(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】沢わさびの栽培システム及び栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20240806BHJP
【FI】
A01G31/00 608
(21)【出願番号】P 2020195791
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 貴文
(72)【発明者】
【氏名】木場 佑二
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-061735(JP,A)
【文献】特開昭55-007056(JP,A)
【文献】特開昭64-074939(JP,A)
【文献】特開昭53-038529(JP,A)
【文献】特開平06-078628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作土が敷設され、底面に傾斜勾配を有する栽培槽と、
前記栽培槽の最上流から該栽培槽に栽培水を導入する栽培水供給装置と、
前記栽培槽の底部に、前記栽培水の流れ方向に対して前記栽培槽の最下流まで配設された1又は複数の多孔管と、
を備える沢わさびの栽培システムであって、
前記多孔管の起点は、CFD(Computational Fluid Dynamics)解析に基づき規定され、
前記多孔管の起点は、前記CFD解析の結果、作土部表面から100mmの深さまでの流速で最も遅いと判定される層を特定し、更にその層断面で最も遅いと判定される区画内に中心を特定し、該中心から流れ方向の前後2000mm以内に規定され、且つ、
前記多孔管の配設位置により、前記栽培水の浸透を制御する、沢わさびの栽培システム。
【請求項2】
前記複数の多孔管は、互いに略平行に配設されている、請求項
1に記載の沢わさびの栽培システム。
【請求項3】
多孔管同士の間隔は、前記栽培水の流れ方向に対して直行する方向において、200mm~2000mmの範囲である、請求項
2に記載の沢わさびの栽培システム。
【請求項4】
前記多孔管の排水口に、排水量を調節する調節機構が設けられている、請求項1から
3のいずれか一項に記載の沢わさびの栽培システム。
【請求項5】
前記傾斜勾配は、前記栽培槽の最上流から最下流に向けて、1/1000~1/20である、請求項1から4のいずれか一項に記載の沢わさびの栽培システム。
【請求項6】
前記栽培槽の底部には、3本以上の前記多孔管が配設され、
前記3本以上の前記多孔管は、互いに略平行であって、且つ、互いの栽培水の流れ方向と直交する方向の距離を均等にして設置されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の沢わさびの栽培システム。
【請求項7】
請求項1に記載の沢わさびの栽培システムにおいて、前記栽培水供給装置から前記栽培槽の最上流に栽培水を導入する、沢わさびの栽培方法。
【請求項8】
請求項
4に記載の沢わさびの栽培システムにおいて、前記調節機構により前記排水量を調節して、前記栽培水の浸透水量及び表面水量を制御する、沢わさびの栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沢わさびの栽培システム及び栽培方法に関する。より詳しくは、良好な生育が得られる沢わさびの栽培システム及び栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本固有の植物であるわさびは、葉、茎、根茎、根の全ての部位が可食であり、特に、根茎部は、すりおろしたものが寿司や蕎麦などの香辛料として利用され、世界的に日本食が認識され定着化していく中で、その需要が高まっている。また、その他の料理に用いられることや、わさびに含まれる特殊な成分に着目し、アンチエイジングなど医薬に用いられることも図られており、今後更なる需要の伸びが予想されている。
【0003】
各種わさび植物の中でも、根茎を主に得るために栽培される沢わさびは、露光される光の量を調節するなどの環境を調整されているだけでなく、根付近に常に水が流れる工夫が施されており、成長阻害物質が根に溜まることを抑制することで、天然物とは異なり、根茎を大きく肥大化させる改善がなされている。
【0004】
一方で、日本国内の沢わさびの生産量を見ると、1990年以降、減少の一途を辿っており、需要に対する供給のバランスが取れていないのが現状である。この原因としては、沢わさび栽培自体手間がかかり、栽培期間も長いことに加えて、沢わさびの特性上、栽培地が冷涼で水が引き込みやすい山間地に多く、作業負荷が高いことや自然災害を受けやすいため、安定的な生産活動を営むことが難しいことにある。そのため、栽培地の縮小化、後継者の不足の進行が問題となっている。そのような背景の中で、種々の栽培システムが提案され、良好な栽培環境と効率的な栽培設備により、安定的に品質の高い沢わさびが量産されるようになってきている。
