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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ガス検出装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
G01N27/12 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021023154
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2022125527
(43)【公開日】2022-08-29
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 亘
(72)【発明者】
【氏名】小澤 尚史
(72)【発明者】
【氏名】名川 良春
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-257766(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143439(WO,A1)
【文献】特開平10-283583(JP,A)
【文献】特開2009-210344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱可能なヒータ及び前記ヒータの加熱時において周囲のメタンガスの濃度に応じて信号が変化するセンサ体を有したセンサ素子と、前記センサ体が第1の目標温度となるように前記ヒータを制御するハイ駆動と前記センサ体が前記第1の目標温度よりも低い第2の目標温度となるように前記ヒータを制御するロー駆動とを交互に行うヒータ駆動手段と、前記ヒータ駆動手段によりハイ駆動が行われてから第1所定時間経過した時点において前記センサ素子から得られる第1の信号値に基づいて警報を出力するガス検出装置であって、
前記第1の信号値と、前記ヒータ駆動手段によりハイ駆動が行われてから前記第1所定時間よりも短い第2所定時間経過した時点において前記センサ素子から得られる第2の信号値との比率に基づいて、揮発性有機化合物の影響下の可能性を判断する第1判断手段と、
前記第1判断手段により揮発性有機化合物の影響下の可能性があると判断された場合に、前記第1の信号値が警報レベルに到達しているかを判断する第2判断手段と、
前記第2判断手段により前記第1の信号値が警報レベルに到達していると判断された場合に、前記ヒータ駆動手段によるハイ駆動の時間を通常時よりも延長させる延長設定手段と、
前記延長設定手段により延長させられた時間帯における前記センサ素子からの第3の信号値と、前記第1の信号値との比率に基づいて、メタンガスの高濃度異常であるか、センサ異常であるかを判断する第3判断手段と、
を備えることを特徴とするガス検出装置。
【請求項2】
前記延長設定手段により延長させられた時間帯において前記センサ素子から得られた第3の信号値が警報レベルに到達していない場合、前記第3判断手段による判断を禁止する禁止手段をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置。
【請求項3】
加熱可能なヒータ及び前記ヒータの加熱時において周囲のメタンガスの濃度に応じて信号が変化するセンサ体を有したセンサ素子と、前記センサ体が第1の目標温度となるように前記ヒータに通電するハイ駆動と前記センサ体が前記第1の目標温度よりも低い第2の目標温度となるように前記ヒータに通電するロー駆動とを交互に行うヒータ駆動手段と、前記ヒータ駆動手段によりハイ駆動が行われてから第1所定時間経過した時点において前記センサ素子から得られる第1の信号値に基づいて警報を出力するガス検出装置の制御方法であって、
前記第1の信号値と、前記ヒータ駆動手段によりハイ駆動が行われてから前記第1所定時間よりも短い第2所定時間経過した時点において前記センサ素子から得られる第2の信号値との比率に基づいて、揮発性有機化合物の影響下の可能性を判断する第1判断工程と、
前記第1判断工程において揮発性有機化合物の影響下の可能性があると判断された場合に、前記第1の信号値が警報レベルに到達しているかを判断する第2判断工程と、
