(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】関心健康領域の健康度と予防的介入行動のそれぞれとの関連性を評価する方法、装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 20/00 20180101AFI20240806BHJP
G06Q 50/22 20240101ALI20240806BHJP
G16H 10/00 20180101ALI20240806BHJP
【FI】
G16H20/00
G06Q50/22
G16H10/00
(21)【出願番号】P 2020112807
(22)【出願日】2020-06-30
(62)【分割の表示】P 2020508057の分割
【原出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2018193374
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】住友ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】吉水 稔
(72)【発明者】
【氏名】的野 光洋
【審査官】今井 悠太
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-218966(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008288(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
G06Q 50/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳活動に由来する情報、自律神経に由来する情報、声に由来する情報から選ばれる一つ以上の生体情報に基づき個人の認知機能に関する健康度の変化を評価するコンピュータの動作方法であって、
前記生体情報を経時的に取得する生体情報取得ステップと、
取得した前記生体情報に基づいて、前記認知機能に関する健康度の評価を経時的に行う生体情報評価ステップと、を具備し、
前記健康度は、認知機能に関する所定の疾患発生のリスクが高くなる所定の閾値を有しており、
前記健康度の経時的な変化に基づいて前記健康度が前記所定の閾値に到達するまでの期間を予測する疾患予測ステップ、をさらに具備する方法。
【請求項2】
前記脳活動に由来する情報は、脳波、脳血流量、脳磁図から選ばれる一つ以上の情報であり、前記声に由来する情報は、会話内容、ろれつ、抑揚から選ばれる一つ以上の情報である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生体情報は、脳波計、NIRS脳計測装置、脳磁図、血圧計、心拍計、音声分析装置のいずれかから取得される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記脳活動に由来する情報は脳波であり、前記脳波は、特定の刺激を前記個人に提供した状態で取得される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記刺激は、覚醒安静時における無刺激、睡眠時における無刺激、音、音楽、画像イメージ、写真イメージ、映像、アンケート、クイズ、ゲーム、又は脳力トレーニングのいずれかである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記脳波は、特定の2種類の刺激を前記個人に提供した状態でそれぞれ2種類が取得されるものであり、
前記認知機能に関する前記個人の前記健康度は、取得された前記2種類の前記脳波の特定の周波数成分の強度の全体の強度に対する割合の差に基づいて決定されるものである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記2種類の刺激は、それぞれ、音楽と写真イメージであり、
前記脳波の特定の周波数成分は、α2波に対応するものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
一つ以上の予防的介入行動のそれぞれの介入量を経時的に取得する介入量取得ステップと、
前記予防的介入行動のそれぞれの経時的な前記介入量と前記個人の経時的な前記認知機能との相関度及び影響度を求める関連性決定ステップと、
前記一つ以上の予防的介入行動の内で前記相関度が所定の値以上であるものを関連予防的介入行動として決定する相関度評価ステップと、をさらに具備する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記関連予防的介入行動のそれぞれの前記影響度及び前記介入量に基づき、前記関連予防的介入行動の最適介入量を決定する介入量最適化ステップ、をさらに具備する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記介入量は、所定の認知トレーニングの実行量、睡眠時間、所定の音、音楽による聴覚刺激量、所定の画像、映像による視覚刺激量、脳への電気刺激、磁気刺激の刺激量から選ばれる一つ以上である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記健康度が前記所定の閾値に到達するまでの期間を予測する前記疾患予測ステップは、前記健康度の低下の割合に基づいて前記健康度が前記所定の閾値に到達するまでの期間を求める、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記健康度の単位量を増加させるため
の予防的介入行動の介入量の増加量を介入量の増加に対する健康度の増大量の関係に基づいて計算して表示するステップ、をさらに具備する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
介入量がある値だけ増加させられた場合の健康度が閾値に到達するまでの期間、又は、閾値に到達する時期を介入量の増加に対する健康度の増大量の関係に基づいて予測し、ユーザに対してそれを表示するステップ、をさらに具備する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記最適介入量は、前記介入量の増加に対する前記健康度の増大量が所定の下限値以下になるときの前記介入量として決定される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記相関度及び前記影響度は、統計的手法によって求められる、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記介入量は、前記個人の所定の活動の活動量である、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
脳活動に由来する情報、自律神経に由来する情報、声に由来する情報から選ばれる一つ以上の生体情報に基づき個人の認知機能に関する健康度の変化を評価する装置であって、
前記生体情報を経時的に取得する生体情報取得部と、
取得した前記生体情報に基づいて、前記認知機能に関する健康度の評価を経時的に行う生体情報評価部と、を具備し、
前記健康度は、認知機能に関する所定の疾患発生のリスクが高くなる所定の閾値を有しており、
前記健康度の経時的な変化に基づいて前記健康度が前記閾値に到達するまでの期間を予測する疾患予測部、をさらに具備する装置。
【請求項18】
コンピュータに実行されたときに、脳活動に由来する情報、自律神経に由来する情報、声に由来する情報から選ばれる一つ以上の生体情報に基づき個人の認知機能に関する健康度の変化を評価する装置を前記コンピュータに構成させるコンピュータプログラムであって、前記装置は、
前記生体情報を経時的に取得する生体情報取得部と、
取得した前記生体情報に基づいて、前記認知機能に関する健康度の評価を経時的に行う生体情報評価部と、を具備し、
前記健康度は、認知機能に関する所定の疾患発生のリスクが高くなる所定の閾値を有しており、
前記健康度の経時的な変化に基づいて前記健康度が前記閾値に到達するまでの期間を予測する疾患予測部、をさらに具備するものであるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関心健康領域の健康度と予防的介入行動のそれぞれとの関連性を評価する方法に関し、より詳しくは、経時的に取得した生体情報に基づいて関心健康領域の健康度と予防的介入行動のそれぞれとの相関度及び影響度を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体から取得した生体情報に基づいて、個人の健康度に関する評価を行うことが行われるようになってきた。このような技術を使用すると、家庭内において個人が自分の健康度の評価や、その健康度の推移を知ることができる。従来において、例えば、センサによって取得されるユーザに関するユーザ情報を受信する受信部と、受信部によって受信されたユーザ情報に基づいて、ユーザの健康状態を推定する推定部と、推定部によって推定された健康状態に基づいて、ユーザに保険を提案する推定部を有する提案装置に関する技術が存在する(特許文献1)。その技術においては、端末装置は起床時刻や、就寝時刻、体重や、体脂肪率、喫煙状況や、血圧、心拍数などを測定してユーザ情報として提案装置に送信し、提案装置は受信したユーザ情報を蓄積し、ユーザ情報に基づいてユーザが健康において抱えるリスクを示す指標である健康リスクスコアを算出する。そして、推定された健康状態に基づいて、ユーザに保険を提案する。この技術によれば、自身で測定した情報から得られた健康リスクの情報に基づいて保険を提案させることができる。しかしこの技術は、ユーザに健康リスクを減少させるために、どのような行動をとるべきかを提案するものではない。
【0003】
一方、個人は、自身が健康について特に関心を持っている関心健康領域を持っていることが多い。また個人は、自身の健康の程度(健康度)の維持・向上のために、健康に対して好ましい効果のある行動に興味を持つことが普通である。これ以降、ある関心健康領域における健康度を維持・向上させることを目的とする行動を予防的介入行動と呼ぶことにする。予防的介入行動には、各種のものが考えられるが、そのどれが、その個人の関心健康領域における健康度の維持・向上のために効果があるのかは、個人の体質や生活習慣の違いなどにより、個人ごとによって異なるのが通常と考えられる。また、予防的介入行動の量を介入量と呼ぶことにしたとき、個人が適切な介入量を知ることは、その個人が効果的な予防的介入行動を行う上で重要と考えられる。そして、ある介入量の予防的介入行動が関心健康領域の健康度の向上にどの程度の効果があるのかも、同じく、個人ごとによって異なるのが通常と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、個人の関心健康領域における健康度を増加させる効果を有する予防的介入行動の種類は、その個人の健康度の維持・向上のために重要な情報であるが、簡単にそれを求めることはできなかった。そのような情報を求めるためには、関心健康領域における個人の健康度を経時的にモニタリングする必要があると考えられるが、健康度を個人が簡単かつ客観的に求めることは困難であった。そのためには、生体情報を使用した健康度の測定を、病院などの施設に行かずに家庭内で行うことができるようにする必要がある。
【0006】
