(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】バッテリー電極のためのバインダ
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240806BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240806BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240806BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20240806BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240806BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240806BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/136
(21)【出願番号】P 2021524313
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 CN2019114649
(87)【国際公開番号】W WO2020088577
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-26
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521189558
【氏名又は名称】ヴォルト14 ソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】ハルダー アリンダム
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-069108(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161748(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/024798(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/029949(WO,A1)
【文献】特開2018-156844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンおよび少なくとも1種のリン酸塩またはその共役酸を含み、前記少なくとも1種のリン酸塩が、オルトリン酸金属塩、ピロリン酸金属塩、およびポリリン酸金属塩からなる群から選択され、
前記少なくとも1種のリン酸塩およびキトサンが、1:1~1:100の質量比で存在する、バッテリー電極のためのバインダ。
【請求項2】
前記少なくとも1種のリン酸塩がトリポリリン酸ナトリウムである、請求項1に記載のバインダ。
【請求項3】
前記トリポリリン酸ナトリウムおよびキトサンが、1:5~1:10の質量比で存在する、請求項
2に記載のバインダ。
【請求項4】
請求項1に記載のバインダおよび溶媒を含む、バッテリー電極のためのバインダ組成物。
【請求項5】
前記溶媒が、水性溶媒、極性有機溶媒、またはそれらの混合物である、請求項
4に記載のバインダ組成物。
【請求項6】
前記バインダ組成物の固体含有率が1%質量/質量以上である、請求項
5に記載のバインダ組成物。
【請求項7】
少なくとも1種の導電性添加剤および少なくとも1種のアノード活物質;または少なくとも1種の導電性添加剤および少なくとも1種のカソード活物質をさらに含む、請求項
4に記載のバインダ組成物。
【請求項8】
正極;前記正極と向かい合って配置された負極;および前記正極と前記負極との間に配置された電解質を含むリチウムバッテリーであって、前記正極および前記負極のうち少なくとも1つが請求項1に記載のバインダを含む、リチウムバッテリー。
【請求項9】
前記負極が、請求項1に記載のバインダを含み、前記負極が、少なくとも1種の導電性添加剤および少なくとも1種のアノード活物質をさらに含む、請求項
8に記載のリチウムバッテリー。
【請求項10】
前記少なくとも1種の導電性添加剤が、炭素繊維、炭素ナノ繊維、カーボンナノチューブ、グラファイト、カーボンブラック、グラフェン、および酸化グラフェンからなる群から選択される、請求項
9に記載のリチウムバッテリー。
【請求項11】
前記少なくとも1種のアノード活物質が、ケイ素および酸化ケイ素からなる群から選択される、請求項
9に記載のリチウムバッテリー。
【請求項12】
前記正極が、請求項1に記載のバインダを含み、前記正極が、少なくとも1種の導電性添加剤および少なくとも1種のカソード活物質をさらに含む、請求項
8に記載のリチウムバッテリー。
【請求項13】
前記少なくとも1種のリン酸塩がトリポリリン酸ナトリウムであり、前記トリポリリン酸ナトリウムおよびキトサンが1:7~1:10の質量比で存在し;前記少なくとも1種の導電性添加剤が、炭素繊維および炭素ナノ繊維からなる群から選択され;前記少なくとも1種のアノード活物質がケイ素および酸化ケイ素からなる群から選択される、請求項
9に記載のリチウムバッテリー。
【請求項14】
請求項
7に記載のバインダ組成物を調製する方法であって、キトサン;オルトリン酸金属塩、ピロリン酸金属塩、およびポリリン酸金属塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン酸塩;少なくとも1種のアノード活物質または少なくとも1種のカソード活物質;ならびに溶媒を接触させることを含み、それにより請求項
7に記載のバインダ組成物を形成する、方法。
【請求項15】
前記溶媒が、有機酸を含む水である、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
凍結乾燥により前記溶媒を除去するステップをさらに含み、それにより請求項
7に記載のバインダ組成物を形成する、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
請求項
16に記載の方法により調製される、バインダ組成物。
【請求項18】
前記少なくとも1種のリン酸塩がトリポリリン酸ナトリウムであり、前記トリポリリン酸ナトリウムおよびキトサンが1:7~1:10の質量比で存在し;前記少なくとも1種の導電性添加剤が、炭素繊維および炭素ナノ繊維からなる群から選択され;前記少なくとも1種のアノード活物質が、ケイ素および酸化ケイ素からなる群から選択される、請求項
17に記載のバインダ組成物。
【請求項19】
正極;前記正極と向かい合って配置された負極;および前記正極と前記負極との間に配置された電解質を含むリチウムバッテリーであって、前記正極および前記負極のうち少なくとも1つが、請求項
18に記載のバインダ組成物を含む、リチウムバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照。
本出願は、内容全体を全ての目的のために引用により本明細書に組み込まれる、2018年11月2日出願の米国仮出願第62/754,659号の優先権の利益を主張する。
【0002】
本開示は、一般的に、エネルギー貯蔵の分野に関する。とりわけ本開示は、バッテリー電極のためのバインダおよびバインダ組成物、電極およびそれを含むエネルギー貯蔵デバイスおよびそれらの調製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオンバッテリーは最初にSonyによって1991年に商業化され、その名称は、グラファイト(Li
xC
6)アノードと層状酸化物(Li
1-xTO
2)カソード[式中、Tは遷移金属(通常はコバルトであるが、時にはニッケルまたはマンガン)である]との間のLi
+イオンの交換に由来する。リチウムイオンバッテリーが3.8Vの平均電圧で貯蔵するエネルギー(約180Wh/kg)は、遥かに古い鉛酸バッテリーにより貯蔵されるエネルギーより5倍大きい。
カソード、アノード、電解質、バインダ等について、より優れた材料を開発するため多大の研究が行われてきた。カソードおよびアノード材料は、バッテリー構造の主要な成分であるため、より重視されてきた。このことはカソードおよびアノード材料の多様なアレイの商業的有用性を導いたが、最新のアノード材料は、炭素ベースの材料が支配的である。ケイ素およびスズのような高容量合金化アノード材料は商業的には採用されなかったが、その理由は、リチウムイオンバッテリーにおけるこれらの材料の効率的な機能化に対して、これらの材料が種々の難題を課すからであった。
ケイ素(Si)は、高い理論容量をもたらすため、最も広く研究されているアノード材料の1つである。Siアノード容量の実用的限界は、純粋相で4200mAh/gである。そのような優れた理論値とともに、Siは、地殻で見出される二番目に最も豊富な元素であり、Siの加工処理技術も、半導体(光起電性のものを含む)産業における広範囲なSi使用に基づいて高度に進歩している。したがって、Siアノードの研究は急速に発展した。Siアノードの性能の利点および限界ならびにそれらの操業および不良の機構(
図2)が徹底的に検討され、得られた知識は、電極を合金化する他のタイプを理解する根拠として役立ち得る。
非晶質Si(a-Si)および結晶性Si(c-Si)アノードは、リチウム化されると両方ともまず非晶質になり、その後、Liに対して約0.05V下の準安定なLi
15Si
4結晶相を形成することができる。最初に結晶性であれば、Siは、
図3で見られるように主として<110>方向に異方的に膨張するであろう。この初期リチウム化は、結晶性Siと非晶質のリチウム化された相の間の界面における反応速度により限定されると考えられる。しかしながら、リチウム化された相が厚くなるにつれて、特に高い充電速度では、体積変化の大きいことがGPaレベルの応力の蓄積の原因となり得る。それ故、表面における応力を開放して膨張のために必要な空隙空間を提供するために、ナノ構造が必要である。そのような手段がなければ、応力は亀裂を形成し、大きい分極を誘発することにより容量を限定するであろう。
Siアノードの分野における大幅な発展にもかかわらず、質量当たりの容量またはパルス-電力性能を僅かに増大させる、グラファイトアノードに添加された少量の小さい炭素コート酸化ケイ素(SiO
x)含有粒子を利用する少数のごく最近のデザインを除いて、現在のところ、SiまたはSi含有複合体ベースの市販のアノードはない。リチウムイオンバッテリーのためのケイ素の商業的採用には、さらなる技術開発ならびに一定の粒子体積およびサイズを維持するという主要な難題を克服すること、ならびに大きい商業規模における粒子合成でその難題を克服することが要求されるであろう。
したがって、上で記載された問題の少なくとも一部に対処する改善されたバインダ材料に対する必要性がある。
【発明の概要】
【0004】
したがって本開示は、ここで記載した問題の少なくとも一部を克服する、改善された性質を有する電極バインダ、その調製方法、ならびに電極およびそれを含むエネルギー貯蔵デバイスを提供する。
【0005】
第1の態様において、本明細書で、キトサンおよび少なくとも1種のリン酸塩またはその共役酸を含み、少なくとも1種のリン酸塩が、オルトリン酸金属塩、ピロリン酸金属塩、およびポリリン酸金属塩からなる群から選択される、バッテリー電極のためのバインダが提供される。
第1の態様の第1の実施形態において、少なくとも1種のリン酸塩およびキトサンが1:1~1:100の質量比で存在する、第1の態様のバインダが提供される。
第1の態様の第2の実施形態において、少なくとも1種のリン酸塩がトリポリリン酸ナトリウムである、第1の態様のバインダが提供される。
第1の態様の第3の実施形態において、トリポリリン酸ナトリウムおよびキトサンが1:5~1:10の質量比で存在する、第1の態様の第2の実施形態のバインダが提供される。
【0006】
第2の態様で、第1の態様のバインダおよび溶媒を含む、バッテリー電極のためのバインダ組成物が提供される。
第2の態様の第1の実施形態において、溶媒が、水性溶媒、極性有機溶媒、またはそれらの混合物である、第2の態様のバインダ組成物が提供される。
第2の態様の第2の実施形態において、バインダ組成物の固体含有率が1%質量/質量以上である、第2の態様の第1の実施形態のバインダ組成物が提供される。
第2の態様の第3の実施形態において、少なくとも1種の導電性添加剤および少なくとも1種のアノード活物質;または少なくとも1種の導電性添加剤および少なくとも1種のカソード活物質をさらに含む、第2の態様の第1の実施形態のバインダ組成物が提供される。
【0007】
第3の態様において、正極;正極と向かい合って配置された負極;および正極と負極との間に配置された電解質を含むリチウムバッテリーであって、正極および負極のうち少なくとも1つが、第1の態様のバインダを含む、リチウムバッテリーが提供される。
第3の態様の第1の実施形態において、負極が、第1の態様のバインダを含み、負極が、少なくとも1種の導電性添加剤および少なくとも1種のアノード活物質をさらに含む、第3の態様のリチウムバッテリーが提供される。
第3の態様の第2の実施形態において、少なくとも1種の導電性添加剤が、炭素繊維、炭素ナノ繊維、カーボンナノチューブ、グラファイト、カーボンブラック、グラフェン、および酸化グラフェンからなる群から選択される、第3の態様の第1の実施形態のリチウムバッテリーが提供される。
第3の態様の第3の実施形態において、少なくとも1種のアノード活物質が、ケイ素および酸化ケイ素からなる群から選択される、第3の態様の第1の実施形態のリチウムバッテリーが提供される。
第3の態様の第4の実施形態において、正極が、第1の態様のバインダを含み、正極が、少なくとも1種の導電性添加剤および少なくとも1種のカソード活物質をさらに含む、第3の態様のリチウムバッテリーが提供される。
第3の態様の第5の実施形態において、少なくとも1種のリン酸塩がトリポリリン酸ナトリウムであり、トリポリリン酸ナトリウムおよびキトサンが1:7~1:10の質量比で存在し;少なくとも1種の導電性添加剤が、炭素繊維および炭素ナノ繊維からなる群から選択され;少なくとも1種のアノード活物質が、ケイ素および酸化ケイ素からなる群から選択される、第3の態様の第1の実施形態のリチウムバッテリーが提供される。
【0008】
第4の態様において、第2の態様の第3の実施形態のバインダ組成物を調製する方法であって、キトサン;オルトリン酸金属塩、ピロリン酸金属塩、およびポリリン酸金属塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン酸塩;少なくとも1種のアノード活物質または少なくとも1種のカソード活物質;ならびに溶媒を接触させることを含み、それにより第2の態様の第3の実施形態のバインダ組成物を形成する、方法が提供される。
第4の態様の第1の実施形態において、溶媒が有機酸を含む水である、第4の態様の方法が提供される。
第4の態様の第2の実施形態において、凍結乾燥により溶媒を除去するステップをさらに含み、それにより第2の態様の第3の実施形態のバインダ組成物を形成する、第4の態様の第1の実施形態の方法が提供される。
【0009】
第5の態様において、第4の態様の第2の実施形態の方法により調製されるバインダ組成物が提供される。
