(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】シールド掘進機
(51)【国際特許分類】
E21D 9/087 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
E21D9/087 E
(21)【出願番号】P 2020193530
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】木下 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】秦 裕彰
(72)【発明者】
【氏名】松本 清志
(72)【発明者】
【氏名】東 健司
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-163393(JP,U)
【文献】実開昭51-045236(JP,U)
【文献】実開昭59-061397(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を掘削するカッタヘッドが進行方向先端に設置された筒状のスキンプレートと、
前記スキンプレート内の前記カッタヘッド背面側に形成され、前記カッタヘッドで掘削した土砂が収容されるカッタチャンバと、
前記カッタチャンバと前記スキンプレートの内部とを隔てる隔壁と、
前記カッタチャンバに面して設置され、進行方向に開口した前記スキンプレートとの隙間を封止して前記カッタチャンバからの土砂の侵入を防止する封止部材が外周に取り付けられ、駆動源により周方向に回転して前記カッタヘッドを回転させる環状のカッタ駆動体と、
前記カッタ駆動体における前記封止部材の前方において周方向に連続して設けられた第1の突起部と、
前記スキンプレートの軸方向で前記第1の突起部と重なり合うようにして前記スキンプレート
の内周における前記第1の突起部の前方に所定の間隔を開け
るとともに前記カッタチャンバ内に面して設けられ
、前記カッタチャンバ内の土砂の圧力を受け止める第2の突起部と、
を有することを特徴とするシールド掘進機。
【請求項2】
前記第2の突起部は、前記スキンプレートの内周に連続して設けられている、
ことを特徴とする請求項1記載のシールド掘進機。
【請求項3】
取込口が前記隔壁に開口して設けられ、前記カッタチャンバ内の土砂を前記取込口から取り込んで機外に排出する排泥手段をさらに有し、
前記取込口は、前記カッタ駆動体の径方向内側に形成されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載のシールド掘進機。
【請求項4】
前記カッタ駆動体の内周側に位置する支持筒と、
前記カッタ駆動体の内周に取り付けられ、前記支持筒との隙間を封止して前記カッタチャンバからの土砂の侵入を防止する封止部材と、
をさらに有することを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載のシールド掘進機。
【請求項5】
前記カッタ駆動体の外周に取り付けられた前記封止部材の前記スキンプレートの軸方向に沿った段数は、前記カッタ駆動体の内周に取り付けられた前記封止部材の前記スキンプレートの軸方向に沿った段数よりも多い、
ことを特徴とする請求項4記載のシールド掘進機。
【請求項6】
前記シールド掘進機は、泥土化した前記カッタチャンバ内の土砂で切羽に所定の圧力を加えながら地盤を掘削する泥土圧シールド掘進機である、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載のシールド掘進機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機に関し、特にカッタヘッドを回転させるカッタ駆動体を土砂から保護する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進機は、前面のカッタヘッドを回転させることで、カッタヘッドに配置されたビットによって前方の地山(切羽)の土砂を掘削して進みながら、外部から運び込まれたセグメントを掘削坑の内周に組み付けることによりトンネルを形成する機器である。また、掘削した土砂をカッタヘッドの土砂取込口からカッタチャンバ内に取り込むことで、切羽の土圧と対抗して切羽の崩壊を防止している。
【0003】
カッタチャンバの坑口側(カッタヘッドと反対側)には隔壁が設けられており、掘削された土砂は、当該隔壁の下方に設置された排土用の開口からスクリュコンベア等によって排泥管に取り込まれ、トンネルの外部まで運ばれて排出される。
【0004】
