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  • 特許-フルフラールの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】フルフラールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/50 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
C07D307/50
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021516671
(86)(22)【出願日】2019-09-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2019075542
(87)【国際公開番号】W WO2020064641
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】18196303.4
(32)【優先日】2018-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515217432
【氏名又は名称】アーバフレイム テクノロジー エイ・エス
【氏名又は名称原語表記】Arbaflame Technology AS
【住所又は居所原語表記】Grasmo, N-2235 Matrand, Norway
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ルネ ブルスレット
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03184518(EP,A1)
【文献】国際公開第89/010362(WO,A1)
【文献】特開昭62-010078(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02537841(EP,A1)
【文献】国際公開第2013/025564(WO,A2)
【文献】国際公開第00/047569(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/102002(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/102000(WO,A1)
【文献】米国特許第02862008(US,A)
【文献】ロシア国特許出願公開第02113436(RU,A)
【文献】国際公開第00/063488(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/CASREACT/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルフラールを製造する方法であって、以下の工程:
(i)リグノセルロース系材料に由来するバイオマス材料を反応容器中に用意する工程、
(ii)前記反応容器中の圧力を、高められた圧力pに調節し、かつ前記反応容器中の温度を、高められた温度Tに調節する工程、
(iii)前記圧力p及び/又は前記温度Tを、所定の期間tにわたって維持する工程、
(iv)前記反応容器中の圧力を、高められた圧力pに調節し、及び/又は前記反応容器中の温度を、高められた温度Tに調節する工程、
(v)任意に、前記圧力p及び/又は前記温度Tを、所定の期間tにわたって維持する工程、
(vi)前記反応容器を開ける工程、及び
(vii)任意に、固体生成物を、前記反応容器中に存在する反応混合物から分離する工程
を含み、ここで、前記圧力pは、前記圧力pよりも高く、
前記反応容器中の圧力をp に調節することを、1~15bar/minの速度で実施し、
工程(vi)において前記反応容器を開けることを、前記反応容器を40~100bar/minの速度で放圧して制御し、
前記圧力p が、1barを上回り、
前記温度T が、150℃~280℃の範囲であり、
前記の所定の期間t が、500~700sであり、
前記圧力p が、1bar超~50barの範囲内であり、
前記温度T が、100℃~250℃の範囲であり、
前記の所定の期間t が、0~800sであり、かつ
フルフラールを含有する蒸気流を、工程(iii)、(iv)、(v)及び/又は(vi)中に抜き出し、かつ凝縮物の形で捕集する、前記方法。
【請求項2】
