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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】コンクリートの強度評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
G01N33/38
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020162704
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2022055227
(43)【公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】有馬 冬樹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 勇紀
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-067477(JP,A)
【文献】登録実用新案第3126195(JP,U)
【文献】特開2000-329666(JP,A)
【文献】特開2005-030974(JP,A)
【文献】特開2016-211306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート充填鋼管構造に用いられる鋼管である中空体の内部に供給された供給後コンクリートから、粗骨材を除いた試料を採取する試料採取工程と、
前記試料を用いて、前記供給後コンクリートの単位水量を推定する単位水量推定工程と、
前記単位水量推定工程により推定された単位水量に基づいて、前記中空体の内部の溜まり水の量を算出し、前記供給後コンクリートの強度を推定する強度推定工程と、
前記強度推定工程により推定された前記供給後コンクリートの強度が、許容範囲であるか否かを評価する強度評価工程と、
を具備する、
コンクリートの強度評価方法。
【請求項2】
中空体の内部に供給された供給後コンクリートから、粗骨材を除いた試料を採取する試料採取工程と、
前記試料を用いて、前記供給後コンクリートの単位水量を推定する単位水量推定工程と、
前記単位水量推定工程により推定された単位水量に基づいて、前記供給後コンクリートの強度を推定する強度推定工程と、
前記強度推定工程により推定された前記供給後コンクリートの強度が、許容範囲であるか否かを評価する強度評価工程と、
を具備し、
前記中空体は、コンクリート充填鋼管構造に用いられる鋼管であり、
前記試料採取工程において、前記鋼管に形成された蒸気抜き孔を介して前記試料を採取する、
ンクリートの強度評価方法。
【請求項3】
前記試料採取工程において、
前記蒸気抜き孔に挿通可能であり、前記蒸気抜き孔を介した前記試料の採取が可能であると共に、前記蒸気抜き孔に挿通した状態で、前記供給後コンクリートの前記粗骨材が当該蒸気抜き孔を塞ぐことを抑制する補助工具を用いる、
請求項2に記載のコンクリートの強度評価方法。
【請求項4】
前記単位水量推定工程により推定された単位水量と、比較対象のコンクリートの単位水量と、を比較した結果に基づいて、前記比較対象のコンクリートの単位水量に対する前記単位水量推定工程により推定された単位水量の増加分を算出する増加分算出工程を更に具備する、
請求項2または請求項3に記載のコンクリートの強度評価方法。
【請求項5】
前記比較対象の単位水量は、前記供給後コンクリートについて予め設計された単位水量である、
請求項4に記載のコンクリートの強度評価方法。
【請求項6】
前記供給後コンクリートについて予め設計された配合と同じ配合の標準コンクリートから、粗骨材を除いた標準試料を採取する標準試料採取工程と、
前記標準試料の単位水量を推定する標準単位水量推定工程と、
を更に具備し、
前記比較対象の単位水量は、前記標準単位水量推定工程により推定された前記標準試料の単位水量である、
請求項4に記載のコンクリートの強度評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの強度評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中空体の内部にコンクリートを供給することにより施工される建物が知られている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1には、鋼管の内部にコンクリートを充填することにより施工されるコンクリート充填鋼管構造の建物が記載されている。