シールド掘進機の後部にはセグメントを組み立てるためのエレクタが設けられており、発進立坑から搬入されたセグメントをトンネルの覆工となるように環状に組み立てる。また、シールド掘進機の後部にはシールドジャッキが設けられており、シールドジャッキを伸長して各セグメントの前方の面(トンネル覆工の切羽側の切断面)を押すことで、シールド掘進機が掘進する。
【0005】
カッタヘッドは、切羽に押し付けられながら回転することで、前述したように、切羽を切り崩すとともに取込口からカッタチャンバ内に土砂を取り込む。このとき、前方(切羽)に向けて圧力がかかっているので、この方向にある機器の隙間には掘削した土砂が侵入しやすい。さらに、泥水式シールド工事や泥土圧シールド工事の場合は、切羽に水を加えて土砂の流動性を高めるため、機器の僅かな隙間からも土砂が侵入することになる。
【0006】
シールド掘進機は、本体の外周を構成するスキンプレートやこれに接続される各種設備のように固定された部分と、カッタヘッドやこれを回転させるモータ、モータの動力をカッタヘッドに伝達するカッタ駆動体のように回転する部分とがある。固定部分と回転部分とは構造的に分離しており、回転部分がギアボックスやベアリング等を介して固定部分に支持されている。
【0007】
そして、カッタチャンバ内の土砂が固定部分の回転部分と分離された部分の隙間を通ってカッタ駆動体の内部(ギアボックスやベアリング等)まで達すると、カッタヘッドの駆動に支障が生じることになる。その場合は、シールド掘進機を解体して、カッタ駆動体を交換する必要があり、非常に時間と手間がかかることになる。
【0008】
特にトンネルの全長が長い場合は、シールド掘進機は様々な土質の地盤を掘削することになる。すると、礫地盤を掘削する場合、礫を破砕した破片を取り込むことになり、固定部分と回転部分との間を封止するシール材(封止部材)を傷つけやすい。そして、シール材が傷つくとギアボックスやベアリング等にまで土砂が入りやすくなり、カッタヘッドを駆動できなくなる危険が増すことになる。
【0009】
そこで、このような隙間に土砂の侵入を防ぐための技術として、シール材の外側に凹凸(ラビリンス:迷路)を設けて土砂の侵入を阻止することが行われている。例えば、特許文献1(実開昭55-076297号公報)には、シールドフレーム(スキンプレート)の先端より突出するようにしてシールドフレーム先端部の内周全面にラビリンス部材を取り付け、このラビリンス部材の外面とカッタフレーム(カッタヘッド)の外周部内面との間にカッタシール(シール材)に通じる間隙を形成することが開示されている。また、特許文献2(実開平04-030192号公報)には、機体ケーシング(スキンプレート)と回転カッタ(カッタヘッド)の外周面との間に複数のシール部材(シール材)が配列されたシール装置の第1段目の前方にラビリンスシール構造部を設け、このラビリンスシール構造部に泥水圧よりも高圧の清水を注入して泥水の侵入を防止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】実開昭55-076297号公報
【文献】実開平04-030192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1,2に記載のようなシール材(封止部材)の外側に凹凸を設ける技術では、シール材の外側に凹凸を設置するためのスペースが必要になる。また、凹凸が多いほど土砂に侵入を防ぐには有効であるが、そのためにはシール材の外側に大きなスペースが必要になるのみならず、構造が複雑になってしまう。
【0012】
特にシールド掘進機の径が小さい(例えば2500mm以下)場合、モータやギアボックスやベアリングなどがスキンプレートの内壁の付近に配置されるため、凹凸を設置するために確保できるスペースが制限される。
【0013】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、土砂による封止部材の毀損を省スペースで効率的に防止することのできるシールド掘進機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明のシールド掘進機は、地盤を掘削するカッタヘッドが進行方向先端に設置された筒状のスキンプレートと、前記スキンプレート内の前記カッタヘッド背面側に形成され、前記カッタヘッドで掘削した土砂が収容されるカッタチャンバと、前記カッタチャンバと前記スキンプレートの内部とを隔てる隔壁と、前記カッタチャンバに面して設置され、進行方向に開口した前記スキンプレートとの隙間を封止して前記カッタチャンバからの土砂の侵入を防止する封止部材が外周に取り付けられ、駆動源により周方向に回転して前記カッタヘッドを回転させる環状のカッタ駆動体と、前記カッタ駆動体における前記封止部材の前方において周方向に連続して設けられた第1の突起部と、前記スキンプレートの軸方向で前記第1の突起部と重なり合うようにして前記スキンプレートの内周における前記第1の突起部の前方に所定の間隔を開けるとともに前