(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】オレフィン系樹脂多孔質体の製造方法、電池用セパレータの製造方法、および製造装置
(51)【国際特許分類】
C08J 9/12 20060101AFI20240806BHJP
C08J 3/02 20060101ALI20240806BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20240806BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20240806BHJP
【FI】
C08J9/12 CES
C08J3/02 Z
H01M50/417
H01M50/403 A
H01M50/403 F
(21)【出願番号】P 2021197100
(22)【出願日】2021-12-03
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500372717
【氏名又は名称】学校法人福岡工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松延 広平
(72)【発明者】
【氏名】松山 清
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-75980(JP,A)
【文献】特表2009-514690(JP,A)
【文献】国際公開第2008/102643(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/12
C08J 3/02
H01M 50/417
H01M 50/403
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)圧力容器内において、オレフィン系樹脂と溶剤とを混合することにより、高分子溶液を作ること、
(b)二酸化炭素の高圧流体を形成すること、
(c)前記高圧流体の温度を調整すること、
(d)前記圧力容器内において、温度調整後の前記高圧流体と、前記高分子溶液とを混合することにより、混合流体を作ること、
(e)前記混合流体を冷却することにより、前記混合流体の相分離を起こさせること、および、
(f)前記相分離後、前記圧力容器内の圧力を解放することにより、前記溶剤および二酸化炭素を揮発させること、
を含み、
前記高圧流体は、超臨界流体であり、
前記(f)において、前記溶剤および二酸化炭素が揮発することにより、オレフィン系樹脂多孔質体が形成される、
オレフィン系樹脂多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記オレフィン系樹脂多孔質体は、第1細孔構造、第2細孔構造および第3細孔構造からなる群より選択される少なくとも1種を有し、
前記第1細孔構造は、粒子が連結することにより形成されており、
前記第2細孔構造は、三次元網目状であり、前記第2細孔構造においては、複数の泡状気孔が互いに連通しており、
前記第3細孔構造は、三次元網目状であり、前記第3細孔構造においては、複数の前記泡状気孔が互いに独立している、
請求項1に記載のオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法。
【請求項3】
前記(c)は、前記相分離がスピノーダル分解となるように、前記高圧流体の前記温度を調整することを含む、
請求項1に記載のオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法。
【請求項4】
前記(c)は、前記高分子溶液と前記高圧流体との相図において、液相にスピノーダル領域が形成されるように、前記高圧流体の前記温度を調整することを含む、
請求項3に記載のオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法。
【請求項5】
前記スピノーダル領域内において、前記高分子溶液と前記高圧流体との混合比が調整される、
請求項4に記載のオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法。
【請求項6】
前記(c)は、前記オレフィン系樹脂の第1溶解度パラメータと、前記高圧流体の第2溶解度パラメータとの差が5.3以上となるように、前記高圧流体の前記温度を調整することを含む、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法。
【請求項7】
前記オレフィン系樹脂は、ポリエチレンを含み、
