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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】膜ろ過装置およびその運転方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/12 20060101AFI20240806BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20240806BHJP
   B01D 65/08 20060101ALI20240806BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20240806BHJP
   C02F 5/00 20230101ALI20240806BHJP
【FI】
B01D61/12
B01D61/58
B01D65/08
C02F1/44 A
C02F5/00 620B
C02F5/00 620C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020169000
(22)【出願日】2020-10-06
(65)【公開番号】P2022061173
(43)【公開日】2022-04-18
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭悟
(72)【発明者】
【氏名】田島 直幸
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-032311(JP,A)
【文献】特開2015-083286(JP,A)
【文献】特開2014-104399(JP,A)
【文献】特開2005-175118(JP,A)
【文献】特開2014-213260(JP,A)
【文献】特開2014-108381(JP,A)
【文献】特開2012-192374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/82
C02F1/44
C02F5/00-5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された複数のろ過手段であって、前記複数のろ過手段のうち最も上流側の第1のろ過手段と、前記第1のろ過手段よりも下流側の第2のろ過手段とを含み、それぞれが被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜またはナノろ過膜を有する複数のろ過手段と、
前記第1のろ過手段に被処理水を供給する供給ラインと、
前記第1のろ過手段からの透過水を流通させる第1の透過水ラインと、
前記第1のろ過手段からの濃縮水を流通させる第1の濃縮水ラインと、
前記第2のろ過手段からの透過水を流通させる第2の透過水ラインと、
前記第2のろ過手段からの濃縮水を流通させる第2の濃縮水ラインと、
前記複数のろ過手段による前記分離を行う通常運転を実行する制御部であって、前記通常運転において、前記第2の透過水ラインを流れる透過水の流量と前記第2の濃縮水ラインを流れる濃縮水の流量との和に対する前記第2の濃縮水ラインを流れる濃縮水の流量の割合が所定の目標値になるように、前記供給ラインを流れる被処理水の圧力と前記第2の濃縮水ラインを流れる濃縮水の流量とを調整する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記通常運転を一定時間停止した後に再開する際に、前記割合の目標値を、前記通常運転時の目標値を上回る第1の目標値に設定してから所定時間経過後に、前記第1の目標値から該第1の目標値を下回る第2の目標値に変更する、膜ろ過装置。
【請求項2】
前記第2の濃縮水ラインは、前記第2のろ過手段からの濃縮水を前記供給ラインに返流するように該供給ラインに接続されている、請求項1に記載の膜ろ過装置。
【請求項3】
前記第1の濃縮水ラインから分岐し、前記第1の濃縮水ラインを流れる濃縮水の一部を外部へ排出する排水ラインと、
前記供給ラインを流れる被処理水と前記第1の透過水ラインを流れる透過水と前記第1の濃縮水ラインまたは前記排水ラインを流れる濃縮水とのいずれかの水温を検出する水温検出手段と、を有し、
前記制御部は、前記通常運転において、前記水温検出手段による検出値と、予め測定された被処理水の不純物濃度と、前記第1のろ過手段に実際に供給される被処理水の不純物濃度とに基づいて、前記第1の透過水ラインを流れる透過水の流量と前記排水ラインを流れる濃縮水の流量との和に対する前記第1の透過水ラインを流れる透過水の流量の割合である回収率の目標範囲を設定し、前記回収率が前記目標範囲の下限値を上回り、かつ前記目標範囲の上限値以下になるように、前記供給ラインを流れる被処理水の圧力と前記排水ラインを流れる濃縮水の流量とを調整する、請求項2に記載の膜ろ過装置。
【請求項4】
前記複数のろ過手段のうち最も下流側のろ過手段からの透過水を流通させる最終透過水ラインと、
前記最終透過水ラインを流れる透過水の流量を検出する第1の流量検出手段と、
前記排水ラインを流れる濃縮水の流量を検出する第2の流量検出手段と、
前記第2の濃縮水ラインを流れる濃縮水の流量を検出する第3の流量検出手段と、を有し、
前記制御部は、前記第1から第3の流量検出手段による検出値と、予め測定された被処理水の不純物濃度とに基づいて、前記第1のろ過手段に実際に供給される被処理水の不純物濃度を算出し、該算出した不純物濃度と、前記水温検出手段による検出値とに基づいて、前記第1のろ過手段の前記逆浸透膜またはナノろ過膜の膜面にシリカまたはカルシウムが析出しない最大の回収率を算出し、該算出した値を前記上限値として設定する、請求項3に記載の膜ろ過装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記水温検出手段による検出値と、予め測定された被処理水の不純物濃度とに基づいて、前記最大の回収率を算出し、該算出した値を前記下限値として設定する、請求項4に記載の膜ろ過装置。
【請求項6】
前記第1の濃縮水ラインから分岐し、前記第1の濃縮水ラインを流れる濃縮水の一部を外部へ排出する排水ラインと、
前記供給ラインを流れる被処理水と前記第1の透過水ラインを流れる透過水と前記第1の濃縮水ラインまたは前記排水ラインを流れる濃縮水とのいずれかの水温を検出する水温検出手段と、を有し、
前記制御部は、前記通常運転において、前記第1の透過水ラインを流れる透過水の流量と前記排水ラインを流れる濃縮水の流量との和に対する前記第1の透過水ラインを流れる透過水の流量の割合である回収率の目標値として、前記水温検出手段による検出値に基づいて、前記第1のろ過手段の前記逆浸透膜またはナノろ過膜の膜面にシリカまたはカルシウムが析出しない最大の回収率を算出して設定し、前記回収率が前記設定された目標値になるように、前記供給ラインを流れる被処理水の圧力と前記排水ラインを流れる濃縮水の流量とを調整する、請求項2に記載の膜ろ過装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記通常運転の再開後に、前記複数のろ過手段のうち最も下流側のろ過手段からの透過水を前記供給ラインに返流する、請求項1から6のいずれか1項に記載の膜ろ過装置。
【請求項8】