前記第2判断工程において前記第1の信号値が警報レベルに到達していると判断された場合に、前記ヒータ駆動手段によるハイ駆動の時間を通常時よりも延長させる延長工程と、
前記延長工程において延長させられた時間帯における前記センサ素子からの第3の信号値と、前記第1の信号値との比率に基づいて、メタンガスの高濃度異常であるか、センサ異常であるかを判断する第3判断工程と、
を備えることを特徴とするガス検出装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検出装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メタンガスを検出するための半導体式ガスセンサが知られている。この半導体式ガスセンサは、VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)の存在下でヒータがオフからオンに切り替えられると、切替後の極短時間でVOC濃度に応じた信号を出力することが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、ヒータのオン時間に伴う、メタンガスと他のガスとの抵抗値の変化特性の相違から、ガス種を判別可能であることが知られている(例えば特許文献2参照)。このガス検出装置は、通常のヒータオン時間となる予備検知通電時間においてガス種を判別し、判別されたガスがメタンガスである場合には、ヒータオン時間を予備検知通電時間よりも延長された本格検知通電時間にし、より正確にメタンガス濃度を測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6482973号公報
【文献】特開2009-210344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、VOCはセンサにとって被毒物質であることからセンサの鋭敏化の原因となってしまう。このため、特許文献1に記載のガス検出装置では、VOCによる被毒の影響を受けた場合には、メタンガスが存在しない環境下において警報レベルの信号が得られてしまい、メタンガスの高濃度異常であると誤判断してしまう可能性がある。
【0006】
そこで、特許文献2に記載のように、ヒータオン時間を延長してよりVOC被毒の影響を軽減して正確にメタンガスを検出することも考えられるが、VOCによる被毒の影響を強く受けている場合(センサ異常の場合)には、ヒータオン時間を延長しても警報レベルの信号が得られてしまい、メタンガスの高濃度異常であるのと誤判断してしまうことがある。
【0007】
このように、従来のガス検出装置では、警報レベルの信号が得られた場合、メタンガスの高濃度異常であるのか、センサ異常であるのかを判断できず、誤警報を行ってしまう可能性があった。
【0008】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その発明の目的とするところは、警報レベルの信号が得られた場合にメタンガスの高濃度異常であるか、センサ異常であるのかを判断することができるガス検出装置及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のガス検出装置は、加熱可能なヒータ及び前記ヒータの加熱時において周囲のメタンガスの濃度に応じて信号が変化するセンサ体を有したセンサ素子と、前記センサ体が第1の目標温度となるように前記ヒータを制御するハイ駆動と前記センサ体が前記第1の目標温度よりも低い第2の目標温度となるように前記ヒータを制御するロー駆動とを交互に行うヒータ駆動手段と、前記ヒータ駆動手段によりハイ駆動が行われてから第1所定時間経過した時点において前記センサ素子から得られる第1の信号値に基づいて警報を出力するガス検出装置であって、前記第1の信号値と、前記ヒータ駆動手段によりハイ駆動が行われてから前記第1所定時間よりも短い第2所定時間経過した時点において前記センサ素子から得られる第2の信号値との比率に基づいて、揮発性有機化合物の影響下の可能性を判断する第1判断手段と、前記第1判断手段により揮発性有機化合物の影響下の可能性があると判断された場合に、前記