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<図1>
  • 特許-動物用医薬製剤 図1
  • 特許-動物用医薬製剤 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】動物用医薬製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/32 20060101AFI20240806BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
A61K47/32
A61K31/55
A61P9/10
A61P13/12
A61K45/00
A61K47/46
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/26
A61K9/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020115885
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013368
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-04-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年8月6日報告の販売元への報告書に記載のように、2019年06月作成のベナゼハート(登録商標)錠5、ベナゼハート(登録商標)錠5,第1版を添付文書として2019年7月31日に製造出荷して公開
(73)【特許権者】
【識別番号】508169683
【氏名又は名称】獣医医療開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】島田 洋二郎
(72)【発明者】
【氏名】平栗 万里子
(72)【発明者】
【氏名】根岸 大吾
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-526756(JP,A)
【文献】国際公開第2008/018371(WO,A1)
【文献】ベナゼハート(登録商標)錠2.5、ベナゼハート(登録商標)錠5,添付文書,第2版,共立製薬株式会社,2020年06月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/327
A61K31/33-31/80
A61K33/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物(但し、人を除く)の嗜好性成分と、
粒子とを含み、
前記粒子は、担体と、前記担体の表面に付着してなる苦味を有する医薬活性成分を含む医薬活性成分層と、前記医薬活性成分層の表面を被覆してなるポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートを含む保護層とを含み、
前記担体の平均直径が、0.1mmから1.0mmである、ことを特徴とする動物用医薬製剤(但し、人用医薬製剤を除く)
【請求項2】
前記動物の嗜好性成分は、魚の加水分解物、酵母エキス、ミルクフレーバー、鶏肉加工物、豚肉加工物からなる群から選ばれる1種あるいは2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の動物用医薬製剤。
【請求項3】
前記担体の組成が、セルロース、デンプン、スクロース、ラクトースおよびマンニトールからなる群から選択される1種または2種以上からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の動物用医薬製剤。
【請求項4】
前記担体が、0.15mmから0.6mmの平均直径を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の動物用医薬製剤。
【請求項5】
前記担体の組成が、セルロースからなることを特徴とする請求項3に記載の動物用医薬製剤。
【請求項6】
前記医薬活性成分がベナゼプリルであることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の動物用医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物用医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
人用の医薬品等は、保健衛生上極めて重要なものであるため、平成26年11月25日に施行された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下「医薬品医療機器等法」という)で規制されている。
一方、動物用医薬品等も人用と同様に医薬品医療機器等法によって規制されている。その対象となる動物としては産業用動物としての家畜(牛、豚、山羊、馬他)、家きん(鶏、あひる、うずら他)、魚(養殖水産動物)と、伴侶動物として犬、猫、小鳥、鑑賞魚などがあげられる。
