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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】多成分配合点眼剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/737 20060101AFI20240806BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 31/185 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 31/4166 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 31/4174 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 31/4402 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 31/4415 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240806BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240806BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240806BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
A61K31/737
A61K9/08
A61K31/185
A61K31/4166
A61K31/4174
A61K31/4402
A61K31/4415
A61K31/704
A61K47/04
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/18
A61P27/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020089215
(22)【出願日】2020-04-18
(65)【公開番号】P2021172648
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】307020615
【氏名又は名称】キョーリンリメディオ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷川 舞
(72)【発明者】
【氏名】中道 貴士
(72)【発明者】
【氏名】日置 好美
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-144509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-33/44
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナファゾリン又はその塩、アラントイン、グリチルリチン酸又はその塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、タウリン及びコンドロイチン硫酸エステル又はその塩、並びに、0.34~1.0w/v%のホウ酸、0.02w/v%以下のポリソルベート80及び防腐剤を含有し、防腐剤がクロロブタノール及びベンザルコニウム塩化物の2成分からなり、pHが5.0から5.5の範囲にある、多成分配合点眼剤。
【請求項2】
クロロブタノールを0.25w/v%、ベンザルコニウム塩化物を0.01w/v%含有する、請求項に記載の多成分配合点眼剤。
【請求項3】
ナファゾリン又はその塩、アラントイン、グリチルリチン酸又はその塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、タウリン及びコンドロイチン硫酸エステル又はその塩、並びに、0.34~1.0w/v%のホウ酸及び防腐剤を含有し、防腐剤がクロロブタノール、パラオキシ安息香酸エチル及びパラオキシ安息香酸プロピルの3成分からなり、pHが5.0から5.5の範囲にある、多成分配合点眼剤。
【請求項4】
クロロブタノールを0.25w/v%、パラオキシ安息香酸エチルを0.013w/v%、パラオキシ安息香酸プロピル0.007w/v%含有する、請求項に記載の多成分配合点眼剤。
【請求項5】
ナファゾリン又はその塩がナファゾリン塩酸塩であり、グリチルリチン酸又はその塩がグリチルリチン酸二カリウムであり、コンドロイチン硫酸エステル又はその塩がコンドロイチン硫酸エステルナトリウムである、請求項1から4のいずれか1項に記載の多成分配合点眼剤。
【請求項6】