直列に接続された複数のろ過手段であって、前記複数のろ過手段のうち最も上流側の第1のろ過手段と、前記第1のろ過手段よりも下流側の第2のろ過手段とを含み、それぞれが被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜またはナノろ過膜を有する複数のろ過手段と、前記第1のろ過手段に被処理水を供給する供給ラインと、前記第1のろ過手段からの透過水を流通させる第1の透過水ラインと、前記第1のろ過手段からの濃縮水を流通させる第1の濃縮水ラインと、前記第2のろ過手段からの透過水を流通させる第2の透過水ラインと、前記第2のろ過手段からの濃縮水を流通させる第2の濃縮水ラインと、を有する膜ろ過装置の運転方法であって、
前記複数のろ過手段による前記分離を行う前記膜ろ過装置の通常運転を実行する工程であって、前記第2の透過水ラインを流れる透過水の流量と前記第2の濃縮水ラインを流れる濃縮水の流量との和に対する前記第2の濃縮水ラインを流れる濃縮水の流量の割合が所定の目標値になるように、前記供給ラインを流れる被処理水の圧力と前記第2の濃縮水ラインを流れる濃縮水の流量とを調整することを含む、前記膜ろ過装置の通常運転を実行する工程と、
前記通常運転を一定時間停止した後に、前記割合の目標値を、前記通常運転時の目標値を上回る第1の目標値に設定して前記通常運転を再開する工程と、
前記通常運転を再開してから所定時間経過後に、前記割合の目標値を前記第1の目標値から該第1の目標値を下回る第2の目標値に変更する工程と、を含む、膜ろ過装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜ろ過装置およびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理水に含まれる不純物を除去する水処理装置として、逆浸透膜(RO膜)またはナノろ過膜(NF膜)を有する膜ろ過装置が知られている。この装置では、所定の供給圧力でRO膜またはNF膜に供給された被処理水(原水)が、RO膜またはNF膜により、透過水と濃縮水とに分離される。これにより、不純物が除去された処理水(透過水)を得ることができる。
【0003】
RO膜またはNF膜を有する膜ろ過装置では、多くの場合、水の有効利用(節水)の観点から、不純物を含む濃縮水の一部を濃縮排水として外部に排出し、残りを濃縮還流水としてRO膜またはNF膜の上流側に還流させる構成が採用されている。これにより、すべての濃縮水を濃縮排水として排出する場合に比べて、回収率(透過水の流量と濃縮排水の流量との和に対する透過水の流量の割合)を向上させることができ、節水を実現することができる。それと同時に、このような膜ろ過装置では、水温の変化(すなわち、水の粘性の変化)による透過水の流量変化に対応するために、加圧ポンプの回転数を制御することでRO膜またはNF膜への原水の供給圧力を調整して、透過水の流量を一定に維持する流量制御が行われている。透過水の流量制御では、透過水の流量が一定になるように原水の供給圧力を調整すると、それに応じて濃縮水の流量も変化する。このような濃縮水の流量変化は、ファウリングやスケーリングによる膜の詰まりの発生や、圧力損失の増大による膜の破損につながるため、透過水の流量制御を行う場合には、濃縮水(濃縮還流水または濃縮排水)の流量制御も行うことが望ましい。例えば、特許文献1には、透過水の流量制御に加え、濃縮排水の流量を設定流量に調整する流量制御を行うことが記載されている。
【0004】
一方で、RO膜またはNF膜を有する膜ろ過装置では、処理水質の向上を目的として、複数のRO膜またはNF膜で原水を順次処理することも行われている。特許文献1には、上述した流量制御が行われるRO膜またはNF膜の下流側に、さらに別のRO膜またはNF膜を設け、上流側のRO膜またはNF膜で分離された透過水を下流側のRO膜またはNF膜でさらに処理することが記載されている。
【0005】
ところで、RO膜またはNF膜を有する膜ろ過装置では、通常運転時には、膜を介してイオン濃度に差が生じているが、装置の運転を一定時間停止すると、膜の二次側から一次側に水分子が浸透し、二次側に滞留する滞留水の水質が悪くなることが知られている。そのため、装置の運転再開時には、そのような滞留水がユースポイントに供給されたり、膜の一次側と二次側とのイオン濃度の差によって生じる浸透圧が十分なレベルに達するまでに時間を要し、結果として、処理水質が安定して良好になるまでに時間を要したりするという問題がある。こうした問題に対処する方法の一つとして、特許文献2には、装置の運転再開時に、処理水質が良好になるまでの間、直列に接続された2つのろ過手段(RO膜)のうち下流側のろ過手段からの透過水を上流側のろ過手段に供給される原水に返送する方法が記載されている。この方法によれば、水質が悪化した膜の二次側の滞留水が運転再開直後にユースポイントに供給されることがなくなる。加えて、水質がより良好な透過水で原水が希釈されるため、原水のイオン濃度を低減して透過水の水質を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-167146号公報
【文献】特開2014-104396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
運転再開時に処理水質が安定して良好になるまでに時間を短縮するには、水質の立ち上がり時間を短縮することが有効である。しかしながら、特許文献2に記載の方法は、装置の運転再開時に透過水の水質を向上させることにはつながるが、水質の立ち上がり時間を短縮することにはつながらず、上述した問題の解決策として十分であるとは言えない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、運転再開時に速やかに処理水質を向上かつ安定させる膜ろ過装置およびその運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明の膜ろ過装置は、直列に接続された複数のろ過手段であって、複数のろ過手段のうち最も上流側の第1のろ過手段と、第1のろ過手段よりも下流側の第2のろ過手段とを含み、それぞれが被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜またはナノろ過膜を有する複数のろ過手段と、第1のろ過手段に被処理水を供給する供給ラインと、第1のろ過手段からの透過水を流通させる第1の透過水ラインと、第1のろ過手段からの濃縮水を流通させる第1の濃縮水ラインと、第2のろ過手段からの透過水を流通させる第2の透過水ラインと、第2のろ過手段からの濃縮水を流通させる第2の濃縮水ラインと、複数のろ過手段による分離を行う通常運転を実行する制御部であって、通常運転において、第2の透過水ラインを流れる透過水の流量と第2の濃縮水ラインを流れる濃縮水の流量との和に対する第2の濃縮水ラインを流れる濃縮水の流量の割合が所定の目標値になるように、供給ラインを流れる被処理水の圧力と第2の濃縮水ラインを流れる濃縮水の流量とを調整する制御部と、を有し、制御部は、通常運転を一定時間停止した後に再開する際に、割合の目標値を、通常運転時の目標値を上回る第1の目標値に設定してから所定時間経過後に、第1の目標値から第1の目標値を下回る第2の目標値に変更する。
【0010】
