(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】回転電機及び回転電機の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 5/04 20060101AFI20240806BHJP
H02K 1/18 20060101ALI20240806BHJP
H02K 15/14 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H02K5/04
H02K1/18 A
H02K15/14 Z
(21)【出願番号】P 2020030991
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2022-10-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 清香
(72)【発明者】
【氏名】河口 隆之
(72)【発明者】
【氏名】松田 瞬
(72)【発明者】
【氏名】松前 太郎
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/026550(WO,A1)
【文献】特開昭48-090954(JP,A)
【文献】特開2018-191449(JP,A)
【文献】特開2000-078816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/04
H02K 1/18
H02K 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸を有するロータと、
前記ロータの外周に設けられるステータと、
前記駆動軸を回転可能に支持するベアリングと、
アルミニウム合金の部材を含み、前記ベアリングを保持する保持部材と、
前記ロータ、前記ステータ、前記ベアリング及び前記保持部材を収納するケーシングと、
を備え、
前記ケーシングは、永久生長しない部材、又は、永久生長済みのアルミニウム合金の部材で構成され、
前記保持部材は、永久生長前の状態であり、前記ケーシングに固定される
回転電機。
【請求項2】
前記保持部材は、常温における外径に対する、200℃で5時間加熱した後に常温に戻した際の外径の比率が、100.1%以上100.14%以下である、請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記保持部材は、ADC12の部材を含む、請求項1又は請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記保持部材は、外周面が前記ケーシングの内周面に接触することで、前記ケーシング内に固定されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項5】
前記ケーシングは、前記駆動軸の延在方向において、前記保持部材が設けられる部分の前記ステータが設けられている部分と反対側の箇所に、開口が形成されており、
前記開口に設けられて前記ケーシングに固定されるカバー部材を更に備え、
前記保持部材は、前記カバー部材に接触することで、前記ケーシング内に固定されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項6】
駆動軸を有するロータと、
前記ロータの外周に設けられるステータと、
前記駆動軸を回転可能に支持するベアリングと、
保持部材と、
前記ロータ、前記ステータ、前記ベアリング及び前記保持部材を収納するケーシングと、
を備え、
前記ケーシングは、永久生長しない部材、又は、永久生長済みのアルミニウム合金の部材で構成され、
前記保持部材は、前記ベアリングを保持するベアリングホルダと、前記ベアリングホルダの表面に接触し、前記ケーシングに固定される前において永久生長前の状態のアルミニウム合金の部材で構成される環状のリングと、を備え、
前記リングは、外周面が前記ケーシングの内周面に接触することで、前記ベアリングホルダを、前記ケーシング内に固定する、
回転電機。
【請求項7】
駆動軸を有するロータと、前記ロータの外周に設けられるステータと、前記駆動軸を回転可能に支持するベアリングと、アルミニウム合金の部材を含み、前記ベアリングを保持する保持部材と、前記ロータ、前記ステータ、前記ベアリング及び前記保持部材を収納するケーシングと、を備える回転電機の製造方法であって、
永久生長しない部材、又は、永久生長済みのアルミニウム合金の部材で構成される前記ケーシング内に、永久生長前の前記保持部材を挿入する挿入ステップを含む、
回転電機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機及び回転電機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばパワーステアリングシステム用の回転電機(モータ)として、特許文献1に記載の回転電機が知られている。特許文献1に示すように、回転電機は、ロータと、ステータと、ロータを回転可能に支持するベアリングを保持する保持部材と、ロータ、ステータ、ベアリング及び保持部材を収納するケーシングとを備える。特許文献1においては、保持部材は、周面部を径内方に弾性変形させて、その弾性力でケーシングの内周面に保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、保持部材をケーシング内に固定した後に、さらにその固定を強めることが望まれている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、保持部材をケーシング内に適切に保持可能な回転電機及び回転電機の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る回転電機は、駆動軸を有するロータと、前記ロータの外周に設けられるステータと、前記駆動軸を回転可能に支持するベアリングと、アルミニウム合金の部材を含み、前記ベアリングを保持する保持部材と、前記ロータ、前記ステータ、前記ベアリング及び前記保持部材を収納するケーシングと、を備え、前記ケーシングは、永久生長しない部材、又は、永久生長済みのアルミニウム合金の部材で構成され、前記保持部材は、永久生長前の状態であり、前記ケーシングに固定される。
【0007】
前記保持部材は、常温における外径に対する、200℃で5時間加熱した後に常温に戻した際の外径の比率が、100.1%以上100.14%以下であることが好ましい。
【0008】
前記保持部材は、ADC12の部材を含むことが好ましい。
【0009】
前記保持部材は、外周面が前記ケーシングの内周面に接触することで、前記ケーシング内に固定されていることが好ましい。
