(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】機能化酵素駆動ナノモーター
(51)【国際特許分類】
C12N 9/80 20060101AFI20240806BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20240806BHJP
A61K 38/43 20060101ALI20240806BHJP
A61K 38/44 20060101ALI20240806BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20240806BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20240806BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240806BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20240806BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240806BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20240806BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20240806BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240806BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20240806BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20240806BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240806BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240806BHJP
B82Y 5/00 20110101ALI20240806BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240806BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20240806BHJP
C12N 9/02 20060101ALN20240806BHJP
C12N 9/14 20060101ALN20240806BHJP
C12N 9/98 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
C12N9/80
A61K9/16
A61K38/43
A61K38/44
A61K38/46
A61K38/48 100
A61K47/02
A61K47/30
A61K47/42
A61K47/44
A61K47/46
A61K47/68
A61K47/69
A61P13/10
A61P35/00
A61P35/02
B82Y5/00
B82Y30/00
C07K16/18
C12N9/02
C12N9/14
C12N9/98
(21)【出願番号】P 2021532173
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(86)【国際出願番号】 EP2019083662
(87)【国際公開番号】W WO2020115124
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-10-26
(32)【優先日】2018-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521242325
【氏名又は名称】ファンダシオ インスティトゥト デ ビオエンジニエリア デ カタルーニャ
(73)【特許権者】
【識別番号】513082867
【氏名又は名称】インスティトゥーシオ カタラーナ デ レセルカ イ エストゥディス アバンサッツ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス オルドニェス,サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】パティーニョ パディアル, タニア
(72)【発明者】
【氏名】ロペス オルテラオ,アナ カンディダ
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-513661(JP,A)
【文献】特表2018-519347(JP,A)
【文献】Advanced Functional Materials,2018年,Vol.28,1705086 (1-10),DOI: 10.1002/adfm.201705086
【文献】Particle & Particle Systems Characterization,2018年03月,Vol.35, Issue 3,1700332,DOI 10.1002/ppsc.201700332
【文献】Nano Lett.,2015年,Vol.15,p.8311-8315,DOI: 10.1021/acs.nanolett.5b03935
【文献】ACS Nano,2016年,Vol.10,p.3597-3605
【文献】Nano Lett.,2015年,Vol.15,p.7043-7050,DOI: 10.1021/acs.nanolett.5b03100
【文献】Chem. Sci.,2015年,Vol.6,p.4190-4195
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/80
A61K 9/16