第5の態様の第1の実施形態において、少なくとも1種のリン酸塩がトリポリリン酸ナトリウムであり、トリポリリン酸ナトリウムおよびキトサンが、1:7~1:10の質量比で存在し;少なくとも1種の導電性添加剤が、炭素繊維および炭素ナノ繊維からなる群から選択され;少なくとも1種のアノード活物質が、ケイ素および酸化ケイ素からなる群から選択される、第5の態様のバインダ組成物が提供される。
【0010】
第6の態様において、正極;正極と向かい合って配置された負極;および正極と負極との間に配置された電解質を含むリチウムバッテリーであって、正極および負極のうち少なくとも1つが、第5の態様の第1の実施形態のバインダ組成物を含む、リチウムバッテリーが提供される。
上記のおよび他の物体ならびに本開示の特徴は、添付の図面と合わせて考えれば、本開示の以下の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】リチウムイオンバッテリーで使用される典型的アノード材料およびカソード材料を示す図である。
【
図2】ケイ素アノードの不良機構の多分詳細を模式的に示す図である。
【
図3】(A)<110>方向における異方性膨張を示すSi柱のリチウム化;および(B)初期リチウム化および結晶性Si粒子の亀裂形成の、走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【
図4】ケイ素アノードの可能なリチウム化機構の模式的表現を示す図である。
【
図5】炭素ナノ繊維(CNF)と従来の炭素繊維(CCF)との間の相違の模式的例示である。
【
図6】複数の導電性添加剤を有する電極の可能な作動機構を示す図である。
【
図7】(A)および(B)は、バインダを有しないリチウム化前および後のアノード複合体をそれぞれ示し、一方、(C)および(D)は、バインダを有するリチウム化前および後のアノード複合体を示す図である。
【
図8】(A)甲殻類-キトサンの供給源、(B)キトサンを含有する食物廃棄物としての甲殻類の殻、(C)キトサンの化学構造および(D)市販のキトサン粉体を示す図である。
【
図9】アニオン性トリポリリン酸塩とカチオン性キトサンポリマーとの間の架橋の典型的反応を示す図である。
【
図10】異なる乾燥したバインダの膨潤比の比較を示す図である。
【
図11】銅箔からの異なるタイプのアノード材料を薄い層に裂くために要する剥離力を示す図である。
【
図12】Si、キトサンTPP、Si-C-キトサンTPPおよびSi-キトサンTPPの洗浄された試料についてのフーリエ変換赤外分光法(FTIR)スペクトルを示す図である。
【
図13】キトサンTPP、Si-C-キトサンTPP、洗浄されたSi-C-キトサンTPPおよびSiのC
1sのX線光電子(XPS)スペクトルを示す図である。
【
図14】キトサンTPP、Si-C-キトサンTPP、洗浄されたSi-C-キトサンTPPおよびSiのN
1sのXPSスペクトルを示す図である。
【
図15】PVDFバインダを含有する、新たなSiアノード複合体およびサイクルされたSiアノード複合体についてのFTIRスペクトルを示す図である。
【
図16】キトサンバインダを含有する、新たなSiアノード複合体およびサイクルされたSiアノード複合体についてのFTIRスペクトルを示す図である。
【
図17】PVDFおよびキトサンバインダを含有する、新たなSiアノード複合体およびサイクルされたSiアノード複合体についてのC
1sのXPSスペクトルを示す図である。
【
図18】サイクル前のSi-キトサン(A)およびSi-PVDF(B)ならびに5回サイクル後のSi-キトサン(C)およびSi-PVDF(D)のSEM像を示す図である。
【
図19】(A)サイクル前および(B)500回充電/放電サイクル後のSi-C-キトサンTPP-CNF複合体のSEM像を示す図である。
【
図20】キトサンTPPをバインダとして使用して調製されたSiアノード複合体のエネルギー分散型X線分光法(EDS)分析を示す図である。
【
図21】新鮮複合体(A):Si-キトサン、および(B):Si-PVDF、ならびに5サイクル後(C):Si-キトサン、および(D):Si-PVDFの透過電子顕微鏡(TEM)像を示す図である(画像の目盛りは100nmである)。
【
図22】5サイクル後の(A)Si-キトサンおよび(B)Si-PVDFの拡大されたTEM像を示す図である(画像の目盛りは5nmである)。
【
図23】バインダとしてPVDF、キトサンおよびキトサンTPPを使用したSi-C-CNF-バインダアノードの0.1Cのレートにおけるサイクル性能を示す図である。
【
図24】0.1CのレートにおけるSi-C-CNF-キトサンTPPアノードのサイクル性能を示す図である。
【
図25】1回目および500回目の放電サイクル後のSi-C-CNF-キトサンTPPアノードのナイキストプロットを示す図である。
【
図26】Si-C-CNF-キトサンTPPアノードのレート性能を示す図である。
【
図27】LCO、NMCおよびLFPカソードとともにVolt 14および炭素アノードを使用するフル電池バッテリーの1回目サイクルの放電容量を示す図である。
【
図28】本明細書に記載されたある実施形態により使用された活物質、導電剤、バインダおよび導電性ポリマーを示す図である。
【
図29】本明細書に記載されたバッテリーを調製および試験することに含まれる実験ステップを示す図である。
【
図30】グローブボックス内で組み立てられる典型的なコインセルの部品を示す図である。
【
図31】本明細書に記載されたある実施形態による凍結乾燥法により得られた、(A)キトサンゲルおよび(B)キトサンスキャフォールドのSEM像を示す図である。
【
図32】本明細書に記載されたある実施形態による、Si-キトサンTPPアノード(A)および(B)ならびにSi-キトサンTPPスキャフォールドアノード(C)および(D)のSEM像を示す図である。図(A)および(C)の目盛りは1μmであり、図(B)および(D)については100nmである。
【
図33】本明細書に記載されたある実施形態による、500サイクル後のSi-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールドアノードのSEM像を示す図である。
【
図34】本明細書に記載されたある実施形態による、10サイクル後(A)、100サイクル後(B)および500サイクル後(C)のSi-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールドアノード中におけるSiナノ粒子のTEM像を示す図である。
【
図35】本明細書に記載されたある実施形態による、Si-C-キトサンTPP、Si-C-CNF-キトサンTPPおよびSi-C-CNF-キトサンTPPが凍結乾燥されたアノード複合体のFTIRスペクトルを示す図である。
【
図36】(A)Si-C-キトサン、Si-C-キトサンTPP、Si-C-CNF-キトサンTPPおよび凍結乾燥されたSi-C-CNF-キトサンTPPアノードの、0.1Cにおけるサイクル性能を示す図であり;および(B)
図36Aから求めた、本明細書に記載されたある実施形態による1回目のサイクルおよび500回目のサイクルにおける比放電容量を示す図である。
【
図37】(A)0.1Cにおける、比放電容量(mAh/g-Si)に基づく、Si-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールド、Si-C-CNF-キトサンTPP、Si-C-CNF-キトサンおよびSi-C-CNF-PVDFアノードのサイクル性能を示す図であり;(B)本明細書に記載されたある実施形態による
図37Aからの1回目のサイクルおよび500回目のサイクルにおける比放電容量を示す図である。
【
図38】本明細書に記載されたある実施形態による、0.1CにおけるSi-C-キトサンTPP-CNFスキャフォールドアノードのサイクル性能を示す図である。
【
図39】本明細書に記載されたある実施形態による1回目および500回目の放電サイクル後のSi-C-キトサンTPP-CNFスキャフォールドおよびSi-C-キトサンTPP-CNFアノードのナイキストプロットを示す図である。
【
図40A】本明細書に記載されたある実施形態による典型的バッテリー配置を示す図である。
【
図40B】本明細書に記載されたある実施形態による典型的バッテリー配置を示す図である。
【
図40C】本明細書に記載されたある実施形態による典型的バッテリー配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本明細書で使用される用語の定義は、バイオテクノロジーの分野で各用語について認められている現在最新の定義を組み込むことが意図されている。必要に応じて、具体例を提供する。定義は、特定の事例で、個々にまたはより大きい群の一部としてのいずれかでそうでないと限定されない限り、この明細書全体を通して使用される用語に適用される。
【0013】
商品名が本明細書で使用される場合、本出願人は、その商品名の製品の剤形、その一般名の薬物、およびその商品名の製品の有効医薬成分(単数または複数)を独立に含むことを意図している。
【0014】
本明細書を通して、前後関係が要求しない限り、「を含む(comprise)」という単語、または「を含む(comprises)」もしくは「を含む(comprising)」などの変形は、述べられた整数または整数の群の包含を意味するが、いかなる他の整数または整数の群の排除も意味しないと理解されるであろう。なお、本開示において、特に請求項および/または段落において、「を含む(comprises)」、「含まれる(comprised)」、「を含む(comprising)」などの用語は、米国の特許法において、それに帰せられる意味を有することができ;例えば、「を含む(includes)」、「含まれる(included)」、「を含む(including)」等を意味することができ;また「から本質的になる(consisting essentially of)」および「から本質的になる(consists essentially of)」などの用語は、米国の特許法において、それらに帰せられる意味を有し、例えば、要素が明示的に挙げられていないことを許容するが、先行技術で見出される要素または本発明の基本的なまたは新規な特性に影響を及ぼす要素を排除する。
さらに、本明細書および請求項を通して、前後関係が要求しない限り、「を含む(include)」という単語、または「を含む(includes)」または「を含む(including)」などの変形は、述べられた整数または整数の群の包含を意味するが、任意の他の整数または整数の群の排除を意味しないと理解されるであろう。
【0015】
本開示は、バッテリー電極のためのバインダとして使用するためのキトサンおよび少なくとも1種のリン酸塩またはその共役酸を含む組成物、ならびに電極およびそれを含むバッテリーならびにそれらの調製方法を、一般的に対象とする。本開示は、明細書に記載されたいかなる特定の実施形態による範囲にも限定されることはない。以下の実施形態は、具体例のためにのみ提供される。
【0016】
バインダは、典型的な市販の電極構成中において質量の2~5%を占めるにすぎないが、バインダの材料は、改善された電池の性能、特にサイクル寿命にとって最も重要な電極成分の1つである。バインダがないと、活物質は集電体との接触を失い、容量損失を生ずるであろう。
【0017】
キトサンの性質は、数種のパラメーター、例えば、その分子量(10,000~1,000,000Da)および脱アセチル化度(キトサン中における、2-アミノ-2-デオキシ-d-グルコピラノースの、2-アセトアミド-2-デオキシd-グルコピラノース構造単位に対する比を表す)により影響される。本明細書に記載されるバインダ中で使用されるキトサンの脱アセチル化度は、0%~100%の範囲であり得る。ある実施形態では、本明細書に記載されるバインダ中におけるキトサンの脱アセチル化度は、1%を超え、5%を超え、10%を超え、20%を超え、30%を超え、40%を超え、50%を超え、60%を超え、70%を超え、80%を超え、90%を超え、95%、97%を超え、98%を超え、99%を超え、または99.9%を超える。ある実施形態では、本明細書に記載されるバインダで使用されるキトサンの脱アセチル化度は、50~100%、60~99%、65~99%、65~99%、65~99%、70~99%、75~99%、または75~95%の間である。ある実施形態では、本明細書に記載されるバインダで使用されるキトサンの脱アセチル化度は75~95%の間である。
キトサンは、10,000~1,000,000Daの分子量を有することができる。ある実施形態では、キトサンは、10,000~500,000;20,000~500,000;30,000~500,000;40,000~500,000;40,000~450,000;または40,000~400,000Daの分子量を有することができる。ある実施形態では、キトサンは、低い分子量(分子量50,000~190,000Da)、中程度の分子量のキトサン(分子量190,000~310,000Da);または高分子量のキトサン(分子量約310,000~>375,000Da)であることができる。
キトサン、グルコサミンのカチオン性コポリマーおよびN-アセチルグルコサミンは、天然における最も豊富な炭水化物の1種である、天然多糖-キチンの部分的に脱アセチル化された誘導体であり、大部分は、甲殻類の外骨格から誘導される。キトサンは、生体再生性、生分解性、生体適合性、生体接着性および無毒性などの特有の一連の有用な特性を有する。キトサンおよびその誘導体は、医薬、生物医薬、水処理、化粧品、農業および食物産業などの種々の分野で使用される。
【0018】
本明細書で提供されるバインダおよびバインダ組成物は、キトサンおよびリン酸塩またはその共役酸を含む組成物の特有の性質を利用する。本明細書に記載されるバインダおよびバインダ組成物は、当技術分野において既知の任意のタイプの正極または負極と接続して使用することができる。したがって、以下の実施形態は、本明細書に記載されるバインダおよびバインダ組成物の使用を限定するとみなされるべきではない。
キトサンは、ポリカチオン性ポリマーとして存在することができ、そのキレート化の性質のためによく知られている。それ故、リン酸金属塩などの負に荷電した成分との相互作用は、イオン的にリン酸架橋したキトサン鎖のネットワークの形成を導くことができる。リン酸の負電荷とキトサンの正に荷電した基との間のイオン性相互作用は、架橋したネットワーク内における主要な分子相互作用であると考えられる。イオン的にリン酸架橋したキトサン鎖ネットワークの形成は、カチオン性キトサンと少なくとも1種のリン酸塩とを組み合わせることにより;またはその代わりに中性キトサンと少なくとも1種のリン酸塩の共役酸とを組み合わせることにより調製することができる。その結果として、本明細書で意図されるバインダ組成物は、キトサンおよび少なくとも1種のリン酸塩またはその共役酸を含むバインダ組成物を包含する。
【0019】
本明細書で提供されるバインダは、キトサン、ならびにオルトリン酸金属塩、ピロリン酸金属塩、およびポリリン酸金属塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン酸塩を含むことができる。ある実施形態では、バインダは、1、2、3、4種、またはそれ以上の異なるタイプのリン酸塩を有する。
【0020】
