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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】掘削装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 7/00 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
E02D7/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020201546
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2022089277
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000216025
【氏名又は名称】鉄建建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】竹田 茂嗣
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 隆
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-075452(JP,A)
【文献】特開2006-348515(JP,A)
【文献】特開2019-167751(JP,A)
【文献】特開2013-072271(JP,A)
【文献】特開2009-243186(JP,A)
【文献】特開昭59-213893(JP,A)
【文献】特開昭58-037295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に杭を構築するための杭孔を、土砂を含む泥水を地上に排出しながらビットによって掘削形成する掘削装置であって、
前記ビットの回転状態を示す時系列データを取得するビットデータ取得手段と、
前記ビットの回転状態を示す時系列データに基づいて前記地盤のN値を推定するN値推定手段と、
該N値推定手段で推定されたN値を出力する出力手段とを備え、
前記N値推定手段は、
前記ビットの回転状態を示す時系列データ、及び前記泥水の排泥流速を示す時系列データを教師データとする学習モデルで構築された
掘削装置。
【請求項2】
前記泥水の排泥流速を示す時系列データを取得する排泥データ取得手段を備え、
前記N値推定手段は、
前記ビットの回転状態を示す時系列データ、及び前記排泥流速を示す時系列データに基づいて前記地盤のN値を推定する構成である
請求項1に記載の掘削装置。
【請求項3】
前記ビットデータ取得手段は、
前記ビットの貫入力、前記ビットの回転トルク、前記ビットの掘削速度、及び前記ビットの振動のうち、少なくとも2つ以上の時系列データを、前記ビットの回転状態を示す時系列データとして取得する構成である
請求項1または請求項2に記載の掘削装置。
【請求項4】
正常な排泥流速を示す閾値を流速閾値とし、正常なビットの回転状態を示す閾値をビット閾値として、
前記学習モデルは、
前記排泥流速が前記流速閾値を超え、かつ前記ビットの回転状態が前記ビット閾値を超える時間帯域を除去した前記教師データを用いて構築された
請求項1から請求項のいずれか1つに記載の掘削装置。
【請求項5】
前記学習モデルは、
前記排泥流速に関わらず、前記ビットの掘削速度が0cm/min以下となる時間帯域を除去した前記教師データを用いて構築された
請求項1から請求項のいずれか1つに記載の掘削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば地盤を掘削した際の掘削データに基づいて、地盤の土質性状を識別するような掘削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の基礎を構築するための杭を地盤に構築する杭孔掘削の杭工法として、例えば、リバース工法がある(特許文献1参照)。
このリバース工法は、回動するビットで地盤を掘削し、掘削された杭孔内の泥水を土砂とともに、回収ホースを介して地上に排出する。さらに、リバース工法は、地盤表層部では杭孔の孔壁をスタンドパイプで保持し、スタンドパイプの下端以深ではマッドケーキに水頭圧が作用することで孔壁を保持している。
【0003】
従来、このような杭工法では、杭孔内の状態を直接視認できないため、ビットの回転トルクや掘削速度などの掘削データに基づいて、オペレータが、地盤の土質性状や掘削状況を見極めながら、掘削装置を操作する。このため、オペレータには、豊富な経験と高度な判断とが要求される。
【0004】
しかしながら、例えば場所打ち杭の施工現場では、昨今、経験豊富なオペレータの高齢化だけでなく、経験豊富なオペレータの確保が難しくなっている。このため、経験豊富なオペレータに頼らず、地盤の土質性状を識別したいというニーズがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-263561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑み、地盤の土質性状を識別できる掘削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、地盤に杭を構築するための杭孔を、土砂を含む泥水を地上に排出しながらビットによって掘削形成する掘削装置であって、前記ビットの回転状態を示す時系列データを取得するビットデータ取得手段と、前記ビットの回転状態を示す時系列データに基づいて前記地盤のN値を推定するN値推定手段と、該N値推定手段で推定されたN値を出力する出力手段とを備え、前記N値推定手段は、前記ビットの回転状態を示す時系列データ、及び前記泥水の排泥流速を示す時系列データを教師データとする学習モデルで構築されたことを特徴とする。