A61K 47/02
A61K 47/30
A61K 47/44
A61K 47/42
A61K 47/46
A61K 38/43
A61K 38/44
A61K 38/46
A61K 38/48
A61K 47/69
A61K 47/68
B82Y 5/00
B82Y 30/00
C12N 9/02
C07K 16/18
C12N 9/14
C12N 9/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-表面を有する
ナノ粒子と、
-酵素と、
-異種分子と、を含み、
前記酵素および前記異種分子が、
リンカーを介して前記粒子の前記表面全体にかけて不連続に付着していることを特徴とする、酵素駆動ナノモーター。
【請求項2】
前記粒子が、金属、金属酸化物、ポリマー、脂質、タンパク質、細胞膜、細胞体、炭素質材料、およびそれらの混合物からなる群から選択される材料で作製される、請求項
1に記載のナノモーター。
【請求項3】
前記粒子が、メソポーラスシリカで作製される、請求項1~
2のいずれかに記載のナノモーター。
【請求項4】
前記酵素が、グルコースオキシダーゼ、
ウレアーゼ、カタラーゼ、グルタミン酸オキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、ヘキソキナーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、およびトリプシンからなる群から選択される、請求項1~
3のいずれかに記載のナノモーター。
【請求項5】
前記酵素が、ウレアーゼである、請求項
4に記載のナノモーター。
【請求項6】
前記異種分子が、標的化分子、標識分子、ナノセンサー、および分子ゲートからなる群から選択される、請求項1~
5のいずれかに記載のナノモーター。
【請求項7】
前記標的化分子が、抗体である、請求項
6に記載のナノモーター。
【請求項8】
前記ナノセンサーが、DNAナノスイッチである、請求項
6に記載のナノモーター。
【請求項9】
カーゴをさらに含む、請求項1~
8のいずれかに記載のナノモーター。
【請求項10】
治療有効量の請求項1~
9のいずれかに定義されるナノモーターと、薬学的に許容される賦形剤および/または担体と、を含む、薬学的組成物。
【請求項11】
療法、診断、または予後における使用のための、請求項1~
9のいずれかに定義されるナノモーター、または請求項
10に定義される薬学的組成物。
【請求項12】
癌の治療における使用のためのものである、請求項
11に記載の使用のためのナノモーターまたは薬学的組成物。
【請求項13】
前記癌が、膀胱癌である、請求項
12に記載の使用のためのナノモーターまたは薬学的組成物。
【請求項14】
-請求項1~
9のいずれかに定義されるナノモーターまたは請求項
10に定義される薬学的組成物と、
-その使用のための説明書と、を含む、キットオブパーツ。
【請求項15】
請求項1~
9のいずれかに定義されるナノモーターを試料と接触させることを含む、単離された前記試料中の分析物を検出するインビトロ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年12月5日に提出された欧州特許出願第EP18382896号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、ナノテクノロジーの分野に属する。具体的には、本発明は、外部機能化された酵素駆動ナノモーターに関する。本発明のナノモーターは、療法およびバイオセンシングに特に有用である。
【背景技術】
【0003】
触媒マイクロスイマーは、化学的なエネルギーの、最終的には能動的運動に変換する機械的な力への変換のために、自己推進することができる人工システムである。
【0004】
化学駆動マイクロおよびナノモーターは、環境修復、カーゴ輸送および送達、組織および細胞透過、ならびにインビボでの胃への能動的薬物送達などの多くの分野で有望な適用性を示しているが、生物医学におけるそれらの実装は、多くの場合、燃料の固有の毒性または生物内でのその限定された利用可能性のいずれかによって制限される。
【0005】
最近、酵素触媒作用の使用は、生体適合性、汎用性、および燃料バイオアベイラビリティを含む独自の特徴を提供するため、一般的に使用される毒性燃料を置き換える魅力的な代替として浮上している。これに関して、ウレアーゼ、カタラーゼ、およびグルコースオキシダーゼの使用は、酵素基質の生理学的に適切な濃度でナノサイズの粒子の拡散を増加させることが示されている。
【0006】
加えて、中空シリカヤヌス粒子、すなわち、それらの一方のみが酵素に結合する2つの半球体を有する粒子を駆動するためにウレアーゼを使用する場合、指向性推進を達成することができる。それらの運動は、酵素阻害塩の添加によってオンとオフとを切り替えることができ、軌道は、磁場の適用によってオンデマンドで変更することができ、高度の制御性を可能にする(Xing MA et al.,“Motion Control of Urea-Powered Biocompatible Hollow Microcapsules”,ACS Nano.,2016,vol.10(3),pp.3597-605)。
【0007】
インビトロでの癌細胞へのドキソルビシンの送達効率を増加させるための酵素推進ナノモーターの使用についても記載されている(Ana C.et al.,“Enzyme-Powered Nanobots Enhance Anticancer Drug Delivery”,Advanced Functional Materials,2017,vol.28(25))。
【0008】
しかしながら、球形ヤヌス粒子の生成は、スケーラビリティおよび、したがって、それらの適用性を損ない得る、費用および時間のかかる技法を伴う。
【0009】
