(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】造血細胞分化を誘導するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240806BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240806BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20240806BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240806BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240806BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20240806BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20240806BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240806BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240806BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20240806BHJP
C12N 5/0781 20100101ALI20240806BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240806BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20240806BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240806BHJP
C12N 15/90 20060101ALI20240806BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C12N5/10
A61K35/17
A61K35/545
A61P7/00
A61P31/12
A61P31/18
A61P31/22
A61P35/00
A61P35/02
A61P39/06
C12N5/0781
C12N5/0783
C12N5/0786
C12N15/09 100
C12N15/90 100Z
G01N33/53 Y
(21)【出願番号】P 2018521543
(86)(22)【出願日】2016-07-26
(86)【国際出願番号】 US2016044122
(87)【国際公開番号】W WO2017078807
(87)【国際公開日】2017-05-11
【審査請求日】2019-07-23
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-04
(32)【優先日】2015-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2016/14918
(32)【優先日】2016-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】312000284
【氏名又は名称】フェイト セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バラマール,バーラム
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,レイダン
(72)【発明者】
【氏名】ビョーダール,リャン
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】上條 肇
【審判官】荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/165131(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/126794(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/165825(WO,A2)
【文献】特表2013-521762(JP,A)
【文献】国際公開第2013/176197(WO,A1)
【文献】Cell Stem Cell,2013,Vol.12,p.31-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12N 5/00 - 5/28
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
増強された治療特性を有する造血系細胞を作製する方法であって、
a)1または複数の導入された遺伝的インプリントを含み、前記1または複数の遺伝的インプリントが、(i)組換えタンパク質をコードする配列のゲノム内挿入、または(ii)内在性遺伝子の発現を欠失もしくは減少させるゲノム内挿入もしくはゲノム内欠失、を含む、誘導万能性幹細胞(iPSC)を得ること;並びに
b)iPSCを造血系細胞に分化誘導すること、
を含み、前記分化誘導することは、
(i)前記iPSCを、BMP経路活性化剤および所望によりbFGFを含む組成物と接触させることにより、中胚葉細胞を得ること;並びに
(ii)前記中胚葉細胞を、BMP経路活性化剤、bFGF、およびWNT経路活性化剤を含む組成物と接触させることで、造血系細胞を与えることが可能な、運命確定造血内皮(HE)分化能を有する中胚葉細胞を得ること、
を含み;
前記中胚葉細胞および前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞が段階b)の(i)およびb)の(ii)において胚様体形成無しで得られ;
前記造血系細胞は運命確定造血内皮細胞、造血幹細胞・前駆細胞(HSC)、造血性多能性前駆細胞(MPP)、プレT細胞前駆細胞、プレNK細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、またはB細胞を含み;且つ、
前記造血系細胞は前記iPSCに導入されて含まれていた前記遺伝的インプリントを保持し、
(I)段階a)の前記1もしくは複数の導入された遺伝的インプリントを含む前記iPSCを得ることが:
a)非万能性細胞から前記iPSCへの再プログラム化の間または後のゲノム編集によって、前記1もしくは複数の遺伝的インプリントをiPSCに導入すること;もしくは
b)前記1もしくは複数の遺伝的インプリントを以下によって前記iPSCに導入すること:
i. ドナー特異的、疾患特異的、もしくは治療応答特異的であり、且つ、保持可能な治療特性を示し、前記1もしくは複数の遺伝的インプリントを含む、供給源特異的免疫細胞を得ること;および
ii. 前記供給源特異的免疫細胞を、導入された遺伝的インプリントおよび前記供給源特異的免疫細胞の前記保持可能な治療特性を含む前記iPSCに再プログラム化すること;並びに所望により、
iii. 前記供給源特異的免疫細胞から前記iPSCへの再プログラム化の間もしくは後の遺伝子編集によって、追加の遺伝的インプリントを段階(ii)の前記iPSCに導入すること
を含むか、または、
(II)段階b)の前記iPSCを前記造血系細胞に分化誘導することが:
a)前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞をbFGFおよびROCK阻害剤を含む組成物と接触させることで、運命確定HE細胞を得ること、並びに所望により、
b)前記運命確定HE細胞を、
i.BMP活性化剤、および所望により、ROCK阻害剤、およびTPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3LおよびIL11からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカインを含む組成物と接触させることで、造血性多能性前駆細胞(MPP)を得ること、もしくは、
ii.SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカイン、および所望により、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、TPO、VEGFおよびbFGFのうちの1もしくは複数を含む組成物と接触させることで、プレT細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、および/もしくはT細胞を得ること、もしくは、
iii.SCF、Flt3L、TPO、IL7およびIL15からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカイン、および所望により、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、VEGFおよびbFGFのうちの1もしくは複数を含む組成物と接触させることで、プレNK細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、および/もしくはNK細胞を得ること
をさらに含むか、または、
(III)段階b)の前に、前記iPSCを、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含む組成物と接触させて、前記iPSCを播種および増殖すること
をさらに含む、方法。
【請求項2】
前記遺伝的インプリントが、
(a)セーフティ・スイッチタンパク質、標的化モダリティ、受容体、シグナル伝達分子、転写因子、薬剤的に活性なタンパク質およびペプチド、薬物標的候補;もしくは、iPSCもしくはその派生細胞の生着、輸送、ホーミング、生存度、自己複製、残留性、免疫応答の制御および調節、並びに/もしくは生存を促進するタンパク質のうちの1もしくは複数を含む、または、
(b)(i)B2M、TAP1、TAP2、タパシン、NLRC5、PD1、LAG3、TIM3、RFXANK、CIITA、RFX5、もしくはRFXAPの発現の欠失もしくは減少;(ii)HLA-E、HLA-G、HACD16、41BBL、CD3、CD4、CD8、CD47、CD137、CD80、PDL1、A
2AR、CAR、TCR、もしくは二重特異性もしくは多重特異性エンゲージャーに対する表面上誘発受容体の発現の導入もしくは増加、のうちの1もしくは複数を含むものであって、
前記供給源特異的免疫細胞の治療特性が、(i)抗原標的受容体の発現;(ii)HLAの提示またはその欠如;(iii)腫瘍内微小環境に対する耐性;(iv)傍観者免疫細胞および免疫調節の誘導;(iv)腫瘍外効果の減少に伴う、対標的特異性の向上;(v)化学療法等の治療に対する耐性;並びに(vi)ホーミング、残留性、および細胞毒性の向上、のうちの1または複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)前記表面上誘発受容体がT細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、および好中球を含む造血系細胞において普遍的であるか、または、
(ii)前記二重特異性もしくは多重特異性エンゲージャーが、普遍的表面上誘発受容体に対して特異的であり、且つ、腫瘍細胞の表面上の1もしくは複数の腫瘍特異的抗原に対して特異的である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(i)前記普遍的表面上誘発受容体が抗エピトープおよび共刺激ドメインを含み、並びに所望により前記共刺激ドメインがIL2を含むか、または、
(ii)前記普遍的表面上誘発受容体が前記二重特異性もしくは多重特異性エンゲージャーに特異的である抗エピトープを含む、または、
(iii)前記腫瘍特異的抗原がCD19、CD20、CD30、EGFR、HER2/ERBB2/neu、EPCAM、EphA2およびCEAのうちの1もしくは複数を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
増強された治療特性を有する造血系細胞を作製する方法であって、
a)1または複数の導入された遺伝的インプリントを含み、前記1または複数の遺伝的インプリントが、(i)組換えタンパク質をコードする配列のゲノム内挿入、または(ii)内在性遺伝子の発現を欠失もしくは減少させるゲノム内挿入もしくはゲノム内欠失、を含む、誘導万能性幹細胞(iPSC)を得ること;並びに
b)iPSCを造血系細胞に分化誘導すること、
を含み、前記分化誘導することは、
(i)前記iPSCを、BMP経路活性化剤および所望によりbFGFを含む組成物と接触させることにより、中胚葉細胞を得ること;並びに
(ii)前記中胚葉細胞を、BMP経路活性化剤、bFGF、およびWNT経路活性化剤を含む組成物と接触させることで、造血系細胞を与えることが可能な、運命確定造血内皮(HE)分化能を有する中胚葉細胞を得ること、
を含み;
前記中胚葉細胞および前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞が段階b)の(i)およびb)の(ii)において胚様体形成無しで得られ;
前記造血系細胞は運命確定造血内皮細胞、造血幹細胞・前駆細胞(HSC)、造血性多能性前駆細胞(MPP)、プレT細胞前駆細胞、プレNK細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、またはB細胞を含み;且つ、
前記造血系細胞は前記iPSCに導入されて含まれていた前記遺伝的インプリントを保持し、
運命確定造血内皮(HE)分化能を有する前記中胚葉細胞を、Wnt経路アゴニストを含む培地中で培養することで、運命確定HE細胞を得ること、をさらに含み;
Wnt経路活性化剤無しでの培養との比較において、得られた前記運命確定HE細胞が、
(i)細胞集団内の数および割合を増加させている、
(ii)分化能が増加している;且つ/または、
(iii)HE細胞性を向上させており、
(i)前記培地が、ROCK阻害剤と、bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインとをさらに含むという特性、並びに、
(ii)前記iPSCが、ナイーブ型iPSCを含む
、方法。
【請求項6】
供給源特異的免疫細胞の再プログラム化が、
a)ドナー特異的、疾患特異的、または治療応答特異的である選択された供給源試料から初代抗原特異的T細胞を単離すること;および、
b)前記初代抗原特異的T細胞を再プログラム化してiPSCを得ること、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記初代抗原特異的T細胞の単離が、
(i)前記初代抗原特異的T細胞を、(a)目的の抗原を発現する腫瘍細胞;(b)目的の抗原を発現する非形質転換細胞;もしくは(c)目的の抗原を発現する、樹状細胞、胸腺上皮細胞、内皮細胞もしくは人工抗原提示細胞、血漿内の粒子もしくはペプチドと共培養することで、細胞によって発現された目的の抗原を認識する抗原特異的なT細胞のより速い増殖を可能にすること;または、
(ii)目的の抗原に特異的なT細胞受容体特異的結合剤を用いて、前記初代抗原特異的T細胞を選別すること、
によって前記初代抗原特異的T細胞を濃縮して、
目的の抗原を認識する、濃縮された、初代抗原特異的T細胞を得ることをさらに含むものであって、所望により、前記初代抗原特異的T細胞または濃縮された初代抗原特異的T細胞は、転写因子または小分子がさらに接触することで、細胞を若返らせる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記遺伝的インプリントが、
(I)セーフティ・スイッチタンパク質、標的化モダリティ、受容体、シグナル伝達分子、転写因子、薬剤的に活性なタンパク質およびペプチド、薬物標的候補;第二もしくは第三の抗原特異性を伝達する細胞表面タンパク質;もしくは、iPSCもしくはその派生細胞の生着、輸送、ホーミング、生存度、自己複製、残留性、免疫応答の制御および調節、並びに/もしくは生存を促進するタンパク質;
(II)B2M、TAP1、TAP2、タパシン、NLRC5、PD1、LAG3、TIM3、RFXANK、CITTA、RFX5、もしくはRFXAPの発現の欠失もしくは減少;または、
(III)HLA-E、HLA-G、HACD16、41BBL、CD3、CD4、CD8、CD47、CD137、CD80、PDL1、A
2AR、CAR、TCR、もしくは二重特異性もしくは多重特異性エンゲージャーに対する表面上誘発受容体の発現の導入もしくは増加、
のうちの1または複数を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記表面上誘発受容体が、
(i)造血系細胞において普遍的であるという特性;
(ii)抗エピトープおよび共刺激ドメインを含み、前記抗エピトープが前記二重特異性または多重特異性エンゲージャーに特異的であり、また所望により共刺激ドメインがIL2を含むという特性;
(iii)前記二重特異性または多重特異性エンゲージャーが腫瘍細胞の表面上の1または複数の腫瘍特異的抗原に対して特異的であり、前記腫瘍特異的抗原が所望によりCD19、CD20、CD30、EGFR、HER2/ERBB2/neu、EPCAM、EphA2およびCEAのうちの1または複数を含むという特性;並びに
(iv)前記二重特異性または多重特異性エンゲージャーが、
(a)造血系細胞型に対して特異的であり、また所望により当該エンゲージャーがCD3、CD16、CD64、もしくはCD89を含む表面受容体に対して特異的である;
(b)造血系細胞型に対して非依存的であり、前記造血系細胞型が普遍的表面上誘発受容体を含み、前記エンゲージャーが前記普遍的表面上誘発受容体に対して特異的である;または、
(c)腫瘍細胞の表面上の1もしくは複数の腫瘍特異的抗原に特異的であり、また所望により前記腫瘍特異的抗原がCD19、CD20、CD30、EGFR、HER2/ERBB2/neu、EPCAM、EphA2およびCEAのうちの1もしくは複数を含む
という特性
のうちの少なくとも1つを有し、
前記造血系細胞が、運命確定造血内皮細胞、造血幹細胞・前駆細胞(HSC)、造血性多能性前駆細胞(MPP)、プレT細胞前駆細胞、プレNK細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、B細胞、マクロファージ、または好中球を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
増強された治療特性を有する造血系細胞を作製する方法であって、
a)1または複数の導入された遺伝的インプリントを含み、前記1または複数の遺伝的インプリントが、(i)組換えタンパク質をコードする配列のゲノム内挿入、または(ii)内在性遺伝子の発現を欠失もしくは減少させるゲノム内挿入もしくはゲノム内欠失、を含む、誘導万能性幹細胞(iPSC)を得ること;並びに
b)iPSCを造血系細胞に分化誘導すること、
を含み、前記分化誘導することは、
(i)前記iPSCを、BMP経路活性化剤および所望によりbFGFを含む組成物と接触させることにより、中胚葉細胞を得ること;並びに
(ii)前記中胚葉細胞を、BMP経路活性化剤、bFGF、およびWNT経路活性化剤を含む組成物と接触させることで、造血系細胞を与えることが可能な、運命確定造血内皮(HE)分化能を有する中胚葉細胞を得ること、
を含み;
前記中胚葉細胞および前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞が段階b)の(i)およびb)の(ii)において胚様体形成無しで得られ;
前記造血系細胞は運命確定造血内皮細胞、造血幹細胞・前駆細胞(HSC)、造血性多能性前駆細胞(MPP)、プレT細胞前駆細胞、プレNK細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、またはB細胞を含み;且つ、
前記造血系細胞は前記iPSCに導入されて含まれていた前記遺伝的インプリントを保持し、
万能性幹細胞由来プレT細胞前駆細胞を、SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み、VEGF、bFGF、TPO、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まない組成物と接触させることで、万能性幹細胞由来のT細胞前駆細胞またはT細胞を得ること、をさらに含み;
前記万能性幹細胞由来プレT細胞前駆細胞は、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮を、ROCK阻害剤、並びにVEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含む組成物と接触させて、細胞分化および増殖させることによって得られ;
前記万能性幹細胞由来運命確定造血内皮は、前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞を、ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IL6およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、Wnt経路活性化剤、IGF、およびEPOのうちの1または複数を含み、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、組成物と接触させて、細胞分化および増殖させることによって得られる、方法。
【請求項11】
万能性幹細胞を、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含み、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、組成物と接触させて、前記万能性幹細胞を播種および増殖させることをさらに含む、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
増強された治療特性を有する造血系細胞を作製する方法であって、
a)1または複数の導入された遺伝的インプリントを含み、前記1または複数の遺伝的インプリントが、(i)組換えタンパク質をコードする配列のゲノム内挿入、または(ii)内在性遺伝子の発現を欠失もしくは減少させるゲノム内挿入もしくはゲノム内欠失、を含む、誘導万能性幹細胞(iPSC)を得ること;並びに
b)iPSCを造血系細胞に分化誘導すること、
を含み、前記分化誘導することは、
(i)前記iPSCを、BMP経路活性化剤および所望によりbFGFを含む組成物と接触させることにより、中胚葉細胞を得ること;並びに
(ii)前記中胚葉細胞を、BMP経路活性化剤、bFGF、およびWNT経路活性化剤を含む組成物と接触させることで、造血系細胞を与えることが可能な、運命確定造血内皮(HE)分化能を有する中胚葉細胞を得ること、
を含み;
前記中胚葉細胞および前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞が段階b)の(i)およびb)の(ii)において胚様体形成無しで得られ;
前記造血系細胞は運命確定造血内皮細胞、造血幹細胞・前駆細胞(HSC)、造血性多能性前駆細胞(MPP)、プレT細胞前駆細胞、プレNK細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、またはB細胞を含み;且つ、
前記造血系細胞は前記iPSCに導入されて含まれていた前記遺伝的インプリントを保持し、
万能性幹細胞由来プレNK細胞前駆細胞を、SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み、VEGF、bFGF、TPO、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まない組成物と接触させることで、万能性幹細胞由来のNK細胞前駆細胞またはNK細胞を得ること;をさらに含み、
前記万能性幹細胞由来プレNK細胞前駆細胞は、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮を、ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、BMP活性化剤、を含む組成物と接触させて、細胞分化および増殖させることによって得られ;
万能性幹細胞由来運命確定造血内皮は、前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞を、ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IL6およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望によりWnt経路活性化剤、IGFおよびEPOのうちの1または複数を含み、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まない、組成物と接触させて、細胞分化および増殖させることによって得られる、方法。
【請求項13】
(i)播種された万能性幹細胞、万能性幹細胞由来中胚葉細胞、造血内皮分化能を有する中胚葉細胞、および/または運命確定造血内皮を、約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すこと、
(ii)万能性幹細胞を、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含み、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、組成物と接触させて、細胞を播種および増殖させること
のうちの1つまたは複数をさらに含むものである、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
増強された治療特性を有する造血系細胞を作製する方法であって、
a)1または複数の導入された遺伝的インプリントを含み、前記1または複数の遺伝的インプリントが、(i)組換えタンパク質をコードする配列のゲノム内挿入、または(ii)内在性遺伝子の発現を欠失もしくは減少させるゲノム内挿入もしくはゲノム内欠失、を含む、誘導万能性幹細胞(iPSC)を得ること;並びに
b)iPSCを造血系細胞に分化誘導すること、
を含み、前記分化誘導することは、
(i)前記iPSCを、BMP経路活性化剤および所望によりbFGFを含む組成物と接触させることにより、中胚葉細胞を得ること;並びに
(ii)前記中胚葉細胞を、BMP経路活性化剤、bFGF、およびWNT経路活性化剤を含む組成物と接触させることで、造血系細胞を与えることが可能な、運命確定造血内皮(HE)分化能を有する中胚葉細胞を得ること、
を含み;
前記中胚葉細胞および前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞が段階b)の(i)およびb)の(ii)において胚様体形成無しで得られ;
前記造血系細胞は運命確定造血内皮細胞、造血幹細胞・前駆細胞(HSC)、造血性多能性前駆細胞(MPP)、プレT細胞前駆細胞、プレNK細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、またはB細胞を含み;且つ、
前記造血系細胞は前記iPSCに導入されて含まれていた前記遺伝的インプリントを保持し、
前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞を、ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IL6およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、1または複数またはWnt経路活性化剤、IGFおよびEPOを含み、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まない、組成物と接触させることで、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮を得ること;をさらに含む、方法。
【請求項15】
万能性幹細胞を、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含み、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、組成物と接触させて、前記万能性幹細胞を播種および増殖させること、並びに/または、
播種された万能性幹細胞、万能性幹細胞由来中胚葉細胞、運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞、および/もしくは運命確定造血内皮を、約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
増強された治療特性を有する造血系細胞を作製する方法であって、
a)1または複数の導入された遺伝的インプリントを含み、前記1または複数の遺伝的インプリントが、(i)組換えタンパク質をコードする配列のゲノム内挿入、または(ii)内在性遺伝子の発現を欠失もしくは減少させるゲノム内挿入もしくはゲノム内欠失、を含む、誘導万能性幹細胞(iPSC)を得ること;並びに
b)iPSCを造血系細胞に分化誘導すること、
を含み、前記分化誘導することは、
(i)前記iPSCを、BMP経路活性化剤および所望によりbFGFを含む組成物と接触させることにより、中胚葉細胞を得ること;並びに
(ii)前記中胚葉細胞を、BMP経路活性化剤、bFGF、およびWNT経路活性化剤を含む組成物と接触させることで、造血系細胞を与えることが可能な、運命確定造血内皮(HE)分化能を有する中胚葉細胞を得ること、
を含み;
前記中胚葉細胞および前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞が段階b)の(i)およびb)の(ii)において胚様体形成無しで得られ;
前記造血系細胞は運命確定造血内皮細胞、造血幹細胞・前駆細胞(HSC)、造血性多能性前駆細胞(MPP)、プレT細胞前駆細胞、プレNK細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、またはB細胞を含み;且つ、
前記造血系細胞は前記iPSCに導入されて含まれていた前記遺伝的インプリントを保持し、
万能性幹細胞由来プレHSCを、BMP活性化剤、並びにTPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み、ROCK阻害剤を含まない、組成物と接触させることで、万能性幹細胞由来造血性多能性前駆細胞を得ること、をさらに含み;
前記万能性幹細胞由来プレHSCは、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮を、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、並びにTPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3LおよびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含む組成物と接触させて、細胞分化および増殖させることによって得られ;
前記万能性幹細胞由来運命確定造血内皮は、前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞を、ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、Wnt経路活性化剤を含み、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、組成物と接触させて、細胞分化および増殖させることによって得られる、方法。
【請求項17】
万能性幹細胞を、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含み、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、組成物と接触させて、前記万能性幹細胞を播種および増殖させること、並びに/または、
播種された万能性幹細胞、万能性幹細胞由来中胚葉細胞、運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞、および/もしくは運命確定造血内皮を、約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法を用いて細胞集団、細胞株またはクローン細胞のうちの1または複数を調整する方法であって、前記細胞集団、細胞株またはクローン細胞は以下から選択される:
(i)CD34+、且つ、CD43-、CD93-、CXCR4-、CD73-、およびCXCR4-CD73-のうちの少なくとも1つである、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮(iHE);
(ii)CD34+CD45+である、万能性幹細胞由来多能性前駆細胞;
(iii)CD34+CD45+CD7+またはCD34-CD45+CD7+である、万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞;
(iv)CD45+CD3+CD4+またはCD45+CD3+CD8+である、万能性幹細胞由来T細胞;
(v)CD3-CD45+CD56+CD7+である、万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞;
(vi)CD3-CD45+CD56+であり、且つ、所望によりNKp46+、CD57+、およびCD16+をさらなる特徴とする、万能性幹細胞由来NK細胞;
(vii)CD45+Vα24Jα18+CD3+である、万能性幹細胞由来NKT細胞;並びに、
(viii)CD45+CD19+である、万能性幹細胞由来B細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年11月4日に出願された米国仮特許出願第62/251,016号;2016年1月26日に出願された国際出願番号PCT/US16/14918;および2015年5月16日に出願された米国仮特許出願第62/337,093号に基づく優先権を主張し、これらの開示は参照によってその全体が本明細書に援用される。
【0002】
本発明は全体として、万能性幹細胞から全ての造血系の細胞を製造するための組成物および方法に関する。具体的には、本発明は、ヒト誘導万能性幹細胞を包含する万能性幹細胞から全ての造血系の細胞を製造するための、改善された培養プラットフォームに関する。
【背景技術】
【0003】
ヒト誘導万能性幹細胞(hiPSC)技術は、がんを含む多数の血液系腫瘍および非血液系腫瘍の治療のための、治療的可能性のある造血細胞の、非常に有望な、且つ潜在的に無限の供給源である。造血細胞療法剤の同種供給源としてのhiPSCおよびゲノム改変hiPSC技術の可能性を押し広げるためには、T、B、NKT、およびNKリンパ系細胞、並びにそれらの前駆細胞の多様なサブセットを含んで、造血幹細胞・前駆細胞(HSC)だけでなく、免疫エフェクター集団をも、効率的に且つ再現性よく作製可能であることが必要不可欠である。
【0004】
リンパ球を生じ得るHSCのインビトロ誘導は、胚発生中に時空間的に異なる少なくとも2つの血球新生の波(一次造血および二次造血)があるために複雑である。一次造血は胚体外の卵黄嚢で始まり、胚型赤血球系細胞および胚型骨髄系細胞(ただしHSCではない)を主に含む過渡的且つ限定的な造血系レパートリーを生じる。二次造血の波が生じた後に初めて、運命確定造血内皮(HE)と呼ばれる動脈管構造内の特殊化した内皮前駆細胞から、初期のHSCが現れる。運命確定HEは次に、内皮造血転換を起こしてHSCを生じ、これがその後最終的に骨髄に移動し、そこで、生体型としての一生を通じて、T、B、NKT、およびNKリンパ系細胞を含む多系譜の造血を維持する。従って、万能性幹細胞からのHSCおよびリンパ系エフェクター細胞の発生は、適切に設計され有効とされた方法および組成物を介した、二次プログラムへ向けた入り組んだ初期胚造血発生段階の、正確な再現能に依存している。
【0005】
インビトロにおけるhiPSCの運命確定HEへの分化誘導について説明している研究は、限られた数しかない。係る細胞を、最初に、万能性維持および分化誘導を目的とした不明確な血清含有培地の存在下で、マウス由来またはヒト由来の間質細胞と共培養しなければならないことが、hiPSCを治療目的に利用する際の主な障害となっている。加えて、既存のプロトコルは、iPSCを培養することで、外胚葉細胞、中胚葉細胞、および内胚葉細胞を包含する種々の分化細胞を含む不均一な細胞凝集塊である胚様体(EB)を形成させることからなる戦略を採用している。それらの手順は、例えば、スピンにより凝集塊を形成させる、細胞をウェル内に接着させ凝集させる、または、浮遊培養液中で受動的に集合させ凝集塊を形成させることによる、万能性細胞の凝集を必要とする。形成されたEBは、ある一定の期間、典型的には7~10日間、分化誘導培養系の中で維持されることで適切に分化せられ、その後EBは、続く分化段階への進行を目的として、さらなる成熟のために接着培養に移されるか、または、細胞型選別のために単一細胞に解離される(Kennedy et al., Cell Reports 2012:1722-1735; Knorr, et al., Stem Cells Translational Medicine 2013 (2):274-283)。例えば、Kennedy et al.では、万能性細胞をコラゲナーゼおよびトリプシンで処理して、細胞を剥離させて小さな凝集塊を形成させた後、それを培養してEBを形成させた、iPSC分化のためのEB発生が教示されている。EB形成は万能性幹細胞の分化を促進することが示されているが、凝集塊形成とその後のEB形成の必要性は手間がかかり、このプロセス中、細胞数は最低限にしか増加せず、三次元的EB凝集塊内の細胞性内容物は培地中の因子に一貫性無く且つ不均等に曝され、それにより、分化段階が一様でない不均一な細胞産物が生じ、効率的であり且つ合理化されていることが必要とされる製造プロセスの拡張性および再現性の大きな障害となる。
【0006】
すなわち、共培養または血清含有培地に頼らずに、且つ、中間体として胚様体凝集塊を形成させる必要なく、幹細胞を二次造血まで分化させる方法および組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は全体として、幹細胞を造血細胞予定運命へと増殖および分化させるための、細胞培養条件、培地、培養プラットフォーム、および方法に関する。
【0008】
特に、本発明は、EB形成の必要無く、無血清/無フィーダー条件下で、且つ、拡張可能且つ単層の培養プラットフォームにおいて、hiPSCを包含する万能性幹細胞に由来する運命確定造血内皮(HE)を通じて、造血細胞系譜を作製するための方法および組成物を提供する。本発明の方法に従って分化され得る細胞は、万能性幹細胞から、特定の高分化型細胞に運命決定された前駆細胞、および万能性の中間体を経由することなく造血性運命に直接移行した種々の系譜の細胞である分化転換細胞(transdifferentiated cell)まで、多岐にわたる。同様に、幹細胞の分化によって生じる細胞も、多能性幹細胞または多能性前駆細胞から、高分化型幹細胞、および介在する全ての造血細胞系まで、多岐にわたる。
【0009】
本発明は、万能性幹細胞を、BMP経路活性化剤、および所望によりbFGFと、接触させることを含む、単層培養において万能性幹細胞から造血系細胞を分化および増殖させるための組成物および方法を提供する。従って、万能性幹細胞に由来する中胚葉細胞が、万能性幹細胞から胚様体を形成することなく、獲得し増殖される。前記中胚葉細胞が次に、BMP経路活性化剤、bFGF、およびWNT経路活性化剤との接触を受けることで、万能性幹細胞からの胚様体の形成なく、運命確定造血内皮(HE)分化能を有する増殖した中胚葉細胞が得られる。後のbFGF、並びに所望により、ROCK阻害剤、および/またはWNT経路活性化剤、との接触により、運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞が運命確定HE細胞に分化し、これは分化中に増殖もする。
【0010】
EB形成が、中程度~最小限の細胞増殖をもたらすこと、集団内の細胞の均一な増殖および均一な分化を必要とする多くの適用にとって重要な単層培養が可能でないこと、並びに、手間がかかり効率が低いことから、造血系細胞を得るための本明細書で提供される方法はEBを介した万能性幹細胞分化よりも優れている。
【0011】
運命確定造血内皮に向けた分化を促進して、造血幹細胞の誘導、並びにT細胞、B細胞、NKT細胞およびNK細胞等の分化した子孫をもたらす、単層分化プラットフォームが本明細書において提供される。実証される増強された分化効率と大量増殖とを組み合わせた単層分化戦略は、種々の治療適用のための、治療上有意味な数の万能性幹細胞由来造血細胞の送達を可能にする。さらに、本発明によって、本明細書で提供される方法を用いる単層培養が、インビトロでの分化、エキソビボでの調節、並びにインビボでの長期間の造血性自己複製、再構成および生着の全てを可能にする機能的な造血系細胞をもたらすことが開示された。本明細書で使用される場合、iPSC由来造血系細胞は、運命確定造血内皮、造血性多能性前駆細胞、造血幹細胞・前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、B細胞、マクロファージ、および好中球を包含するがこれらに限定はされない。
【0012】
本発明の1つの態様は、万能性幹細胞由来造血系細胞を得るための培養プラットフォームを提供するものであり、前記培養プラットフォームは以下を含む:(i)ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、Wnt経路活性化剤を含み;且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まず、且つ、運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化および増殖に適した、培地;(ii)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まず、且つ、運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞の入手に適した、培地;並びに、(iii)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含み、且つ、万能性幹細胞からの中胚葉細胞の分化および増殖に適した、培地。いくつかの実施形態では、上記培養プラットフォームの前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記培養プラットフォームは以下をさらに含む:(iv)MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まず、且つ、万能性幹細胞の播種および増殖に適した、培地。
【0013】
上記培養プラットフォームのいくつかの実施形態では、前記培養プラットフォームは、追加の培地:(i)SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカインを含むが、VEGF、bFGF、TPO、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1もしくは複数を含まず、且つ、万能性幹細胞由来プレT細胞前駆細胞のT細胞前駆細胞もしくはT細胞への分化に適した、培地;または、(ii)ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、およびIL7からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望によりBMP活性化剤を含み、且つ、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮のプレT細胞前駆細胞への分化に適した、培地、をさらに含み;これらの追加の培地は万能性幹細胞由来T系細胞の発生に適している。
【0014】
上記培養プラットフォームのいくつかの実施形態では、前記培養プラットフォームは、追加の培地:(i)SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカインを含み、且つ、VEGF、bFGF、TPO、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1もしくは複数を含まず、且つ、万能性幹細胞由来プレNK細胞前駆細胞のNK細胞前駆細胞もしくはNK細胞への分化に適した、培地;または、(ii)ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望によりBMP活性化剤を含み;且つ、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮のプレNK細胞前駆細胞への分化に適した、培地、をさらに含んでいてもよく;これらの追加の培地は万能性幹細胞由来NK系細胞の発生に適している。
【0015】
一実施形態では、上記の提供された培養プラットフォームは、(i)BMP活性化剤、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含むが、ROCK阻害剤を含まず、且つ、万能性幹細胞由来プレHSCの造血性多能性前駆細胞への分化に適した、培地;(ii)BMP活性化剤、ROCK阻害剤、並びに、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3LおよびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み、且つ、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮のプレHSCへの分化に適した、培地、をさらに含み;これらの培地は万能性幹細胞由来の造血性多能性前駆細胞の発生を可能にする。
【0016】
本発明の別の態様は、万能性幹細胞由来造血細胞を分化および増殖させるための組成物を提供し、前記組成物は以下のうちの1または複数を含む:(i)ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;所望により、Wnt経路活性化剤;並びに、運命確定造血内皮への分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まず、且つ、前記造血内皮分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化および増殖に適した、培地;(ii)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含むが、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まず;万能性幹細胞由来中胚葉細胞を含み、且つ、万能性幹細胞由来中胚葉細胞からの運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞の分化および増殖に適した、培地;並びに、(iii)BMP活性化剤、および所望によりbFGF;およびiPSCを含み、且つ、万能性幹細胞からの中胚葉細胞の分化および増殖に適した、培地。
【0017】
万能性幹細胞由来造血細胞の分化および増殖のための前記組成物のいくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCは1または複数の遺伝的インプリントを含み、前記iPSCに含まれていた前記1または複数の遺伝的インプリントは、それから派生した造血系細胞において保持される。
【0018】
万能性幹細胞由来造血細胞の分化および増殖のための前記組成物のいくつかの実施形態では、前記組成物は、(vi)MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まず;且つ、万能性幹細胞を含み;且つ、前記万能性幹細胞の播種および増殖に適した、培地等の、追加の培地を含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCは1または複数の遺伝的インプリントを含み、前記iPSCに含まれていた前記1または複数の遺伝的インプリントは、それから派生した造血系細胞において保持される。
【0019】
万能性幹細胞由来造血細胞の分化および増殖のための上記組成物のいくつかの実施形態では、前記組成物は、(i)SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカインを含むが、VEGF、bFGF、TPO、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1もしくは複数を含まず;且つ、万能性幹細胞由来プレT細胞前駆細胞を含み、且つ、前記万能性幹細胞由来プレT細胞前駆細胞のT細胞前駆細胞もしくはT細胞への分化に適した、培地;または、(ii)ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望によりBMP活性化剤;並びに万能性幹細胞由来運命確定造血内皮を含み、且つ、前記運命確定造血内皮のプレT細胞前駆細胞への分化に適した、培地、をさらに含む。これらの追加の培地は万能性幹細胞由来T系細胞の発生に適している。
【0020】
万能性幹細胞由来造血細胞の分化および増殖のための上記組成物の一実施形態では、前記組成物は、万能性幹細胞由来の造血多能性前駆細胞を作製するための1または複数の培地をさらに含み、前記培地は、(i)BMP活性化剤、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカインを含むが、ROCK阻害剤を含まず、且つ、万能性幹細胞由来プレHSCを含み、且つ、プレHSCの造血性多能性前駆細胞への分化に適した、培地;並びに/または、(ii)BMP活性化剤、ROCK阻害剤、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3LおよびIL11からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカイン、並びに、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮を含み、且つ、前記運命確定造血内皮のプレHSCへの分化に適した、培地、を含む。
【0021】
本発明の1つの態様は、万能性幹細胞由来T系細胞を作製するための培養プラットフォームを提供するものであり、前記培養プラットフォームは、(i)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含み、且つ、万能性幹細胞からの万能性幹細胞由来中胚葉細胞の分化および増殖に適した、培地;(ii)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まず、且つ、前記中胚葉細胞からの運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞の入手に適した、培地;(iii)ROCK阻害剤、bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;所望により、Wnt経路活性化剤を含み;且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まず、且つ、前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化および増殖に適した、培地;(iv)ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望によりBMP活性化剤;並びに万能性幹細胞由来運命確定造血内皮を含み、且つ、前記運命確定造血内皮のプレT細胞前駆細胞への分化に適した、培地;並びに、(v)SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含むが、VEGF、bFGF、TPO、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まず;且つ、万能性幹細胞由来プレT細胞前駆細胞を含み、且つ、前記プレT細胞前駆細胞のT細胞前駆細胞またはT細胞への分化に適した、培地、を含む。
【0022】
万能性幹細胞由来T系細胞を作製するための上記培養プラットフォームのいくつかの実施形態では、前記培養プラットフォームは、(vi)MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まず、且つ、万能性幹細胞の播種および増殖に適した、培地、をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCは1または複数の遺伝的インプリントを含み、前記iPSCに含まれていた前記1または複数の遺伝的インプリントは、それから分化した万能性幹細胞由来T系細胞において保持される。
【0023】
