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特許7534004鋼橋の予防保全工法、及びこれに用いられる循環式ブラスト装置
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  • 特許-鋼橋の予防保全工法、及びこれに用いられる循環式ブラスト装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】鋼橋の予防保全工法、及びこれに用いられる循環式ブラスト装置
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20240806BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20240806BHJP
   B08B 5/00 20060101ALI20240806BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01D1/00 E
B08B5/00 A
B08B3/02 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024002197
(22)【出願日】2024-01-10
(62)【分割の表示】P 2019090839の分割
【原出願日】2019-05-13
(65)【公開番号】P2024038318
(43)【公開日】2024-03-19
【審査請求日】2024-02-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503055554
【氏名又は名称】ヤマダインフラテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】山田 博文
(72)【発明者】
【氏名】山田 翔平
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-144543(JP,A)
【文献】米国特許第05527203(US,A)
【文献】特開昭62-243787(JP,A)
【文献】今井篤実、山本哲也、麻生稔彦,耐候性鋼橋梁の防食補修塗装法の実施に関する一考察,土木学会論文集A1(構造・地震工学),日本,公益社団法人 土木学会,2012年06月20日,Vol.68,No.2,第347-355頁
【文献】尾上紘司、藤井堅、真鍋幸男、大田耕平、米倉亜州夫,レーザーを用いた新しい素地調整法の鋼構造物への適用性,構造工学論文集,日本,公益社団法人 土木学会,2017年,Vol.63A,第476-482頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E01D 1/00
B08B 5/00
B08B 3/02
E04G 23/02
B24C 1/10
B23K 26/36
J-STAGE
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分が付着した鋼橋の予防保全工法であって、
作業対象となる鋼橋の作業現場に配されて、グリットやショットが噴射される噴射器と、
前記作業現場に隣接して設置されて、前記噴射器に圧送されるグリットやショットを貯留する機能を有する装置本体部と、
を備えるブラスト装置を用いるものであり、
作業対象となる鋼橋の作業現場で、鋼橋に対して素地調整するために研削材としてのグリットを噴射する前記ブラスト装置を用いてブラスト処理を行う工程Aと、
前記作業現場で、前記工程Aを行った後に、前記素地調整の対象となる部分に残留した前記塩分を除去するために水蒸気を噴霧する工程Cと、
前記装置本体部に対してグリットに代えてショットを装填して該ショットを噴射可能とするショット入れ替え工程と、
前記工程C及びショット入れ替え工程を行った後に、前記作業現場で、前記素地調整の対象となる部分に対して疲労強度向上のために、前記ブラスト装置から噴射するショットを用いてショットピーニング処理を行う工程Bと、
前記工程Bを行った後に、前記素地調整の対象となる部分に対して最終仕上げ塗装を施す工程Dと、
を含み、
さらに前記工程Bの後で、かつ前記工程Dの前において、最終仕上げ塗装を施す部位について、当該素地調整の対象となる部分の粗さの確認と塩分が残留していないかの確認をする工程を含み、
さらに前記工程Aで使用したグリットを洗浄して乾燥させる工程を含む
ことを特徴とする鋼橋の予防保全工法。
【請求項2】
塩分が付着した鋼橋の予防保全工法であって、