【0003】
もし産業用動物が病気になったときには、専門の獣医師によって治療がなされる。また、犬や猫等の伴侶動物が病気になった場合や病気の予防をする場合には動物病院に行って獣医師に診てもらうことになる。いずれの場合も処方される動物用医薬品は動物病院で診察した獣医師によって処方される。また伴侶動物の場合、動物用医薬品の一部は量販店やドラッグストアでの購入も可能であり、その時には飼い主によって、動物に投与される。
【0004】
医薬品を人に投与する場合、多くの場合医師の指示に従うのでノン-コンプライアンスは生じにくい。たとえ服用する錠剤が苦くて飲みにくい場合でも、患者は病気の治療に服用が不可欠と理解しているために、医師の指示に従い服薬する。また、最近では苦味など不快な味をマスキングして飲みやすく製剤工夫を加えた医薬品製剤が多く上市されている。
【0005】
一方、動物には、自ら病気治療のために不快な味を我慢して医薬品を服用する積極的な意思は働かないために、錠剤や顆粒剤が苦い場合には、摂取を止めたり吐き出す等のノン-コンプライアンスが発生する。
そのため、苦味等の不快な味を有する薬物を動物用医薬品製剤として開発する場合には、不快な味を物理的に遮断するための製剤工夫(フィルムコーティングや糖衣被覆)とともに、動物が好む嗜好性成分を一緒に製剤に配合するなどの製剤工夫が望まれる。
【0006】
上記のような状況のもと、実際に上市された動物用医薬品の中には、苦味を有する薬物活性成分を胃溶性高分子で物理的に被覆して摂取時の口中への漏出を抑え、さらに嗜好性成分を製剤中に添加することにより服薬のコンプライアンス向上を企図した動物用医薬品製剤が存在する。
特許文献1は、苦味を有する薬物活性成分がメタクリル酸ジメチルアミノエチルと一種以上の中性メタクリル酸エステルとのコポリマーの保護層によって包まれた微細粒子状であり、さらに動物の嗜好性成分であるライズドイーストを配合している動物用医薬を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4663985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示される動物用医薬で用いられる、メタクリル酸ジメチルアミノエチルと一種以上の中性メタクリル酸エステルとのコポリマーは、比較的軟化温度が低く粘着性が大きい性質がある。そのため、流動層装置を用いたコーティング作業時にコーティング粒子同士の凝集体が生じやすいため、コーティング液の噴霧速度を遅く抑えざるを得ず、作業が捗らない欠点がある。また、コーティングが終了した被覆粒子をそのまま容器中に長く放置すると、粒子が凝集する恐れがある。その結果、打錠前に凝集粒子をほぐす手間がかかるという問題があった。
【0009】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、動物にとって経口摂取しやすい製剤を、効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用する。
(1)動物の嗜好性成分と、粒子とを含み、前記粒子は、担体と、前記担体の表面に付着してなる苦味を有する医薬活性成分を含む医薬活性成分層と、前記医薬活性成分層の表面を被覆してなるポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートを含む保護層とを含み、
前記担体の平均直径が、0.1mmから1.0mmである、ことを特徴とする動物用医薬製剤。
(2)前記動物の嗜好性成分は、魚の加水分解物、酵母エキス、ミルクフレーバー、鶏肉加工物、豚肉加工物からなる群から選ばれる1種あるいは2種以上を含むことを特徴とする(1)に記載の動物用医薬製剤。
(3)前記担体の組成が、セルロース、デンプン、スクロース、ラクトースおよびマンニトールからなる群から選択される1種または2種以上からなることを特徴とする(1)又は(2)に記載の動物用医薬製剤。
(4)前記担体が、0.15mmから0.6mmの平均直径を有することを特徴とする(1)~(3)のいずれか一項に記載の動物用医薬製剤。
(5)前記担体の組成が、セルロースからなることを特徴とする(3)に記載の動物用医薬製剤。
(6)前記医薬活性成分がベナゼプリルであることを特徴とする(1)~(5)のいずれか一項に記載の動物用医薬製剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、動物用医薬品活性成分を含む苦味マスク粒子を製造上のトラブルがなく効率的に流動層造粒・コーティングにより製造することが可能となり、その動物用医薬品活性成分を含む苦味マスク粒子と合わせて動物の嗜好性成分および他の必要な製剤添加物を配合することで、動物の服薬コンプライアンスの向上が期待できる顆粒剤や錠剤などの製剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例の保管試験結果を示す写真である。
