(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】遠心機用ロータ及び遠心機
(51)【国際特許分類】
B04B 9/14 20060101AFI20240806BHJP
B04B 5/02 20060101ALI20240806BHJP
B04B 9/10 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B04B9/14
B04B5/02 Z
B04B9/10
(21)【出願番号】P 2020086937
(22)【出願日】2020-05-18
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】520276604
【氏名又は名称】エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岸 拓也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-180147(JP,A)
【文献】特開2000-207820(JP,A)
【文献】特開平11-262683(JP,A)
【文献】特開2007-255704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B04B 5/02
B04B 9/14
F16F 15/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直の回転軸を中心とする円筒部内に複数のボールを内蔵し、
前記円筒部の内壁面の最上部及び最下部との間に前記ボールが移動可能な滑走面を有し、
前記円筒部内における前記ボールの移動によってバランスを調節するバランサを備えた遠心機用ロータにおいて、
前記滑走面に
対する前記ボールの
周方向への移動を抑制するために
、前記滑走面に平滑度が低い表面粗の領域を周方向に断続的に設けたことを特徴とする遠心機用ロータ。
【請求項2】
前記円筒部は、前記最上部と前記最下部の間において最大内径部を有し、
前記表面粗の領域は、前記最大内径部を含む位置に配置されることを特徴とする請求項1に記載の遠心機用ロータ。
【請求項3】
前記円筒部の内面の全体又は一部を、前記最大内径部を有する樽形形状としたことを特徴とする請求項2に記載の遠心機用ロータ。
【請求項4】
前記表面粗の領域は、前記最大内径部を含む円周上に断続的に複数設けられることを特徴とする請求項2又は3に記載の遠心機用ロータ。
【請求項5】
前記円筒部の前記回転軸方向の高さを、前記複数のボールが高さ方向に少なくとも2列の千鳥配列に並ぶことが可能な高さとしたことを特徴とする請求項4に記載の遠心機用ロータ。
【請求項6】
前記表面粗の領域は、通常面よりも10倍以上粗いことを特徴とする請求項5に記載の遠心機用ロータ。
【請求項7】
前記表面粗の領域は、表面の法線方面の最大高低差が100~150ミクロンであることを特徴とすることを特徴とする請求項6に記載の遠心機用ロータ。
【請求項8】
前記回転軸に対して所定の角度で設けられる保持穴を有するアングルロータに、前記円筒部が設けられることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の遠心機用ロータ。
【請求項9】
アーム部の一端に設けられるスイング軸と、前記スイング軸にスイング可能に設けられる、バケットを有するスイングロータに、前記円筒部が設けられることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の遠心機用ロータ。
【請求項10】
前記表面粗の領域は、前記滑走面の一部をブラスト処理又はエッチング加工によって形成された面であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の遠心機用ロータ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項の遠心機用ロータと、
前記遠心機用ロータを回転させる駆動部と、前記遠心機用ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、前記ロータ室を閉鎖するドアと、
前記駆動部の回転を制御する制御部と、を有することを特徴とする遠心機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンバランス吸収媒体として球体を収容したバランサを回転するロータに設けようにした遠心機用ロータ及びそれを用いた遠心機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械の一例である遠心機(遠心分離機)は、試料を入れたロータを高速回転して試料に高遠心加速度を与え、高密度の試料を半径方向に分離させる機械である。回転の加速時や減速時に急速に速度を変化させると試料が攪拌され、密度の差に従って分離した液状の試料が混合されてしまうため、速度をゆっくり変化させ、試料が乱れたり混合したりすることを防止する。また、遠心分離機は高速で回転するため、ロータが振れる共振回転速度を超えて運転することになるが、加速時や減速時に共振回転速度を通過させる際に、ロータがアンバランスになりやすく、共振時の振動が大きくなる虞がある。よって、共振時の振動を少なくするために、ロータを駆動する駆動部と筐体間にはダンパーゴム等の衝撃吸収装置が設けられる。しかし、アンバランスが過大な状態でロータを回転させると、ダンパーゴムだけ振動を吸収することができずに、ロータの共振時に大きな騒音や振動を発生したりする。そこで、環状ケース内に液体を移動可能に封入した液体バランサをロータに設けたり、環状ケース内に鋼球を移動自在に収納したボールバランサを設けたりする技術が知られている。特許文献1は、ボール式のバランサを設ける例を示している。ここで
