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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】パルス波高分析装置及び放射能測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/36 20060101AFI20240806BHJP
   G01T 1/17 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G01T1/36 B
G01T1/17 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020168683
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060915
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】710002462
【氏名又は名称】セイコー・イージーアンドジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 知之
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-151213(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0166542(US,A1)
【文献】User Manual UM4150 DT5770 Digital MCA,CAEN Electronic Instrumentation,イタリア,CAEN,2017年05月09日,Rev. 2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/36
G01T 1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線検出器から出力される信号パルスのデジタル信号に対するデジタル演算によって、複数のチャネルの各々に対応付けられるカウントを有する波高分布データを生成するパルス波高分析装置であって、
前記デジタル信号に対する所定のデジタル増幅によって前記チャネルを変換する場合に、少なくとも1つの変換前のチャネルを少なくとも1つの変換後のチャネルに対応付けるとともに、前記少なくとも1つの前記変換前のチャネルに対応付けられるカウントを前記デジタル増幅に応じて前記少なくとも1つの変換後のチャネルに対応付けて配する処理部を備え、
前記処理部は、
前記デジタル増幅によって1つの前記変換前のチャネルを1つの又は複数の前記変換後のチャネルに対応付けるとともに前記デジタル信号の1イベント毎の入力に対して前記チャネルの変換を行う場合に、
前記1イベントの入力後に前記1つの前記変換前のチャネルに対応付けられる1カウントを前記1つの又は複数の前記変換後のチャネルに対応付けて実数型のカウント値として配する積算値と、前記1イベントの入力前の同チャネルの各々の整数型のカウント値の積算値との差分を取得し、
前記1カウントを、前記差分が最大の1つのチャネルにのみ対応付けて前記整数型のカウント値に配する
ことを特徴とするパルス波高分析装置。
【請求項2】
放射線検出器から出力される信号パルスのデジタル信号に対するデジタル演算によって、複数のチャネルの各々に対応付けられるカウントを有する波高分布データを生成するパルス波高分析装置であって、
前記デジタル信号に対する所定のデジタル増幅によって前記チャネルを変換する場合に、少なくとも1つの変換前のチャネルを少なくとも1つの変換後のチャネルに対応付けるとともに、前記少なくとも1つの前記変換前のチャネルに対応付けられるカウントを前記デジタル増幅に応じて前記少なくとも1つの変換後のチャネルに対応付けて配する処理部を備え、
前記処理部は、
前記所定のデジタル増幅を対数増幅とし、
前記デジタル増幅によって1つの前記変換前のチャネルを1つの又は複数の前記変換後のチャネルに対応付けるとともに前記波高分布データの最小のチャネルから最大のチャネルに向かって順次に変換を行う場合に、
前記1つの前記変換前のチャネルに対応付けられるカウントを前記1つの又は複数の前記変換後のチャネルに対応付けて実数型のカウント値として配する積算値を整数部と小数部に分け、前記小数部はその積算値が整数に繰り上がるチャネルに1カウントを対応付けて整数型のカウント値に配する
ことを特徴とするパルス波高分析装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のパルス波高分析装置と、