0.001w/v%のナファゾリン塩酸塩、0.3w/v%のアラントイン、0.25w/v%のグリチルリチン酸二カリウム、0.03w/v%のクロルフェニラミンマレイン酸塩、0.1w/v%のピリドキシン塩酸塩、1.0w/v%のタウリン及び0.5w/v%のコンドロイチン硫酸エステルナトリウムを含有する、請求項に記載の多成分配合点眼剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼アレルギー症状に対する緩和効果のある7種類の有効成分が配合された多成分配合点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国のアレルギー性結膜炎の患者は約2000万人と推定されている。アレルギー性結膜炎では目のかゆみ、ゴロゴロとした異物感、涙、目やに及び痛み等、種々の症状を伴い、非常に症状が強い場合には、仕事や学校等の日常生活にも支障を来すことがある。(非特許文献1)
【0003】
そのため、各症状に有効とされる成分が複数配合された点眼剤(以下、多成分配合点眼剤と略す)を使用することは、1つの点眼剤を投与するだけで多様な効果が期待できるため、使用者の利便性とQOLの改善に大きく貢献する。しかし、多成分配合点眼剤では、有効成分同士あるいは有効成分と添加物との配合による相互作用により、点眼剤の変色、沈殿・析出、有効成分の分解等、様々な問題が生ずるおそれがある。
【0004】
例えば、有効成分として角膜の保護作用を有するコンドロイチン硫酸塩類や抗炎症作用を有するグリチルリチン酸塩類を配合した点眼剤では、pHが酸性になると、コンドロイチン硫酸塩類及びグリチルリチン酸塩類由来の沈殿物が生ずることが知られている(特許文献1)。
【0005】
また、有効成分として抗炎症作用や細胞賦活作用を有するアラントインはpH6以上で加水分解を起こすことが報告されている(非特許文献2、3)。そのため、アラントインを含有する点眼剤ではpHを酸性にする必要があるが、同時にコンドロイチン硫酸塩類やグリチルリチン酸塩類を配合すると沈殿物が生ずるおそれがある。従って、アラントインとコンドロイチン硫酸塩類及びグリチルリチン酸塩類が配合された点眼剤を開発するには特別な工夫が必要になる。
【0006】
また、ピリドキシン塩酸塩は眼組織の代謝を賦活化し、眼の疲れを改善する作用を有するが、光に不安定であることから、安定化を目的として、オキシメタゾリン又はその塩とホウ酸を添加した技術(特許文献2)や特定の抗酸化剤を配合した技術(特許文献3)及び塩化ベルベリンを配合した技術(特許文献4)等が開示されている。
【0007】
さらに、添加物としてクロロブタノールを配合した点眼剤は、熱や光によりクロロブタノールが経時的に分解することでpHが低下し、配合成分の不安定化や沈殿・析出等の問題が生ずることが報告されている(特許文献5)。
【0008】
このように、多成分配合点眼剤を開発するには、各々の有効成分の効果や品質に変化が生じないようにすることが重要な課題となる。この課題の克服には様々な技術が必要となるが、点眼剤に配合する有効成分と添加物の種類が多ければ多いほど、各成分同士の物理的及び化学的な相互作用も複雑化するため、その開発は極めて困難となる。
【0009】
OTC(一般用)医薬品の市場では、眼アレルギーの種々の症状を緩和する目的で、複数の有効成分を配合した多成分配合点眼剤が種々市販されているが、これらの多成分配合点眼剤に配合された有効成分の組み合わせにおいて、ナファゾリン又はその塩、アラントイン、グリチルリチン酸又はその塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、タウリン及びコンドロイチン硫酸エステル又はその塩の7成分を含有する多成分配合点眼剤は存在しない。そのため、これら7成分を含有する多成分配合点眼剤はOTC点眼剤の新たな選択肢として有用と考えられるが、その保存中における各成分の分解、変色及び析出等の品質変化の発生を抑制する技術の開発が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2005-330271号公報
【文献】特開2006-151969号公報
【文献】特開平8-104636号公報
【文献】特開2001-48780号公報
【文献】特開2011-105706号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】公益財団法人日本眼科学会.一般のみなさまへ.目の病気.アレルギー性結膜疾患.2019年1月22日 http://www.nichigan.or.jp/public/disease/ketsumaku_allergy.jsp
【文献】山本信也、他4名、薬学雑誌、1993年、113巻、7号、515-524頁