第1の信号値が警報レベルに到達しているかを判断する第2判断手段と、前記第2判断手段により前記第1の信号値が警報レベルに到達していると判断された場合に、前記ヒータ駆動手段によるハイ駆動の時間を通常時よりも延長させる延長設定手段と、前記延長設定手段により延長させられた時間帯における前記センサ素子からの第3の信号値と、前記第1の信号値との比率に基づいて、メタンガスの高濃度異常であるか、センサ異常であるかを判断する第3判断手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、警報レベルの信号が得られた場合にメタンガスの高濃度異常であるか、VOCの被毒による影響であるのかを判断することができるガス検出装置及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るガス警報器を示すブロック図である。
図2図1に示した通電制御部によるヒータ制御の様子を示す図である。
図3】本実施形態に係るガス警報器におけるセンサ出力を示すグラフである。
図4】VOC被毒によるセンサ出力の変化を示すグラフであり、初期のセンサ出力を示している。
図5】VOC被毒によるセンサ出力の変化を示すグラフであり、所定濃度のVOC環境下に14日間曝した後のセンサ出力を示している。
図6】VOC被毒によるセンサ出力の変化を示すグラフであり、所定濃度のVOC環境下に45日間曝した後のセンサ出力を示している。
図7】本実施形態に係るガス警報器の制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るガス警報器を示すブロック図である。なお、以下では、ガス検出装置の一例として定置式のガス警報器を例に説明するが、特に定置式に限らず携帯式等のガス警報器であってもよいし、特にガス警報器に限らず、火災や人感などの他の警報器と組み合わされた複合型の警報器であってもよい。さらに、ガス検出装置は、単体で警報器として機能を有するものでなくともよく、何らかの装置内に一機能として組み込まれたものであってもよいし、音声出力等の警報機能については他の機器に搭載されていてもよい。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係るガス警報器1は、検出対象となるメタンガスの濃度が所定濃度以上であること(異常状態)を検出した場合に警報出力して、メタンガスの高濃度異常について警報するものである。このガス警報器1は、半導体式ガスセンサ10と、CPU20と、音声出力部30と、表示部40とを備えている。
【0015】
半導体式ガスセンサ10は、周囲のメタンガスの濃度に応じた信号を出力するものである。本実施形態において半導体式ガスセンサ10は、メタンガスの濃度に応じた信号を出力するためのセンサ素子11と、センサ素子11を覆うと共に開口が設けられたキャップ(不図示)と、キャップの開口からセンサ素子11までの間に設けられたフィルタ(不図示)とを備えて構成されている。フィルタは、例えば活性炭により構成され、アルコール成分をカットするようになっている。このような半導体式ガスセンサ10において、検知対象ガスとなるメタンガスは、キャップの開口を介してキャップ内に至り、フィルタを介してアルコール成分が除去されてセンサ素子11に至る。
【0016】
センサ素子11は、ヒータ11aと、センサ体11bとを備えている。ヒータ11aは、センサ体11bを加熱するものである。センサ体11bは、ヒータ11aによって目標温度(活性温度)まで加熱される。ここで、本実施形態に係る半導体式ガスセンサ10は、メタンガスの他、一酸化炭素及び水素等についても検知可能となっている。ヒータ11aは、メタンガスを検知するときにセンサ体11bが第1の目標温度(例えば400℃)となるように通電される。この通電状態をハイ駆動と称する。一方、ヒータ11aは、一酸化炭素及び水素を検知するときにセンサ体11bが第1の目標温度よりも低い第2の目標温度(例えば80℃)となるように通電される。この通電状態をロー駆動と称する。
【0017】
センサ体11bは、例えば酸化錫タイプのものであって、周囲に検出対象ガスが存在すると、その濃度に応じて抵抗値が減少するものである。このため、センサ素子11から出力される信号は、このような抵抗値の変化を反映したものとなる。