また、その個人に対する予防的介入行動の適切な介入量も重要な情報となり得るが、それを求めることを課題としてとらえ、個人ごとに適切な介入量を決定するような技術は存在していなかった。ここで、個人に対する予防的介入行動の適切な介入量を求めるためには、その個人が行っている予防的介入行動の介入量の経時的な情報も必要である。すなわち、そのような情報がなければ、その予防的介入行動がどの程度健康度の向上に寄与しているのかを求めることができないからである。従って、個人が普段行っている予防的介入行動の活動量もモニタリングする必要がある。このように、個人が家庭内で簡便に生体情報をモニタリングし、それに基づき健康度の推移を調べ、かつ、自身が行っている各種の予防的介入行動の介入量をモニタリングして、その予防的介入行動がどの程度の好影響を健康度に与えているかを調べることができると、個人の関心健康領域における健康度の維持・向上のための適切な予防的介入行動やその最適な量を知ることに非常に役に立つと考えられる。しかし、そのような技術は存在しておらず、適切な予防的介入行動やその量を個人が自身で知ることはできなかった。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、経時的に取得した生体情報に基づいて関心健康領域の健康度と予防的介入行動のそれぞれとの相関度及び影響度を評価する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方法は、個人の関心健康領域の健康度への関連が認められる一つ以上の生体情報に基づき、前記健康度と前記個人の健康度の維持又は向上に寄与する可能性がある一つ以上の予防的介入行動のそれぞれとの関連性を評価するものであって、前記個人の前記生体情報を経時的に取得し、前記取得した生体情報に基づいて、前記個人の健康度の評価を経時的に行い、前記一つ以上の予防的介入行動のそれぞれの介入量を経時的に取得し、前記予防的介入行動のそれぞれの経時的な前記介入量と前記個人の経時的な前記健康度との相関度及び影響度を求め、前記一つ以上の予防的介入行動の内で前記相関度が所定の値以上であるものを関連予防的介入行動として決定する、ことを特徴とする。
【0009】
本発明においては、前記関連予防的介入行動のそれぞれの前記影響度及び前記介入量に基づき、前記関連予防的介入行動の最適介入量を決定する、ように構成できる。本発明においては、前記最適介入量は、前記介入量の増加に対する前記健康度の増大量が所定の下限値以下になるときの前記介入量として決定される、ように構成できる。本発明においては、前記健康度は、所定の疾患発生のリスクが高くなる所定の閾値を有しており、前記健康度の経時的な変化に基づいて前記健康度が前記閾値に到達するまでの期間を予測する、ように構成できる。本発明においては、前記相関度及び前記影響度は、統計的手法によって求められる、ように構成できる。本発明においては、前記介入量は、前記個人の所定の活動の活動量である、ように構成できる。本発明においては、前記個人の前記生体情報は、脳波を含み、前記個人の健康度は、認知機能に関するものである、ように構成できる。本発明においては、前記脳波は、特定の刺激を前記個人に提供した状態で取得されるものである、ように構成できる。本発明においては、前記脳波は、特定の2種類の刺激を前記個人に提供した状態でそれぞれ2種類が取得されるものであり、前記認知機能に関する前記個人の前記健康度は、取得された前記2種類の前記脳波の特定の周波数成分の強度の全体の強度に対する割合の差に基づいて決定されるものである、ように構成できる。本発明においては、前記2種類の刺激は、それぞれ、音楽と写真イメージであり、前記脳波の特定の周波数成分は、α2波に対応するものである、ように構成できる。本発明においては、前記刺激は、覚醒安静時における無刺激、睡眠時における無刺激、音、音楽、画像イメージ、写真イメージ、映像、アンケート、クイズ、ゲーム、又は脳力トレーニングのいずれかである、ように構成できる。本発明においては、前記個人の前記生体情報は、ウェアラブル端末によって取得される、ように構成できる。
【0010】
本発明においては、前記介入量は、歩行量、所定の運動の運動量、所定の認知トレーニングの実行量、睡眠時間、アルコール摂取量、喫煙本数、栄養の取得量、薬物・サプリメント・健康食品の取得量、所定の音、音楽による聴覚刺激量、所定の画像、映像による視覚刺激量、脳への電気刺激、磁気刺激の刺激量の少なくとも一つを含む、ように構成できる。本発明は、上述の方法を実行する装置、コンピュータをそのような装置として機能させるためのコンピュータプログラム、そのようなコンピュータプログラムを記憶したコンピュータ読取可能記録媒体、としても成立する。
【0011】
本発明の方法は、複数の個人の関心健康領域の健康度への関連が認められる一つ以上の生体情報に基づき、前記健康度と前記複数の個人の健康度の維持又は向上に寄与する可能性がある一つ以上の予防的介入行動のそれぞれとの関連性を評価するものであって、前記複数の個人の前記生体情報を経時的に取得し、前記取得した生体情報に基づいて、前記複数の個人の健康度の評価を経時的に行い、前記複数の個人の前記一つ以上の予防的介入行動のそれぞれの介入量を経時的に取得し、前記複数の個人の前記予防的介入行動のそれぞれの経時的な前記介入量と前記複数の個人の経時的な前記健康度とを用いた機械学習により前記予防的介入行動のそれぞれと前記健康度との関連性を求める、ことを特徴とするものとすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、個人の前記生体情報を経時的に取得し、取得した生体情報に基づいて個人の健康度の評価を経時的に行い、一つ以上の予防的介入行動のそれぞれの介入量を経時的に取得し、予防的介入行動のそれぞれの経時的な介入量と個人の経時的な健康度との相関度及び影響度を求め、一つ以上の予防的介入行動の内で相関度が所定の値以上であるものを関連予防的介入行動として決定するという構成により、個人の関心健康領域の健康度への関連が認められる一つ以上の生体情報に基づき、健康度と前記個人の健康度の維持又は向上に寄与する可能性がある一つ以上の予防的介入行動のそれぞれとの関連性を評価することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】端末装置100の構成を示すブロック図である。
【
図3】ユーザに音楽を提供した状態で脳波を取得する場面のイメージ図である。
【
図4】ユーザに写真イメージを提供した状態で脳波を取得する場面のイメージ図である。
【
図5】本発明の対象となり得る関心健康領域、生体情報、センサーデバイスの一覧を示す図である。
【
図6】脳波に対応するパワースペクトルの例を表わす図である。
【
図7】Hiroshi Yoshimuraらの論文のFig.4のAlpha2の図からの引用図であり、HDS-Rと変化量の関係を示す図である。
【
図8】加藤伸司らの論文の
図2からの引用図であり、HDS-R得点とMMSE得点の関係を示す図である。
【
図9】α2波の変化量とMMSE得点の変化量の関係を表わす表である。
【
図10】MMSE得点と有意な関係がある脳波に関する指標の例を表わす図である。
【
図11】経時的に取得された、予防的介入行動とその介入量の例を表わす表である。
【
図13】Charis Styliadisらの論文のFIGURE3からの引用図であり、介入の前後における、MMSE得点の差とδ波強度の差との関係を(a)に、MMSE得点の差とθ波強度の差との関係を(b)に示した図である。
【
図14】介入量と健康度の関係の例を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の概念)
本発明は、家庭内で測定できるようなセンサーデバイスを使用して取得した生体情報から関心健康領域の健康度を求める一方で、予防的介入行動の介入量をモニタし、健康度と介入量とから、予防的介入行動の介入量と健康度の相関度や、予防的介入行動の影響度を求めるものである。本発明が対象とすることができる、関心健康領域、その関心健康領域の健康度に関連する生体情報、その生体情報を取得するためのセンサーデバイスの例は以下の通りである。
【0015】
まず、関心健康領域を認知症とすることができ、その場合、生体情報としては脳活動に由来する情報(脳波、脳血流量、脳磁図)、声に由来する情報(会話内容、ろれつ、抑揚)などを使用することができ、それを取得するためのセンサーデバイスとしては、脳波計、NIRS脳計測装置、脳磁図計、音声分析装置などを使用することができる。
次に、関心健康領域をうつ病とすることができ、その場合、生体情報としては脳活動に由来する情報(脳波、脳血流量、脳磁図)、自律神経に由来する情報、声に由来する情報(会話内容、ろれつ、抑揚)などを使用することができ、それを取得するためのセンサーデバイスとしては、脳波、NIRS脳計測装置、脳磁図、心拍計、音声分析装置などを使用することができる。
さらに、関心健康領域を脳卒中とすることができ、その場合、生体情報としては血管年齢などを使用することができ、それを取得するためのセンサーデバイスとしては、血圧、加速度脈波計、血圧脈波計などを使用することができる。
またさらに、関心健康領域を関節症とすることができ、その場合、生体情報としては歩行様式に由来する情報(関節の歪みが歩行様式に現れるため)などを使用することができ、それを取得するためのセンサーデバイスとしては、加速度センサーなどを使用することができる。
またさらに、関心健康領域を糖尿病とすることができ、その場合、生体情報としては血糖値、自律神経に由来する情報などを使用することができ、それを取得するためのセンサーデバイスとしては、血糖測定器、心拍、心拍変動などを使用することができる。
またさらに、関心健康領域を骨折、転倒とすることができ、その場合、生体情報としては骨密度、筋肉量などを使用することができ、それを取得するためのセンサーデバイスとしては、体組成計などを使用することができる。
またさらに、関心健康領域を高血圧症とすることができ、その場合、生体情報としては血圧などを使用することができ、それを取得するためのセンサーデバイスとしては、血圧計などを使用することができる。
またさらに、関心健康領域を脂質異常とすることができ、その場合、生体情報としては脂質に由来する情報などを使用することができ、それを取得するためのセンサーデバイスとしては、脂質計測器などを使用することができる。
なお、いずれのセンサーデバイスも家庭内で使用できるような装置が既に利用可能であったり、あるいは実用化の目処が立っているものである。なお、これらを
図5に一覧で示す。
【0016】
またさらに、関心健康領域をロコモティブシンドロームとすることができる。ロコモティブシンドローム(運動器症候群、以下、ロコモと略す)は、2007年に日本整形外科学会が提案した概念で、運動器の障害によって移動機能の低下をきたした状態と定義されている。移動機能とは歩行、立ち座りなどを意味し、進行すると介護が必要になるリスクが高くなるとされる。従って、ロコモは、運動器を構成する骨、軟骨、筋肉等の各組織が、加齢とともに量的、質的に減少するうちに、軟骨であれば変形性関節症等、骨であれば骨粗鬆症という基礎疾患が潜在するようなり、それらが何らかのきっかけで膝痛や腰痛、骨折などの症状を出して表面化(発症)して進行するという経過をたどる。これらは早期に発見して予防を講じることで、または、ある程度進行しても治療で回復する可能性があるので、可逆性の段階でスクリーニングや判定を行って、改善対策を実施する意義は大きい。ロコモティブシンドロームの判定は、立ち上がりテスト、2ステップテスト、ロコモ25などのテストによって行なうことができる。ロコモティブシンドロームは、そのようなテストで分類される筋肉、骨、軟骨の疾患であるので、筋量、変形性膝関節症、転倒、骨折と関係する。
関心健康領域がロコモティブシンドロームである場合、生体情報としては、歩行速度、加速度(歩行中の垂直方向の加速度などを含む)、脈波に関連する各種パラメータ(脈波伝播速度を含む)、などを使用することができ、それを取得するためのセンサーデバイスとしては、ウェアラブル端末を含む各種のセンサーデバイスを使用することができる。例えば、歩行速度については、活動量計、スマートフォンなどを使用することができ、加速度については、慣性センサーなどを利用した歩行パラメータセンサー、ワイヤレス3軸加速度計(胴体ベルトで腰椎などに取り付けることが可能な態様を含む)のような加速度計などを使用することができ、脈波に関連する各種パラメータについては、血圧脈波検査装置、脈波センサー(光学式を含む)などを使用することができる。