本明細書に記載されるバインダで使用するために適当なポリリン酸金属塩は、直鎖状ポリリン酸金属塩、メタリン酸金属塩、および分岐ポリリン酸金属塩を含むが、これらに限定されない。典型的ポリリン酸金属塩は、トリリン酸塩、テトラリン酸塩、ペンタリン酸塩、トリメタリン酸塩、テトラメタリン酸塩等を含むが、これらに限定されない。
少なくとも1種のリン酸塩は、任意の金属カチオンを含むことができる。典型的金属カチオンは、元素周期表の1族およびII族から選択される1種または複数のカチオンを含む。ある実施形態では、少なくとも1種のリン酸塩は、Li+、Na+、K+、Mg2+、およびCa2+からなる群から選択される1種または複数の金属カチオンを含むことができる。ある実施形態では、少なくとも1種のリン酸塩は、オルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムである。ある実施形態では、少なくとも1種のリン酸塩は、トリポリリン酸ナトリウムである。バインダは、キトサンならびにオルトリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸の共役酸からなる群から選択される少なくとも1種のリン酸塩の共役酸も含むことができる。
【0021】
本明細書に記載されるバインダで使用するために適当なオルトリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸の共役酸は、直鎖状ポリリン酸、メタリン酸および分岐ポリリン酸を含むが、これらに限定されない。典型的ポリリン酸は、トリリン酸、テトラリン酸、ペンタリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸等を含むが、これらに限定されない。ある実施形態では、リン酸塩の共役酸は、ポリリン酸(CAS番号:8017-16-1)である。
オルトリン酸塩、ピロリン酸塩、およびポリリン酸塩の共役酸は、1種または複数のイオン化可能なプロトンを含むことができ、したがって1種または複数の共役酸のプロトン化状態で存在することができる。バインダ組成物がオルトリン酸塩、ピロリン酸塩、またはポリリン酸塩の共役酸を含む事例で、共役酸は、本明細書に記載されるリン酸塩の任意の可能なプロトン化状態またはそれらの組み合わせであることができる。例えば、PO4
3-(オルトリン酸)の共役酸はHPO4
2-、H2PO4
-、およびH3PO4を含み;P3O10
5-(トリポリリン酸塩)の共役酸は、HP3O10
4-、H2P3O10
3-、H3P3O10
2-、H4P3O10
1-、およびH5P3O10を含む。リン酸塩のアニオン性共役酸は、本明細書に記載される任意の1種または複数の金属カチオンを含むことができる。
【0022】
バインダは、少なくとも1種のリン酸塩またはその共役酸およびキトサンを、1:1~1:10,000の質量比で含むこともできる。ある実施形態では、バインダは、少なくとも1種のリン酸塩およびキトサンを、1:1~1:10,000;1:1~1:5,000;1:1~1:1,000;1:1~1:500;1:1~1:250;1:1~1:100;1:1~1:20;1:1~1:10;1:5~1:10;1:6~1:10;1:7~1:10;1:7~1:9;または1:8~1:9の質量比で含む。ある実施形態では、バインダは、キトサン4質量部に対して少なくとも1種のリン酸塩を1質量部未満含む。ある実施形態では、バインダは、キトサン5質量部に対して少なくとも1種のリン酸塩1質量部未満;キトサン6質量部に対して少なくとも1種のリン酸塩1質量部未満;キトサン7質量部に対して少なくとも1種のリン酸塩1質量部未満;キトサン8質量部に対して少なくとも1種のリン酸塩1質量部未満;またはキトサン9質量部に対して少なくとも1種のリン酸塩1質量部未満の質量比で、少なくとも1種のリン酸塩を含む。下の例で、バインダは、トリポリリン酸ナトリウムおよびキトサンを1:8.3の質量比で含む。
【0023】
キトサンは、水および大部分の有機溶媒およびアルカリ性溶媒に比較的不溶である。しかしながら、キトサンは、希有機酸、例えば、酢酸、ギ酸、乳酸、シュウ酸、安息香酸、および乳酸などを含む溶媒に可溶である。本明細書に記載されるバインダを含むバインダ組成物および有機酸を含んでいてもよい溶媒が本明細書で提供される。溶媒は、水性溶媒、極性有機溶媒、またはそれらの混合物であってもよい。適当な極性有機溶媒は、アルコール、アルキルハロゲン化物、ジアルキルホルムアミド、ジアルキルケトン、ジアルキルスルホキシド、第三級アミド、およびそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。典型的極性有機溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMA)、アセトン、メチルエチルケトン、およびN-メチル-2-ピロリドンを含むが、これらに限定されない。有機酸は、酢酸、プロピオン酸、ギ酸、乳酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、安息香酸、メチルスルホン酸、フェニルスルホン酸、トルエンスルホン酸、またはそれらの組み合わせであってもよい。有機酸は、溶媒中に約0.1~5%体積/体積の濃度で存在していてもよい。ある実施形態では、有機酸は酢酸である。リン酸塩の共役酸が使用される事例では、水などの溶媒にキトサンを溶解するために有機酸の代わりに、それを使用することができる。
【0024】
バインダ組成物は、0.1%質量/質量以上の固体含有率を有していてもよく、固体含有率は式:(少なくとも1種のリン酸塩の質量+キトサンの質量)/(溶媒の質量+少なくとも1種のリン酸塩の質量+キトサンの質量)に従って決定される。ある実施形態では、バインダは、0.5%質量/質量、1.0%質量/質量、1.5%質量/質量、2.0%質量/質量のまたはそれ以上の固体含有率を有する。ある実施形態では、バインダ組成物は、0.1~20%質量/質量、0.1~15%質量/質量、0.1~10%質量/質量、1~10%質量/質量、1~5%質量/質量、1~4%質量/質量、1~3%質量/質量、または1~1.5%質量/質量の間の固体含有率を有する。
ある実施形態では、バインダ組成物は、酢酸を含む水溶液中にトリポリリン酸ナトリウムおよびキトサンを含む。
【0025】
本明細書に記載されるバインダ組成物、少なくとも1種の導電性添加剤、および少なくとも1種のアノード活物質を含むアノードスラリーも、本明細書で提供される。
【0026】
アノード活物質は、当技術分野において既知の任意のアノード活物質であることができる。ある実施形態では、アノード活物質は、元素周期表のIA、IIA、IIIBおよびIVB族から選択される金属、および金属間化合物を形成することができる化合物、および元素周期表のIA、IIA、IIIBおよびIVB族から選択される金属との合金を含む。これらのアノード活物質の例は、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびそれらの合金ならびに金属間化合物を形成することができる化合物およびリチウム、ナトリウム、カリウムとの合金を含む。適当な合金の例は、Li-Si、Li-Al、Li-B、Li-Si-Bを含むが、これらに限定されない。適当な金属間化合物の例は、Li、Ti、Cu、Sb、Mn、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、ZnおよびLaからなる群から選択される2種以上の成分を含むかまたはそれらからなる金属間化合物を含むが、これらに限定されない。適当な金属間化合物の他の例は、リチウム金属ならびにTi、Cu、Sb、Mn、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、およびLaからなる群から選択される1種または複数の成分を含む金属間化合物を含むが、これらに限定されない。他の適当なアノード活物質は、リチウムチタン酸化物、例えばLi4Ti5O12など、シリカ合金、および上記のアノード活物質の混合物を含む。アノード活物質は、グラファイトベースの材料、例えば、天然グラファイト、人工グラファイト、コークス、および炭素繊維など;リチウム、ナトリウム、またはカリウムとの合金を形成することができるAl、Si、Sn、Ag、Bi、Mg、Zn、In、Ge、Pb、およびTiなどの少なくとも1種の元素を含有する化合物;リチウム、ナトリウム、またはカリウムとの合金を形成することができる少なくとも1種の元素を含有する化合物で構成される複合体、グラファイトベースの材料、および炭素;またはリチウム含有窒化物;およびそれらの組み合わせであってもよい。
【0027】
ある実施形態では、アノード活物質は、ケイ素ナノ粒子、単結晶ケイ素ナノ粒子、単結晶ケイ素ナノフレーク、ケイ素粉体、酸化ケイ素、酸化ケイ素ナノ粒子、xが0.1~1.9であるSiOX粒子、ケイ素ナノチューブ、ケイ素ナノワイア、スズナノ粉体、酸化スズナノ粉体、およびそれらの組み合わせである。
【0028】
アノードおよび/またはカソード中に存在する導電性添加剤は、炭素導電性添加剤、ポリマー導電性添加剤、金属導電性添加剤、またはそれらの組み合わせであることができる。適当な炭素導電性添加剤は、天然グラファイト、人工グラファイト、炭素繊維、炭素ナノ繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、酸化グラフェン、およびそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。ある実施形態では、導電性添加剤は、カーボンブラックナノ粉体、炭素ナノ粒子、二重壁カーボンナノチューブ、3Dグラフェンフォーム、グラフェン単層、グラフェン多層、グラフェンナノ小板、酸化グラフェンの単層、酸化グラフェンの紙、酸化グラフェンの薄いフィルム、グラファイトナノ繊維、グラファイト粉体、グラファイトロッド、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される炭素導電剤;ポリアセチレン、ポリピロール、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリイソチアナフタレン、ポリパラフェニレンスルフィド、ポリパラフェニレン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される導電性ポリマー添加剤;または銅、ニッケル、アルミニウム、銀からなる群から選択される導電性金属添加剤等である。
【0029】
一般的に、全てのタイプの導電性添加剤(金属繊維、金属粉体、グラファイト粉体、炭素ナノ材料を含む)は、導電性添加剤として使用することができるが、金属繊維または金属粉体と比較して、炭素ナノ材料は、低い質量、高い化学的不活性および高い比表面積などの優れた性質を有する。それ故、リチウムイオンバッテリーで最も使用される導電性添加剤は、炭素ナノ材料、例えば、カーボンブラック、Super P、アセチレンブラック、炭素ナノ繊維、およびカーボンナノチューブなどである。リチウムイオンバッテリーのための理想的電極は、高い電子的およびイオン性伝導を有するべきである。電子的伝導は、電極の電子的コンダクタンスに依存する。イオン性伝導は、カソード中における細孔に密接に関係するイオンの拡散に依存する。多孔性構造、特にメソ多孔構造が電解質溶液を吸収して保持することができ、リチウムイオンと電極活物質との間の密な接触を可能にする。
綿および竹を炭化することにより調製された最初のCCFは、1879年にトーマス・エジソンにより白熱電球のフィラメントとして使用されて以来、基礎科学的研究および実用的応用の両方において大いに発展してきた。CCFおよびCNFの最も重要なメンバーの1つが、多くの分野で有望な材料として、エネルギー変換および貯蔵、複合体の補強材およびセルフセンシングデバイスなどで応用されてきた。
CCFとCNFの間には幾つかの相違がある。第1の相違は、最も明白な相違でもあるが、それらのサイズである。CCFは、数マイクロメートルの直径を有することができるが、それに対してCNFは、50~200nmの直径を有することができる。
図5は、CNFとCCFとの間の相違の模式的例示を示す。直径以外でも;CNFの構造は、伝統的炭素繊維と明らかに異なる。CNFは、主として2通りの手法:触媒的蒸気堆積成長および電界紡糸により調製することができる。
CNF複合体の最も重要な性質の1つはそれらの電気伝導度である。CNF複合体が、電気デバイス、センサー、電磁的遮蔽またはバッテリーまたはスーパーキャパシタのための電極として適用される場合、電気伝導度は、常に第一に考慮する必要がある。
【0030】
炭素ナノ繊維により形成される導電性ネットワークは、粒子間接触にそれほど敏感ではない。これらの高いアスペクト比の添加剤は、与えられた体積分率に対する全体的電子伝導性の増大に、より効率的である。粒子状炭素と比較して、炭素ナノ繊維は、カソード活物質を集電体にしっかり固定することができ、複合体アノードのコンダクタンスを長期にわたるサイクルの間一定に保つことができ、したがって、「物理的バインダ」というニックネームを得ている。
【0031】
単一の導電性添加剤と比較して、複数の導電性添加剤は、2種以上の伝導体の利点を利用することができ、それは相乗効果を生ずることができる。それ故、複数の導電性添加剤は、単一の導電性添加剤に優る幾つかの優越性を通常示す。例えば、カーボンブラック(CB)は、カソード活物質の表面に付着してカソード活物質の導電性を増強するが、CNFはカソード活物質を連結する。それ故、複数の導電性添加剤は、単一の導電性添加剤に優る幾つかの優越性を通常示す。ミクロサイズのグラファイトは、カソード活物質とともに容易に分散されるが、少量を使用する場合には、優れた導電性ネットワークを形成しない場合がある。ナノサイズのSuper Pまたは同様なものが添加される場合も、良好な導電性ネットワークが形成され得、改善されたサイクル寿命およびより高い放電容量を有することができるカソードを生ずる。
【0032】
先に述べたように、繊維様の炭素は、導電性ネットワークを容易に形成することができる。しかしながら、繊維様の炭素は、粒子状炭素と比較してカソード活物質とより少ない接触点を有し得る。粒子状炭素および繊維様の炭素が混合されて複数の導電性添加剤を形成すれば、それらは、2種類の伝導体の利点を利用するであろう。
バインダは、粒子の電気接触を保持し、粒子サイズに関わらず、高品質の電極を集成するために決定的に重要である。理想的なバインダは、アノード複合体に最良の弾性を提供するべきであり、
図7に示したように、リチウム化/脱リチウム化プロセス中に活物質の膨張を完全に受け入れるべきである。
アノードスラリーは、本明細書に記載されるバインダ組成物、少なくとも1種の導電性添加剤、および少なくとも1種のアノード活物質を組み合わせて、それによりアノードスラリーを形成することにより調製することができる。
アノードスラリーの粒子サイズは、当技術分野において既知の任意の方法を使用して任意で小さくすることもできる。
【0033】
物質の粒子サイズを制御するために、粉砕および/または篩いによる細分または脱凝集による縮小を含む種々の既知の方法がある。粒子の縮小のための典型的方法は、ジェット粉砕、ハンマー粉砕、圧縮粉砕およびタンブル粉砕プロセス(例えば、ボール粉砕)を含むが、これらに限定されない。これらのプロセスのための粒子サイズ制御パラメーターは、当業者によって十分理解されている。例えば、ジェット粉砕プロセスで達成された粒子サイズ縮小は、パラメーターの数を調節することにより制御され、第一級のものは、粉砕機圧力および供給速度である。ハンマー粉砕プロセスでは、粒子サイズ縮小は、供給速度、ハンマー速度および排出口にある格子戸/スクリーンにおける開口部のサイズにより制御される。圧縮粉砕プロセスでは、粒子サイズ縮小は、材料に伝えられる圧縮の供給速度および大きさ(例えば、圧縮ローラーに適用される力の大きさ)により制御される。