本発明の別の態様は、万能性幹細胞由来NK細胞を作製するための培養プラットフォームを提供するものであり、前記培養プラットフォームは、(i)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含み、且つ、万能性幹細胞からの中胚葉細胞の分化および増殖に適した、培地;(ii)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まず、且つ、中胚葉細胞からの運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞の入手に適した、培地;(iii)ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;所望により、Wnt経路活性化剤を含み;且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まず、且つ、運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化に適した、培地;(iv)ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望によりBMP活性化剤を含み、且つ、運命確定造血内皮のプレNK細胞前駆細胞への分化に適した、培地;並びに、(v)SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み、且つ、VEGF、bFGF、TPO、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まず、且つ、プレNK細胞前駆細胞のNK細胞前駆細胞またはNK細胞への分化に適した、培地、を含む。
【0024】
万能性幹細胞由来NK細胞を作製するための上記培養プラットフォームのいくつかの実施形態では、前記培養プラットフォームは、(vi)MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まず、且つ、万能性幹細胞の播種および増殖に適した、培地、をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCは1または複数の遺伝的インプリントを含み、前記iPSCに含まれていた前記1または複数の遺伝的インプリントは、それから分化した万能性幹細胞由来NK系細胞において保持される。
【0025】
本発明のさらに別の態様は、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮(iHE)を作製するための培養プラットフォームを提供するものであり、前記培養プラットフォームは、(i)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含み、且つ、万能性幹細胞からの中胚葉細胞の分化および増殖に適した、培地;(ii)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まず、且つ、前記万能性幹細胞由来中胚葉細胞からの運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞の入手に適した、培地;並びに、(iii)ROCK阻害剤、並びにbFGF、VEGF、SCF、IL6、IL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まず、且つ、前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化および増殖に適した、培地、を含む。
【0026】
万能性幹細胞由来運命確定造血内皮(iHE)を作製するための前記培養プラットフォームのいくつかの実施形態では、前記培養プラットフォームは、(iv)MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まず、且つ、万能性幹細胞の播種および増殖に適した、培地、をさらに含む。
【0027】
本発明のさらに別の態様は、万能性幹細胞由来造血多能性前駆細胞を作製するための培養プラットフォームを提供するものであり、前記培養プラットフォームは、(i)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含み、且つ、万能性幹細胞からの万能性幹細胞由来中胚葉細胞の分化および増殖に適した、培地;(ii)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まず、且つ、前記万能性幹細胞由来中胚葉細胞からの運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞の入手に適した、培地;(iii)ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、Wnt経路活性化剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まず、且つ、運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化および増殖に適した、培地;(iv)BMP活性化剤、ROCK阻害剤、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3LおよびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み;且つ、運命確定造血内皮のプレHSCへの分化に適した、培地;並びに、(v)BMP活性化剤、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み、且つ、ROCK阻害剤を含まず、且つ、プレHSCの造血性多能性前駆細胞への分化に適した、培地、を含む。いくつかの実施形態では、前記培養プラットフォームは以下をさらに含む:(vi)MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まず、且つ、万能性幹細胞の播種および増殖に適した、培地。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCは1または複数の遺伝的インプリントを含み、前記iPSCに含まれていた前記1または複数の遺伝的インプリントは、それから分化した万能性幹細胞由来造血細胞において保持される。
【0028】
本発明の別の態様は、万能性幹細胞を運命確定造血系細胞に分化誘導するための方法を提供するものであり、前記方法は、(i)万能性幹細胞を、BMP活性化剤および所望によりbFGFを含む組成物と接触させて、前記万能性幹細胞からの中胚葉細胞の分化および増殖を惹起すること;(ii)前記中胚葉細胞を、BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、所望によりTGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない組成物と接触させて、前記中胚葉細胞からの運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞の分化および増殖を惹起すること;(iii)前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞を、ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含み、所望によりTGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない組成物と接触させて、運命確定造血内皮への分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化および増殖を惹起すること;並びに所望により、万能性幹細胞、万能性幹細胞由来中胚葉細胞、造血内皮を有する中胚葉細胞、および/または運命確定造血内皮を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すこと、を含む。
【0029】
万能性幹細胞を造血系細胞に分化誘導するための前記方法のいくつかの実施形態では、前記方法は、万能性幹細胞を、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含み、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない組成物と接触させて、万能性幹細胞を播種および増殖させること、をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCは1または複数の遺伝的インプリントを含み、前記iPSCに含まれていた前記1または複数の遺伝的インプリントは、それから分化した万能性幹細胞由来造血細胞において保持される。
【0030】
万能性幹細胞の分化を造血系細胞に配向するための方法のいくつかの実施形態では、万能性幹細胞の造血系細胞への分化は、胚様体を生じず、且つ単層培養形態である。
【0031】
上記方法のいくつかの実施形態では、得られる万能性幹細胞由来の運命確定造血内皮細胞はCD34+である。いくつかの実施形態では、得られる運命確定造血内皮細胞はCD34+CD43-である。いくつかの実施形態では、運命確定造血内皮細胞はCD34+CD43-CXCR4-CD73-である。いくつかの実施形態では、運命確定造血内皮細胞はCD34+CXCR4-CD73-である。いくつかの実施形態では、運命確定造血内皮細胞はCD34+CD43-CD93-である。いくつかの実施形態では、運命確定造血内皮細胞はCD34+CD93-である。
【0032】
上記方法のいくつかの実施形態では、前記方法は、(i)万能性幹細胞由来運命確定造血内皮を、ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望によりBMP活性化因子を含む組成物と接触させて、運命確定造血内皮のプレT細胞前駆細胞(pre-T cell progenitor)への分化を惹起すること;並びに所望により、(ii)前記プレT細胞前駆細胞を、SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含むが、VEGF、bFGF、TPO、BMP活性化因子およびROCK阻害剤のうちの一つまたは複数を含まない、組成物と接触させて、前記プレT細胞前駆細胞のT細胞前駆細胞またはT細胞への分化を惹起すること、をさらに含む。前記方法のいくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞はCD34+CD45+CD7+である。前記方法のいくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞はCD45+CD7+である。
【0033】
万能性幹細胞の分化を造血系細胞へと配向するための上記方法のさらなるいくつかの実施形態では、前記方法は、(i)万能性幹細胞由来運命確定造血内皮を、ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、BMP活性化因子、を含む組成物と接触させて、運命確定造血内皮のプレNK細胞前駆細胞(pre-NK cell progenitor)への分化を惹起すること;並びに所望により、(ii)万能性幹細胞由来プレNK細胞前駆細胞を、SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み、VEGF、bFGF、TPO、BMP活性化因子およびROCK阻害剤のうちの一つまたは複数を含まない、組成物と接触させて、プレNK細胞前駆細胞のNK細胞前駆細胞またはNK細胞への分化を惹起すること、をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞由来NK前駆細胞はCD3-CD45+CD56+CD7+である。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞由来NK細胞はCD3-CD45+CD56+であり、所望により、NKp46+、CD57+およびCD16+をさらなる特徴とする。
【0034】
本発明の別の態様は、万能性幹細胞由来T系細胞を作製するための方法を提供するものであり、前記方法は、(i)万能性幹細胞を、BMP活性化剤および所望によりbFGFを含む組成物と接触させて、万能性幹細胞からの中胚葉細胞の分化および増殖を惹起すること;(ii)前記中胚葉細胞を、BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含むが、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない組成物と接触させて、前記中胚葉細胞からの前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞の分化および増殖を惹起すること;(iii)運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞を、ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、Wnt経路活性化剤を含み;且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない組成物と接触させて、運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化および増殖を惹起すること;(iv)運命確定造血内皮を、ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望によりBMP活性化剤を含む組成物と接触させて、前記運命確定造血内皮のプレT細胞前駆細胞への分化を惹起すること;並びに、(v)前記プレT細胞前駆細胞を、SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み、且つVEGF、bFGF、TPO、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まない、組成物と接触させて、プレT細胞前駆細胞のT細胞前駆細胞またはT細胞への分化を惹起すること、を含み;所望により、前記播種された万能性幹細胞、中胚葉細胞、運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞、および/または運命確定造血内皮は約2%~約10%の低酸素分圧に曝されてもよい。いくつかの実施形態では、上記方法のグループIIは、iPSCを、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含むが、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、組成物と接触させて、万能性幹細胞を播種および増殖させること、をさらに含み;且つ/または、前記万能性幹細胞。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。前記方法のいくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞のT細胞系譜への分化は、胚様体を生じず、且つ、単層培養形式である。
【0035】
本発明のさらに別の態様は、万能性幹細胞由来NK系細胞を作製するための方法を提供するものであり、前記方法は、(i)万能性幹細胞を、BMP活性化剤および所望によりbFGFを含む組成物と接触させて、前記万能性幹細胞からの中胚葉細胞の分化および増殖を惹起すること;(ii)中胚葉細胞を、BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まない、組成物と接触させて、中胚葉細胞からの運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞の分化および増殖を惹起すること;(iii)運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞を、bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;ROCK阻害剤;所望によりWnt経路活性化剤を含み;且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まない、組成物と接触させて、運命確定HE分化能を有する前記万能性幹細胞由来中胚葉細胞からの万能性幹細胞由来運命確定造血内皮の分化および増殖を惹起すること;(iv)万能性幹細胞由来運命確定造血内皮を、ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン、並びに所望によりBMP活性化剤を含む組成物と接触させて、前記万能性幹細胞由来運命確定造血内皮のプレNK細胞前駆細胞への分化を惹起すること;並びに、(v)万能性幹細胞由来プレNK細胞前駆細胞を、SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含むが、VEGF、bFGF、TPO、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まない、組成物と接触させて、前記万能性幹細胞由来プレNK細胞前駆細胞の万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞またはNK細胞への分化を惹起すること;並びに所望により、播種された万能性幹細胞、万能性幹細胞由来中胚葉細胞、および/または運命確定造血内皮を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すこと、を含む。いくつかの実施形態では、グループIIの万能性幹細胞由来NK系細胞を作製するための前記方法は、iPSCを、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含むが、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、組成物と接触させて、前記iPSCを播種および増殖すること、をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、万能性幹細胞由来NK系細胞を作製するための前記方法は、胚様体を生じず、且つ、単層培養形式である。
【0036】
本発明の別の態様は、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮を作製するための方法を提供するものであり、前記方法は、(i)iPSCを、BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含む組成物と接触させて、万能性幹細胞からの万能性幹細胞由来中胚葉細胞の分化および増殖を惹起すること;(ii)万能性幹細胞由来中胚葉細胞を、BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まない、組成物と接触させて、万能性幹細胞由来中胚葉細胞からの運命確定HE分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞の分化および増殖を惹起すること;(iii)運命確定HE分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞を、bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;ROCK阻害剤;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を所望により含まない、組成物と接触させて、前記運命確定HE分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞からの万能性幹細胞由来運命確定造血内皮の分化および増殖を惹起すること;並びに所望により、播種された万能性幹細胞、万能性幹細胞由来中胚葉細胞、および/または運命確定造血内皮を、約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すこと、を含む。いくつかの実施形態では、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮を作製するための上記方法は、iPSCを、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含むが、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、組成物と接触させて、前記iPSCを播種および増殖すること、をさらに含み;且つ/または、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCは1または複数の遺伝的インプリントを含み、前記iPSCに含まれていた前記1または複数の遺伝的インプリントは、それから分化した万能性幹細胞由来運命確定造血内皮細胞において保持される。いくつかの実施形態では、iPSCを運命確定造血内皮細胞に分化させる上記方法は、胚様体を生じず、且つ、単層培養形式である。
【0037】
本発明の別の態様は、万能性幹細胞由来造血系多能性前駆細胞を作製するための方法を提供するものであり、前記方法は、(i)iPSCを、BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含む組成物と接触させて、iPSCからの万能性幹細胞由来中胚葉細胞の分化および増殖を惹起すること;(ii)万能性幹細胞由来中胚葉細胞を、BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含むが、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない組成物と接触させて、前記中胚葉細胞からの前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞の分化および増殖を惹起すること;(iii)運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞を、ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、Wnt経路活性化剤を含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない組成物と接触させて、運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化および増殖を惹起すること;(iv)運命確定造血内皮を、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3LおよびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含む組成物と接触させて、運命確定造血内皮のプレHSCへの分化を惹起すること;並びに、(v)プレHSCを、BMP活性化剤、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含むが、ROCK阻害剤を含まない、組成物と接触させて、前記プレHSCの造血性多能性前駆細胞への分化を惹起すること;並びに所望により、播種された万能性幹細胞、中胚葉細胞、および/または運命確定造血内皮を、約2%~約10%の低酸素分圧下にさらすこと、を含む。いくつかの実施形態では、万能性幹細胞由来造血多能性前駆細胞を作製するための上記方法は、万能性幹細胞を、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含むが、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、組成物と接触させて、前記万能性幹細胞を播種および増殖させること、をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCは1または複数の遺伝的インプリントを含み、前記iPSCに含まれていた前記1または複数の遺伝的インプリントは、それから分化した万能性幹細胞由来造血性多能性前駆細胞において保持される。いくつかの実施形態では、上記方法を用いた前記万能性幹細胞の造血多能性前駆細胞への分化は、胚様体を生じず、且つ、単層培養形式である。
【0038】
本発明のさらなる態様は、本明細書で開示される培養プラットフォームから作製される1または複数の細胞集団を含む組成物を提供するものである:(i)多能性前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞およびB細胞への分化能を有し、且つ、CD34+CD43-である、万能性幹細胞由来CD34+運命確定造血内皮(iCD34);(ii)CD34+であり、且つ、CD43-、CD93-、CXCR4-、CD73-、およびCXCR4-CD73-のうちの少なくとも1つである、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮(iHE);(iii)CD34+CD45+である、万能性幹細胞由来運命確定HSC;(iv)CD34+CD45+である、万能性幹細胞由来造血性多能性前駆細胞;(v)CD34+CD45+CD7+またはCD34-CD45+CD7+である、万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞;(vi)CD45+CD3+CD4+またはCD45+CD3+CD8+である、T細胞;(vii)CD45+CD56+CD7+である、万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞;(viii)CD3-CD45+CD56+であり、且つ、所望によりNKp46+、CD57+、およびCD16+をさらなる特徴とする、万能性幹細胞由来NK細胞;(ix)CD45+Vα24Jα18+CD3+である、万能性幹細胞由来NKT細胞;並びに、(x)CD45+CD19+である、万能性幹細胞由来B細胞。
【0039】
本発明のさらに別の態様は、本明細書で開示される方法を用いて作製される1または複数の細胞株、またはクローン細胞を提供するものである:(i)多能性前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、およびNKT細胞への分化能を有し、且つ、CD34+CD43-である、万能性幹細胞由来CD34+運命確定造血内皮(iCD34);(ii)CD34+であり、且つ、CD43-、CD93-、CXCR4-、CD73-、およびCXCR4-CD73-のうちの少なくとも1つである、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮(iHE);(iii)CD34+CD45+である、万能性幹細胞由来運命確定HSC;(iv)CD34+CD45+である、万能性幹細胞由来造血性多能性前駆細胞(iMPP);(v)CD34+CD45+CD7+またはCD34-CD45+CD7+である、万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞;(vi)CD45+CD3+CD4+またはCD45+CD3+CD8+である、T細胞;(vii)CD45+CD56+CD7+である、万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞;(viii)CD3-CD45+CD56+であり、且つ、所望によりNKp46+、CD57+、およびCD16+をさらなる特徴とする、万能性幹細胞由来NK細胞;(ix)CD45+Vα24Jα18+CD3+である、万能性幹細胞由来NKT細胞;並びに、(x)CD45+CD19+である、万能性幹細胞由来B細胞。
【0040】
本発明の別の態様は、開示の方法を用いて作製される細胞集団、細胞株またはクローン細胞のうちの1または複数を用いて、造血系の自己複製、再構成および生着を促進する方法を提供するものである:(i)多能性前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、およびNKT細胞への分化能を有し、且つ、CD34+CD43-である、万能性幹細胞由来CD34+運命確定造血内皮(iCD34);(ii)CD34+であり、且つ、CD43-、CD93-、CXCR4-、CD73-、およびCXCR4-CD73-のうちの少なくとも1つである、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮(iHE);(iii)CD34+CD45+である、万能性幹細胞由来運命確定HSC;(iv)CD34+CD45+である、万能性幹細胞由来造血性多能性前駆細胞;(v)CD34+CD45+CD7+またはCD34-CD45+CD7+である、万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞;(vi)CD45+CD3+CD4+またはCD45+CD3+CD8+である、T細胞;(vii)CD45+CD56+CD7+である、万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞;(viii)CD3-CD45+CD56+であり、且つ、所望によりNKp46+、CD57+、およびCD16+をさらなる特徴とする、万能性幹細胞由来NK細胞;(ix)CD45+Vα24Jα18+CD3+である、万能性幹細胞由来NKT細胞;並びに、(x)CD45+CD19+である、万能性幹細胞由来B細胞。
【0041】
本発明のさらなる態様は、増強された治療特性を有する造血系細胞を作製する方法を提供するものであり、前記方法は、1または複数の遺伝的インプリントを含むiPSCを得ること;および、iPSCを造血系細胞に分化誘導すること、を含む。前記分化誘導段階は、(i)前記万能性幹細胞を、BMP経路活性化剤、および所望によりbFGFを含む組成物と接触させることで、中胚葉細胞を得ること;並びに、(ii)前記中胚葉細胞を、BMP経路活性化剤、bFGF、およびWNT経路活性化剤を含む組成物と接触させることで、造血系細胞を与えることが可能な、運命確定造血内皮(HE)分化能を有する中胚葉細胞を得ること、をさらに含む。好ましくは、前記中胚葉細胞および運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞は、段階(i)および段階(ii)において胚様体形成段階無しで得られ、得られた造血系細胞は、運命確定造血内皮細胞、造血幹細胞・前駆細胞(HSC)、造血性多能性前駆細胞(MPP)、プレT細胞前駆細胞、プレNK細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、またはB細胞を含む。さらに、前記造血系細胞は、分化誘導ための前記iPSCに含まれていた前記遺伝的インプリントを保持している。
【0042】
いくつかの実施形態では、上記方法の分化誘導段階は、(i)前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞を、bFGFおよびROCK阻害剤を含む組成物と接触させることで、運命確定HE細胞を得ること;(ii)前記運命確定HE細胞を、BMP活性化剤、および所望によりROCK阻害剤、並びにTPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3LおよびIL11からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカインを含む組成物と接触させることで、造血性多能性前駆細胞(MPP)を得ること;(iii)前記運命確定HE細胞を、SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、TPO、VEGFおよびbFGFのうちの1もしくは複数を含む組成物と接触させることで、プレT細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、および/もしくはT細胞を得ること;または、(iv)前記運命確定HE細胞を、SCF、Flt3L、TPO、IL7およびIL15からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカイン、並びに所望により、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、VEGFおよびbFGFのうちの1もしくは複数を含む組成物と接触させることで、プレNK細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、および/もしくはNK細胞を得ること、をさらに含む。
【0043】
1または複数の遺伝的インプリントを含むiPSCを得るための1つのアプローチは、1または複数の遺伝子改変されたモダリティを含み、且つ、前記iPSCのゲノムにおけるゲノム内挿入、ゲノム内欠失またはゲノム内置換を通じて導入される、1または複数の遺伝的インプリントを、非万能性細胞からiPSCへの再プログラム化の間もしくは後の遺伝子編集によってiPSCに導入すること、であり得る。別のアプローチは、(i)ドナー特異的、疾患特異的、または治療応答特異的であり、且つ、保持可能な治療特性を示す、供給源特異的免疫細胞を得ることによって、1または複数の遺伝的インプリントをiPSCに導入すること;(ii)前記供給源特異的免疫細胞をiPSCに再プログラム化すること;並びに所望により、(iii)前記供給源特異的免疫細胞のiPSCへの再プログラム化の間または後の遺伝子編集によって、追加の遺伝的インプリントを段階(ii)のiPSCに導入すること、であり得る。前記供給源細胞、iPSCおよびまたはiPSC由来細胞に含まれる前記遺伝子改変されたモダリティに関して、それらは、セーフティ・スイッチタンパク質、標的化モダリティ、受容体、シグナル伝達分子、転写因子、薬剤的に活性なタンパク質およびペプチド、薬物標的候補;または、iPSCもしくはその派生細胞の生着、輸送、ホーミング、生存度、自己複製、残留性、免疫応答の制御および調節、並びに/もしくは生存を促進するタンパク質のうちの1または複数を含み得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、前記遺伝子改変されたモダリティは、(i)B2M、TAP1、TAP2、タパシン、NLRC5、PD1、LAG3、TIM3、RFXANK、CITTA、RFX5、またはRFXAPの発現の欠失または減少;(ii)HLA-E、HLA-G、HACD16、41BBL、CD3、CD4、CD8、CD47、CD137、CD80、PDL1、A2AR、CAR、TCR、または二重特異性もしくは多重特異性エンゲージャーに対する表面上誘発受容体の発現の導入または増加のうちの1または複数を含む。いくつかの実施形態では、上記の遺伝子改変されたモダリティは、万能性幹細胞由来の運命確定HE細胞、造血性多能性前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、およびB細胞のうちの1または複数において保持される。いくつかの実施形態では、前記二重特異性または多重特異性エンゲージャーは、1または複数のリンパ系細胞表面受容体に対して特異的であり、且つ、腫瘍細胞の表面上の1または複数の腫瘍特異的抗原に対して特異的である。特定の実施形態では、前記表面上誘発受容体は、T細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、および好中球を含む造血系細胞において普遍的である。ある特定の実施形態では、前記普遍的表面上誘発受容体が抗エピトープおよび共刺激ドメインを含み、前記抗エピトープが前記二重特異性または多重特異性エンゲージャーに特異的である。いくつかの実施形態では、前記共刺激ドメインはIL2を含む。いくつかの実施形態では、前記リンパ系細胞表面受容体は、表面に発現している改変されたモダリティ、CD3、CD16、CD64、およびCD89のうちの1または複数を含み;一方、前記腫瘍特異的抗原は、CD19、CD20、CD30、EGFR、HER2/ERBB2/neu、EPCAM、EphA2およびCEAのうちの1または複数を含む。いくつかの実施形態では、前記供給源特異的免疫細胞の治療特性は、(i)抗原標的受容体の発現;(ii)HLAの提示またはその欠如;(iii)腫瘍内微小環境に対する耐性;(iv)傍観者免疫細胞および免疫調節の誘導;(iv)腫瘍外効果の減少に伴う、対標的特異性の向上;(v)化学療法等の治療に対する耐性;並びに(vi)ホーミング、残留性、および細胞毒性の向上、のうちの1または複数を含む。
【0045】
本発明のさらに別の態様は、増強された治療特性を有し、且つ、派生前の万能性幹細胞に含まれていた同一の遺伝的インプリントを含む、造血系細胞を提供する。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞の遺伝的インプリントは、(i)非万能性細胞からiPSCへの再プログラム化の間もしくは後の、万能性細胞のゲノムにおける、ゲノム内の挿入、欠失もしくは置換を通じて得られる、1もしくは複数の遺伝子改変されたモダリティ;または、(ii)ドナー特異的、疾患特異的、もしくは治療応答特異的である供給源特異的免疫細胞の1もしくは複数の保持可能な治療特性を含み、前記万能性細胞は前記供給源特異的免疫細胞から再プログラム化されたものである。いくつかの実施形態では、前記遺伝子改変されたモダリティは、以下のうちの一つまたは複数を含む:セーフティ・スイッチタンパク質、標的化モダリティ、受容体、シグナル伝達分子、転写因子、薬剤的に活性なタンパク質およびペプチド、薬物標的候補;または、iPSCもしくはその派生細胞の生着、輸送、ホーミング、生存度、自己複製、残留性、免疫応答の制御および調節、並びに/もしくは生存を促進するタンパク質。
【0046】
いくつかの実施形態では、前記遺伝子改変されたモダリティは、(i)B2M、TAP1、TAP2、タパシン、NLRC5、PD1、LAG3、TIM3、RFXANK、CITTA、RFX5、またはRFXAPの発現の欠失または減少;(ii)HLA-E、HLA-G、HACD16、41BBL、CD3、CD4、CD8、CD47、CD137、CD80、PDL1、A2AR、CAR、TCR、または二重特異性もしくは多重特異性エンゲージャーに対する表面上誘発受容体の発現の導入または増加、のうちの1または複数を含む。特定の実施形態では、前記表面上誘発受容体は、T細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、および好中球を含む造血系細胞において普遍的である。ある特定の実施形態では、前記普遍的表面上誘発受容体が抗エピトープおよび共刺激ドメインを含み、前記抗エピトープが前記二重特異性または多重特異性エンゲージャーに特異的である。いくつかの実施形態では、前記共刺激ドメインはIL2を含む。さらにいくつかの実施形態では、前記造血系細胞は、以下のうちの一つまたは複数に関連する供給源特異的免疫細胞の治療特性を含む:(i)抗原標的受容体の発現;(ii)HLAの提示またはその欠如;(iii)腫瘍内微小環境に対する耐性;(iv)傍観者免疫細胞および免疫調節の誘導;(iv)腫瘍外効果の減少に伴う、対標的特異性の向上;(v)化学療法等の治療に対する耐性;並びに(vi)ホーミング、残留性、および細胞毒性の向上。
【0047】
特定の実施形態では、前記二重特異性または多重特異性エンゲージャーは、前記普遍的表面上誘発受容体に対して特異的であり、且つ、腫瘍細胞の表面上の1または複数の腫瘍特異的抗原に対して特異的である。いくつかの実施形態では、前記腫瘍特異的抗原は、CD19、CD20、CD30、EGFR、HER2/ERBB2/neu、EPCAM、EphA2およびCEAのうちの1または複数を含む。特定の実施形態では、前記供給源特異的免疫細胞の治療特性は、(i)抗原標的受容体の発現;(ii)HLAの提示またはその欠如;(iii)腫瘍内微小環境に対する耐性;(iv)傍観者免疫細胞および免疫調節の誘導;(iv)腫瘍外効果の減少に伴う、対標的特異性の向上;(v)化学療法等の治療に対する耐性;並びに(vi)ホーミング、残留性、および細胞毒性の向上、のうちの1または複数を含む。
【0048】
特定の実施形態は、万能性幹細胞をMEK阻害剤、GSK3阻害剤、およびROCK阻害剤を含む組成物と接触させることで、播種および増殖させた後に、1または複数の遺伝的インプリントをiPSCに導入することを含む。
【0049】
特定の実施形態では、前記表面上誘発受容体は、T細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、および好中球を含む造血系細胞において普遍的である。ある特定の実施形態では、普遍的表面上誘発受容体は抗エピトープおよび共刺激ドメインを含み、前記抗エピトープは前記二重特異性または多重特異性エンゲージャーに特異的である。
【0050】
いくつかの実施形態では、共刺激ドメインはIL2を含む。
【0051】
特定の実施形態では、二重特異性または多重特異性エンゲージャーは腫瘍細胞の表面上の1または複数の腫瘍特異的抗原に対して特異的である。
【0052】
いくつかの実施形態では、前記造血系細胞は、運命確定造血内皮細胞、造血幹細胞・前駆細胞(HSC)、造血性多能性前駆細胞(MPP)、プレT細胞前駆細胞、プレNK細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、B細胞、マクロファージ、または好中球を含む。いくつかの実施形態では、前記T細胞は制御性T細胞(Treg)、セントラルメモリーT細胞(Tcm)、幹細胞メモリーT細胞(Tscm)、および/またはエフェクターメモリーT細胞(Tem)を含む。特定の実施形態では、NK細胞は獲得NK細胞を含む。
【0053】
特定の実施形態では、造血系細胞は、表面受容体に対する1または複数の二重特異性または多重特異性エンゲージャーを含む。いくつかの実施形態では、二重特異性または多重特異性エンゲージャーは、a)造血系細胞型特異的であり、且つ、CD3、CD16、CD64、もしくはCD89を含む表面受容体に対して特異的である;または、b)普遍的表面上誘発受容体を含む造血系細胞型に非依存的であり、且つ、前記普遍的表面上誘発受容体に対して特異的である。
【0054】
特定の態様は、誘導万能性幹細胞(iPSC)分化から生じた治療上十分な数のT細胞前駆細胞を投与することを含む、細胞治療を必要としている対象を治療する方法に関する。いくつかの実施形態では、前記対象は、(i)骨髄移植もしくは幹細胞移植の候補であるか、化学療法もしくは放射線療法を受けたことがある;(ii)骨髄破壊的もしくは骨髄非破壊的(non-myeolablative)な化学療法もしくは放射線療法を受けたことがある;(iii)造血系の過剰増殖性疾患もしくはがんを有する;(iv)固形腫瘍を有する;または、(v)ウイルス感染もしくはウイルス感染と関連した疾患を有し;インビボにおいて、前記投与されたT細胞前駆細胞は胸腺を活性化させてT細胞を再構成する。いくつかの実施形態では、細胞治療を必要としている対象を治療する前記方法は、a)エフェクター細胞型に対して特異的であり、且つ、CD3、CD16、CD64、もしくはCD89を含む表面受容体に対して特異的である;または、b)エフェクター細胞型に対して非依存的であり、且つ、前記T前駆細胞およびそれから派生したT細胞に含まれる普遍的表面上誘発受容体に対して特異的である、二重特異性または多重特異性エンゲージャーを含む医薬組成物を投与することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記供給源特異的免疫細胞からの遺伝的インプリントは、(i)抗原標的受容体の発現;(ii)HLAの提示またはその欠如;(iii)腫瘍内微小環境に対する耐性;(iv)傍観者免疫細胞および免疫調節の誘導;(iv)腫瘍外効果の減少に伴う、対標的特異性の向上;(v)化学療法等の治療に対する耐性;並びに(vi)ホーミング、残留性、および細胞毒性の向上、のうちの1または複数を含む。
【0055】
また、薬剤的に許容できる培地、および本明細書に記載の方法を用いて作製された増強された治療特性を有する造血系細胞のうちの1または複数、を含む医薬組成物も提供される。これらの、増強された治療特性を有する造血系細胞としては、運命確定造血内皮細胞、造血幹細胞・前駆細胞(HSC)、造血性多能性前駆細胞(MPP)、プレT細胞前駆細胞、プレNK細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、またはB細胞が含まれる。いくつかの実施形態では、前記T細胞は制御性T細胞(Treg)、セントラルメモリーT細胞(Tcm)、幹細胞メモリーT細胞(Tscm)、および/またはエフェクターメモリーT細胞(Tem)を含む。いくつかの実施形態では、前記NK細胞は獲得NK細胞を含む。さらに、自己免疫障害;造血器腫瘍;固形腫瘍;がん;またはHIV、RSV、EBV、CMV、アデノウイルス、もしくはBKポリオーマウイルスと関連した感染症を有する、養子細胞療法に適した対象に組成物を導入することによる、上記医薬組成物の治療用途が提供される。
【0056】
本発明の別の態様は、以下から選択される少なくとも1つのマーカーに対して特異的な1または複数の抗体を含む抗体組成物を提供し:CCR10、CD164、CD95、CD144、CD166、リンフォトキシンβ受容体、CD252、CD55、CD40、CD46、CD340、CD119、CD106、CD66a/c/e、CD49d、CD45RB、DLL4、CD107a、CD116、CD324、CD123、CD49f、CD200、CD71、CD172a、CD21、CD184、CD263、CD221、Notch4、MSC、CD97、CD319、CD69、CD338、ポドプラニン、CD111、CD304、CD326、CD257、CD100、CD32、CD253、CD79b、CD33、CD83、GARP、CD183、CD357、CD31、CD165、CD102、CD146、CD49c、CD13、CD58、インテグリンα9β1、CD51、CD10、CD202b、CD141、CD49a、CD9、CD201、CD47、CD262、CD109、CD39、CD317、CD143、インテグリンβ5、CD105、CD155、SSEA-4およびCD93;前記マーカーは運命確定造血内皮を同定するためのものである。一実施形態では、前記抗体組成物は、CD93に対して特異的な抗体を含み;CD93に対して特異的な前記抗体と結合した細胞は、CD34+表現型、CD43-表現型、CD73-表現型、CXCR4-表現型、およびCD73-CXCR4-表現型のうちの1または複数を有する。
【0057】
本発明のさらに別の態様は、万能性幹細胞の分化において運命確定造血内皮を特定する方法を提供し、前記方法は、(i)分化中である細胞集団を得ること;(ii)前記細胞集団にCD93特異的抗体を導入すること;および(iii)CD93発現レベルが1%未満である細胞集団を特定すること、を含む。いくつかの実施形態では、前記分化中である細胞集団は、CD34+細胞またはCD34+CD43-細胞を含む。いくつかの実施形態では、前記方法は、前記分化中の細胞集団からCD34+細胞を単離すること;または、前記分化中の細胞集団からCD34+CD43-細胞を単離すること、をさらに含む。
【0058】
さらに、運命確定造血内皮(HE)分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞を、Wnt経路アゴニストを含む培地中で培養することで、運命確定HE細胞を得ること、を含む、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮を作製する方法が提供される。Wnt経路活性化剤の存在下で運命確定HEを得ることによって、Wnt経路活性化剤無しでの培養と比較して、細胞集団中のHEの数および割合が増加し;HE分化能が向上し;且つ/または、HE細胞性が向上する。いくつかの実施形態では、前記培地は、ROCK阻害剤、並びにbFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCは1または複数の上記遺伝的インプリントを含み、前記遺伝的インプリントは前記万能性幹細胞に由来する運命確定HEにおいて保持される。
【0059】
本発明の特定の態様は、本明細書に記載の方法によって作製される、抗原特異的なiPSCまたは派生造血系細胞を対象とする。本発明のある特定の態様は、本明細書に記載の方法によって作製される抗原特異的なiPSCまたは派生造血系細胞を含む組成物に関する。本発明のいくつかの態様は、本明細書に記載の方法によって作製される抗原特異的なiPSCまたは派生造血系細胞および薬剤的に許容できる培地を含む医薬組成物に関する。
【0060】
また、抗原特異的な誘導万能性幹細胞(iPSC)および派生造血系細胞を作製する方法が本明細書で提供され、前記方法は、(i)ドナー特異的、疾患特異的、または治療応答特異的である選択された供給源から初代抗原特異的T細胞を単離すること;(ii)前記初代抗原特異的T細胞を再プログラム化して万能性幹細胞を得ること;および、(iii)前記万能性幹細胞を造血系細胞に分化誘導すること、を含む。いくつかの実施形態では、前記分化誘導段階は、(i)前記万能性幹細胞を、BMP経路活性化剤、および所望によりbFGFを含む組成物と接触させることで、中胚葉細胞を得ること;並びに(ii)前記中胚葉細胞を、BMP経路活性化剤、bFGF、およびWNT経路活性化剤を含む組成物と接触させることで、胚様体の形成無しに、運命確定造血内皮(HE)への分化能を有する中胚葉細胞を得ること、を含む。いくつかの実施形態では、前記単離された初代抗原特異的T細胞は、(i)初代抗原特異的T細胞を、目的の抗原を発現する目的の抗原を発現する腫瘍細胞、非形質転換細胞、樹状細胞、胸腺上皮細胞、内皮細胞または人工抗原提示細胞、血漿内の粒子もしくはペプチドと共培養すること;または、目的の抗原に特異的なT細胞受容体特異的結合剤を用いて、前記初代抗原特異的T細胞を選別すること、によって濃縮される。いくつかの実施形態では、前記初代抗原特異的T細胞または濃縮された初代抗原特異的T細胞を、転写因子または小分子を用いて調節することで、前記細胞を若返らせることができる。
【0061】
本発明の特定の態様は、本明細書に記載の方法によって作製される、抗原特異的なiPSCまたは派生造血系細胞を対象とする。本発明のある特定の態様は、本明細書に記載の方法によって作製される抗原特異的なiPSCまたは派生造血系細胞を含む組成物に関する。本発明のいくつかの態様は、本明細書に記載の方法によって作製される抗原特異的なiPSCまたは派生造血系細胞および薬剤的に許容できる培地を含む医薬組成物に関する。
【0062】
いくつかの実施形態では、上記方法より得られた前記抗原特異的な万能性幹細胞は、ゲノム内挿入、ゲノム内欠失またはゲノム内置換を介した1または複数の遺伝子改変されたモダリティを含む遺伝的インプリントを含むように再プログラム化される間またはされた後にさらに遺伝子改変され得る。いくつかの実施形態では、前記遺伝子改変されたモダリティは、セーフティ・スイッチタンパク質、標的化モダリティ、受容体、シグナル伝達分子、転写因子、薬剤的に活性なタンパク質およびペプチド、薬物標的候補;第二もしくは第三の抗原特異性を伝達する細胞表面タンパク質;または、iPSCもしくはその派生細胞の生着、輸送、ホーミング、生存度、自己複製、残留性、免疫応答の制御および調節、並びに/もしくは生存を促進するタンパク質のうちの1または複数を含む。いくつかの実施形態では、前記遺伝子改変されたモダリティは、(i)B2M、TAP1、TAP2、タパシン、NLRC5、PD1、LAG3、TIM3、RFXANK、CITTA、RFX5、またはRFXAPの発現の欠失または減少;(ii)HLA-E、HLA-G、HACD16、41BBL、CD3、CD4、CD8、CD47、CD137、CD80、PDL1、A2AR、CAR、TCR、または二重特異性もしくは多重特異性エンゲージャーに対する表面上誘発受容体の発現の導入または増加、のうちの1または複数を含む。いくつかの実施形態では、前記二重特異性または多重特異性エンゲージャーは造血系細胞型特異的であり、且つ、CD3、CD16、CD64、またはCD89から選択される表面受容体に対して特異的である。いくつかの実施形態では、前記表面上誘発受容体は、T細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、および好中球を含む造血系細胞において普遍的である。いくつかの実施形態では、前記二重特異性または多重特異性エンゲージャーは、造血系細胞型に非依存的であり、且つ、適合する普遍的表面上誘発受容体を含む造血系細胞と結合可能である。いくつかの実施形態では、前記普遍的表面上誘発受容体は抗エピトープおよび共刺激ドメインを含み、前記抗エピトープは前記二重特異性または多重特異性エンゲージャーに含まれるエピトープに対して特異的である。いくつかの実施形態では、前記普遍的表面上誘発受容体の共刺激ドメインは、標準(conotical)もしくは非標準(non-conotical)の細胞活性化および/またはエフェクター細胞機能の増強のために、IL2の全体または一部を含む。いくつかの実施形態では、前記二重特異性または多重特異性の普遍的エンゲージャーは腫瘍細胞の表面上の1または複数の腫瘍特異的抗原に対して特異的である。いくつかの実施形態では、前記腫瘍特異的抗原は、CD19、CD20、CD30、EGFR、HER2/ERBB2/neu、EPCAM、EphA2およびCEAのうちの1または複数を含む。いくつかの実施形態では、前記二重特異性または多重特異性エンゲージャーは、前記普遍的表面上誘発受容体に対して特異的であり、且つ、腫瘍細胞の表面上の1または複数の腫瘍特異的抗原に対して特異的である。
【0063】
いくつかの実施形態では、前記抗原特異的iPSC由来造血系細胞は、運命確定造血内皮細胞(HE)、造血幹細胞・前駆細胞(HSC)、造血性多能性前駆細胞(MPP)、プレT細胞前駆細胞、プレNK細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、B細胞、マクロファージ、または好中球を含む。
【0064】
