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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20240806BHJP
   C09J 7/26 20180101ALI20240806BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20240806BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J7/26
C09J133/06
C09J11/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020530190
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2019027108
(87)【国際公開番号】W WO2020013168
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2018131120
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517045598
【氏名又は名称】日東電工(上海松江)有限公司
【氏名又は名称原語表記】NITTO DENKO (SHANGHAI SONGJIANG) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】716 Lianyang Road, Songjiang Industrial Zone, Shanghai 201613, China
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直宏
(72)【発明者】
【氏名】伊神 俊輝
(72)【発明者】
【氏名】樋口 真覚
(72)【発明者】
【氏名】定司 健太
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-120877(JP,A)
【文献】特開2015-021083(JP,A)
【文献】特開2017-197660(JP,A)
【文献】特開2013-119564(JP,A)
【文献】特開2017-197689(JP,A)
【文献】特開2017-057371(JP,A)
【文献】特開2015-155528(JP,A)
【文献】特開2015-163690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡体基材と、該発泡体基材の少なくとも一方の面に設けられた粘着剤層と、を備える粘着シートであって、
前記粘着剤層は、ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーを含み、
前記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分は、エステル末端に炭素原子数1~6のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを50重量%よりも多く含み、
前記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分は、n-ブチルアクリレートを85重量%以上含み、
前記モノマー成分は、カルボキシ基含有モノマーを0.1重量%以上15重量%以下含み、
前記粘着剤層は、水酸基価が30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂を含み、
前記粘着剤層に含まれる粘着付与樹脂全体に占める前記水酸基価が30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂の割合は30重量%以上であり、
前記粘着剤層は、水酸基価が70mgKOH/g以上の粘着付与樹脂を含み、
前記粘着剤層を形成するための粘着剤組成物はイソシアネート系架橋剤を含み、
前記粘着剤層は、65℃における貯蔵弾性率G´(65℃)が30000Paよりも大きい、粘着シート。
【請求項2】
前記モノマー成分における前記カルボキシ基含有モノマーの量は1~10重量%である、請求項に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記粘着剤層における前記粘着付与樹脂の含有量は、前記ベースポリマー100重量部に対して10重量部以上60重量部以下である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
総厚さが100μm以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記発泡体基材はポリオレフィン系発泡体基材である、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
携帯電子機器の部品を接合するために用いられる、請求項1~のいずれか一項に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関する。詳しくは、携帯機器を構成する部材の固定に好適な粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)は室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する。このような性質を活かして、粘着剤は、典型的には粘着シートの形態で、携帯電話その他の携帯機器における部材の接合や固定、保護等の目的で広く利用されている。携帯電子機器に用いられる粘着テープに関する技術文献として特許文献1~5が挙げられる。特許文献5は、発泡体基材付き粘着シートに関する技術文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-215355号公報
【文献】特開2013-100485号公報
【文献】特許第6153635号公報
【文献】特許第6113889号公報
【文献】特開2017-002292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、粘着シートによる携帯電子機器内の部材固定は、サイズ、重量等の制限のため、その接着面積は小さい。当該用途に用いられる粘着シートは、小面積でも良好な固定を実現し得る接着力を有することが必要であり、その要求性能は、軽量化、小型化の要請から、より高レベルなものとなっている。特に、スマートフォンに代表されるタッチパネル式ディスプレイ搭載型の携帯電子機器は、製品自体の小型化、薄厚化の一方で、ディスプレイの視認性、操作性の観点から大画面化が進んでおり、その特有の事情ゆえ、用いられる粘着剤には、より過酷な条件での接着固定性能が要求されている。
【0005】
上記携帯電子機器内の部材固定の一例として、有機ELディスプレイの回路板等の弾性部材を折り曲げて、携帯電子機器内の限られた内部空間に収容し、粘着シートによって固定する用途がある。この部材固定に用いられる粘着剤には、携帯電子機器内部の条件下において、部材の弾性反発に持続的に抗える耐変形性(具体的には、粘着シートの厚さ方向(Z軸方向)にかかる持続的な引き剥がし変形荷重に対する耐久力)を有することが求められる。上記携帯電子機器内における温度や湿度は、電子機器内の熱だけでなく、外部環境の影響を受けて、50℃を超えるような高温状態となることがあり、また高湿度となる場合もある。そのような環境下においても、安定したZ軸方向の耐変形性を発揮することが、この用途に用いられる粘着剤には求められ得る。そのため、この用途で用いられる粘着剤は、耐変形性に通じる高凝集性を確保する観点から、相対的に高い架橋度を有する設計とされている。
【0006】
一方、携帯電子機器は、その使用形態から落下の危険性があり、そのため耐衝撃性改善の要請が強い。粘着剤の架橋度を低減すれば衝撃吸収性を改善することは可能だが、架橋度の低下は凝集性の低下を招き、耐変形性は低下傾向となる。このように、耐変形性と耐衝撃性とは相反する特性であり、両立が難しい。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みて創出されたものであり、その目的は、過酷な環境においても良好な耐変形性を発揮し、かつ耐衝撃性にも優れる粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書によると、発泡体基材と、該発泡体基材の少なくとも一方の面に設けられた粘着剤層と、を備える粘着シートが提供される。前記粘着剤層は、ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーを含む。また、前記粘着剤層は、65℃における貯蔵弾性率G´(65℃)が30000Paよりも大きい。上記の構成によると、高温条件などの過酷な環境においても良好な耐変形性を発揮し、かつ耐衝撃性にも優れる。
【0009】
ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、前記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分は、エステル末端に炭素原子数1~6のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを50重量%よりも多く含む。C1-6アルキル(メタ)アクリレートを主構成モノマー成分とすることで、Z軸方向の持続的荷重に対する耐変形性を実現し得るアクリル系ポリマーを好ましく設計することができる。
【0010】
ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、前記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分は、カルボキシ基含有モノマーを含む。これにより、粘着剤層の凝集力が向上する。モノマー成分がカルボキシ基含有モノマーを含むことは、粘着剤層と被着体との密着性向上にも有利に寄与し得る。モノマー成分におけるカルボキシ基含有モノマーの含有量は、他の成分との相溶性等の観点から、1重量%~10重量%程度とすることが適当である。
【0011】
ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、前記粘着剤層を形成するための粘着剤組成物はイソシアネート系架橋剤を含む。イソシアネート系架橋剤の使用により、粘着剤層の凝集力を得つつ、他の架橋系よりも優れた耐衝撃性が得られる傾向がある。
【0012】
好ましい一態様に係る粘着剤層は、上記ベースポリマーに加えて、粘着付与成分として、粘着付与樹脂および(メタ)アクリル系オリゴマーから選択される少なくとも1種を含む。このような粘着剤によると、高温条件などの過酷な環境であっても良好なZ軸方向耐変形性を実現しやすい。一態様に係る粘着剤層は、粘着付与成分として、粘着付与樹脂を含み、(メタ)アクリル系オリゴマーを実質的に含まない。他の一態様に係る粘着剤層は、粘着付与成分として、粘着付与樹脂を実質的に含まない一方、(メタ)アクリル系オリゴマーを含む。さらに他の一態様に係る粘着剤層は、粘着付与成分として、粘着付与樹脂および(メタ)アクリル系オリゴマーを含む。
【0013】
ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、前記粘着剤層は、水酸基価が70mgKOH/g以上の粘着付与樹脂を含む。上記粘着付与樹脂を含むことにより、優れた耐変形性が得られやすい。例えば、イソシアネート系架橋剤を用いる粘着剤において、上記のような高水酸基価を有する粘着付与樹脂を用いることで、粘着付与樹脂使用による粘着力向上に加えて、上記高水酸基価粘着付与樹脂とイソシアネート系架橋剤とが相互作用して、凝集力の高い粘着剤層が実現され得る。いくつかの態様では、前記粘着付与樹脂はフェノール系粘着付与樹脂を含む。フェノール系粘着付与樹脂はアクリル系ポリマーとの相溶性に優れる。粘着付与樹脂としてフェノール系粘着付与樹脂を用いることで、被着体に対する密着性向上効果が好ましく実現される。
【0014】
ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、前記粘着剤層における前記粘着付与樹脂の含有量は、該粘着剤層のベースポリマー100重量部に対して10重量部以上60重量部以下である。粘着付与樹脂の使用量をベースポリマー100重量部に対して10重量部以上とすることで、良好な接着力が得られやすい。また、粘着付与樹脂の使用量を60重量部以下とすることで、ベースポリマーとよく相溶し、良好な粘着特性が得られやすい。
【0015】
好ましい一態様に係る粘着シートは、総厚さが100μm以上である。上記総厚さの粘着シートによると、耐衝撃性が改善する傾向がある。
【0016】
ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、前記発泡体基材はポリオレフィン系発泡体基材である。ポリオレフィン系発泡体基材を備える粘着シートによると、ここに開示される技術による効果が好ましく実現される。
【0017】
ここに開示される粘着シートは、過酷な環境においても良好な耐変形性を発揮し、また耐衝撃性にも優れるので、携帯電子機器の部品を接合する用途に好ましく用いられる。上記粘着シートは、Z軸方向の持続的荷重に対して良好な耐変形性を発揮し得るので、例えば、有機ELディスプレイの回路板等の弾性被着体を固定する用途に好ましく用いられる。上記粘着シートによると、例えば高温環境においても弾性被着体を折り曲げた状態で固定することができ、かつ該固定状態を持続的に保持することができる。また、例えば、ここに開示される粘着シートを、携帯電子機器内に配置される有機ELディスプレイの回路板を固定する用途に使用することにより、携帯電子機器の部材収容効率を改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】粘着シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
図2】Z軸方向耐変形性試験(65℃90%RH)の方法を説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、製品として実際に提供される本発明の粘着シートのサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0020】
本明細書において「粘着剤」とは、前述のように、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料をいう。ここでいう粘着剤は、「C. A. Dahlquist, “Adhesion : Fundamental and Practice”, McLaren & Sons, (1966) P. 143」に定義されているとおり、一般的に、複素引張弾性率E(1Hz)<10dyne/cmを満たす性質を有する材料(典型的には、25℃において上記性質を有する材料)であり得る。
【0021】
<粘着シートの構成>
ここに開示される粘着シート(テープ状等の長尺状の形態であり得る。)は、発泡体基材と、該発泡体基材の少なくとも一方の面に設けられた粘着剤層と、を備える。かかる粘着シートは、発泡体基材の一方の面にのみ粘着剤層を有し、該一方の面のみが粘着性表面(粘着面)となっている片面粘着シートの形態であってもよい。このような片面粘着シートは、例えば、粘着剤層を有しない側の面を粘着以外の手法(例えば、接着剤を用いる方法、熱融着させる方法等)で被着体に固定することにより、部品の接合や固定に用いられ得る。ここに開示される粘着シートは、典型的には、発泡体基材の両面に粘着剤層を有する両面粘着シート(発泡体基材付き両面粘着シート)の形態で好ましく実施される。このような両面粘着シートは、例えば、部品の接合操作の簡便性や接合品質の安定性等の観点から有利である。なお、ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。また、ここに開示される粘着シートは、ロール状であってもよく、枚葉状であってもよい。あるいは、さらに種々の形状に加工された形態の粘着シートであってもよい。
【0022】
ここに開示される粘着シートは、例えば、図1に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。この粘着シート1は、発泡体基材10と、その発泡体基材10の第1面10Aおよび第2面10Bにそれぞれ支持された第1粘着剤層21および第2粘着剤層22とを備える。第1面10Aおよび第2面10Bは、いずれも非剥離性の表面(非剥離面)である。粘着シート1は、第1粘着剤層21の表面(第1粘着面)21Aおよび第2粘着剤層22の表面(第2粘着面)22Aをそれぞれ被着体に貼り付けて使用される。使用前の粘着シート1は、第1粘着面21Aおよび第2粘着面22Aが、少なくとも該粘着剤面側が剥離性を有する表面(剥離面)となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有している。あるいは、剥離ライナー32を省略し、剥離ライナー31として両面が剥離面となっているものを使用して、粘着シート1を巻回して第2粘着面22Aを剥離ライナー31の裏面に当接させることにより、第2粘着面22Aもまた剥離ライナー31によって保護された構成としてもよい。
【0023】
<粘着剤層>
(65℃貯蔵弾性率)