前記(c)において、前記高圧流体の前記温度は、50~100℃に調整される、
請求項1に記載のオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法。
【請求項8】
前記オレフィン系樹脂は、ポリプロピレンを含み、
前記(c)において、前記高圧流体の前記温度は、120~150℃に調整される、
請求項1に記載のオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法。
【請求項9】
(A)請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載のオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法により、オレフィン系樹脂多孔質体を製造すること、および、
(B)前記オレフィン系樹脂多孔質体を含む、電池用セパレータを製造すること、
を含む、
電池用セパレータの製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載のオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法を実施するための製造装置であって、
圧力容器と、
圧縮装置と、
温度調整装置と、
を含み、
前記圧縮装置は、二酸化炭素を圧縮することにより、高圧流体を形成するように構成されており、
前記温度調整装置は、前記高圧流体の温度を調整するように構成されており、
前記製造装置は、前記圧力容器内において、温度調整後の前記高圧流体と、高分子溶液とを混合するように構成されている、
製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オレフィン系樹脂多孔質体の製造方法、電池用セパレータの製造方法、および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2016-176061号公報(特許文献1)は、ポリエチレン製多孔質焼結体を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各種のオレフィン系樹脂多孔質体(以下「多孔質体」と略記され得る。)が製造されている。多孔質体の用途に応じて、細孔構造を制御することが求められている。
【0005】
本開示の目的は、細孔構造を制御できるオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【0007】
1.オレフィン系樹脂多孔質体の製造方法は、下記(a)~(f)を含む。
(a)圧力容器内において、オレフィン系樹脂と溶剤とを混合することにより、高分子溶液を作る。
(b)二酸化炭素の高圧流体を形成する。
(c)高圧流体の温度を調整する。
(d)圧力容器内において、温度調整後の高圧流体と、高分子溶液とを混合することにより、混合流体を作る。
(e)混合流体を冷却することにより、混合流体の相分離を起こさせる。
(f)相分離後、圧力容器内の圧力を解放することにより、溶剤および二酸化炭素を揮発させる。
上記(f)において、溶剤および二酸化炭素が揮発することにより、オレフィン系樹脂多孔質体が形成される。
【0008】
オレフィン系樹脂と溶剤とが混合されることにより、高分子溶液が形成され得る。二酸化炭素(CO2)の高圧流体が高分子溶液に混合される。これにより、混合流体が形成される。混合流体においてCO2は貧溶媒である。混合流体が冷却されることにより、相分離が起こる。相分離後、CO2、溶剤が揮発することにより、多孔質体が形成される。相分離の様式によって、細孔構造が変化し得る。
【0009】
本開示の新知見によると、高圧流体(CO2)の温度により、相分離の様式が制御され得る。高圧流体(CO2)の温度により、高圧流体(CO2)と高分子溶液との親和性が変化するためと考えられる。
【0010】
2.オレフィン系樹脂多孔質体は、第1細孔構造、第2細孔構造および第3細孔構造からなる群より選択される少なくとも1種を有していてもよい。
第1細孔構造は、粒子が連結することにより形成される。
第2細孔構造は、三次元網目状である。第2細孔構造においては、複数の泡状気孔が互いに連通している。
第3細孔構造は、三次元網目状である。第3細孔構造においては、複数の泡状気孔が互いに独立している。
【0011】
上記「1」の製造方法においては、例えば、第1~第3細孔構造の作り分けが可能である。例えば、第2細孔構造は、電池用セパレータとして有用である。なお、例えば、第1細孔構造および第2細孔構造の両方を有する多孔質体が形成されてもよい。例えば、第2細孔構造および第3細孔構造の両方を有する多孔質体が形成されてもよい。