前記リグノセルロース系材料が、木、わら、のこくず、トウモロコシの穂軸、トウモロコシの皮、コーンストーバー、草、綿実殻、スイッチグラス、ダンチク(Arundo Donax)、古紙、サトウキビバガス、モロコシ、モロコシ茎残渣、パーム果房、又はそれらの混合物である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記圧力p、2~50barの範囲内である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応容器中の圧力をpに調節することを、1~15bar/minの速度で実施する、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記温度T、180℃~230℃の範囲である、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記温度T、150℃~200℃の範囲である、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(i)がさらに、前記反応容器中に触媒を用意することを含む、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒が、酸性化合物及びそれらの混合物から、及び/又はハロゲン化物塩から、選択される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記触媒が、ドライバイオマス材料1kgあたり5molまでの濃度で存在する、請求項又はに記載の方法。
【請求項10】
工程(ii)が、加圧水蒸気を前記反応容器に導入することを含む、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記反応器の付加的な内部又は外部の加熱を、工程(iii)において実施しない、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記圧力p、2~30barの範囲内である、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記の所定の期間t、10~500sである、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記反応容器中の圧力をpに調節することを、5~10bar/minの速度で実施する、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(ii)~(v)を、工程(vi)において前記反応容器を開ける前に、数回繰り返す、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
工程(vi)において前記反応容器を開けることを、前記反応容器を40~70bar/minの速度で放圧して制御する、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
工程(vi)後の前記反応容器中に存在する固体生成物が、前記の乾燥固体生成物に関して、0~2質量%の範囲内のペントースの濃度を有する、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
工程(vi)後の前記反応容器中に存在する固体生成物が、約30~95質量%の残留水分を有する、請求項1から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記バイオマス材料が、約30~80質量%の残留水分を有する、請求項1から18までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記方法を、酸素又は酸素供与体の存在下で、特に乾燥されたバイオマス材料1kgあたりO又はO等価物0.01~0.50molの濃度で、実施する、請求項1から19までのいずれか1項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高められた圧力及び温度でのバイオマス材料の処理を含む、バイオマス材料からフルフラール及び任意にさらなる基礎化学品を製造する方法、本発明の方法により得られる凝縮物及び固体生成物、並びにそれらの使用に関する。
【0002】
原料用の天然資源及び特に再生可能資源は、化石材料の資源の急速な縮小を考慮して、大いに興味がある。したがって、有望なアプローチは、大量に必要とされる基礎化学品又は燃料の製造用の出発物質として、再生可能なバイオマス材料に頼っている。
【0003】
天然資源から製造することができる多用途な基礎化学品は、フルフラールである。フルフラールは、重要な基礎化学品、例えばフラン、テトラヒドロフラン又はフルフリルアルコールの出発点であり、ひいては、複素環式化合物、医薬及び天然物化学の分野における多くの合成の基礎を形成する。さらに、熱硬化性複合材料、セメント、接着剤及びコーティング中に見出すことができるフラン樹脂は、フルフラールに戻る。
【0004】
