(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】樹脂製保持器の強度管理方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20240806BHJP
F16C 33/56 20060101ALI20240806BHJP
F16C 19/44 20060101ALI20240806BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C33/56
F16C19/44
B29C45/00
(21)【出願番号】P 2020049379
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨加見 理之
(72)【発明者】
【氏名】中山 圭吾
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-317773(JP,A)
【文献】特開2006-316821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/44
F16C 33/38-33/56
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に間隔Lcをあけて配置される1対のリング部と、一端が一方の前記リング部と結合し他端が他方の前記リング部と結合する複数の柱部とを備え、前記一方のリング部および前記他方のリング部がそれぞれ樹脂で射出成型される保持器であって、
保持器の周方向に隣り合う前記柱部同士によって区画されるポケットのうち、一方の前記柱部のポケット面および他方の前記柱部のポケット面間の間隔をLpとして、前記柱部は、前記間隔Lpに等しい軸方向寸法Lpの一端部と、前記間隔Lpに等しい軸方向寸法Lpの他端部と、前記間隔Lpおよび前記間隔Lcに基づく軸方向寸法Lc-2Lpの中央範囲からなり、
前記保持器に対応する型のキャビティに射出される未固化樹脂が複数箇所で会合してウェルドを構成し、
複数の前記ウェルドのうち、最後に会合する最終ウェルドが、前記柱部の前記中央範囲に存在する樹脂製保持器を複数準備し、
前記複数の樹脂製保持器の中から少なくとも1つの試験用樹脂製保持器を選択し、
前記試験用樹脂製保持器の前記リング部を切断して、前記最終ウェルドを含む前記柱部と、当該柱部の両端とそれぞれ結合するリング部分を切り出し、
当該切り出された前記最終ウェルドを含む保持器部分のうち、前記最終ウェルドを挟む一端側および他端側を引っ張ることにより前記最終ウェルドの強度を測定し、
前記測定結果に基づき、前記複数の樹脂製保持器の強度を管理する、樹脂製保持器の強度管理方法。
【請求項2】
前記ウェルドは、柱部のみに設けられる、請求項1に記載の樹脂製保持器の強度管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に組み込まれる樹脂製保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受に組み込まれる樹脂製保持器として従来、例えば特開2011-085231号公報(特許文献1)に記載の技術が知られている。特許文献1記載の合成樹脂製保持器は、円錐ころ軸受に組み込まれる保持器であり、大径のリム部、小径のリム部、およびこれらリム部に掛け渡される複数の柱部を備え、射出成型によって製造される。
【0003】
特許文献1の保持器に対応する金型のキャビティには、ランナから溶融合成樹脂が供給される。互いに異なる方向から送り込まれた未固化の溶融合成樹脂は、このキャビティ内で会合する。かかる会合箇所をウェルドといい、ウェルドで合成樹脂製保持器の強度が低下する。そこで特許文献1では、ウェルドをリム部と柱部の連続部から外れた部分に位置させて、強度低下を防止するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウェルドは樹脂製保持器内に複数位置する。特許文献1にも図示されるように複数のウェルドは、リム部および柱部に散在する。複数のウェルドのうち、会合が最も遅い箇所を最終ウェルドといい、複数のウェルドのなかでも特に強度が小さい。特許文献1では最終ウェルドの位置が規定されてなく、樹脂製保持器の強度向上において改善の余地がある。
