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特許7534226フォトスイッチング及び定在波照明技術を用いた顕微鏡における改善された軸分解能のためのシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】フォトスイッチング及び定在波照明技術を用いた顕微鏡における改善された軸分解能のためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20240806BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20240806BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G02B21/06
G02B21/36
G01N21/64 E
G01N21/64 F
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020573194
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 US2019039551
(87)【国際公開番号】W WO2020009902
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】62/693,750
(32)【優先日】2018-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/789,210
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508285606
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ, アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー, デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ
【氏名又は名称原語表記】The United States of America,as represented by the Secretary,Department of Health and Human Services
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】シュロフ ハリ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンニーニ ジョン ポール
(72)【発明者】
【氏名】ウー イーコン
(72)【発明者】
【氏名】ラ リヴィエール パトリック ジーン
(72)【発明者】
【氏名】グオ ミン
(72)【発明者】
【氏名】チェン ジージー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィシュヴァースラオ ハルシャド
(72)【発明者】
【氏名】リー シュエソン
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-203272(JP,A)
【文献】国際公開第2013/125723(WO,A1)
【文献】特開2017-078855(JP,A)
【文献】特表平08-509817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
G01N 21/62-21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)可逆的に切り替え可能なマーカーで試料を標識し、
b)第1波長の、中間周期性の定在波で前記試料を活性化し、
c)前記第1波長よりも長い第2波長の、前記中間周期性の定在波で前記試料を照明し、
)前記試料を撮像し、
)前記中間周期性の定在波の他の2つのそれぞれの位相でステップb)~d)を繰り返し、
f)前記第1波長の、最大周期性の定在波で前記試料を活性化し、
g)前記第2波長の、前記最大周期性定在波で前記試料を照明し、前記最大周期性の値前記中間周期性の値より大きく、
)前記試料を撮像し、
)前記最大周期性定在波の付加的な位相でステップf)~h)を繰り返し、
)前記試料の3次元画像を取得するために、該試料に対して異なる焦点面で2回以上ステップb)~)を繰り返す、
ことを含む、方法。
【請求項2】