【0034】
ある実施形態では、アノードスラリーは、スラリーの粒子サイズを低減させるためにボール粉砕にかけられる。
アノードスラリーを、任意で凍結乾燥にかけ、それにより凍結乾燥されたアノード材料を形成することができ、その結果、形成された凍結乾燥アノード材料内における空洞(細孔)が形成され得、アノードの増強されたサイクル安定性を生ずる。それに加えて、凍結乾燥は、レート能力を有利に強化することができるが、その理由は、凍結乾燥されたアノード材料のより多くの多孔性構造が、電極におけるイオン輸送を増大させて、増大された表面積により電荷移動反応速度を加速するからである。
アノードスラリーの凍結乾燥は、非凍結乾燥のアノード材料よりはるかに高い表面積を有するアノード材料を生ずることができる。例えば、凍結乾燥されたアノード材料は、20~40m2/g、20~35m2/g、25~35m2/g、または25~30m2/gの間の平均表面積を有することができる。同様に、凍結乾燥されたアノード材料の合計細孔体積も、改善されて、0.200~0.250cm3/g、0.200~0.240cm3/g、0.200~0.230cm3/g、0.210~0.230cm3/g、または0.220~0.230cm3/gの範囲にあることができる。凍結乾燥されたアノード材料は、30~40nm、32~38nm、または32~36nmの間の平均細孔直径を有することができる。
凍結乾燥されたアノード材料の負極集電体への適用を改善するために、凍結乾燥されたアノード材料を含むスラリーは、凍結乾燥されたアノード材料に溶媒を加えることにより調製することができる。バインダ組成物を調製することに有用な溶媒は、凍結乾燥されたアノード材料を含むスラリーを調製するためにも使用することができる。
【0035】
アノードスラリーを、負極集電体上にコート、加熱し、続いてさらに真空下で加熱処理し、電極活物質層を形成することができる。幾つかの実施形態において、コーティングは、スクリーン印刷、スプレーコーティング、ドクターブレードを使用するコーティング、グラビア印刷コーティング、浸漬コーティング、シルクスクリーン、塗装、およびスロットダイコーティングからなる群から選択される1種または複数の方法を使用して実施されてもよい。
【0036】
負極集電体は、リチウムバッテリーに化学変化を生じさせない、導電性を有する任意の材料、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結炭素、または表面が炭素、ニッケル、チタン、銀等で処理された銅またはステンレス鋼、またはアルミニウム-カドミウム合金であってもよい。追加の典型的負極集電体は、銅箔、銅メッシュ箔、銅フォームシート、ニッケルフォームシート、ニッケルメッシュ箔、およびニッケル箔を含むが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、負極集電体は、フィルム、シート、箔、ネット、多孔性構造、フォーム、および不織布を含む任意の種々の形態であってもよい。
【0037】
本明細書に記載されるバインダ組成物、少なくとも1種の導電性添加剤、および少なくとも1種のカソード活物質を含むカソードスラリーも、本明細書で提供される。
適当なカソード活物質は、リチウム遷移金属酸化物を含むが、これらに限定されない。リチウム遷移金属酸化物は、リチウムに加えて複数の元素、すなわち、1種もしくは複数の遷移金属および酸素を含むことができ、またはリチウム、1種もしくは複数の遷移金属および酸素からなることができる。リチウム遷移金属酸化物が、遷移金属としてコバルトを含む事例では、リチウム遷移金属酸化物は、2種以上の遷移金属を含むことができる。幾つかの事例で、リチウム遷移金属酸化物はコバルトを排除する。リチウム遷移金属酸化物中の遷移金属は、Li、Al、Mg、Ti、B、Ga、Si、Mn、Zn、Mo、Nb、V、Ag、Ni、およびCoからなる群から選択される1種または複数の元素を含むかまたはそれらからなることができる。適当なリチウム遷移金属酸化物は、LixVOy、LiCoO2、LiNiO2、LiNi1-x’Coy’Mez’O2、LiMn0.5Ni0.5O2、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2、LiFeO2、LizMyyO4を含むがこれらに限定されず、ここで、Meは、Li、Al、Mg、Ti、B、Ga、Si、Mn、Zn、Mo、Nb、V、Agおよびそれらの組み合わせから選択される1種または複数の遷移金属であり、Mは、Mn、Ti、Ni、Co、Cu、Mg、Zn、V、およびそれらの組み合わせなどの1種または複数の遷移金属である。幾つかの事例では、バッテリーの初期充電前に0<x<1および/またはバッテリーの初期充電前に0<y<1および/またはバッテリーの初期充電前にx’≧0および/またはバッテリーの初期充電前に1-x’+y+z=1および/もしくは0.8<Z<1.5および/またはバッテリーの初期充電前に1.5<yy<2.5である。
カソード活物質の追加の例は、LiCoO2、LiNiO2、LiNi1-xCoyMezO2、LiMn0.5Ni0.5O2、LiMn(1/3)Co(1/3)Ni(1/3)O2、およびLiNiCoy’Alz’O2である。
【0038】
カソードスラリーは、本明細書に記載されるバインダ組成物、少なくとも1種の導電性添加剤、および少なくとも1種のカソード活物質を組み合わせ、それによりカソードスラリーを形成することにより調製することができる。
【0039】
ある実施形態では、カソードスラリーを、ボール粉砕にかけてスラリーの粒子サイズを縮小させる。
カソードスラリーは、任意で凍結乾燥させ、それにより凍結乾燥されたカソード材料を形成することもできる。
凍結乾燥されたカソード材料の正極集電体への適用を改善するために、凍結乾燥されたカソード材料を含むスラリーは、凍結乾燥されたカソード材料に溶媒を加えることにより調製することができる。バインダ組成物を調製することに有用な溶媒は、凍結乾燥されたカソード材料を含むスラリーを調製することにも使用することができる。
カソードスラリーを、正極集電体上にコートし、加熱し、さらに真空下で加熱処理して、電極活物質層を形成することができる。幾つかの実施形態において、コーティングは、スクリーン印刷、スプレーコーティング、ドクターブレードを使用するコーティング、グラビア印刷コーティング、浸漬コーティング、シルクスクリーン、塗装、およびスロットダイコーティングからなる群から、スラリーの粘度に応じて選択される1種または複数の方法を使用して実施されてもよい。
【0040】
正極集電体は、リチウムバッテリーに化学変化を生じさせず高い導電性を有する任意の材料、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結炭素、または表面が炭素、ニッケル、チタン、銀等で処理されたアルミニウムまたはステンレス鋼であってもよい。幾つかの実施形態において、正極集電体は、正の活物質に対する増強された接着強度を有するように、それらの表面に細かい不規則性を有していてもよい。正極集電体は、フィルム、シート、箔、ネット、多孔性構造、フォーム、および不織布を含む任意の種々の形態であってもよい。
【0041】
ある実施形態では、本明細書で、正極;正極と向かい合って配置された負極;および正極と負極との間に配置された電解質を含むリチウムバッテリーであって、正極および負極のうち少なくとも1つが、本明細書に記載されるバインダまたはバインダ組成物を含む、リチウムバッテリーが提供される。
図40Aは、正極103;正極と向かい合って配置された負極101;および正極と負極との間に配置された電解質102を含む本明細書に記載されたある実施形態による典型的バッテリー配置を示し、ここで、正極103および負極101の少なくとも1つは、本明細書に記載されるバインダまたはバインダ組成物を含む。
リチウムバッテリーは、当技術分野において既知の任意のタイプのものであることができる。典型的バッテリーは、コインセル、円筒状電池(18650電池を含む)、ポーチ電池、および角柱電池を含むが、これらに限定されない。
【0042】
当技術分野において既知の任意の電解質を、本明細書に記載されるリチウムバッテリーで使用することができる。ある実施形態では、電解質は、リチウム塩含有非水性電解質である。例えば、非水性電解質は、非水性液体電解質、有機固体電解質、または無機固体電解質であってもよい。
【0043】
非水性液体電解質は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート(MEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル、酢酸メチル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、アセトニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3-プロパンスルトン、N-メチルアセトアミド、アセトニトリル、アセタール、ケタール、スルホン、スルホラン、脂肪族エーテル、環状エーテル、グライム、ポリエーテル、リン酸エステル、シロキサン、ジオキソラン、およびN-アルキルピロリドンから選択される。ある実施形態では、非水性液体電解質はEC、DMC、DEC、EMC、FEC、およびそれらの組み合わせを含む。
有機固体電解質の例は、ポリエチレン誘導体、ポリエチレン酸化物誘導体、ポリプロピレン酸化物誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリアジテーションリジン(polyagitation lysine)、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、およびイオン性解離基を含有するポリマーであるが、これらに限定されない。
無機固体電解質の例は、窒化物、ハロゲン化物、硫酸塩、およびケイ酸リチウム、例えば、Li3N、LiI、Li5NI2、Li3N-LiI-LiOH、LiSiO4、LiSiO4-LiI-LiOH、Li2SiS3、Li4SiO4、Li4SiO4-LiI-LiOH、およびLi3PO4-Li2S-SiS2などであるが、これらに限定されない。
リチウム塩は、リチウムバッテリーのために一般的に使用される任意のリチウム塩、例えば、上記の非水性電解質に可溶の任意のリチウム塩であってもよい。例えば、リチウム塩は、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、リチウムクロロボレート、低級脂肪族カルボン酸リチウム、リチウムテトラフェニルホウ酸塩、LiNO3、リチウムビスオキサラトボレート、リチウムオキサリルジフルオロボレート、およびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの少なくとも1種であってもよい。
【0044】
典型的電解質は、EC:DMC=1:1質量%;EC:DEC:EMC=1:1:1体積%;5.0%FECを添加されたEC:DEC=1:1体積%;EC:DMC:DEC=1:1:1体積%;EC:DMC:EMC=1:1:1質量%;EC:DEC=1:1体積%;5.0%FECを添加されたEC:DMC=1:1体積%;EC:DEC=1:1質量%;EC:EMC=3:7体積%;EC:DMC:EMC=1:1:1体積%;およびEC:DMC=1:1体積%中のLiPF6を含むが、これらに限定されない。
【0045】
ある実施形態では、本明細書で、正極;正極と向かい合って配置された負極;正極と負極との間に配置されたセパレータ基材;およびセパレータ基材と正極との間およびセパレータ基材と負極との間に配置された電解質を含むリチウムバッテリーであって、正極および負極のうち少なくとも1つが本明細書に記載されるバインダまたはバインダ組成物を含む、リチウムバッテリーが提供される。
【0046】
図40Bは、正極103;正極と向かい合って配置された負極101;正極103と負極101の間に配置されたセパレータ基材105;およびセパレータ基材105と正極103との間およびセパレータ基材105と負極101との間に配置された電解質102を含む、本明細書に記載されたある実施形態による典型的バッテリー配置を示し;ここで、正極103および負極101の少なくとも1つは、本明細書に記載されるバインダまたはバインダ組成物を含む。
ある実施形態では、セパレータ基材105は、ポリオレフィン、フッ素含有ポリマー、セルロースポリマー、ポリイミド、ナイロン、ガラス繊維、アルミナ繊維、多孔性金属箔、およびそれらの組み合わせから選択される。
セパレータ基材105は、ポリオレフィンから作製することができる。典型的ポリオレフィンは、ポリエチレン(PE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリブチレン、前述のいずれかのコポリマー、およびそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。ある実施形態では、セパレータ基材105は、ポリオレフィン、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、またはそれらの組み合わせ(例えば、Celgard(登録商標)セパレータ、Celgard LLC、米国、ノースカロライナ州、Charlotte)などである。セパレータ基材105は、ドライストレッチプロセス(CELGARD(登録商標)プロセスとしても知られている)または溶媒プロセス(ゲル押出しまたは相分離プロセスとしても知られている)のいずれかによって作製することができる。
ある実施形態では、本明細書で、正極集電体;正極集電体;正極、負極集電体;正極と向かい合って配置された負極;正極と負極との間に配置されたセパレータ基材;およびセパレータ基材と正極との間およびセパレータ基材と負極との間に配置された電解質を含むリチウムバッテリーであって、正極および負極のうち少なくとも1つが、本明細書に記載されるバインダまたはバインダ組成物を含む、リチウムバッテリーが提供される。
【0047】
図40Cは、正極集電体106;正極103;負極集電体107;正極と向かい合って配置された負極101;正極103と負極101との間に配置されたセパレータ基材105;およびセパレータ基材105と正極103の間およびセパレータ基材105と負極101の間に配置された電解質102を含む、本明細書に記載されたある実施形態による典型的バッテリー配置を示し;ここで、正極103および負極101の少なくとも1つは、本明細書に記載されるバインダまたはバインダ組成物を含む。
負極集電体107は、リチウムバッテリーに化学変化を生じさせない、導電性を有する任意の材料、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結炭素、もしくは銅、または表面が炭素、ニッケル、チタン、銀等で処理されたステンレス鋼またはアルミニウム-カドミウム合金であってもよい。追加の典型的負極集電体107は、銅箔、銅メッシュ箔、銅フォームシート、ニッケルフォームシート、ニッケルメッシュ箔、およびニッケル箔を含むが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、負極集電体107は、フィルム、シート、箔、ネット、多孔性構造、フォーム、および不織布を含む任意の種々の形態であってもよい。
