(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】濃度差に基づくエネルギー貯蔵の方法および装置
(51)【国際特許分類】
F01K 25/06 20060101AFI20240806BHJP
F01K 25/08 20060101ALI20240806BHJP
F22B 1/02 20060101ALI20240806BHJP
F22B 3/02 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
F01K25/06
F01K25/08
F22B1/02 Z
F22B3/02
(21)【出願番号】P 2021560634
(86)(22)【出願日】2020-04-08
(86)【国際出願番号】 HU2020050012
(87)【国際公開番号】W WO2020208384
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-04-04
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
(73)【特許権者】
【識別番号】521445270
【氏名又は名称】ウィグナー フィジカイ クタトコズポント
【氏名又は名称原語表記】WIGNER FIZIKAI KUTATOKOZPONT
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100173794
【氏名又は名称】色部 暁義
(72)【発明者】
【氏名】ゾルタン ネメス
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-113070(JP,A)
【文献】米国特許第04617800(US,A)
【文献】特開昭62-225776(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0225923(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0183903(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01K 21/00
F01K 25/06
F01K 25/08
F22B 1/02
F22B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーを濃度勾配の形態で抽出するとともに、エネルギーを濃度勾配の形態で貯蔵するための方法であって、エネルギーを抽出するプロセスは、
貯蔵されたガス状作動媒体を可動範囲(2)に供給するステップと、
前記可動範囲(2)内の前記作動媒体を圧縮するステップと、
圧縮前または圧縮中に希釈溶液を前記可動範囲(2)に噴霧するステップと、
圧縮により前記可動範囲(2)に供給された前記作動媒体の温度を上昇させるステップと、
高温の前記作動媒体により前記希釈溶液を蒸発させるステップと、
蒸発溶液によって前記作動媒体から熱を除去するステップと、
前記作動媒体から抽出された前記熱を蒸気の潜熱の形態で前記可動範囲(2)に保持するステップと、
前記作動媒体の温度を、その中の蒸気の分圧が対応する温度でより高濃度の溶液の蒸気圧に近付くまで更に上昇させるステップと、
前記希釈溶液の蒸気圧の最大60%の蒸気圧のより高濃度の溶液を、蒸気含有量の高い膨張している前記作動媒体に噴霧するステップと、
前記可動範囲(2)の蒸気を霧化溶液の溶液滴に凝縮し、それによって前記溶液滴を加熱するステップと、
前記加熱された溶液滴の熱エネルギーを前記溶液および前記作動媒体の接触面を介して前記作動媒体に移送させるステップと、
圧縮中に前記希釈溶液の蒸気に以前に伝達された熱を前記作動媒体に戻し、更に、より高濃度の溶液に対するより暖かい蒸気の凝縮熱が前記希釈溶液の蒸発熱を超えるのと同じ量の熱を供給するステップと、
前記作動媒体の膨張によって仕事を実行するためにこのように供給された前記熱を使用するステップと、
前記作動媒体によって実行される前記仕事を取得するステップと、
相対湿度の低いガス状作動媒体がその初期状態に近い状態になった後に、前記可動範囲(2)から前記作動媒体および前記溶液を除去するステップと、
前記作動媒体および前記溶液を分離し、前記作動媒体を作動媒体用の容器(7)に戻し、より高濃度の僅かに希釈された前記溶液を、より高濃度の溶液用の容器(11)および中間濃度の溶液用の更なる容器(24)のうちの一方に戻すステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
エネルギーを貯蔵するプロセスに、更に、
前記可動範囲(2)に引き込まれた前記作動媒体により高濃度の溶液を噴霧するステップと、
前記より高濃度の溶液の液滴の圧縮および/または凝縮によってガスを加熱するステップと、
前記作動媒体を圧縮するステップと、
前記ガスと接触しているより高濃度の溶液を広い領域にわたって蒸発させることにより、圧縮によって加熱された前記ガスの温度上昇を遅らせるステップと、
蒸発によって前記より高濃度の溶液の濃度を上昇させるステップと、
このようにして得られた、初期濃度よりも高濃度の溶液を前記作動媒体から分離し、前記溶液をより高濃度の溶液用の容器(11)に戻すステップと、
膨張によって、またはより希釈された溶液を前記可動範囲(2)に導入することによって、前記作動媒体を冷却するステップと、
更に希釈された溶液を前記可動範囲(2)に噴霧するステップと、
膨張中に冷却されるガス混合物の水蒸気含有量の大部分を前記希釈溶液の表面に凝縮するステップと、
シリンダ(1)から前記ガスおよび前記希釈溶液を除去し、前記ガスおよび前記希釈溶液を分離し、前記希釈溶液を希釈溶液用の容器(10)に戻すステップと、
を含む、仕事を適用することにより水分を除去することによって前記より高濃度の溶液を更に濃縮することによって濃度差を増大させるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記作動媒体として酸素を含まない不活性ガスを使用するステップを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