前記可逆的に切り換え可能なマーカーが、可逆的に切り換え可能な蛍光マーカーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記可逆的に切り換え可能なマーカーがrsEGP2マーカーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料はインスタント構造化照明顕微鏡を用いて画像化される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップb)~)を繰り返すステップは、ステップb)~)を5回繰り返して、焦点面あたり5つの画像を得ることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
Richardson-Lucy又は他のデコンボリューションプロセスを使用して、各画像を合成及びデコンボリューションして、合成画像を生成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記試料を照明することは、前記試料面に対して定在波パターンの角度を変化させ、各定在波の位相の周期性を変えることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
コリメート光ビーム(102)を生成するための照明源と、
送信された前記コリメート光ビーム(102)を受光する対物レンズ(104)と、
送信された前記コリメート光ビーム(102A)を反射して、反射コリメート光ビーム(102B)を生成し、その結果、試料を照明する定在波パターン(116)を生成する、前記対物レンズ(104)と動作可能に関連するミラー(106)と、
前記試料に対してミラー(106)を平行移動させる、該ミラーに結合された圧電素子(110)と、
を含み、
少なくとも1つの可逆的に切り替え可能な蛍光分子を、前記試料内に蛍光励起を生成するために前記試料と結合させ、
圧電素子(110)により前記ミラー(106)を平行移動させることで、第1波長の定在波で前記試料を活性化し、前記第1波長よりも長い第2波長の定在波で試料を照明して撮像する、
顕微鏡システム(100)。
【請求項9】
前記試料が配置される面を定める、カバースリップ(114)をさらに含む、
請求項8に記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項10】
送信された前記コリメート光ビーム(102A)と前記反射コリメート光ビーム(102B)との間の干渉が前記定在波パターン(116)を生成する、
請求項8に記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項11】
焦点面ごとに前記試料の5つの画像を取得する撮像システムをさらに備える、
請求項8に記載の顕微鏡システム(100)。
【請求項12】
前記試料中に蛍光励起を生成する、前記試料に関連して少なくとも1つの可逆的に切り換え可能な蛍光分子をさらに備える、
請求項8に記載の顕微鏡システム(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、顕微鏡における軸分解能の改善に関するものであり、特に、フォトスイッチング及び定在波照明技術を用いた即時構造化照明顕微鏡(instant structured illumination microscopy)における軸分解能の改善のためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の広視野蛍光顕微鏡におけるアクセス可能な軸空間周波数(すなわち分解能)を上げる既知の方法の1つは、定在波照明を使用することである。この方法では、反対方向に伝搬する2つのコヒーレントビームを結像焦点面で重ね合わせる。ビーム間の干渉は、λ/(2ncosΘ)で与えられる周期性を有する鋭い周期的な照明フリンジをもたらす。ここで、λは照明波長、nは媒体のインデックス、Θはビームの「交差角」、すなわち図1Aに示す垂直に対する角度である。図示のように、2つのビームは、垂直軸(垂直光軸を表す破線)に対して共通の角度Θで交差する。
【0003】
図1Bを参照すると、例示的な顕微鏡セットアップ10は、対物レンズ12と、結果として生じる干渉パターンが鋭い暗/明強度のフリンジを示す反対方向に伝搬するビームを形成するミラー14との配置で示されている。例えば、θ=0、n=1.33、及びλ=405nmの場合、フリンジ間の周期性は152nmであり、暗/明フリンジ間の間隔は約76nmしかない。これは、原理的に、この長さスケールの構造が観察され得ることを意味する。このような干渉パターン16は、対向する対物レンズを通して相互にコヒーレントな光ビームを導入する(又は、対物レンズを通して単一のコリメートビームを導入し、それをミラーで折り返すことによって、フリンジパターンが照明のコヒーレンス長内に形成される)ことによって設定することができる。これらの(又は概念的に類似している)照明パターンは、定在波顕微鏡、4Pi顕微鏡、及び超解像I5S顕微鏡の基礎を形成する。