【0010】
前記ケーシングは、前記駆動軸の延在方向において、前記保持部材が設けられる部分の前記ステータが設けられている部分と反対側の箇所に、開口が形成されており、前記開口に設けられて前記ケーシングに固定されるカバー部材を更に備え、前記保持部材は、前記カバー部材に接触することで、前記ケーシング内に固定されていることが好ましい。
【0011】
前記保持部材は、前記ベアリングを保持するベアリングホルダと、前記ベアリングホルダの表面に接触し、前記ケーシングに固定される前において永久生長前の状態のアルミニウム合金の部材で構成される環状のリングと、を備え、前記リングは、外周面が前記ケーシングの内周面に接触することで、前記ベアリングホルダを、前記ケーシング内に固定することが好ましい。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る回転電機の製造方法は、駆動軸を有するロータと、前記ロータの外周に設けられるステータと、前記駆動軸を回転可能に支持するベアリングと、アルミニウム合金の部材を含み、前記ベアリングを保持する保持部材と、前記ロータ、前記ステータ、前記ベアリング及び前記保持部材を収納するケーシングと、を備える回転電機の製造方法であって、永久生長しない部材、又は、永久生長済みのアルミニウム合金の部材で構成される前記ケーシング内に、永久生長前の前記保持部材を挿入する挿入ステップを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保持部材をケーシング内に適切に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る回転電機の断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る回転電機の一部の分解図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るケーシングの内径と保持部材の外径とを示す模式図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る回転電機の製造方法を説明する図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係る回転電機の断面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る保持部材の模式図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る保持部材の固定状態を示す模式図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る回転電機の製造方法を説明する図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態に係る回転電機の断面図である。
【
図10】
図10は、第3実施形態に係る保持部材の固定状態を示す模式図である。
【
図11】
図11は、第3実施形態に係る回転電機の製造方法を説明する図である。
【
図12】
図12は、実験例に係るテストピースの模式図である。
【
図13】
図13は、テストピースの永久生長量を示すグラフである。
【
図14】
図14は、テストピースの永久生長量を示すグラフである。
【
図15】
図15は、テストピースの永久生長量を示すグラフである。
【
図16】
図16は、テストピースの永久生長量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る回転電機の断面図であり、
図2は、第1実施形態に係る回転電機の一部の分解図である。第1実施形態に係る回転電機100は、モータ、さらに言えばブラシレスモータである。回転電機100は、例えば車両の電動ステアリング装置に用いられ、車両のステアリングシャフトに操舵補助力を付与する。ただし、回転電機100の用途はそれに限られない。
【0017】
図1に示すように、回転電機100は、ケーシング10と、ステータ20と、ロータ30と、バスバーユニット40と、保持部材50と、基板60と、カバー部材70と、ベアリングB1、B2とを備える。なお、
図2は、ケーシング10、ステータ20、ロータ30、バスバーユニット40、及び保持部材50の分解図であり、基板60及びカバー部材70については記載を省略している。以下、ロータ30、より詳しくは後述の駆動軸32の軸方向に沿った方向を、Z方向とする。そして、Z方向に沿った方向のうちの一方の方向を、Z1方向とし、Z方向に沿った方向のうちの他方の方向を、すなわちZ1方向の反対の方向を、Z2方向とする。
【0018】
図1に示すように、ケーシング10は、ステータ20、ロータ30、バスバーユニット40、保持部材50、及び基板60を内部に収納する筐体である。ケーシング10は、Z1方向側が開口する中空の部材であり、本実施形態ではZ方向から見て円形となる円筒状の部材である。ケーシング10は、底部12と側部14とを含む。底部12は、ケーシング10のZ2方向側の底面を構成する。底部12には、後述の駆動軸32が挿通される開口12Aが形成されている。また、底部12のZ1方向側の表面には、軸受けであるベアリングB1が設けられている。ベアリングB1は、Z方向から見て開口12Aを囲うように設けられ、底部12に対して固定されている。側部14は、ケーシング10の側面を構成する。側部14は、底部12の外縁を囲うように設けられ、底部12の外縁からZ1方向に延在する。ケーシング10は、底部12と側部14とで囲われる空間SPに、ステータ20、ロータ30、バスバーユニット40、保持部材50、及び基板60を収納する。ケーシング10は、Z1方向側の端部が開口しているため、空間SPが、Z1方向側で外部と連通している。ケーシング10のZ1方向側の開口は、Z方向において、保持部材50が設けられる部分の、ステータ20が設けられている部分とは反対側(Z1方向側)に形成されているといえる。
【0019】
側部14は、側部14A1及び側部14A2を含む。側部14A1は、側部14のZ2方向側の部分であり、底部12の外縁からZ1方向側に突出する。側部14A2は、側部14A1のZ1方向側に設けられる部分であり、側部14A1のZ1方向側の端部からさらにZ1方向側に突出している。側部14A1の内周面を内周面10A1とし、側部14A2の内周面を内周面10A2とすると、側部14A2(内周面10A2)の内径は、側部14A1(内周面10A1)の内径よりも大きくなっている。内周面10A2と内周面10A1とは、段差である座面10Bで接続されている。以下、内周面10A1と内周面10A2とを区別しない場合は、内周面10Aと記載する。内周面10Aは、ケーシング10の内周面であるともいえ、側部14の内周面であるともいえる。ただし、ケーシング10は、内周面10A1、10A2のように、Z方向で内径が異なる構造に限られず、例えばZ方向において内径が一定であってもよい。