【0008】
上記ビットの回転状態は、ビットの貫入力、ビットの回転トルク、ビットの掘削速度、ビットの振動などのことをいう。
この発明によれば、掘削装置は、ビットの回転状態を示す時系列データ、及び排泥流速を示す時系列データのいずれか一方を教師データとする学習モデルに比べて、精度の高い学習モデルを用いて地盤のN値を推定することができる。このため、掘削装置は、オペレータの経験に頼ることなく、地盤の土質性状を精度よく識別することができる。
【0009】
さらに、推定されたN値を出力手段に出力することにより、掘削装置は、地盤の土質性状を、N値を用いてオペレータに容易に伝えることができる。このため、掘削装置は、オペレータによる掘削状況の見極めを容易にして、オペレータの負担を軽減することができる。
【0010】
この発明の態様として、前記泥水の排泥流速を示す時系列データを取得する排泥データ取得手段を備え、前記N値推定手段は、前記ビットの回転状態を示す時系列データ、及び前記排泥流速を示す時系列データに基づいて前記地盤のN値を推定する構成であってもよい。
この構成によれば、掘削装置は、ビットの回転状態を示す時系列データに基づいてN値を推定する場合に比べて、地盤のN値をより精度よく推定することができる。
【0011】
またこの発明の態様として、前記N値推定手段によって推定された前記N値に基づいて、前記ビットの支持層への到達を判定する支持層判定手段を備えてもよい。
この構成によれば、掘削装置は、ビットの支持層への到達をオペレータが判定することを不要にできる。さらに、オペレータが支持層への到達を判断する場合、オペレータの経験によって判断がばらつくのに対して、掘削装置は、支持層への到達を安定して判定することができる。
【0012】
またこの発明の態様として、前記N値推定手段によって推定された前記N値に基づいて、地盤の土質分類を判定する土質判定手段を備えてもよい。
上記土質分類は、例えば礫層、粘土層などのことをいう。
この構成によれば、掘削装置は、回転トルクや貫入力などの複数のデータに基づいてオペレータが土質分類を判断する場合に比べて、オペレータの負担を軽減することができる。
【0013】
またこの発明の態様として、前記ビットデータ取得手段は、前記ビットの貫入力、前記ビットの回転トルク、前記ビットの掘削速度、及び前記ビットの振動のうち、少なくとも2つ以上の時系列データを、前記ビットの回転状態を示す時系列データとして取得する構成であってもよい。
【0014】
この構成によれば、掘削装置は、ビットの貫入力、ビットの回転トルク、ビットの掘削速度、及びビットの振動のうち、いずれか1つをビットの回転状態を示す時系列データとして取得した場合に比べて、地盤のN値をさらに精度よく推定することができる。
【0015】
またこの発明の態様として、正常な排泥流速を示す閾値を流速閾値とし、正常なビットの回転状態を示す閾値をビット閾値として、前記学習モデルは、前記排泥流速が前記流速閾値を超え、かつ前記ビットの回転状態が前記ビット閾値を超える時間帯域を除去した前記教師データを用いて構築されてもよい。
上記流速閾値及びビット閾値は、それぞれ上限値、下限値、または上下限値からなる許容範囲のことをいう。
【0016】
この構成によれば、掘削装置は、正常な掘削状態を示す教師データを用いて構築された学習モデルに基づいて、地盤のN値を精度よく推定することができる。
具体的には、ビットの回転トルクや泥水の排泥流速などは、地盤をスムーズに掘削している場合でもある程度変動するが、土質性状や層厚によっては許容範囲を超えて変動することがある。例えば、礫層では、泥水を排出する流路が礫によって閉塞することで、排泥流速が許容範囲を超えて低下することがある。
【0017】
つまり、ビットの回転状態及び排泥流速が許容範囲を超える時間帯域は、ビットの回転状態が意図しない状態、または排泥流速が意図しない流速になっているおそれがある。換言すれば、ビットの回転状態及び排泥流速が許容範囲を超える時間帯域は、正常な地盤の掘削状態を示していないおそれがある。
【0018】
そこで、排泥流速が流速閾値を超え、かつビットの回転状態がビット閾値を超える時間帯域を除去することで、教師データは、正常な地盤の掘削状態を示すことになる。このような教師データを用いて学習モデルが構築されているため、掘削装置は、地盤のN値を精度よく推定することができる。
【0019】
またこの発明の態様として、前記学習モデルは、前記排泥流速に関わらず、前記ビットの掘削速度が0cm/min以下となる時間帯域を除去した前記教師データを用いて構築されてもよい。
この構成によれば、掘削装置は、より正常な掘削状態を示す教師データを用いて構築された学習モデルに基づいて、地盤のN値を精度よく推定することができる。
【0020】
具体的には、例えば、ビットが回転しているが掘削深度に変化がない状態、空転させながらビットを上昇させている状態、あるいは上昇位置でビットの空転を維持している状態では、掘削速度が0cm/min以下となる。つまり、掘削速度が0cm/min以下の時間帯域は、ビットが空転している時間帯域であり、正常な地盤の掘削状態を示していない。
【0021】