より高濃度かつより蒸気圧が低い溶液として食塩水を使用するステップを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記食塩水が、少なくとも40質量%の塩化カルシウム溶液または少なくとも30質量%の塩化マグネシウム溶液、またはそれらの混合物のうちの1つであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記溶液のうちの少なくとも1つを前記可動範囲(2)に導入する前に加熱するステップと、使用後、前記加熱した溶液を前記可動範囲(2)に導入する前に保管温度まで冷却するステップとを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
エネルギー生産中および使用前に、前記可動範囲(2)に導入する前に加熱された前記より高濃度の溶液に更なる溶質材料を追加するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
希釈溶液用の容器(10)およびより高濃度の溶液用の容器(11)の温度を周囲温度に対して上昇させるステップを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記作動媒体を急速に加熱するために、圧縮行程の終わりにより高濃度の溶液を注入するステップを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
圧縮ステップ中に、蒸発し得る最大量よりも少ない量の希釈溶液を前記可動範囲(2)に注入することによって、部分圧縮で前記溶液滴を完全に蒸発させ、次に、前記作動媒体を急速に加熱するために、更なる圧縮により状態の断熱変化を引き起こすステップを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のエネルギーを貯蔵する方法を実施するための装置であって、
作動媒体用の容器(7)と、
希釈溶液用の容器(10)と、
より高濃度の溶液用の容器(11)と、
作動媒体を受け入れるための可動範囲(2)を備える熱機関と、
前記可動範囲(2)および前記作動媒体用の容器(7)と連絡しているダクト(8、9)と、
前記可動範囲(2)内の溶液容器(10、11)と連絡しているダクト(14、16)と、
を含み、ポンプ(18)が前記希釈溶液用の容器(10)から前記可動範囲(2)まで希釈溶液を運搬するダクト(14)に挿入されており、また、ポンプ(19)が前記より高濃度の溶液用の容器(11)から前記可動範囲(2)までより高濃度の溶液を運搬するダクト(16)に挿入され、
前記ダクト(8、9)は、噴射弁(15、17)を介して前記可動範囲(2)に接続されており、
液滴分離器(20)が前記ダクト(8)に挿入されて、前記可動範囲(2)と作動媒体用の容器(7)との間に流体連通を提供し、かつ液滴分離器(21)が前記ダクト(9)に挿入されて、前記可動範囲(2)と前記作動媒体用の容器(7)との間に流体連通を提供し、前記液滴分離器(20、21)の液体出口は、各ダクト(22、23)を介して前記希釈溶液用の容器(10)と、前記より高濃度の溶液用の容器(11)とにそれぞれ接続され、
前記熱機関は、電気エネルギーを機械的運動に、また機械的運動を電気エネルギーにそれぞれ変換するモータジェネレータと駆動連結している、装置。
【請求項12】
前記希釈溶液用の容器(10)および前記より高濃度の溶液用の容器(11)が、より希釈された溶液とより高濃度の溶液とを分離する組み込み壁(13)を含む単一のタンク(12)として形成されることを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記壁(13)が可撓性壁(13)として形成されることを特徴とする、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記壁(13)が前記容器(12)の内部に移動可能に配置されることを特徴とする、請求項12に記載の装置。
【請求項15】
中濃度の溶液用の更なる容器(24)を含むことを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【請求項16】
前記希釈溶液用の容器(10)が、少なくとも96質量%の水を含む溶液を含むことを特徴とする、請求項11~14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記より高濃度の溶液用の容器(11)が、少なくとも40質量%の塩化カルシウム、少なくとも30質量%の塩化マグネシウム、またはそれらの混合物のうちの1つを含む溶液を含むことを特徴とする、請求項11~14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記より高濃度の溶液用の容器(11)に貯蔵されたより高濃度の溶液が、保管温度で非溶解状態の溶質材料を含む飽和溶液であることを特徴とする、請求項11~17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記作動媒体用の容器(7)、前記希釈溶液用の容器(10)、前記より高濃度の溶液用の容器(11)、および前記可動範囲(2)のうち少なくとも1つが断熱材から製造されていることを特徴とする、請求項11~18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記作動媒体用の容器(7)、前記希釈溶液用の容器(10)、前記より高濃度の溶液用の容器(11)、および前記可動範囲(2)のうち少なくとも1つに外断熱が設けられていることを特徴とする、請求項11~18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記作動媒体を受け入れるための前記可動範囲(2)を備える前記熱機関が、移動可能に案内されるピストン(3)を受容するシリンダ(1)を含むモータを備えることを特徴とする、請求項11~20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記作動媒体を受け入れるための前記可動範囲(2)を備える前記熱機関が、回転タービン圧縮機モータを備えることを特徴とする、請求項11~20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