【0012】
3.上記(c)は、相分離がスピノーダル分解となるように、高圧流体の温度を調整することを含んでいてもよい。
【0013】
高圧流体の温度により、相分離の様式がスピノーダル分解に制御され得る。スピノーダル分解により、第2細孔構造が形成され得ると考えられる。
【0014】
4.上記(c)は、高分子溶液と高圧流体との相図において、液相にスピノーダル領域が形成されるように、高圧流体の温度を調整することを含んでいてもよい。
【0015】
高圧流体の温度により、高分子溶液と高圧流体との相図が変化し得る。高圧流体の温度により、高分子溶液と高圧流体との親和性が変化するためと考えられる。
【0016】
5.スピノーダル領域内において、高分子溶液と高圧流体との混合比が調整されてもよい。
【0017】
高分子溶液と高圧流体との混合比によっても、相分離の様式が変化し得る。
【0018】
6.上記(c)は、オレフィン系樹脂の第1溶解度パラメータと、高圧流体の第2溶解度パラメータとの差が5.3以上となるように、高圧流体の温度を調整することを含んでいてもよい。
【0019】
オレフィン系樹脂の第1溶解度パラメータと、高圧流体の第2溶解度パラメータとの差が5.3以上になると、第2細孔構造、第3細孔構造が形成されやすい傾向がある。
【0020】
7.オレフィン系樹脂は、ポリエチレンを含んでいてもよい。上記(c)において、高圧流体の温度は、50~100℃に調整されてもよい。
【0021】
オレフィン系樹脂がポリエチレン(PE)を含む時、高圧流体の温度が50~100℃であることにより、第2細孔構造、第3細孔構造が形成されやすい傾向がある。
【0022】
8.オレフィン系樹脂は、ポリプロピレンを含んでいてもよい。上記(c)において、高圧流体の温度は、120~150℃に調整されてもよい。
【0023】
オレフィン系樹脂がポリプロピレン(PP)を含む時、高圧流体の温度が120~150℃であることにより、第2細孔構造、第3細孔構造が形成されやすい傾向がある。
【0024】
9.高圧流体は、超臨界流体であってもよい。
【0025】
10.電池用セパレータの製造方法は、下記(A)および(B)を含む。
(A)オレフィン系樹脂多孔質体の製造方法により、オレフィン系樹脂多孔質体を製造する。
(B)オレフィン系樹脂多孔質体を含む、電池用セパレータを製造する。
【0026】
オレフィン系樹脂多孔質体は、例えば、電池用セパレータとして使用されてもよい。
【0027】
11.製造装置は、圧力容器と圧縮装置と温度調整装置とを含む。圧縮装置は、二酸化炭素を圧縮することにより、高圧流体を形成するように構成されている。温度調整装置は、高圧流体の温度を調整するように構成されている。製造装置は、圧力容器内において、温度調整後の高圧流体と、高分子溶液とを混合するように構成されている。
【0028】
上記「11」の製造装置により、上記「1」のオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法が実施されてもよい。
【0029】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本実施形態におけるオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法の概略フローチャートである。
【
図2】
図2は、本実施形態における製造装置の一例を示す概念図である。
【
図3】
図3は、高分子溶液-高圧流体系の相図である。
【
図4】
図4は、高分子溶液と高圧流体との親和性が高い場合の相図である。
【
図5】
図5は、高分子溶液と高圧流体との親和性が低い場合の相図である。
【
図6】
図6は、本実施形態における電池用セパレータの製造方法の概略フローチャートである。
【
図7】
図7は、No.1~4の多孔質体の電子顕微鏡画像である。
【
図8】
図8は、No.5~8の多孔質体の電子顕微鏡画像である。
【
図9】
図9は、No.9~12の多孔質体の電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<用語の定義等>
本明細書において、「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない要素の付加が許容される。
【0032】
本明細書において、「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならないという意味」ではなく、許容的な意味「する可能性を有するという意味」で使用されている。