なお、これらも
図5に一覧で示す。
以下、関心健康領域が認知症の場合に戻って説明を続ける。
【0017】
(端末装置100の構成)
これから図面を参照し、本発明の一実施形態である端末装置100の説明を行う。端末装置100は、ユーザが予防的介入行動の相関度及び影響度のような関連性を評価するために生体情報を入力する際に使用する端末装置であるが、ユーザが予防的介入行動の介入量を入力したり、求められた予防的介入行動の相関度及び影響度を求めるためにも使用される。端末装置100は、典型的には、スマートフォンのような携帯コンピュータ端末である。端末装置100は、携帯電話、PDA、タブレット端末などの他の形態のものであっても可能である。
図1は、端末装置100の構成を示すブロック図である。端末装置100は、制御部101、入出力インタフェイス(I/F)102、ユーザインタフェイス(I/F)103、無線通信部104から構成される。端末装置100は、典型的には、所与のプログラムを実行する機能を有するスマートフォンのような携帯可能なコンピュータ装置である。制御部101は、端末装置100の動作を制御する各種の機能を実行するための回路であり、典型的には、プロセッサ101a、一時メモリ(図示せず)、メモリ101bがバスで接続されて構成されたデータ処理回路である。メモリ101bは、典型的にはフラッシュROMのような不揮発メモリであり、そこには評価プログラム101cが記憶されている。制御部101は、メモリ101bに記憶された評価プログラム101cをCPUとして機能するプロセッサ101aが読み出して、RAMのような一時メモリのワークエリアを利用して実行することにより、関連性評価に関する各種の機能を実現する動作を実行する。本発明による端末装置100の特徴的な機能は、評価プログラム101cが実行されることにより、そのような機能に応じた実行モジュールが形成されることにより実現される。メモリ101bは、また、提供コンテンツ101dも記憶している。提供コンテンツ101dは、生体情報として脳波を検出する際にユーザに刺激を与える場合に、その刺激を与えるために提供する音楽や写真などのデータである。提供コンテンツ101dは、また、アンケート、クイズ、ゲーム、又は脳力トレーニングのようなトレーニング的要素を有する予防的介入行動のコンテンツであってもよい。なお、それらのデータやコンテンツは、飽きや慣れが生じないように多くの種類が準備されていると好適である。制御部101においては、そのような提供コンテンツ101dをプロセッサ101aがメモリ101bから読み出して再生し、ディスプレイのようなユーザI/F 103上などに表示することにより、ユーザに提供することができる。
【0018】
入出力I/F 102は、外部のセンサなどと、典型的にはBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信機能を通じたデータ送受信を行うための、アンテナ、高周波回路、データ処理回路などを含むインタフェイス回路である。外部のセンサとしては、典型的には、後述のウェアラブルセンサ200が使用される。なお、入出力I/F 102は、有線のインタフェイスであって、端末装置100に外部のセンサを有線で接続するように構成することも可能である。
【0019】
ユーザI/F 103は、ユーザから操作指示やデータの入力などの情報入力を行うためのタッチパネル、ボタン類、及びそれらを駆動する回路などや、ユーザに対してデータの表示、音声の出力などの情報出力を行うためのディスプレイ、スピーカー、ヘッドフォン端子、及びそれらを駆動する回路などの、ユーザとの間で情報のやりとりを行うための回路である。無線通信部104は、携帯電話網のような外部のネットワークと無線によりデータ通信するための回路であり、インターネットにアクセスすることを可能とするものである。無線通信部104は、典型的には、アンテナ、高周波回路、データ処理回路などを含む回路である。端末装置100は、無線通信部104によりインターネットを経由して所定の機能を提供するサーバにアクセスすることができる。
【0020】
ウェアラブルセンサ200は、ユーザの身体に装着して生体情報を取得するためのセンサである。本実施形態では、ヘッドフォン型の脳波センサを具体例として説明するが、生体情報は健康度に関連するものであれば脳波に限られず、また、ウェアラブルセンサの形態も、対象とする生体情報が取得できる限り、腕輪型、ネックレス型、腹巻型などの他の形態のものであってもよい。センサがウェアラブルであれば、装着時の負担が少ないため、手軽に生体情報を取得でき、長期間のモニタリングを行う際のユーザの負担が小さいことが期待される。しかし、生体情報を取得するセンサはウェアラブルには限られず、測定時に身体に取り付けるような通常のセンサであってもよい。
【0021】
(端末装置100の動作)
これから図面を参照して端末装置100の動作について説明する。
図2は、端末装置100の動作フロー図である。端末装置100で実施される本発明の方法は、個人の関心健康領域の健康度への関連が認められる一つ以上の生体情報に基づき、健康度と、その個人の健康度の維持又は向上に寄与する可能性がある一つ以上の予防的介入行動のそれぞれとの関連性を評価する方法である。
【0022】
制御部101は、ユーザである個人の生体情報を経時的に取得する(ステップS101)。生体情報は、ユーザの所定の関心健康領域の健康度に関連が認められるか、そのような可能性があるものであり、それを測定することにより健康度を客観的に特定できるようにするものである。生体情報の取得は、期間の経過と共に健康度がどのように変化するのかという経時的な変遷を確認するために、経時的にモニタリングを行うことによってなされる。経時的なモニタリングとは、例えば、1日に1回、1週間に1回、1月に1回などの頻度で定期的に生体情報の取得を行うことである。生体情報は、その測定値からユーザの所定の関心健康領域の健康度を直接特定できるようなものであると好適であるが、ユーザに刺激などの特定の条件を与えた状態で取得するものであってもよい。また、その刺激も複数の刺激としてもよい。
【0023】
本実施形態では、ユーザの関心健康領域は認知機能であり、生体情報は脳波である場合を説明する。一般的に認知機能は筆記試験や医師の面談などでその程度が評価されるものであるが、本発明では、そのような筆記試験や医師の面談を行うことなく、脳波という生体情報から客観的に認知機能の程度を特定することができる。そのため、ユーザの負担が小さい。脳波は、好適には、ユーザに所定の刺激を与えて取得される。このようにすると、その刺激に対する感受性の程度が脳波の変化の程度に表れると考えられ、そして感受性の大小は認知機能の程度に密接に関係すると考えられるからである。刺激は、音楽、写真イメージなどからの1種類の刺激とすることができ、そのような刺激をユーザに与えた状態での脳波が取得される。刺激としては、脳波に大きな変化を引き起こす種類のもので、その刺激に対する感受性の個人差が小さいものが好適である。そのような刺激であれば、認知機能が通常の人は、その刺激に対して脳波にそれに対応した大きな変化が発生するが、認知機能が低下している人は、刺激に対する感受性が鈍化しているため、脳波にあまり大きな変化は発生しないと考えられる。従って、その刺激を与えたときの、その刺激に対して引き起こされるべき脳波の変化の程度を測定することにより、認知機能の程度を求めることができることになる。
【0024】
なお、刺激の種類を増やすと、刺激に対する感受性の個人差が平均化されるため、認知機能の測定精度を向上させることができると考えられる。これから、2種類の刺激をユーザに与えた状態で脳波を取得する場合の具体例について説明する。この具体例では、ユーザの脳波は、そのユーザの覚醒安静時において、所定の音楽による刺激をユーザに与えている状態と、写真イメージによる刺激をユーザに与えている状態の両方において取得される。そのような2つの状態で取得した脳波から認知機能の状態を評価する手法が公知である。
【0025】
ここで、生体情報から関心健康領域が認知症である場合の認知機能の程度を求める具体的な手法を説明する。Hiroshi Yoshimuraらの論文「Evaluations of dementia by EEG frequency analysis and psychological examination」、The Journal of Physiological Sciences (2010) 60:383-388、2010年、日本生理学会、には、被験者に音楽及び写真イメージのそれぞれによる刺激に与えている状態のそれぞれで脳波を取得して周波数解析を行うことにより、認知症の程度により、脳波の特定の周波数バンドの強度に特徴的なパターンが観察されたことが記載されている。このような知見を利用すれば、客観的な生体情報である脳波から、認知症の段階を判断することができると考えられる。当該論文には、認知症の段階を評価するために、EEG(脳波)リズムとHDS-R(改訂 長谷川式簡易知能評価スケール)に着目し、認知症の人と対照群の普通の人のそれぞれに対して、音楽及び写真イメージのそれぞれによる刺激に与えている状態で脳波を取得して周波数解析を行ったことが記載されている。その結果、音楽による刺激を与えている状態で脳波(Frontal EEG波)を取得した脳波のリズムパターンと、写真イメージによる刺激を与えている状態で取得した脳波のリズムパターンとの間の変化について、対照群の普通の人は大きな変化が認められたが、認知症の人にはあまり変化が認められていない、という相違が観察された。脳波は、種々の周波数バンドの脳波の内の特にα2(9-11Hz)に大きな相違が認められている。
図6は、脳波に対応するパワースペクトル(周波数成分)の例を表わす図である。4-7Hzの周波数成分の脳波がθ波、7-9Hzの周波数成分の脳波がα1波、9-11Hzの周波数成分の脳波がα2波、11-13Hzの周波数成分の脳波がα3波、13-30Hzの周波数成分の脳波がβ波と呼ばれている。
図6の上側には、脳波が横軸を時間軸として表わした波形で示されており、
図6の下側には、脳波を周波数領域に変換したパワースペクトル(周波数成分)が横軸を周波数として表わした周波数成分の強度分布で示されている。
図6の例では、10Hz付近のα2波の強度が他の周波数成分より強いことが示されている。
【0026】
種々の周波数バンドのリズムパターンの変動性を定量化するために、音楽の刺激の場合のα2の占有率から写真イメージの刺激の場合のα2の占有率を減じることによって変化量を求め、それを使用して評価を行った。その結果、特にα2においては、HDS-Rが下がると変化量が減少することが見いだされている。ここでα2の占有率とは、α2波の強度/(θ波、α1波、α2波、α3波及びβ波の強度の総和)で求められる値である。
図7はHiroshi Yoshimuraらの論文のFig.4のAlpha2の図からの引用図であり、HDS-Rと変化量の関係を示す図である。この図からは、HDS-Rと変化量の間にほぼ直線関係があることが理解でき、HDS-Rをx、変化量(Variation score)をyとしたときに、その直線は2点(10,-3.7)及び(30,20.8)を通るため、ほぼ、y=1.225x-15.95の関係があることが導かれる。なお、当該論文において、占有率は、サンプリングレート1秒、測定時間180秒の条件で、180秒の平均値として算出されている。
【0027】
ここで、HDS-Rのスコアは、認知機能の一般的指標とされているMMSE(ミニメンタルステート検査)のスコアと極めて強い相関がある。
図8は加藤伸司らの文献「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の作成」、老年精神医学雑誌 第2巻第11号、1991年11月、日本老年精神医学会、の
図2からの引用図であり、HDS-R得点とMMSE得点の関係を示す図である。この図からは、HDS-R得点とMMSE得点とは、ほぼ比例定数が1の比例関係があることが理解でき、HDS-R得点≒MMSE得点の関係があることが理解できる。