より最近では、触媒の非対称構造および分布が、能動的運動の生成に不可欠であると伝統的に主張されてきたという事実にもかかわらず、粒子表面全体にかけて位置する酵素触媒作用によって駆動される非ヤヌス球形モーターの自己推進が示された(Patino T.et al.,“Influence of Enzyme Quantity and Distribution on the Self-Propulsion of Non-Janus Urease-Powered Micromotors”,J.Am.Chem.Soc.,2018,vol.140(25),pp.7896-7903)。しかしながら、このタイプのナノモーターの移動は、酵素被覆率に非常に感受性であることが示された。実際、望ましい移動を達成するには、ナノモーターあたり多数の酵素分子が必要であることが見出された。これは、外部機能化に課せられる制限のために、これらのナノモーターの使用および適用性を強く妨げている。
【0010】
したがって、これまでの努力にもかかわらず、高い移動能力を維持しながら、製造すること、および様々な用途に適応することが容易である酵素駆動ナノモーターが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、様々な生物医学的、化学的、および環境的用途において有用である、新規の酵素推進機能化ナノモーターを開発した。
【0012】
驚くべきことに、発明者らは、酵素駆動非ヤヌスナノモーターに分子を外部付着させることによって、粒子の速度および移動パターンを維持またはさらに増加させることができることを見出した(
図2Dおよび
図7Bを参照されたい)。
【0013】
推進酵素が粒子の表面全体にかけて付着しているナノモーターは、酵素被覆率に大きく依存する移動を有することが以前に示されたので、これは非常に予想外であった。したがって、酵素の数が所定の閾値を下回る場合、粒子の移動が完全に消失したことが示された(Patino T.et al.、上記)。よって、これらの粒子の表面上で行われ、必然的に酵素付着に利用可能な表面を低減する、任意の修飾が、ナノモーター移動能力、およびしたがってその適用性を低減すると予想されることは明らかであった。
【0014】
以下の実施例に示されるように、本発明者らは、抗体またはDNA構造などの異なるタイプの多量の分子の外部付着が、ナノモーターの移動に影響を与えないだけでなく、それらの細胞透過能力、安定性も増加させ、それらの凝集を回避することを見出した。
図4は、あらゆる細胞透過ペプチドを欠くにもかかわらず、腫瘍細胞を透過する、抗体で機能化されたナノモーターのより高い能力を示す。
【0015】
加えて、本発明者らは、驚くべきことに、本明細書で提供される機能化酵素駆動ナノモーターが、任意の細胞毒性薬で充填されない場合も、癌細胞死を増加させることができる強力な活性などを示すことを発見した(
図4Dを参照)。これは、より高い特異的およびより低い二次的効果を有する抗癌治療の開発を可能にするため、大きな利点を構成する。
【0016】
本発明のナノモーターの重要な利点は、それらの多様性であり、それらは、基質が存在する場所でのみそれらを活性化するように、異なる酵素で操作され得る。これは、高い特異的および低い二次的効果を有する治療の開発を可能にするという利点をさらに提供する。
【0017】
上記を考慮して、本発明のナノモーターは、疾患治療およびバイオセンシングなどの様々な分野で有用な非常に価値のあるツールを提供する。
【0018】
よって、第1の態様では、本発明は、表面を有する粒子と、酵素と、異種分子と、を含み、酵素および異種分子が、粒子の表面全体にかけて不連続に付着していることを特徴とする、酵素駆動ナノモーターを提供する。本発明はまた、表面を有する粒子と、酵素と、異種分子と、を含み、酵素および異種分子が、粒子の表面全体にかけて不連続に付着している、酵素駆動ナノモーターを提供する。
【0019】
第2の態様では、本発明は、治療有効量の、第1の態様において定義されるナノモーターと、薬学的に許容される賦形剤および/または担体と、を含む、薬学的組成物を提供する。
【0020】
第3の態様では、本発明は、療法、診断、または予後における使用のための、第1の態様において定義されるナノモーターまたは第2の態様において定義される薬学的組成物を提供する。
【0021】
第4の態様では、本発明は、第1の態様において定義されるナノモーターまたは第2の態様において定義される薬学的組成物と、任意に、その使用のための説明書と、を含む、キットオブパーツを提供する。本発明はまた、第1の態様において定義されるナノモーターまたは第2の態様において定義される薬学的組成物と、その使用のための説明書と、を含む、キットオブパーツを提供する。本発明のキットは、本発明のナノモーターを希釈するために好適なバッファー、または本発明の乾燥または凍結乾燥されたナノモーターを再懸濁するためのバッファーをさらに含み得る。
【0022】
第5の態様では、本発明は、単離された試料中の分析物を検出するインビトロ方法を提供し、これは第1の態様を定義するナノモーターを試料と接触させることを含む。
【0023】
第6の態様では、本発明は、単離された試料中の分析物を検出するためのインビトロ方法における第1の態様において定義されるナノモーターの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1に関連し、ウレアーゼ/PEGナノモーター(MSNP-Ur/PEG)および抗体修飾ウレアーゼナノモーター(MSNP-Ur/PEG-Ab)の製造および特徴付けを示す。A)ナノモーターを得るための段階的な製造プロセスを提示するスキーム。
【
図2】実施例1に関連し、MSNP-Ur/PEGおよびMSNP-Ur/PEG-Abの運動分析を示す。A)MSNP-Ur/PEGナノモーターならびにB)0mM、50mM、および100mMの尿素でのMSNP-Ur/PEG-Abナノモーターの代表的な追跡軌道ならびにC)0mM、50mM、および100mMでの両方のタイプのナノモーターの代表的な平均二乗変位(MSD)。D)異なる尿素濃度でのMSD分析によって得られる有効拡散係数(N=20、エラーバーはSEを表し、p<0.001)。