本発明のさらなる態様は、誘導万能性幹細胞およびその派生細胞のクローン性を決定するための方法を提供する。前記通常法は、成熟した供給源T細胞またはB細胞を再プログラム化して誘導万能性幹細胞(iPSC)を得ること;および、前記iPSCを得るための前記成熟したT細胞またはB細胞に含まれていたものと同一の、特定のV(D)J遺伝子再構成の存在を、前記iPSCまたはそれに由来する造血系細胞において検出すること、を含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、前記成熟した供給源T細胞またはB細胞のものと同一のV(D)J遺伝子再構成を含むiPSCまたは造血系細胞を単離すること、をさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、前記供給源細胞の再プログラム化の前に、再プログラム化のための成熟した供給源T細胞またはB細胞を得ること;および、前記成熟した供給源T細胞またはB細胞に対して特異的な免疫グロブリン(Ig)またはT細胞受容体(TCR)に含まれるV(D)J遺伝子再構成を決定すること、を含む。
【0065】
本発明のまたさらに別の態様は、細胞治療においてインビボで養子細胞を追跡する方法を提供し、前記方法は、治療のために養子細胞を与えられている対象から血液、組織、または腫瘍の生検試料を得ること、前記試料中のエフェクター細胞を単離すること;並びに、前記エフェクター細胞のV(D)J遺伝子再構成を決定すること、を含み;前記養子細胞は成熟した供給源T細胞またはB細胞から再プログラム化された万能性幹細胞に由来し;前記成熟した供給源T細胞またはB細胞は特定のV(D)J遺伝子再構成を含み;前記成熟した供給源T細胞またはB細胞のもとの同一のV(D)J遺伝子再構成の存在によって、養子細胞のホーミング、残留性および/または増殖が示される。
【0066】
また、薬剤的に許容できる培地、並びに、上記方法を用いて作製される前記抗原特異的な造血系細胞のうちの1または複数を含む医薬組成物が提供され、前記抗原特異的な造血系細胞には、運命確定造血内皮細胞、造血幹細胞・前駆細胞(HSC)、造血性多能性前駆細胞(MPP)、プレT細胞前駆細胞、プレNK細胞前駆細胞、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、またはB細胞が含まれる。いくつかの実施形態では、前記T細胞は制御性T細胞(Treg)、セントラルメモリーT細胞(Tcm)、幹細胞メモリーT細胞(Tscm)、および/またはエフェクターメモリーT細胞(Tem)を含む。いくつかの実施形態では、前記NK細胞は獲得NK細胞を含む。さらに、自己免疫障害;造血器腫瘍;固形腫瘍;がん;またはHIV、RSV、EBV、CMV、アデノウイルス、もしくはBKポリオーマウイルスと関連した感染症を有する、養子細胞療法に適した対象に組成物を導入することによる、上記医薬組成物の治療用途が提供される。
【0067】
要約すると、本発明は、万能性幹細胞からの胚様体形成無しの単層における万能性幹細胞の直接的分化を可能にし、それにより、中胚葉細胞、運命確定HE、および運命確定HSCの分化および増殖を達成し、それから、拡張可能な信頼できる様式で、非常に高水準の効率で、他の造血系細胞を得ることができる、方法および組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】
図1は、誘導万能性幹細胞(iPSC)の運命確定造血内皮(iHE)および多能性前駆細胞(iMPP)への造血分化のための、多段階培養プロセスの模式図を示している。なお、培養液はビトロネクチンがMatrigel(商標)に置換された、完全に定義されたものに変換することができる。
【0069】
【
図2】
図2は、誘導万能性幹細胞のT細胞前駆細胞(ipro-T)および完全分化型T(iT)細胞への造血分化のための、多段階培養プロセスの模式図を示している。なお、培養液はビトロネクチンがMatrigel(商標)に置換された、完全に定義されたものに変換することができる。
【0070】
【
図3】
図3は、誘導万能性幹細胞のNK細胞前駆細胞(ipro-NK)および完全分化型NK(iNK)細胞への造血分化のための、多段階培養プロセスの模式図を示している。なお、培養液はビトロネクチンがMatrigel(商標)に置換された、完全に定義されたものに変換することができる。
【0071】
【
図4A】
図4A~
図4Cは、10日間に亘ってのiHEの出現を示すフローサイトメトリープロファイル、並びに、iPSC分化当たりのiCD34細胞およびiHE細胞の産出量を示している。計算は、代表的な培養物および最適化されていない培養物のスナップショットに基づいている。
【0072】
【
図5A】
図5A~
図5Dは、10日目のHEの産出量を向上させるための、播種密度および増殖因子のタイトレーションを含む、前記プロトコルへの修正を示している。A)0日目の播種密度は10日目のHE集団に影響する。B)2日目~6日目のBMP4の濃度は10日目のHE集団に影響する。C)3.75日目のCHIRの濃度は10日目のHE集団に影響する。D)6日目の播種密度は10日目のHE集団に影響する。
【0073】
【
図6A】
図6A~
図6Bは、10日目のHEが、多分化能を有し且つNotchシグナル経路に依存的な、二次造血を表すことを示している。A)新生CD45造血細胞のフローサイトメトリープロファイルを付随した、7日間に亘るMPPアッセイにおける形態変化。B)iPSC由来CD34+細胞はiMPPアッセイ中にNotch依存性運命確定CD45+細胞を生じる。
【0074】
【
図7A】
図7A~
図7Bは、iHEおよびiMPP造血前駆細胞の発生に対する、低酸素条件下での分化の影響を示している。A)低酸素下での単層分化は、10日目のiCD34陽性細胞およびiHE細胞の両方の割合を増加させる。B)低酸素条件下で生じた10日目iCD34+HE細胞はiMPPアッセイでさらに分化が可能である。
【0075】
【
図8-1】
図8A~
図8Dは、選別された10日目iCD34細胞の、凍結保存能、並びに、全造血系・リンパ系への分化能を維持する能力を示している。A)凍結保存された10日目iCD34細胞は、解凍の際、生存し、新鮮なiCD34+細胞に類似した表現型を示すことができる。B)凍結保存された10日目の選別CD34+細胞の解凍直後の生存度。C)凍結保存された10日目の選別iCD34+細胞は、iMPPアッセイ中に生存してCD45+造血細胞を生じることができる。D)凍結保存された10日目の選別iCD34+細胞は、生存してiTおよびiNKリンパ球前駆細胞を生じることができる。
【0076】
【
図9A】
図9A~
図9Bは、10日目の分化培養物を、HE分化能を失わせずに、周囲温度で、一晩かけて出荷することが可能であることを示している。A)7日目の培養物を、恒温器内で維持するか(対照)、または、一晩かけた出荷用に加工して恒温器内に再導入し、追加で2日間置いた。10日目の両方の培養物を、次に、iCD34細胞およびiHE細胞の存在について解析した。一晩出荷培養物において、T型フラスコは、30%の培養液+70%の基本培地(base)、または100%の培養液を含んだ。B)細胞数の算出。
【0077】
【
図10-1】
図10A~
図10Cは、CD45+CD56-ゲーティング戦略を利用したhiPSCから派生した、初期CD34+CD7+T細胞前駆細胞および成熟型CD4+およびCD8+T細胞サブセットを示している。A)初期T細胞系譜マーカーはCD34+/CD7+によって定義されるipro-T細胞の存在を標識する。B)成熟T細胞マーカーはCD4+またはCD8+細胞によって定義される成熟T細胞の存在を標識する。C)臍帯血由来CD34陽性細胞とiCD34陽性細胞との、ipro-T細胞を生じる分化能が比較される、5日間のT細胞分化。
【0078】
【
図11A】
図11A~
図11Cは、CD45+ゲーティング戦略を利用したhiPSCから派生した、初期CD56+CD7+CD161+NK細胞前駆細胞および成熟CD56+CD16+CD8+NK細胞サブセットを示している。A)初期NK系譜マーカーはCD7およびCD56によって定義されるipro-NK細胞の存在を標識する。B)成熟NK系譜マーカーはCD57、CD16、CD94およびCD56によって定義される成熟NK細胞の存在を標識する。C)臍帯血由来CD34陽性細胞とiCD34陽性細胞との、ipro-NK細胞を生じる分化能が比較される、5日間のNK細胞分化。
【0079】
【
図12A】
図12A~
図12Cは、単層hiPSC造血分化プラットフォームが、EB形成中に見られない、拡張可能な増殖戦略を可能にすることを示している。A. hiPSCを凝集して、胚様体を形成させ、14日間分化させた後、CD34およびCD43の発現について解析した。B. hiPSCを単層に播種し、8日間分化させた後、CD34、CD43、CXCR4およびCD73について解析した。C. 単層造血分化およびEBを介した造血分化の両方について、経時的にCD34陽性細胞を計数してプロットした。
【0080】
【
図13】
図13は、オフザシェルフのiNK細胞およびiT細胞の生産のための、単層hiPSC造血分化プラットフォームの拡張可能な増殖戦略の模式図を例示している。計算は、代表的な培養物および最適化されていない培養物(not optimized culture)のスナップショットに基づいている。
【0081】
【
図14】
図14は、hiPSC由来CD34陽性細胞が、CD3+T細胞生存の抑制により、免疫制御特性を有することを示している。
【0082】
【
図15】
図15は、CD45+CD56-ゲーティング戦略を用いた、HE単離から30日後のhiPSCに由来する、成熟CD4+およびCD8+T細胞サブセットを示している。
【0083】
【
図16】
図16は、フィーダーベースの浮遊培養がiCD34由来NK細胞の成熟を支持することを示している。
【0084】
【
図17】
図17は、iCD34由来iNKが、末梢血NK細胞と同様に、サイトカイン刺激に応答して、炎症誘発性サイトカインを分泌し得ることを示している。
【0085】
【
図18】
図18は、臍帯血CD34陽性細胞由来のpro-NK細胞の無間質分化が、CD45+ゲーティング戦略を用いる従来の間質ベースの分化プラットフォームよりも迅速であることを示している。
【0086】
【
図19】NK細胞に向けたiPSC由来iCD34+細胞の無間質分化。プレートに結合したDLL4は、CD56+CD7+CD161+NK細胞前駆細胞の分化を支持するが、CD11b+骨髄性細胞の分化は支持しない。
【0087】
【
図20】
図20は、T細胞に向けたUCB CD34+細胞の無間質分化を示している。
【0088】
【
図21】
図21は、T細胞に向けたiPSC由来iCD34+細胞の無間質分化を示している。
【0089】
【
図22】
図22は、hiPSC由来iCD34+細胞の再構成および生着を示している。
【0090】
【
図23】
図23A~
図23Bは、iPSC由来NK細胞が、細胞刺激に応答して炎症誘発性サイトカインを分泌し、末梢血NK細胞および臍帯血NK細胞と同等の細胞傷害機能を有することを示している。A. iPSC由来NK細胞(iNK)または末梢血由来NK細胞(pbNK)を、非刺激(US)または1:1比のフィーダー細胞による刺激に4時間曝し、その後収集し、CD45、CD56、およびTNF-αについて染色し、フローサイトメトリーで解析した。B. 1:1、3:1および10:1のエフェクター細胞対標的細胞比の、iNK細胞または臍帯血由来(CBNK)細胞の細胞傷害機能を、2時間毎に90時間評価した。
【0091】
【
図24】
図24は、FTV106を形質導入されたT細胞由来のiPSCにおけるCAR(FTV106)組込みのPCR分析によって、CAR-T細胞の、供給源T細胞の同じ遺伝的インプリントを保持するiPSC(TiPSC)への再プログラム化を示している。
【0092】
【
図25】
図25は、CD34+CD43-ゲーティング戦略を用いたhiPSC由来CD34+細胞の細胞表面抗体スクリーニング、およびhiPSC由来CD34+抗体スクリーニングのワークフローを示しており、3つの別個の分類の代表的な結果が示されている。クラスIマーカーには、hiPSC由来CD34+細胞上で1%未満の発現である細胞表面タンパク質が含まれる。クラスIIマーカーには、CD34+細胞上で1%~99%の発現である細胞表面タンパク質が含まれる。クラスIIIマーカーには、CD34+細胞上で99%超の発現である細胞表面タンパク質が含まれる。
【0093】
【
図26-1】
図26は、hiPSC由来CD34+細胞上の細胞表面タンパク質発現の解析に用いられた抗ヒト抗体を示している。
【0094】
【
図27】
図27は、CD34+集団内のCD93マーカーの発現;並びに、CD34+細胞のCD34+CD93-画分およびCD34+CD93+画分におけるCXCR4およびCD73の発現を示している。
【0095】
【
図28】
図28A~
図28Bは、CD34+集団の運命確定造血分化能がCD93-画分に濃縮されることを示している。A. CD34+CD93-集団からの10日間のiNK細胞分化の後、CD45+造血細胞およびCD45+CD7+リンパ球前駆細胞の絶対数を評価した。B. さらに10日間のiNK分化の後、CD56マーカーおよびNKp30マーカーの発現によって、iNK細胞の存在について培養物を評価した。
【0096】
【
図29】
図29A~
図29Bは、WNTシグナル伝達の調節がiCD34細胞の産出量を向上させることを示している。A. 6日目の細胞培養物をGSK3阻害剤CHIR99021、Wntアゴニスト、またはWNT阻害剤IWP2の存在下で分化させた。B. CHIR99021はCD34+CD43-CD93-HE表現型の数および割合を増加させた。
【0097】
【
図30】
図30A~
図30Bは、WNTシグナル伝達の調節がiCD34細胞からの全造血系・リンパ系の産出量を向上させることを示している。A. CHIR99021は調節されたHEからのCD45+細胞の産生を増加させた。B. CHIR99021は調節されたHEからのNK前駆細胞の産生を増加させた。
【0098】
【
図31】
図31は、iPSCにおけるB2-ミクログロブリン(B2M)の欠失が、HLAクラスI遺伝子の発現欠如をもたらしたことを示している。
【0099】
【
図32-1】
図32A~
図32Dは、HLAクラスIヌルiPSCが、iCD34HEに分化し、さらに、全ての造血系およびリンパ系の前駆細胞に分化できることを示している。A. B2M-/-iPSCおよび野生型iPSCを10日間分化させて、HEを発生させた。B. B2M-/-iPSCは、野生型対照と同様の頻度でCD34+HEに分化可能である。C. B2M-/-HEは、野生型HEと同様の効率でCD45+全造血前駆細胞を発生可能である。D. B2M-/-iPSC由来HE細胞は、野生型HEと同様の効率でiNK前駆細胞を発生可能である。
【0100】
【
図33】
図33は、B2M-/-iPSCから分化したCD34+CD43-HEがHLAクラスIヌルのままであることを示している。
【0101】
【
図34A】
図34A~
図34Bは、iPSC上のHLAクラスIの調節が免疫応答性レシピエントにおけるiPSCの残留性を増加させることを示している。A. 遺伝子導入されたHLA改変iPSCは、細胞表面上にHLA-Eを発現し、万能性表現型を維持している。B. インビボにおける、野生型iPSCと比較して増加した残留性を示すB2M-/-HLAE iPSCの注射後72時間の時点における奇形腫のルシフェリンイメージング。
【0102】
【
図35】
図35は、HLA-E発現が、B2M-/-HLA-E iPSC由来の10日目(CD34+CD43-HE細胞)分化細胞および17日目(CD45+全造血前駆細胞)分化細胞の両方で保持されていることを示している。
【0103】
【
図36-1】
図36A~
図36Cは、HLAクラスI調節iPSCが機能的なCD34+HEを発生可能であることを示している。A.は、B2M-/-HLA-E iPSCが野生型対照と同様の頻度でCD34+HEに分化可能であることを示している。B.は、B2M-/-HLA-E iPSCが野生型対照と同等の数でCD34+HEに分化可能であることを示している。C. B2M-/-HLA-E HEは、野生型HEと同様の効率でCD45+全造血前駆細胞を発生可能である。
【0104】
【
図37A】
図37A~
図37Bは、高親和性CD16受容体および41BBL共起刺激分子を発現するように遺伝子改変されたiPSCがiCD34細胞への分化の間ずっと発現を保持することを示している。A. 0日目の未分化細胞。B. 10日目の分化細胞。
【0105】
【
図38A】
図38A~
図38Bは、CD19キメラ抗原受容体(CAR)およびCARの共通識別子としての切断型LNGFR細胞表面マーカーを発現するように遺伝子改変されたiPSCが、iCD34細胞への分化を通じて発現を保持することを示している。A. 0日目の未分化細胞。B. 10日目の分化細胞。
【0106】
【
図39】
図39は、内在性TCRプロモーターによって駆動されるCARの細胞型特異的な発現、並びに、CARの遺伝子座特異的挿入によるTCRの発現および機能のノックアウトを示している。
【0107】
【
図40】
図40A~
図40Bは、がんおよび他の疾患を標的とするT細胞を、全エフェクターレパートリーとエンゲージするための、オフザシェルフ標的戦略を示している。A. 特異的な標的細胞を認識するエンゲージャーに結合可能な、各々の系譜特異的誘発分子を有する、iPSC由来造血エフェクター細胞の図示。B. 全ての派生造血細胞上で遍在性に発現される、普遍的エンゲージャー(特異的抗エピトープ結合を含む特異的且つ系譜非依存的な誘発分子)の改変の図示。
【0108】
【
図41】
図41は、HACD16受容体を発現するよう遺伝子改変されたiPSCが、20日目iNK細胞への分化を通じて、発現を保持することを示している。
【発明を実施するための形態】
【0109】
本発明は、全体として、運命確定造血細胞への予定運命に向けて幹細胞を分化させるための方法および組成物に関する。より具体的には、本発明は、様々な発生段階のiPSCまたはiPSC由来細胞が、運命確定造血内皮から、T細胞、B細胞、NKT細胞、およびNK細胞を包含する完全分化型造血細胞にまで及ぶ、運命確定造血系表現型をとるように誘導され得る、多段階分化用プラットフォームを提供する。すなわち、本発明は、細胞を、確定的な造血系予定運命(例えばCD34+運命確定造血幹細胞)によりなり易くさせるための、方法および組成物を提供する。あるいは、本発明の方法および組成物は、EBまたは凝集塊の形成を避けることにより、拡張可能な様式で、ナイーブ型iPSCから運命確定造血内皮(HE)を発生させる。
A.定義
【0110】
別に規定していない限り、本明細書で用いるすべての技術および科学用語は、この発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるものと同様の意味を有する。本発明のために、以下の用語を以下で規定する。冠詞“a”、“an”及び“the”は、本明細書では、冠詞の文法上の対象のうちの1つ又は複数(すなわち、少なくとも1つ)に言及するために用いる。例としては、“要素(ある要素)”は、1つの要素又は複数の要素を意味する。
【0111】
択一(例えば、「又は(or)」)の使用は、選択肢のうちの1つ、両方又は任意のそれらの組み合わせのうちのいずれかを意味するということを理解されたい。
【0112】
用語「及び/又は」は、選択肢のうちの1つ又は両方のいずれかを意味するということを理解されたい。
【0113】
本明細書で使用する場合、用語「約」又は「概ね」は、参照の数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重量又は長さと比べて15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%又は1%程度異なる、数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重量又は長さをいう。一実施形態では、用語「約」又は「概ね」は、参照の数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重量又は長さの前後±15%、±10%、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%又は±1%である、数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重量又は長さの範囲をいう。
【0114】
本明細書で使用する場合、用語「実質的に」又は「本質的に」は、参照の数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重量又は長さと比べて約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上である、数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重量又は長さをいう。一実施形態では、用語「本質的に同一」又は「実質的に同一」は、参照の数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重量又は長さとほぼ同一である、数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、大きさ、量、重量又は長さの範囲をいう。
【0115】
本明細書で使用される場合、用語「~を実質的に含まない」および用語「~を本質的に含まない」は同義的に使用され、細胞集団または培地等の組成物の記述に使用される場合、特定の物質もしくはその供給源を含まない、例えば、特定の物質もしくはその供給源の95%を含まない、96%を含まない、97%を含まない、98%を含まない、99%を含まない、または、常法で測定された場合に検出不能である、組成物を指す。また、組成物中にある特定の成分または物質「を含まない」または「を本質的に含まない」という用語は、係る成分または物質が、(1)いかなる濃度においても前記組成物中に含まれないこと、または、(2)機能的に不活性な低濃度で前記組成物中に含まれること、を意味する。組成物の特定の物質またはその供給源が存在しないことを指す、用語「~が存在しない(absence of)」にも、同様の意味が当てはまる。
【0116】
本明細書で使用される場合、用語「感知できる(appreciable)」とは、1または複数の標準方法により容易に検出可能な、数量(quantity)、レベル、値、数、頻度、割合、寸法、大きさ、量(amount)、重量もしくは長さの範囲、または事象を指す。用語「感知できない(not-appreciable)」および「感知できない(not appreciable)」およびその同意語は、標準方法によって容易に検出可能でない、または検出不可な、数量、レベル、値、数、頻度、割合、寸法、大きさ、量、重量もしくは長さの範囲、または事象を指す。一実施形態では、ある事象が5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.1%未満、0.01%未満、0.001%未満またはそれ以下の確率で起こる場合、その事象を感知できない。
【0117】
本明細書を通して、別の解釈が必要な文脈でない限り、「備える(含む)」及び「備えた(含んだ)」という文言は、記載されているステップ又は要素又はステップもしくは要素の群を包含するが、その他のステップ又は要素又はステップもしくは要素の群を除外しないことを示唆していると理解されるであろう。特定の実施形態では、用語「含む」、「有する」、「含有する」及び「備える」は同義的に用いる。
【0118】
「~からなる」とは、「~からなる」という句の前に記載したもの全てを含み、それに限定されることを意味する。そのため、「~からなる」という句は、列記した要素が必要又は必須であり、他の要素は存在し得ないということを示唆する。
【0119】
「本質的に~からなる」とは、この句に前に列記した要素と、該列記した要素への開示において特定されている動作又は作用に対して介入又は寄与しないような他の要素に限定される要素とであるあらゆる要素を含むことを意味する。すなわち、「本質的に~からなる」という句は、列記した要素を必要又は必須とするが、その他の要素は随意であって、列記した要素の動作又は作用にそれらが影響するか否かに応じて、存在してもよく又は存在しなくてもよい。
【0120】
本明細書全体にわたって「一実施形態」、「実施形態」、「特定の実施形態」、「関連の実施形態」、「或る実施形態」、「付加的な実施形態」もしくは「さらなる実施形態」、又はそれらの組み合わせを参照することは、その実施形態に関連して記載した特定の特徴、構造又は特性を、本発明の少なくとも1つの実施形態に含むことを意味する。そのため、この明細書全体にわたって様々な箇所で上述の句が登場するが、必ずしも、全てが同一の実施形態を指すものではない。また、特定の特徴、構造又は特性は、1つ又は複数の実施形態で、任意の好適な方法において組み合わせることができる。
【0121】
用語「生体外(ex vivo)」は、概して、好ましくは天然条件との違いを最小限にした有機体外の人工的な環境における生体組織内又は生体組織上で成される実験又は測定などである、有機体外で実行する活動をいう。特定の実施形態では、「生体外」手順は、有機体から取得し、通常無菌状態下で実験室の装置内において、典型的には数時間又は最大で約24時間であるが、状況に応じて最大48時間又は72時間、培養した生体細胞又は組織を必要とする。或る実施形態では、かかる組織又は細胞は、回収して凍結させ、その後生体外処理のために解凍させることができる。生体細胞又は組織を用いる、数日より長く続く組織培養実験又は手順は、典型的には「管内(in vitro)」とみなされるが、或る実施形態では、この用語を生体外と区別なく用いることがある。
【0122】
用語「生体内(in vivo)」は、概して、有機体内で行われる活動をいう。
【0123】
本明細書で使用される場合、用語「原始線条」は、原腸形成または三胚葉(中胚葉、内胚葉および外胚葉)の形成が始まる初期胚構造を指す。
【0124】
本明細書で使用される場合、用語「中胚葉」とは、初期胚形成期に現れ、循環系の血液細胞、筋肉、心臓、真皮、骨格、並びに他の支持組織および結合組織を含む、種々の特殊化した細胞型を生じる、3つの胚葉のうちの1つを指す。
【0125】
本明細書で使用される場合、用語「運命確定造血内皮(definitive hemogenic endothelium)」(HE)または「万能性幹細胞由来運命確定造血内皮(pluripotent stem cell-derived definitive hemogenic endothelium)」(iHE)とは、内皮造血転換(endothelial-to-hematopoietic transition)と称されるプロセスにおいて造血幹細胞・前駆細胞を生じる内皮細胞のサブセットを指す。胚における造血細胞の発生は、側板中胚葉から、血管芽細胞を介して、運命確定造血内皮および造血前駆細胞まで、順次進行する。
【0126】
用語「造血幹細胞」、または「運命確定造血幹細胞(definitive hematopoietic stem cell)」とは、本明細書で使用される場合、成熟骨髄系細胞型、並びにT細胞、ナチュラルキラー細胞およびB細胞を含む成熟リンパ系細胞型の両方を生じることが可能なCD34+幹細胞を指す。
【0127】
本明細書で用いる場合、用語「初期化(reprogramming)」又は「脱分化(dedifferentiation)」又は「細胞能力(cell potency)の増加」又は「発生能(developmental potency)の増加」は、細胞の能力を増加させる方法又は細胞を低分化状態に脱分化させる方法をいう。例えば、増加した細胞能力を有する細胞は、非初期化状態にある同一細胞と比較して、発生上の可塑性がより高い(すなわち、より多くの細胞型に分化可能)。すなわち、非初期化状態にある同一細胞よりも低分化状態である細胞が、初期化細胞である。
【0128】
本明細書で使用される場合、用語「分化」は、特殊化されていない(「運命決定されていない(uncommitted)」)、または特殊化の程度が低い細胞が、例えば血液細胞または筋細胞等の特殊化された細胞の特徴を獲得するプロセスである。分化した、または分化誘導された細胞は、細胞の系譜内で、より特殊化された(「運命決定された」)位置付けとなった細胞である。用語「運命決定された(committed)」とは、分化の過程に適用される場合、通常の状況下で、特定の細胞型または細胞型サブセットに分化し続け、且つ、通常の状況下で、異なる細胞型に分化できない、または、より分化程度の低い細胞型に戻ることができない、ポイントにまで分化経路を進んだ細胞を指す。
【0129】
本明細書で使用される場合、用語「分化マーカー遺伝子」または「分化遺伝子」は、万能性細胞等の細胞内で細胞分化が起こっていることをその発現によって示す遺伝子を指す。分化マーカー遺伝子として、以下の遺伝子が挙げられるが、これらに限定はされない:FOXA2、FGF5、SOX17、XIST、NODAL、COL3A1、OTX2、DUSP6、EOMES、NR2F2、NR0B1、CXCR4、CYP2B6、GATA3、GATA4、ERBB4、GATA6、HOXC6、INHA、SMAD6、RORA、NIPBL、TNFSF11、CDH11、ZIC4、GAL、SOX3、PITX2、APOA2、CXCL5、CER1、FOXQ1、MLL5、DPP10、GSC、PCDH10、CTCFL、PCDH20、TSHZ1、MEGF10、MYC、DKK1、BMP2、LEFTY2、HES1、CDX2、GNAS、EGR1、COL3A1、TCF4、HEPH、KDR、TOX、FOXA1、LCK、PCDH7、CD1D FOXG1、LEFTY1、TUJ1、T遺伝子(ブラキウリ)、ZIC1、GATA1、GATA2、HDAC4、HDAC5、HDAC7、HDAC9、NOTCH1、NOTCH2、NOTCH4、PAX5、RBPJ、RUNX1、STAT1およびSTAT3。
【0130】
本明細書で使用される場合、用語「分化マーカー遺伝子プロファイル」または「分化遺伝子プロファイル」、「分化遺伝子発現プロファイル」、「分化遺伝子発現シグネチャー」、「分化遺伝子発現パネル」、「分化遺伝子パネル」、または「分化遺伝子シグネチャー」は、複数の分化マーカー遺伝子の発現または発現レベルを指す。
【0131】
本明細書で使用される場合、用語「分化能(potency)」とは、その細胞が到達できる全ての発生上の選択肢の和(すなわち、発生能)を指す。一連の分化能には、全能性細胞(totipotent cell)、万能性細胞(pluripotent cell)、多能性細胞(multipotent cell)、少能性細胞(oligopotent cell)、単能性細胞(unipotent cell)、および高分化型細胞が含まれるが、これらに限定はされない。
【0132】
本明細書で使用される場合、用語「万能性」とは、身体(body)または体細胞(soma)(すなわち、胚本体(embryo proper))の全ての系譜を形成する細胞の能力を指す。例えば、胚性幹細胞は、外胚葉、中胚葉、および内胚葉の三胚葉のそれぞれから細胞を形成することが可能な万能性幹細胞の一種である。万能性は、完全な生物を生じることができない不完全または部分的万能性細胞(例えば、エピブラスト幹細胞またはEpiSC)から、完全な生物を生じることができるより原始的でより万能性の細胞(例えば、胚性幹細胞)まで及ぶ、一連の発生能である。
【0133】
本明細書で使用される場合、用語「誘導万能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)」、またはiPSC、とは、3つ全ての胚葉または皮層(中胚葉、内胚葉、および外胚葉)の組織に分化可能な細胞へと、誘導または変化、すなわち再プログラム化された、分化型の成熟した新生児期細胞または胎生期細胞から作製された、幹細胞を意味する。作製されたiPSCは、それが天然に存在する場合の細胞を指さない。iPSCは、本明細書で使用される場合、ゲノム改変iPSC、または優先的な(preferential)ドナーもしくは患者の免疫細胞から再プログラム化されたiPSC、を包含し、すなわち、特有の遺伝的インプリントが、前記iPSC、および/または派生リンパ系エフェクター細胞に含まれる。
【0134】
本明細書で使用される場合、用語「遺伝的インプリント(genetic imprint)」とは、供給源である細胞またはiPSCにおける優先的な治療的特性に寄与し、且つ、前記供給源細胞に由来するiPSCおよび/または前記iPSCに由来する造血系細胞において保持可能な、遺伝的または後成的な情報を指す。本明細書で使用される場合、「供給源細胞(source cell)」は、再プログラム化を通じたiPSCの作製に使用され得る非万能性細胞であり、供給源細胞に由来するiPSCは、あらゆる造血系細胞を包含する特定の細胞型にさらに分化し得る。文脈によっては、供給源細胞に由来するiPSC、およびそれからの分化細胞は、まとめて「派生細胞(derived cell)」と呼ばれる場合がある。本明細書で使用される場合、優先的な治療的特性を与える遺伝的インプリントは、ドナー特異的、疾患特異的、もしくは治療応答特異的な選択された供給源細胞の再プログラム化を通じて、または、ゲノム編集を用いたiPSCへの遺伝子改変様式の導入を通じて、iPSCに組み込まれる。具体的に選択されたドナー状況、疾患状況または治療状況から得られる供給源細胞の局面において、優先的な治療的特性に寄与している遺伝的インプリントは、根底にある分子現象が特定されているかどうかにかかわらず、選択された供給源細胞の派生細胞に受け継がれた、保持可能な表現型、すなわち優先的な治療的特性を顕在化させる、あらゆる状況特有の遺伝子改変またはエピジェネティックな改変を含み得る。ドナー特異的、疾患特異的、または治療応答特異的な供給源細胞は、iPSCおよび派生造血系細胞において保持可能な遺伝的インプリントを含み得るが、この遺伝的インプリントとしては、限定はされないが、所定の単一特異的TCR、例えば、ウイルス特異的T細胞またはインバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞からのもの;追跡可能且つ望ましい遺伝子多型、例えば、選択されたドナーにおける高親和性CD16受容体をコードする点変異についてホモ接合性のもの;並びに、所定のHLA要求、すなわち、個体群が増加したハプロタイプを示す、選択されたHLAに適合したドナー細胞が挙げられる。本明細書で使用される場合、優先的な治療的特性には、移植の改善、輸送の改善、ホーミングの改善、生存度の改善、自己複製の改善、残留性の改善、免疫応答の制御および調節の改善、生存の改善、並びに派生細胞の細胞毒性の改善が包含される。優先的な治療的特性は、抗原標的化受容体の発現;HLA提示またはその欠如;腫瘍内微小環境に対する耐性;傍観者免疫細胞(bystander immune cell)および免疫調節の誘導;腫瘍外効果(off-tumor effect)の減少に伴う、対標的特異性(on-target specificity)の向上;化学療法等の治療に対する耐性にも関連し得る。
【0135】
用語「増強された治療的特性」とは、本明細書で使用される場合、同一の通常の細胞型の典型的な免疫細胞と比較した場合に、増強された細胞の治療的特性を指す。例えば、「増強された治療的特性」を有するNK細胞は、典型的な、無改変の、および/または自然発生的なNK細胞と比較した場合に、増強、改善、且つ/または増大された治療的特性を有する。免疫細胞の治療的特性には、細胞の移植、輸送、ホーミング、生存度、自己複製、残留性、免疫応答の制御および調節、生存、並びに細胞毒性が包含され得るが、これらに限定はされない。免疫細胞の治療的特性は、以下によっても顕在化される:抗原標的化受容体発現;HLA提示またはその欠如;腫瘍内微小環境に対する耐性;傍観者免疫細胞および免疫調節の誘導;腫瘍外効果の減少に伴う、対標的特異性の向上;化学療法等の治療に対する耐性。
【0136】
本明細書で使用される場合、用語「エンゲージャー(engager)」は、免疫細胞、例えばT細胞、NK細胞、NKT細胞、B細胞、マクロファージ、好中球と、腫瘍細胞との間の連結形成;および免疫細胞の活性化、が可能な分子、例えば融合ポリペプチド、を指す。エンゲージャーの例としては、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)、二重特異性キラー細胞エンゲージャー(BiKE)、三重特異性キラー細胞エンゲージャー、もしくは多重特異性キラー細胞エンゲージャー、または複数の免疫細胞型と適合する汎用エンゲージャー(universal engager)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0137】
本明細書で使用される場合、用語「表面上誘発受容体(surface triggering receptor)」は、免疫応答、例えば細胞傷害反応、を誘発または惹起することができる受容体を指す。表面上誘発受容体は操作されている場合があり、エフェクター細胞上、例えばT細胞上、NK細胞上、NKT細胞上、B細胞上、マクロファージ上、好中球上に発現され得る。いくつかの実施形態では、表面上誘発受容体は、エフェクター細胞の天然の受容体および細胞型とは無関係に、二重特異性抗体または多重特異性抗体による、エフェクター細胞と特異的な標的細胞(例えば腫瘍細胞)との間の結合を促進する。このアプローチを用いて、普遍的な表面上誘発受容体を含むiPSCを作製した後、係るiPSCを普遍的な表面上誘発受容体を発現する種々のエフェクター細胞型の集団に分化させてよい。「普遍的(universal)」とは、表面上誘発受容体が、細胞型とは無関係にあらゆるエフェクター細胞で発現され、それを活性化し得ること、並びに、普遍的な受容体を発現する全てのエフェクター細胞が、エンゲージャーの腫瘍結合特異性にかかわらず、表面上誘発受容体によって認識可能な同じエピトープを有するエンゲージャーに共役または連結され得ること、を意味している。いくつかの実施形態では、普遍的な表面上誘発受容体との共役のために、同じ腫瘍標的特異性を有するエンゲージャーが用いられる。いくつかの実施形態では、普遍的な表面上誘発受容体との共役のために、異なる腫瘍標的特異性を有するエンゲージャーが用いられる。従って、1または複数のエフェクター細胞型を結合させることで、一部の例では特定の1種の腫瘍細胞を死滅させることができ、他の一部の例では2種以上の腫瘍を死滅させることもできる。表面上誘発受容体は、通常、エフェクター細胞活性化およびエンゲージャーのエピトープに対して特異的な抗エピトープのための共刺激ドメインを含む。二重特異性エンゲージャーは、一方の端で表面上誘発受容体の抗エピトープに対し特異的であり、もう一方の端で腫瘍抗原に対し特異的である。
【0138】
本明細書で使用される場合、用語「セーフティ・スイッチタンパク質(safety switch protein)」とは、細胞療法の潜在的な毒性またはさもなくば有害作用を防ぐように設計された、操作されたタンパク質を指す。場合によって、セーフティ・スイッチタンパク質の発現は、セーフティ・スイッチタンパク質をコードする遺伝子をそのゲノム内に永続的に組み入れた、移植された被操作細胞に関する安全性の懸念に対処するために、条件的に制御される。この条件的制御は、変じ得るものであり、小分子介在性の翻訳後活性化および組織特異的且つ/または時間的な転写制御を介した制御を包含し得る。前記セーフティ・スイッチは、アポトーシスの誘導、タンパク質合成の阻害、DNA複製、増殖停止、転写性および転写後の遺伝的調節、並びに/または抗体を介した枯渇を媒介し得る。場合によって、セーフティ・スイッチタンパク質は、活性化された場合に治療用細胞のアポトーシスおよび/または細胞死を引き起こす、外来性分子(例えばプロドラッグ)によって活性化される。セーフティ・スイッチタンパク質の例としては、カスパーゼ9、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、B細胞CD20、改変EGFR等の自殺遺伝子、およびこれらのあらゆる組み合わせが挙げられるが、これらに限定はされない。この戦略では、有害事象の場合に投与されるプロドラッグは、自殺遺伝子産物によって活性化され、形質導入細胞を死滅させる。
【0139】
本明細書で使用される場合、用語「薬剤的に活性なタンパク質またはペプチド」とは、生物に対し生物学的および/または薬剤的な効果を達成することが可能な、タンパク質またはペプチドを指す。薬剤的に活性なタンパク質は、疾患に対する治癒的な、治療的な、または対症的な性質を有し、疾患の重症度を改善、軽減、緩和、逆転(reverse)または低減するために投与され得る。薬剤的に活性なタンパク質は、予防的な性質も有し、疾患の発生を予防するために、または、実際に発病した場合にそのような疾患もしくは病的状態の重症度を低減するために、使用される。薬剤的に活性なタンパク質として、タンパク質全体もしくはペプチド全体またはその薬剤的に活性な断片が包含される。タンパク質もしくはペプチドの薬剤的に活性な類似体、またはタンパク質もしくはペプチドの断片の類似体も包含される。薬剤的に活性なタンパク質という用語は、協同的または相乗的に作用して治療効果をもたらす、複数のタンパク質またはペプチドのことも指す。薬剤的に活性なタンパク質またはペプチドの例としては、受容体、結合タンパク質、転写因子および翻訳因子、腫瘍成長抑制タンパク質、抗体もしくはその断片、増殖因子、並びに/またはサイトカインが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0140】
本明細書で使用される場合、用語「シグナル伝達分子」とは、細胞間情報伝達を調節する、それに関与する、それを阻害する、それを活性化する、それを低減させる、またはそれを増加させる、あらゆる分子を指す。シグナル伝達とは、最終的には細胞における生化学的事象を惹起する経路に沿った、タンパク質複合体のリクルートによる、化学修飾の形態での分子シグナルの伝達を指す。シグナル伝達経路は、当該技術分野において周知であり、Gタンパク質共役型受容体シグナル伝達、チロシンキナーゼ受容体シグナル伝達、インテグリンシグナル伝達、トールゲートシグナル伝達(toll gate signaling)、リガンド開口型イオンチャネルシグナル伝達、ERK/MAPKシグナル経路、Wntシグナル経路、cAMP依存性経路、およびIP3/DAGシグナル経路が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0141】
本明細書で使用される場合、用語「標的化モダリティ(targeting modality)」とは、i)ユニークなキメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)に関する場合の、抗原特異性、ii)モノクローナル抗体または二重特異性エンゲージャーに関する場合の、エンゲージャー特異性、iii)形質転換細胞の標的化、iv)がん幹細胞の標的化、および、v)特異的な抗原または表面分子が無い場合の他の標的化戦略、を含むがこれらに限定はされない、抗原特異性および/またはエピトープ特異性を促進するために、細胞に遺伝的に組み込まれた分子、例えばポリペプチド、を指す。
【0142】
本明細書で使用される場合、用語「薬剤的に活性なタンパク質またはペプチド」とは、生物に対し生物学的および/または薬剤的な効果を達成することが可能な、タンパク質またはペプチドを指す。薬剤的に活性なタンパク質またはペプチドの例としては、抗体もしくはその断片、増殖因子、および/またはサイトカインが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0143】
本明細書で使用される場合、用語「シグナル伝達分子」とは、細胞間情報伝達を調節する、それに関与する、それを阻害する、それを活性化する、それを低減させる、またはそれを増加させる、あらゆる分子を指す。シグナル伝達とは、最終的には細胞における生化学的事象を惹起する経路に沿った、タンパク質複合体のリクルートによる、化学修飾の形態での分子シグナルの伝達を指す。シグナル伝達経路は、当該技術分野において周知であり、Gタンパク質共役型受容体シグナル伝達、チロシンキナーゼ受容体シグナル伝達、インテグリンシグナル伝達、トールゲートシグナル伝達(toll gate signaling)、リガンド開口型イオンチャネルシグナル伝達、ERK/MAPKシグナル経路、Wntシグナル経路、cAMP依存性経路、およびIP3/DAGシグナル経路が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0144】
本明細書で使用される場合、用語「特異的」は、非特異的または非選択的な結合と対比して、分子、例えば受容体またはエンゲージャーの、標的分子に選択的に結合する能力を指して用いられ得る。
【0145】
本明細書で使用される用語「養子細胞療法(adoptive cell therapy)」とは、本明細書で使用される場合に、輸血前に生体外で増殖された、遺伝子改変されたまたはされていない、T細胞またはB細胞とされる、自己または同種間のリンパ球の輸血に関する、細胞に基づく免疫療法を指す。
【0146】
「治療上十分な量(therapeutically sufficient amount)」は、本明細書で使用される場合、その意味の中に、所望の治療効果をもたらすとされる、無毒の、ただし十分量および/または有効量の、特定の治療用および/または医薬組成物を含む。正確な必要量は、患者の全体的な健康、患者の年齢、並びに状態の段階および重症度等の要因に応じて、対象毎に異なる。特定の実施形態では、治療上十分な量は、治療中の対象の疾患または状態に伴う少なくとも1つの症状を改善、低減、および/または改善するのに十分および/または有効である。
【0147】
本明細書で使用される場合、用語「胚性幹細胞」は、胚盤胞(embryonic blastocyst)の内部細胞塊の自然発生的な万能性幹細胞を指す。胚性幹細胞は、万能性であり、且つ、発生中に3つの一次胚葉(外胚葉、内胚葉および中胚葉)の全ての誘導体を生じる。胚性幹細胞は、胚体外膜または胎盤に寄与せず、すなわち全能性ではない。
【0148】
本明細書で使用される場合、用語「多能性幹細胞(multipotent stem cell)」とは、3つ全てではないが、1または複数の胚葉(外胚葉、中胚葉および内胚葉)の細胞に分化する発生能を有する細胞を指す。従って、多能性細胞は「部分分化細胞(partially differentiated cell)」とも称され得る。多能性細胞は当該技術分野において周知であり、多能性細胞の例としては、例えば、造血幹細胞および神経幹細胞等の成体幹細胞が挙げられる。「多能性」とは、細胞が、所与の系譜における多くの細胞型を形成し得るが、他の系譜の細胞を形成しないこと、を表す。例えば、多能性造血細胞は、多種様々な血液細胞(赤血球、白血球、血小板等)を形成できるが、ニューロンを形成できない。従って、用語「多能性」とは、発生能の程度が全能性にも万能性にも満たない細胞の状態を指す。
【0149】
万能性幹細胞の分化は、培地中の刺激剤または細胞の物理的状態を変化させる等、培養系の変化を必要とする。最もありふれた戦略では、系譜特異的分化を開始させるために、共通且つ決定的な中間体として胚様体(EB)の形成が利用される。EBは、その三次元領域内に多数の系譜を生じることから胚発生を模倣することが示されている、三次元的なクラスターである。典型的には数時間から数日間の分化プロセスを通じて、単純なEB(例えば、分化するよう誘導された凝集した万能性幹細胞)は、成熟を続けて嚢胞性EBへと発達し、その時点で、典型的には数日から数週間、分化を継続するようにさらに処理される。EB形成は、万能性幹細胞同士を三次元的多層細胞クラスター内で互いに接近させることで惹起され、典型的には、これは、万能性細胞を液滴中に沈降させ、細胞を「U」字底ウェルプレートに沈降させることを含むいくつかの方法のうちの1つによって、または機械撹拌によって、達成される。EB発生を促進するため、万能性幹細胞の凝集体は、万能性培養維持培地中で維持される凝集体は適切なEBを形成しないため、さらなる分化の合図を必要とする。従って、万能性幹細胞凝集体は、最適な系譜に向けた誘発合図を供給する分化用培地に移される必要がある。EBベースの万能性幹細胞培地は、典型的には、EB細胞塊内の中程度の増殖と共に、分化細胞集団(外胚葉、中胚葉および内胚葉)の生成をもたらす。細胞分化を促進することは分かっているが、EBは、三次元構造内での、環境由来の分化合図への一貫しない細胞暴露により、分化状態が一様でない不均一な細胞を生じる。さらに、EBは作製と維持に手間がかかる。さらに、EBを介した細胞分化は中程度の細胞増殖を伴い、これは低い分化効率の一因にもなる。
【0150】
比較すると、「凝集体形成」は、「EB形成」と異なり、万能性幹細胞に由来する細胞集団を増殖させるために使用することができる。例えば、凝集体に基づく万能性幹細胞の増殖中、培地は増殖および万能性を維持するように選択される。細胞増殖は、一般に、より大きな凝集体の形成により凝集体のサイズを増加させるが、これらの凝集体を定期的に機械的または酵素的により小さな凝集体へと分離させることで、培養物内の細胞増殖を維持し、細胞数を増加させることができる。EB培養と異なり、維持培養液中の凝集体内で培養された細胞は、万能性のマーカーを維持する。万能性幹細胞凝集体は、分化を誘発するためにさらなる分化合図を必要とする。
【0151】
本明細書で使用される場合、「単層分化」は、三次元的多層細胞クラスターを介した分化、すなわち「EB形成」とは異なる分化法を指す用語である。単層分化は、他の利点も本明細書で開示されるが、分化惹起にEB形成の必要がない。単層培養はEB形成等の胚発生を模倣していないため、EBにおける3つ全ての胚葉分化と比較して、特定の系譜に向けた分化は最低限と見なされる。
【0152】
多能性は、部分的に、細胞の多能性特性を評価することによって判断することができる。多能性特性には、限定するものではないが、(i)多能性幹細胞形態、(ii)無限自己複製の可能性、(iii)限定するものではないがSSEA1(マウスのみ)、SSEA3/4;SSEA5、TRA1-60/81;TRA1-85、TRA2-54、GCTM-2、TG343、TG30、CD9、CD29、CD133/プロミニン、CD140a、CD56、CD73、CD90、CD105、OCT4、NANOG、SOX2、CD30及び/又はCD50を含む、多能性幹細胞マーカーの発現、(iv)3体細胞系(外胚葉、中胚葉及び内胚葉)の全てに分化する能力、(v)3体細胞系からなるテラトーマ形成、及び(vi)3体細胞系からの細胞からなる胚様体の形成が含まれる。
【0153】
2種類の多能性である、後期の胚盤胞のエピブラスト幹細胞(EpiSC)に類似である、「初回刺激を受けた」状態の多能性又は「準安定」状態の多能性、及び、初期/着床前の胚盤胞の内細胞塊に類似である、「ナイーブ」状態の多能性又は「基底」状態の多能性について先に述べた。該多能性の状態はいずれも、上記に記載した特性を呈するが、ナイーブ又は基底状態では、(i)雌性細胞内のX染色体の事前の不活性化(preinactivation)又は再活性化、(ii)単一細胞培養中のクローン性及び生存性の向上、(iii)DNAメチル化の全体的な低下、(iv)発生上の調節性遺伝子プロモーター上でのH3K27me3抑制型クロマチン標識の局在の低下、及び(v)初回刺激を受けた状態の多能性細胞と比較して分化マーカーの発現が低減すること、をさらに呈する。外因性多能性細胞を体細胞に誘導し、発現し、その後サイレンシングされるか又は得られた多能性細胞から除去されるという、細胞の初期化の標準的な方法論は、概して、初回刺激を受けた状態の多能性の特性を有するものと見られている。標準的な多能性細胞培養条件下では、かかる細胞は、基底状態の特性が観察されるものである外因性導入遺伝子の発現が維持されない限り、初回刺激を受けた状態のままである。
【0154】
本明細書で用いる場合、用語「多能性幹細胞形態」は、胚性幹細胞の古典的な形態学的特徴をいう。正常な胚性幹細胞形態は、高いNC比(nucleus-to-cytoplasm ratio)、核小体の顕著な存在、及び典型的な細胞間隙をもつ、球状の小さい形状によって特性決定される。
【0155】
本明細書で使用される場合、「フィーダー細胞」または「フィーダー」は、フィーダー細胞が第二の細胞型の支持のために増殖因子および栄養分を供給することから、第二の種類の細胞が増殖可能な環境を与えるために、第二の種類の細胞と共培養される、1種の細胞を記述する用語である。フィーダー細胞は、フィーダー細胞が支持している細胞と異なる種由来であってもよい。例えば、幹細胞を含む、ある特定の種類のヒト細胞は、マウス胎仔線維芽細胞の初代培養物、または不死化したマウス胎仔線維芽細胞によって支持することができる。フィーダー細胞は、典型的には、他の細胞と共培養されている時、フィーダー細胞が支持している細胞よりも増殖することを防ぐための、照射またはマイトマイシン等の有糸分裂阻害剤による処理によって、不活性化され得る。フィーダー細胞には、内皮細胞、間質細胞(例えば、上皮細胞または線維芽細胞)、および白血病細胞が包含され得る。上記を制限することなく、1つの特定のフィーダー細胞型はヒト皮膚線維芽細胞等のヒトフィーダーであり得る。別のフィーダー細胞型は、マウス胎仔線維芽細胞(MEF)であり得る。一般に、様々なフィーダー細胞を部分的に使用することで、万能性の維持、ある特定の系譜への分化の配向、および、エフェクター細胞等の特殊化した細胞型への成熟の促進が可能である。
【0156】
本明細書で用いる場合、「フィーダーフリー(FF)」環境は、フィーダー細胞を本質的に含まない及び/又はフィーダー細胞の育成によって予め条件付けしていない、細胞培養又は培地などの環境をいう。「予め条件付けした」培地は、例えば少なくとも1日である期間の間、培地内でフィーダー細胞を育成した後、採取した培地をいう。予め条件付けした培地は、培地内で育成したフィーダー細胞によって分泌された増殖因子及びサイトカインを含む多数の介在物質を含有する。