【0033】
本明細書において、各種方法に含まれる複数のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その実行順序が記載順序に限定されない。例えば、複数のステップが同時進行してもよい。例えば複数のステップが相前後してもよい。
【0034】
本明細書において、例えば「m~n%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。また「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。さらに数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0035】
本明細書において、全ての数値は用語「約」によって修飾されている。用語「約」は、例えば±5%、±3%、±1%等を意味し得る。全ての数値は、本開示技術の利用形態によって変化し得る近似値であり得る。全ての数値は有効数字で表示され得る。測定値は、複数回の測定における平均値であり得る。測定回数は、3回以上であってもよいし、5回以上であってもよいし、10回以上であってもよい。一般に測定回数が多い程、平均値の信頼性が向上することが期待される。測定値は有効数字の桁数に基づいて、四捨五入により端数処理され得る。測定値は、例えば測定装置の検出限界等に伴う誤差等を含み得る。
【0036】
本明細書における「圧力容器」は、容器の内部および外部の少なくとも一方から圧力を受ける密閉容器を示す。圧力容器は、例えば0.2~50MPaの圧力に耐え得るように構成されていてもよい。
【0037】
本明細書における「融点」は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)曲線における融解ピーク(吸熱ピーク)のピークトップ温度を示す。DSC曲線は、「JIS K 7121」に準拠して測定され得る。
【0038】
本明細書における「高圧流体」は、臨界圧力以上の流体を示す。高圧流体は超臨界流体を含む。「超臨界流体」は、臨界圧力以上かつ臨界温度以上の流体を示す。
【0039】
本明細書における「オレフィン系樹脂」は、アルケンを含むモノマーから合成された高分子材料を示す。オレフィン系樹脂は、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーであってもよい。オレフィン系樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、およびエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0040】
<オレフィン系樹脂多孔質体の製造方法>
図1は、本実施形態におけるオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法の概略フローチャートである。以下「本実施形態におけるオレフィン系樹脂多孔質体の製造方法」が「本製造方法」と略記され得る。本製造方法は、「(a)高分子溶液の作製」、「(b)高圧流体の形成」、「(c)温度調整」、「(d)混合流体の形成」、「(e)相分離」、および「(f)圧力の解放」を含む。
【0041】
《製造装置》
図2は、本実施形態における製造装置の一例を示す概念図である。以下「本実施形態における製造装置」が「本製造装置」と略記され得る。本製造装置100は、例えば、ガスボンベ1、乾燥管2、冷却装置3、フィルタ4、圧縮装置5、第1圧力計6、第1安全弁7、温度調整装置8、逆止弁9、圧力容器10、攪拌装置11、加熱装置12、第2圧力計13、第2安全弁14、および湿式ガス流量計15を含んでいてもよい。さらに本製造装置100は、背圧弁21、第1バルブ22、第2バルブ23、第3バルブ24等をさらに含んでいてもよい。第1バルブ22~第3バルブ24は、それぞれ独立に流路を開閉し得る。本製造装置100において、本製造方法が実施され得る。
【0042】
《(a)高分子溶液の作製》
本製造方法は、圧力容器10内において、オレフィン系樹脂と溶剤とを混合することにより、高分子溶液を作ることを含む。
【0043】
オレフィン系樹脂が準備される。例えば、PE、PP等が準備されてもよい。溶剤は、例えば、オレフィン系樹脂の良溶媒であってもよい。溶剤は、例えば、n-ペンタン等を含んでいてもよい。
【0044】
圧力容器10に、オレフィン系樹脂と溶剤とが投入される。圧力容器10が密閉される。圧力容器10内で、オレフィン系樹脂と溶剤とが混合されることにより、高分子溶液が形成され得る。例えば、攪拌装置11が、オレフィン系樹脂と溶剤とを攪拌することにより、オレフィン系樹脂と溶剤とが混合されてもよい。