【文献】平成16年度愛媛衛環研年報7、2004年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、有効成分としてナファゾリン又はその塩、アラントイン、グリチルリチン酸又はその塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、タウリン及びコンドロイチン硫酸エステル又はその塩の7成分を含有する多成分配合点眼剤において、保存中における変色、沈殿・析出及び各有効成分の分解等が抑制された、品質が良好な多成分配合点眼剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、眼アレルギーの諸症状の緩和効果のあるナファゾリン又はその塩、アラントイン、グリチルリチン酸又はその塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、タウリン及びコンドロイチン硫酸エステル又はその塩の7種類の有効成分に対して添加物のホウ酸を特定の範囲で加え、点眼剤のpHを特定の範囲に調整し、更には防腐剤としてパラオキシ安息香酸エチル及びパラオキシ安息香酸プロピルを用いる場合は特定の量を加え、あるいは防腐剤としてベンザルコニウム塩化物を用いる場合はポリソルベート80を特定の量で加えることで、点眼剤の沈殿・析出及び配合成分の分解等の変化が顕著に抑制された安定な点眼剤が得られることを見出した。また、これらの点眼剤は保存効力試験にも適合した。
【0014】
本発明は、以下の発明を含む。
(1)有効成分として、ナファゾリン又はその塩、アラントイン、グリチルリチン酸又はその塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、タウリン及びコンドロイチン硫酸エステル又はその塩を含有する多成分配合点眼剤。
(2)ナファゾリン又はその塩がナファゾリン塩酸塩であり、グリチルリチン酸又はその塩がグリチルリチン酸二カリウムであり、コンドロイチン硫酸エステル又はその塩がコンドロイチン硫酸エステルナトリウムである、(1)に記載の多成分配合点眼剤。
(3)0.001w/v%のナファゾリン塩酸塩、0.3w/v%のアラントイン、0.25w/v%のグリチルリチン酸二カリウム、0.03w/v%のクロルフェニラミンマレイン酸塩、0.1w/v%のピリドキシン塩酸塩、1.0w/v%のタウリン及び0.5w/v%のコンドロイチン硫酸エステルナトリウムを含有する、(1)又は(2)に記載の多成分配合点眼剤。
(4)さらに安定化剤としてホウ酸を含有する、(1)から(3)のいずれか1つに記載の多成分配合点眼剤。
(5)ホウ酸を0.25から1.0w/v%含有する、(4)に記載の多成分配合点眼剤。
(6)さらに防腐剤を含有する、(1)から(5)のいずれか1つに記載の多成分配合点眼剤。
(7)前記防腐剤が、クロロブタノール、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル及びベンザルコニウム塩化物からなる群から選択される2成分以上である、(6)に記載の多成分配合点眼剤。
(8)前記防腐剤が、クロロブタノール、パラオキシ安息香酸エチル及びパラオキシ安息香酸プロピルの3成分からなる、(6)又は(7)に記載の多成分配合点眼剤。
(9)クロロブタノールを0.25w/v%、パラオキシ安息香酸エチルを0.013w/v%、パラオキシ安息香酸プロピルを0.007w/v%含有する、(8)に記載の多成分配合点眼剤。
(10)前記防腐剤がクロロブタノール及びベンザルコニウム塩化物の2成分からなる、(6)又は(7)に記載の多成分配合点眼剤。
(11)クロロブタノールを0.25w/v%、ベンザルコニウム塩化物を0.01%含有する、(10)に記載の多成分配合点眼剤。
(12)さらに溶解補助剤としてポリソルベート80を含有する、(10)又は(11)に記載の多成分配合点眼剤。
(13)ポリソルベート80を0.02w/v%以下含有する、(12)に記載の多成分配合点眼剤。
(14)pHが5.0から5.5の範囲にある、(1)から(13)のいずれか1つに記載の多成分配合点眼剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、ナファゾリン塩酸塩、アラントイン、グリチルリチン酸二カリウム、クロルフェニラミンマレイン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、タウリン及びコンドロイチン硫酸エステルナトリウムの7成分を含有する多成分配合点眼剤の保存中における各成分の分解、変色及び析出等の品質変化が抑制された、品質の良好な点眼剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「点眼剤中の配合成分が安定化される」とは、例えば、点眼剤を40℃で6箇月間保存した後の該点眼剤中の配合成分の残存率が90%以上であることをいい、特に好ましくは当該残存率が95%以上であることをいう。
【0017】
本明細書において、「点眼剤中の沈殿・析出物の発生や変色が防止される」とは、例えば、40℃で6箇月間又は50℃で2箇月間保存した後の点眼剤を第十七改正日本薬局方の点眼剤の不溶性異物検査法に従い観察したときに、澄明で、たやすく検出される不溶性異物を認めないことをいう。
【0018】
本明細書において、「点眼剤が保存効力試験に適合する」とは、点眼剤が第十七改正日本薬局方の保存効力試験法において、保存効力があると判定されることをいう。
【0019】
本発明において、多成分配合点眼剤には、7種類の有効成分が配合されており、それらはナファゾリン又はその塩、アラントイン、グリチルリチン酸又はその塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩、ピリドキシン塩酸塩、タウリン及びコンドロイチン硫酸エステル又はその塩である。