また、本発明の膜ろ過装置の運転方法は、直列に接続された複数のろ過手段であって、複数のろ過手段のうち最も上流側の第1のろ過手段と、第1のろ過手段よりも下流側の第2のろ過手段とを含み、それぞれが被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜またはナノろ過膜を有する複数のろ過手段と、第1のろ過手段に被処理水を供給する供給ラインと、第1のろ過手段からの透過水を流通させる第1の透過水ラインと、第1のろ過手段からの濃縮水を流通させる第1の濃縮水ラインと、第2のろ過手段からの透過水を流通させる第2の透過水ラインと、第2のろ過手段からの濃縮水を流通させる第2の濃縮水ラインと、を有する膜ろ過装置の運転方法であって、複数のろ過手段による分離を行う膜ろ過装置の通常運転を実行する工程であって、第2の透過水ラインを流れる透過水の流量と第2の濃縮水ラインを流れる濃縮水の流量との和に対する第2の濃縮水ラインを流れる濃縮水の流量の割合が所定の目標値になるように、供給ラインを流れる被処理水の圧力と第2の濃縮水ラインを流れる濃縮水の流量とを調整することを含む、膜ろ過装置の通常運転を実行する工程と、通常運転を一定時間停止した後に、割合の目標値を、通常運転時の目標値を上回る第1の目標値に設定して通常運転を再開する工程と、通常運転を再開してから所定時間経過後に、割合の目標値を第1の目標値から第1の目標値を下回る第2の目標値に変更する工程と、を含んでいる。
【0011】
このような膜ろ過装置およびその運転方法によれば、運転停止中に第2のろ過手段の一次側からその上流側にかけて滞留した滞留水を運転再開後に比較的大きな流量で迅速に取り除くことができる。その結果、運転再開時の処理水質の立ち上がりを早めることができ、それに伴い、処理水質が安定して良好になるまでの時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明によれば、運転再開時に速やかに処理水質を向上かつ安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る膜ろ過装置の構成を示す概略図である。
図2】実施例および比較例における二次透過水の導電率の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る膜ろ過装置の構成を示す概略図である。
【0016】
膜ろ過装置10は、被処理水(原水)に含まれる不純物を除去して処理水を生成する装置であり、直列に接続された2つのろ過手段11,12を有している。各ろ過手段11,12は、被処理水を、不純物を含む濃縮水と、不純物が除去された透過水とに分離する逆浸透膜(RO膜)またはナノろ過膜(NF膜)を有している。なお、ここでいう「直列に接続される」とは、被処理水が複数のろ過手段で順次処理されることを意味し、したがって、本実施形態では、上流側の第1のろ過手段11で分離された透過水が下流側の第2のろ過手段12に被処理水として供給されるようになっていることを意味する。以下、第1のろ過手段11で分離された透過水および濃縮水をそれぞれ「一次透過水」および「一次濃縮水」ともいい、第2のろ過手段12で分離された透過水および濃縮水をそれぞれ「二次透過水」および「二次濃縮水」ともいう。
【0017】
膜ろ過装置10は、第1のろ過手段11にそれぞれ接続された複数のライン、すなわち、第1のろ過手段11に原水を供給する供給ラインL1と、第1のろ過手段11からの一次透過水を流通させて第2のろ過手段12に供給する一次透過水ライン(第1の透過水ライン)L2と、第1のろ過手段11からの一次濃縮水を流通させる一次濃縮水ライン(第1の濃縮水ライン)L3とを有している。加えて、膜ろ過装置10は、一次濃縮水ラインL3から分岐した2つのライン、すなわち、一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水の一部を外部へ排出する排水ラインL4と、その残りを供給ラインL1に還流させる還流水ラインL5とを有している。還流水ラインL5は、一次濃縮水ラインL3から分岐した後、後述する加圧ポンプ13の上流側で供給ラインL1に接続されている。なお、還流水ラインL5は、供給ラインL1に直接接続される代わりに、供給ラインL1に設けられた原水タンク(図示せず)に接続されていてもよい。
【0018】
また、膜ろ過装置10は、第2のろ過手段12にそれぞれ接続された複数のライン、すなわち、第2のろ過手段12からの二次透過水を流通させる二次透過水ライン(第2の透過水ライン)L6と、第2のろ過手段12からの二次濃縮水を流通させる二次濃縮水ライン(第2の濃縮水ライン)L7とを有している。第2のろ過手段12では、第1のろ過手段11からの一次透過水がさらに二次透過水と二次濃縮水に分離されるため、水質の観点からは、二次濃縮水を必ずしも外部に排出する必要はない。したがって、節水の観点から、二次濃縮水ラインL7は、二次濃縮水の全てを供給ラインL1に返流するために供給ラインL1に接続されている。ただし、場合によっては、二次濃縮水の一部または全部が外部に排出されてもよく、そのための排水ラインが二次濃縮水ラインL7に接続されていてもよい。なお、二次濃縮水ラインL7は、還流水ラインL5と同様に、供給ラインL1に直接接続される代わりに、原水タンクに接続されていてもよい。
【0019】
さらに、膜ろ過装置10は、供給ラインL1に設けられた加圧ポンプ13と、一次濃縮水ラインL3に設けられた定流量弁14と、排水ラインL4に設けられた流量調整弁CV1および排水流量計15と、還流水ラインL5に設けられた手動弁MV1と、二次透過水ラインL6に設けられた透過水流量計16と、二次濃縮水ラインL7に設けられた流量調整弁CV2および濃縮水流量計17とを有している。
【0020】
加圧ポンプ13は、インバータ(図示せず)によって回転数が制御されるようになっており、供給ラインL1を流れる原水の圧力(第1のろ過手段11への原水の供給圧力)を調整する圧力調整手段として機能する。定流量弁14は、一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水の流量を一定に保持し、後述する2つの流量制御の干渉を抑制してハンチングを回避する機能を有している。流量調整弁CV1は、排水ラインL4を流れる一次濃縮水(以下、「濃縮排水」ともいう)の流量を調整する流量調整手段として機能し、排水流量計15は、濃縮排水の流量を検出する流量検出手段として機能する。手動弁MV1は、排水ラインL4を流れる一次濃縮水と還流水ラインL5を流れる一次濃縮水の圧力バランスを調整する圧力調整弁として機能する。透過水流量計16は、二次透過水ラインL6を流れる二次透過水の流量を検出する流量検出手段として機能する。流量調整弁CV2は、二次濃縮水ラインL7を流れる二次濃縮水(以下、「濃縮返流水」ともいう)の流量を調整する流量調整手段として機能し、濃縮水流量計17は、濃縮返流水の流量を検出する流量検出手段として機能する。
【0021】
加えて、膜ろ過装置10は、膜ろ過装置10の運転を制御する制御部20を有している。制御部20は、膜ろ過装置10の通常運転(膜分離処理)時に、3つの流量制御、すなわち、二次透過水の流量制御である第1の流量制御と、濃縮排水の流量制御である第2の流量制御と、濃縮返流水の流量制御である第3の流量制御とを並行して実行する。具体的には、第1の流量制御では、二次透過水ラインL6を流れる二次透過水の流量が設定流量になるように加圧ポンプ13が制御される。第2の流量制御では、一次透過水ライン(第1の透過水ライン)L2を流れる一次透過水の流量から濃縮排水(排水ラインL4を流れる一次濃縮水)の目標流量が算出され、濃縮排水の流量がその目標流量になるように流量調整弁CV1の開度が制御される。第3の流量制御では、二次透過水ライン(第2の透過水ライン)L6を流れる二次透過水の流量から濃縮返流水(二次濃縮水ラインL7を流れる二次濃縮水)の目標流量が算出され、濃縮返流水の流量がその目標流量になるように流量調整弁CV2の開度が制御される。以下、これら3つの流量制御の詳細について説明する。