フルフラールを得るための普通の方法は、C糖の酸触媒された脱水である。米国特許出願公開第2014/0171664号明細書(US 2014/0171664)には、リグノセルロース系供給原料と硫酸との混合物を第1の所定の温度に加圧水蒸気により加熱し、続いて圧力及び温度を減少させるのを繰り返すサイクルを含むプロセスが開示されている。複数の反応サイクル、例えば6~8サイクルが、受け入れられる収率のフルフラールを提供するのに必要である。
【0005】
国際公開第00/47569号(WO 00/47569)には、任意に酸性化されたバイオマス材料を加圧水蒸気により加熱し、続いてその反応混合物を連続的な沸騰下で放圧することを含むプロセスが開示されている。そのフルフラール収率は、該反応器中の加圧水蒸気の継続的な導入によるか、又は加圧、続いて放圧のサイクルを繰り返すことによるかのいずれかにより、増加される。
【0006】
当該分野において公知のプロセスの大きな問題点は、受け入れられる収率のフルフラールを得るために複数のプロセスサイクルの必要性である。増大した数の反応サイクルは通常、より長い反応時間、より高いエネルギー消費、絶えず変わる圧力負荷による該反応器の増大した材料摩耗、ひいては、著しくより高い製造コストを引き起こす。
【0007】
したがって、本発明の課題は、フルフラールを製造する改良法の提供であった。驚くべきことに、バイオマス材料を、高められた圧力及び温度で、ある特定の期間にわたって維持することが、より短い時間で著しく増大した生成物収率の結果となることが見出された。そのうえ、本発明によるプロセスは、費用のかかる再加圧及び再加熱工程を回避することにより、より少ないエネルギーを必要とし、かつ装置の要件をより少なくする。さらに、該反応の固体残留物は、さらに加工されて、付加的な基礎化学品又は燃料を得ることができ、又は燃焼プロセスにおいて使用することができ、そのために該バイオマス出発物質の価値連鎖を著しく拡大させる。
【0008】
本発明は、フルフラールを製造する方法に関し、前記方法は、以下の工程:
(i)バイオマス材料を反応容器中に用意する工程、
(ii)該反応容器中の圧力を、高められた圧力pに調節し、かつ該反応容器中の温度を、高められた温度Tに調節する工程、
(iii)該圧力p及び/又は該温度Tを、所定の期間tにわたって維持する工程、
(iv)該反応容器中の圧力を、高められた圧力pに調節し、及び/又は該反応容器中の温度を、高められた温度Tに調節する工程、
(v)任意に、該圧力p及び/又は該温度Tを、所定の期間tにわたって維持する工程、
(vi)該反応容器を開ける工程、及び
(vii)任意に、固体生成物を、該反応容器中に存在する反応混合物から分離する工程
を含み、
ここで、該圧力pは、該圧力pよりも高く、かつ
フルフラールを含有する蒸気流を、工程(iii)、(iv)、(v)及び/又は(vi)中に抜き出し、かつ凝縮物の形で捕集する。
【0009】
工程(i)において、バイオマス材料は、反応容器中に用意される。該バイオマス材料は、生物学的材料、例えば植物又は植物由来材料、例えばバイオマス材料からの加工品、副生物、残渣又は廃棄物を含んでいてよい。該バイオマス材料は、異なるタイプのバイオマスの混合物を含んでいてよく、又は単一のタイプのバイオマスであってよい。該バイオマス材料は、フレッシュバイオマス、すなわち、自然に含まれる水の少なくとも一部を含有するバイオマス、ドライバイオマス、又はその混合物であってよい。該バイオマス材料は、リグノセルロース系材料及び/又は藻類に由来していてよく、かつ特に、木、わら、のこくず、トウモロコシの穂軸、トウモロコシの皮、コーンストーバー、草、綿実殻、スイッチグラス、ダンチク(Arundo Donax)、古紙、サトウキビバガス、モロコシ、モロコシ茎残渣、パーム果房、又はそれらの混合物から選択される。好ましい実施態様において、該バイオマス材料は、単糖類及び/又はオリゴ糖類、例えば単糖モノマー単位2~10個を有するものを含有しない。
【0010】
該バイオマス材料の残留水分は、少なくとも20質量%、例えば約30~80質量%、好ましくは約30~40質量%、及び特に約35質量%であってよい。
【0011】
該反応容器は、例えば圧力下での水蒸気用の、入口、及び例えば蒸気流用の、出口を有して構成され、その際に、該入口及び出口は、該反応器内の圧力を制御するための1つ以上の弁を包含する。さらに、該反応容器は、該容器内容物を排出するための底部弁を有していてよい。
【0012】
一実施態様において、本発明による方法は、触媒なしで実施される。別の実施態様において、工程(i)はさらに、該反応容器中に触媒を用意することを含む。該触媒は、酸性化合物、例えば硫酸、塩酸、リン酸、有機酸、例えば酢酸又はギ酸、及びそれらの混合物から、及び/又はハロゲン化物塩、例えば金属塩化物から、選択されてよい。該ハロゲン化物塩は元来、該バイオマス材料中に、その製造、運搬又は前処理の結果として生じ得る。該触媒は、好ましくは、塩酸及び硫酸から選択されていてよい。好ましい実施態様において、該酸性化合物は、溶液で用意される。該触媒は、ドライバイオマス材料1kgあたり5molまで、好ましくはドライバイオマス材料1kgあたり0.01~5mol、より好ましくはドライバイオマス材料1kgあたり0.1~2molの濃度で存在していてよい。