【0157】
本明細書で使用される場合、用語「対象」は、あらゆる動物を指し、好ましくは、ヒト患者、家畜(livestock)、または他の家畜化された動物(domesticated animal)を指す。
【0158】
「万能性因子(pluripotency factor)」または「再プログラム化因子(reprogramming factor)」とは、単独で、または他の剤と組み合わせて、細胞の発生能を増加させることが可能な剤を指す。万能性因子には、細胞の発生能を増加させることが可能なポリヌクレオチド、ポリペプチド、および小分子が包含されるが、これらに限定はされない。例示的な万能性因子としては、例えば、転写因子および小分子再プログラム化剤(small molecule reprogramming agent)が挙げられる。
【0159】
「接着する(adhere)」とは、細胞が容器に付着すること、例えば、細胞が、適切な培地の存在下で、無菌のプラスチック製(または被覆プラスチック製)の細胞培養皿またはフラスコに付着していること、を指す。ある特定の細胞クラスは、細胞培養容器に接着しない限り、培養下で維持されないし、また増殖もしない。ある特定の細胞クラス(「非接着性細胞」)は、接着無しでも培養下で維持され、且つ/または増殖する。
【0160】
「培養」又は「細胞培養」は、管内環境での、細胞の維持、成長及び/又は分化をいう。「細胞培地(培養培地)」、「培地(培養培地)」(いくつかの場合では単に「培地」)、「サプリメント」及び「培地サプリメント」は、細胞培養を育成する栄養成分をいう。
【0161】
「育成(培養)する(cultivate)」は、組織外又は体外にある細胞、例えば無菌のプラスチック(又は被覆プラスチック)細胞培養ディッシュ又はフラスコ中にある細胞を、維持すること、繁殖させること(増殖させること)及び/又は分化させることをいう。「育成(培養)」には、栄養、ホルモン及び/又は、細胞を繁殖ならびに/もしくは維持するのに役立つ他の因子の源として、培地が利用され得る。
【0162】
本明細書で用いる場合、「解離させた」細胞は、他の細胞又はある面(例えば、培養皿表面)から、実質的に離した又は精製した細胞をいう。例えば、機械的方法又は酵素的方法によって、動物又は組織から細胞を解離させることができる。あるいは、例えばクラスターの、単一細胞の、又は単一細胞とクラスターとの混合物の懸濁液に、酵素的又は機械的に解離させるなどによって、管内で凝集している細胞を、互いに解離させることができる。さらに別の代替的な実施形態では、培養皿又は他の面から接着細胞を解離させる。そのため、解離により、細胞外基質(ECM(extracellular matrix))及び培養基質(例えば、培地表面)との細胞相互作用を破壊すること又は細胞間におけるECMを破壊することに関与する場合がある。
【0163】
本明細書で使用される場合、用語「Tリンパ球」および「T細胞」は、同義的に使用され、培養T細胞、例えば、初代T細胞、または培養T細胞株由来のT細胞、例えば、Jurkat、SupT1等、または哺乳動物から得られるT細胞、等のあらゆるT細胞であり得る。T細胞は、幹細胞または前駆細胞からも分化され得る。T細胞はCD3+細胞であり得る。T細胞は、あらゆる種類のT細胞とすることができ、CD4+/CD8+ダブルポジティブT細胞、CD4+ヘルパーT細胞(例えば、Th1細胞およびTh2細胞)、CD8+T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、末梢血単核球(PBMC)、末梢血白血球(PBL)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、制御性T細胞(regulator T cell)、γδT細胞等を含むがこれらに限定はされない、あらゆる発生段階のT細胞とすることができる。ヘルパーT細胞のさらなるの種類としては、Th3(Treg)細胞、Th17細胞、Th9細胞、またはTfh細胞等の細胞が挙げられる。メモリーT細胞のさらなる種類としては、セントラルメモリーT細胞(Tcm細胞)、幹細胞メモリーT細胞(Tscm細胞)、およびエフェクターメモリーT細胞(Tem細胞およびTEMRA細胞)等の細胞が挙げられる。T細胞は、T細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように改変されたT細胞等の、遺伝子改変T細胞も指し得る。
【0164】
本明細書で使用される場合、用語「ナイーブ型T細胞」またはTnは、活性化T細胞またはメモリーT細胞と異なり、末梢内でそれらの同種抗原と遭遇していない、成熟T細胞を指す。ナイーブ型T細胞は、通常、L-セレクチン(CD62L)の細胞表面発現;活性化マーカーであるCD25、CD44またはCD69の不在;およびメモリーCD45ROアイソフォームの不在によって特徴付けられる。また、ナイーブ型T細胞は、IL-7受容体-α(CD127)サブユニットおよび共通γ鎖(CD132)サブユニットからなる機能的なIL-7受容体も発現する。ナイーブ型の状態では、T細胞は、静止状態且つ非分裂性であると考えられており、恒常的生存機構のために共通γ鎖サイトカインIL-7およびIL-15を必要とする。
【0165】
本明細書で使用される場合、用語「セントラルメモリーT細胞」またはTcmは、エフェクターメモリーT細胞、またはTcmとの比較において、より少ない発現またはアポトーシス誘発性シグナル伝達遺伝子(例えば、Bid、Bnip3およびBad)を有し、且つ、二次リンパ器官への輸送と関連した遺伝子(例えば、CD62L、CXCR3、CCR7)の発現がより多い、T細胞の亜群または亜集団を指す。
【0166】
本明細書で使用される場合、用語「幹メモリーT細胞(stem memory T cell)」、または「幹細胞メモリーT細胞(stem cell memory T cell)」、またはTscmは、長期に亘る免疫を媒介するために重要な特性として、自己複製し、Tcm、TemおよびTeff(エフェクターT細胞)を生み出すことが可能であり、且つ、CD27並びにCCR7およびCD62L等のリンパ系ホーミング分子を発現する、T細胞の亜群または亜集団を指す。
【0167】
本明細書で使用される場合、用語「NK細胞」または「ナチュラルキラー細胞」とは、CD56またはCD16の発現およびT細胞受容体(CD3)の不在によって定義される、末梢血リンパ球サブセットを指す。本明細書にて提供されるNK細胞は、幹細胞または前駆細胞からも分化され得る。本明細書で使用される場合、用語「獲得NK細胞(adaptive NK cell)」および「メモリーNK細胞(memory NK cell)」は置き換え可能であり、表現型がCD3-且つCD56+であり、NKG2CおよびCD57、並びに所望によりCD16を発現するが、以下(PLZF、SYK、FceRγ、およびEAT-2)のうちの一つまたは複数の発現を欠く、NK細胞サブセットを指す。いくつかの実施形態では、単離されたCD56+NK細胞亜集団は、CD16、NKG2C、CD57、NKG2D、NCRリガンド、NKp30、NKp40、NKp46、活性化KIRおよび抑制KIR、NKG2A並びにDNAM-1の発現を含む。CD56+は、薄暗い発現であっても明るい発現であってもよい。
【0168】
本明細書で使用される場合、用語「NKT細胞」または「ナチュラルキラーT細胞」とは、T細胞受容体(TCR)を発現する、CD1d制限T細胞を指す。通常の主要組織適合性(MHC)分子により提示されるペプチド抗原を検知する通常のT細胞と異なり、NKT細胞は、非古典的MHC分子である、CD1dにより提示される脂質抗原を認識する。2種類のNKT細胞が現在認知されている。インバリアントまたはI型のNKT細胞は、非常に限定されたTCRレパートリー、限定された範囲のβ鎖(ヒトではVβ11)と結合した標準的なα鎖(ヒトではVα24-Jα18)、を発現する。第二のNKT細胞集団は、非古典的または非インバリアントなII型のNKT細胞と呼ばれ、より不均一なTCRαβの使用を示す。I型NKT細胞は、現在、免疫療法に好適と見なされている。獲得またはインバリアント(I型)NKT細胞は、以下のマーカーのうちの少なくとも一つまたは複数の発現により特定することができる:TCR Va24-Ja18、Vb11、CD1d、CD3、CD4、CD8、αGalCer、CD161およびCD56。本明細書にて提供されるNKT細胞は、幹細胞または前駆細胞からも分化され得る。
【0169】
本明細書で使用される場合、用語「Bリンパ球」または「B細胞」は、同義的に使用され、T細胞受容体(CD3)を欠き、免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むB細胞受容体(BCR、Ig)であるCD19またはCD20の発現を特徴とする、リンパ球の一部を指す。本明細書にて提供されているように、B細胞は、分化誘導を介して幹細胞または前駆細胞から派生させることもできる。B細胞は、B細胞のあらゆるサブタイプを含み、プロB細胞、プレB細胞、ナイーブ型B細胞、B-1 B細胞、B-2 B細胞、辺縁帯B細胞、濾胞性B細胞、メモリーB細胞、形質芽球性細胞、形質細胞、制御性B細胞を包含するがこれらに限定はされない、あらゆる発生段階のB細胞とすることができる。
B.概要
【0170】
本発明は、全体として、ナイーブ型万能性細胞を、非万能性細胞、または中胚葉細胞、運命確定造血内皮、運命確定造血幹または前駆細胞、CD34+細胞、多能性前駆細胞(MPP)(好中球前駆細胞を包含する、骨髄系に分化可能)、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞を包含する部分分化細胞;または、例えば、T細胞、B細胞、NKT細胞、もしくはNK細胞等の完全に分化した終端造血細胞、に分化させる多段階工程に関する。また、本発明は、開示される方法で使用される組成物;および、開示される方法を用いて作製される細胞集団、細胞株、またはクローン細胞に関する。
【0171】
当該技術分野において使用されている方法とは異なり、本発明はiPSC分化におけるEBの形成を回避した。提供されているように、iPSCに由来する造血系細胞が、クローナルなiPSC細胞を無TGFβ培地中に播種することで、それらの万能性の基底状態またはナイーブ状態を維持し、該クローナルなiPSCをEB形成無しの単層形式で分化させ、分化の初期段階および中期段階に低分子化学物質、増殖因子およびサイトカインの適切な組み合わせを適用する段階的な戦略を利用することによって得られた。従って、本発明は、増殖されたクローナルなiPSCの、iPSCからのEBの形成を必要としない即時分化のための単層形態の接着性培養への、直接的な移行を可能にする。
【0172】
すなわち、本発明は、SB431532を包含するTGFβ受容体/ALK阻害剤を使用しない、高効率の、幹細胞から二次造血および機能的造血系細胞への分化を可能にする、培養プラットフォームを提供する。さらに、先の研究と異なり、本発明はまた、iPSCからEBまたは凝集塊を介する必要のない、単層培養でのiPSCの直接的な分化を支持する、無フィーダー、無血清条件を用いる、培養プラットフォームを提供する。
C.培養プラットフォーム
【0173】
万能性細胞を培養するための既存の方法は、フィーダー細胞またはフィーダー細胞で事前調整され、且つウシ胎児血清を含有する培地に大きく依存している。しかし、そのような環境は臨床用および治療用の細胞を生産するのに不適当である場合がある。例えば、動物性成分への暴露が、治療された患者に免疫拒絶および未確認病原体の伝染の深刻なリスクを与える場合があり、動物内レトロウイルスを再活性化する可能性があることから、そのような異物混入環境で培養された細胞は、一般に、ヒト細胞移植に不適当と見なされる。本明細書において企図される無フィーダー環境等の、動物質を含まない(animal-free)培地を用いた培養系は、臨床グレードの細胞株、特にhESC、hiPSC、および万能性幹細胞に由来するHSC株、T細胞株、B細胞株、NKT細胞株、またはNK細胞株の製造を促進する。
【0174】
特定の実施形態では、前記無フィーダー環境は、ヒトフィーダー細胞を本質的に含まず、マウス胎仔線維芽細胞、ヒト線維芽細胞、ケラチノサイト、および胚性幹細胞を含むがこれらに限定はされないフィーダー細胞によって事前調整されていない。前記無フィーダー細胞培養培地は、万能性細胞の培養、細胞の再プログラム化、万能性細胞の単一細胞培養、解離、および継代、万能性細胞の細胞選別、基底状態万能性細胞の発生、基底状態万能性の維持、万能性細胞分化の誘導での使用に適している。特定の実施形態では、前記無フィーダー環境は、万能性の誘導、再プログラム化の効率の向上、細胞の分化能の増加もしくは維持、および/または、分化の誘導のために使用される。さらに、ある特定の実施形態では、前記無フィーダー環境は、bFGFを包含する、サイトカインおよび増殖因子を実質的に含まない。
【0175】
本発明のいくつかの態様では、上記のiPSC分化段階の1または複数が、無フィーダー条件下で実行され得る。そのような無フィーダー条件は、単層培養および浮遊培養を含むがこれらに限定はされない形態であり得る。本発明の1つの実施形態において、万能性細胞の中胚葉細胞への分化が、単層無フィーダー条件下で実行される。本発明の別の実施形態では、中胚葉細胞の運命確定造血内皮細胞への分化が、単層無フィーダー条件下で実行される。本発明のさらに別の実施形態では、運命確定造血内皮細胞の造血幹細胞への分化が、単層無フィーダー条件下で実行される。本発明の1つの実施形態において、運命確定造血幹細胞の多能性前駆細胞、T細胞前駆細胞またはNK細胞前駆細胞への分化が、浮遊無フィーダー条件下で、または、単層無フィーダー条件とそれに続く浮遊無フィーダー条件の下で、実行される。本発明の別の実施形態において、T細胞前駆細胞の完全分化型T細胞への分化、またはNK細胞前駆細胞の完全分化型NK細胞への分化が、浮遊無フィーダー条件下で、または、単層無フィーダーとそれに続く浮遊無フィーダー条件の下で、実行される。
【0176】
あらゆる好適な容器または細胞培養容器が、基本培地および/または細胞培養用添加物中の細胞培養の支持体として使用されてよい。いくつかの実施形態では、培養容器の表面を接着促進マトリクス/基層(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、RGD含有ポリペプチド、ゼラチン等)で被覆することによって細胞の付着が促進されるが、特定の実施形態では、本明細書で開示される細胞培養培地および添加物の作用が増強される場合がある。細胞の培養および継代に好適な培養基は、当該技術分野において公知であり、ビトロネクチン、ゼラチン、ラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン、エラスチン、オステオポンチン、トロンボスポンジン、Matrigel(商標)等の天然細胞株により産生されるマトリックスの混合物、並びにポリアミン単層およびカルボキシ末端化単層等の合成または人工の表面を包含し、これらに限定はされない。いくつかの実施形態では、無フィーダー条件の準備は、マトリックス被覆表面上での細胞の培養を含む。一実施形態では、本明細書において企図される培養プラットフォームは、Matrigel(商標)またはビトロネクチンを含むマトリックス/培養基を含む。培養物のいくつかの実施形態では、Matrigel(商標)が使用され、そのため、培養物は完全に定義されたものである。
【0177】
本発明のいくつかの態様では、上記の分化段階の1または複数が無血清条件下で実行され得る。細胞接着および/または細胞誘導に適した市販の無血清培地の例としては、ステム・セル・テクノロジーズ社(Stem Cell Technologies)(カナダ、バンクーバー)製のmTeSR(商標)l、TeSR(商標)2またはStemSpan(商標)、リプロセル社(ReproCELL)(マサチューセッツ州ボストン)製の霊長類ES/iPS細胞培地、インビトロジェン社(Invitrogen)(カリフォルニア州カールズバッド)製のStemPro(登録商標)-34、インビトロジェン社製のStemPro(登録商標)hESC SFM、およびロンザ社(Lonza)(スイス、バーゼル)製のX-VIVO(商標)が挙げられる。
【0178】
さらなる実施形態では、前記培養プラットフォームの前記培地の1または複数は、無フィーダー環境であり、所望によりサイトカインおよび/または増殖因子を実質的に含まない。他の実施形態では、前記細胞培養培地は、血清、抽出物、増殖因子、ホルモン、サイトカイン等の添加物を含有する。概して、前記培養プラットフォームは、1または複数の段階特異的な無フィーダー無血清培地を含み、それらは各々が以下の1または複数をさらに含む:栄養分/抽出物、増殖因子、ホルモン、サイトカインおよび培地添加物。好適な栄養分/抽出物としては、例えば、様々な哺乳類細胞の増殖を支持するために広く使用されている基本培地であるDMEM/F-12(Dulbecco’s Modified Eagle Medium/Nutrient Mixture F-12);KOSR(Knockout血清代替物);L-グルタミン酸(L-glut);NEAA(可欠アミノ酸)を挙げることができる。他の培地添加物としては、限定はされないが、MTG、ITS、βME、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸)を挙げることができる。いくつかの実施形態では、本発明の培地は、以下のサイトカインまたは増殖因子のうちの1または複数を含む:上皮増殖因子(EGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、白血病抑制因子(LIF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン様増殖因子1(IGF-1)、インスリン様増殖因子2(IGF-2)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、神経成長因子(NGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)、骨形成タンパク質(BMP4)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)トランスフェリン、種々のインターロイキン(例えばIL-1~IL-18)、種々のコロニー刺激因子(例えば顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF))、種々のインターフェロン(例えばIFN-γ)、並びに、幹細胞因子(SCF)およびエリスロポエチン(EPO)等の幹細胞に作用を及ぼす他のサイトカイン。これらのサイトカインは、市販品、例えばR&Dシステムズ社(ミネソタ州ミネアポリス)製、を入手してもよく、さらに、天然であっても組換えであってもよい。いくつかの他の実施形態では、本発明の培地は、以下のうちの1または複数を含む:骨形成タンパク質(BMP4)、インスリン様増殖因子-1(IGF-1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、造血成長因子(例えば、SCF、GMCSF、GCSF、EPO、IL3、TPO、EPO)、Fms関連チロシンキナーゼ3リガンド(Flt3L);および、白血病抑制因子(LIF)、IL3、IL6、IL7、IL11、IL15からの1または複数のサイトカイン。いくつかの実施形態では、前記増殖因子/分裂促進因子およびサイトカインは、実験的によって決定される、または確立されたサイトカイン分野によって導かれる濃度において、段階特異的且つ/または細胞型特異的である。
【0179】
一般的に、誘導万能性細胞を分化させるための手法には、ポリヌクレオチドに基づくアプローチ、ポリペプチドに基づくアプローチおよび/または小分子に基づくアプローチを用いる、直接的または間接的な、特定の細胞経路の調節が含まれる。細胞の発生能は、例えば細胞を1または複数の調節因子と接触させることによって、調節され得る。「接触させる」とは、本明細書で使用される場合、1または複数の因子(例えば、小分子、タンパク質、ペプチド等)の存在下で細胞を培養することを含み得る。いくつかの実施形態では、細胞が1または複数の剤と接触することで、細胞分化が誘導される。そのような接触は、例えば、前記1または複数の剤をインビトロ培養中の前記細胞に導入することによって、起こってもよい。すなわち、接触は、前記1または複数の剤を栄養細胞培養培地中の前記細胞に導入することによって、起こってもよい。前記細胞は、1または複数の剤を含む前記培地中で、前記細胞が所望の分化表現型に達するために十分な期間、維持され得る。いくつかの他の実施形態では、「接触」は、ベクターを介して1または複数の因子が細胞に導入された場合に起こる。いくつかの実施形態では、レトロウイルス、センダイウイルス、アデノウイルス、エピソーム、ミニサークル、発現カセットを有するベクター系、またはmRNAによって、1または複数のベクターが導入される。
【0180】
他の実施形態では、本明細書に記載される培養プラットフォームの段階特異的な無フィーダー無血清培地のうちの1または複数は、1または複数の小分子をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記培養プラットフォームは、GSK-3阻害剤、MEK阻害剤、Rhoキナーゼ(ROCK)阻害剤を含む細胞培養培地を含み、且つ、TGFβ受容体阻害剤またはALK5阻害剤を含むがこれらに限定されないTGFβ/アクチビンシグナル経路の小分子阻害剤を含まない。
【0181】
本明細書において企図される培養プラットフォームはまた、自発性の分化が減少した、且つ/または、基底状態の万能性が達成された、産業グレードまたは臨床グレードの万能性細胞の同種(homogenous)集団を利用することにより、数多くの利点を与える。一実施形態では、前記同種の(homogenous)iPSCは、GSK-3阻害剤、MEK阻害剤、およびRhoキナーゼ(ROCK)阻害剤を含み、且つTGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、組成物中で維持される。本明細書で使用される場合、用語「同種の(homogenous)」とは、各細胞が集団中のその他の細胞と同一または実質的に同一である細胞集団を指す。一実施形態では、各細胞が本明細書において企図される1または複数の同一の万能性マーカー(例えば、SSEA4およびTRA1-81)を発現している場合に、細胞は集団中の他の細胞と同一である。一実施形態では、細胞の少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、またはそれ以上が集団内の他の細胞と同一または実質的に同一である場合に、集団は同種(homogenous)である。
【0182】
種々の実施形態において、本明細書における、運命確定造血内皮を通じて造血細胞系譜を発生させるための培養プラットフォームの細胞培養培地は、TGFβ受容体(TGFβR)阻害剤およびALK5阻害剤を包含するTGFβ/アクチビンシグナル経路の阻害剤を含まない、または実質的に含まない。一実施形態では、前記培養プラットフォームは、GSK-3阻害剤、MEK阻害剤、およびRhoキナーゼ(ROCK)阻害剤を含む、ナイーブ型hiPSCを維持するための播種用培地を含む。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、TGFβR/ALK5阻害剤が、再プログラム化の効率を増加させる一方で、万能性細胞集団の長期の維持、質および均一性を妨害することを見出した。すなわち、TGFβ経路シグナル伝達の阻害は細胞の再プログラム化の効率を向上させたが、その一方で、この阻害の軽減は、その後の、インビトロ培養系での、特に、自発的分化が減少しており、且つ、「基底」または「ナイーブ」な万能性状態を保っている均一な万能性集団が好ましい、フィーダー細胞を含まない単一細胞の酵素的継代を用いる系での、万能性細胞集団の維持に寄与する。本明細書で使用される場合、限定はされないが継代数によって計られる、用語「長期」は、しばしば、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、少なくとも50、またはそれ以上の継代を意味する。定義の通り、「継代」は、細胞が望ましい程度にまで増殖した際に、細胞を複数の細胞培養面または容器に小分けして播種する行為を指す。加えて、本明細書に開示されているように、GSK3阻害剤およびMEK阻害剤、並びに所望によりROCK阻害剤を含むが、TGFβR/ALK5阻害剤を含まない培地中で、準安定な万能性細胞を培養することで、遷移万能性細胞は、自発的分化の減少を達成し、且つ/または、基底状態の万能性を達成する。
【0183】
EB中間体を形成させずにiPSCを分化させることによって造血系細胞を得るためには、iPSCの基底またはナイーブ型の万能性を達成させることも重要となる。加えて、ナイーブ型iPSCの運命確定HEへの分化効率も、EBおよびその凝集塊を形成させない単層培養の使用によって、大きな影響を受ける。いくつかの実施形態では、前記培養プラットフォームは、ROCK阻害剤を含み、且つ、TGFβR/ALK5阻害剤を含まない、または本質的に含まない、培地を含む。いくつかの他の実施形態では、前記培養プラットフォームは、GSK3阻害剤を含むが、TGFβR/ALK5阻害剤を含まず、且つ、本明細書において提供される培養プラットフォームの使用により運命確定HE細胞および/または運命確定HSC細胞の発生を促進する、培地を含む。
1.TGFβ受容体/ALK阻害剤
【0184】
TGFβ受容体(例えば、ALK5)阻害剤には、TGFβ受容体(例えば、ALK5)に対する抗体、TGFβ受容体(例えば、ALK5)のドミナントネガティブな変異体、および、TGFβ受容体(例えば、ALK5)の発現を抑制するアンチセンス核酸が包含され得る。例示的なTGFβ受容体/ALK阻害剤としては、SB431542(例えば、Inman, et al., Molecular Pharmacology 62(1):65-74 (2002)を参照);A-83-01、別名3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド(例えば、Tojo, et al., Cancer Science 96(11):791-800 (2005)を参照、および、例えば、トクリス・バイオサイエンス社(Tocris Bioscience)から市販);2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン;Wnt3a/BIO(例えば、参照によって本明細書に援用される、Dalton, et al.、WO2008/094597を参照);GW788388(-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド)(例えば、Gellibert, et al., Journal of Medicinal Chemistry 49(7):2210-2221 (2006)を参照);SM16(例えば、Suzuki, et al., Cancer Research 67(5):2351-2359 (2007)を参照);IN-1130(3-((5-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(キノキサリン-6-イル)-1H-イミダゾール-2-イル)メチル)ベンズアミド)(例えば、Kim, et al., Xenobiotica 38(3):325-339 (2008)を参照);GW6604(2-フェニル-4-(3-ピリジン-2-イル-1H-ピラゾール-4-イル)ピリジン)(例えば、de Gouville, et al., Drug News Perspective 19(2):85-90 (2006)を参照);SB-505124(2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジンハイドロクロライド)(例えば、DaCosta, et al., Molecular Pharmacology 65(3):744-752 (2004)を参照);および、ピリミジン誘導体(例えば、参照によって本明細書に援用される、Stiefl, et al.、WO2008/006583に列挙されるものを参照)が挙げられるが、これらに限定はされない。さらに、「ALK5阻害剤」に非特異的なキナーゼ阻害剤が包含されることは意図されていないが、「ALK5阻害剤」には、例えばSB-431542(例えば、Inman, et al., J, Mol. Pharmacol. 62(1): 65-74 (2002)を参照)等の、ALK5に加えてALK4および/またはALK7を阻害する阻害剤が包含されると理解されるべきである。本発明の範囲を限定することを意図するものではないが、ALK5阻害剤は間葉上皮転換/移行(MET)プロセスに影響を与えると考えられている。TGFβ/アクチビン経路は上皮間葉転換(EMT)の駆動体である。従って、TGFβ/アクチビン経路の阻害はMET(すなわち再プログラム化)プロセスを促進する可能性がある。
【0185】
ALK5阻害の効果を示すデータから、TGFβ/アクチビン経路の阻害は同様のALK5阻害効果を与えると考えられる。すなわち、TGFβ/アクチビン経路のあらゆる阻害剤(例えば、上流または下流)が、本明細書の各小項目に記載されるALK5阻害剤と組み合わせて、またはそれの代わりに、使用可能である。例示的なTGFβ/アクチビン経路阻害剤として、TGFβ受容体阻害剤、SMAD2/3リン酸化の阻害剤、SMAD2/3およびSMAD4の相互作用の阻害剤、並びにSMAD6およびSMAD7の活性化剤/アゴニストが挙げられるが、これらに限定はされない。さらに、下記の分類は単に組織化を目的としており、当業者であれば、化合物が経路内の1または複数の点に影響を与える可能性があること、および、故に化合物が定義された分類の2つ以上において機能し得ること、を知っているだろう。
【0186】
TGFβ受容体(TGFβR)阻害剤には、TGFβ受容体に対する抗体、TGFβ受容体のドミナントネガティブな変異体、および、TGFβ受容体を標的とするsiRNAまたはアンチセンス核酸が包含され得る。TGFβ受容体阻害剤の具体例として、SU5416;2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジンハイドロクロライド(SB-505124);レルデリムマブ(lerdelimumb)(CAT-152);メテリムマブ(metelimumab)(CAT-192);GC-1008;ID11;AP-12009;AP-11014;LY550410;LY580276;LY364947;LY2109761;SB-505124;SB-431542;SD-208;SM16;NPC-30345;Ki26894;SB-203580;SD-093;グリーベック(Gleevec);3,5,7,2’,4’-ペンタヒドロキシフラボン(Morin);アクチビン-M108A;P144;可溶性TBR2-Fc;および、TGFβ受容体を標的とするアンチセンス導入腫瘍細胞(例えば、Wrzesinski, et al., Clinical Cancer Research 13(18):5262-5270 (2007); Kaminska, et al., Acta Biochimica Polonica 52(2):329-337 (2005);およびChang, et al., Frontiers in Bioscience 12:4393-4401 (2007)を参照)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0187】
SMAD2/3リン酸化の阻害剤には、SMAD2またはSMAD3に対する抗体、SMAD2またはSMAD3のドミナントネガティブな変異体、およびSMAD2またはSMAD3を標的とするアンチセンス核酸が包含され得る。阻害剤の具体例としては、PD169316;SB203580;SB-431542;LY364947;A77-01;および3,5,7,2’,4’-ペンタヒドロキシフラボン(Morin)(例えば、参照によって本明細書に援用される、Wrzesinski、同上;Kaminska、同上;Shimanuki, et al., Oncogene 26:3311-3320 (2007);およびKataoka, et al.、EP1992360を参照)が挙げられる。
【0188】
SMAD2/3およびSMAD4の相互作用の阻害剤には、SMAD2、SMAD3および/またはsmad4に対する抗体、SMAD2、SMAD3および/またはsmad4のドミナントネガティブな変異体、並びにSMAD2、SMAD3および/またはsmad4を標的とするアンチセンス核酸が包含され得る。SMAD2/3およbSMAD4の相互作用の阻害剤の具体例として、Trx-SARA、Trx-xFoxH1bおよびTrx-Lef1(例えば、Cui, et al., Oncogene 24:3864-3874 (2005)およびZhao, et al., Molecular Biology of the Cell, 17:3819-3831 (2006)を参照)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0189】
SMAD6およびSMAD7の活性化剤/アゴニストには、限定はされないが、SMAD6またはSMAD7のドミナントネガティブな変異体に対する抗体、およびSMAD6またはSMAD7を標的とするアンチセンス核酸に対する抗体が包含される。阻害剤の具体例として、Smad7-as PTO-オリゴヌクレオチド(Smad7-as PTO-oligonucleotide)(例えば、共に参照によって本明細書に援用される、Miyazono, et al.、US6534476、およびSteinbrecher, et al.、US2005119203を参照)が挙げられるが、これにらに限定はされない。
2.WNT経路アゴニスト
【0190】
本明細書で使用される場合、用語「Wntシグナル促進剤」、「Wnt経路活性化剤(activator)」、「Wnt経路活性化剤(activating agent)」、または「Wnt経路アゴニスト」は、Wntシグナル経路のアゴニストを指し、Wntl、Wnt2、Wnt2b/13、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt7c、Wnt8、Wnt8a、Wnt8b、Wnt8c、Wnt10a、Wntl0b、Wnt11、Wnt14、Wnt15、およびWnt16のうちの1または複数のアゴニストを包含し、これらに限定されない。Wnt経路アゴニストにはさらに、限定はされないが、以下のポリペプチドまたはその断片のうちの1または複数が包含される:Dkkポリペプチド、クレセントポリペプチド(crescent polypeptide)、ケルベロスポリペプチド(cerberus polypeptide)、アキシンポリペプチド(axin polypeptide)、Frzbポリペプチド、T細胞因子ポリペプチド(T-cell factor polypeptide)、またはドミナントネガティブ・ディシェベルドポリペプチド(dominant negative disheveled polypeptide)。
【0191】
Wnt経路アゴニストの非限定例として、以下のうちの1または複数がさらに包含される:Wntポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、Wntポリペプチドのアミノ酸配列を含むポリペプチド、活性化Wnt受容体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、活性化Wnt受容体のアミノ酸配列を含むポリペプチド、Wnt/β-カテニンシグナル伝達を促進する有機小分子、Wntアンタゴニストの発現または活性を阻害する有機小分子、Wntアンタゴニストの発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド、Wntアンタゴニストの発現を阻害するリボザイム、Wntアンタゴニストの発現を阻害するRNAiコンストラクト、siRNA、またはshRNA、Wntアンタゴニストに結合してその活性を阻害する抗体、β-カテニンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、β-カテニンポリペプチドのアミノ酸配列を含むポリペプチド、Lef-1ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、およびLef-1ポリペプチドのアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【0192】
Wnt経路アゴニストには、例えば、ドミナントネガティブなGSK-3、GSK3α、またはGSK3ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、ドミナントネガティブなGSK-3、GSK3α、またはGSK3ポリペプチドのアミノ酸配列を含むポリペプチド、GSK-3、GSK3α、またはGSK3に結合してその発現または活性を阻害する有機小分子、GSK-3、GSK3α、またはGSK3に結合してその発現および/または活性を阻害するRNAiコンストラクト、siRNA、またはshRNA、GSK-3、GSK3α、またはGSK3に結合してその発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド、GSK-3、GSK3α、またはGSK3に結合してその発現および/または活性を阻害する抗体、GSK-3、GSK3α、またはGSK3に結合してその発現を阻害するリボザイム、並びに、GSK-3阻害と効果が似ているβ-カテニン標的遺伝子を活性化するあらゆるGSK-3非依存的な試薬等の、GSK3阻害剤がさらに包含される。
3.GSK3阻害剤
【0193】
GSK3阻害剤は、本明細書において企図される組成物での使用に適したWnt経路アゴニストの具体例であり、例えば、限定はされないが、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、および小分子を包含し得る。本明細書において企図されるGSK3阻害剤は、GSK3α/β発現および/またはGSK3α/β活性を減少させ得る。本明細書において企図されるGSK3阻害剤の例示として、限定はされないが、抗GSK3抗体、ドミナントネガティブなGSK3変異体、GSK3を標的とするsiRNA、shRNA、miRNAおよびアンチセンス核酸が挙げられる。
【0194】
他の例示的なGSK3阻害剤として、ケンパウロン(Kenpaullone)、l-アザケンパウロン(l-Azakenpaullone)、CHIR99021、CHIR98014、AR-A014418、CT99021、CT20026、SB216763、AR-A014418、リチウム、TDZD-8、BIO、BIO-アセトキシム(BIO-Acetoxime)、(5-メチル-lH-ピラゾール-3-イル)-(2-フェニルキナゾリン-4-イル)アミン、ピリドカルバゾール-シクロペナジエニルルテニウム複合体(pyridocarbazole- cyclopenadienylruthenium complex)、TDZD-8 4-ベンジル-2-メチル-l,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン、2-チオ(3-ヨードベンジル)-5-(l-ピリジル)-[l,3,4]-オキサジアゾール、OTDZT、α-4-ジブロモアセトフェノン、AR-AO 144-18、3-(l-(3-ヒドロキシプロピル)-lH-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル]-4-ピラジン-2-イル-ピロール-2,5-ジオン、TWS119 ピロロピリミジン化合物、L803 H-KEAPPAPPQSpP-NH2またはそのミリストイル化形態、2-クロロ-l-(4,5-ジブロモ-チオフェン-2-イル)-エタノン、GF109203X、RO318220、TDZD-8、TIBPO、およびOTDZTが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0195】
特定の例示的な実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99021、BIO、またはケンパウロンである。
【0196】
好ましい実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99021である。
【0197】
別の実施形態では、前記GSK3阻害剤はBRD0705である。
4.ERK/MEK阻害剤
【0198】
本明細書において企図される組成物での使用に適したERK/MEK阻害剤は、限定はされないが、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、および小分子を包含する。本明細書において企図されるERK/MEK阻害剤は、MEKもしくはERKの発現および/またはMEKもしくはERKの活性を減少させ得る。本明細書において企図されるMEK/ERK阻害剤の例示として、限定はされないが、抗MEK抗体または抗ERK抗体、ドミナントネガティブなMEK変異体またはERK変異体、MEKまたはERKを標的とするsiRNA、shRNA、miRNAおよびアンチセンス核酸が挙げられる。
【0199】
他の例示的なERK/MEK阻害剤として、限定はされないが、PD0325901、PD98059、UO126、SL327、ARRY-162、PD184161、PD184352、スニチニブ、ソラフェニブ、バンデタニブ、パゾパニブ、アキシチニブ、GSKl 120212、ARRY-438162、RO5126766、XL518、AZD8330、RDEAl 19、AZD6244、FR180204およびPTK787が挙げられる。
【0200】
さらなる例示的なMEK/ERK阻害剤として、国際公開第99/01426号、同第02/06213号、同第03/077914号、同第05/051301号および同第2007/044084号に開示されている化合物が包含される。
【0201】
MEK/ERK阻害剤のさらなる例示として、以下の化合物が挙げられる:6-(4-ブロモ-2-クロロ-フェニルアミノ)-7-フルオロ-3-メチル-3H-ベンゾイミダゾール-5-カルボン酸(2,3-ジヒドロキシ-プロポキシ)-アミド、6-(4-ブロモ-2-クロロ-フェニルアミノ)-7-フルオロ-3-(テトラヒドロ-ピラン-2-イルメエチル)-3H-ベンゾイミダゾール-5-カルボン酸(2-ヒドロキシ-エトキシ)-アミド、1-[6-(4-ブロモ-2-クロロ-フェニルアミノ)-7-フルオロ-3-メチル-3H-ベンゾイミダゾール-5-イル]-2-ヒドロキシ-エタノン、6-(4-ブロモ-2-クロロ-フェニルアミノ)-7-フルオロ-3-メチル-3H-ベンゾイミダゾール-5-カルボン酸(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチル-エトキシ)-アミド、6-(4-ブロモ-2-クロロ-フェニルアミノ)-7-フルオロ-3-(テトラヒドロ-フラン-2-イルメチル)-3H-ベンゾイミダゾール-5-カルボン酸(2-ヒドロキシ-エトキシ)-アミド、6-(4-ブロモ-2-フルオロ-フェニルアミノ)-7-フルオロ-3-メチル-3H-ベンゾイミダゾール-5-カルボン酸(2-ヒドロキシ-エトキシ)-アミド、6-(2,4-ジクロロ-フェニルアミノ)-7-フルオロ-3-メチル-3H-ベンゾイミダゾール-5-カルボン酸(2-ヒドロキシ-エトキシ)-アミド、6-(4-ブロモ-2-クロロ-フェニルアミノ)-7-フルオロ-3-メチル-3H-ベンゾイミダゾール-5-カルボン酸(2-ヒドロキシ-エトキシ)-アミド、以下、MEK阻害剤1、2-[(2-フルオロ-4-ヨードフェニル)アミノ]-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド(以下、MEK阻害剤2)、4-(4-ブロモ-2-フルオロフェニルアミノ)-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-1,5-ジメチル-6-オキソ-1,6-ジヒドロピリダジン-3-カルボキサミド、およびこれらの薬剤的に許容できる塩。
【0202】
好ましい実施形態では、前記MEK/ERK阻害剤はPD98059である。
5.ROCK阻害剤
【0203】
Rho関連キナーゼ(ROCK)は、Rhoキナーゼの下流エフェクターとして働くセリントレオニンキナーゼである(3つのアイソフォームが存在する(RhoA、RhoBおよびRhoC))。本明細書において企図される組成物での使用に適したROCK阻害剤は、限定はされないが、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、および小分子を包含する。本明細書において企図されるROCK阻害剤は、ROCK発現および/またはROCK活性を減少させ得る。本明細書において企図されるROCK阻害剤の例示として、限定はされないが、抗ROCK抗体、ドミナントネガティブなROCK変異体、ROCKを標的とするsiRNA、shRNA、miRNAおよびアンチセンス核酸が挙げられる。
【0204】
本明細書において企図される例示的なROCK阻害剤として、限定はされないが、チアゾビビン、Y27632、ファスジル(Fasudil)、AR122-86、Y27632 H-1152、Y-30141、Wf-536、HA-1077、ヒドロキシル-HA-1077、GSK269962A、SB-772077-B、N-(4-ピリジル)-N’-(2,4,6-トリクロロフェニル)ウレア、3-(4-ピリジル)-1H-インドール、および(R)-(+)-トランス-N-(4-ピリジル)-4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキサミド、並びに、参照によってその全体が本明細書に援用される米国特許第8,044,201号に開示されているROCK阻害剤が挙げられる。
【0205】
一実施形態では、前記ROCK阻害剤はチアゾビビン、Y27632、またはピリンテグリン(pyrintegrin)である。
【0206】
好ましい実施形態では、前記ROCK阻害剤はチアゾビビンである。
【0207】
本明細書において企図される組成物および細胞培養培地中のこれらの小分子の含量は変動させることができ、使用される特定の分子および組み合わせ、培地中で培養される細胞の種類、および特定の適用を包含する特定の培養条件に応じて最適化されてよい。一実施形態では、小分子は、万能性の誘導、再プログラム化の効率の向上、細胞の分化能の増加もしくは維持、または基底状態の万能性の誘導もしくは維持のために十分な濃度で、組成物中に存在する。
【0208】
本発明の別の態様は、本発明と共に使用されるNotch活性化剤に関する。Notchには、Notch1を含むがこれに限定はされない、Notch受容体ファミリーの全てのメンバーが包含される。Notch活性化剤としては、限定はされないが、Notch受容体のアゴニストが挙げられる。前記Notchアゴニストは、Notch受容体と結合し、さらに、例えばNotchの細胞内ドメインの切断および核への移行等を引き起こす、該Notch受容体と関連したシグナル伝達事象を惹起または媒介する。Notch活性化剤としては、限定はされないが、Jag1、Jag2、DLL-1、DLL-3およびDLL-4が挙げられる。Notch活性化剤としては、限定はされないが、その開示が参照によって本明細書に援用される、EP2606884、US6689744、およびUS5780300に開示されているものが挙げられる。いくつかの実施形態では、Notchリガンドのうちの1または複数が、可溶性ペプチドとして導入、または固形材上に固定化され得る。前記固形材には、限定はされないが、ポリスチレン製プレート、またはビーズが包含され得る。Notchリガンド固定化用のビーズは、アガロースビーズ、磁気ビーズ、およびラテックスビーズであり得る。一実施形態では、前記Notchリガンドペプチドはビーズに結合/固定化される。別の実施形態では、前記Notchリガンドペプチドはポリスチレン製プレートの表面に結合/固定化される。いくつかの実施形態では、Notchリガンドの固定化は非共有結合的である。いくつかの実施形態では、前記Notchリガンドペプチドは細胞によって与えられる。
【0209】
本発明のさらに別の態様は、BMP経路活性化剤に関し、例えば、その開示が参照によって本明細書に援用される以下の公報に開示されている剤が挙げられる:国際公開第2014011540号、同第2014062138号、および同第2005117994号。本発明で使用されるBMP経路活性化剤としては、限定はされないが、BMP-5、BMP-6、BMP-7、BMP-8、BMP-2、およびBMP-4が挙げられる。本発明の1つの非限定的な実施形態では、前記BMP経路活性化剤はBMP-4である。BMPは多機能性サイトカインであり、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーである。骨形成タンパク質(BMP)受容体は、Smadの活性化を通じてBMPシグナル伝達を仲介する。BBMPリガンドはBMP受容体であるBMPRIおよびBMPRIIに結合する。BMPRIIのリン酸化の後、BMPRIの活性化が続く。リン酸化されたBMPRIが次に受容体活性化Smadタンパク質(R-Smad)をリン酸化し、これが共通介在物質-Smad(co-Smad)と結合し、核に進入することで、遺伝子発現が制御される。一実施形態では、前記BMP経路活性化剤はBMP4である。
【0210】
本発明は、iPSCから分化した運命確定HSCを経由して、または、iPSCから分化した運命確定造血内皮を経由して、iPSCから造血系細胞を得るための組成物を提供するものであり、これらのアプローチは各々、所望の細胞分化のためにiPSCからのEB形成を生じない。
6.hiPSC分化用プラットフォーム
I.iCD34プラットフォーム
【0211】
本発明の1つの態様は、万能性幹細胞を用いて運命確定造血内皮を得るための培養プラットフォームを提供する。本明細書で使用される場合、運命確定造血内皮は、運命確定HSC、造血性多能性前駆細胞(MPP)、T細胞前駆細胞、NK細胞前駆細胞、T細胞、NK細胞、NKT細胞、および/またはB細胞を含むがこれらに限定はされない、全ての造血細胞を生じる能力を有する、二次造血へと配向された造血細胞集団である。
【0212】
一実施形態では、iPSCを包含する万能性幹細胞を用いて運命確定造血内皮を得るための培養プラットフォームは、MEKi、GSKi、およびROCKiを含む播種用培地を含む。いくつかの実施形態では、前記播種用培地は、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない。一実施形態における、本発明の播種用培地中の前記小分子の組み合わせを、予定運命維持培地(Fate Maintenance Medium)(FMM)として表9に示す。前記培地の成分は、表1に示される濃度範囲内の量で培地中に存在し得る。一実施形態では、運命確定造血内皮を得るために使用されるiPSCは、予定運命再プログラム化培地(Fate Reprogramming Medium)(FRM)の使用によって発生し、さらにFMM中で維持されることで、iPSC細胞株の基底状態またはナイーブ状態が確立および維持された、且つ、本明細書に記載されるような段階特異的な分化に適した、細胞株であった。そのようにして得られた基底状態またはナイーブ型のiPSCは凍結保存に適している。本発明において、保存されたiPSC細胞株またはクローナルなiPSCは、後の運命確定造血内皮への分化のために、FMM中に播種され得る。
【表1】
【0213】
本発明の1つの態様は、iPSCを包含する万能性幹細胞からの中胚葉への分化および増殖のための培地を提供する。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。一実施形態では、前記培地は、BMP活性化剤、および所望によりbFGF、並びに、表2に示される組み合わせで小分子を含むCD34基本培地、を含む。いくつかの実施形態では、前記培地は細胞外マトリックスタンパク質を含む。他の実施形態では、本明細書における前記培地は、小分子、増殖因子、および/またはサイトカインを、表2に示される濃度範囲で含む。いくつかの実施形態では、前記培地は、ビトロネクチンがMatrigel(商標)に置換された、完全に定義されたものである。
【表2】
【0214】
一実施形態では、万能性幹細胞からの中胚葉の分化および増殖のための上記培地は、0.2~50ngのbFGFをさらに含む。
【0215】
本発明の1つの態様は、iPSCを包含する万能性幹細胞から運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を得るための培地を提供する。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。一実施形態では、前記培地はBMP活性化剤、Wnt経路活性化剤、およびbFGFを含む。一実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。一実施形態では、GSK3阻害剤を含む培地は、運命確定HEへの分化能を獲得するために、中胚葉細胞の分化決定の後に初めて適用される。一実施形態では、BMP活性化剤、GSK3阻害剤およびbFGFを含む前記培地は、表3に示される組み合わせで小分子を含むCD34基本培地をさらに含む。一実施形態では、上記の培地はTGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない。いくつかの実施形態では、前記培地は細胞外マトリックスタンパク質を含む。他の実施形態では、本明細書における前記培地は、小分子、増殖因子、および/またはサイトカインを、表11に示される濃度範囲で含む。いくつかの実施形態では、前記培地は、ビトロネクチンがMatrigel(商標)に置換された、完全に定義されたものである。