そこで、ビットが空転している時間帯域を除去することで、教師データは、より正常な地盤の掘削状態を示すことになる。このような教師データを用いて学習モデルが構築されているため、掘削装置は、地盤のN値を精度よく推定することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、地盤の土質性状を識別できる掘削装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】掘削装置の構成を示す構成図。
図2】掘削装置の内部構成を示すブロック図。
図3】オペレータ用モニタ、及び掘削管理用モニタに表示される画面を説明する説明図。
図4】学習モデルの概略を説明する説明図。
図5】時系列データの一例を説明する説明図。
図6】N値を推定する処理動作を示すフローチャート。
図7】推定N値とボーリング調査でのN値とを比較した比較図。
図8】データ処理装置の内部構成を示すブロック図。
図9】修正掘削データを生成出力する処理動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
本実施形態の掘削装置1は、場所打ち杭のための杭孔をリバース工法で掘削形成する装置である。このような掘削装置1について、図1から図6を用いて説明する。
【0025】
なお、図1は掘削装置1の構成図を示し、図2は掘削装置1のブロック図を示し、図3はオペレータ用モニタ51、及び掘削管理用モニタ52に表示される画面を説明する説明図を示している。
さらに、図4は学習モデル56の概略を説明する説明図を示し、図5は時系列データの一例を説明する説明図を示し、図6はN値を推定する処理動作のフローチャートを示している。
【0026】
掘削装置1は、図1に示すように、地盤Gを掘削する掘削機2と、土砂を含む泥水W(安定液ともいう)を循環させる泥水循環装置3と、杭孔Hに貯留された泥水Wの水位を検知する水位センサ4と、これらの動作を制御するコントロールユニット5とで構成されている。
【0027】
掘削機2は、詳細な図示を省略するが、例えば低空頭型の掘削機である。この掘削機2は、図1に示すように、二点鎖線で図示した掘削機本体21と、掘削機本体21のフィード(図示省略)に支持された内部中空のロッド22と、ロッド22の下端に一体的に設けた掘削用のビット23とを備えている。
【0028】
さらに、掘削機本体21は、図2に示すように、フィードを昇降させる油圧ポンプ24と、ロッド22を回転駆動させる回転駆動部25と、油圧センサ26、回転検知センサ27、及び振動検知センサ28とを備えている。
【0029】
油圧センサ26は、油圧ポンプ24の油圧を検知する機能と、検知した油圧を出力信号としてコントロールユニット5に出力する機能とを有している。
回転検知センサ27は、ロッド22の回転数を検知する機能と、検知した回転数を出力信号としてコントロールユニット5に出力する機能とを有している。
振動検知センサ28は、ロッド22の振動を検知する機能と、検知したロッド22の振動を出力信号としてコントロールユニット5に出力する機能とを有している。
【0030】
また、泥水循環装置3は、図1に示すように、ロッド22の上端に接続され、ロッド22の内部に連通する回収ホース31と、ロッド22及び回収ホース31を介して泥水Wを杭孔Hから地上に排出する排泥ポンプ32と、地上に排出された泥水Wから土砂を分離する土砂分離機33とを備えている。
さらに、泥水循環装置3は、図1に示すように、土砂を分離した泥水Wを一時貯留する貯留槽34と、貯留槽34の泥水Wを、供給ホース35を介して杭孔Hに圧送する送泥ポンプ36とを備えている。
【0031】
加えて、泥水循環装置3は、図2に示すように、杭孔Hから土砂分離機33へ向かう泥水Wの流速を検知する流量計37を備えている。この流量計37は、泥水Wの流速(以下、排泥流速と呼ぶ)を検知する機能と、検知した排泥流速を出力信号としてコントロールユニット5に出力する機能とを有している。
【0032】
また、水位センサ4は、図1に示すように、杭孔Hの内部に挿入され、泥水Wの水位を検知する機能と、検知した水位を出力信号としてコントロールユニット5に出力する機能とを有している。
また、コントロールユニット5は、図1に示すように、掘削機2、泥水循環装置3、及び水位センサ4に電気的に接続されるとともに、各種情報を授受可能に構成されている。
【0033】
具体的には、コントロールユニット5は、図2に示すように、オペレータ用モニタ51、掘削管理用モニタ52、操作部53、記憶部54、及びこれらの動作を制御する掘削制御部55とで構成されている。
【0034】
オペレータ用モニタ51は、掘削制御部55の指示によって各種情報を表示する液晶ディスプレイと、オペレータの入力操作を受け付けるタッチパネルとを備えた、所謂、タッチパネル付き液晶ディスプレイで構成されている。このオペレータ用モニタ51は、掘削制御部55の指示によって各種情報を表示する機能と、オペレータの入力操作を受け付ける機能と、受け付けた入力内容を示す情報を掘削制御部55に出力する機能とを有している。
【0035】
このオペレータ用モニタ51には、例えば、図3(a)に示すように、杭孔Hの現在の掘削状態を示す画面が表示される。なお、現在の掘削状態を示す画面には、図3(a)に示すように、掘削深度、掘削速度、安定液水位(泥水Wの水位)、及び後述する推定N値などがリアルタイムに表示されている。
【0036】
掘削管理用モニタ52は、例えば、液晶ディスプレイなどで構成され、掘削制御部55の指示によって各種情報を表示する機能を有している。この掘削管理用モニタ52には、図3(b)に示すように、杭孔Hの掘削状態を経過時間、及び掘削深度で示す画面が表示される。なお、杭孔Hの掘削状態を示す画面には、図3(b)に示すように、貫入力、掘削速度、回転速度、及び回転トルクが、経過時間、及び掘削深度の双方で表示されている。さらに、杭孔Hの掘削状態を示す画面には、詳細な図示を省略するが、掘削深度と推定N値との関係を示すグラフが表示されている。
