(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】SiC被覆黒鉛部材の接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/87 20060101AFI20240806BHJP
C04B 37/00 20060101ALI20240806BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20240806BHJP
H01L 21/302 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C04B41/87 V
C04B37/00 Z
C04B41/87 G
C23C16/42
H01L21/302
(21)【出願番号】P 2020076209
(22)【出願日】2020-04-22
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 幸加
(72)【発明者】
【氏名】野村 円香
(72)【発明者】
【氏名】樋口 直貴
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-128974(JP,A)
【文献】特開昭58-182818(JP,A)
【文献】特開2014-205590(JP,A)
【文献】特開昭59-162190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00,41/80-41/91
C23C 16/42
H01L 21/302,21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の黒鉛基材が、主面同士が対向するように複数積層され、複数の前記黒鉛基材がそれぞれCVD-SiC層によって被覆されるとともに互いに接合された板状のSiC被覆黒鉛部材の接合体であって、
前記CVD-SiC層は、前記黒鉛基材の側面に位置する厚肉部と、前記黒鉛基材の2つの主面に位置する薄肉部とからなり、対向する前記黒鉛基材の表面の薄肉部は互いに接合することなく接触し、前記厚肉部が互いに前記黒鉛基材を接合して
おり、
前記黒鉛基材の側面に位置する前記厚肉部の厚さは、前記黒鉛基材の2つの主面に位置する前記薄肉部の厚さの1.50~3.00倍であることを特徴とするSiC被覆黒鉛部材の接合体。
【請求項2】
前記CVD-SiC層は、前記厚肉部から前記薄肉部にかけて穏やかに厚さが変化しており、
前記厚肉部の終了部分から前記薄肉部の厚さになるまでの距離は、1~20mmであることを特徴とする請求項
1に記載のSiC被覆黒鉛部材の接合体。
【請求項3】
前記SiC被覆黒鉛部材の接合体の側面と主面との境界部は、厚肉部で覆われていることを特徴とする請求項1
又は2に記載のSiC被覆黒鉛部材の接合体。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法であって、
複数の前記黒鉛基材の表面に、一様にCVD-SiC層を形成することにより前記薄肉部を有する複数のSiC被覆黒鉛部材を得る第1のCVD工程と、
前記SiC被覆黒鉛部材を複数積層することによりSiC被覆黒鉛部材の積層体を作製するとともに、作製されたSiC被覆黒鉛部材の積層体の露出した主面を、マスキング材によりマスキングする積層・マスキング工程と、
前記SiC被覆黒鉛部材の積層体の側面を含む部分に、さらにCVD-SiC層を形成することにより前記厚肉部を有するSiC被覆黒鉛部材の接合体を得る第2のCVD工程と
からな
り、
製造されたSiC被覆黒鉛部材の接合体の側面に位置する前記厚肉部の厚さは、製造された前記SiC被覆黒鉛部材の接合体の両主面に位置する前記薄肉部の厚さの1.50~3.00倍であることを特徴とするSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛基材の表面にCVD-SiC層を有する複合材を組み合わせたSiC被覆黒鉛部材の接合体、及び、該SiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造において高品質の製品を供給することにより、半導体製品の歩留まりの向上及び安定的な操業を確保するため、シリコンウエハ等の熱処理工程において用いられるサセプタ、治具、炉部材等の半導体装置用部品には、黒鉛からなる基材の表面にCVD-SiC層がコーティングされた複合材が広く使用されている。黒鉛、SiCなどの素材は、シリコンに混入しても、シリコンをドープする作用がなく、導電率を変化させないので、得られるウエハの品質に与える影響が少ない点や、SiC、黒鉛とも高温で安定であり、消耗が少ない点で、半導体装置用部品として適しているからである。
【0003】
黒鉛は、加工しやすく、複雑な形状が容易に得られるが、酸素、水、水素などが接触することにより消耗しやすい欠点がある。一方、SiCは、表面に薄い酸化膜を形成しやすく、酸素、水、水素などによる消耗に強いという特徴を有しているが、硬くて加工しにくい欠点がある。これらの特徴、欠点をうまく生かしたものが、黒鉛からなる基材の表面にCVD-SiC層を形成した複合材である。このような複合材では、基材自体は非常に加工しやすいので容易に複雑な形状が得られ、さらに表面をCVD-SiC層で覆うので様々な雰囲気で使用可能な耐久性のある複合材となる。
【0004】
特許文献1には、長孔を有する炭素部品の長孔内部に被膜を形成することにより、酸化性ガスや分解性ガスの雰囲気中でも消耗することなく使用できる炭素部品を提供し、特に孔内部からのパーティクル発生防止を図るために、内部に孔を有し、その外面がセラミック被膜で覆われた炭素部品であって、前記孔が二枚の板状の炭素体を重ね合わせて形成され、該板材は少なくとも一方の炭素体の重ね合わせ面に形成された溝と該溝に対向する他方の炭素体の重ね合わせ部とにより形成されており、前記溝を含む前記孔の内面全域がセラミック被膜で被覆されていることを特徴とする炭素部品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の発明は、2枚のSiC被膜を有する板材を組み合わせて構成されているので組み合わせの精度が必要である。この組み合わせの精度が低いと隙間ができたり、全体の寸法精度が低下するという問題がある。