【0022】
第1の流量制御では、透過水流量計16による二次透過水の検出流量(検出値)が一定(予め設定された目標流量)になるように加圧ポンプ13が制御される。例えば、水温が変化すると、水の粘性の変化により、第1のろ過手段11で分離される透過水の流量が変化し、第2のろ過手段12で分離される透過水の流量も変化する。この変化に応じて、制御部20は、インバータを通じて加圧ポンプ13の回転数を制御する。すなわち、水温が低くなると、水の粘性は高くなり、その結果、第2のろ過手段12からの二次透過水の流量が減少する。そのため、制御部20は、この減少分を補うように、加圧ポンプ13の回転数を上げることで、原水の供給圧力を増加させる。また、水温が高くなると、水の粘性は低くなり、その結果、第2のろ過手段12からの二次透過水の流量が増加する。そのため、制御部20は、この増加分を打ち消すように、加圧ポンプ13の回転数を下げることで、原水の供給圧力を低下させる。こうして、加圧ポンプ13の回転数、すなわち原水の供給圧力が調整されることで、二次透過水ラインL6を流れる二次透過水の流量が一定に維持される。
【0023】
なお、第1のろ過手段11への原水の供給圧力の変化(加圧ポンプ13の回転数の変化)に応じて、第1のろ過手段11で分離される濃縮水の流量も変化するが、一次濃縮水ラインL3には、上述したように定流量弁14が設けられている。そのため、第1の流量制御により、加圧ポンプ13の回転数が変化して原水の供給圧力が変化した場合にも、一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水の流量を一定に保持することができる。その結果、第1の流量制御が排水ラインL4や還流水ラインL5を流れる一次濃縮水の流量に影響を及ぼすことがなくなり、後述する第2の流量制御は、第1の流量制御と干渉することなく独立して行われることになる。
【0024】
ここで、定流量弁14の規定流量は、一方では、ファウリングやスケーリングによる膜の詰まりが発生しない程度であればよく、他方では、圧力損失の増大によって膜を破損させない程度であればよい。ただし、定流量弁14の規定流量を必要以上に大きくすることは、加圧ポンプ13に要求される流量が必要以上に大きくなり、結果的に加圧ポンプ13のサイズが大きくなるため、エネルギー消費の点で好ましくない。そのため、定流量弁14の規定流量は、第1のろ過手段11の透過流束と第1のろ過手段11に要求される濃縮水の最低流量も考慮して設定され、例えば、第1のろ過手段11として直径が約20.32cm(8インチ)のRO膜を用いる場合、1~15m/hの範囲である。なお、第1のろ過手段11に要求される濃縮水の最低流量とは、ファウリングやスケーリングによる膜の詰まりが発生しないための一次濃縮水ラインL3に流すべき濃縮水の最低流量を意味する。一方で、本実施形態では、1つの加圧ポンプ13で2つのろ過手段11,12に原水を供給する必要があるため、加圧ポンプ13による第1のろ過手段11への原水の供給圧力は比較的大きくなる。そのため、定流量弁14の規定流量は、この点も考慮して設定する必要がある。例えば、2つのろ過手段11,12としてそれぞれ直径が約20.32cm(8インチ)のRO膜を用いる場合、第1のろ過手段11の適用温度範囲が5~35℃のとき、例えば、定流量弁14としては、株式会社ケイヒン製の定流量弁(品番:NSPW-25、設定流量:55L/min)を用いることができる。
【0025】
ところで、定流量弁14には、定流量弁14を正常に作動させるための作動差圧範囲(定流量弁の一次側と二次側の圧力差の許容範囲)が規定されている。そのため、例えば、第1のろ過手段11として中高圧用のRO膜を使用する場合や、水温が極端に低下した場合など、条件によっては、原水の供給圧力が著しく上昇して一次濃縮水の圧力が上昇し、定流量弁14の一次側と二次側の圧力差が作動差圧範囲を超えてしまうことがある。その場合、一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水の流量が一定に保持されないおそれがある。
【0026】
そこで、定流量弁14の上流側の一次濃縮水ラインL3に、一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水の圧力を減圧する(すなわち、二次側の圧力を一次側の圧力よりも低くすることができる)減圧弁が設けられていてもよい。これにより、第1のろ過手段11への原水の供給圧力が著しく上昇する場合であっても、定流量弁14の一次側と二次側の圧力差を作動差圧範囲内に収めて定流量弁14を正常に作動させることができ、一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水の流量を一定に保持することができる。また、減圧弁が設けられていると、定流量弁14が正常に作動して一次濃縮水の流量が増加することがないため、後述する第2の流量制御によって濃縮排水の流量が目標流量に調整される際に還流水ラインL5を流れる一次濃縮水の流量が増加することがなく、加圧ポンプ13の吐出流量が増加することがない。そのため、加圧ポンプ13の揚程が低くなることで必要な透過水の流量が得られなくなるおそれもなくなる。さらに、減圧弁を設けることは、それよりも下流側の周辺部材(配管など)にそれほどの耐圧性能が要求されなくなるため、安全面で有利であるだけでなく、耐圧性能がそれほど高くない安価な汎用品が利用可能になることで、コスト面でも有利である。なお、減圧弁の種類は、一次濃縮水の圧力を定流量弁14の作動差圧範囲内に減圧することができるものであれば特に限定されるものではないが、定流量弁14の規定流量以上の流量が流れるものや、二次側の圧力が排水ラインL4や還流水ラインL5の通水差圧と排水側の背圧との合計よりも大きくなるものを選定する必要がある。
【0027】
第2の流量制御では、第1のろ過手段11の回収率(一次透過水の流量と濃縮排水の流量との和に対する一次透過水の流量の割合)を考慮して濃縮排水の目標流量が算出され、排水流量計15による濃縮排水の検出流量(検出値)がその目標流量になるように、流量調整弁CV1の開度が調整される。このときの回収率は、水の有効利用(節水)の観点から、できるだけ高いことが好ましい。すなわち、濃縮排水の流量はできるだけ少ないことが好ましい。しかしながら、定流量弁14により一次濃縮水の流量が一定に保持されているため、濃縮排水の流量が少なくなると、当然のことながら、還流水ラインL5から供給ラインL1に還流する一次濃縮水の流量が増加する。それにより、原水の不純物濃度が高まると、第1のろ過手段11のRO膜またはNF膜の膜面に不純物(特に、シリカまたはカルシウム)が析出するスケーリングが起こりやすくなってしまう。したがって、濃縮排水の流量は、一次濃縮水の不純物濃度が溶解度以上の濃度にならない範囲で回収率が最大になるように、すなわち、不純物であるシリカまたはカルシウムが析出しない範囲で回収率が最大になるように設定される。
【0028】
