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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】シート状電池およびパッチ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/105 20210101AFI20240806BHJP
   H01M 50/117 20210101ALI20240806BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20240806BHJP
   H01M 50/129 20210101ALI20240806BHJP
   H01M 50/133 20210101ALI20240806BHJP
   H01M 50/138 20210101ALI20240806BHJP
   H01M 50/178 20210101ALI20240806BHJP
   H01M 50/534 20210101ALI20240806BHJP
   H01M 50/55 20210101ALI20240806BHJP
   H01M 50/557 20210101ALI20240806BHJP
   H01M 50/562 20210101ALI20240806BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20240806BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M50/105
H01M50/117
H01M50/121
H01M50/129
H01M50/133
H01M50/138
H01M50/178
H01M50/534
H01M50/55 301
H01M50/557
H01M50/562
H01M12/06 A
H01M4/66 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020023949
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021128895
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078064
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 鐵雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115901
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 英樹
(72)【発明者】
【氏名】仲 泰嘉
(72)【発明者】
【氏名】古谷 隆博
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-092088(JP,A)
【文献】特開2017-069218(JP,A)
【文献】特開2010-212070(JP,A)
【文献】特開2019-061926(JP,A)
【文献】特開2014-146457(JP,A)
【文献】国際公開第2020/017459(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10-50/198
H01M 50/50-50/598
H01M 12/00-12/08
H01M 4/64- 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、およびそれらの間に介在するセパレータが積層された電極積層体と、前記電極積層体の両側に配置されたラミネートフィルムよりなる外装体とを有し、前記電極積層体および電解液を含む発電要素が、前記外装体内に収容されてなるシート状電池であって、
前記電解液が水溶液系電解液であり、
前記ラミネートフィルムは、少なくとも樹脂基材層と熱溶着性樹脂層とを有し、かつ前記樹脂基材層の前記熱溶着樹脂層形成面と反対側の面に水蒸気バリア層を有しており、それぞれの熱溶着性樹脂層は内側に配置され、前記発電要素の周囲に前記熱溶着性樹脂層同士が熱溶着されてなる熱溶着部が形成されて前記外装体が封止されており、
前記熱溶着性樹脂層は、前記樹脂基材層側に設けられた、熱溶着性樹脂を含む厚みが50μm以上である主層と、不飽和カルボン酸またはその誘導体により酸変性されたオレフィン系共重合体であって前記熱溶着性樹脂とは異なる樹脂を含む酸コポリマー層とを有し、
前記正極と電気的に接続された端子部および前記負極と電気的に接続された端子部が、前記熱溶着部を通じて前記シート状外装体の外部に突出しており、
前記端子部の少なくとも一方が炭素製であることを特徴とするシート状電池。
【請求項2】
前記熱溶着性樹脂層の酸コポリマー層の厚みが、1μm以上である請求項1に記載のシート状電池。
【請求項3】
前記炭素製の端子部が、カーボンシートで構成されている請求項1または2に記載のシート状電池。
【請求項4】
前記熱溶着性樹脂層の主層は、前記熱溶着性樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレンを含有している請求項1~3のいずれかに記載のシート状電池。
【請求項5】
前記水蒸気バリア層が、少なくとも無機酸化物により構成されている請求項1~4のいずれかに記載のシート状電池。
【請求項6】
前記電解液のpHが3以上12未満である請求項1~のいずれかに記載のシート状電池。
【請求項7】
厚みが1mm以下である請求項1~のいずれかに記載のシート状電池。
【請求項8】
当該電池が、アルカリ電池、マンガン電池または空気電池である請求項1~のいずれかに記載のシート状電池。
【請求項9】
身体に装着可能なパッチであって、電源として、請求項1~のいずれかに記載のシート状電池を備えたことを特徴とするパッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信頼性に優れたシート状電池と、前記シート状電池を備えたパッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂製フィルムを構成材として含むシート状外装体を有するシート状電池の需要が伸びている。こうした電池の用途は、産業用の装置の電源などの、大型の電池が適用される用途から、スマートフォンなどの電子機器用の電源などの、小型の電池が適用される用途まで、多岐にわたっている。
【0003】
このようなシート状電池の外装体を構成する樹脂製フィルムには、アルミニウムなどの金属で構成された箔と、熱可塑性樹脂とをラミネートしたラミネートフィルムが一般に用いられている(特許文献1など)ほか、二次電池や固体電解質を用いた電池では、金属酸化物などからなるガスバリア層を有するフィルムを、外装体に用いる提案もある(特許文献2、3)。
【0004】
アルミニウム層を有するラミネートフィルムを用いた外装体を有する電池では、外装体の封止を、アルミニウム層に積層された樹脂層を構成する熱可塑性樹脂を利用して熱溶着することが一般的であるが、封止性を重視するあまり、厳しい条件で熱溶着を行うと、熱可塑性樹脂が流れてアルミニウム層が露出してしまい、これが電極と接触したり、電極と外部機器とを接続するための端子部と接触したりして短絡を引き起こすことがある。
【0005】
これに対し、特許文献3に記載されているように、バリア層として電気絶縁性物質を用いて外装材を構成することにより、バリア層に金属箔層を用いる場合に比べて絶縁性を容易に確保することができ、絶縁性をあまり考慮することなく外装材の溶融条件を設定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-319464号公報
【文献】特開2013-180473号公報