【0007】
本発明では、上記課題に鑑み、寸法精度が高く、隙間の発生のない、複数の黒鉛基材をCVD-SiC層を介して組み合わせたSiC被覆黒鉛部材の接合体、及び、該SiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体は、板状の黒鉛基材が、主面同士が対向するように複数積層され、複数の上記黒鉛基材がそれぞれCVD-SiC層によって被覆されるとともに互いに接合された板状のSiC被覆黒鉛部材の接合体であって、
上記CVD-SiC層は、上記黒鉛基材の側面に位置する厚肉部と、上記黒鉛基材の2つの主面に位置する薄肉部とからなり、対向する上記黒鉛基材の表面の薄肉部は互いに接合することなく接触し、上記厚肉部が互いに上記黒鉛基材を接合していることを特徴とする。
【0009】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体によれば、上記黒鉛基材の対向する2つの主面を覆うCVD-SiC層は、ともに薄肉部で構成され、互いに熱膨張差を打ち消しあうように内部応力が働く。このため、CVD-SiC層が形成されたSiC被覆黒鉛部材は反りが発生しにくく、高い形状精度を有し、対向する主面に隙間の発生のない接合体を得ることができる。また、厚さの厚い厚肉部により黒鉛基材同士を接合しているので、黒鉛基材同士がしっかりと接合された接合体となる。さらに、黒鉛基材の主面の間には、機械的強度の高いCVD-SiC層が存在するので、機械的強度に優れた接合体となる。
【0010】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体では、上記厚肉部の厚さは、上記薄肉部の厚さの1.50~3.00倍であることが望ましい。
【0011】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体において、上記厚肉部の厚さが、上記薄肉部の厚さの1.50~3.00倍であると、上記黒鉛基材を接合する部分である厚肉部のうち、接合に関与する部分の厚さを充分に厚くすることができ、しっかりと黒鉛基材同士が接合されたSiC被覆黒鉛部材の接合体とすることができる。
【0012】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体では、上記CVD-SiC層は、上記厚肉部から上記薄肉部にかけて穏やかに厚さが変化していることが望ましい。
【0013】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体において、上記CVD-SiC層が、厚肉部から薄肉部にかけて穏やかに厚さが変化していると、ヒートサイクルや熱衝撃によってクラックの起点となるノッチが形成されにくく、熱衝撃等に対して耐久性のあるCVD-SiC層を有するSiC被覆黒鉛部材の接合体となる。
【0014】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体では、上記接合体の側面と主面との境界部は、厚肉部で覆われていることが望ましい。
【0015】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体において、上記SiC被覆黒鉛部材の接合体の側面と主面との境界部が、厚肉部で覆われているとは、厚肉部が黒鉛基材の側面のみでなく、主面上の一部にまで及んで形成されていることを意味している。
このように上記接合体の側面と主面との境界部が厚肉部で覆われていると、熱衝撃や、打撃等によって損傷を受けやすいSiC被覆黒鉛部材の接合体の側面と主面との境界部であるエッジ部を保護することができ、熱衝撃によって損傷しにくく、また、上記エッジ部が傷つくのを防止することができる。
【0016】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法は、上記SiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法であって、
複数の上記黒鉛基材の表面に、一様にCVD-SiC層を形成することにより上記薄肉部を有する複数のSiC被覆黒鉛部材を得る第1のCVD工程と、上記SiC被覆黒鉛部材を複数積層することによりSiC被覆黒鉛部材の積層体を作製するとともに、作製されたSiC被覆黒鉛部材の積層体の露出した主面を、マスキング材によりマスキングする積層・マスキング工程と、上記SiC被覆黒鉛部材の積層体の側面を含む部分に、さらにCVD-SiC層を形成することにより上記厚肉部を有するSiC被覆黒鉛部材の接合体を得る第2のCVD工程とからなることを特徴とする。
【0017】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法によれば、第1のCVD工程で、黒鉛基材に反りが発生しないように一様にCVD-SiC層を形成した後、積層・マスキング工程で、複数の黒鉛基材(SiC被覆黒鉛部材)を重ね、内部応力が生じないよう主面同士が接触していない露出した側の主面にマスキングし、第2のCVD工程で、側面を中心に第2のCVD-SiC層を形成しているので、上記製造方法により製造されたSiC被覆黒鉛部材の接合体は、加熱、冷却しても黒鉛基材には反りが生じにくく、上記接合体の変形、剥がれを防止することができる。
なお、「一様にCVD-SiC層を形成する」とは、ほぼ同じ厚さになるように、黒鉛基材の全体にCVD-SiC層を形成することをいう。
【0018】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法では、製造されたSiC被覆黒鉛部材の接合体の上記厚肉部の厚さは、上記薄肉部の厚さの1.50~3.00倍であることが望ましい。