前記信号パルスを出力する放射線検出器と、
前記信号パルス又は前記信号パルスの増幅によって得られる増幅パルスを所定のサンプリング周波数で前記デジタル信号に変換する変換器と
を備えることを特徴とする放射能測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス波高分析装置及び放射能測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、波高スペクトル間等でのデジタル演算による微分非直線性の誤差増大を抑制するために、実数型のヒストグラムを用いてチャネル幅についての補正を行う方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】高橋浩之、井口哲夫、中沢正治著、「デジタル演算に適した実数型ヒストグラムメモリーについて」、日本原子力学会、1994年(第32回)春の年会要旨集、1994年3月10日、p.604
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1は測定後の波高分布データに対して適用した例であるが、例えばデジタルMCA(Multi Channel Analyzer)等によるデジタルパルス信号処理では、デジタルゲイン処理に相当し、放射線の1イベント(1カウント)毎にリアルタイムに処理されることが望まれる。
【0005】
本発明は、デジタル演算での微分非直線性の誤差増大を抑制しながらリアルタイムにデジタルパルス信号処理を実行することができるパルス波高分析装置及び放射能測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明は以下の態様を採用した。
(1)本発明の一態様に係るパルス波高分析装置は、放射線検出器から出力される信号パルスのデジタル信号に対するデジタル演算によって、複数のチャネルの各々に対応付けられるカウントを有する波高分布データを生成するパルス波高分析装置であって、前記デジタル信号に対する所定のデジタル増幅によって前記チャネルを変換する場合に、少なくとも1つの変換前のチャネルを少なくとも1つの変換後のチャネルに対応付けるとともに、前記少なくとも1つの前記変換前のチャネルに対応付けられるカウントを前記デジタル増幅に応じて前記少なくとも1つの変換後のチャネルに対応付けて配する処理部を備える。
【0007】
(2)上記(1)に記載のパルス波高分析装置では、前記処理部は、前記デジタル増幅によって1つの前記変換前のチャネルを1つの又は複数の前記変換後のチャネルに対応付けるとともに前記デジタル信号の1イベント毎の入力に対して前記チャネルの変換を行う場合に、前記1イベントの入力後に前記1つの前記変換前のチャネルに対応付けられる1カウントを前記1つの又は複数の前記変換後のチャネルに対応付けて実数型のカウント値として配する積算値と、前記1イベントの入力前の同チャネルの各々の整数型のカウント値の積算値との差分を取得し、前記1カウントを、前記差分が最大の1つのチャネルにのみ対応付けて前記整数型のカウント値に配してもよい。
【0008】
(3)上記(1)に記載のパルス波高分析装置では、前記処理部は、前記所定のデジタル増幅を対数増幅(対数変換)とし、前記デジタル増幅によって1つの前記変換前のチャネルを1つの又は複数の前記変換後のチャネルに対応付けるとともに前記波高分布データの最小のチャネルから最大のチャネルに向かって順次に変換を行う場合に、前記1つの前記変換前のチャネルに対応付けられるカウントを前記1つの又は複数の前記変換後のチャネルに対応付けて実数型のカウント値として配する積算値を整数部と小数部(端数部)に分け、前記小数部はその積算値が整数に繰り上がるチャネルに1カウントを対応付けて整数型のカウント値に配してもよい。
【0009】
(4)本発明の一態様に係る放射能測定装置は、上記(1)から(3)の少なくともいずれか1つに記載のパルス波高分析装置と、前記信号パルスを出力する放射線検出器と、前記信号パルス又は前記信号パルスの増幅によって得られる増幅パルスを所定のサンプリング周波数で前記デジタル信号に変換する変換器とを備える。
【発明の効果】
【0010】
上記(1)によれば、デジタル増幅に応じて変換前の1つのチャネルのカウントを変換後の複数のチャネルに分配又は変換前の複数のチャネルのカウントを変換後の1つのチャネルに配置する処理部を備えることによって、微分非直線性の誤差増大を抑制しながら適切なデジタルパルス信号処理を実行することができる。例えば、ADCのビット数が少ない場合又はデジタルフィルタの整形時間(時定数)が短い場合等であっても、微分非直線性の誤差増大を抑制することができる。