【0006】
本発明は、最終ウェルドの位置を規定し、強度管理することにより、樹脂製保持器の耐久性および信頼性を一層向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため本発明による樹脂製保持器は、軸方向に間隔Lcをあけて配置される1対のリング部と、一端が一方のリング部と結合し他端が他方のリング部と結合する複数の柱部とを備え、一方のリング部および他方のリング部がそれぞれ樹脂で射出成型される保持器であって、保持器の周方向に隣り合う柱部同士によって区画されるポケットのうち、一方の柱部のポケット面および他方の柱部のポケット面間の間隔をLpとして、柱部は間隔Lpに等しくなるよう規定される軸方向寸法Lpの一端部と、間隔Lpに等しくなるよう規定される軸方向寸法Lpの他端部と、上述した柱部の間隔Lpおよびリング部の間隔Lcに基づく残りの軸方向寸法Lc-2Lpの中央範囲からなり、保持器に対応する型の中に射出される未固化樹脂が複数箇所で会合してウェルドを構成し、複数のウェルドのうち最後に会合する最終ウェルドが柱部の上述した軸方向寸法Lc-2Lpの中央範囲に存在する。
【0008】
かかる本発明によれば、最終ウェルドの位置が、樹脂製保持器のポケット隅から充分に離れた柱部の中央範囲に含まれるよう規定されることから、樹脂製保持器の強度および耐久性が従来よりも向上する。
【0009】
本発明の好ましい局面として、ウェルドは柱部のみに設けられる。かかる局面によれば強度上の弱点になるウェルドがリング部に一切形成されないため、樹脂製保持器の強度および耐久性が一層向上する。より好ましくは、複数のウェルド全てが、上述した中央範囲にそれぞれ配置される。本発明の他の局面として、最終ウェルドではないウェルドがリング部に形成される。
【0010】
本発明者の樹脂製保持器はころを保持するものであり、特に針状ころに好適である。本発明の保持器付き針状ころは、上述した樹脂製保持器と、ポケットに保持される針状ころとを具備する。他の局面として上述した樹脂製保持器は、針状ころ以外のころを保持する保持器であってもよい。
【0011】
本発明の保持器付き針状ころの配置箇所は特に限定されないが、本発明の一局面として保持器付き針状ころは、サンギヤ、リングギヤ、プラネタリギヤ、およびキャリアを備える遊星歯車機構に設けられ、プラネタリギヤの中心孔と、キャリアに立設されてプラネタリギヤの中心孔に通されるピニオン軸とによって区画される環状隙間に配置される。かかる局面によれば、公転による遠心力を受けるピニオン軸において、樹脂製保持器の強度および耐久性が向上する。したがって遊星歯車機構の強度および耐久性が従来よりも向上する。
【0012】
本発明の強度管理方法は、上述した樹脂製保持器を複数準備し、これら一群の樹脂製保持器の中から少なくとも1つの試験用樹脂製保持器を選択し、試験用樹脂製保持器の各リング部を切断して、最終ウェルドを含む柱部と、柱部の両端とそれぞれ結合するリング部分を切り出し、当該切り出された最終ウェルドを含む保持器部分のうち、最終ウェルドを挟む一端側および他端側を引っ張ることにより最終ウェルドの強度を測定し、この測定結果に基づき複数の樹脂製保持器の強度を管理する。かかる方法によれば、樹脂製保持器の強度が適切に管理される。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば、樹脂製保持器の強度が向上する。また樹脂製保持器の強度管理が適切になされ、樹脂製保持器の耐久性および信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の転がり軸受を具備する遊星歯車機構を示す正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態になる保持器付きころを示す斜視図である。
【
図3】
図2から樹脂製保持器を取り出して示す斜視図である。
【
図4】
図2から樹脂製保持器を取り出して示す側面図である。
【
図5】