ただし、不純物の溶解度は、水温に応じて変化する。例えば、シリカの場合、その溶解度は温度に比例して増加し、カルシウム(炭酸カルシウム)の場合、温度が上昇するにつれてその溶解度は減少する。そのため、水温が低い場合には、シリカの溶解度が相対的に低く、シリカが析出しやすい(シリカスケールが発生しやすい)が、水温が高くなると、カルシウムの溶解度が相対的に低くなるため、カルシウムが析出しやすく(カルシウムスケールが発生しやすく)なる。そこで、膜ろ過装置10には、図示していないが、原水と一次透過水と一次濃縮水とのいずれかの水温を検出する温度センサ(水温検出手段)が設けられている。この温度センサにより検出された水温に基づいて、濃縮排水の最適な目標流量が算出される。
【0029】
具体的には、まず、検出された水温でシリカが析出する理論上の回収率(以下、「シリカの析出回収率」という)と、検出された水温でカルシウム(炭酸カルシウム)が析出する理論上の回収率(以下「カルシウムの析出回収率」という)が算出される。なお、シリカの析出回収率とカルシウムの析出回収率のそれぞれの算出方法については後述する。次に、シリカの析出回収率とカルシウムの析出回収率とが比較され、目標回収率として、より小さい方の析出回収率が設定される。そして、この目標回収率と、制御部20により間接的に検出された一次透過水の流量とに基づいて、以下の式(1)により、濃縮排水の目標流量が算出されて設定される。
(濃縮排水の目標流量)=
(一次透過水の検出流量/目標回収率)-(一次透過水の検出流量) (1)
【0030】
なお、一次透過水の流量の間接的な検出は、透過水流量計16と濃縮水流量計17を用いて行うことができる。すなわち、一次透過水の検出流量は、透過水流量計16により検出された二次透過水の流量と、濃縮水流量計17により検出された二次濃縮水の流量との和として算出(取得)することができる。ただし、一次透過水ラインL2に図示しない流量計が設けられていてもよく、それにより、一次透過水の流量を直接検出するようになっていてもよい。
【0031】
スケーリングの発生を確実に抑制するという観点からは、上記式(1)で算出された目標流量を上回る流量を濃縮排水の設定流量として設定することもできるが、節水の観点からは、算出された目標流量を濃縮排水の設定流量として設定することが好ましい。なお、回収率(目標回収率)として、通常は、パーセントで表した値が用いられるが、上記式(1)では、小数で表した値が用いられることは言うまでもない。
【0032】
ここで、シリカの析出回収率とカルシウムの析出回収率の算出方法についてそれぞれ説明する。
【0033】
(シリカの析出回収率の算出方法)
シリカの析出回収率Yは、検出された水温でのシリカの溶解度(mg/L)をCとし、予め測定された原水のシリカ濃度(mg/L)をFとしたとき、以下の式(2)から算出される。
=(C-F)/C (2)
【0034】
なお、シリカの溶解度の算出方法としては、ASTM(American Society for Testing and Materials)D4993-89などに規定された方法を用いることができる。
【0035】
(カルシウムの析出回収率の算出方法)
カルシウムの析出回収率は、濃縮水のランゲリア指数を算出する方法を利用して算出される。ここで、ランゲリア指数(飽和指数)とは、カルシウム(炭酸カルシウム)の析出の可能性を示す指標であり、水の実際のpHと、理論pH(pHs:水中の炭酸カルシウムが溶解も析出もしない平衡状態にあるときのpH)との差(pH-pHs)を意味する。すなわち、ランゲリア指数が正の値で絶対値が大きいほど炭酸カルシウムが析出しやすくなり、負の値では炭酸カルシウムは析出されない。そのため、カルシウムの析出回収率は、濃縮水のランゲリア指数がゼロになるときの回収率として算出される。なお、より安全側の値として設定するために、カルシウムの析出回収率は、濃縮水のランゲリア指数が負の値になるときの回収率であってもよい。
【0036】
濃縮水のランゲリア指数は、濃縮水のpHと、濃縮水の不純物濃度(カルシウム濃度、総アルカリ度、および蒸発残留物濃度)と、検出された水温とから算出される。ランゲリア指数の算出方法としては、例えば、特開平11-267687号公報(段落[0025]~[0027])などに記載された方法を用いることができる。また、濃縮水の不純物濃度(カルシウム濃度、総アルカリ度、および蒸発残留物濃度)は、予め測定された原水の不純物濃度(カルシウム濃度、総アルカリ度、および蒸発残留物濃度)と、回収率とから算出される。したがって、カルシウムの析出回収率Yは、濃縮水のランゲリア指数がゼロになるときの濃縮水の不純物濃度(mg/L)をCとし、予め測定された原水の不純物濃度(mg/L)をFとしたとき、以下の式(3)の関係で表されることになる。
=(C-F)/C (3)
【0037】
なお、本実施形態では、供給ラインL1を流れる原水は、原水よりも十分に清澄な二次濃縮水で希釈された後で第1のろ過手段11に供給される。したがって、第1のろ過手段11への供給水(第1のろ過手段11に実際に供給される被処理水)の不純物濃度は、予め測定された原水の不純物濃度よりも低くなる。一方で、後述するように、二次濃縮水ラインL7を流れる二次濃縮水の流量はできるだけ少ないことが好ましく、その場合、膜ろ過装置10に供給される原水の流量に対する二次濃縮水の流量の割合はかなり小さくなる。このため、上述したシリカおよびカルシウムの析出回収率の算出方法では、このような二次濃縮水による原水希釈の影響は無視できるものとして考慮されていない。しかしながら、厳密には、二次濃縮水による原水希釈の影響を考慮すると、それを考慮しない場合に比べて、シリカおよびカルシウムの析出回収率はそれぞれ高くなり、それに応じて、目標回収率も高くなる。したがって、節水を優先すれば、二次濃縮水による原水希釈の影響を考慮してシリカおよびカルシウムの析出回収率を算出することが好ましく、算出された析出回収率に基づいて目標回収率を設定することが好ましい。ただし、節水を優先して目標回収率を可能な限り高くすると、スケールを確実に抑制できなくなるおそれもある。そのため、二次濃縮水による原水希釈を考慮する場合にも、実際の回収率制御は以下のように行われることが好ましい。
【0038】
すなわち、まず、上述した算出方法により、二次濃縮水による原水希釈の影響を考慮しない場合のシリカおよびカルシウムの析出回収率が算出され、算出された析出回収率のうち小さい析出回収率が、回収率の目標範囲の下限値(目標下限回収率)として設定される。一方、以下に示す算出方法により、二次濃縮水による原水希釈の影響を考慮した場合のシリカおよびカルシウムの析出回収率が算出され、算出された析出回収率のうち小さい析出回収率が、回収率の目標範囲の上限値(目標上限回収率)として設定される。そして、第1のろ過手段11の回収率が目標下限回収率を上回り、かつ目標上限回収率以下になるように、流量調整弁CV1の開度が調整されて濃縮排水の流量が調整される。具体的には、目標下限回収率および目標上限回収率から、上記式(1)を用いて、濃縮排水の目標流量の上限値(目標上限流量)および下限値(目標下限流量)がそれぞれ算出されて設定される。そして、排水流量計15による検出値が目標上限流量を下回り、かつ目標下限流量以上になるように、流量調整弁CV1の開度が調整される。なお、実際に濃縮排水の流量が調整される際には、濃縮排水の目標流量として、目標上限流量を下回り、かつ目標下限流量以上の値が設定され、したがって、目標回収率として、目標下限回収率を上回り、かつ目標上限回収率以下の値が設定される。