【0004】
上記コンクリート充填鋼管構造の建物は、施工段階において、コンクリートが充填される前の鋼管の内部に雨水が侵入する場合がある。特許文献1に記載の建物では、鋼管が配置されたベースモルタルに、鋼管の内部の雨水を排出するための溝を形成している。
【0005】
しかしながら、上記雨水排出用の溝にごみ等が詰まった場合には、鋼管の内部の雨水が排出されずに溜まることが考えられる。この状態で、鋼管の内部にコンクリートを充填した場合には、コンクリートと雨水が混ざることでコンクリートの単位水量が増加し、当該コンクリートの強度が低下するおそれがある。このため、鋼管に供給されたコンクリートの強度を評価することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-211306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、中空体に供給されたコンクリートの強度を好適に評価することができるコンクリートの強度評価方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、コンクリート充填鋼管構造に用いられる鋼管である中空体の内部に供給された供給後コンクリートから、粗骨材を除いた試料を採取する試料採取工程と、前記試料を用いて、前記供給後コンクリートの単位水量を推定する単位水量推定工程と、前記単位水量推定工程により推定された単位水量に基づいて、前記中空体の内部の溜まり水の量を算出し、前記供給後コンクリートの強度を推定する強度推定工程と、前記強度推定工程により推定された前記供給後コンクリートの強度が、許容範囲であるか否かを評価する強度評価工程と、を具備するものである。
【0010】
請求項2においては、中空体の内部に供給された供給後コンクリートから、粗骨材を除いた試料を採取する試料採取工程と、前記試料を用いて、前記供給後コンクリートの単位水量を推定する単位水量推定工程と、前記単位水量推定工程により推定された単位水量に基づいて、前記供給後コンクリートの強度を推定する強度推定工程と、前記強度推定工程により推定された前記供給後コンクリートの強度が、許容範囲であるか否かを評価する強度評価工程と、 を具備し、前記中空体は、コンクリート充填鋼管構造に用いられる鋼管であり、前記試料採取工程において、前記鋼管に形成された蒸気抜き孔を介して前記試料を採取するものである。
【0011】
請求項3においては、前記試料採取工程において、前記蒸気抜き孔に挿通可能であり、前記蒸気抜き孔を介した前記試料の採取が可能であると共に、前記蒸気抜き孔に挿通した状態で、前記供給後コンクリートの前記粗骨材が当該蒸気抜き孔を塞ぐことを抑制する補助工具を用いるものである。
【0012】
請求項4においては、前記単位水量推定工程により推定された単位水量と、比較対象のコンクリートの単位水量と、を比較した結果に基づいて、前記比較対象のコンクリートの単位水量に対する前記単位水量推定工程により推定された単位水量の増加分を算出する増加分算出工程を更に具備するものである。
【0013】
請求項5においては、前記比較対象の単位水量は、前記供給後コンクリートについて予め設計された単位水量であるものである。
【0014】
請求項6においては、前記供給後コンクリートについて予め設計された配合と同じ配合の標準コンクリートから、粗骨材を除いた標準試料を採取する標準試料採取工程と、前記標準試料の単位水量を推定する標準単位水量推定工程と、を更に具備し、前記比較対象の単位水量は、前記標準単位水量推定工程により推定された前記標準試料の単位水量であるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、コンクリート充填鋼管構造に用いられる鋼管である中空体に供給されたコンクリートの強度を好適に評価することができる。
【0017】
請求項2においては、コンクリート充填鋼管構造に用いられる鋼管である中空体に供給されたコンクリートの強度を好適に評価することができる。また、蒸気抜き孔を介した試料の採取が可能となる。
【0018】
請求項3においては、蒸気抜き孔を介した試料の採取を好適に行うことができる。
【0019】
