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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】撹拌装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/808 20220101AFI20240806BHJP
   B01F 35/42 20220101ALI20240806BHJP
【FI】
B01F27/808
B01F35/42
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020042862
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021142478
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】502369746
【氏名又は名称】住友重機械プロセス機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 寛
(72)【発明者】
【氏名】金森 頼之
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-122249(JP,U)
【文献】実開昭52-044955(JP,U)
【文献】実開平02-066230(JP,U)
【文献】実開昭60-168536(JP,U)
【文献】特開昭49-085657(JP,A)
【文献】特開昭51-117261(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002905(WO,A1)
【文献】特開2012-115808(JP,A)
【文献】実開平05-080528(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 25/00-35/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撹拌室を定める撹拌槽と、
前記撹拌室内に配置される流動翼と、
前記撹拌槽の下側から前記撹拌室内まで延び、せん断翼を回転駆動させる駆動軸と、
前記駆動軸の径方向外側に配置され前記撹拌槽と前記駆動軸との間をシールするメカニカルシール構造とを備え、
前記メカニカルシール構造のシール面は、前記撹拌室の最下部と同じ高さ又は最下部よ
りも上に形成され、
前記駆動軸は、前記せん断翼が固定される第1部分と、前記第1部分よりも径が大きく前記第1部分よりも下方に設けられる第2部分と、を備え、
前記メカニカルシール構造は、
前記撹拌槽の最下部に取り付けられ、前記第1部分の外側周面と前記駆動軸の径方向について隙間を有して配置される内側周面を含む固定環と、
前記駆動軸の第2部分に取り付けられ、前記固定環の下側に配置され、前記固定環の底面と対向する回転環と、
前記回転環の頂面と前記固定環の底面との間に前記シール面を形成するように前記固定環の底面に向けて前記回転環を付勢するスプリングと、
を有する撹拌装置。
【請求項2】
前記シール面を形成するための前記固定環と前記回転環との間の隙間は、前記撹拌室内の液体を径方向外向きに流すよう前記撹拌室と連通する、請求項1に記載の撹拌装置。
【請求項3】
前記シール面から径方向外側に排出された液体成分を排液部へ排出する排液路を備える、請求項2に記載の撹拌装置。
【請求項4】
前記駆動軸は、前記第1部分から前記第2部分に向けて径が大きくなる移行部分を備え、
前記シール面は、上下方向において前記移行部分の間、又は前記移行部分よりも下側に位置する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の撹拌装置。
【請求項5】
前記固定環の内側周面と前記第1部分との間に配置され、前記内側周面と前記第1部分との間の前記隙間の大部分を埋めるスペーサを備え、
前記スペーサは、前記駆動軸に対して着脱自在である、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の撹拌装置。
【請求項6】
前記回転環は前記固定環の底面と対向する凸部を有し、当該凸部よりも径方向内側には、液体成分を溜める液溜めが形成される、請求項1乃至のいずれか1項に記載の撹拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撹拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流動性を有する撹拌対象物を撹拌する撹拌装置が知られている。撹拌装置内には、回転駆動する撹拌翼が配置される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/002950号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