【0018】
CPU20は、ガス警報器1の全体を制御するものであって、本実施形態においては概略的に、通電制御部(ヒータ駆動手段)21、及び警報制御部22を備えている。
【0019】
通電制御部21は、ヒータ11aに印加する電圧を変化させることで、ヒートアップ(ハイ駆動)とヒートダウン(ロー駆動)とのサイクルを繰り返す制御を実行するものである。図2は、図1に示した通電制御部21によるヒータ制御の様子を示す図である。
【0020】
図2に示すように、通電制御部21は、ハイ駆動とロー駆動とを交互に繰り返す制御を実行する。ハイ駆動の期間T1は例えば5秒であり、ロー駆動の期間T2は例えば15秒である。このような通電制御部21の制御によって、センサ体11bは、第1の目標温度となる状態と、第2の目標温度となる状態とを交互に繰り返すこととなる。
【0021】
ここで、本実施形態に係るガス警報器1は、ハイ駆動が行われてから第1所定時間(例えば5秒)経過した時点がメタンガス検知ポイントT11となっている。また、半導体式ガスセンサ10はハイ駆動が行われてから極短時間でVOCに対して感度を有する。よって、本実施形態に係るガス警報器1は、ハイ駆動が行われてから、第1所定時間よりも短い第2所定時間(例えば0.5秒)経過した時点がVOC検知ポイントT12となっている。
【0022】
さらに、本実施形態に係るガス警報器1は、一酸化炭素及び水素についても検知可能となっており、ロー駆動が行われてから第3所定時間(例えば15秒)経過した時点が一酸化炭素検知ポイントT21となっており、ロー駆動が行われてから第4所定時間(例えば1秒)経過した時点が水素検知ポイントT22となっている。
【0023】
警報制御部22は、メタンガス検知ポイントT11においてセンサ素子11から得られる信号に基づく第1の信号値(抵抗値)が警報点以下であるか(警報レベルに到達しているか)を判断するものである。また、警報制御部22は、第1の信号値が警報点以下であると判断した場合に、音声出力部30を制御して警報音声を出力させ、表示部40を制御して警報表示させるものである。
【0024】
音声出力部30は例えばスピーカやブザー及びこれを駆動する回路から構成されている。表示部40は例えばLEDや液晶ディスプレイ及びこれを駆動する回路から構成されている。
【0025】
ここで、本実施形態に係るガス警報器1は、VOC環境下におかれることで半導体式ガスセンサ10が被毒してしまい、メタンガス濃度が異常濃度に達していない場合であっても、第1の信号値が警報点以下となり、誤警報してしまうことがある。そこで、本実施形態に係るガス警報器1は、判断部23、延長設定部(延長設定手段)24、及び禁止部(禁止手段)25とを備えている(図1参照)。
【0026】
判断部23は、第1~第3判断部(第1~第3判断手段)23a~23cを備えている。第1判断部23aは、第1の信号値(メタンガス検知ポイントT11における抵抗値)と、第2の信号値との比率に基づいて、VOCの影響下の可能性を判断するものである。ここで、第2の信号値は、VOC検知ポイントT12においてセンサ素子11から得られる信号に基づく抵抗値である。
【0027】
図3は、本実施形態に係るガス警報器1におけるセンサ出力を示すグラフである。なお、図3に示すグラフにおいて縦軸は抵抗値を示しており任意単位となっている。また、図3に示すグラフにおいては、時間2秒から7秒までの間において通電制御部21によりハイ駆動が行われているものとする。
【0028】
図3に示すように、空気環境下においてはハイ駆動前(ロー駆動)からハイ駆動中にわたって抵抗値がほぼ横ばいとなっている。これに対してVOC環境下において抵抗値は、ハイ駆動が行われてから約0.5秒経過時点(横軸2.5秒時点)において急激な低下を示し、その後次第に上昇していき、ハイ駆動が行われてから約5秒経過時点(横軸7秒時点)においては空気環境下に近い値となっている。
【0029】
また、メタンガス環境下(3000ppm)において抵抗値は、ハイ駆動が行われてから約1秒経過時点(横軸3秒時点)まで次第に低下していき、ハイ駆動が行われてから約5秒経過時点(横軸7秒時点)まで低下した状態を維持している。