【0005】
沢わさび栽培において、広く一般的には5つの栽培方法が使用され、渓流式(山口県、島根県などで多く見られる)、地沢式(東京都などで多く見られる)、平地式(長野県安曇野筑で多く見られる)、畳石式(静岡県伊豆地方で多く見られる)、北駿式(静岡県御殿場地区で多く見られる)がある。特に、畳石式や北駿式は、砂礫からなるわさび田内部において、多孔管や暗渠排水をわさび田底面に設けることで、水の透水性と酸素の供給を行っており、良質な沢わさびが得られやすいという特長がある。
【0006】
また、特許文献1には、わさび田底面に仕切り壁を設け、わさび田内部を流れる水の攪拌(乱流)を行うことで、養水の滞留を改善し、根腐れを抑制する方法が開示されている。その他にも、隔離ベッド底面に多孔管を配設した栽培装置(静岡県農業水産部)が提案されており、造成に特別な技術を必要とせず、栽培場所も限られず、作土内部の水量調整が可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、畳石式や北駿式の栽培方法においては、一つのわさび田の中で、水流が均一ではないため極端な生育ムラが発生しており、安定的な生産が見込めないといった問題があった。
【0009】
また、特許文献1に記載された作土中の水の流れは、仕切り壁を設けることで抵抗となる上、逃げ道側にも作土が詰まっているので、効率的な滞留改善を行うことは難しい。また、根付近の水流を意図的に増やせないため、根に溜まる成長阻害物質を効率的に洗い流し、良好な生育を得ることができなかった。更に、隔離ベッド底面に多孔管を配設した栽培装置は、従来のわさび田の再現を行うものであって、生育ムラを改善できるものではなかった。
【0010】
本発明では、これら課題を解決するために、良好な生育が得られる沢わさびの栽培システムとその栽培方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らが鋭意実験検討を行った結果、栽培層の底部に配設された多孔管に着目し、当該多孔管の起点を工夫することで、良好な生育が得られる沢わさびの栽培システムとその栽培方法が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明では、作土が敷設され、底面に傾斜勾配を有する栽培槽と、前記栽培槽の最上流から該栽培槽に栽培水を導入する栽培水供給装置と、前記栽培槽の底部に、前記栽培水の流れ方向に対して前記栽培槽の最下流まで配設された1又は複数の多孔管と、を備える沢わさびの栽培システムであって、前記多孔管の起点は、CFD(Computational Fluid Dynamics)解析に基づき規定され、前記多孔管の起点は、前記CFD解析の結果、作土部表面から100mmの深さまでの流速で最も遅いと判定される層を特定し、更にその層断面で最も遅いと判定される区画内に中心を特定し、該中心から流れ方向の前後2000mm以内に規定され、且つ、前記多孔管の配設位置により、前記栽培水の浸透を制御する、沢わさびの栽培システムを提供する。
本発明において、前記複数の多孔管は、互いに略平行に配設されていてよい。この場合、多孔管同士の間隔は、前記栽培水の流れ方向に対して直行する方向において、200mm~2000mmの範囲であってよい。
本発明において、前記多孔管の排水口に、排水量を調節する調節機構が設けられていてよい。
本発明において、前記傾斜勾配は、前記栽培槽の最上流から最下流に向けて、1/1000~1/20であってよい。
本発明において、前記栽培槽の底部には、3本以上の前記多孔管が配設され、前記3本以上の前記多孔管は、互いに略平行であって、且つ、互いの栽培水の流れ方向と直交する方向の距離を均等にして設置されていてよい。
【0013】
また、本発明では、前記沢わさびの栽培システムにおいて、前記栽培水供給装置から前記栽培層の最上流に栽培水を導水する、沢わさびの栽培方法も提供する。
加えて、本発明では、前記沢わさびの栽培システムにおいて、前記調節機構により前記排水量を調節して、前記栽培水の浸透水量及び表面水量を制御する、沢わさびの栽培方法も提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好な生育が得られる沢わさびの栽培システムとその栽培方法を提供することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】Aは、沢わさびの栽培システムの実施形態の一例を示す長手方向の模式断面図であり、Bは、AのP-P線模式断面図である。
【
図2】A~Dは、CFD解析の結果を示す図である。
【
図3】実施例に示した栽培システムにより生育した沢わさびの図面代用写真である。
【