【0019】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法では、上記CVD-SiC層はそれぞれ独立して黒鉛基材の表面にCVD-SiC層を形成する第1のCVD工程と、その後表面にCVD-SiC層が形成されたSiC被覆黒鉛部材を積層した後CVD-SiC層を形成する第2のCVD工程によって形成されている。すなわち、厚肉部は、第1のCVD工程と、第2のCVD工程で得られたCVD-SiC層が積層して構成されている。形成される厚肉部の厚さは、薄肉部の厚さの1.50~3.00倍であるが、薄肉部の厚さと同じ厚さ(1.00倍)の部分は、第1のCVD工程で得られたCVD-SiC層に相当し、残りの薄肉部の厚さの0.50~2.00倍の厚さの部分は、第2のCVD工程で形成されたCVD-SiC層に相当する。第1のCVD-SiC層はそれぞれの黒鉛基材に対し、独立して形成されているので黒鉛基材同士を接合する作用はなく、組み合わせた後に第2のCVD工程で形成されたCVD-SiC層が接合に寄与しており、上記のように、第2のCVD工程で形成されたCVD-SiC層は、充分な厚さを有しているので、充分な接合強度を有するSiC被覆黒鉛部材の接合体となる。
【0020】
すなわち、厚肉部の厚さが薄肉部の厚さの1.50倍以上であると、薄肉部の厚さの0.50倍以上の部分が接合に関与し、複数の黒鉛基材(SiC被覆黒鉛部材)を強固に接合することができる。また、厚肉部の厚さが薄肉部の厚さの3.00倍以下であると、薄肉部の厚さの2.00倍以下の部分が接合に関与することとなり、全体の寸法に対し、コントロールしにくいCVDによる被膜の比率が下がるので全体の寸法精度を高く維持することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体によれば、上記黒鉛基材の2つの主面を覆うCVD-SiC層は、ともに薄肉部で構成され互いに熱膨張差を打ち消しあうように内部応力が働く。このため、CVD-SiC層が形成されたSiC被覆黒鉛部材は反りが発生しにくく高い形状精度のSiC被覆黒鉛部材の接合体となる。
また、本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法によれば、第1のCVD工程で、黒鉛基材に反りが発生しないように一様にCVD-SiC層を形成した後、積層・マスキング工程で、複数の黒鉛基材(SiC被覆黒鉛部材)を重ね、内部応力が生じないよう主面同士が接触していない露出した側の主面にマスキングし、第2のCVD工程で、側面を中心に第2のCVD-SiC層を形成しているので、上記製造方法により製造されたSiC被覆黒鉛部材の接合体は、加熱、冷却しても黒鉛基材には反りが生じにくく、上記接合体の変形、剥がれを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2(a)~(e)は、第1の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法における各工程を示す断面図である。
【
図3】
図3(a)~(e)は、第2の実施形態に係る本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法における積層・マスキング工程以降の工程を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4(a)~(e)は、第3の実施形態に係る本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法における積層・マスキング工程以降の工程を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5(a)~(e)は、第4の実施形態に係る本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法における積層・マスキング工程以降の工程を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6(a)~(e)は、従来の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法における積層工程以降の工程を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7(a)~(e)は、従来の別の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法における積層工程以降の工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体及びその製造方法について、各実施形態に分けて詳細に説明するが、本発明は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0024】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体は、板状の黒鉛基材が、主面同士が対向するように複数積層され、複数の上記黒鉛基材がそれぞれCVD-SiC層によって被覆されるとともに互いに接合された板状のSiC被覆黒鉛部材の接合体であって、
上記CVD-SiC層は、上記黒鉛基材の側面に位置する厚肉部と、上記黒鉛基材の2つの主面に位置する薄肉部とからなり、対向する上記黒鉛基材の表面の薄肉部は互いに接合することなく接触し、上記厚肉部が互いに上記黒鉛基材を接合していることを特徴とする。
【0025】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体によれば、SiC被覆黒鉛部材の接合体を構成する黒鉛基材の対向する2つの主面を覆うCVD-SiC層は、ともに薄肉部で構成され、互いに熱膨張差を打ち消しあうように内部応力が働く。このため、CVD-SiC層が形成されたSiC被覆黒鉛部材は反りが発生しにくく、高い形状精度を有し、対向する主面に隙間の発生のない接合体を得ることができる。また、厚さの厚い厚肉部により黒鉛基材同士を接合しているので、黒鉛基材同士がしっかりと接合された接合体となる。さらに、黒鉛基材の主面の間には、機械的強度の高いCVD-SiC層が存在するので、機械的強度に優れた接合体となる。