ここに開示される粘着剤層(第1粘着剤層および第2粘着剤層を備える場合は、その両方。特に断りがないかぎり以下同じ。)は、65℃における貯蔵弾性率G´(65℃)が30000Paよりも大きいことによって特徴づけられる。上記G´(65℃)を有する粘着剤を用いることで、高温条件などの過酷な環境においても良好な耐変形性を発揮する。上記G´(65℃)は、好ましくは40000Pa超、より好ましくは50000Pa超、さらに好ましくは55000Pa以上である。所定以上のG´(65℃)を有する粘着剤層を備えるものは、高温保持力にも優れる傾向がある。また、上記G´(65℃)の上限は特定の範囲に限定されず、1.0MPa以下とすることが適当であり、初期接着性(例えば低温接着力)と耐変形性との両立の観点から、好ましくは凡そ500000Pa以下であり、凡そ200000Pa以下であってもよく、凡そ100000Pa以下でもよく、凡そ80000Pa以下でもよい。ここに開示される粘着シートが両面粘着シートである態様においては、第1粘着剤層および第2粘着剤層の貯蔵弾性率G´(65℃)は、同じであってもよく異なっていてもよい。上記貯蔵弾性率G´(65℃)は、粘着剤組成(例えばベースポリマーのモノマー組成や分子量、粘着付与樹脂の軟化点、架橋剤種、それら成分の含有割合)や製造方法(ポリマーの重合条件等)によって調節することができる。65℃貯蔵弾性率は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0024】
(65℃損失弾性率)
また、特に限定されるものではないが、ここに開示される粘着剤層は、65℃における損失弾性率G″(65℃)が凡そ500000Pa以下であることが適当である。加工性や取扱い性の観点から、上記G″(65℃)は、好ましくは凡そ100000Pa以下であり、凡そ50000Pa以下であってもよく、凡そ30000Pa以下でもよい。また、上記G″(65℃)は、凡そ1000Pa以上であることが適当であり、被着体表面への濡れ性、ひいては初期接着性等の観点から、好ましくは凡そ5000Pa以上であり、凡そ10000Pa以上でもよい。所定以上のG″(65℃)を有する粘着剤層を備えるものは、耐衝撃性にも優れる傾向がある。ここに開示される粘着シートが両面粘着シートである態様においては、第1粘着剤層および第2粘着剤層の損失弾性率G″(65℃)は、同じであってもよく異なっていてもよい。上記損失弾性率G″(65℃)は、粘着剤組成(例えばベースポリマーのモノマー組成や分子量、粘着付与樹脂の軟化点、架橋剤種、それら成分の含有割合)や製造方法(ポリマーの重合条件等)によって調節することができる。65℃損失弾性率は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0025】
(25℃貯蔵弾性率)
ここに開示される粘着剤層の25℃貯蔵弾性率は特に限定されず、例えば凡そ1MPa以下であり得る。粘着剤層の25℃貯蔵弾性率は凡そ0.5MPa以下であってよく、好ましくは凡そ0.3MPa以下(例えば凡そ0.25MPa以下)である。粘着剤層の25℃貯蔵弾性率が低くなると、常温域において粘着剤層の柔軟性が高くなることから、被着体表面に粘着面を密接させやすい。また、貯蔵弾性率が所定値以下に制限された粘着剤によると、良好な耐衝撃性が得られやすい。また、上記25℃貯蔵弾性率は凡そ0.01MPa以上であり得る。所定値以上の25℃貯蔵弾性率を示す粘着剤によると、常温域において適度な凝集性を有するので接着強度を高めやすい。そのような観点から、上記25℃貯蔵弾性率は、凡そ0.02MPa以上であることが適当であり、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは凡そ0.1MPa以上、さらに好ましくは凡そ0.14MPa以上(例えば0.15MPa以上)、特に好ましくは凡そ0.18MPa以上(例えば凡そ0.2MPa以上)である。粘着剤層の25℃貯蔵弾性率は、粘着剤層の組成や製造方法等により調節することができる。25℃貯蔵弾性率は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0026】
ここに開示される粘着剤層の25℃損失弾性率は特に限定されず、例えば凡そ0.01MPa以上であり得る。粘着剤層の25℃損失弾性率は凡そ0.02MPa以上であることが適当であり、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは凡そ0.1MPa以上、さらに好ましくは凡そ0.15MPa以上、特に好ましくは凡そ0.17MPa以上(例えば凡そ0.2MPa以上)である。所定値以上の25℃損失弾性率を示す粘着剤によると、その粘性項(損失弾性率)に基づき被着体への密着性が向上する。粘着剤層の25℃損失弾性率が高くなると耐衝撃性も向上する傾向がある。また、粘着剤層の25℃損失弾性率は、例えば凡そ1MPa以下であり得る。凝集性等の観点から、粘着剤層の25℃損失弾性率は凡そ0.5MPa以下であってよく、好ましくは凡そ0.3MPa以下(例えば凡そ0.25MPa以下)である。粘着剤層の25℃損失弾性率は、粘着剤層の組成や製造方法等により調節することができる。25℃損失弾性率は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0027】
(粘着剤層のTg)
特に限定されるものではないが、ここに開示される粘着シートを構成する粘着剤層のTgは、凡そ25℃以下に制御されていることが、被着体との密着性および耐衝撃性の観点から適当である。粘着剤層のTgは、好ましくは凡そ20℃以下(典型的には凡そ15℃以下、例えば凡そ10℃以下)である。また、粘着剤層のTgは、耐衝撃性等の観点から、凡そ-25℃以上であることが適当であり、好ましくは凡そ-15℃以上、より好ましくは凡そ-10℃以上(例えば凡そ-5℃以上)であり、凡そ0℃以上(例えば凡そ5℃以上)であってもよい。ここに開示される技術によると、上記Tgを有することで、所望の粘着特性(例えば接着力や耐衝撃性)を好ましく実現することができる。粘着付与樹脂種(例えば高水酸基価樹脂)の選択で要求特性を満足する態様においては、上記範囲のTgとすることで、粘着剤の粘弾性特性および粘着付与樹脂の化学特性に基づく作用が好ましく発揮され得る。なお、本明細書における粘着剤層のTgとは、動的粘弾性測定におけるtanδのピーク温度から求められるガラス転移温度をいう。粘着剤層のTgは、粘着剤組成(例えばベースポリマーのTg、粘着付与樹脂の軟化点、架橋剤種、それら成分の含有割合)や製造方法(ポリマーの重合条件等)によって調節することができる。粘着剤層のTgは、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0028】
(粘着剤層のtanδのピーク強度)
粘着剤層のtanδのピークにおける値(ピーク強度)は、典型的には1.0以上であり、好ましくは凡そ1.5以上、より好ましくは凡そ1.8以上、さらに好ましくは凡そ2.0以上である。比較的低温域(典型的には-25℃~25℃の範囲)にtanδのピークを有する粘着剤において、所定値以上のピーク強度を有するものは、耐衝撃性に優れたものとなり得る。また、上記tanδのピーク強度は、凡そ3.0以下が適当であり、好ましくは凡そ2.5以下であり、凡そ2.2未満(例えば2.0未満)であってもよい。粘着剤層のtanδのピーク強度は、粘着剤組成(例えばベースポリマーのTg、粘着付与樹脂の軟化点、架橋剤種、それら成分の含有割合)や製造方法(ポリマーの重合条件等)によって調節することができる。粘着剤層のtanδのピーク強度は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0029】
(ベースポリマー)
ここに開示される粘着剤層を構成する粘着剤は、アクリル系ポリマーをベースポリマーとして含むアクリル系粘着剤である。なお、ベースポリマーとは、粘着剤層に含まれるゴム状ポリマー(室温付近の温度域においてゴム弾性を示すポリマー)の主成分をいう。また、この明細書において「主成分」とは、特記しない場合、50重量%を超えて含まれる成分を指す。また、本明細書において「アクリル系粘着剤」とは、アクリル系ポリマーをベースポリマー(ポリマー成分のなかの主成分、すなわち50重量%以上を占める成分)とする粘着剤を指す。また、「アクリル系ポリマー」とは、該ポリマーを構成するモノマー単位として、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーに由来するモノマー単位を含む重合物をいう。以下、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーを「アクリル系モノマー」ともいう。したがって、この明細書におけるアクリル系ポリマーは、アクリル系モノマーに由来するモノマー単位を含むポリマーとして定義される。なお、この明細書において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートおよびメタクリレートを、「(メタ)アクリル」とはアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0030】
(アクリル系ポリマー)
上記アクリル系ポリマーとしては、例えば、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして含み、該主モノマーと共重合性を有する副モノマーをさらに含み得るモノマー原料の重合物が好ましい。ここで主モノマーとは、上記モノマー原料におけるモノマー組成の50重量%超を占める成分をいう。
【0031】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば下記式(1)で表される化合物を好適に用いることができる。
CH=C(R)COOR (1)
ここで、上記式(1)中のRは水素原子またはメチル基である。また、Rは炭素原子数1~20の鎖状アルキル基である。以下、このような炭素原子数の範囲を「C1-20」と表すことがある。粘着剤の貯蔵弾性率等の観点から、RがC1-14(例えばC2-10、あるいはC4-8)の鎖状アルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとすることが適当である。粘着特性の観点から、Rが水素原子であってRがC4-8の鎖状アルキル基であるアルキルアクリレート(以下、単にC4-8アルキルアクリレートともいう。)を主モノマーとすることが好ましい。
【0032】
がC1-20の鎖状アルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらアルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましいアルキル(メタ)アクリレートとして、n-ブチルアクリレート(BA)および2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)が挙げられる。
【0033】
アクリル系ポリマーの合成に用いられる全モノマー成分に占めるアルキル(メタ)アクリレートの割合は、好ましくは70重量%以上、より好ましくは85重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。アルキル(メタ)アクリレートの割合の上限は特に限定されないが、99.5重量%以下(例えば99重量%以下)とすることが適当であり、カルボキシ基含有モノマー等の副モノマーの作用を好適に発現させる観点から、98重量%以下程度(例えば97重量%以下)とすることが好ましい。
【0034】
好ましい一態様に係るアクリル系ポリマーは、C1-6アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして含み、該主モノマーと共重合性を有する副モノマーをさらに含み得るモノマー成分の重合物である。C1-6アルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。C1-6アルキル(メタ)アクリレートの使用により、良好な耐変形性や耐衝撃性を有する粘着剤が得られやすい。
【0035】
上記アクリル系ポリマーは、主モノマーがC1-5アルキル(メタ)アクリレートであることが好ましく、C1-4アルキル(メタ)アクリレートであることがより好ましい。好ましい一態様に係るアクリル系ポリマーは、被着体に対する密着性等の観点から、主モノマーがC2-6アルキル(メタ)アクリレートであり、より好ましくはC4-6アルキル(メタ)アクリレートである。好ましい他の一態様に係るアクリル系ポリマーは、上記密着性向上の観点から、主モノマーがC1-6アルキルアクリレートであり、より好ましくはC1-4アルキルアクリレート(例えばC2-4アルキルアクリレート)である。
【0036】
上記C1-6アルキル(メタ)アクリレートとしては、耐衝撃性および被着体や基材に対する密着性向上の観点から、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が概ね20℃以下(典型的には概ね10℃以下、好ましくは概ね0℃以下、より好ましくは概ね-10℃以下、さらに好ましくは概ね-15℃以下)であるC1-6アルキル(メタ)アクリレートを好ましく採用し得る。ここに開示される技術は、例えば、上記アクリル系ポリマーの主モノマーがBAである態様で好ましく実施され得る。
【0037】
また、上記C1-6アルキル(メタ)アクリレート使用の効果を好ましく発揮する観点から、上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分のうちC1-6アルキル(メタ)アクリレート(典型的にはC1-6アルキルアクリレート、例えばBA)の占める割合は、好ましくは凡そ60重量%以上、より好ましくは凡そ75重量%以上、より好ましくは凡そ85重量%以上である。ここに開示される技術は、例えば、上記モノマー成分の凡そ70重量%以上(より好ましくは凡そ80重量%以上、さらに好ましくは凡そ85重量%以上であり、凡そ90重量%以上または凡そ95重量%以上であってもよい。)がBAである態様で好ましく実施され得る。
【0038】
ここに開示される技術におけるアクリル系ポリマーには、本発明の効果を顕著に損なわない範囲で、必要に応じて上記以外のモノマー(その他モノマー)が共重合されていてもよい。上記その他のモノマーは、例えば、アクリル系ポリマーのTgの調整、凝集力の向上、初期接着性の調整等の目的で使用することができる。例えば、粘着剤の凝集力や耐熱性を向上させ得るモノマーとして、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、シアノ基含有モノマー、ビニルエステル類、芳香族ビニル化合物等が挙げられる。これらのうちの好適例としてビニルエステル類が挙げられる。ビニルエステル類の具体例としては、酢酸ビニル(VAc)、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル等が挙げられる。なかでもVAcが好ましい。
【0039】
また、アクリル系ポリマーに架橋基点となり得る官能基を導入し、あるいは剥離強度の向上に寄与し得るその他モノマーとして、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物基含有モノマー、アミド基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、イミド基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、(メタ)アクリロイルモルホリン、ビニルエーテル類等が挙げられる。
【0040】
ここに開示される技術におけるアクリル系ポリマーの一好適例として、上記その他モノマーとしてカルボキシ基含有モノマーが共重合されたアクリル系ポリマーが挙げられる。これにより、凝集力の高い粘着剤層が得られやすくなる傾向にある。モノマー成分がカルボキシ基含有モノマーを含むことは、粘着剤層と被着体や基材との密着性向上にも有利に寄与し得る。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂製の被着体に対して改善された接着性を示し得る。カルボキシ基含有モノマーとしては、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が例示される。カルボキシ基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも好ましいカルボキシ基含有モノマーとして、AAおよびMAAが挙げられる。AAが特に好ましい。AAは、そのカルボキシ基に基づく極性、架橋点としての役割、Tg(106℃)等の複合的な作用から、ここに開示されるカルボキシ基含有モノマーにおいて、高温条件におけるZ軸方向の持続的荷重に対する耐変形性を実現するうえで、最適なモノマー材料と考えられる。
【0041】
ここに開示される技術におけるアクリル系ポリマーの他の好適例として、上記その他モノマーとして水酸基含有モノマーが共重合されたアクリル系ポリマーが挙げられる。水酸基含有モノマーは、カルボキシ基含有モノマーとともに共重合されていてもよい。水酸基含有モノマーの例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート;N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。なかでも好ましい水酸基含有モノマーとして、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)や4-ヒドロキシブチルアクリレート(4-HBA)等のような、炭素原子数2~4程度の直鎖アルキル基の末端に水酸基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0042】
上記「その他モノマー」は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。その他モノマーの合計含有量は、例えば、全モノマー成分の凡そ50重量%未満(典型的には、0.001~40重量%程度)とすることができ、凡そ25重量%以下(典型的には0.01~25重量%程度、例えば0.1~20重量%程度)とすることが適当である。