図7と
図8の結果を合わせると、脳波の変化量とMMSE得点との間には、HDS-Rの場合と同じ直線関係があり、脳波の変化量からMMSE得点を求めることができると考えられる。本実施形態では、音楽の刺激を与えた場合のα2波の占有率から写真イメージの刺激を与えた場合のα2波の占有率を減じることによって変化量を求め、それにMMSE得点をx、α2波の変化量をyとした場合のy=1.225x-15.95の関係を適用することによって、MMSE得点を求める。そしてこのMMSE得点が、関心健康領域は認知機能である場合の健康度を、脳波という生体情報を使用して求めたものとなる。
【0028】
関心健康領域がロコモティブシンドロームである場合について説明する。生体情報が歩行速度の場合は、歩行速度が低いと発症確率が高いことが知られている。生体情報が歩行中の垂直方向の加速度である場合は、加速度計を用いて測定された垂直軸の自己相関係数の評価に基づく歩行の変動性において、自己相関係数が小さいと発症確率が高いことが知られている。生体情報が脈波に関連する各種パラメータ(脈波伝播速度を含む)の場合、例えば脈波伝播速度が高いほど発症確率が高いと考えられることが知られている。それぞれ、具体的な例を以下に示す。
歩行速度とロコモティブシンドロームの関係については、金憲経らによる記事「高齢期の移動能力とロコモ」、LOCO CURE VOL.3 No.2(2017) 46-51(138-143)ページ、2017年、先端医学社、には、歩行速度と筋肉量、変形性膝関節症、骨折歴、転倒は相関があることが示されており、その表1には、歩行速度が0.8m/s未満であるか0.8m/s以上であるかということが、全身筋肉量、足の筋肉量、変形性膝関節症の有無、60歳以降の骨折歴の有無、転倒恐怖感の有無に関して、p値が0.001から0.034の有意な相関関係を有していることが示されており、その表2には、歩行速度を独立変数、膝痛を従属変数としたときに、オッズ比 0.979;95%信頼区間 0.968-0.991;p値 0.001の有意な相関があることと、歩行速度を独立変数、転倒を従属変数としたときに、オッズ比 0.976;95%信頼区間 0.954-0.997;p値 0.029の有意な相関があることとが示されている。
歩行速度とロコモティブシンドロームの関係については、さらに、S. Murakiらの記事「Physical performance, bone and joint diseases, and incidence of falls in Japanese men and women: a longitudinal cohort study」、Osteoporos International (2013) 24:459-466ページ、2013年、International Osteoporosis Foundation and National Osteoporosis Foundation、には、そのTable 2に、非転倒者か転倒者かということと、歩行速度との間には、p値が0.001未満の有意な相関があることが示されている。
また、垂直軸の加速度の自己相関係数に基づく足どりの変動性とロコモティブシンドロームの関係については、Hiromi Matsumotoらの論文「Gait variability analysed using an accelerometer is associated with locomotive syndrome among the general elderly population: The GAINA study」、Journal of Orthopaedic Science 21 (2016) 354-360ページ、2016年、日本整形外科学会、には、そのTable 4に、歩行時の垂直軸の加速度(AC-VT Step)に基づく足どりの変動性(Gait Variability)とロコモティブシンドロームの有無を223人の被験者で検証した結果が示されており、そのTable 5に、歩行時の垂直軸の加速度に基づく足どりの変動性とロコモティブシンドロームの関係の回帰分析において、調整オッズ比 0.943;95%信頼区間 0.892-0.996;p値 0.037の有意な相関があることが示されている。
このように、ロコモティブシンドロームであるかどうかは歩行速度や垂直軸の加速度に相関しているため、関心健康領域がロコモティブシンドロームである場合の健康度(すなわち、ロコモ度のような、ロコモティブシンドロームの進行の程度の指標)を、歩行速度や垂直軸の加速度という、生体から得られる生体情報を使用して求めることができる。
脈波に関連する各種パラメータとロコモティブシンドロームの関係については、佐藤らの論文「男性高血圧患者における脈波伝播速度とサルコペニア予備群との密接な関係」、日本臨床生理学会雑誌 VOL.45 No.5、133-140ページ、2015年、日本臨床生理学会、には,心臓からの血液駆出により生じる動脈の脈波が末梢に伝わる速度を計測した脈波伝播速度(PWV;Pulse Wave Velocity)の一種である上腕-足首脈波伝播速度(baPWV;brachialankle Pulse Wave Velocity)と骨格筋量の測定を行ない、サルコペニア予備群と動脈壁硬化進行との関係について検討した結果が示されている。ここで、サルコペニアとは、ロコモティブシンドロームの構成要素のひとつで、主として加齢によって筋肉量が減少し、筋力低下や身体機能が低下することを意味するものである。骨格筋量が減少することはサルコペニアが進行することを意味する。また、動脈壁硬化が進行すると脈波伝播速度が速くなるという一般的な関係が知られている。また、諸家の報告によれば、baPWVと骨格筋量の間の負の相関があること(baPWVが高いと、骨格筋量が小さいこと)が紹介されている。そして、検討の結果によれば、「baPWV 1800cm/secのカットオフポイント」を目的変数とした多重ロジスティック回帰分析により、男性においてサルコペニア予備群が、年齢、血圧、脈拍、血糖といった古典的要因とは独立した説明因子であったことが示されている。このように上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)が高いと、骨格筋量が小さく、サルコペニアが進行しているという相関関係があることが示されている。そして、サルコペニアが進行していることは、ロコモティブシンドロームが進行していることと同義と理解される。さらに、上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)だけでなく、脈波伝播速度(PWV)でも同様の関係があることが理解される。また、一般的な脈波の検査で取得される脈波に関連する各種パラメータを使用しても、それは動脈壁硬化進行の程度と関連すると考えられるため、同様にロコモティブシンドロームの程度を判断できると考えられる。
このように、ロコモティブシンドロームの進行の程度は脈波に関連する各種パラメータに相関しているため、関心健康領域がロコモティブシンドロームである場合の健康度(すなわち、ロコモ度のような、ロコモティブシンドロームの進行の程度の指標)を、脈波伝播速度のような脈波に関連するパラメータという、生体から得られる生体情報を使用して求めることができる。
以下、関心健康領域が認知症の場合に戻って説明を続ける。
【0029】
ユーザの生体情報は、好適にはユーザの身体に装着したウェアラブルな端末によってピックアップされるものであり、ここでは、ヘッドフォン型脳波センサであるウェアラブルセンサ200が使用される。また、音楽や写真イメージによる刺激は、端末装置100の制御部101によって提供コンテンツ101dが再生されて端末装置100のスピーカーやヘッドフォン端末から音楽を出力したり、それのディスプレイに写真イメージを表示したりすることによって提供される。
図3は、ユーザに音楽を提供した状態で脳波を取得する場面のイメージ図である。ユーザは、端末装置100を操作して関連性評価のアプリケーションを動作させる。このとき、音声、あるいは文字により、ウェアラブルセンサ200を装着したままでしばらく音楽を聴いている状態でいるようにユーザに対してガイドが提供されると好適である。ユーザは、ウェアラブルセンサ200をヘッドフォンのように装着して電極を額及び耳たぶに接触させた状態とする。制御部101は、アプリケーションの動作により音楽の提供コンテンツ101dを再生してユーザに提供し、ウェアラブルセンサ200はその際の脳波を電極から取得して、そのセンサ回路が端末装置100内の入出力I/F 102に脳波を表わす信号を送信する。脳波を表わす信号は、典型的には、脳波をサンプリングすることによってA/D変換した信号である。
【0030】
制御部101は、音楽をユーザに提供した状態での脳波の取得が完了すると、関連性評価のアプリケーションの動作により、音楽の再生を停止し、次に写真イメージを表示して、その状態での脳波の取得を開始する。
図4は、ユーザに写真イメージを提供した状態で脳波を取得する場面のイメージ図である。この際には、音声、あるいは文字により、ウェアラブルセンサ200を装着したままでしばらく写真イメージを見た状態でいるようにユーザに対してガイドが提供されると好適である。制御部101はそのアプリケーションの動作により写真イメージの提供コンテンツ101dをディスプレイに表示してユーザに提供し、ウェアラブルセンサ200はその際の脳波を電極から取得して、そのセンサ回路が端末装置100内の入出力I/F 102に脳波を表わす信号を送信する。制御部101は、写真イメージをユーザに提供した状態での脳波の取得が完了すると、関連性評価のアプリケーションの動作により、写真イメージの表示を停止する。このようにして、ユーザの生体情報(2種類の刺激を与えた状態での脳波)が取得される。そして、このような生体情報の取得を一定期間ごとに行うことにより、それは経時的なデータとして取得されることとなる。現在までに取得されてきた生体情報は、好適には、ファイルの形態などでメモリ101b内に記憶される。
【0031】
次に、制御部101は取得した生体情報に基づいて、個人の健康度の評価を経時的に行う(ステップS102)。まず、制御部101は、関連性評価のアプリケーションの動作により、2種類の刺激の提供下で取得されたそれぞれの脳波をFFTなどのアルゴリズムを利用して周波数領域に変換することによって、少なくともα2波の強度と、θ波、α1波、α2波、α3波及びβ波(以下、「θ波からβ波」と表現する)の強度の総和を求め、2種類の刺激の提供下で取得された脳波のそれぞれについて、α2波の強度の、θ波からβ波の強度の総和に対する比率である占有率を求める。そして制御部101は、音楽の刺激を与えた場合のα2波の占有率から写真イメージの刺激を与えた場合のα2波の占有率を減じることによって変化量を算出する。さらに制御部101は、その変化量に対して、MMSE得点をx、変化量をyとした場合のy=1.225x-15.95の関係を適用することによって、MMSE得点を求める。
図9は、α2波の変化量とMMSE得点の変化量の関係を表わす表である。そしてこのMMSE得点が、関心健康領域が認知機能である場合の健康度を、2種類の刺激の提供下で取得されたそれぞれの脳波という生体情報を使用して求めたものとなる。このようにして、ユーザの健康度(MMSE得点)の評価が行われる。これを一定期間ごとに行うことにより、健康度が経時的に評価されることとなる。現在までに取得・算出された健康度は、好適には、メモリ101b内に記憶される。
【0032】