作業対象となる鋼橋の作業現場に配されて、グリットやショットが噴射される噴射器と、
前記作業現場に隣接して設置されて、前記噴射器に圧送されるグリットやショットを貯留する機能を有する装置本体部と、
を備えるブラスト装置を用いるものであり、
作業対象となる鋼橋の作業現場で、鋼橋に対して素地調整するために研削材としてのグリットを噴射する前記ブラスト装置を用いてブラスト処理を行う工程Aと、
前記作業現場で、前記工程Aを行った後に、前記素地調整の対象となる部分に残留した前記塩分を除去するためにレーザー光を照射する工程Cと、
前記装置本体部に対してグリットに代えてショットを装填して該ショットを噴射可能とするショット入れ替え工程と、
前記工程C及びショット入れ替え工程を行った後に、前記作業現場で、前記素地調整の対象となる部分に対して疲労強度向上のために、前記ブラスト装置から噴射するショットを用いてショットピーニング処理を行う工程Bと、
前記工程Bを行った後に、前記素地調整の対象となる部分に対して最終仕上げ塗装を施す工程Dと、
を含み、
さらに前記工程Bの後で、かつ前記工程Dの前において、最終仕上げ塗装を施す部位について、当該素地調整の対象となる部分の粗さの確認と塩分が残留していないかの確認をする工程を含み、
さらに前記工程Aで使用したグリットを洗浄して乾燥させる工程を含む
ことを特徴とする鋼橋の予防保全工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼橋における表面を塗装する予防保全工法、及びこれに用いられる循環式ブラスト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、新設するものや既設のものに関わらず鋼橋はサビ等の発生を防ぐために、あるいは特に既存の鋼橋においては経年劣化によって腐食が進行した塗装の更新のために、予防保全が施されている。このように予防保全は、サビ等を取り除いたり、古い塗膜を取り除いたりする必要があるため、近年ではブラスト処理(1種ケレン)によってサビや塗膜を除去し、その後、新規の塗装を施すことが行われている。
【0003】
また、例えば特許文献1においては、寒冷地の鋼橋表面の塗料には、凍結防止や錆防止等のために人為的に使用された凍結防止剤等の処理剤に含まれる塩分が一般的に付着していることが示唆されている。また、沿岸地帯に建設された鋼橋にも自然に塩分が付着することはよく知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-203313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような環境下にある鋼橋においては、付着した塩分によって鋼橋表面に腐食の発生を誘引するおそれがあるため、この問題を適切に解決することが求められる。ここで、ブラスト処理やショットピーニング処理をして表面塗膜等を剥離させることで、鋼橋に付着した塩分を除去することは可能であるが、鋼橋の表面において複雑に入組んだ箇所や狭小箇所等においては、剥離処理ができずに依然として塩分が残留する可能性があった。
【0006】
そこで本発明は、鋼橋に付着した処理剤に含まれる塩分を適切に除去することができる鋼橋の予防保全工法、及びこれに用いられる循環式ブラスト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、塩分が付着した鋼橋の予防保全工法であって、鋼橋に対して素地調整するために研削材としてのグリットを用いてブラスト処理を行う工程Aと、前記素地調整の対象となる部分に対して疲労強度向上のためにショットを用いてショットピーニング処理を行う工程Bと、少なくとも前記工程Aの後、又は少なくとも前記工程Bの後に、前記素地調整の対象となる部分に残留した前記塩分を除去する工程Cと、少なくとも前記工程Cを行った後に、前記素地調整の対象となる部分に対して最終仕上げ塗装を施す工程Dと、を含むことを特徴とする鋼橋の予防保全工法である。
【0008】
かかる構成にあっては、鋼橋(新設の鋼橋でもよいし既設の鋼橋でもよい。)に対して、例えばブラスト処理からショットピーニング処理に移行するに際し、ブラスト処理されて形成された素地面に対してそのままショットピーニング処理を行うことができるため、別々に各工事を行う必要がなく、工期を効果的に短縮でき、コストも削減できる。さらに詳述すると、一般的に、ブラスト処理においては足場を組んだり、粉塵が外部へ漏出することを防止するために防塵シートを張設したりするが、本発明にあってはこのような周辺設備を撤去することなく連続してショットピーニング処理を行うことができるため、作業工程に無駄がない。なお、本発明は、工程Aの後に工程Bを行っても良いし、工程Bの後に工程Aを行ってもよい。