【0030】
このように、VOCとメタンガスとでは抵抗値の変化特性に相違があり、VOC環境下とメタンガス環境下とで第1の信号値(横軸7秒時点の信号値)と第2の信号値(横軸2.5秒時点の信号値)との比率は大きく異なる傾向にある。具体的に説明すると、第1の信号値に対する第2の信号値の比率は、VOC環境下で小さくなり、メタンガス環境下で大きい値となる。
【0031】
よって、図1に示した第1判断部23aは、第1の信号値と、第2の信号値との比率に基づいて、VOCの影響下の可能性を判断することができる。
【0032】
ここで、VOC被毒によるセンサ出力の変化を説明する。図4~6は、VOC被毒によるセンサ出力の変化を示すグラフであり、図4は、初期のセンサ出力を示し、図5は、所定濃度のVOC環境下に14日間曝した後のセンサ出力を示している。また、図6は、所定濃度のVOC環境下に45日間曝した後のセンサ出力を示している。なお、図3と同様に、図4~6に示すグラフにおいて縦軸は抵抗値を示しており任意単位となっている。また、図4~6に示すグラフにおいても、時間2秒から7秒までの間において通電制御部21によりハイ駆動が行われているものとする。
【0033】
図4に示すように、VOCによる被毒の影響を受けていない半導体式ガスセンサ10について、空気環境下及びメタンガス環境下(3000ppm)での抵抗値は図3に示したものと同じである。また、メタンガス環境下(1000ppm)での抵抗値は、抵抗値の低下度合いが3000ppmよりも小さく、メタンガス環境下(9000ppm)での抵抗値は、抵抗値の低下度合いが3000ppmよりも大きくなっている。
【0034】
VOCによる被毒の影響を受けていない場合にはこのような変化特性を示すため、例えば警報点がセンサ出力600[dig]辺りであるとすると、本実施形態に係るガス警報器1は、3000ppmのメタンガスに曝されることで、警報を発することができる。
【0035】
また、図5に示すように、所定濃度のVOC環境下に14日間曝した後のセンサ出力は以下のようになる。すなわち、所定濃度のVOC環境下に14日間曝されたことにより、空気環境下及びメタンガス環境下(1000ppm、3000ppm、及び9000ppm)というVOCが存在しない環境下にもかかわらず、ハイ駆動が行われてから約0.5秒経過時点(横軸2.5秒時点)において急激に抵抗値が低下している。
【0036】
また、ハイ駆動が行われてから約5秒経過時点(横軸7秒時点)におけるセンサ出力についても、図4に示した例を比較すると、やや抵抗値が低い値を示している。このため、センサ素子11の鋭敏化が進行しており、メタンガス濃度が許容範囲(例えば3000ppm未満)であるにもかかわらず警報が行われてしまうことがあり得る。
【0037】
また、図6に示すように、所定濃度のVOC環境下に45日間曝した後のセンサ出力は以下のようになる。すなわち、所定濃度のVOC環境下に45日間曝されたことにより、空気環境下及びメタンガス環境(1000ppm、3000ppm、及び9000ppm)において、抵抗値は全て同じような変化特性を示しており、ハイ駆動の期間中において抵抗値が大きく低下した状態を維持することとなる。よって、例えば警報点がセンサ出力600[dig]辺りであるとすると、空気環境下であっても警報が行われてしまうこととなる。
【0038】
再度、図1を参照する。第2判断部23bは、第1判断部23aによりVOCの影響下の可能性があると判断された場合に、第1の信号値が警報点以下であるかを判断するものである。延長設定部24は、第2判断部23bにより第1の信号値が警報点以下であると判断された場合に、通電制御部21によるハイ駆動の時間を通常時よりも延長させるものである。
【0039】
第3判断部23cは、延長設定部24により延長させられた時間帯におけるセンサ素子11からの第3の信号値と、第1の信号値との比率に基づいて、メタンガスの高濃度異常であるか、センサ異常であるかを判断するものである。
【0040】
禁止部25は、延長設定部24により延長させられた時間帯におけるセンサ素子11からの第3の信号値が警報点以下でない場合に、第3判断部23cによる判断を禁止するものである。
【0041】