図4】比較例に示した栽培システムにより生育した沢わさびの図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0017】
1.沢わさびの栽培システム10
図1のAは、沢わさびの栽培システムの実施形態の一例を示す長手方向の模式断面図であり、
図1のBは、AのP-P線模式断面図である。
本発明に係る栽培システム10は、作土111が敷設され、底面に傾斜勾配を有する栽培槽11と、前記栽培槽11の最上流110から該栽培槽11に栽培水を導入する栽培水供給装置12と、前記栽培槽11の底部112に、前記栽培水の流れ方向に対して前記栽培槽11の最下流113まで配設された1又は複数の多孔管13と、を備える。また、前記多孔管13の起点130は、前記栽培槽11の最上流110と最下流113との間に規定されることを特徴とする。
【0018】
栽培槽11としては、例えば、周囲が破壊或いは漏水しない材質で形成され、且つ、プール状に形成されていることが好ましい。具体的には、例えば、あぜ板とシートとからなる。あぜ板の材質は特に限定されないが、例えば、プラスチック製とすることができる。シートは、例えば、水の浸透を抑制することができるものとすることができる。より具体的には、作土を設置するために掘削した土地(例えば、平地、山間部等)周辺に、粘土質の土壌に打ち込んだ形であぜ板を設置する。該あぜ板を設置することで槽を形成し、該槽から水を染み出させないために前記シートをプール状に設置する。なお、本発明では、栽培槽11の幅、長さ、深さ等は特に限定されず、当業者により適宜設計することができる。また、栽培槽11は、工場、農業用ハウス、トンネル等の内部に造成されていてよい。
【0019】
また、本発明では、底面に傾斜勾配を有することで、底部112からの排水が効率的となる。傾斜勾配は、栽培槽11底面付近の栽培水を滞留させない観点及び造成の観点から、前記栽培槽11の最上流110から最下流113に向けて、1/1000~1/20であることが好ましく、1/500~1/30であることがより好ましく、1/200~1/50であることが更に好ましい。傾斜勾配を1/1000以上とすることで、栽培水の滞留を防ぐことができる。また、傾斜勾配を1/20以下とすることで、栽培槽11を急勾配とすることにより発生するコストを抑制することができる。
【0020】
栽培槽11に敷設される作土111は、例えば、粗砂や礫などからなる透水性のある栽培土壌である。より具体的には、例えば、平均粒径が異なる石層を上下に積層して構成され、上層の平均粒径が小さく、下層の平均粒径が大きくなるように設定され、例えば、下から礫(平均粒径20mm以上)、砂利(平均粒径10mm以下)、荒砂(平均粒径3mm以下)で構成される。沢わさびの苗を植える上層部は、粒度が大きすぎると、根の定着や根からの養分の吸収が上手く行われない。また、下層部は、粒度が大きくないと、水の浸透が見込めず、根に効率的に水を流せるような内部の水流を生み出せない。
【0021】
沢わさびの苗は、その根の部分が作土111に浸漬されるようにして植え付けられる。沢わさびの品種は特に限定されず、例えば、真妻とすることができ、苗の種類も特に限定されず、メリクロン苗、分けつ苗、実生苗、芽出し苗等とすることができる。作土111は、栽培水を供給すると、作土表面を流れる表面水と作土内部に浸透する浸透水に分かれる構造を持っており、栽培領域の沢わさびの苗付近で表面水が作土内部に浸透し、沢わさびの成長阻害物質を洗い流すことができる。
【0022】
栽培水供給装置12としては、例えば、井戸や貯水槽などの水源から、送水ポンプ等により取水して栽培水を導入する装置である。栽培水の導入位置は、最上流(傾斜上流)110であり、導入された栽培水は、傾斜勾配を有する栽培槽11の最下流113に向かって流れる。
【0023】
1又は複数の多孔管13は、前記栽培水の流れ方向に対して前記栽培槽11の最下流113まで配設されている。本発明では、特に、多孔管13は、複数配設されていることが好ましい。
【0024】
本発明では、上述の通り、前記多孔管13の起点130は、前記栽培槽11の最上流110と最下流113との間に規定される。これにより、栽培水が栽培槽11の底部112で滞留することを防ぎ、栽培水の浸透性がわさび田一面にわたり平均化され、生育ムラを防止して良好な生育を得ることができる。
【0025】
多孔管13に形成された孔は、礫が入り込まないサイズであることが好ましい。孔が狭すぎると目詰まりを起こしてしまうが、一方で、穴が大きすぎると、作土が通過して培地の作土が減少してしまう。また、前記孔は、多孔管13の周面全面に形成されていてもよいし、周面の2/3程度の面にのみ形成されていてもよい。前記孔が多孔管13の周面全面に形成されている場合、開孔比は、例えば、0.2%以上とすることができる。
【0026】