請求項4においては、中空体の内部の溜まり水の量を推定することができる。
【0020】
請求項5においては、中空体の内部の溜まり水の量を好適に推定することができる。
【0021】
請求項6においては、中空体の内部の溜まり水の量をより好適に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るコンクリートの強度評価方法が使用される建物の柱部分及び施工現場を示した模式図。
図2】コンクリートの強度評価方法の対象となる建物の柱部分を示した断面図。
図3】コンクリートの強度評価方法を示したフローチャート。
図4】試料採取工程を示した断面図。
図5】本発明の変形例に係るコンクリートの強度評価方法を示したフローチャート。
図6】本発明の変形例に係るコンクリートの強度評価方法が使用される建物及び施工現場を示した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、本発明の一実施形態に係るコンクリートの強度評価方法について説明する。コンクリートの強度評価方法は、コンクリート充填鋼管構造(CFT構造)の建物1を施工する際の鋼管20の内部に充填(供給)されたコンクリート40の強度を評価するものである。
【0024】
以下では、まず、図1及び図2を用いて、コンクリート充填鋼管構造の建物1について説明する。建物1は、マンションやオフィスビルなどの高層ビルである。建物1は、図1に示す施工現場Aで施工される。建物1は、鋼管20の内部空間にコンクリート40が充填されることで形成される柱を有する。
【0025】
次に、鋼管20及びコンクリート40について説明する。図1及び図2に示す鋼管20は、鋼材(鉄材)からなる筒形状の部材である。鋼管20は、長手方向を上下方向へ向けて配置される。図2に示すように、鋼管20は、建物1の基礎部10の上面に設けられる。基礎部10の上面には、上方に向けて開口し、基礎部10の紙面左右方向中央部から左端部に亘って延びる排水溝11が形成されている。
【0026】
鋼管20は、建物1の各階に亘って形成される。鋼管20は、基礎部10の上面に設置される。鋼管20は、圧入孔21、蒸気抜き孔22及びベースプレート23を具備する。
【0027】
図1に示す圧入孔21は、鋼管20の内部空間に、コンクリート40を圧送(供給)するために形成された孔である。圧入孔21には、鋼管20の内部空間にコンクリート40を圧送するポンプ車3の輸送管が接続される。
【0028】
図2に示す蒸気抜き孔22は、鋼管20の内部空間の蒸気を抜くための孔である。蒸気抜き孔22は、鋼管20の側面を貫通するように形成される。図例では、蒸気抜き孔22を、鋼管20の紙面左右方向の両側面に形成した例を示している。蒸気抜き孔22の内径寸法は、例えば、10mm~20mmの寸法を採用可能である。本実施形態では、蒸気抜き孔22の内径寸法を20mmとしている。蒸気抜き孔22は、上下方向に沿って所定間隔を空けて複数(例えば、各階ごとに)設けられる。
【0029】
ベースプレート23は、基礎部10の上面に固定される部分である。ベースプレート23は、厚さ方向を上下方向に向けた板形状に形成される。ベースプレート23は、孔部23aを具備する。
【0030】
孔部23aは、ベースプレート23を上下方向に貫通する孔である。孔部23aは、鋼管20の内部空間と連通する。また、孔部23aは、基礎部10の排水溝11と連通する。
【0031】
また、図2に示すように、鋼管20の下端部には、当該鋼管20を外側から覆う鉄筋コンクリート構造の根巻き部30が設けられる。根巻き部30の上端部は、蒸気抜き孔22よりも下方に位置する。
【0032】
コンクリート40は、粗骨材41(図4参照)、細骨材、セメント及び水を混合した建築材料である。なお、以下では、凝固する前の状態のコンクリート40(フレッシュコンクリート、生コンクリート、レディーミクストコンクリート)を、単に「コンクリート40」と称して説明する。コンクリート40としては、適宜の混和材料を添加することで流動性を向上させた高流動コンクリートを採用可能である。
【0033】
以下では、鋼管20の内部空間に、コンクリート40を充填する様子を説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて、鋼管20の内部に充填する前のコンクリート40を「充填前コンクリート40A」と称し、鋼管20の内部に充填した後のコンクリート40を「充填後コンクリート40B」と称して説明する。