【0045】
一般に、オレフィン系樹脂は、溶剤に溶解し難い傾向がある。溶液形成を促進するため、例えば、高温環境において、オレフィン系樹脂と溶剤とが混合されてもよい。例えば、高温かつ高圧環境において、オレフィン系樹脂と溶剤とが混合されてもよい。例えば、加熱装置12が圧力容器10を加熱してもよい。加熱温度は、例えば、オレフィン系樹脂の融点±20℃であってもよい。加熱温度は、例えば90~160℃であってもよい。
【0046】
例えば、オレフィン系樹脂が溶剤に溶解することにより、高分子溶液が形成されてもよい。例えば、オレフィン系樹脂の融液が溶剤と混和することにより、高分子溶液が形成されてもよい。
【0047】
混合比(オレフィン系樹脂の質量に対する、溶剤の質量の比)は、例えば、50~150であってもよいし、50~100であってもよいし、100~150であってもよい。
【0048】
《(b)高圧流体の形成》
本製造方法は、CO2の高圧流体を形成することを含む。例えばCO2(ガス)が充填されたガスボンベ1が準備される。ガスボンベ1がCO2を供給する。CO2は、乾燥管2、冷却装置3を経て、圧縮装置5に供給される。圧縮装置5は、CO2を臨界圧力以上に圧縮する。これにより高圧流体が形成される。
【0049】
《(c)温度調整》
本製造方法は、高圧流体の温度を調整することを含む。本製造方法においては、高圧流体(CO2)の温度により、多孔質体の細孔構造が制御され得る。
【0050】
例えば、温度調整装置8が高圧流体の温度を調整してもよい。温度調整装置8は、高圧流体を加熱してもよいし、冷却してもよい。温度調整装置8は、例えば予熱管、冷却管等を含んでいてもよい。温度調整装置8は、例えば、圧力容器、攪拌装置、加熱装置等を含んでいてもよい。例えば、圧力容器内で高圧流体が攪拌されながら、高圧流体が加熱されてもよい。
【0051】
例えば、高圧流体の温度が室温以上になるように、高圧流体が加熱されてもよい。例えば、高圧流体の温度が20℃を超えるように、高圧流体が加熱されてもよい。例えば、高圧流体の温度が30℃以上になるように、高圧流体が加熱されてもよい。例えば、高圧流体の温度が40℃以上になるように、高圧流体が加熱されてもよい。例えば、高圧流体の温度が50℃以上になるように、高圧流体が加熱されてもよい。
【0052】
例えば、高圧流体の温度が臨界温度(31℃)以上になるように、高圧流体が加熱されてもよい。高圧流体が臨界温度以上になることにより、超臨界流体が形成され得る。
【0053】
《(d)混合流体の形成》
本製造方法は、圧力容器10内において、温度調整後の高圧流体と、高分子溶液とを混合することにより、混合流体を作ることを含む。
【0054】
高圧流体が圧力容器10内に導入されることにより、圧力容器10内が加圧される。圧力容器10内の圧力は、7.38MPa(CO2の臨界圧力)以上に調整される。圧力容器10内の圧力は、例えば10~20MPaに調整されてもよい。
【0055】
圧力容器10内において、高圧流体と高分子溶液とが混合されることにより、混合流体が作られる。例えば、攪拌装置11が混合流体を攪拌してもよい。混合流体において、高圧流体(CO2)は貧溶媒である。
【0056】
《(e)相分離》
本製造方法は、混合流体を冷却することにより、混合流体の相分離を起こさせることを含む。例えば、水冷式チラー(不図示)により圧力容器10が冷却されてもよい。圧力容器10の温度は、例えば15~25℃に冷却される。圧力容器10の温度が15~25℃に到達した後、15~25℃の温度が、例えば20~40分間維持される。これにより、混合流体の相分離が進行する。
【0057】
《(f)圧力の解放》
本製造方法は、相分離後、圧力容器10内の圧力を解放することにより、溶剤およびCO2を揮発させることを含む。例えば、圧力の解放前に、加熱装置12が圧力容器10を40~60℃に加熱してもよい。圧力の解放前に、圧力容器10が加熱されることにより、ドライアイスの生成が低減され得る。ドライアイスが生成すると、細孔構造が損傷する可能性がある。
【0058】
圧力容器10の加熱後、圧力容器10内が徐々に減圧される。減圧時間は、例えば10~30分であってもよい。減圧の過程で、溶剤およびCO2が揮発することにより、多孔質体が形成される。圧力容器10内が平衡状態に到達した後、多孔質体が回収され得る。例えば、圧力容器10内が大気圧、かつ室温(10~30℃)に到達した後、多孔質体が回収されてもよい。
【0059】