撹拌翼を回転させる駆動軸は、撹拌装置内に貫入される。駆動軸を撹拌装置の下部から駆動軸を貫入する場合、撹拌装置の本体と駆動軸との間のシール性を確保する必要がある。
【0005】
撹拌対象物にせん断力を与えるせん断翼は比較的高速で回転されるため、シールの摩耗量が増加してシールの寿命が短くなる可能性がある。
【0006】
本発明は、シールの寿命を長くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明のある態様は、撹拌室を定める撹拌槽と、撹拌室内に配置された複数の撹拌翼と、撹拌槽の下側から撹拌室内まで延び、複数の撹拌翼のうちの少なくとも1つの撹拌翼を回転駆動させる駆動軸と、駆動軸の径方向外側に配置され撹拌槽と駆動軸との間をシールするメカニカルシール構造とを備え、メカニカルシール構造のシール面は、撹拌室の最下部と同じ高さに形成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】撹拌装置の縦断面図である。
図2図1のAA断面の断面図である。
図3】絞り部の拡大断面図である。
図4】撹拌槽の下部を拡大した断面図である。
図5】変形例による撹拌槽の下部を拡大した断面図である。
図6】撹拌槽の下部を拡大した断面図である。
図7】第2実施形態による、撹拌装置の下部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る撹拌装置について説明する。本実施形態の撹拌装置は、例えば乳化のために用いられる。乳化を行う場合の撹拌対象物としては、例えば化粧品や食品用の種々の素材を用いることができるが、これらに限られるものではない。撹拌対象物は流動性を有するものであればどのようなものでもよく、流体(液体、気体)、及び、粒子状や粉末状の固体、並びにこれらの混合物を含む。
【0010】
なお、以下で用いられる上方向、及び下方向とは、撹拌装置を使用する状態にセットしたときの上方向及び下方向を意味する。径方向とは、撹拌装置の撹拌翼の回転軸の径方向をいい、周方向とは回転軸の周方向(回転軸の回転方向又は回転方向とは逆方向)をいう。
【0011】
図1は、撹拌装置の縦断面図である。図2は、図1のAA断面の断面図である。撹拌装置100は、撹拌対象物を収容し、撹拌室SRを定める撹拌槽102を備える。撹拌室SR内には、複数の撹拌翼が配置される。より具体的には撹拌室SR内には、流動翼104、せん断翼106、及びゲート翼108が配置される。流動翼104、せん断翼106、及びゲート翼108は、同軸周りに互いに独立して回転する。流動翼104、せん断翼106、及びゲート翼108の回転数は、撹拌対象物の性状に応じて制御される。
【0012】
撹拌槽102は、内周壁110が円筒形状の容器である。撹拌槽102は円筒状の上側胴部112と、円錐台状の下側胴部114とを備える。上側胴部112と下側胴部114とは、一体に形成されている。上側胴部112の内径は、上下方向で一定である。下側胴部114は、内径は下方に向かうにつれ径が小さくなる。上側胴部112の上端は図示しない蓋により密閉されており、撹拌槽102は圧力容器として機能する。撹拌槽102の外部には、撹拌槽102内の撹拌対象物を加熱又は冷却するジャケット部116が配置される。
【0013】
流動翼104は、軸方向流れを発生させるリボン翼である。流動翼104は撹拌槽102の内周壁110に沿って設けられ、縦軸まわりに回転することで撹拌槽102内に存在する撹拌対象物に誘導流Fを形成する。この誘導流Fは、撹拌槽102内の全体を大きく流動する流れの一部となる。撹拌装置100を乳化に用いる場合、この誘導流Fにより撹拌対象物はせん断翼106に案内される。
【0014】
本実施形態の流動翼104は、撹拌槽102の内周壁110に沿って配置され、所定幅を有する流動翼本体118と、流動翼本体118を支持する複数の支持棒120、及び流動翼本体118を下方で連結支持する支持リング122とを備える。流動翼本体118を複数枚設けてもよい。流動翼本体118は湾曲帯形状を有する。流動翼本体118は、上部翼124と下部翼126とを備える。上部翼124は、上側胴部112内に配置され上側胴部112の内周よりも僅かに小さい径を有する。下部翼126は、下側胴部114内に配置され下方に向かって径が小さくなる。
【0015】
上部翼124は、周方向に一定の角度で傾斜しつつ上方から下方に延びている。上側胴部112において上部翼124が回転すると、上部翼124が撹拌対象物を掻き下げて、旋回しつつ下方に向かう誘導流Fを形成する。下部翼126は、撹拌槽102における下側胴部114の内周壁の面形状に略沿って位置している。下部翼126は、平面視したときに回転方向Rとは逆方向に膨出するよう湾曲した形状とされている。