【0013】
本発明による方法は、酸素、酸素を含むガス、酸素供与体及びそれらの混合物の存在下で実施されてよく、特に好ましいのは、酸素及び酸素を含むガス、例えば(圧縮)空気である。“酸素供与体”は、化学的又は熱的な処理後に酸素(O)を放出する化合物、例えば過酸化物、特に過酸化水素又はその水溶液であってよい。好ましくは、本発明の方法は、空気に由来する酸素の存在下で実施されてよい。
【0014】
本発明の方法は、乾燥されたバイオマス材料1kgあたり0.01~0.50molの範囲内、好ましくは乾燥されたバイオマス材料1kgあたり0.05~0.30molの範囲内のO又はO等価物の濃度で好ましくは実施される。“O等価物”は、O供与体に由来する理論量のOを意味する。
【0015】
工程(ii)において、該反応容器中の圧力は、高められた圧力pに調節され、かつ該反応容器中の温度は、高められた温度Tに調節される。所定の圧力pは、>1bar、例えば2~50bar、好ましくは10~30bar、より好ましくは15~25bar、及び最も好ましくは19~21barの範囲内であってよい。圧力調節は、例えば1~15bar/min及び好ましくは2~7bar/minの速度で実施される。
【0016】
該温度Tは、周囲温度を上回り(すなわち20℃を上回り)、かつ好ましくは150℃~280℃、より好ましくは180℃~230℃の範囲である。工程(ii)において該反応容器中の該圧力及び該温度を調節することは、加圧水蒸気を該反応容器中に導入することを含んでいてよい。該容器中に導入される加圧水蒸気の量は、個々の反応条件、例えば前記の所定の温度T、前記の所定の圧力p、該反応容器中のバイオマス材料の量及びタイプ又は用意されたバイオマスの残留水分に依存する。
【0017】
本発明の意味での“調節する”又は“調節”は、あるパラメーター、例えば圧力、時間及び/又は温度を能動的に制御することを意味する。
【0018】
工程(iii)において、該圧力p及び/又は該温度Tは、所定の期間tにわたって維持される。一実施態様において、該圧力pは、所定の期間tにわたって維持される。別の実施態様において、該温度Tは、所定の期間tにわたって維持される。さらに別の実施態様において、該圧力p及び該温度Tの双方とも、所定の期間tにわたって維持される。好ましい実施態様において、該圧力p及び任意に該温度Tは、所定の期間tにわたって維持される。前記の所定の期間tは、例えば1800sまで、好ましくは1~1800s、より好ましくは1~1000s、よりいっそう好ましくは100~700s及び最も好ましくは500~700sである。
【0019】
副反応は、特に酸素の存在下で実施される場合に工程(iii)において生じうることが見出された。該バイオマス材料の副反応は、その反応収率に影響を及ぼすことなく、該反応容器中の該圧力p及び/又は該温度Tの内因的な維持を可能にする。このようにして、例えば付加的に導入される加圧水蒸気、該反応容器の外部加熱又は該反応サイクルの繰り返しの形の、付加的なエネルギー供給は必要ない。したがって、好ましくは、該反応器の付加的な内部又は外部の加熱、例えば該反応容器中への加圧水蒸気の導入は、工程(iii)において実施されない。
【0020】
工程(iii)における該圧力及び/又は該温度を維持することは、蒸気流を該反応容器から抜き出すことを含むことができる。前記のフルフラールを含む蒸気流を、凝縮物の形で捕集することができる。
【0021】
該出発物質中に含まれるフルフラールとキシロースとの間の反応のために収率損失を観測した従来技術の教示に反して、本発明により工程(iii)において圧力及び/又は温度を維持することは、驚くべきことに、改善された反応収率の結果となることが見出された。驚くべきことに、フルフラールの最大の反応収率を達成するために、1を超える反応サイクルを実施する必要がなかった。
【0022】
したがって、フルフラールを製造する改良法が、例えば低下した総括エネルギー消費、低下した反応時間、フルフラールの増大した収率及び該反応器の強く低下した材料摩耗に関して、本明細書において提供される、それというのも、該反応は、すでに、単一の反応サイクルにおいて完了され得るからである。
【0023】