【0020】
ケーシング10は、アルミニウム合金の部材で構成される。より詳しくは、ケーシング10は、JISで規格されるADC12の部材で構成される。ただし、ケーシング10は、ADC12で構成されることに限られず、永久生長を起こすアルミニウム合金で構成されていてよい。
【0021】
ステータ20は、回転電機100の固定子である。ステータ20は、ケーシング10内、すなわちケーシング10の空間SP内に設けられる。ステータ20は、ステータコア22と、ステータコイル24とを含む。ステータコア22は、ステータ20のコアであり、Z方向から見た中央位置に、Z方向に貫通する貫通孔22Aが形成されている。ステータコア22は、磁性体で構成されており、さらに言えば、鉄系の部材で構成される。鉄系の部材とは、鉄を主成分とする部材である。より詳しくは、本実施形態に係るステータコア22は、電磁鋼板で構成されている。ステータコア22は、電磁鋼板製の部材がZ方向に積層されて構成されている。ただし、ステータコア22は、電磁鋼板で構成されることに限られず、部材がZ方向に積層されて構成されることにも限られない。ステータコア22は、永久生長しない鉄系の部材であってよい。
【0022】
ステータコイル24は、ステータ20のコイルである。ステータコイル24は、U相、V相、及びW相の電磁コイルを含む。ステータコイル24は、ステータコア22に巻回されている。
【0023】
ステータ20は、外周面20Aがケーシング10の内周面10Aに接触することで、ケーシング10に対して固定されている。より詳しくは、ステータ20の外周面20Aは、ケーシング10のZ2方向側の内周面10A1に接触している。すなわち、ステータ20は、ケーシング10に締り嵌め(圧入)されることにより、ケーシング10と嵌め合っている。ステータ20の外周面20Aとケーシング10の内周面10Aとが、嵌め合っている部分であるといえる。なお、外周面20Aは、ステータコア22の外周面であるともいえる。
【0024】
ロータ30は、回転電機100の回転子である。ロータ30は、ケーシング10の空間SP内に設けられる。ロータ30は、駆動軸32と、ロータコア34とを備える。ロータコア34は、ロータ30のコアである。ロータコア34は、周方向に並ぶ複数の磁極を備える。ロータコア34は、Z方向から見た中央位置に、Z方向に貫通する貫通孔が形成されている。駆動軸32は、シャフトであり、ロータコア34の貫通孔に挿入されて、ロータコア34に対して固定されている。すなわち、駆動軸32は、ロータコア34に締り嵌め(圧入)されている。ロータ30は、ロータコア34の外周面が、ステータコア22の貫通孔22A内に設けられる。ロータ30は、駆動軸32の軸方向がZ方向に沿うように、貫通孔22A内に設けられる。また、ロータ30は、ステータ20に対して回転可能に、貫通孔22A内に設けられる。このように、ロータ30が貫通孔22Aに挿入されるため、ステータ20がロータ30の外周に設けられているともいえる。ロータ30は、ステータ20との電磁作用により、駆動軸32のZ方向に沿った中心軸を回転軸として、回転する。
【0025】
また、駆動軸32のZ2方向側の端部には、ギア部36が取り付けられている。ギア部36は、ステアリングシャフトに連絡する相手側のギヤ(図示略)に噛み合い、駆動軸32の回転をステアリングシャフトに伝達する。また、駆動軸32のZ1方向側の端部には、検出体38が取り付けられている。検出体38は、ロータ30の回転数を検出するための部材であり、例えばマグネットや磁気センサである。
【0026】
バスバーユニット40は、ケーシング10の空間SP内において、ステータコイル24のZ1方向側に設けられる。バスバーユニット40は、複数のバスバーとバスバーホルダとを備える板状(ここでは円板状)の部材である。バスバーは、導電性の部材であり、ステータコイル24のU相、V相、W相のそれぞれに接続されている。バスバーホルダは、絶縁性の部材であり、バスバーを覆う。
【0027】
保持部材50は、ケーシング10の空間SP内において、バスバーユニット40のZ1方向側に設けられる。保持部材50は、ベアリングB2を保持する、板状(ここでは円板状)の部材である。保持部材50は、Z2方向側の表面50Cが、側部14の内周面10A1と内周面10A2との間に形成される座面10Bに接触している。保持部材50は、外周面50Bがケーシング10の内周面10A2に対して接触して、ケーシング10に対して固定されている。すなわち、保持部材50は、ケーシング10に締り嵌め(圧入)されている。保持部材50は、表面50Cが座面10Bに接触した状態で、ケーシング10に対して固定されている。また、保持部材50は、Z方向から見た中央位置に、貫通孔50Aが形成されている。貫通孔50Aには、軸受けであるベアリングB2が設けられている。ベアリングB2は、保持部材50に対して固定されているため、保持部材50を介して、ケーシング10に対して固定されているともいえる。保持部材50は、アルミニウム合金の部材で構成される。より詳しくは、保持部材50は、ADC12の部材で構成される。ただし、保持部材50は、ADC12で構成されることに限られず、永久生長を起こすアルミニウム合金で構成されていてよい。
【0028】
なお、ロータ30の駆動軸32は、ベアリングB1、B2に回転可能に支持されている。すなわち、駆動軸32は、Z2方向側の部分が、ベアリングB1内に回転可能に挿入され、ベアリングB1に挿入された部分よりもZ1方向側の部分が、ベアリングB2内に回転可能に挿入されている。
【0029】
基板60は、ケーシング10の空間SP内において、保持部材50のZ1方向側に設けられる。基板60は、回転電機100のECU(Electronic Control Unit)の回路が設けられる回路基板である。基板60は、基板60とバスバーユニット40との間に設けられる接続部62を介して、バスバーユニット40のバスバーに電気的に接続されている。
【0030】
カバー部材70は、ケーシング10のZ1方向側の端部に設けられる。カバー部材70は、カバー72と端子部74とを含む。カバー72は、ケーシング10の空間SPのZ1方向側の開口を閉塞するカバーである。カバー72は、ケーシング10のZ1方向側の端部の開口を覆うように、ケーシング10に取付けられる。カバー72は、ケーシング10と同じ部材で構成されていることが好ましい。端子部74は、カバー72に取付けられている。端子部74は、基板60の回路に電気的に接続される配線(図示略)と、配線に接続される端子とを含む。