【0039】
二次濃縮水による原水希釈の影響を考慮した場合のシリカの析出回収率Y’およびカルシウムの析出回収率Y’は、以下の式(4)、(5)からそれぞれ算出される。
’=(C-F’)/C (4)
’=(C-F’)/C (5)
ここで、F’およびF’は、それぞれ第1のろ過手段11への供給水のシリカ濃度および不純物濃度(カルシウム濃度、総アルカリ度、および蒸発残留物濃度)であり、以下の式(6)、(7)でそれぞれ表される。
’=F×(Q/(Q+Qc2nd)) (6)
’=F×(Q/(Q+Qc2nd)) (7)
ここで、Qは、排水流量計15による濃縮排水の検出流量(検出値)と透過水流量計16による二次透過水の検出流量(検出値)との和であり、膜ろ過装置10に供給される原水の流量に相当する。また、Qc2ndは、濃縮水流量計17による二次濃縮水の検出流量(検出値)である。
【0040】
なお、上記式(6)、(7)では、二次濃縮水の水質が純水の水質と同程度であると仮定し、膜ろ過装置10に供給される原水の流量と二次濃縮水の流量から、二次濃縮水の添加によって原水のシリカ濃度および不純物濃度がどの程度薄まるかの割合(Q/(Q+Qc2nd))が算出されているが、この割合の算出方法は、これに限定されるものではない。例えば、膜ろ過装置10に供給される原水の流量と二次濃縮水の流量に加えて、膜ろ過装置10に供給される原水の導電率と二次濃縮水の導電率から、上記割合を算出してもよい。また、このような算出方法では、二次濃縮水の導電率が運転時間と共に変化する可能性があるため、上記割合が一定値になるまで繰り返し算出を行ってもよい。
【0041】
二次濃縮水による原水希釈を考慮するしないにかかわらず、シリカおよびカルシウムの析出回収率の算出方法や濃縮排水の設定流量の算出方法は、例えば加圧ポンプの容量や原水の流量などの装置設計上の制約によって、予め回収率や流量に制約がある場合には、上述した限りではない。また、第1の流量制御によって二次透過水ラインL6を流れる二次透過水の流量が一定に調整され、後述する第3の流量制御によって二次濃縮水ラインL7を流れる二次濃縮水の流量が一定に調整されるため、一次透過水ラインL2を流れる一次透過水も実質的に一定に調整される。そのため、濃縮排水の設定流量の算出には、そのような一次透過水の実質的な目標流量を用いることもできる。ただし、この方法は、一次透過水の実質的な目標流量と実際の流量が一致していない場合に、実際の回収率が目標回収率からずれる可能性があるため好ましくない。すなわち、一次透過水の実際の流量が目標流量よりも大きい場合には、実際の回収率が目標回収率を上回ることでスケーリングが発生したり、一次透過水の実際の流量が目標流量よりも小さい場合には、実際の回収率が目標回収率を下回ることで節水を図ることができなくなったりする。
【0042】
したがって、濃縮排水の設定流量の算出には、上述したように、透過水流量計16による検出値と濃縮水流量計17による検出値とから間接的に検出される一次透過水の流量を用いることが好ましい。これにより、第1の流量制御において二次透過水の流量制御が適切に実施されない事態が発生しても、実際の回収率が目標の回収率からずれることを抑制することができる。なお、実際の算出には、二次透過水や二次濃縮水の検出流量のばらつきなどによる影響を最小限に抑えるために、所定検出時間や所定検出回数における平均流量を用いることが好ましい。
【0043】
ただし、装置起動時や運転再開時など、二次透過水や二次濃縮水の流量が安定せず、検出流量のばらつきが非常に大きい場合には、二次透過水や二次濃縮水の流量が安定するまでの一定期間、上述した一次透過水の実質的な目標流量を用いて、濃縮排水の設定流量を算出するようになっていてもよい。また、一次透過水の実質的な目標流量と実際の流量との差に応じて、濃縮排水の設定流量の算出に用いる一次透過水の流量を切り替えるようになっていてもよい。すなわち、その差が所定範囲内にある場合には、目標流量を用いて算出し、その差が所定範囲を外れた場合には、実際の流量を用いて算出するようになっていてもよい。
【0044】
上述のように回収率制御を行う場合、流量調整弁CV1としては、電動比例制御弁を用いることが好ましい。これにより、電動比例制御弁の分解能に応じて開度調整を細かく行うことができ、電磁弁の組み合わせなどによる段階式での開度調整に比べて、回収率を滑らかに調整することができる。例えば、50~70%の範囲の回収率を5段階(50%、55%、60%、65%、70%)にしか制御できない段階式では、目標回収率が64%に設定された場合、回収率を60%にしか調整することができず、無駄な濃縮排水が発生してしまう。したがって、流量調整弁CV1として電動比例制御弁を用いることは、このような濃縮排水の無駄も削減することができるため、節水の観点からも有利である。
【0045】
ただし、流量調整弁CV1として電動比例制御弁を用いる場合には、その開閉速度と、濃縮排水の設定流量の算出速度(演算速度)との関係に注意が必要である。例えば、2つの速度が大きく異なっている場合、電動比例制御弁の開閉が完了して濃縮排水の流量が安定する前にその設定流量が変更されると、ハンチングが発生する可能性がある。また、濃縮排水の設定流量が一次透過水の検出流量(透過水流量計16による二次透過水の検出流量と濃縮水流量計17による二次濃縮水の検出流量との和)に基づいて決定されるため、濃縮排水の流量制御は、加圧ポンプ13の回転数を制御するインバータの応答速度にも影響を受ける可能性がある。したがって、濃縮排水の設定流量の演算速度を決定する際には、電動比例制御弁の開閉速度とインバータの応答速度とを考慮することが好ましい。すなわち、電動比例制御弁の開閉速度が遅い場合は、インバータの応答速度を遅くし、電動比例制御弁の開閉速度が速い場合は、インバータの応答速度を速くすることが好ましい。なお、上述したように、第2の流量制御(一次濃縮水の流量制御)は、定流量弁14の設置により第1の流量制御(二次透過水の流量制御)と独立して行われるため、互いの流量制御が干渉することが抑制される。その結果、上述のようなハンチングの発生を極力抑制することができ、実際の回収率が目標の回収率からずれることを抑制することができる。この点からも、一次濃縮水ラインL3に定流量弁14が設けられていることが好ましい。
【0046】
なお、本実施形態では、回収率の目標値をより高く設定して、さらなる節水を実現するために、上述の析出回収率をより高くすることを目的として、スケール防止剤を原水に添加するようになっていてもよい。この場合、定流量弁14の規定流量を小さくすることができ、結果として、より小さい容量の加圧ポンプ13を用いることで省エネルギー化を実現することもできる。スケール防止剤の添加は、薬注ポンプによって行うことができる。
【0047】
