(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】溶接部の通電状態監視方法及び抵抗溶接機の制御装置
(51)【国際特許分類】
B23K 11/25 20060101AFI20240806BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B23K11/25 510
B23K11/11 540
(21)【出願番号】P 2020064445
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 信浩
(72)【発明者】
【氏名】木許 圭一郎
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-321068(JP,A)
【文献】特開平04-367378(JP,A)
【文献】特開2007-326146(JP,A)
【文献】特開昭52-020352(JP,A)
【文献】特開平10-191656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/25
B23K 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ回路から出力される電流値に基づいて、前記インバータ回路のスイッチング素子をオンにする時間であるパルス幅を制御しながら、電流値の異なる複数の通電区間を有する通電パターンで複数の金属板の重合部に通電して溶接部を形成する抵抗溶接を行うに際し、
前記パルス幅に関するパラメータに基づいて、各通電区間における溶接部の通電状態を監視する溶接部の通電状態監視方法
であって、
前記パラメータが、各通電区間において前記パルス幅が所定範囲外となった回数である溶接部の通電状態監視方法。
【請求項2】
インバータ回路から出力される電流値に基づいて、前記インバータ回路のスイッチング素子をオンにする時間であるパルス幅を制御しながら、電流値の異なる複数の通電区間を有する通電パターンで複数の金属板の重合部に通電して溶接部を形成する抵抗溶接を行うに際し、
前記パルス幅に関するパラメータに基づいて、各通電区間における溶接部の通電状態を監視する溶接部の通電状態監視方法
であって、
各通電区間の始期及び終期に、前記パラメータに基づく監視を行わない不感帯時間を設定した溶接部の通電状態監視方法。
【請求項3】
電流値の異なる複数の通電区間を有する通電パターンで複数の金属板の重合部に通電するように抵抗溶接機を制御する制御装置であって、
直流を交流に変換して溶接トランスに供給するインバータ回路と、前記インバータ回路から前記溶接トランスに供給される電流値を測定する電流検出部と、前記電流検出部で測定した電流値に基づいて、前記インバータ回路のスイッチング素子をオンにする時間であるパルス幅を設定する電流制御回路と、前記電流制御回路で設定された前記パルス幅に関するパラメータを前記通電区間ごとに記録する記録部とを備えた抵抗溶接機の制御装置
であって、
前記パラメータが、各通電区間において前記パルス幅が所定範囲外となった回数である抵抗溶接機の制御装置。
【請求項4】
電流値の異なる複数の通電区間を有する通電パターンで複数の金属板の重合部に通電するように抵抗溶接機を制御する制御装置であって、
直流を交流に変換して溶接トランスに供給するインバータ回路と、前記インバータ回路から前記溶接トランスに供給される電流値を測定する電流検出部と、前記電流検出部で測定した電流値に基づいて、前記インバータ回路のスイッチング素子をオンにする時間であるパルス幅を設定する電流制御回路と、前記電流制御回路で設定された前記パルス幅に関するパラメータを前記通電区間ごとに記録する記録部とを備えた抵抗溶接機の制御装置
であって、
各通電区間の始期及び終期に、前記パラメータに基づく監視を行わない不感帯時間を設定した抵抗溶接機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接部の通電状態監視方法及び抵抗溶接機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の車体の組立工程では、鋼板同士の接触部を抵抗発熱により溶融させてナゲットを形成する抵抗溶接(スポット溶接)が行われている。このとき、安定した溶接を実現するために、一定の電流値で通電するのではなく、電流値の異なる複数の通電区間を有する通電パターンで通電しながら溶接を行うことがある(例えば、下記の特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、スポット溶接で形成したナゲットの品質を検査する手段としては、例えば、ナゲットの近傍にタガネを打ち込んで鋼板同士の剥離強度を確認する方法が知られている。しかし、このような検査方法は手間がかかると共に、物理的にタガネが入り得る構造的制約が発生する部位もある。また、超音波や磁気を用いた非破壊検査もあるが、時間がかかるため、大量生産ラインでは全数への適用は困難である。以上より、より簡易にナゲットの品質を検査する手法が求められている。