【0031】
以上のような構成の回転電機100は、例えば105℃以上の高温環境下で使用される。アルミニウム合金は、このような高温環境下におかれることで加熱されて、永久生長する。永久生長とは、高温環境下で過固溶元素が析出することによる、寸法変化を指す。永久生長は、不可逆の膨張であるため、永久生長した部材は、加熱後に冷却されても、永久生長した分の膨張が戻らない。本実施形態においては、この永久生長という現象を利用して、アルミニウム合金の部材を含んだ保持部材50を、ケーシング10に適切に保持させている。以下、具体的に説明する。
【0032】
本実施形態においては、永久生長前の保持部材50を回転電機100に組み込む。言い換えれば、本実施形態においては、永久生長前の保持部材50をケーシング10に挿入する。すなわち、保持部材50は、回転電機100の使用前においては、言い換えればケーシング10内に固定される前においては、永久生長前の状態となっている。永久生長前の状態とは、永久生長済みとなっておらず、加熱により永久生長可能な状態であることを指す。さらに言えば、永久生長前の状態とは、保持部材50が全く永久生長していない状態を指すことが好ましい。また、永久生長済みの状態とは、保持部材50がすでに永久生長している状態を指す。さらに言えば、永久生長済みの状態とは、保持部材50が最大まで永久生長して、これ以上永久生長しない状態(すなわち永久生長が飽和している状態)を指すことが、より好ましい。また、ここでの回転電機100の使用前とは、回転電機100が、回転電機100が搭載される車両などの対象物に搭載される前の状態(回転電機100が対象物に搭載されていない状態)であることを指す。さらに言えば、永久生長前の保持部材50が永久生長済みとなる環境を、永久生長環境とすると、回転電機100の使用とは、保持部材50が組み付けられた回転電機100を、永久生長環境下に配置することを指す。すなわち、回転電機100の使用前とは、保持部材50が組み付けられた回転電機100を、これまで永久生長環境下に配置していない状態を指す。永久生長環境は、部材を、所定温度に所定時間配置することを指し、ここでの所定温度は、例えば、105℃以上であり、所定時間は、例えば、5時間以上である。
【0033】
また、本実施形態においては、永久生長済みのケーシング10を、回転電機100に組み込む。言い換えれば、本実施形態においては、永久生長済みのケーシング10に、永久生長前の保持部材50を挿入する。すなわち、ケーシング10は、回転電機100の使用前において、言い換えれば保持部材50をケーシング10に固定する前において、永久生長済みの状態となっている。本実施形態においては、ケーシング10に熱処理を施して加熱することで、ケーシング10を永久生長済みの状態とする。ここでの熱処理は、ケーシング10を永久生長環境下に配置すると言い換えることもできる。すなわち、ここでの熱処理条件は、ケーシング10を、上述の所定温度に所定時間加熱するものであってよい。さらに言えば、本実施形態では、熱処理として、ケーシング10に対し、T5処理を施す。ここでのT5処理は、例えば、部材を、200℃以上240℃で2時間以上6時間以下加熱して、急冷する処理である。ただし、ここでの熱処理条件は、ケーシング10を永久生長済みの状態とするものであれば任意の条件であってよい。
【0034】
なお、本実施形態においては、ケーシング10を回転電機100に組み付ける前に、言い換えればケーシング10に保持部材50を挿入する前に、ケーシング10を加熱して、ケーシング10を永久生長済みの状態にすることが好ましい。
【0035】
図3は、第1実施形態に係るケーシングの内径と保持部材の外径とを示す模式図である。
図3に示すように、以下、ケーシング10の内径を、内径D1とし、保持部材50の外径を、外径D2とする。内径D1は、ケーシング10の側部14A2における内径、すなわち内周面10A2における内径である。ここで、保持部材50をケーシング10から取り外した際の、外径D2と内径D1との差分を、寸法差Dとする。すなわち、寸法差Dは、保持部材50がケーシング10に挿入されて固定された後に、保持部材50をケーシング10から取り外した際の、保持部材50の外径D2からケーシング10の内径D1を差し引いた値ともいえる。寸法差Dは、ケーシング10と保持部材50との締め代に相当するともいえる。この場合、回転電機100は、回転電機100の使用前において、保持部材50をケーシング10から取り外した際の内径D1に対する、寸法差Dの比率が、0.02%以上0.22%以下となっていることが好ましい。この比率が0.02%以上となることで、保持部材50とケーシング10との締め付け荷重を適切に保ち、0.22%以下となることで、圧入力が高すぎることによるケーシング10や保持部材50の破損を抑制できる。
【0036】
このように、本実施形態においては、回転電機100の使用前において、回転電機100に組み付けられた保持部材50が永久生長前の状態であり、回転電機100に組み付けられたケーシング10が、永久生長済みの状態である。そのため、回転電機100が使用された場合、すなわち回転電機100を永久生長環境下においた場合に、保持部材50が永久生長する一方、ケーシング10はこれ以上永久生長しない。そのため、回転電機100を使用した後においては、保持部材50の外径D2が永久生長により大きくなり、ケーシング10の内径D1は永久生長により大きくならない。そのため、回転電機100の使用後における寸法差Dは、回転電機100の使用前における寸法差Dよりも大きくなる。すなわち、本実施形態においては、回転電機100の使用に伴い、保持部材50とケーシング10との締め代(寸法差D)が大きくなって、締め付け荷重が高くなる。言い換えれば、保持部材50は、ケーシング10に固定された後に永久生長することで、永久生長する前よりも、ケーシング10に対してより強固に固定される(すなわち締め付け荷重が高くなる)。そのため、本実施形態の回転電機100によると、使用に伴い締め付け荷重を高くすることが可能となり、保持部材50をケーシング10内に適切に保持できる。なお、回転電機100の使用後において、保持部材50をケーシング10から取り外した際の内径D1に対する、寸法差Dの比率は、0.14%以上0.34%以下となることが好ましい。
【0037】
このように、本実施形態においては、ケーシング10は、永久生長するアルミニウム合金製であり、回転電機100の使用前において、永久生長済みとなっている。ただし、ケーシング10は、アルミニウム合金製に限られない。ケーシング10は、永久生長しない部材で構成されていてよく、例えば、鉄系の部材で構成されていてよい。鉄系の部材とは、鉄を主成分とする部材である。ケーシング10を、永久生長しない鉄系の部材などにすることでも、回転電機100の使用に伴い締め代を大きくして、締め付け荷重を高くすることができる。