【0011】
上記(2)の場合、1イベントの入力後の実数型の積算カウント値と1イベントの入力前の整数型の積算カウント値との差分が最大となるチャネルの整数型のカウント値に1を加算する処理部を備えることによって、丸め誤差の増大を抑制しながら実数型に精度良く近似される整数型の波高分布データを生成することができる。1イベント毎に変換後の適宜の1チャネルの整数型のカウント値に1カウントを加算することによって、リアルタイム測定等に適したデジタルパルス信号処理を実行することができる。
【0012】
上記(3)の場合、最小のチャネルから最大のチャネルに向かって順次に変換を行う場合に実数型の積算カウント値の端数(小数部)が繰り上がるチャネルの整数型のカウント値に1を加算する処理部を備えることによって、丸め誤差の増大を抑制しながら実数型に精度良く近似される整数型の波高分布データを生成することができる。全チャネルの各カウントを順次に一括変換することによって、表示スケールを対数変換する場合等に有用である。
【0013】
上記(4)によれば、デジタル演算での微分非直線性の誤差増大を抑制しながら適切なデジタルパルス信号処理を実行するパルス波高分析装置を備えることによって、放射能測定の精度及び利便性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態でのパルス波高分析装置を備える放射能測定装置の構成を模式的に示す図。
図2】本発明の実施形態のパルス波高分析装置でのデジタルゲイン増幅(×1.1)の例を示す図。
図3】本発明の実施形態のパルス波高分析装置での分配前カウントと分配後カウントとの例を示す図。
図4】本発明の実施形態のパルス波高分析装置での実施例及び比較例の増幅前スペクトル及び増幅後スペクトルの例を示す図。
図5】本発明の実施形態のパルス波高分析装置でのデジタルゲイン増幅(×0.9)の例を示す図。
図6】本発明の実施形態のパルス波高分析装置でのデジタル対数変換の例を示す図。
図7】本発明の実施形態のパルス波高分析装置での実施例及び比較例の変換前スペクトル(Linear)及び変換後スペクトル(Log)の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係るパルス波高分析装置を備える放射能測定装置について、添付図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、実施形態でのパルス波高分析装置14を備える放射能測定装置10の構成を模式的に示す図である。
実施形態の放射能測定装置10は、放射線検出器11と、プリアンプ12と、高速ADC13と、パルス波高分析装置14とを備える。
【0017】
放射線検出器11は、例えばゲルマニウム等の半導体検出器である。放射線検出器11は、試料等から放出される放射線(例えば、γ線、X線及びβ線等)を検出する。放射線検出器11は、検出する放射線のエネルギーに応じた波高値を有する信号パルスを出力する。
プリアンプ12は、放射線検出器11から出力されるアナログの信号パルスを増幅する。
高速ADC(Analog to Digital Converter)13は、プリアンプ12から出力されるアナログの信号パルスを所定のサンプリング周波数でデジタルの信号パルスに変換する。
【0018】
パルス波高分析装置14は、例えばリアルタイムのデジタル信号処理を行なうデジタルMCA(Multi Channel Analyzer:マルチチャネルアナライザ)等である。
パルス波高分析装置14は、例えば、デジタルフィルタ21と、入力部22と、出力部23と、処理部24とを備える。
デジタルフィルタ21は、プリアンプ12から入力されるデジタルの信号パルスに対して、例えば、三角波整形又は台形整形等の波形整形、ポールゼロ調整、波高弁別、デジタル的なゲインによる増幅及びタイミング検出等のパルス検出のデジタル信号処理を行う。デジタルフィルタ21は、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)により実現される。
【0019】
入力部22は、例えば操作者の入力操作に応じた信号を出力するタッチパネル、各種のスイッチ又はキーボードなどを備える。入力部22は、操作者の入力操作に応じた信号をデジタルフィルタ21及び処理部24へ送信する。
出力部23は、タッチパネルなどの表示装置を備え、処理部24から受信した各種のデータ及び情報を表示する。
【0020】
