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特許7534275アルミニウム合金押出管の製造方法及び熱交換器用配管部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】アルミニウム合金押出管の製造方法及び熱交換器用配管部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20240806BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20240806BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
C22C21/00 J
C22C21/00 E
C22C21/00 L
C22F1/04 A
C22F1/00 612
C22F1/00 623
C22F1/00 626
C22F1/00 627
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 650A
C22F1/00 651A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021158333
(22)【出願日】2021-09-28
(65)【公開番号】P2023048806
(43)【公開日】2023-04-07
【審査請求日】2022-08-25
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東森 稜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太一
(72)【発明者】
【氏名】安藤 誠
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-107516号公報
【文献】特開2008-267714号公報
【文献】特開2014-55339号公報
【文献】特開2021-59774号公報
【文献】特開2002-192337号公報
【文献】特開平5-331582号公報
【文献】特開平9-235639号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C21/00-21/18
C22F 1/00- 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.20質量%以上1.2質量%以下、Fe:0質量%超え0.50質量%以下、Cu:0質量%超え0.60質量%以下、Mn:0.50質量%以上1.2質量%以下、Zn:0.001質量%以上0.50質量%以下及びMg:0.05質量%以上0.20質量%以下を含み、さらに、Cr:0質量%超え0.10質量%以下及びTi:0質量%超え0.10質量%以下からなる群より選択される1種または2種の元素を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有する心材と、
前記心材の少なくとも片面上に積層され、前記心材よりも卑な自然電位を有する犠牲陽極材と、を有する、アルミニウム合金押出管の製造方法であって、
アルミニウム廃材を10質量%以上含有する鋳造原料を用いて前記心材の化学成分を有する心材用塊を鋳造し、
前記心材用塊を450℃以上620℃以下の温度に2時間以上保持して均質化処理を行い、
前記均質化処理を施した後の心材用塊と前記犠牲陽極材の化学成分を有する犠牲陽極材用塊とを組み合わせてクラッド塊を作製し、
前記クラッド塊に、その温度が400℃以上550℃以下である間に熱間押出を行うことにより前記アルミニウム合金押出管を作製する、アルミニウム合金押出管の製造方法
【請求項2】
前記心材中のSiの含有量とZnの含有量との合計が0.30質量%以上である、請求項1に記載のアルミニウム合金押出管の製造方法
【請求項3】
請求項1または2に記載のアルミニウム合金押出管の製造方法によりアルミニウム合金押出管を作製し、前記アルミニウム合金押出管を用いて熱交換器用配管部材を作製する熱交換器用配管部材の製造方法
【請求項4】
前記アルミニウム廃材には、Si:0.50質量%以上、Fe:0.10質量%以上、Cu:0.10質量%以上、Mn:0.50質量%以上、Mg:0.05質量%以上、Zn:0.10質量%以上からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含むアルミニウム合金からなるスクラップ、自動車用熱交換器のスクラップまたは自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップのうち少なくとも1種のスクラップが含まれている、請求項1または2に記載のアルミニウム合金押出管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金押出管、その製造方法及び熱交換器用配管部材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器の配管やホースジョイントなどの熱交換器用配管部材は、3000系合金や6000系合金などのアルミニウム合金から構成されていることが多い。また、例えば自動車用熱交換器等の、特に過酷な環境で使用される熱交換器には高い耐食性が求められることがある。このような用途に用いられる熱交換器用配管部材は、心材と、心材の少なくとも片面上に積層された犠牲陽極材とを備えたクラッド管から構成されていることがある。
【0003】