【0038】
なお、保持部材50がケーシング10に締り嵌めされると、ケーシング10及び保持部材50の少なくとも一方が塑性変形する。寸法差Dは、保持部材50がケーシング10に締り嵌めされた後の、すなわち塑性変形した後の、外径D2と内径D1との差分といえる。そのため、保持部材50がケーシング10に圧入される前の、外径D2と内径D1との差分、すなわち圧入代は、締り嵌めされた後の寸法差Dに対して、塑性変形分を加算した値となる。
【0039】
また、保持部材50は、永久生長前の状態であるため、加熱により永久生長する。ここで、回転電機100の使用前における、永久生長前の状態の保持部材50の、常温における外径D2を、基準外径とする。ここでの常温は、例えば25℃である。また、回転電機100の使用前における、永久生長前の状態の保持部材50を200℃で5時間加熱した後、常温に戻した場合の保持部材50の外径D2を、永久生長外径とする。この場合、基準外径に対する永久生長外径の比率は、100.1%以上100.14%以下であることが好ましい。
【0040】
また、ケーシング10は、永久生長済みであるが、加熱により、可逆的に熱膨張する。ここでの可逆的な熱膨張は、線膨張係数に依存する熱膨張である。ケーシング10は、例えば、常温における内径D1に対する、200℃で5時間加熱した際の内径D1の比率が、100.35%以上100.39%以下となっていることが好ましい。なお、ここでの常温は、例えば25℃である。すなわち、ケーシング10は、永久生長済みであるため、高温環境下に配置した際の膨張量は、永久生長に依存せず、可逆的な熱膨張に依存するものとなっている。
【0041】
次に、回転電機100の製造方法について説明する。
図4は、第1実施形態に係る回転電機の製造方法を説明する図である。
図4に示すように、回転電機100を製造する際には、永久生長済みのケーシング10に、ステータ20、ロータ30、及びバスバーユニット40を挿入する(ステップS10)。さらに言えば、ステップS10の前に、ケーシング10を加熱して、ケーシング10を永久生長済みの状態にしてよい。本実施形態においては、鋳造によりケーシング10を製造した後、ケーシング10を加熱して、ケーシング10を永久生長済みの状態にする。そして、永久生長済みのケーシング10に対して、内周面10Aを機械加工することで、永久生長済みのケーシング10の内径を、ステータ20がケーシング10に挿入される前の内径D1とする。ただし、機械加工は必須の工程ではない。
【0042】
そして、永久生長済みのケーシング10に、永久生長前の状態の保持部材50を挿入して、ケーシング10の内周面10A2と保持部材50の外周面50Bとを接触させて、保持部材50をケーシング10に固定する(ステップS12;挿入ステップ)。ステップS12においては、ケーシング10のZ1方向側の端部の開口から、空間SP内に、保持部材50を挿入する。本実施形態においては、焼嵌めにより、ケーシング10に保持部材50を挿入する。すなわち、永久生長済みのケーシング10を加熱して、ケーシング10の内径を膨張させた状態で、保持部材50を挿入して、保持部材50の表面50Cをケーシング10の座面10Bに接触させる。そして、ケーシング10内に保持部材50が配置された状態で、ケーシング10を冷却することで、ケーシング10の内径が元に戻り、ケーシング10の内周面10A2と保持部材50の外周面50Bとが接触して、保持部材50がケーシング10に固定された、締り嵌めされた状態となる。ただし、ケーシング10に保持部材50を挿入する方法は、焼嵌めに限られない。例えば、加熱していないケーシング10に保持部材50を圧入してもよい。また、ステータ20も、ケーシング10に焼嵌めされてよい。
【0043】
保持部材50をケーシング10に固定したら、基板60、及びカバー部材70をケーシング10に組み付ける(ステップS14)ことで、回転電機100の製造が完了する。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る回転電機100は、駆動軸32を有するロータ30と、ロータ30の外周に設けられるステータ20と、駆動軸32を回転可能に支持するベアリングB2と、アルミニウム合金の部材を含みベアリングB2を保持する保持部材50と、ロータ30、ステータ20、ベアリングB2及び保持部材50を収納するケーシング10とを備える。保持部材50は、ケーシング10内に固定されたときにおいて、永久生長前の状態である。ケーシング10は、永久生長しない部材、又は、保持部材50をケーシング10に固定する前において前において永久生長済みのアルミニウム合金の部材で構成される。保持部材50は、永久生長することで、ケーシング10に対してより強固に固定される。ここで、回転電機100は、高温環境下で使用される。そのため、回転電機100は、使用に伴い、保持部材50が永久生長することにより、保持部材50とケーシング10との締め代(寸法差D)が大きくなって、保持部材50とケーシング10との締め付け荷重が高くなる。このように、本実施形態の回転電機100によると、回転電機100を使用するだけで、言い換えれば回転電機100を高温環境下に配置するだけで、締め付け荷重を増加させて、保持部材50をケーシング10内に適切に保持できる。さらに言えば、本実施形態の回転電機100によると、例えば保持部材50をねじなどの締結部材でケーシング10に固定することなく、保持部材50をケーシング10内に適切に保持できるため、ねじ止めなどの締結工程が不要となり、製造工程を簡略化できる。さらに、本実施形態の回転電機100によると、回転電機100の使用により事後的に締め代を大きくできるので、圧入時における圧入代を大きく設定する必要がなくなり、圧入設備や焼嵌め設備などの巨大化を強制できる。
【0045】
また、保持部材50は、常温における外径D2(基準外径)に対する、200℃で5時間加熱した後に常温に戻した際の外径D2(永久生長後外径)の比率が、100.1%以上100.14%以下であることが好ましい。この回転電機100によると、このような保持部材50を用いることで、保持部材50をケーシング10内に適切に保持できる。
【0046】
また、保持部材50は、ADC12の部材を含むことが好ましい。本実施形態に係る回転電機100は、ADC12製の保持部材50を用いることで、車両に適切に搭載することができる。また、保持部材50を永久生長前の状態とすることで、ADC12製の保持部材50を用いた場合でも、保持部材50をケーシング10の内周面に適切に保持できる。