【文献】特開2015-201387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記のような樹脂製フィルムで構成された外装体を用いる場合、内部に収容されている正極および負極を適用機器と電気的に接続するために、正極に接続された端子部および負極に接続された端子部が、外装体の熱溶着部を通じて電池外に引き出されることが多い。ところが、熱溶着部のうちの端子部が介在する部分は、他の部分に比べて密着性が低下するため、かかる部分を通じて電解液の溶媒(水)が電池外に散逸しやすく、これが電池の信頼性低下の要因となっている。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、信頼性に優れたシート状電池と、前記シート状電池を備えたパッチとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシート状電池は、正極、負極、およびそれらの間に介在するセパレータが積層された電極積層体と、前記電極積層体の両側に配置されたラミネートフィルムよりなる外装体とを有し、前記電極積層体および電解液を含む発電要素が、前記外装体内に収容されてなり、前記電解液が水溶液系電解液であり、前記ラミネートフィルムは、少なくとも樹脂基材層と熱溶着性樹脂層とを有し、かつ、それぞれの熱溶着性樹脂層は内側に配置され、前記発電要素の周囲に前記熱溶着性樹脂層同士が熱溶着されてなる熱溶着部が形成されて前記外装体が封止されており、前記熱溶着性樹脂層は、前記樹脂基材層側に設けられた、熱溶着性樹脂を含む主層と、不飽和カルボン酸またはその誘導体により酸変性されたオレフィン系共重合体を含む酸コポリマー層とを有し、前記正極に接続された端子部および前記負極と電気的に接続された端子部が、前記熱溶着部を通じて前記シート状外装体の外部に突出していることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のパッチは、身体に装着可能であって、電源として、本発明のシート状電池を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、信頼性に優れたシート状電池と、前記シート状電池を備えたパッチとを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のシート状電池の一例を模式的に表す平面図である。
図2図1のI-I線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のシート状電池は、少なくとも樹脂基材層と熱溶着性樹脂層とを有するラミネートフィルムで構成されたシート状外装体を使用する。前記ラミネートフィルムにおいては、少なくとも樹脂基材層と熱溶着性樹脂層とが順に積層されている。そして、シート状外装体は、1枚の前記ラミネートフィルムが、前記熱溶着性樹脂層を内側にして二つ折りにされ、重ねられた前記熱溶着性樹脂層同士が熱溶着されてなる熱溶着部が形成されて封止されているか、または、2枚前記ラミネートフィルムが、前記熱溶着性樹脂層を内側にして重ねられ、前記熱溶着性樹脂層同士が熱溶着されてなる熱溶着部が形成されて封止される。
【0014】
すなわち、本発明のシート状電池は、正極、負極、およびそれらの間に介在するセパレータが積層された電極積層体の両側に、少なくとも樹脂基材層と熱溶着性樹脂層とを有するラミネートフィルムよりなる外装体が、それぞれの熱溶着性樹脂層が内側(発電要素側)になるよう配置されており、発電要素の周囲に前記熱溶着性樹脂層同士が熱溶着されてなる熱溶着部が形成されることにより、前記外装体の封止がなされている。
【0015】
前記ラミネートフィルムに係る熱溶着性樹脂層は、熱溶着性樹脂を含む主層と、酸コポリマー層とを有している。前記主層は、樹脂基材層側に設けられる。また、酸コポリマー層は、不飽和カルボン酸またはその誘導体により酸変性されたオレフィン系共重合体(酸コポリマー)を含んでいる。
【0016】
正極や負極の端子部には、通常、金属製のものや炭素製のものが使用されるが、前記酸コポリマーは、これらの材料との密着性が高い。よって、前記酸コポリマーを含む熱溶着性樹脂層の熱溶着によって封止されたシート状外装体であれば、電池外に引き出された正極や負極の端子部が熱溶着部に介在していても、その封止性が高く、かかる箇所からの電解液溶媒の散逸を良好に抑制することができる。
【0017】
なお、樹脂製フィルムのみで構成したラミネートフィルムをシート状外装体とする場合、例えば、アルミニウムラミネートフィルムのような金属ラミネートフィルム製のシート状外装体を使用した場合と異なり、電解液である水溶液中の水分(水蒸気)がシート状外装体を構成する樹脂の内部を透過して電池外へ散逸しやすいことから、長期間保持された場合に電解液の組成が変動して電池特性が低下しやすくなる。
【0018】
そのため、本発明のシート状電池においては、シート状外装体を構成するラミネートフィルムが、電気絶縁性の水蒸気バリア層またはアルミニウム層などの金属層を有することが望ましく、これによりシート状外装体を透過して電解液中の水分が電池外へ散逸することによる電池特性の低下を抑制することができる。
【0019】
特に水蒸気バリア層は電気絶縁性であるため、金属ラミネートフィルム製のシート状外装体に係る金属層が、シート状外装体の封止時に露出することで生じ得る短絡やシート状外装体の腐食も防止できる。
【0020】
また、金属ラミネートフィルム製のシート状外装体を有する電池の場合、負極活物質の腐食などによって電池内で水素ガスが発生することによる内圧上昇によって、外装材が膨れるなどの問題が生じる虞があるが、前記の水蒸気バリア層を有するラミネートフィルムで構成されたシート状外装体を有する電池の場合には、水素ガスは、シート状外装体の内部を透過して徐々に散逸することも可能であるため、電池の内圧上昇による前記の問題の発生を抑制することもできる。
【0021】
本発明のシート状電池においては、これらのシート状外装体を用いることによって、長期にわたってさらに高い信頼性を確保することができる。
【0022】
ラミネートフィルムに係る熱溶着性樹脂層は、熱溶着性樹脂を含む主層と、酸コポリマー層とを有している。なお、シート状外装体では、熱溶着性樹脂層の主層に含まれる熱溶着性樹脂や酸コポリマー層に含まれる酸コポリマーを溶融させて、樹脂製フィルム同士の熱溶着を行うため、その熱溶着部においては、主層と酸コポリマー層との界面は、必ずしも明瞭ではない。
【0023】
主層を構成する熱溶着性樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などの低融点のポリオレフィンなどが使用できるが、LLDPEを用いることが好ましい。
【0024】
酸コポリマー層に含まれる酸コポリマーは、不飽和カルボン酸またはその誘導体により酸変性されたオレフィン系共重合体であり、熱溶着性樹脂層に係る熱溶着性樹脂とは異なる樹脂が用いられる。前記オレフィン系共重合体は、例えば、オレフィン重合体に不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト共重合して得ることができる。
【0025】
酸コポリマーに係るオレフィン重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ(4-メチルペンテン-1)、エチレン-プロピレン共重合体などが挙げられる。
【0026】