例えば特許文献1には、熱交換器が、アルミニウム合金の心材と、該心材の少なくとも一方の面にクラッドされた犠牲陽極材とを備えるアルミニウム合金クラッド材からなるヘッダ管を有している点が記載されている。特許文献1に記載されたヘッダ管の心材はMn:0.3~2.0mass%(以下、%と略す)、Si:1.5%以下、Fe:0.1~1.0%、Cu:0.05~1.0%を含有し、残部Alと不可避的不純物から構成されており、犠牲陽極材はFe:0.05~1.0%、Zn:0.5~5.0%を含有し、残部Alと不可避的不純物から構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-078399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような従来のクラッド管を作製する場合、良好な製造性や所望する機械的特性を確保するため、アルミニウム新地金を鋳造原料とし、SiやMnなどの元素を添加することにより心材や犠牲陽極材の化学成分を所望の範囲に調整していた。しかし、アルミニウム新地金は製造時に多量のエネルギーを消費するため、鋳造原料としてアルミニウム新地金を使用すると環境負荷が高くなるという問題がある。
【0006】
そこで、近年では、環境負荷の低減の観点から、アルミニウム合金管の心材を作製する際の鋳造原料として、廃棄されたアルミニウム製熱交換器やアルミニウム製品の屑等のアルミニウム廃材を使用することが望まれている。しかし、アルミニウム廃材の化学成分は一様ではなく、アルミニウム廃材中に含まれる元素の種類や各元素の含有量は、アルミニウム廃材の用途等に応じて異なっている。また、アルミニウム廃材には、場合によってはアルミニウム以外の金属を主成分とする部品等が付随していることもある。
【0007】
そのため、アルミニウム廃材を鋳造原料とし、SiやMnなどの主要な元素の含有量を所望の範囲に調整しようとすると、主要な元素以外の元素の含有量が多くなりやすい。そして、アルミニウム合金管の心材の化学成分において主要な元素以外の元素の含有量が多くなると、アルミニウム合金管の機械的特性の低下や耐食性の低下、熱間押出時の変形抵抗の上昇、冷間加工性の低下などの種々の問題が生じやすくなる。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、鋳造原料中のアルミニウム新地金の比率を低減した場合においても製造性、機械的特性及び耐食性に優れたアルミニウム合金押出管、その製造方法及びこのアルミニウム合金押出管からなる熱交換器用配管部材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一参考態様は、Si(シリコン):0.20質量%以上1.2質量%以下、Fe(鉄):0質量%超え0.50質量%以下、Cu(銅):0質量%超え0.60質量%以下、Mn(マンガン):0.50質量%以上1.2質量%以下、Zn(亜鉛):0.001質量%以上0.50質量%以下及びMg(マグネシウム):0.05質量%以上0.20質量%以下を含み、さらに、Cr(クロム):0質量%超え0.10質量%以下及びTi(チタン):0質量%超え0.10質量%以下からなる群より選択される1種または2種の元素を含み、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなる化学成分を有する心材と、
前記心材の少なくとも片面上に積層され、前記心材よりも卑な自然電位を有する犠牲陽極材と、を有する、アルミニウム合金押出管にある。
【0010】
本発明の他の参考態様は、前記の態様のアルミニウム合金押出管からなる熱交換器用配管部材にある。
【0011】
本発明の態様は、前記の態様のアルミニウム合金押出管の製造方法であって、
アルミニウム廃材を10質量%以上含有する鋳造原料を用いて前記心材の化学成分を有する心材用塊を鋳造し、
前記心材用塊を450℃以上620℃以下の温度に2時間以上保持して均質化処理を行い、
前記均質化処理を施した後の心材用塊と前記犠牲陽極材の化学成分を有する犠牲陽極材用塊とを組み合わせてクラッド塊を作製し、
前記クラッド塊に、その温度が400℃以上550℃以下である間に熱間押出を行うことにより前記アルミニウム合金押出管を作製する、アルミニウム合金押出管の製造方法にある。
【発明の効果】
【0012】
前記アルミニウム合金押出管(以下、「押出管」という。)の心材は、前記特定の化学成分を有している。前記押出管の大部分を占める心材の化学成分を前記特定の範囲とすることにより、押出管の製造性及び機械的特性を向上させることができる、また、前記押出管の心材上には犠牲陽極材が設けられている。そのため、前記押出管は、犠牲陽極材の犠牲防食効果により、心材の腐食を長期間に亘って抑制することができる。また、前記アルミニウム合金押出管においては、心材中のZn等の主要ではない元素の含有量を比較的多くした場合においても、所望する特性を容易に実現することができる。それ故、前記押出管を作製するに当たっては、鋳造原料中のアルミニウム新地金の比率を容易に低減するとともに、アルミニウム廃材の使用量を多くすることができる。
【0013】
また、前記押出管は、熱交換器の配管やホースジョイントなどの熱交換器用配管部材として好適な特性を有している。それ故、前記押出管から構成された熱交換器用配管部材は、良好な性能を有しており、例えば自動車に組み込まれる熱交換器などの、過酷な環境において使用される熱交換器にも好適に用いることができる。
【0014】
前記の態様のアルミニウム合金押出管の製造方法においては、アルミニウム廃材を10質量%以上含む鋳造原料を用いて前記化学成分を有する心材用塊を作製する。このように、前記押出管の大部分を占める心材の鋳造原料にアルミニウム廃材を配合することにより、鋳造原料中のアルミニウム新地金の割合を効果的に低減することができる。そして、心材用塊中の鋳造原料中のアルミニウム新地金の割合を低減することにより、前記押出管を作製する際の環境負荷を効果的に低減することができる。
【0015】