【0016】
上部翼124と下部翼126とは、接合部128にて、翼の面が屈曲する(又は捻られる)ように接続されている。具体的には上部翼124と下部翼126は、図2に示すように、上部翼124を構成する帯状体の径内側端縁に、下部翼126を構成する帯状体の表面が当接した状態で接合部128において溶接等によって接続される。接合部128の上下方向における位置は、上側胴部112と下側胴部114との境界に対応する。これにより、上部翼124と下部翼126とが一体となっている。
【0017】
図3は、絞り部の拡大断面図である。下側胴部114において下部翼126が回転方向Rに回転すると、上部翼124により形成された誘導流Fが径方向内側に向かう。これにより、誘導流Fはせん断翼106へと導かれる。各流動翼本体118の下方を向いた面は、撹拌対象物を下方に押す。均一な誘導流Fを形成するために、各流動翼本体118の下方を向いた面は、段差を有さない湾曲面とすることが好ましい。
【0018】
流動翼104における流動翼本体118は、周方向において所定間隔で支持棒120と溶接され一体化されている。支持棒120の上端は、流動翼用駆動軸130に接合される。流動翼用駆動軸130は、流動翼用駆動部(図示しない)に接続される。流動翼用駆動部を駆動させると、流動翼用駆動軸130が回転し、これにより支持棒120が流動翼用駆動軸130周りを旋回する。支持棒120を旋回させることにより、流動翼本体118が縦軸まわりに旋回する。支持リング122は、各流動翼本体118の下端に固定される。支持リング122の内部には、上下方向に延びるせん断翼用駆動軸132が通る。撹拌対象物の誘導流Fは、下側胴部114の底部からせん断翼用駆動軸132の外周に沿って上昇し、せん断翼用駆動軸132と支持リング122との隙間を通ってせん断翼106に導かれる。流動翼104の回転数はせん断翼106の回転数よりも低く設定される。
【0019】
せん断翼106は、回転により撹拌対象物にせん断力を与える。撹拌装置100を乳化に用いる場合、せん断翼106によって液滴が分断されて細分化される。
【0020】
せん断翼106としては、例えばディスパー翼が用いることができる。ディスパー翼は、径方向外向への撹拌対象物の吐出流を形成する複数のせん断歯136を備える。複数のせん断歯136は、例えば回転可能な円板部134の外周縁に、円板部134の面方向に交わる方向に延びるように配置される。せん断歯136は、円板部134の外周縁の接線方向に対して傾斜している。傾斜したせん断歯136により、円板部134を回転させたときに撹拌対象物を径方向外側への吐出流を形成する。
【0021】
せん断翼106は、流動翼104よりも高速で回転する。せん断翼106を回転させると、せん断歯136が撹拌対象物に衝突する。これにより、せん断歯136が撹拌対象物にせん断力を加える。
【0022】
せん断翼106には、下方に延びるせん断翼用駆動軸132が接続される。撹拌槽102とせん断翼用駆動軸132との間には、撹拌対象物が漏れないようにシール構造が形成されている。シール構造については後述する。せん断翼用駆動軸132は、撹拌槽102の下方に設けられるせん断翼用駆動部(図示しない)に接続される。
【0023】
流動翼104の径方向内側にゲート翼108を備えてもよい。ゲート翼108は、格子状のゲート翼本体138を備える。ゲート翼本体138は、例えば回転中心(縦軸)に対して対称形状を有する。ゲート翼108は、流動翼104とは逆方向に回転する。ゲート翼108を流動翼104と同方向に、異なる回転数で回転させてもよい。ゲート翼108を回転させるためのゲート翼用駆動部(図示しない)は撹拌槽102の上方に配置される。ゲート翼用駆動部の動力をゲート翼108に伝達するゲート翼用駆動軸140は、ゲート翼本体138の上方に位置し、流動翼用駆動軸130と同心に設けられる。
【0024】
流動翼104とゲート翼108とを組み合わせると、撹拌槽102内で異なる流れ(異なる向きの流れ、又は異なる速度の流れ)を作り出せる。これにより、撹拌対象物が流動翼104と同じ速度で動いて流動しなくなるのを抑制できる。
【0025】
図4は、撹拌槽の下部を拡大した断面図である。撹拌槽102とせん断翼用駆動軸132との間には、両者の間をシールするメカニカルシール構造が設けられている。なお、撹拌槽102とせん断翼用駆動軸132との間をシールするとは、撹拌装置100の作動時にせん断翼用駆動軸132等の回転する部材と、撹拌槽102等の静止している部材との間をシールすることを意味する。よって、せん断翼用駆動軸132又は撹拌槽102の間に他の部材を介在させてシール構造を形成しても、撹拌槽102とせん断翼用駆動軸132との間にシール構造が形成されているものとみなされる。
【0026】