【0004】
例えば下記の特許文献3には、一対の電極間に流れる電流の値と両電極間の電圧値とを測定し、これらの電流値及び電圧値から抵抗値を演算し、通電中の抵抗値の変化に基づいて溶接品質(接合強度)の良否を判定する方法が示されている。具体的には、通電開始直後は、金属板同士の接触部の温度上昇に伴って抵抗値が上昇し、ナゲットが形成されたら、ナゲットの成長に伴う通電面積の拡大により抵抗値が下降し、ナゲットの成長鈍化に伴って抵抗値が略一定となる(特許文献3の
図3等参照)。このような通電時間に対する抵抗値の変化(波形)に基づいて、ナゲットの良否を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-181621号公報
【文献】特開2019-206024号公報
【文献】特開2011-240368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のように電極間抵抗値を測定するためには、電極間電圧を検出するためのセンサ及び配線や、このセンサで検出した電圧値をデジタル信号に変換する変換部、さらに、検出した電圧値等から抵抗値を算出する演算部を設ける必要があるため、コスト高を招く。また、電極と変換部とを接続する配線は、溶接装置の稼働に伴う意図しない接触等により切断する恐れがあるため、管理にもコストが必要となる。
【0007】
また、電極間抵抗値を測定するためには、電極間に流れる電流値を検出する必要があるが、通電中の電流値の微小な変動を検知することは現実的に不可能であるため、例えば通電時間全体の平均電流値を監視しているのが現状であった。しかし、電流値の異なる複数の通電区間を有する通電パターンで通電しながら溶接を行う場合、通電時間全体の平均電流値を監視しても、通電区間ごとの溶接電流経路の通電状態を監視することはできない。このため、溶接不良が生じたときにその原因を探ることが難しく、溶接条件(通電パターン)を修正する工数が多くなるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、電流値の異なる複数の通電区間を有する通電パターンで通電しながら溶接を行うにあたり、各通電区間における溶接電流経路の通電状態を監視することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来の一般的なスポット溶接設備は、
図5に示すように、一対の電極101、102を有する溶接ロボット110と、タイマーコンタクター120と、ロボット制御部130とを備える。ロボット制御部130は、溶接ロボット110のロボットアーム104の動作及び加圧手段105の加圧力を制御する。タイマーコンタクター120は、溶接電源140から供給された交流を直流に変換するコンバータ回路121と、直流を交流に変換するインバータ回路122と、インバータ回路122の出力電流を制御する電流制御回路123と、インバータ回路122から出力された電流値を検出するセンサ124とを備える。電流制御回路123には、予め、複数種の溶接条件(電流値及び通電時間)が記憶され、ロボット制御部130から通電開始の指令と条件番号が伝達されたら、当該条件番号に該当する溶接条件で通電を行う。
【0010】
電流制御回路123は、インバータ回路122への出力信号のパルス幅(スイッチング素子をオンにする時間)を調整することで、インバータ回路122の出力電流を制御する、いわゆるPWM(Pulse Width Modulation)制御を行うものである。
【0011】
具体的には、センサ124で検出した電流値の信号が電流制御回路123にフィードバックされ、この信号に基づいてパルス幅が設定されて、そのパルス幅の波形でスイッチング素子のオン・オフを切り替えるようにインバータ回路122が駆動される。例えば、
図6(A)に示すように、ある時刻t1における溶接部の通電面積A1(すなわちナゲットの大きさ)が、予定された通電面積A0よりも小さい場合、溶接部に電流が流れにくくなるため、センサ124で検出した電流値が予定された電流値よりも小さくなろうとする。この信号を受けた電流制御回路123が、その後の時刻t2、t3・・・におけるパルス幅W
Pを大きくして(
図6(B)の点線参照)、溶接トランス103に供給される電力量を増やすことで、予定された電流値を維持する。一方、
図7(A)に示すように、ある時刻t1における溶接部の通電面積A1が予定された通電面積A0よりも大きい場合、溶接部に電流が流れやすくなるため、センサ124で検出した電流値が予定された電流値よりも大きくなろうとする。この信号を受けた電流制御回路123が、その後の時刻t2、t3・・・におけるパルス幅W