酸コポリマーを形成するための不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。また、不飽和カルボン酸の誘導体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの酸無水物;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステルなどのエステル;アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸-N-モノエチルアミド、マレイン酸-N,N-ジエチルアミド、マレイン酸-N-モノブチルアミド、マレイン酸-N,N-ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸-N-モノエチルアミド、フマル酸-N,N-ジエチルアミド、フマル酸-N-モノブチルアミド、フマル酸-N,N-ジブチルアミドなどのアミド;マレイミド、N-ブチルマレイミド、N-フェニルマレイミドなどのイミド;アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウムなどの金属塩;などが挙げられる。
【0027】
酸コポリマーにおいて、不飽和カルボン酸またはその誘導体の量は、オレフィン重合体:100質量部に対して、0.005質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることが好ましく、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0028】
熱溶着性樹脂の主層は、シート状外装体の封止性をより良好に高める観点から、10μm以上であることが好ましい。なお、正極や負極と接続され、シート状外装体の熱溶着部を通じて電池外に引き出される端子部が炭素製(例えば後述するカーボンシート製)のときには、50μm以上であることがより好ましく、この場合には、シート状外装体の熱溶着部のうちの端子部が介在する箇所からの電解液溶媒の散逸がより良好に抑制でき、電池の信頼性がさらに向上する。また、主層の厚みの上限については特に制限はないが、通常は、200μmである。
【0029】
また、酸コポリマー層の厚みは、シート状外装体の封止性をより良好に高める観点から、1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、酸コポリマー層の厚みの上限については特に制限はないが、通常は、50μmである。
【0030】
ラミネートフィルムに係る樹脂基材層を構成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリオレフィン〔融点が高いポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン-1)などのポリオレフィン〕、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネートなどが挙げられる。樹脂基材層の厚みは、5~100μmであることが好ましい。
【0031】
ラミネートフィルムが水蒸気バリア層を有する場合、前記水蒸気バリア層は、例えば、電気絶縁性の無機酸化物で構成することができる。無機酸化物の具体例としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素などが挙げられる。なお、酸化ケイ素で構成される水蒸気バリア層は、酸化アルミニウムで構成される水蒸気バリア層に比べて、電池内の電解液中の水分の透過を抑制する機能が高い傾向にある。よって、水蒸気バリア層を構成する無機酸化物には、酸化ケイ素を採用することがより好ましい。
【0032】
無機酸化物で構成される水蒸気バリア層は、例えば蒸着法によって樹脂基材層の表面に形成することができる。水蒸気バリア層の厚みは、10~300nmであることが好ましい。
【0033】
また、ラミネートフィルムは、水蒸気バリア層を保護するための保護層を、水蒸気バリア層の表面(基材層とは反対側の面)に有してもよい。
【0034】
ラミネートフィルム全体の厚みは、シート状電池に十分な強度を持たせるなどの観点から、10μm以上であることが好ましく、シート状電池の厚みの増大やエネルギー密度の低下を抑える観点から、200μm以下であることが好ましい。
【0035】
シート状外装体を構成するラミネートフィルムの水蒸気透過度は、10g/m・24h以下であることが好ましい。なお、ラミネートフィルムは、できるだけ水蒸気を透過しないことが望ましく、すなわち、その水蒸気透過度は、できるだけ小さい値であることが好ましく、0g/m・24hであってもよい。
【0036】
本明細書でいうラミネートフィルムの水蒸気透過度は、JIS K 7129B法に準じて測定される値である。
【0037】
本発明のシート状電池には、水溶液からなる電解液を有する種々の一次電池や二次電池が包含されるが、シート状電池が空気電池の場合には、シート状外装体を構成するラミネートフィルムが、ある程度の酸素透過性を有していることが好ましい。空気電池は正極に空気(酸素)を供給して放電させるため、電池内に酸素を導入するための空気孔をシート状外装体に形成するが、シート状外装体を構成するラミネートフィルムが酸素透過性を有している場合には、シート状外装体の空気孔以外の箇所からも、外装体を透過させて電池内に酸素を導入することができるため、正極の全体にわたってより均一に酸素が供給されるようになり、電池の放電特性を向上させたり、その放電時間を長時間化したりすることが可能となる。また、シート状外装体に空気孔を持たないシート状空気電池の実現も可能となる。
【0038】
シート状電池が空気電池の場合の、シート状外装体を構成するラミネートフィルムの具体的な酸素透過度としては、0.02cm/m・24h・MPa以上であることが好ましく、0.2cm/m・24h・MPa以上であることがより好ましい。ただし、シート状電池が空気電池の場合、シート状外装体を構成するラミネートフィルムが酸素を透過しすぎると、自己放電が生じて容量が損なわれる虞があるため、ラミネートフィルムの酸素透過度は、100cm/m・24h・MPa以下であることが好ましく、50cm/m・24h・MPa以下であることがより好ましい。
【0039】
他方、シート状電池が空気電池以外の電池の場合(詳しくは後述する)には、シート状外装体を構成するラミネートフィルムの酸素透過性については特に制限はないが、電池の貯蔵性向上の観点からは、あまり酸素を透過しないものが好ましく、具体的なラミネートフィルムの酸素透過度は、10cm/m・24h・MPa以下であることが好ましい。
【0040】
本明細書でいうラミネートフィルムの酸素透過度は、JIS K 7126-2法に準じて測定される値である。
【0041】
シート状電池の電解液は、電解質塩が溶解した水溶液である。電解液として使用される水溶液は、特に限定はされず、アルカリ乾電池に使用される高濃度のアルカリ電解液(pH:約14)を使用することも可能である。ただし、廃棄時の環境負荷の低減や外装体の破損などにより電解液が漏出した際の安全性確保の点から、電解液のpHはできるだけ中性に近いことが好ましく、pHが、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、また、12未満であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、負極活物質の腐食抑制などの点から、7未満であることが更に好ましい。
【0042】