【0043】
上記その他モノマーとしてカルボキシ基含有モノマーを用いる場合、その含有量は、全モノマー成分の凡そ0.1重量%以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ0.2重量%以上、より好ましくは凡そ0.5重量%以上、さらに好ましくは凡そ1重量%以上、特に好ましくは凡そ2重量%以上(例えば凡そ3重量%以上、さらには4重量%以上)である。カルボキシ基含有モノマーの含有量が多くなると、粘着剤層の凝集力は概して向上する傾向にあり、高温条件下におけるZ軸方向耐変形性が向上する傾向がある。また、カルボキシ基含有モノマーの量は、全モノマー成分の凡そ20重量%以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ15重量%以下、より好ましくは凡そ12重量%以下、さらに好ましくは凡そ10重量%以下、特に好ましくは凡そ8重量%以下(例えば凡そ7重量%以下)である。カルボキシ基含有モノマーの使用量を上記範囲とすることにより、例えば後述する粘着付与樹脂を配合する場合に、その配合効果が適切に発揮されるなど、被着体や基材に対して良好な密着性を示す粘着剤層が好適に実現され得る。
【0044】
また、上記その他モノマーとして水酸基含有モノマーを用いる場合、その含有量は、全モノマー成分の凡そ0.001重量%以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ0.01重量%以上(例えば凡そ0.02重量%以上)である。また、水酸基含有モノマーの含有量は、全モノマー成分中、凡そ10重量%以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ5重量%以下、より好ましくは凡そ2重量%以下である。
【0045】
アクリル系ポリマーの共重合組成は、該ポリマーのTgが凡そ-15℃以下(典型的には凡そ-70℃以上-15℃以下)となるように設計されていることが適当である。ここで、アクリル系ポリマーのTgとは、該ポリマーの合成に用いられるモノマー成分の組成に基づいて、Foxの式により求められるTgをいう。Foxの式とは、以下に示すように、共重合体のTgと、該共重合体を構成するモノマーのそれぞれを単独重合したホモポリマーのガラス転移温度Tgiとの関係式である。
1/Tg=Σ(Wi/Tgi)
なお、上記Foxの式において、Tgは共重合体のガラス転移温度(単位:K)、Wiは該共重合体におけるモノマーiの重量分率(重量基準の共重合割合)、Tgiはモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度(単位:K)を表す。
【0046】
Tgの算出に使用するホモポリマーのガラス転移温度としては、公知資料に記載の値を用いるものとする。例えば、以下に挙げるモノマーについては、該モノマーのホモポリマーのガラス転移温度として、以下の値を使用する。
2-エチルヘキシルアクリレート -70℃
n-ブチルアクリレート -55℃
エチルアクリレート -22℃
メチルアクリレート 8℃
メチルメタクリレート 105℃
2-ヒドロキシエチルアクリレート -15℃
4-ヒドロキシブチルアクリレート -40℃
酢酸ビニル 32℃
スチレン 100℃
アクリル酸 106℃
メタクリル酸 228℃
【0047】
上記で例示した以外のモノマーのホモポリマーのガラス転移温度については、「Polymer Handbook」(第3版、John Wiley & Sons, Inc., 1989)に記載の数値を用いるものとする。本文献に複数種類の値が記載されているモノマーについては、最も高い値を採用する。
【0048】
上記文献にもホモポリマーのガラス転移温度が記載されていないモノマーについては、以下の測定方法により得られる値を用いるものとする。
具体的には、温度計、攪拌機、窒素導入管および還流冷却管を備えた反応器に、モノマー100重量部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2重量部および重合溶媒として酢酸エチル200重量部を投入し、窒素ガスを流通させながら1時間攪拌する。このようにして重合系内の酸素を除去した後、63℃に昇温し10時間反応させる。次いで、室温まで冷却し、固形分濃度33重量%のホモポリマー溶液を得る。次いで、このホモポリマー溶液を剥離ライナー上に流延塗布し、乾燥して厚さ約2mmの試験サンプル(シート状のホモポリマー)を作製する。この試験サンプルを直径7.9mmの円盤状に打ち抜き、パラレルプレートで挟み込み、粘弾性試験機(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、機種名「ARES」)を用いて周波数1Hzのせん断歪みを与えながら、温度領域-70℃~150℃、5℃/分の昇温速度でせん断モードにより粘弾性を測定し、tanδ(損失正接)のピークトップ温度をホモポリマーのTgとする。
【0049】
特に限定するものではないが、被着体、基材に対する密着性や耐衝撃性の観点から、アクリル系ポリマーのTgは、凡そ-25℃以下であることが有利であり、好ましくは凡そ-35℃以下、より好ましくは凡そ-40℃以下である。また、粘着剤層の凝集力の観点から、アクリル系ポリマーのTgは、凡そ-65℃以上であることが有利であり、好ましくは凡そ-60℃以上、より好ましくは凡そ-55℃以上である。ここに開示される技術は、上記アクリル系ポリマーのTgが凡そ-65℃以上-35℃以下(例えば、凡そ-55℃以上-40℃以下)である態様で好ましく実施され得る。アクリル系ポリマーのTgは、モノマー組成(すなわち、該ポリマーの合成に使用するモノマーの種類や使用量比)を適宜変えることにより調整することができる。
【0050】
アクリル系ポリマーを得る方法は特に限定されず、溶液重合法、エマルション重合法、バルク重合法、懸濁重合法、光重合法等の、アクリル系ポリマーの合成手法として知られている各種の重合方法を適宜採用することができる。例えば、溶液重合法を好ましく採用し得る。溶液重合を行う際のモノマー供給方法としては、全モノマー原料を一度に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等を適宜採用することができる。重合温度は、使用するモノマーおよび溶媒の種類、重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば20℃~170℃程度(典型的には40℃~140℃程度)とすることができる。好ましい一態様において、重合温度を凡そ75℃以下(より好ましく凡そ65℃以下、例えば凡そ45℃~65℃程度)とすることができる。
【0051】
溶液重合に用いる溶媒(重合溶媒)は、従来公知の有機溶媒から適宜選択することができる。例えば、トルエン等の芳香族化合物類(典型的には芳香族炭化水素類);酢酸エチル等の酢酸エステル類;ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素類;1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化アルカン類;イソプロピルアルコール等の低級アルコール類(例えば、炭素原子数1~4の一価アルコール類);tert-ブチルメチルエーテル等のエーテル類;メチルエチルケトン等のケトン類;等から選択されるいずれか1種の溶媒、または2種以上の混合溶媒を用いることができる。
【0052】
重合に用いる開始剤は、重合方法の種類に応じて、従来公知の重合開始剤から適宜選択することができる。例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等のアゾ系重合開始剤の1種または2種以上を好ましく使用し得る。重合開始剤の他の例としては、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、過酸化水素等の過酸化物系開始剤;フェニル置換エタン等の置換エタン系開始剤;芳香族カルボニル化合物;等が挙げられる。重合開始剤のさらに他の例として、過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤が挙げられる。このような重合開始剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は、通常の使用量であればよく、例えば、全モノマー成分100重量部に対して凡そ0.005~1重量部程度(典型的には凡そ0.01~1重量部程度)の範囲から選択することができる。
【0053】
上記溶液重合によると、アクリル系ポリマーが有機溶媒に溶解した形態の重合反応液が得られる。ここに開示される技術における粘着剤層は、上記重合反応液または該反応液に適当な後処理を施して得られたアクリル系ポリマー溶液を含む粘着剤組成物から形成されたものであり得る。上記アクリル系ポリマー溶液としては、上記重合反応液を必要に応じて適当な粘度(濃度)に調製したものを使用し得る。あるいは、溶液重合以外の重合方法(例えば、エマルション重合、光重合、バルク重合等)でアクリル系ポリマーを合成し、該アクリル系ポリマーを有機溶媒に溶解させて調製したアクリル系ポリマー溶液を用いてもよい。
【0054】
ここに開示される技術におけるベースポリマー(好適にはアクリル系ポリマー)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されず、例えば凡そ10×10~500×10の範囲であり得る。上記Mwの上限は、粘着性能、粘着剤調製性等の観点から、好ましくは凡そ200×10以下、より好ましくは凡そ150×10以下、さらに好ましくは凡そ140×10以下であり、凡そ130×10以下であってもよい。粘着性能の観点から、いくつかの態様では、ベースポリマーのMwは、好ましくは凡そ30×10以上、より好ましくは凡そ45×10以上、さらに好ましくは凡そ50×10以上(例えば凡そ60×10以上)である。好ましい一態様では、上記Mwは凡そ110×10以下(例えば凡そ90×10以下、さらには凡そ80×10以下)である。例えば、ここに開示される技術によると、Mwが70×10以下のアクリル系ポリマーを用いる構成で、目標とする高温耐変形性や、高温保持力、耐衝撃性を実現することができる。また、他のいくつかの態様では、高分子量体による凝集性向上に基づくZ軸方向の持続的な荷重に対する耐変形性の観点から、上記Mwは、70×10以上であり、より好ましくは凡そ75×10以上、さらに好ましくは凡そ90×10以上、特に好ましくは凡そ95×10以上である。さらに他の一態様では、上記Mwは、凡そ100×10以上(例えば凡そ110×10以上)であり、120×10以上(例えば130×10以上)であってもよい。
【0055】
ここに開示されるアクリル系ポリマーの分散度(Mw/Mn)は、特に限定されない。ここでいう分散度(Mw/Mn)とは、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表わされる分散度(Mw/Mn)をいう。好ましい一態様において、アクリル系ポリマーの分散度(Mw/Mn)は15未満である。アクリル系ポリマーのMw/Mnが15未満であることは、当該ポリマーが比較的均一な高分子量体を相当量含むことを意味し、高分子量体に基づく凝集性が精度よく発現し、優れた耐変形性を示す傾向がある。上記Mw/Mnは、好ましくは12未満、より好ましくは10未満、さらに好ましくは8未満(例えば7.5以下)である。いくつかの態様では、上記Mw/Mnは6未満(例えば5.5未満)である。また、上記Mw/Mnは、理論上1以上であり、例えば2以上であってもよく、3以上であってもよく、4以上であってもよい。他の好ましい一態様において、アクリル系ポリマーの分散度(Mw/Mn)は8以上40以下である。アクリル系ポリマーのMw/Mnが8以上40以下であることは、分子量分布が広く、低分子量体と高分子量体とを相当量含むことを意味し得る。低分子量体は、被着体に対する良好な濡れ性から、初期接着性発現に寄与し、高分子量体は、その凝集性から、持続的な変形荷重に対する抵抗性(耐変形性)を示す。上記Mw/Mnが8以上であることによって、初期接着性が好ましく発現する。また、上記Mw/Mnが40以下であることにより、分子量分布が適切な範囲内に好ましく制限され、安定した特性(初期接着性と耐変形性)が得られる。上記Mw/Mnは、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、さらに好ましくは15以上である。また、上記Mw/Mnは、好ましくは35以下、より好ましくは30以下、さらに好ましくは25以下であり、20以下(例えば20未満)であってもよい。
【0056】
なお、Mw,MnおよびMw/Mnは、重合条件(時間、温度等)や、連鎖移動剤の使用、連鎖移動定数に基づく重合溶媒の選択等によって調節可能である。また、MwおよびMnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により得られた標準ポリスチレン換算の値から求められる。GPC装置としては、例えば機種名「HLC-8320GPC」(カラム:TSKgelGMH-H(S)、東ソー社製)を用いることができる。
【0057】
(粘着付与樹脂)
ここに開示される粘着剤層は、上記ベースポリマーに加えて粘着付与樹脂を含むことが好ましい。粘着付与樹脂としては、ロジン系樹脂、テルペン樹脂、変性テルペン樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂、炭化水素系粘着付与樹脂、エポキシ系粘着付与樹脂、ポリアミド系粘着付与樹脂、エラストマー系粘着付与樹脂、ケトン系樹脂等の、公知の各種粘着付与樹脂から選択される1種または2種以上を用いることができる。なかでも、フェノール系粘着付与樹脂が好ましい。
【0058】
フェノール系粘着付与樹脂の例には、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペンフェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂およびロジンフェノール樹脂が含まれる。
テルペンフェノール樹脂とは、テルペン残基およびフェノール残基を含むポリマーを指し、テルペン類とフェノール化合物との共重合体(テルペン-フェノール共重合体樹脂)と、テルペン類の単独重合体または共重合体をフェノール変性したもの(フェノール変性テルペン樹脂)との双方を包含する概念である。このようなテルペンフェノール樹脂を構成するテルペン類の好適例としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン(d体、l体およびd/l体(ジペンテン)を包含する。)等のモノテルペン類が挙げられる。水素添加テルペンフェノール樹脂とは、このようなテルペンフェノール樹脂を水素化した構造を有する水素添加テルペンフェノール樹脂をいう。水添テルペンフェノール樹脂と称されることもある。
アルキルフェノール樹脂は、アルキルフェノールとホルムアルデヒドから得られる樹脂(油性フェノール樹脂)である。アルキルフェノール樹脂の例としては、ノボラックタイプおよびレゾールタイプのものが挙げられる。
ロジンフェノール樹脂は、典型的には、ロジン類または上記の各種ロジン誘導体(ロジンエステル類、不飽和脂肪酸変性ロジン類および不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類を包含する。)のフェノール変性物である。ロジンフェノール樹脂の例には、ロジン類または上記の各種ロジン誘導体にフェノールを酸触媒で付加させ熱重合する方法等により得られるロジンフェノール樹脂が含まれる。
【0059】
ここでいうロジン系樹脂(ロジン系粘着付与樹脂)の概念には、ロジン類およびロジン誘導体樹脂の双方が包含される。ただし、後述するロジンフェノール樹脂に該当するものは、ロジン系樹脂ではなくフェノール系樹脂に属するものとして扱う。
ロジン類の例には、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の未変性ロジン(生ロジン);これらの未変性ロジンを水素添加、不均化、重合等により変性した変性ロジン(水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、その他の化学的に修飾されたロジン等);が含まれる。
【0060】
ロジン誘導体樹脂は、典型的には上記のようなロジン類の誘導体である。ここでいうロジン系樹脂の概念には、未変性ロジンの誘導体および変性ロジン(水素添加ロジン、不均化ロジンおよび重合ロジンを包含する。)の誘導体が包含される。
ロジン誘導体樹脂としては、例えば、未変性ロジンとアルコール類とのエステルである未変性ロジンエステル、変性ロジンとアルコール類とのエステルである変性ロジンエステル等のロジンエステル類;例えば、ロジン類を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジン類;例えば、ロジンエステル類を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類;例えば、ロジン類または上記の各種ロジン誘導体(ロジンエステル類、不飽和脂肪酸変性ロジン類および不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類を包含する。)のカルボキシ基を還元処理したロジンアルコール類;例えば、ロジン類または上記の各種ロジン誘導体の金属塩;等が挙げられる。
【0061】
特に限定するものではないが、ロジンエステル類の具体例としては、未変性ロジンまたは変性ロジン(水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)のメチルエステル、トリエチレングリコールエステル、グリセリンエステル、ペンタエリスリトールエステル等が挙げられる。