ステップS101及びS102においては、2種類の刺激をユーザに与えた状態での脳波の生体情報として取得し、それらのα2波の占有率を求め、さらに占有率の変化量を求めて、その変化量に対応する健康度を算出する点が重要である。すなわち、それらの2種類の刺激は脳に異なる刺激を与えることによって、θ波からβ波のそれぞれの周波数成分の脳波の強度に対して異なる影響を与えるものと理解される。このような理解に基づけば、2種類の刺激の種類に関わらず、その2種類の刺激に対して、強度変化の相関が大きい周波数成分の脳波(α2波以外も含む)を選択し、それの変化量を求めることによって、刺激の変化に対する脳の反応の強弱を高精度に定量化することが可能と考えられる。ここで、認知機能が低下している人は、刺激に対する感受性が鈍化しているため、刺激の変化に対する脳の反応の変化も小さく、脳波における変化量が小さいものと推察される。従って、音楽や写真イメージ以外の2種類の刺激を与えた状態で取得した2種類の脳波の特定の周波数成分の変化量からも、認知機能に対応する健康度を求めることができることが推察される。すなわち、いずれの場合も、変化量が小さいほど、認知機能に対応する健康度が低くなる傾向が現れるものと推察できる。このような観点から、2種類の刺激は多様な種類のものを使用することができ、例えば、音、音楽、画像イメージ、写真イメージ、映像、アンケート、クイズ、ゲーム、又は脳力トレーニングのいずれかによる刺激とすることができると考えられる。なお、その際に得られる変化量と健康度(MMSE得点)との対応関係は、使用する2種類の刺激の種類によって実験的に求めるとよい。そのような変化量を指標として、その対応関係に基づき、MMSE得点を求めることができる。ここで2種類の刺激は、必ずしも異なる種類のものとする必要はなく、例えば、脳力トレーニングであって内容が異なるものとすることなどができる。また、2種類の刺激の内の1種類を、覚醒安静時あるいは睡眠時において、具体的な刺激を与えていない無刺激の場合とすることも可能である。なお、アンケート、クイズ、ゲーム、又は脳力トレーニングのような知的刺激を与える種類の刺激は、それ自体を予防的介入行動とすることもできる。
【0033】
また、MMSE得点に相関のある、脳波に関する他の指標を実験的に見つければ、その指標とMMSE得点との対応関係を定量化することより、取得した脳波をその指標で分析することによってMMSE得点を求めることができるようになる。
図10は、MMSE得点と有意な関係がある脳波に関する指標の例を表わす図である。
図10では、実験により得られた○で示された指標及びMMSE得点の具体的数値がプロットされており、その指標とMMSE得点に、直線で示されるような比例関係があることが示されている。このような指標を実験的に見いだすことにより、その指標を使用しても、MMSE得点を求めることができる。
【0034】
次に、制御部101は、一つ以上の予防的介入行動のそれぞれの介入量を経時的に取得する(ステップS103)。すなわち、制御部101は、関連性評価のアプリケーションの動作により、ユーザから予防的介入行動のそれぞれの介入量の入力を受け付ける。介入量は、好適には、ユーザの所定の活動の活動量である。制御部101には、使用する予防的介入行動の種類や、介入量の入力をどのように行うかをあらかじめ設定しておく。介入量の入力は、例えば、歩数、睡眠時間などの活動量をウェアラブルデバイスのような装置が測定する場合は、制御部101は、その装置と入出力I/F 102を通じて通信することによって介入量を取得する。介入量が、端末装置100によってユーザに提供される、アンケート、クイズ、ゲーム、又は脳力トレーニングのような知的刺激を与える予防的介入行動に対するものである場合は、制御部101は、それを提供した量(時間)や、それの結果(成績)などを記憶しており、それを介入量として取得する。介入量が、アルコール摂取量、喫煙本数などのようにユーザの生活などに関係がある数値で、ユーザが自身で入力する必要があるものであれば、制御部101は、それらの予防的介入行動の入力の指示をディスプレイのようなユーザI/F 103に表示して、そのそれぞれに対する介入量をタッチパネルのようなユーザI/F 103を通じて入力させる。
図11は、経時的に取得された、予防的介入行動とその介入量の例を表わす表である。
図11の例では、歩行、エクササイズA、エクササイズB、脳トレーニングA(脳トレA)、脳トレーニングB(脳トレB)、睡眠、アルコール摂取、喫煙という予防的介入行動が示されており、それぞれの予防的介入行動の介入量と、生体情報とが、1月ごと20ヶ月の測定月にわたって取得・入力されている。生体情報は、2種類の刺激の提供下で取得されたそれぞれの脳波のα2波の変化量の前月からの変化分として「α2のVSの前月からの変化量」に示されている。予防的介入行動とそれに対する介入量としては、歩行に対する歩数、エクササイズAの運動に対する運動時間、エクササイズBの運動に対する運動時間、脳トレーニングA(脳トレA)に対する実施時間、脳トレーニングB(脳トレB)に対する実施時間、睡眠に対する睡眠時間、アルコール摂取に対するアルコール摂取量、喫煙に対する喫煙本数、が示されている。
【0035】
予防的介入行動の介入量としては、各種のものを使用することができ、例えば、以下のようなものを使用することができる。
(i) 歩行量
(ii) 所定の運動の運動量
(iii) 所定の認知トレーニングの実行量
(iv) 睡眠時間
(v) 栄養の取得量
(vi) 薬物・サプリメント・健康食品の取得量
(vii) 所定の音、音楽による聴覚刺激量
(viii) 所定の画像、映像による視覚刺激量
(ix) 脳への電気刺激、磁気刺激の刺激量
(x) アルコール摂取量
(xi) 喫煙本数
【0036】
(i)から(ix)に対応する予防的介入行動は、一般的には適量までは多い方が望ましいと考えられるものである。この場合、それらの行動等の量を介入量とすると、介入量が大きいほど健康度が向上するものと考えることができる。一方、(x)、(xi)に対応する予防的介入行動は、一般的には少ない方が望ましいと考えられるものである。例えば、アルコールの摂取や喫煙が習慣となっている場合に、アルコール摂取量や喫煙本数を習慣となっている量から抑えることが予防的介入行動となる。この場合、アルコール摂取量や喫煙本数を介入量とすれば、介入量が小さいほど健康度が向上するものと考えることができる。
【0037】
認知機能に影響を与える予防的介入行動を示した文献として以下のようなものがある。Charis Styliadisらの論文「Neuroplastic Effects of Combined Computerized Physical and Cognitive Training in Elderly Individuals at Risk for Dementia: An eLORETA Controlled Study on Resting States」、Neural Plasticity、Volume 2015, Article ID 172192には、運動(Physical)と認知(Cognitive)を組み合わせたトレーニングの効果が、脳波(EEG)で測定される大脳皮質活動(cortical activity)にどのような影響を与えるかの研究結果が示されている。その研究では、70人の軽度認知障害(MCI)の患者を対象として、介入3群とコントロール2群に分けて比較している。ここでは、EEG(5分間の安静時脳波)が介入の前後で測定された。大脳皮質のEEGソースは、exact low resolution brain electromagnetic tomography(eLORETA)によってモデル化された。認知機能は、介入の前後で、MMSEを含むテストで測定された。ここでは、運動と認知の各トレーニングを各5時間/週で実施し、8週間実施している。その結果、運動と認知を組み合わせたトレーニングで有意な改善が認められ、脳波の所見としては、δ波、θ波、β波の減少が認められた。
図13は、Charis Styliadisらの論文のFIGURE3からの引用図であり、介入の前後における、MMSE得点の差とδ波強度(電流密度復元、current density reconstructions(CDR))の差との関係を(a)に、MMSE得点の差とθ波強度の差との関係を(b)に示した図である。図では、運動と認知を組み合わせた介入の前後において、9例のMMSE得点が増加する一方で、1例のMMSE得点は変化せず、4例のMMSE得点が低下していることが示されている。また、δ波、θ波の強度は、MMSE得点が増加につれて減少する傾向が示されている。このように、脳波は軽度認知障害における非薬物的介入の指標になり得ることが示されている。このCharis Styliadisらの論文には、運動と認知を組み合わせたトレーニングが認知機能(MMSE得点)の向上に効果があること、効果の程度には個人差があること(悪化する場合もある)、認知機能の程度と脳波の強度には関係があること、が示されているものと理解される。運動と認知を組み合わせたトレーニングの効果に個人差があることからは、個人ごとに相関のある予防的介入行動を選択することに重要な意義があることが理解できる。また、Hiroshi Yoshimuraらの論文の手法とは異なるものの、脳波から認知機能の程度を知ることができることも理解される。
【0038】
なお、ユーザの関心健康領域がロコモティブシンドロームの場合、介入方法としては、運動(ロコモーショントレーニングや、有酸素運動を含む)、温熱シート、食事、紫外線暴露、SIXPAD(登録商標)のようなポータブル電気的筋肉刺激装置、社会的活動に関連する方法などを使用することができることが知られている。
そして、予防的介入行動の介入量としては、運動量(有酸素運動量を含む)や温熱シート使用量、ロコモーショントレーニング(スクワット、開眼片脚起立、ヒールレイズ、フロントランジ、ダンベル運動などの筋力トレーニング)量、栄養の取得量(摂取エネルギーの適性度、食品摂取の多様性スコアなど)、ポータブル電気的筋肉刺激装置の使用量、社会的活動への参加量、歩数、移動距離、紫外線暴露時間、食事時間、摂取カロリー、特定の栄養素の摂取量、睡眠量(睡眠時間(ノンレム睡眠時間であってもよい)、レム睡眠時間とノンレム睡眠時間の比率などを含む)、消費カロリー、脈拍数、などを使用することができる。具体的な例を以下に示す。
山田らによる記事「運動習慣の獲得とロコモ度改善の関連縦断的高齢者運動器検診でわかったこと-有酸素運動でロコモ度の改善が得られる-」、Journal of Spine Research Vol.8 No.3、2017年、日本脊椎脊髄病学会、には、男女ともに有酸素運動を新たに開始することでロコモ度が改善する傾向がみられたことの報告が紹介されている。また、有酸素運動とは、好気的代謝によってヘモグロビンを得るために長時間継続可能な軽度または中程度の負荷の運動のことを指し、例えばウォーキング、ジョギング、ランニング、サイクリング、エアロビクス、水泳、アクアビクスなどが挙げられる。
これらより、有酸素運動を予防的介入行動とし、その量を介入量とすれば、介入量が大きいほど、あるいは適正量に近いほど、健康度が向上するものと考えることができる。この場合の介入量である有酸素運動の運動量は、有酸素運動の運動量を測定した活動量計(ウェアラブル端末であってもよい)と入出力I/F 102を介して無線あるいは有線で通信することにより端末装置100が取得することができる。また、ユーザから有酸素運動の運動量の入力をユーザI/F 103を介して端末装置100が受け付けることもできる。
石橋英明による記事「ロコモ対策としての運動療法と栄養指導」、THE BONE Vol.31 No.3 2017秋号 89-94(325-330)ページ、2017年、メディカルレビュー社、には、運動と食事とロコモティブシンドロームの関係について、以下のことが示されている。