また、前記製造方法においては、均質化処理後の心材用塊に前記特定の条件で均質化処理を行う。均質化処理の条件を前記特定の範囲とすることにより、鋳造原料中のアルミニウム新地金の割合を低減した場合であっても、熱間押出における心材用塊の押出加工性を高めることができる。さらに、均質化処理後の心材用塊と、別途準備した犠牲陽極材用塊とを組み合わせて前記特定の条件で熱間押出を行うことにより、優れた冷間加工性、機械的特性及び耐食性を有するアルミニウム合金押出管を容易に得ることができる。
【0016】
以上のように、前記の態様によれば、鋳造原料中のアルミニウム新地金の比率を低減した場合においても製造性、機械的特性及び耐食性に優れたアルミニウム合金押出管、その製造方法及びこのアルミニウム合金押出管からなる熱交換器用配管部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(アルミニウム合金押出管)
前記アルミニウム合金押出管の心材及び犠牲陽極材の構成について説明する。
【0018】
[心材]
前記押出管の心材は、Si:0.20質量%以上1.2質量%以下、Fe:0質量%超え0.50質量%以下、Cu:0質量%超え0.60質量%以下、Mn:0.50質量%以上1.2質量%以下Zn:0.001質量%以上0.50質量%以下及びMg(マグネシウム):0.05質量%以上0.20質量%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有している。心材は、これらの必須成分に加えて、Cr(クロム):0質量%超え0.10質量%以下及びTi(チタン):0質量%超え0.10質量%以下からなる群より選択される1種または2種の元素を含んでいる。
【0019】
<心材の化学成分>
・Si:0.20質量%以上1.2質量%以下
前記押出管の心材は、必須成分として0.20質量%以上1.2質量%以下のSiを含有している。Siは心材の強度を向上させる作用を有している。心材中のSiの含有量を0.20質量%以上とすることにより、心材の強度を向上させることができる。また、心材中のSiの含有量を0.20質量%以上とすることにより、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率を高めやすくすることができる。
【0020】
前記心材の強度をより高めるとともに、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率をより高めやすくする観点からは、心材中のSiの含有量は、0.25質量%以上であることが好ましく、0.30質量%以上であることがより好ましく、0.35質量%以上であることがさらに好ましい。心材中のSiの含有量が0.20質量%未満の場合には、押出管の強度の低下を招くおそれがある。また、この場合には、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率を高めることが難しくなるおそれがある。
【0021】
一方、前記心材中のSiの含有量が過度に多くなると、押出管の冷間加工性の悪化を招くおそれがある。心材中のSiの含有量を1.2質量%以下とすることにより、冷間加工性の悪化を回避しつつ、心材の強度を向上させることができる。冷間加工性の悪化をより確実に回避する観点からは、前記心材中のSiの含有量は、1.1質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
・Zn:0.001質量%以上0.50質量%以下
前記押出管の心材は、必須成分として0.001質量%以上0.50質量%以下のZnを含有している。Znは、心材用塊の鋳造原料として使用するアルミニウム廃材中にSiとともに含まれ得る元素である。心材中のZnの含有量を0.001質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.04質量%以上、さらに好ましくは0.06質量%以上、特に好ましくは0.08質量%以上とすることにより、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率を高めやすくし、前記押出管を作製する際の環境負荷を容易に低減することができる。前記押出管中のZnの含有量が0.001質量%未満の場合には、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率を高めることが難しくなるおそれがある。
【0023】
一方、前記心材中のZnの含有量が過度に多くなると、心材の自然電位が過度に低下し、心材の腐食が早期に進行するおそれがある。心材中のZnの含有量を0.50質量%以下とすることにより、犠牲陽極材による犠牲防食効果を十分に発揮させ、心材の腐食を長期間に亘って抑制することができる。心材の耐食性の悪化をより確実に回避する観点からは、心材中のZnの含有量は、0.40質量%以下であることが好ましく、0.30質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
また、前記心材中のSiの含有量とZnの含有量との合計は0.30質量%以上であることが好ましく、0.35質量%以上であることがより好ましく、0.40質量%以上であることがさらに好ましく、0.45質量%以上であることが特に好ましい。例えば自動車用熱交換器のスクラップや自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップ等には、Al-Si系合金からなるろう材やAl-Zn系合金からなる犠牲陽極材が含まれている。そのため、これらのアルミニウム廃材を鋳造原料として使用する場合には、Si及びZnの含有量が高くなりやすい。
【0025】
それ故、前記心材中のSiの含有量とZnの含有量との合計を0.30質量%以上とすることにより、鋳造原料中に占める、自動車用熱交換器のスクラップや自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップなどのSiおよびZnを比較的多く含むアルミニウム廃材の比率をより高めやすくすることができる。
【0026】