【
図3】実施例1に関連し、異なる濃度の尿素の存在下でのスフェロイドの生存率に対する抗体ありおよびなしのナノモーターの効果を示す。異なる尿素濃度(N=3、エラーバーはSEを表す)でのMSNP-Ur/PEG(元は青)およびMSNP-Ur/PEG-Ab(元は赤)との4時間インキュベーション後のスフェロイドの生存率の定量化。
【
図4】実施例1に関連し、抗体修飾ナノモーターの膀胱癌スフェロイドへの標的化および透過能力を示す。4時間のインキュベーション後の尿素の存在下(40mM)および不在下での膀胱癌スフェロイドへの抗体修飾ナノモーターの内在化の定量化、ならびに48時間の休止期間後に測定された後で尿素の存在下(40mM)および不在下、4時間のMSNP-Ur/PEGおよびMSNP-Ur/PEG-Abとインキュベートされたスフェロイドの増殖の定量化。
【
図5】実施例2に関連し、DNAマイクロモーターの製造アプローチおよび特徴付けを示す。A)APTESおよびTEOSシリカ前駆体を添加することによって二酸化ケイ素層を市販のポリスチレンテンプレート上で成長させる、マイクロモーター製造の概略図。次いで、ポリスチレンコアがDMFによって除去され、マイクロカプセルがグルタルアルデヒド(GA)リンカーの使用を通してウレアーゼおよびDNA足場で機能化される。B)pH応答性DNAナノスイッチは、マイクロモーター上で共有結合する相補的DNA足場にハイブリダイズする。自己推進は、ウレアーゼ酵素によって媒介される、尿素のアンモニアおよび二酸化炭素への変換によって達成される。C)単分子DNAナノスイッチのpH依存性の三重鎖から二重鎖への遷移は、FRET効率の変化をもたらす。D)SiO
2マイクロカプセルの走査電子顕微鏡写真。挿入図は、選択された領域の拡大図を示す。スケールバー=2μm。E)透過電子顕微鏡法によって得られるトポグラフィー画像。キャリブレーションバーは高さμmを示す。F)機能化プロセスに沿ったマイクロ粒子表面のZ電位測定(NH2=合成から生じるアミン被覆粒子、GA=グルタルアルデヒドとのインキュベーション後のマイクロ粒子、UR=ウレアーゼ機能化マイクロ粒子、UR+DNAss=ウレアーゼおよびDNA足場の両方で機能化されたマイクロ粒子、スイッチ=DNAスイッチと30分間ハイブリダイゼーション後の、ウレアーゼおよびDNA足場機能化マイクロ粒子。)
【
図6】実施例2に関連し、三重鎖ベースのpH応答性DNAナノスイッチは、溶液中のpH変化を検出することができ、マイクロモーター構造にコンジュゲートされることを示す。A)三重鎖DNAナノスイッチは、pH非感受性ワトソン-クリック相互作用(破線)およびpH感受性フーグスティーン相互作用(点)の形成を通して分子内二重ヘアピン構造を形成する。CGCおよびTATトリプレットを含有する三重鎖ナノスイッチは、溶液のpHを増加させることによって二重鎖コンフォメーションにアンフォールドする。溶液中のpH変化の関数としてのDNAナノスイッチの三重から二重への遷移を示すレシオメトリックFRET発光(左)。B)キャリブレーションバーに示される、Cy3チャネル、FRETチャネル、およびFRET/Cy3比値を右から左に示す、DNAナノスイッチ機能化マイクロ粒子のFRET効果のCSLM分析。スケールバー=2μm。白矢印は機能化マイクロ粒子を示す(元々はCy3チャネルについて赤、FRETチャネルについて緑、Cy3/FRETマージについて黄色)。平均±平均の標準誤差として示される、平均FRET/Cy3発光値として示される、pH感受性(C)および非pH特異的(D)についてのDNA機能化マイクロモーターによる定量的pH測定。
【
図7】実施例2に関連する。A)DNAスイッチマイクロモーターのMSD。結果は平均±平均の標準誤差として示される。B)MSDから計算された速度。結果は平均±平均の標準誤差として示される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本出願における本明細書で使用されるすべての用語は、特に明記されない限り、当該技術分野で既知のそれらの通常の意味で理解されるものとする。本出願において使用される特定の用語の他のより具体的な定義は、以下に記載される通りであり、他に明示的に定められた定義がより広い定義を提供しない限り、本明細書および特許請求の範囲全体に均一に適用されることが意図される。
【0026】
本明細書で使用される場合、不定冠詞「a」および「an」は、「少なくとも1つ」または「1つ以上」と同義である。特に示されない限り、「the」などの本明細書で使用される定冠詞には、名詞の複数形も含まれる。
【0027】
「酵素推進ナノモーター」または「酵素駆動ナノモーター」という用語は、デバイスの表面上に位置する酵素の作用を通して化学エネルギーを移動に変換することができる、マイクロまたはナノスケールの、分子デバイスを指す。言い換えれば、ナノモーターは、酵素で外部機能化されたナノ粒子またはマイクロ粒子である。理論によって縛られることなく、酵素は、触媒反応に関与する生成物の非対称放出を通して移動を生み出し、浸透圧勾配、電荷、または他の特性に応じて界面力を生じる。「ナノモーター」および「マイクロモーター」という用語は、本出願で交換可能に使用される。
【0028】
本明細書で使用される場合、「異種分子」は、酵素(複数可)とは異なる任意の分子を指し、当該酵素(複数可)は、ナノモーターの推進を担当し、粒子の表面全体にかけて不連続に付着する。それによって、実施形態は、基本的に、粒子に結合することができる任意のタイプの分子が、粒子へのその直接的または間接的接続を通して表面に固定化されることを可能にする。
【0029】
異種分子の以下に提供されるリストは、単に本発明のナノモーターで使用され得る分子の例示的かつ非限定的なリストとして見られるべきである。しかしながら、実施形態は、それに限定されず、実施形態のナノモーターに直接的または間接的に結合することができる任意の異種分子を包含する。