【0020】
本発明において、ナファゾリン又はその塩とは、ナファゾリン、ナファゾリン塩酸塩及びナファゾリン硝酸塩を表し、血管収縮作用を有する有効成分であり、本発明では目の充血を抑える目的で用いる。この中でもナファゾリン塩酸塩が特に好ましく、その配合量は0.001w/v%が好ましい。
【0021】
本発明において、アラントインは結膜の炎症やアレルギー症状を抑える作用を有し、その配合量は0.3w/v%が好ましい。
【0022】
本発明において、グリチルリチン酸又はその塩とは、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸二カリウム及びグリチルリチン酸モノアンモニウムを表し、炎症やアレルギー症状を抑える作用を有する。本発明ではグリチルリチン酸二カリウムが好ましく、その配合量は0.25w/v%が好ましい。
【0023】
本発明において、クロルフェニラミンマレイン酸塩は抗アレルギー作用と充血除去作用を有し、その配合量は0.03w/v%が好ましい。
【0024】
本発明において、ピリドキシン塩酸塩は眼組織の代謝を賦活化し、眼の疲れを改善する作用を有し、その配合量は0.1w/v%が好ましい。
【0025】
本発明において、タウリンとはアミノエチルスルホン酸を表し、眼組織の代謝を高め眼組織の修復を促す作用を有し、その配合量は1.0w/v%が好ましい。
【0026】
本発明において、コンドロイチン硫酸エステル又はその塩とは、コンドロイチン硫酸エステル及びコンドロイチン硫酸エステルナトリウムを表し、角膜損傷の修復作用及び水分保持機能により涙を角膜上に留めて角膜を外界の刺激から保護する作用を有する。本発明ではコンドロイチン硫酸エステルナトリウムが好ましく、その配合量は0.5w/v%が好ましい。
【0027】
本発明の点眼剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、点眼剤に通常用いられる添加物を含有することができる。添加物は、1種又は2種以上を任意の割合で併用して含有しても良い。添加物としては、増粘剤、糖類、抗酸化剤、防腐剤、溶解補助剤、pH調節剤、等張化剤、清涼化剤、緩衝剤、安定化剤等が挙げられる。
【0028】
「増粘剤」としては、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。
【0029】
「糖類」としては、グルコース、シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。
【0030】
「抗酸化剤」としては、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ヒドロキノン、没食子酸プロピル、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0031】
「防腐剤」としては、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、ベンザルコニウム塩化物、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール等が挙げられる。本発明の点眼剤においては、有効な保存効力を達成するため及び保存安定性の向上を目的として、クロロブタノール、パラオキシ安息香酸エチル及びパラオキシ安息香酸プロピルの3成分を併用するか、又はクロロブタノール及びベンザルコニウム塩化物の2成分を併用することが好ましい。クロロブタノール、パラオキシ安息香酸エチル及びパラオキシ安息香酸プロピルの3成分を併用する場合、それらの含有量はそれぞれ0.25w/v%、0.013w/v%及び0.007w/v%が好ましく、クロロブタノール及びベンザルコニウム塩化物の2成分を併用する場合、それらの含有量はそれぞれ0.25w/v%及び0.01%が好ましい。
【0032】
「溶解補助剤」としては、ポリソルベート類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポロキサミン、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体類、アルキルジアミノエチルグリシン、アルキル4級アンモニウム塩、ポリエチレングリコール、イプシロンアミノカプロン酸及びプロピレングリコール等が挙げられる。本発明の点眼剤においては、ポリソルベート80を用いることが好ましい。ポリソルベート80の含有量は、0.02w/v%以下が好適である。
【0033】
「pH調節剤」としては、塩酸、リン酸、酢酸、酒石酸、ホウ酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム(リン酸水素ナトリウム)、リン酸二水素ナトリウム水和物、リン酸二水素カリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン等が挙げられる。本発明の点眼剤における「pH調節剤」の種類は特に限定されないが、有効成分の保存安定性を良好に保つためには、点眼剤のpHを5.0から5.5の範囲に調整することが好ましい。