【表3】
【0216】
本発明の1つの態様は、中胚葉細胞から運命確定造血内皮を得るための培地を提供する。一実施形態では、前記培地は、ROCK阻害剤、並びにVEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含む。一実施形態では、前記培地は、VEGF、bFGF、SCF、IL6、IL11およびROCK阻害剤、並びに、表4に示される組み合わせで小分子を含むCD34基本培地、を含む。一実施形態では、ROCK阻害剤、並びにVEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含む前記培地は、Wnt経路活性化剤、IGF、およびEPOのうちの1または複数をさらに含む。いくつかの実施形態では、中胚葉細胞から運命確定HEを発生させるための培地は、ROCK阻害剤、Wnt経路活性化剤、VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11、並びに、IGFおよびEPOのうちの1または複数を含む。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はCHIR99021である。一実施形態では、VEGF、bFGF、SCF、IL6、IL11およびROCK阻害剤を含む前記培地は、Wnt経路活性化剤、TGFβ受容体/ALK阻害剤、IGF1、およびEPOのうちの1または複数を含まない。他の実施形態では、本明細書における前記培地は、小分子、増殖因子、および/またはサイトカインを、表4に示される濃度範囲で含む。
【表4】
【0217】
本発明の1つの態様は、運命確定造血内皮から多能性前駆細胞(MPP)を得るための培養プラットフォームを提供する。前記MPPは、好中球前駆細胞を包含する骨髄系にさらに分化させることができる。一実施形態では、前記培養プラットフォームは、(i)BMP活性化剤、ROCK阻害剤、並びに、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3LおよびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み、且つ、運命確定造血内皮からのプレHSCへの分化に適した、培地を含む(表5)。別の実施形態では、運命確定造血内皮をプレHSCに分化させるための培地を含む前記培養プラットフォームは、(ii)BMP活性化剤、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、およびIL11を含み、且つ、ROCK阻害剤を含まず、且つ、プレHSCからの多能性前駆細胞への分化に適した、培地をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はチアゾビビンまたはY27632である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632である。いくつかの実施形態では、前記BMP活性化剤はBMP4である。他の実施形態では、本明細書における前記培地は、小分子、増殖因子、および/またはサイトカインを、表5に示される濃度範囲で含む。
【表5】
II.iNK/iTプラットフォーム
【0218】
本発明の1つの態様は、運命確定造血内皮からT細胞前駆細胞またはT細胞を発生させるための培養プラットフォームを提供する。一実施形態では、前記培養プラットフォームは、(i)ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、およびIL7からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、BMP活性化剤を含み;且つ、運命確定造血内皮からのプレT細胞前駆細胞(pre-iproT)への分化に適した、培地;並びに/または、(ii)SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカインを含み、且つ、VEGF、bFGF、TPO、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1もしくは複数を含まず、且つ、前記プレT細胞前駆細胞のT細胞前駆細胞もしくはT細胞への分化に適した、培地、を含む(表6)。いくつかの実施形態では、運命確定HEをpre-iproTに分化させる前記培地は、ROCK阻害剤、SCF、Flt3L、TPO、およびIL7を含み;且つ、BMP活性化剤を含まない。いくつかの実施形態では、pre-iproTをT細胞前駆細胞またはT細胞に分化させる前記培地はSCF、Flt3L、およびIL7を含む。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はチアゾビビンまたはY27632である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632である。いくつかの実施形態では、前記BMP活性化剤はBMP4である。他の実施形態では、本明細書における前記培地は、小分子、増殖因子、および/またはサイトカインを、表6に示される濃度範囲で含む。
【表6】
【0219】
本発明の1つの態様は、運命確定造血内皮からNK細胞前駆細胞またはNK細胞を発生させるための培養プラットフォームを提供する。一実施形態では、前記培養プラットフォームは、(i)ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、BMP活性化剤を含み、且つ、運命確定造血内皮からのプレNK細胞前駆細胞(pre-iproNK)への分化に適した、培地;並びに、(ii)SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1もしくは複数の増殖因子およびサイトカインを含み、且つ、VEGF、bFGF、TPO、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1もしくは複数を含まず、且つ、前記プレNK細胞前駆細胞のNK細胞前駆細胞もしくはNK細胞への分化に適した、培地、を含む。いくつかの実施形態では、運命確定HEをpre-iproNKに分化させる前記培地は、ROCK阻害剤、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7、およびIL15を含み;且つ、BMP活性化剤を含まない。いくつかの実施形態では、pre-iproNKをNK細胞前駆細胞またはNK細胞に分化させる前記培地はSCF、Flt3L、およびIL15を含む。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はチアゾビビンまたはY27632である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632である。いくつかの実施形態では、前記BMP活性化剤はBMP4である。他の実施形態では、本明細書における前記培地は、小分子、増殖因子、および/またはサイトカインを、表7に示される濃度範囲で含む。
【表7】
【0220】
本発明の別の態様は、T細胞前駆細胞またはT細胞を得るための培養プラットフォームを提供するものであり、前記培養プラットフォームは、以下のうちの1または複数を含む:(i)SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み、且つ、VEGF、bFGF、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まず、または本質的に含まず、且つ、プレT細胞前駆細胞のT細胞前駆細胞またはT細胞への分化に適した、培地;(ii)ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、BMP活性化剤を含み、且つ、運命確定造血内皮のプレT細胞前駆細胞への分化に適した、培地;(iii)ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含み、且つ、中胚葉細からの運命確定造血内皮の分化および増殖に適した、培地;(iv)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、且つ、中胚葉細胞において運命確定造血内皮への分化能を得るのに適した、培地;(v)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含み、且つ、iPSCからの中胚葉細胞の発生および増殖に適した、培地;並びに、(vi)MEKi、GSKi、およびROCKiを含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まず、または本質的に含まず、且つ、ナイーブ型iPSCの播種および増殖に適した、培地。いくつかの実施形態では、上記の全ての培地は、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012またはBIOである。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はチアゾビビンまたはY27632である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632である。いくつかの実施形態では、前記BMP活性化剤はBMP4である。
【0221】
一実施形態では、T細胞前駆細胞またはT細胞を発生させるための前記培養プラットフォームは、(i)SCF、Flt3L、およびIL7を含み、且つ、VEGF、bFGF、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まず、または本質的に含まず、且つ、プレT細胞前駆細胞のT細胞前駆細胞またはT細胞への分化に適した、培地を含む。別の実施形態では、培地(i)を含む、T細胞前駆細胞またはT細胞を発生させるための前記培養プラットフォームは、(ii)ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望によりBMP活性化剤を含み;且つ、運命確定造血内皮のプレT細胞前駆細胞への分化に適した、培地をさらに含む。別の実施形態では、培地(i)および(ii)を含む、T細胞前駆細胞またはT細胞を発生させるための前記培養プラットフォームは、(iii)ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;所望により、Wnt経路活性化剤を含み、且つ、中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化および増殖に適した、培地をさらに含む。さらなる別の実施形態では、培地(i)、(ii)および(iii)を含む、T細胞前駆細胞またはT細胞を発生させるための前記培養プラットフォームは、(iv)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、且つ、中胚葉細胞において運命確定造血内皮への分化能を得るのに適した、培地をさらに含む。さらに別の実施形態では、培地(i)、(ii)、(iii)および(iv)を含む、T細胞前駆細胞またはT細胞を発生させるための前記培養プラットフォームは、(v)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含み、且つ、iPSCからの中胚葉細胞の発生および増殖に適した、培地をさらに含む。別の実施形態では、培地(i)、(ii)、(iii)、(iv)および(v)を含む、T細胞前駆細胞またはT細胞を発生させるための前記培養プラットフォームは、(vi)MEKi、GSKi、およびROCKiを含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まず、または本質的に含まず、且つ、ナイーブ型iPSCの播種および増殖に適した、培地をさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の全ての培地は、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012またはBIOである。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はチアゾビビンまたはY27632である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632である。いくつかの実施形態では、前記BMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、T細胞前駆細胞またはT細胞を発生させるための前記培養プラットフォーム中にNotch因子が使用される。いくつかの実施形態では、Jag1、Jag2、DLL-1、DLL-3およびDLL-4を包含するNotch因子を、可溶性ペプチド、ビーズに結合したペプチド、面に結合したペプチド、または細胞によって提示されたペプチドとして導入することができる。
【0222】
本発明の別の態様は、以下のうちの1または複数を含む、NK細胞前駆細胞またはNK細胞を得るための培養プラットフォームを提供する:(i)SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み、且つ、VEGF、bFGF、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まず、または本質的に含まず、且つ、プレNK細胞前駆細胞のNK細胞前駆細胞またはNK細胞への分化に適した、培地;(ii)ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、BMP活性化剤を含み、且つ、運命確定造血内皮のプレNK細胞前駆細胞への分化に適した、培地;(iii)ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、Wnt経路活性化剤を含み;且つ、中胚葉細からの運命確定造血内皮の分化および増殖に適した、培地;(iv)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、且つ、中胚葉細胞において運命確定造血内皮への分化能を得るのに適した、培地;(v)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含み、且つ、iPSCからの中胚葉細胞の発生および増殖に適した、培地;(vi)MEKi、GSKi、およびROCKiを含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まず、または本質的に含まず、且つ、ナイーブ型iPSCの播種および増殖に適した、培地。いくつかの実施形態では、上記の全ての培地は、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012またはBIOである。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はチアゾビビンまたはY27632である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632である。いくつかの実施形態では、前記BMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、ビーズ結合体、原形質膜粒子および/または抗原提示細胞の形態で導入された、NKの増殖、発生、および成熟を刺激するための、人工抗原のうちの1または複数を用いて、NK成熟が実行される。
【0223】
一実施形態では、NK細胞前駆細胞またはNK細胞を発生させるための前記培養プラットフォームは、(i)SCF、Flt3L、IL3、IL7およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み、且つ、VEGF、bFGF、BMP活性化剤およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まず、または本質的に含まず、且つ、プレNK細胞前駆細胞のNK細胞前駆細胞またはNK細胞への分化に適した、培地を含む。いくつかの実施形態では、ビーズ結合体、原形質膜粒子および/または抗原提示細胞の形態で導入された、NKの増殖、発生、および成熟を刺激するための、人工抗原のうちの1または複数を用いて、NK成熟が実行される。別の実施形態では、培地(i)を含む、NK細胞前駆細胞またはNK細胞を発生させるための前記培養プラットフォームは、(ii)ROCK阻害剤、VEGF、bFGF、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、BMP活性化剤を含み;且つ、運命確定造血内皮のプレNK細胞前駆細胞への分化に適した、培地をさらに含む。別の実施形態では、培地(i)および(ii)を含む、NK細胞前駆細胞またはNK細胞を発生させるための前記培養プラットフォームは、(iii)ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;且つ、所望によりWnt経路活性化剤を含み;且つ、中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化および増殖に適した、培地をさらに含む。さらなる別の実施形態では、培地(i)、(ii)および(iii)を含む、NK細胞前駆細胞またはNK細胞を発生させるための前記培養プラットフォームは、(iv)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、且つ、中胚葉細胞において運命確定造血内皮への分化能を得るのに適した、培地をさらに含む。さらに別の実施形態では、培地(i)、(ii)、(iii)および(iv)を含む、NK細胞前駆細胞またはNK細胞を発生させるための前記培養プラットフォームは、(v)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含み、且つ、iPSCからの中胚葉細胞の発生および増殖に適した、培地をさらに含む。別の実施形態では、培地(i)、(ii)、(iii)、(iv)および(v)を含む、NK細胞前駆細胞またはNK細胞を発生させるための前記培養プラットフォームは、(vi)MEKi、GSKi、およびROCKiを含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まず、または本質的に含まず、且つ、ナイーブ型iPSCの播種および増殖に適した、培地をさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の全ての培地は、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012またはBIOである。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はチアゾビビンまたはY27632である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632である。いくつかの実施形態では、前記BMP活性化剤はBMP4である。
【0224】
本発明の1つの態様は、運命確定造血内皮を発生させるための培養プラットフォームを提供し、前記培養プラットフォームは、以下のうちの1または複数を含む:(i)ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、Wnt経路活性化剤を含む、中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化および増殖のための培地;(ii)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含む、中胚葉細胞において運命確定造血系への分化能を得るための培地;(iii)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含む、ナイーブ型iPSCからの中胚葉細胞の分化および増殖のための培地;並びに、(iv)MEKi、GSKi、およびROCKiを含み、且つ、播種培養液はTGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、ナイーブ型iPSCの播種および増殖培養液。いくつかの実施形態では、前記運命確定造血内皮はCD34+である。いくつかの実施形態では、上記の全ての培地は、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012またはBIOである。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はチアゾビビンまたはY27632である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632である。いくつかの実施形態では、前記BMP活性化剤はBMP4である。
【0225】
一実施形態では、運命確定造血内皮を得るための前記培養プラットフォームは、(i)ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、Wnt経路活性化剤を含み;且つ、中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化および増殖に適した、培地を含む。一実施形態では、前記培地(i)を含む前記培養プラットフォームは、(ii)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、且つ、中胚葉細胞において運命確定造血系への分化能を得るのに適した、培地をさらに含む。別の実施形態では、前記培地(i)、および(ii)を含む前記培養プラットフォームは、(iii)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含み、且つ、ナイーブ型iPSCからの中胚葉細胞の分化および増殖に適した、培地をさらに含む。さらに別の実施形態では、前記培地(i)、(ii)および(iii)を含む前記培養プラットフォームは、(iv)、MEKi、GSKi、およびROCKiを含み、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含ず、または本質的に含まず、且つ、ナイーブ型iPSCの播種および増殖に適した、培地をさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の全ての培地は、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012またはBIOである。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はチアゾビビンまたはY27632である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632である。いくつかの実施形態では、前記BMP活性化剤はBMP4である。
【0226】
本発明の1つの態様は、CD34+運命確定造血内皮を発生させるための培養プラットフォームを提供し、前記培養プラットフォームは、以下のうちの1または複数を含む:(i)ROCK阻害剤;bFGF、VEGF、SCF、IGF、EPO、IL6、およびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、Wnt経路活性化剤を含み、運命確定造血内皮がCD34+運命確定造血内皮を含む、中胚葉細胞からの運命確定造血内皮の分化および増殖のための培地;(ii)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含む、中胚葉細胞において運命確定造血系への分化能を得るための培地;(iii)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含む、ナイーブ型iPSCからの中胚葉細胞の分化および増殖のための培地;並びに、(iv)MEKi、GSKi、およびROCKiを含み、且つ、播種培養液はTGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない、ナイーブ型iPSCの播種または増殖培養液。いくつかの実施形態では、上記の全ての培地は、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012またはBIOである。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はチアゾビビンまたはY27632である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632である。いくつかの実施形態では、前記BMP活性化剤はBMP4である。
【0227】
本発明の1つの態様は、中胚葉細胞を発生させるための培養プラットフォームを提供し、前記培養プラットフォームは以下のうちの1または複数を含む:(i)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含む、ナイーブ型iPSCからの中胚葉細胞の分化および増殖のための培地;並びに、(ii)MEKi、GSKi、およびROCKiを含み、且つ、播種培養液はTGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない、ナイーブ型iPSCの播種または増殖培養液。いくつかの実施形態では、上記の全ての培地は、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012またはBIOである。いくつかの実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99012である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はチアゾビビンまたはY27632である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632である。いくつかの実施形態では、前記BMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、中胚葉細胞を発生させるための前記培養プラットフォームは、(iii)BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含み、且つ、中胚葉細胞において運命確定造血系への分化能を得るための、培地をさらに含み得る。いくつかの実施形態では、BMP活性化剤、bFGF、およびGSK3阻害剤を含む前記培地はTGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない。
C.運命確定造血内皮、多能性前駆細胞、T細胞前駆細胞もしくはNK細胞前駆細胞、T細胞および/またはNK細胞を得る方法
【0228】
本発明は、1または複数の培地を含む多段階式培養プラットフォームを用いる、万能性幹細胞由来運命確定造血細胞を作製する方法を提供する。前記方法は無フィーダー条件に適している。前記方法はまた単層培養にも適しており、そのため、当該技術分野において公知の方法と比較して、万能性幹細胞の分化のためにEB形成または凝集中間体を必要としない。提供される前記方法は、多能性前駆細胞(iMPP)、ナチュラルキラー細胞前駆細胞(ipro-NK)、T細胞前駆細胞(ipro-T)、成熟NK細胞(iNK)および成熟T細胞(iT)へのさらなる分化が可能である、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮(iHE)、CD34+HE(iCD34)を、生み出し、同時に増殖させる。また本発明のさらなる態様は、万能性幹細胞由来CD34+、HE、HSC、および/またはMPPから分化した骨髄性細胞を作製する方法を提供する。
【0229】
一実施形態では、本発明は、単層培養において万能性細胞から造血系細胞を分化および増殖させるための方法を提供し、前記方法は、前記万能性細胞をBMP経路活性化剤、および所望により、bFGFと接触させることで、万能性幹細胞からの胚様体の形成無しに、万能性幹細胞由来中胚葉細胞を入手および増殖し、次に、BMP経路活性化剤、bFGF、およびWNT経路活性化剤と接触させることで、万能性幹細胞からの胚様体の形成無しに、運命確定造血内皮(HE)分化能を有する増殖した万能性幹細胞由来中胚葉細胞を得ること、を含む。後のbFGF、並びに所望により、ROCK阻害剤、および/またはWNT経路活性化剤、との接触により、運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞が運命確定HE細胞に分化し、これは分化中に増殖もする。
【0230】
EB形成は細胞増殖を引き起こさず、単層培養も可能でなく、且つ、手間がかかり低効率であることから、提供される造血系細胞を得るための方法はEBを介した万能性幹細胞分化よりも優れている。さらに、本発明によって、本明細書で提供される方法を用いる単層培養が、インビボでの長期間の造血性自己複製、再構成および生着を可能にする機能的な造血系細胞をもたらすことが開示された。
【0231】
以下で詳述されるように、本発明は、運命確定造血内皮の入手を介して万能性細胞から造血系細胞を得る方法を提供する。特に、本発明は、分化のためのEB形成が無い、万能性細胞からの造血系細胞の分化誘導法を提供する。
I.iCD34プラットフォーム
1.運命確定iHEの派生および増殖
【0232】
本発明の1つの態様は、最適化された多段階工程を用いて運命確定造血内皮(iHE)を作製する方法を提供する。概して、前記方法は万能性幹細胞が播種および増殖される第一工程から始まる。前記万能性幹細胞は次に中胚葉細胞に分化され、この工程中に増殖する。増殖した中胚葉集団は次に、運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉集団へと分化され、これが後に運命確定造血内皮へと分化および増殖される。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。本発明はさらに、運命確定造血内皮(iHE)を発生および増殖させる方法を提供し、前記方法は、万能性幹細胞由来中胚葉細胞を分化および増殖すること、並びに、運命確定iHE分化能を有する中胚葉細胞を得た後にこれをiHEに分化させること、を含む。あるいは、本発明は、運命確定造血内皮を発生および増殖させる方法を提供し、前記方法は、運命確定HE分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞を運命確定iHEに分化させることを含む。本明細書で開示される方法は、EBが形成されず、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない、最適化された単層iCD34培養プラットフォームを利用する。
【0233】
万能性幹細胞から運命確定造血内皮(iHE)を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、(1)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含む培地と細胞を接触させることで、万能性幹細胞から中胚葉集団を分化および増殖させること;(2)BMP活性化剤、Wnt経路活性化剤およびbFGFを含む培地と細胞を接触させることで、中胚葉集団を分化および増殖させて、前記中胚葉細胞に運命確定HE分化能を得ること;(3)ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含む培地と細胞を接触させることで、運命確定HE分化能を有する前記中胚葉細胞を運命確定HE細胞へと分化および増殖させること、を含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法から得られた前記iHE細胞はCD34を発現する。いくつかの実施形態では、上記の方法は、CD34、CD43、CD73、CXCR4、および/またはCD93を使用して、得られたiHE細胞を選別することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD43陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD73陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、CD73陰性、およびCXCR4陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、CD93-を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、GSK3阻害剤を含む培地と細胞の接触は、運命確定HE分化能を獲得するために、中胚葉細胞の分化決定の後に限る。いくつかの実施形態では、上記の方法は、播種されたiPSC、および/または中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、MEKi、GSKi、およびROCKiを含み、且つ、万能性幹細胞が増殖する培地と万能性細胞を接触させることにより、万能性幹細胞を播種することをさらに含む。
【0234】
播種された万能性幹細胞から運命確定造血内皮(iHE)を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、(1)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含む培地と万能性幹細胞を接触させることで、万能性幹細胞から中胚葉細胞を分化および増殖させること;(2)BMP活性化剤、Wnt経路活性化剤およびbFGFを含む培地と前記中胚葉細胞を接触させることで、運命確定iHE分化能を有する中胚葉細胞を得ること;(3)ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含む培地と前記中胚葉細胞を接触させることで、前記iHE分化能を有する中胚葉細胞から運命確定HE細胞を分化および増殖させること、を含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法から得られた前記iHE細胞はCD34を発現する。いくつかの実施形態では、上記の方法は、CD34、CD43、CD73、CXCR4、および/またはCD93を使用して、得られたiHE細胞を選別することをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記方法はCD34陽性を使用した選別をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD43陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD73陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、CD73陰性、およびCXCR4陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、上記の方法は、播種されたiPSC、および/または中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。
【0235】
万能性幹細胞由来中胚葉細胞から運命確定造血内皮(iHE)を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、(1)BMP活性化剤、Wnt経路活性化剤およびbFGFを含む培地と中胚葉細胞を接触させることで、運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞を得ること;(2)ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含む培地と中胚葉細胞を接触させることで、前記運命確定HE分化能を有する中胚葉細胞から運命確定HE細胞を分化および増殖させること、を含む。いくつかの実施形態では、上記の方法から得られた前記iHE細胞はCD34を発現する。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法は、CD34、CD43、CD73、CXCR4、および/またはCD93を使用して、得られたiHE細胞を選別することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD43陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD73陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、CD73陰性、およびCXCR4陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、上記の方法は、前記中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。
【0236】
万能性幹細胞由来中胚葉細胞において運命確定造血内皮(iHE)分化能を得る方法の1つの実施形態では、前記方法は、ROCK阻害剤;VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含む培地と中胚葉細胞を接触させ、その中で前記中胚葉細胞を増殖させること、を含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法から得られた前記iHE細胞はCD34を発現する。いくつかの実施形態では、上記の方法は、CD34、CD43、CD73、CXCR4、および/またはCD93を使用して、得られたiHE細胞を選別することをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、上記の方法は、前記中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。
2.運命確定造血内皮への分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞の派生および増殖
【0237】
本発明の1つの態様は、最適化された多段階工程を用いて万能性幹細胞由来中胚葉細胞を作製する方法を提供する。概して、前記方法は万能性幹細胞の播種から始まる。播種された万能性幹細胞は次に中胚葉に発生せられ、さらに、運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞へと分化される。あるいは、本発明は、播種された万能性幹細胞を中胚葉に分化させ、次に中胚葉を運命確定造血系分化能を有する中胚葉細胞に分化させることを含む、万能性幹細胞由来中胚葉細胞を作製する方法を提供する。本発明はさらに、運命確定HE分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞を作製する方法を提供し、前記方法は、万能性幹細胞由来中胚葉を運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞に分化させることを含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。本明細書で開示される方法は、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない、最適化されたiCD34培養プラットフォームを利用する。
【0238】
万能性幹細胞に由来する中胚葉細胞において運命確定造血内皮への分化能を得る方法の1つの実施形態では、前記方法は、(1)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含む培地と万能性幹細胞を接触させることで、万能性幹細胞から中胚葉細胞を分化および増殖させること;並びに、(2)BMP活性化剤、Wnt経路活性化剤およびbFGFを含む培地と前記細胞を接触させることで、前記中胚葉細胞において運命確定造血内皮への分化能を得ること、を含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、上記の方法は、前記万能性幹細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、MEKi、GSKi、およびROCKiを含む培地と細胞を接触させることにより、万能性幹細胞を播種することをさらに含む。
【0239】
万能性幹細胞由来中胚葉から運命確定造血内皮への分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、BMP活性化剤、Wnt経路活性化剤およびbFGFを含む培地と細胞を接触させることで、前記中胚葉を運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞に分化させることを含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、上記の方法は、前記中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。
3.万能性幹細胞から中胚葉の派生および増殖
【0240】
本発明の1つの態様は、最適化された多段階工程を用いて万能性幹細胞由来中胚葉を作製する方法を提供する。概して、前記方法は万能性幹細胞が播種される第一工程から始まり、播種された細胞は次に第二工程にて中胚葉に分化される。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。本明細書で開示される方法は、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない、最適化されたiCD34培養プラットフォームを利用する。
【0241】
万能性細胞から万能性幹細胞由来中胚葉を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含む培地と細胞を接触させることで、播種された万能性幹細胞から中胚葉細胞を分化および増殖させることを含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、上記の方法は、前記播種されたiPSCを約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記方法は、MEKi、GSKi、およびROCKiを含む培地と前記万能性細胞を接触させることで、前記iPSCを播種および増殖することをさらに含む。
4.造血性多能性前駆細胞(iMPP)の派生
【0242】
本発明の1つの態様は、最適化された多段階工程を用いて万能性幹細胞由来多能性前駆細胞(iMPP)を作製する方法を提供する。概して、前記方法は万能性幹細胞の播種から始まる。播種された細胞は中胚葉細胞へと増殖および分化せられる。前記中胚葉は運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞へと増殖および分化せられ、次いで、運命確定造血内皮へと分化せられる。前記運命確定HE細胞はプレHSCへと増殖および分化せられ、次いで、好中球前駆細胞を包含する骨髄性細胞に分化することが可能な多能性前駆細胞へと分化せられる。あるいは、本発明は、播種された万能性細胞を中胚葉に分化させること、中胚葉を運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞に分化させること、次いで、前記中胚葉細胞を運命確定iHEに分化させること、次いで、それをiMPPに分化させること、を含む、万能性幹細胞由来多能性前駆細胞(iMPP)を作製する方法を提供する。本発明はさらに、万能性幹細胞由来中胚葉を運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞に分化させること、次いで、前記中胚葉細胞を運命確定iHEに分化させること、次いで、それをiMPPに分化させること、を含む、万能性幹細胞由来iMPPを作製する方法を提供する。あるいは、本発明は、万能性幹細胞由来中胚葉細胞を運命確定iHEに分化させること、次いでそれをiMPPに分化させること、を含む、万能性幹細胞由来iMPPを作製する方法を提供する。さらに、本発明は、万能性幹細胞由来iHEをiMPPに分化させることを含む、万能性幹細胞由来iMPPを作製する方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。本明細書で開示される方法は、EBが形成されず、且つ、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない、最適化された単層iCD34培養プラットフォームを利用する。
【0243】
万能性幹細胞から造血多能性前駆細胞(iMPP)を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、(1)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含む培地と万能性細胞を接触させることで、万能性幹細胞から中胚葉細胞を分化および増殖させること;(2)BMP活性化剤、Wnt経路活性化剤およびbFGFを含む培地を中胚葉細胞と接触させることで、中胚葉細胞において運命確定造血内皮への分化能を得ること;(3)ROCK阻害剤、VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含む培地と細胞を接触させることで、前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞から運命確定HE細胞を分化および増殖させること;並びに、(4)BMP活性化剤、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3LおよびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数、並びに所望により、ROCK阻害剤を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をiMPPに分化させること、を含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、MEKi、GSKi、およびROCKiを含む培地と細胞を接触させることにより、万能性幹細胞を播種および増殖することをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、並びに、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3LおよびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をプレHSCに分化させることをさらに含む。他の実施形態では、前記運命確定HE細胞をプレHSCに分化させることを含む前記方法は、BMP活性化剤、並びにTPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含み、且つ、ROCK阻害剤を含まない、または本質的に含まない、培地と前記プレHSC細胞を接触させることで、前記プレHSCをiMPPに分化させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、上記の方法は、播種された万能性幹細胞、中胚葉、および/または運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法から得られた前記iHE細胞はCD34を発現する。いくつかの実施形態では、上記の方法は、CD34、CD43、CD73、CXCR4、および/またはCD93を使用して、得られたiHE細胞を選別することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD43陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD73陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、CD73陰性、およびCXCR4陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632またはチアゾビビンである。
【0244】
万能性幹細胞由来中胚葉から万能性幹細胞由来多能性前駆細胞(iMPP)を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、(1)BMP活性化剤、Wnt経路活性化剤およびbFGFを含む培地を中胚葉細胞と接触させることで、万能性幹細胞由来中胚葉細胞において運命確定造血内皮への分化能を得ること;(2)ROCK阻害剤、VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含む培地と細胞を接触させることで、前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞から運命確定HE細胞を分化および増殖させること;(3)BMP活性化剤、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3LおよびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数、並びに所望により、ROCK阻害剤を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をiMPPに分化させること、を含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法は、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、並びに、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3L、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をプレHSCに分化させることをさらに含む。他の実施形態では、前記運命確定HE細胞をプレHSCに分化させることを含む前記方法は、BMP活性化剤、並びにTPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含み、且つ、ROCK阻害剤を含まない、または本質的に含まない、培地と前記プレHSC細胞を接触させることで、前記プレHSCをiMPPに分化させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、上記の方法は、中胚葉、および/または運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。
【0245】
運命確定造血内皮への分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞から万能性幹細胞由来多能性前駆細胞(iMPP)を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、(1)VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数、ROCK阻害剤、並びに所望によりWnt経路活性化剤を含む培地と細胞を接触させることで、前記運命確定造血内皮への分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞から運命確定HE細胞を分化および増殖させること;並びに、(2)BMP活性化剤、並びにTPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3L、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数、並びに所望により、ROCK阻害剤を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をiMPPに分化させること、を含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法は、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、並びに、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3L、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をプレHSCに分化させることをさらに含む。他の実施形態では、前記運命確定HE細胞をプレHSCに分化させることを含む前記方法は、BMP活性化剤、並びにTPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含み、且つ、ROCK阻害剤を含まない、または本質的に含まない、培地と前記プレHSC細胞を接触させることで、前記プレHSCをiMPPに分化させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、上記の方法は、運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。
【0246】