スケール防止剤は、シリカやカルシウムなどのスケール成分の析出を抑制可能な物質であれば、特定のものに限定されるものではない。その種類としては、例えば、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチルホスホン酸などのホスホン酸とその塩類などのホスホン酸系化合物;正リン酸塩、重合リン酸塩などのリン酸系化合物;ポリマレイン酸、マレイン酸共重合物などのマレイン酸系化合物;アクリル酸系ポリマーなどが挙げられ、アクリル酸系ポリマーとしては、ポリ(メタ)アクリル酸、マレイン酸/(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸/スルホン酸、(メタ)アクリル酸/ノニオン基含有モノマーなどのコポリマーや、(メタ)アクリル酸/スルホン酸/ノニオン基含有モノマー、(メタ)アクリル酸/アクリルアミド-アルキルスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸/アクリルアミド-アリールスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマーなどが挙げられる。ターポリマーを構成する(メタ)アクリル酸としては、例えば、メタアクリル酸およびアクリル酸と、それらのナトリウム塩などの(メタ)アクリル酸塩などが挙げられる。ターポリマーを構成するアクリルアミド-アルキルスルホン酸としては、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とその塩などが挙げられる。また、ターポリマーを構成する置換(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、t-ブチルアクリルアミド、t-オクチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0048】
これらの中でも、ホスホン酸系化合物とアクリル酸系ポリマーのうち少なくとも1種類を含むものを用いることが好ましい。また、カルシウムとシリカに由来するスケールを同時に抑制するためには、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸と、アクリル酸と(メタ)アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマーとの混合物とからなるスケール防止剤を用いることが特に好ましい。
【0049】
なお、RO膜用の市販のスケール防止剤としては、オルガノ株式会社製の「オルパージョン」シリーズ、BWA Water Additives社製の「Flocon(登録商標)」シリーズ、Nalco社製の「PermaTreat(登録商標)」シリーズ、ゼネラル・エレクトリック社製の「Hypersperse(登録商標)」シリーズ、栗田工業株式会社製の「クリバーター(登録商標)」シリーズなどが挙げられる。
【0050】
上述したように、本実施形態では、定流量弁14により一次濃縮水の流量が一定に維持されるため、排水ラインL4および還流水ラインL5の一方を流れる一次濃縮水の流量を規定するだけで、他方を流れる一次濃縮水の流量も規定することができる。そのため、図示した実施形態では、排水ラインL4に流量制御手段としての流量調整弁CV1と排水流量計15が設けられ、還流水ラインL5に圧力バランス調整のための手動弁MV1が設けられているが、その逆であってもよい。すなわち、還流水ラインL5に、流量調整弁(比例制御弁)と流量計が設けられ、排水ラインL4に、圧力バランス調整のための手動弁が設けられていてもよい。あるいは、排水ラインL4および還流水ラインL5の両方に、流量調整弁(比例制御弁)と流量計を設けることもできる。
【0051】
第3の流量制御では、第2のろ過手段12の返流率(二次透過水の流量と濃縮返流水の流量との和に対する濃縮返流水の流量の割合)を考慮して濃縮返流水(二次濃縮水ラインL7を流れる二次濃縮水)の目標流量が算出され、濃縮水流量計17による濃縮返流水の検出流量(検出値)がその目標流量になるように、流量調整弁CV2の開度が調整される。第2のろ過手段12には、不純物濃度が低い第1のろ過手段11からの一次透過水が供給されるため、節水の観点から、濃縮返流水の流量はできるだけ少ないことが好ましい。すなわち、第2のろ過手段12の返流率は低く設定されることが好ましく、具体的には、5~20%の範囲に設定されることが好ましい。
【0052】
濃縮返流水の目標流量(設定流量)は、返流率の目標値(目標返流率)と、透過水流量計16による二次透過水の検出流量とに基づいて算出することが好ましい。これにより、第1の流量制御において二次透過水の流量制御が適切に実施されない事態が発生しても、実際の返流率が目標の返流率からずれることを抑制することができる。なお、実際の算出には、二次透過水の検出流量のばらつきなどによる影響を最小限に抑えるために、所定検出時間や所定検出回数における平均流量を用いることが好ましい。
【0053】
ただし、装置起動時や運転再開時など、二次透過水の流量が安定せず、検出流量のばらつきが非常に大きい場合には、二次透過水の流量が安定するまでの一定期間、予め設定された二次透過水の目標流量を用いて、濃縮返流水の設定流量を算出するようになっていてもよい。また、二次透過水の目標流量と実際の流量との差に応じて、濃縮返流水の設定流量の算出に用いる二次透過水の流量を切り替えるようになっていてもよい。すなわち、その差が所定範囲内にある場合には、目標流量を用いて算出し、その差が所定範囲を外れた場合には、実際の流量を用いて算出するようになっていてもよい。
【0054】
上述のように返流率制御を行う場合、流量調整弁CV2として電動比例制御弁を用いることが好ましく、これにより、電動比例制御弁の分解能に応じて開度調整を細かく行うことができる。ただし、流量調整弁CV2として電動比例制御弁を用いる場合には、その開閉速度と、濃縮返流水の設定流量の算出速度(演算速度)との関係に注意が必要である。例えば、2つの速度が大きく異なっている場合、電動比例制御弁の開閉が完了して濃縮返流水の流量が安定する前にその設定流量が変更されると、ハンチングが発生する可能性がある。また、濃縮返流水の設定流量が透過水流量計16による二次透過水の検出流量に基づいて決定される場合、濃縮返流水の流量制御は、加圧ポンプ13の回転数を制御するインバータの応答速度にも影響を受ける可能性がある。したがって、濃縮返流水の設定流量の演算速度を決定する際には、電動比例制御弁の開閉速度とインバータの応答速度とを考慮することが好ましい。すなわち、電動比例制御弁の開閉速度が遅い場合は、インバータの応答速度を遅くし、電動比例制御弁の開閉速度が速い場合は、インバータの応答速度を速くすることが好ましい。ただし、本実施形態では、二次濃縮水ラインL7には定流量弁が設置されないため、第3の流量制御(濃縮返流水の流量制御)は、第1の流量制御(二次透過水の流量制御)と独立に行われない。そのため、互いの流量制御が干渉することを抑制するためにも、電動比例制御弁の開閉速度は遅く設定されることが好ましい。これにより、上述のようなハンチングの発生を極力抑制することができ、実際の返流率が目標の返流率からずれることを抑制することができる。
【0055】
ところで、本実施形態では、上述したように、第2のろ過手段12には清澄な一次透過水が供給されるため、節水の観点から、濃縮返流水の流量はできるだけ少ないことが好ましく、すなわち、第2のろ過手段12の返流率は低く設定されることが好ましい。これにより、第2のろ過手段12への給水流量(一次透過水の流量)が少なくて済むため、加圧ポンプ13の容量を小さくしたり、各ろ過手段11,12が膜エレメントを有する膜モジュールからなる場合に、第1のろ過手段11の膜エレメントの本数を少なくしたりすることができ、コスト面でのメリットを得ることもできる。しかしながら、第2のろ過手段12の返流率を低く設定することは、膜ろ過装置1の通常運転を一定時間停止した後に再開する際にはデメリットにもなる。すなわち、膜ろ過装置1の運転停止中、第2のろ過手段12の一次側にはイオン濃度が高い水が滞留するが、第2のろ過手段12の返流率が低く、濃縮返流水の流量が少ないと、運転再開時にそのような滞留水を効率よく取り除くことができない。そのため、一次透過水ラインL2から第2のろ過手段12の一次側にかけて水質が悪い状態がなかなか解消されず、このことが二次透過水の水質に悪影響を及ぼしてしまう。その結果、運転再開時に処理水質(二次透過水の水質)の立ち上がりに時間がかかり、処理水質が安定して良好になるまでに時間を要してしまう。