【0034】
「等張化剤」としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム(リン酸水素ナトリウム)、リン酸二水素ナトリウム水和物、リン酸二水素カリウム、ホウ酸、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0035】
「清涼化剤」としては、d-カンフル、dl-カンフル、ゲラニオール、d-ボルネオール、l-メントール、リュウノウ、ウイキョウ油、ハッカ水、ハッカ油、ベルガモット油、ユーカリ油等が挙げられる。本発明においてはハッカ油及びl-メントールが好ましい。
【0036】
「緩衝剤」としては、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、酒石酸塩緩衝剤、アミノ酸等が挙げられる。
【0037】
「安定化剤」としては、イプシロンアミノカプロン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸等が挙げられる。本発明の点眼剤においては、ホウ酸を用いることが好ましい。ホウ酸の含有量は、0.25~1.0w/v%が好ましく、0.35~0.7w/v%が特に好ましい。
【0038】
本発明の点眼剤は、例えば、1回1~3滴、1日2~6回の範囲で点眼することができるが、これに限られず、任意の用法・用量で使用することができる。
【0039】
本発明の点眼剤の効能・効果としては、例えば、目の充血、目のかゆみ、目やにによる目のかすみ、なみだ目、ゴロゴロとした異物感等が挙げられる。
【0040】
本発明の点眼剤は、点眼剤の製造方法として公知の方法により製造できる。例えば、蒸留水又は精製水に、有効成分と添加物とを溶解させ、所定の浸透圧及びpHに調整し、容器に充填することにより製造できる。場合によっては滅菌処理工程を製造工程中に入れることもできる。
【0041】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【実施例
【実施例1】
【0042】
ナファゾリン塩酸塩1mg、アラントイン300mg、グリチルリチン酸二カリウム250mg、クロルフェニラミンマレイン酸塩30mg、ピリドキシン塩酸塩100mg、タウリン1000mg、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム500mg、イプシロンアミノカプロン酸500mg、ホウ酸340mg、リン酸水素ナトリウム水和物610mg、エデト酸ナトリウム水和物10mg、ハッカ油3mg、l-メントール40mg、クロロブタノール250mg、パラオキシ安息香酸エチル13mg及びパラオキシ安息香酸プロピル7mgを精製水に溶解し、全量を100mLとして調製した。
【実施例2】
【0043】
ナファゾリン塩酸塩1mg、アラントイン300mg、グリチルリチン酸二カリウム250mg、クロルフェニラミンマレイン酸塩30mg、ピリドキシン塩酸塩100mg、タウリン1000mg、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム500mg、イプシロンアミノカプロン酸500mg、ホウ酸550mg、リン酸水素ナトリウム水和物90mg、エデト酸ナトリウム水和物10mg、ハッカ油3mg、l-メントール40mg、クロロブタノール250mg、パラオキシ安息香酸エチル13mg、パラオキシ安息香酸プロピル7mg及びプロピレングリコール500mgを精製水に溶解し、全量を100mLとして調製した。
【実施例3】
【0044】
ナファゾリン塩酸塩1mg、アラントイン300mg、グリチルリチン酸二カリウム250mg、クロルフェニラミンマレイン酸塩30mg、ピリドキシン塩酸塩100mg、タウリン1000mg、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム500mg、イプシロンアミノカプロン酸500mg、ホウ酸700mg、エデト酸ナトリウム水和物10mg、ハッカ油3mg、l-メントール40mg、クロロブタノール250mg及びベンザルコニウム塩化物10mgを精製水に溶解し、全量を100mLとして調製した。
【実施例4】
【0045】
ナファゾリン塩酸塩10mg、アラントイン3000mg、グリチルリチン酸二カリウム2500mg、クロルフェニラミンマレイン酸塩300mg、ピリドキシン塩酸塩1000mg、タウリン10000mg、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム5000mg、イプシロンアミノカプロン酸2000mg、ホウ酸7000mg、リン酸水素ナトリウム水和物1500mg、エデト酸ナトリウム水和物100mg、ハッカ油30mg、l-メントール400mg、クロロブタノール2500mg、ベンザルコニウム塩化物100mg及びポリソルベート80 200mgを精製水に溶解し、全量を1000mLとして調製した。