図11と
図12を用いてボールを用いたバランサ250の原理を説明する。
【0003】
図11は、バランサ250の円筒ケース251の開口部から回転軸線A1方向に見た上面図である(図示しない上側のカバーを取り外した状態)。バランサ250の内部空間は、外周側壁面252と内周側壁面254の間に円筒状の連続する形状とされ、複数のボール60が周方向に自在に移動可能なように保持される。外周側壁面252と内周側壁面254は、下側部分にて底面253にて接続され、底面253は複数のボール60が載置される面となり、ロータの停止時には底面253上にボール60が接するように位置する。
図11の例ではボール60は2つしか図示していないが、実際には円筒ケース251内にロータにアンバランスが生じ難いようにボール60が配置され、ロータが高速回転するとすべてのボール60がアンバランス質量(図示せず)の反対側に移動することによりアンバランス量を補正して、回転軸の振動を抑制する。
図11のようにボール60が周方向に自在に移動できるように構成すると、ロータの起動及び加速時にボール60が自在に動くため、ロータの共振点近くになるとボールが動いてしまって、反って振動が大きくなってしまう虞があった。そのため、円筒ケース内に粘度の高いオイル(例えば100~3000mm
2/S程度)を少量(10数cc程度)入れることによってボールを動きにくくして、振動増大現象を抑制していた。
【0004】
図12のバランサ250Aは、基本的な形状は
図11のバランサ250と同じであるが、周方向に4カ所の隔壁255を形成することによって、ボール60の公転可能範囲を制限するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、共振回転速度(ロータを含む回転系の固有振動数とロータの回転速度が一致する回転速度)においては振動が大きくなることが知られているが、加えて、共振回転速度以下の回転速度においては、回転系の重心位置がロータ中心より回転中心から遠い位置に位置し、共振回転速度以上の回転速度においては、位相が180°ずれるため、回転系の重心位置がロータ中心より回転中心側に位置することが知られている。
【0007】
従って、遠心分離機に上記の従来のボールバランサを用いて運転すると、ロータが振動する共振回転速度に達する以前(共振回転速度以下の回転速度)では、試料のアンバランスと同じ方向に振れてゆっくり加速しているため、試料のアンバランス質量の方向にボールが移動することになり、結果として、このボールがアンバランスを更に大きくするよう働いてしまう。その結果、ボールバランサが無い場合よりボールバランサが有る場合のほうが共振時の振動が大きくなり、騒音が大きくなったりするという欠点を有している。
【0008】
しかし、共振回転速度を過ぎて高速回転(共振回転速度以上の回転速度)になると、ロータは試料のアンバランスとは反対方向に振れるため、ボールが試料のアンバランスの反対方向に移動することになり、ボールがアンバランス質量が小さくなるようバランスを自動調整し、ロータの振動は急激に少なくなり、ボールバランサの効果を発揮できる。
【0009】
図11に示すような油の粘性を利用したボールバランサは、長年の使用による油量の減少などで共振点付近において自励振動を発生させる虞があった。油漏れや油減少を避けるためには定期的なメンテナンスが必要となり、メンテナンスコストが上昇する。また、
図12に示すような従来のボールバランサでは隔壁を設ける構造が複雑になるため製造コストの上昇が大きい上に、公転するボールが隔壁に衝突する際の騒音が大きくなるという欠点がある。また、内部の油を密封するための構造も必要となり、製作コストが上昇する欠点もある。
【0010】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、ロータの高速回転時にボールを移動させることによって回転するロータのアンバランス質量を補正できるバランサを有する遠心機用ロータ及びそれを用いた遠心機を提供することにある。
本発明の他の目的は、ボールの移動によってアンバランス質量を補正するバランサをオイルレス又はきわめて少量のオイルの使用で実現できるようにした遠心機用ロータ及びそれを用いた遠心機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、鉛直の回転軸を中心とする円筒部内に複数のボールを内蔵し、円筒部の内壁面の最上部及び最下部との間にボールが移動可能な滑走面を有し、円筒部内におけるボールの移動によってバランスを調節するバランサを備えた遠心機用ロータにおいて、滑走面に対するボールの周方向への移動を抑制するために、滑走面に、平滑度が低い表面粗の領域(表面粗領域)を周方向に断続的に設けた。円筒部は、最上部と最下部の間において最大内径部を有し、表面粗の領域は、最大内径部を含む位置に配置され、内面の全体又は一部を最大内径部を有するような樽形形状とした。