【0009】
さらに、本発明は、前記素地調整の対象となる部分に付着した塩分を除去する工程Cを実行することを大きな特徴としている。かかる構成を採用することにより、例えば寒冷地において鋼橋表面に付着した凍結防止剤等の処理剤に含まれる塩分や、沿岸地帯において自然に付着した塩分を適切に除去することができる。
【0010】
ここで、前記工程Cは、前記素地調整の対象となる部分に対して水蒸気を噴霧して前記塩分を除去することを含む構成が提案される。また、より望ましくは、前記工程Cは、前記素地調整の対象となる部分に対してレーザー光を照射して前記塩分を除去することを含む構成が提案される。
【0011】
かかる構成にあっては、高温の水蒸気(スチーム)を噴霧することによって素地表面を適切に洗浄して残留物を除去することができる。なお、素地表面の洗浄を行う方法は他にも多数存在するが、噴霧される水蒸気すなわち水は、少量であり、単に水をかけて洗浄するよりも作業環境を悪化させずに済む利点がある。また、レーザー光を照射することで鋼橋表面に残留する塩分を溶融等して除去する構成は、乾式の手法であるため、鋼橋表面に錆の発生を招くおそれを飛躍的に低減できる利点がある。また、レーザー光を照射することにより、ピーニング効果も得られる。なお、工程Cを行った際には粉塵が発生する場合があるが、本発明においては、上述のように、ブラスト処理を行う工程Aと、ショットピーニング処理を行う工程Bとを共に含んでおり、共通の防塵シートで囲まれた同一環境下で行うことができるため、粉塵が外部に漏洩することを適切に防止することができる。なお、本発明における工程Cは、鋼橋に設定された全ての素地表面に対して行われるものではなく、工程A又は工程Bで塩分を適切に除去できない局所的な部分に対して工程Cを実行する構成となる。
【0012】
なお、ブラスト処理、グリット、及びショットは、JIS Z 03120:2004「素地調整用ブラスト処理方法通則」において、それぞれ定義されている。具体的には、ブラスト処理とは「処理する鋼材表面に大きな運動エネルギーをもつ研削材を衝突させ、鋼材表面を細かく切削及び打撃することによって、鋼材表面の酸化物又は付着物を除去して鋼材表面を清浄化及び粗面化すること。」である。グリットとは「使用前の状態で、りょう角(稜角)をもつ角張った形状であり、丸い部分がその粒子の1/2未満の粒子。」である。ショットとは「使用前の状態で、りょう角(稜角)、破砕面又は他の鋭い表面欠陥がなく、長径が短径の2倍以内の球形状の粒子。」である。また、ブラスト処理において「研削材」は上記した「研掃材」と同義である。また、JIS B 2711:2013「ばねのショットピーニング」において、ショットピーニングとは「ばねの表面層に球形に近い硬質粒子を高速度で打ち当てることによって、疲労強度及び耐応力腐食割れ性の向上を図る冷間加工法。表面に圧縮残留応力を与え、その表面を加工硬化させる。」ことである。
【0013】
ただし、ばね以外の金属材料に対して行うショットピーニングという表面処理方法は一般的であり、本発明における鋼橋に対するショットピーニングも同様の内容である。すなわち、本発明においてブラスト処理を行うために用いられる研削材にはグリットが対応すると共に、ショットピーニング処理を行うために用いられる硬質粒子にはショットが対応する。なお、グリットとして、いわゆるスチールカットワイヤーが採用されてもよい。また、ショットとしていわゆるラウンドカットワイヤーが採用されてもよい。
【0014】
なお、ステンレス鋼製のグリットの形態等については、上述したようにJIS Z 0310:2004の規定に準ずる。ステンレス鋼としては、マルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト二相ステンレス鋼、析出硬化ステンレス鋼のいずれも適用可能である。また、ショットがステンレス鋼製である場合には、グリットと同様にJIS Z 0310:2004の規定に準ずるものとする。
【0015】
かかる材料のグリット及び/又はショットを用いる構成にあっては、使用済みのものを洗浄して乾燥することによって、付着した塩分を除去することができる。したがって、本構成によれば、寒冷地や沿岸地帯で使用する場合にあっても再度使用することができる。
【0016】