以上より多孔質体が製造される。多孔質体は任意の形態を有し得る。多孔質体は、例えば膜状であってもよいし、ブロック状であってもよいし、球状であってもよい。多孔質体が膜状である時、多孔質体は、例えば1μm~10mmの厚さを有していてもよい。多孔質体の厚さは、例えば、オレフィン系樹脂の仕込み量、溶剤の仕込み量、および圧力容器10内の底面の面積等により調整され得る。
【0060】
《細孔構造の制御》
本製造方法においては、多孔質体の細孔構造が制御され得る。
【0061】
図3は、高分子溶液-高圧流体系の相図である。
図3~5において、「高分子溶液の質量分率」は、高分子溶液と高圧流体との合計質量に対する、高分子溶液の質量分率を示す。例えば、高分子溶液の質量分率が1である時、系は高分子溶液の単一相となる。例えば、高分子溶液の質量分率が0(ゼロ)である時、系は高圧流体の単一相となる。
【0062】
図3中、混合流体(1相領域)が冷却されることにより、固体が形成される。固体の形成過程で、各種の相分離が起こることにより、細孔構造が制御され得る。
【0063】
例えば、第1線L1に沿って混合流体が冷却される。混合流体はバイノーダル線とスピノーダル線とに挟まれた領域を経由して、固体化する。該領域においては、核生成-成長型の分解が起こると考えられる。第1線L1上においては、高分子溶液の質量分率が低い。すなわち高圧流体(貧溶媒)が相対的に多い。高分子の核生成が優先されることにより、球晶構造が形成される。これにより第1細孔構造が形成される。第1細孔構造は、粒子が連結することにより形成される。
【0064】
例えば、第2線L2に沿って混合流体が冷却される。混合流体は、スピノーダル線と凝固線(結晶化温度)とに囲まれた領域(スピノーダル領域)を経由して、固体化する。スピノーダル領域においては、スピノーダル分解(液液相分離)が起こると考えられる。スピノーダル分解により、変調構造が形成され得る。これにより第2細孔構造が形成される。第2細孔構造は、三次元網目状である。第2細孔構造においては、複数の泡状気孔が互いに連通している。第2細孔構造は、例えば、電池用セパレータに好適であると考えられる。
【0065】
例えば、第3線L3に沿って混合流体が冷却される。混合流体はバイノーダル線とスピノーダル線とに挟まれた領域を経由して、固体化する。該領域においては、核生成-成長型の分解が起こると考えられる。第3線L3上においては、高分子溶液の質量分率が高い。すなわち高分子が相対的に多い。貧溶媒の核生成が優先されることにより、海島構造が形成される。これにより第3細孔構造が形成される。第3細孔構造は、三次元網目状である。第3細孔構造においては、複数の泡状気孔が互いに独立している。第3細孔構造は、発泡体の細孔構造に類似し得る。
【0066】
例えば、第4線L4に沿って混合流体が冷却される。混合流体は、バイノーダル線と交差せず、固体化する。第4線L4上においては、高分子溶液の質量分率が最も高い。ここでは、粒子凝集体が形成され得る。粒子凝集体は、例えばカリフラワー状の外観を有し得る。
【0067】
例えば、スピノーダル領域内において、高分子溶液と高圧流体との混合比が調整されることにより、第2細孔構造が選択的に形成され得る。
【0068】
混合系の相図は、高圧流体(CO2)の温度により制御され得る。高圧流体の温度により、高圧流体と、高分子溶液との親和性が変化するためと考えられる。親和性は、例えば、溶解度パラメータにより評価され得る。
【0069】
例えば、n-ペンタン(溶剤)の溶解度パラメータ(δ0)は、14.2(MPa)0.5であり得る。例えば、PE(オレフィン系樹脂)の第1溶解度パラメータ(δ1)は、16.3(MPa)0.5であり得る。高分子溶液において、オレフィン系樹脂と溶剤との親和性は高いと考えられる。
【0070】
例えば、20℃、15MPaのCO2が高圧流体として使用される。CO2(20℃、15MPa)の第2溶解度パラメータ(δ2)は、14.2(MPa)0.5であり得る。第1溶解度パラメータ(δ1)と第2溶解度パラメータ(δ2)との差が小さいため、混合流体において、高分子溶液と高圧流体(CO2)との親和性は、相対的に高いと考えられる。
【0071】
図4は、高分子溶液と高圧流体との親和性が高い場合の相図である。高分子溶液と高圧流体との親和性が高い場合、バイノーダル線およびスピノーダル線は、凝固線よりも低温側に位置する。そのため、液液相分離が起こらず、固液相分離が起こる。固液相分離により、第1細孔構造(球晶構造)が形成されると考えられる。
【0072】