【0012】
本発明の他の特徴によれば、表面粗の領域は、最大内径部を含む円周上に断続的に複数設けられる。また、円筒部の回転軸方向の高さは、最低でも複数のボールが高さ方向に少なくとも2列の千鳥配列に並ぶことが可能な高さを確保すると良いが、例えばボールが2段並ぶ程度にすると特に好ましい。表面粗の領域は、通常の滑走面(平滑な面)より10倍以上粗くなるように形成すると良く、例えば、表面の法線方面の最大高低差、即ちPeak to Peakの高低差が100~150ミクロン程度となるようにすると良い。
【0013】
本発明のさらに他の特徴によれば、バランサを構成する円筒部は、回転軸に対して所定の角度で設けられる試料容器用の保持穴を有するアングルロータ、又は、スイング軸にスイング可能に設けられるバケットを有するスイングロータに設けられる。円筒部に形成される表面粗の領域は、滑走面全体を第一の表面粗として製造した後に、表面加工によって粗く加工することにより形成できる。このようにして形成される遠心機用ロータを用いて遠心機を構成した。遠心機には、遠心機用ロータを回転させる駆動部と、遠心機用ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、ロータ室を閉鎖するドアと、駆動部の回転を制御する制御部と、を含んで構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バランサの円筒部は、内部空間の上端位置(天井面)と下端位置(底面)の間において最大内径部を有するような樽状の形状であり、内壁面のうちボールの径方向外側に接触する滑走面を円筒部内側面の上部と下部の間に設け、滑走面に通常面の領域と、通常面より粗い表面粗の領域を設けたので、ボールの公転運動を抑制することで自励振動の発生を抑制し、共振点付近での回転をスムーズに行うことができる。この結果、共振回転速度付近でのボールが無駄な移動をすることを抑制でき、アンバランス補正能力を高めることができる。また、本発明の構造はきわめて簡略であり、製造コストの増加がわずかですむ。更には、本発明によってロータの過度な振動を抑制することができ、遠心機の耐久性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例に係る遠心機の正面図であり、主要部分を断面図で示した図である。
【
図2】本実施例のスイングロータ30の斜視図である(停止時)。
【
図3】
図1のスイングロータ30の斜視図である(高速回転時)。
【
図5】
図2のスイングロータ30の縦断面図である(停止時)。
【
図6】
図3のスイングロータ30の縦断面図である(高速回転時)。
【
図7】バランサ50の内部のボール60に加わる力の状態を説明するための模式図である。
【
図8】本発明の第2の実施例に係るアングルロータ130の断面斜視図である。
【
図9】本発明の第1及び第2の実施例に係るバランサ50、150の滑走面の形状の変形例である(その1)。
【
図10】本発明の第1及び第2の実施例に係るバランサ50、150の滑走面の形状の変形例である(その2)。
【
図11】従来の遠心機用ロータに用いられるバランサ250の原理を説明するための図である(その1)。
【
図12】従来の遠心機用ロータに用いられるバランサ250の原理を説明するための図である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後左右、上下、内周側及び外周側は図中に示す方向であるとして説明する。
【0017】
図1は本発明の遠心機1の縦断面図である。遠心機1は、箱型の筐体11を備え、筐体11の内部の上下中央付近には仕切り板12によって上下2段の空間に仕切られる。仕切り板12の上段の空間には、上面が開口する略円筒状のボウル4が収容され、ボウル4の外周側の全体には円筒状の防護壁6が配置される。ボウル4の上面には開閉可能なドア14によって密閉され、これらによってロータ室3が形成される。ドア14は、筐体の後方側または側面側に設けられたヒンジ(図示せず)に軸支される揺動式とされ、ドア14の前方側が開口する。ボウル4の周囲には冷凍配管17が巻回され、図示しない冷却装置によってロータ室3内が所望の温度に保たれる。ロータ室3内には、遠心分離機用ロータとしてスイングロータ30が収容される。スイングロータ30は、駆動軸8に装着されるロータボディ31と、ロータボディ31に対してスイング可能に保持される複数のバケット40と、ロータボディ31と同軸上に取り付けられるバランサ50により構成される。スイングロータ30は駆動軸8に着脱可能であるので、遠心分離を行う試料の量や種類によって、他のスイングロータや、アングルロータ等を駆動軸8に装着することが可能である。尚、スイングロータ30の全体を収容し、スイングロータ30と共に回転させる金属製の収容カバーを使用しても良い。
【0018】
筐体11の上部後方側の傾斜パネル15には操作表示部16が設けられる。操作表示部16は、ユーザからの入力を受け付けるための入力部と、ユーザに対して情報を表示する表示部の機能を果たすもので、複数のボタンとLED表示装置で形成できる。尚、タッチ式の液晶ディスプレイを用いて構成すれば、入力部と表示部を一体で実現できる。遠心機1には、操作表示部16への情報の表示とユーザからの操作入力の受付けの制御、モータ7の回転制御、冷凍配管17に冷媒を流すための図示しない冷却装置の制御等の遠心機1全体の制御を行う制御部20が設けられる。制御部は、マイクロコンピュータ、揮発性および不揮発性の記憶メモリ等を含んで構成される電子回路である。