工程(iv)において、該反応容器中の圧力は、高められた圧力pに調節され、及び/又は該反応容器中の温度は、高められた温度Tに調節される。好ましい実施態様において、該反応容器中の該圧力は、所定の圧力pに調節され、ここで、該圧力pは、該圧力pよりも高い。該圧力pは、>1~50bar、好ましくは2~30bar、より好ましくは5~15barの範囲内、及び最も好ましくは約9barである。該反応容器中の該圧力をpに調節することは、1~15bar/min、好ましくは5~10bar/minの速度で実施されてよく、かつ例えば、蒸気流を該反応容器から抜き出すことにより、実施される。
【0024】
別の実施態様において、該反応容器中の温度は、高められた温度Tに調節され、ここで、該温度T1は、該温度Tよりも高い。該温度Tは、周囲温度を上回り(すなわち20℃を上回り)、かつ好ましくは、100℃~250℃、より好ましくは150℃~200℃の範囲である。
【0025】
さらに別の実施態様において、該反応容器中の圧力は、高められた圧力pに調節され、ここで、該圧力pは、該圧力pよりも高く、かつ該反応容器中の温度は、高められた温度Tに調節され、ここで、該温度Tは、該温度Tよりも高い。工程(iv)において該圧力及び/又は該温度を調節することは、フルフラールを含む蒸気流を該反応容器から抜き出すことを含むことができる。該蒸気流は、凝縮物の形で捕集することができる。
【0026】
任意の工程(v)において、該圧力p及び/又は該温度Tは、所定の期間tにわたって維持される。該期間tは、800sまで、好ましくは1~800s、より好ましくは10~500s、よりいっそう好ましくは50~250s及び最も好ましくは約100sである。該圧力p及び/又は該温度Tを、所定の期間tにわたって維持することは、フルフラールを含む蒸気流を該反応容器から抜き出すことを含んでいてよい。該蒸気流は、凝縮物の形で捕集することができる。
【0027】
任意に、工程(ii)~(v)は、工程(vi)における該反応容器を開ける前に、数回、例えば1~10回、繰り返すことができる。
【0028】
工程(vi)において該反応容器を開けることは、該反応容器を、例えば10~100bar/min、好ましくは40~70bar/minの速度で、放圧することで制御され得る。該反応容器を開ける最中に、フルフラールを含む蒸気流を、該反応容器から抜き出し、例えば凝縮物の形で、捕集することができる。
【0029】
任意の工程(vii)において、固体生成物は、該反応容器中に存在する反応混合物から分離される。該固体生成物の残留水分は、約30~95質量%、好ましくは約35~45質量%の範囲であってよく、かつ特に約40質量%である。該固体生成物は、最初に含まれていたペントース糖の、より低分子量の化合物、例えばフルフラールへの実質的に完全な転化を示す。本明細書の意味での実質的に完全な転化は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%の全ペントース糖含有率の低下に相当する。該固体生成物は、前記の乾燥固体生成物に関して、0~2質量%、好ましくは0~0.5質量%の範囲内のペントース、例えばアラビノース及びキシロースの濃度を有することができる。該固体生成物中の低いペントース濃度は、本発明による改善された反応収率のさらなる証拠を与える。
【0030】
工程(iii)、(iv)、(v)及び/又は(vi)中に抜き出される、前記のフルフラールを含む蒸気流は、凝縮物の形で、例えばコールドトラップを使用することにより、捕集することができる。該凝縮物に含まれる興味のある化合物、例えばアルデヒド、ケトン、有機酸、アルコール、又はそれらの混合物、特にフルフラール、酢酸、メタノール及び/又はアセトンは、当該分野において公知の普通の方法、例えば蒸留、特に分留、より具体的にはヒートポンプ又は機械的な蒸気再圧縮で補助された蒸留により、該凝縮物から単離することができる。任意に、前記の単離された有機化合物は、少なくとも1つの後続の精製工程にかけられる。
【0031】
本発明のさらなる態様は、上記で開示された方法により得ることができる凝縮物に関する。該凝縮物は、アルデヒド、ケトン、有機酸、アルコール、又はそれらの混合物、特にフルフラール、酢酸、メタノール及び/又はアセトンから選択される少なくとも1種の有機化合物を含む。該凝縮物中に含まれるフルフラールの量は、例えば、約0.5~7%、好ましくは約1.5~5%であり得る。
【0032】
本発明のさらなる態様は、基礎化学品、例えばアルデヒド、ケトン、有機酸、又はアルコールの製造のため、特にフルフラール、酢酸、メタノール及び/又はアセトンの製造のための、上記で開示された凝縮物の使用に関する。前記の基礎化学品、例えばフルフラールの製造は、蒸留、例えば分留、より具体的にはヒートポンプ又は機械的な蒸気再圧縮で補助された蒸留により実施することができる。
【0033】
