、既知の肺炎の評価手法を利用してバイタルサイン異常を検出することが可能であるとともに、医療関係者に診断を支援する情報として提供可能となる。
【0064】
また、前記音解析部31は、前記対象者の頸部の振動を解析して、前記嚥下音と、呼吸音と、咳とを識別する。このため、呼吸音や咳をさらに用いて、誤嚥の発生を評価することができる。
【0065】
また、前記出力制御部37は、前記対象者に対しては前記評価の結果に応じて受診を勧告する出力を行い、医療関係者に対しては前記評価に用いた情報を診断を支援する情報として出力するので、出力先に合わせて情報を加工して提供し、誤嚥性肺炎への対処を迅速かつ円滑に行うことが可能となる。
【0066】
また、嚥下に関連する動作である嚥下関連動作の履歴を管理する嚥下関連動作管理部33をさらに備え、前記誤嚥サイン評価部は、前記嚥下関連動作の履歴をさらに用いて前記誤嚥の発生を評価する。この前記嚥下関連動作管理部33は、前記対象者の姿勢、咳、呼吸音のうち少なくともいずれか一つを前記嚥下関連動作として管理する。このように嚥下関連動作を用いることで、誤嚥に関する評価を高精度で行うことができる。
【0067】
また、本実施例に係る嚥下評価装置によれば、前記対象者の異常な呼吸音(咳・むせ)および行動の履歴をさらに用い、前記バイタルサイン異常がウイルス性であるか否かをさらに評価することも可能である。
【0068】
なお、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、かかる構成の削除に限らず、構成の置き換えや追加も可能である。
【符号の説明】
【0069】
10:嚥下評価装置、11:サーバ、21:パルスオキシメーター、22:温度センサ、23:振動センサ、24:慣性センサ、25:LED、26:通信部、30:制御部、31:音解析部、32:嚥下履歴管理部、33:嚥下関連動作管理部、34:バイタルサイン管理部、35:バイタルサイン異常検出部、36:誤嚥サイン評価部、37:出力制御部、40:記憶部、41:嚥下履歴データ、42:嚥下関連動作履歴データ、43:バイタルサイン履歴データ、44:バイタルサイン異常検出データ、45:誤嚥サイン評価データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10