撹拌槽102は、上述した構成に加えてせん断翼用駆動軸132を径方向外側から支持する駆動軸支持部150を備える。駆動軸支持部150は、撹拌槽102の最下部に設けられる。せん断翼用駆動軸132は、駆動軸支持部150を貫通して撹拌槽102の下側から撹拌室SR内まで延びる。駆動軸支持部150は、せん断翼用駆動軸132を径方向外側から回転可能に支持する複数のボール軸受け152を備える。駆動軸支持部150内には、メカニカルシール構造から排出された液体を排液部154まで導く排液路156が形成されている。
【0027】
撹拌槽102は、撹拌室SRの最下部付近に設けられた固定環158を備える。固定環158は、下側胴部114の下端に隙間無く固定されている。固定環158の内側周面160は、撹拌室SRに露出し、せん断翼用駆動軸132の外側周面から所定距離離れて配置される。両者の間を離して内側周面160を露出させることで、固定環158の内側周面160と、せん断翼用駆動軸132との間で撹拌対象物を撹拌するのに十分な隙間を形成できる。すなわち、固定環158の内側周面160と、せん断翼用駆動軸132との間の隙間の流路抵抗は十分に小さく、非接触シールとして機能しない。例えば、固定環158の内側周面160と、せん断翼用駆動軸132との間は少なくとも5mm以上離れているのが好ましい。よって、固定環158の内側周面160と、せん断翼用駆動軸132との間も撹拌室SRの一部をなす。
【0028】
せん断翼用駆動軸132は、せん断翼106が固定される第1部分162と、第1部分162よりも径が大きく第1部分162よりも下側に設けられた第2部分164とを備える。第1部分162はせん断翼用駆動軸132の上端から、固定環158の下端付近まで延び、第2部分164は撹拌室SRの固定環158の下端よりも下に延びる。せん断翼用駆動軸132は、第1部分162と第2部分164との間に移行部分166を備えてもよい。第2部分164及び移行部分166の直径は、固定環158の内径よりも小さく、上面視したときに両者の間に隙間が形成される。そのため、移行部分166の上端の直径は、第1部分の直径よりも小さい。移行部分166の上側は第1部分162に接続され、移行部分166の下側は第2部分164に接続される。移行部分166は、第2部分164との境界において第2部分164と同一の径を有する。移行部分166の径は上に向かうにしたがって漸減する。即ち、移行部分166は円錐台形状を有し、外周は上側に向いた傾斜面168をなしている。傾斜面168の下端は、固定環158よりも僅かに径方向内側に位置する。傾斜面168と固定環158との間には撹拌対象物を撹拌するのに十分な隙間が形成される。固定環158の内側周面160と、傾斜面168との間も撹拌室SRの一部をなす。
【0029】
第2部分164の上端付近には、回転環170が取り付けられる。回転環170は、第2部分164に対して、周方向には拘束され軸方向には移動可能である。回転環170は、せん断翼用駆動軸132と一体で回転する。回転環170よりも下側には、第2部分164に固定された台座172が設けられる。回転環170は、台座172との間に配置されたスプリング174により上方向に付勢される。回転環170の上部には、環状の凸部176が形成されている。凸部176は、回転環170の上面から上向きに延び、凸部176の頂面が固定環158の底面と対向する。撹拌装置100の駆動時には、凸部176の頂面と固定環158の底面との間にシール面SSが形成される。したがって撹拌装置100では、固定環158と回転環170とがメカニカルシール構造を形成する。
【0030】
シール面SSは、撹拌装置100の駆動時に撹拌対象物の液体成分が凸部176の頂面と固定環158の底面との間に入り込むことで形成される。シール面SSは、水平方向に延び径方向内側の端が撹拌室SRの最下部と隣接する。シール面SSは、撹拌室SRの最下部と同じ高さ、又は最下部よりも上方に形成される。第1部分162と第2部分164との間に移行部分166が設けられている場合、撹拌装置100における撹拌室SRの最下部とは第2部分164の最上部をいう。撹拌室SRの最下部は、移行部分166の下端ということもできる。したがってシール面SSは、第2部分164の最上部と同じ高さ、又は第2部分164の最上部よりも上方に形成される。またシール面SSは、第1部分162の最下部よりも下側に設けられるのがよい。したがってシール面SSは、上下方向において移行部分166が設けられている範囲内に配置される。図示の例では、シール面SSは傾斜面168の下端よりも僅かに高い位置にあり、傾斜面168の下端と固定環158との間に隙間が形成される。傾斜面168の下端と固定環158との隙間は、シール面SS側に液体成分を流すための流路となる。回転環170の凸部176よりも径方向内側には、液体成分を溜める液溜め178が形成されてもよい。
【0031】