【0030】
目的の異種分子は、蛍光マーカー、すなわち、フルオロフォア、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、および他のイソチオシアネート;N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)フルオレセインおよび他のスクシンイミジルエステル;フルオレセイン-5-マレイミドおよび他のマレイミド活性化フルオロフォア;シアニンフルオロフォア;フルオレセインフルオロフォア;ローダミンフルオロフォア;ATTO色素;DyLight Fluor色素;Alexa Fluor色素;ならびにホウ素-ジピロメテン(BODIPY)色素などのマーカーの中から選択することができる。さらなる例には、同位体ラベルまたはマーカー、化学発光マーカー、放射線不透過性マーカーなどが挙げられる。そのような場合、ナノモーターは、試験分子として使用され、表面上のナノモーターのマーカーを使用して、その検出を可能にすることができる。
【0031】
異種分子のさらなる例には、免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリー、インテグリン、カドヘレイン、およびセレクチンを含む、細胞接着分子(CAM)などの細胞接着および細胞付着分子が挙げられる。
【0032】
異種分子のさらなる例は、例えば、プロテオグリカン(PG)、グリコサミノグリカン(GAG)、ヘパラン硫酸(HS)、コンドロイチン硫酸、ケラチン硫酸、コラーゲン、エラスチンなどを含む細胞外マトリックス(ECM)分子である。
【0033】
目的の分子の関連タイプは、上皮細胞によって分泌されるECMの層である、基底膜の分子を含む基底膜分子である。そのような基底膜分子の非限定的な例には、ラミニン、IV型コラーゲン、エンタクチン、およびパーレカンが挙げられる。
【0034】
目的の異種分子のさらに別の例は、コルチコステロイドなどの抗炎症分子、糖質コルチコイド、アセチルサリチル酸、イソブチルプロパンフェノール酸、およびナプロキセンナトリウム(INN)などの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、リポキシン、インターロイキン-1受容体アンタゴニスト(IL-1RA)などである。
【0035】
抗生物質は、細菌成長を阻害または細菌を殺滅するために、目的の異種分子として使用することもできる。抗生物質の非限定的な例には、ペニシリン;セファロスポリン;ポリミキシン;リファマイシン;リピアルマイシン;キノロン;スルホンアミド;マクロライド;リンコサミド;テトラサイクリン;殺菌性アミノグリコシド;ダプトマイシンなどの環状リポペプチド;チゲサイクリンなどのグリシルシリン;リネゾリドなどのオキサゾリドン;およびフィダキソマイシンなどのリピアルマイシンが挙げられる。
【0036】
同様に、抗真菌分子、例えば、アンホテリシンB、カンジシジン、フィリピン、ハマイシン、ナタマイシン、ナイスタチン、およびリモシジンなどのポリエン抗真菌剤;イミダゾール、例えば、ビフォナゾール、ブトコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、フェンチコナゾール、イソコナゾール、ミコナゾール、オモコナゾール、オキシコナゾール、セルタコナゾール、スルコナゾール、およびチオコナゾールなどのアゾール抗真菌剤;トリアゾール、例えば、アルバコナゾール、フルコナゾール、イザブコナゾール、イトラコナゾール、ポサコナゾール、ラブコナゾール、テルコナゾール、およびボリコナゾール;ならびにチアゾール、例えば、アバファンギン;アモロルフィン、ブテナフィン、ナフチフィン、およびテルビナフィンなどのアリルアミン;アニデュラファンギン、カスポファンギン、およびミカファンギンなどのエキノカンジン;安息香酸;シクロピロックスオラミン;フルシトシン;グリセオフルビン;トルナフタートおよびウンデシレン酸などの他のタイプの微生物を標的化する分子。また、抗ウイルス分子、例えば、ウイルス支援タンパク質(VAP)抗イディオタイプ抗体;アマンタジン;リマンタジン;プレコナリル;アシクロビル;ジドブジン(AZT);ラミブジン;インテグラーゼ;ホミビルセン;リファンピシン;ザナミビルおよびオセルタミビル、ならびにメベンダゾールなどの抗寄生虫分子;ピランテルパモエート;チアベンダゾール;ジエチルカルバマジン;イベルメクトリン;ニクロサミド;プラジカンテル;アルベンダゾール;プラジカンテル;リファンピン;アンホテリシンB;メラルソプロール;エルフォルニチン;メトロニダゾール;チニダゾールおよびミルテフォシンは、目的の異種分子として使用され得る。
【0037】
異種分子のさらなる例には、アデノメデュリン(AM)、アンジオポエチン(Ang)、自己分泌運動因子、骨形成タンパク質(BMP)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、表皮成長因子(EGF)、エリスロポエチン(EPO)、線維芽細胞成長因子(FGF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、成長分化因子-9(GDF9)、肝細胞成長因子(HGF)、肝細胞腫由来成長因子(HDGF)、インスリン様成長因子(IGF)、ミスタチン(GDF-8)、神経成長因子(NGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、トロンボポエチン(TPO)、形質転換成長因子アルファ(TGF-α)、形質転換成長因子ベータ(TGF-β)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、血管内皮成長因子(VEGF)、胎盤成長因子(PIGF)などの成長因子が挙げられる。表面結合ペプチドに結合した成長因子を有するナノモーターを使用して、例えば、細胞成長、増殖、および/または細胞分化を刺激する能力を有する表面を提供することができる。