【0037】
操作部53は、例えば、キーボードやタッチパネルで構成され、オペレータの入力操作を受け付ける機能と、受け付けた入力内容を示す情報を掘削制御部55に出力する機能とを有している。
記憶部54は、ハードディスクあるいは不揮発性メモリなどで構成され、各種情報を書き込んで記憶する機能と、各種情報を読み出す機能とを有している。
【0038】
この記憶部54は、各種処理の実行プログラム、オペレータが入力した各種情報、及び地盤GのN値を推定する学習モデル56などを記憶している。
学習モデル56は、図4に示すように、例えば、入力情報が入力される入力層56a、中間層56b、及び出力情報が出力される出力層56cからなるニューラルネットワークを用いた推定アルゴリズムである。
【0039】
この学習モデル56は、図4に示すように、例えば、掘削機本体21の各センサから得た各種情報、及び泥水循環装置3の流量計37から得た水位を示す情報を入力情報とし、入力情報に対する出力情報として、地盤GのN値の推定値である推定N値が得られるように構築されている。
なお、入力情報は、泥水Wの排泥流速、ビット23の回転速度、ビット23の回転トルク、貫入力、フィード吊荷重、ビット23の振動、及び掘削速度などの時系列データ群である。
【0040】
さらに、学習モデル56は、図4に示すように、ボーリング調査で得た土質性状、及びN値を関連付けたボーリングデータと、後述する修正掘削データとを、入力情報に対する教師データTとして、繰り返し学習して構築されている。
この際、学習モデル56は、入力情報に対する出力情報が、地盤Gの推定N値となるように、教師データTに基づいて重み付けや判定閾値を繰り返し調整して学習している。
【0041】
掘削制御部55は、例えば、CPUやメモリなどのハードウェアと、制御プログラムなどのソフトウェアとで構成されている。この掘削制御部55は、掘削機2、泥水循環装置3、及び水位センサ4との各種信号の授受に係る処理機能と、杭孔Hの掘削状況の演算に係る各種処理機能と、所定のバスを介して接続された各部の動作を制御する機能とを有している。
【0042】
より詳しくは、掘削制御部55は、フィード吊荷重、ビット23の回転トルク、貫入力、ビット23の回転速度、掘削速度、掘削深度、ビット23の振動、及び泥水Wの水位を、それぞれ時系列データとして算出する機能を有している。
【0043】
フィード吊荷重、及び回転トルクは、油圧センサ26が出力した油圧を示す出力信号に基づいて算出している。
貫入力は、ロッド22、及びビット23の総重量と、フィード吊荷重とに基づいて算出している。
ビット23の回転速度は、回転検知センサ27が出力したロッド22の回転数を示す出力信号に基づいて算出している。
【0044】
掘削速度は、フィード吊荷重、及び掘削の経過時間に基づいて算出している。
掘削深度は、掘削速度、及び掘削の経過時間に基づいて算出している。
ビット23の振動は、振動検知センサ28が出力したロッド22の振動を示す出力信号に基づいて算出している。
泥水Wの水位は、水位センサ4が出力した水位を示す出力信号に基づいて算出している。
【0045】
次に、上述した構成の掘削装置1が、地盤Gを掘削する流れについて簡単に説明する。なお、地盤Gの表層には、浅く掘削した部分に、ライナープレートによる口元管が予め設置されている。
【0046】
掘削装置1は、オペレータの操作によって地盤Gの掘削を開始すると、杭孔Hの泥水Wを循環させながら、フィードを下降させるとともに、ビット23を回動させることで、ビット23で口元管内の地盤Gを掘削する。
この際、掘削装置1の掘削制御部55は、フィード吊荷重、ビット23の回転トルク、貫入力、ビット23の回転速度、掘削速度、掘削深度、ビット23の振動、及び泥水Wの水位を逐次算出し、掘削の経過時間に関連付けられた時系列データ群として取得する。
【0047】
また、オペレータは、オペレータ用モニタ51に表示された現在の掘削状態を示す各種情報を確認しながら、コントロールユニット5を操作することで、ビット23の回転速度や掘削速度などを調整して杭孔Hの掘削を進行させる。
【0048】
例えば、オペレータは、図5に示すように、排泥流速が低下した場合(図中の時刻T1)、土砂が増加するなどして泥水Wの排出に遅れが生じているものと判断し、コントロールユニット5を操作して、フィードを上昇させてビット23を空転させる。
【0049】
その後、泥水Wの排泥流速が回復すると(図中の時刻T2)、オペレータは、コントロールユニット5を操作して、杭孔Hの掘削を再開し正常な掘削状態へ移行させることで、杭孔Hの掘削を進行させる。
このように掘削装置1が、杭孔Hの掘削状態を示す各種情報を算出し、オペレータが、算出された各種情報を確認しながら、コントロールユニット5を操作することで、杭孔Hの掘削が進行する。
【0050】
さらに、掘削装置1は、口元管内のビット23が地盤Gを掘削開始すると、算出した時系列データ群に基づく地盤GのN値の推定を開始する。
この地盤GのN値を推定するコントロールユニット5の処理動作について図6を用いて説明する。
【0051】
オペレータの操作によってフィードが降下開始すると、コントロールユニット5の掘削制御部55は、図6に示すように、ビット23の回転トルクや貫入力などに基づいて、ビット23が地盤Gの掘削を開始したか否かを判定する(ステップS101)。
【0052】
ビット23が地盤Gの掘削を開始していない場合(ステップS101:No)、掘削制御部55は、ビット23が地盤Gに到達し掘削を開始するまで処理を待機する。