次に図3図6を参照して、第2及び第3判断部23b,23c、延長設定部24並びに禁止部25を詳細に説明する。また、以下の説明では警報点がセンサ出力600[dig]辺りであるとする。
【0042】
まず、第2判断部23bは、第1判断部23aによりVOCの影響下の可能性があると判断された場合に、第1の信号値が警報点以下であるかを判断する。ここで、図5に示す空気環境下やメタンガス環境下(1000ppm)については、第1の信号値が警報点以下となっていない。このため、図5に示す空気環境下やメタンガス環境下(1000ppm)について、第2判断部23bは、第1の信号値が警報点以下でないと判断する。
【0043】
一方、図5に示すメタンガス環境下(3000ppm及び9000ppm)並びに図6に示す空気環境下やメタンガス環境下(1000ppm、3000ppm及び9000ppm)については、第1の信号値が警報点以下となっている。このため、これらの場合、第2判断部23bは、第1の信号値が警報点以下であると判断する。
【0044】
ここで、特に図6に示す空気環境下については、メタンガスが存在しない環境下であるにも関わらず第1の信号値が警報点以下であることから、メタンガスの高濃度異常であると誤判断してしまう可能性がある。そこで、延長設定部24が機能する。
【0045】
延長設定部24は、図2に示すように、例えば通常のハイ駆動の期間T1である5秒に対して10秒のハイ駆動の延長期間T3を追加する。これにより、ハイ駆動の時間を通常時よりも延長させる。ここで、ハイ駆動の時間が長くなればセンサ表面に付着したVOCを一部離脱させて被毒レベルを軽減させることができる。このため、ハイ駆動時間の延長によって抵抗値は上昇していき、正常な値に近づいていく。このように、延長設定部24は被毒レベルを軽減させる役割を有する。
【0046】
次いで、第3判断部23c及び禁止部25は、例えば図2に示すように、延長設定部24により延長させられた時間帯(延長期間T3)における延長検知ポイントT13(例えば延長されてから10秒であってハイ駆動されてから15秒)においてセンサ素子11からの信号より得られる第3の信号値に基づいて処理を行う。
【0047】
詳細に説明すると禁止部25は、第3の信号値が警報点以下でない場合、第3判断部23cによる判断を禁止する。これにより、CPU20は、現在の状態が、メタンガスの高濃度異常でも、センサ異常(強い被毒状態)でもないと判断する。すなわち、第3の信号値が警報点以下でないということは、メタンガスの高濃度異常でないことが明らかである。または、延長設定部24によるハイ駆動の時間の延長によって被毒レベルが軽減されて第3の信号値が警報レベルに達しなくなったといえる。従って、第3の信号値が警報点以下でない場合、禁止部25は第3判断部23cによる判断を禁止し、CPU20はメタンガスの高濃度異常でも、センサ異常(強い被毒状態)でもないと判断する。
【0048】
また、第3判断部23cは、第3の信号値が警報点以下である場合において、第3の信号値と、第1の信号値との比率に基づいて、メタンガスの高濃度異常であるか、センサ異常であるかを判断する。ここで、図3及び図4にも示すように、メタンガスについてはハイ駆動が行われてから1秒(横軸3秒時点)から5秒(横軸7秒時点)までセンサ出力が略変化しない傾向にある。このため、延長期間T3においてもセンサ出力が略変化しない。一方で、VOCによる強い被毒状態では、延長期間T3において徐々に被毒が軽減されて抵抗値が上昇していく。よって、両者の比率は異なる傾向にある。具体的に説明すると、第1の信号値に対する第3の信号値の比率は、センサ異常(強い被毒状態)時で大きくなり、メタンガスの高濃度異常で小さい値となる。よって、本実施形態に係るガス警報器1は、センサ異常とメタンガスの高濃度異常とを判断することができる。
【0049】
次に、本実施形態に係るガス警報器1の制御方法を説明する。図7は、本実施形態に係るガス警報器1の制御方法を示すフローチャートである。
【0050】
まず、本実施形態においてCPU20は、規定時間(例えば1時間)が経過したかを判断する(S1)。規定時間が経過していない場合(S1:NO)、規定時間が経過したと判断されるまで、この処理が繰り返される。
【0051】