【0034】
充填前コンクリート40Aは、図1に示すアジテータ車2によって適宜の生コン工場から施工現場Aに輸送される。また、充填前コンクリート40Aは、施工現場Aに設置されたポンプ車3により、当該ポンプ車3に接続された輸送管を介して、圧入孔21から鋼管20の内部空間へ圧送される。
【0035】
図1及び図2に示すように、鋼管20の内部へ充填前コンクリート40Aが圧送されることで、鋼管20の内部空間にコンクリート40(充填後コンクリート40B)が充填される。上記充填に伴い、充填後コンクリート40Bの天端は、鋼管20の内部空間を上昇する。
【0036】
図2に示すように、充填後コンクリート40Bの天端が、蒸気抜き孔22の高さに到達した際には、充填後コンクリート40Bの天端付近(表層)の部分に含まれるノロ(モルタル)が、蒸気抜き孔22からある程度漏れ出す。ここで、ノロ(モルタル)とは、充填後コンクリート40Bのうち、粗骨材41が除かれた部分である。
【0037】
なお、上述した例では、鋼管20の内部空間へのコンクリート40の供給は、鋼管20の下部に形成された圧入孔21を介してコンクリート40を圧送する圧送工法を採用した例を示したが、このような態様に限られず、鋼管20の上部から挿入されたトレミー管を介してコンクリート40を落とし込む落とし込み工法も採用可能である。
【0038】
ここで、コンクリート40が充填される前の鋼管20の内部空間には、雨水等の水が侵入する場合がある。上述した鋼管20は、内部空間に水が侵入した場合でも、孔部23a及び排水溝11を介して、上記水を外部に排出することができる。
【0039】
しかしながら、例えば、上記孔部23a及び排水溝11にごみ等が詰まった場合には、鋼管20の内部の水が排出されずに溜まることが考えられる。この状態で、鋼管20の内部空間にコンクリート40が圧入された場合には、上記水と充填後コンクリート40Bとが混ざることで、充填後コンクリート40Bの単位水量が増加し、ひいては、当該充填後コンクリート40Bの強度が低下するおそれがある。
【0040】
本実施形態に係るコンクリートの強度評価方法は、鋼管20の蒸気抜き孔22から採取したノロを試料として用いて、充填後コンクリート40Bの強度を、充填当日に評価することができる。
【0041】
以下では、コンクリートの強度評価方法の詳細について説明する。コンクリートの強度評価方法は、図3に示すように、試料採取工程(ステップS10)、単位水量推定工程(ステップS11)、増加分算出工程(ステップS12)、強度推定工程(ステップS13)及び強度評価工程(ステップS14)を具備する。
【0042】
試料採取工程(ステップS10)は、鋼管20の蒸気抜き孔22から、試料として用いるノロ(以下では、ノロ試料42と称する。)を採取する工程である。より詳細には、試料採取工程では、充填後コンクリート40Bのうち、粗骨材41が除かれたノロの一部を、ノロ試料42として採取する。本実施形態では、充填後コンクリート40Bの天端付近のノロの一部をノロ試料42として採取している。また、試料採取工程では、鋼管20に上下方向に沿って複数設けられた蒸気抜き孔22のうち、最も下方に位置する蒸気抜き孔22からノロ試料42を採取する。
【0043】
試料採取工程においては、図4に示す補助工具50を用いて、ノロを採取する方法を採用可能である。補助工具50は、軸部51及び頭部52を具備する。軸部51は、前後方向に長尺な棒形状の部分である。頭部52は、軸部51の先端部において、当該軸部51に対して拡径する円形板形状の部分である。頭部52の外径は、蒸気抜き孔22の内径よりも小さく形成される。
【0044】
図4に示すように、補助工具50を蒸気抜き孔22に挿通させることで、充填後コンクリート40Bの粗骨材41が蒸気抜き孔22を塞ぐことを抑制し、蒸気抜き孔22からノロを採取し易くすることができる。また、補助工具50を用いて、ノロを掻き出すことで、より効率的にノロを採取することができる。
【0045】
単位水量推定工程(ステップS11)は、ノロ試料42を用いて、充填後コンクリート40Bの単位水量を推定する工程である。単位水量推定工程では、試料採取工程で取得したノロ試料42のうち、所定の分量(例えば100g)分を計量したものが用いられる。単位水量推定工程は、例えば、施工現場A内の事務所等で行われる。
【0046】