また、本発明は、塩分が付着した鋼橋の予防保全工法に用いられる循環式ブラスト装置であって、鋼橋に対して素地調整するブラスト処理を行う工程に使用される研削材としてのグリット、及び前記素地調整の対象となる部分に対して疲労強度向上のために行うショットピーニング処理に使用されるショットを噴射する噴射手段と、前記噴射手段に電力を供給する電力供給手段と、備え、さらに、前記素地調整の対象となる部分に対してレーザー光を照射して前記塩分を除去するレーザー光照射手段を備えており、前記電力供給手段は、前記レーザー光照射手段に電気的に接続されて、レーザー光を照射するための電力を供給することを特徴とする循環式ブラスト装置である。
【0017】
かかる構成にあっては、例えば1種ケレンに必要な噴射手段に用いる電力供給手段を、レーザー光を照射するレーザー光照射手段に電力を供給する電力供給手段として共用することが可能となり、装置全体の簡素化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の鋼橋の予防保全工法は、腐食の発生を飛躍的に抑制できる優れた効果がある。
【0019】
また、本発明の循環式ブラスト装置は、装置全体の簡素化を図ることができる優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】鋼橋の予防保全の手順を示すフロー図である。
図2】循環式ブラスト装置を説明する概要説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明にかかる鋼橋の予防保全(特に再塗装)の工法、及びこれに用いられる循環式ブラスト装置を具体化した実施例を詳細に説明する。なお、本発明は、下記に示す実施例に限定されることはなく、適宜設計変更が可能である。
【0022】
図1に示すように、既存の鋼橋(鋼構造物)の再塗装手順としては、まず予防保全の対象となる鋼橋に足場を仮設する。これと共に、外部に粉塵が漏出しないように防塵シートを張設し、非塗装部分の養生を行い、ブラスト処理及びショットピーニング処理を行うための装置を設置する事前準備(S101)を行う。
【0023】
その後、前記鋼橋に塗布されている旧塗料の種類や厚さ、あるいは該鋼橋の状況等を調査(S102)する。そして、調査結果に基づき、使用するグリット及びショットの種類や噴射速度等を決定する。ここで、選定するグリット(非球形)及びショット(球形)は、共にJIS Z 0310:2004に規定されているが、特に耐食性に優れ、かつ洗浄が可能なステンレス鋼製が好ましい。
【0024】
そして前記S102において決定したグリットを用いて、まずブラスト処理を行う(S103)。具体的には、前記鋼橋における剥離対象の塗膜等の剥離と素地調整対象の部分の素地調整を行う。かかるブラスト処理により、本発明における工程Aが構成される。なお、該ブラスト処理によって剥離した塗膜やサビ等、及び使用済みグリットが粉塵として発生するが、前記S101において防塵シートを張設しているため、外部に粉塵が漏出することはなく、後述のように該粉塵は順次回収処理される。ところで、かかる工程Aを行うことにより、付着した塩分の大部分は、鋼橋表面から除去されることとなる。
【0025】
次いで、ブラスト処理を終えた鋼橋表面に対し、付着した塩分をさらに精緻に除去するべく、別途、塩分除去工程を実行する(S104)。具体的には、前記工程Aで除去しきれない箇所(複雑に入り組んだ箇所や狭小箇所等)に、レーザー光を局所的に照射する。これにより、局所部位に対して塩分を除去することが可能となる。なお、この塩分除去工程を行う際には、工程Aで使用した仮設の足場や防塵シートは撤去することなく継続して使用することができる。
【0026】
上述の構成にあって、レーザー光を照射することによって、素地表面に付着した塩分は溶融等することで素地表面から除去される。なお、S104において発生する粉塵等は少ないものの、前記S101において防塵シートを張設しているため、S103と同様に外部に粉塵が漏出してしまうことがない。また、レーザー光の照射時間は極めて短時間で済むため、後述する最終仕上げ塗装に至るまでの時間が長くなりすぎてサビが発生してしまう、ことを効果的に防止することができる。なお、本実施例の塩分除去工程により、本発明に係る工程Cが構成される。
【0027】
続いて、グリットを噴射したブラスト装置に対して、グリットに代えて前記S102によって決定したショットを装填して該ショットを噴射可能とする。かかる工程により、ショット入れ替え工程が構成される。ここで、仮設した足場や防塵シートは撤去することなく継続して使用する。
【0028】