Pを小さくして(
図7(B)の点線参照)溶接トランス103に供給される電力量を減らすことで、予定された電流値を維持する。以上により、溶接トランス103に予定された電流値が供給されるように、インバータ回路122が制御される。
【0012】
このように、PWM制御を行う際には、パルス幅を変化させて、溶接トランス103に供給される電力量を調整することにより、電流値が所定値となるように制御している。従って、電流値が略一定である場合でも、パルス幅が大きく変化している場合がある。すなわち、
図6(B)の点線のようにパルス幅が予定よりも大きければ、その時刻(詳しくは、その直前の時刻)において溶接電流経路に電気が流れにくくなっている(例えば通電面積が小さくなっている)と推定できる。一方、
図7(B)の点線のようにパルス幅が予定よりも小さければ、その時刻(詳しくは、その直前の時刻)において溶接電流経路に電気が流れやすくなっている(例えば通電面積が大きくなっている)と推定できる。従って、上記のようにパルス幅を監視することで、電流値の変化には表れない通電状態の僅かな変化も検知することができる。
【0013】
上記の知見に基づいて、本発明は、インバータ回路から出力される電流値に基づいて、前記インバータ回路のスイッチング素子をオンにする時間であるパルス幅を制御しながら、電流値の異なる複数の通電区間を有する通電パターンで溶接を行うに際し、前記パルス幅に関するパラメータに基づいて、各通電区間における溶接部の通電状態を監視する溶接部の通電状態監視方法を提供する。
【0014】
各通電区間において、溶接部の通電状態が安定しているときはパルス幅(スイッチング素子のON時間)が所定範囲内とされるが、溶接部の通電状態が変化して電流値が変化しようとした場合、パルス幅を所定範囲よりも大きくあるいは小さくする(すなわち、スイッチング素子のON時間を所定範囲よりも長くあるいは短くする)ことで、電流値を一定に維持しようとする。従って、各通電区間においてパルス幅が所定範囲外となった回数が多ければ、溶接部の通電状態が不安定になっていると推定できる。よって、各通電区間においてパルス幅が所定範囲外となった回数に基づいて、当該通電区間の溶接部の通電状態を監視することができる。
【0015】
隣接する通電区間の境界を含む微小期間(すなわち、各通電区間の始期及び終期)では、電流値を瞬時に上昇あるいは低下させる必要があるため、パルス幅が所定範囲よりも大きくあるいは小さくなる。このような期間のパルス幅に基づいて溶接部の通電状態を監視すると、この期間の通電状態が不良であると誤判定する可能性が高い。従って、各通電区間の始期及び終期に、パルス幅に関するパラメータに基づく監視を行わない不感帯時間を設定すれば、この不感帯時間のパルス幅に起因する誤判定を防止できる。
【0016】
上記の溶接部の通電状態監視方法は、以下のような制御装置を用いて実現することができる。この制御装置は、電流値の異なる複数の通電区間を有する通電パターンで通電するように抵抗溶接機を制御する制御装置であって、直流を交流に変換して溶接トランスに供給するインバータ回路と、前記インバータ回路から前記溶接トランスに供給される電流値を測定する電流検出部と、前記電流検出部で測定した電流値に基づいて、前記インバータ回路のスイッチング素子をオンにする時間であるパルス幅を設定する電流制御回路と、前記電流制御回路で設定されたパルス幅に関するパラメータを前記通電期間ごとに記録する記録部とを備える。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、電流値の異なる複数の通電区間を有する通電パターンで通電しながら溶接を行うにあたり、パルス幅に関するパラメータを記録することで、各通電区間における溶接電流経路の通電状態を監視することができる。このように、通電区間ごとに溶接部の通電状態の監視することで、溶接不良が生じたときに、通電状態が不良である通電区間を特定することができるため、溶接不良の原因を探しやすくなり、溶接条件の修正に要する工数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】他の実施形態に係る通電パターンを示すグラフである。
【
図4】他の実施形態に係るスポット溶接設備の模式図である。
【
図6】(A)は溶接部が予定よりも小さい状態を示す断面図であり、(B)はそのときのパルス幅を示すグラフである。
【
図7】(A)は溶接部が予定よりも大きい状態を示す断面図であり、(B)はそのときのパルス幅を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に示す抵抗溶接設備は、抵抗溶接機としての溶接ロボット10と、制御装置20とを備える。