【実施例5】
【0046】
ナファゾリン塩酸塩10mg、アラントイン3000mg、グリチルリチン酸二カリウム2500mg、クロルフェニラミンマレイン酸塩300mg、ピリドキシン塩酸塩1000mg、タウリン10000mg、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム5000mg、イプシロンアミノカプロン酸2000mg、ホウ酸7000mg、リン酸水素ナトリウム水和物1600mg、エデト酸ナトリウム水和物100mg、ハッカ油30mg、l-メントール400mg、クロロブタノール2500mg、パラオキシ安息香酸エチル130mg、パラオキシ安息香酸プロピル70mg及びプロピレングリコール5000mgを精製水に溶解し、全量を1000mLとして調製した。
【実施例6】
【0047】
実施例5と同じ成分、分量及び調製法により、その1.5倍量で調製した。
【実施例7】
【0048】
実施例4と同じ成分、分量及び調製法により、その1.5倍量で調製した。
【0049】
(比較例1)
ナファゾリン塩酸塩1mg、アラントイン300mg、グリチルリチン酸二カリウム250mg、クロルフェニラミンマレイン酸塩30mg、ピリドキシン塩酸塩100mg、タウリン1000mg、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム500mg、イプシロンアミノカプロン酸500mg、リン酸水素ナトリウム水和物600mg、エデト酸ナトリウム水和物10mg、ハッカ油3mg、l-メントール40mg、クロロブタノール250mg、パラオキシ安息香酸エチル13mg、パラオキシ安息香酸プロピル7mg及びプロピレングリコール500mgを精製水に溶解し、全量を100mLとして調製した。
【0050】
(比較例2)
ナファゾリン塩酸塩1mg、アラントイン300mg、グリチルリチン酸二カリウム250mg、クロルフェニラミンマレイン酸塩30mg、ピリドキシン塩酸塩100mg、タウリン1000mg、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム500mg、イプシロンアミノカプロン酸500mg、ホウ酸60mg、リン酸水素ナトリウム水和物230mg、エデト酸ナトリウム水和物10mg、ハッカ油3mg、l-メントール40mg、クロロブタノール250mg、パラオキシ安息香酸エチル13mg、パラオキシ安息香酸プロピル7mg及びプロピレングリコール500mgを精製水に溶解し、全量を100mLとして調製した。
【0051】
(比較例3)
ナファゾリン塩酸塩1mg、アラントイン300mg、グリチルリチン酸二カリウム250mg、クロルフェニラミンマレイン酸塩30mg、ピリドキシン塩酸塩100mg、タウリン1000mg、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム500mg、イプシロンアミノカプロン酸500mg、ホウ酸690mg、リン酸水素ナトリウム水和物50mg、エデト酸ナトリウム水和物10mg、ハッカ油3mg、l-メントール40mg、クロロブタノール250mg、ベンザルコニウム塩化物10mg及びポリソルベート80 80mgを精製水に溶解し、全量を100mLとして調製した。
【0052】
(比較例4)
ナファゾリン塩酸塩10mg、アラントイン3000mg、グリチルリチン酸二カリウム2500mg、クロルフェニラミンマレイン酸塩300mg、ピリドキシン塩酸塩1000mg、タウリン10000mg、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム5000mg、イプシロンアミノカプロン酸2000mg、ホウ酸7000mg、リン酸水素ナトリウム水和物6200mg、エデト酸ナトリウム水和物100mg、ハッカ油30mg、l-メントール400mg、クロロブタノール2500mg、パラオキシ安息香酸エチル130mg、パラオキシ安息香酸プロピル70mg及びプロピレングリコール5000mgを精製水に溶解し、全量を1000mLとして調製した。
【0053】
(比較例5)
ナファゾリン塩酸塩10mg、アラントイン3000mg、グリチルリチン酸二カリウム2500mg、クロルフェニラミンマレイン酸塩300mg、ピリドキシン塩酸塩1000mg、タウリン10000mg、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム5000mg、イプシロンアミノカプロン酸2000mg、ホウ酸7000mg、リン酸水素ナトリウム水和物3000mg、エデト酸ナトリウム水和物100mg、ハッカ油30mg、l-メントール400mg、クロロブタノール2500mg、ベンザルコニウム塩化物100mg及びポリソルベート80 200mgを精製水に溶解し、全量を1000mLとして調製した。
【0054】
(比較例6)