そして、前記ブラスト処理によって形成された素地面からなるブラスト処理済部分(すなわち素地調整部分)に対して、前記ショットに入れ替えたブラスト装置を用いてショットピーニング処理を行う(S105)。かかる処理により、素地面の疲労強度及び耐応力腐食割れ性が向上する工程Bが構成される。ところで、該ショットピーニング処理は前記ブラスト処理を行った全ての素地面に対して行ってもよいし、溶接箇所周辺や強度に不安のある箇所等に対して適宜部分的に行ってもよい。
【0029】
その後、前記ブラスト処理、塩分除去工程、及びショットピーニング処理を行った素地面の確認を行う(S106)。かかる確認は目視確認のみならず、例えばISO8501ブラスト写真帳による比較、あるいは表面粗さ測定器による粗さ確認等も含まれる。これによって未剥離の塗膜が残っていないか、あるいは素地面の粗さが規格内であるか、等の確認がなされ、不十分な箇所に対して的確な処理がなされることとなる。また、鋼橋表面に塩分が残留していないかも確認される。残留塩分の確認方法としては、電導度法、ガーゼ拭き取り法、あるいはブレッセル法等が提案される。
【0030】
こうして素地面の確認が済んだ部分に対して最終塗膜を形成するための最終仕上げ塗装を行う(S107)。かかる塗装工程により、本発明にかかる工程Dが構成される。なお、かかる塗装は、例えば防錆塗装として下塗り塗装、該防錆塗装を保護する中塗り塗装、及び最終仕上げ塗装となる上塗り塗装のように複数回にわたって層状に塗装されることが一般的である。
【0031】
前記塗装が済むと、その確認(S108)が行われる。かかる確認は塗装が乾燥した後の膜厚確認だけでなく、例えば塗装作業中にウェットネスゲージを用いてウェット膜厚の確認等も含まれる。また、このような確認は前記最終仕上げ塗装となる上塗り塗装後のみならず、前記下塗り塗装、及び中塗り塗装時にも行われる。
【0032】
前記確認によって塗装作業が完了すると、現場の片付けを行う(S109)。具体的には、足場や防塵シート等の回収、及びブラスト-ショットピーニング噴射装置の撤収を行って予防保全の完了となる。
【0033】
また、上記のS103からS105までの手順と共に、粉塵の回収工程を実行する(S110)。具体的には、前記ブラスト処理(S103)で発生した使用済みグリット、前記ショットピーニング処理(S105)で発生した使用済みショット、及び、各工程で生じた剥離物やサビ等を含む粉塵を回収していく。
【0034】
なお、回収した使用済みグリット、及び使用済みショットは、使用時に鋼橋と衝突してもアルマンダイトガーネットや製鉄スラグのように破砕することがなく、再利用可能である。なお、グリット及びショットは、JIS Z 0310:2004に規定する鉄製(金属系)研削材であってもよく、中でも高炭素鋳鋼のものは600回程度再利用することができ、非常に経済的である。
【0035】
次に、循環式ブラスト装置1を一例として説明する。具体的に循環式ブラスト装置1は、グリットとショットとを共通の装置で噴射することが可能であり、しかも使用済みグリット、使用済みショット、及び剥離した塗膜等を回収してそれぞれ分別することができる。
【0036】
図2に示すように、前記循環式ブラスト装置1は、作業対象となる鋼橋Kの作業現場αに隣接して設置される装置本体部2を備えている。
【0037】
さらに該装置本体部2は、圧送ホース4を具備し、該圧送ホース4の先端に噴射器3が接続されている。該噴射器3からはグリットやショットが噴射される。また、前記装置本体部2は、吸引ホース5を具備し、該吸引ホース5の先端が作業現場αに配置されている。これにより、該吸引ホース5を介して、作業現場αで発生した使用済みグリット、使用済みショット、及び剥離した塗膜やサビ等を含む異物Dからなる粉塵Xを吸引することができる。なお、粉塵Xが外部に漏出しないように、図示しない防塵シートが作業現場αには張設され、送風機や集塵装置等も適宜設置される。
【0038】
また、前記循環式ブラスト装置1の装置本体部2には、グリットホッパータンク10とショットホッパータンク20とが互いに隣接して配設されている。さらに詳述すると、該グリットホッパータンク10は、グリット及び使用済みグリット(以下、これらの混合物をグリットという)を貯留しておく機能を有している。また、前記ショットホッパータンク20は、ショット及び使用済みショット(以下、これらの混合物をショットという)を貯留しておく機能を有している。
【0039】