【0021】
溶接ロボット10は、インダイレクトスポット溶接を施すものであり、溶接電極11及びこれを軸方向に移動させる加圧手段13を有する溶接ガン14と、アース電極12と、溶接電極11とアース電極12との間に流す電流を供給するトランス15とを備える。溶接ガン14は、ロボットアーム16の先端に取り付けられる。加圧手段13としては、例えばサーボモータを使用できる。溶接電極11で、鎖線で示す複数の金属板(例えば鋼板)の重合部の接合予定部を加圧すると共に、アース電極12を、金属板のうち、接合予定部以外の箇所に当接させた状態で、溶接トランス15から供給される電流を電極11、12間に流すことにより、両金属板同士の接触部が抵抗発熱により溶融してナゲットが形成される。
【0022】
制御装置20は、ロボット制御部30と、タイマーコンタクター40とを有する。本実施形態では、ロボット制御部30を有する制御盤(制御装置20)に、タイマーコンタクター40が内蔵されている。
【0023】
ロボット制御部30は、ロボットCPU基板31と、ロボット制御回路32と、タイマー基板33とを有する。ロボットCPU基板31には、予め、ロボットアーム16の各関節のモータ、及び、溶接ガン14の加圧手段13を制御するプログラムが組み込まれている。このプログラムに基づく指令がロボット制御回路32に伝達され、ロボットアーム16の各関節のモータ及び加圧手段13が駆動される。
【0024】
タイマーコンタクター40は、溶接電源50から供給された交流を直流に変換するコンバータ回路41と、直流を高周波の交流に変換するインバータ回路42と、インバータ回路42の出力電流を制御する電流制御回路43と、インバータ回路42から出力した電流値を検出する電流検出部としてのセンサ44(例えばCTコイル)とを備える。電流制御回路43は、インバータ回路42のスイッチング素子(例えばIGBT)をオンにする時間(すなわち、パルス幅)を調整することで、インバータ回路42の出力電流を制御する。
【0025】
電流制御回路43には、予め、数種類の通電パターンが記憶され、タイマー基板33から通電開始の指令と条件番号が伝達されたら、当該条件番号に該当する通電パターンで通電を行う。各通電パターンは、電流値の異なる複数の通電区間を有する。本実施形態では、
図2に示す加圧通電パターンに従って加圧力及び通電量を変化させながら溶接が行われる。以下、この加圧通電パターンを詳しく説明する。
【0026】
第1通電区間S1では、溶接電極11で接合予定部を相対的に高い第1の加圧力F1で加圧する。これにより、金属板間の隙間を詰めて両金属板を確実に接触させることができる。この状態で、電極11,12間に、相対的に低い第1の電流値C1を通電することにより、金属板を軟化させて、溶接電極11と金属板との接触面積、及び、両金属板同士の接触面積を拡大することができる。
【0027】
第2通電区間S2では、加圧手段13に対して加圧力低下の指令を出す。これにより、加圧手段13の加圧力がF1からF2まで徐々に低下する。こうして、加圧力をF1からF2まで降下させている間、第1通電区間S1の電流値C1よりも低い電流値C2で通電する。
【0028】
第3通電区間S3、第4通電区間S4、及び第5通電区間S5では、加圧力をF2で一定とした状態で、電流値をC3、C4、C5へと段階的に上昇させる。これにより、スッタが発生を防止しながら、ナゲットを形成、拡大することができる。
【0029】
電流制御回路43は、パルス幅を変えることで出力電力を制御する、いわゆるPWM制御を行うものである。具体的には、センサ44で検出した電流値の信号が電流制御回路43にフィードバックされ、この電流値に基づいて、電流制御回路43がパルス幅を自動的に調整することにより、溶接トランス15に供給される電流値が一定に維持される。
【0030】
制御装置20には、
図1に示すように、電流制御回路43で設定したパルス幅に関するパラメータを記録する記録部60が設けられる。図示例では、タイマー基板33に記録部60が設けられる。本実施形態では、パルス幅に関するパラメータとして、各通電区間においてパルス幅が所定範囲外となった回数が記録部60に記録される。詳しくは、各通電区間においてパルス幅が所定範囲よりも大きくなった回数及び/又はパルス幅が所定範囲よりも小さくなった回数が記録される。
【0031】