一方、ビット23が地盤Gの掘削を開始した場合(ステップS101:Yes)、掘削制御部55は、算出した時系列データ群に基づいて、N値を推定するN値推定処理を開始する(ステップS102)。
【0053】
具体的には、掘削制御部55は、泥水Wの排泥流速、ビット23の回転速度、ビット23の回転トルク、貫入力、フィード吊荷重、ビット23の振動、及び掘削速度を示す時系列データを、記憶部54から読み込んだ学習モデル56の入力層56aに入力情報として入力する。
【0054】
この際、学習モデル56は、入力情報を入力層56aから中間層56bへ、中間層56bから出力層56cへ受け渡しながら、予め学習した重みや閾値との比較判定などを行って推定N値を推定する。そして、学習モデル56の出力層56cは、推定した推定N値を出力情報として出力する。
【0055】
推定N値が出力されると、掘削制御部55は、学習モデル56から出力された推定N値と掘削深度とを関連付けて一時記憶する(ステップS103)。さらに、掘削制御部55は、推定N値を、オペレータ用モニタ51及び掘削管理用モニタ52に表示する。その後、掘削制御部55は、推定N値が地盤Gの支持層を示す指標である40以上か否かを判定する(ステップS104)。
【0056】
推定N値が40以上の場合(ステップS104:Yes)、掘削制御部55は、ビット23が支持層に到達したと判断し、支持層への到達を報知する報知処理を開始する(ステップS105)。この際、掘削制御部55は、例えば、ビット23が支持層に到達したことを示す案内画面を、オペレータ用モニタ51に表示する。
【0057】
その後、掘削制御部55は、時系列データ群に基づいて、杭孔Hの掘削が完了したか否かを判定する(ステップS106)。杭孔Hの掘削が完了していない場合(ステップS106:No)、掘削制御部55は、処理をステップS102に戻し、杭孔Hの掘削が完了するまで所定時間間隔で、ステップS102からステップS106の処理を繰り返す。
【0058】
一方、杭孔Hの掘削が完了した場合(ステップS106:Yes)、掘削制御部55は、時系列データ群、及び一時記憶した推定N値を記憶部54に記憶し(ステップS107)、その後全ての処理を終了する。
【0059】
なお、ステップS104において、推定N値が40未満の場合(ステップS104:Yes)、掘削制御部55は、処理をステップS106に進め、杭孔Hの掘削が完了したか否かを判定する。
【0060】
このようにして、掘削装置1は、杭孔Hの掘削に伴って地盤GのN値を推定することで、ビット23の支持層への到達を判別している。
【0061】
引き続き、掘削装置1が推定した推定N値と、ボーリング調査で得た地盤GのN値について図7を用いて説明する。
なお、図7は推定N値とボーリング調査でのN値とを比較した比較図であり、図7中の左図はボーリング調査で得た地盤Gの土質性状を示し、図7中の右図は掘削装置1が推定した推定N値とボーリング調査で得たN値とを比較した比較図を示している。
図7によれば、礫層(砂礫層)に隣接する地層において、ボーリング調査で得たN値に対して推定N値に乖離が見られるものの、各地層で概ね良好な推定N値が得られていることがわかる。
【0062】
次に、掘削装置1とは異なる装置であり、かつ上述した学習モデル56の教師データTを出力するデータ処理装置10と、データ処理装置10が教師データTとして出力する修正掘削データFとについて、図8及び図9を用いて説明する。
なお、図8はデータ処理装置10のブロック図を示し、図9は修正掘削データFを生成出力する処理動作のフローチャートを示している。
【0063】
教師データTである修正掘削データFは、実際に地盤Gに杭孔Hを掘削形成した際に得られた時系列データ群を掘削データEとし、教師データTとして不適切な時間帯域を掘削データEから除去して生成されている。
【0064】
なお、掘削データEは、図8に示すように、泥水Wの排泥流速、ビット23の回転速度、ビット23の回転トルク、貫入力、フィード吊荷重、ビット23の振動、及び掘削速度を示す時系列データ群とする。
【0065】
まず、掘削データEから修正掘削データFを生成するデータ処理装置10について説明する。データ処理装置10は、図8に示すように、データ入力部11、表示部12、操作部13、記憶部14、及びこれらの動作を制御する制御部15で構成されている。
【0066】
データ入力部11は、図8に示すように、例えば、記憶媒体(図示省略)に記憶された掘削データEを読み取る機構部であって、USBフラッシュドライブのような記憶媒体が接続される接続部、あるいは光学ディスクドライブで構成されている。このデータ入力部11は、制御部15の指示によって、掘削データEを読み取る機能と、読み取った掘削データEを制御部15に出力する機能とを有している。
【0067】
表示部12は、例えば、液晶ディスプレイなどで構成され、制御部15の指示によって各種情報を表示する機能を有している。
操作部13は、例えば、キーボードなどで構成され、作業者の入力操作を受け付ける機能と、受け付けた入力内容を示す情報を制御部15に出力する機能とを有している。
記憶部14は、ハードディスクあるいは不揮発性メモリなどで構成され、各種情報を書き込んで記憶する機能と、各種情報を読み出す機能とを有している。この記憶部14には、生成された修正掘削データFが記憶される。
【0068】
制御部15は、例えば、CPUやメモリなどのハードウェアと、制御プログラムなどのソフトウェアとで構成されている。この制御部15は、掘削データEの解析に係る処理機能と、修正掘削データFの生成出力に係る処理機能と、所定のバスを介して接続された各部の動作を制御する機能とを有している。