単位水量推定工程では、まず、上記所定の分量分のノロ試料42から水分を除去し、当該水分を除去した後のノロ試料42の重量を測定する。上記水分の除去は、ノロ試料42を加熱乾燥することにより行われる。上記加熱乾燥としては、図1に示す高周波加熱装置(電子レンジ)60を用いた加熱乾燥を採用可能である。
【0047】
次に、水分を除去した後のノロ試料42の重量を測定する。次に、水分を除去する前のノロ試料42の重量と、水分を除去した後のノロ試料42の重量と、の差を算出する。次に、上記各重量の差(ノロ試料42に含まれていた水分量)に基づいて、充填後コンクリート40Bの単位水量の推定値を算出する。
【0048】
上記単位水量の推定値の算出は、コンクリートの単位水量を推定する既知の計算式を用いて行うことができる。上記計算式としては、コンクリートから得られたモルタルを加熱乾燥し、乾燥前後の質量差から単位水量を推定する場合に用いられる一般的な計算式を採用可能である。例えば、「高性能AE減水剤コンクリートの調合・製造および施工指針・同解説」(日本建築学会)に記載された単位水量の推定に用いる計算式を採用可能である。
【0049】
増加分算出工程(ステップS12)は、単位水量推定工程により推定された単位水量(充填後コンクリート40Bの単位水量)と、比較対象のコンクリート40の単位水量と、を比較した結果に基づいて、比較対象のコンクリート40の単位水量に対する充填後コンクリート40Bの単位水量の増加分を算出する工程である。ここで、比較対象のコンクリート40の単位水量とは、コンクリート40について予め設計された単位水量(例えば、170kg/m)である。上記比較対象のコンクリート40の単位水量は、生コン工場が作成したコンクリート40の配合計画書に示された値を用いることができる。
【0050】
上記単位水量の増加分を算出することで、鋼管20に溜まっていた水(溜まり水)の量を推定することができる。すなわち、単位水量の増加分と、充填後コンクリート40Bの体積と、を用いて、鋼管20の内部の溜まり水の量を推定することができる。また、上記溜まり水の量と、充填後コンクリート40Bの断面積(鋼管20の内部空間の平面視における面積)と、を用いて、上記溜まり水の高さを推定することができる。
【0051】
強度推定工程(ステップS13)は、単位水量推定工程により算出された単位水量に基づいて、充填後コンクリート40Bの強度(圧縮強度)を推定する工程である。強度推定工程では、例えば、水セメント比とコンクリートの強度との関係式を用いて、充填後コンクリート40Bの強度の推定値を算出する。上記関係式は、生コン工場でコンクリートを配合設計する際に用いられる水セメント比とコンクリートの強度との関係を示す一般的な関係式を用いることができる。
【0052】
強度評価工程(ステップS14)は、強度推定工程で算出された充填後コンクリート40Bの強度の推定値が、許容範囲内であるか否かを評価する工程である。ここで、本実施形態では、コンクリート40について予め設計された設計基準強度(例えば、24N/mm)を強度閾値とし、充填後コンクリート40Bの強度の推定値が、強度閾値を超える場合を許容範囲内であると評価し、上記強度の推定値が、強度閾値以下である場合を許容範囲外と評価する。なお、強度閾値としては、コンクリート40の設計基準強度に限られない。例えば、強度閾値を、コンクリート40の設計基準強度に適宜のコンクリート充填鋼管構造におけるコンクリートの強度の補正値を加えた値としてもよい。
【0053】
なお、上記単位水量推定工程、増加分算出工程及び強度推定工程で行われる算出は、人の手により行ってもよく、各種の情報の処理が可能なパーソナルコンピュータ等の制御装置を用いて行ってもよい。制御装置を用いる場合は、適宜の入力部を介して上記算出に必要な値を入力し、当該入力された値に基づいて制御装置に上記算出を自動で行わせるようにしてもよい。また、この場合は、制御装置により強度評価工程の評価の結果を出力させるようにしてもよい。
【0054】
上述の如きコンクリートの強度評価方法によれば、ノロ試料42を用いて、コンクリート40の充填当日に、充填後コンクリート40Bの強度の推定及び強度の評価を行うことができる。これにより、例えば、雨水等が鋼管20の内部に侵入した可能性がある場合でも、充填後コンクリート40Bの単位水量の増加に起因する強度への影響を評価することができる。これにより、例えば、充填後コンクリート40Bの強度の推定値が許容範囲外であると評価された場合には、コンクリート40の充填を中止するという判断が可能である。このように、上記コンクリートの強度評価方法によれば、強度の観点から問題のあるコンクリート40の充填が継続されることを防止することができる。