処理部24は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサによって所定のプログラムが実行されることにより機能するソフトウェア機能部である。ソフトウェア機能部は、CPUなどのプロセッサ、プログラムを格納するROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)及びタイマーなどの電子回路を備えるECU(Electronic Control Unit)である。処理部24の少なくとも一部は、LSI(Large Scale Integration)などの集積回路であってもよい。
なお、図1に示す実施形態では、デジタルフィルタ21及び処理部24は分離された構成要素とされているが、これに限定されず、相互に兼ねる機能を有する構成要素とされてもよいし、例えばデジタルゲイン処理を含むヒストグラム作成を処理するFPGAを備えてもよい。
【0021】
処理部24は、入力部22から入力される信号等に応じて、デジタルフィルタ21から出力されるパルス信号に対して、例えば、ピーク波高値検出及びピーク波高値のヒストグラム作成等のデジタル信号処理を行う。
ピーク波高値のヒストグラムは、ピーク波高値を示すチャネルと、チャネル毎のカウントとの対応関係を示す波高分布データである。ピーク波高値のヒストグラムは、例えば、放射線検出器11が放射線のエネルギーに応じた波高値を有する信号パルスを出力する場合のエネルギースペクトルである。
【0022】
(ゲイン増幅)
処理部24は、パルス信号を所定のゲインrによってデジタル増幅するゲイン増幅の処理を行う。処理部24は、例えば、波高分布データの変換前の1つのチャネルのカウントを変換後の複数のチャネルに分配又は変換前の複数のチャネルのカウントを変換後の1つのチャネルに配置することによってデジタル増幅を行う。
【0023】
以下に、所定のゲインrが0.5から1.5までの適宜の値である場合の例について説明する。
処理部24は、例えば、0.5から1.5までの適宜の値である所定のゲインr(0.5≦r≦1.5)によってゲイン増幅を行う場合、変換前(つまり増幅前)のチャネルnのカウントcを変換後(つまり増幅後)のチャネル範囲のカウントに分配する。変換後のチャネル範囲は、切り捨てによる整数化を示すINT関数によるチャネル(INT(n×r))からチャネル(INT(n×r)+2)までの範囲である。つまり、変換前のチャネルnのカウントcは、ゲインrに応じて、最小である1チャネル分から最大である3チャネル分に分配される。
変換前のチャネルnとゲインrとによって得られる変換後の実数チャネルの範囲は、第1実数チャネルd1(=n×r)から第2実数チャネルd2(=d1+r=(n+1)×r)までの範囲である。変換後の実数チャネルの範囲に対応する変換後の整数チャネルの範囲は、第1整数チャネルn1(=INT(d1))から第2整数チャネルn2(=INT(d2))までの範囲である。
【0024】
変換後の整数チャネルn1のカウントc0、変換後の整数チャネル(n1+1)のカウントc1及び変換後の整数チャネル(n1+2)のカウントc2は、第1整数チャネルn1及び第2整数チャネルn2に応じて、下記数式(1)、下記数式(2)及び下記数式(3)のいずれかに示すように記述される。
第1整数チャネルn1及び第2整数チャネルn2の差がゼロである場合(つまり、n2-n1=0の場合)、各カウントc0,c1,c2は下記数式(1)に示すように記述される。つまり、変換前のチャネルnのカウントcは、変換後の整数チャネルn1にのみ配置される。
【0025】
【数1】
【0026】
第1整数チャネルn1及び第2整数チャネルn2の差が1である場合(つまり、n2-n1=1の場合)、各カウントc0,c1,c2は下記数式(2)に示すように記述される。つまり、変換前のチャネルnのカウントcは、変換後の2つの整数チャネルn1,(n1+1)に分配される。
【0027】
【数2】
【0028】
第1整数チャネルn1及び第2整数チャネルn2の差が2である場合(つまり、n2-n1=2の場合)、各カウントc0,c1,c2は下記数式(3)に示すように記述される。つまり、変換前のチャネルnのカウントcは、変換後の3つの整数チャネルn1,(n1+1),(n1+2)に分配される。
【0029】
【数3】
【0030】
図2は、実施形態のパルス波高分析装置14でのデジタルゲイン増幅(×1.1)の例を示す図である。図3は、実施形態のパルス波高分析装置14での分配前カウントと分配後カウントとの例を示す図である。
図2及び図3に示すように、例えばゲインrが1.1である場合(r=1.1)、上記数式(2)又は数式(3)に示すように、変換前のチャネルnのカウントcは、変換後の2つの整数チャネルn1,(n1+1)又は3つの整数チャネルn1,(n1+1),(n1+2)に分配される。