【0048】
正極集電体106は、リチウムバッテリーに化学変化を生じさせず高い導電性を有する任意の材料、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結炭素、もしくはアルミニウム、または表面が炭素、ニッケル、チタン、銀等で処理されたステンレス鋼であってもよい。幾つかの実施形態において、正極の集電体106は、正の活物質に対する増強された接着強度を有するように、それらの表面に細かい不規則性を有していてもよい。正極の集電体106は、フィルム、シート、箔、ネット、多孔性構造、フォーム、および不織布を含む任意の種々の形態であってもよい。
【0049】
比較例では、キトサンをSiアノードのためのバインダとして使用した。バインダとしてのキトサンの性能は、PVDFおよびアルギン酸ナトリウムのような他の一般的に使用されるバインダと比較した場合、より優れていることがわかった。調製されたコインセルを0.1Cで5サイクルさせた。この遅い充電速度は、Siナノ粒子の適当なリチウム化を可能にして、急速な応力による亀裂発生を最少化するために使用した。サイクル後、電池を解体して、サイクルされた複合体を銅箔から外してスクラップにした。次いでDMCを用いる洗浄を繰り返すことにより電解質残留物のいかなる痕跡も除去して、特性決定および分析のために使用された。
ゲルの粘度のような物理的パラメーターが、ゲル強度およびバインダの結合能力を決定することに重要な役割を演ずる。バインダ溶液の高粘度は、Si粒子の沈降および電極形成中の凝集を防止して、水が蒸発しているときに、スラリーの高い均一性を生ずる。この均一性は、長期の電極安定性のために必要なアノード内における活物質の均一な分布を得るために決定的に重要であることが知られている。
【0050】
全てそれぞれの溶媒中において2%ポリマーの濃度を有する、異なるバイオポリマーゲルおよびPVDFゲルの、新たに調製後および室温で2ヵ月貯蔵した後における粘度を表1に示す。
【表1】
【0051】
キトサンTPPゲルの粘度は、キトサンゲルの粘度より大きく高かったが、その理由は、正の-NH2基とTPPアニオンとの間で形成される強いイオン性結合のためである。室温で2ヵ月間貯蔵後、PVDFゲルおよびバイオポリマーゲルの粘度を、再び測定して貯蔵安定性を決定した。全てのバインダゲルは、殆ど同じ粘度値を保持しており、それは、正常条件下における長期貯蔵中の優れた安定性を示す。これは、バイオポリマーゲルが、最も商業的に使用されるバインダPVDFと同様な市販の目的のために使用されることに対する適性を与える重要なパラメーターである。
バインダと電解質間の相互作用を決定するために、膨潤試験を実施した。電解質は、バインダマトリックスで膨潤すると、バインダとSi粒子との間の界面領域中に容易に移動することができる。したがって、バインダとケイ素との間の接着は、弱められるか、または破壊されることさえある。バインダの乾燥した材料の膨潤する性質を試験するために、20mlの各バインダゲルを乾燥してペレットを形成し、EC:DMC(1:1)電解質中で1MのLiPF6に浸漬した。膨潤比(質量比)を10時間後に測定した。
【0052】
図10は、PVDFが、10時間後に使用された異なるバインダゲルの中で、電解質溶液中で最高の膨潤を有することを示す。キトサンTPPは、電解質中で最小の膨潤を示したが、それは、キトサンとトリポリリン酸イオンとの間の強いイオン性相互作用に起因する可能性があり、その強いイオン性相互作用が電解質分子のためにより弱い相互作用部位を与える。電解質中におけるバインダの膨潤は、電解質がポリマーバインダネットワーク中に侵入し、Si活物質との接触を確立し、したがって、アノードマトリックス中へのLiイオン拡散のために道路を舗装することができることを示す。したがって、電解質中におけるバインダの膨潤は、アノードマトリックス内側における良好なイオン性伝導のために有利であり、PVDFに対する非常に高い膨潤比は、バインダおよびSiナノ粒子および炭素の間の結合およびアノードマトリックスと銅の集電体との間の結合も弱める電解質分子とPVDFとの間のより強い相互作用を意味する。
【0053】
Si-キトサンおよびSi-キトサンTPPアノード複合体の機械的性質を定量的に評価して比較するために、接着試験を、広く採用されている180
o剥離試験に従って実施した。参照として、それぞれPVDFおよびアルギン酸ナトリウムバインダを使用したラミネートの剥離試験も実施した。
図11に示したデータによれば、Si-PVDF複合体は、2.09Nという最低の初期剥離力を示す。Si-アルギン酸塩複合体は、Si-PVDFより高い機械的性質を示し、初期剥離力は、約7.95Nに増大する。Si-キトサン複合体は、僅かにより高い初期剥離力の8.62Nを示す。トリポリリン酸塩アニオンで架橋された、キトサンTPPおよびSi複合体の初期剥離力は大きく改善されて、14.84Nの高い初期剥離力が得られた。接着試験は、キトサン鎖と架橋部分との間の堅牢なイオン結合が、架橋剤が添加されなかった場合のキトサン鎖間の弱い物理的架橋(おそらく、ファンデルワールス力および水素結合)に代わってより高い機械的強度に寄与して、密なポリマーネットワークを形成して、それが、Siナノ粒子を閉じ込めて、電解質を、複合体と銅箔との間の空間に浸透させず、したがって、バインダと銅箔との間の接着を強化することを明確に示す。
【0054】
バインダおよびアノード複合体中に存在する化学結合を決定するために、FTIR分光法による研究を実施した。FTIRの走査を、400~4000cm
-1の間の波数で実施した。キトサンおよびキトサンTPPとSi粒子との相互作用を評価するために、調製されたアノードスラリーを真空下で乾燥して、2%酢酸溶液(キトサン溶媒)を満たした大きいビーカー中に浸漬して、4時間撹拌した。濾過しておよび空気中で乾燥した後、Si粒子を捕集して、2%酢酸溶液中に浸漬し、4時間撹拌して濾過した。このプロセスを5回繰り返した。分光法測定の前に、全ての試料を、真空中60℃で8時間乾燥した。
図12は、Si、キトサンTPP、Si-C-キトサンTPPおよびSi-キトサンTPP洗浄試料について、FTIRスペクトルを示す。キトサンは、とりわけ、水素結合したO-H伸縮振動に関係する約3400cm
―1における広い吸収帯、O-C-O(カルボキシレート)の対称および非対称振動に対応する約1300cm
―1~約1650cm
―1間におけるピーク、O-C-Oの対称振動に対応する約1410cm
―1におけるピーク、およびC-O-Cの非対称振動に関係する約1100cm
―1におけるピークを示す。電極形成の後、ピラノース環の変角振動に関係するO-C-OおよびC-O-Cのピークの相対強度が、純粋なキトサンと比較したときにかなり減少する。この減少は、キトサンとSiナノ粒子との間の化学的相互作用の証拠を提供する。キトサンとSiとの間のこれらの相互作用に関係するピークは、繰り返し洗浄された試料に強く存在しており、Siナノ粒子に対するキトサンの強い結合効果を示唆する。バインダとSiとの間の強い相互作用は、Siベースの電極の安定性に影響を及ぼす最も重要な要因の1つである。
【0055】
FTIR分析の結果を確認するためにXPS測定を行った。XPSの結果は、キトサンTPPバインダとSiナノ粒子との間の強い結合のさらなる証拠を提供した。
図13および
図14に示したように、キトサンTPPのC
1sXPSスペクトルは、C-CおよびC-H結合(283.8eV)、C-O結合(285.7eV)およびC=O結合(283.0eV)に対応する3本の明白な特性ピークを示した。N
1sXPSスペクトルも、キトサンTPPに強いN-H結合(399eV)を示した。期待されるように、初期Si粉体は、表面におけるC原子およびN原子のいかなる徴候も示さなかった。水を用いた4回の洗浄による注意深い精製にもかかわらず、Si-C-キトサンTPPは、XPSスペクトルで強いC
1sシグナルおよびN
1sシグナルをまだ示し、大量のC-キトサンがSiナノ粒子の表面にまだとどまっていることを示した。キトサンTPPと比較して、水で洗浄したSi-C-キトサンTPP混合物のC-HおよびC-Oの結合エネルギーは、283.8から284.2eV、および285.7から287eVにそれぞれ増大し、一方N1sシグナルは399から400.8eVにシフトした。
これは、C-キトサンの-OH、-CH
2OHおよび-NH
2基がヒドロキシル化されたSi表面に結合して吸着プロセスに関与することを意味し、それはFTIR分析とよく一致した。これらの結果は、ヒドロキシル化されたSi表面とキトサンとの間の強い水素結合の形成を示唆した。
【0056】
PVDFおよびキトサンバインダを有する新たな電極およびサイクルされた電極についてIRスペクトルを、
図15および
図16にそれぞれ示す。電極は、0.01V~1Vの間で0.1Cで5回サイクルし、電池をグローブボックス内で解体し、DMC溶媒で徹底的に洗浄して残存電解質を除去して、次にグローブボックス内で乾燥した。以前の研究はPVDFおよびポリアクリル酸バインダを使用したケイ素アノードで行われ、そこで、SEI層の形成は最初の5サイクルで最も活発であることを示した。より低いカットオフ電圧を0.01Vに保ってケイ素ナノ粒子の完全なリチウム化を可能にした。サイクルされたアノードを、シリカゲル乾燥剤を含有する気密容器に入れて、空気または湿気との接触によるいかなる汚染も防止して、それから分析のためにMCPFラボに持ち込んだ。FTIRおよびXPS分析を行ってSi電極におけるSEIの形成に対するバインダの役割について、より確かな理解を提供した。
図35において、サイクルされた複合体で、ROCOOLiに対応する2本のピーク(1510cm
-1)およびLi
2CO
3(1440cm
-1)が観察されたが、それは新たなカソード材料には存在しない。これらの2種の化合物は、Siアノードのサイクル中に電解質から形成された主な分解生成物であり、これは、Siナノ粒子上におけるSEI層の形成を示した。
PVDFバインダのカソードと対照的に、
図16は、キトサンバインダのアノードについて、ROCOLiおよびLi
2CO
3の分解生成物の痕跡がないかまたは非常に小さいことを示す。キトサンバインダは、Siナノ粒子上に均一な層を形成して、サイクル中に裂け目を生ぜず、したがって、サイクル中のROCOOLiおよびLi
2CO
3のいかなる追加の形成も防止して、アノードに存在するSiナノ粒子上における安定なSEI層に寄与する。
【0057】
XPS分析は、FTIR分析から得られた結果を確認する。新たなカソード複合体およびサイクルされたカソード複合体のC1sスペクトルは、サイクルされた複合体において、Li2CO3の形成に対応するCO3ピーク(286.4eV)の形成を示す。このピークはサイクルされたPVDFおよびキトサン複合体の両方に存在するが、キトサン複合体に存在するピークの相対強度は、PVDF複合体と比較してはるかに小さい。これは、キトサンバインダが、電解質の分解生成物の量を減少させることにより安定なSEI層を生成させることに効果的に作用することを示す。
【0058】
SEM像は、複合体アノード材料の物理的構造および電気化学的試験中にそれらの中で起こる変化の理解を提供する。新たな複合体およびサイクルされた複合体のSEM像を
図17に示す。両方の新たな複合体は、Super PおよびCNFにより取り囲まれた丸い形のケイ素ナノ粒子からなる。10サイクル後、PVDF複合体中のSiナノ粒子は、粒子の境界を識別困難にする厚いSEIで覆われている。厚いSEIは、Siナノ粒子を電解質から分離して、Liイオンの移動を妨げ、急速な容量減衰をもたらし得る。対照的に、キトサン複合体は、明確な縁を有する透明な個々の粒子を見せる。キトサン複合体上のより厚いSEIは、サイクル中の粒子間の良好な電気的接続を確実にして、より優れたサイクル性を導く。
【0059】
図19には、Si-C-キトサンTPPアノード複合体の表面形態が示され、0.1Cで0.1~1Vの間をサイクルされた充電および放電の100および500サイクル後の複合体の表面形態と比較した。より低いカットオフ電圧を0.01Vに保ってケイ素ナノ粒子の完全なリチウム化を可能にした。アノード複合体は、非常に均一な形態を有し、そこで、Si、C Super Pおよび炭素ナノ繊維は、均一に分散している。キトサンTPPバインダは、ナノ粒子上によくコートされ、ナノ粒子の表面を平滑にする。ナノ繊維は、ナノ粒子のための追加のケージのような構造を作り、電極の導電性を増大させる。500サイクルの充電/放電の後、Siナノ粒子上におけるSEI層の形成に起因するアノードの空孔率における僅かな減少があるが、アノード複合体の一般的構造はまったく完全であることが見られ、キトサンTPPの優れた結合強度を示唆する。
Si-C-キトサンTPPアノード複合体のEDS分析は、Si、CおよびキトサンTPPバインダの優れた分散を示す。キトサンTPPバインダのフィルムは、リンについてのEDS像により示されるように、アノードマトリックス中に非常に一様に分散しており、リンは、キトサンTPPバインダゲルのトリポリリン酸部分に存在する。
Siナノ粒子上におけるSEI層の形成をさらに調べるために、TEM分析を行った。
図21は、PVDFおよびキトサンバインダを有する新たなアノード複合体サイクルされたアノード複合体中におけるSiナノ粒子を示す。
図21Aおよび
図21Bは、キトサンおよびPVDFバインダをそれぞれ含有する複合体中の縁の明確な透明な丸いSiナノ粒子を示す。
図21Cは、サイクルされたキトサン複合体中のSiナノ粒子はより透明な縁を有するが、Siナノ粒子上における薄いSEI層の形成に起因する多少の曖昧さを示すことを示す。比較で、
図21Dにおいて、本出願人らは、サイクルされたPVDF複合体中のSiナノ粒子が曖昧な構造を有し、縁は明確に見られないことを目視することができる。これは、Siナノ粒子上におけるSEI層の形成に起因する。
【0060】
図22に示したように、上記2種のサイクルされた複合体のTEM像をさらに拡大すると、結晶性のケイ素ナノ粒子上に非晶質層がみえる。以前の研究によれば、この非晶質層は、複合体の調製中に、Siナノ粒子表面の酸化に起因して、バインダおよびSEI層とともに形成された自然のままのSiO
xで作られている。PVDF複合体のためのこの層は、キトサンバインダによる、PVDFと比較してより安定なSEI層の形成のおかげで、5サイクル後のキトサン複合体上の層(約2nm)よりはるかに厚い(約5nm)。
半電池をグローブボックス中で調製し、電気化学的測定を、バッテリー試験システムで行った。大部分の測定については、電流密度を0.1Cに保ち、電池を、0.01~1Vの電圧範囲の間で充電し放電した。3個の複製コインセルを各複合体について試験した。
アノード複合体は、Siナノ粉体、C Super P、CNFおよびバインダ、すなわちキトサン、キトサンTPPおよびPVDFを使用して調製した。複合体中への活物質ケイ素の添加は、15%のCNFおよび5%のC Super Pを加えて60%に保った。バインダ含有率は20%に保った。非常に高いバインダ含有率は、低い放電容量を生じ得るが、その理由は、バインダはアノード複合体の電気的に不活性構成要素であるが、低いバインダ含有率は、Siナノ粒子と炭素との間の接触の減少、およびサイクル中のSiナノ粒子の定常的膨張および収縮に起因するアノード複合体と集電体との間の接触の減少のせいでバッテリーの容量保持を低下させるであろう。CNFを導電剤として使用する目的は、C Super Pの殆ど4倍のその優れた導電性である。CNFの抵抗は、35.1Ω/sqの抵抗を有するC Super Pと比較して8.2Ω/sqである。