前記可動範囲(2)が、弁(5、6)を介して前記作動媒体用の容器(7)と流体連通していることを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃度勾配の形態で存在するエネルギーの抽出および濃度勾配の形態でのエネルギーの貯蔵のための、請求項1のプリアンブルによる方法と、第2に、方法を実施するための装置とに関する。本発明は、後で使用するために電気または機械的エネルギーを貯蔵する必要がある全ての分野で使用可能であるが、特に電力系統における生産および消費の差異を平準化するために使用可能である。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギー源が広まると、電気エネルギーの生産および消費のピークは異なる時間に現れるため、大量のエネルギー貯蔵がますます重要になる。従って、ピーク消費時にはエネルギー不足が生じる一方、生産ピーク時には余剰エネルギーがあり、これは、現在は尖頭負荷発電所によって管理されており、急速に始動および停止することができるが(例えば、ガスタービン)、そのような尖頭負荷発電所の運転は高価である。十分なエネルギー貯蔵ソリューションがない場合、尖頭負荷発電所の割合を再生可能エネルギー源の割合と共に増加させる必要があるが、これは、高価かつ環境を汚染し、達成が困難である。この問題は現在、再生可能エネルギーの道のりにおける最大の障害である。
【0003】
需要を実現するために、大量エネルギー貯蔵のためのいくつかのソリューションが考案されたが、これらはエネルギー密度が低すぎるか、またはライフサイクルコストが高すぎる等の様々な欠点により広まらなかった。
【0004】
大量エネルギー貯蔵のために使用または開発された既知の技術の概要は、以下のリンクで見ることができる。
http://ease-storage.eu/energy-storage/technologies/
【0005】
上記のページのコピーは、the Internet Archive Wayback Machine serviceの以下のアドレスでも見ることができる。
https://web.archive.org/web/20180817024958/http://ease-storage.eu/energy-storage/technologies/
【0006】
大量エネルギー貯蔵のための最も普及している方法は、「揚水」または「揚水発電」(PHS)であり、電気エネルギーの需要が少なく、かつ可用性が高い期間中に、水をポンプで汲み上げ、上部リザーバに貯蔵する。この技術の欠点の1つは、エネルギー密度が非常に低く、約0.1kJ/kgである点である。エネルギー密度が低いため、必要な初期投資は莫大であり、かつ多くの場合、設置場所周辺の環境への悪影響を考慮に入れる必要がある。
【0007】
正反対の例に蓄電池があり、例えば、米国のTesla(登録商標)社によるPowerwall(登録商標)という名のソリューションは、230kJ/kgのエネルギー密度を有し、価格は約0.13USD/kJ(450USD/kWh)である。二次電池は、少量のエネルギーの貯蔵およびモバイル機器に最適であるが、大量エネルギー貯蔵への応用は、その価格および比較的短い寿命によって制限される。蓄電池に関する更なる問題として、入手が困難な、および/または汚染を引き起こす材料を使用している点が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、環境に優しい方法かつ比較的コンパクトな寸法で、大量のエネルギーを安価に貯蔵可能にすることである。我々は、蓄電池に近いエネルギー密度であるが、より寿命が長く、投資コストは、同等の収容能力の尖頭負荷発電所よりも大幅に低く、その(汚染しない)メンテナンスは、尖頭負荷発電所よりもはるかに安価であることを目的としている。
【0009】
最新技術では、濃度勾配からエネルギーを抽出するためのいくつかの方法が知られているが、これらは様々な理由により広く使用されていない。これらのソリューションは、おそらく貯蔵用途の要件が更に高いため、エネルギー貯蔵に使用されることはほとんどない。以下に、濃度勾配からのエネルギー抽出の原理、および本発明の目的を達成するには不十分である既存のソリューションの問題について簡単に説明する。
【0010】
濃度勾配は、浸透圧を利用する装置の基礎であり、例えば、https://en.wikipedia.org/wiki/Osmotic_powerで入手可能な論文および参考文献を参照されたい。これらの装置は、一般に特殊な膜を使用しており、透過性が低く、寿命が短く、および/または価格が高いことにより、それらの幅広い使用が制限されている。このトピックの優れた概要は、Jones and Finleyの著作であるOCEANS 2003. Proceedings, DOI: 10.1109/OCEANS.2003.178265に見られ、これは、例えば、インターネットアドレスhttp://waderllc.com/2284-2287.pdfでアクセス可能である。
【0011】
濃度の異なる溶液がそれらの気相を介してのみ接続されている場合、半透膜の使用を回避することができる。溶液の蒸気圧は溶質の量の関数として変化することはよく知られており、食塩水の蒸気圧は通常、純粋溶媒の蒸気圧よりもはるかに低い。一方に純粋溶媒およびその蒸気を含み、他方に溶液およびその蒸気(主に溶媒の蒸気)を含む、同じ圧力の2つの容器がそれらの蒸気空間を介して接続されている場合、それらの蒸気圧は等しくなり、純粋溶媒の容器内の液体は激しく蒸発(沸騰)し始める。このプロセスは、純粋溶媒が、その蒸気圧が溶液の蒸気圧と等しい温度に冷却されるまで継続する。蒸気は他の容器で凝縮し、溶液を希釈する。この形態のプロセスは、温度差が大きくなるため、すぐに停止する。しかしながら、例えば熱交換器の壁を介して、2つの容器の間に良好な熱伝導率の接続がある場合、一方の容器に凝縮によって放出される潜熱は、他方の容器で蒸発している液体を継続的に加熱し、従って、2つの容器の間に濃度差がある限り、その液体は沸騰し続ける。同じ原理が蒸気圧縮脱塩の背後にある(B.W.Tleimat: Paper presented at the American Society of Mechanical Engineers Winter Annual Meeting, Los Angeles, 16-20 November 1969)。更に、Mark Olssоn等は、蒸気圧差を利用したエネルギー抽出の可能性を提示した(Olsson et al.: Salinity Gradient Power: Utilizing Vapor Pressure Differences, SCIENCE, VOL. 206, 26 OCTOBER 1979参照)。この論文は、インターネットアドレスhttp://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/206/4417/452でも見ることができる。自然に、または産業廃棄物として現れる水溶液の蒸気圧が、必要なタービンサイズを達成することができないほど水の蒸気圧とごく僅かにしか異ならないため、結果的に工業規模で利用されることはなかった。Olssоnや彼の同僚によって作成されたプロトタイプは23%の効率を有しており、これはエネルギー生成には許容できるが、エネルギー貯蔵はそのような低い効率では実用的ではなく、従って提案さえされて来なかった。