例えば、各通電区間S1~S5において、溶接部の通電面積が予定より小さい場合は、パルス幅を所定範囲よりも大きくして電流供給量を増やすことで電流値を一定に維持しようとする。また、各通電区間S1~S5において溶接部の通電面積が予定より大きい場合は、パルス幅を所定範囲よりも小さくして電流供給量を減らすことで電流値を一定に維持しようとする。従って、通電区間S1~S5ごとに、パルス幅が所定範囲外となった回数が記録部60に記録され、この回数が予め設定した上限値よりも多ければ、その通電区間における溶接部の通電面積が不安定になっていると推定できる。例えば、何れかの通電区間においてパルス幅が所定範囲より大きくなった回数が、予め設定された上限値よりも多ければ、その通電区間では溶接部に通電しにくくなっている(例えば、通電面積が予定よりも小さい)ことが推定される。一方、何れかの通電区間においてパルス幅が所定範囲より小さくなった回数が、予め設定された下限値よりも少なければ、その通電区間では溶接部に過剰に通電しやすくなっている(例えば、通電面積が予定よりも大きい)ことが推定される。
【0032】
このように、各通電区間のパルス幅に関するパラメータに基づいて、通電状態に問題があった通電区間を特定することができるため、溶接不良の原因を探しやすくなる。例えば、第4通電区間S4まではパルス幅が概ね所定範囲内であったが、第5通電区間S5においてパラメータが度々所定範囲外となった場合、その原因として、第5通電区間S5においてスパッタが発生して通通電面積が急激に減少したことが考えられる。この場合、直前の第4通電区間S4や第3通電区間S3における入熱量が過剰であることや、第1通電区間S1により拡大した金属板同士の接触面積が不足していたことが予想される。このように、ある程度原因を推定して溶接条件を修正することで、溶接条件の修正に要する工数を削減することができる。
【0033】
図2に示す通電パターンにおいて、隣接する通電区間の境界付近(すなわち、各通電区間の始期及び終期)では、電流値を上昇あるいは下降させるために、パルス幅が所定範囲外となることが多い。このような期間のパルス幅に関するパラメータに基づいて溶接部の通電状態を評価すると、通電状態が不良であると誤判定する恐れがある。そこで、各通電区間のうち、パルス幅が不安定になりやすい始期及び終期に、パルス幅に関するパラメータに基づく監視を行わない不感帯時間Bを設定することが好ましい。こうして、各通電区間の不感帯時間Bを除く中間期のみのパルス幅に関するパラメータに基づいて、各通電区間における溶接部の通電状態を監視することで、より正確に各通電区間における溶接部の通電状態を評価することができる。
【0034】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0035】
例えば、制御装置20に、記録部60に記録されたパルス幅に関するパラメータに基づいて各通電区間における溶接部の通電状態の良否を自動的に判定する判定部を設けてもよい。
【0036】
また、溶接ロボットは、上記のようにインダイレクトスポット溶接を行うものに限らず、例えば、ダイレクトスポット溶接(
図5参照)やシリーズスポット溶接を行うものであってもよい。また、抵抗溶接機として、定位置に固定された定置式の抵抗溶接機や、作業者が手で持って移動させる可搬型の抵抗溶接機を用いてもよい。
【0037】
また、電極間に流す電流値の通電パターンは限定されない。例えば、ダイレクトスポット溶接を行う場合、
図3に示す通電パターンで通電してもよい。この通電パターンは、それぞれ一定の電流値で通電し、電流値を上下させながら段階的に上昇させる第1~第7通電区間S1~S7を有する。この場合も、上記の実施形態と同様に、各通電区間S1~S7におけるパルス幅に関するパラメータを記録し、このパラメータに基づいて各通電区間S1~S7における溶接部の通電状態を監視する。
【0038】
また、パルス幅に関するパラメータは上記に限らず、例えば、各通電区間におけるパルス幅の履歴や、パルス幅と電流値との比の履歴等を、パルス幅に関するパラメータとして記録部60に記録してもよい。
【0039】
また、上記の実施形態では、ロボット制御部30を有する制御盤にタイマーコンタクター40を内蔵した場合を示したが、これに限らず、例えば
図4に示すように、溶接ガン14の位置及び加圧力を制御するロボット制御部30と、溶接電流を制御する電流制御部とを別個に設けてもよい。この場合、電流制御部が「制御装置20」として機能する。電流制御部(制御装置20)は、タイマーコンタクター40とタイマー基板33とを有する。タイマー基板33には、電流制御回路43で設定したパルス幅に関するパラメータを記録する記録部60が設けられ、この記録部60に記録されたパラメータに基づいて、通電区間ごとの溶接部の通電状態を監視することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 溶接ロボット(抵抗溶接機)
11、12 電極
13 加圧手段
14 溶接ガン
15 溶接トランス
16 ロボットアーム
20 制御装置
30 ロボット制御部
31 ロボットCPU基板
32 ロボット制御回路
33 タイマー基板
40 タイマーコンタクター
41 コンバータ回路
42 インバータ回路
43 電流制御回路
44 センサ(電流検出部)
50 溶接電源
60 記録部
B 不感帯時間