【0026】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体を模式的に示す断面図である。
本発明の第1の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体10は、板状の黒鉛基材11がCVD-SiC層からなる薄肉部12により被覆されたSiC被覆黒鉛部材15が複数積層され、接合されたSiC被覆黒鉛部材の接合体であって、具体的には、黒鉛基材11の主面11a同士が薄肉部12を介して対向するように積層され、黒鉛基材11の側面の薄肉部12とその上に形成されたCVD-SiC層13aを含む厚肉部13が黒鉛基材11を接合している。また、このSiC被覆黒鉛部材の接合体10の主面11aをみると、CVD-SiC層は、上記厚肉部から上記薄肉部にかけて穏やかに厚さが変化している。
なお、黒鉛基材11の対向する主面11aに形成された薄肉部12は互いに接合してはおらず、かつ、隙間なく接触しており、薄肉部12の表面の接触している境界部は、認識可能であるが、厚肉部13においては、薄肉部12と後で形成されたCVD-SiC層13aとは、同じ材料から構成されているので強固に接合されており、明確な境界部は認識しにくい。従って、
図1においては、薄肉部12と後で形成されたCVD-SiC層13aとの境界部は、破線で描いているが、後に描く
図2~7においては、簡単にするため、実線で描いている。また、他の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体については、下記するSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法により製造されたSiC被覆黒鉛部材の接合体として説明することとする。
【0027】
上記黒鉛基材を構成する黒鉛の種類は、特に限定されるものではないが、異方性の低い等方性黒鉛材が望ましい。このように異方性の低い等方性黒鉛材を黒鉛基材として使用すると、方向による機械的特性等の偏りが少ないので、破損等が発生しにくく、長期間安定して使用することができる。
【0028】
上記等方性黒鉛材とは、等方的な構造、特性を有する黒鉛材であり、例えば、CIP(静水圧成形法)により製造することができる。具体的には、例えば、圧力容器内で等方性黒鉛材の原料粉をゴムバッグに詰め、水などで加圧することにより成形したのち、焼成、黒鉛化することにより製造することができる。
なお、上記等方性黒鉛材においては、原料粉の平均粒子径は、例えば10~50μmであり、等方性黒鉛材が細かな組織を有していることが特徴である。
【0029】
上記黒鉛基材が黒鉛からなる場合、気孔率が10~20%であり、かさ密度が1.70~1.90g/cm3である材料が望ましい。
上記黒鉛基材の気孔率が10%以上であると、開気孔を含有しているため、開気孔の内部にCVD-SiC層が含侵し易く、アンカー効果により、CVD-SiC層が黒鉛基材としっかり密着する。一方、上記黒鉛基材の気孔率が20%以下であると、気孔の含有割合が高すぎないため、黒鉛基材自体の機械的強度が大きい。
【0030】
また、上記黒鉛基材のかさ密度が1.70g/cm3以上であると、気孔を有していても、黒鉛基材の機械的特性に優れる。また、上記黒鉛基材のかさ密度が1.90g/cm3以下であると、開気孔を適切な範囲で含んでおり、CVD-SiC層が開気孔内部に充填され易く、CVD-SiC層からなる被覆層が密着性に優れたものとなる。
【0031】
上記黒鉛基材は、炭素繊維の骨材の隙間に炭素のマトリックスが充填され、強化されたC/C複合材であってもよい。骨材である炭素繊維の種類としては、特に限定されず、PAN系炭素繊維であっても、ピッチ系炭素繊維であってもよい。
なお、C/C複合材は、例えば、炭素繊維の黒鉛基材に熱分解炭素を沈積する方法、炭素繊維の黒鉛基材に樹脂を含浸したのち炭素化する方法等により得られる。C/C複合材は、高強度炭素繊維で補強されているので、高温でも破壊靭性があり、機械的強度を保つことができる。
【0032】
板状の黒鉛基材の形状は、特に限定されるものではなく、平面視した形状が円形であってもよく、三角形、矩形、五角形、六角形、楕円形、レーストラック形状等であってもよい。
上記黒鉛基材の寸法も、特に限定されるものではないが、その厚さは、1~100mmが望ましく、平面視した形状が円形の場合、その直径は、10~1000mmが望ましい。
接合の対象となる複数の黒鉛基材の厚さは、それぞれ異なっていてもよいが、平面視した形状が同じであることが望ましい。上記した黒鉛基材の特性は、以下の第2の実施形態~第4の実施形態においても、同様である。
【0033】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体を構成する薄肉部及び厚肉部は、CVD-SiC層により構成されており、上記厚肉部の厚さは、上記薄肉部の厚さの1.50~3.00倍であることが望ましい。
【0034】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体において、上記厚肉部の厚さが、上記薄肉部の厚さの1.50~3.00倍であると、上記黒鉛基材を接合する部分である厚肉部のうち、接合に関与する部分の厚さを充分に厚くすることができ、しっかりと黒鉛基材同士が接合されたSiC被覆黒鉛部材の接合体とすることができる。なお、薄肉部の厚さは、30~100μmが好ましい。
CVD-SiC層の形成方法については、SiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法の項で説明することとする。
【0035】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体では、上記CVD-SiC層は、上記厚肉部から上記薄肉部にかけて穏やかに厚さが変化していることが望ましい。
上記厚肉部から上記薄肉部にかけて穏やかに厚さが変化しているとは、厚肉部の終了部分から次第に厚さが薄くなり、所定の距離離れた部分で薄肉部の厚さとなることをいい、厚肉部の終了部分から薄肉部の厚さになるまでの距離は、1~20mmが望ましい。また、SiC被覆黒鉛部材の黒鉛基材の主面に垂直な断面図において、その形態は、直線で表示される形態であってもよく、ロジスティック曲線のような曲線で表示される形態であってもよい。