【0012】
Olssоn等によって提案されたアイデアの大きな利点は、特別な膜を必要とせず、信頼性が高く、寿命の長い部品を使用する点である。しかしながら、圧力差が非常に小さいため100程度の巨大なタービン直径が必要であり、温度差が小さいため熱交換器の表面が非実用的に大きくなければならず、かつ、これまでに実現された装置は、エネルギー貯蔵に使用するには効率が低すぎる、という3つの重大な問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、熱力学的サイクルにおいて、希釈溶液または純粋溶媒を蒸発させることによって熱抽出を行う場合、湿った作動媒体を、同じ温度での溶媒の蒸気圧がより低い、より高濃度の溶液と接触させることによって、抽出された熱をより高い温度で回収することができるという認識に基づく。従って、蒸気をより高濃度の溶液で凝縮させ、溶媒の蒸発中に抽出される熱は凝縮熱としてサイクルに戻される。従って、作動媒体は、以前に蒸気に伝達したエネルギーに加えて、ここでの凝縮熱が熱抽出プロセスの気化熱よりも大きいエネルギーを回収する。このようなサイクルでは、濃度差として蓄積されたエネルギーを高効率で抽出することができ、効率に熱力学的極限はない。サイクルを逆方向に駆動することで、プロセスに供給される機械的仕事を、溶液の濃度差に高効率で保存することができる。
【0014】
本発明の別の認識は、溶媒の蒸気の代わりに、別の材料、好適には不活性ガスを作動媒体として使用する場合、はるかに迅速な熱交換、および前述のOlssоn法に対して、2桁または3桁分高い圧力を達成することができる。従って、エネルギー変換デバイスの比出力ははるかに高くなり得る一方、熱交換器のサイズははるかに小さくなり得る。作動媒体の量および温度を上げることによって圧力を増加させることができるが、熱交換器の問題は、2つの溶液間ではなく、溶液と作動媒体との間で熱交換を行うことにより、専用の作動媒体によって解決される。従って、Olssоn法のように溶液を化学的に分離することができる閉口した熱交換器をもはや使用する必要はなく、溶液と作動媒体との間の迅速な熱交換のために、1つ以上の開口した熱交換器を使用することができる。例えば、1つの溶液がスプレーまたはミストとして作動媒体に注入され、ここで、多数の微小液滴の大きい全表面を介して作動媒体と接触する。作動媒体と他の溶液との間の熱交換は同様の方法で実行されるが、第1の溶液との熱交換から空間的または時間的に分離されており、これにより、溶質は確実に希釈溶液(我々の目的のために、例えば純水等の純粋溶媒であってもよいが、水道水や海水と同様に、少量の溶質を含むこともできる)を含む容器内に進入することができない。このプロセスでは、主要な熱力学的極限の代わりに、熱交換器において機械的および粘性抵抗に起因して発生する損失によって効率が制限されるため、より高い圧力およびより迅速な熱交換は効率も大幅に向上させる。2つ目は、はるかに効率的な熱交換によって最小限に抑えられる。なぜなら、熱交換が開口した熱交換器のはるかに広い表面を介して実行されるため、ほとんど全ての熱を回収することができ、装置の壁での凝縮に起因して生じる熱損失は大型の機械では無視できるものであるからである。
【0015】
本発明の別の認識は、エネルギー変換装置が溶液自体によって冷却される場合、摩擦損失および機械的損失の大部分を回復することができ、このようにして回復された熱を作動媒体に伝達することである。
【0016】
目標は、請求項1に記載の方法および請求項11に記載の装置によって達成される。更に特に有利な実施方法および有利な実施形態が、従属請求項に示されている。
【0017】
本発明による方法および装置は、添付の図面を参照して、有利な実施例の助けを借りて以下により詳細に提示される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明による方法の有利な実施のフローチャートである。
【
図3】本発明による方法の更に有利な実施のための圧力-体積図である。
【
図4】本発明による装置の有利な実施形態のブロック図である。
【
図5】本発明による装置の更に有利な実施形態のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による装置の2つの可能な実現は、
図4および
図5に概説されており、どちらの実施形態も、既知の構造および動作のピストン熱機関を利用している。熱機関は、可動範囲2を含むシリンダ1を備える。可動範囲2には、可動ピストン3があり、そのピストンロッド4は、ドライブトレインを介して、当業者によく知られている方法で電気器具と接続されている。電気エネルギーを機械エネルギーに変換する場合、電気器具はエンジンであり、機械運動を電気エネルギーに変換する場合、電気器具は発電機であり、両方の機能は、エンジンおよび発電機の両方として機能し得る電気器具によって提供することができる。シリンダ1には、可動範囲2に接続された弁5、6があり、これらの弁5、6およびダクト8、9を介して、可動範囲2は、作動媒体用の容器7に接続されている。本実施形態では、本発明による装置は、別個の容器10、11を含み、ここで、容器10は希釈溶液を含み、かつ容器11はより高濃度の溶液用である。2つの溶液の体積の合計はほぼ一定であるため(食塩水の場合、変動は僅か数十分の1パーセントである)、
図1に示す有利な実施形態では、2つの溶液の容器10および11は単一のタンク12に配置されている。希釈溶液用の容器10は、不浸透性の方法で可撓性壁13によって、より高濃度の溶液用の容器11から分離されており、これにより、2つの別個のタンクを利用する配置と比較して、溶液の保管に必要な容量を大幅に低減することができる。希釈溶液用の容器10は、ダクト14を介してシリンダ1に組み込まれたインジェクタ15に接合される一方、より高濃度の溶液用の容器11は、ダクト16を介してシリンダ1に組み込まれたインジェクタ17に接合されている。流体移動の目的で、ポンプ18はダクト14に組み込まれ、ポンプ19はダクト16に組み込まれる。液滴分離器20はダクト8に設置され、液滴分離器21はダクト9に設置されている。液滴分離器20の流体出力は、ダクト22を介して希釈溶液の容器10に接続され、液滴分離器21の流体出力は、ダクト23を介してより高濃度の溶液用の容器11に接続されている。