【0004】
薄い試料(厚さ<λ)では、上述のように、定在波照明パターンを導入することにより、貴重なサブ回折情報を得ることができる。試料に対して定在波パターンを移動させる(すなわち定在波パターンの位相を変化させる)と、焦点面内で交互の試料領域が光る。これにより、点広がり関数の軸方向の広がりよりも細かい軸方向の特徴を識別することができる。しかし、実質的に厚い試料については、3つの問題が生じる。第1に、焦点外蛍光は、焦点内信号を弱めることができる。第2に、高周波干渉パターンの反復する軸方向の性質は、「どのフリンジがどのフリンジであるか」についての曖昧さ、すなわち、点広がり関数(PSF)内のフリンジが、再構成画像内にリンギングアーティファクトを生成することを意味する(この問題の別の説明は、照明の高周波が顕微鏡の通過帯域にエイリアシングされることである)。第3に、定在波の周波数fが顕微鏡の光伝達関数(OTF)の帯域制限(band limit)の外にあるので、再構成された画像に存在する中間周波数「ギャップ」がある。
【0005】
定在波照明を用いた場合の周波数ギャップを図2A、2Bに示す。図2Aを参照すると、インスタントSIM照明を使用する場合のXZ OTF(kz、縦方向、kx、横方向)の例が示されている。軸回折限界は白色楕円の境界によって与えられる。図2Bを参照すると、定在波照明を使用する場合、例えば、まず、空間周波数f及び異なる位相を有する定在波で分子を光活性し(エイリアシング問題を解決し)、インスタントSIMシステムを用いて光活性化分子を画像化し、そして、結果の画像をデコンボリューションすることによる、OTFが示されている。これで、OTFの追加のコピーが、+/-fを中心に、DCコンポーネント(赤い点)のオリジナルOTFに加えて存在する。軸空間分解能は向上するが、中間の空間周波数ではかなりのギャップが存在する。これらのギャップは、fが帯域制限の外側にあるため、基礎となる顕微鏡の検出OTFによって「カバー」されない。
【0006】
これらの後の2つの問題は、従来の4Pi顕微鏡では解決されていないが、複雑な3ビーム干渉パターン、励起光と発光光の両方の干渉、及び失われた軸空間周波数を「埋め(fill in)」、それらを周波数空間の適切な位置に再割り当てするために焦点面ごとの複数の画像を使用するI5Sシステムで対処されている。
【0007】
しかし、I5Sシステムでは、次のような問題が発生する。第1に、I5Sシステムは、これまでのところ、二対物干渉法(two-objective interferometry)及び複雑なビームセットアップを必要とする。これにより、
【数1】
よりもよい空間精度に合わせて、(各対物に1つの)2つの別個の経路に沿って光学系を維持する必要があるため、システムを調整及び構築が困難となる。第2に、I5Sシステムでは、軸分解能を向上させるために焦点面ごとに15枚の画像が必要である。これにより、イメージングプロセスが著しく遅くなり、固定セルへのイメージングが制限される。第3に、I5Sシステムでは、共焦点ピンホールが採用されていないため、密にラベル付けされた試料では、焦点外光からのポアソンノイズが焦点面におけるコントラストを制限する。最後に、I5Sシステムのビーム照明スキームは、同じ照明スキームが軸分解能の向上と横方向分解能の向上の両方を作り出すために使用されるので、高度に特殊化されている。分解能の向上が結合されているので、この方法は共焦点幾何学に容易に適応できない。
【0008】
とりわけ、これらの観察を念頭に置いて、本開示の様々な態様が考案され、開発された。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】垂直軸に対して共通の角度で交差する2つのビームを示す図である。
図1B】対物レンズ及びミラー配置を備えた顕微鏡セットアップの例と、結果として生じる干渉パターンを示す簡略図である。
【0010】
図2A】インスタントSIMを用いた場合のXZ光伝達関数の画像である。
図2B】定在波照明を用いた場合のXZ光伝達関数の画像である。
【0011】
図3】定在波顕微鏡システムを示す簡略図である。
【0012】
図4】中間空間周波数を「埋める(fill in)」ための複数のパターンの使用を示す図であり、複数のパターンのそれぞれは異なる周期性を有する。
【0013】
図5】顕微鏡システムの実施形態を示す簡略ブロック図である。
【0014】
図6A】増加した軸分解能を示す、図5の顕微鏡システムによって生成されたシミュレーション画像である。
図6B】増加した軸分解能を示す、図5の顕微鏡システムによって生成されたシミュレーション画像である。
図6C】増加した軸分解能を示す、図5の顕微鏡システムによって生成されたシミュレーション画像である。
図6D】増加した軸分解能を示す、図5の顕微鏡システムによって生成されたシミュレーション画像である。