図2】本発明の比較例の保管試験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係る動物用医薬製剤及びその製造方法ついて、特徴とする技術要件の限定理由や好ましい態様について順次説明する。まず、本発明の実施形態に係る動物用医薬製剤について説明する。
【0014】
本発明の実施形態に係る動物用医薬製剤は、動物の嗜好性成分と、粒子とを含み、粒子は、担体と、担体の表面に付着してなる苦味を有する医薬活性成分を含む医薬活性成分層と、医薬活性成分層の表面を被覆してなるポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(AEA)を含む保護層とを含み、担体の平均直径が、0.1mmから1.0mmである。本発明の実施形態に係る動物用医薬製剤は、錠剤又は顆粒剤であってもよい。
【0015】
(動物の嗜好性成分)
人患者の場合、回復するための願望に頼ることで薬物製剤を経口で摂取することができる。一方、動物は回復するための願望に頼ることは難しいので、動物に薬物製剤を経口で摂取させるときは問題が生じる。強制的に薬物製剤を飲み込ませる又は注射することにより、動物に薬物を摂取させることを強制できる方法が考えられる。しかしながら、このような強制方法は、投与時に獣医を必要とするので、コストが高い問題がある。
【0016】
上述の問題を解決する一つの方法として、動物用医薬成分とともに動物の嗜好性成分を同時に配合する製剤(顆粒や錠剤)が考えられる。嗜好性成分とは通常、飼料として用いられる物質に制限されず、栄養添加物、例えば、酵母、デンプン、種々のタイプの糖等も指す。
【0017】
動物の嗜好性成分として、例えば、酵母があげられる。また、治療される動物のための乾燥飼料として普通に使用される植物又は動物起源の有機材料、治療される動物にとって既に魅力的であるか、又は人工的、天然の芳香物質又は味改良剤を添加することによって改良された植物又は動物起源の有機材料も挙げられる。
芳香物質又は味改良剤として、天然又は合成の、肉、魚及びチーズ香り、そして天然の又は人工的ミルクフレーバー等が挙げられる。
【0018】
魚の加水分解物は動物にとって魅力的な成分である。すなわち、豊富なアミノ酸を含み、かつ天然の魚の匂いを持つ。
【0019】
(粒子)
本発明の実施形態に係る動物用医薬製剤において、粒子は、医薬品添加剤として許容された固体の担体粒子表面に医薬活性成分がレイアリングされ、その層を包み込むように形成されたポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(AEA)の保護層からなる。
【0020】
(担体)
本発明の実施形態に係る動物用医薬製剤において、担体の平均直径は、0.1mmから1.0mmである。担体の平均直径が1.0mm超である場合、動物によって医薬活性成分を含む苦味マスク粒子がかみ砕かれて、苦い活性成分が放出される恐れがある。そのため、動物が動物用医薬の経口摂取を拒む恐れがある。
一方、担体の平均直径が0.1mm未満の場合、担体の製造が困難になる恐れがある。したがってより好ましくは担体材料の平均直径が、0.15mmから0.6mmである。
【0021】
担体は固体状の微細な粒子又は顆粒状であってもよい。また、担体は医薬品添加剤として許容された固体の担体であってもよい。
【0022】
担体材料としては、セルロース、デンプン、スクロース、ラクトースおよびマンニトールからなる群から選択される一種または2種以上からなることが望ましい。担体の組成が、セルロースからなることがより好ましい。
【0023】
(医薬活性成分層)
本発明の実施形態に係る動物用医薬において、医薬活性成分として、ベナゼプリルを用いてもよい。ベナゼプリルは極めて苦い味を有し、ブタ、イヌ及び特にネコによって経口で自発的に摂取されない。ベナゼプリルは、CAS登録番号[86541-75-5]を有する化学物質[S-(R*,R*)]-3-[[1-(エトキシカルボニル)-3-フェニルプロピル]アミノ]-2,3,4,5-テトラヒドロ-2-オキソ-1H-1-ベンズアゼピン-1-酢酸である。ベナゼプリルは、下記の化学構造:
【化1】
を有する。医薬目的のために、この物質は、通常、本発明の場合に於けるように、塩酸塩の形で使用される。ベナゼプリルは、欧州特許第0,072,352号明細書から公知であり、動物用医薬に於いて、商品名フォルテコール(FORTEKOR)(登録商標)で、特に、錠剤の形で、心臓及び腎臓不全症を治療するために使用される。
【0024】
ベナゼプリルは、本発明の実施例であり、活性成分としては他のものを使用することができる。特に、味の欠点を有し、経口で自発的に摂取されにくく、動物用に適している医薬活性成分を使用することができる。
【0025】
(保護層)
