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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】モータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 3/06 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
H02P3/06 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019193254
(22)【出願日】2019-10-24
(65)【公開番号】P2021069198
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 大輔
(72)【発明者】
【氏名】森田 有紀
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-064018(JP,A)
【文献】特開2017-022810(JP,A)
【文献】特開昭63-120313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定速度で回転するスピンドル回転軸を、目標停止位置に停止させる停止指令の後に、速度制御から位置制御に切り換えて前記目標停止位置に停止させるモータの制御装置であって、
前記速度制御から前記位置制御への切り換えは、前記停止指令が出されて前記モータの最大能力で減速させて予め設定した速度に達した段階で行うものであって、
前記速度制御において前記モータの最大能力で減速させるときの加速度、並びに、前記位置制御の開始位置から前記モータの最大能力で加速及び減速、又は、減速させて停止させるときの加速度を算出する加速度算出部と、
前記予め設定した速度、前記目標停止位置、前記位置制御の開始位置および前記加速度算出部で算出される前記加速度から、前記スピンドル回転軸の回転方向を変えずに前記目標停止位置に停止させる場合の第1の時間を算出する第1の時間算出部と、
前記予め設定した速度、前記目標停止位置、前記位置制御の開始位置および前記加速度算出部で算出される前記加速度から、前記スピンドル回転軸の回転を一旦停止させた後、逆方向に回転させて前記目標停止位置に停止させる場合の第2の時間を算出する第2の時間算出部と、
前記第1の時間と前記第2の時間を比較する比較部と、
前記比較部の比較結果に基づいて、前記目標停止位置に停止させるまでの時間が短い方を選択してモータの停止制御を行う定位置停止制御部と、
を備える、モータの制御装置。
【請求項2】
前記第2の時間が前記第1の時間よりも短いと判断された場合に、前記スピンドル回転軸を最大能力で減速停止させた後、逆方向に回転させて前記目標停止位置に位置決めを行うように制御する、
請求項1に記載のモータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、工作機械の主軸を駆動するためのサーボモータなど、産業用機械のサーボモータは、回転量、速度、トルク等が駆動制御されている。また、サーボモータの制御装置は、モータの位置、磁極位置(モータ磁石の位相(角度))を検出器で検出し、検出器からの各種のフィードバック値に基づいて電圧指令値を決定し、パルス幅変調(PWM; Pulse Width Modulation)方式によって変調した電圧を印加することで、モータの駆動制御を行っている。
【0003】
一方、産業用機械を特定の位置で停止する動作、いわゆる、オリエンテーション(定位置停止)動作を制御する手法としては、例えば、オリエンテーション指令を受けるとともに、モータに最大電流を流して最大減速制御動作を実行し、最も大きい減速加速度を検出し、最も早く定位置で停止する状態値を取得する。そして、この状態値に基づいて、ある特定の位置に止まるための指令を作成し、この指令に従ってモータの駆動制御を行う手法が実用化されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、「円盤状記憶媒体を駆動するスピンドルモータの制御方法において、停止時には正回転駆動電流の印加を停止して逆回転駆動電流を印加するとともに、スピンドルモータの回転速度及び回転加速度を検出して停止すまでに要する所要停止時間及び所要停止回転数を演算し、その所要停止回転数が所定値よりも小さくなった時には、その時点から上記所要停止時間を経過した時点で逆回転駆動電流の印加を停止することを特徴とするスピンドルモータの制御方法。」が開示されている。
【0005】
特許文献2には、「連続材の払い出し機を駆動するための第1 モータ、及び、前記連続材の巻き取り機を駆動するための第2 モータを含む複数台のモータと、前記モータを制御するモータ駆動装置と、を備えたプロセスラインにおいて前記各モータを非常停止させるための制御装置であって、前記払い出し機及び前記巻き取り機の各コイル径情報と前記各モータの回転数情報とがリアルタイムで入力される入力部と、前記各モータの定格と前記各モータに接続された機械部の慣性モーメントとが予め記録された記録部と、前記入力部に入力された情報及び前記記録部に記録された情報に基づいて、前記各モータについて、その時点における所定の一定トルクで回生制動を実施した場合の停止時間を演算する停止時間演算部と、前記停止時間演算部によって演算された前記各モータの停止時間の中から最大のものを特定し、この特定した最大停止時間に合わせて停止させるためのトルク制限値を、前記各モータについて演算するトルク制限値演算部と、ラインを非常停止させるための非常停止指令が入力されると、前記トルク制限値演算部によって演算された各トルク制限値を前記モータ駆動装置に出力し、そのトルク制限値でトルク制限した回生制動を行わせる出力部と、を備えたことを特徴とするモータ停止用の制御装置。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2948830号公報