図6E】増加した軸分解能を示す、図5の顕微鏡システムによって生成されたシミュレーション画像である。
【0015】
図7】異なる周期性の定在波で照明するための照明器/反射器光学系を有する顕微鏡システムの実施形態を示す簡略ブロック図である。
【0016】
図8A】均一照明の画像(右)に対する異なる位相のシャープな正弦波照明の画像(左) である。
図8B】対物後焦点面(objective back focal plane)を表す青色の円を示し、赤色の点は後焦点面における照明パターンを示す。
図8C】試料に導入されたよりシャープな照明パターンの画像である。
【0017】
図9】定在波を生成するための中間的で最も微細な周期性の軸方向照明構造を供給する定在波顕微鏡システムの実施形態を示す簡略図である。
【0018】
対応する参照符号は、図面のビュー内の対応する要素を示す。図中で用いられている見出しは、特許請求の範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
従来の広視野蛍光顕微鏡の軸分解能は~500-700nmの範囲に制限されることがよく知られている。軸分解能をさらに向上させることができるシステム及び方法は、蛍光顕微鏡において非常に興味のあるものであり、そのような改善は、生物学的試料をより詳細に観察することを可能にする。これらの欠点に対処するために、各焦点面でわずか4枚の追加画像を取得し、焦点面当たり(1つの画像ではなく)合計5枚の画像を得ることによって、~100nmまでの軸分解能を可能にするシステム及び方法に関連する様々な実施形態がここに開示される。画像の軸分解能を向上させるために必要な適度な数の追加画像を考慮すると、本システム及び方法の実施形態は、他の顕微鏡技術では現在不可能である、生細胞における持続的な体積画像化(volumetric imaging)(「4Dイメージング」)に適用することができる。さらに、本システム及び方法は柔軟であり、これらのタイプの顕微鏡システムの横方向分解能をさらに向上させることができる他の超解像顕微鏡と組み合わせることができる。いくつかの実施形態では、顕微鏡システムは、定在波で試料を活性化するために照射される試料に共役に配置された空間光変調器を含む。いくつかの実施形態では、定在波に対して、中間及び最も微細な周期性の軸方向照明構造を供給するための方法及び関連システムが開示される。いくつかの実施形態では、3重ビーム分割デバイスを使用して、試料で干渉する、単一の光ビームから3つの相互にコヒーレントな光ビームを生成し、より高い軸分解能を達成するために必要なより低い空間周波数軸方向フリンジを生成する。図面を参照すると、フォトスイッチング及び定在波照明技術を用いた顕微鏡システムの実施形態が図示され、一般的に、図3図9に100、200、300、及び400として示されている。
フォトスイッチング定在波照明
【0020】
本システムと方法は、フォトスイッチング技術を用いて、コンパクトな定在波反射器及び照明器配置を利用して、蛍光励起及び読み出し(readout)から定在波照明を分離(decoupling)することを目的としている。これらの要素を組み合わせることで、従来よりもはるかに高速で軸方向超解像が可能となる。本システム及び方法は、顕微鏡の大きなクラス(例えばスピニングディスク共焦点顕微鏡や広視野顕微鏡)に適用することができるが、iSIMをフォトスイッチング及び定在波照明技術と組み合わせることにより、~100nmの軸分解能及び生細胞イメージングと一致する高いフレームレートの共焦点3D超解像顕微鏡が可能となるため、本開示は、例として、インスタント構造化照明顕微鏡(iSIM)に適用される本発明の概念を説明する。
フォトスイッチング技術を用いて、定在波照明を蛍光励起及び読み出しから分離する
【0021】
rsEGP2のような可逆的にスイッチング可能な蛍光分子を使用し、定在波照明器/反射器配置(後述する)を使用することによって、軸分解能の向上を基礎となる顕微鏡に「加える」ことができるので、蛍光励起及び読み出しは、多種多様な共焦点(又はその他の)顕微鏡幾何学(その励起光学系、したがって照明は、ベース顕微鏡に対して実質的に変化しないままである)を用いて実施することができる。また、典型的な蛍光励起波長に加えて活性化波長を用いることにより、λactivation<λexcitationとなるため、軸分解能が若干向上する。
定在波照明器/反射器
【0022】
図3を参照すると、フォトスイッチング及び定在波照明技術を利用するための顕微鏡システムの第1実施形態は100で示され、コリメートビーム102を、対物レンズ104を透過させ、ミラー106を使用して、コリメートビーム102を反射して戻す。干渉パターン108は2つのコリメートビーム102-送信されたコリメートビーム102A及び反射されたコリメートビーム102Bの間で発生し、定在波となる。いくつかの実施形態では、定在波パターンの位相の微細な制御は、ミラー106に取り付けられた圧電素子110を平行移動させることによって達成される。