本発明の実施形態に係る動物用医薬において、医薬活性成分層が、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(AEA)の保護層によって被覆されている。これによって、医薬活性成分が、動物の口の中で味覚細胞と直接接触することを防止することができる。
また、粒子の保護層がポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(AEA)を含む場合は造粒工程において粒子が凝集しない。また長く放置しても、粒子が凝集する恐れがない。そのため、打錠前に粒子をほぐす手間がかからない。
【0026】
一方、医薬活性成分の層を被覆する化合物としてメタアクリル酸系胃溶性高分子で担体材料をコーティングするものがある。しかしながら、メタアクリル酸系胃溶性高分子は軟化温度が低いため、コーティング作業中に顆粒同士の付着凝集トラブルが生じる恐れがある。その結果、コーティング顆粒の保管時に凝集固化が生じる恐れがある。
【0027】
本発明の実施形態に係る動物用医薬の製造方法について説明する。
【0028】
本発明の実施形態に係る動物用医薬の製造方法は、下記の(1)~(4)に記載の方法を有していてもよい。
(1)生理学的に適合性があり、0.1mmから1.0mmの平均直径を有する固体の担体を医薬活性成分で被覆(レイアリング)する。
(2)さらにその医薬活性成分の表面を、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートの胃溶性を含む保護層で被覆する。
(3)得られた粒子と、嗜好性成分である魚の加水分解物、酵母エキス、ミルクフレーバー、鶏肉加工物、豚肉加工物の群の中から1種あるいは2種以上と、さらに顆粒用添加剤または錠剤用添加剤と混合する。
(4)錠剤の場合混合した後、打錠する。
【0029】
担体へのレイアリング方法として次のような方法を用いてもよい。
活性成分を適切な生理学的に許容される溶媒又は溶媒混合物、例えば、低沸点アルコール又はアルコール-水混合物、例えばエタノール:水(1:1)中に溶解させる。この液を流動層装置を用いてスプレー法によって粒子に吹きかける。溶媒としては、容易に揮発するものが好ましい。スプレーしながら溶媒又は溶媒混合物を、流動層中で流動させ除去する。
【0030】
医薬活性成分の層をポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(AEA)で被覆する方法として以下の方法を用いてもよい。ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(AEA)を任意に水を添加した有機溶媒中に溶解させる。この溶液を流動層装置により、活性成分をレイアリングした粒子の上にスプレーで吹きかける。そして、溶媒又は溶媒混合物を、流動層中で除去する。
これにより、粒子に被覆された医薬活性成分がマスクされる。流動層を用いて乾燥後、嗜好性成分および任意の錠剤用添加剤と混合し打錠する。
【実施例
【0031】
(実施例1)
ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートコーティング球形顆粒の製造(ロット番号H290322C2)
製造方法
(1)ベナゼプリル溶液の調製
メチルセルロース(SM-4、信越化学)50gをエタノール200gに溶解し、これに水を500g加え、容器内で均一な溶液が形成されるまで混合した。これにベナゼブリル塩酸塩100gを添加し、透明な溶液が得られるまで攪拌溶解した。
【0032】
(2)レイアリング
結晶セルロース粒(セルフィア CP203、旭化成(株))900gを転動流動層装置(FD-MP-01、(株)パウレック)のパケットに入れ、品温30℃から38℃において流動させながら上記ベナゼブリル溶液をスプレーしてレイアリングを行った。レイアリング終了後、品温40℃に到達するまで乾燥し、放冷後得られたレイアリング粒を目開き500μmの篩に通してレイアリング顆粒1008gを得た。
【0033】
(3)コーティング
メチルセルロース(SM-4、信越化学)15g、ポリピニルアセタールジエチルアミノアセテート(AEA、三菱ケミカルフーズ(株))100g及びタルク(松村産業)50gをエタノール900gに加え溶解した。続いて水300gを攪拌しながら少量ずつ加えて混合した。混合した溶液を目開き300μmの篩に通しコーティング液を調製した。
次いで前記(2)で得たレイアリング顆粒500gを転動流動層装置に入れ、品温約30℃にて流動させながらコーティング液をスプレーし、30%増量するまでコーティングし、その後品温が約50℃になるまで乾燥した。乾燥後、コーティング物を目開き500μmの篩を通し、篩下のコーティング顆粒590gを得た。コーティング作業中に凝集等のトラブルは認められなかった。
【0034】
(実施例2)
ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートコーティング球形顆粒の製造(ロット番号H301118C)
製造方法