【0061】
図23は、アノードが0.1Cレートでサイクルされたときに、PVDFおよびキトサンと比較して、SiアノードのためのバインダとしてキトサンTPPが最高の性能を発揮することを示す。
図23中のSi-C-CNF-PVDF、Si-C-CNF-キトサン、およびSi-C-CNF-キトサンTPPの組成を下の表2に示す。
【表2】
【0062】
Si-C-CNF-キトサンTPP、Si-C-CNF-キトサンおよびSi-C-CNF-PVDFアノードの初期放電容量は、それぞれ、2080mAh/g、2022mAh/gおよび2015mAh/gであることがわかった。放電容量における急速な減少の傾向は、全てのアノード複合体について約85~100サイクルまで観察された。以前の研究によれば、初期サイクル中の容量におけるこの急速な減少は、サイクル中におけるSiナノ粒子上のSEI層の形成に対応する。100サイクル後に、Si-C-CNF-キトサンTPPおよびSi-C-CNF-キトサンアノードは、その初期放電容量のそれぞれ90%および78%を保持したが、それに対してSi-C-CNF-PVDFアノードは、その初期放電容量の48%しか保持していなかった。この結果から、サイクル中、新しいSi表面が電解質成分に露出し、より多くのSEI層化合物を組み合わせて形成し、その結果、ケイ素ナノ粒子上における分離に起因してSEI層の厚さが増大および放電容量が減少し、およびLiイオンのアノードへの電荷移動に対する抵抗が増大する間、PVDFがSEI層の形成、バインダ層の破損分裂を制御できないことがわかる。比較で、キトサンベースのバインダを使用するアノードは、Siナノ粒子上に安定な弾性層を形成し、したがって、サイクル中におけるSi表面の電解質成分への露出を制限する。急速な容量損失のこの期間に続いて、アノードのサイクル性能は改善されて、サイクル当たりの容量損失は、かなり減少した。500サイクルの後、Si-C-CNF-キトサンTPPアノードは、1642mAh/gの放電容量を示したが、それは、Si-C-CNF-キトサン(1103mAh/g)およびSi-C-CNF-PVDF(323mAh/g)アノードの放電容量よりかなり高かった。異なるバインダで作製された全てのアノードについて、クーロン有効度の値は、全てのサイクルについて約100%であった。
【0063】
図24に示したように、Si-C-CNF-キトサンTPPアノードを1000サイクルまでさらにサイクルさせた。1000サイクル後のアノードの放電容量は1536mAh/gであって、初期放電容量の約74%を保持した。この優れたサイクル安定性は、キトサンTPPバインダおよびCNFの組み合わせの効果に帰すことができる。バインダは、アノードの異なる成分と集電体箔との間の優れた接着を提供して、Siナノ粒子上に安定なSEI層も形成する。CNFは、サイクル中そのメッシュに電極構造を維持して、アノード内の優れた導電性を提供し、したがってアノードが非常に安定なサイクル性能を達成することを助ける。
Li-イオンの貯蔵性に対するさらなる洞察を得るために、Si-C-CNF-キトサンTPPアノードについて、電気化学的インピーダンスの分光法(EIS)測定を、1回目および500回目の放電サイクル後に実施した。ナイキストプロットは、互いに重なり合う高周波数の半円(HFS)および中周波数の半円(MHS)を含有する2つの押し下げられた半円、および長低周波数の線(LFL)を示し、それらの全ては、固体材料におけるSEI抵抗、電荷移動抵抗、およびLi
+拡散のワールブルグインピーダンスのそれぞれに関連性があった。
【0064】
1回目のサイクル後、半円の直径を測定することにより得られたアノードの電荷移動抵抗(Rct)は、26Ωから、500サイクル後に約74Ωに増大することがわかった。Rctにおけるこの増大は、Siナノ粒子上におけるSEI層の形成に帰すことができ、SEI層はリチウムイオンのSiナノ粒子中への拡散を妨げる。Rctにおける増大は、以前のPVDFバインダが使用された文献と比較した場合、より非常に小さく、SEI層の形成は限定されて、したがって、安定なサイクル性能を維持することを示した。
Si-C-CNF-キトサンTPPアノードのレート性能を、0.1C、1C、2Cおよび5Cの充電-放電速度で設定して、それらを200サイクルの間サイクルさせることにより分析した。レート性能試験は、商業的適用のために考慮されるべき重要な態様である、より速い充電および放電速度のためのアノード材料の適性を判断することに役立つ。アノードは、より高い充電-放電速度で注目すべき安定性および放電容量を示した。0.1C、1C、2Cおよび5Cで200サイクル後のアノードの放電容量は、それぞれ、1820mAh/g、1797mAh/g、1770mAh/gおよび1729mAh/gであることがわかった。
【0065】
この発見を根拠に、広く使用されている市販のカソード材料とともにSi-C-CNF-キトサンTPPアノードが使用される、バッテリーの完全な電池性能を実施した。産業で使用される3種の最も一般的なカソード材料、すなわち、LCO、NMC、およびLFPを、この研究のために選んだ。容量の比較を下の
図27に示す。
図27中のVot14アノード、炭素アノード、LCOカソード、NMCカソード、およびLFPカソードの組成を下の表に記載する。
【表3】
【0066】
バッテリーを、3.0~4.5Vの間で0.1Cでサイクルさせた。Si-C-CNF-キトサンTPPアノードを使用するバッテリーは、通常の炭素アノードを使用するバッテリーと比較してより高い放電容量を有した。検討したカソード材料の中で最高の放電容量を有するLCOの場合を取り上げれば、Si-C-CNF-キトサンTPP/LCOバッテリーの放電容量は、245mAh/gであることがわかった。それは、157mAh/gの放電容量を有するC/LCOバッテリーの放電容量より約1.6倍高かった。
【0067】
実験の部
図28に記載したように、異なる活物質、導電剤、バインダおよび導電性ポリマーをこの研究で使用した。
ケイ素をアノード活物質として選んだが、その理由は、それが、合金化アノード材料の中で最高の理論放電容量の4200mAh/gを有するからである。Carbon Super Pは、最も一般的に使用される導電性C剤の1つであるため、第一級の導電性C剤として使用した。CNFを追加の導電性C剤として使用したが、その理由は、Carbon Super Pよりはるかに高いその導電性である。キトサンを、バインダとして試験したが、それは、キトサンが天然で見出される最も安価かつ最も豊富なバイオポリマーの1つであり、しかもPVDFと比較して電極のサイクル性能を改善することも示しているからである。トリポリリン酸ナトリウムと架橋したキトサンのイオン的に架橋ポリマーであるキトサンTPPを、Siアノードに対する適性を調べるために、第2のバインダとして使用したが、それは、その架橋した構造が理由で、キトサンと比較してはるかに強いゲルを形成して、SiおよびCナノ粒子を架橋したバインダ構造内でコンパクトに保つことにより、キトサンの結合効果を強化することに役立ち得ることがわかったからである。
キトサンおよびキトサンTPPを新しいバインダとして使用した実験結果を比較するために、最も一般的に使用されている市販のバインダPVDFおよび2種のよく調べられているバイオポリマーバインダ、カルボキシメチルセルロースおよびアルギン酸ナトリウムを、比較の基準として利用した。
バッテリーを調製して試験することに含まれた異なる実験ステップを
図20に示す。
電気化学的試験を、コインセルについて行い、それらのサイクル性能、レート能力、充電-放電プロファイルおよび内部抵抗特性を見た。異なる材料特性決定技法を、アノードまたはカソード複合体中に存在する異なる成分の形態および化学構造を理解するために採用した。
【0068】
材料
ケイ素ナノ粒子(<100nm、98%、CAS No.:7440-21-3)はAldrichから入手した。キトサン(媒体分子量、CAS No.:9012-76-4)、アルギン酸ナトリウム(媒体粘度、CAS No.:9005-38-3)およびナトリウムカルボキシメチルセルロース(Mw-600,000、CAS No.:9002-32-4)もAldrichから入手した。PVDF(<99.5%、Mw-600,000)はMTI Corporationから得た。酢酸およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を、キトサンおよびPVDFそれぞれの溶媒として使用したが、これはAldrichから得た。使用した電解質は、1M LiPF6を、Dodchemから購入したエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1:1、体積/体積)に溶解することにより作製した。Carbon Super Pおよび炭素ナノ繊維は、Aldrichから得て、受け入れたまま使用した。
【0069】
方法
バインダゲル溶液の調製
キトサンを、主要なバイオポリマーとして使用してSiアノードのためのバインダとして、およびSカソードの活物質としてその適性を調べた。PVDFおよびアルギン酸塩を、Siアノードのためのバインダとして使用してキトサンの性能と比較した。さらに、CMCを、Sカソードのためのバインダとして比較の目的で使用した。およそ2%バインダ溶液を、ビーカー中で磁性撹拌機を使用して撹拌しながら調製した。調製条件を表1でリストにした。1%質量/体積~5%質量/体積のキトサン溶液を水中1%体積/体積の酢酸中で調製した。1%溶液は薄かったが、3~5%のキトサン溶液は非常に粘稠で、混合するために長時間を要した。アノードスラリーを、異なる濃度のキトサン溶液を使用して調製し、銅箔上にキャストした。2%キトサンで調製したスラリーが、銅箔上におけるキャスティングのために所望の稠度を有することがわかった。また、より高い濃度のバインダは、ボールミル中でSiおよびCと適当に混合せず、非均一なスラリーを生じた。PVDF溶液は、大部分NMP中で2%の質量/体積濃度で使用し、またアルギン酸ナトリウムおよびCMCは、以前にもSiアノードのために2%質量/体積濃度水溶液として使用したことがある。
【0070】
【0071】
イオン的に架橋されたハイブリッドバインダを、アルギン酸塩およびキトサンバインダゲルと、それらのそれぞれの架橋剤、カルシウムおよびトリポリリン酸ナトリウムとを混合することにより調製した。14mLの6mg/mLトリポリリン酸ナトリウム(TPP)水溶液を、35mLの2%キトサン水溶液に滴下して、1%(体積/体積)酢酸と300rpmで48時間機械的に撹拌した。キトサンバインダゲルは、14mLの1~10mg/mLのTPPおよび35mLの2%キトサン水溶液に1%(体積/体積)酢酸を加えて調製した。それより低い濃度のTPPは、低架橋度が理由で、低粘度のゲル溶液を生じた。粘度および架橋度は、TPPの増大する濃度とともに増大した。低い粘度および架橋度は低強度のバインダを生じたが、一方、高過ぎる粘度および架橋度は、アノードスラリーを作製するために使用することができないバインダゲルを生じたが、その理由は、ボールミル中における混合中の粒子の高凝集である。6mg/mLのTPP溶液は、35mLの2%キトサン水溶液と1%(体積/体積)酢酸と組み合わされたとき、比較的高い架橋度および完全な粘度を有する最適のバインダゲルを形成し、それは、強いが均一なアノードスラリーを形成することに役立った。
アルギン酸塩-カルシウムで架橋されバインダを、同様に、Ca2+イオン(塩化カルシウムを脱イオン水に溶解することから得られる)をアルギン酸塩ゲルに加え、0.15のモル比を維持して24時間300rpmで機械的に撹拌して、調製した。
【0072】
電極複合体スラリーの調製
アノードスラリーは、活物質Siナノ粒子を導電剤Super PまたはCNFおよびバインダゲル溶液と、400rpmで作動するボールミル中で6時間混合することにより調製した。活物質、導電剤およびバインダゲルの比率は、異なる試料で変化した。活物質の量は、乾燥した質量により40~50%の間、50~60%の間、または60~70%の間で変化し、Super Pは、10~15%、15~25%、または25~40%の間、CNFは1~5%、5~10%、または10~15%の間、およびバインダは10~15%、15~20%、または20~30%の間で変化した。ボールミルプロセスの中程で、スラリーの稠度を確認して、必要であれば溶媒を追加した。
カソードスラリーを、活物質のカソード粉体、すなわち、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)およびリン酸リチウム鉄(LFP)を、PVDFバインダ溶液および炭素導電剤と、250rpmで作動するボールミル中で3時間混合することにより調製した。活物質のカソード粉体、炭素導電剤およびPVDFバインダを、乾燥した質量により85:10:5の比で混合した。ボールミルプロセスの中程で、スラリーの稠度を確認して、必要があれば、溶媒を追加した。
【0073】
バインダゲルおよびアノード複合体材料の特性決定
粘度測定。
バインダゲル溶液の粘度を、ARES-G2レオメーター(TA Instruments、米国)を使用して測定した。
レオメーターは、関心の材料を幾何学的配置で含有する精密機器であり、その周囲の環境を制御して、広範囲の応力、歪み、および歪み速度を適用して測定する。応力および歪みに対する材料応答は、純粋に粘稠から純粋に弾性へと変化して、粘弾性として知られている粘稠および弾性挙動の組み合わせになる。これらの挙動は、モジュラス、粘度、および弾性などの材料の性質で定量される。
【0074】
膨潤試験
バインダ系の電解質溶媒との許容能力を膨潤試験により検査した。溶液をキャストした試料を、膨潤試験のために20mlのバインダゲル溶液を、真空オーブン中ペトリ皿上60℃で10時間、30インチHgの真空圧力下で乾燥することにより調製した。そのバインダシートを、グローブボックス(MBraun Labstar)内で電解質に浸漬し、10時間後に秤量して電解質の吸収量を決定した。
【0075】
剥離試験。
活性Siナノ粒子および導電性炭素を銅集電体に繋ぎとめるためのバインダの接着強度を、180o剥離試験を使用して定量した。アノードスラリーを調製して銅箔上にキャストし、次に真空下で、コインセルを調製したときに行ったのと同じ方法で乾燥した。次いで、コートされた銅箔を幅30mmおよび長さ50mmの試験片に切って、グローブボックス内で、EC:DMC(1:1)中1MのLiPF6電解質中に10時間浸漬した。その後、銅箔を、グローブボックスから取り出し、インストロン万能試験機を使用して剥離試験を行った。箔を下側のクランプで締め付けて、接着剤テープを銅箔のコートされた側に取り付けて、テープの端部を上側のクランプで締め付けてから、インストロン試験機を使用して剥離した。剥離力および変位のデータを記録した。
【0076】
X線回折
材料の結晶構造を、Cu Kα放射線供給源(波長1.540562Å)およびグラファイトモノクロメーターを備えたPhilipsのPW1830粉体X線回折計によるX線回折により検査した。2θ=0~80°の走査範囲で、適用電圧および電流は、それぞれ40kVおよび20mAであった。ステップサイズおよび走査時間は、それぞれ、0.05oおよび2秒であった。得られたスペクトルを、the International Center for Diffraction Dataにより規定されたJoint Committee on Powder Diffraction Standards(JCPDS)のカードを用いて分析した。