運動については、ロコモに対する運動療法として、ロコモーショントレーニング(以下、ロコトレ)が推奨されており、それは、スクワット、開眼片脚起立、ヒールレイズ、フロントランジの4種である。当該記事には、ロコトレによる介入でロコモの指標であるロコモーションチェックやロコモ度テストなどの評価値が改善したとの報告として、ロコチェックで該当項目のあった高齢者に対して、ロコトレによる6ヵ月間の介入を行った結果、片脚起立時間、functional reach testが有意に改善し、ロコモーションチェック該当項目数が有意に増加したことの報告が紹介されている。当該記事には、さらに筆者らが218名の高齢者を対象として、2ヵ月間のロコトレ(スクワット、片脚起立、ヒールレイズ)による介入を行ったところ、開眼片脚起立持続時間、functional reach test、10m歩行時間、3m Timed Up-and-Go Test、足趾把持力が有意に改善したことが示されている。また当該記事には、ロコチェックで該当項日のあった高齢男女28名に対して、ロコトレ及びウォーキングを3ヵ月または6ヵ月間実施させたところ、片脚起立時間、膝屈曲筋力、ロコチェック該当数が有意に改善し、転倒不安が減少したことの報告が紹介されている。さらに当該記事には、地域在住高齢者31名を対象として、6ヵ月間のロコモ予防教室で、ロコトレやダンベル運動を実施したところ、最速歩行速度30秒椅子立ち上がりテスト、3m Timed Up-and-Go Test、ロコチェックの該当項目数などの有意な改善を認めたことの報告が紹介されている。
なお、日本整形外科学会公式ロコモディブシンドローム予防啓発公式サイトでは、以下の1から4のロコトレが推奨されている。
1.片足立ち;バランス能力の向上。1日の目安:左右1分間ずつ、1日3回。
2.スクワット:下肢筋力。1日の目安:深呼吸するペースで5-6回くりかえす、1日3回。
3.ヒールレイズ:ふくらはぎの筋力。1日の目安:10-20回×1日2-3セット。
4.フロントランジ:下肢の柔軟性、バランス能力、筋力。1日の目安:10-20回×1日2-3セット。
これらより、スクワット、開眼片脚起立、ヒールレイズ、フロントランジ、ダンベル運動などのロコモーショントレーニングを予防的介入行動とし、その量を介入量とすれば、介入量が大きいほど、あるいは適正量に近いほど、健康度が向上するものと考えることができる。この場合の介入量である運動量は、運動量を測定した活動量計(ウェアラブル端末であってもよい)と入出力I/F 102を介して無線あるいは有線で通信することにより端末装置100が取得することができる。また、ユーザから運動量の入力をユーザI/F 103を介して端末装置100が受け付けることができる。
次に、当該記事「ロコモ対策としての運動療法と栄養指導」には、食事については、適切な食事量を維持すること及びバランスの良い栄養摂取が推奨されることが記載されており、また、多種類の食品を摂取することをスコア化した10種類の食品のうち何種をほぼ毎日摂っているかを評価する食品摂取の多様性スコアと、握力及び通常歩行速度に有意な関係が認められ、多様性スコアが高いほど握力及び歩行速度が高いことや4年後の運動機能の低下が少ないことが報告されている。
これらより、食事を予防的介入行動とし、その食事量を介入量とすれば、介入量が適正値に近いほど健康度が向上するものと考えることができる。また、食事を予防的介入行動とし、その食品摂取の多様性スコアを介入量とすれば、介入量が大きいほど健康度が向上するものと考えることができる。この場合の介入量である食事量や多様性スコアは、ユーザからのそれの入力をユーザI/F 103を介して端末装置100が受け付けることができる。多様性スコアは、入力された摂取した食品の種類の数から計算される。
前述の記事「高齢期の移動能力とロコモ」には、膝痛者の介入参加者150名を選定し、運動+温熱シート群38名、運動群37名、温熱シート群38名、対照群37名を配置し、運動指導と温熱シートの指導効果を検証したところ、3ヵ月の介入による通常歩行速度の変化は運動群や運動+温熱シート群で有意に向上したが、対照群や温熱シート群では有意な変化がみられず、一方、ストライドは運動群や運動+温熱シート群で有意な増加が観察され、膝痛者における歩行速度の向上にはストライドの伸びの寄与が大きいことを検証したことが報告されている。
これらより、運動及び温熱シートを予防的介入行動とし、運動量及び温熱シート使用量(1日あたり何時間など)を介入量とすれば、介入量が大きいほど、あるいは適正値に近いほど健康度が向上するものと考えることができる。この場合の介入量である運動量及び温熱シート使用量は、ユーザからのそれの入力をユーザI/F 103を介して端末装置100が受け付けることができる。
安村誠司らによる記事「第7回 ロコモティブシンドローム対策 -ロコモコールの有効性」、臨床雑誌整形外科 Vol.64 No.13 (2013-12) 1412-1415ページ、2013年、南江堂、には、ロコトレによるホームエクササイズの介入で、1週間に1~数回の励まし電話をかける(ロコモコール)ことで、介入方法の継続率を上げ、開眼片足立ち時間を優位に改善させたことが示されている。
これより、ロコモコールを間接的な予防的介入行動とし、ロコモコールの頻度を介入量とすれば、介入量が大きいほど健康度が向上するものと考えることができる。この場合の介入量であるロコモコールの頻度は、ロコモコールをかけるサービス提供者が、ロコモコールの頻度(1日あたり何回など)をユーザI/F 103、入出力I/F 102、無線通信部104などを介して端末装置100に入力する。ユーザI/F 103を使用する場合は、サービス提供者がユーザ宅を訪問した際にタッチパネルなどからロコモコールの頻度を端末装置100に入力することができる。また、ユーザが自分でタッチパネルなどからロコモコールの頻度を端末装置100に入力することもできる。入出力I/F 102を使用する場合は、サービス提供者がロコモコールの頻度を入力した携帯端末をユーザ宅まで携えて訪問し、その携帯端末と無線通信などで入出力I/F 102を介して通信することにより、端末装置100がロコモコールの頻度を取得することができる。無線通信部104を使用する場合は、サービス提供者がインターネット経由でロコモコールの頻度を送信してユーザの端末装置100に取得させることができる。
石橋英明らによる論文「ロコモティブシンドロームの実証データの蓄積高齢者におけるロコモーションチェックの運動機能予見性及びロコモーショントレーニングの運動機能増強効果の検証」、運動器リハビリテーション (2187-8420) 24巻1号 77-81ページ(2013.05)、2013年、日本運動器科学会、には、そのAbstractに、65歳以上の高齢者229名(男性30名、女性199名、平均76.6歳)を対象に、ロコモーションチェック(ロコチェック)を行い、ロコモティブシンドローム(ロコモ)該当者にロコモーショントレーニング(ロコトレ)を指導し、運動機能増強効果を検証した結果が示され、開始時に評価項目を有効に取得できた218名のロコチェックで、56.8%がロコモ群と判定されたこと、背景では、非ロコモ群に比べロコモ群で年齢が高く、過去6ヵ月間の転倒歴が有意に多く、EQ-5D効用値が有意に低かったこと、運動機能は評価項目全てで非ロコモ群が有意に良好であったこと、開始時にロコトレを集団指導した後に、138名(60.3%)が2ヵ月間の自己トレーニングを行い、開眼片脚起立持続時間、functional reach test、10m歩行時間、3m Timed Up-and-Go Test、足趾把持力が有意に改善したこと、その12ヵ月後(85名)では、開眼片脚起立持続時間、10m歩行時間、足趾把持力は開始時と同程度となったが、膝伸展筋力は有意に改善したことが示されている。
冨田伸次郎らによる論文「ロコモーショントレーニングの短期的効果」、整形外科と災害外科 65;(4) 813-814ページ、2016年、西日本整形・災害外科学会、には、2ステップテストでは、ロコトレ前では、前期群0.90で後期群の1.07(身長調整値)に対して有意に歩幅が長いことが確認され(p値<0.05)、ロコトレ後は両群とも歩幅が延長傾向にあったこと、立ち上がりテストでは、両群ともいずれも半数は40cm高から段を下げることが可能になったこと、ロコモ25では、後期群では45.7点から35.3点と有意に点数改善を認めた(p値<0.02)こと、が示されている。
これらより、ロコモーショントレーニングを予防的介入行動とし、その運動量を介入量とすれば、介入量が大きいほど、あるいは適正量に近いほど、健康度が向上するものと考えることができる。この場合の介入量であるロコモーショントレーニングの運動量は、運動量を測定した活動量計(ウェアラブル端末であってもよい)と入出力I/F 102を介して無線あるいは有線で通信することにより、端末装置100が取得することができる。また、ユーザから運動量の入力をユーザI/F 103を介して端末装置100が受け付けることができる。
Yuichi Nishikawaらの論文「The effect of a portable electrical muscle stimulation device at home on muscle strength and activation patterns in locomotive syndrome patients: A randomized control trial」、Journal of Electromyography and Kinesiology 45(2019)、46-52ページ、2019年、International Society of Electrophysiology and Kinesiology、には、SIXPADというポータブル電気的筋肉刺激装置を利用することで、ロコモ指標である2-ステップテストの改善や筋肉の厚みの増加がみられていることが示されている。そこには、広島、名古屋、USのグループの介入研究が示されており、SIXPADを用いることで(23分/回×5回/週×8週間)、2-step test、ロコモ25のスコアが改善したこと、ただしその後4週間SIXPADを用いなければスコアが元にもどること、が示されている。
これらより、SIXPADの使用を予防的介入行動とし、その使用量を介入量とすれば、介入量が大きいほど、あるいは適正量に近いほど、健康度が向上するものと考えることができる。この場合の介入量であるSIXPADの使用量は、使用量を記録するSIXPADのコントローラを準備し、それと入出力I/F 102を介して無線あるいは有線で通信することにより端末装置100が取得することができる。また、ユーザからSIXPADの使用量の入力をユーザI/F 103を介して端末装置100が受け付けることができる。
前述の新井らによる記事「地域在住中高年者におけるロコモティブシンドロームと高次生活機能との関連」、理学療法化学 34(4) 417-422ページ、2019年、理学療法科学学会には、地域在住中高年者のロコモティブシンドロームと高次の生活機能、運動機能との関連を明らかにすることを目的とした、地域の自主グループ活動に参加している高齢者338人を対象としたロコモ5によりロコモ群と非ロコモ群の2群に分け、運動機能と高次生活機能を聴取して比較を行い、多重ロジスティック回帰分析の結果、「社会参加」が独立してロコモに関連する要因として選択され、ロコモである高齢者は、運動機能だけでなく、高次生活機能が低下しており、さらに高次生活機能のなかでも、社会参加が少ない高齢者は、ロコモと判定される高齢者の割合が多いことが明らかとなったことが示されている。そして、社会的活動への参加の有無は、歩数、歩行速度、立ち上がり能力、片足立ち時間などの下肢の動作能力と関連していることから、高齢者における社会参加は、自身の体力や下肢を中心とした運動機能と関連があることは明らかであり、移動機能の低下をきたした状態と定義されるロコモと高齢者の社会参加は関連していると報告されている。また、社会的活動とは、グループや団体、複数の人で行っている社会や家族を支える活動のことを指し、例えば自治会、町内会などの自治組織の活動、まちづくりや地域安全などの活動、趣味やスポーツを通じたボランティア・社会奉仕などの活動、伝統芸能・工芸技術などを伝承する活動、生活の支援・子育て支援などの活動などが挙げられることが示されている。また、歩数(1日あたり何歩など)は移動距離(1日あたり何mなど)にも概ね比例していると考えられる。