【0019】
筐体11内の仕切り板12によって仕切られた下段には、駆動部たるモータ7が設けられる。モータ7は、モータハウジング9の内部に収容され、モータハウジング9はダンパーゴム10を介してフレーム13に固定される。遠心機1のような回転機械ではスイングロータ30が振動する共振回転速度があり、共振回転速度はモータ7やスイングロータ30の質量と慣性モーメント、及びダンパーゴム10によるばね定数と減衰係数により決まる。モータ7はその駆動軸(回転軸)8が鉛直方向に伸びるように配置される。駆動軸8は、ボウル4の底部に形成される貫通穴4aからロータ室3の内部空間に達するように延びる。貫通穴4aと駆動軸8の間は、軸カバー5が嵌着される。このように軸カバー5によりモータ7の上部を覆うことでロータ室3の密閉性を保ち、ロータ室3内の冷気がロータ室3の外部に流れ出ないようにしている。さらに、駆動軸8には図示されていないピンが設けられていて、スイングロータ30のハブ32に設けられている切り欠き部32aにピンが係合することで、下方への動きが規制し、さらに駆動軸8の先端部に設けられている図示されていない雌ネジ部にナット18を取付けてスイングロータ30を駆動軸8に固定する。
【0020】
スイングロータ30が高速で回転することにより、遠心力によってバケット40がスイング軸(
図2で後述する揺動軸37)を中心にして揺動する。スイングロータ30の停止時にはバケット40の底面が下側、開口部が上側に向くように位置する。スイングロータ30は、このようにバケット40を取り付けた状態でロータ室3から外部に取り外しが可能であるし、スイングロータ30を遠心機1にセットした状態で、バケット40だけをスイングロータ30から取り外してロータ室3から外部に取り出しが可能である。
【0021】
遠心機1は、停止時から遠心分離を行う回転速度に至るまでに共振回転速度を越えて運転することになる。共振回転速度は装着する遠心機用ロータの種類や、遠心機用ロータにセットされる試料の重量によって変わるが、例えば、1200~1600rpmの範囲に存在する。遠心機用ロータが加速中に共振回転速度に到達すると、共振現象の発生によって振動が増大する虞があるため、その時の振動を抑えるため、ダンパーゴム10の減衰係数を適正化することが重要であるが、共振回転速度時の振動をさらに抑えるために本実施例の遠心機1では、遠心機用ロータ(スイングロータ30)にバランサ50を設けた。さらに、ロータにセットする試料のバランスの誤差を従来より大きくしても運転することができる。
【0022】
バランサ50は駆動軸8と同軸上となるように、ロータボディ31の上部に設けられる。バランサ50は、高速回転中のスイングロータ30の回転バランスを、より高精度にとるために設けられるもので、円筒ケース51の内に複数のボール60を移動自在に内蔵したものである。ボール60としては鋼球が用いられ、周方向に並べた際にロータにアンバランスが生じ難いようにボール60が収容される。なお、ボール材質はセラミックス製等でも良く、限られた空間で対アンバランス性能を良くするためには、比較的比重の重い材質も用いることが望ましい。また、
図3のようにスイングロータ30が高速で回転すると、バランサ50内のボール60がアンバランス質量の反対側に移動することによってアンバランス量を補正し、駆動軸8の振動を抑制する。
図1ではボール60が周方向に一列に並んでいる状態を図示しているが、
図1の状態からさらに回転が上昇すると、
図3に示すように特定のバケット40Aにアンバランスがある場合に、ボール60がアンバランス質量と反対側に千鳥配列で並ぶことになる。
【0023】
図2は停止時におけるスイングロータ30の斜視図である。円筒ケース51はロータボディ31に取り付けられている状態(=遠心分離運転時の状態)を示している一方、カバー56は取り外した状態(=遠心分離運転ができない状態)を示している。スイングロータ30は、複数のバケット40と、バケット40を保持するロータボディ31と、ロータボディ31の上部に取り付けられるバランサ50によって構成される。スイングロータ30は、ロータ室3とドア14で囲まれた空間内で回転し、スイングロータ30の停止時にドア14を開け、分離された試料をバケット40から出し入れする。ロータボディ31は、貫通穴33(
図1参照)が形成された外径が略直方体のハブ32と、ハブ32の径方向外側であって上から見て十字状に四方に延びるアーム部34と、アーム部34のそれぞれの先端付近からV字状に広がるように接続される分岐アーム部35と、隣接する分岐アーム部35を面状の部材にて接続することにより強度を向上させるための水平リブ36によって構成される。分岐アーム部35は、略90度の角度(分岐角)となるように2つに分岐する。ロータボディ31は、主にステンレス鋳鋼製やアルミ合金製の精密鋳造によって一体で製作され、組合せ精度の必要な個所のみ機械加工により切削されたり、部品が追加されたりする。
【0024】
ハブ32は駆動軸8(