規定時間が経過した場合(S1:YES)、第1判断部23aは、通電制御部21によってハイ駆動が行われている期間T1において第1の信号値と第2の信号値とを取得し、第1の信号値に対する第2の信号値の比率を取得する(S2)。
【0052】
次に、第1判断部23aは、ステップS2にて取得した比率が所定個数(例えば24個)となったかを判断する(S3)。比率が所定個数ではない場合(S3:NO)、処理はステップS1に移行する。一方、比率が所定個数となった場合(S3:YES)、第1判断部23aは、所定個数の比率から1つを選択する(S4)。
【0053】
この際、第1判断部23aは、所定個数の比率のうち最小から2番目の比率を選択する。ここで、VOCの影響下にある場合には、第2の信号値が小さくなることから、第1の信号値に対する第2の信号値の比率が小さくなる。よって、第1判断部23aは、最小から2番目を選択することで、異常値の可能性がある最小から1番目を除き、よりVOCの影響下である可能性を考慮して選択を行うこととなる。
【0054】
次に、第1判断部23aは、第1の信号値に対する第2の信号値の比率が第1閾値以下であるかを判断する(S5)。ここで、例えば図3及び図4の空気環境下や、図4のメタンガス環境下(1000ppm、3000ppm及び9000ppm)では第1の信号値に対して第2の信号値が小さくならない。よって、このような場合、第1判断部23aは、第1の信号値に対する第2の信号値の比率が第1閾値以下でないと判断する(S5:NO)。その後、処理はステップS1に移行する。なお、ステップS5において「NO」と判断された場合、通常の通り、警報制御部22は、第1の信号値が警報点以下である場合に、警報を行うこととなる。
【0055】
一方、図6の空気環境下や、図5及び図6のメタンガス環境下(1000ppm、3000ppm及び9000ppm)では第1の信号値に対して第2の信号値が小さくなる。よって、このような場合、第1判断部23aは、第1の信号値に対する第2の信号値の比率が第1閾値以下であると判断する(S5:YES)。
【0056】
次いで、第2判断部23bは、第1の信号値が警報点以下であるかを判断する(S6)。第1の信号値が警報点以下でない場合(S6:NO)、処理はステップS1に移行する。すなわち、第1の信号値が警報点以下でない場合には、そもそもメタンガスの高濃度異常でもなく、VOC被毒によるセンサ異常でもないことから、処理はステップS1に移行する。
【0057】
第1の信号値が警報点以下である場合(S6:YES)、メタンガスの高濃度異常である可能性もあり、VOC被毒によるセンサ異常の可能性もあるが、VOC被毒が軽度の場合には解消の余地がある。そこで、延長設定部24は、ハイ駆動の時間を通常よりも延長させる(S7)。これにより、センサ表面のVOCが一部離脱することとなる。
【0058】
次に、禁止部25は、第3の信号値が警報点以下であるかを判断する(S8)。第3の信号値が警報点以下でない場合(S8:NO)、センサ表面のVOCが一部離脱して、ステップS6で警報点以下であった信号値(第1の信号値)が警報点を超える値に復帰したといえる。このため、禁止部25は、第3判断部23cによる判断(後述のステップS9の処理)を実行することなく禁止する。これにより、CPU20は、現在の状態が、メタンガスの高濃度異常でもなく、VOC被毒によるセンサ異常でもないと判断し、処理はステップS1に移行する。
【0059】
一方、第3の信号値が警報点以下である場合(S8:YES)、第3判断部23cは、第1の信号値に対する第3の信号値の比率が第2閾値未満であるかを判断する(S9)。ここで、VOC被毒によるセンサ異常の場合、第3の信号値はVOCの一部離脱によって第1の信号値よりも高い値となる。一方、メタンガスの高濃度異常の場合には、第3の信号値は第1の信号値と近い値となる。よって、第1の信号値に対する第3の信号値の比率は、センサ異常時で高く、メタンガスの高濃度異常時で低い値となる。
【0060】
よって、第1の信号値に対する第3の信号値の比率が第2閾値未満である場合(S9:YES)、第3判断部23cは、メタンガスの高濃度異常であると判断する。よって、警報制御部22は、警報動作を行うこととなる(S10)。その後、図7に示す処理は終了する。
【0061】