記カッタチャンバ内に面して設けられ、前記カッタチャンバ内の土砂の圧力を受け止める第2の突起部と、を有することを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の本発明のシールド掘進機は、上記請求項1記載の発明において、前記第2の突起部は、前記スキンプレートの内周に連続して設けられている、ことを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の本発明のシールド掘進機は、上記請求項1または2記載の発明において、取込口が前記隔壁に開口して設けられ、前記カッタチャンバ内の土砂を前記取込口から取り込んで機外に排出する排泥手段をさらに有し、前記取込口は、前記カッタ駆動体の径方向内側に形成されている、ことを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の本発明のシールド掘進機は、上記請求項1~3の何れか一項に記載の発明において、前記カッタ駆動体の内周側に位置する支持筒と、前記カッタ駆動体の内周に取り付けられ、前記支持筒との隙間を封止して前記カッタチャンバからの土砂の侵入を防止する封止部材と、をさらに有することを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の本発明のシールド掘進機は、上記請求項4記載の発明において、前記カッタ駆動体の外周に取り付けられた前記封止部材の前記スキンプレートの軸方向に沿った段数は、前記カッタ駆動体の内周に取り付けられた前記封止部材の前記スキンプレートの軸方向に沿った段数よりも多い、ことを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の本発明のシールド掘進機は、上記請求項1~5の何れか一項に記載の発明において、前記シールド掘進機は、泥土化した前記カッタチャンバ内の土砂で切羽に所定の圧力を加えながら地盤を掘削する泥土圧シールド掘進機である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、第2の突起部でカッタチャンバ内の土砂が侵入しようとする圧力を受け止めておいて、封止部材を毀損するような土砂の侵入を第1の突起部によって防ぐことができる。また、封止部材の外側に土砂の侵入を防ぐ構造を設けるためのスペースは必要がない。したがって、土砂による封止部材の毀損を省スペースで効率的に防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施の形態のシールド掘進機の内部を側面から透かして示す概略の構成図である。
【
図2】
図1のシールド掘進機におけるカッタ駆動体の上部を拡大して示す断面図である。
【
図3】
図1のシールド掘進機におけるカッタ駆動体の下部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0023】
本実施の形態のシールド掘進機の構造について
図1~
図3を参照して説明する。
【0024】
図1は本発明の一実施の形態のシールド掘進機の内部を側面から透かして示す概略の構成図、
図2は
図1のシールド掘進機におけるカッタ駆動体の上部を拡大して示す断面図、
図3は
図1のシールド掘進機におけるカッタ駆動体の下部を拡大して示す断面図である。
【0025】
図1において、本実施の形態のシールド掘進機1は、例えば、カッタヘッド2とスキンプレート3(詳しくは、スキンプレート3のフード部)との間に形成されたカッタチャンバ4内に泥土を充填した状態で掘進することにより泥土圧を発生させ、その泥土圧を切羽の土圧に対抗させた状態で掘進を行う泥土圧シールド掘進機である。なお、カッタチャンバ4内の泥土は、カッタヘッド2により掘削された土砂に添加材を注入して練り混ぜることにより生成されており、不透水性と塑性流動性(自由に変形および移動できる性質)とを有している。
【0026】
このシールド掘進機1の運転は、その後方に配置された後続台車(図示せず)内の運転室内でオペレータにより制御される。また、その運転室内に設けられた制御部によりシールド掘進機1の全体動作が制御される。
【0027】
また、シールド掘進機1により構築されるトンネルは、特に限定されるものではないが、例えば、上水用トンネル、下水用トンネルまたはケーブル用トンネルのような比較的小口径のトンネルである。したがって、本実施の形態のシールド掘進機1は、外径が例えば1970mm程度の比較的小口径のものとなっている。
【0028】
シールド掘進機1を構成するカッタヘッド2は、地山の切羽(地盤)を掘削する部材であり、後述する隔壁7に取り付けられた軸受2-1に支持されて、スキンプレート3の進行方向先端にスキンプレート3の周方向に沿って正逆方向に回転自在の状態で設置されている。