【0031】
例えば図2に示すように、変換前(チャネル増幅前)のチャネル0のカウントN0は、変換後(チャネル増幅後)のチャネル0のカウント(N0/1.1)とチャネル1のカウント(N0×0.1/1.1)とに分配される。変換前のチャネル1のカウントN1は、変換後のチャネル1のカウント(N1×0.9/1.1)と変換後のチャネル2のカウント(N1×0.2/1.1)とに分配される。これらにより、変換後のチャネル1のカウントは、カウント(N0×0.1/1.1)とカウント(N1×0.9/1.1)とを加算して得られるカウントになる。
【0032】
例えば図3に示すように、変換前のチャネル0のカウントN0(=11)、チャネル1のカウントN1(=22)、チャネル2のカウントN2(=33)及びチャネル3のカウントN3(=11)に対して、変換後のチャネル0のカウントはN0/1.1=10である。変換後のチャネル1のカウントは(N0×0.1/1.1+N1×0.9/1.1=19)であり、変換後のチャネル2のカウントは(N1×0.2/1.1+N2×0.8/1.1=28)であり、変換後のチャネル3のカウントは(N2×0.3/1.1+N3×0.7/1.1=16)である。
【0033】
図4は、実施形態のパルス波高分析装置14での実施例及び比較例の増幅前スペクトル及び増幅後スペクトルの例を示す図である。
図4に示す実施例(カウント分配後)は、ゲインr(=1.1)によってチャネルを変換するとともに、変換後のチャネルにカウントを分配する例である。実施例では、変換前のチャネルによる波高分布データ(チャネル増幅前)と、変換前のチャネルに所定のゲインr(=1.1)を乗算するとともに、変換後のチャネルにカウントを分配して得られる波高分布データ(チャネル増幅後)とを示している。
図4に示す比較例(カウント分配なし)は、単にゲインr(=1.1)によってチャネルを変換する例である。比較例では、変換前のチャネルによる波高分布データ(チャネル増幅前)と、変換前のチャネルに所定のゲインr(=1.1)を乗算して得られる波高分布データ(チャネル増幅後)とを示している。
【0034】
比較例では、カウントの分配無しに変換後のチャネルが整数化(切り捨て)されることに伴って、例えばカウントがゼロとなるチャネル等のように、特異的にカウントの増減が増大するチャネルが生じる。これに対して、実施例では、変換後のチャネルが整数化されるとともにカウントの分配が行われることによって、特異的なカウントの増減が増大するチャネルは生じない。また、実施例では、ゲインrに応じてピーク形状が正しく(アナログ的に)変化している。
【0035】
図5は、実施形態のパルス波高分析装置14でのデジタルゲイン増幅(×0.9)の例を示す図である。
図5に示すように、例えばゲインrが0.9である場合(r=0.9)、上記数式(1)又は上記数式(2)に示すように、変換前のチャネルnのカウントcは、変換後の1つの整数チャネルn1又は変換後の2つの整数チャネルn1,(n1+1)に分配される。
例えば図5に示すように、変換前(チャネル増幅前)のチャネル0のカウントN0は、変換後(チャネル増幅後)のチャネル0に配置される。変換前のチャネル1のカウントN1は、変換後のチャネル0のカウント(N1×0.1/0.9)とチャネル1のカウント(N1×0.8/0.9)とに分配される。これらにより、変換後のチャネル0のカウントは、カウントN0とカウント(N1×0.1/0.9)とを加算して得られるカウントになる。
変換前のチャネル2のカウントN2は、変換後のチャネル1のカウント(N2×0.2/0.9)と変換後のチャネル2のカウント(N2×0.7/0.9)とに分配される。これらにより、変換後のチャネル1のカウントは、カウント(N1×0.8/0.9)とカウント(N2×0.2/0.9)とを加算して得られるカウントになる。
【0036】
下記表1には、ゲインrが1.1、0.8及び1.21の各々である場合での、変換前のチャネルn、チャネルnのカウントc、変換後の実数チャネルの範囲を示す分配先実数チャネル(第1実数チャネルd1(=n×r)~第2実数チャネルd2(=d1+r=(n+1)×r))、変換後の整数チャネルの範囲を示す分配先整数チャネル(第1整数チャネルn1(=INT(d1))~第2整数チャネルn2(=INT(d2)))、変換後の整数チャネルn1のカウントc0を示す第1分配先カウントC(INT(n×r))、変換後の整数チャネル(n1+1)のカウントc1を示す第2分配先カウントC(INT(n×r)+1)及び変換後の整数チャネル(n1+2)のカウントc2を示す第3分配先カウントC(INT(n×r)+2)の例を示した。