【0047】
また、保持部材50は、外周面50Bがケーシング10の内周面10A2に接触することで、ケーシング10内に固定される。本実施形態に係る回転電機100は、保持部材50の外周面50Bをケーシング10の内周面10A2に固定することで、保持部材50をケーシング10内に適切に保持できる。
【0048】
また、本実施形態に係る回転電機100の製造方法は、挿入ステップを含む。挿入ステップにおいては、永久生長しない部材、又は、永久生長済みのアルミニウム合金の部材で構成されるケーシング10内に、永久生長前の保持部材50を挿入する。本実施形態に係る回転電機100の製造方法によると、永久生長済み又は永久生長しない部材のケーシング10に、永久生長前の保持部材50を挿入するため、保持部材50をケーシング10内に適切に保持できる。
【0049】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態に係る回転電機100aは、保持部材50aをカバー部材70aに固定する点で、第1実施形態とは異なる。第2実施形態において、第1実施形態と構成が共通する箇所は、説明を省略する。
【0050】
図5は、第2実施形態に係る回転電機の断面図である。
図6は、第2実施形態に係る保持部材の模式図である。
図5に示すように、第2実施形態に係る回転電機100aは、保持部材50aと、カバー部材70aとを備える。
図6に示すように、保持部材50aは、保持部52と延在部54とを含む。保持部52は、ベアリングB2を保持する板状(ここでは円板状)の部材である。保持部52は、Z方向から見た中央位置に、貫通孔50Aが形成されており、貫通孔50AにベアリングB2が設けられている。保持部52は、Z2方向側の表面50Cが、ケーシング10の座面10Bに接触している。延在部54は、保持部52のZ1方向側の表面50Dから、端部54Aまで、Z1方向側に突出する。延在部54は、保持部52の表面50D側の外縁部から、Z1方向側に突出している。また、
図6の例では、延在部54は、保持部52の周方向において複数(ここでは3つ)設けられている。また、本実施形態においては、保持部52の外周面52Bは、延在部54の外周面54Bよりも、径方向外側に位置している。保持部52の外周面52Bが、保持部材50aの外周面50Bに相当するといえる。なお、延在部54の形状や数は任意である。例えば、保持部52の外周面52Bは、延在部54の外周面54Bよりも、径方向外側に位置することに限られず、外周面52Bと外周面54Bとが径方向で同じ位置にあってもよいし、外周面54Bの方が外周面52Bより径方向外側に位置してもよい。なお、ここでの径方向とは、保持部材50aのZ方向に沿った中心軸を中心とした場合の径方向である。また、保持部52の外周面52Bとは、保持部材50aのZ方向に沿った中心軸を中心とした場合の、径方向外側における表面である。
【0051】
図5に示すように、カバー部材70aは、カバー72aと端子部74とを含む。カバー72aは、ケーシング10と同じ部材で構成されている。カバー72aは、ケーシング10の空間SPのZ1方向側の開口に設けられ、その開口を閉塞する。カバー72aは、ケーシング10のZ1方向側の開口から、空間SP内に挿入された状態で、ケーシング10に対して固定されている。
図5に示すように、カバー72aは、ボルトBによりケーシング10に固定されているが、ケーシング10に固定される方法は任意である。例えば、カバー72aは、空間SP内に挿入される部分の外周面が、ケーシング10の内周面10A2に接触することで、すなわち締り嵌めされることで、ケーシング10に固定されてもよい。
【0052】
図7は、第2実施形態に係る保持部材の固定状態を示す模式図である。
図7に示すように、回転電機100aは、保持部材50aの外周面50B(保持部52の外周面52B)が、ケーシング10の内周面10A2に接触しておらず、保持部材50aの外周面50Bとケーシング10の内周面10A2とが離れている。すなわち、保持部材50aは、ケーシング10に対して締り嵌めされていない。一方、保持部材50aは、Z1方向側の端部54Aが、カバー72aのZ2方向側の端部72Aaに接触することで、カバー72aに対して固定されている。すなわち、保持部材50aは、カバー72aを介して、ケーシング10に対して固定されている。より具体的には、保持部材50aは、延在部54が、カバー72aの端部72Aaとケーシング10の座面10Bとに挟まれて、端部72Aa及び座面10BからZ方向における圧縮荷重を受けることで、カバー72a及びケーシング10に対して、固定されている。
【0053】
ここで、保持部材50aの表面50Cから端部54AまでのZ方向に沿った長さを、長さD3とする。また、カバー72aをケーシング10に取付けた状態において、カバー72aの端部72Aaからケーシング10の座面10Bまでの、Z方向に沿った距離を、距離D4とする。そして、保持部材50aをケーシング10から取り外した際の、長さD3と距離D4との差分を、寸法差Daとする。すなわち、寸法差Daは、保持部材50aがケーシング10に挿入されてカバー72a及びケーシング10に対して固定された後に、保持部材50aをケーシング10から取り外した際の、長さD3から距離D4を差し引いた値ともいえる。
【0054】
本実施形態においては、回転電機100aの使用前において、回転電機100aに組み付けられた保持部材50aが永久生長前の状態であり、回転電機100aに組み付けられたケーシング10及びカバー72aが、永久生長済みの状態である。そのため、回転電機100aが使用された場合、保持部材50aが永久生長する一方、ケーシング10及びカバー72aはこれ以上永久生長しない。従って、回転電機100aを使用した後においては、保持部材50aの長さD3が永久生長により大きくなる一方、ケーシング10とカバー72aとの距離D4は永久生長により変化しない。そのため、回転電機100aの使用後における寸法差Daは、回転電機100aの使用前における寸法差Daよりも大きくなり、結果として、圧縮荷重が高くなる。このように、本実施形態においては、回転電機100aの使用に伴い、寸法差Daが大きくなって保持部材50aへの圧縮荷重が高くなり、保持部材50aをケーシング10に固定する力が大きくなる。そのため、本実施形態の回転電機100aによると、保持部材50aをケーシング10内に適切に保持できる。なお、ケーシング10及びカバー72aが永久生長前である場合、回転電機100aの使用に伴いケーシング10及びカバー72aも永久生長して、距離D4が小さくなり、寸法差Daがさらに大きくなる。それに対し、本実施形態では、ケーシング10及びカバー72aを永久生長済みとすることで、寸法差Daが大きくなり過ぎることによる保持部材50aの破損を抑制できる。