【0020】
本発明による方法は、
図1~
図3を使用する有利な実施を通じて以下により詳細に説明される一方、本方法を実現する装置の例示的な実施形態は、
図3および
図4を使用して説明する。本発明の範囲は、これらの実施例に限定されず、可動範囲の最低温度および最高温度等の数値、圧力および湿度の数値は広範囲に可変である。
【0021】
図1に示される方法の実施例では、ステップS1において、不活性ガス、例えば、6バールの圧力および300Kまたは27℃である室温に近いアルゴンが、作動媒体として、作動媒体用の容器11に貯蔵されている。我々は、体積1m
3のシリンダ1を有する熱機関としてピストンエンジンを使用し、エンジンの圧縮比は1:4.48である。本方法は、ピストンおよびシリンダを含む往復動装置によって、またターボ機械によっても同様に実現可能であること、または、流体移動のためのあらゆる既知の原理を利用可能であることに留意することが重要である。単純化のために、本実施例では、可動範囲2を有する往復動機関について述べるが、この用語はいずれの場合もカバーするものとする。
【0022】
ステップS2において、エンジンのピストン3が死点の内側にあるときの吸気行程の開始時に、シリンダ1は作動媒体用の容器7に接合される。ステップS3において、ピストンが内側の死点から外側に移動し、従ってシリンダに作動媒体が充填される。このステップの終わりには、シリンダ内の作動媒体の状態は、体積1m
3圧力6バール温度300Kとなる。この状態は、
図2の圧力-体積図の点Aによって示す。作動媒体は0.4モルの水蒸気を含む。ステップS4において、次の圧縮行程の開始時に、シリンダ1が閉鎖され、好ましくは、弁5を用いて、作動媒体用の容器7から分離する。ステップS5において、その大きな全表面を急速に蒸発させ、シリンダ1の湿度が100%近くになるまで作動媒体を冷却するため、水または希釈溶液の微細なスプレーをシリンダに導入する。そのとき、混合ガスの温度は292K、含水量は1モル、圧力は5.85バールであり、この状態は、
図2の圧力-体積図において点Bとしてマークされている。点Bの温度は、効率を大幅に低下させることなく、274~330Kの間で可変であり、この変化の間、サイクルの最高圧力は約5%変化し、最高圧力は15%変化することを我々は認識している。この領域を超えると、作動媒体の蒸気含有量が大幅に増加し、環境への熱損失も増加する。ステップS6において、ピストンを内側の死点に向けて内方に移動させることにより、作動媒体を圧縮して加熱する。微細なスプレーの液滴は、加温されている作動媒体内で蒸発し続けるため、温度上昇が遅くなる。圧縮行程中の作動媒体の状態の変化は、
図2の圧力-体積図の点Bと点Cとの間の線分によって表される。注入される水または希釈溶液の分量(天然に発生する水は常に一部の溶質を含み、従って厳密に言えば、水道水、川や海の水等は希釈水溶液である)は、例えば、ピストンが内側の死点に到達すると液滴が蒸発するような方法で専門家に知られている実験、シミュレーション、または計算によって選択される。
図2の圧力-体積図の点Cでは、作動媒体の体積は0.223m
3、圧力は36.2バール、温度は404K(131℃)、水蒸気含有量は18モルである。次に、ステップS7において、より高濃度の溶液の微細なスプレーがシリンダ1に導入され、蒸気の一部が液滴上に凝縮してそれらを加熱し、暖かい液滴が作動媒体を加熱する。状態は、
図2の圧力-体積図の点Dとしてマークされた状態に変化し、圧力は38.95バール、温度は434K(161℃)、水蒸気含有量は15.5モルである。このステップは、蒸気の凝縮による圧力降下が予想されるため、むしろ直感に反する。水の分圧は確かに低下するが、凝縮熱によって加熱された不活性ガスの圧力ははるかに多く上昇し、正味の効果は圧力の上昇である。作動媒体はピストンを外方に押して膨張し、膨張行程中の状態変化は、
図2の圧力-体積図における点Dと点Aとの間の線分で表される。作動媒体が冷却するにつれて、より多くの蒸気が液滴に凝縮し、従って、温度低下を遅らせる。外側の死点において、作動媒体の状態は、
図2の圧力-体積図の点Aでマークされた状態に戻る。ステップS8において、作動媒体は、弁5を介してピストン3によってシリンダ1から押し出され、液滴分離後、作動媒体用の容器7に戻される。より明確な図面を示すために、吸気行程および排気行程は圧力-体積図に示されていない。
【0023】
上述したサイクルで約55kJの仕事を得ることができ、これは、このようなシリンダ1を4つ備え、1500回転/分で動作するエネルギー変換機、即ち13エンジンで5.5Mwの出力が得られることを意味する。
【0024】
作動媒体用の容器7内の圧力は、エンジンを流れるガスの量に比例するため、可能な限り増加させる必要がある。作動媒体用の容器7の圧力は、エネルギー変換機内の圧縮比および最大許容圧力(これは、
図2の圧力-体積図の点Dである)によって制限される。上記の例では、作動媒体用の容器7の圧力は、0.5~16バールの間で変化する。作動媒体用の容器7内の圧力は、各例において一定であるが、定数は、異なる例においては異なるものとする。
【0025】
以下の例では、可動範囲2内に約40バールの最大圧力を許容し、この値を圧力比で割ると、作動媒体用のコンテナ7内の圧力が得られる。例えば、可動範囲2の壁が80バールに耐えられる場合、もちろん上記の値を2倍にすることが可能である。
【0026】
上記のサイクルに類似したサイクルは、もちろんタービンでも実現可能であり、または(ピストン3の両側を可動範囲として使用して)2行程エンジンとして実現することも可能である。現実的なサイクルでは、図面において文字でマークされた角部は丸みを帯びている。
【0027】
可動範囲2に希釈溶液の液滴がある限り、作動媒体の状態は、そのポイントのうちの1つと、可動範囲2内の蒸気の分圧が希釈溶液の蒸気圧に等しくなければならないという要件とによって一意に決定される曲線に沿って変化する。以下では、この曲線上にあるサイクルの区分をサイクルの下部ブランチと称する。これは上の点Bと点Cとの間の線分である。
【0028】
可動範囲2により高濃度の溶液の液滴がある限り、作動媒体の状態は、そのポイントのうちの1つと、可動範囲2内の蒸気の分圧がより高濃度の溶液の蒸気圧に等しくなければならないという要件とによって一意に決定される曲線に沿って変化する。以下では、この曲線上にあるサイクルの区分をサイクルの上部ブランチと称する。これは上の点Dと点Aとの間の線分である。
【0029】