ナファゾリン塩酸塩10mg、アラントイン3000mg、グリチルリチン酸二カリウム2500mg、クロルフェニラミンマレイン酸塩300mg、ピリドキシン塩酸塩1000mg、タウリン10000mg、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム5000mg、イプシロンアミノカプロン酸2000mg、ホウ酸7000mg、リン酸水素ナトリウム水和物6200mg、エデト酸ナトリウム水和物100mg、ハッカ油30mg、l-メントール400mg、クロロブタノール2500mg、ベンザルコニウム塩化物100mg及びポリソルベート80 200mgを精製水に溶解し、全量を1000mLとして調製した。
【0055】
以下に実施例と比較例の処方内容を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
[試験例1]多成分配合点眼剤の安定性に対するホウ酸の影響
7種類の有効成分を含有する多成分配合点眼剤について、安定化剤であるホウ酸の添加量、pH及び浸透圧を変えて調製した実施例1、実施例2、実施例5、比較例1、比較例2及び比較例4の多成分配合点眼剤を各々50℃で2箇月間保存し、薬液の性状変化を各々評価した、その結果を以下に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
多成分配合点眼剤にホウ酸を添加しなかった比較例1及びホウ酸を0.06w/v%添加した比較例2は、各々50℃で2箇月間保存することにより薬液が褐色に変化した。一方、ホウ酸を0.34w/v%添加した実施例1、0.55w/v%添加した実施例2、並びに、0.7w/v%を各々添加した実施例5及び比較例4は、50℃で2箇月間保存しても性状の変化が無く、その効果は点眼剤を調製した時のpHや浸透圧の違いに影響されなかった。このことから、安定化剤であるホウ酸を0.34w/v%以上添加した場合は、薬液の性状変化を抑制することができることが判明した。
【0061】
[試験例2]クロロブタノールとベンザルコニウム塩化物を含有する多成分配合点眼剤の安定性に対するポリソルベート80(溶解補助剤)の添加量の影響
7種類の有効成分を含有する多成分配合点眼剤について、防腐剤としてクロロブタノールを0.25w/v%及びベンザルコニウム塩化物を0.01w/v%添加し、さらに、溶解補助剤であるポリソルベート80を添加しなかった実施例3、ポリソルベ-ト80を0.02w/v%添加した実施例4、ポリソルベ-ト80を0.08w/v%添加した比較例3の多成分配合点眼剤を50℃で2箇月間保存し、薬液の性状変化を評価した、その結果を以下に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
クロロブタノールとベンザルコニウム塩化物を防腐剤として用いた多成分配合点眼剤は、溶解補助剤として用いたポリソルベート80の添加量の違いにより50℃2箇月間保存後の安定性に差が認められた。ポリソルベート80を0.08w/v%添加した比較例3は白濁が生じたが、ポリソルベート80を0.02w/v%添加した実施例4及びポリソルベート80を添加しなかった実施例3では変化を認めなかった。このことから、多成分配合点眼剤に防腐剤としてクロロブタノールとベンザルコニウム塩化物を添加した場合、溶解補助剤であるポリソルベート80の添加量を0.02w/v%以下とすれば、薬液の性状変化を抑制できることが判明した。
【0064】
[試験例3]多成分配合点眼剤の安定性に対する防腐剤とpHの影響
7種類の有効成分を含有する多成分配合点眼剤について、防腐剤としてクロロブタノール、並びに、パラオキシ安息香酸エチル及びパラオキシ安息香酸プロピル又はベンザルコニウム塩化物を用いて調製した実施例4、実施例5、比較例4、比較例5及び比較例6の多成分配合点眼剤を各々40℃及び50℃で保存し、pH、浸透圧及び有効成分の含量の変化を各々評価した。その結果を以下に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
7種類の有効成分を配合した多成分配合点眼剤のpHを5.9以上に調整した比較例4、比較例5及び比較例6を各々40℃で6箇月間保存した結果、アラントインの含量が低下した。更に、多成分点眼剤のpHを6.5以上に調整した比較例4及び比較例6では、40℃6箇月間保存することにより、アラントインの著しい含量低下に加えて、ナファゾリン塩酸塩の含量も低下し、pHも約1低下することが確認された。一方、多成分配合点眼剤のpHを約5.4に調節した実施例4及び実施例5では、40℃で6箇月間保存しても有効成分の含量低下やpHと浸透圧の変化もほとんど無く安定であった。
【0067】
[試験例4]多成分配合点眼剤の保存効力試験
実施例6及び実施例7の多成分配合点眼剤について、第十七改正日本薬局方の保存効力試験法に基づいて試験を実施した。
【0068】
【表6】
【0069】
表6に示すように、本発明に係る実施例6及び実施例7の多成分配合点眼剤の保存効力が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により、保存安定性に優れた、7種類の有効成分が配合された多成分配合点眼剤が提供できるため、1回の投与で眼アレルギーの諸症状の緩和が可能となり、使用者の利便性とQOLの向上に貢献できる。