電解液として使用される前記水溶液に溶解させる電解質塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウムや塩化亜鉛などの塩化物;アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムなど)、酢酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウムなど)、硝酸塩(硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウムなど)、硫酸塩(硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウムなど)、リン酸塩(リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウムなど)、ホウ酸塩(ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸マグネシウムなど)、クエン酸塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸マグネシウムなど)、グルタミン酸塩(グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、グルタミン酸マグネシウムなど);アルカリ金属の炭酸水素塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなど);アルカリ金属の過炭酸塩(過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムなど);フッ化物などのハロゲンを含む化合物;多価カルボン酸;などが挙げられ、前記水溶液は、これらの電解質塩のうちの1種または2種以上を含有していればよい。
【0043】
なお、前記電解質塩として、塩酸、硫酸および硝酸より選択される強酸と、アンモニアや、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなど金属元素の水酸化物に代表される弱塩基との塩が好ましく、アンモニウム塩または特定の金属元素の塩を使用することがより好ましい。具体的には、Cl、SO 2-、HSO およびNO より選択される少なくとも1種のイオンと、Alイオン、Mgイオン、Feイオンおよびアンモニウムイオンより選択される少なくとも1種のイオンとの塩であることがより好ましく、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム〔(NH)HSO〕、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩;硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化水酸化マグネシウム〔MgCl(OH)〕、硝酸マグネシウムなどのマグネシウム塩;硫酸鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(II)〔(NHFe(SO〕、硫酸鉄(III)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)などの鉄塩;などが例示される。
【0044】
シート状電池の負極には、金属や合金といった金属材料を負極活物質として使用することが通常であるが、前記例示の強酸と弱塩基との塩を含有する水溶液からなる電解液は、塩化ナトリウムなどの強酸と強塩基との塩を含有する電解液などに比べて、負極活物質である金属材料を腐食させる作用が比較的弱い。また、強酸の塩のうち、Al、MgおよびFeより選択される金属元素の塩またはアンモニウム塩を含有する電解液は、例えば塩化亜鉛水溶液などに比べて比較的高い導電率を有している。よって、強酸と弱塩基との塩として、Cl、SO 2-、HSO およびNO より選択される少なくとも1種のイオンと、Alイオン、Mgイオン、Feイオンおよびアンモニウムイオンより選択される少なくとも1種のイオンとの塩を含有する水溶液からなる電解液を用いた場合には、シート状電池の放電特性をより高めることができる。
【0045】
ただし、ClイオンとFe3+イオンとの塩〔塩化鉄(III)〕については、その他
のイオンの組み合わせによる塩に比べて負極活物質である金属材料を腐食させる作用が強いため、塩化鉄(III)以外の塩を用いることが好ましく、負極活物質である金属材料を腐食させる作用がより弱いことから、アンモニウム塩を用いることがより好ましい。
【0046】
また、前記強酸と弱塩基との塩のうち、過塩素酸塩は、加熱や衝撃により燃焼や爆発の危険を生じることから、環境負荷や廃棄時の安全性の観点からは、前記水溶液に含有させないか、または含有しても過塩素酸イオンの量がわずか(100ppm未満が好ましく、10ppm未満がより好ましい)であることが好ましい。
【0047】
また、前記強酸と弱塩基との塩のうち、塩化亜鉛や硫酸銅などに代表される重金属塩(鉄の塩を除く)は、有害であるものが多いため、環境負荷や廃棄時の安全性の観点からは、前記水溶液に含有させないか、または含有しても鉄イオンを除く重金属イオンの量がわずか(100ppm未満が好ましく、10ppm未満がより好ましい)であることが好ましい。
【0048】
また、シート状電池が空気電池の場合には、電解液として使用できる前記水溶液は、沸点が150℃以上の水溶性高沸点溶媒を、水と共に溶媒として含有していることが好ましい。空気電池においては、放電を行い容量が減っていくと、それに従って電圧が低下していくが、容量が少なくなる放電後期では電圧の低下に加えてその変動が大きくなりやすい。しかしながら、前記水溶液が水溶性高沸点溶媒を含有している場合には、こうした放電後期の電圧の変動を抑えて、より良好な放電特性を有する空気電池とすることができる。水溶性高沸点溶媒の沸点の上限値は、通常、320℃である。
【0049】
水溶性高沸点溶媒は、その表面張力や比誘電率が高いことが望ましく、具体例としては、エチレングリコール(沸点197℃、表面張力48mN/m、比誘電率39)、プロピレングリコール(沸点188℃、表面張力36mN/m、比誘電率32)、グリセリン(沸点290℃、表面張力63mN/m、比誘電率43)などの多価アルコール;PEG(例えば、沸点230℃、表面張力43mN/m、比誘電率35)などのポリアルキレングリコール(分子量が600以下のものが好ましい);などが挙げられる。電解質液には、これらの水溶性高沸点溶媒のうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、グリセリンを使用することがより好ましい。
【0050】
水溶性高沸点溶媒を使用する場合、その使用による効果を良好に確保する観点から、前記水溶液の全溶媒中の水溶性高沸点溶媒の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。ただし、前記水溶液中の水溶性高沸点溶媒の量が多すぎると、前記水溶液のイオン伝導性が小さくなりすぎて、電池特性が低下する虞があることから、前記水溶液の全溶媒中の水溶性高沸点溶媒の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
前記水溶液における電解質塩の濃度は、例えば、前記水溶液の導電率を80~700mS/cm程度に調整できる濃度であればよく、通常は、5~50質量%である。
【0052】
電解液として使用される前記水溶液には、その溶媒(水または水と水溶性高沸点溶媒との混合溶媒)中にインジウム化合物が溶解していることが好ましい。前記水溶液中にインジウム化合物が溶解している場合には、電池内での水素ガスの発生を良好に抑制することができる。
【0053】
前記水溶液に溶解させるインジウム化合物としては、水酸化インジウム、酸化インジウム、硫酸インジウム、硫化インジウム、硝酸インジウム、臭化インジウム、塩化インジウムなどが挙げられる。
【0054】
インジウム化合物の前記水溶液中の濃度は、質量基準で、0.005%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがより好ましく、0.05%以上であることが特に好ましく、また、1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが特に好ましい。
【0055】
前記水溶液には、前記の各成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて公知の各種添加剤を添加してもよい。例えば、負極に用いる金属材料の腐食(酸化)を防止するために、酸化亜鉛を添加するなどしてもよい。