【0029】
カッタヘッド2の種類は、例えば、円盤状のスポークタイプである。すなわち、中央のハブ部2aと、ハブ部2aから外周に向かって放射状に延びる複数本のスポーク部2bと、スポーク部2bの先端部間を連結する環状の外周リング部2cと、こられの部材間に形成された開口部(図示せず)とを備えている。
【0030】
ハブ部2aや各スポーク部2bや外周リング部2cの前面(切羽に対向する面)には、地盤を掘削するためのビット5aが設置されている。また、ハブ部2aおよびスポーク部2bには、加泥材吐出口(図示せず)が設けられている。この加泥材吐出口は、例えばベントナイトのような加泥材(作泥土材)を切羽に向けて吐出する部分である。なお、加泥材には、例えば、ベントナイトに代えて気泡材を用いてもよいし、ベントナイトと気泡材との両方を用いてもよい。さらに、外周リング部2cにはコピーカッタ5bが設置されている。このコピーカッタ5bは、急曲線施工時の余堀りやシールド掘進機1の姿勢制御等を行う役割を備えている。
【0031】
カッタヘッド2の裏面には、後述するカッタ駆動体8とカッタヘッド2とを連結するとともに、カッタヘッド2が回転するときにカッタチャンバ4内の土砂と加泥材とを撹拌混合する機能を有する棒状の連結アーム6が、スキンプレート3の軸方向に伸びるようにして設けられている。なお、本実施の形態において、連結アーム6は6本となっているが、本数は自由に設定することができる。
【0032】
図示するように、シールド掘進機1を構成するスキンプレート3は、前胴プレート3aと、その後方の後胴プレート3bと、その後方のテールシール3cとを備えている。
【0033】
前胴プレート3aおよび後胴プレート3bは、例えば円筒状の鋼製板により筒状に形成されており、スキンプレート3の外形を形成するとともに、スキンプレート3の内部に中空空間を形成する部分である。前胴プレート3aと後胴プレート3bとは、前胴プレート3aの後端側において後胴プレート3bの先端の球面軸受部が前胴プレート3aの内周面に接した状態で入り込むことで係合されている。
【0034】
テールシール3cは、掘進作業中にスキンプレート3の後部からスキンプレート3内に地下水等が入り込むのを防止する封止部材であり、後胴プレート3bの後端部に後胴プレート3bの内周に沿って枠状に設置されている。
【0035】
前胴プレート3aの前面側において、その前面からスキンプレート3の内方に後退した位置には、スキンプレート3内の中空空間を切羽側と機内側とに分ける隔壁7が設置されている。隔壁7には、マンハッチ(カッタチャンバ4内に作業者が入るための人通口)が形成されており、当該隔壁7の切羽側であるスキンプレート3のフード部に、前述したカッタチャンバ4が設けられている。カッタチャンバ4には、カッタヘッド2により掘削された土砂等がカッタヘッド2の開口部を通じて取り込まれる。
【0036】
シールド掘進機1のカッタチャンバ4に面してカッタ駆動体8が設置されている。また、隔壁7にはカッタモータ(駆動源)13や土圧計12などが取り付けられ、隔壁7の機内側には、中折れジャッキ9a、シールドジャッキ9b、排泥管(排泥手段)10、エレクタ11などが設置されている。
【0037】
カッタ駆動体8は、周方向に回転する環状の構造体であり、カッタモータ13により駆動され、連結アーム6を介してカッタヘッド2を正逆方向に回転させる。
【0038】
前述のように、本実施の形態のシールド掘進機1は比較的小口径であり、当該シールド掘進機1の径方向中央にはカッタヘッド2を支える軸受2-1が配置され、その周囲には土圧計12や図示しない薬液の注入孔、隔壁7のマンハッチなどが配置されている。そのため、カッタヘッド2を回転させるカッタ駆動体8はこれらの構成要素の径方向外側、つまりスキンプレート3の内周に沿って設けられている。
【0039】
このカッタ駆動体8は、隔壁7に固定された外周側のギアボックス7aと内周側の支持筒7bとの間に回転自在に設置されている。
図2および
図3に示すように、カッタ駆動体8は、カッタモータ13の出力軸に取り付けられた外歯車13aと噛み合うとともにベアリング8aaを介してギアボックス7aに支持された環状の内歯車部8aと、内歯車部8aのカッタヘッド2側に固定されてスキンプレート3と支持筒7bとの間に位置する環状の回転力伝達部8bとで構成されている。また、前述した連結アーム6は、回転力伝達部8bに取り付けられている。
【0040】
ここで、
図2および
図3において、回転力伝達部8bの外周には、この回転力伝達部8bとスキンプレート3との間を封止してカッタチャンバ4から内部への(つまり、回転機構であるギアボックス7aやベアリング8aaへの)土砂の侵入を防止するシール材(封止部材)14がスキンプレート3に押し付けられるようにして設けられている。また、回転力伝達部8bの内周にも、当該回転力伝達部8bと支持筒7bとの間を封止してカッタチャンバ4から内部への土砂の侵入を防止するシール材(封止部材)14が支持筒7bに押し付けられるようにして設けられている。