【0037】
【表1】
【0038】
(対数変換)
処理部24は、パルス信号をデジタル的に対数増幅することによって波高分布データのチャネルを線形スケールから対数スケールに変換する対数変換の処理を行う。処理部24は、例えば、波高分布データの変換前の1つのチャネルのカウントを変換後の複数のチャネルに分配又は変換前の複数のチャネルのカウントを変換後の1つのチャネルに配置することによって対数変換を行う。
【0039】
以下に、10を底とする対数スケールにて、チャネル数が10ビットである場合の例について説明する。
図6は、実施形態のパルス波高分析装置14でのデジタル対数変換の例を示す図である。
下記表2には、変換前のチャネルn、チャネルnのカウントc、変換後のLogチャネル、Log(1024)=1023に規格化した場合のLogチャネル(スケール化)、Logチャネル(スケール化)に応じた整数によって記述されるカウントcの配置先チャネル及び各配置先チャネルのカウントの例を示した。
【0040】
【表2】
【0041】
上記表2に示すように、処理部24は、変換後のLogチャネル(スケール化)の隣り合うチャネル間隔が1以上の場合には、1つの変換前のチャネルnのカウントcを複数の配置先チャネルに分配する。一方、処理部24は、変換後のLogチャネル(スケール化)の隣り合うチャネル間隔が1未満の場合には、複数の変換前のチャネルnのカウントcを1つの配置先チャネルに配置する。配置先チャネルは、変換後のLogチャネル(スケール化)に応じた整数型のチャネルである。
例えば、図6及び上記表2に示す変換前のチャネルn(=1)の場合、Logチャネル(スケール化)は、102.300であり、配置先チャネルは、1から103までの整数型のチャネルである。配置先チャネルの1から102までは、変換前のチャネルn(=1)のカウントc(=N1)が等分に分配され、端部(境界)のチャネル103では、変換前のチャネルn(=1)のカウントc(=N1)と変換前のチャネルn+1(=2)のカウントc2(=N2)がLogチャネル(スケール化)と配置先チャネルとのチャネル幅の割合に応じて結合される。
【0042】
処理部24は、変換後のLogチャネル(スケール化)の隣り合うチャネル間隔が1未満であることによって、複数の変換前のチャネルnのカウントcを1つの配置先チャネルに配置する場合であっても、変換後のLogチャネルの端部(境界)では、Logチャネル(スケール化)と配置先チャネルとのチャネル幅の割合に応じてカウントcを分配する。変換後のLogチャネルの端部(境界)は、例えば上記表2に示す、Log1010とLog1011との間及びLog1017とLog1018との間である。
例えば、変換前のチャネルn(=1017)の場合、カウントc(=N1017)は、Logチャネル(スケール化)のLog1017及びLog1018の各々と、配置先チャネルの1022とのチャネル幅の割合に応じて、2つの配置先チャネルの1022及び1023に分配される。
【0043】
図7は、実施形態のパルス波高分析装置14での実施例及び比較例の変換前スペクトル(Linear)及び変換後スペクトル(Log)の例を示す図である。
図7に示す実施例は、チャネルを線形スケールから対数スケールに変換するとともに、変換後のチャネルにカウントを分配する例である。実施例では、変換前の各チャネルnのカウントcが100である波高分布データ(Linear)と、変換後のLogチャネル(スケール化)に応じた配置先チャネルにカウントcを分配して得られる波高分布データ(Log)とを示している。
図7に示す比較例は、単にチャネルを線形スケールから対数スケールに変換する例である。比較例では、変換前の各チャネルnのカウントcが100である波高分布データ(Linear)と、カウントの分配無しに変換後のLogチャネル(スケール化)によって得られる波高分布データ(Log)とを示している。
【0044】
比較例では、スケール変換後にて、隣り合うLogチャネル間の間隔が不等間隔(つまり対数間隔)であり、カウントの分配無しにカウントcを隣り合うLogチャネル間の間隔で割って得られるカウント値がLogチャネル(スケール化)に対応付けて配置される。これにより、Logチャネルが高くなることに伴ってLogチャネル間の間隔が1未満に狭くなり、Logチャネル(スケール化)に対応付けられる1チャネル当たりのカウント値が過大に増大する。これに伴い、例えば、全てのLogチャネル(スケール化)に対応付けられるカウント値の積算値は、変換前の全てのチャネルnのカウントcの積算値よりも大きくなってしまうという問題が生じる。これに対して、実施例では、スケール変換後にて、カウントの分配が行われることによって、隣り合う配置先チャネル間の間隔が等間隔(つまり1)であり、全ての配置先チャネルのカウントの積算値は、変換前の全てのチャネルnのカウントcの積算値と同一である。