【0056】
また、電解液を構成する水溶液はゲル化されていてもよく、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の前記水溶液と、増粘剤(ポリアクリル酸ソーダ、カルボキシメチルセルロースなど)とを配合してなるゲル状の電解液(ゲル状電解質)を、シート状電池の電解液に使用することも好ましい。この場合にも、放電後期の電圧の変動を抑えてシート状電池の放電特性をより高めることができ、また、ゲル状の電解液からの水の揮発が抑制されるため、特にシート状外装体に空気孔を形成する空気電池において、電解液の組成変動による放電特性の低下を抑制することができ、電池の貯蔵特性をより高めることも可能となる。
【0057】
本発明のシート状電池は、前記のシート状外装体を有し、かつ前記の水溶液を電解液として有する電池であればよく、一次電池の形態を取ることも、二次電池の形態を取ることも可能である。しかし、一次電池の場合には、負極活物質の腐食によるガスの発生量が二次電池の場合よりも少ないため、電池内でのガス発生による内圧上昇に基づく前記の問題の発生をより良好に抑制できる。よって、本発明のシート状電池は、一次電池〔アルカリ電池、マンガン電池(マンガン乾電池)、空気電池など〕であることがより好ましい。以下には、本発明のシート状電池が一次電池である場合について、詳細に説明する。
【0058】
シート状電池がアルカリ電池やマンガン電池の場合、その正極には、例えば、正極活物質、導電助剤およびバインダを含有する正極合剤層を集電体の片面または両面に有する構造のものが使用できる。
【0059】
シート状電池がアルカリ電池の場合に使用可能な正極活物質としては、酸化銀(酸化第一銀、酸化第二銀など);二酸化マンガンなどのマンガン酸化物;オキシ水酸化ニッケル;銀とコバルト、ニッケルまたはビスマスとの複合酸化物;などが挙げられる。また、シート状電池がマンガン電池の場合の正極活物質には、二酸化マンガンなどのマンガン酸化物が使用される。
【0060】
正極合剤層に係る導電助剤には、例えば、アセチレンブラック;ケッチェンブラック;チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維;などの炭素材料の他、金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;銅、ニッケルなどの金属粉末類;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料;などを用いることができる。
【0061】
正極合剤層に係るバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。
【0062】
正極合剤層中の組成としては、正極活物質の量が80~98質量%であることが好ましく、導電助剤の含有量が1.5~10質量%であることが好ましく、バインダの含有量が0.5~10質量%であることが好ましい。また、正極合剤層の厚み(集電体の片面あたりの厚み)は、30~300μmであることが好ましい。
【0063】
正極合剤層を有する正極は、例えば、正極活物質、導電助剤およびバインダなどを水またはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶媒に分散させて正極合剤含有組成物(スラリー、ペーストなど)を調製し(バインダは溶媒に溶解していてもよい)、これを集電体上に塗布し乾燥し、必要に応じてカレンダ処理などのプレス処理を施す工程を経て製造することができる。
【0064】
また、シート状電池が空気電池の場合の正極には、触媒層を有するもの、例えば、触媒層と集電体とを積層した構造のものを使用することができる。
【0065】
触媒層には、触媒やバインダなどを含有させることができる。
【0066】
触媒層に係る触媒としては、例えば、銀、白金族金属またはその合金、遷移金属、Pt/IrOなどの白金/金属酸化物、La1-xCaCoOなどのペロブスカイト酸化物、WCなどの炭化物、MnNなどの窒化物、二酸化マンガンなどのマンガン酸化物、カーボン〔黒鉛、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなど)、木炭、活性炭など〕などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上が使用される。
【0067】
なお、触媒層は、電解液の成分を除く重金属の含有量が、1質量%以下であることが好ましい。重金属の含有量が前記のように少ない触媒層を有する正極の場合、特別な処理などを経ずに廃棄しても環境負荷が小さい電池とすることができる。
【0068】
本明細書でいう触媒層中の重金属の含有量は、蛍光X線分析により測定することができる。例えば、リガク社製「ZSX100e」を用い、励起源:Rh50kV、分析面積:φ10mmの条件で測定することができる。
【0069】
よって、触媒層に係る触媒には、重金属を含有していないものが推奨され、前記の各種カーボンを使用することがより好ましい。
【0070】
また、正極の反応性をより高める観点からは、触媒として使用するカーボンの比表面積は、200m/g以上であることが好ましく、300m/g以上であることがより好ましく、500m/g以上であることが更に好ましい。本明細書でいうカーボンの比表面積は、JIS K 6217に準じた、BET法によって求められる値であり、例えば、窒素吸着法による比表面積測定装置(Mountech社製「Macsorb HM modele-1201」)を用いて測定することができる。なお、カーボンの比表面積の上限値は、通常、2000m/g程度である。
【0071】
触媒層における触媒の含有量は、20~70質量%であることが好ましい。
【0072】
触媒層に係るバインダとしては、PVDF、PTFE、フッ化ビニリデンの共重合体やテトラフルオロエチレンの共重合体〔フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(PVDF-CTFE)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体(PVDF-TFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体(PVDF-HFP-TFE)など〕などのフッ素樹脂バインダなどが挙げられる。これらの中でも、テトラフルオロエチレンの重合体(PTFE)または共重合体が好ましく、PTFEがより好ましい。触媒層におけるバインダの含有量は、3~50質量%であることが好ましい。
【0073】
触媒層を有する正極の場合、例えば、前記触媒、バインダなどを水と混合してロールで圧延し、集電体と密着させることにより製造することができる。また前記の触媒や必要に応じて使用するバインダなどを、水や有機溶媒に分散させて調製した触媒層形成用組成物(スラリー、ペーストなど)を、集電体の表面に塗布し乾燥した後に、必要に応じてカレンダ処理などのプレス処理を施す工程を経て製造することもできる。
【0074】
また、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトなどの、繊維状カーボンで構成された多孔性のカーボンシートを触媒層とすることも可能である。前記カーボンシートは、後述する正極の集電体として用いることもでき、両者を兼ねることもできる。
【0075】
正極合剤層を有する正極や触媒層を有する正極に係る集電体には、例えば、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、銅などの金属の網、箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル;カーボンの網、シート;などを用いることができる。正極に係る集電体の厚みは、10μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0076】