【0038】
目的の異種分子のさらなる例には、細胞成長阻害剤および化学療法剤が挙げられる。そのようなタイプの異種分子は、ナノモーターに含まれる場合、局所的な細胞成長阻害効果を提供するであろう。そのような目的の異種分子の非限定的な例には、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤;ナイトロジェンマスタード、例えば、メクロレタミン、シクロホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、イホスファミド、およびブスルファンなどのアルキル化剤;ニトロソ尿素、例えば、N-ニトロソ-N-メチル尿素(MNU)、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、セムスチン(MeCCNU)、ホテムスチンおよびストレプトゾトシン;テトラジン、例えば、ダカルバジン、ミトゾロミド、およびテモゾロミド、ならびにアジリジン、例えば、チオテパ、ミトマイシン、ジアジクオン(AZQ);ならびにシスプラチン、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、およびオキサプラチン;抗葉酸剤、例えば、メトトレキセートおよびペメトレキセドなどの代謝拮抗剤;フルロピリミジン、例えば、フルオロウラシルおよびカペシタビン;シタラビン、ゲムシタビン、デシタビン、ビダザ、フルダラビン、ネララビン、クラドリビン、クロファラビン、およびペントスタチンなどのデオシヌクレオシド類似体;ならびにチオプリン、例えば、チグアニンおよびメルカプトプリン;ビンカアルカロイド、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン、およびビンフルニンなどの抗微小管剤;ならびにタキサン、例えば、パクリタキセルおよびドセタキセル;ならびにポドフィロトキシン;イリノテカン、トポテカン、カプトテシン、エトポシド、ドキソルビシン、ミトキサントロン、テニポシド、ノボビオシン、メルバロン、およびアクラルビシンなどのトポイソメラーゼ阻害剤;アントラサイクリン、例えば、ドキソルビシン、ダウモルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、ミトキサントロン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、およびマイトマイシンなどの細胞毒性抗生物質が挙げられる。
【0039】
目的の異種分子の他の群には、DNAまたはRNA分子などのポリヌクレオチドが挙げられる。異種分子はまた、ナノセンサーまたは分子ゲートであり得る。
【0040】
「表面全体にかけて不連続に付着している」とは、粒子の単一の面または半球体に制限されない離散型分布を指し、すなわち、非極性分布を指す。しかしながら、分子が粒子の表面全体を均質に被覆していることを意味しない。本発明の粒子は、粒子の表面全体にかけて別個のパッチを形成する外部に付着した分子を提示し得るか、または同じであり、分子が付着していないギャップを提示する。
【0041】
本明細書で使用される場合、「標的化分子」は、特定の細胞、組織、または器官についての特異性を有する分子を指す。標的化分子の好ましい例には、抗体、成長因子、および多糖類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本明細書で使用される場合、「ナノセンサー」は、任意のナノまたはマイクロスケールの感知デバイスを指す。本発明のナノセンサーは、それらが位置する環境における変化を検出し、それに応答することができる。特に、本発明のナノセンサーは、2つの異なる形態の間で切り替えることができるナノセンサーである、ナノスイッチであり得る。DNAナノスイッチは、環境変化、例えば、pH変化に応じて変化するコンフォメーションを有する一本鎖DNA分子を含有する。DNA分子は、コンフォメーション変化の検出を可能にする蛍光分子に結合され得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、「標識分子」は、ナノモーターに化学的に結合することができ、ナノモーターが検出されることを可能にする検出可能なシグナルを放出する分子を指す。標識分子の特に好ましい例には、化学発光分子、蛍光分子、および同位体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書で使用される場合、「分子ゲート」または「ナノバルブ」は、光、温度、磁場、およびpHなどの選択されたトリガーに応答して、第1の閉鎖形態と第2の開放形態との間で切り替わるナノまたはマイクロスケールでの分子システムを指す。閉鎖形態は、分子ゲートが付着する粒子に含有されるカーゴの放出をブロックするように設計される。トリガーの適用時、ゲートは、カーゴの放出を可能にする開放形態に変わる。
【0045】
「抗癌抗体」は、癌細胞を停止または排除する能力を有する抗体を指す。
【0046】
上記のように、本発明は、第1の態様では、異種分子で外部機能化された酵素駆動ナノモーターを提供する。
【0047】
第1の態様の具体的な実施形態では、任意に上または下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、粒子は、ナノ粒子またはマイクロ粒子である。本明細書で使用される「ナノ粒子」という用語は、ナノスケールで少なくとも2次元、特にナノスケールで3次元すべてを有する粒子を指す。類推のために、本明細書で使用される「マイクロ粒子」という用語は、マイクロスケールで少なくとも2つの寸法、特にマイクロスケールですべての3つの寸法を有する粒子を指す。具体的な実施形態では、粒子は、1nm~100μmである。具体的には、30nm~2μmである。より具体的には、100nm~1μmである。さらにより具体的には、400nm~600nmである。