万能性幹細胞由来運命確定HE細胞から万能性幹細胞由来多能性前駆細胞(iMPP)を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、BMP活性化剤、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3LおよびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数、並びに所望により、ROCK阻害剤を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をiMPPに分化させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法は、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、並びに、TPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3L、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をプレHSCに分化させることをさらに含む。他の実施形態では、前記運命確定HE細胞をプレHSCに分化させることを含む前記方法は、BMP活性化剤、並びにTPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含み、且つ、ROCK阻害剤を含まない、または本質的に含まない、培地と前記プレHSC細胞を接触させることで、前記プレHSCをiMPPに分化させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、上記の方法は、運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。
5.万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞(ipro-T)または万能性幹細胞由来T細胞の入手‐iCD34プラットフォームおよびiTプラットフォーム
【0247】
本発明の1つの態様は、最適化された多段階工程を用いて万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞(ipro-T)または万能性幹細胞由来T細胞を作製する方法を提供する。概して、前記方法は万能性幹細胞から始められ、それから中胚葉細胞が分化および増殖せられる。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。前記中胚葉は次に、運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞に分化せられる。前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞はその後、運命確定造血内皮に分化せられ、同時に前記培地中で増殖せられる。前記運命確定HE細胞は、次にpre-iproTに分化せられ、次いでT細胞前駆細胞(pro-T)に分化せられ、連続的に同一培地中でT細胞に分化せられ得る。あるいは、本発明は、播種された万能性幹細胞を中胚葉に分化させること、中胚葉を運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞に分化させること、次いで、前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞をiHEに分化させること、次いで、それをT細胞前駆細胞またはT細胞に分化させること、を含む、万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞(ipro-T)または万能性幹細胞由来T細胞を作製する方法を提供する。本発明はさらに、万能性幹細胞由来中胚葉を運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞に分化させること、次いで、これをiHEに分化させること、次いで、これをipro-TまたはT細胞に分化させること、を含む、万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞(ipro-T)または万能性幹細胞由来T細胞を作製する方法を提供する。あるいは、本発明は、運命確定造血内皮への分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞をiHEに分化させること、次いで、これをipro-TまたはT細胞に分化させること、を含む、万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞または万能性幹細胞由来T細胞を作製する方法を提供する。さらに、本発明は、万能性幹細胞由来iHEをipro-TまたはT細胞に分化させることを含む、万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞(ipro-T)または万能性幹細胞由来T細胞を作製する方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。本明細書で開示される方法は、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない、最適化されたiCD34培養プラットフォームを利用する。いくつかの実施形態では、Jag1、Jag2、DLL-1、DLL-3およびDLL-4を含むがこれらに限定はされないNotch因子を、可溶性ペプチド、ビーズに結合したペプチド、面に結合したペプチド、または細胞によって提示されたペプチドとして導入することができる。
【0248】
万能性幹細胞から万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞(ipro-T)または万能性幹細胞由来T細胞(iT)を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、(1)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含む培地と細胞を接触させることで、前記播種された万能性幹細胞を中胚葉に分化させること;(2)BMP活性化剤、Wnt経路活性化剤およびbFGFを含む培地と細胞を接触させることで、前記中胚葉を運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞に分化させること;(3)ROCK阻害剤、VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含む培地と細胞を接触させることで、前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を運命確定HE細胞に分化させること、並びに、(4)SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数、並びに所望により、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤からなる群から選択される1または複数の因子を含む培地と前記HE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をipro-TまたはiTに分化させること、を含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、MEKi、GSKi、およびROCKiを含む培地と細胞を接触させることで、万能性幹細胞を播種および増殖させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法は、ROCK阻害剤;SCF、Flt3L、TPO、IL7、VEGF、およびbFGFからなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりBMP活性化剤を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をpre-iproTに分化させることをさらに含む。他の実施形態では、前記運命確定HE細胞をpre-iproTに分化させることを含む前記方法は、SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含み、且つ、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まない、または本質的に含まない、培地とpre-iproT細胞を接触させることで、前記pre-iproTをipro-TまたはiTに分化させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、万能性幹細胞由来pro-Tを1または複数のNotch因子と含む。いくつかの実施形態では、前記Notch因子はJag1、Jag2、DLL-1、DLL-3、またはDLL-4である。いくつかの実施形態では、DLL-1およびDLL-4を、可溶性ペプチド、ビーズに結合したペプチド、面に結合したペプチド、または細胞によって提示されたペプチドとして導入することができる。いくつかの実施形態では、上記の方法は、播種された万能性幹細胞、中胚葉、および/または運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法から得られた前記iHE細胞はCD34を発現する。いくつかの実施形態では、上記の方法は、CD34、CD43、CD73、CXCR4、および/またはCD93を使用して、得られたiHE細胞を選別することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632またはチアゾビビンである。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。
【0249】
万能性幹細胞由来中胚葉から万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞(ipro-T)または万能性幹細胞由来T細胞を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、(1)BMP活性化剤、Wnt経路活性化剤およびbFGFを含む培地と細胞を接触させることで、前記中胚葉を運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞に分化させること;(2)ROCK阻害剤、VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含む培地と細胞を接触させることで、前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を運命確定HE細胞に分化させること、並びに、(3)SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数、並びに所望により、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤からなる群から選択される1または複数の因子を含む培地と前記HE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をipro-TまたはiTに分化させること、を含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法は、ROCK阻害剤;SCF、Flt3L、TPO、IL7、VEGF、およびbFGFからなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりBMP活性化剤を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をpre-iproTに分化させることをさらに含む。他の実施形態では、前記運命確定HE細胞をpre-iproTに分化させることを含む前記方法は、SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含み、且つ、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まない、または本質的に含まない、培地とpre-iproT細胞を接触させることで、前記pre-iproTをipro-TまたはiTに分化させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、万能性幹細胞由来pro-Tを1または複数のNotch因子と含む。いくつかの実施形態では、前記Notch因子はJag1、Jag2、DLL-1、DLL-3またはDLL-4である。いくつかの実施形態では、DLL-1およびDLL-4を、可溶性ペプチド、ビーズに結合したペプチド、面に結合したペプチド、または細胞によって提示されたペプチドとして導入することができる。いくつかの実施形態では、上記の方法は、中胚葉、および/または運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法から得られた前記iHE細胞はCD34を発現する。いくつかの実施形態では、上記の方法は、CD34、CD43、CD73、CXCR4、および/またはCD93を使用して、得られたiHE細胞を選別することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632またはチアゾビビンである。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。
【0250】
運命確定造血内皮への分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞から万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞(ipro-T)または万能性幹細胞由来T細胞(iT)を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、(1)ROCK阻害剤、VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含む培地と細胞を接触させることで、前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を運命確定HE細胞に分化させること;並びに、(2)SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数、並びに所望により、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤からなる群から選択される1または複数の因子を含む培地と前記HE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をipro-TまたはiTに分化させること、を含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法は、ROCK阻害剤;SCF、Flt3L、TPO、IL7、VEGF、およびbFGFからなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりBMP活性化剤を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をpre-iproTに分化させることをさらに含む。他の実施形態では、前記運命確定HE細胞をpre-iproTに分化させることを含む前記方法は、SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含み、且つ、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まない、または本質的に含まない、培地とpre-iproT細胞を接触させることで、前記pre-iproTをipro-TまたはiTに分化させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、万能性幹細胞由来pro-Tを1または複数のNotch因子と含む。いくつかの実施形態では、前記Notch因子はJag1、Jag2、DLL-1、DLL-3またはDLL-4である。いくつかの実施形態では、DLL-1およびDLL-4を、可溶性ペプチド、ビーズに結合したペプチド、面に結合したペプチド、または細胞によって提示されたペプチドとして導入することができる。いくつかの実施形態では、上記の方法は、前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法から得られた前記iHE細胞はCD34を発現する。いくつかの実施形態では、上記の方法は、CD34、CD43、CD73、CXCR4、および/またはCD93を使用して、得られたiHE細胞を選別することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632またはチアゾビビンである。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。
【0251】
万能性幹細胞由来HE細胞から万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞(ipro-T)または万能性幹細胞由来T細胞(iT)を作製する方法の一実施形態では、前記方法は、SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数、並びに所望により、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤からなる群から選択される1または複数の因子を含む培地と運命確定HE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をipro-TまたはTに分化させることを含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法は、ROCK阻害剤;SCF、Flt3L、TPO、IL7、VEGF、およびbFGFからなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりBMP活性化剤を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をpre-iproTに分化させることをさらに含む。他の実施形態では、前記運命確定HE細胞をpre-iproTに分化させることを含む前記方法は、SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含み、且つ、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まない、または本質的に含まない、培地とpre-iproT細胞を接触させることで、前記pre-iproTをipro-TまたはiTに分化させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、万能性幹細胞由来pro-Tを1または複数のNotch因子と含む。いくつかの実施形態では、前記Notch因子はJag1、Jag2、DLL-1、DLL-3またはDLL-4である。いくつかの実施形態では、DLL-1およびDLL-4を、可溶性ペプチド、ビーズに結合したペプチド、面に結合したペプチド、または細胞によって提示されたペプチドとして導入することができる。いくつかの実施形態では、上記の方法は、前記万能性幹細胞由来HE細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法から得られた前記iHE細胞はCD34を発現する。いくつかの実施形態では、上記の方法は、CD34、CD43、CD73、CXCR4、および/またはCD93を使用して、得られたiHE細胞を選別することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632またはチアゾビビンである。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。
6.万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞(ipro-NK)または万能性幹細胞由来NK細胞の入手‐iCD34プラットフォームおよびiNKプラットフォーム
【0252】
本発明の1つの態様は、最適化された多段階工程を用いて万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞(ipro-NK)または万能性幹細胞由来NK細胞(iNK)を作製する方法を提供する。概して、前記方法は万能性幹細胞から始められ、いくつかの実施形態では万能性幹細胞が播種される。前記万能性幹細胞は中胚葉細胞へと発生せられ、増殖せられた後、運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞に分化せられる。運命確定造血内皮が次に前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞から分化および増殖せられる。前記HE細胞はpre-iproNKへの、次いでNK細胞前駆細胞(pro-NK)への分化が可能であり、連続的に同一培地中でNK細胞に分化させることができる。あるいは、本発明は、播種された万能性幹細胞を中胚葉に分化させること、中胚葉を運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞に分化させること、次いで、前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞をiHEに分化させること、次いで、それをNK細胞前駆細胞に分化させること、を含む、万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞(ipro-NK)または万能性幹細胞由来NK細胞を作製する方法を提供する。本発明はさらに、万能性幹細胞由来中胚葉を運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞に分化させること、前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞をiHEに分化させること、次いで、これをipro-NKまたはiNKに分化させること、を含む、万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞(ipro-NK)または万能性幹細胞由来NK細胞を作製する方法を提供する。あるいは、本発明は、運命確定造血内皮への分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞をiHEに分化させること、次いで、これをipro-NK細胞またはiNKに分化させること、を含む、万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞またはiNKを作製する方法を提供する。さらに、本発明は、万能性幹細胞由来iHEをipro-NKまたはiNKに分化させることを含む、万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞(ipro-NK)または万能性幹細胞由来NK細胞を作製する方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、NK細胞前駆細胞を得るための前記培養プラットフォームは、ビーズ結合体、原形質膜粒子および/または抗原提示細胞の形態で導入される、NKの増殖、発生および成熟を刺激するための、人工抗原のうちの1または複数と、pro-NK細胞との接触により、派生中のNK細胞を含む。本明細書で開示される方法は、TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まない、または本質的に含まない、最適化されたiCD34培養プラットフォームを利用する。
【0253】
播種されたiPSCから万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞(ipro-NK)または万能性幹細胞由来NK細胞(iNK)を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、(1)BMP活性化剤、および所望によりbFGFを含む培地と細胞を接触させることで、万能性幹細胞から中胚葉細胞を分化および増殖させること;(2)BMP活性化剤、Wnt経路活性化剤およびbFGFを含む培地と中胚葉細胞を接触させることで、前記中胚葉細胞において運命確定造血内皮への分化能を得ること;(3)ROCK阻害剤、VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含む培地と細胞を接触させることで、前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞から運命確定HE細胞を分化および増殖させること;並びに、(4)SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数、並びに所望により、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤からなる群から選択される1または複数の因子を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をipro-NKまたはiNKに分化させること、を含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法は、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、並びに、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7、IL15、VEGF、およびbFGFからなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をpre-iproNKに分化させることをさらに含む。他の実施形態では、前記運命確定HE細胞をpre-iproNKに分化させることを含む前記方法は、SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含み、且つ、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まない、または本質的に含まない、培地とpre-iproNK細胞を接触させることで、前記pre-iproNKをpro-iNKまたはiNKに分化させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、NK細胞前駆細胞を得るための前記培養プラットフォームは、ビーズ結合体、原形質膜粒子および/または抗原提示細胞の形態で導入される、NKの増殖、発生および成熟を刺激するための、人工抗原のうちの1または複数と、pro-NK細胞との接触により、派生中のNK細胞を含む。一実施形態では、上記の方法は、MEKi、GSKi、およびROCKiを含む培地と万能性細胞を接触させることで、ナイーブ型万能性細胞を播種および増殖させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、播種されたiPSC、中胚葉、および/または運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法から得られた前記iHE細胞はCD34を発現する。いくつかの実施形態では、上記の方法は、CD34、CD43、CD73、CXCR4、および/またはCD93を使用して、得られたiHE細胞を選別することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD43陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD73陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、CD73陰性、およびCXCR4陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632またはチアゾビビンである。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。
【0254】
万能性幹細胞由来中胚葉から万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞(ipro-NK)または万能性幹細胞由来NK細胞(iNK)を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、(1)BMP活性化剤、Wnt経路活性化剤およびbFGFを含む培地と中胚葉を接触させることで前記中胚葉を分化させて、運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を得ること;(2)ROCK阻害剤、VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含む培地と細胞を接触させることで、前記運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を分化させて、運命確定HE細胞を得ること;並びに、(3)SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数、並びに所望により、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤からなる群から選択される1または複数の因子を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞を分化させて、ipro-NKまたはiNKを得ること、を含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法は、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、並びに、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7、IL15、VEGF、およびbFGFからなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をpre-iproNKに分化させることをさらに含む。他の実施形態では、前記運命確定HE細胞をpre-iproNKに分化させることを含む前記方法は、SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含み、且つ、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まない、または本質的に含まない、培地とpre-iproNK細胞を接触させることで、前記pre-iproNKをipro-NKまたはiNKに分化させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、NK細胞前駆細胞を得るための前記培養プラットフォームは、ビーズ結合体、原形質膜粒子および/または抗原提示細胞の形態で導入される、NKの増殖、発生および成熟を刺激するための、人工抗原のうちの1または複数と、pro-NK細胞との接触により、派生中のNK細胞を含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、中胚葉、および/または運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法から得られた前記iHE細胞はCD34を発現する。いくつかの実施形態では、上記の方法は、CD34、CD43、CD73、CXCR4および/またはCD93を使用して、得られたiHE細胞を選別することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD43陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD73陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、CD73陰性、およびCXCR4陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632またはチアゾビビンである。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。
【0255】
運命確定造血内皮への分化能を有する万能性幹細胞由来中胚葉細胞から万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞(ipro-NK)または万能性幹細胞由来NK細胞(iNK)を作製する方法の1つの実施形態では、前記方法は、(1)ROCK阻害剤、VEGF、bFGF、SCF、IL6、およびIL11からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数;並びに所望によりWnt経路活性化剤を含む培地と運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を接触させることで、運命確定HE細胞を分化および増殖させること;並びに、(2)SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数、並びに所望により、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤からなる群から選択される1または複数の因子を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をipro-NKまたはiNKに分化させること、を含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法は、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、並びに、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7、IL15、VEGF、およびbFGFからなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をpre-iproNKに分化させることをさらに含む。他の実施形態では、前記運命確定HE細胞をpre-iproNKに分化させることを含む前記方法は、SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含み、且つ、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まない、または本質的に含まない、培地とpre-iproNK細胞を接触させることで、前記pre-iproNKをipro-NKまたはiNKに分化させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、NK細胞前駆細胞を得るための前記培養プラットフォームは、ビーズ結合体、原形質膜粒子および/または抗原提示細胞の形態で導入される、NKの増殖、発生および成熟を刺激するための、人工抗原のうちの1または複数と、pro-NK細胞との接触により、派生中のNK細胞を含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、播種された万能性幹細胞、中胚葉、および/または運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法から得られた前記iHE細胞はCD34を発現する。いくつかの実施形態では、上記の方法は、CD34、CD43、CD73、CXCR4、および/またはCD93を使用して、得られたiHE細胞を選別することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD43陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD73陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、CD73陰性、およびCXCR4陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632またはチアゾビビンである。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。
【0256】
万能性幹細胞由来HE細胞から万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞(ipro-NK)または万能性幹細胞由来NK細胞(iNK)を作製する方法の一実施形態では、前記方法は、SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数、並びに所望により、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤からなる群から選択される1または複数の因子を含む培地と運命確定HE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をipro-NKまたはiNKに分化させることを含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、上記の方法は、BMP活性化剤、ROCK阻害剤、並びに、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7、IL15、VEGF、およびbFGFからなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含む培地とHE細胞を接触させることで、前記運命確定HE細胞をpre-iproNKに分化させることをさらに含む。他の実施形態では、前記運命確定HE細胞をpre-iproNKに分化させることを含む前記方法は、SCF、Flt3L、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される増殖因子およびサイトカインのうちの1または複数を含み、且つ、VEGF、bFGF、BMP活性化剤、およびROCK阻害剤のうちの1または複数を含まない、または本質的に含まない、培地とpre-iproNK細胞を接触させることで、前記pre-iproNKをipro-NKまたはiNKに分化させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、NK細胞前駆細胞を得るための前記培養プラットフォームは、ビーズ結合体、原形質膜粒子および/または抗原提示細胞の形態で導入される、NKの増殖、発生および成熟を刺激するための、人工抗原のうちの1または複数と、ipro-NK細胞との接触により、派生中のNK細胞を含む。いくつかの実施形態では、上記の方法は、播種された万能性幹細胞、中胚葉、および/または運命確定造血内皮への分化能を有する中胚葉細胞を約2%~約10%の低酸素分圧下に曝すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、上記の方法から得られた前記iHE細胞はCD34を発現する。いくつかの実施形態では、上記の方法は、CD34、CD43、CD73、CXCR4、および/またはCD93を使用して、得られたiHE細胞を選別することをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD43陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD73陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、CD73陰性、およびCXCR4陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記方法のBMP活性化剤はBMP4である。いくつかの実施形態では、前記Wnt経路活性化剤はGSK3阻害剤である。いくつかの実施形態では、前記ROCK阻害剤はY27632またはチアゾビビンである。いくつかの実施形態では、上記方法中の培地は、TGFβ受容体阻害剤を含まない、または本質的に含まない。
【0257】
上記に照らし合わせて、本明細書において企図される前記培養プラットフォームが与える利点の1つは、万能性幹細胞の分化のためのEB形成が無く、単一万能性細胞の培養、継代、および解離の生存度(viability)および生存(survival)が増強されることある。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞はiPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。いくつかの実施形態では、前記iPSCはゲノム改変される。いくつかの実施形態では、前記iPSCは特定のドナーまたは患者の免疫細胞から再プログラム化される。単一細胞懸濁液等、単一細胞への細胞の解離は、酵素的手段または機械的手段によって達成することができる。単一細胞に細胞を解離させる、当該技術分野において公知のいかなる酵素剤も、本発明の方法で使用されてよい。一実施形態では、前記解離剤は、トリプシン/EDTA、TrypLE-Select、コラゲナーゼIVおよびディスパーゼから選択される。本明細書において企図される方法に従って細胞を解離する際に、EDTA、Accutase、またはAccuMax等のキレート剤が、単独で、または酵素剤との組み合わせで、使用されてもよい。単一細胞への解離を促進するために、前記解離剤はカルシウムおよびマグネシウム非含有PBS中に溶解されてよい。解離中および解離後の細胞の生存を増強するために、いくつかの実施形態では、生存促進物質、例えば、1または複数の増殖因子、細胞死およびアポトーシスに関与する細胞経路の阻害剤、または条件培地、が添加される。一実施形態では、前記生存促進物質は、チアゾビビンを含むがこれに限定はされないROCK阻害剤である。
【0258】
いくつかの実施形態では、分化のための前記iPSCは遺伝的インプリントを含む。いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞の遺伝的インプリントは、(i)非万能性細胞からiPSCへの再プログラム化の間もしくは後の、万能性細胞のゲノムにおける、ゲノム内の挿入、欠失もしくは置換を通じて得られる、1もしくは複数の遺伝子改変されたモダリティ;または、(ii)ドナー特異的、疾患特異的、もしくは治療応答特異的である供給源特異的免疫細胞の1もしくは複数の保持可能な治療特性を含み、前記万能性細胞は前記供給源特異的免疫細胞から再プログラム化されたものであり、前記iPSCは前記供給源治療特性を保持しており、前記供給源治療特性は前記iPSCから派生した造血系細胞にも含まれる。いくつかの実施形態では、前記遺伝子改変されたモダリティは、以下のうちの一つまたは複数を含む:セーフティ・スイッチタンパク質、標的化モダリティ、受容体、シグナル伝達分子、転写因子、薬剤的に活性なタンパク質およびペプチド、薬物標的候補;または、iPSCもしくはその派生細胞の生着、輸送、ホーミング、生存度、自己複製、残留性、免疫応答の制御および調節、並びに/もしくは生存を促進するタンパク質。いくつかの他の実施形態では、前記遺伝子改変されたモダリティは、(i)B2M、TAP1、TAP2、タパシン、NLRC5、PD1、LAG3、TIM3、RFXANK、CITTA、RFX5、またはRFXAPの発現の欠失または減少;(ii)HLA-E、HLA-G、HACD16、41BBL、CD3、CD4、CD8、CD47、CD137、CD80、PDL1、A2AR、CAR、TCR、または二重特異性もしくは多重特異性エンゲージャーに対する表面上誘発受容体の発現の導入または増加、のうちの1または複数を含む。いくつかの実施形態では、前記表面上誘発受容体は普遍的、すなわち、あらゆるエフェクター細胞型と適合し、この普遍的表面上誘発受容体を発現するエフェクター細胞は、その細胞型に関係なく、同一の二重特異性または多重特異性エンゲージャーと結合できる。いくつかの実施形態では、前記普遍的表面上誘発受容体は抗エピトープおよび共刺激ドメインを含み、前記抗エピトープは前記二重特異性または多重特異性エンゲージャーのエピトープに対して特異的である。いくつかの実施形態では、前記普遍的表面上誘発受容体の共刺激ドメインは、標準もしくは非標準(non-cononical)の細胞活性化およびエフェクター細胞機能の増強のために、IL2を含む。さらに別のいくつかの実施形態では、前記造血系細胞は、以下のうちの一つまたは複数に関連する供給源特異的免疫細胞の治療特性を含む:(i)抗原標的受容体の発現;(ii)HLAの提示またはその欠如;(iii)腫瘍内微小環境に対する耐性;(iv)傍観者免疫細胞および免疫調節の誘導;(iv)腫瘍外効果の減少に伴う、対標的特異性の向上;(v)化学療法等の治療に対する耐性;並びに(vi)ホーミング、残留性、および細胞毒性の向上。
【0259】
いくつかの実施形態では、前記エンゲージャーは細胞型特異的である、すなわち、前記エンゲージャーは、特定の免疫細胞型に結合し、且つ/または、それを活性化する。特定の実施形態では、前記エンゲージャーは、細胞型非依存的である、すなわち、前記エンゲージャーは、複数の免疫細胞、例えば、T細胞、NK細胞、NKT細胞、B細胞、マクロファージ、または好中球に結合し、且つ/または、それを活性化する。
【0260】
いくつかの実施形態では、前記iPSCおよびその派生造血細胞は、B2Mヌル、HLA-E/G、PDL1、A2AR、CD47、LAG3ヌル、TIM3ヌル、TAP1ヌル、TAP2ヌル、タパシンヌル、NLRC5ヌル、PD1ヌル、RFKANKヌル、CITTAヌル、RFX5ヌルおよびRFXAPヌルのうちの1または複数を含む。改変HLAクラスIおよび/または改変HLAクラスIIを有するこれらの細胞は、免疫検出に対する耐性が増加していることから、インビボ残留性の向上を示す。さらに、そのような細胞は、養子細胞療法におけるHLA適合要求を回避可能であることから、普遍的な、既製の治療用投与計画の源を与える。
【0261】
いくつかの実施形態では、前記iPSCおよびその派生造血細胞は、HACD16、41BBL、CD3、CD4、CD8、CAR、TCR、CD137またはCD80のうちの1または複数を含む。そのような細胞は向上した免疫エフェクター能を有する。
【0262】
いくつかの実施形態では、前記iPSCおよびその派生造血細胞は、二重特異性または多重特異性エンゲージャーとの結合のための表面上誘発受容体を含む。そのような細胞は向上した腫瘍標的特異性を有する。
【0263】
いくつかの実施形態では、iPSCおよびその派生造血細胞は、抗原特異的である。
【0264】
細胞培養および培地収集の手法は、以下に概要がある:Hu et al., Curr. Opin. Biotechnol. 8:148, 1997; K. Kitano, Biotechnology 17:73, 1991; Curr. Opin. Biotechnol. 2:375, 1991; Birch et al., Bioprocess Technol. 19:251, 1990; “Teratocarcinomas and embryonic stem cells: A practical approach” (E. J. Robertson, ed., IRL Press Ltd. 1987); “Guide to Techniques in Mouse Development” (P. M. Wasserman et al. eds., Academic Press 1993); “Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro” (M. V. Wiles, Meth. Enzymol. 225:900, 1993); “Properties and uses of Embryonic Stem Cells: Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy” (P. D. Rathjen et al., al., 1993). Differentiation of stem cells is reviewed in Robertson, Meth. Cell Biol. 75:173, 1997;およびPedersen, Reprod. Fertil. Dev. 10:31, 1998。
【0265】
本発明では、明確な特徴付けをしながら細胞集団を濃縮するための戦略が、前記方法の種々の段階で提供される。一実施形態では、細胞集団から万能性幹細胞を濃縮する方法は、前記集団中の前記細胞を解離すること、および、前記細胞を再懸濁することによる、単一細胞懸濁液の作製を含む。解離された細胞は、細胞の維持または細胞選別の実行のために、あらゆる適切な溶液または培地に再懸濁させ得る。特定の実施形態では、前記万能性単一細胞懸濁液は、GSK3阻害剤、MEK阻害剤、およびRock阻害剤を含み、且つ、TFGβ阻害剤を含まない。ある特定の実施形態では、前記GSK3阻害剤はCHIR99021であり、前記MEK阻害剤はPD0325901であり、且つ/または、前記Rock阻害剤はチアゾビビンである。
【0266】
特定の実施形態では、細胞集団は選別により万能性細胞がポジティブに選択されており、且つ/または、前記集団は非再プログラム化細胞または非万能性細胞が枯渇しており、これにより、万能性細胞について濃縮された細胞集団が得られる。一実施形態では、単一細胞懸濁液が調製され、次に、例えば適切な抗体を用いる、万能性マーカーの染色等によって、前記単一細胞が選別用に準備される。細胞は、磁気ビーズ選別またはフローサイトメトリー(FACS)選別等によるあらゆる適切な細胞選別法によって、選別され得る。
【0267】
細胞は、1または複数の万能性マーカー、または細胞分化を示すマーカー、例えば、限定はされないが、SSEA3/4発現、TRA1-60/81発現、TRA1-85発現、TRA2-54発現、GCTM-2発現、TG343発現、TG30発現、CD9発現、CD29発現、CD133/プロミニン発現、CD140a発現、CD56発現、CD73発現、CD105発現、OCT4発現、NANOG発現、SOX2発現、KLF4発現、SSEA1発現(マウス)、CD30発現、SSEA5発現、CD90発現および/またはCD50発現、に基づいて選別され得る。種々の実施形態において、細胞は少なくとも2種、少なくとも3種、または少なくとも4種の万能性マーカーまたは分化マーカーに基づいて選別される。細胞は、ある特定の実施形態ではSSEA4の発現に基づいて選別され、ある特定の実施形態ではTRA1-81および/またはTRA1-60と組み合わされたSSEA4の発現に基づいて選別される。ある特定の実施形態では、細胞はSSEA4発現、TRA1-81発現、もしくはTRA1-60発現、および/またはCD30発現に基づいて選別される。一実施形態では、細胞はSSEA4、TRA1-81およびCD30に基づいて選別される。別の実施形態では、細胞はSSEA4、TRA1-60およびCD30に基づいて選別される。ある特定の実施形態では、1または複数の表面上分化マーカーを用いる細胞選別は、CD13、CD26、CD34、CD45、CD31、CD46およびCD7、並びに、SSEA4、TRA1-81および/またはCD30等の万能性マーカーを含むが、これらに限定はされない。
【0268】
いくつかの実施形態では、再プログラム化を起こしている細胞集団または万能性細胞集団は分化細胞が枯渇している。一実施形態では、万能性細胞集団または再プログラム化するよう誘導された細胞集団は、分化細胞の1または複数の細胞表面マーカーを有する細胞が枯渇している可能性がある。分化中細胞の細胞表面マーカーの例示として、CD13、CD26、CD34、CD45、CD31、CD46、およびCD7が挙げられるが、これらに限定はされない。特定の実施形態では、CD13は分化中細胞の表面マーカーとして使用される。
【0269】
他の実施形態では、細胞集団を、所望の系譜に分化するように誘導し、万能性細胞を枯渇させることで、分化中または分化後の細胞が濃縮された集団が得られる。いくつかの実施形態では、分化細胞集団は特定の系譜に分化するよう誘導されたESCまたはiPSC等の細胞集団を含む。いくつかの実施形態では、万能性マーカーに基づく磁気ビーズまたはFACによる前記集団における細胞選別等の、上記のネガティブ細胞選別法(「パニング」)を用いて、細胞集団から万能性細胞が枯渇され得る。いくつかの実施形態では、分化細胞を含む細胞集団が万能性マーカーを用いるFACによって選別され、万能性マーカーを発現する細胞が枯渇した画分が得られる。他の実施形態では、細胞集団が、CD13、CD26、CD34、CD45、CD31、CD46、およびCD7を含むがこれらに限定はされない系譜特異的マーカー等の、分化マーカーに基づくFACによって選別されて、万能性マーカーが枯渇した画分が得られる。本発明のいくつかの特定の実施形態では、CD13が分化中細胞の表面マーカーとして使用される。
D.本明細書で提供される方法およびプラットフォームから作製される細胞集団および細胞株
【0270】