多孔管13の直径は特に限定されず、例えば、φ25mm~φ200mmのものを用いることができる。多孔管13の前記栽培水の流れ方向の長さも特に限定されず、例えば、1m~10mのものを用いることができる。
【0027】
本発明において、前記多孔管の起点130は、CFD(Computational Fluid Dynamics)解析に基づき規定されることが好ましい。CFD解析とは、数値流体力学(Computational Fluid Dynamics)の略称であり、流体の運動に関する方程式をコンピュータで解析することで、流れを視認化する手法である。CFD解析には、市販のソフトを用いることができ、例えば、Fluent ver19.0(Ansys社製)等を用いることができる。
【0028】
CFD解析のための計算条件は、例えば、作土111を多孔体として設定し、該多孔体内部における流体の挙動解析とすることができる。この場合、解析に必要な物性は、流体(水、水温は適宜設定)の条件である密度(kg/m3)、粘度(kg/m・s)、流量(cm3/min)、及び多孔体(作土)の条件である粘性抵抗係数(1/m2)である。なお、多孔体の条件である粘性抵抗係数は、各作土に関して適宜設定する。粘性抵抗係数は、例えば、対照となる作土を詰め、該作土の流出を最下部の金網で防いである直管パイプ(垂直)に水を浸透させ、透水量を測定し、パイプの内径面積より透水速度を求めた後、下記数式(1)により表されるダルシーの法則により求めることができる。
【0029】
【数1】
ΔP:圧損(Pa)
μ:粘度(Pa・s)
V:フィルター入口(フィルターに入る手前の)速度(m/s)
Δt:フィルターの厚み(m)
α:浸透率(m
2)
1/α:粘性抵抗係数(1/m
2)
【0030】
図2のAは、多孔管13を設置していない状態のわさび田長手方向断面の解析結果を示し、
図2のBは、多孔管13を設置していない状態のわさび田表面から25mm深さ位置の断面(幅方向1/2)の解析結果を示す。本発明では、例えば、前記多孔管13の起点130を、前記CFD解析の結果、作土部上層の栽培水の流動が滞留する区画内に中心を特定し、該中心から所定の距離内で規定することが挙げられる。なお、前記区画とは、例えば、
図2のBのX部分であり、該X部分において、他の箇所と比較して色が濃く表示されており、作土部上層の栽培水が滞留していることが分かる。すなわち、前記区画とは、作土部表層や透水性の高い作土部底面(礫層)ばかりに栽培水が流れ、わさび苗の根が張る作土部上層(粗砂層)付近の栽培水があまり流動していない状態となっている箇所を指す。
【0031】
図2のCは、多孔管13を設置した状態のわさび田長手方向断面の解析結果を示し、
図2のDは、多孔管13を設置した状態のわさび田表面から25mm深さ位置の断面(幅方向1/2)の解析結果を示す。栽培水の浸透性の悪い位置から、わさび田末尾に向かって多孔管13を設置することで、多孔管13が無い部分から多孔管13がある部分へと栽培水が移動する際に、空隙率が低いところから高いところへと栽培水が移動することとなり、多孔管13内部を満たそうと栽培水が多孔管13上部から浸透し、結果として、上流部側の多孔管13付近で栽培水の浸透が向上する。
図2のDにおいても、多孔管13を配置したことで、色が濃く表示されていた箇所(
図2のBのX部分)が、色が薄く表示されていることが分かる。なお、本発明において、多孔管13は、栽培水の流れ方向に対して栽培槽11の最下流113まで配設されており、浸透した栽培水は下流部へと移送される。
【0032】
本発明では、前記多孔管13の起点130は、前記CFD解析の結果、作土部表面から100mmの深さまでの流速で最も遅いと判定される層を特定し、更にその層断面で最も遅いと判定される区画内に中心を特定し、該中心から流れ方向の前後2000mm以内(好ましくは、1500mm以内)に規定することがより好ましい。これにより、より確実に作土部上層(粗砂層)付近の栽培水の滞留を防ぎ、生育ムラを解消することができる。
【0033】
前述した通り、本発明では、多孔管13は複数配設されていることが好ましいが、その場合、複数の多孔管13同士は、栽培水の流れ方向に対して互いに略平行に配設されていることが好ましい。複数の多孔管13を略平行に設置することで、栽培水の流れ方向に対して直行する断面で条件(例えば、栽培水の浸透水量等)の均一化ができる。なお、この場合、栽培槽11は、例えば、周囲の形状(栽培槽11を真上から視た際の形状)が略長方形であることが好ましい。
【0034】
また、栽培槽11の形状によるが、本発明では、多孔管13を3本以上配設する場合、
図1のBに示すように、互いに略平行であって、且つ、互いの栽培水の流れ方向と直交する方向の距離を均等にして設置することがより好ましい。
【0035】
複数の多孔管13が、栽培水の流れ方向に対して互いに略平行に配設されている場合、多孔管13同士の距離は、栽培水の流れ方向に対して直行する方向において、浸透した栽培水を回収できる距離が好ましい。より具体的には、例えば、200mm~2000mmであり、500mm~1500mmとすることがより好ましい。