【0062】
テルペン樹脂(テルペン系粘着付与樹脂)の例には、α-ピネン、β-ピネン、d-リモネン、l-リモネン、ジペンテン等のテルペン類(典型的にはモノテルペン類)の重合体が含まれる。1種のテルペン類の単独重合体であってもよく、2種以上のテルペン類の共重合体であってもよい。1種のテルペン類の単独重合体としては、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、ジペンテン重合体等が挙げられる。
変性テルペン樹脂の例としては、上記テルペン樹脂を変性したものが挙げられる。具体的には、スチレン変性テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂等が例示される。ただし、後述するテルペンフェノール樹脂または水素添加テルペンフェノール樹脂に該当するものは、変性テルペン樹脂ではなくフェノール系樹脂に属するものとして扱う。
【0063】
炭化水素系粘着付与樹脂の例としては、脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族系環状炭化水素樹脂、脂肪族・芳香族系石油樹脂(スチレン-オレフィン系共重合体等)、脂肪族・脂環族系石油樹脂、水素添加炭化水素樹脂、クマロン系樹脂、クマロンインデン系樹脂等の各種の炭化水素系の樹脂が挙げられる。
【0064】
好ましい一態様として、上記粘着付与樹脂が1種または2種以上のフェノール系粘着付与樹脂(典型的にはテルペンフェノール樹脂)を含む態様が挙げられる。フェノール系粘着付与樹脂の使用により、被着体に対する粘着剤層の密着性を改善することができる。また、フェノール系粘着付与樹脂は、ベースポリマーとしてアクリル系ポリマーを用いる態様において相溶性に優れる傾向があり、所望の粘着特性を発揮しやすいという利点を有する。
【0065】
ここに開示される技術は、例えば、粘着付与樹脂の総量の凡そ25重量%以上(より好ましくは凡そ30重量%以上)がテルペンフェノール樹脂である態様で好ましく実施され得る。粘着付与樹脂の総量の凡そ50重量%以上がテルペンフェノール樹脂であってもよく、凡そ80重量%以上(例えば凡そ90重量%以上)がテルペンフェノール樹脂であってもよい。粘着付与樹脂の実質的に全部(例えば凡そ95~100重量%、さらには凡そ99~100重量%)がテルペンフェノール樹脂であってもよい。
【0066】
フェノール系粘着付与樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)の含有量は、特に限定されず、ベースポリマー100重量部に対して凡そ5重量部以上であることが適当であり、接着性の観点から、好ましくは凡そ10重量部以上、より好ましくは凡そ15重量部以上、さらに好ましくは凡そ20重量部以上(例えば凡そ25重量部以上)である。また、フェノール系粘着付与樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)の含有量は、凡そ80重量部以下が適当であり、ベースポリマーとの相溶性や、接着力、耐衝撃性等の粘着特性等の観点から、好ましくは70重量部未満、より好ましくは凡そ60重量部以下、さらに好ましくは凡そ55重量部以下、特に好ましくは凡そ45重量部以下(例えば凡そ40重量部以下)である。
【0067】
特に限定するものではないが、ここに開示される技術における粘着付与樹脂として、水酸基価が30mgKOH/g未満(例えば20mgKOH/g未満)の粘着付与樹脂を用いることができる。以下、水酸基価が30mgKOH/g未満の粘着付与樹脂を「低水酸基価樹脂」ということがある。低水酸基価樹脂の水酸基価は、凡そ15mgKOH/g以下であってもよく、凡そ10mgKOH/g以下であってもよい。低水酸基価樹脂の水酸基価の下限は特に限定されず、実質的に0mgKOH/gであってもよい。
【0068】
特に限定するものではないが、ここに開示される技術における粘着付与樹脂として、水酸基価が30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂を用いてもよい。以下、水酸基価が30mgKOH/g以上の粘着付与樹脂を「高水酸基価樹脂」ということがある。上記水酸基価は40mgKOH/g以上であることが適当であり、好ましくは50mgKOH/g以上、より好ましくは60mgKOH/g以上である。高水酸基価樹脂の水酸基価の上限は特に限定されない。アクリル系ポリマーとの相溶性等の観点から、高水酸基価樹脂の水酸基価は、凡そ200mgKOH/g以下が適当であり、好ましくは凡そ180mgKOH/g以下、より好ましくは凡そ160mgKOH/g以下、さらに好ましくは凡そ140mgKOH/g以下である。
【0069】
好ましい一態様では、粘着剤層は、水酸基価が70mgKOH/g以上の粘着付与樹脂を含む。このような高水酸基価樹脂を用いることによって、優れた耐変形性が得られやすい。例えば、イソシアネート系架橋剤を用いる粘着剤において、上記のような高水酸基価を有する粘着付与樹脂を用いることで、粘着付与樹脂使用による粘着力向上に加えて、上記高水酸基価粘着付与樹脂とイソシアネート系架橋剤とが相互作用して、凝集力の高い粘着剤層が実現され得る。高水酸基価樹脂の水酸基価は、凡そ80mgKOH/g以上(例えば凡そ100mgKOH/g以上)であってもよい。高水酸基価樹脂の水酸基価の上限は特に限定されない。ベースポリマーとの相溶性等の観点から、高水酸基価樹脂の水酸基価は、凡そ350mgKOH/g以下が適当であり、好ましくは凡そ300mgKOH/g以下(例えば凡そ250mgKOH/g以下)、より好ましくは凡そ200mgKOH/g以下であり、凡そ150mgKOH/g以下(例えば凡そ120mgKOH/g以下)であってもよい。
【0070】
ここで、上記水酸基価の値としては、JIS K0070:1992に規定する電位差滴定法により測定される値を採用することができる。具体的な測定方法は以下に示すとおりである。
[水酸基価の測定方法]
1.試薬
(1)アセチル化試薬としては、無水酢酸約12.5g(約11.8mL)を取り、これにピリジンを加えて全量を50mLにし、充分に攪拌したものを使用する。または、無水酢酸約25g(約23.5mL)を取り、これにピリジンを加えて全量を100mLにし、充分に攪拌したものを使用する。
(2)測定試薬としては、0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液を使用する。
(3)その他、トルエン、ピリジン、エタノールおよび蒸留水を準備する。
2.操作
(1)平底フラスコに試料約2gを精秤採取し、アセチル化試薬5mLおよびピリジン10mLを加え、空気冷却管を装着する。
(2)上記フラスコを100℃の浴中で70分間加熱した後、放冷し、冷却管の上部から溶剤としてトルエン35mLを加えて攪拌した後、蒸留水1mLを加えて攪拌することにより無水酢酸を分解する。分解を完全にするため再度浴中で10分間加熱し、放冷する。
(3)エタノール5mLで冷却管を洗い、取り外す。次いで、溶剤としてピリジン50mLを加えて攪拌する。
(4)0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液を、ホールピペットを用いて25mL加える。
(5)0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で電位差滴定を行う。得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。
(6)空試験は、試料を入れないで上記(1)~(5)を行う。
3.計算
以下の式により水酸基価を算出する。
水酸基価(mgKOH/g)=[(B-C)×f×28.05]/S+D
ここで、
B: 空試験に用いた0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、
C: 試料に用いた0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、
f: 0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、
S: 試料の重量(g)、
D: 酸価、
28.05: 水酸化カリウムの分子量56.11の1/2、
である。
【0071】
高水酸基価樹脂としては、上述した各種の粘着付与樹脂のうち所定値以上の水酸基価を有するものを用いることができる。高水酸基価樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、高水酸基価樹脂として、水酸基価が70mgKOH/g以上のフェノール系粘着付与樹脂を好ましく採用し得る。好ましい一態様では、粘着付与樹脂として、水酸基価が70mgKOH/g以上のテルペンフェノール樹脂を使用する。テルペンフェノール樹脂は、フェノールの共重合割合によって水酸基価を任意にコントロールすることができるので好都合である。
【0072】
特に限定するものではないが、粘着剤層に含まれる粘着付与樹脂全体に占める高水酸基価樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)の割合は、例えば凡そ25重量%以上とすることができ、凡そ30重量%以上が好ましく、凡そ50重量%以上(例えば凡そ80重量%以上、典型的には凡そ90重量%以上)がより好ましい。粘着付与樹脂の実質的に全部(例えば凡そ95~100重量%、さらには凡そ99~100重量%)が高水酸基価樹脂であってもよい。したがって、ここに開示される粘着剤層は、発明の効果を損なわない範囲で、高水酸基価樹脂に該当しない粘着付与樹脂(具体的には、水酸基価が30mgKOH/g未満の粘着付与樹脂)を含み得る。
【0073】
上記高水酸基価樹脂の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して凡そ5重量部以上(例えば10重量部以上)とすることが適当である。これによって、被着体に対する密着性と優れた耐変形性とを示す粘着シートが好ましく実現され得る。より優れた効果を得る観点から、ベースポリマー100重量部に対する高水酸基価樹脂の含有量は、好ましくは凡そ15重量部以上、より好ましくは凡そ20重量部以上、さらに好ましくは凡そ25重量部以上、特に好ましくは凡そ30重量部以上である。高水酸基価樹脂の含有量の上限は特に限定されず、ベースポリマーとの相溶性や初期接着性の観点から、一態様において、ベースポリマー100重量部に対して凡そ80重量部以下とすることが適当であり、接着力や耐衝撃性等の粘着特性の観点から、好ましくは70重量部未満、より好ましくは凡そ60重量部以下、さらに好ましくは凡そ55重量部以下、特に好ましくは凡そ50重量部以下(例えば凡そ45重量部以下)であり、凡そ40重量部以下(例えば凡そ35重量部以下)であってもよい。
【0074】
粘着付与樹脂の軟化点は特に限定されない。凝集力向上の観点から、一態様において、軟化点(軟化温度)が凡そ80℃以上(好ましくは凡そ100℃以上)である粘着付与樹脂を好ましく採用し得る。上記軟化点は、より好ましくは凡そ110℃以上(例えば凡そ120℃以上)である。例えば、上記軟化点を有するフェノール系粘着付与樹脂(テルペンフェノール樹脂等)を好ましく用いることができる。好ましい一態様において、軟化点が凡そ135℃以上(さらには凡そ140℃以上)のテルペンフェノール樹脂を用いることができる。ここに開示される技術は、上記軟化点を有する粘着付与樹脂が、粘着剤層に含まれる粘着付与樹脂全体のうち50重量%超(より好ましくは70重量%超、例えば90重量%超)である態様で好ましく実施され得る。例えば、上記軟化点を有するフェノール系粘着付与樹脂(テルペンフェノール樹脂等)を好ましく用いることができる。粘着付与樹脂の軟化点の上限は特に制限されない。被着体や基材に対する密着性の観点から、一態様において、軟化点が凡そ200℃以下(より好ましくは凡そ180℃以下)の粘着付与樹脂を好ましく使用し得る。ここに開示される粘着剤層は、上記軟化点が例えば凡そ150℃以下や凡そ140℃以下の粘着付与樹脂を含んでもよく、軟化点150℃以下(例えば140℃以下)の粘着付与樹脂を実質的に含まないものであり得る。なお、粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定することができる。
【0075】
上記粘着付与樹脂の含有量は、特に限定されず、ベースポリマー100重量部に対して凡そ5重量部以上(例えば10重量部以上)とすることが適当である。これによって、被着体に対する密着性を向上させる効果が好適に発揮される。より高い密着性を得る観点から、ベースポリマー100重量部に対する粘着付与樹脂の含有量は、好ましくは凡そ15重量部以上、より好ましくは凡そ20重量部以上、さらに好ましくは凡そ25重量部以上、特に好ましくは凡そ30重量部以上である。粘着付与樹脂の含有量の上限は特に限定されない。ベースポリマーとの相溶性や耐変形性の観点から、一態様において、ベースポリマー100重量部に対して凡そ80重量部以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ60重量部以下、より好ましくは凡そ55重量部以下、さらに好ましくは凡そ50重量部以下(例えば凡そ45重量部以下)であり、凡そ40重量部以下(例えば凡そ35重量部以下)であってもよい。
【0076】
((メタ)アクリル系オリゴマー)
ここに開示される粘着剤組成物(ひいては粘着剤層)には、接着力向上等の観点から、(メタ)アクリル系オリゴマーを含有させることができる。(メタ)アクリル系オリゴマーとしては、上記モノマー成分の組成に対応する共重合体のTg(典型的には、粘着剤組成物から形成される粘着剤に含まれるアクリル系ポリマーのTgに概ね対応する。)よりもTgが高い重合体を用いることが好ましい。(メタ)アクリル系オリゴマーを含有させることにより、粘着剤の接着力を向上させ得る。
【0077】
上記(メタ)アクリル系オリゴマーは、Tgが約0℃以上約300℃以下、好ましくは約20℃以上約300℃以下、さらに好ましくは約40℃以上約300℃以下であることが望ましい。Tgが上記範囲内であることにより、接着力を好適に向上することができる。好ましい一態様では、粘着剤の凝集性の観点から、(メタ)アクリル系オリゴマーのTgは約30℃以上であり、より好ましくは約50℃以上(例えば約60℃以上)であり、また初期接着性の観点から、好ましくは約200℃以下、より好ましくは約150℃以下、さらに好ましくは約100℃以下(例えば凡そ80℃以下)である。なお(メタ)アクリル系オリゴマーのTgは、上記モノマー成分の組成に対応する共重合体のTgと同じく、Foxの式に基づいて計算される値である。
【0078】
(メタ)アクリル系オリゴマーの重量平均分子量(Mw)は、典型的には約1000以上約30000未満、好ましくは約1500以上約20000未満、さらに好ましくは約2000以上約10000未満であり得る。Mwが上記範囲内にあることで、良好な接着力や保持特性が得られるため好ましい。好ましい一態様では、Z軸方向の持続的荷重に対する耐変形性の観点から、(メタ)アクリル系オリゴマーのMwは約2500以上(例えば約3000以上)であり、また、初期接着性の観点から、好ましくは約7000以下、より好ましくは約5000以下(例えば約4500以下、さらには約400以下)である。(メタ)アクリル系オリゴマーのMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算の値として求めることができる。具体的には、東ソー社製のHPLC8020に、カラムとしてTSKgelGMH-H(20)×2本を用いて、テトラヒドロフラン溶媒で流速約0.5mL/分の条件にて測定される。
【0079】
(メタ)アクリル系オリゴマーを構成するモノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートのようなアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリル酸と脂環族アルコールとのエステル(脂環式炭化水素基含有(メタ)アクリレート);フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートのようなアリール(メタ)アクリレート;テルペン化合物誘導体アルコールから得られる(メタ)アクリレート;等を挙げることができる。このような(メタ)アクリレートは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0080】
(メタ)アクリル系オリゴマーとしては、イソブチル(メタ)アクリレートやt-ブチル(メタ)アクリレートのようなアルキル基が分岐構造を有するアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレートやイソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリル酸と脂環式アルコールとのエステル(脂環式炭化水素基含有(メタ)アクリレート);フェニル(メタ)アクリレートやベンジル(メタ)アクリレートのようなアリール(メタ)アクリレート等の環状構造を有する(メタ)アクリレートに代表される、比較的嵩高い構造を有するアクリル系モノマーをモノマー単位として含んでいることが、粘着剤層の接着性をさらに向上させることができる観点から好ましい。また、(メタ)アクリル系オリゴマーの合成の際や粘着剤層の作製の際に紫外線を採用する場合には、重合阻害を起こしにくいという点で、飽和結合を有するものが好ましく、アルキル基が分岐構造を有するアルキル(メタ)アクリレート、または脂環式アルコールとのエステル(脂環式炭化水素基含有(メタ)アクリレート)を、(メタ)アクリル系オリゴマーを構成するモノマーとして好適に用いることができる。なお、上記の分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレート、脂環式炭化水素基(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレートはいずれも、ここに開示される技術における(メタ)アクリレートモノマーに該当する。脂環式炭化水素基は飽和または不飽和の脂環式炭化水素基であり得る。