また、正極の集電体には、シート状外装体を構成するラミネートフィルムを利用することもできる。この場合、例えば、ラミネートフィルムの、シート状外装体の内面となることが予定される面にカーボンペーストを塗布して集電体とし、この表面に前記と同様の方法で正極合剤層や触媒層を形成することで、正極とすることができる。前記のカーボンペースト層の厚みは、30~300μmであることが好ましい。
【0077】
電池の適用機器と接続するための正極の端子部は、アルミニウム箔(板)や線、ニッケル箔(板)や線などを、正極の集電体とリード体を介して接続したり、正極の集電体に直接接続したりするなどして形成することができる。正極の端子部が箔(板、シート)である場合の厚みは、50μm以上500μm以下であることが好ましい。また、正極の端子部が線である場合の直径は、100μm以上1500μm以下であることが好ましい。
【0078】
また、正極の集電体の一部や、正極の触媒層となるカーボンシート(空気電池の場合)の一部を、端子部として利用することもできる。
【0079】
また、シート状電池の負極には、亜鉛系材料やマグネシウム系材料(マグネシウム材料とマグネシウム合金材料とを纏めてこのように称する)、アルミニウム系材料(アルミニウム材料とアルミニウム合金材料とを纏めてこのように称する)などの金属材料を含有するものが使用される。このような負極では、亜鉛やマグネシウムやアルミニウムといった金属が、活物質として作用する。
【0080】
金属材料を含有する負極の具体例としては、亜鉛系粒子(亜鉛粒子と亜鉛合金粒子とを纏めてこのように称する)やマグネシウム系粒子(マグネシウム粒子とマグネシウム合金粒子とを纏めてこのように称する)やアルミニウム系粒子(アルミニウム粒子とアルミニウム合金粒子とを纏めてこのように称する)などの金属粒子を含有する負極が挙げられる。
【0081】
亜鉛合金粒子の合金成分としては、例えば、インジウム(例えば含有量が質量基準で0.005~0.05%)、ビスマス(例えば含有量が質量基準で0.005~0.05%)、アルミニウム(例えば含有量が質量基準で0.001~0.15%)などが挙げられる。
【0082】
また、マグネシウム合金粒子の合金成分としては、例えば、カルシウム(例えば含有量が質量基準で1~3%)、マンガン(例えば含有量が質量基準で0.1~0.5%)、亜鉛(例えば含有量が質量基準で0.4~1%)、アルミニウム(例えば含有量が質量基準で8~10%)などが挙げられる。
【0083】
更に、アルミニウム合金粒子の合金成分としては、例えば、亜鉛(例えば含有量が質量基準で0.5~10%)、スズ(例えば含有量が質量基準で0.04~1.0%)、ガリウム(例えば含有量が質量基準で0.003~1.0%)、ケイ素(例えば含有量が質量基準で0.05%以下)、鉄(例えば含有量が質量基準で0.1%以下)、マグネシウム(例えば含有量が質量基準で0.1~2.0%)、マンガン(例えば含有量が質量基準で0.01~0.5%)などが挙げられる。
【0084】
金属粒子を含有する負極の場合、その金属粒子は、1種単独でもよく、2種以上であってもよい。
【0085】
なお、電池の廃棄時の環境負荷の低減を考慮すると、負極に使用する金属材料は、水銀、カドミウム、鉛およびクロムの含有量が少ないことが好ましく、具体的な含有量が、質量基準で、水銀:0.1%以下、カドミウム:0.01%以下、鉛:0.1%以下、およびクロム:0.1%以下であることがより好ましい。
【0086】
亜鉛系粒子の粒度としては、例えば、全粒子中、粒径が75μm以下の粒子の割合が50質量%以下のものが好ましく、30質量%以下のものがより好ましく、また、粒径が100~200μmの粒子の割合が、50質量%以上、より好ましくは90質量%以上であるものが挙げられる。
【0087】
また、マグネシウム系粒子およびアルミニウム系粒子の粒度としては、例えば、全粒子中、粒径が30μm以下の粒子の割合が50質量%以下のものが好ましく、30質量%以下のものがより好ましく、また、粒径が50~200μmの粒子の割合が、50質量%以上、より好ましくは90質量%以上であるものが挙げられる。
【0088】
本明細書でいう金属粒子における粒度は、レーザー散乱粒度分布計(例えば、堀場製作所製「LA-920」)を用い、粒子を溶解しない媒体に、これらの粒子を分散させて測定した、体積基準での累積頻度50%における粒径(D50)である。
【0089】
前記の金属粒子を含有する負極の場合には、必要に応じて添加されるゲル化剤(ポリアクリル酸ソーダ、カルボキシメチルセルロースなど)やバインダを含んでもよく、これに電解液を加えることで構成される負極剤(ゲル状負極など)を使用することができる。負極中のゲル化剤の量は、例えば、0.5~1.5質量%とすることが好ましく、バインダの量は、0.5~3質量%とすることが好ましい。
【0090】
金属粒子を含有する負極に係る電解液には、電池に注入するものと同じものを使用することができる。
【0091】
負極における金属粒子の含有量は、例えば、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、また、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
【0092】
金属粒子を含有する負極は、インジウム化合物を含有していることが好ましい。負極がインジウム化合物を含有することによって、金属粒子と電解液との腐食反応による水素ガス発生をより効果的に防ぐことができる。
【0093】
前記のインジウム化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウムなどが挙げられる。
【0094】
負極に使用するインジウム化合物の量は、質量比で、金属粒子:100に対し、0.003~1であることが好ましい。
【0095】
また、負極には、前記亜鉛系粒子と同じ組成の亜鉛系シート(亜鉛箔や亜鉛合金箔など)や、前記マグネシウム系粒子と同じ組成のマグネシウム系シート(マグネシウム箔やマグネシウム合金箔など)といった金属シートを用いることもできる。このような負極の場合、その厚みは、10~500μmであることが好ましい。
【0096】
亜鉛箔および亜鉛合金箔としては、電解箔(電解亜鉛箔および電解亜鉛合金箔)が好ましく用いられる。電解箔を用いることにより、圧延箔を用いる場合よりも電解液との反応による水素ガス発生を抑制することができる。
【0097】
また、金属材料を含有する負極には、必要に応じて集電体を用いてもよい。金属材料を含有する負極の集電体としては、ニッケル、銅、ステンレス鋼などの金属の網、箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル;カーボンのシート、網;などが挙げられる。負極の集電体の厚みは、10μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0098】
また、負極の集電体には、前記正極の場合と同様に、シート状外装体の内面となることが予定される面にカーボンペーストを塗布して用いることができる。前記のカーボンペースト層の厚みは、50~200μmであることが好ましい。
【0099】
電池の適用機器と接続するための負極の端子部には、例えば負極集電体を構成し得るものとして先に例示した金属やカーボンで構成された箔(板、シート)、線などを使用することができる。負極の端子部が箔(板、シート)である場合の厚みは、20μm以上500μm以下であることが好ましい。また、負極の端子部が線である場合の直径は、50μm以上1500μm以下であることが好ましい。
【0100】
また、負極の集電体の一部や、活物質として作用する金属シートの一部を、端子部として利用することもできる。