(1)ベナゼプリル溶液の調製
メチルセルロース(SM-4、信越化学)50gをエタノール200gに溶解し、これに水を500g加え、容器内で均一な溶液が形成されるまで混合する。これにベナゼプリル塩酸塩100gを添加し、透明な溶液が得られるまで攪拌溶解した。
【0035】
(2)レイアリング
結晶セルロース粒(セルフィアCP203、旭化成(株))900gを転動流動層装置(FD-MP-01、(株)パウレック)のバケットに入れ、品温約25℃から45℃において流動させながら上記ベナゼプリル溶液をスプレーしてレイアリングを行った。レイアリング終了後、品温46℃に到達するまで乾燥し、放冷後得られたレイアリング粒を目開き500μmの篩に通してレイアリング顆粒1016gを得た。
【0036】
(3)サブコーティング
トレハロース(粉末、旭化成(株))99.56gおよびメチルセルロース(SM-4、信越化学)27.17gを水665gに加えて溶解し、サブコーティング液を調製した。次いで前記(2)で得たレイアリング顆粒950gを転動流動層装置に入れ、品温約40~45℃にて流動させながらサブコーティング液を全量スプレーして、サブコーティングし、その後品温が約50℃になるまで乾燥した。乾燥後、コーティング物を目開き500μの篩を通し、篩下のコーティング顆粒1060gを得た。
【0037】
(4)コーティング
メチルセルロース(SM-4、信越化学)27.27g、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(AEA、三菱ケミカルフーズ(株))181.82g及びタルク(松村産業)90.91gをエタノール1636.36gに加え溶解した。続いて水545.45gを撹拌しながら少量ずつ加えて混合した。この溶液を目開き150μmの篩に通しコーティング液2482gを調製した。
次いで前記(3)で得たサブコーティング顆粒1000gを転動流動層装置に入れ、品温約35~48℃にて流動させながらコーティング液をスプレーし、30%増量するまでコーティングし、その後品温が約50℃になるまで乾燥した。乾燥後、コーティング物を目開き500μmの篩を通し、篩下のコーティング顆粒1260gを得た。コーティング作業中に凝集等のトラブルは認められなかった。
【0038】
(比較例1)
メタアクリル酸系胃溶性高分子コーティング球形顆粒の製造(ロット番号H290322Cl)
製造方法
レイアリング顆粒として、実施例1で製造したレイアリング顆粒の一部を用いたほかに、以下の作業を行った。
(1)コーティング液の調製
ラウリル硫酸ナトリウム10.7g及びステアリン酸微粉末15gを1200gの水に添加し、溶解した。次いでこの液に、メタクリル酸ブチル-(2-ジメチルアミノエチル)メタクリレート-メタクリル酸メチルコポリマー(オイドラギット EPO、エボニックジャパン(株))153gを添加して溶かした。さらに別に軽質無水ケイ酸61.lg(サイリシア 350、富士シリシア化学(株))をエタノール200gに分散させた液を加え、ホモミキサーで均一に分散させたのち、目開き300μmの篩を通して、オイドラギット EPOのコーティング液を調製した。
【0039】
(2)コーティング
実施例1で得られたベナゼブリルのレイアリング顆粒500gを転動流動層装置の中に充填し、品温約30℃から35℃の間で流動させながら、上の(1)で調製したオイドラギット EPOのコーティング液を、ベナゼブリルレイアリング顆粒上に30%増量するまでスプレーした。スプレー終了後、このベレットを4%未満の残留水分に到達するまで流動乾燥させた。続いて、このベレットを目開き500μmの篩に通してコーティング顆粒395gを得た。本コーティング作業中には、流動層内で顆粒が凝集するなど流動不良がしばしば発生し作業の障害となった。またコーティングが終了した顆粒には凝集体が多く認められ、収量も395gと低かった。
【0040】
(比較例2)
メタアクリル酸系胃溶性高分子コーティング球形顆粒の製造(ロット番号H290310C)
製造方法
(1)ベナゼプリル溶液の調製
メチルセルロース(SM-4、信越化学)50gをエタノール150gに溶解し、これに水を300g加え、容器内で均一な溶液が形成されるまで混合した。これにベナゼプリル塩酸塩50gを添加し、透明な溶液が得られるまで攪拌溶解した。
【0041】
(2)レイアリング
D-マンニトール球形顆粒(ノンパレル108、フロイント産業)500gを転動流動層装置(FD-MP-01、(株)パウレック)のバケットに入れ、品温約25℃から30℃において流動させながら上記ベナゼプリル溶液をスプレーしてレイアリングを行った。レイアリング終了後、品温35℃に到達するまで乾燥し、放冷後得られたレイアリング粒を目開き500μmの篩に通してレイアリング顆粒528gを得た。
【0042】
(3)コーティング液の調製