これらより、社会的活動を予防的介入行動とし、その参加量を介入量とすれば、介入量が大きいほど、あるいは適正量に近いほど、健康度が向上するものと考えることができる。この場合の介入量である社会的活動の参加量は、社会的活動の関係者が、その参加量(1週間に何回、何時間など)をユーザI/F 103、入出力I/F 102、無線通信部104などを介して端末装置100に入力する。ユーザI/F 103を使用する場合は、社会的活動の関係者がユーザ宅を訪問した際にタッチパネルなどから社会的活動の参加量を端末装置100に入力することができる。また、ユーザが自分でタッチパネルなどから社会的活動の参加量を端末装置100に入力することもできる。入出力I/F 102を使用する場合は、社会的活動の関係者が社会的活動の参加量を入力した携帯端末をユーザ宅まで携えて訪問し、その携帯端末と無線通信などで入出力I/F 102を介して通信することにより、端末装置100が社会的活動の参加量を取得することができる。無線通信部104を使用する場合は、社会的活動の関係者がインターネット経由で社会的活動の参加量を送信してユーザの端末装置100に取得させることができる。
また、この場合、歩数、移動距離を介入量とすることもでき、介入量が大きいほど、あるいは適正量に近いほど、健康度が向上するものと考えることができる。それらの介入量は、それを測定した活動量計などのセンサーデバイスと入出力I/F 102を介して無線あるいは有線で通信することにより端末装置100が取得することや、ユーザから介入量の入力をユーザI/F 103を介して端末装置100が受け付けることができる。
上西による記事「ロコモティブシンドロームと栄養」、The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 2016、Vol.53、903-907ページ、2016年、日本医学会、には、ロコモと栄養について、特に骨粗鬆症とサルコペニアについて栄養学の観点からの解説がなされ、栄養バランスが重要であり、カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、タンパク質などを十分に摂取することがロコモを防ぐために重要であることが示されている。また、ビタミンDは紫外線があたることで皮膚でも合成されることも示されている。このことより、適正値に近い紫外線暴露時間の紫外線を浴びることもロコモを防ぐために重要であることが理解される。
これらより、食事を予防的介入行動とし、特定の栄養素の摂取量を介入量とすれば、介入量が適正値に近いほど健康度が向上するものと考えることができる。この場合の介入量である特定の栄養素(カルシウムなど)の摂取量(カルシウムを含む食品の摂取量×その食品のカルシウムの含有率など)は、ユーザからのそれの入力をユーザI/F 103を介して端末装置100が受け付けることができる。
また、紫外線暴露を予防的介入行動とし、紫外線暴露時間を介入量とすれば、介入量が適正値に近いほど健康度が向上するものと考えることができる。この場合の介入量である紫外線暴露時間は、紫外線暴露時間を測定した紫外線センサーデバイス(ウェアラブル端末であってもよい)と入出力I/F 102を介して無線あるいは有線で通信することにより端末装置100が取得することができる。
脇本らによる記事「壮・中年勤労者におけるロコモティブシンドロームの実態 -精神的健康度も含めた検討-」、人間ドック 33、602-608ページ、2018年、日本人間ドック学会、には、精神的健康度の指標であるWHO-5の得点がロコモ度の独立した要因として採択でき、睡眠で十分休養がとれているかがWHO-5得点と関連していることが示されており、睡眠時間がロコモ度と関連していることが理解される。なお、睡眠時間とは、ノンレム睡眠時間であってもよく、また、レム睡眠時間とノンレム睡眠時間の比率なども睡眠の良好さを表わす指標とすることができることが知られている。
これらより、睡眠を予防的介入行動とし、睡眠時間を介入量とすれば、介入量が適正値に近いほど、あるいは長いほど、健康度が向上するものと考えることができる。この場合の介入量である睡眠時間は、睡眠時間を測定した活動量計(ウェアラブル端末であってもよい)と入出力I/F 102を介して無線あるいは有線で通信することにより端末装置100が取得することができる。また、ユーザから睡眠時間の入力をユーザI/F 103を介して端末装置100が受け付けることもできる。
他には、ロコモの防止に貢献することが知られているあらゆる種類の行動を予防的介入行動とし、その量を表わす数値を介入量として使用することができる。例えば、食事を予防的介入行動とした場合、摂取カロリー、食事時間、食事内容の適性度、を介入量とすることも可能であり、介入量が適正値に近いほど、健康度が向上するものと考えることができる。また、ロコトレや通常の運動を予防的介入行動とした場合、消費カロリー、脈拍数、を介入量とすることも可能であり、介入量が適正値に近いほど、健康度が向上するものと考えることができる。また、社会的活動を予防的介入行動とした場合、会話量を介入量とすることも可能であり、介入量が適正値に近いほど、あるいは大きいほど、健康度が向上するものと考えることができる。それらの介入量は、それを測定したセンサーデバイスと入出力I/F 102を介して無線あるいは有線で通信することにより端末装置100が取得することや、ユーザから介入量の入力をユーザI/F 103を介して端末装置100が受け付けることができる。
以下、関心健康領域が認知症の場合に戻って説明を続ける。
【0039】
次に、制御部101は、予防的介入行動のそれぞれの経時的な介入量と個人の経時的な健康度の相関度及び影響度を求める(ステップS104)。すなわち、制御部101は、経時的に取得された、予防的介入行動とその介入量のデータに対して多変量解析のような統計的手法を適用することにより、相関度及び影響度のような関連性を求める。相関度は、ある予防的介入行動が関心健康領域における健康度にどの程度の相関があるのかを表わす指標であり、影響度は、ある予防的介入行動が関心健康領域における健康度に相関がある場合に、健康度にどの程度の大きさの影響を与えるのかを表わす指標である。統計的手法としては、例えば、多変量解析を使用することができる。ここでは、多変量解析として重回帰分析を使用した。
図12は、重回帰分析の結果の例を示す図である。この重回帰分析では、近似式として一次関数を用い、直線で近似した重回帰分析を行っている。
図12には、
図11に示す、経時的に取得された、予防的介入行動とその介入量の例に対して重回帰分析を行った結果が示されている。
図12においては、予防的介入行動の介入量や、健康度を表わすものとしてのα2波の変化量(の前月からの差分)が1月ごとに経時的に取得されている。
図12の(a)は、回帰統計を示すものである。ここには、「重相関R」(重相関計数)、「重決定R2」(決定係数)、「補正R2」、「標準誤差」、「観測数」の値が示されている。ここで「決定係数」は、総変動の内で回帰式によって説明できる変動の割合を表わすものであり、その値は0.9999995であるため、ほぼすべての例が回帰式で説明できることが理解される。
図12の(b)は、帰無仮説の検定を表わす分散分析表を示すものである。ここには、「回帰」、「残差」、「合計」についての、「自由度」、「観測された分散比」、「有意F」の値が示されている。ここで「有意F」は「回帰」と「残差」という2つの「自由度」に基づいたF分布における「観測された分散比」(F値)の上側確率を示すものであり、「母重相関係数は0である」という帰無仮説を検定するものである。
図12の(b)の「有意F」の値は1.5225E-33であってほぼゼロであるため、帰無仮説を棄却する基準である有意水準が例えば1%であっても、帰無仮説は棄却され、「母重相関係数は0ではない」という対立仮説が支持されることとなり、実測値と予測値の間には相関があるといえることになる。
図12の(c)は、検定結果を示すものである。ここには、歩行、エクササイズA、エクササイズB、脳トレーニングA(脳トレA)、脳トレーニングB(脳トレB)、睡眠、アルコール摂取、喫煙という予防的介入行動についての、係数、P-値、下限95%、上限95%、下限95.0%、上限95.0%の値が示されている。また、
図12の(c)には、切片の値も示されている。
【0040】
重回帰分析において、P-値は相関度に関係するものである。すなわち、P-値は、帰無仮説(すなわち、ある予防的介入行動が関心健康領域の健康度に相関があるという仮説)が正しい場合に、より極端な統計量(相関がない値)が観測される確率であり、この値が大きいほど極端な統計量が出現しやすくなるため、相関度が小さいことになる。
図12の結果において、エクササイズB、脳トレーニングB、睡眠時間のP-値は、0.55~0.98となっており(図において網掛けで示している)、これは相関度が極めて小さいことを表わしている。一方、それ以外の予防的介入行動のP-値はゼロであり、相関度が高いことが理解される。この重回帰分析における係数は、直線で近似したときの比例定数であり、影響の大きさを示すものである。
図12の(c)の例では、関連予防的介入行動として決定された、歩行、エクササイズA、脳トレーニングA、アルコール摂取、喫煙の係数は、それぞれ、0.0001250、0.0019992、0.0014291、-0.0099851、-0.0499852である。これらの係数の値が、影響度に関連するものであり、それらの予防的介入行動の介入量が一単位増える毎に、その係数分だけ健康度が増加する傾向があることになる。アルコール摂取、喫煙については、係数の符号がマイナスであるため、影響度もマイナスであり、それらの介入量が小さいほど、健康度は高くなることになる。なお、それらの係数の逆数をとると、健康度に関連するα2波の変化量を1増加させるためには、どの程度の介入量だけ予防的介入行動を増加させることが必要かを求めることができる。歩行、エクササイズA、脳トレーニングA、アルコール摂取、喫煙の係数の逆数は、それぞれ、約、8000、500、700、-100、-20となる。すなわち、歩行は約8000歩/日だけ増加させると1月後にα2波の変化量が1増加することが期待され、エクササイズAは約500分/日だけ増加させると1月後にα2波の変化量が1増加することが期待され、脳トレーニングAは約700分/日だけ増加させると1月後にα2波の変化量が1増加することが期待され、アルコール摂取は約100ml/日だけ減少させると1月後にα2波の変化量が1増加することが期待され、喫煙は約20本/日だけ減少させると1月後にα2波の変化量が1増加することが期待されることになる。なお、α2波の変化量が増加したときのMMSE得点は、MMSE得点をx、α2波の変化量をyとした場合のy=1.225x-15.95の関係に従って増加することになる。従って、MMSE得点を1点増加させるためには、α2波の変化量は、1.225増加すればよい。これより、歩行は約9800歩/日だけ増加させると1月後にMMSE得点が1増加することが期待され、エクササイズAは約612.5分/日だけ増加させると1月後にMMSE得点が1増加することが期待され、脳トレーニングAは約857.5分/日だけ増加させると1月後にMMSE得点が1増加することが期待され、アルコール摂取は約122.5ml/日だけ減少させると1月後にMMSE得点が1増加することが期待され、喫煙は約24.5本/日だけ減少させると1月後にMMSE得点が1増加することが期待されることになる。
【0041】
次に、制御部101は、予防的介入行動の内で相関度が所定の値以上であるものを関連予防的介入行動として決定する(ステップS105)。関連予防的介入行動とは、関心健康領域の健康度に関連が認められる予防的介入行動を意味するものとする。P-値は相関度に関連する値であるが、帰無仮説を棄却する基準である有意水準に基づいてそれぞれの予防的介入行動の検定を行うことにより、相関度が低い予防的介入行動を棄却することによって、相関度が所定の値以上であるものを関連予防的介入行動として決定することができる。すなわち、制御部101は、あらかじめ設定された有意水準を記憶しており、それぞれの予防的介入行動のP-値がその有意水準未満である予防的介入行動のみを関連予防的介入行動として決定する。有意水準が小さいほど相関度は高くなるため、相関度が所定の値以上であることは、有意水準がある値以下であることに対応する。有意水準としては、一般的に5%や1%が使用されることが多い。有意水準として5%が設定されている場合は、制御部101は、P-値が0.05未満の予防的介入行動を関連予防的介入行動と決定する一方で、P-値が0.05以上の予防的介入行動は関連予防的介入行動でないものと決定して棄却する。有意水準が1%の場合も同様である。