【0055】
次に、回転電機100の製造方法について説明する。
図8は、第2実施形態に係る回転電機の製造方法を説明する図である。
図8に示すように、回転電機100aを製造する際には、永久生長済みのケーシング10に、ステータ20、ロータ30、及びバスバーユニット40を挿入する(ステップS10)。さらに言えば、ステップS10の前に、ケーシング10及びカバー72aを加熱して、ケーシング10及びカバー72aを永久生長済みの状態にしてよい。
【0056】
そして、永久生長済みのケーシング10に、永久生長前の状態の保持部材50aを挿入する(ステップS12a)。ステップS12aにおいては、ケーシング10内に保持部材50aを挿入して、保持部材50aの表面50Cをケーシング10の座面10Bに接触させる。そして、基板60、及びカバー部材70aをケーシング10に組み付けて、カバー部材70aをケーシング10に固定する(ステップS16)。カバー部材70aは、端部72Aaが保持部材50aの端部54Aに接触するように、ケーシング10に固定される。保持部材50aは、カバー部材70aの端部72Aaとケーシング10の座面10Bとに挟まれることで、ケーシング10に対して固定される。これにより、回転電機100aの製造が完了する。このように製造された回転電機100aは、使用されることにより、保持部材50aが永久生長することで、ケーシング10に対してより強固に固定される。
【0057】
以上説明したように、ケーシング10は、駆動軸32の延在方向(Z方向)において、保持部材50aが設けられる部分の、ステータ20が設けられている部分と反対側の箇所(Z1方向側)に、開口が形成されている。回転電機100aは、この開口に設けられてケーシング10に固定されるカバー部材70aを更に備える。保持部材50aは、カバー部材70aに接触することで、ケーシング10内に固定されている。第2実施形態に係る回転電機100aは、保持部材50aとカバー部材70aとが接触する。そのため、回転電機100aの使用に伴い、保持部材50aが永久生長することで、保持部材50aに作用する圧縮荷重が高くなり、ケーシング10に対してより強固に固定される。そのため、第2実施形態に係る回転電機100aによると、保持部材50aを、ケーシング10内に適切に保持できる。
【0058】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態に係る回転電機100bは、保持部材50bが複数の部材で構成されている点で、第1実施形態と異なる。第3実施形態において、第1実施形態と構成が共通する箇所は、説明を省略する。
【0059】
図9は、第3実施形態に係る回転電機の断面図である。
図9に示すように、第3実施形態に係る回転電機100bの保持部材50bは、ベアリングホルダ56とリング58とを含む。ベアリングホルダ56は、ケーシング10の空間SP内において、バスバーユニット40のZ1方向側に設けられる。ベアリングホルダ56は、ベアリングB2を保持する板状(ここでは円板状)の部材である。ベアリングホルダ56は、Z方向から見た中央位置に、貫通孔50Aが形成されており、貫通孔50AにベアリングB2が設けられている。なお、ベアリングホルダ56の材料は、任意であるが、例えばケーシング10と同じ材料であってよい。
【0060】
リング58は、環状の部材である。リング58は、アルミニウム合金の部材で構成される。より詳しくは、リング58は、ADC12の部材で構成される。ただし、リング58は、ADC12で構成されることに限られず、永久生長を起こすアルミニウム合金で構成されていてよい。リング58は、ケーシング10の空間SP内において、ベアリングホルダ56のZ1方向側に設けられる。
【0061】
図10は、第3実施形態に係る保持部材の固定状態を示す模式図である。
図10に示すように、ベアリングホルダ56は、Z2方向側の表面56Cが、ケーシング10の座面10Bに接触している。また、ベアリングホルダ56は、外周面56Bが、ケーシング10の内周面10A2に接触しておらず、ベアリングホルダ56の外周面56Bとケーシング10の内周面10A2とが離れている。すなわち、ベアリングホルダ56は、ケーシング10に対して締り嵌めされていない。一方、リング58は、外周面58Bが、ケーシング10の内周面10A2に接触することで、ケーシング10に対して固定されている。すなわち、リング58は、ケーシング10に対して締り嵌めされている。第3実施形態においては、リング58の外周面58Bが、ケーシング10の内周面10A2に接触する保持部材50bの外周面50Bに相当する。また、リング58は、Z2方向側の表面58Aが、ベアリングホルダ56のZ1方向側の表面56Dに接触している。リング58は、ベアリングホルダ56と接触することで、ベアリングホルダ56をケーシング10に固定している。すなわち、ベアリングホルダ56は、リング58を介して、ケーシング10に固定されている。
【0062】
リング58は、第1実施形態の保持部材50と同様に、回転電機100bの使用前において、永久生長前の状態となっている。また、第3実施形態においては、リング58の外径が、第1実施形態で説明した保持部材50の外径D2に相当する。第3実施形態における保持部材50b(リング58)の外径D2とケーシング10の内径D1との寸法差Dなどは、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。第3実施形態においては、回転電機100bの使用前において、リング58が永久生長前の状態である。そのため、回転電機100bが使用された場合、リング58が永久生長することにより、リング58とケーシング10との締め代(寸法差D)が大きくなる。従って、第3実施形態においても、保持部材50bをケーシング10内に適切に保持できる。
【0063】
次に、回転電機100bの製造方法について説明する。
図11は、第3実施形態に係る回転電機の製造方法を説明する図である。
図11に示すように、回転電機100bを製造する際には、永久生長済みのケーシング10に、ステータ20、ロータ30、及びバスバーユニット40を挿入する(ステップS10)。さらに言えば、第1実施形態と同様に、ステップS10の前に、ケーシング10を加熱して、ケーシング10を永久生長済みの状態にしてよい。
【0064】