【0055】
また、上記コンクリートの強度評価方法は、ノロ試料42を用いて充填後コンクリート40Bの強度を推定する構成としている。これにより、例えば、模擬鋼管にコンクリートを充填し、硬化後に上記模擬鋼管を破壊して取り出したコンクリートの供試体を用いて強度を推定する方法と比べて、充填後コンクリート40Bの強度の推定を容易に行うことができる。
【0056】
また、本実施形態では、増加分算出工程により、比較対象のコンクリート40の単位水量に基づいて、鋼管20の内部の溜まり水の量を推定することができる。これにより、鋼管20の内部に水が侵入した可能性がある場合に、溜まり水の量を把握することができる。
【0057】
なお、コンクリートの強度評価方法を用いて、コンクリート40の充填を中止するか継続するかの判断を行う際には、上記強度評価工程による評価に加えて、増加分算出工程により推定された溜まり水の量に基づく評価を行うようにしてもよい。この場合は、溜まり水の量の許容範囲を定めて、当該溜まり水の量が許容範囲内であるか否かの評価を行う。上記溜まり水の量の許容範囲は、例えば、水セメント比とコンクリートの強度との関係式に基づいて適宜設定可能である。
【0058】
以上、コンクリートの強度評価方法の一例を説明したが、コンクリートの強度評価方法としては上述した例に限られない。例えば、図5及び図6に示す変形例のようにしてもよい。
【0059】
以下に示すコンクリートの強度評価方法の変形例では、図5に示すように、標準試料採取工程(ステップS20)、標準単位水量推定工程(ステップS21)、試料採取工程(ステップS22)、単位水量推定工程(ステップS23)、増加分算出工程(ステップS24)、強度推定工程(ステップS25)及び強度評価工程(ステップS26)を具備する。
【0060】
以下に示す変形例では、主として、増加分算出工程(ステップS24)で用いられる比較対象のコンクリート40の単位水量の取得方法が、上述した図3に示す増加分算出工程(ステップS12)の例と異なる。
【0061】
なお、図5に示す試料採取工程(ステップS22)、単位水量推定工程(ステップS23)、強度推定工程(ステップS25)及び強度評価工程(ステップS26)は、上述した図3に示す試料採取工程(ステップS10)、単位水量推定工程(ステップS11)、強度推定工程(ステップS13)及び強度評価工程(ステップS14)と同様であるので、説明を省略する。
【0062】
標準試料採取工程(ステップS20)は、充填前コンクリート40Aから、後述する増加分算出工程(ステップS24)で用いられる比較対象のコンクリート40の単位水量を測定するための試料(以下では「標準試料43」と称する)を採取する工程である。より詳細には、標準試料採取工程では、充填前コンクリート40Aから、粗骨材41が除かれたモルタル(ノロ)を、標準試料43として取得する。
【0063】
標準試料採取工程では、まず、充填前コンクリート40Aの一部を取得する。充填前コンクリート40Aは、充填前コンクリート40Aを鋼管20に充填する前に、図6に示すアジテータ車2から直接取得する。
【0064】
次に、上記取得した充填前コンクリート40Aから、粗骨材41を除いて標準試料43を取得する。上記標準試料43を取得する方法としては、例えば、粗骨材41を取り除くためのふるいに充填前コンクリート40Aを入れた状態で、当該充填前コンクリート40Aにバイブレータをかけて、ふるいを通過した標準試料43を得るウェットスクリーニングを用いることができる。
【0065】
標準単位水量推定工程(ステップS21)は、標準試料43を用いて、充填前コンクリート40Aの単位水量を推定する工程である。標準単位水量推定工程では、標準試料採取工程で採取した標準試料43のうち、所定の分量(例えば100g)分を計量したものが用いられる。標準単位水量推定工程は、例えば、施工現場A内の事務所等で行われる。
【0066】
標準単位水量推定工程では、まず、上記所定の分量分の標準試料43から水分を除去し、当該水分を除去した後の標準試料43の重量を測定する。上記水分の除去は、標準試料43を加熱乾燥することにより行われる。上記加熱乾燥としては、図6に示す高周波加熱装置(電子レンジ)60を用いた加熱乾燥を採用可能である。