【0036】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体において、上記CVD-SiC層が、
図1に示すように、厚肉部から薄肉部にかけて穏やかに厚さが変化していると、ヒートサイクルや熱衝撃によってクラックの起点となるノッチが形成されにくく、熱衝撃等に対して耐久性のあるCVD-SiC層を有するSiC被覆黒鉛部材の接合体となる。
【0037】
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体では、上記接合体の側面と主面との境界部は、厚肉部で覆われていることが望ましい。
【0038】
このように上記接合体の側面と主面との境界部が厚肉部で覆われていると、熱衝撃や、打撃等によって損傷を受けやすいSiC被覆黒鉛部材の接合体の側面と主面との境界部であるエッジ部を保護することができ、熱衝撃によって損傷しにくく、また、上記エッジ部が傷つくのを防止することができる。
【0039】
次に、本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法について説明する。
本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法は、上記のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法であって、
複数の上記黒鉛基材の表面に、一様にCVD-SiC層を形成することにより上記薄肉部を有する複数のSiC被覆黒鉛部材を得る第1のCVD工程と、上記SiC被覆黒鉛部材を複数積層することによりSiC被覆黒鉛部材の積層体を作製するとともに、作製されたSiC被覆黒鉛部材の積層体の露出した主面を、マスキング材によりマスキングする積層・マスキング工程と、上記SiC被覆黒鉛部材の積層体の側面を含む部分に、さらにCVD-SiC層を形成することにより上記厚肉部を有するSiC被覆黒鉛部材の接合体を得る第2のCVD工程とからなることを特徴とする。
【0040】
以下においては、
図1に示したSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法を例にとって本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法を第1の実施形態として説明するが、後で他の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材、及び、その接合体の製造方法についても説明することとする。
【0041】
[第1の実施形態]
図2(a)~(e)は、第1の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法における各工程を示す断面図である。
(第1のCVD工程)
本発明の第1の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法では、まず、板状の黒鉛基材11(
図2(a)参照)の表面に、一様にCVD-SiC層を形成することにより薄肉部12を有するSiC被覆黒鉛部材15(
図2(b)参照)を得る。
図2(a)に示す黒鉛基材11は、円盤状である。
【0042】
CVD法により第1のCVD-SiC層を形成する方法としては、特に限定されず、熱CVD法、プラズマ有機CVD法、光CVD法、減圧CVD法、有機金属CVD法、CVI法(化学気相含浸法)等が挙げられる。
【0043】
具体的には、黒鉛基材である黒鉛を800~1600℃程度に加熱し、減圧又は常圧で、原料ガスを黒鉛基材の周囲に流通させるか、又は、黒鉛基材に吹き付け、黒鉛基材の表面や開気孔内にCVD-SiC層からなる薄肉部12を形成する。
【0044】
使用する原料ガスは、炭素と珪素が供給できれば特に限定されず、例えば、炭化水素とシラン系ガスの混合ガス、珪素と炭素を含有する原料ガスを用いることができる。炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、アセチレン、ベンゼン、トルエン等、どのようなものでも使用することができる。また、シラン系ガスは、シランのほか一部をハロゲンで置き換えたクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン等の有機塩素化合物のほか、一部をフッ素、臭素、ヨウ素などで置き換えた有機ハロゲン化合物などを使用することができる。珪素と炭素を含有する化合物としては、メチルシラン、クロロメチルシラン、ジクロロメチルシラン、トリクロロメチルシラン等が挙げられる。
これらの原料ガスは、アルゴン等の不活性ガスや水素で希釈されていてもよい。
形成する薄肉部(CVD-SiC層)の厚さは、30~100μmが望ましい。
【0045】
本発明では、接合しようとする複数の他の黒鉛基材に対しても、CVD-SiC層からなる薄肉部12を形成することにより薄肉部12を有する複数のSiC被覆黒鉛部材15を作製する。
このようにして作製されたSiC被覆黒鉛部材15は、黒鉛基材11の両側の主面に均等にCVD-SiC層(薄肉部)が形成されているので、加熱、冷却した際に生じる熱応力は表裏均等に生じ、SiC被覆黒鉛部材15に反りが発生しにくい。
【0046】
(積層・マスキング工程)
積層・マスキング工程では、SiC被覆黒鉛部材15を複数積層することによりSiC被覆黒鉛部材15の積層体を作製するとともに、作製されたSiC被覆黒鉛部材15の積層体の露出した主面(互いに接していない主面)の大部分を、マスキング材18によりマスキングする(
図2(c)参照)。
【0047】
図2(c)に示すマスキング材18の材料は、特に限定されないが、800~1600℃の温度に耐える耐久性の材料である必要があり、黒鉛、コージェライト、アルミナ、シリカ、ムライト等の酸化物系セラミック、炭化ケイ素、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化タングステン等の炭化物系セラミック、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン等の窒化物系セラミック等が挙げられる。