【0069】
このようなデータ処理装置10において、例えば掘削データEから正常でない礫層の掘削を示す時間帯域を識別し、当該時間帯域を除去して修正掘削データFを生成出力する処理動作について、図9を用いて説明する。
なお、正常でない礫層の掘削を示す時刻帯域としては、例えば、泥水を排水する流路が礫によって閉塞して排泥流速が閾値を下回り、泥水(安定液)の比重が高くなることで掘削速度が閾値を下回り、かつビット23の振動が閾値を上回る時刻帯域とする。
【0070】
まず、修正掘削データFを生成出力する処理を開始すると、制御部15は、図9に示すように、データ入力部11を介して掘削データEを読み込む(ステップS201)。
その後、制御部15は、掘削データEから掘削速度を示す時系列データを抽出し、時系列データの記録時刻での掘削速度が0cm/minを上回るか否かを判定する(ステップS202)。なお、掘削速度が0cm/min以下の場合とは、例えば、排泥流速を回復させるために、ビット23を上昇させている状態、あるいはビット23を空転させている状態のことをいう。
【0071】
掘削速度が0cm/minを上回る場合(ステップS202:Yes)、制御部15は、ビット23が空転していない、つまり地盤Gを掘削している状態のため、記録時刻での排泥流速が排泥下限値を下回るか否かを判定する(ステップS203)。この際、制御部15は、掘削データEから排泥流速を示す時系列データを抽出したのち、記録時刻での排泥流速が排泥下限値を下回るか否かを判定する。
なお、排泥下限値は、正常な掘削状態における排泥流速のバラツキ範囲の下限値とする。
【0072】
排泥流速が排泥下限値を下回る場合(ステップS203:Yes)、制御部15は、排泥流速の低下が礫層の掘削によるものかを判定するために、記録時刻での掘削速度が掘削下限値を下回るか否かを判定する(ステップS204)。なお、掘削下限値は、正常な掘削状態における掘削速度のバラツキ範囲の下限値とする。
【0073】
掘削速度が掘削下限値を下回る場合(ステップS204:Yes)、制御部15は、正常な礫層の掘削状態を示すデータでない可能性が高いため、記録時刻でのビット23の振動が振動上限値を上回るか否かを判定する(ステップS205)。この際、制御部15は、掘削データEからビット23の振動を示す時系列データを抽出したのち、掘削速度の低下が礫層の掘削によるものかを判定する。
なお、振動上限値は、正常な掘削状態における振動のバラツキ範囲の上限値とする。
【0074】
ビット23の振動が振動上限値を上回る場合(ステップS205:Yes)、制御部15は、正常な礫層の掘削状態を示すデータではないと判定して、各時系列データにおける当該記録時刻のデータを掘削データEから除去する(ステップS206)。
【0075】
具体的には、制御部15は、掘削データEの各時系列データにおいて、当該時刻に記録されたデータを、修正掘削データFに用いるデータとして一時記憶しないことで、掘削データEから除去している。
【0076】
また、図9のステップS202において、記録時刻での掘削速度が0cm/min以下の場合(ステップS202:No)、制御部15は、ビット23が空転している状態のため、処理をステップS206に進める。その後、制御部15は、ステップS206において、ビット23の空転を示す当該記録時刻でのデータを掘削データEから除去する。
【0077】
また、図9のステップS203において、記録時刻での排泥流速が排泥下限値以上の場合(ステップS203:No)、制御部15は、正常な掘削状態であるため、各時系列データにおける当該記録時刻のデータを一時記憶する(ステップS207)。
具体的には、制御部15は、掘削データEの各時系列データにおける当該時刻に記録されたデータを、修正掘削データFに用いるデータとして一時記憶する。
【0078】
また、ステップS204において、記録時刻での掘削速度が掘削下限値以上の場合(ステップS204:No)、制御部15は、正常な掘削状態であるため、処理をステップS207へ進めて、当該時刻に記録されたデータを修正掘削データFに用いるデータとして一時記憶する。
【0079】
あるいは、ステップS205において、記録時刻でのビット23の振動が振動上限値以下の場合(ステップS205:No)、制御部15は、正常な掘削状態であるため、処理をステップS207へ進めて、当該時刻に記録されたデータを修正掘削データFに用いるデータとして一時記憶する。
【0080】
図9のステップS207において、当該時刻に記録されたデータを修正掘削データFに用いるデータとして一時記憶すると、制御部15は、掘削データEの全記録時刻に対する処理が完了したか否かを判定する(ステップS208)。掘削データEの全記録時刻に対する処理が完了していない場合(ステップS208:No)、制御部15は、処理をステップS202に戻し、掘削データEの全記録時刻に対する処理が完了するまで、ステップS202からステップS207の処理を繰り返す。
【0081】
一方、掘削データEの全記録時刻に対する処理が完了した場合(ステップS208:Yes)、制御部15は、データ出力処理を開始して(ステップS209)、一時記憶した各データをそれぞれ時系列で結合して新しい時系列データを生成し、修正掘削データFとして記憶部54に記憶する。
このようにして、データ処理装置10は、正常な礫層の掘削状態でない時間帯域を掘削データEから除去して、教師データTである修正掘削データFを生成している。
【0082】
以上のように、掘削装置1は、地盤Gに杭を構築するための杭孔Hを、土砂を含む泥水を地上に排出しながらビット23によって掘削形成する装置である。