【0048】
本明細書に記載されるナノ粒子またはマイクロ粒子の形状に関して、球体、多面体、および棒状形状が含まれる。特に、ナノ粒子またはマイクロ粒子が、ナノワイヤまたはナノチューブ、マイクロワイヤまたはマイクロチューブなどの、実質的に円形の断面を有する実質的に棒状形状である場合、「ナノ粒子」または「マイクロ粒子」は、ナノスケールまたはマイクロスケールで少なくとも2つの寸法を有する粒子を指し、これら2つの寸法は、ナノ粒子またはマイクロ粒子の断面である。
【0049】
第1の態様の具体的な実施形態では、任意に上または下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、粒子は、球形である。
【0050】
本明細書で使用される場合、「サイズ」という用語は、特徴的な物理的寸法を指す。例えば、実質的に球形であるナノ粒子/マイクロ粒子の場合、ナノ粒子/マイクロ粒子のサイズは、ナノ粒子/マイクロ粒子の直径に対応する。ナノ粒子/マイクロ粒子のセットを具体的なサイズのものとして言及する場合、セットは、指定されたサイズの周りのサイズの分布を有することができることが企図される。よって、本明細書で使用される場合、ナノ粒子/マイクロ粒子のセットのサイズは、サイズの分布のピークサイズなどのサイズの分布のモードを指すことができる。加えて、完全に球形でない場合、直径は、物体を含む球体の等価直径である。この直径は、一般に「流体力学的直径」と呼ばれ、その測定は、Atlasセル加圧システムまたはMalvernと組み合わせたWyatt Mobiusを使用して行うことができる。透過電子顕微鏡法(TEM)または走査電子顕微鏡法(SEM)画像も、直径に関する情報を与える。
【0051】
多種多様な粒子材料が当業者に入手可能であり、当業者は、選択される材料がナノモーターの意図された用途に依存し、例えば、治療的使用のためのナノモーターは、生体適合性粒子で作製されるべきであるということを理解する。
【0052】
よって、第1の態様の具体的な実施形態では、任意に上または下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、粒子は、金属、金属酸化物、ポリマー、脂質、タンパク質、細胞膜、細胞体、炭素質材料、およびそれらの混合物からなる群から選択される材料で作製される。具体的な実施形態では、金属は、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、またはマグネシウム(Mg)である。具体的な実施形態では、金属酸化物は、シリカ(SiO2)、酸化マンガン(MnO2)、および酸化チタン(TiO2)から選択される。具体的な実施形態では、ポリマーは、ポリスチレンまたは金属有機フレームワークである。具体的な実施形態では、炭素質材料は、炭素、グラフェン、およびフラーレンから選択される。具体的な実施形態では、粒子の材料は、ポリマーソームである。具体的な実施形態では、粒子は、タンパク質ベースの粒子(プロテインソーム)である。具体的な実施形態では、細胞体は、血小板または赤血球(RBC)である。
【0053】
「金属有機フレームワーク」または「MOF」という用語は、有機配位子に配位された金属イオンまたはクラスターを含む化合物を指す。中心金属元素は、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)、カドミウム(Cd)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、銅(Cu)、ランタン(La)、鉄(Fe)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、鉛(Pb)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、セレン(Se)、およびアンチモン(Sb)からなる群から選択される少なくとも1つであり得る。有機配位子は、少なくとも2つの金属イオンに結合可能な官能基を含み得る。
【0054】
「細胞膜」とは、細胞の周りに連続的な障壁を形成する脂質二重層を指す。本発明の粒子は、原核生物または真核生物の細胞膜で形成することができる。
【0055】
本明細書で使用される場合、「細胞体」は、細胞質および原形質膜によって囲まれた遺伝物質を含有する細胞の部分を指す。
【0056】
「ポリマーソーム」という用語は、両親媒性合成ブロックコポリマーで作製された人工小胞を指す。
【0057】
「プロテイノソーム」という用語は、自己組織化タンパク質またはタンパク質-ポリマーコンジュゲートで構成される粒子を指す。
【0058】
具体的な実施形態では、任意に上または下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、粒子は、メソポーラスシリカで作製される。本明細書で使用される場合、「メソポーラスシリカ」は、規則的に配置された中型細孔を有する多孔質シリカを指し、具体的には、細孔は、2nm~50nm、より具体的には、4nm~約40nmである。
【0059】
第1の態様の具体的な実施形態では、任意に上または下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、酵素は、オキシドレダクターゼ、ヒドロラーゼ、およびリアーゼからなる群から選択される。より具体的な実施形態では、酵素は、グルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルタミン酸オキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。より具体的な実施形態では、酵素は、ウレアーゼである。ウレアーゼ(EC 3.5.1.5)という用語は、二酸化炭素およびアンモニアへの尿素の加水分解を触媒する酵素の群を指す。本発明の具体的な実施形態では、ウレアーゼは、Canavalia ensiformis(CAS番号9002-13-5)に由来する。より具体的な実施形態では、それは、Canavalia ensiformis(CAS番号9002-13-5)由来のIX型ウレアーゼである。酵素の配列は、Uniprot(P07374 UREA_CANEN、1994年2月1日更新)などの様々なデータベースで見つけることができる。