上記の例では、下部ブランチと上部ブランチとの間を通過するA-B区分およびC-D区分は、等容(一定容積)プロセスに対応しているが、これは必須ではない。タービンを使用した実装では、これらの区分は、垂直の、水平な線分の代わりに(本実施例のこのような区分は
図2の点A-B´と点C-D´との間に点線として示されている)、等圧(一定またはほぼ一定の圧力)プロセスであることができる。この場合、作動媒体の流れに注入された水滴の蒸発が作動媒体の冷却を開始すると、蒸気が飽和するまで、その圧力ではなくその体積が減少し、システムの状態は下部ブランチ上の点B´になる。ターボ機械の場合、コンプレッサの後に注入されたより高濃度の溶液の加熱効果も等圧プロセスとして現れる。状態が上部ブランチのポイントD´に到達するまで、体積は増加する。下部ブランチと上部ブランチとの間を通過する区分の他の異なる変形も、例えば、注入の時間的特性または吸気形状を変更することによって実施することができる。
【0030】
圧縮比も幅広く可変である。上記の例における値とは別に、我々は、2.4の圧力比に対応する1:1.82の値でのシミュレーションも実行した。この非常に低い値は、単段遠心式タービンでも達成可能であるため、興味深いものになる可能性がある。ここでも効率は良好ではあるが、この領域における所与の質量流量に対して得られる仕事は体積変化に比例するため、(同じ初期圧力の場合)上記の例よりも低くなる。しかしながら、同様の強度の建築材料を使用することにより、この低い圧縮比に対して、作動媒体用の容器7の圧力を、この例では好適には16バールまで上昇させることができ、これにより質量流量も増加するため、より単純なコンプレッサでも同様の産出高を達成することができる。上記の例の値とは別に、圧縮比の値が1:33のシミュレーションも実施したが、これも動作可能であることが証明され、ここでは、作動媒体用のコンテナ7内の圧力は僅か0.5バールであり、圧力比は70であり、これは実用的ではなく、所与の質量流量に対して得られた出力もより小さくなった。
【0031】
上記の例を変更すると、圧縮の一部で断熱プロセスを使用することによって、下部ブランチと上部ブランチとの間を通過する大幅に異なる区分を実装することができる。ステップS4の圧縮行程で、最大よりも少ない希釈溶液を可動範囲に注入する場合、行程中に蒸発する可能性があり、その後、液滴は部分圧縮で既に蒸発する。その後、更なる圧縮により断熱プロセスを引き起こし、これは、蒸発を伴う圧縮よりもはるかに速い加熱を意味する。このようなサイクルのp-V図を
図3に示す。AとBとの間の区分、ほとんどの圧縮区分、およびBとCとの間の区分は、ステップS5において17.6モルの代わりに15.3モルのみの水が可動範囲に注入される点を除いて、前述した区分と同じである。液滴は、体積0.26m
3、圧力30.4バール、および温度121℃で曲線の点Cで使い果たされ、状態は点Cと点Dとの間の断熱圧縮プロセスに沿ってサイクルの上部分岐に到達する。点Dの後、サイクルは、前の説明に従って続行される。従って、
図2の点Cと点Dとの間の凝縮加熱区分は、
図3の点Cと点Dとの間の断熱圧縮に置き換えられる。
【0032】
好ましい実施形態では、エネルギー変換および熱交換器機能は、シリンダ1内の1つの場所で組み合わされる。ステップS2において、ピストン3を動かす操作の第1の行程において、作動媒体、好ましくは、例えば窒素またはアルゴン等の酸素を含まない不活性ガスでシリンダ1を充填する。不活性ガスを使用することによって、部品の腐食を大幅に低減することができる。吸気行程に続いて、ステップS3においてシリンダ1の吸気口を閉鎖し、ステップS4において圧縮行程が続く。吸気行程中の吸気ダクトまたはシリンダ1内において、またはステップS5の圧縮行程の一部中に、作動媒体に純水を噴霧する。噴霧は、液体と気体との間に大きな全表面のインタフェースを生成するのに適した方法であることは専門家にとって周知であり、一般に燃料の気化を促進するために使用される。吸気行程中に注入する場合において、液滴が内部でより長い時間を費やし、液滴が壁に付着する可能性が高まるため、より大きな液滴を噴霧すれば十分である可能性がある。圧縮行程中の注入は、より微細なスプレーが必要であるが、これはより適切に制御することができ、その実現はより困難かつより高価である。小さな液滴は圧縮行程中に蒸発し、作動媒体から熱を抽出する。作動媒体から抽出された熱の主要部分は、水の蒸発の潜熱に変換され、この形態でシリンダ1の内部に残り、これにより断熱することができる。圧縮の最終段階で、蒸発が事実上終了すると、ほぼ断熱的な方法でガスを更に圧縮する。次の作業工程中に、作動媒体は膨張し、ピストン3を押し出し、ステップS7において、低蒸気圧を有するより高濃度の溶液、例えば40~60質量%の塩化カルシウム溶液または飽和塩化マグネシウム溶液がこの湿った膨張用ガスに注入される。より高濃度の溶液は、エネルギー抽出中に継続的に希釈され、完全にチャージされたシステムではその濃度は60%である一方、ほぼ枯渇すると40%になる。シリンダ1に存在する蒸気は、食塩水の液滴上で凝縮し、それらを加熱する。液滴は、この熱を大きな全表面を通して冷却されている作動媒体に伝達する。このプロセス中に、作動媒体は、圧縮行程中に蒸気に伝達されたエネルギーに加えて、より暖かい蒸気の食塩水への凝縮熱と純水の蒸発熱との差を回収する。実施例による塩化カルシウム溶液の場合、これは約10%である。この余剰エネルギーは、塩分濃度差としてシステムに貯蔵されるエネルギーであり、仕事に変換されるものである。作業工程の終わりに、乾燥ガスが更に膨張し、その後、ほぼ開始状態に戻る。ステップS8において、ピストン機関の場合、その排気口を開口することによって、ターボ機械の場合、ガスおよび食塩水が可動範囲から除去される通常の方法において、液体およびガス成分は、既知の液滴分離方法によって分離され、作動媒体ガスは作動媒体用の容器7に戻され、幾分か希釈された溶液はより高濃度の溶液の容器11に戻され、サイクルを最初からやり直すことができる。
【0033】
作動媒体に対するサイクルの熱力学的効率は僅か10%であることが分かるが、90%は熱抽出時に蒸発熱として貯蔵され、凝縮熱として入熱時にほぼ完全に回収することができる。損失は、噴霧された溶液の小さな液滴が、開始状態に戻される作動媒体よりも暖かいまま残るという効果から生じる可能性がある。この影響の大きさは、液滴のサイズ、気体および液体の質量比、流れの状態に依存するが、この方法で失われる熱は、全体的な凝縮熱と比較して無視できるものである。同様に、大型の断熱シリンダ1の場合、壁に接触して熱を伝達する液滴の数が少ないため、そこで失われる熱も無視することができ、濃度差に貯蔵されたエネルギーは、非常に高い効率でほぼ完全に仕事に変換される。