【0045】
(整数化)
処理部24は、上述したゲイン増幅及び対数変換のようなチャネルの変換を表示上の機能とすれば、カウントの分配によって得られる実数型のカウント値によって波高分布データを生成してもよいが、パルス波高分析装置14の一般的な機能としては、1イベントに対して1つのチャネルのカウントに1が加算されるように、整数型の波高分布データを生成してもよい。
例えば、処理部24は、パルス波高分析装置14に入力される1イベント毎のデジタルの信号パルスに対してチャネルの変換を行う場合に、1カウントの分配先のチャネル範囲で1イベントの入力後の実数型のカウント値(つまり測定開始からの積算値)と1イベントの入力前の整数型のカウント値(つまり測定開始からの積算値)との差分を取得し、差分が最も大きいチャネルのカウントに1を加算することによって整数型のカウント値を生成する。
【0046】
例えば、パルス波高分析装置14に順次に入力される1イベント毎に、変換前の所定のチャネルn(=n0)が3つの変換後のチャネル(分配先整数チャネル)であるチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)に対応付けられる場合、変換前のチャネルn(=n0)に対応付けられる1カウントは、3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)に分配される。以下の一例では、3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)の各々に分配されるカウント(実数型のカウント値)は、例えば、順次に0.2、0.3及び0.5である。同じイベントが連続入力(同じチャネルにカウントアップ)されるものとする。
【0047】
先ず、1イベントの入力前での3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)の各々の実数型及び整数型の積算カウント(測定開始から積算されたカウント値)がゼロである場合、1イベントの入力後に3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)の各々の実数型の積算カウントは、順次に約0.2、0.3及び0.5である。これにより、変換前のチャネルn(=n0)に対応付けられる1カウントは、3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)のうち、1イベント入力後の実数型と1イベント入力前の整数型との積算カウントの差分が最大(=0.5)であるチャネル(n1+2)にのみ対応付けられて、チャネル(n1+2)の整数型のカウント値に配される。1イベント入力後の3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)の各々の整数型の積算カウントは、順次に0、0及び1である。
【0048】
次に、新たな1イベントの入力前での3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)の各々の実数型の積算カウントは、順次に0.2、0.3及び0.5であり、整数型の積算カウントは、順次に0、0及び1である。新たな1イベントの入力後に変換前のチャネルn(=n0)に対応付けられる1カウントを3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)に対応付けて配する場合、3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)の各々の実数型の積算カウントは、順次に0.4、0.6及び1.0である。これにより、変換前のチャネルn(=n0)に対応付けられる1カウントは、3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)のうち、新たな1イベント入力後の実数型と新たな1イベント入力前の整数型との積算カウントの差分が最大(=0.6)であるチャネル(n1+1)にのみ対応付けられて、チャネル(n1+1)の整数型のカウント値に配される。新たな1イベント入力後の3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)の各々の整数型の積算カウントは、順次に0、1及び1である。
【0049】