・Fe:0質量%超え0.50質量%以下
前記押出管の心材中には、必須成分として、0質量%超え0.50質量%以下のFeが含まれている。Feは、心材の強度を向上させる作用を有している。心材の強度をより高める観点からは、心材中のFeの含有量は0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましく、0.20質量%以上であることが特に好ましい。
【0027】
一方、前記心材中のFeの含有量が過度に多くなると、熱間押出時における心材用塊の変形抵抗が上昇し、押出加工性の悪化を招くおそれがある。心材中のFeの含有量を0.50質量%以下、好ましくは0.45質量%以下、より好ましくは0.40質量%以下とすることにより、押出加工性の悪化を回避しつつ、心材の強度をより向上させることができる。
【0028】
・Cu:0質量%超え0.60質量%以下
前記押出管の心材は、必須成分として0質量%超え0.60質量%以下のCuを含有している。Cuは心材の強度を向上させる作用を有している。心材の強度をより高める観点からは、心材中のCuの含有量は0.02質量%以上であることが好ましく、0.04質量%以上であることがより好ましく、0.06質量%以上であることがさらに好ましく、0.08質量%以上であることが特に好ましい。また、この場合には、鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率をより高めやすくすることができる。
【0029】
一方、前記心材中のCuの含有量が過度に多くなると、熱間押出時における心材用塊の変形抵抗が上昇し、押出加工性の悪化を招くおそれがある。心材中のCuの含有量を0.60質量%以下とすることにより、押出加工性の悪化を回避しつつ、心材の強度を向上させることができる。押出加工性の悪化をより確実に回避する観点からは、押出管中のCuの含有量は、0.50質量%以下であることが好ましく、0.40質量%以下であることがより好ましく、0.30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
・Mn:0.50質量%以上1.2質量%以下
前記押出管の心材は、必須成分として0.50質量%以上1.2質量%以下のMnを含有している。Mnは前記心材の強度を向上させる作用を有している。また、Mnは、前記押出管の製造過程において心材用塊中にAl-Mn-Si系金属間化合物やAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物等を形成することができる。心材用塊中にこれらの金属間化合物を形成することにより、結晶粒界へのSiの偏析を抑制し、冷間加工時の割れの発生を抑制することができる。さらに、Mnは、心材の自然電位を貴化し、心材の耐食性を向上させる作用を有している。
【0031】
前記心材中のMnの含有量を0.50質量%以上、好ましくは0.55質量%以上、より好ましくは0.60質量%以上、さらに好ましくは0.65質量%以上とすることにより、前記心材の強度及び耐食性を向上させるとともに、冷間加工時の割れの発生を抑制することができる。前記押出管中のMnの含有量が0.50質量%未満の場合には、押出管の強度、耐食性及び冷間加工性の低下を招くおそれがある。
【0032】
一方、前記心材中のMnの含有量が過度に多くなると、熱間押出時における心材用塊の変形抵抗が上昇し、押出加工性の悪化を招くおそれがある。心材中のMnの含有量を1.2質量%以下とすることにより、押出加工性の悪化を回避しつつ、心材の強度、耐食性及び冷間加工性を向上させることができる。押出加工性の悪化をより確実に回避する観点からは、心材中のMnの含有量は、1.1質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
・Mg:0.05質量%以上0.20質量%以下
前記押出管の心材には、0.05質量%以上0.20質量%以下のMgが含まれている。Mgは心材の強度を向上させる作用を有している。前記心材の強度をより高める観点からは、前記心材中のMgの含有量は0.05質量%以上であることが特に好ましい。また、この場合には、心材用塊に用いられる鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率をより高めやすくすることができる。
【0034】
一方、前記心材中のMgの含有量が過度に多くなると、熱間押出時における心材用塊の変形抵抗が上昇し、押出加工性の悪化を招くおそれがある。心材中のMgの含有量を0.20質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下、さらに好ましくは0.10質量%以下とすることにより、押出加工性の悪化を回避しつつ、心材の強度をより向上させることができる。
【0035】
・Cr:0質量%超え0.10質量%以下、Ti:0質量%超え0.10質量%以下、Zr:0質量%超え0.10質量%以下及びV:0質量%超え0.10質量%以下
前記押出管の心材中には、0質量%超え0.10質量%以下のCr、0質量%超え0.10質量%以下のTi、0質量%超え0.10質量%以下のZr及び0質量%超え0.10質量%以下のVからなる群より選択される1種または2種以上の元素が任意成分として含まれていてもよい。これらの元素は、心材の金属組織における結晶粒を微細化する作用を有している。結晶粒を微細化する効果をより高める観点からは、心材中のこれらの元素の含有量は、各元素について0.01質量%以上であることがより好ましく、0.02質量%以上であることがさらに好ましく、0.03質量%以上であることが特に好ましい。
【0036】
一方、これらの元素の含有量が過度に多くなると、前記心材の製造過程において、心材用塊中に粗大な金属間化合物が形成されやすくなる。これらの粗大な金属間化合物は、熱間押出時や熱間押出後の二次加工時の割れの原因となるため好ましくない。心材中のこれらの元素の含有量を、各元素について0.10質量%以下とすることにより、心材用塊中への粗大な金属間化合物の形成をより容易に回避することができる。