【0023】
さらに示すように、例えば、照明ビーム102A(暗青色線)は、対物レンズ104とカバースリップ114とを透過し、カバースリップ114に平行に配置されたミラー106は、コリメートビーム102Bを反射して戻す(より明るい線)。2つのビーム間の干渉はビーム重複領域の定在波パターン116(赤色線)を生成する。いくつかの実施態様において、ミラー106に取り付けられた圧電素子(piezoelectric device)110は、ミラー106平行移動させ、定在波パターン116の位相の微細な制御を提供する。
【0024】
上述のように、λactivationよりも実質的に小さい明/暗フリンジ間隔(例えば、上記の76nm間隔)を生成する単一の軸上定在波パターンは、空間周波数ギャップを犠牲にしてより高い分解能を可能にし、再構成された画像にアーチファクトをもたらす。しかし、中間周波数ギャップ内に存在するより粗い間隔を有する追加パターンが用いられる場合、図4に示すように、周波数ギャップは「埋め」られ得る。現在のシステム及び方法では、それぞれ異なる周期性を持つ複数のパターンを使用して、中間空間周波数を「埋め」ている。図4の左端の列は、従来のインスタントSIMシステム(示されない)において、光伝達関数(OTF、楕円)が軸分解能を~500nmに制限することを示す。図4の中央左の列は、周期性150nmの定在波を使用すると、軸空間周波数が増加するが、周期性(青い点)がインスタントSIMカットオフのかなり外側にあるため、中間空間周波数でギャップが生じることを示している。図4の右中央の列は、OTFコピーが周波数空間において重複するので、粗い定在波パターン(例えば、300nm)を使用すると、周波数ギャップなしで分解能が増大することを示している。ただし、最大分解能は、細かいパターンを使用する場合よりも低くなる。図4の右端の列は、より微細な及びより粗いパターンは空間周波数を失うことなく最良の軸分解能をもたらすことを示している。
【0025】
ここでの問題は、適切な周期性の追加パターンをどのように生成し、適用するかということである。本発明のシステム及び方法によれば、フリンジ間隔を変更する1つの簡単な方法は、θを変化させることである。例えば、405nmの照明(すなわち、λactivation)、n=1.33の場合、θ=0度は152nm(フリンジ間隔76nm)の周期性を意味し、θ=60度は304nm(フリンジ間隔152nm)の周期性を意味する。試料面でθを迅速に変化させるために、以下のような照明設定が考案された。
【0026】
図5に示すように、フォトスイッチング及び定在波照明技術を利用する顕微鏡システムの第2実施形態は200で示され、第1ガルバノミラースキャナ(G1)205で反射され、第1レンズ206を通過し、第2ガルバノミラースキャナ(G2)207で反射された後、第2レンズ208、第3レンズFTUBE212からなる望遠鏡を介して対物レンズ(FOBJ)216の後焦点面上に中継され、最終的に試料218に焦点を合わせる、レーザビーム204を生成するレーザのような照明源202を含む。そして、ミラー220は、図4のように、照明を反射して試料上に戻す。一構成では、第1ガルバノミラースキャナ(G1)205は、試料218に共役な位置に配置され、すなわち、一対のレンズ、第1レンズF1 206及び第2レンズF2 208(4f構成で)によって、第1から中間像面IIP210までが結像され、そして、一対のレンズ、FTUBE212及びFOBJ216(また4f構成で)によって試料218までが結像される。重要なことに、第1ガルバノミラー(G1)205を走査すると、定在波パターンが試料面218(θの変化)において傾斜し、これにより定在波の周期性が変化する。
【0027】
中間レンズF2 208及びFTUBE212は、第2ガルバノミラースキャナ(G2)207が対物レンズ(BFP)214の後焦点面に共役であることを保証し、コリメートされたビームをBFP214で傾斜させるか、又はそれを試料218で平行移動させ、定在波が試料218の中心に留まることを保証する。IIP210の近傍に配置されたダイクロイックミラー(不図示)は、例えば、異なる波長の励起照明及び空間的パターニングを提供し、試料からの蛍光を撮像システム(不図示)に向けるために、インスタントSIM経路に出し入れされる。
【0028】