【0067】
次に、水分を除去した後の標準試料43の重量を測定する。次に、水分を除去する前の標準試料43の重量と、水分を除去した後の標準試料43の重量と、の差を算出する。次に、上記各重量の差(標準試料43に含まれていた水分量)に基づいて、充填前コンクリート40Aの単位水量の推定値を算出する。
【0068】
上記単位水量の推定値の算出は、上述した単位水量推定工程(ステップS11)と同様、フレッシュコンクリートから単位水量を推定する既知の計算式を用いて行うことができる。
【0069】
増加分算出工程(ステップS24)は、単位水量推定工程(ステップS23)により推定された単位水量(充填後コンクリート40Bの単位水量)と、標準単位水量推定工程(ステップS21)で推定された充填前コンクリート40Aの単位水量(比較対象の充填前コンクリート40Aの単位水量)と、を比較した結果に基づいて、充填前コンクリート40Aの単位水量に対する充填後コンクリート40Bの単位水量の増加分を算出する工程である。
【0070】
上記方法によれば、実際に建物1の施工に用いられる充填前コンクリート40Aから採取した標準試料43を用いて当該充填前コンクリート40Aの単位水量を推定し、当該充填前コンクリート40Aの単位水量の推定値に基づいて、上記充填後コンクリート40Bの単位水量の増加分を算出することができる。これにより、鋼管20に溜まっていた水(溜まり水)の量をより正確に推定することができる。
【0071】
なお、上述した例では、標準試料採取工程において、アジテータ車2から取得した充填前コンクリート40Aにより標準試料43を採取したが、このような態様に限られない。例えば、実際に建物1の施工に用いる充填前コンクリート40Aではなく、当該充填前コンクリート40Aと同じ配合の他のコンクリートから標準試料43を採取してもよい。ここで、「同じ配合」とは、単位セメント量や単位水量等のコンクリートの設計の条件が同じであることを指す。
【0072】
以上のように、本発明の一実施形態に係るコンクリートの強度評価方法は、
中空体(鋼管20)の内部に供給された供給後コンクリート(充填後コンクリート40B)から、粗骨材41を除いた試料(ノロ試料42)を採取する試料採取工程(ステップS10)と、
前記試料(ノロ試料42)を用いて、前記供給後コンクリート(充填後コンクリート40B)の単位水量を推定する単位水量推定工程(ステップS11)と、
前記単位水量推定工程により推定された単位水量に基づいて、前記供給後コンクリート(充填後コンクリート40B)の強度を推定する強度推定工程(ステップS13)と、
前記強度推定工程により推定された前記供給後コンクリート(充填後コンクリート40B)の強度が、許容範囲であるか否かを評価する強度評価工程(ステップS14)と、
を具備するものである。
【0073】
このような構成により、中空体(鋼管20)に供給された供給後コンクリート(充填後コンクリート40B)の強度を好適に評価することができる。すなわち、供給後コンクリート(充填後コンクリート40B)から採取した試料(ノロ試料42)の単位水量に基づいて、供給後コンクリート(充填後コンクリート40B)の強度の推定及び強度の評価を行うことができる。これにより、例えば、中空体(鋼管20)の内部に水が侵入した可能性がある場合でも、供給後コンクリート(充填後コンクリート40B)の単位水量の増加に起因する強度への影響を評価することで、供給後コンクリート(充填後コンクリート40B)の供給の中止等の判断を行うことができる。
【0074】
また、前記中空体(鋼管20)は、コンクリート充填鋼管構造に用いられる鋼管20であり、
前記試料採取工程(ステップS10)において、前記鋼管20に形成された蒸気抜き孔22を介して前記試料(ノロ試料42)を採取するものである。
【0075】
このような構成により、蒸気抜き孔22を介した試料(ノロ試料42)の採取が可能となる。また、蒸気抜き孔22を介して排出するノロ(モルタル)を試料(ノロ試料42)として用いることができる。
【0076】
また、コンクリートの強度評価方法は、
前記試料採取工程(ステップS10)において、
前記蒸気抜き孔22に挿通可能であり、前記蒸気抜き孔22を介した前記試料(ノロ試料42)の採取が可能であると共に、前記蒸気抜き孔22に挿通した状態で、前記供給後コンクリート(充填後コンクリート40B)の前記粗骨材41が当該蒸気抜き孔22を塞ぐことを抑制する補助工具50を用いるものである。