【0037】
・その他の元素
心材中には、不可避的不純物として、前述した元素以外の元素が含まれていてもよい。不可避的不純物として含まれ得る元素としては、例えば、Li(リチウム)、Na(ナトリウム)、Ca(カルシウム)、Ni(ニッケル)、Sr(ストロンチウム)、Sn(スズ)、Bi(ビスマス)等が挙げられる。これらの元素の含有量は、例えば各元素について0.05質量%以下であればよい。また、不可避的不純物としての元素の含有量の合計は0.50質量%以下であればよい。
【0038】
・自然電位
前記心材の自然電位は、-700mV vs Ag/AgCl以上-600mV vs Ag/AgCl以下であることが好ましく、-700mV vs Ag/AgCl以上-650mV vs Ag/AgCl以下であることがより好ましい。心材の自然電位を前記特定の範囲とすることにより、心材自身の耐食性をより向上させることができる。
【0039】
[犠牲陽極材]
前記押出管における心材の少なくとも片面上には、心材に対して卑な自然電位を有する犠牲陽極材が設けられている。すなわち、犠牲陽極材は、例えば押出管の外表面に設けられており、犠牲陽極材の内側に心材が設けられていてもよい。また、犠牲陽極材は、例えば押出管の内表面に設けられており、犠牲陽極材の外側に心材が設けられていてもよい。また、犠牲陽極材は、例えば押出管の外表面及び内表面の両方に設けられており、これらの犠牲陽極材の間に心材が設けられていてもよい。
【0040】
犠牲陽極材は、心材よりも卑な自然電位を有している。このような犠牲陽極材は、心材に対する犠牲陽極として機能し、心材の腐食を長期間に亘って抑制することができる。犠牲陽極材と心材との電位差は、犠牲陽極材の自然電位を基準として20mV以上300mV以下であることが好ましい。犠牲陽極材と心材との電位差を前記特定の範囲とすることにより、心材に対する犠牲防食効果を得つつ、犠牲陽極材自身の腐食速度を低下させることができる。その結果、心材の腐食をより長期間に亘って抑制することができる。
【0041】
犠牲陽極材は、具体的には、心材よりも卑な自然電位を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されていてもよい。犠牲陽極材の化学成分は、心材の化学成分および自然電位に応じて適宜設定すればよい。心材の化学成分が前記特定の範囲内である場合、犠牲陽極材としては、例えば、合金番号A1070で表される化学成分を有するアルミニウムや、合金番号A7072で表される化学成分を有するアルミニウム合金を使用することができる。なお、前記押出管が心材の両面上に犠牲陽極材を有する場合、押出管の外表面に設けられた犠牲陽極材の化学成分と、内表面に設けられた犠牲陽極材の化学成分とは同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0042】
[押出管の構造]
前記押出管の構造は特に限定されることはなく、種々の態様をとり得る。例えば、押出管は、円形や長円形、正方形、長方形などの断面形状を有していてもよい。また、押出管の長さや断面の外寸法は、押出管の用途に応じて適宜設定すればよい。
【0043】
押出管の肉厚は、0.3mm以上10mm以下であることが好ましい。押出管の肉厚を0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上とすることにより、犠牲陽極材の厚みを十分に確保し、犠牲陽極材による心材の犠牲防食効果をより確実に発揮させることができる。また、押出管の肉厚を10mm以下、より好ましくは2.0mm以下とすることにより、熱間押出やその後の冷間加工をより容易に行うことができる。
【0044】
前記押出管における犠牲陽極材のクラッド率は、5%以上20%以下であることが好ましい。なお、前述したクラッド率は、押出管の肉厚に対する犠牲陽極材の厚みの比率を百分率で表した値である。前記押出管が心材の両面上に犠牲陽極材を有する場合、各犠牲陽極材のクラッド率が前記特定の範囲内であることが好ましい。犠牲陽極材のクラッド率を5%以上とすることにより、犠牲陽極材の厚みを十分に確保し、犠牲陽極材による心材の犠牲防食効果をより長期間に亘って維持することができる。また、犠牲陽極材のクラッド率を20%以上とすることにより、心材の厚みを十分に確保し、犠牲陽極材が消耗した場合においても高い強度をより容易に維持することができる。
【0045】
(熱交換器用配管部材)
前記押出管は、前述したように、熱交換器の配管やホースジョイントなどの熱交換器用配管部材として好適な特性を有している。例えば、前記押出管は優れた冷間加工性を有しているため、前記押出管に冷間加工等の二次加工を施すことにより所望の形状を有する熱交換器用配管部材を容易に得ることができる。また、前記押出管は高い強度を有しているため、前記押出管からなる熱交換器用配管部材は耐久性に優れている。さらに、前記押出管は、犠牲陽極材が心材に対する犠牲陽極として機能するため、長期間に亘って心材の腐食を抑制することができる。このように、前記押出管から構成された熱交換器用配管部材は、良好な性能を有しており、例えば自動車に組み込まれる熱交換器などの、過酷な環境において使用される熱交換器にも好適に用いることができる。
【0046】
(アルミニウム合金押出管の製造方法)
前記アルミニウム合金押出管を作製するに当たっては、まず、最終的に心材となる心材用塊と、最終的に犠牲陽極材となる犠牲陽極材用塊とを鋳造する。これらの鋳塊の鋳造方法は特に限定されることはなく、DC鋳造やCC鋳造などの公知の鋳造方法を採用することができる。
【0047】