次に、新たな1イベントの入力前での3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)の各々の実数型の積算カウントは、順次に0.4、0.6及び1.0であり、整数型の積算カウントは、順次に0、1及び1である。新たな1イベントの入力後に変換前のチャネルn(=n0)に対応付けられる1カウントを3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)に対応付けて配する場合、3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)の各々の実数型の積算カウントは、順次に0.6、0.9及び1.5である。これにより、変換前のチャネルn(=n0)に対応付けられる1カウントは、3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)のうち、新たな1イベント入力後の実数型と新たな1イベント入力前の整数型との積算カウントの差分が最大(=0.6)であるチャネルn1にのみ対応付けられて、チャネルn1の整数型のカウント値に配される。新たな1イベント入力後の3つの変換後のチャネルn1、チャネル(n1+1)及びチャネル(n1+2)の各々の整数型の積算カウントは、順次に1、1及び1である。
【0050】
上述したように、実施形態のパルス波高分析装置14は、ゲイン増幅及び対数変換等のデジタル増幅に応じて、変換前の1つのチャネルのカウントを変換後の複数のチャネルに分配又は変換前の複数のチャネルのカウントを変換後の1つのチャネルに配置する。これにより、微分非直線性の誤差増大を抑制しながら適切なデジタルパルス信号処理を実行することができる。例えば、ADCのビット数が少ない場合又はデジタルフィルタの整形時間(時定数)が短い場合等であっても、微分非直線性の誤差増大を抑制することができる。
例えばゲイン増幅の場合、特異的なカウントの増減が増大するチャネルが生じることを抑制することができる。例えば対数変換の場合、隣り合う配置先チャネル間の間隔が等間隔(つまり1)であり、β線スペクトルの最大エネルギーの検知等にて精度を向上させることができる。また、全ての配置先チャネルのカウントの積算値は、変換前の全てのチャネルnのカウントcの積算値と同一であり、適正な変換を行うことができる。
【0051】
1イベントの入力後の実数型の積算カウント値と1イベントの入力前の整数型の積算カウント値との差分が最大となるチャネルの整数型のカウント値に1を加算する処理部24を備えることによって、丸め誤差の増大を抑制しながら実数型に精度良く近似される整数型の波高分布データを生成することができる。1イベント毎に変換後の適宜の1チャネルの整数型のカウント値に1カウントを加算することによって、リアルタイム測定等に適したデジタルパルス信号処理を実行することができる。
【0052】
実施形態の放射能測定装置10は、デジタル演算での微分非直線性の誤差増大を抑制しながら適切なデジタルパルス信号処理を実行するパルス波高分析装置14を備えることによって、放射能測定の精度及び利便性を向上させることができる。
【0053】
(変形例)
以下、実施形態の変形例について説明する。なお、上述した実施形態と同一部分については、同一符号を付して説明を省略又は簡略化する。
【0054】
上述した実施形態では、処理部24は、1イベント毎の処理に対して、1イベントの入力後の実数型のカウント値と1イベントの入力前の整数型のカウント値との差分が最も大きいチャネルのカウントに1を加算することによって整数型のカウント値を生成するとしたが、これに限定されない。
例えば、処理部24は、1イベント毎ではなく、上述した対数変換を1チャネルから順次に変換を行い、整数部と小数部(端数部)に分けてカウントを積算していき、小数部はその積算値が整数に繰り上がるチャネルのカウントに1を加算することによって整数型のカウント値を生成してもよい。
【0055】
上述した実施形態では、パルス波高分析装置14の処理部24は、入力部22から入力される各種の指令信号に応じて動作するとしたが、これに限定されず、例えばパーソナルコンピュータ等の外部装置から入力される各種の指令信号に応じて動作してもよい。
【0056】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0057】
10…放射能測定装置、11…放射線検出器、12…プリアンプ、13…高速ADC(変換器)、14…パルス波高分析装置、21…デジタルフィルタ、22…入力部、23…出力部、24…処理部。
図1
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図7