【文献】特開2012-175808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記のオリエンテーション制御手法は、早く効果的に、特定位置に停止させるため、オリエンテーション指令が出されるとともにモータに最大電流を流して最大減速制御動作を実行するようにしている。
【0008】
しかしながら、モータに最大電流を流して最大減速制御動作を実行し、この状態で特定位置に精度よく停止させることは難しく、結果、特定位置に停止させるまでの時間が長くなって歩掛りの低下を招くケースがあった。
【0009】
このため、より早く効果的に、特定位置に停止させることを可能にする手法が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のモータの制御装置の一態様は、所定速度で回転する回転軸を、停止指令後に定位置に停止させるモータの制御装置であって、現在速度、目標停止位置および位置決め時の加速度から、前記回転軸の回転方向を変えずに前記目標停止位置に停止させる場合の第1の時間を算出する第1の時間算出部と、現在速度、目標停止位置および位置決め時の加速度から、前記回転軸の回転を一旦停止させた後、逆方向に回転させて前記目標停止位置に停止させる場合の第2の時間を算出する第2の時間算出部と、前記第1の時間と前記第2の時間を比較する比較部と、前記比較部の比較結果に基づいて、前記目標停止位置に停止させるまでの時間が短くなるようにモータの停止制御を行う定位置停止制御部と、を備える構成とした。
【発明の効果】
【0011】
本開示のモータの制御装置の一態様によれば、オリエンテーション指令が出されたときのモータ、ひいてはモータで駆動する産業用機械などの動作を、早く効果的に、特定位置に停止させることが可能になる。すなわち、オリエンテーション動作の高速化を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一態様のモータの制御装置を示すブロック図である。
図2】第1の時間の動作制御の速度と時間の関係を示す図である。
図3】第1の時間の動作制御を示す図である。
図4】第1の時間の動作制御を示す図である。
図5】第2の時間の動作制御の速度と時間の関係を示す図である。
図6】第2の時間の動作制御を示す図である。
図7】第2の時間の動作制御を示す図である。
図8】第1の時間の動作制御の変更例の速度と時間の関係を示す図である。
図9】第1の時間の動作制御の変更例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1から図9を参照し、第一実施形態に係るモータの制御装置について説明する。
【0014】
本実施形態は、例えば、工作機械の主軸を駆動するモータ(産業用機械の回転軸)を制御し、工具交換時に主軸位置を工具交換可能な特定の位置で停止させるなどのオリエンテーション(定位置停止)動作を好適に制御するためのモータの制御装置に関するものである。
【0015】
なお、本開示のモータの制御装置は、モータ(回転軸)を備えた産業用機械のオリエンテーション動作を制御することが可能であればよく、工作機械に限らず、ロボット、搬送機、計測器、試験装置、プレス機、圧入器、印刷機、ダイカストマシン、射出成型機、食品機械、包装機、溶接機、洗浄機、塗装機、組立装置、実装機、木工機械、シーリング装置、切断機など、他の産業用機械のモータの駆動制御に適用しても勿論構わない。
また、モータは、必ずしもサーボモータでなくてもよい。
【0016】
はじめに、本実施形態の工作機械の制御システム1は、図1に示すように、例えば、指令部のCNC(コンピュータ数値制御装置:Computerized Numerical Control)の指令に基づいて、工作機械の主軸(回転軸)などを駆動するモータ2を制御し、オリエンテーション(定位置停止)動作を制御するためのモータの制御装置3を備えている。
【0017】
本実施形態のモータの制御装置3は、モータ2で駆動する主軸(回転軸)の速度を検出する速度検出部4と、速度検出部4で検出した速度に基づいて加速度を求める加速度算出部5と、オリエンテーション指令が出された時点で目標停止位置を備えている。
【0018】
さらに、本実施形態のモータの制御装置3は、オリエンテーション指令が出された際に、現在速度、目標停止位置および位置決め時の加速度から、目標停止位置に対する不足距離、超過距離を算出する不足・超過距離算出部6と、オリエンテーション指令が出された際に、現在速度、目標停止位置および位置決め時の加速度から、回転軸(スピンドル)の回転方向を変えずに目標停止位置に停止させる場合の第1の時間を算出する第1の時間算出部7と、現在速度、目標停止位置および位置決め時の加速度から、回転軸の回転を一旦停止させた後、逆方向に回転させて目標停止位置に停止させる場合の第2の時間を算出する第2の時間算出部8と、第1の時間と第2の時間を比較する比較部9と、比較部9の比較結果に基づいて、目標停止位置に停止させるまでの時間が短くなるようにモータ2の停止制御を行う定位置停止制御部10と、を備えている。
【0019】
本実施形態のモータの制御装置3は、オリエンテーション(定位置停止)指令後、所定の速度で速度制御から位置制御に切換える際に、現在速度、目標位置(指令位置)までの距離(角度)、位置決め時の加速度に応じて、第1の時間と第2の時間を求め、位置決め時間が最短となる動作を選択するように構成されている。
【0020】
<第1の時間算出>
具体的に、本実施形態のモータ2の制御装置1の第1の時間算出部7は、次のように第1の時間を算出する。
【0021】