図4の樹脂製保持器から切り出された1本の柱部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の転がり軸受を具備する遊星歯車機構を示す正面図である。遊星歯車機構100は、内歯を有し外周を取り囲む内歯歯車(リングギヤ)101と、外歯を有し内歯歯車101の中心に配置される太陽歯車(サンギヤ)102と、外歯を有し内歯歯車101と太陽歯車102の間に配置される複数の遊星歯車(ピニオン)103とを備える。
【0016】
各遊星歯車103は、1個の内歯歯車101および1個の太陽歯車102と噛合する。各遊星歯車103の中心孔にはシャフト状のピニオン軸105が通される。中心孔の孔壁面は、遊星歯車103の内周面を構成する。遊星歯車103の内周面とピニオン軸105の外周面で区画される環状空間には、保持器付きころ10が配置される。
【0017】
各ピニオン軸105の端部は、共通するキャリア(図略)に固定される。これにより複数の遊星歯車103は、1個のキャリアに支持される。また各遊星歯車103は、保持器付きころ10によって回転自在に支持される。
【0018】
例えば内歯歯車101が回転を停止したまま太陽歯車102が
図1に矢で示すように時計回りに回転する場合、各遊星歯車103は反時計回りに自転するとともに、太陽歯車102の外周を時計回りに公転し、キャリアが時計回りに回転する。
【0019】
遊星歯車機構100は、例えば、多段化が進む自動車の自動変速機などに用いられる。遊星歯車機構100における遊星歯車103を公転および自転可能に支持するために、保持器付きころ10が使用されている。
【0020】
図2は、本発明の一実施形態になる保持器付きころを示す斜視図である。
図3は、
図2から保持器を取り出して示す斜視図である。
図4は、
図2から保持器を取り出して示す側面図である。以下の説明では、保持器付きころ10の中心軸線に沿った方向を「軸方向」、中心軸線と直交する方向を「径方向」、中心軸線周りの円周方向を「周方向」という。保持器付きころ10は、複数のころ12と1個の保持器13とで構成される。保持器13は各ころ12を保持する複数のポケット14を有する。ころ12は金属製の針状ころであり、ころ長がころ径の2倍以上である。保持器13は樹脂製である。
【0021】
ピニオン軸105(
図1)の外周面は、転動体であるころ12が転動する内側軌道面である。遊星歯車103の内周面は、ころ12が転動する外側軌道面を含む。
【0022】
保持器13は、ケージ型であって、一対のリング部30と、一対のリング部30を互いに連結する複数の柱部31とを有する。柱部31は、保持器13の軸方向に延び、両端の端部32,32で一対のリング部30と結合する。周方向に隣り合う柱部31,31の間には、ころ12が配置されるためのポケット14が区画されている。ポケット14は、隣り合う柱部31,31にそれぞれ形成されて周方向に対向するポケット面33,33と、1対のリング部30にそれぞれ形成されて軸方向に対向する内側端面34,34と、ポケット面33と内側端面34を接続する4隅14rによって囲まれてなる。
【0023】
ポケット面33は、一方の端部32から他方の端部32まで延び、ころ12の転動面と向き合う。内側端面34は、ころ12の端面と向き合う。対向するポケット面33,33の間隔Lpはころ12の直径よりも大きく、対向する内側端面34,34の間隔Lcはころ12の全長よりも大きい。保持器13の外径側からみてポケット14は長方形であり、4隅14rを円弧形状に形成される。なお間隔Lpとはポケット14の短手方向(軸受周方向)の間隔をいい、より具体的には、ポケット14を介して対面する柱部31の端部から柱部31の端部までの間隔をいう。本実施形態のようにポケット14の隅14rがR(円弧)形状に形成される場合、間隔Lpは一方の隅14r円弧半径および他方の隅14r円弧半径を含むと理解されたい。ポケット14が異形ポケットの場合も同様である。
【0024】
なお図示はしなかったが、ポケット面33の内径側部分および外径側部分には、ころ止め突起が形成される。ころ止め突起は、ころ12の径方向移動を規制して、ころ12をポケット14に保持する。ころ止め突起の軸方向位置および個数は特に限定されない。保持器13の軸に直角な断面において、ポケット14の断面形状は矩形にされる。これに対し柱部31の断面形状は、内径側よりも外径側のほうが大きい台形にされる。