図1)に設置される箇所となり、取り付けられるバケット40の数が4個の場合は、回転軸(回転中心)A1を中心としてハブ32の回りに回転角90°間隔で4本のアーム部34が配置される。尚、バケット40の取り付け数に応じて、アーム部34の本数と、各分岐アーム部35の挟持角は設定されるが、アーム部34と分岐アーム部35は、貫通穴33(
図1参照)に対して回転対称となるように配置される。
【0025】
分岐アーム部35は、回転軸に垂直な方向に延び、バケット40を挟んで対向する分岐アーム部35と互いに平行な位置関係となる。分岐アーム部35の2本分を用いて1つのバケット40を保持する。各分岐アーム部35には、バケット40を支承するために略円柱状の形状の揺動軸37を取り付けるための図示されていない貫通穴が設けられていて、その貫通穴に揺動軸37をバケット40がセットする側から挿入し、水平リブ36側に突出した揺動軸37に抜け止め用のサークリップ43を取り付けて揺動軸37が分岐アーム部35から抜けないように取り付けている。揺動軸37は、分岐アーム部35を水平方向に貫通してバケット40側に対して及び反バケット側に対して凸状に突出する部分である。揺動軸37の伸びる方向、即ち、揺動軸37の軸線方向は、ロータボディ31の回転軌跡の接線方向と同じ方向となり、バケット40に形成された凹状の窪み(図では見えない)に係合することにより、バケット40がロータボディ31に掛止される。
【0026】
バケット40は、例えばアルミ合金等の金属の一体成形により製造されるカップ状の形状であり、上から見た際に略長方形の開口部41を有する。バケット40の上端近傍であって、揺動軸37の周囲付近は、部分的に厚みを増した肉厚部42が形成され、肉厚部42に下向きにU字状の窪み(図では見えない)が形成されることにより、バケット40を揺動軸37に掛止する。遠心分離運転時には、バケット40内に試料を入れた試料容器、血液バッグ等をいれたカップ、等を装着し、装着状態にてスイングロータ30を高速回転させる。
【0027】
ロータボディ31のハブ32の上側にバランサ50が装着される。バランサ50は、駆動軸8と同軸上になるようにネジ等で固定される。バランサ50は、円筒ケース51と、円筒ケース51の上側の開口部51aを閉鎖するためのカバー56と、複数のボール60によって構成される。円筒ケース51は、底面54と円筒形の内壁面52を有し、上側に円形の開口部を有し、複数のボール60を周方向に移動自在に収納する空間を画定する。円筒ケース51は、金属製であって、内部には14個のボール60が収容される。ボール60は、固定されていない状態にあって公転及び自転が可能である。スイングロータ30の回転と共にバランサ50が回転すると、ボール60は円筒ケース51と共に回転するか、又は円筒ケース51と共に回転しないで同じ場所に留まるか、その他の動きを行う。しかしながら、ボール60にもスイングロータ30の回転による遠心力が作用するために、スイングロータ30の回転時のアンバランス状態に応じた動きをする。スイングロータ30の高速回転時には、ボール60がアンバランス質量の反対側に移動することによってアンバランス量を補正し、駆動軸8の振動を抑制する。この際、遠心力によってボール60は外周側に押しつけられるため、円筒ケース51の円筒状の内壁面52に接した状態を保つことになる。この際にボール60が接する内壁面52の領域が滑走面の一部である。スイングロータ30の回転開始直後のように極低速回転時においては、円筒ケース51の回転に伴ってボール60が自転しながら又は自転せずに、回転軸線A1(
図1参照)を中心に公転する。
【0028】
スイングロータ30の回転が上昇して共振する回転速度付近(例えば1200~1600rpm)を超えると、ボール60はアンバランスを調整する位置に移動して、そこに安定的に留まる。本実施例では、ボール60の移動とバランス位置への静止を安定的なものとするために、ボール60の滑走面(内壁面52)の一部に、周方向に断続するように複数の表面粗の領域55を形成した。通常、内壁面52はボール60の公転を容易にするために表面が滑らかな面(平滑面)に加工される。滑走面は、内壁面52のうち公転するボール60が接触する径方向外側の当接面であり、周方向に連続し、回転軸線A1方向に所定の幅を有する。スイングロータ30が極低速で回転する間は、ボール50は径方向外側の滑走面(内壁面52)と底面54に接触するが、遠心分離速度に至る加速中は、ボール60と円筒ケース51の底面54との接触状態が解消され、径方向外側の滑走面(内壁面52)部分だけで当接する。
【0029】
内壁面52の一部に形成される表面粗領域55は、周方向(回転方向)に等間隔で複数設けられる。表面粗領域55は、内壁面52全体を平滑に製造した後に、その一部を表面加工によって粗く加工することにより形成される。粗く加工する方法は、細かい玉や砂等を噴射して摩擦面をつくるブラスト処理を用いると良い。尚、滑らかな表面を有する鋼材の表面に摩擦抵抗力を有するような凸凹を形成できるならば、ブラスト処理以外のその他の方法、例えば、レーザー加工、薬品による腐食作用を利用して金属を溶解加工するエッチング加工を用いても良い。
【0030】