【0034】
(より高温で実行され、溶媒がより高濃度の溶液から蒸発する)圧縮行程の終わりに、湿ガスが、膨張行程に参加することができる前に、液滴分離器20、21を通過しなければならないことを除いて、エネルギー貯蔵のために逆サイクルを使用することも明らかに可能である。(より低温であり、蒸気が希釈溶液の液滴上に凝縮される)膨張行程の終わりに、液滴も、好ましくは液滴分離器20、21によりガスから分離される。このようにして、費やされた仕事のほとんどは溶液の増加する濃度差に保存される。実施例のソリューションを使用して保存可能なエネルギーは、鉛電池の80~130kJ/kgのエネルギー密度に近いが、モーラ水および塩を追加することによって、保存容量を無制限に増加させることができる。この方法は環境にやさしく、単純かつよく知られた耐久性のある要素のみを使用し、そのエネルギー密度は最も普及している揚水発電所のエネルギー密度よりも数桁分高い。
【0035】
別の好ましい実施形態では、熱交換および仕事の生産は空間的に分離されている。このバージョンでは、圧縮された湿った作動媒体が最初に可動範囲2に装填され、そこにより高濃度の溶液が噴霧され、蒸気の凝縮熱によって加熱された加温液滴によって作動媒体を加熱する。結果として得られるより高温の作動媒体は、液滴分離またはガス機関の後にタービン内に広がり、ここで仕事を生成し、タービンまたは機関を出た後、純水がより低温かつ乾燥した作動媒体に噴霧されて熱を抽出する。この段階の間、作動媒体の密度および蒸気含有量が増加する。更なる圧縮の後、湿った作動媒体はサイクルの最初に戻る。
【0036】
蒸気の潜熱に蓄えられたエネルギーは、蒸気が機械の壁、例えばシリンダ1の壁上で凝縮し、壁がその熱を伝導し、環境に伝達すると失われる可能性がある。この影響を最小限に抑えるために、本発明による装置の好ましい実施形態では、蒸気と接触し得る装置のこれらの部分は、環境から断熱されている。これは、セラミックシリンダ壁を使用することによって、または、シリンダ1を包囲する断熱材によって実現することができるが、これは、温度に応じて、グラスウール、ロックウールであることができるが、温度が低いため、プラスチック材料で製造された断熱材であることさえ可能である。
【0037】
このようにして、壁はより高い動作温度で平衡化するが、これは、一方では壁上での結露を最小限に抑え、他方では低温状態にある作動媒体を加熱する。完全に断熱することにより、熱力学的サイクルの平均温度(上記の例では85℃)で平衡化される。コースの壁の温度は、シリンダの軸に沿って大幅に変化する可能性があり、内部ではより暖かくなるが、断熱の主な目的は熱損失の低減である。
【0038】
更に好ましい実施形態では、希釈溶液は他の目的にも使用することができ、それは、例えば、その表面の下に、1つ以上の柔軟な袋状の容器またはバルーンがより高濃度の溶液を封入している自然の開放水域、例えば、プール、湖、川、源泉池、三日月湖または海水でさえあってもよい。このバージョンは非常にスケーラブルであり、新しいバルーン(標準化されたサイズであることができる)を追加することによって貯蔵容量を容易に増加させることができる。
【0039】
更に好ましい実施形態において、より高濃度の溶液は、貯蔵温度で飽和され、かつ、いくらかの未溶解の溶質材料を含む。例えば、水は20℃で35.2%の塩化マグネシウムを溶解することができる一方、100℃では42%溶解することができ、これを超える量は溶解されずに残る。通常の操作中に、溶媒を溶液に導入すると、過剰な塩の一部が溶解して、濃度をその温度に対応する飽和レベルに維持する。これは、装置の操作中に、溶媒が溶液に導入される、または溶液から除去される間、溶液の濃度が特定の制限内で一定に保持されることを意味する。エネルギー貯蔵装置が完全に(エネルギーによって)充電された状態において、溶質材料のかなりの部分が非溶解状態にある可能性がある。
【0040】
貯蔵温度を選択する際には、飽和濃度が温度と共に増加し、従って溶解する塩の量および蒸気圧も増加し、両方の効果がエネルギー密度を改善することを考慮に入れる。一方、容器の壁を通過する熱損失も増加するが、この損失は、大型の断熱容器では重要ではない。環境の温度下で溶液を保管することは非現実的である一方、上限温度は、容器全体を耐圧的に構築することも非現実的であるという理論的根拠によって与えられ、これは、100℃または安全性を考慮して90℃の実用的な制限を意味する。
【0041】
図5に示される好ましい実施形態では、タンク12は、希釈溶液、より高濃度の溶液、および中濃度の溶液用の3つの別個の容器10、11、24を包囲している。ダクト16は、3ポート弁25の出口に接合し、3ポート弁25のうちの1つの入口は容器11に接続される一方、他方の入口は容器24に接続されて、流体の移動を可能にする。容器11の別のポートは、別の3ポート弁26のうちの1つの出口に接続され、3ポート弁26の入口はダクト23に接続され、他の出口は容器24に接続され、これにより、流体の移動を可能にする。
【0042】
エネルギー抽出中、高濃度の溶液は熱機関に送られ、前述のプロセスと同様に、中濃度に希釈される。この場合、3ポート弁25を使用して、ダクト16を容器11に接続する。生成された中濃度の溶液は、容器11に戻されるのではなく、この目的のために設置された容器24に戻される。この目的のために、3ポート弁26を使用して、ダクト23を容器24に接続する。この構成の利点は、この方法で、エネルギー抽出フェーズ全体において、入熱に一定濃度の溶液を使用できる点にある。エネルギー貯蔵中、中濃度の溶液用の容器24からの溶液を使い果たし、エネルギー貯蔵プロセス中に中濃度の溶液から水を蒸発させ、結果として得られた高濃度の溶液をより高濃度の溶液の容器11に蓄積する。この目的のために、3ポート弁25および26は、ダクト16を容器24に接続し、ダクト23を容器11に接続するように設定される。3つの容器10、11、24は、可撓性壁13によって分離される単一のタンク12内に設置することができる。
【0043】
更に好ましい実施形態では、溶液のうちの少なくとも1つは、エネルギー変換ユニットに入る前に、専用の閉鎖型熱交換器で加熱される。溶液温度の上限は、容器の熱損失および気密性によって設定されたが、容器10、11、24の温度を上昇させる必要はなく、現在使用中の液体を加熱するだけで十分であり、これには、上述した専用の閉鎖型熱交換器が必要である。温度の下限は環境の温度であり、上限は水の臨界点である374℃である。実用的な目的のために、50~150℃の間の温度を選択するのが好都合である。熱力学的サイクルで発生する最高温度は、水の臨界点である647K未満に維持する必要があり、実質的に大幅に低く、例えば520K未満、即ち約250℃未満である。