いくつかの実施形態では、第1ガルバノスキャナ(G1)205及び第2ガルバノスキャナ(G2)207は、後焦点面214におけるコリメート光204の位置及び角度の独立した制御を提供し、試料面内の角度又は位置をそれぞれ変化させる。第1ガルバノミラースキャナ(G1)205の角度を適切に変化させることにより、λactivation/2nからλactivation/(2ncosθMAX)の範囲の周期性のパターンを、顕微鏡システム200によって試料面218で生成することができる。ここで、θMAXは対物レンズによって許容される最大半角である(例えば、64.5度(60×1.2NAの水レンズの場合))。第2ガルバノミラースキャナ(G2)207の角度を適切に変化させることによって、パターンを試料面218で平行移動させ、これらのパターンが試料220を確実に照らすようにすることができる。
【0029】
ミラー反射器を備えた顕微鏡システム200のこの「単一対物レンズ」セットアップのさらなる利点は、顕微鏡システム200のアラインメントが、古典的な2対物レンズセットアップ(例えば、I5S又は4Pi顕微鏡システムで使用される)よりもはるかに、安定し、機械的/熱的ドリフトに対して耐性がある可能性が高いことである。直接ビームと反射ビームの両方に共通の光路が使用されるため、試料からミラーまでの距離のみをλ内に安定して保つ必要がある。
【0030】
それにもかかわらず、セットアップは、いくつかの実施形態において、対物又は資料ステージに追加され得るオートフォーカス又は「フォーカスロック」モジュール(自作又は市販)から利益を得ることができる。
【0031】
最後に、フォトスイッチング技術と、上記概説した顕微鏡システム200の照明/反射器のセットアップとを組み合わせることができる取得及び処理スキームのいくつかの実施形態を、以下でより詳細に説明する。
i 試料は、rsEGP2などの可逆的に切り替え可能な蛍光マーカーで標識される。
ii そして、G1及びG2を適切に調節することによって、試料は中間周期性定在波で活性化される。
iii 試料は、ベース光学顕微鏡、例えば、インスタントSIMを用いて画像化される。
iv ステップii)及びiii)は、圧電アクチュエータ/ミラー配置を平行移動することによって達成される、定在波の他の2つの位相で繰り返される。
v 試料はまた、最大周期性定在波(つまり、θ=0度でのコリメートされた入射ビーム及び反射ビーム)で活性化される。
vi 次に、試料は、ベース光学顕微鏡、例えばインスタントSIM顕微鏡システムを用いて画像化される。
vii ステップv、viは、圧電アクチュエータ/ミラーを平行移動することによって達成される定在波の付加的な位相について繰り返される。
viii ステップii~viiは、例えば、3Dイメージングスタックを取得するために、試料中の異なる焦点面で必要に応じて繰り返される。
ix 画像を、Richardson-Lucyデコンボリューションを用いて、合成、デコンボリューションすることで、軸分解能が向上する。
【0032】
焦点面ごとに得られた5つの画像は、図6A図6Eに示されるようなシミュレーションで検証したように、基礎となる顕微鏡の軸分解能を著しく向上させるのに十分であることがわかった。5つの画像すべての迅速な取得が、動きのぼやけを防止するために必要であり、インスタントSIM顕微鏡システムに照明器/反射器を構築すると、高速画像取得が保証されることに留意されたい。
【0033】
軸分解能の漸進的な改善を示すシミュレーションが、図6に再現されている。図6Aにから始めると、これは、様々な距離に配置された一連の特徴(線、点の対)を含む物体の 「完全な」画像である。図6Bは、光活性化又は定在波なしで、インスタントSIMで撮影された物体の画像である。図6Cは、インスタントSIMシステムで撮影され、その後デコンボリューションされた、150nmの周期性定在波(3相)で光活性化された物体の画像である。特徴ははるかによく解決されますが、アーチファクト(リンギング)は、特に離れた点対の場合に明らかであることに留意されたい。図6Dは、インスタントSIM顕微鏡システムで画像化された後、デコンボリューションされた、300nmの周期性定在波(3相)で光活性化された物体の画像である。アーチファクトは減少したが、最も細かい間隔の点対は解消されなかった。図6Eは、300nm及び150nmの両方の周期性定在波で連続して(上述の5つの位相)光活性化された物体の画像である。特徴は、アーチファクトなしで十分に解決されていることに留意されたい。
空間光変調器を用いた定在波照明パターンを達成するための顕微鏡システム
【0034】