撹拌装置100の駆動時には、撹拌室SR内の液体成分が流路を通って液溜め178に流れる。液溜め178内の液体成分には、遠心力及び撹拌室SR内の撹拌対象物の圧力により径方向外向きの圧力が作用する。これにより液溜め178内の液体成分が、凸部176と固定環158との間に入り込みシール面SSの摩擦力を減らす。シール面SSから径方向外側に排出された液体成分は、排液路156を通って排液部154へ排出される。
【0032】
撹拌装置100によれば、大量の液体成分をシール面SSの近く(シール面SSの径方向内側近傍)に流せる。撹拌装置100の駆動時には回転環170付近では撹拌対象物に径方向外側に向かう遠心力が作用する。遠心力を用いることにより、例えば上下方向に延びるシール面を採用した場合と比較して、液体成分をシール面SSに向けて流し易くなる。これにより、回転環170が高速回転しても十分な量の液体成分をシール面SSに供給でき、シール面の潤滑性を確保できる。固定環158と凸部176との間に液体成分を侵入させてシール面SSを形成することで、固定環158及び凸部176の摩耗を抑制し、製品寿命を長くできる。シール面SSを撹拌室SRの最下部よりも上方に配置し、さらに径方向でも近接させることでシール面SSに十分な液圧を作用させられる。この場合、傾斜面168を設けることでシール面SSに液体成分を流すための通路を形成でき、シール面SSの液圧をさらに高められる。また液体成分がシール面SSに到達し易い構造を採用することで、シール面SSに順次新しい液体成分を供給できる。これにより、シール面SSの温度上昇を抑制できる。
【0033】
また、撹拌装置100では、シール面SSが水平方向に延び、径方向内側の端が撹拌室SRの最下部と隣接する。このような配置により液体成分には径方向外向きの遠心力が作用し、撹拌室SRから凸部176の頂面と固定環158の底面との間に入り込みやすい。シール面SSに入り込む液体成分が増加すると、固定環158と回転環170の間の摩擦抵抗は低下する。したがって、シール面SSの摩耗量が低減し、メカニカルシールの寿命を延ばすことができる。
【0034】
図5は、変形例による撹拌槽の下部を拡大した断面図であり、撹拌装置の変形例を示す。図5に示す例では、第1部分162と第2部分164との間に移行部分166が設けられていない。移行部分166が設けられていない場合、撹拌室SRの最下部は、第1部分162の最下部又は第2部分164の最上部である。この場合も、シール面SSは、撹拌室SRの最下部と同じ高さ、又は最下部よりも上方に形成される。
【0035】
図6は、変形例による撹拌装置の縦断面図である。図6に示すように、固定環158の内側周面160と、せん断翼用駆動軸132の外側周面との間を埋めるスペーサ180を設けてもよい。スペーサ180は、せん断翼用駆動軸132に対して着脱自在に構成される。スペーサ180は、移行部分166の上部からせん断翼106の間の高さとほぼ同一の高さを有する。スペーサ180内部には、せん断翼用駆動軸132の外径とほぼ同一の内径を有する貫通孔が形成されている。スペーサ180をせん断翼用駆動軸132に取り付けると、スペーサ180の下部が、せん断翼用駆動軸132の外周と固定環158の内側周面160との間の大部分を埋める。スペーサ180の外径は、固定環158の内側周面160の内径よりも僅かに小さい。スペーサ180は、内側周面160に接触することなく、せん断翼用駆動軸132と共に回転する。スペーサ180を取り付ける場合、せん断翼106をせん断翼用駆動軸132から取り外し、スペーサ180によりせん断翼用駆動軸132を囲むようにスペーサ180をせん断翼用駆動軸132に取り付ける。その後、せん断翼106をせん断翼用駆動軸132に取り付ける。これにより、スペーサ180をせん断翼用駆動軸132に固定できる。この例では、せん断翼106がスペーサ180をせん断翼用駆動軸132に固定するための固定部として機能する。固定部は、周方向及び軸方向にスペーサ180を拘束できればどのような構造であってもよい。
【0036】
スペーサ180を設けることにより、液体成分がシール面SSに近付くのを抑制できる。例えば、固定環158の内側周面160の間で撹拌対象物滞留による攪拌の不均一性を抑制したい場合にはスペーサ180を利用することができる。このように、1つの装置で異なる要求の撹拌対象物を処理できる。
【0037】
図7は、第2実施形態による撹拌装置の縦断面図である。撹拌装置200は、撹拌装置100と同一の構成を有する箇所があり、同一の構成を有する箇所については詳細な説明を省略する。
【0038】
撹拌装置200の撹拌槽の下側胴部202には、せん断翼用駆動軸204を径方向外側から支持する駆動軸支持部206を備える。駆動軸支持部206は、下側胴部202の下部に接続される。せん断翼用駆動軸204は、駆動軸支持部206を貫通して撹拌槽の下側から撹拌室SR内まで延びる。駆動軸支持部206は、せん断翼用駆動軸204を径方向外側から回転可能に支持する複数のボール軸受け152を備える。駆動軸支持部206内には、排液部154及び排液路156が形成されている。