例えば、100℃、15MPaのCO2が高圧流体として使用される。CO2(100℃、15MPa)の第2溶解度パラメータ(δ2)は、5.3(MPa)0.5であり得る。第1溶解度パラメータ(δ1)と第2溶解度パラメータ(δ2)との差が大きいため、高分子溶液と高圧流体(CO2)との親和性は、相対的に低いと考えられる。
【0073】
図5は、高分子溶液と高圧流体との親和性が低い場合の相図である。高分子溶液と高圧流体との親和性が低くなることにより、液相にバイノーダル線およびスピノーダル線が現れる。すなわちスピノーダル領域が形成される。スピノーダル領域内において、液液相分離が起こることにより、第2結晶構造(変調構造)が形成されると考えられる。すなわち、高圧流体の温度が調整されることにより、液相にスピノーダル領域が形成され得る。高圧流体の温度が調整されることにより、相分離がスピノーダル分解になり得る。
【0074】
なお、高圧流体(CO2)の温度上昇により、溶解度パラメータが低下する理由は、温度上昇により、密度が低下するためと考えられる。例えば、CO2(20℃、15MPa)は、903kg/m3の密度を有し得る。例えば、CO2(100℃、15MPa)は、332kg/m3の密度を有し得る。
【0075】
<電池用セパレータの製造方法>
多孔質体は、任意の用途で使用され得る。多孔質体は、例えば電池用セパレータ(以下「セパレータ」と略記され得る。)として使用されてもよい。
【0076】
図6は、本実施形態における電池用セパレータの製造方法の概略フローチャートである。セパレータの製造方法は、「(A)多孔質体の製造」および「(B)セパレータの製造」を含む。
【0077】
《(A)多孔質体の製造》
セパレータの製造方法は、本製造方法により、多孔質体を製造することを含む。本製造方法の詳細は、前述のとおりである。
【0078】
《(B)セパレータの製造》
セパレータの製造方法は、多孔質体を含むセパレータを製造することを含む。セパレータは、電気絶縁性の多孔質膜である。例えば、多孔質体に切断、延伸、圧縮等の各種加工が施されることにより、セパレータが製造されてもよい。例えば、多孔質体が膜状である時、複数枚の多孔質体が積層されることにより、多層構造のセパレータが製造されてもよい。例えば、多孔質体の表面に、セラミック材料が塗布されることにより、セパレータが製造されてもよい。セパレータは、例えば1~100μmの厚さを有していてもよいし、10~50μmの厚さを有していてもよい。
【0079】
セパレータは、例えばリチウムイオン電池用であってもよい。多孔質体は、例えば第2細孔構造(三次元網目状、連通孔)を有していてもよい。多孔質体が第2細孔構造を有することにより、例えば、電池抵抗の低減が期待される。
【0080】
多孔質体は、例えばPEを含んでいてもよい。多孔質体がPEを含むことにより、例えば、セパレータにシャットダウン機能が付与され得る。シャットダウン機能とは、電池温度が上昇した際、細孔が閉塞することにより、イオン伝導を遮断する機能である。多孔質体は、例えばPPを含んでいてもよい。多孔質体がPPを含むことにより、セパレータに機械的強度、電気化学的安定性等が付与され得る。
【実施例】
【0081】
<使用材料>
本実施例においては、下記材料が使用された。
低密度ポリエチレン:ペトロセン(登録商標)、東ソー社製
グレード 353
メルトマスフローレイト 145g/10min
密度 915kg/m3
溶融温度 98℃
ホモポリプロピレン:プライムポリプロ(登録商標)、プライムポリマー社製
グレード J137G
メルトマスフローレイト 30g/10min
密度 915kg/m3
n-ペンタン:CAS No.109-66-0
【0082】
<オレフィン系樹脂多孔質体の製造>
以下のようにNo.1~12に係る多孔質体が製造された。
【0083】
《No.1》
図2の本製造装置100が準備された。圧力容器10に、0.06gのPE(オレフィン系樹脂)と、3.0gのn-ペンタン(溶剤)とが封入された。加熱装置12が圧力容器10を95℃に加熱した。
【0084】
ガスボンベ1がCO2(ガス)を供給した。圧縮装置5がCO2を圧縮することにより高圧流体が形成された。温度調整装置8が高圧流体の温度を20℃に調整した。
【0085】
温度調整後の高圧流体が圧力容器10に導入された。高圧流体は、圧力容器10内の圧力が15MPaになるように、供給された。
【0086】
水冷式チラーが圧力容器10を20℃まで冷却した。20℃に到達後、20℃付近の温度が30分間維持された。
【0087】
加熱装置12が圧力容器10を50℃に加熱した。加熱後、圧力容器10が徐々に減圧された。減圧時間は20分であった。
【0088】
圧力容器10内が大気圧かつ室温に到達した時点で、多孔質体が回収された。以上より多孔質体が製造された。