300で示される、フォトスイッチング及び定在波照明技術を利用するための顕微鏡システムの第3実施形態が図7に示される。いくつかの実施形態では、顕微鏡システム300は、図5に示す顕微鏡システム200の第2実施形態と同様の光学レイアウトを含むが、空間光変調器(SLM)304が試料316と共役に配置され、F1レンズ306及びF2レンズ310は顕微鏡システム300における任意の倍率を提供する。追加の光学系をF1レンズ306とF2レンズ310との間に配置して、レーザビーム303を対物レンズ314に入射する前にフィルタリング又は調整することもできる。特に、図7に示すように、顕微鏡システム300は、レーザ光源302がレーザビーム303Aを放射し、それがSLM304によって反射され、第1F1レンズ306を通過し、平行移動反射ミラー308で、第2F2レンズ310と第3FTUBEレンズ312で構成される望遠鏡を通過して、対物レンズ(FOBJ)314の後焦点面上に反射され、最終的に試料316に焦点を合わせる。ミラー318は、照明を反射して試料316に戻す。
【0035】
SLM304は、試料面に、中間及び微細(例えば、図4の300nm、150nmパターン)の両方を導入するための簡単で柔軟な方法を提供する。SLM上の異なる位相で鋭い正弦波パターンを表示し(図8A、左)、試料で3ビーム干渉(図8B、左)を可能にすることによって、回折限界の軸方向変調を伴う照明を導入し、試料で変化させることができる(図8C)。代わりに、SLM上に均一なパターンを表示することによって(図8A、右;試料における軸上照明又は後焦点面における単一の中心照明スポットに対応、図8B、右)、コリメートされた軸上照明が対物レンズを介して伝達され、ミラーで反射され、試料で鋭く変化する干渉を生じる(例えば、図1Bのように)。
【0036】
様々なSLMパターンが図8Aに示されており、同様に、対応する後焦点面(図8B)及び試料(図8C)強度パターンが示されている。対物レンズ314の後焦点面322における図8B(左)に示される3つのビーム照明に対応する図8Aの3つの画像に示される異なる位相で鋭い正弦波照明を表示することによって、鋭い軸方向照明が試料(図8C)に導入される。対照的に、均一な照明(図8A図8B右)が使用される場合、均一な照明が対物レンズを通して伝達され、その結果、ミラーでの反射後、図1Bと同様の鮮明な照明パターンが得られる。図8Bにおいて、青色の円は対物後焦点面を表し、赤色の点は後焦点面における照明パターンを表す。図8Cでは、照明パターンはGustafsson、2008から再現されている。
【0037】
顕微鏡システム300によって実施される取得手順は、2ガルバノメータ(Two-Galvanometer)のセットアップに類似している。
【0038】
ステップ1:試料316は、rsEGP2のような可逆的に切り替え可能な蛍光マーカーで標識されている。
【0039】
ステップ2:試料316は、SLM304を使用して中間周期性定在波で活性化され、鋭い正弦波照明を表示する。
【0040】
ステップ3:試料316は、ベース光学顕微鏡装置、例えばインスタントSIMを用いて画像化される。
【0041】
ステップ4:ステップ2)及び3)は、SLM304に適切なパターンを表示することによって達成される定在波の他の2つの位相で繰り返される。
【0042】
ステップ5:試料316は、最大周期性定在波(すなわち、Θ=0°でのコリメート入射及び反射ビーム)で、SLM304上の均一パターンに変化することによって活性化される。
【0043】
ステップ6:試料316は、ベース光学顕微鏡、例えばインスタントSIMを用いて画像化される。
【0044】
ステップ7:ステップ5)及び6)は、圧電アクチュエータ/ミラーを平行移動させることによって達成される定在波の付加的な位相で繰り返される。
【0045】
ステップ8:ステップ2)~7)は、例えば、3Dイメージングスタックを取得するために、試料中の異なる焦点面で必要に応じて繰り返される。
【0046】
ステップ9:画像を、Richardson-Lucyデコンボリューションを用いて、合成、デコンボリューションすることで、軸分解能が向上する。
軸方向超解像を達成するための鋭い軸方向照明構造を生成するための顕微鏡システム
【0047】
400で示される、軸方向超解像を達成するための鋭い軸方向照明構造を生成する顕微鏡システムの第4実施形態が、図9に示されている。この実施形態では、3重ビーム分割構成を使用して、試料で干渉する単一の光ビームから分割された3つの互いにコヒーレントな光ビームを生成し、より高い軸分解能を達成するために必要な軸方向フリンジを生成する。一態様では、例えば波長405nmの単一の光ビーム403で送信するレーザである、レーザ402は、3つに分割されたコヒーレント光ビーム403A、403B及び403Cに分割され、第1ビームスプリッタ406及び第2ビームスプリッタ410を通過し、そして、第1非偏光ビームスプリッタ412及び第2非偏光ビームスプリッタ414を通過して再結合される。焦点距離F1を有する第1レンズ420、第2レンズ422及び第3レンズ424は、第1非偏光ビームスプリッタ412及び第2非偏光ビームスプリッタ414の前に配置され、第1分割光ビーム403A、第2分割光ビーム403B及び第3分割光ビーム403Cが、対物レンズ438の後焦点面436に共役に配置されたガルバノミラー426に焦点が合うことを確実にする。