【0036】
本発明において、多孔管13は、その排水口に、排水量を調節する調節機構を設けていることが好ましい。前記調節機構としては、例えば、分水栓、開閉機構、調節バルブ等とすることができる。排水量の調節機構を設けることにより、栽培水の浸透水量と表面水量の調整を行うことが可能となり、浸透水量と表面水位を変更することができる。例えば、作土末尾の表面まで表面水が届くように浸透水量を絞ったり、沢わさびの生育状況に合わせて更に浸透水量を絞ったりなどして、適宜表面水位を高くする。この調節により、栽培水を全ての苗に行き届かせることができ、また、成長時の落葉を効率的に洗い流すことができる。
【0037】
なお、本発明では、多孔管13から排出された栽培水は、収集され、下段の栽培槽へと連続的に導入されてもよいし、或いはポンプアップされ、再び栽培槽11の最上流110に導入されてもよい。
【0038】
2.沢わさびの栽培方法
本発明に係る栽培方法は、前述した沢わさびの栽培システムにおいて、前記栽培水供給装置12から前記栽培槽11の最上流(傾斜上流)110に栽培水を導入する。栽培水としては、例えば、地下水、沢の水等を用いることができる。また、栽培水は、養分不足を補足するために、窒素、リン、カリウム等の肥料を含んでいてもよい。栽培水の導入は、例えば、送水ポンプ等を介して行うことができる。栽培水の導入量は特に限定されず、当業者により適宜必要に応じた水量を設定することができる。栽培水の水温も特に限定されず、当業者により適宜設定することができる。
【0039】
本発明に係る栽培方法の他の実施形態としては、前述した沢わさびの栽培システムにおいて、前記多孔管13の配設位置により、前記栽培水の浸透を制御する。前述の通り、多孔管13が無い部分から多孔管13がある部分へと栽培水が移動する際に、空隙率が低いところから高いところへと栽培水が移動することとなり、多孔管13内部を満たそうと栽培水が多孔管13上部から浸透する。これにより、前記多孔管13の配設位置を変更することで、栽培水の浸透も調節することができる。
【0040】
本発明に係る栽培方法の他の実施形態としては、前述した沢わさびの栽培システムにおいて、多孔管の排水口に、排水量を調節する調節機構を設けている場合、該調節機構により前記排水量を調節して、前記栽培水の浸透水量及び表面水量を制御する。前述の通り、これにより、浸透水量と表面水位を変更することができる。この調節により、栽培水を全ての苗に行き届かせることができ、また、成長時の落葉を効率的に洗い流すことができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0042】
<実施例>
1/50の傾斜勾配を有し、4000mm幅×8000mm長の栽培槽内に、下から礫、砂、粗砂の順で積層して作土を作成し、十分量の栽培水を用いて作土洗浄を行い、洗浄後の作土中央部に沢わさびの苗を株元まで植えた。送水ポンプにより、250L/minの水量で、栽培槽の最上流へ地下水を導入した。また、予めCFD解析を行い、栽培槽の底部には、前記CFD解析の結果、作土部表面から100mmの深さまでの流速で最も遅いと判定される層を25mm深さの層とし、更にその層断面で最も遅いと判定される区画を水頭より5000mmとし、該中心から流れ方向の前の1000mmの位置を起点として設定し、4本の多孔管(4m×φ65mm、トヨドレンダブル管 TDW65(全面有孔管;8列孔))を配設した。多孔管同士の距離は均等とし、栽培水の流れ方向に対して直行する方向において、各1000mmとした。また、多孔管の排水口に取り付けられた分水栓により、表面水が流れる程度(表面水:浸透水=3:7)まで、浸透水量と表面水量を調整した。
【0043】
<比較例>
栽培槽の底部に複数の多孔管を配設しなかった以外は、上述した実施例と同様に行った。
【0044】
<試験結果>
図3は、実施例に示した栽培システムにより生育した沢わさびの図面代用写真を示し、
図4は、比較例に示した栽培システムにより生育した沢わさびの図面代用写真を示す。実施例は、比較例と比べて、生育ムラが無く、生育も良好であることが分かった。また、実施例は、生育速度も比較例に比べて早く、栽培周期が短いということも判明した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、栽培槽の底部での栽培水の滞留を防ぐことができ、栽培水の均一な流れを得ることができる。したがって、沢わさびの生育ムラを解消し、良好な生育が得られることができると共に、病害等の発生等も防ぐことができる。
【符号の説明】
【0046】
10:沢わさびの栽培システム
11:栽培槽
110:最上流
111:作土
112:底部
113:最下流
12:栽培水供給装置
13:多孔管
130:起点