X線回折は、入射X線と結晶性または非晶質物質との相互作用の原理に基づいて、物質の構造特性に依存する回折パターンを生ずる。結晶性物質は、結晶格子中の平面の間隔と同様なX線波長のために3次元の回折格子として作用する。X線回折は、単色のX線と結晶性試料との構造的干渉に基づく。これらのX線は、陰極線管により生成され、濾波されて単色の放射線を生じ、平行化されて集中し、試料に向かわされる。入射光と試料との相互作用は、条件がブラッグの法則(nλ=2dsinθ)を満たすとき、構造的干渉(および回折された光線)を生ずる。この法則は、回折角度に対する電磁放射線の波長および結晶性試料中の格子間隔に関係する。これらの回折されたX線は、次に検出されて処理され、カウントされる。試料を、2θの角度の範囲を通して走査することにより、格子の全ての可能な回折方向が、粉体状材料のランダム配向に基づいて達成されることになる。回折ピークのd間隔への変換が、鉱物の同定を可能にするが、その理由は、各鉱物が1組の特有のd間隔を有するからである。典型的には、これは、d間隔と標準参照パターンとの比較により達成される。
【0077】
走査電子顕微鏡
EDSアナライザーを備えたJOEL6700機を使用する走査電子顕微鏡(SEM)を使用して、アノードおよびカソードの複合体材料の形態を観察した。
該走査電子顕微鏡は、高エネルギー電子の集束するビームを使用して固体検体の表面で種々のシグナルを発生させる。電子と試料の相互作用に由来するシグナルが、試料を作っている材料の外部形態(肌理)、化学組成、および結晶構造および配向を含む試料についての情報を明らかにする。大部分の用途では、データは、試料の表面の選択された領域にわたって捕集され、これらの性質における空間的変化を表示する2次元の像が生成される。およそ1cm~5μmの範囲の幅の領域を、従来のSEM技法(倍率範囲20×~およそ30,000×、空間的分解50~100nm)を使用する走査様式で撮像することができる。SEMは、試料上の選択された点の位置の分析を実行することもでき;この手法は、化学組成(エネルギー分散型X線分光法を使用して)、結晶性構造、および結晶の配向(電子後方散乱回折を使用して)を、定性的にまたは半定量的に決定することに特に有用である。
SEMは、物体(SEI)の形状の高分解像を発生させ、化学組成における空間的変動:1)元素状マップまたはエネルギー分散X線分光法を使用するスポット化学分析を取得する、2)後方散乱電子検出器を使用する平均原子数(一般的に相対密度に関係する)に基づく相の識別、および3)陰極ルミネセンスを使用する痕跡元素「活性化剤」(典型的には遷移金属および希土類元素)における相違に基づく組成マップを示すために日常的に使用される。SEMは、定性化学分析および/または結晶性構造に基づいて相を同定するためにも広く使用される。50nmまでサイズを下げた非常に小さい特徴および物体の精密測定も、SEM使用して成し遂げられる。
【0078】
フーリエ変換赤外分光法
異なるバイオポリマーバインダと活物質との間の相互作用を評価するために、Vertex 70 Hyperion 1000分光計(Bruker、ドイツ)を使用して、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)で記録した。
【0079】
赤外分光法は、有機化学において重要な技法である。それは分子中のある官能基の存在を同定するための容易な方法である。純粋な化合物の同一性を確認するために、または特定の不純物の存在を検出するためにも、吸収帯の特有のコレクションを使用することができる。FTIRは、大部分の分子が、電磁的スペクトルの赤外領域で光を吸収するという事実に依存する。この吸収は、分子に存在する結合に特異的に対応する。周波数範囲は、典型的には4000~400cm-1にわたる範囲における波数として測定される。IR供給源の背景放電スペクトルが最初に記録され、置かれた試料について赤外供給源の放電スペクトルがそれに続く。試料スペクトルの背景スペクトルに対する比が、試料の吸収スペクトルに直接関係する。その結果、結合の性質の振動周波数から生じた吸収スペクトルが、試料中の種々の化学結合の存在および官能基の存在を示す。FTIRは、全て赤外範囲内に特性振動の周波数を有するであろう、含まれる官能基、側鎖および架橋の範囲に起因して、有機分子の基および化合物を同定するために特に有用である。
【0080】
X線光電子分光法
材料の組成および元素の酸化状態は、150Wの適用電力で作動するアルミニウムの陽極供給源を有するKratos Axis Ultra DLDマルチ技法表面分析システムを使用して、X線光電子分光法(XPS)により測定した。
X線光電子分光法は、2~5nmの深さまで試料を分析することができる表面特性決定技法である。XPSは、どの化学的元素が表面に存在するか、およびこれらの元素間に存在する化学結合の性質を明らかにする。それは、水素およびヘリウムを除く全ての元素を検出することができる。XPSは、試料のいかなる可能な酸化も排除するために超真空条件下、およそ10~9ミリバールで実施される。試料を十分なエネルギーのX線で照射すると、特異的結合状態で励起された電子を生ずる。典型的なXPS実験においては、十分なエネルギーが入力されて、光電子を元素の核の引力から離脱させる。2つの重要な特徴がXPSデータから誘導される。第1は、核レベルから光で放電された電子でさえ、検査される材料の外部原子価配置に依存する僅かな偏移を有することである。第2は、元素の核レベルの特異的エネルギーの転移が、元素を一意的に同定することができる特異的結合エネルギーで起こることである。典型的なXPSスペクトルでは、光放電電子の一部が、試料通って表面への途上で非弾性的に散乱するが、それに対して、他の電子は急速な放電を受けて表面から周囲の真空中に脱出する際にエネルギー損失を経験しない。これらの光放電電子が真空に入ると、それらは、それらの運動エネルギーを測定する電子アナライザーにより捕集される。電子エネルギーアナライザーは、結合エネルギー(電子が原子を離れる前に有したエネルギー)に対するエネルギースペクトルの強度(時間に対する光放電電子の数)を生ずる。スペクトルにおける各突起するエネルギーピークが特異的元素に対応する。
【0081】
UV-Vis分光法
UV-Vis分光法は、異なるLi2S6-バインダ溶液について吸収スペクトルにおける偏移を決定するために、Lambda 20(Perkin Elmer)分光光度計を使用して行った。
紫外および可視(UV-Vis)吸収分光法は、試料を通過した後または試料表面から反射した後の光のビームの減衰の測定である。吸収の測定は、単一の波長でもまたは広がったスペクトルの範囲にわたっても可能である。
赤色を超える領域は赤外と呼ばれるが、それに対して紫色を超える領域は紫外と呼ばれる。uv放射線の波長範囲は、可視光(4000Å)の青の端で始まり2000Åで終わる。
紫外吸収スペクトルは、分子が特定の周波数の紫外放射線を吸収するときに、分子中の電子がより低いレベルからより高いレベルに転移することから生ずる。分子が結合を有するときはいつでも、結合している原子は、それらの原子軌道を併合させて、異なるエネルギーレベルの電子により占拠され得る分子軌道を形成する。基底状態の分子軌道は、反結合性分子軌道に励起され得る。これらの電子は、エネルギーを光放射線の形態で与えられたときに、最高の被占分子軌道から最低の空分子
軌道へと励起されて、生じる種は、励起状態または反結合状態として知られている。
【0082】
電気化学的インピーダンス分析
EISは、燃料電池の性能の限界を見極めて改善するために使用することができる有力な診断の道具である。燃料電池における電圧損失の3つの基本的な原因がある:電荷移動活性化または「動力学的」損失、イオンおよび電子輸送または「オーム性」損失、および濃度または「物質移動」損失である。他の要因の中で、EISは、分極のこれらの原因を分離して定量するために使用することができる実験技法である。燃料電池内で起こる物理化学的プロセスが、抵抗器、キャパシタおよびインダクタのネットワークにより表される、物理的に響く等価の回路モデルを適用することにより、燃料電池内のインピーダンスの原因に関する意味深い定性的および定量的情報を抽出することができる。EISは、新しい材料および電極構造の研究および開発のために、ならびに製品の検証および製造操業における品質保証のために有用である。
【0083】
インピーダンス測定中に、周波数応答アナライザー(FRA)が、荷重によりバッテリーに小さい振幅のACシグナルを課すために使用される。バッテリーのAC電圧および電流応答が、FRAにより分析されて、特定の周波数における電池の抵抗の、容量のおよび誘導の、インピーダンス挙動が決定される。電子およびイオンの輸送、液体および固体相反応物の輸送、不均一な反応などのような電池内で起こる物理化学的プロセスは、異なる特徴的な時定数を有し、それ故、異なるAC周波数で表される。広範囲の周波数にわたって実施される場合、インピーダンス分光法は、これらの種々のプロセスと関連するインピーダンスを同定および定量するために使用することができる。
EISデータの等価回路モデル化は、理想的抵抗器(R)、キャパシタ(C)、およびインダクタ(L)で構成された電気回路に関して、インピーダンスデータをモデル化することにより、電気化学的システムの物理的に意味深い性質を抽出するために使用される。実際のシステムは、起こるプロセスが時間および空間に分布するようには必ずしも理想的に挙動しないので、特化された回路要素がしばしば使用される。これらは、一般化された一定相要素(CPE)およびワールブルグ要素(ZW)を含む。ワールブルグ要素は、電池の拡散または質量輸送のインピーダンスを表すために使用される。
【0084】
等価回路において、抵抗器は、イオンおよび電子の移動のための導電性経路を表す。それ自体、それらはイオン輸送に対する電解質の抵抗または電子輸送に対する伝導体の抵抗などの電荷輸送に対する材料の容積抵抗を表す。抵抗器は、電極表面における電荷移動プロセスに対する抵抗を表すためにも使用される。キャパシタおよびインダクタは、それぞれ、電気化学的二重層、および電極における吸着/脱着プロセスなどの空間-電荷分極領域と関連する。
燃料電池などの電気化学的電池についてのEISのデータは、最もしばしばナイキストプロットおよびボード線図で表される。ボード線図は、インピーダンスの大きさの表現(またはインピーダンスの真のまたは仮想の成分)および周波数の関数としての相角度を指す。インピーダンスおよび周波数は、両方ともしばしば数桁の大きさにわたるので、対数目盛りでプロットされることが多い。ボード線図は、試験中のデバイスのインピーダンスの周波数依存性を明示的に示す。
複合体平面またはナイキストプロットは、仮想インピーダンスを描き、それは、電池の真のインピーダンスに対する電池の容量および誘導の特性を示す。ナイキストプロットでは、別個の時定数を有する活性化の制御されたプロセスが、特有のインピーダンス曲線として現れ、曲線の形状は、可能な機構または支配的な現象への洞察を提供するという利点を有する。しかしながら、インピーダンスデータを表すこのフォーマットは、周波数依存性が内在するという不利な点を有し;それ故、選択されたデータ点のAC周波数が示されるべきである。両方のデータフォーマットは、それらの利点を有するので、ボード線図およびナイキストプロットの両方を提供することが通常最良である。
【0085】
他の電気化学的性能測定
アノード複合体の電気化学的性能を、CR2025コインタイプの電池を使用して評価した。電気化学的評価のための電極は、アノードスラリーを、銅およびアルミニウム箔に、ガラス棒を使用してコーティングすることにより調製した。次に、コートされた銅またはアルミニウム箔を真空オーブン中60℃で8時間乾燥した。電極を、アルゴンで満たされたグローブボックス内に12時間脱ガスのために保持した。対電極としてリチウム箔を使用して、Celgard2325の微孔性ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層膜をセパレータとして役立てた。調製したてのバッテリーコインセルを定電流の充電-放電試験で使用して、試験はバッテリー試験システム(Neware CT-3008W)で実施した。
サイクリックボルタンメトリーは、Autolab PGSTAT100電気化学ワークステーションにより、バッテリー電池で実施された。走査範囲は、2.0~4.8Vであり、走査速度は、特に断らない限り0.1mVs-1であった。電気化学的インピーダンス分光法(EIS)は、バッテリー電池で、EISモジュールを備えたAutolab PGSTAT100電気化学ワークステーションにより実施された。周波数範囲は、1MHz~10mHzであった。振幅は、5mVであった。各電池は、試験前に平衡に達するために少なくとも4時間緩和するに任せた。
【0086】
スキャフォールド形態のアノード材料の性能に対する効果
アノードスラリーは、活物質Siナノ粒子(65%)を導電剤Super P(10%)またはCNF(5%)、およびキトサンTPPバインダゲル(20%)と400rpmで作動するボールミル中で6時間混合することにより調製した。キトサンTPPバインダは、6mg/mLのトリポリリン酸ナトリウム(TPP)溶液を2%キトサン溶液中に2:5比(体積/体積)で加えて混合することにより調製した。次に、アノードを-40℃で24時間、ポリマー遠心分離管中で凍結した後、-80℃で真空下に凍結乾燥した。次いで、凍結乾燥された試料を、複合体材料として使用して電極を作製した。得られた凍結乾燥されたアノード複合体を水で湿らせて、ガラス棒を使用して手で粉砕し、スラリー様の稠度にした。次に、ガラス棒を使用して、スラリーを銅箔上にキャストして、真空下で乾燥した。スキャフォールドアノードのために、複合体中のSiの量を65%に増大させた。Carbon Super Pの含有率を10%に減少させて、一方、CNFおよびバインダの量は、それぞれ同じ5%および20%に保った。
凍結乾燥方法を使用して多孔性スキャフォールド構造をアノードマトリックスに導入したが、その理由は、キトサンのようなバイオポリマーにおける、高度に安定な弾性のスポンジ様の構造を生成することにおけるその有効性である。凍結乾燥方法は、スプレー乾燥およびコーティング法と比較して低い温度で実施することができ、高熱処理から生じ得る、ポリマーおよびバイオポリマーにおける化学変化、構造変化のリスクを最小化する利点がある。
【0087】
形態および構造の分析
ゲル、ヒドロゲルおよびスポンジを含む軟質3Dスキャフォールドは、高い空孔率とともに相互に接続した細孔および大きい表面積を有する。溶媒に基づく相分離では、相分離させるために不混和性の溶媒をポリマー溶液に加える。
図31は、正常キトサンゲルおよび多孔性キトサンが足場を設けることを示す。凍結乾燥により得られるキトサン構造は、キトサン分子の溶液からの固体-液体相分離により一般的に制御される。キトサン-ゲルの水溶液を凍結すると、氷と溶液の界面が形成されて、溶液が冷え続けるにつれて、氷と溶液の界面が垂直に凍結温度前線に移動して凍結した領域を増大させて氷の結晶を形成させ、その氷の結晶の間にキトサンが存在する。相分離技法は、ポリマー濃度および相分離温度などの従属パラメーターを変化させることにより細孔構造が異なるスキャフォールドを生成するために使用されている。