【0077】
このような構成により、蒸気抜き孔22を介した試料(ノロ試料42)の採取を好適に行うことができる。
【0078】
また、コンクリートの強度評価方法は、
前記単位水量推定工程(ステップS11)により推定された単位水量と、比較対象のコンクリートの単位水量と、を比較した結果に基づいて、前記比較対象のコンクリートの単位水量に対する前記単位水量推定工程(ステップS11)により推定された単位水量の増加分を算出する増加分算出工程(ステップS12)を更に具備するものである。
【0079】
このような構成により、中空体(鋼管20)の内部の溜まり水の量を推定することができる。これにより、中空体(鋼管20)の内部に水が侵入した可能性がある場合に、溜まり水の量を把握することができる。
【0080】
また、前記比較対象の単位水量は、前記供給後コンクリート(充填後コンクリート40B)について予め設計された単位水量であるものである。
【0081】
このような構成により、中空体(鋼管20)の内部の溜まり水の量を好適に推定することができる。すなわち、供給後コンクリート(充填後コンクリート40B)について予め設計された単位水量に基づいて、中空体(鋼管20)の内部の溜まり水の量を推定することができる。これにより、比較的簡易な方法で、中空体(鋼管20)の内部の溜まり水の量の推定が可能となる。
【0082】
また、コンクリートの強度評価方法は、
前記供給後コンクリート(充填後コンクリート40B)について予め設計された配合と同じ配合の標準コンクリート(充填前コンクリート40A)から、粗骨材41を除いた標準試料43を採取する標準試料採取工程(ステップS20)と、
前記標準試料43の単位水量を推定する標準単位水量推定工程(ステップS21)と、
を更に具備し、
前記比較対象の単位水量は、前記標準単位水量推定工程(ステップS21)により推定された前記標準試料43の単位水量であるものである。
【0083】
このような構成により、中空体(鋼管20)の内部の溜まり水の量をより好適に推定することができる。すなわち、標準コンクリート(充填前コンクリート40A)から採取した標準試料43について、実際に推定した単位水量に基づいて、中空体(鋼管20)の内部の溜まり水の量を推定することができる。これにより、より正確な中空体(鋼管20)の内部の溜まり水の量の推定が可能となる。
【0084】
なお、本実施形態に充填前コンクリート40Aは、本発明に係る標準コンクリートの一形態である。
また、本実施形態に係る充填後コンクリート40Bは、本発明に係る供給後コンクリートの一形態である。
【0085】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0086】
例えば、本実施形態では、試料採取工程(ステップS10)において、補助工具50を用いてノロ試料42を採取した例を示したが、このような態様に限られない。例えば、スコップ等、補助工具50とは異なる適宜の道具を用いてノロ試料42を採取するようにしてもよい。また、例えば、蒸気抜き孔22を介して漏れ出たノロを、ノロ試料42として採取するようにしてもよい。
【0087】
また、本実施形態では、コンクリート充填鋼管構造に用いられる鋼管20を、コンクリート40が供給される中空体とした例を示したが、このような態様に限られない。上記中空体としては、コンクリート40が打設される適宜の型枠を採用可能である。
【0088】
この場合は、上述した試料採取工程(ステップS10)に代えて、型枠内に打設されたコンクリート40の一部(例えば天端付近)を採取し、ウェットスクリーニング等により当該採取したコンクリート40から粗骨材41を除去したものをノロ試料42として用いるようにしてもよい。このようなノロ試料42を用いた場合でも、上述した単位水量推定工程、増加分算出工程、強度推定工程及び強度評価工程を実行することで、型枠に打設されたコンクリート40の強度の評価を行うことができる。これにより、例えば、ゲリラ豪雨等により型枠の内部に水が侵入した場合に、当該型枠に打設されたコンクリート40の単位水量の増加に起因する強度への影響を評価することができる。
【符号の説明】
【0089】
20 鋼管
22 蒸気抜き孔
40A 充填前コンクリート
40B 充填後コンクリート
50 補助工具
図1
図2
図3
図4
図5
図6