【0041】
こられのシール材14は例えばゴム製であり、図示するように、スキンプレート3の軸方向に沿って設けられた4枚の環状シール片14aが、前方に向かって傾斜した状態でスキンプレート3や支持筒7bに弾性力で圧接している。
【0042】
回転力伝達部8bの外周に設けられたシール材14はスキンプレート3の軸方向に沿って2段に設けられ、回転力伝達部8bの内周に設けられたシール材14はスキンプレート3の軸方向に沿って1段に設けられている。これは、カッタチャンバ4の底面により多くの土砂が蓄積するため、回転力伝達部8bの内周(つまり、回転力伝達部8bと支持筒7bとの間)から侵入する土砂よりも回転力伝達部8bの外周(つまり、回転力伝達部8bとスキンプレート3との間)から内部へ侵入する土砂の方が多くなるからである。
【0043】
但し、回転力伝達部8bの外周に設けられたシール材14の段数と回転力伝達部8bの内周に設けられたシール材14の段数とは特に限定されるものではなく、前者の段数の方が後者の段数よりも多くなっていなくてもよい。
【0044】
さて、シール材14はシールド掘進機1のカッタチャンバ4内の土砂がカッタ駆動体8の内部に侵入することを防止するものであるが、礫を破砕した破片などの土砂を取り込んだ場合には、シール材14自体が傷ついてシール機能が損なわれることになる。すると、破片がギアボックス7aやベアリング8aaに入り込んで、結果的にカッタヘッド2の駆動に支障が生じることになる。
【0045】
そこで、このような土砂によるシール材14の毀損を防止するために、本実施の形態のシールド掘進機1には、カッタ駆動体8に第1の突起部15が設けられ、スキンプレート3の内周に第2の突起部16が設けられている。なお、第1の突起部15および第2の突起部16の詳細については後述する。
【0046】
なお、回転力伝達部8bの外周に設けられたシール材14の後方には、回転力伝達部8bとスキンプレート3との間を封止するVリング17が設けられている。また、回転力伝達部8bの内周に設けられたシール材14の後方にも、回転力伝達部8bと支持筒7bとの間を封止するVリング17が設けられている。これらのVリング17は例えばゴム製であり、回転力伝達部8bの内周に位置するシール材14は2段になっている。
【0047】
中折れジャッキ9aは、前胴プレート3aと後胴プレート3bとを連結するとともに、シールド掘進機1の推進方向や姿勢を修正する機器である。中折れジャッキ9aは、スキンプレート3内において前胴プレート3aと後胴プレート3bとの境界を跨ぐように、スキンプレート3の周方向に沿って複数個並んで配置されている。
【0048】
この中折れジャッキ9aに圧油を供給し前胴プレート3aと後胴プレート3bとを予め決められた方向および角度に屈折させた状態でシールド掘進機1を推進することにより、シールド掘進機1の推進方向や姿勢を制御することが可能になっている。
【0049】
シールドジャッキ9bは、スキンプレート3の後方に設置されたセグメントSGに反力をとってシールド掘進機1を前進させるための推進力を発生させる機器である。シールドジャッキ9bは、スキンプレート3内において前胴プレート3aと後胴プレート3bとの境界を跨ぐように、スキンプレート3の周方向に沿って複数個並んで配置されている。
【0050】
セグメントSGは、掘削坑の内周を覆う部材であり、掘削坑の周方向に沿って複数設置されている。セグメントSGは、例えば、鋼製の箱型セグメントやコンクリート製のセグメントにより構成されている。なお、セグメントSGの幅(掘削坑の長手方向に沿う寸法)は、例えば、1000mm程度、高さ(厚さ)は、例えば、75mm程度である。
【0051】
排泥管10は、カッタチャンバ4内の土砂を機外に排出するための機器である。この排泥管10内には、カッタチャンバ4内の土砂を管内に取り込んで機外に向けて送るスクリューコンベア10aが配置されている。スクリューコンベア10aは、隔壁7に開口して設けられた土砂の取込口10-1からスキンプレート3の後方においてスキンプレート3の高さ方向中央より若干高い位置に配置された取込奥部10-2に向かって斜め上向きに連続的に延在した状態で設けられている。
【0052】
なお、排泥管10の取込口10-1は、前述したカッタ駆動体8の径方向内側に形成されている。これは、前述のように、比較的小口径である本実施の形態のシールド掘進機1では、カッタ駆動体8がスキンプレート3の内周に沿って設けられていることから、取込口10-1をスキンプレート3の内周に近づけて形成することができないからである。
【0053】