いくつかの実施形態では、再プログラム化後に培養された前記細胞は、少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、少なくとも10日間、少なくとも11日間、少なくとも12日間、少なくとも15日間、少なくとも18日間、少なくとも20日間、少なくとも22日間、少なくとも24日間、少なくとも26日間、少なくとも28日間、少なくとも30日間、少なくとも32日間、少なくとも35日間、少なくとも40日間、少なくとも42日間、もしくは少なくとも45日間、または間にあるあらゆる日数間、分化するように誘導される。いくつかの実施形態では、再プログラム化後に培養された前記細胞は、約1~42日間、約2~40日間、約2~35日間、約2~20日間、約2~10日間、約4~30日間、約4~24日間、約6~22日間、または約8~約12日間、誘導される。いくつかの実施形態では、前記細胞はiPSCを含む万能性幹細胞である。いくつかの実施形態では、前記iPSCはナイーブ型iPSCである。一実施形態では、濃縮は、クローナルな万能性幹細胞由来分化中細胞コロニーを比較的短時間に得るための、それにより、種々の段階における万能性幹細胞由来分化細胞を生じさせる効率を向上させる、方法を提供する。一実施形態では、濃縮は、CD34を発現するHE細胞、CD34を発現するHSC細胞、T細胞前駆細胞またはNK細胞前駆細胞およびT細胞またはNK細胞を派生させるための、それにより、前記細胞集団の各々を作製する効率を向上させる、方法を提供する。濃縮は、細胞集団を選別して、分化段階/細胞型を示す特定の特徴的マーカーを発現する細胞を特定および入手することを含み得る。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34、CD43、CD73、CXCR4、および/またはCD93を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD43陰性を使用する。いくつかの実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD73陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、CD73陰性、およびCXCR4陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、CD43陰性、およびCD93陰性を使用する。いくつかの他の実施形態では、前記選別はCD34陽性、およびCD93陰性を使用する。さらなる濃縮法は、望まれない細胞型を表すマーカーを発現する細胞の枯渇により、濃縮された所望の細胞型集団を得ることを含む。
【0271】
従って、本発明の1つの態様は、以下の1または複数の細胞集団、細胞株、またはクローン細胞を含む組成物を提供する:(i)多能性前駆細胞への分化能を有し、且つ、CD34+CD43-である、万能性幹細胞由来CD34+HE細胞(iCD34);(ii)CD34+、且つ、CD93-、CXCR4-、CD73-、およびCXCR4-CD73-のうちの少なくとも1つである、万能性幹細胞由来運命確定造血内皮(iHE);(iii)CD34+CD45+である、万能性幹細胞由来多能性前駆細胞(iMPP);(v)CD34+CD45+CD7+である、万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞(ipro-T);(iv)CD45+CD4+CD3+またはCD45+CD8+CD3+である、万能性幹細胞由来T細胞(iT);(vi)CD45+CD56+CD7+CD3-である、万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞(ipro-NK);並びに、(vii)CD45+CD56+NKp46+である、万能性幹細胞由来NK細胞(iNK)。いくつかの実施形態では、上記の組成物、細胞集団、細胞株またはクローン細胞は凍結保存が可能である。いくつかの実施形態では、前記組成物、細胞集団、細胞株またはクローン細胞は、12時間超、24時間超、36時間超、48時間超の周囲保存条件は可能であるが、3日間超、4日間超、5日間超、6日間超、または1週間超の周囲保存条件は可能でない。
【0272】
本発明の別の態様は、以下のうちの1または複数を含む混合物を提供する:(i)万能性幹細胞由来CD34+HE細胞(iCD34)、並びに、iMPP-A、iTC-A2、iTC-B2、iNK-A2、およびiNK-B2から選択される1もしくは複数の培地;(ii)万能性幹細胞由来運命確定造血内皮(iHE)、並びに、iMPP-A、iTC-A2、iTC-B2、iNK-A2、およびiNK-B2から選択される1もしくは複数の培地;(iii)万能性幹細胞由来運命確定HSC、並びに、iMPP-A、iTC-A2、iTC-B2、iNK-A2、およびiNK-B2から選択される1もしくは複数の培地;(iv)万能性幹細胞由来多能性前駆細胞(iMPP)、およびiMPP-A;(v)万能性幹細胞由来T細胞前駆細胞(ipro-T)、並びに、iTC-A2、およびiTC-B2から選択される1もしくは複数の培地;(vi)万能性幹細胞由来T細胞(iTC)、およびiTC-B2;(vii)万能性幹細胞由来NK細胞前駆細胞(ipro-NK)、並びに、iNK-A2、およびiNK-B2から選択される1もしくは複数の培地;並びに/または、(viii)万能性幹細胞由来NK細胞(iNK)、およびiNK-B2。いくつかの実施形態では、前記培地:
a. iCD34-Cは、ROCK阻害剤、bFGF、VEGF、SCF、IL6、IL11、IGF、およびEPOからなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン、並びに所望により、Wnt経路活性化因子を含み;TGFβ受容体/ALK阻害剤を含まず;
b. iMPP-Aは、BMP活性化因子、ROCK阻害剤、並びにTPO、IL3、GMCSF、EPO、bFGF、VEGF、SCF、IL6、Flt3LおよびIL11からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み;
c. iTC-A2は、ROCK阻害剤;SCF、Flt3L、TPO、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、BMP活性化因子を含み;
d. iTC-B2は、SCF、Flt3L、およびIL7からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含み;前記組成物はVEGF、bFGF、BMP活性化因子、およびROCK阻害剤のうちの一つまたは複数を含まず;
e. iNK-A2は、ROCK阻害剤、並びにSCF、Flt3L、TPO、IL3、IL7、およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカイン;並びに所望により、BMP活性化因子を含み、
f. iNK-B2は、SCF、Flt3L、IL7およびIL15からなる群から選択される1または複数の増殖因子およびサイトカインを含む。
E.iPSC由来免疫細胞の治療用途
【0273】
本発明は、開示される方法および組成物を用いてiPSCから派生した、且つ、細胞に基づいた養子療法に好適である、免疫細胞の単離された集団または亜集団を含む組成物を提供する。一実施形態では、前記免疫細胞の単離された集団または亜集団は、iPSC由来HSC細胞を含む。一実施形態では、前記免疫細胞の単離された集団または亜集団は、iPSC由来T細胞を含む。一実施形態では、前記免疫細胞の単離された集団または亜集団は、iPSC由来NK細胞を含む。いくつかの実施形態では、前記iPSC由来免疫細胞は、治療能の向上のためにエキソビボでさらに調節される。一実施形態では、iPSCから派生した免疫細胞の単離された集団または亜集団は、ナイーブT細胞、幹細胞メモリーT細胞、および/またはセントラルメモリーT細胞の数または割合が増加している。一実施形態では、iPSCから派生した免疫細胞の単離された集団または亜集団は、I型NKT細胞の数または割合が増加している。別の実施形態では、iPSCから派生した免疫細胞の単離された集団または亜集団は、獲得NK細胞の数または割合が増加している。いくつかの実施形態では、iPSC由来のHSC細胞、T細胞、またはNK細胞の単離された集団または亜集団は、同種他家由来である。いくつかの他の実施形態では、iPSC由来のHSC細胞、T細胞、またはNK細胞の単離された集団または亜集団は、自己由来である。
【0274】
いくつかの実施形態では、分化用のiPSCは、エフェクター細胞において望ましい治療特性を伝達する遺伝的インプリントを含み、前記遺伝的インプリントは前記iPSCから派生した分化後の造血細胞において保持されており且つ機能的である。
【0275】
いくつかの実施形態では、前記万能性幹細胞の遺伝的インプリントは、(i)非万能性細胞からiPSCへの再プログラム化の間もしくは後の、万能性細胞のゲノムにおける、ゲノム内の挿入、欠失もしくは置換を通じて得られる、1もしくは複数の遺伝子改変されたモダリティ;または、(ii)ドナー特異的、疾患特異的、もしくは治療応答特異的である供給源特異的免疫細胞の1もしくは複数の保持可能な治療特性を含み、前記万能性細胞は前記供給源特異的免疫細胞から再プログラム化されたものであり、前記iPSCは前記供給源治療特性を保持しており、前記供給源治療特性は前記iPSCから派生した造血系細胞にも含まれる。
【0276】
いくつかの実施形態では、前記遺伝子改変されたモダリティは、以下のうちの一つまたは複数を含む:セーフティ・スイッチタンパク質、標的化モダリティ、受容体、シグナル伝達分子、転写因子、薬剤的に活性なタンパク質およびペプチド、薬物標的候補;または、iPSCもしくはその派生細胞の移植、輸送、ホーミング、生存度、自己複製、残留性、免疫応答の制御および調節、並びに/もしくは生存を促進するタンパク質。いくつかの他の実施形態では、前記遺伝子改変されたモダリティは、以下のうちの一つまたは複数を含む:(i)B2M、TAP1、TAP2、タパシン、NLRC5、PD1、LAG3、TIM3、RFXANK、CITTA、RFX5、またはRFXAPの発現の欠失または減少;(ii)HLA-E、HLA-G、HACD16、41BBL、CD3、CD4、CD8、CD47、CD137、CD80、PDL1、A2AR、CAR、TCR、または二重特異性もしくは多重特異性エンゲージャーとの結合のための表面上誘発受容体の導入または発現増加。
【0277】
さらに別のいくつかの実施形態では、前記造血系細胞は、以下のうちの一つまたは複数に関連する供給源特異的免疫細胞の治療特性を含む:(i)抗原標的受容体の発現;(ii)HLAの提示またはその欠如;(iii)腫瘍内微小環境に対する耐性;(iv)傍観者免疫細胞および免疫調節の誘導;(iv)腫瘍外効果の減少に伴う、対標的特異性の向上;(v)化学療法等の治療に対する耐性;並びに(vi)ホーミング、残留性、および細胞毒性の向上。
【0278】
いくつかの実施形態では、前記iPSCおよびその派生造血細胞は、またはB2Mヌル、HLA-E/Gヌル、PDL1ヌル、A2ARヌル、CD47ヌル、LAG3ヌル、TIM3ヌル、TAP1ヌル、TAP2ヌル、タパシンヌル、NLRC5ヌル、PD1ヌル、RFKANKヌル、CITTAヌル、RFX5ヌルおよびRFXAPヌルのうちの一つまたは複数を含む。改変HLAクラスIおよび/または改変HLAクラスIIを有するこれらの細胞は、免疫検出に対する耐性が増加していることから、インビボ残留性の向上を示す。さらに、そのような細胞は、養子細胞療法におけるHLA適合要求を回避可能であることから、普遍的な、既製の治療用投与計画の源を与える。
【0279】
いくつかの実施形態では、iPSCおよびその派生造血細胞は、HACD16、41BBL、CD3、CD4、CD8、CAR、TCR、CD137、またはCD80のうちの一つまたは複数を含む。そのような細胞は向上した免疫エフェクター能を有する。
【0280】
いくつかの実施形態では、iPSCおよびその派生造血細胞は、抗原特異的である。
【0281】
本発明の免疫細胞を養子細胞療法に適した対象に導入することによって、様々な疾患が改善され得る。疾患の例としては、円形脱毛症、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、皮膚筋炎、糖尿病(1型)、ある種の若年性特発性関節炎、糸球体腎炎、グレーヴス病、ギラン・バレー症候群、特発性血小板減少性紫斑病、重症筋無力症、ある種の心筋炎、多発性硬化症、天疱瘡/類天疱瘡、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性筋炎、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、関節リウマチ、強皮症/全身性硬化症、シェーグレン症候群、全身紅はん性、エリテマトーデス、ある種の甲状腺炎、ある種のブドウ膜炎、白斑、多発性血管炎を伴う(ウェゲナー)肉芽腫症を含むがこれらに限定はされない、種々の自己免疫障害;急性白血病および慢性白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫および骨髄異形成症候群を含むがこれらに限定はされない、造血器腫瘍;脳、前立腺、乳房、肺、結腸、子宮、皮膚、肝臓、骨、膵臓、卵巣、精巣、膀胱、腎臓、頭部、頸部、胃、子宮頸部、直腸、喉頭、または食道の腫瘍を含むがこれらに限定はされない、固形腫瘍;並びに、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)関連障害、RSV(呼吸器合胞体ウイルス)関連障害、EBV(エプスタイン‐バーウイルス)関連障害、CMV(サイトメガロウイルス)関連障害、アデノウイルス関連障害およびBKポリオーマウイルス関連障害を含むがこれらに限定はされない、感染症が挙げられる。
【0282】
本発明の特定の実施形態は、本明細書に記載の細胞のいずれかを含む組成物を対象に投与することによる、治療を必要とする対象を治療する方法を対象とする。特定の実施形態では、用語「治療する」、「治療」等は、本明細書においては、所望の薬理的および/または生理的効果を得ることを一般に意味するように使用される。前記効果は、疾患の完全もしくは部分的な防止という観点では、予防的であり、並びに/または、疾患および/もしくは該疾患に起因する有害作用の部分的もしくは完全な治癒という観点では、治療的であり得る。「治療」は、本明細書で使用される場合、哺乳動物における疾患のあらゆる治療を包含しており、前記疾患に罹患し易いが、それに罹患しているとはまだ診断されていない対象において、前記疾患が生じることを予防すること;前記疾患を抑制すること、すなわち、その発達を抑止すること;または、前記疾患を軽減すること、すなわち、前記疾患の後退を引き起こすこと、を包含する。治療薬または組成物は、疾患または傷害の発生の前、間または後に投与され得る。患者の望ましくない臨床症状を安定化または低減する、進行中の疾患の治療は、特に重要である。
【0283】
特定の実施形態では、前記対象は、細胞療法により治療、寛解、および/または改善可能な疾患、状態、および/または傷害を有する。いくつかの実施形態では、細胞療法を必要としている対象が、ある傷害、疾患、または状態を有する対象であること、それによって、細胞療法(例えば、細胞性物質が前記対象に投与される療法)が、前記傷害、疾患、または状態と関連した少なくとも1つの症状を治療、寛解、改善する、および/またはその重症度を低減することが可能であることが企図される。ある特定の実施形態は、細胞療法を必要としている対象が、限定はされないが、骨髄移植または幹細胞移植の候補、化学療法または放射線療法を受けた対象、過剰増殖性疾患もしくはがん(例えば造血系の過剰増殖性疾患もしくはがん)に罹患している、またはそれに罹患する危険性がある対象、腫瘍(例えば、固形腫瘍)を有する、またはそれを発生する危険性がある対象、ウイルス感染またはウイルス感染と関連した疾患に罹患している、またはそれに罹患する危険性がある対象を包含することが企図される。
【0284】
従って、本発明はさらに、本明細書で開示される方法および組成物によって作製された万能性細胞由来造血系細胞を含み、薬剤的に許容できる培地をさらに含む、医薬組成物を提供する。一実施形態では、前記医薬組成物は、本明細書で開示される方法および組成物によって作製された万能性細胞由来T細胞を含む。一実施形態では、前記医薬組成物は、本明細書で開示される方法および組成物によって作製された万能性細胞由来NK細胞を含む。一実施形態では、前記医薬組成物は、本明細書で開示される方法および組成物によって作製された万能性細胞由来CD34HE細胞を含む。一実施形態では、前記医薬組成物は、本明細書で開示される方法および組成物によって作製された万能性細胞由来HSC細胞を含む。
【0285】
加えて、本発明は、自己免疫障害;造血器腫瘍;固形腫瘍;またはHIV、RSV、EBV、CMV、アデノウイルス、もしくはBKポリオーマウイルスと関連した感染症を有する、養子細胞療法に適した対象に組成物を導入することによる、上記医薬組成物の治療用途を提供する。
【0286】
前記単離された万能性幹細胞由来造血系細胞は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%のT細胞、NK細胞、NKT細胞、、CD34+HE細胞またはHSCを含み得る。いくつかの実施形態では、前記単離された万能性幹細胞由来造血系細胞は、約95%~約100%のT細胞、NK細胞、NKT細胞、CD34+HE細胞またはHSCを含む。いくつかの実施形態では、本発明は、細胞療法を必要としている対象を治療するための、約95%のT細胞、NK細胞、NKT細胞、CD34+HE細胞またはHSCの単離された集団を含む組成物等の、精製されたT細胞、NK細胞、NKT細胞、CD34+HE細胞、またはHSCを含む医薬組成物を提供する。
【0287】
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物は、約0.1%未満、約0.5%未満、約1%未満、約2%未満、約5%未満、約10%未満、約15%未満、約20%未満、約25%未満、または約30%未満のiPSC由来のT細胞、NK細胞、NKT細胞、CD34+HE細胞またはHSCを含む、万能性幹細胞由来造血系細胞の単離された集団を含む。前記派生造血系細胞の単離された集団は、いくつかの実施形態では、約0.1%超、約0.5%超、約1%超、約2%超、約5%超、約10%超、約15%超、約20%超、約25%超、または約30%超のT細胞、NK細胞、NKT細胞、CD34+HE細胞またはHSCを含み得る。他の実施形態では、前記派生造血系細胞の単離された集団は、約0.1%~約1%、約1%~約3%、約3%~約5%、約10%~約15%、約15%~20%、約20%~25%、約25%~30%、約30%~35%、約35%~40%、約40%~45%、約45%~50%、約60%~70%、約70%~80%、約80%~90%、約90%~95%、または約95%~約100%のT細胞、NK細胞、NKT細胞、CD34+HE細胞またはHSCを含み得る。
【0288】
特定の実施形態では、前記派生造血系細胞は、約0.1%、約1%、約3%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約98%、約99%、または約100%のT細胞、NK細胞、NKT細胞、CD34+HE細胞またはHSCを含み得る。
【0289】
当業者には理解されることであるが、自己由来免疫細胞および同種他家由来免疫細胞の両方が、細胞療法に使用可能である。自己由来細胞療法は、感染が低減され、GvHDの確率が低く、且つ、免疫再構築が速い可能性がある。同種他家由来細胞療法は、免疫介在性の移植片対悪性腫瘍(GVM)効果を有し、且つ、再発率が低い可能性がある。細胞療法を必要としている患者または対象の特定の条件に基づいて、当業者であれば、どちらの特定タイプの療法を施行するかを決定することができる。
【0290】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物の前記派生造血系細胞は、対象に対して同種他家由来である。特定の実施形態では、本発明の医薬製剤の前記派生造血系細胞は、対象に対して自己由来である。自家移植において、前記派生造血系細胞の単離された集団は、患者と、完全HLA適合または部分HLA適合である。別の実施形態では、前記派生造血系細胞は、対象とHLA適合ではない。
【0291】
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物中の派生造血系細胞の数は、少なくとも0.1×105細胞、少なくとも0.5×105細胞、少なくとも1×105細胞、少なくとも5×105細胞、少なくとも10×105細胞、少なくとも0.5×106細胞、少なくとも0.75×106細胞、少なくとも1×106細胞、少なくとも1.25×106細胞、少なくとも1.5×106細胞、少なくとも1.75×106細胞、少なくとも2×106細胞、少なくとも2.5×106細胞、少なくとも3×106細胞、少なくとも4×106細胞、少なくとも5×106細胞、少なくとも10×106細胞、少なくとも15×106細胞、少なくとも20×106細胞、少なくとも25×106細胞、または少なくとも30×106細胞である。
【0292】
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物中の派生造血系細胞の数は、約0.1×105細胞~約10×105細胞;約0.5×106細胞~約5×106細胞;約1×106細胞~約3×106細胞;約1.5×106細胞~約2.5×106細胞;または約2×106細胞~約2.5×106細胞である。
【0293】
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物中の派生造血系細胞の数は、約1×106細胞~約3×106細胞;約1.0×106細胞~約5×106細胞;約1.0×106細胞~約10×106細胞、約10×106細胞~約20×106細胞、約10×106細胞~約30×106細胞、または約20×106細胞~約30×106細胞である。
【0294】
いくつかの他の実施形態では、前記医薬組成物中の派生造血系細胞の数は、約1×106細胞~約30×106細胞;約1.0×106細胞~約20×106細胞;約1.0×106細胞~約10×106細胞、約2.0×106細胞~約30×106細胞、約2.0×106細胞~約20×106細胞、または約2.0×106細胞~約10×106細胞である。
【0295】
さらに他の実施形態では、前記医薬組成物中の派生造血系細胞の数は、約1×106細胞、約2×106細胞、約5×106細胞、約7×106細胞、約10×106細胞、約15×106細胞、約17×106細胞、約20×106細胞 約25×106細胞、または約30×106細胞である。
【0296】
一実施形態では、前記医薬組成物中の派生造血系細胞の数は、部分的または一本の臍帯内血液中の免疫細胞の数であり、すなわち、少なくとも0.1×105細胞/体重kg、少なくとも0.5×105細胞/体重kg、少なくとも1×105細胞/体重kg、少なくとも5×105細胞/体重kg、少なくとも10×105細胞/体重kg、少なくとも0.5×106細胞/体重kg、少なくとも0.75×106細胞/体重kg、少なくとも1×106細胞/体重kg、少なくとも1.25×106細胞/体重kg、少なくとも1.5×106細胞/体重kg、少なくとも1.75×106細胞/体重kg、少なくとも2×106細胞/体重kg、少なくとも2.5×106細胞/体重kg、少なくとも3×106細胞/体重kg、少なくとも4×106細胞/体重kg、少なくとも5×106細胞/体重kg、少なくとも10×106細胞/体重kg、少なくとも15×106細胞/体重kg、少なくとも20×106細胞/体重kg、少なくとも25×106細胞/体重kg、または少なくとも30×106細胞/体重kgである。
【0297】
本発明により与えられた前記派生造血系細胞は、投与前にエキソビボまたはインビトロで増殖させることなく、対象に投与することができる。特定の実施形態では、派生造血系細胞の単離集団は、治療能が改善した免疫細胞を得るための1または複数の剤を用いて、エキソビボで調節および処理される。前記調節された派生造血系細胞集団を洗浄することで前記処理剤を除去することができ、前記改善された集団は、前記集団のインビトロでのさらなる増殖なしで、患者に投与される。
【0298】
他の実施形態では、本発明は、1または複数の剤によるTリンパ球の単離された集団または亜集団の調節の前に増殖される、派生造血系細胞の単離集団を提供する。派生造血系細胞の単離集団は、TCR、CARまたは他のタンパク質を発現するように、組換えにより作製できる。
【0299】
組換えTCRまたはCARを発現する遺伝子改変された派生造血系細胞について、細胞の遺伝子改変の前であっても後であっても、前記細胞は、例えば、米国特許第6,352,694号;同第6,534,055号;同第6,905,680号;同第6,692,964号;同第5,858,358号;同第6,887,466号;同第6,905,681号;同第7,144,575号;同第7,067,318号;同第7,172,869号;同第7,232,566号;同第7,175,843号;同第5,883,223号;同第6,905,874号;同第6,797,514号;同第6,867,041号;および米国特許出願公開第20060121005号に記載の方法を用いて、活性化および増殖可能である。
【0300】
ある特定の実施形態において、派生遺伝子改変造血系細胞に対する一次刺激シグナルおよび共刺激シグナルは、様々なプロトコルによって与えることができる。例えば、各シグナルを与える剤は、溶液中にあってもよく、または表面に結合させてもよい。表面に結合させる場合、前記剤は、同一表面に結合させてもよいし(すなわち、「シス」構造)、または別々の表面に結合させてもよい(すなわち、「トランス」構造)。あるいは、一方の剤を表面に結合させ、他方の剤を溶液としてもよい。一実施形態では、共刺激シグナルを与える剤は細胞表面に結合させることができ、一次活性化シグナルを与える剤は、溶液とするか、または表面に結合させる。ある特定の実施形態では、両方の剤が溶液とされ得る。別の実施形態では、これらの剤は、可溶形態にした後、これらの剤に結合する、Fc受容体を発現する細胞または抗体または他の結合剤等の表面に架橋結合することができ、例えば、米国特許出願公開第20040101519号および同第20060034810号に開示されている人工抗原提示細胞(aAPC)は、本発明のTリンパ球の活性化および増殖において使用が企図される。
【0301】
本発明の派生造血系細胞の集団を含む組成物は、無菌にすることができ、且つ、ヒト患者への投与に適し、且つ投与可能な状態の(すなわち、さらなる処理無しで投与できる)ものにすることができる。いくつかの実施形態では、前記治療用組成物は、患者に点滴可能な状態である。投与可能な状態の細胞ベースの組成物とは、対象への移植または投与の前にいかなる追加の処理も操作も必要としない組成物を意味する。
【0302】
患者への投与に適した、無菌の治療上許容できる組成物は、1もしくは複数の薬剤的に許容できる担体(添加剤)および/もしくは希釈剤(例えば、薬剤的に許容できる培地、例えば、細胞培養培地)、または他の薬剤的に許容できる成分を含み得る。薬剤的に許容できる担体および/または希釈剤は、部分的には、投与される特定の組成物、および治療用組成物の投与に使用される特定の方法によって決定される。従って、本発明の治療用組成物には種々様々な好適な製剤が存在する(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 17th ed. 1985を参照、この開示はその全体が参照によって本明細書に援用される)。
【0303】
特定の実施形態では、派生造血系細胞の単離集団を含む治療用細胞組成物は、薬剤的に許容できる細胞培養培地も含む。本明細書に開示される派生造血系細胞集団を含む治療用組成物は、所望の治療目的を果たすために、経腸投与法もしくは非経口投与法によって単独で、または他の好適な化合物と共に、投与することができる。
【0304】
前記薬剤的に許容できる担体および/または希釈剤は、治療されるヒト対象への投与に好適とするために、純度が十分に高く、且つ毒性が十分に低くなければならない。それによって、治療用組成物の安定性がさらに維持または増加されるはずである。前記薬剤的に許容できる担体は液体であっても固体であってもよく、本発明の治療用組成物の他の成分と組み合わされた際に所望の嵩、稠度等を与えるように、予定の投与様式を考慮して、選択される。例えば、前記薬剤的に許容できる担体は、限定はされないが、以下とすることができる:結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、賦形剤(例えば、ラクトースおよび他の糖類、微結晶性セルロース、ペクチン、ゼラチン、硫酸カルシウム、エチルセルロース、ポリアクリレート、リン酸水素カルシウム等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ、コロイド状二酸化ケイ素、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、硬化植物油、コーンスターチ、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等)、崩壊剤(例えば、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム等)、または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)。本発明の組成物に適した他の薬剤的に許容できる担体としては、限定はされないが、水、塩類溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘稠性パラフィン、ヒロドキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0305】
そのような担体溶液は、緩衝液、希釈剤および他の好適な添加剤も含有できる。緩衝液とは、PHを大きく変化させずに酸または塩基を中和する化学的構成を有する溶液または液体を指す。本発明により想定される緩衝液の例としては、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、リンゲル液、5%ブドウ糖水溶液(D5W)、生理食塩水(0.9%NaCl)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0306】
これらの薬剤的に許容できる担体および/または希釈剤は、治療用組成物の約3~約10のPHを維持するのに十分な量で存在してもよい。すなわち、前記緩衝剤は、重量対重量ベースで、組成物全体の約5%ほどもあってよい。限定はされないが、塩化ナトリウムおよび塩化カリウム等の電解質も、治療用組成物に含ませることができる。一態様において、治療用組成物のPHは約4~約10の範囲内である。あるいは、治療用組成物のPHは、約5~約9、約6~約9、または約6.5~約8の範囲内である。別の実施形態では、治療用組成物は、前記PH範囲の1つに含まれるPHを有する緩衝液を含む。別の実施形態では、治療用組成物は約7のPHを有する。あるいは、治療用組成物は約6.8~約7.4の範囲内のPHを有する。さらなる別の実施形態では、治療用組成物は、約7.4のPHを有する。
【0307】
本発明の無菌組成物は、無毒の薬剤的に許容できる培地中の、無菌溶液または無菌懸濁液であり得る。懸濁液は、細胞が固相に接着していない非接着状態を指し得る。例えば、懸濁液で維持された細胞は、撹拌が可能であり、培養皿等の支持体に接着していない。
【0308】
懸濁液は、微細な化学種が別の化学種と組み合わされた分散液(混合物)であり、前者は非常に細かく分割され混合されているために急速には沈降しない。懸濁液は、溶液を包含する液体培地等のビヒクルを用いて調製できる。いくつかの実施形態では、本発明の治療用組成物は、幹細胞および/または前駆細胞が、許容できる液体培地または溶液(例えば、食塩水または無血清培地)中に分散し、固相に付着していない、懸濁液である。日常生活において、最も一般的な懸濁液は、液体の水の中の固形物の懸濁液である。使用が可能な許容できる希釈剤(例えば、ビヒクルおよび溶媒)としては、水、リンゲル液、等張塩化ナトリウム(食塩水)溶液、および無血清細胞培養培地がある。いくつかの実施形態では、高張液が懸濁剤の作製で使用される。加えて、無菌の不揮発性油が溶媒または懸濁媒として従来より使用されている。非経口適用において、特に好適なビヒクルは、溶液、好ましくは油性溶液または水性溶液、および懸濁液、乳濁液、またはインプラントからなる。水性懸濁剤は、前記懸濁液の粘度を増加させる物質を含有することがあり、例えば、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ソルビトールおよび/またはデキストランが含まれる。いくつかの実施形態では、前記輸液は対象組織と等張である。いくつかの実施形態では、前記輸液は対象組織に対して高張である。
【0309】
本発明の投与可能な状態の医薬組成物を含む薬剤的に許容できる担体、希釈剤、および他の成分は、治療用組成物の臨床療法での使用を可能にする、米国医薬品グレードの試薬類から得られる。典型的には、あらゆる培地、溶液、または他の薬剤的に許容できる担体および/または希釈剤を含む、これらの最終試薬は、濾過滅菌等の、当該技術分野において慣行の方法で滅菌され、使用前に、マイコプラズマ汚染、エンドトキシン汚染、またはウイルス汚染等の、種々の望まれない汚染物質について検査される。薬剤的に許容できる担体は、一実施形態では、ヒトまたは動物起源の天然タンパク質を実質的に含まず、造血幹細胞・前駆細胞を包含する、医薬組成物の細胞集団の保存に適している。前記医薬組成物はヒト患者に投与されることが意図されているため、ウシ血清アルブミン、ウマ血清、およびウシ胎児血清等の細胞培養液成分を実質的に含まない。
【0310】
また本発明は、部分的には、本発明の薬剤的に許容できる細胞培養培地、特に組成物および/または培養液、の用途を提供する。そのような組成物はヒト対象への投与に適している。一般的に、本発明の前記派生造血系細胞の維持、増殖、および/または健康を支持するあらゆる培地が、医薬品用細胞培地としての使用に適している。特定の実施形態では、薬剤的に許容できる細胞培養培地は、無血清、且つ/またはフィーダー非含有の培地である。
【0311】
前記医薬組成物は、調節された派生造血系細胞の単離集団の保存に適した無血清培地を含むことができる。種々の実施形態において、前記無血清培地は動物質を含まず、所望により無タンパク質であってもよい。所望により、前記培地は生物製剤的に許容できる組換えタンパク質を含有してもよい。動物質を含まない培地とは、成分が非動物供給源に由来している培地を指す。組換えタンパク質が、動物質を含まない培地中の元々含まれていた動物性タンパク質を代替しており、これらの栄養分は合成供給源、植物供給源または微生物供給源から得られる。無タンパク質培地は、対照的に、タンパク質を実質的に含まないものと定義される。
【0312】
上記の培地の例が、例示であって、本発明における使用に適した培地の配合を限定するものではないこと、および、当業者に公知であり利用可能な多くの好適な培地が存在することは、当業者には理解される。
【0313】
前記医薬組成物は、マイコプラズマ汚染、エンドトキシン汚染、および微生物汚染を実質的に含まない。特定の実施形態では、前記治療用組成物は、約10、約5、約4、約3、約2、約1、約0.1、または約0.05μg/ml未満のウシ血清アルブミンを含有する。
【0314】
マイコプラズマ汚染および微生物汚染に関して、「を実質的に含まない」とは、本明細書で使用される場合、当業者に公知の一般に認められた検査での測定値が陰性であることを意味する。例えば、マイコプラズマ汚染は、適切なポジティブコントロールおよびネガティブコントロールと共に、ブロス培地中で治療用組成物の試料を継代培養し、37℃で1日目、3日目、7日目、および14日目に寒天板上に播くことによって、判定される。試料の見た目が、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールの見た目と、100×の顕微鏡で比較される。さらに、指標細胞培養物の播種物が3日間および5日間インキュベートされ、マイコプラズマの有無について、DNA結合性蛍光色素を用いる落射蛍光顕微鏡法によって600×で検査される。前記寒天および/またはブロス培地の手順、並びに前記指標細胞培養の手順がマイコプラズマ汚染の証拠を何も示さない場合に、試料は満足のいくものと見なされる。
【0315】
有機溶剤または好適な有機溶剤は、全体として、固形、液状、またはガス状の溶質を溶解し、溶液をもたらす、炭素を含有する液体または気体に関する。好適な有機溶剤は、哺乳類細胞へのエキソビボ投与、または哺乳類細胞とのインキュベーションに適した有機溶剤であり、インキュベーションまたは投与の時間、選択された濃度において、エキソビボ条件(例えば、細胞培養)下またはインビボにおいて毒性または他の阻害効果が最小であること等により、対象へのインビボ投与にも適したものであり得る。好適な有機溶剤は、本明細書に記載の剤の保存安定性および取り扱いにも適したものであるべきである。
【0316】
好適な有機溶剤の例としては、限定はされないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメトキシエタン(DME)、およびジメチルアセトアミドが挙げられ、これらの混合物または組み合わせも含まれる。ある特定の実施形態では、組成物または有機溶剤は酢酸メチルを実質的に含まず、これは、組成物または溶媒中に微量の酢酸メチルしか存在すべきでないこと、好ましくは検出不能な量であること、を意味している(例えば、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)等で測定)。
【0317】
エンドトキシンを含まない容器または組成物とは、容器または組成物が、高々微量(すなわち、対象に対して有害生理作用を示さない量)のエンドトキシン、または検出不能な量のエンドトキシンを含有すること、を意味する。「実質的にエンドトキシンを含まない」とは、生物製剤についてFDAによって許可されている、5EU/kg体重/日の全エンドトキシン、平均70kgの人の場合で350EU/細胞総用量、よりも細胞の用量当たりのエンドトキシンが少ないことを意味する。
【0318】
一実施形態では、エンドトキシンを含まない容器および/または組成物は、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%エンドトキシン非含有である。エンドトキシンはリステリア菌(Listeria monocytogenes)等のグラム陽性細菌に存在し得るが、エンドトキシンは、ある特定の細菌、典型的にはグラム陰性細菌、と関連した毒素である。最も多く見られるエンドトキシンは、種々のグラム陰性細菌の外膜に存在し、且つ、これらの細菌の疾患を引き起こす能力において中心的な病原特性を示す、リポ多糖類(LPS)またはリポオリゴ糖(LOS)である。少量のエンドトキシンは、ヒトにおいて、他の有害生理作用の中でも、発熱、血圧低下、並びに炎症および凝固の活性化、を引き起こし得る。従って、少量であってもヒトにおいて有害作用を引き起こし得ることから、微量のエンドトキシンの大部分または全てを製剤容器から除去することが、しばしば望ましい。エンドトキシンは、当該技術分野において公知の方法を用いて容器から除去可能であり、例えば、容器は、エンドトキシンを含まない水を用いるHEPA除菌洗浄装置内で洗浄され、250℃で脱パイロジェン処理され、クラス100/10クリーンルーム(例えば、クラス100クリーンルームは、1立方フィートの空気中に0.5ミクロンより大きい粒子を100個しかない)内に設置されたHEPA除菌ワークステーションでクリーンパッケージされ得る。
【実施例】
【0319】
以下の実施例は例示であり、限定を目的とするものではない。
実施例1:hiPSCの作製および維持
【0320】
線維芽細胞および血液細胞を含む体細胞を、ROCK、MEK、GSK3経路およびTGFβ受容体の阻害剤を含有する再プログラム化用培地の存在下で、OCT4/SOX2/LargeT、OCT4/SOX2またはOCT4/SOX2/NANOG/LargeTを含むがこれらに限定はされない種々の因子の組み合わせを用いて、万能性状態に向かって再プログラム化するように誘導した(Valamehr et al. Sci Rep. 2012; 2: 213)。誘導の14日後、再プログラム化中の集団を、ROCK、GSK3、およびMEK経路の阻害剤、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、並びに白血病抑制因子(LIF)を含有する維持培地に切り替えた(Valamehr et al. Stem Cell Reports 2014, 2(3): 366-381)。細胞を維持培地中で不確定に維持した。
【0321】
誘導のおよそ3週間後、この再プログラム化中集団を96ウェルプレートの個々のウェルに選別した。選択されたクローンを特徴付けし、ナイーブ型hiPSCの代表となる完全に再プログラム化されたクローンを、分化研究のために選択した(Valamehr et al. Stem Cell Reports 2014, 2(3): 366-381)。維持中および分化後の%未分化細胞を決定するために、SSEA4、TRA181およびCD30の表面上共発現についてフローサイトメトリー解析を行った。
【0322】
体細胞の再プログラム化の間または後に、例えば、参照によりその全体が援用される米国出願シリアル番号62/251,032および62/337,258に開示されている方法を用いて、ゲノム改変iPSCを作製することもできる。
【0323】
さらに、がんを含む種々の疾患の治療に寄与する特異な特性を有し、且つ/または、同じ特異な特性を有するリンパ系エフェクター細胞に分化可能であるために、優先的なドナーまたは患者の、T細胞等の免疫系細胞を含む、選択された体細胞から再プログラム化されたhiPSCを得てもよい。
実施例2:iCD34培養プラットフォームを用いた造血分化および再構成および生着能を有するHE集団の同定
【0324】
このiCD34プラットフォームは造血系細胞分化用に最適化された系である。造血系への分化を惹起するため、0日目にhiPSCを維持培地中に単層に播種し、約24時間接着および増殖させた。この時点(1日目)で、前記維持培地を除去し、維持因子を含有しない基本培地で置換した。2日目頃に、培地をiCD34-A(
図1参照)に切り替えることによって造血分化を惹起した。
図1に示されるように、この培地には、3日目に増殖因子bFGFを添加し、分化のために後にiCD34-B培地に切り替えた。これらの単層を5~6日目頃まで維持し、その時点で、単一細胞に解離させ、iCD34-C培地中、低密度単層に播種し、10日目頃まで分化させた。2日目頃の造血分化の開始から分化の10日目頃まで、低酸素分圧(2~10%O
2)を維持した。
【0325】
培養プロセス中、単層を単一細胞に解離し、CD34、並びに所望により、CD43、CD45、CXCR4、CD73および/またはCD93の表面マーカー発現を解析することによって、造血系への分化誘導をモニターした(
図4A)。分化の8日目頃に、細胞表面発現シグネチャーCD34+によって、HEを示す細胞集団の出現が観察された。このCD34+細胞ではCD43-CXCR4-CD73-も観察された。このCD34+集団を10日目頃まで維持した(
図4A)。10日目に(この時点は約9日目に短縮することもできるし、あるいは約12日まで延長することもできる)、細胞を単一細胞に解離させ、BD FACS Ariaを用いるFACSによって、さらなる解析および機能評価のためのCD34+HE集団を選別した。
図4Aは例示的な造血出力能を示している。単一iPSCの入力につき、463個の全CD34+細胞および41個のCD34+CD43-CXCR4-CD73-細胞が生じ、これは、運命確定HE細胞への変換率が少なくとも2.5%であることを示している(
図4A)。
【0326】
hiPSC由来iHEの生着能を示すために、10日目のCD34+細胞を選別し、上記のようにiMPPアッセイにおいて7日間培養した。計17日間の培養後(10日間のiCD34+7日間のiMPP)、後眼窩注射によっておよそ400,000個の細胞をNSGに注射した。コントロールとして、200,000個の臍帯血CD34+細胞を別々のマウスに注射した。
図22は、マウスの末梢血中のヒトCD45マーカーを発現する細胞の存在によって示される、生着したCD34陽性細胞の5週に亘る再構成を示している。
実施例3:小分子、サイトカインおよび播種密度の調節によるHE発生の最適化
【0327】
hiPSCからHEの効率的発生を最適化するため、約10日間の分化の後、いくつかのパラメーターを調べた。分化0日目の単層の最適播種密度を、7.5×10
4/ウェルから1.5×10
5/ウェルまでの漸増数のhiPSCをmatrigel(商標)被覆6ウェル培養皿上に播種し、次いで、約10日にCD34+HE集団の発生を解析することによって、評価した。
図5Aは、細胞播種密度の増加が、CD34+細胞の合計割合を増加させるが、CXCR4-CD73-HE亜集団を減少させることを示している。この減少にもかかわらず、10日間の単層分化後のhiPSCのHEへの最も高い変換率は、1.5×10
5/ウェルで試験された最も高い播種密度での変換率であった(
図4C)。
【0328】
造血分化の初期段階におけるBMP4濃度調節のHE発生に対する影響を、培養物を分化の約2日目から約6日目まで0ng/mlから30ng/mlまでの範囲の漸増濃度のBMP4で処理することによって、評価した。10日目のHEの発生を、CD34+HE集団の検出によって評価した。
図5Bは、2日目から6日目までの漸増濃度のBMP4が、閾値BMP4濃度以下で、10日目のHE集団を増加させることを示しており、最適濃度が約3ng/mLであることを示している。
【0329】
Wnt経路活性化剤CHIR99021は、hiPSCからの運命確定造血プログラムの誘導に関与する。造血分化プロトコルの誘導段階におけるCHIRの調節の影響を、培養物を約3.75日目から約6日目まで漸増濃度のCHIRで処理することによって、を評価した。
図5Cは、CHIR99021濃度の増加が、CD34+細胞の合計割合を増加させる一方で、HE亜集団の割合を減少させ、CHIR99021の最適濃度がおよそ1uMであることを示している。
【0330】
分化誘導プロトコルの6日目に、単層培養物を単一細胞に解離させ、HEへのさらなる分化のために再び単層に播種した。
図5Dに示されるように、細胞濃度を1.5×10
5から7.4×10
4に減少させるにつれてHE集団の割合は増加しており、6日の播種密度がHEの発生に影響することが示された。
実施例4:Notch依存的造血およびMPP分化によるHEの造血分化能の判定
【0331】
hiPSC由来運命確定集団HEの造血分化能を判定するため、FACSを用いて細胞を選別し、
図1の多能性前駆細胞アッセイ(iMPP)に記載のように、内皮造血転換(endothelial to hematopoietic transition)を起こしてCD45+造血前駆細胞を生じる能力について評価した。およそ30,000個のCD34+HE細胞を、iMPP-A培地中で単層に播種し、さらに6~8日間培養した。
図6Aでは、円形の造血細胞が出現した単層培養物における表現型の変化が示されており、フローサイトメトリー染色法によって6~8日間の培養期間に亘るCD45+の割合が確認されている。
【0332】
分化誘導プロトコルの10日目に生じたHE集団が運命確定HEであるかどうかを評価するため、CD34+HE選別細胞を、7~9日目のiMPPアッセイの期間中、Notch経路阻害剤であるγセクレターゼ阻害剤(gSI)で処理した。新たなgSIを2日毎にiMPP-A培地に添加した。約8日後、単層培養物をCD45+造血細胞の出現についてフローサイトメトリーで評価した。ビヒクルコントロールとの比較において、有意に少ないCD45+細胞がgSI処理培養物中に見られ、これは、Notchシグナル経路への依存と、それ故の、運命確定HEの存在を示すものである(
図6B)。
実施例5:酸素条件の操作によるHEおよびiMPP発生の最適化
【0333】
酸素環境が運命確定HEおよびiMPP造血前駆細胞の発生に影響を与えるかどうかを評価するために、正常酸素圧条件(21%O
2)または低酸素条件(5%O
2)の下で、
図1に記載の通りにhiPSCを分化させた。分化の10日目頃に、CD34+HE集団の存在についてフローサイトメトリーで単層を計数および評価した。
図7Aに示されるように、低酸素条件下での分化は、CD34+HEの発生量を増加させる結果となった。低酸素条件下で生じたHEがCD45+造血前駆細胞を生じる能力を保持していることを確認するため、CD34+細胞を、正常酸素圧分化条件および低酸素分化条件からFACSで単離し、iMPPアッセイで評価した。両条件下で生じたHEは、等しいiMPP分化能を有しており、これは、低酸素条件下での造血分化が運命確定HEの産出量を増加させることを示すものである(
図7B)。
実施例6:8日目の分化培養物およびHEの凍結保存
【0334】
直接的分化プロトコルの10日目頃に、培養物全体を解離させ、8日目の10%DMSO添加培地における凍結保存後の造血分化能の維持能を評価した。解凍した細胞を再懸濁した後、
図1に記載の通りにiMPP-A培地中で7日間培養し、その後フローサイトメトリー解析にかけた。
図8Aに示されるように、凍結保存された10日目の細胞は凍結/解凍プロセスを生存し、CD45+細胞の存在によって示される、未凍結コントロールに匹敵する造血分化能を有した。
【0335】
選別されたCD34+細胞を、凍結保存後に造血分化能を維持する能力について、評価した。低酸素条件下で生じた10日目のiCD34を、
図1に記載の通りに単離してiMPPアッセイに直接播種するか、または、iMPP-A培地中で7日間凍結保存した後に解凍してiMPPアッセイに播種した。
図8に示されるように、凍結保存された10日目のiCD34細胞は、解凍の際、生存し、新鮮なiCD34+細胞に類似した表現型を示すことができる(
図8A)。凍結保存された10日目の選別CD34+細胞の解凍直後の生存度は70%を上回る(
図8B)。また、凍結保存された10日目の選別iCD34+細胞が、iMPPアッセイの間に生存してCD45+造血細胞を生じることが可能であり(
図8C)、且つ、iTリンパ球前駆細胞およびiNKリンパ球前駆細胞を生じることが可能である(
図8D)ことが示されている。この凍結保存プロセスは、6~12日目の中間体細胞、または、iHSC、iMPP、pre-iproT、pre-iproNK、ipro-T、ipro-NK、T細胞、NK細胞、NKT細胞およびB細胞を含む誘導分化中の他の下流の細胞に適用可能である。
実施例7:一晩の出荷後の8日目の分化培養物の回復
【0336】
6ウェルプレートの6日目分化培養物を、200,000細胞/フラスコの播種密度でT25培養フラスコ内に継代し、次いで、8日目に培地で完全に満たし、発泡スチロール内に一晩置いて、凍結保存の必要なく新鮮細胞を直接出荷できるかどうかを評価した。37℃の温度をできるだけ長く保つために、初めに37℃水浴中で維持したコールドパックも発泡スチロールボックスに加えた。37℃恒温器内に置かれたコントロールフラスコと共に、2種の培地組成物を試験した:8日目の工程で利用された30%濃度のサイトカインおよびモルフォゲンを含むフラスコ並びに100%濃度のフラスコ。9日目に、これらのフラスコをボックスから取り出し、培地を10mLの8日目培地と交換し、それと一緒に新しいキャップをフラスコに嵌め、回復させた後、10日目にCD34+HE集団の存在についてのフローサイトメトリー解析用に加工した。
図9から分かるように、HEの全体産出量は全ての条件の間で同等であったが、このことは、HE細胞を搬送するための有効な手段として、8日目培養物を新鮮なまま一晩かけて出荷することが可能であることを示している。この新鮮なままの出荷および取扱いのプロセスは、iHSC、iMPP、pre-iproT、pre-iproNK、ipro-T、およびipro-NKを含む誘導分化中に得られる他の中間体細胞の分化能に影響を与えない。新鮮なままの出荷はiPSC由来のT細胞、NK細胞、NKT細胞またはB細胞にも適用できる。
実施例8:DLL4発現間質細胞を用いた成熟Tリンパ系および成熟NKリンパ系に向けたHEの分化の継続
【0337】
選別されたCD34+HE細胞をTリンパ系およびNKリンパ系に向けてさらに分化させた。T細胞においてのみ、選別後、HE細胞を、ROCK阻害剤、SCF、Flt3L、TPO、およびIL7を含むiTC-A2無血清分化培地中、低接着組織培養プレートに移した(
図2)。5日後、細胞を、SCF、Flt3LおよびIL7を含有するiTC-B2分化培地中の、DLL4発現間質細胞を含有する接着性培養物に移して、T細胞分化を完了させた。(HE単離後)およそ10日間の培養の後、この細胞培養物を、細胞表面マーカーであるCD34およびCD7の共発現によって、T細胞前駆細胞の発生について評価した。およそ15~20日間さらに分化させた後、これらのCD34+CD7+T細胞前駆細胞は、CD4およびCD8の発現によって示される、明確な成熟T細胞集団を生じた。
図10は、前記共培養物において生じたCD45+CD56-集団の解析による、初期T細胞前駆細胞サブセット(
図10A)および成熟T細胞サブセット(
図10B)を生じる、10日目HE集団のインビトロにおける分化能を示している。
図15は、(HE単離の後)およそ30日間培養した後の前記共培養物において生じたCD45+CD56-集団の解析による、成熟T細胞サブセットを生じる、10日目HE集団のインビトロにおける分化能を示している。
【0338】
NK細胞においてのみ、選別後、HE細胞を、SCF、TPO、Flt3L、IL3、IL15、およびIL7を含有するiNK-A2無血清分化培地中、低接着組織培養プレート上で培養した(
図3)。5日後、細胞を、SCF、IL3、IL15、Flt3LおよびIL7を含有するiNK-B2分化培地中の、DLL4発現間質細胞を含有する接着性培養物に移して、NK細胞分化を完了させた。(HE単離後)およそ10~15日間の培養の後、この細胞培養物を、NK細胞前駆細胞の発生と、それに続く、追加の10~15日間の培養後の成熟NKサブセットの発生について評価した。CD56およびCD161(NKR-P1A)が初期NK細胞発生中に発現される最初の細胞表面マーカーであり、その後、後期成熟NK細胞サブセット上でのCD16、KIR、CD8およびNKG2D(CD314)の発現が続く。