そして、永久生長済みのケーシング10に、ベアリングホルダ56を挿入し(ステップS12b)、リング58を挿入する(ステップS13b)。ステップS12bにおいては、ケーシング10内にベアリングホルダ56を挿入して、ベアリングホルダ56の表面50Cをケーシング10の座面10Bに接触させる。そして、ステップS14bにおいては、ケーシング10内にリング58を挿入して、リング58の表面58Aをベアリングホルダ56の表面56Dに接触させる。そして、ケーシング10の内周面10A2とリング58の外周面58B(外周面5B)とを接触させて、リング58がケーシング10に固定された、締り嵌めされた状態とする。これにより、ベアリングホルダ56は、リング58を介して、ケーシング10に固定される。なお、リング58をケーシング10に挿入する際にも、第1実施形態と同様に焼嵌めを用いてよい。その後、基板60、及びカバー部材70をケーシング10に組み付ける(ステップS14b)ことで、回転電機100bの製造が完了する。このように製造された回転電機100bは、使用されることにより、リング58が永久生長することで、ケーシング10に対してより強固に固定される。
【0065】
以上説明したように、第3実施形態に係る保持部材50bは、ベアリングB2を保持するベアリングホルダ56と、環状のリング58とを備える。リング58は、ベアリングホルダ56の表面56Dに接触する。リング58は、アルミニウム合金の部材で構成され、回転電機100bの使用前において、すなわちケーシング10に固定される前において、永久生長前の状態となっている。リング58は、外周面58B(外周面50B)がケーシング10の内周面10A2に接触することで、ベアリングホルダ56を、ケーシング10内に固定する。第3実施形態に係る保持部材50bは、回転電機100bの使用に伴い、リング58が永久生長することで、リング58とケーシング10との締め付け荷重が大きくなり、ベアリングホルダ56をケーシング10に固定する力が大きくなる。そのため、第3実施形態に係る回転電機100bによると、保持部材50bを、ケーシング10内に適切に保持できる。
【0066】
(実験例)
次に、実験例について説明する。実験例においては、ケーシング10と同じ材料(部材)で構成されるテストピースPの永久生長を測定した。
図12は、実験例に係るテストピースの模式図であり、
図13から
図16は、テストピースの永久生長量を示すグラフである。
図12に示すように、実験例においては、矩形の板状のテストピースPを用いて、テストピースPを永久生長させた。実験例においては、永久生長していない、すなわち永久生長環境下に配置していないテストピースPを、各温度に加熱して、テストピースPの寸法を測定した。具体的には、テストピースPの長辺の長さL1と、テストピースPの長辺方向での一方の端部における短辺の長さ(幅)W1と、テストピースPの長辺方向での中央位置における短辺の長さ(幅)W2と、テストピースPの長辺方向での他方の端部における短辺の長さ(幅)W3とを測定した。さらに言えば、実験例においては、永久生長していない状態のテストピースP、すなわち加熱前のテストピースPの、25℃における長さL1、W1、W2、W3を測定し、そのテストピースPを、設定した加熱温度で設定した時間加熱した後、25℃に戻して、長さL1、W1、W2、W3を測定した。そして、加熱前と加熱後とで、長さL1、W1、W2、W3の寸法差を算出して、寸法の変化率(%)を算出した。ここでの変化率は、加熱前の長さ(長さL1、W1、W2、W3)に対する、加熱後の長さと加熱前の長さとの差分の比率を指す。すなわち、変化率は、永久生長量を示した値であるといえる。
【0067】
図13は、テストピースPを105℃で加熱した場合の変化率を示している。
図13においては、横軸が積算の加熱時間であり、縦軸が加熱時間毎の長さL1、W1、W2、W3の測定値を示している。
図13に係る実験例では、永久生長前のテストピースPを、105℃の環境下(加熱温度)で加熱し、所定の加熱時間だけ加熱した後に長さL1、W1、W2、W3を測定した後、さらに加熱することで、積算の加熱時間毎に、長さL1、W1、W2、W3を測定した。そして、それぞれのテストピースPについて、加熱前と加熱後とで長さL1、W1、W2、W3を測定して、加熱時間毎の変化率を算出した。
図13に示すように、加熱温度を105℃とした場合、テストピースPは永久生長し、加熱時間を長くするほど、永久生長量が大きくなっていることが分かる。なお、
図14以降の実験例も、加熱温度以外は
図13の実験例と同様の条件として、加熱時間毎の変化率を算出した。
【0068】
図14は、テストピースPを125℃で加熱した場合の変化率を示している。
図14の実験例においては、永久生長前のテストピースPを、125℃の環境下(加熱温度)で加熱し、加熱時間毎の変化率を算出した。
図14に示すように、加熱温度を125℃とした場合、テストピースPは永久生長することが分かる。また、加熱時間を長くするほど、永久生長量が大きくなってゆき、約500時間で永久生長量がほぼ一定になることが分かる。
【0069】
図15は、テストピースPを150℃で加熱した場合の変化率を示している。
図15の実験例においては、永久生長前のテストピースPを、150℃の環境下(加熱温度)で加熱し、加熱時間毎の変化率を算出した。
図15に示すように、加熱温度を150℃とした場合、テストピースPは永久生長することが分かる。また、加熱時間を長くするほど、永久生長量が大きくなってゆき、約150時間で永久生長量がほぼ一定になることが分かる。
【0070】
図16は、テストピースPを200℃で加熱した場合の変化率を示している。
図16の実験例においては、永久生長前のテストピースPを、200℃の環境下(加熱温度)で加熱し、加熱時間毎の変化率を算出した。
図16に示すように、加熱温度を200℃とした場合、テストピースPは永久生長することが分かる。また、加熱時間を長くするほど、永久生長量が大きくなってゆき、約5時間で永久生長量がほぼ一定になることが分かる。
【0071】
このように、ケーシング10と同じ材料を用いたテストピースPは、加熱温度が105℃以上250℃以下で加熱した場合に永久生長することが分かる。また、最大の変化量、すなわち永久生長する最大量は、0.12%程度であることが分かる。
【0072】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これら実施形態等の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態等の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0073】
10 ケーシング
10A 内周面
12 底部
14 側部
20 ステータ
20A 外周面
22 ステータコア
24 ステータコイル
30 ロータ
32 駆動軸
34 ロータコア
40 バスバーユニット
50 保持部材
60 基板
70 カバー部材
100 回転電機
B2 ベアリング