【0081】
(メタ)アクリル系オリゴマーを構成する全モノマー成分に占める(メタ)アクリレートモノマー(例えば、脂環式炭化水素基含有(メタ)アクリレート)の割合は、典型的には50重量%超であり、好ましくは60重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上(例えば80重量%以上、さらには90重量%以上)である。好ましい一態様では、(メタ)アクリル系オリゴマーは、実質的に(メタ)アクリレートモノマーのみからなるモノマー組成を有する。
【0082】
(メタ)アクリル系オリゴマーの構成モノマー成分としては、上記の(メタ)アクリレートモノマーに加えて、官能基含有モノマーを用いることができる。上記官能基含有モノマーの好適例としては、N-ビニル-2-ピロリドン、N-アクリロイルモルホリン等の窒素原子含有環(典型的には窒素原子含有複素環)を有するモノマー;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー;AA、MAA等のカルボキシ基含有モノマー;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;が挙げられる。これらの官能基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、カルボキシ基含有モノマーが好ましく、AAが特に好ましい。
【0083】
(メタ)アクリル系オリゴマーを構成する全モノマー成分が官能基含有モノマーを含む場合、上記全モノマー成分に占める官能基含有モノマー(例えば、AA等のカルボキシ基含有モノマー)の割合は、凡そ1重量%以上とすることが適当であり、好ましくは2重量%以上、より好ましくは3重量%以上であり、また凡そ15重量%以下とすることが適当であり、好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下である。
【0084】
(メタ)アクリル系オリゴマーは、その構成モノマー成分を重合することにより形成され得る。重合方法や重合態様は特に限定されず、従来公知の各種重合方法(例えば、溶液重合、エマルション重合、塊状重合、光重合、放射線重合等)を、適宜の態様で採用することができる。必要に応じて使用し得る重合開始剤(例えば、AIBN等のアゾ系重合開始剤)の種類は、概ねアクリル系ポリマーの合成にて例示したとおりであり、重合開始剤量や、任意に使用されるn-ドデシルメルカプタン等の連鎖移動剤の量は、所望の分子量となるよう技術常識に基づいて適切に設定されるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0085】
上記の観点から、好適な(メタ)アクリル系オリゴマーとしては、例えば、ジシクロペンタニルメタクリレート(DCPMA)、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)、イソボルニルメタクリレート(IBXMA)、イソボルニルアクリレート(IBXA)、ジシクロペンタニルアクリレート(DCPA)、1-アダマンチルメタクリレート(ADMA)、1-アダマンチルアクリレート(ADA)の各単独重合体のほか、CHMAとイソブチルメタクリレート(IBMA)との共重合体、CHMAとIBXMAとの共重合体、CHMAとアクリロイルモルホリン(ACMO)との共重合体、CHMAとジエチルアクリルアミド(DEAA)との共重合体、CHMAとAAとの共重合体、ADAとメチルメタクリレート(MMA)の共重合体、DCPMAとIBXMAとの共重合体、DCPMAとMMAの共重合体、等を挙げることができる。
【0086】
ここに開示される粘着剤組成物に(メタ)アクリル系オリゴマーを含有させる場合、その含有量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して例えば0.1重量部以上(例えば1重量部以上)とすることが適当である。(メタ)アクリル系オリゴマーの効果をよりよく発揮させる観点からは、上記(メタ)アクリル系オリゴマーの含有量は、好ましくは凡そ5重量部以上、より好ましくは凡そ8重量部以上、さらに好ましくは凡そ10重量部以上、特に好ましくは凡そ12重量部以上である。また、アクリル系ポリマーとの相溶性、耐変形性等の観点から、上記(メタ)アクリル系オリゴマーの含有量は、50重量部未満(例えば40重量部未満)とすることが適当であり、好ましくは30重量部未満、より好ましくは凡そ25重量部以下、さらに好ましくは凡そ20重量部以下であり、凡そ10重量部以下であってもよく、凡そ3重量部以下(例えば凡そ1重量部以下)でもよい。ここに開示される技術は、粘着剤層が(メタ)アクリル系オリゴマーを実質的に含まない態様で実施することができる。
【0087】
(架橋剤)
粘着剤を形成するために用いられる粘着剤組成物は、架橋剤を含むことが好ましい。粘着剤組成物に架橋剤を含ませることによって、粘着剤に架橋構造が導入される。架橋剤の種類は特に制限されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アミン系架橋剤等から適宜選択して用いることができる。架橋剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。被着体との密着性や耐衝撃性の観点からは、イソシアネート系架橋剤が好ましく、接着状態の保持性能(層形状保持を含む。)等の観点からはエポキシ系架橋剤が好ましい。ここに開示される技術によると、エポキシ系架橋剤を用いることなく、あるいはその使用量を低減しつつ、より高性能な粘着シートを提供することができる。例えば、イソシアネート系架橋剤を主架橋剤成分として用いて、被着体との密着性を高めたり、耐衝撃性を改善することができる。イソシアネート系架橋剤の使用は、例えば、PET等のポリエステル樹脂製の被着体に対する接着力改善の点で有利である。
【0088】
エポキシ系架橋剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物を特に制限なく用いることができる。1分子中に3~5個のエポキシ基を有するエポキシ系架橋剤が好ましい。エポキシ系架橋剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0089】
特に限定するものではないが、エポキシ系架橋剤の具体例として、例えばN,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ系架橋剤の市販品としては、三菱ガス化学社製の商品名「TETRAD-C」および商品名「TETRAD-X」、DIC社製の商品名「エピクロンCR-5L」、ナガセケムテックス社製の商品名「デナコールEX-512」、日産化学工業社製の商品名「TEPIC-G」等が挙げられる。
【0090】
エポキシ系架橋剤を用いる場合、その使用量は特に限定されず、例えばベースポリマー100重量部に対して3重量部以下とすることができる。被着体や基材に対する接着力、投錨力向上の観点から、ベースポリマー100重量部に対するエポキシ系架橋剤の量を1重量部以下とすることが好ましく、0.5重量部以下(典型的には0.2重量部以下、例えば0.1重量部以下、さらには0.05重量部以下)とすることがより好ましく、0.03重量部以下(例えば0.02重量部以下)としてもよい。エポキシ系架橋剤の使用量を減らすことにより、耐衝撃性も向上する傾向がある。また、凝集力の向上効果を好適に発揮する観点から、ベースポリマー100重量部に対するエポキシ系架橋剤の量を0.001重量部以上(例えば0.005重量部以上)とすることができる。
【0091】
イソシアネート系架橋剤としては、多官能イソシアネート(1分子当たり平均2個以上のイソシアネート基を有する化合物をいい、イソシアヌレート構造を有するものを包含する。)が好ましく使用され得る。イソシアネート系架橋剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0092】
多官能イソシアネートの例として、脂肪族ポリイソシアネート類、脂環族ポリイソシアネート類、芳香族ポリイソシアネート類等が挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネート類の具体例としては、1,2-エチレンジイソシアネート;1,2-テトラメチレンジイソシアネート、1,3-テトラメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート等のテトラメチレンジイソシアネート;1,2-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,5-ヘキサメチレンジイソシアネート等のヘキサメチレンジイソシアネート;2-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、等が挙げられる。
【0093】
脂環族ポリイソシアネート類の具体例としては、イソホロンジイソシアネート;1,2-シクロヘキシルジイソシアネート、1,3-シクロヘキシルジイソシアネート、1,4-シクロヘキシルジイソシアネート等のシクロヘキシルジイソシアネート;1,2-シクロペンチルジイソシアネート、1,3-シクロペンチルジイソシアネート等のシクロペンチルジイソシアネート;水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、等が挙げられる。
【0094】
芳香族ポリイソシアネート類の具体例としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、2-ニトロジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、2,2’-ジフェニルプロパン-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ナフチレン-1,4-ジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、3,3’-ジメトキシジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、キシリレン-1,3-ジイソシアネート等が挙げられる。
【0095】
好ましい多官能イソシアネートとして、1分子当たり平均して3個以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネートが例示される。かかる3官能以上のイソシアネートは、2官能または3官能以上のイソシアネートの多量体(典型的には2量体または3量体)、誘導体(例えば、多価アルコールと2分子以上の多官能イソシアネートとの付加反応生成物)、重合物等であり得る。例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートの2量体や3量体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(イソシアヌレート構造の3量体付加物)、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネート、等の多官能イソシアネートが挙げられる。かかる多官能イソシアネートの市販品としては、旭化成ケミカルズ社製の商品名「デュラネートTPA-100」、日本ポリウレタン工業社製の商品名「コロネートL」、同「コロネートHL」、同「コロネートHK」、同「コロネートHX」、同「コロネート2096」等が挙げられる。
【0096】
イソシアネート系架橋剤を用いる場合、その使用量は特に限定されず、例えばベースポリマー100重量部に対して0重量部を超えて凡そ10重量部以下(典型的には0.01~10重量部)とすることができる。凝集力と密着性との両立や耐衝撃性等の観点から、ベースポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の量は、好ましくは凡そ0.5重量部以上、より好ましくは凡そ1重量部以上、さらに好ましくは凡そ1.5重量部以上である。また、同様の観点から、ベースポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の量を凡そ8重量部以下とすることが好ましく、凡そ6重量部以下とすることがより好ましく、凡そ5重量部以下がさらに好ましく、凡そ4重量部以下(例えば凡そ3重量部以下)が特に好ましい。
【0097】
ここに開示される技術は、エポキシ系架橋剤とイソシアネート系架橋剤とを併用する態様で好ましく実施される。かかる態様において、エポキシ系架橋剤の含有量とイソシアネート系架橋剤の含有量との関係は特に限定されない。エポキシ系架橋剤の含有量は、例えば、イソシアネート系架橋剤の含有量の凡そ1/50以下とすることができる。被着体や基材に対する密着性と凝集力とをより好適に両立する観点から、エポキシ系架橋剤の含有量は、イソシアネート系架橋剤の含有量の凡そ1/75以下とすることが適当であり、凡そ1/100以下(例えば1/150以下)とすることが好ましい。また、エポキシ系架橋剤とイソシアネート系架橋剤とを組み合わせて用いることによる効果を好適に発揮する観点から、エポキシ系架橋剤の含有量は、イソシアネート系架橋剤の含有量の凡そ1/1000以上、例えば凡そ1/500以上とすることが適当である。
【0098】
架橋剤の総使用量は特に制限されず、例えば、ベースポリマー100重量部に対して凡そ0.005重量部以上(例えば0.01重量部以上、典型的には0.1重量部以上)程度、凡そ10重量部以下(例えば凡そ8重量部以下、好ましくは凡そ5重量部以下)程度の範囲から選択することができる。
【0099】
(その他の添加剤)
粘着剤組成物には、上述した各成分以外に、必要に応じてレベリング剤、架橋助剤、可塑剤、軟化剤、帯電防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の、粘着剤の分野において一般的な各種の添加剤が含まれていてもよい。このような各種添加剤については、従来公知のものを常法により使用することができ、特に本発明を特徴づけるものではないので、詳細な説明は省略する。
【0100】
ここに開示される粘着剤層(粘着剤からなる層)は、水系粘着剤組成物、溶剤型粘着剤組成物、ホットメルト型粘着剤組成物、活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり得る。水系粘着剤組成物とは、水を主成分とする溶媒(水系溶媒)中に粘着剤(粘着剤層形成成分)を含む形態の粘着剤組成物のことをいい、典型的には、水分散型粘着剤組成物(粘着剤の少なくとも一部が水に分散した形態の組成物)等と称されるものが含まれる。また、溶剤型粘着剤組成物とは、有機溶媒中に粘着剤を含む形態の粘着剤組成物のことをいう。ここに開示される技術は、粘着特性等の観点から、溶剤型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える態様で好ましく実施され得る。
【0101】
ここに開示される粘着剤層は、従来公知の方法によって形成することができる。例えば、剥離性を有する表面(剥離面)または非剥離性の表面に粘着剤組成物を付与して乾燥させることにより粘着剤層を形成する方法を採用することができる。基材を有する構成の粘着シートでは、例えば、該基材に粘着剤組成物を直接付与(典型的には塗布)して乾燥させることにより粘着剤層を形成する方法(直接法)を採用することができる。また、剥離性を有する表面(剥離面)に粘着剤組成物を付与して乾燥させることにより該表面上に粘着剤層を形成し、その粘着剤層を基材に転写する方法(転写法)を採用してもよい。生産性の観点から、転写法が好ましい。上記剥離面としては、剥離ライナーの表面や、剥離処理された基材背面等を利用し得る。なお、ここに開示される粘着剤層は典型的には連続的に形成されるが、このような形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。
【0102】
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、ダイコーター、バーコーター等の、従来公知のコーターを用いて行うことができる。あるいは、含浸やカーテンコート法等により粘着剤組成物を塗布してもよい。
架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。乾燥温度は、例えば40~150℃程度とすることができ、60~130℃程度とすることが好ましい。粘着剤組成物を乾燥させた後、さらに、粘着剤層内における成分移行の調整、架橋反応の進行、粘着剤層内に存在し得る歪の緩和等を目的としてエージングを行ってもよい。
【0103】
(粘着剤層の厚さ)
粘着剤層の厚さは特に制限されない。粘着シートが過度に厚くなることを避ける観点から、粘着剤層の厚さは、凡そ100μm以下が適当であり、好ましくは凡そ70μm以下、より好ましくは凡そ60μm以下、さらに好ましくは凡そ50μm以下である。粘着剤層の厚さの下限は特に制限されないが、被着体に対する密着性の観点からは、凡そ3μm以上とすることが有利であり、好ましくは凡そ10μm以上、より好ましくは凡そ20μm以上(例えば凡そ30μm以上)である。ここに開示される粘着シートは、両面粘着シートとして構成する場合には、上記厚さの粘着剤層を基材の両面に有する粘着シートであり得る。また、基材の各面に第1粘着剤層と第2粘着剤層とをそれぞれ有する基材付き両面粘着シートにおいては、第1粘着剤層と第2粘着剤層とは同一の厚さであってもよく、相互に異なる厚さであってもよい。