【0088】
図31Bは、軟質のおよびスポンジ状の材料を生ずる多数の折り目を有する多孔性構造を有するキトサンTPPスキャフォールドを示す。この形態は、凍結したキトサンTPPゲルからの氷結晶の昇華に起因して形成される。この同様な技法は、キトサンをバインダとして使用して、ケイ素アノードのためのスキャフォールドアノード複合体を生成するために適用された。
元のSi-C-CNF-キトサンTPPアノードの形態およびそのスキャフォールド変形体の形態を
図32に示す。
【0089】
図32Aは、元のSi-C-CNF-キトサンTPPアノードの形態を示し、そこでは、SiおよびCナノ粒子がキトサンTPPゲルと結合し、それらの周りにCNF繊維が存在する全体的に多孔性の構造を見ることができる。
図32Bは、高度に拡大された複合体のSEM像を示し、そこで、キトサンTPPバインダでコートされたSiおよびCナノ粒子を見ることができる。
図32Cは、高度に多孔性構造を有するSi-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールドアノードを示す。細孔は、充電中のLi
+イオンの急速な拡散および放電中のそれらの抽出を助けることができるが、それは、細孔がSiナノ粒子に到達して複合体中に深く入り、Siナノ粒子と合金化/脱合金することができるからである。さらに、キトサンゲルは、可撓性でしかも強いスキャフォールドに変換するので、それらは、サイクル中に、体積膨張および収縮をより効率的に受け入れて、複合体構造の完全性を維持することができる。
図32Dは、スキャフォールド複合体の高度に拡大されたSEM像を示す。それは、スキャフォールド複合体に厚いゲル構造が存在しない
図33Cと対照的である。
【0090】
凍結乾燥の結果としての空孔率の増大を定量するために、窒素吸着測定を、Si-C-CNF-キトサンTPPアノードおよびSi-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールドアノードの両方で実施して、それらの比表面積、平均細孔サイズ、および細孔サイズ分布を得た。結果を表5でリストにした。
【表5】
【0091】
スキャフォールドのアノードは、より大きい比表面積およびより大きい細孔体積の両方を有する。より大きい表面積は、LiイオンのSiナノ粒子へのより容易な出入を意味する。より大きい細孔体積は、充電中のSiナノ粒子の膨張を受け入れることを助ける。
図33は、500サイクルの充電および放電後のSi-C-CNF-キトサンTPPアノードの形態を示す。
図32Cで示すように、500回のサイクル後でさえ、新しく作製されたものと比較して、認識され得る変化はない。この優れた構造安定性は、Siアノードの優れた容量保持を与えるはずであり、実際その通りであることがその後見られる。
10、100および500サイクル後に取られたSiナノ粒子のTEM像の注意深い精査で、
図34で見られるように、SEI層の厚さはサイクルを通して認識できるほどには増大しないことがわかる。10サイクルの後、SEI層は、SiO
Xおよび電解質分解生成物を含有して約2.5nmである。100サイクルの後、SEI層の厚さは、サイクル中にアノード上により多くのSEI成分が形成されるため、約3.5nmに増大する。500サイクルの後、SEI層の厚さには取るに足らない増大があり、連続したサイクル下でむしろ安定なアノードを示す。これは、キトサンTPPが、Si表面を覆い、したがって非常に安定なSEI層を形成することにおいて、完全なバインダとして作用することを示す。
【0092】
アノード複合体に存在する化学結合を決定するために、FTIR分光法による研究を実施した。
図35は、Si-C-CNF-キトサンTPPアノードおよびSi-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールドアノードのFTIRスペクトルを示す。Si-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールドアノードは、ピラノース環変形と関係する全ての振動およびSi-C-CNF-キトサンTPPアノードで見出されるリン酸相互作用を示す。このことは、スキャフォールドを形成する凍結乾燥が、キトサンTPPバインダの結合の性質を変化させないことを証明する。
【0093】
電気化学的性能
コインセルを組み立てて、Si-C-CNF-キトサンTPPアノードおよびSi-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールドアノードの両方について、0.01~1Vの間を0.1Cでサイクルした。各複合体について3個の複製コインセルを試験した。
そのより高いSi含有率のおかげで、Si-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールドアノードの質量当たりの容量は、Si-C-CNF-キトサンTPPアノードよりも高かった。体積当たりの容量については、Si-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールドアノードは、Si-C-CNF-キトサンTPPアノードと比較して、スキャフォールドアノード複合体の体積膨張のため著しく低い容量を有したが、その理由は、凍結乾燥中にそのマトリックス構造内において多数の細孔が形成したからである。
【0094】
【0095】
図36は、アノードが0.1Cのレートでサイクルされたときに、スキャフォールドアノードが、Si-C-CNF-キトサンTPP、Si-C-CNF-キトサンおよびSi-C-CNF-PVDFアノードと比較して、最高の性能を発揮することを示す。Si-C-CNF-キトサンTPP、Si-C-CNF-キトサンおよびSi-C-CNF-PVDFアノードの初期放電容量は、それぞれ、2080mAh/g、2022mAh/gおよび2015mAh/gであることがわかり、そのより高いSi含有率のために、Si-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールドアノードの初期放電容量より低かった。放電容量における急速な減少の傾向は、全てのアノード複合体について約85~100サイクルまで観察された。以前の研究によれば、初期サイクルにおける容量のこの急速な減少は、初期の充電-放電サイクル中におけるSiナノ粒子上のSEI層の形成に対応する。100サイクル後、Si-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールド、Si-C-CNF-キトサンTPPおよびSi-C-CNF-キトサンアノードは、その初期放電容量の、それぞれ、91%、90%および78%を保持したが、それに対してSi-C-CNF-PVDFアノードは、その初期放電容量の48%しか保持していなかった。500サイクル後、Si-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールド、Si-C-CNF-キトサンTPPおよびSi-C-CNF-キトサンアノードは、その初期放電容量の、それぞれ88%、79%および54%を保持した。大きい数のサイクルにわたるスキャフォールドアノードの優れた性能は、キトサンTPPバインダの優れた結合性を保持しながら多孔性の弾性構造に帰すことができる。凍結乾燥は、空洞(細孔)を導入して、その空洞は、Si粒子が電極構造をあまり変形させずに膨張することを可能にし、その結果、Si電極のサイクル安定性は大きく改善され得る。さらに、スキャフォールド構造は、レート能力を強化することもでき、その理由は、多孔性構造は、増強された表面積により、電極におけるイオン輸送を増大させて、電荷移動反応の速度を加速するからである。
【0096】
調製アノードの特定の放電容量を、
図37に示すように、複合体中のケイ素含有率に基づいて計算した。全てのアノードは、殆ど同様なおよそ3400~3500mAh/gの1回目サイクル放電を有し、理論放電容量の4200mAh/gを達成するには非常に短い。500サイクルの後、Si-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールド、Si-C-CNF-キトサンTPP、Si-C-CNF-キトサンおよびSi-C-CNF-PVDFアノードの特定の放電容量は、それぞれ、3115、2741、1839および540mAh/gであった。これは、キトサンをベースとするバインダと比較してPVDFの非効率的結合力を明らかに示す。PVDFは、サイクル中の粉末化、層間剥離およびSEI層形成の問題を解決できないことにより、アノード活物質としてのSiの固有の弱点のために、アノードが破壊することを防止できず、結果としてSiベースのアノードの性能は非常に劣ったものとなる。
【0097】
図38は、1000サイクルにわたるSi-C-CNF-キトサンTPPスキャフォールドアノードのサイクル性能を示す。1回目のサイクル放電容量は2300mAh/gであり、クーロン有効度は99%である。放電容量は、1000サイクルの全プロセスにわたって非常に僅かな低下しか示さない。1000サイクルの後、放電容量は、まだ約1950mAh/gであり、約85%の容量保持に対応する。前に論じたように、凍結乾燥されたアノードの高度に多孔性構造は、アノードマトリックス中へのLiイオンの容易な拡散を助け、大きい細孔体積は、サイクル中にアノードに惹起される膨潤および応力の緩和を助ける。
【0098】
スキャフォールドアノード構造内における電荷移動およびLiイオン拡散挙動をさらに理解するために、1回目および500回目の放電サイクル後に、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)測定を実施した。Si-C-キトサンTPP-CNFスキャフォールドおよびSi-C-キトサンTPP-CNFアノードの両方について行われた、EIS測定のナイキストプロットは、
図39に示すように、高周波数領域および中周波数領域における2つの重なり合う半円および低周波数領域におけるワールブルグインピーダンスの直線で構成される。
【0099】
1回目のサイクル後のナイキストプロットは、初期段階において両方のアノードの同様な電荷移動抵抗(Rct)を示す。500サイクルの後、Si-C-キトサンTPP-CNFアノードのRctは、Si-C-キトサンTPP-CNFスキャフォールドアノードのRct(54Ω)と比較して比較的高い(74Ω)ことがわかったが、しかしながら両方の値は、PVDFまたは他のポリマーバインダを使用するSiベースのアノードについて以前科学者達により報告されたRctより有意に低い。500サイクル後の低Rctは、電極の導電性および機械的完全性が、ケイ素と導電剤との間の接触を維持することにより分極せずに維持され、アノードの完全性を維持することに役立つ堅牢なマトリックス構造を提供することを示す。500サイクル後の、Si-C-キトサンTPP-CNFアノードと比較して、Si-C-キトサンTPP-CNFスキャフォールドアノードのRctが低いことは、移動してSiナノ粒子と結合するLiイオンに透明な通路を提供することに役立つナノ空洞のために、スキャフォールド構造内におけるLiイオン輸送がより流動的であることを示す。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕キトサンおよび少なくとも1種のリン酸塩またはその共役酸を含み、前記少なくとも1種のリン酸塩が、オルトリン酸金属塩、ピロリン酸金属塩、およびポリリン酸金属塩からなる群から選択される、バッテリー電極のためのバインダ。
〔2〕前記少なくとも1種のリン酸塩およびキトサンが、1:1~1:100の質量比で存在する、前記〔1〕に記載のバインダ。
〔3〕前記少なくとも1種のリン酸塩がトリポリリン酸ナトリウムである、前記〔1〕に記載のバインダ。
〔4〕前記トリポリリン酸ナトリウムおよびキトサンが、1:5~1:10の質量比で存在する、前記〔3〕に記載のバインダ。
〔5〕前記〔1〕に記載のバインダおよび溶媒を含む、バッテリー電極のためのバインダ組成物。
〔6〕前記溶媒が、水性溶媒、極性有機溶媒、またはそれらの混合物である、前記〔5〕に記載のバインダ組成物。
〔7〕前記バインダ組成物の固体含有率が1%質量/質量以上である、前記〔6〕に記載のバインダ組成物。
〔8〕少なくとも1種の導電性添加剤および少なくとも1種のアノード活物質;または少なくとも1種の導電性添加剤および少なくとも1種のカソード活物質をさらに含む、前記〔5〕に記載のバインダ組成物。
〔9〕正極;前記正極と向かい合って配置された負極;および前記正極と前記負極との間に配置された電解質を含むリチウムバッテリーであって、前記正極および前記負極のうち少なくとも1つが前記〔1〕に記載のバインダを含む、リチウムバッテリー。
〔10〕前記負極が、前記〔1〕に記載のバインダを含み、前記負極が、少なくとも1種の導電性添加剤および少なくとも1種のアノード活物質をさらに含む、前記〔9〕に記載のリチウムバッテリー。
〔11〕前記少なくとも1種の導電性添加剤が、炭素繊維、炭素ナノ繊維、カーボンナノチューブ、グラファイト、カーボンブラック、グラフェン、および酸化グラフェンからなる群から選択される、前記〔10〕に記載のリチウムバッテリー。
〔12〕前記少なくとも1種のアノード活物質が、ケイ素および酸化ケイ素からなる群から選択される、前記〔10〕に記載のリチウムバッテリー。
〔13〕前記正極が、前記〔1〕に記載のバインダを含み、前記正極が、少なくとも1種の導電性添加剤および少なくとも1種のカソード活物質をさらに含む、前記〔9〕に記載のリチウムバッテリー。
〔14〕前記少なくとも1種のリン酸塩がトリポリリン酸ナトリウムであり、前記トリポリリン酸ナトリウムおよびキトサンが1:7~1:10の質量比で存在し;前記少なくとも1種の導電性添加剤が、炭素繊維および炭素ナノ繊維からなる群から選択され;前記少なくとも1種のアノード活物質がケイ素および酸化ケイ素からなる群から選択される、前記〔10〕に記載のリチウムバッテリー。
〔15〕前記〔8〕に記載のバインダ組成物を調製する方法であって、キトサン;オルトリン酸金属塩、ピロリン酸金属塩、およびポリリン酸金属塩からなる群から選択される少なくとも1種のリン酸塩;少なくとも1種のアノード活物質または少なくとも1種のカソード活物質;ならびに溶媒を接触させることを含み、それにより前記〔8〕に記載のバインダ組成物を形成する、方法。
〔16〕前記溶媒が、有機酸を含む水である、前記〔15〕に記載の方法。
〔17〕凍結乾燥により前記溶媒を除去するステップをさらに含み、それにより前記〔8〕に記載のバインダ組成物を形成する、前記〔16〕に記載の方法。
〔18〕前記〔17〕に記載の方法により調製される、バインダ組成物。
〔19〕前記少なくとも1種のリン酸塩がトリポリリン酸ナトリウムであり、前記トリポリリン酸ナトリウムおよびキトサンが1:7~1:10の質量比で存在し;前記少なくとも1種の導電性添加剤が、炭素繊維および炭素ナノ繊維からなる群から選択され;前記少なくとも1種のアノード活物質が、ケイ素および酸化ケイ素からなる群から選択される、前記〔18〕に記載のバインダ組成物。
〔20〕正極;前記正極と向かい合って配置された負極;および前記正極と前記負極との間に配置された電解質を含むリチウムバッテリーであって、前記正極および前記負極のうち少なくとも1つが、前記〔19〕に記載のバインダ組成物を含む、リチウムバッテリー。