一方、第1の信号値に対する第3の信号値の比率が第2閾値未満でない場合(S9:NO)、すなわち、第3の信号値が第1の信号値よりも高い値となっている場合、第3判断部23cは、センサ異常であると判断する(S11)。これにより、故障の通知が行われる。その後、図7に示す処理は終了する。
【0062】
このようにして、本実施形態に係るガス警報器1及びその制御方法によれば、メタンガス検知ポイントT11での第1の信号値に対する、VOC検知ポイントT12での第2の信号値の比率に基づいて、VOCの影響下の可能性を判断する。ここで、VOCが存在する場合やVOCによる被毒が進行した場合においては第2の信号値が大きく反応する。よって、第1の信号値に対する第2の信号値の比率からVOCの影響下の可能性を判断できる。
【0063】
また、VOCの影響下の可能性を判断したときに第1の信号値が警報点以下であるかを判断し、警報点以下である場合にはハイ駆動の延長を行う。ここで、VOCの影響下でないときに第1の信号値が警報点以下であるときには警報することができるが、VOCの影響下であるときにはVOCによる鋭敏化の可能性がある。よって、ハイ駆動の延長を行うことでVOCの軽減を図ることができる。
【0064】
さらに、延長期間T3における信号に基づく第3の信号値を取得し、第1の信号値に対する第3の信号値の比率に基づいて、メタンガスの高濃度異常か、センサ異常かを判断する。ここで、メタンガスは長期のハイ駆動であっても信号値が変化し難い。一方で、センサ異常の場合には、長期のハイ駆動によってVOC被毒が軽減されて信号値に変化が生じる。よって、第1の信号値に対する第3の信号値の比率に基づいて、メタンガスの高濃度異常か、センサ異常かを判断することができる。
【0065】
以上のように、警報点以下の信号値が得られた場合にメタンガスの高濃度異常であるか、センサ異常であるのかを判断することができる。
【0066】
また、延長期間T3においてセンサ素子11からの信号により得られた第3の信号値が警報点以下でない場合に、第3判断部23cによる判断を禁止する。ここで、延長期間T3においてセンサ素子11からの信号に基づく第3の信号値が警報点以下でないということは、メタンガスの高濃度異常ではなく、またセンサ素子11の被毒についても軽微であり、異常とまで判断できない。このため、第3判断部23cによる判断を禁止してメタンガスの高濃度異常でもセンサ異常でもないと判断することで、メタンガスの高濃度異常やセンサ異常であると誤判断してしまうことを回避することができる。
【0067】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、可能な範囲で適宜他の技術を組み合わせてもよい。
【0068】
例えば、上記実施形態において通電制御部21は第2の目標温度となるようにロー駆動を行っているが、第2の目標温度は0℃であってもよい。この場合、通電制御部21は、ヒータ11aに対して通電を行うことなくオフ状態となる。また、ロー駆動の期間T2において一酸化炭素及び水素を検知しているが、これに限らず、ロー駆動の期間T2の信号に基づいて一酸化炭素や水素を検知しなくてもよい。
【0069】
さらに、可能であれば、半導体式ガスセンサ10に限らず、接触燃焼式ガスセンサ等の他のセンサを利用してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 :ガス警報器
10 :半導体式ガスセンサ
11 :センサ素子
11a :ヒータ
11b :センサ体
20 :CPU
21 :通電制御部(ヒータ駆動手段)
22 :警報制御部
23 :判断部
23a :第1判断部(第1判断手段)
23b :第2判断部(第2判断手段)
23c :第3判断部(第3判断手段)
24 :延長設定部(延長設定手段)
25 :禁止部(禁止手段)
30 :音声出力部
40 :表示部
T1 :ハイ駆動の期間
T11 :メタンガス検知ポイント
T12 :VOC検知ポイント
T13 :延長検知ポイント
T2 :ロー駆動の期間
T21 :一酸化炭素検知ポイント
T22 :水素検知ポイント
T3 :延長期間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7