さらに、グリットホッパータンク10には、グリットを作業現場αまで圧送するためのグリット加圧タンク11が接続されている。また、同様に、ショットホッパータンク120には、ショットを作業現場αまで圧送するためのショット加圧タンク21が接続されている。
【0040】
さらに、前記グリット加圧タンク11及び前記ショット加圧タンク21には、乾燥圧縮空気配管31を介して乾燥圧縮空気供給手段30が接続されている。かかる乾燥圧縮空気供給手段30は、乾燥した圧縮空気を供給するためのエアコンプレッサーとエアドライヤーとで構成されている。
【0041】
また、前記乾燥圧縮空気配管31には切換弁32が備えられており、乾燥圧縮空気を前記グリット加圧タンク11又はショット加圧タンク21に選択的に送給可能とされ、グリットに代えてショットを噴射可能に装填自在としている。
【0042】
また、前記グリット加圧タンク11及び前記ショット加圧タンク21には、前記圧送ホース4が接続されている。そして、かかる構成により、前記乾燥圧縮空気供給手段30から供給された乾燥圧縮空気による空気圧よってグリット又はショットが該圧送ホース4を介して噴射器3から噴射され、作業対象となる鋼橋Kにブラスト処理、あるいはショットピーニング処理が実行可能となっている。
【0043】
また、作業現場αには、レーザー光を照射するレーザー光照射装置6が配設されている。レーザー光照射装置6は、ハンディ型のレーザー光照射部を備えており、作業員が容易に取り扱うことができる形状・寸法とされている。
【0044】
ここで、循環式ブラスト装置1に使用される機器に電力を供給する電力供給手段10は、レーザー光照射装置6にも電気的に接続されており、同一の電力供給手段10を用いて、レーザー光照射装置6からレーザー光が発振させる。なお、張設された防塵シートにより、レーザー光が外部に漏出しないため、安全性にも優れている。
【0045】
前記作業現場αに堆積した使用済みグリット、使用済みショット、及び剥離した塗膜等の異物を含む粉塵Xは、前記吸引ホース5の一端からまとめて吸引される。そして、該吸引ホース5によって吸引された粉塵Xは、グリットホッパータンク10とショットホッパータンク20との上方に配された分別室40内に到達する。
【0046】
また、前記分別室40には、ダストホース51が取り付けられており、該ダストホース51には、剥離塗膜回収部としてのダスト回収部50が接続されている。さらに、該ダスト回収部50には、粉塵吸引手段としての空気吸引装置60が接続されている。したがって、該空気吸引装置60の空気吸引力によって、前記粉塵Xが吸引可能となっている。
【0047】
ここで、図3に示すように、前記分別室40は、上流側に使用済みグリット回収部45が配設され、該使用済みグリット回収部45の上流側に使用済みショット回収部46が配設されている。そして、分別室40は、ダストホース51に接続されていると共に、前記ダスト回収部50を介して前記空気吸引装置60に接続されている。
【0048】
そして、分別室40から排出された異物は、ダストホース51を介してダスト回収部50に導入されてダスト回収部50内で堆積され、所望のタイミングで廃棄物袋52に排出されて産業廃棄物として処理される。
【0049】
上記した構成は、適宜設計変更可能である。例えば、本発明の予防保全工法は、鋼橋の再塗装時のみならず新規に架設する鋼橋に対して適用してもよい。例えば、新設する鋼橋に対して、未だ塗装されていない表面に対してサビ等を除去すべく工程Aを実行した後に工程Cを実行し、その後、工程A実行時に使用した足場等の設備を撤去することなく工程Bを実行し、そして工程Dを実行するものである。かかる構成にあっても、防食性能を向上させることができると共に、工期を大幅に短縮でき、これによりコストも大幅に縮小することができる。
【0050】
また、上述の工程Cは、例えば高温高圧の水蒸気(スチーム)を素地表面に噴霧するものであってもよいし、それ以外の方法で素地表面に付着した塩分を除去するものであってもよい。いずれの方法であっても、防塵シートが張設された作業現場α内で工程Cが実行されるため、外部に粉塵が漏出することはなく、安全に作業を行うことができる。
【0051】
工程A、工程B、及び工程Cの順番は上記実施例の順番に限定されるものではなく、例えば工程A、工程B、工程Cの順序でもよいし、それ以外の順番でも構わない。ただし、まず工程Aを実行して旧塗膜等を剥離させた後に工程Cを実行して局所的な部位の塩分を除去し、その後に工程Bを実行して疲労強度の向上を図り、最後に仕上げ塗装を実行する順序が最も望ましい。
【符号の説明】
【0052】
1 循環式ブラスト装置
K 鋼橋(鋼構造物)

図1
図2