【0048】
第1分割光ビーム403A、第2分割光ビーム403B及び第3分割光ビーム403Cの偏光状態は、第1半波長板404及び第2半波長板408を用いて制御することができる。第1分割光ビーム403A、第2分割光ビーム403B及び第3分割光ビーム403Cは、後焦点面436において、図8Cに示すような鋭い軸方向構造を有する照明を提供し、ガルバノミラー426を回転させると、図8Aに示すような照明構造の位相が変化する。図示のように、ダイクロイックミラー428は、顕微鏡システムの他の構成要素との一体化を可能にする。さらに、光チョッパ434が、FTUBEレンズ432と対物レンズ438との間に配置され、外側の2つのレーザビーム、例えば第1分割光ビーム403A、第3分割光ビーム403Cを選択的に遮断するために使用され、それによって、第2分割光ビーム403Bによる軸上照明を可能にする。第2分割光ビーム403Bによる軸上照明は、試料440の反対側、対物レンズ438及び試料440が載っているカバースリップの反対側に位置するミラー419からの反射光ビーム403Dとの干渉後、より高い空間周波数の軸方向フリンジを可能にする。結果として生じる干渉パターンは、試料440内に最大の周期性を有する定在波を生成する。
【0049】
顕微鏡システム400によって実行される取得手順は、2ガルバノメータ顕微鏡セットアップ又は空間光変調器(SLM)顕微鏡セットアップに非常に類似している。
【0050】
ステップ1:試料440は、rsEGP2などの可逆的に切り替え可能な蛍光マーカーで標識されている。
【0051】
ステップ2: 第1光ビーム403A、第2光ビーム403B及び第3光ビーム403Cが顕微鏡システム400を通って伝播し、それによって試料440で正弦波照明を可能にすることによる中間周期性定在波で試料440を活性化する。
【0052】
ステップ3:試料440は、インスタント選択照明顕微鏡などのベース光学顕微鏡(不図示)を用いて画像化される。
【0053】
ステップ4:ステップ2及び3を、ガルバノミラー426を適切に回転させることによって達成される定在波の他の4つの位相で繰り返す。
【0054】
ステップ5:試料440は、光チョッパ436を用いて、例えばコリメートされた入射及びΘ=0°で反射された定在波の最大周期で活性化され、外側の2つのレーザビーム、例えば第1光ビーム403A及び第2光ビーム403Cをブロックする。
【0055】
ステップ6:試料440は、インスタント選択照明顕微鏡などのベース光学顕微鏡(不図示)を用いて画像化される。
【0056】
ステップ7:ステップ5及び6は、それによって、圧電アクチュエータ(不図示)を用いてミラー419を移動させることによって達成される、定在波の付加的な位相で繰り返される。
【0057】
ステップ8:ステップ2から7は、例えば、3次元画像化スタックを取得することによって、試料440内の異なる焦点面で必要に応じて繰り返される。
【0058】
最後に、撮像画像を、Richardson‐Lucyデコンボリューションを用いて、合成、デコンボリューションすることで、軸分解能が向上する。
【0059】
本明細書に開示されている顕微鏡システム100、200、300及び400では非線形遷移(フォトスイッチング)が使用されているため、理論的には、ON状態またはOFF状態のいずれかを「飽和させる(saturating)」ことによって「無制限の」分解能が可能であることに留意されたい。405nmレーザーを活性化することにより、原理的に飽和を達成することは簡単であり、ON状態を飽和させる1つの方法であり、各軸方向スライスの高調波につながる。しかし、この分解能の向上を読み取るために払わなければならないコストは、より多くの生の画像を取得することになるが、十分に光安定性のある試料があれば、原理的に可能である。
【0060】
一態様において、本明細書に記載のフォトスイッチング及び定在波照明の技術を他の顕微鏡システムに適用して、軸分解能を改善することができる。例えば、軸分解能を改善するために、上述の技術を任意のタイプの広視野蛍光顕微鏡又は共焦点顕微鏡システムで使用することができる。
【0061】
以上のことから、特定の実施形態が例示及び説明されているが、当業者に明らかであるように、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な修正を加えることができることを理解されたい。そのような変更及び修正は、本明細書に添付された特許請求の範囲で定義された本発明の範囲および教示の範囲内である。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8A
図8B
図8C
図9