【0048】
第1の実施形態では、2個のSiC被覆黒鉛部材15を積層しているが、積層するSiC被覆黒鉛部材15の数は、2個に限られず、3個以上であってもよい。第2の実施形態以降の実施形態においても、積層するSiC被覆黒鉛部材15の数は、2個に限られず、3個以上であってもよい。また、それぞれのSiC被覆黒鉛部材の厚さも異なっていてもよい。
【0049】
(第2のCVD工程)
第2のCVD工程では、SiC被覆黒鉛部材15の積層体の側面を含む部分に、さらにCVD-SiC層13aを形成し(
図2(d)参照)、マスキング材18を取り除くことにより、側面に厚肉部13を有するSiC被覆黒鉛部材の接合体10を得る(
図2(e)参照)。
【0050】
CVD-SiC層13aを形成する方法は、第1のCVD工程においてCVD-SiC層を形成する方法と同様である。形成するCVD-SiC層13aの厚さは、50~300μmが望ましい。
【0051】
なお、
図2(c)に示すマスキング材18は、大きさの異なる板状体が2枚積層された形状をなしており、薄肉部12に接している部分が小さく外側の部分は大きく、内側部分と外側部分との間に段差が形成されており、段差の部分に小さな空間が形成されている。
このため、上記空間の内部まで原料ガスが到達しにくく、CVD-SiC層13aの厚さが空間の内部に行くに従って薄くなり、その結果、SiC被覆黒鉛部材の接合体10の主面においては、端部から内側に行くに従って、CVD-SiC層13aの厚さが穏やかに変化した形態となる。また、段差のある部分は、空洞19となるが、空洞19を形成するCVD-SiC層は、極めて薄いので、マスキング材は、容易に取り除くことができ、境界部にバリやクラックが生じにくくなっている。
【0052】
得られたSiC被覆黒鉛部材の接合体10の両主面の大部分には、第2のCVD工程でCVD-SiC層13aが形成されていないので、SiC被覆黒鉛部材の接合体10を構成するSiC被覆黒鉛部材15の2つの主面は、薄肉部12が形成されているのみで、略同等の厚さであり、加熱、冷却されても熱歪みが同じように生じるので、SiC被覆黒鉛部材15に反りが発生しにくい。
【0053】
一方、SiC被覆黒鉛部材の接合体10の側面には、第1のCVD工程で薄肉部12が形成され、第2のCVD工程で、さらにその上にCVD-SiC層13aが形成され、厚肉部13となっており、CVD-SiC層13aにより二つのSiC被覆黒鉛部材15が接合されている。
第1の実施形態では、第1のCVD工程と、第2のCVD工程は、特に限定されないが、例えば同じ条件で製膜し、それぞれ同じ厚みのCVD-SiC層を形成する。このため、本実施形態においては、厚肉部13の厚さは、薄肉部12の厚さの2倍となるが、その厚さの比は、特には限定されない。ただし、厚肉部13の厚さは、薄肉部12の厚さの1.50~3.00倍であることが望ましい。
【0054】
[第2の実施形態]
図3(a)~(e)は、第2の実施形態に係る本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法における積層・マスキング工程以降の工程を模式的に示す断面図である。
このSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法において、黒鉛基材の材料や形状及び第1のCVD工程は、
図3(a)~(b)に示すように、第1の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法と同様であるので、ここではその説明を省略し、積層・マスキング工程から説明する。
【0055】
(積層・マスキング工程)
第2の実施形態における積層・マスキング工程では、第1のCVD工程を経ることにより作製されたSiC被覆黒鉛部材15を複数積層することによりSiC被覆黒鉛部材15の積層体を作製するとともに、作製されたSiC被覆黒鉛部材15の積層体の露出した主面の大部分を、マスキング材28によりマスキングする。本実施形態では、マスキング材28が第1の実施形態と異なり、主面の面積がSiC被覆黒鉛部材15の主面より少し小さい板状体(円盤)となっている(
図3(c)参照)。
【0056】
図3(c)に示すマスキング材28の材料は、特に限定されず、第1の実施形態で使用した材料と同じである。
【0057】
(第2のCVD工程)
第2のCVD工程では、SiC被覆黒鉛部材15の積層体の側面を含む部分に、さらにCVD-SiC層23aを形成し(
図3(d)参照)、マスキング材28を取り除くことにより、側面に厚肉部23を有するSiC被覆黒鉛部材の接合体20を得る(
図3(e)参照)。
【0058】
第2のCVD工程において、CVD-SiC層23aを形成する方法は、第1の実施形態において第1のCVD工程でCVD-SiC層を形成する方法と同様である。
【0059】
なお、マスキング材28を取り除くと、マスキング材28があった部分に近い部分は厚く、取り除く際にバリが形成される。形成されたバリは、SiC被覆黒鉛部材の接合体20を使用する際に、特に影響がなければそのまま使用してもよく、研磨などによって除去してもよい。なお、SiC被覆黒鉛部材の接合体20の側面と主面との境界部は、厚肉部23で覆われている。
【0060】
得られたSiC被覆黒鉛部材の接合体20の両主面には、第2のCVD工程でCVD-SiC層23aがほとんど形成されておらず、SiC被覆黒鉛部材の接合体20を構成するSiC被覆黒鉛部材15の2つの主面の大部分は、薄肉部12が形成されており、略同等の厚さであり、加熱、冷却されても熱歪みが同じように生じるので、SiC被覆黒鉛部材15に反りが発生しにくくなっている。
【0061】
[第3の実施形態]
図4(a)~(e)は、第3の実施形態に係る本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法における積層・マスキング工程以降の工程を模式的に示す断面図である。
このSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法において、黒鉛基材の材料や形状及び第1のCVD工程は、
図4(a)~(b)に示すように、第1の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法と同様であるので、ここではその説明を省略し、積層・マスキング工程から説明する。
【0062】
(積層・マスキング工程)
第3の実施形態における積層・マスキング工程では、第1のCVD工程を経ることにより作製されたSiC被覆黒鉛部材15を複数積層することによりSiC被覆黒鉛部材15の積層体を作製するとともに、作製されたSiC被覆黒鉛部材15の積層体の露出した主面全体を、マスキング材38によりマスキングする。マスキング材38は、第1の実施形態や第2の実施形態と異なり、主面の面積がSiC被覆黒鉛部材15の主面より少し大きい板状体(円盤)となっており、マスキング材38がSiC被覆黒鉛部材15の主面を覆うとともに、主面から少しはみ出している(
図4(c)参照)。
【0063】
図4(c)に示すマスキング材38の材料は、特に限定されず、第1の実施形態で使用した材料と同じである。
【0064】
(第2のCVD工程)
第2のCVD工程では、SiC被覆黒鉛部材15の積層体の側面を含む部分に、さらにCVD-SiC層33aを形成し(
図4(d)参照)、マスキング材38を取り除くことにより、側面に厚肉部33を有するSiC被覆黒鉛部材の接合体30を得る(
図4(e)参照)。
【0065】
本実施の形態では、第2のCVD工程を行う際、SiC被覆部材の接合体30の露出する側の主面全体がマスキング材38で覆われており、厚肉部33と薄肉部12の境界部は、SiC被覆部材の接合体30の側面と主面との間のエッジ部にできる。また、第2のCVD工程では、SiC被覆黒鉛部材15とマスキング材38を接合するようにCVD-SiC層33aが形成されるので、マスキング材38を取り外す際にバリが形成される。形成されたバリは影響がなければそのまま使用してもよいし、研磨などによって除去してもよい。
【0066】
第2のCVD工程において、CVD-SiC層33aを形成する方法は、第1の実施形態において第1のCVD工程でCVD-SiC層を形成する方法と同様である。
【0067】
得られたSiC被覆黒鉛部材の接合体30の両主面には、第2のCVD工程でCVD-SiC層33aが形成されていないので、SiC被覆黒鉛部材の接合体30を構成するSiC被覆黒鉛部材15の2つの主面は、薄肉部12が形成されているのみで、略同等の厚さであり、加熱、冷却されても熱歪みが同じように生じるので、SiC被覆黒鉛部材15に反りが発生しにくくなっている。
【0068】
[第4の実施形態]
図5(a)~(e)は、第4の実施形態に係る本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法における積層・マスキング工程以降の工程を模式的に示す断面図である。
このSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法において、黒鉛基材の材料や形状及び第1のCVD工程は、
図5(a)~(b)に示すように、第1の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法と同様であるので、ここではその説明を省略し、積層・マスキング工程から説明する。
【0069】
(積層・マスキング工程)
第4の実施形態における積層・マスキング工程では、第1のCVD工程を経ることにより作製されたSiC被覆黒鉛部材15を複数積層することによりSiC被覆黒鉛部材15の積層体を作製するとともに、作製されたSiC被覆黒鉛部材15の積層体の露出した主面の全体を、マスキング材48によりマスキングする。マスキング材48は第1~第3の実施形態と異なり、主面の面積がSiC被覆黒鉛部材15の主面より少し大きい板状体(円盤)で、主面から少しはみ出し、かつ、下に折れ曲がり、側面の一部を覆っており、側面とマスキング材48との間に小さな空間が形成されている(
図5(c)参照)。
【0070】
図5(c)に示すマスキング材48の材料は、特に限定されず、第1の実施形態で使用した材料と同じである。
【0071】
(第2のCVD工程)
第2のCVD工程では、SiC被覆黒鉛部材15の積層体の側面を含む部分に、さらにCVD-SiC層43aを形成し(
図5(d)参照)、マスキング材48を取り除くことにより、側面に厚肉部43を有するSiC被覆黒鉛部材の接合体40を得る(
図5(e)参照)。
【0072】
第2のCVD工程において、CVD-SiC層43aを形成する方法は、第1の実施形態において第1のCVD工程でCVD-SiC層を形成する方法と同様である。
【0073】
上記したように、側面とマスキング材48との間に小さな空間が形成されているため、上記空間の内部まで原料ガスが到達しにくく、その結果、SiC被覆黒鉛部材の接合体40の側面においては、端部は薄肉部12と同じ厚さで、端部から内側に行くに従って、CVD-SiC層43aの厚さが徐々に厚くなり、一定の厚さの厚肉部43となる。また、空間が形成されている部分は、空洞49となるが、空洞49を形成するCVD-SiC層43aは、境界部は極めて薄いので、マスキング材48は、容易に取り除くことができ、境界部にバリやクラックが生じにくくなっている。
【0074】
得られたSiC被覆黒鉛部材の接合体40の両主面には、第2のCVD工程でCVD-SiC層43aが形成されていないので、SiC被覆黒鉛部材の接合体40を構成するSiC被覆黒鉛部材15の2つの主面は、薄肉部12が形成されているのみで、略同等の厚さであり、加熱、冷却されても熱歪みが同じように生じるので、SiC被覆黒鉛部材15に反りが発生しにくくなっている。
【0075】
[従来の実施形態]
図6(a)~(e)は、従来の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法における積層工程以降の工程を模式的に示す断面図である。