【0104】
(ゲル分率)
特に限定するものではないが、ここに開示される粘着剤層(第1粘着剤層および第2粘着剤層を備える場合は各粘着剤層)のゲル分率は、重量基準で、例えば20%以上とすることができ、30%以上とすることが適当であり、35%以上が好ましい。粘着剤層のゲル分率を適度な範囲で高くすることにより、Z軸方向の持続的な荷重に対する耐変形性が得られやすくなる傾向にある。ここに開示される技術では、ゲル分率が40%以上の粘着剤層とすることがより好ましい。上記ゲル分率は、45%以上であってもよく、50%以上でもよく、例えば55%以上でもよい。一方、初期接着性等の観点から、粘着剤層のゲル分率は、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下(例えば65%以下)がさらに好ましく、60%以下であってもよく、50%以下でもよい。ここに開示される粘着シートが基材付き両面粘着シートである場合、第1粘着剤層および第2粘着剤層のゲル分率は同じであってもよく異なっていてもよい。
【0105】
<発泡体基材>
ここに開示される粘着シートは発泡体基材を備える。具体的には、上記粘着シートは、発泡体基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を有する粘着シートとして構成されている。ここに開示される技術において、発泡体基材とは、気泡(気泡構造)を有する部分を備えた基材であって、典型的には、層状の発泡体(発泡体層)を少なくとも1層含む基材をいう。上記発泡体基材は、1層または2層以上の発泡体層により構成された基材であり得る。上記発泡体基材は、例えば、1層または2層以上の発泡体層のみにより実質的に構成された基材であり得る。特に限定するものではないが、ここに開示される技術における発泡体基材の一好適例として、単層(1層)の発泡体層からなる発泡体基材が挙げられる。発泡体基材を用いることで、基材レスや樹脂フィルム基材を用いた構成と比べて優れた耐衝撃性が得られる。
【0106】
発泡体基材の密度D(見掛け密度をいう。以下、特記しない場合において同じ。)は特に限定されず、例えば凡そ0.1~0.9g/cmであり得る。耐衝撃性の観点から、発泡体基材の密度Dは、凡そ0.8g/cm以下が適当であり、凡そ0.7g/cm以下(例えば凡そ0.6g/cm以下)が好ましい。一態様において、発泡体基材の密度Dは、0.5g/cm未満であってよく、0.45g/cm未満であってもよい。また、耐衝撃性の観点から、発泡体基材の密度Dは、凡そ0.12g/cm以上が好ましく、凡そ0.15g/cm以上がより好ましく、凡そ0.2g/cm以上(例えば凡そ0.3g/cm以上)がさらに好ましい。一態様において、発泡体基材の密度Dは、凡そ0.4g/cm以上であってよく、凡そ0.5g/cm以上(例えば0.5g/cm超)であってもよく、さらには0.55g/cm以上であってもよい。なお、発泡体基材の密度D(見掛け密度)はJIS K 6767に準拠して測定することができる。
【0107】
発泡体基材の平均気泡径は特に限定されないが、応力分散の観点からは、凡そ300μm以下が好ましく、凡そ200μm以下がより好ましく、凡そ150μm以下がさらに好ましい。いくつかの態様では、発泡体基材の平均気泡径は、凡そ120μm以下でもよく、凡そ100μm以下(典型的には凡そ90μm以下、例えば凡そ80μm以下、さらには凡そ70μm以下)でもよい。平均気泡径の下限は特に限定されず、凡そ10μm以上が適当であり、凡そ20μm以上が好ましく、凡そ30μm以上がより好ましく、凡そ40μm以上(例えば凡そ50μm以上)がさらに好ましい。一態様において、平均気泡径は、55μm以上であってよく、60μm以上であってもよい。平均気泡径を大きくすることにより、耐衝撃性も向上する傾向がある。なお、ここでいう平均気泡径は、発泡体基材の断面を電子顕微鏡で観察して得られる、真球換算の平均気泡径をいう。
【0108】
発泡体基材に含まれる気泡は、該発泡体基材の平面視において比較的円に近い形状であることが好ましい。すなわち、発泡体基材の流れ方向(以下「MD」ともいう。)の平均気泡径と幅方向(以下「CD」ともいう。)の平均気泡径とが異なりすぎないことが好ましい。上記気泡の形状の円形状からの隔たりの程度は、該発泡体基材のCDについての平均気泡径(CD平均気泡径)に対するMDについての平均気泡径(MD平均気泡径)の比、すなわち下記式で表される「アスペクト比(MD/CD)」を指標として把握され得る。このアスペクト比(MD/CD)がより1に近ければ、発泡体基材に含まれる気泡の平面視における形状がより円に近いといえる。
アスペクト比(MD/CD)=MD平均気泡径/CD平均気泡径
【0109】
ここに開示される技術の一態様において、発泡体基材に含まれる気泡のアスペクト比(MD/CD)は、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは0.8以上であり、例えば0.85以上であり得る。一態様において、アスペクト比は、0.9以上であってよく、0.95以上(例えば凡そ1.0以上)であってもよい。また、上記アスペクト比(MD/CD)は、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.25以下、さらに好ましくは1.2以下であり、例えば1.15以下であり得る。上記アスペクト比(MD/CD)が1より小さすぎないことにより、上記発泡体基材を用いた粘着シートの取扱性が向上し得る。また、上記アスペクト比(MD/CD)は1よりも大きすぎないことが適当である。
【0110】
ここで、発泡体基材のMDとは、該発泡体基材の製造工程における押出方向を指す。特に限定するものではないが、テープ状等の長尺状の発泡体基材におけるMDは、その長尺方向に一致する。また、発泡体基材のCDとは、該発泡体基材のMDに直交し、かつ該発泡体基材の表面に沿う方向を指す。この発泡体基材の厚さ方向(以下「VD」ともいう。)は、上記MDと上記CDのいずれとも直交する方向となる。
【0111】
発泡体基材のMD平均気泡径は、以下のようにして測定される。すなわち、上記発泡体基材を、そのCDにおけるほぼ中央部において、MDおよびVDに平行する平面(すなわち垂線の向きがCDと一致するような平面)に沿って切断し、その切断面の中央部を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影する。撮影した画像をA4サイズの用紙に印刷し、画像上にMDに平行する長さ60mmの直線を一本、描く。このとき、60mmの直線上に気泡が10~20個程度存在するようにSEMの拡大倍率を調整する。上記直線上に存在する気泡数を目視により数え、下記の式によりMD平均気泡径を算出する。
MD平均気泡径(μm)=60(mm)×10/(気泡数(個)×拡大倍率)
【0112】
発泡体基材のCD平均気泡径は、以下のようにして測定される。すなわち、上記発泡体基材を、そのCDおよびVDに平行する平面(すなわち垂線の向きがMDと一致するような平面)に沿って切断し、その切断面の中央部をSEMにて撮影する。撮影した画像をA4サイズの用紙に印刷し、画像上にCDに平行する長さ60mmの直線を一本、描く。このとき、60mmの直線上に気泡が10~20個程度存在するようにSEMの拡大倍率を調整する。上記直線上に存在する気泡数を目視により数え、下記の式によりCD平均気泡径を算出する。
CD平均気泡径(μm)=60(mm)×10/(気泡数(個)×拡大倍率)
【0113】
なお、直線を描くにあたっては、できるだけ直線が気泡に点接触することなく貫通した状態となるようにする。一部の気泡が直線に点接触してしまう場合には、この気泡を1個として数える。さらに、直線の両端部が気泡を貫通することなく、気泡内に位置した状態となる場合には、この気泡を0.5個として数える。
【0114】
発泡体基材の各方向の平均気泡径は、例えば、該発泡体基材の組成(発泡剤の使用量等)や製造条件(発泡工程、延伸工程等における条件)を調整することにより制御することができる。
【0115】
ここに開示される技術における発泡体基材としては、10%圧縮強度C10[kPa]と30%圧縮強度C30[kPa]との関係が次式:(C30/C10)≦5.0;を満たすものを好ましく採用することができる。ここで、発泡体基材の10%圧縮強度は、該発泡体基材を30mm角の正方形状にカットしたものを積み重ねて約2mmの厚さとした測定試料を一対の平板で挟み、それを当初の厚さの10%に相当する厚さ分だけ圧縮したときの荷重(圧縮率10%における荷重)をいう。すなわち、上記測定試料を当初の厚さの90%に相当する厚さまで圧縮したときの荷重をいう。30%圧縮強度C30[kPa]および後述する25%圧縮強度C25[kPa]についても同様に、測定試料を当初の厚さの30%または25%に相当する厚さ分だけ圧縮したときの荷重をいう。
発泡体基材の任意の圧縮率における圧縮強度は、JIS K 6767に準拠して測定される。具体的な測定手順としては、上記一対の平板の中央部に上記測定試料をセットし、上記平板の間隔を狭めることで連続的に任意の圧縮率まで圧縮し、そこで平板を停止させて10秒経過後の荷重を測定する。発泡体基材の圧縮強度は、例えば、発泡体基材を構成する材料の架橋度や密度、気泡のサイズや形状等により制御することができる。
【0116】
圧縮強度比(C30/C10)が小さいということは、圧縮の程度の違いが圧縮強度に及ぼす影響が小さいことを意味する。例えば、粘着シートによる接合面に段差やキズ等の凹凸がある場合や、粘着シートの幅が部分的に異なっている場合、あるいは粘着シートによる接合部の一部が他部よりも大きな応力を受けた場合等において、粘着シートの一部が他部よりも大きく圧縮されることがあり得る。粘着シートを細幅化すると、上記段差や部分的な幅の違い等による圧縮の程度の違いはより顕著になる傾向にある。圧縮の程度の違いによる圧縮強度の違いが大きすぎると、圧縮の程度が変化する部分に歪が集中し、当該部分が粘着シートの剥がれや発泡体基材の損傷の起点となることがあり得る。(C30/C10)が小さい発泡体基材を用いた粘着シートは、上記圧縮の程度の違いに起因する圧縮強度の違いが小さいことから、上記剥がれや発泡体基材の損傷が生じにくい。このことは耐衝撃性向上の観点から有利となり得る。より良好な効果を得る観点から、(C30/C10)は、4.5以下であることがより好ましく、4.0以下であることがさらに好ましい。(C30/C10)は3.5以下であってもよい。(C30/C10)の下限は特に限定されないが、例えば2.5以上が適当であり、3.0以上であってもよい。
【0117】
発泡体基材の25%圧縮強度C25は特に限定されず、例えば20kPa以上(典型的には40kPa以上)であり得る。C25は、250kPa以上が適当であり、300kPa以上(例えば400kPa以上)が好ましく、500kPa以上であってもよく、さらには700kPa以上(例えば900kPa以下)であってもよい。このような発泡体基材を備える粘着シートは、落下等の衝撃に対して良好な耐久性を発揮するものとなり得る。例えば、衝撃による粘着シートの千切れがよりよく防止されたものとなり得る。C25の上限は特に制限されないが、1300kPa以下(例えば1200kPa以下)が適当である。一態様において、C25は、1000kPa以下であってもよい。C25[kPa]と見掛け密度D[g/cm]との関係が次式:150≦C25×D≦400(例えば200≦C25×D≦350、好ましくは240≦C25×D≦300);を満たす発泡体基材を備える粘着シートによると、より良好な結果が実現され得る。
【0118】
好ましい他の一態様において、発泡体基材のC25は、20kPa~200kPa(典型的には30kPa~150kPa、例えば40kPa~120kPa)とすることができる。このような発泡体基材を備える粘着シートは、密度の割に圧縮強度が低いことから、細幅であってもクッション性に優れたものとなり得る。例えば、落下衝撃を発泡体基材が吸収することにより、粘着シートの剥がれがよりよく防止され得る。C25[kPa]と見掛け密度D[g/cm]との関係が次式:100≦C25/D≦400(例えば150≦C25/D≦350、好ましくは200≦C25/D≦300);を満たす発泡体基材を備える粘着シートによると、より良好な結果が実現され得る。
【0119】
発泡体基材の引張伸度は特に限定されない。例えば、流れ方向(MD)の引張伸度が200%~800%(より好ましくは400%~600%)である発泡体基材を好適に採用し得る。また、幅方向(TD)の引張伸度が50%~800%(より好ましくは200%~500%)である発泡体基材が好ましい。発泡体基材の伸びは、JIS K 6767に準拠して測定される。発泡体基材の伸びは、例えば、架橋度や見掛け密度(発泡倍率)等により制御することができる。
【0120】
発泡体基材の引張強さ(引張強度)は特に限定されない。例えば、流れ方向(MD)の引張強さが5MPa~35MPa(好ましくは10MPa~30MPa)である発泡体基材を好適に採用し得る。また、幅方向(TD)の引張強さが1MPa~25MPa(より好ましくは5MPa~20MPa)である発泡体基材が好ましい。発泡体基材の引張強さは、JIS K 6767に準拠して測定される。発泡体基材の引張強さは、例えば、架橋度や見掛け密度(発泡倍率)等により制御することができる。
【0121】
発泡体基材の材質は特に制限されない。例えば、プラスチック材料の発泡体(プラスチック発泡体)により形成された発泡体層を含む発泡体基材が好ましい。プラスチック発泡体を形成するためのプラスチック材料(ゴム材料を包含する意味である。)は、特に制限されず、公知のプラスチック材料のなかから適宜選択することができる。プラスチック材料は、1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0122】
プラスチック発泡体の具体例としては、ポリエチレン製発泡体、ポリプロピレン製発泡体等のポリオレフィン系樹脂製発泡体;ポリエチレンテレフタレート製発泡体、ポリエチレンナフタレート製発泡体、ポリブチレンテレフタレート製発泡体等のポリエステル系樹脂製発泡体;ポリ塩化ビニル製発泡体等のポリ塩化ビニル系樹脂製発泡体;酢酸ビニル系樹脂製発泡体;ポリフェニレンスルフィド樹脂製発泡体;脂肪族ポリアミド(ナイロン)樹脂製発泡体、全芳香族ポリアミド(アラミド)樹脂製発泡体等のアミド系樹脂製発泡体;ポリイミド系樹脂製発泡体;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製発泡体;ポリスチレン製発泡体等のスチレン系樹脂製発泡体;ポリウレタン樹脂製発泡体等のウレタン系樹脂製発泡体;等が挙げられる。また、プラスチック発泡体として、ポリクロロプレンゴム製発泡体等のゴム系樹脂製発泡体を用いてもよい。
【0123】
好ましい発泡体として、ポリオレフィン系樹脂製発泡体(以下「ポリオレフィン系発泡体」ともいう。)が例示される。ポリオレフィン系発泡体を構成するプラスチック材料(すなわちポリオレフィン系樹脂)としては、公知または慣用の各種ポリオレフィン系樹脂を特に限定なく用いることができる。例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。LLDPEの例としては、チーグラー・ナッタ触媒系直鎖状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒系直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられる。このようなポリオレフィン系樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0124】
ここに開示される技術における発泡体基材の好適例としては、耐衝撃性や防水性、防塵性等の観点から、ポリエチレン系樹脂の発泡体から実質的に構成されるポリエチレン系発泡体基材、ポリプロピレン系樹脂の発泡体から実質的に構成されるポリプロピレン系発泡体基材等のポリオレフィン系発泡体基材が挙げられる。ここでポリエチレン系樹脂とは、エチレンを主モノマー(すなわち、モノマーのなかの主成分)とする樹脂を指し、HDPE、LDPE、LLDPE等の他、エチレンの共重合割合が50重量%を超えるエチレン-プロピレン共重合体やエチレン-酢酸ビニル共重合体等を包含し得る。同様に、ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレンを主モノマーとする樹脂を指す。ここに開示される技術における発泡体基材としては、ポリエチレン系発泡体基材を好ましく採用し得る。
【0125】
上記プラスチック発泡体(典型的にはポリオレフィン系発泡体)の製造方法は特に限定されず、公知の各種方法を適宜採用し得る。例えば、上記プラスチック材料、もしくは上記プラスチック発泡体の成形工程、架橋工程および発泡工程を含む方法により製造し得る。また、必要に応じて延伸工程を含み得る。
上記プラスチック発泡体を架橋させる方法としては、例えば、有機過酸化物などを用いる化学架橋法、または電離性放射線を照射する電離性放射線架橋法などが挙げられ、これらの方法は併用され得る。上記電離性放射線としては、電子線、α線、β線、γ線などが例示される。電離性放射線の線量は特に限定されず、発泡体基材の目標物性(例えば架橋度)等を考慮して適切な照射線量に設定することができる。
【0126】
上記発泡体基材には、必要に応じて、充填剤(無機充填剤、有機充填剤等)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、界面活性剤等の各種添加剤が配合されていてもよい。
【0127】