【0056】
そこで、本実施形態では、膜ろ過装置1の通常運転を一定時間停止した後に再開する際に、第2のろ過手段12の目標返流率が第1の目標値に設定され、そこから所定時間経過後に、第2のろ過手段12の目標返流率が第1の目標値からそれを下回る第2の目標値に変更される。すなわち、通常運転が再開されると、第2のろ過手段12の目標返流率が予め設定された所定値(例えば、運転停止前に設定されていた目標返流率)に設定される前に、所定時間だけ、その所定値を上回る値に設定される。これにより、運転停止中に第2のろ過手段12の一次側から一次透過水ラインL2にかけて滞留した水を、運転再開後に二次濃縮水ラインL7を通じて比較的大きな流量で流すことができ、すなわち、迅速に取り除くことができる。その結果、運転再開時の処理水質の立ち上がりを早めることができ、それに伴い、処理水質が安定して良好になるまでの時間を短縮することができる。なお、運転再開後に水質が十分に良好でない処理水(二次透過水)がユースポイントに供給されることを回避するために、処理水質が安定して良好になるまでの間、二次透過水を供給ラインL1に返流する循環運転が実行されてもよい。
【0057】
第2のろ過手段12の目標返流率の第2の目標値は、上述したように、5~20%の範囲に設定されることが好ましいが、第1の目標値としては、それを上回る値に設定される限り、特に限定されないが、例えば、25~50%の範囲に設定されることが好ましい。また、所定時間は、特に限定されないが、運転停止時間に応じて設定されることが好ましく、例えば、運転停止時間が24時間以内の場合、後述する実施例で示すように1~10分に設定されることが好ましく、運転停止時間が24時間を超える場合、30分以下に設定されることが好ましい。
【0058】
なお、当然のことながら、第2のろ過手段12の返流率を高くしても、各ろ過手段11,12が膜エレメントを有する膜モジュールからなる場合、第1のろ過手段11の膜エレメントの本数や種類によって、予め決められた一次透過水の流量の上限までしか濃縮返流水の流量を上げることができない。また、第1の流量制御によって二次透過水の流量が一定に調整されたままで濃縮返流水の流量を上げるためには、加圧ポンプ13としても容量が大きいものや揚程が高いものを採用する必要があるが、このことは、コスト面でのデメリットにつながる。このような場合には、二次透過水の目標流量(第1の流量制御における設定流量)を下げてもよく、それにより、装置の仕様を変更することなく、濃縮返流水の流量を所望の値にまで上げることができる。ただし、その結果、二次透過水の流量が減るため、第2のろ過手段12の目標返流率を第1の目標値に設定して運転を行う時間はできるだけ短いことが好ましい。
【0059】
上述した実施形態では、1つの制御部により3つの流量制御が実行されるが、それぞれの流量制御が別個に設けられた制御部によって実行されてもよい。また、本実施形態では、2つのろ過手段が直列に接続されているが、ろ過手段の数はこれに限定されるものではなく、3つ以上のろ過手段が直列に接続されて設けられていてもよい。その場合、3つ以上のろ過手段のうち最も上流側のろ過手段が、本発明の第1のろ過手段に相当し、残りのろ過手段の少なくとも1つが、本発明の第2のろ過手段に相当する。また、3つ以上のろ過手段のうち最も下流側のろ過手段に接続された透過水ラインが、本発明の最終透過水ラインに相当する。なお、2つのろ過手段11,12が設けられた本実施形態では、第2のろ過手段12に接続された二次透過水ラインL6が、本発明の第2の透過水ラインに相当するだけでなく最終透過水ラインにも相当し、したがって、二次透過水ラインL6に設けられた透過水流量計16が、本発明の第1の流量検出手段に相当するだけでなく第4の流量検出手段にも相当する。
【0060】
(実施例)
次に、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0061】
本実施例では、図1に示す膜ろ過装置を用いて、60分の運転を行い、第2のろ過手段の目標返流率を50%(第1の目標値)から10%(第2の目標値)に変更したときに、二次透過水の導電率がどのように変化するかを1分ごとに測定した。運転は、その前の運転を二次透過水の水質を安定させた後に停止して24時間経過した後で開始し、運転開始後3分の時点で第2のろ過手段の目標返流率を50%から10%に変更した。原水として水道水を用い、各ろ過手段として、ダウケミカル社製のRO膜(品番:XLE-440)を用いた。なお、二次透過水の目標流量を、運転開始時には2000L/hに設定し、第2のろ過手段の目標返流率を50%から10%に変更した時点で3300L/hに変更した。これは、上述したように、予め決められた一次透過水の流量の上限までしか濃縮返流水の流量を上げることができないという制約があるため、運転開始時に、二次透過水の目標流量を低く設定することで濃縮返流水の流量を十分に確保するためである。
【0062】
また、比較例として、第2のろ過手段の目標返流率を10%に設定した状態から運転を開始したことを除いて、実施例と同様の条件で測定を行った。
【0063】
図2は、実施例および比較例における測定結果を示すグラフである。この図から明らかなように、比較例では、導電率は運転開始後には時間とともに減少するものの、運転開始6分の時点でピークを示し、その後、運転開始53分以降に3.2±0.1μS/cmで安定するまで徐々に減少した。一方、実施例では、導電率は運転開始から4分の時点まで急激に減少した後、上昇に転じ、運転開始8分以降に3.2±0.1μS/cmで安定した。すなわち、実施例では、第2のろ過手段の目標返流率を第1の目標値(50%)に設定している間に導電率の急激な減少が見られた後、第2の目標値(10%)に変更してから5分後以降に導電率が良好な値で安定したことから、比較例と比べて、水質の立ち上がりが良好であり、それに伴い、水質が安定になるまでの時間も大幅に短縮されることが確認された。
【0064】
なお、本実施例からは、ろ過手段が1つだけの構成であっても、運転再開時に回収率を低くして濃縮排水の流量を増やすことで、透過水の水質の立ち上がり時間を短縮できることが示唆される。また、3つ以上のろ過手段が直列に接続された構成であっても、同様の考え方で処理水質の立ち上がり時間を短縮できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0065】
10 膜ろ過装置
11 第1のろ過手段
12 第2のろ過手段
13 加圧ポンプ
14 定流量弁
15 排水流量計
16 透過水流量計
17 濃縮水流量計
20 制御部
L1 供給ライン
L2 一次透過水ライン(第1の透過水ライン)
L3 一次濃縮水ライン(第1の濃縮水ライン)
L4 排水ライン
L5 還流水ライン
L6 二次透過水ライン(第2の透過水ライン、最終透過水ライン)
L7 二次濃縮水ライン(第2の濃縮水ライン)
CV1,CV2 流量調整弁
MV1 手動弁
図1
図2