さらに、本発明は、上記で開示された方法による工程(vii)から得ることができる固体生成物に関する。該固体生成物は特に、低い濃度のペントース糖、例えばアラビノース及びキシロースを有し、工程(i)において使用されるバイオマス材料に比べて、前記の最初のペントース糖含有率の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%だけの低下に相当する。該固体生成物中のペントースの濃度は、前記の乾燥固体生成物に関して、0~2質量%、好ましくは0~0.5質量%の範囲内であってよい。本発明による固体生成物の残留水分は、約30~95質量%、好ましくは35~45質量%、及び最も好ましくは約40質量%であってよい。
【0034】
さらに、本発明は、ペレットの調製のための本発明の固体生成物の使用及び該ペレット自体に関する。前記のペレットの調製は、従来の方法、例えば押出しにより、任意に押出しの酸、例えば滑剤、例えばワックス、ポリマー等を用いて、実施することができる。任意に、前記のペレットの調製は、後乾燥工程を含む。前記のペレットの調製中に得られる流出液は、所望の有機化合物、例えばフルフラールを含み得る。したがって、本発明のさらなる態様は、基礎化学品及び/又は燃料の調製のための、上記で開示された固体生成物の使用に関する。さらに、本発明による該固体生成物及び該ペレットは、燃焼プロセスにおいて、例えば家庭用又は工業用燃焼プロセスにおいて、使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】例1における圧力/時間プロファイル。
【0036】
本発明は、以下の実施例によってさらにより詳細に説明されるが、これらに限定されるものではない。
【実施例
【0037】
例1
空の反応容器(約12m)に、主にトウヒに由来するのこくず約1200kgを装填した。該のこくず中の残留水分は、約33質量%であると測定された。
【0038】
該反応器を密閉し、かつ加圧水蒸気をその入口を通して、約20barの圧力に達するまで、約350sにわたって導入した。ついで、その水蒸気入口弁を閉じ、かつ該反応容器の内圧を、21barの所定の圧力pにさらに増加させ、該圧力に約150秒後に達した。ついで、圧力調整弁を部分的に開けて、所定の圧力pを約500sにわたって維持した。該反応容器から出てくる、フルフラールを含有する蒸気を、凝縮させ、かつ捕集した。その後、該圧力調整弁を完全に開いて、該反応容器の圧力を、約100sの時間でp=9barに調節した。再び、該反応器から出てくる、フルフラールを含有する蒸気を、凝縮させ、かつ捕集した。最後に、該反応容器の出口弁を開け、それにより該反応器から出てくるフルフラールを含有する蒸気を、凝縮させ、かつ捕集した。該反応器内容物を、フラッシュタンク中へ排出し、その中で、該反応混合物からの固体生成物を捕集した。それぞれの圧力/時間プロファイルは図1に示されている。
【0039】
約38%の含水率を有する固体生成物を、約5%の含水率に後乾燥させ、かつ褐色ペレットの製造に使用した。少量のフルフラールを含有する後乾燥流出液を、凝縮させ、かつ捕集した。合一した凝縮物を、化学品の分離及び精製にかけた。
【0040】
上記のプロセスを通じて捕集された凝縮物の全量は、最終的な固体生成物約50質量%(乾燥質量基準)であり、かつ凝縮物1Lあたりフルフラール約24gを含有していた。該凝縮物を、後続のフルフラール分離及び精製に使用した。
【0041】
例2~4
本発明による例2~4を、例1に従って実施したが、ただし以下の点を除く:
- 時間tは700sであった(例2);
- 圧力pは19barであった(例3);
- 圧力pは19barであり、かつ時間tは700sであった(例4);
【0042】
比較例5
比較例5を、例1に従って実施したが、ただし、以下の点を除く―21barの圧力に達した後に―維持する工程を実施しなかった(t=0s)が、しかし該反応容器中の圧力を、直接9barに調節した。
【0043】
該比較プロセスを通じて捕集された凝縮物の全量は、最終的な固形分の約50質量%(乾燥質量基準)であり、かつ凝縮物1Lあたりフルフラール約10gを含有していた。
【0044】
分析
前記の最初のバイオマス材料並びに例1~5により得られ、後乾燥された最終的な固体生成物の炭水化物組成を、パルスドアンペロメトリー検出器(IC-PAD)を備えたイオンクロマトグラフィーを用いて分析した。それらの結果は、第1表に示されている。
【0045】
第1表:該バイオマス及び最終的な固体生成物の炭水化物組成のIC-PAD分析。特定の炭水化物含有率が、100質量%として設定された前記の全炭水化物含有率に関して表現される。
【表1】
【0046】
得られたフルフラールの実験による収率及び残留する固体生成物のIC-PAD分析の双方とも、本発明による方法が、該反応容器中の圧力を所定の期間にわたって一定に維持する工程を欠く技術水準の方法に比べた場合に、該バイオマス出発物質中に含まれるペントース糖、例えばアラビノース及びキシロースの、フルフラールへの改善された転化を提供することを明らかに示している。
図1