【0025】
保持器13は射出成型によって製造され、保持器13に対応する金型のキャビティに、未固化の合成樹脂が送り込まれる。金型のキャビティに接続するライナの接続本数、配置、および流量を調整することで最終ウェルドの位置を調整できる。未固化樹脂は、柱部31の長手方向略中央で会合し、ウェルド31wを形成する。なおウェルド31wは、保持器の軸に直角な断面というように明確に表れる面ではなく、柱部31の長手方向に亘って分布する立体的領域と理解されたい。
【0026】
複数のウェルド31wのうち最後に形成されるウェルドを最終ウェルド31yという。最終ウェルド31yの位置は、複数の保持器13の製造工程で、無作為抽出された1の保持器に対しショートショット(不完全充填)を行うことによって知られる。
【0027】
本実施形態では、端部32の軸方向長さを、前述したポケット面33,33の間隔Lpと規定する。そして最終ウェルド31yの位置を、柱部31のうち両端部32,32を除いた領域に規定して配置する。1対のリング部30,30の間隔、つまり柱部31の軸方向長さ、はLcであるので、最終ウェルド31yの位置は柱部31中央を占める中央範囲に含まれる。間隔Lpおよび間隔Lcに基づき、柱部31の中央範囲の長手方向寸法はLc-2Lpと規定される。
【0028】
複数のウェルドのうち、図示しないライナ(ゲート位置)から遠いウェルドが、未固化の合成樹脂が最も遅く会合する部分であり、すなわち最も強度が弱くなる部分である(最終ウェルド)。本実施形態では、この最終ウェルドの場所を規定し、さらに一群の保持器13,13・・・・の強度を管理する。これにより樹脂製の保持器13の強度が確保される。
【0029】
本実施形態では、最終ウェルド31yの位置を、柱部31とし、さらにポケット14の隅14rからポケット14の短手寸法である間隔Lp以上離すようにした。このように強度が最も弱い最終ウェルド31yを、ポケット隅14rから離すことで、ポケット隅14rに発生する応力の影響を最終ウェルド31yが受けない。この結果、保持器13は早期に破損せず、保持器強度を確保できる。
【0030】
強度管理は以下の手順で行われる。まず複数の樹脂製保持器13,13・・・から試験用樹脂製保持器を無作為に選択する。次に試験用樹脂製保持器の各リング部30を
図4に一点鎖線で示す周方向箇所x,xで切断し、最終ウェルド31yが存在する柱部31を1本切り出す。2か所の周方向箇所x,xの間隔は、柱部31の周方向寸法よりも大きい。周方向箇所xでリング部30に形成される切断面は、ポケット14と接続する。
図5は、切り出された試験体Tを示す側面図である。試験体Tは、柱部31と、柱部31両端とそれぞれ結合するリング部分30p,30pを含む。
【0031】
次に、試験体T両端のリング部分30p,30pを掴み、柱部31の長手方向、つまり保持器13の軸方向、に引張、破断させる。このときの破断応力を管理することで、製造時容易に、確実に最終ウェルド31yの強度を管理することができる。最終ウェルド31yの引張試験時、掴み代が必要になるが、最終ウェルド31yの位置はポケット隅14rから距離を設けているため、最終ウェルド31yを掴むことはなく、最終ウェルド31yの強度が正しく測定される。掴み代が小さく、滑ってしまう場合は、最終ウェルド31yを避けるようにして、リング部分30p,30pに加え柱部の一端部32および他端部32の少なくとも一方を掴んでもよい。
【0032】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、転がり軸受において有利に利用される。
【符号の説明】
【0034】
10 保持器付きころ、 12 ころ、 13 保持器、
14 ポケット、 14r ポケット隅、 30 リング部、
30p リング部分、 31 柱部、 31w ウェルド、
31y 最終ウェルド、 32 端部、 33 ポケット面、
34 軸方向内側端面、 100 遊星歯車機構、
105 ピニオン軸、 Lc,Lp 間隔、 T 試験体。