【0039】
撹拌槽は、撹拌室SRの最下部付近に設けられた固定環208を備える。固定環208は、駆動軸支持部206の内面に隙間無く固定されている。固定環208は、駆動軸支持部206に対して、周方向には拘束され軸方向には移動可能である。固定環208よりも下側には、駆動軸支持部206の台座210が設けられる。固定環208は、台座210との間に配置されたスプリング212により上方向に付勢される。固定環208の内側周面214は、せん断翼用駆動軸204の外側周面から所定距離離れて配置される。両者の間を離すことで、後述するメカニカルシール構造の排液を排液路156に向けて流せる。
【0040】
せん断翼用駆動軸204は、せん断翼106が固定される第1部分216と、第1部分216よりも径が大きく第1部分216よりも下側に設けられた第2部分218とを備える。第1部分216はせん断翼用駆動軸204の上端から、後述する回転環の上端まで延び、第2部分218は回転環から下向きに延びる。
【0041】
第2部分218の上端付近には、回転環220が取り付けられる。回転環220は、せん断翼用駆動軸204の外周に固定され、せん断翼用駆動軸204と一体に回転する。回転環220の外側周面と、下側胴部202の内側周面との間の隙間の流路抵抗は十分に小さく、非接触シールとして機能しない。例えば、回転環220の外側周面と、下側胴部202の内側周面との間の隙間は、少なくとも5mm以上離れているのがよい。回転環220の下部には、環状の凸部222が形成されている。凸部222は、回転環220の下面から下向きに延び、凸部222の低面が固定環208の頂面と対向する。撹拌装置200の駆動時には、凸部222の低面と固定環208の頂面との間にシール面SSが形成される。したがって撹拌装置200では、固定環208と回転環220とがメカニカルシール構造を形成する。
【0042】
シール面SSは、撹拌装置200の駆動時に撹拌対象物の液体成分が凸部222の低面と固定環158の頂面との間に入り込むことで形成される。シール面SSは、水平方向に延び径方向外側の端が撹拌室SRの最下部と隣接する。したがって、シール面SSと撹拌室SRとの間には、ラビリンス等の流量調整部が設けられていない。シール面SSは、撹拌室SRの最下部と同じ高さに形成される。撹拌装置200における撹拌室SRの最下部とは、固定環208の頂面をいう。固定環208の頂面のうち凸部222と接触する部分を上向きに盛り上げ、シール面SSの位置を撹拌室SRの最下部よりも上方としてもよい。
【0043】
撹拌装置200の駆動時には、撹拌室SR内の液体成分が固定環208の上面に流れる。液体成分には、撹拌室SR内の撹拌対象物の圧力により径方向内向きの圧力が作用する。これにより液体成分が、凸部222と固定環208との間に入り込みシール面SSの摩擦力を低減する。シール面SSから径方向内側に排出された液体成分は、固定環208とせん断翼用駆動軸204との間を通って排液部154へ排出される。
【0044】
撹拌装置200によれば、メカニカルシール構造を用いてせん断翼用駆動軸204と撹拌槽との間をシールできる。これによりせん断翼用駆動軸204を高速回転させても、シール性を確保しながら、摩耗を抑制し製品寿命を延ばせる。撹拌室SRの最下部とシール面SSとを同じ高さにして径方向及び上下方向で近接させることで、シール面SSに十分な液圧を作用させられる。
【0045】
本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、実施形態の各構成は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0046】
上述の実施形態では、流動翼104が撹拌対象物を下方に押し出してせん断翼106に案内する形態について説明したが、これに限られない。流動翼104により撹拌槽102の壁の近傍で撹拌対象物を上方に押し、撹拌対象物を径方向外側から中心に向けて流し、撹拌槽102の中心部でせん断翼106に向かう下降流を生じさせてもよい。
【0047】
また、シール面SSを水平面に対していくらか傾斜させてもよい。この場合、シール面SSの撹拌室SR側の端部が撹拌室SRの最下部と同じ高さ、又はそれよりも上方にあればよい。
【符号の説明】
【0048】
100 撹拌装置、 102 撹拌槽、 104 流動翼、 106 せん断翼、 108 ゲート翼、 110 内周壁、 132 せん断翼用駆動軸、 150 駆動軸支持部、 158 固定環、 162 第1部分、 164 第2部分、 166 移行部分、 170 回転環、 200 撹拌装置、 204 せん断翼用駆動軸、 206 駆動軸支持部、 208 固定環、 216 第1部分、 218 第2部分、 220 回転環
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