【0101】
シート状電池において、正極と負極との間にはセパレータを介在させる。電池がアルカリ電池やマンガン電池、空気電池の場合のセパレータには、ビニロンとレーヨンを主体とする不織布、ビニロン・レーヨン不織布(ビニロン・レーヨン混抄紙)、ポリアミド不織布、ポリオレフィン・レーヨン不織布、ビニロン紙、ビニロン・リンターパルプ紙、ビニロン・マーセル化パルプ紙などを用いることができる。また、微多孔性フィルムを用いることもでき、微多孔性ポリオレフィンフィルム(微多孔性ポリエチレンフィルムや微多孔性ポリプロピレンフィルムなど)が具体的に例示され、水溶液系電解液との濡れ性を改善するため、その表面を親水化処理したものであってもよい。
【0102】
また、前記微多孔性フィルムとセロファンフィルムとビニロン・レーヨン混抄紙のような吸液層(電解液保持層)とを積み重ねたものをセパレータとしてもよい。セパレータの厚みは、例えば、10~500μmであることが好ましく、微多孔性フィルムの場合は、10~50μmであることが好ましく、不織布の場合は、20~500μmであることが好ましい。
【0103】
図1および図2に本発明のシート状電池の一例を模式的に示している。図1および図2は、シート状電池が空気電池の場合の例であり、図1はその平面図を示し、図2図1のI-I線断面図を示している。
【0104】
図2に示すように、シート状電池1においては、正極20、セパレータ40および負極30と、電解液(図示しない)とが、シート状外装体60内に収容されている。なお、図1における点線は、シート状外装体60内に収容された正極20の大きさ(端子部を除く、幅の広い本体部の大きさであって、正極の触媒層の大きさに相当する)を表している。
【0105】
シート状外装体60の図中上辺からは、正極20の端子部20aおよび負極30の端子部30aが突出している。これらの端子部20a、30aは、シート状電池1と適用機器とを電気的に接続するための外部端子として使用される。
【0106】
シート状外装体60は、正極20が配置された側の片面に、正極に空気を取り込むための空気孔61が複数設けられており、正極20のシート状外装体60側には、空気孔61からの電解質の漏出を防止するための撥水膜50が配置されている。
【0107】
正極20は、触媒層を有しており、前記の通り、例えば触媒層が集電体と積層された構造を有しているが、図2では、図面が煩雑になることを避けるために、正極20の有する各層を区別して示していない。また、図2では、シート状外装体60(それを構成する樹脂製フィルム)についても、図面が煩雑になることを避けるために、各層を区別して示していない。
【0108】
シート状外装体の形状は、平面視で多角形(三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形)であってもよく、平面視で円形や楕円形であってもよい。なお、平面視で多角形のシート状外装体の場合、正極の端子部および負極の端子部は、同一辺から外部へ引き出してもよく、それぞれを異なる辺から外部へ引き出しても構わない。
【0109】
シート状電池が空気電池の場合には、図2に示すように、通常、正極と外装体との間に撥水膜を配するが、その撥水膜には、撥水性がある一方で空気を透過できる膜が使用される。このような撥水膜の具体例としては、PTFEなどのフッ素樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン;などの樹脂で構成された膜などが挙げられる。撥水膜の厚みは、50~250μmであることが好ましい。
【0110】
また、シート状電池が空気電池の場合には、外装体と撥水膜との間に、外装体内に取り込んだ空気を正極に供給するための空気拡散膜を配置してもよい。空気拡散膜には、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ナイロンなどの樹脂で構成された不織布を用いることができる。空気拡散膜の厚みは、100~250μmであることが好ましい。
【0111】
シート状電池の厚み(図2中aの長さ)については特に制限はなく、シート状電池の用途に応じて適宜変更できる。なお、シート状電池は薄型にできることがその利点の一つであり、かかる観点からは、その厚みは、例えば1mm以下であることが好ましい。シート状電池が空気電池の場合には、特にこのような薄型のものの提供が容易となる。
【0112】
また、シート状電池の厚みの下限値についても特に制限はないが、一定の容量を確保するために、通常は、0.2mm以上とすることが好ましい。
【0113】
本発明のシート状電池は、電解液が水溶液であり、特にpHが好適な3以上12未満の水溶液の場合には、環境負荷が小さく、また、破損などによって電解液が漏出して身体に付着しても、問題が生じ難い。よって、本発明のシート状電池は、身体に装着可能なパッチ、特に、皮膚の表面に装着し、体温、脈拍、発汗量など身体の状況に関する測定を行うためのパッチなど、医療・健康用途の機器の電源として好適であり、また、従来から知られている空気電池やアルカリ電池などの水溶液系の電解液を有するシート状電池が採用されている用途と同じ用途にも適用することができる。
【実施例
【0114】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではない。
【0115】
〔シート状外装体の封止性評価試験〕
実験例1
ラミネートフィルムとして、PETフィルム(樹脂基材層、厚み:12μm)の片面に酸化ケイ素蒸着層(水蒸気バリア層、厚み:12nm)を有し、他面に、熱溶着樹脂層を有する積層フィルムを用い、これを25mm×30mmの大きさに切断したものを2枚用いてシート状外装体を形成した。なお、ラミネートフィルムの熱溶着樹脂層は、樹脂基材層側のLLDPE層からなる主層(厚み:100μm)と、ポリオレフィン重合体に不飽和カルボン酸無水物をグラフト共重合してなる酸コポリマーの層(厚み:25μm)とで構成した。
【0116】
厚みが50μmの電解亜鉛箔を、縦:15mm×横:15mmの本体部と、前記本体部の端部から延びる幅:5mm×長さ:15mmの端子部とを有する形状に切断したものを用意し、負極とした。
【0117】
また、厚みが0.25mmの多孔性のカーボンペーパー〔空孔率:75%、透気度(ガーレー):70秒/100ml〕を、縦:15mm×横:15mmの本体部と、前記本体部の端部から延びる幅:5mm×長さ:15mmの端子部とを有する形状に切断したものを用意し、正極(正極集電体)とした。
【0118】
前記負極と前記正極を、互いの端子部が左右に分かれて配置されるようにして重ね、前記2枚のラミネートフィルムの間に挿入し、ラミネートフィルムの周囲3辺を互いに熱溶着して袋状にした。このとき、熱溶着されていない1辺の開口部から、前記電極の端子部を突出させた。さらに、前記開口部から、電解液〔25質量%濃度の塩化アンモニウム水溶液(堀場製作所製の「LAQUAtwinコンパクトpHメータ」を用い、25℃環境下で測定したpHが4.3)〕:0.1gを注入し、前記開口部を熱溶着して、封止性評価試験用のシート状外装体を得た。
【0119】
実験例2
ラミネートフィルムにおける熱溶着性樹脂層の主層の厚みを30μmに変更した以外は、実験例1と同様にして封止性評価試験用のシート状外装体を作製した。
【0120】
実験例3
ラミネートフィルムにおける熱溶着性樹脂層の酸コポリマー層の厚みを10μmに変更した以外は、実験例1と同様にして封止性評価試験用のシート状外装体を作製した。
【0121】
実験例4
厚みが40μmの塩素化ポリエチレン(CPE)層のみで熱溶着性樹脂層を構成した以外は、実験例1で使用したものと同じ構成のラミネートフィルム2枚をシート状外装体として使用した。
【0122】