エレクタ11は、セグメントSGを把持して掘削坑の内周方向に旋回し、掘削坑の内周方向の組立位置に移送する組立装置である。エレクタ11は、エレクタ駆動用の油圧モータ(図示せず)により掘削坑の周方向に沿って回転自在の状態で後胴プレート3b内に設置されている。
【0054】
土圧計12は、カッタチャンバ4内の泥土圧を検出するセンサである。シールド掘進機1は、土圧計12により検出されたカッタチャンバ4内の泥土圧を管理することによって切羽の安定性を維持しながら掘進作業を行う。
【0055】
ここで、前述のように、カッタチャンバ4内の土砂(特に、礫を破砕した破片などの土砂)の侵入によるシール材14の毀損を防止するために、カッタ駆動体8に第1の突起部15が設けられ、スキンプレート3の内周に第2の突起部16が設けられている。
【0056】
すなわち、
図2および
図3に詳しく示すように、カッタ駆動体8には、当該カッタ駆動体8の外周に設けられたシール材14の前方に、第1の突起部15が周方向に連続して設けられている。また、スキンプレート3の内周には、当該スキンプレート3の軸方向で第1の突起部15と重なり合うようにして、第1の突起部15の前方に、当該第1の突起部と所定の間隔を開けて第2の突起部16が連続して設けられている。
【0057】
ここで、回転力伝達部8bとスキンプレート3との隙間がシールド掘進機1の進行方向に開口していることから、本発明者は、シールド掘進機1の前進による圧力でカッタチャンバ4内の土砂が当該開口から入り込むことを考慮して、第2の突起部16を設けずに、第1の突起部15のみで土砂がシール材14に到達することを防止できるかを検討した。
【0058】
しかしながら、当該構造では、第1の突起部15やその周囲のスキンプレート3の内壁が摩耗し、土砂の流入を防ぐことが十分にできなかった。これは、カッタ駆動体8に設けられた第1の突起部15が回転するため、この第1の突起部15とスキンプレート3の内壁との隙間に押し込まれた土砂が、カッタ駆動体8の回転によってスキンプレート3に擦りつけられて、第1の突起部15とスキンプレート3とを摩耗させたことが原因であると考えられる。特に第1の突起部15とスキンプレート3との間に入り込んだ土砂は、両者の間に挟まれて逃げ場がない構造となっていることも、摩耗を促進させた一因と考えられる。
【0059】
そこで、第1の突起部15に加えて、スキンプレート3に前述した第2の突起部16を設けたものである。この第2の突起部16は、スキンプレート3側に設置されているために回転しない。また、カッタ駆動体8よりも切羽側にあるため、土砂が第2の突起部16と他の部材との間に挟まるということがない。したがって、第2の突起部16でカッタチャンバ4内の土砂が侵入しようとする圧力を受け止めておいて、シール材14を毀損するような土砂の侵入を第1の突起部15によって防ぐことが可能になる。
【0060】
そして、第1の突起部15および第2の突起部16は、シール材14に対してスキンプレート3の軸方向に設置されていることから、シール材14の外側に土砂の侵入を防ぐ構造を設けるためのスペースは必要がない。したがって、シール材14を毀損する土砂の侵入を省スペースで効率的に防止することが可能になる。
【0061】
以上本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0062】
例えば、前述した本実施の形態において、第2の突起部16はスキンプレート3の内周に連続して設けられているが、少なくともスキンプレート3の下半分に設けられていれば足りる。これは、カッタチャンバ4の上半分には土砂が比較的少ないと考えられるからである。但し、連結アーム6によってカッタチャンバ4内の土砂が上下に回転撹拌されることから、第2の突起部16はスキンプレート3の内周に連続して設けられていることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上の説明では、本発明を泥土圧のシールド掘進機に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば泥水式のシールド掘進機など、他のシールド掘進機にも適用される。
【符号の説明】
【0064】
1 シールド掘進機
2 カッタヘッド
2-1 軸受
3 スキンプレート
3a 前胴プレート
3b 後胴プレート
3c テールシール
4 カッタチャンバ
5a ビット
6 連結アーム
7 隔壁
7a ギアボックス
7b 支持筒
8 カッタ駆動体
8a 内歯車部
8aa ベアリング
8b 回転力伝達部
9a 中折れジャッキ
9b シールドジャッキ
10 排泥管(排泥手段)
10-1 取込口
10-2 取込奥部
10a スクリューコンベア
11 エレクタ
12 土圧計
13 カッタモータ(駆動源)
13a 外歯車
14 シール材(封止部材)
14a 環状シール片
15 第1の突起部
16 第2の突起部
17 Vリング
SG セグメント