【0044】
使用後、溶液は保存温度まで冷却される。問題の溶液がより高濃度の溶液であり、装置がエネルギー抽出モードで使用されている場合、高温では飽和濃度がより高くなるため、使用直前に加熱された溶液により多くの溶質材料を追加することができる。
【0045】
タンク12、または場合によっては容器10、11または24のうちの1つ以上の温度を上昇させることによって、いくつかの異なる目標を達成することができる。一方で、より多くの溶質材料をより高濃度の溶液に溶解して、エネルギー貯蔵容量を向上させることができ、他方で、溶液の温度を熱機関の動作温度に近付けることができる。適切な大きさの容器10、11、24の場合、壁を通じた熱損失は、実現可能な断熱を使用しても、蓄積されるエネルギーの量と比較して小さくなり、更に好ましい実施形態では、この方法で失われた熱は、熱機関の機械的損失によって補充される。
【0046】
更に有利な実施方法によれば、エネルギー貯蔵および抽出の場所を空間的に分離することができる。このようにして、異なる濃度の溶液を燃料として使用して、モバイル機器にエネルギーを供給することができる。燃料取替は、新しい溶液を迅速に充填し、使用済みの中濃度の溶液を排出することによって実行可能である。溶液の取替は、燃料ステーションにおいて数分で実行することができ、その後、燃料ステーションは、いくらかのエネルギーを使用して濃度差を復元する。濃度差に基づくエネルギー貯蔵のエネルギー密度は従来の燃料よりも低いため、この実装は、従来の燃料と比較して質量が増加しても問題がない場合に使用可能である。
【0047】
動作中に作動媒体用の容器7内のガスの圧力が大幅に変化しないようにシステムを構成することが有利である。これを達成するための1つの方法に、作動媒体用の容器7の容積をシリンダ1の容積よりも著しく大きくなるように選択する方法がある。しかしながら、作動媒体用の容器7から引かれるガスの分量と、同時にそこに排出される分量との差が常にゼロに近いことがより実用的である。4ストローク構成の場合において、シリンダの数量が4またはその整数倍である場合、シリンダ1の吸気行程は常に別のシリンダ1の排気行程と一致し、これは、1つのシリンダ1によって取り込まれるのと同じ量が他によって同時に排出されることを意味する。ターボ機械の場合、機械の吸気と排気もまた同等である。このようにして、作動媒体用の容器7のサイズを最小化することができる。
【0048】
熱力学的サイクルの最高温度が低い(通常100~200℃)ため、建築材料、絶縁体、およびコーティングとして軽金属、複合材料、またはプラスチックさえ使用することが可能である。低圧比により、単純な数段のコンプレッサおよびタービンを使用することができる。
【0049】
逆に動作する熱力学的サイクルは、溶液の濃度差の増加において供給される仕事を貯蔵する。このようなプロセスは、
図2を使用して表すことができるが、作動媒体用の容器7のガス状態に対応する基底状態は点Bによってマークされている。シリンダ1に引き込まれる作動媒体により高濃度の溶液を導入し(作動媒体の蒸気含有量は0.4モル/m
3である)、これが液滴上で凝縮し始め、ガスを加熱する。これを
図2の図のBとAとの間の区分によって示す。ピストン3を内方に移動させることによって、作動媒体の圧縮を開始する。微細なスプレーの液滴は加温ガス中で蒸発するため、温度上昇が遅くなる。圧縮中のガス状態の変化は、
図2のp-V図のAとDとの間の線分によって示す。このプロセス中に、液滴は水分を失い、その濃度が増加する。圧縮後、より高濃度の溶液の液滴を作動媒体から除去する必要があるが、これを実現するにはいくつかの方法があり、後ほどこの主題に戻ることとする。次に、希釈溶液、好ましくは水をそこに注入することによって、ガスをCでマークされた状態に冷却する。これは、
図2の図のDとCとの間の区分で示され、続いて、CとBとの間の線分に沿って状態を変化させ、冷却ガス混合物の蒸気含有量のほとんどは、液滴の表面に凝縮される。排気行程において、ガスおよび液滴は、液滴分離器20を介してシリンダ1から除去され、液体は、希釈溶液の容器10に戻される。要約すると、我々は、仕事を費やすことによってより高濃度の溶液から水を抽出し、従って濃度差を大きくした。
【0050】
線分A~Dの終わりにおける液滴の分離は、ターボ機械を実装することによって非常に簡単であり、連続的に流れる媒体は、コンプレッサとタービンとの間の液滴分離器を通して駆動する必要がある。ピストンエンジンにおいて可能な方法は、例えば、ピストンが混合物を、液滴分離器を通して一時的な高圧容器に押し込み、そこから液滴のないガスを膨張段階の開始時にシリンダに装填する方法である。
【0051】
ピストン機関およびターボ機械について言及した可動範囲の実装について、更に、ピストンベースのシステムでは、吸気-圧縮行程および膨張-排気行程に別々のシリンダ1を使用することが有利であり得る。なぜなら、この方法により、より高濃度な溶液および希釈溶液が別個のシリンダ1で機能し、シリンダ1に残る可能性のある溶液の痕跡が、互いの効率を悪化させないからである。このようにして、液滴分離は、シリンダ1のうちの1つから他への作動媒体の移動中に非常に簡単に実現することができる。
【0052】
主に大量エネルギー貯蔵のための本発明による方法および方法を実施する装置の主な利点の中で、既存の解決策と比較して、安価で環境に優しく、拡張可能であり、エネルギー密度が高く、長寿命であり、シンプルかつ実績のある技術を用いるという点を強調できる。そのエネルギー密度はバッテリーのエネルギー密度に匹敵するが、バッテリーよりも耐久性があり安価である。
【0053】
提案された解決策の主な用途は、低消費期間中に再生可能な供給源または安価に生産されたベースロード発電所から来る余剰エネルギーを貯蔵し、また高消費期間中にこのエネルギーを電力網に戻すことである。別の利点は、エネルギー密度が高いため、より大きなバッテリープラントに取って代わることができる点である。
【符号の説明】
【0054】
S1~S8 ステップ
1 シリンダ
2 可動範囲
3 ピストン
4 ピストンロッド
5 弁
6 弁
7 容器
8 ダクト
9 ダクト
10 容器
11 容器
12 タンク
13 壁
14 ダクト
15 インジェクタ
16 ダクト
17 インジェクタ
18 ポンプ
19 ポンプ
20 液滴分離器
21 液滴分離器
22 ダクト
23 ダクト
24 容器
25 3ポート弁
26 3ポート弁