さらに、前記シート状外装体の開口部を熱溶着させる際に、両電極の端子部と2枚のラミネートフィルムとの間に、それぞれ、厚みが130μmの変性ポリオレフィンアイオノマー〔ポリエチレンユニットとアクリル酸ユニットとを有するポリマーを金属で架橋したもの〕フィルムを、前記開口部の辺と平行になるよう配置し、熱溶着させて封止した以外は、実験例1と同様にして封止性評価試験用のシート状外装体を作製した。
【0123】
実験例1~4で作製したシート状外装体を40℃で12日間貯蔵し、貯蔵前後での電解液の重量変化を求め、貯蔵前の電解液の重量に対する割合(電解液の減少割合)からシート状外装体の封止性を評価した。その結果を表1に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
表1に示す通り、アイオノマーフィルムを介した従来の封止を行った実験例4のシート状外装体は、電解液の減少割合が14%と多くなったのに対し、酸コポリマーを介した封止を行った実験例1~3のシート状外装体は、封止性を向上させ電解液の減少割合を減少させることができた。
【0126】
特に、熱溶着性樹脂層の主層の厚みを100μmと厚くした実験例1および3のシート状外装体は、熱溶着性樹脂層の主層の厚みが30μmの実験例2のシート状外装体に比べ、より封止性を高めることができた。
【0127】
次に、負極の端子部での封止性、および、正極の端子部での封止性を個別に評価するため、以下の試験を行った。
【0128】
実験例5
実験例1で作製した負極を2枚用意し、互いの端子部が左右に分かれて配置されるようにして重ね、ラミネートフィルムの熱溶着部から2枚の負極の端子部を突出させた以外は、実験例3と同様にして封止性評価試験用のシート状外装体を作製した。
【0129】
実験例6
ラミネートフィルムにおける熱溶着性樹脂層の主層の厚みを60μmに変更した以外は、実験例5と同様にして封止性評価試験用のシート状外装体を作製した。
【0130】
実験例7
ラミネートフィルムにおける熱溶着性樹脂層の主層の厚みを30μmに変更した以外は、実験例5と同様にして封止性評価試験用のシート状外装体を作製した。
【0131】
実験例8
実験例1で作製した正極(正極集電体)を2枚用意し、互いの端子部が左右に分かれて配置されるようにして重ね、ラミネートフィルムの熱溶着部から2枚の正極の端子部を突出させた以外は、実験例3と同様にして封止性評価試験用のシート状外装体を作製した。
【0132】
実験例9
ラミネートフィルムにおける熱溶着性樹脂層の主層の厚みを60μmに変更した以外は、実験例8と同様にして封止性評価試験用のシート状外装体を作製した。
【0133】
実験例10
ラミネートフィルムにおける熱溶着性樹脂層の主層の厚みを30μmに変更した以外は、実験例8と同様にして封止性評価試験用のシート状外装体を作製した。
【0134】
実験例5~10で作製したシート状外装体を40℃で12日間貯蔵し、前記と同様にして電解液の減少割合を求め、シート状外装体の封止性を評価した。その結果を表2に示す。
【0135】
【表2】
【0136】
表2に示す通り、金属箔を端子部とした実験例5~7のシート状外装体では、熱溶着性樹脂層の主層の厚みを薄くしても良好な封止性を得ることができた。
【0137】
一方、カーボンペーパーを端子部とした実験例8~10のシート状外装体では、端子部が多孔性であったため、良好な封止性を得るためには、熱溶着性樹脂が端子部の空孔内に充填される必要があり、熱溶着性樹脂層の厚みを一定以上とする必要があることが分かった。
【0138】
〔シート状電池の電池特性評価〕
実施例1
<正極>
DBP吸油量495cm/100g、比表面積1270m/gのカーボン〔(ケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)〕:100質量部と、アクリル系分散剤:25質量部と、エタノール:5000質量部とを混合して触媒層形成用組成物を作製した。
【0139】
多孔性導電基材として多孔性のカーボンペーパー〔厚み:0.25mm、空孔率:75%、透気度(ガーレー):70sec/100ml〕を用い、前記触媒層形成用組成物を、乾燥後の塗布量が10mg/cmとなるよう前記基材の表面にストライプ塗布し、乾燥することにより、触媒層が形成された部分と形成されていない部分とを有する多孔性導電基材(集電体)を得た。この多孔性導電基材を、触媒層が形成された15mm×15mmの大きさの本体部と、触媒含有層が形成されていない5mm×15mmの大きさの端子部とを有する形状に打ち抜いて、全体の厚みが0.27mmの正極(空気極)を作製した。
【0140】
<負極>
添加元素としてBiを0.022質量%含有する電解亜鉛合金箔(厚み:0.05mm)を、15mm×15mmの大きさの本体部と、5mm×15mmの大きさの端子部とを有する形状に打ち抜いて、理論容量が約65mAhの負極を作製した。
【0141】
<電解液>
電解液には、20質量%濃度の塩化アンモニウム水溶液(堀場製作所製の「LAQUAtwinコンパクトpHメータ」を用い、25℃環境下で測定したpHが4.3)を用いた。
【0142】
<セパレータ>
セパレータには、ポリエチレン主鎖にアクリル酸をグラフト共重合させた構造を有するグラフト共重合体で構成された2枚のグラフトフィルム(1枚当たりの厚み:15μm)を、セロハンフィルム(厚み:20μm)の両側に配置したもの(全体の厚み:50μm)を用いた。
【0143】
<撥水膜>
撥水膜には、厚みが75μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。
【0144】
<シート状外装体>
実験例3で用いたものと同じラミネートフィルムを2枚用いてシート状外装体を形成した。
【0145】
正極側に配置されるラミネートフィルムには、あらかじめ直径0.5mmの空気孔9個を縦3個×横3個の等間隔(空気孔同士の中心間距離は5mm)で規則的に形成した。
【0146】
<電池の組み立て>
正極側に配置されるラミネートフィルムを下にして、その上に、前記撥水膜、前記正極、前記セパレータおよび前記負極を順に積層し、更に、負極側に配置されるラミネートフィルムを、前記正極および前記負極の端子部の上に重ねた。次に、2枚の外装体の周囲3辺を互いに熱溶着して袋状にし、更にその開口部から前記電解液を注入した後、前記開口部を熱溶着して封止して、厚みが約1mmのシート状空気電池を作製した。
【0147】
比較例1
シート状外装体として実験例4で用いたものと同じラミネートフィルムを2枚用い、正極側に配置されるラミネートフィルムには、あらかじめ直径0.5mmの空気孔9個を形成した。
【0148】
以下、前記シート状外装体の開口部を熱溶着させる際に、両電極の端子部と2枚のラミネートフィルムとの間に、それぞれ、厚みが130μmの変性ポリオレフィンアイオノマーフィルムを、前記開口部の辺と平行になるよう配置した後、熱溶着させて封止した以外は、実施例1と同様にしてシート状空気電池を作製した。
【0149】
実施例および比較例のシート状空気電池について、以下の条件で貯蔵後の電池特性の評価を行った。
【0150】
実施例および比較例の各シート状空気電池を、袋状にしたアルミラミネートフィルム容器内に封入し、40℃で35日間貯蔵した。貯蔵後の各電池を容器から取り出し、大気に暴露してから10分間放置した後、3.9kΩの放電抵抗を接続して放電させ、電池電圧が1.0Vに低下するまでの放電容量を測定した。結果を表3に示す。
【0151】
【表3】
【0152】
表3に示す通り、本発明のシート状空気電池は、正極および負極の端子部における封止性が改善され、かかる箇所からの電解液溶媒の散逸を良好に抑制することができたため、比較例の電池に比べて、長期貯蔵時の電池特性の低下を抑制することができた。
【符号の説明】
【0153】
1 シート状空気電池
20 正極(空気極)
20a 正極の端子部
30 負極
30a 負極の端子部
40 セパレータ
50 撥水膜
60 シート状外装体
61 空気孔
図1
図2