ここに開示される技術における発泡体基材は、該発泡体基材を備える粘着シートにおいて所望の意匠性や光学特性(例えば、遮光性、光反射性等)を発現させるために、着色されていてもよい。この着色には、公知の有機または無機の着色剤を、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0128】
例えば、ここに開示される粘着シートを遮光用途に用いる場合、発泡体基材の可視光透過率は、特に限定されないが、後述の粘着シートの可視光透過率と同様に、0%~15%であることが好ましく、より好ましくは0%~10%である。また、ここに開示される粘着シートを光反射用途に用いる場合、発泡体基材の可視光反射率は、粘着シートの可視光反射率と同様に、20%~100%が好ましく、より好ましくは25%~100%である。
【0129】
発泡体基材の可視光透過率は、分光光度計(例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の分光光度計、型式「U-4100」)を用いて、波長550nmにおいて、発泡体基材の一方の面側から照射して他方の面側に透過した光の強度を測定することにより求めることができる。発泡体基材の可視光反射率は、上記分光光度計を用いて、波長550nmにおいて、発泡体基材の一方の面に照射して反射した光の強度を測定することにより求めることができる。なお、粘着シートの可視光透過率や可視光反射率も、同様の方法により求めることができる。
【0130】
ここに開示される粘着シートを遮光用途に用いる場合、上記発泡体基材は黒色に着色されていることが好ましい。黒色としては、L*a*b*表色系で規定されるL*(明度)で、35以下(例えば、0~35)が好ましく、より好ましくは30以下(例えば、0~30)である。なお、L*a*b*表色系で規定されるa*やb*は、それぞれ、L*の値に応じて適宜選択することができる。a*やb*としては、特に限定されないが、両方とも-10~10(より好ましくは-5~5、さらに好ましくは-2.5~2.5)の範囲であることが好ましい。例えば、a*およびb*がいずれも0または略0であることが好ましい。
【0131】
なお、本明細書において、L*a*b*表色系で規定されるL*、a*、b*は、色彩色差計(例えば、ミノルタ社製の色彩色差計、商品名「CR-200」)を用いて測定することにより求められる。なお、L*a*b*表色系は、国際照明委員会(CIE)が1976年に推奨した色空間であり、CIE1976(L*a*b*)表色系と称される色空間のことを意味している。また、L*a*b*表色系は、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。
【0132】
発泡体基材を黒色に着色する際に用いられる黒色着色剤としては、例えば、カーボンブラック(ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等)、グラファイト、酸化銅、二酸化マンガン、アニリンブラック、ペリレンブラック、チタンブラック、シアニンブラック、活性炭、フェライト(非磁性フェライト、磁性フェライト等)、マグネタイト、酸化クロム、酸化鉄、二硫化モリブデン、クロム錯体、複合酸化物系黒色色素、アントラキノン系有機黒色色素等を用いることができる。コストや入手性の観点から好ましい黒色着色剤として、カーボンブラックが例示される。黒色着色剤の使用量は特に限定されず、所望の光学特性を付与できるように適宜調整した量とすることができる。
【0133】
ここに開示される粘着シートを光反射用途に用いる場合、上記発泡体基材は白色に着色されていることが好ましい。白色としては、L*a*b*表色系で規定されるL*(明度)で、87以上(例えば、87~100)が好ましく、より好ましくは90以上(例えば、90~100)である。L*a*b*表色系で規定されるa*やb*は、それぞれ、L*の値に応じて適宜選択することができる。a*やb*としては、例えば、両方とも-10~10(より好ましくは-5~5、さらに好ましくは-2.5~2.5)の範囲であることが好ましい。例えば、a*およびb*がいずれも0または略0であることが好ましい。
【0134】
発泡体基材を白色に着色する際に用いられる白色着色剤としては、例えば、酸化チタン(ルチル型二酸化チタン、アナターゼ型二酸化チタン等の二酸化チタン)、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化バリウム、酸化セシウム、酸化イットリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム等)、炭酸バリウム、炭酸亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、亜鉛華、硫化亜鉛、タルク、シリカ、アルミナ、クレー、カオリン、燐酸チタン、マイカ、石膏、ホワイトカーボン、珪藻土、ベントナイト、リトポン、ゼオライト、セリサイト、加水ハロイサイト等の無機系白色着色剤や、アクリル系樹脂粒子、ポリスチレン系樹脂粒子、ポリウレタン系樹脂粒子、アミド系樹脂粒子、ポリカーボネート系樹脂粒子、シリコーン系樹脂粒子、尿素-ホルマリン系樹脂粒子、メラミン系樹脂粒子等の有機系白色着色剤等が挙げられる。白色着色剤の使用量は特に限定されず、所望の光学特性を付与できるように適宜調整した量とすることができる。
【0135】
発泡体基材の表面には、必要に応じて、適宜の表面処理が施されていてもよい。この表面処理は、例えば、隣接する材料(例えば粘着剤層)に対する密着性を高めるための化学的または物理的な処理であり得る。かかる表面処理の例としては、コロナ放電処理、クロム酸処理、オゾン曝露、火炎曝露、紫外線照射処理、プラズマ処理、下塗り剤(プライマー)の塗布等が挙げられる。
【0136】
発泡体基材の厚さは、特に限定されず、粘着シートの強度や柔軟性、使用目的等に応じて適宜設定することができる。接合部を薄型化する観点から、発泡体基材の厚さとしては、凡そ700μm以下が適当であり、凡そ400μm以下が好ましく、凡そ300μm以下がより好ましい。ここに開示される技術は、発泡体基材の厚さが凡そ200μm以下(例えば180μm以下、さらには160μm以下)である態様で好ましく実施され得る。また、発泡体基材の厚さとしては、凡そ50μm以上が適当であり、凡そ60μm以上が好ましく、凡そ70μm以上(例えば凡そ80μm以上)がより好ましい。ここに開示される技術は、発泡体基材の厚さが凡そ100μm以上(例えば100μm超、好ましくは120μm以上、例えば130μm以上)である態様で好ましく実施され得る。発泡体基材の厚さが大きくなると、耐衝撃性も改善し、例えば細幅の構成であっても所望の耐衝撃性が発揮される傾向にある。
【0137】
<剥離ライナー>
ここに開示される技術において、粘着剤層の形成、粘着シートの作製、使用前の粘着シートの保存、流通、形状加工等の際に、剥離ライナーを用いることができる。剥離ライナーとしては、特に限定されず、例えば、樹脂フィルムや紙等のライナー基材の表面に剥離処理層を有する剥離ライナーや、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン等)やポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)の低接着性材料からなる剥離ライナー等を用いることができる。上記剥離処理層は、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離処理剤により上記ライナー基材を表面処理して形成されたものであり得る。
【0138】
<粘着シートの総厚>
ここに開示される粘着シート(粘着剤層を含み、基材層をさらに含み得るが、剥離ライナーは含まない。)の総厚さは特に限定されない。粘着シートの総厚さは、例えば凡そ800μm以下とすることができ、携帯機器の薄型化の観点から、凡そ500μm以下が適当であり、凡そ350μm以下(例えば凡そ300μm以下)が好ましい。ここに開示される技術は、総厚さが凡そ250μm以下(より好ましくは凡そ200μm以下、さらに好ましくは凡そ150μm以下、例えば凡そ120μm以下)の粘着シート(典型的には両面粘着シート)の形態でも実施され得る。粘着シートの厚さの下限は特に限定されないが、凡そ60μm以上が適当であり、耐衝撃性等の観点から、好ましくは凡そ100μm以上であり、凡そ150μm以上であってもよく、凡そ180μm以上でもよく、凡そ200μm以上(例えば凡そ220μm以上)でもよい。
【0139】
<粘着シートの特性>
ここに開示される粘着シートは、後述の実施例に記載の方法で測定される耐衝撃性が凡そ0.2J以上であり得る。より高いエネルギー量を示す粘着シートは、より優れた耐衝撃性を発揮し得る。そのような観点から、上記耐衝撃性は凡そ0.3J以上が適当であり、好ましくは凡そ0.4J以上、より好ましくは凡そ0.5J以上、さらに好ましくは凡そ0.6J以上(例えば0.7J以上)である。上記耐衝撃性の上限は特に限定されず、他の特性との両立等の観点から、1.5J以下(例えば1.2J以下)程度であり得る。
【0140】
ここに開示される粘着シートは、特に限定されないが、10℃における180度剥離強度(低温接着力)が凡そ5N/20mm以上であり得る。このような粘着力を示す粘着シートは、高温領域のZ軸方向耐変形性に加えて、低温領域においても被着体に対して良好な接着性を発揮し得る。上記低温接着力は、好ましくは7N/20mm以上、より好ましくは凡そ9N/20mm以上、さらに好ましくは凡そ11N/20mm以上であり、凡そ13N/20mm以上(例えば凡そ14N/20mm以上)であってもよい。被着体に対する密着性は高ければ高いほど良いという観点から、低温接着力の上限は特に制限されないが、凡そ30N/20mm以下(例えば凡そ20N/20mm以下)であり得る。上記低温接着力は、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0141】
また、ここに開示される粘着シートは、典型的には、後述の実施例に記載の方法で実施されるZ軸方向耐変形性試験(65℃90%RH)において、「合格」と判定されるものであり得る。この特性を満足する粘着シートは、高温高湿条件下における持続的な耐変形性に優れる。
【0142】
また、ここに開示される粘着シートは、後述の実施例に記載の方法で実施される高温保持力評価試験において、「合格」と判定されるものであり得る。この特性を満足する粘着シートは、高温条件下における保持力に優れる。
【0143】
<用途>
ここに開示される粘着シートは、高温条件などの過酷な環境においても良好な耐変形性を発揮し、また耐衝撃性にも優れる。このような特徴を活かして、上記粘着シートは、各種の携帯機器(ポータブル機器)において部材の固定に好ましく利用され得る。例えば、携帯電子機器における部材(各種配線を包含する。)の固定用途に好適である。上記携帯電子機器の非限定的な例には、携帯電話、スマートフォン、タブレット型パソコン、ノート型パソコン、各種ウェアラブル機器(例えば、腕時計のように手首に装着するリストウェア型、クリップやストラップ等で体の一部に装着するモジュラー型、メガネ型(単眼型や両眼型。ヘッドマウント型も含む。)を包含するアイウェア型、シャツや靴下、帽子等に例えばアクセサリの形態で取り付ける衣服型、イヤホンのように耳に取り付けるイヤウェア型等)、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、音響機器(携帯音楽プレーヤー、ICレコーダー等)、計算機(電卓等)、携帯ゲーム機器、電子辞書、電子手帳、電子書籍、車載用情報機器、携帯ラジオ、携帯テレビ、携帯プリンター、携帯スキャナ、携帯モデム等が含まれる。携帯電子機器以外の携帯機器の非限定的な例には、機械式の腕時計や懐中時計、懐中電灯、手鏡、定期入れ等が含まれる。なお、この明細書において「携帯」とは、単に携帯することが可能であるだけでは充分ではなく、個人(標準的な成人)が相対的に容易に持ち運び可能なレベルの携帯性を有することを意味するものとする。
【0144】
ここに開示される粘着シート(典型的には両面粘着シート)は、種々の外形に加工された接合材の形態で、上述したような携帯電子機器を構成する部材の固定に利用され得る。例えば、液晶表示装置や、あるいは有機ELディスプレイを有する携帯電子機器に好ましく使用され得る。ここに開示される粘着シートは耐衝撃性に優れるので、より高い耐衝撃性が求められがちな有機ELディスプレイを備える携帯電子機器における部材の固定に好ましく利用され得る。また例えば、タッチパネル式ディスプレイ等の表示部(液晶表示装置の表示部や、あるいは有機ELディスプレイであり得る。)を有する電子機器(例えば、スマートフォン等の携帯電子機器)であって、その大画面化等のために、回路板等の弾性部材を内部空間に折り曲げて収容する機器において、当該弾性被着体を固定する用途に、ここに開示される粘着シートは好ましく用いられる。ここに開示される粘着シートを用いることにより、上記弾性被着体を折り曲げた状態で固定することができ、かつ、高温条件などの過酷な環境であっても上記固定状態を持続的に保持することができる。これによって、携帯電子機器内の限られた内部空間に折り曲げられた状態で収容された上記弾性部材は、ここに開示される粘着シートによって精度よく位置決めされ、安定した固定状態に保持され得る。また、上記のような携帯電子機器内部に配置される材料としては、PETやPC(ポリカーボネート)、PI(ポリイミド)のような極性を有し、かつ剛性の材料が挙げられる。この種の材料(極性かつ剛性樹脂材料)に対して、ここに開示される粘着シートは、良好に接着し得る。特に好ましい一態様では、被着体がPET製の材料に対して、ここに開示される粘着シートは、優れた効果を発揮し得る。
【0145】
上記接合材の好ましい形態として、幅20mm以下(例えば15mm以下、さらには10mm未満)の幅を有する形態が挙げられる。ここに開示される粘着シートは、幅が制限された領域での接合材として用いられても、部材を良好に固定することができる。粘着シートの幅の下限は特に制限されないが、粘着シートの取扱い性の観点から、1mm以上(例えば3mm以上)が適当である。
【0146】
この明細書により開示される事項には以下のものが含まれる。
(1) 携帯電子機器であって、
表示部が入力部としても機能するタッチパネルを備え、
前記携帯電子機器を構成する部材(複数形)は、粘着シートを介して接合されており、
前記粘着シートは、発泡体基材と、該発泡体基材の少なくとも一方の面に設けられた粘着剤層と、を備えており、
前記粘着剤層は、ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーを含み、
前記粘着剤層は、65℃における貯蔵弾性率G´(65℃)が30000Paよりも大きい、携帯電子機器。
(2) 前記携帯電子機器の内部空間において、回路板が折り曲げられて収容されており、前記粘着シートは前記回路板を折り曲げた状態で固定している、上記(1)に記載の携帯電子機器。
(3) 有機ELディスプレイを有する、上記(1)または(2)に記載の携帯電子機器。
(4) 携帯電話である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の携帯電子機器。
(5) スマートフォンである、上記(1)~(3)のいずれかに記載の携帯電子機器。
(6) タブレット型パソコンである、上記(1)~(3)のいずれかに記載の携帯電子機器。
(7) ウェアラブル機器である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の携帯電子機器。
(8) 携帯ゲーム機器である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の携帯電子機器。
(9) 電子辞書である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の携帯電子機器。
(10) 電子書籍である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の携帯電子機器。
【0147】
(11) 発泡体基材と、該発泡体基材の少なくとも一方の面に設けられた粘着剤層と、を備える粘着シートであって、
前記粘着剤層は、ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーを含み、
前記粘着剤層は、65℃における貯蔵弾性率G´(65℃)が30000Paよりも大きい、粘着シート。
(12) 前記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分は、エステル末端に炭素原子数1~6のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを50重量%よりも多く含む、上記(11)に記載の粘着シート。
(13) 前記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分は、カルボキシ基含有モノマーを含む、上記(11)または(12)に記載の粘着シート。
(14) 前記モノマー成分における前記カルボキシ基含有モノマーの量は1~10重量%である、上記(13)に記載の粘着シート。
(15) 前記粘着剤層を形成するための粘着剤組成物はイソシアネート系架橋剤を含む、上記(11)~(14)のいずれかに記載の粘着シート。
(16) 前記粘着剤層は、上記ベースポリマーに加えて、粘着付与成分として、粘着付与樹脂および(メタ)アクリル系オリゴマーから選択される少なくとも1種を含む、上記(11)~(15)のいずれかに記載の粘着シート。
(17) 前記粘着剤層は、水酸基価が70mgKOH/g以上の粘着付与樹脂を含む、上記(11)~(16)のいずれかに記載の粘着シート。
(18) 前記粘着付与樹脂はフェノール系粘着付与樹脂を含む、上記(11)~(17)のいずれかに記載の粘着シート。