【0042】
図12の(c)の例では、制御部101は、歩行、エクササイズA、脳トレーニングA、アルコール摂取、喫煙の予防的介入行動については、それらのP-値がゼロであるため、有意水準が1%であっても5%であっても、相関度はそれらに対応する値以上に高いこととなるため、制御部101は、それらを関心健康領域に相関がある関連予防的介入行動として決定する。一方、制御部101は、エクササイズB、脳トレーニングB、睡眠時間の予防的介入行動については、それらのP-値が0.55~0.98であるため、有意水準が1%であっても5%であっても、相関度はそれらに対応する値より低いこととなるため、関連予防的介入行動ではないものと決定する。制御部101は、ユーザに対して、決定された関心健康領域の健康度に関連が認められる関連予防的介入行動をディスプレイなどで表示すると好適である。その際には、影響度も合わせて表示するとさらに好適である。影響度は、重回帰分析で求めた係数を表示してもよいが、その係数の逆数に1.225を乗じた値を表示すると、MMSE得点が1点増加することが期待される介入量が表示されることになり、ユーザに分かりやすい指標を提供することができる。
【0043】
以上で、取得された生体情報、及び取得された予防的介入行動のそれぞれの介入量に基づき、関心健康領域における健康度に関連が認められる予防的介入行動とその影響度が求められたことになり、個人に、どのような予防的介入行動が関心健康領域における健康度の向上に有効であり、また、どの程度の介入量が健康度の向上に結びつくのかについての情報を提供できることになる。
【0044】
なお、以下のように、予防的介入行動が十分に健康度の向上に寄与するような最適介入量を決定してもよい。すなわち、制御部101は、関連予防的介入行動のそれぞれの影響度及び介入量に基づき、相関予防的介入行動の最適介入量を決定する(ステップS106)。ここで、最適介入量は、介入量の増加に対する健康度の増大量が所定の下限値以下になるときの介入量として決定されると好適である。すなわち、プラスの影響度を有する予防的介入行動の介入量は、その増加に従って健康度が向上するが、それには上限があり、だんだんと健康度の向上の程度、すなわち改善度が鈍ってくる。このようになると、介入量を増加させた割合に比して十分な健康度の改善が見込めなくなってくるため、ユーザは、そのような介入量を必要十分な介入量として、上限の目安とすることができる。
図14は、介入量と健康度の関係の例を表わす図である。図では、介入量の増加につれて健康度も増加しているが、ある点から健康度の増加の程度が鈍っていることが示されている。このような、介入量を増加させても健康度の増加が鈍くなるとき、すなわち、介入量の増加に対する健康度の増大量が所定の下限値以下になるときの介入量を最適介入量として決定すると好適である。健康度の増加が鈍くなる点は、重回帰分析において、対象の予防的介入行動のみの介入量に対する健康度の関係を二次関数、三次関数、指数関数、対数関数などの曲線の関数の近似式で近似させ、傾きが一定以下になる点として検出したりすることによって特定できる。そのような関係を一次関数の近似式で近似させた場合は、介入量の増大させた時に健康度が近似式の直線の下側に多く現れる傾向が現れる箇所を検出することによって健康度の増加が鈍くなる点を検出するとよい。
【0045】
なお、健康度に所定の疾患発生のリスクが高くなる所定の閾値を設定しており、健康度の経時的な変化に基づいて、健康度がその閾値に到達するまでの期間を予測してもよい(ステップS107)。すなわち、例えば、制御部101にMMSE得点において23点を認知症疑いの閾値として設定していたとすると、健康度(MMSE得点)が経時的に低下している場合に、制御部101は、その低下の割合から、MMSE得点が23点に到達するまでの期間(あるいは、到達する時期)を求める。このようにすると、ユーザは特定の疾患発生のリスクが高くなる時期を知ることができ、ユーザにそれに対処する準備期間を与えることができる。また、制御部101は、健康度(MMSE得点)を1のような単位量などだけ増加させるためには、予防的介入行動の介入量をどの位だけ増加させるといいのかを計算して、ユーザに対してそれを表示してもよい。このようにすると、ユーザは、どの程度、予防的介入行動の介入量を増加させると、健康度(MMSE得点)を所定量だけ増加させることができるのかを確認することができ、予防的介入行動の実施の計画をたてやすくなる。また、制御部101は、予防的介入行動の介入量を所定の値だけ増加させた場合を仮定し、介入量がその値だけ増加させられた場合の健康度が閾値に到達するまでの期間(あるいは、到達する時期)を予測し、ユーザに対してそれを表示してもよい。このようにすると、ユーザは介入量を所定の値だけ増加させた場合に疾患発生のリスクがどれほど時期的に遠ざかるかを確認することができるため、ユーザに予防的介入行動の介入量を増加させる動機付けを与えることができる。また、健康度としては、典型的にはMMSE得点を使用するが、他には、元データ(2波の変化量)を使用することもでき、また、元データを脳年齢のようなユーザに分かりやすい指標に変換して、それを使用することもできる。
【0046】
上述の例では、関心健康領域は認知機能であり、生体情報は脳波である場合を説明してきた。しかし、本発明は、認知機能以外の種々の関心健康領域に適用可能であり、生体情報は、その関心健康領域の健康度に関連のあるものであれば幅広い情報を使用することができる。従って、本発明は、そのような様々な関心健康領域に対して、それに関連する生体情報を使用することによって、広範囲に適用することができる。
【0047】
(ビッグデータ)
上述の例では、個人が自分で、生体情報を端末装置100に取得させて健康度を評価させ、予防的介入行動の介入量を端末装置100に取得させることによって、その個人に対して相関度が所定の値以上である予防的介入行動を特定し、影響度を求めるものであった。しかし多数の個人の生体情報や予防的介入行動の介入量に対して同様の方法を実行することにより、ある関心健康領域の健康度に関して、多くの人に対して一般的に相関のある予防的介入行動やその影響度を決定することができる。そのような、複数の個人の関心健康領域の健康度への関連が認められる一つ以上の生体情報に基づき、複数の個人の健康度の維持又は向上に寄与する可能性がある一つ以上の予防的介入行動のそれぞれの関連性を評価する方法は、例えば、複数の個人の端末装置100にネットワークを経由して接続された関連性評価サーバ(図示せず)などが、以下のようなステップを実行することによって実施できる。前述の例と同様に、関心健康領域は認知機能であり、生体情報は脳波とする。
【0048】
まず、複数の個人の生体情報を経時的に取得する。複数の個人からの生体情報は、前述のステップS101の具体例のように、それぞれの個人がその個人が有する端末装置100に取得させたものを、ネットワークを経由して関連性評価サーバが経時的に受信して取得する。このようにして、関連性評価サーバは生体情報のいわゆるビッグデータを取得する。
【0049】
次に、関連性評価サーバは、取得した生体情報に基づいて、複数の個人の健康度の評価を経時的に行う。すなわち、経時的に取得したそれぞれの生体情報に対応する複数の個人の健康度を求める。ステップS102の具体例と同様に、生体情報は、音楽、写真イメージのそれぞれの刺激を与えた状態で取得された脳波であり、健康度は、α2波の変化量から求めたMMSE得点である。
【0050】
その次に、関連性評価サーバは複数の個人の一つ以上の予防的介入行動のそれぞれの介入量を経時的に取得する。予防的介入行動のそれぞれの介入量は、ステップS103の具体例と同様に、それぞれの個人がその個人が有する端末装置100に取得させたものを、ネットワークを経由して関連性評価サーバが経時的に受信して取得する。このようにして、関連性評価サーバは予防的介入行動の介入量のいわゆるビッグデータを取得する。
【0051】
その次に、複数の個人の予防的介入行動のそれぞれの経時的な介入量と複数の個人の経時的な健康度とを用いた機械学習により予防的介入行動のそれぞれの介入量と健康度との関連性、すなわち相関度と影響度を求める。ステップS104の具体例と同様に、多変量解析のような統計的手法を用いて相関度と影響度を求めることもできる。しかし、介入量と健康度との関連性が予測できないような場合に対処できるように、ディープラーニングのような機械学習を用いて介入量と健康度の間の規則を抽出すると好適である。機械学習ではそれぞれの予防的介入行動毎に、介入量を入力とし、各種の関心健康領域における健康度を出力とした場合の教師あり学習を関連性評価サーバ内の機械学習モジュールに行わせる。これにより、それぞれの予防的介入行動毎に、ある介入量を入力とした場合に推定される健康度に対応する値が高い出力を与えるモデルが各種の関心健康領域に対して構築されることになる。この場合、ある関心健康領域における健康度との相関度の小さい予防的介入行動の介入量を入力とした場合は、そのモデルが出力する値は特定の健康度に対応する値が高くはならず、出力値が広範囲に分布することになる。一方、ある関心健康領域における健康度との相関度の大きい予防的介入行動の介入量を入力とした場合は、そのモデルが出力する値は特定の健康度に対応する出力値が高くなる。従って、相関度が低い場合は特定の健康度に出力を絞ることができなくなる一方で、相関度が高い場合は特定の健康度に出力を絞られることになる。好適には、このような相関度の高低に伴うモデルの出力値の分布状態の差に基づいて、ある関心健康領域において分布が絞られている相関度が高い予防的介入行動を、その関心健康領域における関連予防的介入行動として特定する。また、完成したモデルの入力に対する出力の変化の割合を検出することによって、予防的介入行動の介入量の健康度に対する影響度を特定することができる。このようにして特定した、ある関心健康領域に対応する関連予防的介入行動とその影響度は、多くの個人を母集団とした場合の一般的なものであり、公衆に対して健康度の維持・向上のための有用な情報となり得るものである。
【0052】
なお、このようにして求めた一般的な結果を、前述の個人を対象とした実施形態において、関連予防的介入行動とその影響度の初期値として設定しておくと、モニタリング開始直後のような、個人に最適な関連予防的介入行動が十分に定まっていない状態でも、ある程度正確であることが期待される一般的な関連予防的介入行動などをユーザに示すことができる。そして、ユーザが生体情報や介入度のモニタリングを継続するに連れて、関連予防的介入行動やその影響度が、そのユーザに対応するものに変化することとなる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、個人が自身で取得した生体情報に基づき、各種の予防的介入行動のどれが個人の関心健康領域における健康度の維持・向上にどの程度関連するのかという情報を個人に提供することができるようにするものであり、そのような情報を利用する、健康維持が関連する技術分野の各種の装置や方法で利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
100 :端末装置
101 :制御部
101a :プロセッサ
101b :メモリ
101c :評価プログラム
101d :提供コンテンツ
102 :入出力インタフェイス(I/F)
103 :ユーザインタフェイス(I/F)
104 :無線通信部
200 :ウェアラブルセンサ