【0089】
《No.2~4》
下記表1に示されるように、高圧流体の温度が変更されることを除いては、No.1と同様に多孔質体が製造された。
【0090】
《No.5~8》
下記表1に示されるように、材料の仕込み量、および高圧流体の温度が変更されることを除いては、No.1と同様に多孔質体が製造された。
【0091】
《No.9~12》
下記表1に示されるように、オレフィン系樹脂の種類、材料の仕込み量、および高圧流体の温度が変更されることを除いては、No.1と同様に多孔質体が製造された。
【0092】
【0093】
<結果>
図7は、No.1~4の多孔質体の電子顕微鏡画像である。No.1~4において、高圧流体(CO
2)の温度が上昇することにより、細孔構造が変化する傾向が見られる(上記表1参照)。
【0094】
No.1の多孔質体は、第1細孔構造を有する(
図7参照)。第1細孔構造(球晶構造)は、粒子が連結することにより形成されている。
【0095】
No.2、3の多孔質体は、第2細孔構造を有する(
図7参照)。第2細孔構造は、三次元網目状である。第2細孔構造においては、複数の泡状気孔が互いに連通している。すなわち第2細孔構造は連通孔を含む。泡状気孔のサイズにばらつきがある点が特徴的である。
【0096】
No.4の多孔質体は、第3細孔構造を有する(
図7参照)。第3細孔構造は、三次元網目状である。第3細孔構造においては、複数の泡状気孔が互いに独立している。すなわち第3細孔構造は独立孔を含む。
【0097】
No.1~4の各多孔質体に、1.1kgのステンレス鋼(SUS)プレートが載せられた。20秒経過後、各多孔質体の状態が目視により確認された。No.1(球晶)は、膜形状を維持できず、バラバラになっていた。粒子同士の結合が弱く、脆いためと考えられる。No.2~No.4(網目状)は、膜形状を維持していた。
【0098】
図8は、No.5~8の多孔質体の電子顕微鏡画像である。No.5の多孔質体においては、第1細孔構造および第2細孔構造の両方の特徴がみられる(
図7参照)。
【0099】
オレフィン系樹脂の第1溶解度パラメータ(δ1)と高圧流体の第2溶解度パラメータ(δ2)との差(δ1-δ2)が、5.3(MPa)0.5以上である時、第2細孔構造、第3細孔構造が形成されやすい傾向が見られる(上記表1参照)。
【0100】
オレフィン系樹脂がPEである時、溶解度パラメータの差(δ1-δ2)は、例えば、6.8(MPa)0.5以上であってもよい。溶解度パラメータの差(δ1-δ2)は、例えば、11(MPa)0.5以下であってもよいし、8.7(MPa)0.5以下であってもよい。
【0101】
オレフィン系樹脂がPEである時、高圧流体の温度が50~100℃に調整されることにより、第2細孔構造、第3細孔構造が形成されやすい傾向がみられる(上記表1参照)。
【0102】
オレフィン系樹脂がPEである時、高圧流体の温度は、例えば60℃以上であってもよいし、65℃以上であってもよい。オレフィン系樹脂がPEである時、高圧流体の温度は、例えば75℃以下であってもよいし、70℃以下であってもよい。高圧流体の温度が75℃以下であることにより、第2細孔構造が形成されやすい傾向が見られる(上記表1参照)。
【0103】
図9は、No.9~12の多孔質体の電子顕微鏡画像である。オレフィン系樹脂がPPである時、高圧流体の温度が120~150℃に調整されることにより、第2細孔構造、第3細孔構造が形成されやすい傾向がみられる(上記表1参照)。
【0104】
オレフィン系樹脂がPPである時、高圧流体の温度は、例えば、130℃以上であってもよいし、140℃以上であってもよい。高圧流体の温度が130℃以上であることにより、第2細孔構造が形成されやすい傾向が見られる(上記表1参照)。オレフィン系樹脂がPPである時、高圧流体の温度は、例えば150℃以下であってもよい。
【0105】
オレフィン系樹脂がPPである時、溶解度パラメータの差(δ1-δ2)は、例えば、13.9~14.3(MPa)0.5であってもよい。
【0106】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0107】
1 ガスボンベ、2 乾燥管、3 冷却装置、4 フィルタ、5 圧縮装置、6 第1圧力計、7 第1安全弁、8 温度調整装置、9 逆止弁、10 圧力容器、11 攪拌装置、12 加熱装置、13 第2圧力計、14 第2安全弁、15 湿式ガス流量計、21 背圧弁、22 第1バルブ、23 第2バルブ、24 第3バルブ、100 製造装置、L1 第1線、L2 第2線、L3 第3線、L4 第4線。