本実施形態では、熱膨張係数がCVD-SiC層よりも大きい黒鉛基材を用い、マスキング材を使用せずにSiC被覆黒鉛部材の接合体を製造した場合を示しており、製造されたSiC被覆黒鉛部材の接合体は、本発明の範囲外である。
【0076】
このSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法において、黒鉛基材の材料や形状及び第1のCVD工程は、
図6(a)~(b)に示すように、第1の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法と同様であるので、ここではその説明を省略し、積層工程から説明する。なお、従来の実施形態では、マスキングは行わないので、積層工程ということとする。
【0077】
(積層工程)
従来の実施形態における積層工程では、第1のCVD工程を経ることにより作製された黒鉛基材111の表面に薄肉部112を有するSiC被覆黒鉛部材115を複数積層することによりSiC被覆黒鉛部材115の積層体を作製する(
図6(c)参照)が、マスキング材は用いずに、下記する第2のCVD工程を行う。
【0078】
(第2のCVD工程)
第2のCVD工程では、マスキング材を用いず、SiC被覆黒鉛部材115の積層体の全体に、さらにCVD-SiC層113aを形成し、全面に厚肉部113を有するSiC被覆黒鉛部材の接合体110を製造する。
図6(d)は、SiC被覆黒鉛部材の接合体110が製造された直後を示しており、
図6(e)は、SiC被覆黒鉛部材の接合体110が製造された後、室温まで冷却された状態を示している。
【0079】
なお、第2のCVD工程において、CVD-SiC層113aを形成する方法は、第1の実施形態において第1のCVD工程でCVD-SiC層を形成する方法と同様である。
【0080】
上記のように、第2のCVD工程で、SiC被覆黒鉛部材の接合体110の全面に厚肉部113が形成されるが、SiC被覆黒鉛部材の接合体110を構成する個々のSiC被覆黒鉛部材115に注目すると、露出した主面には厚肉部113が形成されているが、主面同士が接している部分には、薄肉部112のみが形成されており、SiC被覆黒鉛部材115の2つ主面のCVD-SiC層の厚さが異なる。このため、
図6(d)に示すSiC被覆黒鉛部材の接合体110が製造された直後では、個々のSiC被覆黒鉛部材115に熱歪みは生じず、変形しないが、室温まで冷却されると、黒鉛基材111とCVD-SiC層の熱膨張係数の差に起因して
図6(e)に示すように、外側に凸になるように反りが発生し、個々のSiC被覆黒鉛部材115の主面が隣り合う部分に空隙が発生する。
【0081】
[従来の別の実施形態]
図7(a)~(e)は、従来の別の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法における積層工程以降の工程を模式的に示す断面図である。
本実施形態では、熱膨張係数がCVD-SiC層よりも小さい黒鉛基材を用い、マスキング材を使用せずにSiC被覆黒鉛部材の接合体を製造した場合を示しており、製造されたSiC被覆黒鉛部材の接合体は、本発明の範囲外である。
【0082】
このSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法において、黒鉛基材の材料や形状及び第1のCVD工程は、
図7(a)~(b)に示すように、第1の実施形態に係るSiC被覆黒鉛部材の接合体の製造方法と同様であるので、ここではその説明を省略し、積層工程から説明する。
【0083】
(積層工程)
従来の別の実施形態における積層工程では、第1のCVD工程を経ることにより作製された黒鉛基材121の表面に薄肉部122を有するSiC被覆黒鉛部材125を複数積層することによりSiC被覆黒鉛部材125の積層体を作製する(
図7(c)参照)が、マスキング材は用いずに、下記する第2のCVD工程を行う。
【0084】
(第2のCVD工程)
第2のCVD工程では、マスキング材を用いず、SiC被覆黒鉛部材125の積層体の全体に、さらにCVD-SiC層123aを形成し、全面に厚肉部123を有するSiC被覆黒鉛部材の接合体120を製造する。
図7(d)は、SiC被覆黒鉛部材の接合体120が製造された直後を示しており、
図7(e)は、SiC被覆黒鉛部材の接合体120が製造された後、室温まで冷却された状態を示している。
【0085】
なお、第2のCVD工程において、CVD-SiC層123aを形成する方法は、第1の実施形態において第1のCVD工程でCVD-SiC層を形成する方法と同様である。
【0086】
第2のCVD工程で、SiC被覆黒鉛部材の接合体120の全面に厚肉部123が形成されるが、SiC被覆黒鉛部材の接合体120を構成する個々のSiC被覆黒鉛部材125に注目すると、露出した主面には厚肉部123が形成されているが、主面同士が接している部分には、薄肉部122のみが形成されており、SiC被覆黒鉛部材125の2つ主面の厚さが異なる。このため、
図7(d)に示すSiC被覆黒鉛部材の接合体120が製造された直後では、個々のSiC被覆黒鉛部材125に熱歪みは生じず、変形しないが、室温まで冷却されると、黒鉛基材とCVD-SiC層の熱膨張係数の差に起因して周辺部分にいくに従って離れるように強い張力がかかり、SiC被覆黒鉛部材125に反りが発生し、破壊強度を超えると、両者の間に
図7(e)に示すように剥離が生じる。
【0087】
以上説明したように従来の2つの実施形態においては黒鉛基材とCVD-SiC層との熱膨張係数の差によって反りが発生するが、本発明のSiC被覆黒鉛部材の接合体においては内部応力を互いに打ち消しあうことができるので、このような反りの発生を防止することができ、寸法精度が高く隙間の発生のないSiC被覆黒鉛部材の接合体を提供することができる。
【符号の説明】
【0088】
10、20、30、40、110、120 SiC被覆黒鉛部材の接合体
11、111、121 黒鉛基材
11a 主面
12、112、122 薄肉部
13a、23a、33a、43a、113a、123a CVD-SiC層
13、23、33、43、113、123 厚肉部
15、115、125 SiC被覆黒鉛部材
18、28、38、48 マスキング材
19、49 空洞