心材用塊の鋳造原料としては、アルミニウム新地金、中間合金及びアルミニウム廃材を使用することができる。心材用塊の鋳造原料に占めるアルミニウム廃材の比率は10質量%以上とする。これにより、作製時に多量のエネルギーが消費されるアルミニウム新地金の使用量を低減することができる。また、心材用塊は押出管の大部分を占める心材となるため、心材用塊の鋳造に用いるアルミニウム新地金の使用量を低減することにより、前記押出管を作製する際の環境負荷を効果的に低減することができる。押出管を作製する際の環境負荷をより低減する観点からは、心材用塊の鋳造原料に占めるアルミニウム廃材の比率は20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。
【0048】
鋳造原料として使用されるアルミニウム廃材には、例えば、廃棄されたアルミニウム製品、廃棄された製品から分離されたアルミニウム製部品、アルミニウム製品やアルミニウム製部品の製造過程で発生する端材及び切りくず等が含まれる。アルミニウム廃材を鋳造原料として用いる場合には、アルミニウム廃材をそのまま溶解してもよい。また、アルミニウム廃材を切断したり、圧縮したりすることによりアルミニウム廃材のサイズを調整した後に溶解してもよい。さらに、アルミニウム廃材から一旦アルミニウム再生地金を作製した後、アルミニウム再生地金を鋳造原料として使用してもよい。鋳造原料としてアルミニウム再生地金を使用する場合、前述した鋳造原料中のアルミニウム廃材の比率には、アルミニウム再生地金中のアルミニウム廃材の比率が含まれる。
【0049】
アルミニウム廃材を鋳造原料として再利用するに当たっては、化学成分の調整をより容易に行う観点から、予め、アルミニウム廃材に付随した、アルミニウム以外の金属を主成分とする部品を除去することが好ましい。同様の観点から、予め、アルミニウム廃材中に含まれる合金の類似度に応じてアルミニウム廃材を分別しておくことが好ましい。
【0050】
心材用塊の鋳造原料には、Si:0.50質量%以上、Fe:0.10質量%以上、Cu:0.10質量%以上、Mn:0.50質量%以上、Mg:0.05質量%以上、Zn:0.10質量%以上からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含むアルミニウム合金からなるスクラップ、自動車用熱交換器のスクラップまたは自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップのうち少なくとも1種のスクラップが含まれていることが好ましい。これらのスクラップには、前記心材における必須成分が含まれていることが多い。そのため、これらのスクラップを心材用塊の鋳造原料として用いることにより、鋳造原料に占めるアルミニウム新地金の比率を低減しつつ、心材の化学成分をより容易に所望の範囲に調整することができる。
【0051】
なお、前述した自動車用熱交換器のスクラップには、例えば、自動車から回収したアルミニウム製熱交換器やその構成部品等が含まれる。また、自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップには、例えば、Al-Si系合金からなるろう材を含むブレージングシートや、Al-Zn系合金からなる犠牲陽極材を含むクラッド材の端材及びこれらの切りくず等が含まれる。
【0052】
前述したアルミニウム廃材の中でも、特に、自動車用熱交換器のスクラップ及び自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップには、ろう材を構成するAl-Si系合金や、犠牲陽極材を構成するAl-Zn系合金などの多様な化学成分を有するアルミニウム合金が混在していることが多い。それ故、これらのスクラップは、従来、化学成分の調整が比較的容易なアルミニウム合金鋳造材の鋳造原料としては再利用されているものの、自動車用熱交換器等のスクラップを鋳造材に比べて化学成分の調整が難しい展伸材の鋳造原料として再利用することは避けられてきた。
【0053】
これに対し、前記製造方法においては、化学成分を前記特定の範囲とすることにより、化学成分の調整が鋳造材に比べて難しい押出管の心材においても製造性及び機械的特性を向上させることができる。また、前記押出管の心材には、自動車用熱交換器のスクラップ等に含まれる元素を比較的多く添加することができるため、心材の鋳造原料として自動車用熱交換器等のスクラップを容易に利用することができる。それ故、前記製造方法によれば、従来は再利用する際の用途が限られていた自動車用熱交換器等のスクラップを資源としてより有効に活用し、押出管を作製する際の環境負荷をより低減することが期待できる。
【0054】
かかる作用効果をより高める観点からは、鋳造原料に占める、Si:0.50質量%以上、Fe:0.10質量%以上、Cu:0.10質量%以上、Mn:0.50質量%以上、Mg:0.05質量%以上、Zn:0.10質量%以上からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含むアルミニウム合金からなるスクラップの比率と、自動車用熱交換器のスクラップの比率と、自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップの比率との合計が10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
【0055】
犠牲陽極材用塊の鋳造原料は特に限定されることはなく、アルミニウム新地金やアルミニウム再生地金、中間合金及びアルミニウム廃材などを適宜組み合わせることができる。
【0056】
前記押出管の製造方法においては、前記化学成分を有する心材用塊を作製した後、心材用塊を450℃以上620℃以下の温度に2時間以上保持して均質化処理を行う。アルミニウム廃材を含む鋳造原料から鋳造された心材用塊には、アルミニウム廃材中の元素に由来する粗大な晶出物が形成されやすい。心材用塊中に粗大な晶出物が存在する場合であっても、均質化処理における保持温度及び保持時間を前記特定の範囲とすることにより、心材用塊中に存在する粗大な晶出物の分解、粒状化及びAl母相中への再固溶を促進し、心材用塊を十分に均質化することができる。心材用塊中の粗大な晶出物の分解などをより促進する観点からは、均質化処理における保持温度は500℃以上620℃以下であることが好ましい。