図2図3図4図1)に示すように、オリエンテーション指令が出されるとともに、速度検出部4で検出した現在速度に基づいて、加速度算出部5が位置制御開始位置からモータ2の最大能力(固有の最大トルク)で減速させて停止させる加速度を算出し、定位置停止制御部10がこの加速度で減速制御する。
【0022】
不足・超過距離算出部6は、このように位置制御開始位置から減速させて停止させた場合に目標停止位置に対して不足する距離、超過する距離を算出する。
【0023】
不足・超過距離算出部6による結果が目標停止位置に対し距離S1が足りない位置で停止する場合には、不足の距離S1を補正するように、オリエンテーション指令が出されて速度制御した状態から位置制御に移行させる。
【0024】
この速度制御から位置制御への移行は、オリエンテーション指令が出されて最大能力で減速させて予め設定した速度V0に達した段階(時間t0)で行う。
【0025】
定位置停止制御部は、(時間,速度)=(t0,V0)となった段階で、時間(t1-t0)の間に距離S1に相当する分だけ加減速によって補正動作制御を行う。この補正動作によって時間t1の状態で速度がV0となり、(時間,速度)=(t1,V0)から減速することによって、距離S0分移動し、目標停止位置((時間,速度)=(t2,0))に停止させる。
【0026】
このように不足・超過距離算出部6の算出結果が目標停止位置に対し距離S1の不足となった場合、定位置停止制御部10は、図2に示すように、オリエンテーション指令が出されてからモータ2の軸の正回転だけで目標停止位置に停止させるようにモータ2の駆動を制御する。第1の時間算出部7は、このときのオリエンテーション指令が出されてから目標停止位置で停止するまでの第1の時間を算出する。
【0027】
<第2の時間算出>
本実施形態のモータの制御装置3の第2の時間算出部8は、次のように第2の時間を算出する。
【0028】
図5図6図7図1)に示すように、オリエンテーション指令が出されるとともに、速度検出部4で検出した現在速度に基づいて、加速度算出部5が位置制御開始位置からモータ2の最大能力で減速させて停止させる加速度を算出し、定位置停止制御部10がこの加速度で減速制御する。
【0029】
不足・超過距離算出部6は、このように位置制御開始位置から最大能力で減速させて停止させた場合に目標停止位置に対して不足する距離、超過する距離を算出する。
【0030】
不足・超過距離算出部6による結果が目標停止位置に対し距離S1が超過した位置で停止する場合には、超過の距離S1を補正するように、オリエンテーション指令が出されて速度制御した状態から位置制御に移行させる。
なお、通常、目標停止位置に対し距離S1が超過した位置で停止する結果が出た場合には、スピンドルをもう一回転させてから目標停止位置で停止するように制御している。このため、オリエンテーション指令を出してから目標停止位置で停止するまで時間がかかってしまう。
【0031】
この速度制御から位置制御への移行は、オリエンテーション指令が出されて最大減速させて予め設定した速度V0に達した段階(時間t0)で行う。
【0032】
定位置停止制御部は、(時間,速度)=(t0,V0)となった段階で、引き続き減速させ、目標位置を超過する距離S0移動させて一旦停止させる。そして、距離S0分移動した(時間,速度)=(t1,0)から距離S1分だけ逆回転させて加減速する補正動作制御を行い、目標停止位置((時間,速度)=(t2,0))に停止させる。
【0033】
このように不足・超過距離算出部6の算出結果が目標停止位置に対し距離S1の超過となった場合、定位置停止制御部10は、図5に示すように、このように、定位置停止制御部は、オリエンテーション指令が出されてからモータ2の軸の正回転と逆回転を組み合わせて目標停止位置に停止させるようにモータ2の駆動を制御する。第2の時間算出部8は、このときのオリエンテーション指令が出されてから目標停止位置で停止するまでの第2の時間を算出する。
【0034】
<停止制御動作の選択>
次に、比較部9が、上記のように算出した第1の時間と第2の時間を比較し、どちらが短い時間であるかを特定する。そして、目標停止位置に停止させるまでの時間が短い第1の時間又は第2の時間の動作が選択され、定位置停止制御部10が目標停止位置に停止させるまでの時間が短くなるようにモータ2の停止制御を行う。
【0035】
これにより、本実施形態のモータの制御装置3においては、早く効果的に、特定位置に停止させることが可能になる。すなわち、オリエンテーション動作のさらなる高速化を実現することが可能になる。
【0036】
以上、モータの制御装置の一実施形態について説明したが、上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0037】
例えば、図8図9に示すように、オリエンテーション指令が出されて最大減速させて速度制御を行って速度V0に達した段階(時間t0)で、その後も速度制御によって、最大減速で距離S0’分移動して停止させ((時間,速度)=(t1,0))、この段階で速度制御から位置制御に切り替え、加減速によって不足の距離S1分移動して目標停止位置に停止させるようにしてもよい。このようにオリエンテーション指令が出されてからモータ2の軸の正回転だけで目標停止位置に停止させる場合の時間を第1の時間としてもよい。
【0038】
また、モータの最大能力で減速することによって超過距離が発生する場合には、これを補正する逆回転動作を行うように構成すればよい。
【符号の説明】
【0039】
1 産業用機械の制御システム
2 モータ
3 モータの制御装置
4 速度検出部
5 加速度算出部
6 不足・超過距離算出部
7 第1の時間算出部
8 第2の時間算出部
9 比較部
10 定位置停止制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9