この掘削装置1は、ビット23の回転状態(回転速度、回転トルク、貫入力、フィード吊荷重、ビット23の振動、及び掘削速度)を示す時系列データを取得するビットデータ取得手段(掘削制御部55)を備えている。
【0083】
さらに、掘削装置1は、ビット23の回転状態を示す時系列データに基づいて地盤GのN値を推定するN値推定手段(掘削制御部55)と、N値推定手段(掘削制御部55)で推定されたN値を表示するオペレータ用モニタ51及び掘削管理用モニタ52とを備えている。
【0084】
そして、N値推定手段(掘削制御部55)は、ビット23の回転状態(掘削速度、及びビット23の振動)を示す時系列データ、及び泥水の排泥流速を示す時系列データを教師データTとする学習モデル56で構築されている。
【0085】
これによれば、掘削装置1は、ビット23の回転状態を示す時系列データ、及び排泥流速を示す時系列データのいずれか一方を教師データとする学習モデルに比べて、精度の高い学習モデル56を用いて地盤GのN値を推定することができる。このため、掘削装置1は、オペレータの経験に頼ることなく、地盤の土質性状を精度よく識別することができる。
【0086】
さらに、推定されたN値をオペレータ用モニタ51及び掘削管理用モニタ52に表示することにより、掘削装置1は、地盤Gの土質性状を、N値を用いてオペレータに容易に伝えることができる。このため、掘削装置1は、オペレータによる掘削状況の見極めを容易にして、オペレータの負担を軽減することができる。
【0087】
また、掘削装置1は、泥水の排泥流速を示す時系列データを取得する排泥データ取得手段(掘削制御部55)を備えている。そして、N値推定手段(掘削制御部55)は、ビット23の回転状態を示す時系列データ、及び排泥流速を示す時系列データに基づいて地盤GのN値を推定する構成である。
この構成によれば、掘削装置1は、ビット23の回転状態を示す時系列データに基づいてN値を推定する場合に比べて、地盤GのN値をより精度よく推定することができる。
【0088】
また、掘削装置1は、N値推定手段(掘削制御部55)によって推定されたN値に基づいて、ビット23の支持層への到達を判定する支持層判定手段(掘削制御部55)を備えたものである。
この構成によれば、掘削装置1は、ビット23の支持層への到達をオペレータが判定することを不要にできる。さらに、オペレータが支持層への到達を判断する場合、オペレータの経験によって判断がばらつくのに対して、掘削装置1は、支持層への到達を安定して判定することができる。
【0089】
また、ビットデータ取得手段(掘削制御部55)は、ビット23の貫入力、ビット23の回転トルク、ビット23の掘削速度、及びビット23の振動のうち、少なくとも2つ以上の時系列データを、ビット23の回転状態を示す時系列データとして取得する構成である。
【0090】
この構成によれば、掘削装置1は、ビット23の貫入力、ビット23の回転トルク、ビット23の掘削速度、及びビット23の振動のうち、いずれか1つをビット23の回転状態を示す時系列データとして取得した場合に比べて、地盤GのN値をさらに精度よく推定することができる。
【0091】
また、学習モデル56は、排泥流速が排泥下限値を下回り、かつビット23の回転状態がビット閾値を超える(掘削速度が掘削下限値を下回り、かつビット23の振動が振動上限値を上回る)時間帯域を除去した教師データTを用いて構築されたものである。
【0092】
この構成によれば、掘削装置1は、正常な掘削状態を示す教師データTを用いて構築された学習モデル56に基づいて、地盤GのN値を精度よく推定することができる。
具体的には、ビット23の回転トルクや泥水の排泥流速などは、地盤Gをスムーズに掘削している場合でもある程度変動するが、土質性状や層厚によっては許容範囲を超えて変動することがある。例えば、礫層では、泥水を排出する流路が礫によって閉塞することで、排泥流速が許容範囲を超えて低下することがある。
【0093】
つまり、ビット23の回転状態及び排泥流速が許容範囲を超える時間帯域は、ビット23の回転状態が意図しない状態、または排泥流速が意図しない流速になっているおそれがある。換言すれば、ビット23の回転状態及び排泥流速が許容範囲を超える時間帯域は、正常な地盤Gの掘削状態を示していないおそれがある。
【0094】
そこで、排泥流速が排泥下限値を下回り、かつビット23の回転状態がビット閾値を超える時間帯域を除去することで、教師データTは、正常な地盤Gの掘削状態を示すことになる。このような教師データTを用いて学習モデル56が構築されているため、掘削装置1は、地盤GのN値を精度よく推定することができる。
【0095】
また、学習モデル56は、排泥流速に関わらず、ビット23の掘削速度が0cm/min以下となる時間帯域を除去した教師データTを用いて構築されたものである。
この構成によれば、掘削装置1は、より正常な掘削状態を示す教師データTを用いて構築された学習モデル56に基づいて、地盤GのN値を精度よく推定することができる。
【0096】
具体的には、例えば、ビット23が回転しているが掘削深度に変化がない状態、空転させながらビット23を上昇させている状態、あるいは上昇位置でビット23の空転を維持している状態では、掘削速度が0cm/min以下となる。つまり、掘削速度が0cm/min以下の時間帯域は、ビット23が空転している時間帯域であり、正常な地盤Gの掘削状態を示していない。
【0097】
そこで、ビット23が空転している時間帯域を除去することで、教師データTは、より正常な地盤Gの掘削状態を示すことになる。このような教師データTを用いて学習モデル56が構築されているため、掘削装置1は、地盤GのN値を精度よく推定することができる。