円筒ケース51のカバー56は、ボール60を円筒ケース51内に留めておくように閉鎖して、略円環状の移動空間を形成するために装着されるもので、金属製又は合成樹脂製である。例えば、切削加工等で製作された金属製の物や、インジェクション等で製作された合成樹脂製品とする。カバー56は外周面に円環部56aが形成され、円環部57の内周側はカップ部分56bが形成され、カップ部分56bの底面部56cには複数の貫通穴56dが形成され、貫通穴56dに図示しないネジを通して、ネジをロータボディ31の雌ねじ穴(図では見えない)に螺合させる。底面部56cにはさらに、インロー部56eが設けられていて、このインロー部56eをカバー取付部58の内周面58aにはめ込むこと、円筒ケース51に対してカバー56が位置決めされ、円環部56aの下側面とカップ部分56bの外周面がボール60に相対する面となる。
【0031】
図3は、高速回転時におけるスイングロータ30の斜視図である。バランサ50の内部構成がわかるように、
図2と同様にカバー56を取り外した状態にて図示している。スイングロータが回転せずに静止している時は、
図2にて示したように、バケット40の上下方向中心軸と回転軸線A1(
図1参照)は平行(スイング角=0°)であるが、スイングロータ30の回転速度が上昇するに従い揺動可能に設置されたバケットに遠心力が作用し、スイング軸を中心にバケットが回転してスイング角が0°より大きくなり、バケットを水平に足らしめる遠心力を発生させる回転速度で、
図3に示すようにほぼ水平(スイング角≒90°)となる。ここで「スイング角」とは、バケット40の中心軸B1が回転軸線A1となす相対角度である。遠心分離運転が終わりスイングロータ30が減速され、回転速度の減少に伴いスイング角は徐々に減少し、回転停止時にはスイング角は再び0となる。このようにスイングロータ30は遠心中の遠心力の大きさによりスイング角度が変化する。
【0032】
スイングロータ30の回転速度が上昇すると、ボール60が円筒ケース51の底面54から離れて樽状に形成された内壁面52を上方向の最大内径位置に向けて移動し、
図6に示すように最大内径位置で一列に並んだ状態になる。更に、スイングロータ30の共振回転速度より高速になると、振動中心が円筒ケース51の中心からアンバランス質量側に移動し、その結果、ボール60にはアンバランス質量の反対側に水平に移動する力が発生する。この水平に移動する力と各ボール60の高さのばらつきにより、ボール60は隣接するボール60の表面や滑走面の表面粗領域55を乗り越えて上下に交互に移動して千鳥配列又は上下2列にてアンバランス質量の反対側に集まる。つまり、
図3に示すように複数のボールはアンバランス重量側と反対側にすべて集中することになる。
【0033】
ボールの集まる数は、円筒内面の樽型の曲率半径によって発生する上下にずれたボールを水平一列に戻す力が釣り合うまで自動的に行われる。スイングロータ30の加速に伴い、円筒ケース51内のボール60は底から離脱し、回転速度の増加につれてボール60が徐々に上昇するが、ボール60の急激な移動がないので、ボール60同士の衝突音も抑制することが可能である。さらに、
図6に示す最大内径位置で一列に並んだ状態において、例えば1200~1600rpmの範囲におけるボールが周方向に移動することによる異常振動も抑制することができる。よって、本実施例ではボール60の配置される内部空間にオイルを入れない、いわゆるオイルレスの構造とすることができる。
【0034】
図4は、
図2のバランサ50単体の部分縦断面図であり、スイングロータ30の停止時の状態である。この図ではカバー56を取り外した状態の断面である。ボール60の半径をrとすると、直径は2rとなる。円筒ケース51の内部空間の高さは、ここではボール60の直径の2倍よりわずかに大きい程度とし、ボール60が上下方向に2つ並ぶ程度に形成した。ボール60が載置される底面54の内周側には、上方向に隆起する凸状部54aが形成され、ボール60の内周側への移動を制限する。円筒ケース51の円筒ケース51の内壁面52(52a~52d)は、わずかな樽状に形成され、矢印52a付近では上に向かうにつれてわずかに直径が大きくなるように外側に指向するごとくに傾斜する円弧面、又は、傾斜面が形成される。内壁面52は矢印52bの中央部(滑走面53の中央部)付近が最大内径位置となり、矢印52c付近では上に向かうにつれてわずかに直径が小さくなるように絞り込まれる円弧面、又は、傾斜面が形成される。矢印52d付近は、上に向かうにつれてわずかに直径がさらに絞り込まれる形状であるが、これはカバー56の円環部56a(
図2参照)を装着するための止め部を形成するためである。開口部51aの上側にカバー56(
図3参照)の円環部56aが当接する。円筒ケース51の底面の内周側には凸状部54aが形成され、スイングロータ30の静止時にボール60が円筒ケース51の外周側に留まるように案内する。
【0035】
滑走面53は内壁面52のうち、ボール60が接触できる範囲である。ボール60の半径はrであるため、内壁面52のうち、上端位置から下にrの部分、下端位置から上にrの部分を除いた残りの範囲が滑走面53となり、ボール60と当接する。滑走面53はボール60の公転を妨げないように平滑に形成することが重要である。一方で、本実施例では滑走面53の一部に表面粗領域55が形成される。表面粗領域55は周方向に断続的に合計10箇所形成される。凸状部54aの内側には、カバー56のカップ部分56bの底面と当接するカバー取付部58が形成される。カバー取付部58の中央には、貫通穴59が形成される。
【0036】
図5は