(19) 前記粘着剤層における前記粘着付与樹脂の含有量は、前記ベースポリマー100重量部に対して10重量部以上60重量部以下である、上記(11)~(18)のいずれかに記載の粘着シート。
(20) 前記粘着剤層は、tanδのピーク温度から求められるガラス転移温度が-25℃以上25℃以下の範囲にある、上記(11)~(19)のいずれかに記載の粘着シート。
(21) 総厚さが100μm以上である、上記(11)~(20)のいずれかに記載の粘着シート。
(22) 前記発泡体基材はポリオレフィン系発泡体基材である、上記(11)~(21)のいずれかに記載の粘着シート。
【0148】
(23) 前記発泡体基材の密度は0.1~0.9g/cmである、上記(11)~(22)のいずれかに記載の粘着シート。
(24) 前記発泡体基材の平均気泡径は10~200μmである、上記(11)~(23)のいずれかに記載の粘着シート。
【0149】
(25) 携帯電子機器の部品を接合するために用いられる、上記(11)~(24)のいずれかに記載の粘着シート。
(26) 携帯電子機器において、回路板を固定するために用いられる、上記(11)~(25)のいずれかに記載の粘着シート。
(27) 携帯電子機器内において、折り曲げた状態で収容された回路板を固定するために用いられる、上記(11)~(26)のいずれかに記載の粘着シート。
(28) 有機ELディスプレイを有する携帯電子機器の部品を接合するために用いられる、上記(11)~(27)のいずれかに記載の粘着シート。
(29) 上記(11)~(28)のいずれかに記載の粘着シートと、該粘着シートによって接合された部品と、を備える携帯機器。
(30) 前記携帯電子機器の内部空間において、回路板が折り曲げられて収容されており、前記粘着シートは前記回路板を折り曲げた状態で固定している、上記(29)に記載の携帯電子機器。
【実施例
【0150】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0151】
≪評価方法≫
[動的粘弾性測定]
片面がシリコーン系剥離処理剤で剥離処理された厚さ38μmのPETフィルムの剥離面に粘着剤組成物を塗布し、100℃で2分間乾燥させることにより、上記剥離面上に厚さ50μmの粘着剤層を形成する。この厚さ50μmの粘着剤層を重ね合わせることにより、厚さ約2mmの積層粘着剤サンプルを作製する。上記積層粘着剤サンプルを直径7.9mmの円盤状に打ち抜いた試料をパラレルプレートで挟み込んで固定し、粘弾性試験機(ティー・エー・インスツルメント社製、機種名「ARES」)により以下の条件で動的粘弾性測定を行い、65℃貯蔵弾性率[Pa]および65℃損失弾性率[Pa]を求める。この測定方法により、粘着剤層のTg(tanδのピーク温度)、tanδ(G”/G’)ピークにおけるピーク強度、25℃貯蔵弾性率(G’(25℃))および25℃損失弾性率(G”(25℃))も求めることができる。
(測定条件)
・測定モード:せん断モード
・温度範囲 :-70℃~150℃
・昇温速度 :5℃/min
・測定周波数:1Hz
【0152】
[ゲル分率]
約0.1gの粘着剤サンプル(重量Wg1)を平均孔径0.2μmの多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(重量Wg2)で巾着状に包み、口をタコ糸(重量Wg3)で縛る。上記多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜としては、日東電工社から入手可能な商品名「ニトフロン(登録商標)NTF1122」(平均孔径0.2μm、気孔率75%、厚さ85μm)またはその相当品を使用する。
この包みを酢酸エチル50mLに浸し、室温(典型的には23℃)で7日間保持して粘着剤層中のゾル成分のみを上記膜外に溶出させた後、上記包みを取り出して外表面に付着している酢酸エチルを拭き取り、該包みを130℃で2時間乾燥させ、該包みの重量(Wg4)を測定する。粘着剤層のゲル分率Fは、各値を以下の式に代入することにより求められる。後述の実施例においても同様の方法が採用される。
ゲル分率F(%)=[(Wg4-Wg2-Wg3)/Wg1]×100
【0153】
[Z軸方向耐変形性試験(65℃90%RH)]
図2の(a)に示すように、長さ30mm、幅10mm、厚さ2mmのPC板50の一方の表面全体を覆うように厚さ125μmのPETフィルム52を積層固定する。また、長さ70mm、幅10mm、厚さ125μmのPETフィルム60を用意し、PC板50とPETフィルム60の長手方向の一端を揃えるようにして重ね合わせ、PETフィルム60の残りの部分がPC板50の他端から突出した状態でPC板50とPETフィルム60とを固定する。上記固定には市販の両面粘着テープ(日東電工社製、「No.5000NS」)を使用する。
2枚の剥離ライナーで両粘着面が保護された粘着シートを幅3mm、長さ10mmのサイズにカットして粘着シート試料片70を用意する。PC板50に積層されたPETフィルム52の表面を上側に設置し、上記粘着シート試料片70から一方の剥離ライナーを剥がして、PC板50の幅方向と粘着シート試料片70の長手方向とを一致させて、PC板50に積層固定されたPETフィルム52の上面において他端から7mmおよび10mmの線上に粘着シート試料片70の幅方向両端が来るようにして粘着シート試料片70をPETフィルム52上面に貼り付け固定する。上記固定は、粘着シート試料片70のもう一方の剥離ライナーで保護された上面を2kgローラを一往復させることによって行う。
次いで、23℃、50%RHの環境下にて、PETフィルム52に貼り付けた粘着シート試料片70のもう一方の剥離ライナーを剥がして、図2の(b)に示すように、PC板50に固定されたPETフィルム60のPC板50からの突出部分(長さ40mm)をPC板50側に折り返して、粘着シート試料片70とPETフィルム60の他端(自由端)とを一致させて、プレス機を用いて0.5MPa、0.5秒間の条件で圧着することにより、折り曲げられたPETフィルム60の他端を粘着シート試料片70を介してPC板50上のPETフィルム52上面に固定する。圧着後、65℃90%RHの環境下に72時間放置し、PETフィルム60が粘着シート試料片70から剥離するかどうかをZ軸方向耐変形性(65℃90%RH)として評価する。粘着シート試料片70とPETフィルム60との接着状態が保持された場合を「合格」、図2の(c)に示すようにPETフィルム60が剥がれた場合を「不合格」と判定する。
この評価方法によると、従来の耐反撥性評価と異なり、実質的に粘着シートの厚さ方向(Z軸方向)のみからなる引き剥がし荷重に対する高温高湿条件下での耐変形性を評価することが可能であり、さらに経時的な観察を行うことにより持続的な耐変形性を評価することができる。
【0154】
[耐衝撃性]
剥離ライナーで粘着面が保護された粘着シート(両面粘着シート)を2mmの幅で外径24.5mm角の枠状に打ち抜き、窓枠状粘着シートを得る。また、厚さ2mm、外形50mm×50mmの正方形の中央部に孔の開いたステンレスプレートと、正方形のPET板(外形25mm角、厚さ2mm)とを用意し、両者の間に、剥離ライナーを除去した窓枠状粘着シートを配置し、62N、10秒の条件で均一に圧力がかかるように圧着することにより、ステンレスプレートとPET板とを窓枠状粘着シートで固定する。これを50℃の環境に2時間静置し、取り出した後、23℃に戻す。これを評価用サンプルとする。デュポン式衝撃試験機(東洋精機製作所社製)の台座の上に、長さ50mm、外径49mm、内径43mmの円筒状の測定台を設置する。その上に、評価用サンプルを、正方形のPET板を下側にして載せる。評価用サンプルは、上側のステンレスプレートが測定台に支持されており、下側のPET板は、上記窓枠状粘着シートによって上記ステンレスプレートに接着された状態で上記測定台内の中空部分に入るように配置されている。先端半径3.1mmのステンレス製の撃芯(撃ち型)を評価用サンプル下側のPET板上に載せ、23℃50%RHにて、以下の条件(おもり重量および落下高さ)で、おもりを撃芯に落下させる。おもり重量およびおもり落下高さは、最もエネルギー量が小さい条件からスタートし、エネルギー量が増加するように条件を変えていく。おもり落下高さは50mm間隔で増加させる。おもりの変更に際して、測定済みのエネルギー量(おもり重量とおもり落下高さから求められるエネルギー量)については測定は行わず、エネルギー量が重複しない条件(おもり重量×おもり落下高さ)を設定し、おもり落下試験を実施するものとする。
(おもり重量) (おもり落下高さ)
100g 50mm~500mm
150g 350mm~500mm
200g 400mm~500mm
300g 350mm~500mm
ステンレスプレートとPET板との剥がれが生じる一つ前の条件のエネルギー量(J)をおもり重量(荷重)および落下高さから算出し、これを耐衝撃性の測定値として記録する。上記測定値が0.2J以上であれば、耐衝撃性に優れるといえる。
【0155】
[高温保持力評価試験]
両面粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、厚さ50μmのPETフィルムに貼り付けて裏打ちする。この裏打ちされた粘着シートを幅10mm、長さ100mmのサイズにカットして測定サンプルを作製する。上記測定サンプルの他方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、該他方の粘着面を被着体としてのベークライト板に2kgのローラを1往復させて圧着する。その後、ベークライト板への接着長さが20mm(したがって接着面積200mm2:10mm幅×20mm長さ)となるよう測定サンプルをカットする。このようにして被着体に貼り付けられた測定サンプルを80℃の環境下に垂下して30分間放置した後、該測定サンプルの自由端に1kgの荷重を付与し、該荷重が付与された状態で80℃の環境下に1時間放置する。1時間後、測定サンプルが被着体に保持されていた場合を「合格」とし、1時間以内に測定サンプルが被着体から剥がれて落下した場合を「不合格」と判定する。
なお、片面粘着シートの場合、上記PETフィルムの裏打ちは不要である。
【0156】
[低温接着力]
23℃、50%RHの測定環境下において、両面粘着シートの一方の粘着面に厚さ50μmのPETフィルムを貼り付けて裏打ちし、幅20mm、長さ100mmのサイズにカットして測定サンプルを作製する。23℃、50%RHの環境下にて、上記測定サンプルの他方の粘着面をステンレス鋼板(SUS304BA板)の表面に、2kgのローラを1往復させて圧着する。これを同環境下に30分間放置した後、10℃の条件にて、万能引張圧縮試験機を使用して、引張速度1000mm/分、剥離角度180度の条件で、剥離強度[N/20mm]を測定する。これを低温接着力として記録する。万能引張圧縮試験機としては、ミネベア社製の「引張圧縮試験機、TG-1kN」またはその相当品が用いられる。なお、片面粘着シートの場合、上記PETフィルムの裏打ちは不要である。
【0157】
<例1>
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えた反応容器に、モノマー成分としてのBA95部およびAA5部と、重合溶媒としての酢酸エチル233部とを仕込み、窒素ガスを導入しながら2時間撹拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として0.2部のAIBNを加え、60℃で8時間溶液重合してアクリル系ポリマーA1の溶液を得た。このアクリル系ポリマーA1のMwは約60×10~70×10であり、Mw/Mnは約4~5であった。
上記アクリル系ポリマーA1の溶液に、アクリル系ポリマー100部に対して、粘着付与樹脂B1(製品名「YSポリスター S145」、ヤスハラケミカル社製、テルペンフェノール樹脂、軟化点145℃、水酸基価70~110mgKOH/g)を30部、イソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物の75%酢酸エチル溶液、東ソー社製)を2部(固形分換算)、エポキシ系架橋剤(商品名「TETRAD-C」、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロへキサン、三菱瓦斯化学社製)を0.01部(固形分換算)配合し、撹拌混合して、本例に係る粘着剤組成物を調製した。
市販の剥離ライナー(商品名「SLB-80W3D」、住化加工紙社製)を2枚用意し、それらの剥離ライナーのそれぞれ一方の面(剥離面)に粘着剤組成物を、乾燥後の厚さが40μmとなるように塗布し、100℃で2分間乾燥させることにより、上記2枚の剥離ライナーの剥離面上にそれぞれ粘着剤層を形成した。これらの粘着剤層を、両面にコロナ放電処理が施されたポリエチレン系発泡体シート(厚さ200μm、密度0.43g/cm、10%圧縮強度(C10)330kPa、25%圧縮強度(C25)942kPa、30%圧縮強度(C30)1235kPa、平均気泡径55μm)の両面にそれぞれ貼り合わせた。上記剥離ライナーは、そのまま粘着剤層上に残し、該粘着剤層の表面(粘着面)の保護に使用した。得られた構造体を80℃のラミネータ(0.3MPa、速度0.5m/分)に1回通過させた後、50℃のオーブン中で1日間養生した。このようにして本例に係る粘着シート(発泡体基材付き両面粘着シート)を得た。
【0158】
<例2~5>
粘着剤層の厚さおよび発泡体基材の厚さを変更した他は上記例1と同様にして、各例に係る発泡体基材付き両面粘着シートを得た。
【0159】
<例6>
モノマー組成をBA100部、VAc3部、AA5部およびHEA0.1部に変更し、重合溶媒としてトルエンを使用した他は例1と基本的に同様にして、Mw50×10~60×10のアクリル系ポリマーA2の溶液を得た。
上記アクリル系ポリマーA2の溶液中に、アクリル系ポリマー100部に対し、粘着付与樹脂35部と、イソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」、東ソー社製)2部(固形分換算)とを配合し、撹拌混合して、本例に係るアクリル系粘着剤組成物を調製した。
粘着付与樹脂としては、粘着付与樹脂B2(製品名「スミライトレジン PR-12603N」、住友ベークライト社製、テルペン変性フェノール系樹脂、軟化点130~140℃、水酸基価1~20mgKOH/g)を15部、粘着付与樹脂B3(製品名「ハリタック SE10」、ハリマ化成社製、水添ロジングリセリンエステル、軟化点75~85℃、水酸基価25~40mgKOH/g)を10部、粘着付与樹脂B4(製品名「ハリタック PCJ」、ハリマ化成社製、重合ロジンエステル、軟化点118~128℃)を10部使用した。
上記アクリル系粘着剤組成物を使用した他は上記例2と同様にして、厚さ25μmの粘着剤層を発泡体基材(厚さ150μm)の両面に有する粘着シート(発泡体基材付き両面粘着シート)を得た。
【0160】
<例7>
モノマー組成をBA70部、2EHA30部、AA3部および4-HBA0.05部に変更した他は例6と基本的に同様にして、Mw44×10のアクリル系ポリマーA3の溶液を得た。
上記アクリル系ポリマーA3の溶液中に、アクリル系ポリマー100部に対し、粘着付与樹脂B5(製品名「ペンセル D-125」、荒川化学工業社製、ロジンエステル系樹脂、軟化点120~130℃)30部と、イソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」、東ソー社製)3部(固形分換算)とを配合し、撹拌混合して、本例に係るアクリル系粘着剤組成物を調製した。
上記アクリル系粘着剤組成物を使用した他は例2と同様にして、厚さ25μmの粘着剤層を発泡体基材(厚さ150μm)の両面に有する粘着シート(発泡体基材付き両面粘着シート)を得た。
【0161】
<例8>
例1で用意した粘着剤組成物を用い、発泡体基材に代えて厚さ50μmのPETフィルムを基材として用い、PETフィルム基材の両面に厚さ50μmの粘着剤層を形成し、本例に係るPETフィルム基材付き両面粘着シートを得た。
【0162】
各例の粘着シートにつき、65℃貯蔵弾性率[Pa]、65℃損失弾性率[Pa]、ゲル分率[%]、Z軸方向耐変形性評価試験(65℃90%RH)、耐衝撃性[J]、高温保持力評価試験および低温接着力[N/20mm]を測定した。得られた結果を、粘着剤組成やシート構成の概略とともに表1に示す。
【0163】
【表1】
【0164】
表1に示されるように、65℃貯蔵弾性率が30000よりも大きい粘着剤層と発泡体基材とを備える例1~5に係る粘着シートは、高温高湿条件のZ軸方向耐変形性評価結果が合格であり、耐衝撃性にも優れていた。また、例1~5の粘着シートは、80℃高温保持力試験結果も合格であり、10℃低温接着力にも優れていた。これに対し、65℃貯蔵弾性率が30000以下であった例6,7では、上記Z軸方向耐変形性評価結果が不合格であった。また、発泡体基材ではなくPETフィルム基材を用いた例8では、耐衝撃性試験の結果が例1~5と比べて劣っていた。上記の結果から、65℃貯蔵弾性率が30000よりも大きい粘着剤層と発泡体基材とを備える粘着シートは、過酷な環境で使用された場合であっても良好な耐変形性を発揮し、かつ耐衝撃性にも優れることがわかる。
【0165】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を
限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々
に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0166】
1 粘着シート
10 発泡体基材
10A 第1面
10B 第2面
21 第1粘着剤層
22 第2粘着剤層
21A 第1粘着面
22A 第2粘着面
31,32 剥離ライナー
図1
図2