【0098】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明のビットデータ取得手段、N値推定手段、排泥データ取得手段、及び支持層判定手段は、実施形態の掘削制御部55に対応し、
以下同様に、
出力手段は、オペレータ用モニタ51及び掘削管理用モニタ52に対応し、
ビットデータ取得手段が取得するビット23の回転状態を示す時系列データは、回転速度、回転トルク、貫入力、フィード吊荷重、ビット23の振動、及び掘削速度を示す時系列データに対応し、
教師データとなるビット23の回転状態を示す時系列データは、掘削速度、及びビット23の振動を示す時系列データに対応するが、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0099】
例えば、上述の実施形態において、低空頭型の掘削装置1としたがこれに限定せず、例えば、低空頭型よりもさらに低い超低空頭型の掘削装置であってもよい。
また、場所打ち杭に用いる掘削装置1としたが、これに限定せず、既成杭に用いる掘削装置であってもよい。
また、リバース工法で杭孔Hを掘削する場合について説明したが、これに限定せず、泥水Wを地上に排出しながら杭孔Hを掘削する工法であれば、適宜の工法であってもよい。
【0100】
また、掘削装置1において、フィード吊荷重、回転トルク、貫入力、回転速度、掘削速度、掘削深度、ビット23の振動、及び泥水Wの水位を示す情報を、学習モデル56に入力する入力情報としたが、これに限定せず、掘削機2、及び泥水循環装置3、及び水位センサ4から得られる適宜の情報であってもよい。この場合であっても、学習モデル56は、入力情報に対して推定N値が出力情報として得られるように構築される。
【0101】
また、掘削装置1において、学習モデル56を、入力層56a、中間層56b、及び出力層56cからなるニューラルネットワークを用いた推定アルゴリズムとしたが、これに限定せず、地盤GのN値を推定できる適宜の推定アルゴリズムであってよい。
【0102】
また、学習モデル56は、正常でない礫層の掘削を示す時間帯域を除去した教師データTを用いて構築したが、これに限定せず、地層に関わらず正常でない地盤の掘削状態を示す時間帯域を除去した教師データを用いて構築してもよい。
また、掘削装置1の処理動作におけるステップS105において、推定N値が40以上の場合、掘削制御部55は、ビット23が支持層に到達したと判断し、支持層への到達を報知したが、この際、ビット23の回転を自動停止してもよい。
【0103】
また、教師データTは、掘削速度、及びビット23の振動が閾値を超える場合、当該時間帯域を除去して生成したが、これに限定しない。例えば、教師データTは、ビットの回転状態を示す回転トルク、掘削速度、貫入力、ビット23の振動、及び回転速度のうち、1つ以上が正常な状態を示す許容範囲を超える場合、当該時刻帯域を除去して生成したものであってもよい。あるいは、教師データTは、回転トルク、掘削速度、貫入力、ビット23の振動、及び回転速度の全てが許容範囲を超える場合、当該時刻帯域を除去して生成してもよい。
【0104】
また、掘削装置1は、推定されたN値に基づいて地盤Gの土質分類を判定する土質判定手段(掘削制御部55)を備え、土質判定手段(掘削制御部55)で判定された土質分類をオペレータ用モニタ51及び掘削管理用モニタ52に表示する構成であってよい。これにより、掘削装置1は、回転トルクや貫入力などの複数のデータに基づいてオペレータが土質分類を判断する場合に比べて、オペレータの負担を軽減することができる。
【0105】
また、推定されたN値をオペレータ用モニタ51及び掘削管理用モニタ52に表示したが、これに限定せず、推定されたN値を適宜の出力手段に出力する構成であってもよい。例えば、推定されたN値と掘削深度とを関連付けてプリンタに出力してもよい。
【0106】
また、データ処理装置10において、排泥流速、掘削速度、及びビット23の振動に基づいて、正常でない礫層の掘削を示す時刻帯域を識別したが、これに限定せず、正常でない礫層の掘削を示す時刻帯域は、例えば、掘削速度、ビット23の振動、回転トルク、及び貫入力の値を適宜組み合わせて識別してもよい。
例えば、排泥流速が排泥下限値を下回り、回転トルクの変動が許容範囲を超え、かつ貫入力の変動が許容範囲を超える時刻帯域を、正常でない礫層の掘削を示す時刻帯域としてもよい。
【0107】
また、データ処理装置10のデータ入力部11で掘削データEを読み取る構成としたが、これに限定せず、通信回線に接続する回線接続部を備え、通信回線を介して掘削データEを取得する構成であってもよい。
【0108】
また、データ処理装置10において、予め計測した掘削データEを用いて修正掘削データFを生成したが、これに限定せず、掘削装置1とデータ処理装置10とを電気的に接続し、地盤Gを掘削しながら取得した掘削データEを用いて修正掘削データFをリアルタイムで生成してもよい。
【0109】
また、掘削装置1が地盤GのN値を推定することで、土質性状を判別したが、これに限定せず、データ処理装置10によって正常な掘削状態でない礫層のみを識別する構成であってもよい。この場合であっても、オペレータの負担を軽減することができる。
【符号の説明】
【0110】
1…掘削装置
23…ビット
51…オペレータ用モニタ
52…掘削管理用モニタ
55…掘削制御部
56…学習モデル
E…掘削データ
F…修正掘削データ
G…地盤
H…杭孔
T…教師データ
W…泥水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9