図2のスイングロータ30の縦断面図であって、スイングロータ30の停止時の状態である。スイングロータ30が停止しているときにはバケット40には遠心力がかからないため、重力の作用によりバケット40はその開口が上向き(バケット40の中心線B1が鉛直方向)になる。同様に複数のボール60にも遠心力が加わらないため、底面54上に載置された状態になる。
【0037】
図6は
図3のスイングロータ30の縦断面図であって、スイングロータ30が共振回転速度付近に到達した際の状態である。スイングロータ30の加速が開始して共振回転速度付近まで達すると、ボール60が遠心力によって樽状の内壁面52の最大内径位置付近に移動して、その付近で周方向に一列に並んで回転する。また、共振回転速度付近まで達するとバケット40も中心線B1が水平状態なるようにスイングする。
【0038】
図7はバランサ50の内部のボール60に加わる力の状態を説明するための模式図である。スイングロータ30が共振回転速度付近に達すると、ボール60-1、60-2は遠心力によって環状室の外側に集まって、内壁面52に押付けられるような状態となるとともに、ボール60-1、60-2は遠心力によって公転(回転軸線A1を中心とする回転)するような状態になる。この際、周方向に複数箇所の表面粗領域55が形成されていると、慣性力に対して摩擦力が作用するためボール60-1の移動が抑制される。このように円筒ケース51の内壁面に表面粗領域55を設けたことによって、共振回転速度付近でのボール60-1の公転運動を抑制することができ、異常振動の発生を抑制し、遠心機の対インバランス性を向上させることができる。一方、ボール60-2は表面粗領域55上にはないため、公転運動が抑制されない。
図7では円周方向に2つのボール60-1、60-2しか図示していないが、周方向にほぼ連なるように多数のボール60が配置される場合は、そのボール60のうち表面粗領域55上を滑走するボール60-1だけに大きな摩擦力が働くため、その後に隣接するボール60(例えば60-1と60-2の間に存在するような図示しないボール60)の公転を抑えることができるので、結果としてボール60全体の公転を抑制することができる。その後、共振回転速度を越えて遠心分離回転速度に到達した際に、スイングロータ30のアンバランス量がボール60によるアンバランス吸収限界点未満であれば、ボール60は振動振幅が零になるまで互いに接近して千鳥配列状になるためスイングロータ30の振動を小さくすることができる。
【実施例2】
【0039】
以上、本発明の実施例をスイングロータ30に基づいて説明したが、ロータの種類は何れでもよく、いわゆるアングルロータ130においても同様に適用できる。
図8はアングルロータ130の断面斜視図である。ロータボディ131は、アルミ合金やチタン合金材料を用いて機械加工で製作された一体構造(中実型)である。ロータボディ131には図示しない試料容器を装着するための6つの円柱形の保持穴132が設けられる。保持穴132は円筒形の試料容器(図示せず)の外形とほぼ同形の形状である。保持穴132は、試料容器のほぼ全体を覆う程度の大きさとすることにより、遠心分離作業中の試料容器自体の変形を防ぐことができる。ロータボディ131の上側には、遠心分離中に万一試料容器(図示せず)から試料が漏れた場合にロータボディ131からの液漏れを防ぐための液封環状溝133が設けられ、その上部に開口部131aが形成される。開口部131aには図示しないロータカバーが装着可能である。ロータボディ131の中心軸下方には、モータ7の駆動軸8に装着するための駆動軸穴136が形成される。駆動軸穴136は、駆動軸8に対して相対的に回転不能なように固定されることが重要であり、遠心分離機の分野で公知の固定方法を用いて装着できる。
【0040】
ロータボディ31の中央付近は、下方向にくりぬかれたような大きなくりぬき部134が形成される。このくりぬき部134は、ロータボディ131の中心軸上部の重さを軽くすることができ、ロータボディ131のさらなる軽量化を図るために設けられる。本実施例ではこのくりぬき部134を形成する空間を用いてバランサ150を設けた。バランサ150は、ロータボディ131の中央部に形成された円筒室151と、円筒室151の内部に収容される複数のボール160と、円筒室151の開口部151aを閉鎖するカバー156によって構成される。円筒室151の中央には、上方に突出する突出部154が形成され、突出部154の上部軸心には、カバー156を固定するためのネジ穴154aが形成される。カバー156の下側にはネジ穴154aと螺合するネジ部157が形成される。ネジ部157は軸心方向に延び、図示しない雄ねじ部が形成される。
【0041】
図8には図示していないが、バランサ150の内壁面152は樽形形状であり、
図2~
図4で示したような表面粗領域が形成される。表面粗領域の配置する位置や、製造方法は第1の実施例と同様に配置すれば良い。このようにアングルロータ130に本実施例のバランサ150を設けることによって、アングルロータの共振点付近での自励振動(ボールの公転振動)を抑制することができる。また、試料によってアンバランスが生じてもバランサ150によってアングルロータ130の高速回転時の振動を少なくすることができる。尚、
図8の実施例ではバランサ150は、アングルロータ130のロータボディ131に直接円筒室151を形成するようにしたが、第一の実施例と同様に円筒ケース51とカバー56にて形成される別体式のバランサをロータボディ131の内部又は外部に固定するように構成しても良い。