図11は、前記共培養物において生じたCD45+集団の解析による、初期NK細胞前駆細胞サブセットおよび成熟NK細胞サブセットを生じる、10日目HE集団のインビトロにおける分化能を示している。
【0339】
NK細胞前駆細胞の成熟を増進する代わりの方法として、浮遊培養液中でのフィーダー細胞との共培養がある。20日目のiNK細胞を、DLL4-間質細胞培養物から、SCF、IL15、Flt3LおよびIL7を含有するiNK-B2培地中のフィーダーをベースとした浮遊培養物に移し、さらに12日間培養した。
図16は、末梢血由来NK細胞と比較した、間質ベースの共培養物およびフィーダーベースの共培養物中に生じたCD45+集団の解析による、フィーダー浮遊培養物を用いて成熟NK細胞サブセットを生じる、10日目HE集団のインビトロにおける分化能を示している。hiPSC由来CD34+細胞を、NK細胞系譜に向けて20日間分化させ、その後、さらなる成熟のために浮遊培養で播種した。成熟NK系譜マーカーによって、CD56、CD122、NKp30、CD94、CD16、NKG2DおよびKIRにより定義される成熟NK細胞の存在が確認される。
実施例9:単層hiPSC造血分化プラットフォームは高度に拡張性のある増殖戦略を可能にする
【0340】
図1~3に記載の既知組成の無血清無フィーダー培養物中で、単層に播種し、造血細胞に向けて分化させたhiPSCを、造血分化を惹起するために凝集させ胚様体を形成させたhiPSCと比較した(Kennedy et al., Cell Reports 2012:1722-1735)。両方の培養セットが100,000個のhiPSCを最初の開始数として用いた。各々の系の増殖能を示すために、造血分化プロセスの間、細胞計数および表現型評価を定期的に行った。
図12に示されるように、分化の6日目までに、単層培養物中にはかなりの数のCD34陽性細胞が検出されたが(2×10
6個超のCD34+細胞)、それ対して、EB形式ではCD34陽性細胞は検出されなかった。分化の8日目に、単層形式はおよそ2.4×10
6個の細胞を生じたが、一方、EB形式では、出発材料としてのiPSCがおよそ同数であるにもかかわらず、およそ100,000個のCD34陽性細胞しか検出されず、およそ24倍の差異が示された。加えて、評価の時間として、単層形式が二次造血を示すCD34+CD43-細胞のみを生じた一方で、EB形式は二次造血を示す多数のCD34+CD43+細胞を生じた(Kennedy et al., 2012)。
図13はさらに、オフザシェルフのiNK細胞およびiT細胞の生産のための、本明細書に開示される単層hiPSC造血分化プラットフォームの拡張可能な増殖を例示している。本明細書にて提供された万能性細胞クローン増殖プラットフォームは、例えば、単一万能性細胞クローンから、治療上機能的な10
6個ものNK細胞またはT細胞をそれぞれ含む約100万個の治療量バイアルまで、オフザシェルフ(off-the-shelf)の拡張性をさらに確実にする。開示のクローン増殖は、広範な均一性をさらにもたらし、これにより、製品整合性、品質管理および品質保証が確実とされる。いくつかの実施形態では、単一万能性細胞クローンは、再プログラム化の間もしくは後の遺伝子改変を通じて得られる、または、万能性細胞が由来するドナー特異的供給源細胞から保持される、所望の遺伝的インプリントを含有する。
実施例10:活性化T細胞の増殖抑制におけるiCD34+細胞の免疫制御特性
【0341】
hiPSC由来CD34陽性細胞(iCD34;CD34+CD43-)の免疫制御能を決定するため、10日目のCD34選別細胞を、活性化された末梢血由来CD3発現T細胞と、iMPP-A培地中で1:1の比で共培養した。37℃で5日間のインキュベーションの後、共培養物を計数用ビーズと混合し、フローサイトメトリーでアッセイして、各試料中のT細胞の絶対数を決定した。
図14は、前記共培養物とCD3+T細胞単独を含有する培養物との比較によって示される、hiPSC由来CD34+細胞の免疫制御能を示している。hiPSC由来CD34+細胞と共培養されたCD3+T細胞は、細胞生存を減少させたが、培養物中のCD34+細胞の総数は影響されなかった(
図14)。
実施例11:サイトカイン放出および脱顆粒によって示されるサイトカイン誘起性活性化によるiNK細胞機能の決定
【0342】
hiPSC由来成熟iNK細胞の機能性を示すために、20日目(HE単離後)iNK細胞を、フィーダーベースの浮遊培養に移し、追加で10日間、SCF、IL15、IL7およびFlt3Lを含有するiNK-B2培地中に置いた。10日間の追加培養の後、iNK細胞をIL12およびIL18で刺激して、iNK細胞活性化を誘導した。末梢血NK細胞と同様に、iCD34由来iNKはサイトカイン刺激に応答し、炎症誘発性サイトカインを分泌した。
図17は、CD45+CD56+ゲーティング戦略に基づく、CD107A(脱顆粒を示す細胞表面マーカー)の発現および細胞内インターフェロンγ染色から分かるiNK細胞の活性化を、同一の間質およびフィーダーの浮遊共培養物並びに末梢血由来NK細胞を用いて作製された臍帯血由来NK細胞と比較して示している。
実施例12:T細胞およびNK細胞を作製するための無フィーダー分化培養の確立
【0343】
上記のTおよびNKリンパ系分化プラットフォームを、間質細胞も含まない無フィーダー分化プラットフォームを用いる、臍帯血由来およびhiPSC由来のiT前駆細胞およびiNK前駆細胞の作製のために、さらに最適化した。
【0344】
NK細胞においてのみ、濃縮された臍帯血CD34+細胞を、DLL4タンパク質または対照タンパク質を含有する培養プレート内で、SCF、Flt3L、TPO、IL3、IL15およびIL7を含有するiNK-A2無血清分化培地中に、播種した。5日後、iNK-B2培地を維持して、NK細胞分化を完了させた。およそ10~15日間の培養後、培養物をNK細胞前駆細胞の発生および骨髄性細胞の非存在について評価した。CD56、CD7およびCD161はNK細胞の発生中に発現される最初の細胞表面マーカーである。CD11bおよびCD14は骨髄性細胞サブセット上に発現される細胞表面マーカーである。
図18は、NK細胞に向けた臍帯血CD34+細胞の無間質分化を示している。間質ベースの培養および無間質対照培養と比較して、プレートに結合したDLL4がCD56+CD7+CD161+NK細胞前駆細胞のより迅速且つ効率的な分化を支持していること、並びに、臍帯血CD34+細胞が、CD45+ゲーティング戦略を用いる間質ベースの分化プラットフォームと同様に(表現型の面で)、DLL4発現無間質分化プラットフォームにおいて初期NK細胞前駆細胞(pro-NK)を生じるインビトロ分化能を有していること、が示された。初期NK系譜マーカーによって、CD56、CD7およびCD161、並びに骨髄マーカーであるCD11bおよびCD14の非存在によって定義される、ipro-NK細胞の存在が確認される。
【0345】
無間質分化プラットフォームにおいてiNK細胞前駆細胞を生じるhiPSC由来HE細胞の能力を示すために、10日目CD34+iHE選別細胞を、DLL4タンパク質または対照タンパク質を含有する培養液中のiNK-A2培地中で、培養した。次に、このhiPSC由来CD34+細胞をNK細胞系譜に向けて20日間分化させ、その後、さらなる成熟のために浮遊培養で播種した。
図19は、CD45+ゲーティング戦略を用いる、CD56、CD161およびCD94の発現から分かる、iNK細胞前駆細胞を生じるhiPSC由来iHEの能力を示している。プレートに結合したDLL4は、CD56+CD7+CD161+NK細胞前駆細胞の分化を支持するが、CD11b+骨髄性細胞の分化は支持しない。5日後、iNK-B2培地を維持して、NK細胞分化を完了させた。成熟NK細胞の存在を確認するためのマーカーとしては、CD56、CD122、NKp30、CD94、CD16、NKG2DおよびKIRが挙げられる。
【0346】
T細胞においてのみ、臍帯血から濃縮されたCD34+細胞を、DLL4タンパク質または対照タンパク質を含有する培養液中のiT-A2培地中に播種した。5日後、T細胞前駆細胞(proT)の作製のためにiT-B2培地を維持した。およそ10~15日間の培養の後、この培養物を、細胞表面マーカーであるCD34およびCD7の共発現によって、T細胞前駆細胞の発生について評価した。
図20は、CD45+ゲーティング戦略を用いるDLL4発現無間質分化プラットフォームにおいてT細胞前駆細胞を生じるCD34+臍帯血細胞の能力を示している。臍帯血CD34陽性細胞由来proT細胞の無間質分化プラットフォームは、CD45+CD56-ゲーティング戦略を用いる間質ベースの分化プラットフォームよりも迅速であることが示された。初期T系譜マーカーによって、CD34、CD5およびCD7により定義されるproT細胞の存在が確認される。
【0347】
無間質プラットフォームにおいてiT細胞を生じるhiPSC由来HE細胞の能力を示すために、10日目CD34+iHE選別細胞を、DLL4タンパク質または対照タンパク質を含有する培養液中のiT-A2培地中で、培養した。
図21は、CD45およびCD7の発現から分かる、iT前駆細胞を生じるhiPSC由来iHEの能力を示している。
実施例13:iPSC由来iNKは細胞刺激に応答して炎症誘発性サイトカインを分泌し、末梢血NK細胞および臍帯血NK細胞と同等の細胞傷害機能を有する
【0348】
iPSC由来(iNK)または末梢血由来(pbNK)NK細胞を、非刺激(US)または1:1比のフィーダー細胞による刺激に4時間曝した。Golgistop(BDバイオサイエンス社)およびAlexa-Fluor 647結合型抗CD107a抗体(バイオレジェンド社(BioLegend)を、共培養期間中に含めた。4時間後、細胞を収集し、CD45、CD56、およびTNF-αについて染色し、フローサイトメトリーで解析した(
図23A)。細胞傷害機能を評価するため、iNKまたは臍帯血由来(CBNK)細胞を、CFSEで標識された標的細胞と、1:1、3:1および10:1のエフェクター細胞対標的細胞比(effector:target ration)で、90時間共培養した。標的細胞の定量化を、Incucyte ZOOM細胞解析システムで2時間毎に解析した(
図23B)。本明細書で提供されたプラットフォームを用いたiPSC由来NK細胞(iNK)が、細胞刺激に応答して、TNFαを含むがこれに限定はされない炎症誘発性サイトカインを分泌し、且つ、末梢血NK細胞および臍帯血NK細胞と同等の細胞傷害機能を有することが示された。
実施例14:iPSC由来T細胞前駆細胞はインビボにおいて胸腺を活性化させ、T細胞を再構成する
【0349】
hiPSC由来ipro-T細胞が、機能的なT細胞前駆細胞として、免疫無防備状態NSGレシピエントマウスの胸腺にホーミングし、そこでコロニー形成し、そこで分化することが可能であることが示される。10日目(CD34+HE単離後)CD34+CD7+ipro-T細胞をFACSにより単離し、新生仔(生後2~5日)NSGマウスに肝内注射する。注射の8週間後、マウスを、フローサイトメトリーで、ヒトCD45+CD4-CD8-ダブルネガティブ(DN)、CD45+CD4+CD8+ダブルポジティブ(DP)、CD45+CD4+CD8-またはCD45+CD4-CD8+シングルポジティブ(SP)T細胞サブセットの発現によって、胸腺生着について解析する。加えて、シングルポジティブなT細胞を、TCR、CD3、CD27およびCCR7の発現について評価し、それらのナイーブ状態および成熟状態を評価する。成熟シングルポジティブT細胞の機能性を、抗CD3/CD28刺激後に、増殖能力およびCD25活性化マーカーの発現上昇をモニターすることにより、評価する。
【0350】
胸腺細胞と胸腺上皮細胞(TEC)との間には、胸腺環境の発生および改善をもたらし、胸腺内再構成を引き起こし得る、重要な相互関係がある。10日目CD34+CD7+hiPSC由来ipro-T細胞を、胸腺機能に対するそれらの影響について評価する。上記と同様に、FACSで選別されたipro-T細胞を新生仔NSGレシピエントマウスに肝内注射する。注射の8~10週間後、抗サイトケラチン5(K5)および抗サイトケラチン8(K8)を用いる染色により、コントロール(未注射)またはipro-Tを注射されたマウスの胸腺に対する免疫組織学的分析を行い、胸腺の皮質、髄質および明確な皮髄境界の形成を確認する。ipro-T細胞の非存在下では、無秩序な上皮細胞構造の存在が予想される。加えて、リンパ球前駆細胞の胸腺へのリクルートに要求される、重要なTEC由来ケモカインであるCC19、CCL21およびCCL25の発現を評価する。最後に、TEC成熟に影響する相互作用である、ipro-T細胞上のRANKリガンド(RANKL;Receptor Activator of Nuclear factor Kappa-ligand(破骨細胞分化因子))およびTEC上のRANKの発現は、胸腺内再構成の増加を示すものである。
実施例15:iPSC由来iT細胞は成熟T細胞として細胞刺激に応答し、VDJ組換えを示す。
【0351】
hiPSC由来iT細胞の機能性を示すために、35日目(CD34+HE単離後)iT細胞を、細胞増殖をモニターするためにCell Tracker Violetで処理し、次いで、抗CD3/CD28ビーズで7日間刺激してiT細胞の活性化および増殖を誘導する。iCD34由来iT細胞は、臍帯血由来T細胞および末梢血T細胞と同様にCD3/CD28刺激に応答する。iT細胞の活性化は、CD45+CD3+ゲーティング戦略に基づく、CD25およびCD62L(活性化を示す表面マーカー)の発現、並びに細胞内インターフェロンγ染色によって示される。細胞分裂中のcell tracker violetの枯渇から分かるように、iTの活性化は増殖を引き起こす。
【0352】
hiPSC由来iT細胞の発生の程度をさらに特徴付けするため、35日目iT細胞をT細胞受容体遺伝子座の組換えについて解析する。CD3+選別35日目iT細胞から得られたゲノムDNAを、内在性T細胞受容体遺伝子座の再構成を示すTCR Db2-Jb2再構成の有無について解析した。ポリクローナルなDb2-Jb2再構成を示す複数のPCR産物は、臍帯血CD34+HSC由来T細胞で観察されたものと同様である。
実施例16:運命確定造血内皮の新規マーカーの細胞表面抗体スクリーニング
【0353】
細胞マーカーは細胞の同定および分類を助けるモノグラムとして働く。細胞マーカーの大部分は細胞の原形質膜内の分子または抗原である。多くの表面マーカーは、特定の抗体によって認識されるそれらの表面抗原分類(CD)によって分類される。一般に、特定のマーカーの組み合わせは種々のT細胞型に独特なものである。
【0354】
インビトロにおいて万能性幹細胞が中胚葉由来内皮を経由して分化する中で、これらの不均一な内皮細胞は、動脈性、静脈性、および造血性の予定運命を獲得し、表現型的および機能的に特殊化した各サブタイプの内皮細胞を形成する。これらの細胞サブタイプは、空間的および時間的に近接して形成され、現在では、主に細胞マーカー欠如についての遺伝子発現プロファイリングを通じて識別される。造血細胞は、造血内皮(HE)として知られるユニークな内皮細胞集団から、内皮造血転換(EHT)を通じて生じる。EHTは、内皮の特徴を有する細胞が造血性の形態と表現型を徐々に獲得していく連続的なプロセスである。HE細胞サブタイプに特異的なマーカーの特定は、後の造血細胞分化のための、所望の質および純度を有する初期細胞集団の単離効率を大いに向上させるだろう。従って、これら全ての様々な細胞系譜を識別するための、追加の潜在的にユニークなマーカーが望まれる。
【0355】
造血細胞を生じる能力を有するCD34+およびHE細胞の濃縮のための追加のマーカーを特定するために、本明細書で開示されたプラットフォーム、組成物および方法を用いる方法および組成物を用いて、hiPSCを単層に播種し、造血細胞に向けて分化させた。
【0356】
CD34+細胞においてのみ、hiPSC分化の10日目に、CD34+CD43-細胞を抗ヒト抗体で染色し、フローサイトメトリーで解析した(
図25)。解析で用いた抗ヒト抗体を
図26に列挙する。
図25に示されるように、クラスIマーカーには、hiPSC由来CD34+細胞上で1%未満の発現である細胞表面タンパク質が含まれる。クラスIIマーカーには、CD34+細胞上で1%~99%の発現である細胞表面タンパク質が含まれる。クラスIIIマーカーには、CD34+細胞上で99%超の発現である細胞表面タンパク質が含まれる。iCD34+集団におけるこれらのマーカーの発現レベルを
図26に示す。造血分化能を有するiCD34+細胞上で発現され得る細胞表面タンパク質が、クラスIIマーカーによって確認される。
【0357】
この解析では、マーカーは、選択された集団で少なくとも1%の発現を示した場合、陽性と見なされる。選択された集団で1%未満の発現を示した場合、マーカーは陰性と見なされる。染色の平均蛍光強度(MFI)に基づいて、陽性マーカーの発現レベルを定量化または分類することもできる。これは対数スケール上の値として示される。本明細書で使用される場合、高いまたは明るいと見なされるマーカーは、約104~105のMFIを有するであろう。中等または中間と見なされるマーカーは、約102~104のMFIを有するであろう。低いまたは暗いと見なされるマーカーは、約101~102のMFIを有するであろう。
【0358】
クラスII内のマーカー候補の中から、CD34+CD43-集団内でのCD93マーカーの発現が
図27に示される。CD34+CD93-集団およびCD34+CD93+集団を単離し、続いて、CXCR4およびCD73の発現について解析した。CD34+CD93-集団が、目的の運命確定HE細胞集団を表すCXCR4-CD73-集団の大部分を含有することが確認された。しかし、CD93のマウス相同体の、欠如ではなく、その発現が、初期リンパ球造血系前駆細胞の可能性のあるマーカーであると以前に特定されている(Yamane T et al, PNAS, 2009; 106(22): 8953-8958)。
【0359】
CD93の発現またはその欠如によって表される運命確定造血分化能をさらに決定するため、本明細書に記載の通りに、10日目のCD34+CD43-CD93-画分およびCD34+CD43-CD93+画分を、FACSで単離し、iNK分化培養物、iNK-A2およびiNK-B2中に播種した。10日間の分化の後、CD45+造血細胞およびCD45+CD7+リンパ球前駆細胞の絶対数を評価した(
図28A)。さらに10日間のiNK分化の後、CD56マーカーおよびNKp30マーカーの発現によって、iNK細胞の存在について培養物を評価した。CD34+集団の運命確定造血分化能はCD93-画分に濃縮されることが示された(
図28B)。従って、造血細胞へ向けたiPSC誘導分化の初期段階では、CD34+CD93-細胞が運命確定HE集団を表し;CD93の発現を、HE亜集団を同定するために、CD73、またはCD73/CXCR4の代替マーカーとして使用することができる。
【0360】
iPSC分化の10日目のCD34+集団中に存在するCD34+CD93-細胞画分の割合に基づいて、10日目以前のCD34+集団中の運命確定HEの割合は約30%以下であろうと推定した。従って、陽性であっても陰性であっても、10日目CD34+集団を用いた本明細書におけるスクリーニングで約1%~約30%の発現を有するマーカーも、運命確定HE亜集団の同定に有用であろう(
図26)。従って、CD34+集団内の運命確定HEを同定するための陽性マーカーには、以下が含まれる:CCR10、CD164、CD95、CD144、CD166、リンフォトキシンβ受容体、CD252、CD55、CD40、CD46、CD340、CD119、CD106、CD66a/c/e、CD49d、CD45RB、DLL4、CD107a、CD116、CD324、CD123、CD49f、CD200、CD71、CD172a、CD21、CD184、CD263、CD221、Notch4、MSC、CD97、CD319、CD69、CD338、ポドプラニン、CD111、CD304、CD326、CD257、CD100、CD32、CD253、CD79b、CD33、CD83、GARP、CD183、およびCD357。あるいは、CD34+集団内の運命確定HEを同定するための、CD93に類似した、追加の陰性マーカーには、以下が含まれる:CD31、CD165、CD102、CD146、CD49c、CD13、CD58、インテグリンα9β1、CD51、CD10、CD202b、CD141、CD49a、CD9、CD201、CD47、CD262、CD109、CD39、CD317、CD143、インテグリンβ5、CD105、CD155、およびSSEA-4。
実施例17:WNTシグナル伝達の調節はiPSC由来iCD34(運命確定HE)の産出量および分化能を向上させる
【0361】
10日間の分化誘導後のhiPSCからの運命確定HEの効率的発生を最適化するために、WNTシグナル経路の調節の影響を調べた。分化の6日目に、細胞培養物をGSK3阻害剤CHIR99021、Wntアゴニスト、またはWNT阻害剤IWP2の存在下で分化させた(
図29A)。CD34+CD43-CD93-HEの発生を10日目に解析した。
図29Bは、IWP2によるWNT経路の阻害が、フローサイトメトリーから分かる10日目の表現型的なHE(phenotypic HE)の割合には影響を与えなかったが、HE細胞数の全体的な減少をもたらしたことを示している(
図29B)。逆に、CHIR99021によるWNT経路の活性化はCD34+CD43-細胞の割合をわずかに減少させたが、表現型的にCD34+CD43-CD93-のHEの数および割合を約2~3倍に増加させ、さらに、HE細胞性を活性化、すなわち、結果として総HE細胞数の増加およびHE増殖の増加を引き起こした。
【0362】
WNTを調節されたHEの分化能を決定するため、未処理HE、IWP2処理HEおよびCHIR99021処理HEの全造血系・リンパ系への分化能をそれぞれ評価した。10日目CD34+CD43-細胞を、本明細書に提供された通りに、FACSで単離し、MPP分化培養液およびiNK分化培養液中に播種した。
図30Aは、7日間のMPP分化の後、CHIR99021で調節されたHEが、CD45+細胞の約5~6倍の存在の増加によって示される、造血系分化能の増加を示したことを、示している。
図30Bは、20日間のiNK分化の後、CHIR99021で処理されたHEが、CD56+CD7+NK前駆細胞の約5~6倍の存在の増加によって示される、リンパ系分化能の増加を示したことを、示している。
実施例18:免疫療法用のための特性が増強された造血細胞を作製するための遺伝子調節またはドナー特性を有するiPSC
【0363】
種々の疾患の治療において優先されるユニークな特性は、T細胞等の免疫系細胞を包含する、選択されたドナーに由来する細胞からもたらされ得る。ドナーの特徴には分化後の子孫に伝わり得る遺伝的インプリントが含まれ、限定はされないが、所定の単一特異的TCR、例えば、ウイルス特異的T細胞またはインバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞からのもの;追跡可能且つ望ましい遺伝子多型、例えば、選択されたドナーにおける高親和性CD16受容体をコードする点変異についてホモ接合性のもの;並びに、所定のHLA要求、すなわち、集団被覆率(population coverage)が増加したハプロタイプを示す、選択されたHLA適合ドナー細胞が挙げられ得る。さらに、細胞療法において、新しいまたは増強された治療特性を有する遺伝子改変細胞は、疾患の転帰改善に望ましい。しかし、iPSCまたはそれを供給している細胞のレベルで存在する、ドナー特性または遺伝子改変されたモダリティのいずれもが、iPSCから派生した分化細胞において保持され機能性を維持することが可能であるかどうかは、遺伝子サイレンシング、mRNA分解、遺伝子変異、不適当なタンパク質の輸送および切断、分化能の減少、並びに異種遺伝子型集団における細胞成長抑制に及ぶ多くの理由により、不明であった。供給源特異的な体細胞に由来する、または、本開示の分化プラットフォームおよび組成物を用いた分化誘導を通じた遺伝子編集から生じる、iPSCによって保持された遺伝的インプリントを含む、iPSC由来エフェクター細胞を作製する方法が、本明細書で示される。これらの分化細胞は、iPSCまたはそれらのオリジナルの供給源親集団に存在した遺伝的インプリントを保持していたことが示され、且つ、増殖および生存の能力が増強されてより若返っている。さらに、誘導万能性幹細胞の形態で存在する場合、所望の特性を有する優先的な供給源細胞を、拡張可能で、且つ、再現性と有効性の向上を伴ってT細胞、NK細胞、NKT細胞、CD34、T前駆細胞、およびNK前駆細胞を包含する選択されたエフェクター細胞型に容易に分化させることが可能な、純粋/クローン集団において、不確定に維持することができる。
【0364】
また、本明細書における例示として、本発明によって提供される分化プラットフォームから得られたエフェクター細胞のいくつかの望ましい特性、例えば生体内細胞残留性を、前記細胞の、患者の免疫細胞に認識も破壊もされない同種移植での使用を可能にする小分子調節を通じて、得ることもできる。
【0365】
本明細書で提供される分化法と関連して、優先的な細胞供給源(ドナー特異的、患者特異的、疾患特異的、または状態(condition)特異的)の、公知且つユニークな刷り込まれた特徴は、再プログラム化iPSCおよび種々の分化段階の中間細胞のクローン性またはクローン検出(clonal detection)のマーカーとして働くこともでき、さらに、選択された前記刷り込みマーカーを用いてインビトロまたはインビボで追跡することもできる。これらのマーカーは、VDJ組換え等のDNA再構成、および/または導入遺伝子挿入部位の複数のうちの1つ(one of more)を含む。
1. HLAクラスIヌルiPSCはiCD34HEに分化し、さらに、全ての造血系およびリンパ系の前駆細胞に分化させることができる
【0366】
iPSC由来エフェクターリンパ球の免疫耐性および残留性を向上させるため、HLAクラスI欠失の影響を調べた。
図31から分かるように、iPSCにおけるB2-ミクログロブリン(B2M)の欠失は、HLAクラスI(HLA-A、HLA-B、およびHLA-C)の発現欠如をもたらした。このB2M-/-iPSC株がNK細胞認識を誘導することなくT細胞介在性死滅を回避可能であることを以前に示したが、これは、インビトロおよびインビボの両方において残留性が向上した、普遍的にドナー/レシピエント適合性のhiPSCクローン株を示している(データ未記載)。
【0367】
次に、iPSCの分化能に対するB2M欠失の影響を、本明細書に記載の分化プラットフォームおよび方法を用いて評価した。B2M-/-iPSCおよび野生型iPSCを10日間分化させることでHEを発生させ、CD34+CD43-HE細胞の発現をフローサイトメトリーで解析した。
図32Aおよび
図32Bは、B2M-/-iPSCが野生型対照と同様の頻度でCD34+HEに分化可能であることを示している。
図33は、B2M-/-iPSCから分化したCD34+CD43-HEがHLAクラスIヌルのままであることを示している。
【0368】
B2M-/-iPSC由来HEの造血分化能を判定するため、FACSを用いて細胞を選別し、
図1の多能性前駆細胞アッセイ(iMPP)に記載のように、内皮造血転換を起こしてCD45+造血前駆細胞を生じる能力について評価した。
図32Cは、B2M-/-HEが、野生型HEと同様の効率でCD45+全造血前駆細胞を発生可能であることを示している。
【0369】
最後に、B2M-/-iPSC由来HEのリンパ系分化能を評価した。
図3に示されるように、FACSで選別したCD34+CD43-HE細胞をさらに、NK細胞前駆細胞に向けて分化させた。およそ10日間の分化の後、CD45+ゲーティング戦略に基づくフローサイトメトリーを用いて、CD56およびCD7の発現によって、NK前駆細胞の存在について培養物を評価した(
図32D)。野生型iPSC由来HEと比較した場合に、B2M-/-iPSC由来HEが、同等のiNK前駆細胞発生能を有することが示された。
【0370】
本実施例により、iPSCの分化能が、ゲノム編集を通じた、その保持された遺伝的インプリントの影響を受けないこと、本明細書で開示された分化プラットフォームによって、遺伝的インプリントを受けたiPSCを、遺伝的インプリント無しのiPSCと同等のレベルで、分化させることが可能であること、並びに、前記iPSCの遺伝的インプリントがその分化細胞において保持されること、が明らかにされた。
2.免疫応答性レシピエントにおけるiPSCおよびその派生細胞の残留性を増加させるための、iPSC上のHLAクラスIの調節、並びに調節されたiPSCの分化
【0371】
HLAクラスI改変iPSC(B2M-/- iPSCまたはHLA I改変iPSC)の免疫耐性および残留性をさらに向上させるため、B2M-/-iPSCに、HLA-E/B2M融合タンパク質を含有するレンチウイルスを形質導入した。形質導入HLA-I改変iPSC(B2M-/-HLA-E iPSC)の品質(すなわち、万能性状態)を、万能性マーカーであるTRA-181およびSSEA4、並びにHLA-Eの発現について、フローサイトメトリーで評価した。
図34Aは、形質導入HLA-I改変iPSCが細胞表面上にHLA-Eを発現しており、万能性表現型を維持していることを示している。
【0372】
形質導入HLA-I改変iPSCがインビボにおいて増加された残留性を有するかどうかを確かめるため、ルシフェラーゼを導入した野生型iPSCおよびB2M-/-HLA-E iPSCを、奇形腫アッセイにおける免疫応答性のC57BL/6レシピエントの対立する側腹部に皮下注射した。マウスを毎日、ルシフェリン注射と併せたIVISイメージングで分析し、発達してゆく奇形腫を可視化した。
図34Bには、注射後72時間の時点で、B2M-/-HLA-E iPSCが、野生型iPSCと比較して約6倍の量的残留性の増加を示すことが示されている。また、B2M-/-HLA-E iPSC奇形腫を有する、増強されたルシフェリンイメージングを示す3匹の代表的なマウスを
図34Bに示した。
【0373】
調節されたHLA I改変iPSCの分化能を評価するため、B2M-/-HLA-E iPSCおよび野生型iPSCを10日間分化させることでHEを発生させ、CD34+CD43-HE細胞の発現をフローサイトメトリーで解析した。
図35は、HLA-E発現が、B2M-/-HLA-E iPSC由来の10日目(CD34+CD43-HE細胞)分化細胞および17日目(iMPPアッセイで発生したCD45+全造血前駆細胞)分化細胞の両方で保持されていることを示している。
図36Aおよび
図36Bは、B2M-/-HLA-E iPSCが野生型対照と同様の頻度でCD34+HEに分化可能であることを示している。B2M-/-HLA-E iPSC由来HEの造血分化能を判定するため、FACSを用いて細胞を選別し、
図1の多能性前駆細胞アッセイ(iMPP)に記載のように、内皮造血転換を起こしてCD45+造血前駆細胞を生じる能力について評価した。
図36Cは、B2M-/-HLA-E HEが、野生型HEと同様の効率でCD45+全造血前駆細胞を発生可能であることを示している。従って、B2M-/-HLA-Eにより伝えられる免疫耐性は、同一の遺伝的インプリントを有するiPSCから分化した派生細胞において保持される。B2M-/-HLA-Eを含むHE細胞が、増加した残留性を有することが示されている。HLA-Eの代わりにHLA-Gを使用した場合も同様の残留性向上が観察された。加えて、切断を回避するための改変型のHLA-EまたはHLA-Gを適用することで、HLAクラスI改変iPSCのインビボ残留性はさらに増強される。
3.標的化された外来性分子の発現および/または内在性遺伝子の調節を介した、増強された特性を有するiPSCおよび派生細胞の作製
【0374】
現行の分化プラットフォームを介して得られた誘導リンパ球を用いる免疫療法で望ましい特性を増強するために、iPSCレベルで改変または調節された分子が使用され得る。これらの分子には、セーフティ・スイッチタンパク質、標的化モダリティ、受容体、シグナル伝達分子、転写因子、薬剤的に活性なタンパク質およびペプチド、薬物標的候補;または、iPSCもしくはその派生細胞の生着、輸送、ホーミング、生存度、自己複製、残留性、免疫応答の制御および調節、並びに/もしくは生存を促進するタンパク質が包含され得る。B2M/HLA-IおよびHLA-E/Gに加えて、所望の特性に寄与する標的分子として、CD16受容体および41BBL副刺激分子、CD3、CD4、CD8、CD47、CD137、CD80、PDL1、A2AR、CAR(キメラ抗原受容体)、TCR(T細胞受容体)、TAP1、TAP2、タパシン、NLRC5、PD1、LAG3、TIM3、RFXANK、CITTA、RFX5、RFXAP、並びに、二重特異性または多重特異性エンゲージャーを結合するための表面上誘発受容体がさらに包含されるが、これらに限定されない。より具体的には、iPSCにおける標的分子の遺伝子改変は、以下のうちの1または複数を包含する:B2M、TAP1、TAP2、タパシン、NLRC5、PD1、LAG3、TIM3、RFXANK、CITTA、RFX5、RFXAPの発現の欠失または減少;HLA-E、HLA-G、HACD16、41BBL、CD3、CD4、CD8、CD47、CD137、CD80、PDL1、A2AR、CAR、TCR、または二重特異性もしくは多重特異性エンゲージャーとの結合のための表面上誘発受容体の導入または発現増加。標的分子の発現の増加または減少は、永続的でも、一過的でも、時間的でも、または誘導性であってもよく、内在性プロモーターに制御されるものでも、または外来性プロモーターに制御されるものでもよい。
【0375】
iPSC由来リンパ系エフェクター細胞を最適化するため、前記所望のモダリティーが当該技術分野において公知の様々な送達法を用いてiPSCに導入され得る。この典型的な例として、iPSCに、切断不可な高親和性CD16受容体(HACD16)および41BBL共起刺激分子を含有するレンチウイルスを形質導入して、細胞毒性が増強されたiPSCおよび派生細胞を作製した。
図37Aは、フローサイトメトリー解析による、レンチウイルス形質導入後のiPSC表面上のHACD16および41BBLの効率的な発現を示している。
図37Bは、本明細書で提供されるプラットフォームを用いた10日間の分化の後に、HACD16および41BBLの発現が、維持され、CD34+HE細胞を生じるiPSCの能力を撹乱しないことを示している。さらに、
図41は、CD45+ゲーティング戦略を用いて、HACD16の発現が、維持され、10日目CD56+iNK細胞を生じるiPSCの能力を撹乱しないことを示している。
【0376】
T細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、および好中球を含むiPSC由来エフェクター細胞の細胞傷害活性は、エフェクター細胞を標的腫瘍細胞に向け直すことが可能な二重特異性または多重特異性エンゲージャーを結合することにより、さらに増強できる。一般的に、二重特異的または多重特異的結合の概念は、腫瘍関連抗原およびエフェクター細胞の表面にある活性化受容体を同時に標的とする二重特異性または多重特異性抗体を用いる、エフェクター細胞の特定の腫瘍細胞への再標的化が焦点となる。また、この二重特異的結合はエフェクター細胞機能を刺激し、有効なエフェクター細胞活性化をもたらし、最終的には腫瘍細胞の破壊をもたらす。エフェクター細胞活性化および腫瘍細胞死滅は、エフェクターおよび標的細胞が二重特異性エンゲージャーによって架橋結合された時にのみ起るため、安全制御機構が与えられる。さらに、この再標的化エンゲージャーを通じて、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)拘束的な活性化が回避される。
【0377】
二重特異性エンゲージャーを介したエフェクター細胞の再標的化は、エフェクター細胞の面上の表面受容体の結合を含む。天然に存在する表面受容体として、T細胞、NKT細胞、NK細胞、マクロファージ、および好中球上にそれぞれ発現される、CD3、FcgRIII(CD16)、FcgRI(CD64)、およびFcaR(CD89)が挙げられるが、これらに限定はされない(
図39A)。加えて、エンゲージャー結合の再標的化を目的として、エフェクター細胞の表面上に発現するように、改変された表面上誘発受容体を導入することができる。遺伝子改変された表面上誘発受容体は、エフェクター細胞の天然の受容体および細胞型とは無関係に、二重特異性抗体または多重特異性抗体による、エフェクター細胞と特異的な標的細胞との間の結合を促進する。このアプローチを用いて、普遍的な表面上誘発受容体を含むiPSCを作製した後、係るiPSCを普遍的な表面上誘発受容体を発現する種々のエフェクター細胞型の集団に分化させてよい。細胞療法では、1種または複数種のエフェクター細胞を用いることができ、これらは全て、普遍的表面上誘発受容体を介して同一の二重特異性または多重特異性エンゲージャーと結合することで(
図39B)、1または複数の腫瘍細胞を標的とすることができる。前記普遍的誘発受容体は、米国出願第62/366,503号に記載の方法を用いるゲノム編集を通じてiPSCに導入することができる。一般に、改変された普遍的な表面上誘発受容体は、抗エピトープと、共刺激ドメインとを含有する。表面上(suface)誘発受容体の抗エピトープは、該受容体を発現しているあらゆるエフェクター細胞の、一方の端に適合するエピトープを有する二重特異性または多重特異性エンゲージャーとの結合を方向付ける。他方の端のエンゲージャーの標的特異性は、死滅を目的に、結合したエフェクター細胞を、特異的抗原を有する1種または複数種の腫瘍細胞に方向付ける。普遍的な表面上誘発受容体において、1つの実施例では、共刺激ドメインがIL2タンパク質またはその一部を含むことで、標準もしくは非標準の細胞活性化が達成され得る、および/または、エフェクター細胞型に関わらずエフェクター細胞機能が増強され得る。
【0378】
腫瘍細胞側で、二重特異性エンゲージャー結合に使用できる確立された腫瘍関連抗原としては、固形腫瘍に関しては、造血器腫瘍のCD19、CD20またはCD30;EGFR(上皮増殖因子受容体)、HER2/ERBB2/neu(ヒト上皮増殖因子受容体2)、EPCAM(上皮細胞接着分子)、EphA2(エリスロポエチン産生肝細胞癌A2)およびCEA(癌胎児性抗原(carcinoembrantigen))が挙げられるがこれらに限定されない。加えて、表面二重特異性抗体/エンゲージャーはさらに、二重特異的な会合および結合を増強するためのビオチン化タンパク質、長期の表面提示のための表面膜アンカードメイン、二重特異的相互作用後のシグナル伝達を増強するための同時刺激ドメイン、並びにエンゲージャーの誘導性または時間的発現制御のためのオンオフスイッチ機構等の、さらなる特徴を含み得る。
【0379】
二重特異性または多重特異性エンゲージャーで認識可能な、T細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージおよび好中球を含む様々な種類のiPSC由来エフェクター細胞は、腫瘍標的に特異的なエンゲージャーの結合後に1または複数の液性腫瘍および固形腫瘍を標的化するためのがん免疫療法において、個々にまたは組み合わせにおいて適用され得る。
4.CARを保持するCAR-T由来iPSCの分化
【0380】
キメラ抗原受容体(CAR)は、特異性をT細胞またはNK細胞等の免疫エフェクター細胞上に向ける働きをする、改変された膜貫通受容体である。CARは、典型的には、抗原認識を与えるためのモノクローナル抗体由来の一本鎖可変断片(scFV)、および免疫エフェクター細胞に活性化シグナルを与えるための細胞内シグナル伝達ドメインの組み合わせからなる融合タンパク質である。CAR-免疫エフェクター細胞は、あらゆる腫瘍関連抗原を認識するように改変可能であり、それ故、HLA適合の必要なく、改変された免疫エフェクター細胞を腫瘍細胞のみに標的化可能であることから、CARには強力な普遍的がん免疫療法として大いなる可能性がある。
【0381】
供給源細胞の同一の遺伝的インプリント、すなわち同一のキメラ抗原受容体、を保持するiPSCへのCAR-T細胞の再プログラム化を示した(
図24)。CD19キメラ抗原受容体(CAR)およびCARの共通識別子としての切断型LNGFR細胞表面マーカーを発現するよう遺伝子改変されたiPSCは、iCD34細胞への分化を通じて発現を保持する(
図38)。すなわち、本明細書で開示された分化プラットフォーム、方法および組成物を用いることで、所望の遺伝的インプリントを有するiPSCを、前記iPSCおよびその供給源免疫細胞に含まれていた同一の遺伝的インプリントを保持する様々な免疫細胞型に分化させることができる。
【0382】
また、内在性TCR遺伝子座にCARを含むiPSCから分化された派生T細胞も本明細書で提供される。T細胞のレベルにおいて遺伝子座に特異的なCAR挿入を達成し、後にそれを、CARの標的挿入を含むiPSCに再プログラム化した。あるいは、CARの遺伝子座特異的挿入はiPSCレベルで起こり得る。発現性のTCR遺伝子座はただ1つであるため、発現性のCAR挿入のコピー数は遺伝子座特異的挿入を通じた制御下にある。さらに、CARはTCRの定常領域内に挿入される。TCR定常領域の切断はTCRノックアウトをもたらし、これにより、細胞療法におけるHLA適合要求が排除される。さらに、CAR発現はTCR内在性プロモーターによる制御を受けるため、TCRと同レベルで、且つTCRと同じ発生段階に存在する。内在性TCRを模倣する制御されたCAR発現は、iPSC分化の過程において分化能が影響を受ける可能性を避ける。
図20は、親株におけるTCR発現と比較して同等レベルでのCARの発現、並びに、改変された細胞株におけるTCRの発現および機能の両方の除去を示している。改変されたT細胞を次に、iPSCに再プログラム化し、次にTCRヌルであるCAR発現T細胞に分化する。
5.ドナー特異的、疾患特異的、または状態特異的な遺伝的インプリントを含有するiPSCを用いた増強された特性を有するエフェクターリンパ系細胞の作製
【0383】
iPSCのゲノム編集を介した遺伝的インプリントの誘導組込み以外で、特異的なドナー、疾患、または状態から得られた免疫細胞に存在する遺伝的インプリント(治療応答性等)も、本開示の分化プラットフォームを勘案して、iPSCに基づく細胞療法で利用され得る。選択された供給源由来のT細胞等の免疫細胞におけるある特定の遺伝的インプリントは、種々の疾患の治療において優先されるユニークな特性へと転換される。これらの優先的な特性としては、固有の抗原標的受容体の発現;固有のHLA提示またはその欠如;腫瘍内微小環境に対する耐性;傍観者免疫細胞(bystander immune cell)および免疫調節の誘導;腫瘍外効果(off-tumor effect)の減少に伴う、対標的特異性(on-target specificity)の向上;化学療法等の治療に対する耐性;ホーミング、残留性、および細胞毒性の向上が挙げられるが、これらに限定はされない。例えばPCT/US2011/065900に開示されている方法を用いて、遺伝的インプリントを受けた免疫細胞を、好ましい供給源から収集し、誘導万能性幹細胞に、好ましくは基底状態万能性にまで、再プログラム化することができる。
【0384】
従って、特定のドナーまたは患者の抗原特異的Tリンパ球から、誘導万能性幹細胞(iPSC)、T細胞前駆細胞または若返ったT細胞を作製するアプローチ、方法および効用もまた、本明細書で提供される。前記ドナーは、健常であっても疾患状態であってもよく、あるいは、治療に対して感受性であっても抵抗性であってもよい。例えば、再プログラム化/調節/改変されたT細胞を含む細胞集団で治療され、その結果として疾患排除を経験した患者は、ドナー特異的なインプリントによって伝えられる前記疾患の負担の排除における利点のために、有効な、疾患排除を通じて自然に選択され増殖した前記T細胞亜集団を有することが予想される。疾患排除後にドナーからこれらのT細胞を得て、それらをiPSCに再プログラム化することで、望ましい疾患排除関連インプリントを有するT細胞を無限量に作製することができる。
【0385】
ドナーまたは患者から得られたT細胞の供給細胞集団に関連する抗原特異性は、iPSC誘導、脱分化、および後の分化の間維持される。そのような派生細胞をさらに改変して、安全性、有効性、残留性または特異性を増強してもよい。
【0386】
前記方法を実行するため、まず、初代抗原特異的T細胞を選択されたドナーから単離する。前記ドナーは、健常であっても疾患状態であってもよく、あるいは、治療に対して感受性であっても抵抗性であってもよい。次いで、所望により、単離された初代抗原特異的細胞を、種々の方法で、例えば、ポリクローナルT細胞を、目的抗原を発現する腫瘍細胞または目的抗原を有する非形質転換細胞と、許容培地中で共培養することで、抗原特異的T細胞を、前記細胞によって発現された目的抗原を認識しないT細胞よりも速く増殖させることによって、濃縮する。前記単離された初代抗原特異的細胞は、許容培地中のポリクローナルT細胞を、目的抗原を発現またはコードする、樹状細胞、胸腺上皮細胞、内皮細胞または人工抗原提示細胞または血漿中の粒子もしくはペプチドと共培養することで、抗原特異的T細胞を、前記細胞によって発現された目的抗原を認識しないT細胞よりも速く増殖させることによって、濃縮されてもよい。前記単離された初代抗原特異的細胞は、T細胞受容体に特異的なStreptamer、またはT細胞受容体に特異的な融合ペプチドもしくは抗体もしくは他の高分子結合剤を用いる免疫蛍光的(immunoflourescent)または免疫磁気的な選別法によって、濃縮されてもよい。一例では、前記T細胞受容体特異的Streptamerはがん/精巣(CT)抗原を標的とする。加えて、前記単離された初代抗原特異的細胞は、転写因子および小分子を含む1または複数の剤を用いて、調節または若返らせてもよい。
【0387】
次に、誘導万能性幹細胞(iPSC)を前記単離および/または濃縮された初代抗原特異的T細胞から作製し、好ましくは、例えばPCT/US2011/065900に開示されている方法を用いて、基底状態の万能性を達成する。前記初代抗原特異的T細胞由来のiPSCは、永続的、一過的、時間的または誘導性とすることができる導入遺伝子の導入を通じて、第二もしくは第三の抗原特異性、または、安全性、有効性および残留性に関連する活性化もしくは抑制的モダリティ、を含有するように遺伝子編集してもよい。
【0388】
遺伝子編集を受けたまたは受けていない前記iPSCを次に、本発明の分化プラットフォーム、方法および組成物を用いて、iPSC由来抗原特異的T細胞集団にまで、培養、増殖、および分化させる。前記iPSC由来抗原特異的T細胞は、TSCM、TCM、および/または制御性T細胞を特に含むサブセットを含む。ドナーまたは患者由来の初代抗原特異的T細胞に付随した抗原特異性は、iPSC誘導または脱分化の間だけでなく、後の分化の間も、維持および保持されることが好ましい。
【0389】
iPSCまたはiPSC由来T細胞のレベルで、安全性、有効性、残留性または特異性を増強するために、前記iPSC由来抗原特異的T細胞をさらに改変することができる。例えば、前記iPSC由来抗原特異的T細胞は、T細胞受容体またはキメラ抗原受容体をコードする導入遺伝子の発現によって増強される。あるいは、前記iPSC由来抗原特異的T細胞は、1または複数のサイトカイン受容体をコードする導入遺伝子の発現によって増強される。さらに、前記iPSC由来抗原特異的T細胞は、残留性、必要細胞量、または安全スイッチに寄与する導入遺伝子の発現によって増強される。あるいは、前記iPSC由来抗原特異的T細胞は、CD137またはCD80を含む1または複数の共起刺激分子をコードする導入遺伝子の発現によって増強される。前記iPSC由来抗原特異的T細胞は、ヒト白血球抗原の欠失、挿入または発現減少によって増強される。前記iPSC由来抗原特異的T細胞は、PD1、LAG3、およびTIM3を含むがこれらに限定はされないチェックポイント分子の欠失、または発現減少によって増強される。前記iPSC由来抗原特異的T細胞は、CD3、CD8、および/またはCD4の発現によって増強される。前記iPSC由来抗原特異的T細胞における関連分子の調節された発現は、永続的でも、一過的でも、時間的でも、または誘導性であってもよい。
【0390】
遺伝的増強を受けたまたは受けていない上記のiPSC由来抗原特異的T細胞は、自己免疫障害、造血器腫瘍、固形腫瘍、がん、または感染を含むがこれらに限定はされない種々の疾患または状態を治療するための養子細胞移植に適している。造血器腫瘍または固形腫瘍の治療を目的として、前記iPSC由来抗原特異的T細胞を、抗腫瘍薬または造血幹細胞移植処置を含む追加の処置の前、間または後に移植してもよい。
6. iPSCおよびその派生細胞のクローン性またはクローン検出のマーカーとして働く遺伝的インプリント
【0391】
誘導万能性幹細胞(iPSC)に基づく治療法は、様々な疾患に苦しむ患者に対する有効な治療選択肢として、勢いを増している。しかし、iPSCに基づく治療法を生み出し利用する技術的な現実性においては、iPSCおよびその派生細胞の不均一性を考慮した、係る産物の一貫性および安全性の問題にまだ取り組めていない。現在使用されている方法として、単一細胞選別およびクローニング、並びに限界希釈によるクローニングが挙げられるが、これらは全て、所与の集団における不均一性が大きい場合は特に、手間がかかり、非効率的であり、失敗に終わることが多い。本開示の分化プラットフォーム、方法および組成物を用いて実行される、分化のあらゆる中間段階で保持可能な遺伝的インプリントを利用した、iPSC由来細胞集団のクローン性を特徴付けする新規の技術が、本明細書で提供される。
【0392】
Tリンパ球およびBリンパ球は、通常の成熟の間に、V(D)J遺伝子再構成による特定の不可逆的なゲノム配列変異を起こすという点で、哺乳類細胞集団の中で独特であり、このプロセスは体細胞再構成(somatic rearrangement)としても知られている。これは、T細胞成熟およびB細胞成熟の初期段階にある発生中のリンパ球においてのみ起る、独特な遺伝的組換え機構である。このプロセスにより、B細胞およびT細胞上にそれぞれ見られる抗体/免疫グロブリン(Ig)およびT細胞受容体(TCR)のレパートリーが、多様性に富んだものとなる。V(D)J遺伝子再構成は、一次リンパ器官(B細胞は骨髄、T細胞は胸腺)で起り、ほぼランダムに、可変性(variable)(V)遺伝子断片、連結(joining)(J)遺伝子断片、および、場合によっては、多様性(diversity)(D)遺伝子断片を再編成する。このプロセスによって最終的には、IgおよびTCRの抗原結合領域に、細菌、ウイルス、寄生虫(parasite)、および蠕虫(worm)、並びにがんに見られる「異常自己細胞」を含むほとんど全ての病原体の抗原認識を可能にする、新規のアミノ酸配列が生じる。α/βTCR受容体の独特な多様性は、別個の組み合わせが2E7を超えると推定され、免疫グロブリンの多様性は、別個の組み合わせが1E11を超えると推定される。
【0393】
B細胞成熟およびT細胞成熟で生じた遺伝子再編成が永続的なものであるとすると、そのような細胞に由来するiPSC集団は、個々の開始リンパ球に独特なIg配列およびTCR配列を含有する、iPSCを含むであろう。すなわち、成熟リンパ球に由来する推定上のiPSCクローン集団の、特定のTCR遺伝子またはIg遺伝子の、配列決定または相同性比較によって、その集団が真にクローナルであるかどうかが決定され得る。同様に、本プラットフォームおよび本方法を用いて刷り込みが起こったiPSCを分化させた後に、分化後の子孫のクローン性も、iPSC由来分化細胞における保持された体細胞再構成の遺伝子の配列決定または相同性比較によって、評価され得る。特定された体細胞再構成は、治療法の有効性および規制対応と関わりのある一貫性および安全性の問題に取り組むための対応する評価を下すことを目的とした、患者の血液生検、組織生検または腫瘍生検を独特な遺伝的組換えサインについてサンプリングおよび分析し、そのサインを、開始T細胞集団、派生iPSCおよびiPSC分化細胞型における体細胞再構成と一致させることによる、インビボにおける養子細胞のホーミング、残留性および増殖の追跡にも使用され得る。
【0394】
当業者であれば、本明細書に記載の方法、組成物、および製品が、例示的な実施形態の代表的なものであり、本発明の範囲に対する限定を意図していないことを、容易に理解するだろう。本発明の範囲および精神から逸脱しない範囲で、本明細書にて開示される本開示に様々な置換および変更を加えてよいことは、当業者には容易に理解される。
【0395】
明細書に記載した特許及び公報の全てが、本開示が属する技術分野の当業者のレベルを示唆している。特許及び公報の全ては、個々の公報が参照することによって組み入れられるように、あたかもそれぞれ明確かつ独立に示したかのように、同程度に参照することによって本明細書に組み入れられるものである。
【0396】
本明細書に例示的に記載した本開示は、本明細書に明文で開示されていない、任意のある要素又は要素、ある限定又は限定が欠如している状態で、適宜実施してもよい。すなわち、例えば本明細書の各例において、用語「含む」、「本質的に~からなる」及び「からなる」のいずれか1つは、他の2つのうちのいずれかと置換することができる。使用した用語及び表現は、説明の点で用いたものであって限定するためではなく、またかかる用語及び表現の使用において、図示又は記載した特徴又はその一部分についてのあらゆる均等物の除外を意図しているものではないが、請求する本開示の範囲内で様々な変形が可能であるものと考える。したがって、本開示は、好ましい実施形態及び選択自由な特徴によって明確に開示したが、本明細書で開示した概念の変形及び変化物が、当業者によって主張されてもよいこと、またかかる変形及び変化物は、添付の請求項によって規定されるこの発明の範囲内として考えられるものであることとを理解されたい