【0057】
均質化処理における保持温度が前記特定の範囲よりも低い場合、または、保持時間が前記特定の範囲よりも短い場合には、心材用塊中の晶出物の分解等が不十分となるおそれがある。また、均質化処理における保持温度が前記特定の範囲よりも高い場合には、心材用塊が部分的に溶融するおそれがある。
【0058】
なお、心材用塊の均質化を十分に行う観点からは、均質化処理における保持時間に上限はないが、生産性の観点からは、均質化処理における保持時間を24時間以下とすることが好ましい。
【0059】
前記製造方法においては、均質化処理後の心材用塊を犠牲陽極材用塊と組み合わせることにより、心材用塊と犠牲陽極材用塊とが所望の順序で積層されたクラッド塊を作製する。クラッド塊における心材用塊と犠牲陽極材用塊との積層順序は押出管における心材と犠牲陽極材との積層構造と対応する。従って、クラッド塊においては、心材用塊の少なくとも片面上に犠牲陽極材を配置すればよい。クラッド塊の作製には、鋳造後の犠牲陽極材用塊をそのまま用いてもよいし、均質化処理等を施した後の犠牲陽極材用塊を用いてもよい。犠牲陽極材用塊に対する均質化処理の処理条件は、犠牲陽極材用塊の化学成分等に応じて適宜設定すればよい。
【0060】
心材用塊と犠牲陽極材用塊とを組み合わせた後、クラッド塊に、その温度が400℃以上550℃以下である間に熱間押出を行うことによりアルミニウム合金押出管を得ることができる。熱間押出における押出開始時のクラッド塊の温度が前記特定の範囲よりも低い場合には、熱間押出に必要な圧力が過度に高くなり、熱間押出を行うことが難しくなるおそれがある。また、押出開始時のクラッド塊の温度が前記特定の範囲よりも高い場合には、押出後の押出管に、ムシレ欠陥と呼ばれる、押出管の表面からアルミニウム合金がむしり取られたような欠陥が生じやすくなるおそれがある。
【0061】
熱間押出における押出加工性を確保する観点からは、熱間押出における押出開始時のクラッド塊の温度を420℃以上とすることが好ましく、440℃以上とすることがより好ましい。また、ムシレ欠陥の発生をより効果的に抑制する観点からは、熱間押出における押出開始時のクラッド塊の温度を540℃以下とすることが好ましく、510℃以下とすることがより好ましく、480℃以下とすることがさらに好ましく、470℃以下とすることが特に好ましい。
【0062】
熱間押出における押出方法としては、ポートホール法やマンドレル法などの種々の方法を採用することができる。犠牲陽極材の厚みの偏りをより低減する観点からは、マンドレル法によりクラッド塊の熱間押出を行うことが好ましい。
【0063】
また、熱間押出における押出比、つまり、押出後に得られる押出管の断面積に対する押出前のクラッド塊の断面積の比率は、10以上500以下であることが好ましく、100以上200以下であることがより好ましい。熱間押出における押出比を前記特定の範囲とすることにより、熱間押出に必要な圧力を低下させるとともに、熱間押出中にダイス内においてメタルを十分に溶着させることができる。
【0064】
前記アルミニウム合金押出管の製造方法においては、必要に応じて熱間押出後の押出管に引き抜き加工を施し、押出管の寸法を調整することもできる。また、熱間押出後の押出管や引き抜き加工後の押出管に必要に応じて熱処理を施し、押出管の機械的特性を調整することもできる。例えば、押出管を質別記号Oで表される質別に調質しようとする場合には、熱間押出後の押出管を300℃以上560℃以下の温度に加熱して軟化処理を施せばよい。
【実施例
【0065】
(実施例1)
前記アルミニウム合金押出管及びその製造方法の実施例を以下に説明する。本例のアルミニウム合金押出管は、Si:0.20質量%以上1.2質量%以下、Fe:0質量%超え0.50質量%以下、Cu:0質量%超え0.60質量%以下、Mn:0.50質量%以上1.2質量%以下及びZn:0.001質量%以上0.50質量%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有する心材と、
前記心材の少なくとも片面上に積層され、前記心材よりも卑な自然電位を有する犠牲陽極材と、を有している。
【0066】
本例のアルミニウム合金押出管の作製方法は、例えば以下の通りである。まず、DC鋳造により、表1に示す化学成分(合金記号A1~A2)を有する心材用塊を鋳造した後、心材用塊にマンドレルを挿入するための穴を形成する。心材用塊の形状は、例えば直径90mmの円柱状とすることができる。また、心材用塊の鋳造原料としては、アルミニウム新地金、アルミニウム再生地金、中間合金及びアルミニウム廃材を用いることができる。なお、表1における記号「Bal.」は、当該元素が残部であることを示す。
【0067】
その後、心材用塊を450℃以上620℃以下の温度に2時間以上保持して均質化処理を行う。
【0068】
また、心材用塊とは別に、表1に示す化学成分(合金記号B1)を有する犠牲陽極材用塊を鋳造する。犠牲陽極材用塊は、例えば、内径約90mmの円筒状とすることができる。
【0069】
その後、均質化処理が施された心材用塊を犠牲陽極材用塊の内側に挿入することにより、クラッド塊を作製する。クラッド塊にマンドレルを挿入した後、クラッド塊の温度が450℃である状態で熱間押出を行うことにより、心材と、心材上に被覆され、外表面に露出した犠牲陽極材とを有するアルミニウム合金押出管を得ることができる。
【0070】
(実施例2)
本例では、実施例1における心材及び犠牲陽極材をそれぞれ模擬した条材を作製し、諸特性の評価を行う。具体的には、DC鋳造により、表1に示す化学成分(合金記号A1~A2)を有する心材用塊を鋳造する。その後、表2に示す条件で心材用塊を加熱して均質化処理を施す。これとは別に、DC鋳造により、表1に示す化学成分(合金記号B1)を有する犠牲陽極材用塊を鋳造する。