【0042】
次に
図9及び
図10を用いて、表面粗領域55の配置例の変形例を説明する。ここでは円筒ケース51の内壁面52を平面状に展開した展開図であり、全周の1/3(120°分)を示している。尚、内壁面52は樽状であるので完全な平面状にはならないが、樽状とされる湾曲度合いがきわめて小さいので(回転半径R=200mm程度)、完全な円筒面を展開したものと近似して図示している。
【0043】
図9(A)は、第1の実施例の表面粗領域55の配置例である。ここでは、内壁面52は、最低でもボール60の半径rの1.41倍より大きく、好ましくは2倍以上の高さを有するように構成される。下端位置(最下部)から上に高さr(=ボール60の半径)と、上端位置(最上部)から下に高さrまでの範囲は、ボール60が接触可能な滑走面53となる。本発明ではこの領域が平滑面となる。滑走面53の上側の領域52cと、下側の領域52aは滑走面53と同等の平滑度で形成される。これは内壁面52全体を同等の平滑度で形成した後に、特定の領域(表面粗領域55)の表面だけを加工することによって、平滑度を低下させるためである。
【0044】
図9(A)の表面粗領域55の形状は四角形であり、隣接する表面粗領域55の間には滑走面53(第一の表面粗領域)が残存する。従って、ボール60が内壁面52に接触しながら周方向に公転する際には、表面粗領域55と滑走面53に交互に接触することによって公転速度が抑制されることなり、ボール60の公転運動が抑制される。このように、表面粗領域55と滑走面53に交互に接触するようにできるならば、表面粗領域55の形状は四角形だけでなく、その他の形式でも良い。
図9(B)は丸い形状の表面粗領域55Aである。面粗領域55Aの間隔Tは任意であり、狭くしても広くしても良い。但し、表面粗領域55Aは上下方向に見て最大内径位置を跨ぐように配置することが好ましいが、最大内径位置を跨がなくても近接させて配置しても同様の効果が得られる。また、表面粗領域55Aの周方向にみた間隔Tは一定であるが、Tの間隔を全部一定でなく、増減させても良い。
【0045】
図9(C)は正五角形とした表面粗領域55Bである。ここでも上下方向に見て最大内径位置を表面粗領域55Bが跨ぐようにし、かつ、周方向に断続的に配置させることが重要である。このように、表面粗領域55A、55Bを形成することによっても、
図1~
図7に示した第1の実施例と同様の効果が得られる。
【0046】
図10(A)は菱形とした表面粗領域55Cである。表面粗領域55Cも最大内径位置に断続的に配置される。共振回転速度付近においては複数のボール60は最大内径位置と同じ高さに揃うので、最大内径位置を周方向に見た際に、表面粗領域55Cと滑走面53が交互に出現するように構成すれば、表面粗領域55Cの領域の形状が菱形であっても、三角形やその他の形状であっても、同様の効果が得られる。
【0047】
図10(B)は、内壁面52全体の平滑度を可変にしたものである。図中の黒が濃い部分の平滑度が小さく、粗い面であることを示し、白い部分の平滑度が高いことを示している。ここでは内壁面52の下端から最大直径位置に至るまでの平滑度が徐々に粗くなるようにし、内壁面52の上端から最大直径位置に至るまでの平滑度が徐々に粗くなるようにした。このように内壁面52の平滑度を上下方向に可変にしても、共振回転速度でボール60の公転運動を阻害し、共振回転速度以外の回転速度でボール60の公転運動を阻害しなければ共振回転速度付近での異常振動の発生を抑制できる。尚、内壁面52の平滑度を上下方向だけでなく周方向に可変にしても良く、滑走面53における平滑度が同じでなければ本発明の効果が得られるものである。
【0048】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 遠心機 3 ロータ室 4 ボウル 4a 貫通穴
5 軸カバー 6 防護壁 7 モータ 8 駆動軸
9 モータハウジング 10 ダンパーゴム 11 筐体
12 仕切り板 13 フレーム 14 ドア 15 傾斜パネル
16 操作表示部 17 冷凍配管 18 ナット 20 制御部
30 スイングロータ 31 ロータボディ 32 ハブ
32a 切り欠き部 33 貫通穴 34 アーム部
35 分岐アーム部 36 水平リブ 37 揺動軸 40 バケット
40A (特定の)バケット 41 (バケットの)開口部
42 (バケットの)肉厚部 43 サークリップ
50 バランサ 51 円筒ケース 51a 開口部 52 内壁面
53 滑走面 54 底面 54a 凸状部
55、55A~55C 表面粗の領域 56 カバー 56a 円環部
56b カップ部分 56c 底面部 56d 貫通穴
56e インロー部 57 円環部 58 カバー取付部
58a 内周面 59 貫通穴 60 ボール
130 アングルロータ 131 ロータボディ 131a 開口部
132 保持穴 133 液封環状溝 134 くりぬき部
136 駆動軸穴 150 バランサ 151 円筒室
151a 開口部 152 内壁面 154 突出部
154a ネジ穴 156 カバー 157 ネジ部 160 ボール
250、250A バランサ 251 円筒ケース 252 外周側壁面
253 底面 254 内周側壁面 255 隔壁
A1 (スイングロータの)回転軸線 B1(バケットの)中心線