ラウリル硫酸ナトリウム(試薬1級、キシダ化学(株))20g及びステアリン酸微粉末(GenAR、(株)樋口商会)30gを1300gの水に添加し、溶解した。次いでこの液に、メタクリル酸ブチル-(2-ジメチルアミノエチル)メタクリレート-メタクリル酸メチルコポリマー(オイドラギットEPO、エボニックジャパン(株))200gを添加して溶かし、さらに別にグリセリルモノステアレート(レオドールMS-60、花王(株))10g、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート80、日光ケミカルズ(株))4gを70℃~80℃の水に分散させたのち室温まで冷却した液を加えた。そして、泡が立たないようにホモミキサーで均一に分散させたのち、目開き300μmの篩を通して、オイドラギット EPOのコーティング液を調製した。
【0043】
(4)コーティング
上記(2)で得られたベナゼプリルのレイアリング顆粒500gを転動流動層装置の中に充填し、品温約25℃から35℃の間で流動させながら、上の1で調製したオイドラギットEPOのコーティング液を、ベナゼプリルレイアリング顆粒上に45%増量するまでスプレーした。スプレー終了後、このペレットを4%未満の水分に到達するまで流動乾燥させた。続いて、このペレットを目開き500μmの篩に通してコーティング顆粒395gを得た。本コーティング作業中には、流動層内で顆粒が凝集するなどトラブルが発生し、流動不良がしばしば作業の障害となった。またコーティングが終了した顆粒には凝集体が多く認められ、収量も705gと低かった。
【0044】
(保管による凝集試験)
保管形態
保管容器:実施例1、2および比較例1、2で得られたコーティング顆粒各100gをガラス瓶に入れ密栓した
保管温度:23℃及び37℃
保管期間:0日(開始日)、18日、26日及び28日
評価項目:凝集性を目視で観測した
試験結果を表1及び2に示した。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表1及び図1に示すように、実施例1で製造したAEAコーティング顆粒は、すべての条件で瓶内での凝集は見られず、瓶から自然流出し、かつ目開き850μmの篩を全量通過した。
【0048】
一方、比較例1で製造したオイドラギット EPOコーティング顆粒は、23℃では凝集は認められかったものの、37℃では強固な凝集が認められた。
【0049】
表2に示すように、比較例1及び2の顆粒の凝集は強固であり、ガラス瓶から顆粒を全量取り出すことは出来なかった。また、取り出せた分の顆粒は目開き800μmの篩を通過しなかった。さらに、図2に示すように、比較例1及び2の顆粒は瓶内で凝集し、逆さにしても取り出すことができなかった。
【0050】
先行技術に見られる動物用ベナゼブリル製剤のメタアクリル酸系胃溶性高分子によるコーティング顆粒と本発明による試験品(ポリピニルアセタールジエチルアミノアセテート(AEA)によるコーティング顆粒)の製造状況と顆粒保管時の凝集状況を比較した。
【0051】
その結果、メタアクリル酸系コーティング顆粒の製造工程においては、コーティング液に顆粒の凝集が生じ、コーティング液の流速を遅く維持する必要があった。更に、経時的に流動性が悪くなる傾向があり、製造工程中に篩過を必要とする場合もあり、製造時間に長時間を要した。一方、AEAコーティング顆粒の製造工程においては、顆粒の凝集は少なく、コーティング液の流速を早くすることができ、メタアクリル酸系コーティング顆粒の製造と比較して作業効率が良かった。
【0052】
また、28日間の保管中、メタアクリル酸系コーティング顆粒では保管後18日の時点で凝集が見られた。それらの凝集は強固であり、容器(瓶)から顆粒全量を取り出すことは出来なかった。さらに、取り出せた顆粒は目開き800μmの篩を通過しなかった。一方、AEAコーティング顆粒では28日管の保管期間を通し凝集は見られず、目聞き850μmの篩を全量通過した。
【0053】
コーティング顆粒が凝集すると、製造工程において凝集をほぐす作業が必要となる。ほぐす作業によってコーティングにダメージを与え、錠剤の溶出性(溶出速度)に影響する可能性が考えられる。また、均一に疑集をほぐせない場合は、打錠原料の混合性が不均一となり、含量均一牲が悪くなる。コーティング顆粒の凝集は、製造工程中に無水ケイ酸などの凝集防止剤を添加することにより防止することができるが、製造工程が一工程増えることになる。
【0054】
以上のことから、ポリピニルアセタールジエチルアミノアセテート(AEA)によるコーティング顆粒は、従来のメタアクリル酸系高分子コーティング顆粒の問題点を解決したものである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、苦味など不快な味の動物用医薬品活性成分の苦味マスクコーティング作業が効率化され、凝集性が改善された被覆粒子が得られる。この被覆された活性成分含有粒子と動物嗜好成分および他の製剤添加物から顆粒または錠剤などに剤形化することで、動物にとって経口摂取しやすくコンプライアンスに優れた製剤が得られるため、産業上の利用価値が高いものである。
図1
図2