【0071】
これらの鋳塊の温度が450℃である状態で鋳塊に熱間押出を行うことにより、表2に示すアルミニウム合金からなる幅35mm、厚み3.0mmの条材を作製する。熱間押出後の条材に更に冷間加工を施し、条材の厚みを1.0mmまで減少させる。その後、条材を550℃まで加熱して軟化処理を施すことにより、条材を質別記号Oで表される質別に調質し、表2に示す試験材S1~S3を得ることができる。
【0072】
なお、表2に示す試験材R1~R4は、試験材S1~S2との比較のための試験材である。試験材R1~R4の製造方法は、鋳塊の化学成分および均質化処理における処理条件を表2に示すように変更した以外は、試験材S1~S2の製造方法と同様である。
【0073】
アルミニウム合金押出管の製造性、機械的特性及び耐食性の評価方法は以下の通りである。
【0074】
[製造性]
アルミニウム合金押出管の製造性は、心材用塊を熱間押出する際の押出圧力及び冷間加工後の試験材の外観に基づいて評価することができる。押出圧力は、押出比や押出により得られる断面形状によって変化するため、実用合金との相対比較により評価することが好ましい。表2の「押出圧力」欄における記号「A」は、A3003合金を熱間押出する際の押出圧力に対する前記心材用塊を熱間押出する際の押出圧力の増加率が40%以下であることを示し、記号「B」は押出圧力の増加率が40%を超えることを示す。また、同表の「外観」欄における記号「A」は、試験材を厚み1.0mmまで冷間加工した場合に、冷間加工後の試験材に割れが生じていないことを示し、記号「B」は冷間加工後の試験材に割れが生じたことを示す。なお、犠牲陽極材を模擬した試験材S3については、製造性に及ぼす影響が小さく、製造性の評価が不要であるため「押出圧力」欄及び「外観」欄に記号「-」を記載した。
【0075】
[機械的特性]
アルミニウム合金押出管の機械的特性は、心材用塊からなる試験材の引張強さに基づいて評価することができる。具体的には、各試験材の押出方向における中央部からJIS Z2241:2011に規定された5号試験片を採取した後、JIS Z2241:2011に準拠した方法により試験片の引張試験を行う。そして、引張試験により得られた試験力-変位曲線に基づいて引張強さを算出する。表2に各試験材の引張強さを示す。
【0076】
また、表2の「押出管の引張強さ」欄には、心材の両面に犠牲陽極材が積層されており、各犠牲陽極材のクラッド率が20%である押出管の引張強さを、各試験材の引張強さに基づいて推定した値を記載した。より具体的には、表2の「押出管の引張強さ」欄に記載した値は、心材を模擬した試験材S1~S2、R1~R4の引張強さと、犠牲陽極材を模擬した試験材S3の引張強さとを、犠牲陽極材のクラッド率に基づいて加重平均した値である。
【0077】
[耐食性]
アルミニウム合金押出管の耐食性は、心材と犠牲陽極材との電位差に基づいて評価することができる。具体的には、試験材を切断して自然電位測定用の小片を準備する。この小片の表面に、電解液と接触させる測定部及びポテンショスタットに接続する端子部が露出するようにして電気絶縁性のシーラントを塗布する。
【0078】
シーラントを塗布した小片及び参照電極をポテンショスタットに接続した後、5%NaCl溶液に24時間浸漬し、参照電極を基準とした場合の試験材の自然電位を計測する。表2に、浸漬後18時間経過した時点から24時間経過した時点までの試験材の自然電位の平均値を示す。なお、参照電極としては、例えばAg/AgCl電極を使用することができる。また、表2の「電位差」欄には、心材を模擬した試験材S1~S2、R1~R4の自然電位から犠牲陽極材を模擬した試験材S3の自然電位を差し引いた値、つまり、犠牲陽極材の自然電位を基準とした場合における犠牲陽極材と心材との電位差を示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示すように、試験材S1~S2は前記特定の化学成分を有しているため、熱間押出における押出加工性、冷間加工性、機械的特性及び耐食性に優れている。また、試験材S1~S2にはアルミニウム以外の元素が比較的多く含まれているため、アルミニウム廃材を心材用塊の鋳造原料として使用し、アルミニウム新地金の比率を低減した場合においてもこのような化学成分を容易に実現することができる。
【0082】
一方、試験材R1中のSiの含有量は前記特定の範囲よりも少ないため、試験材R1の引張強さは試験材S1~S2に比べて低い。それ故、試験材R1と同様の化学成分を有する心材を備えたアルミニウム合金押出管は、強度が不十分となるおそれがある。
試験材R2中のMnの含有量は前記特定の範囲よりも少ないため、試験材R2の冷間加工性は試験材S1~S2に比べて劣っている。それ故、試験材R2と同様の化学成分を有する心材を有するアルミニウム合金押出管は、冷間加工後に割れやすくなるおそれがある。
【0083】
試験材R3中のMnの含有量は前記特定の範囲よりも多いため、試験材R3の熱間押出における押出加工性は試験材S1~S2に比べて劣っている。それ故、試験材R3と同様の化学成分を有する心材を用いてアルミニウム合金押出管を作製しようとすると、熱間押出が困難となるおそれがある。
試験材R4中のSiの含有量は前記特定の範囲よりも多いため、試験材R4の冷間加工性は試験材S1~S2に比べて劣っている。それ故、試験材R3と同様の化学成分を有する心材を有するアルミニウム合金押出管は、冷間加工後に割れやすくなるおそれがある。
【0084】
以上、前記アルミニウム合金押出管及びその製造方法の例を実施例に基づいて説明したが、本発明にかかるアルミニウム合金押出管及びその製造方法の具体的な態様は実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。