【0060】
第1の態様の具体的な実施形態では、任意に上または下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、異種分子は、標的化分子、標識分子、ナノセンサー、および分子ゲートからなる群から選択される。
【0061】
第1の態様の具体的な実施形態では、任意に上または下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、異種分子は、抗体である。より具体的な実施形態では、抗体は、抗癌抗体である。より具体的な実施形態では、抗癌抗体は、膜受容体に結合する。より具体的な実施形態では、膜受容体は、FGFR1、FGFR2、FGFR3、およびFGFR4からなる群から選択されるFGFR(線維芽細胞成長因子受容体)である。より具体的な実施形態では、FGFRは、FGFR3である。
【0062】
第1の態様の具体的な実施形態では、任意に上または下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、異種分子は、ナノセンサーである。当業者に入手可能な多数のナノセンサーが存在する(Campuzano S.et al.,“Motion-driven sensing and biosensing using electrochemically propelled nanomotors”,Analyst.2011,vol.36(22),pp.4621-30)。具体的な実施形態では、ナノセンサーは、DNAナノスイッチである。DNAナノスイッチは、フルオロフォア-クエンチャーペアに結合した一本鎖DNA分子を含む分子複合体である。具体的な実施形態では、DNAナノスイッチのDNA分子の配列は、配列番号1との少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する。
【0063】
具体的な実施形態では、ナノセンサーは、ナノ粒子である。より具体的な実施形態では、ナノセンサーは、金属ナノ粒子である。より具体的には、金属ナノ粒子は、金(Au)ナノ粒子である。当業者であれば、ナノセンサーを形成するナノ粒子が、ナノモーターを形成するナノ粒子またはマイクロ粒子よりも小さくなければならないことを理解するであろう。
【0064】
本発明では、「同一性」という用語は、配列が最適に整列される場合、2つの配列において同一である残基のパーセンテージを指す。最適なアラインメントにおいて、第1の配列における位置が第2の配列における対応する位置と同じアミノ酸残基によって占められる場合、配列は、その位置に関して同一性を示す。2つの配列間の同一性のレベル(または「配列同一性パーセント」)は、配列のサイズに対する配列によって共有される同一位置の数の比として測定される(すなわち、配列同一性パーセント=(同一位置の数/位置の総数)×100)。
【0065】
最適なアラインメントを迅速に取得し、2つ以上の配列間の同一性を計算するためのいくつかの数学的アルゴリズムが知られており、いくつかの利用可能なソフトウェアプログラムに組み込まれる。そのようなプログラムの例には、とりわけ、アミノ酸配列分析のためのMATCH-BOX、MULTAIN、GCG、FASTA、およびROBUSTプログラムが挙げられる。好ましいソフトウェア分析プログラムには、ALIGN、CLUSTAL W、およびBLASTプログラム(例えば、BLAST 2.1、BL2SEQ、およびそれらのそれ以降のバージョン)が含まれる。
【0066】
アミノ酸配列分析について、BLOSUMマトリックス(例えば、BLOSUM45、BLOSUM50、BLOSUM62、およびBLOSUM80マトリックス)、Gonnetマトリックス、またはPAMマトリックス(例えば、PAM30、PAM70、PAM120、PAM160、PAM250、およびPAM350マトリックス)などの重みマトリックスは、同一性の決定に使用される。
【0067】
BLASTプログラムは、選択された配列を、データベース(例えば、GenSeq)中の複数の配列に対して整列させることによるか、または2つの選択された配列間、BL2SEQのいずれかで、少なくとも2つのアミノ酸配列の分析を提供する。BLASTプログラムは、好ましくは、DUSTまたはSEGプログラムなどの複雑度の低いフィルタリングプログラムによって改変され、これらは、好ましくはBLASTプログラム操作に組み込まれる。ギャップ存在コスト(またはギャップスコア)が使用される場合、ギャップ存在コストは、好ましくは、約-5~-15に設定される。同様のギャップパラメータは、必要に応じて他のプログラムで使用することができる。BLASTプログラムおよびそれらの根底にある原理は、例えば、Altschul et al.,“Basic local alignment search tool”,1990,J.Mol.Biol,v.215,pages 403-410にさらに記載される。
【0068】
多重配列分析には、CLUSTAL Wプログラムを使用することができる。CLUSTAL Wプログラムは、望ましくは「動的」(「高速」に対して)設定を使用して実行される。アミノ酸配列は、配列間の同一性のレベルに応じて、BLOSUMマトリックスの可変セットを使用して評価される。CLUSTAL Wプログラムおよび基本的な動作原理は、例えば、Higgins et al.,“CLUSTAL V:improved software for multiple sequence alignment”,1992,CABIOS,8(2),pages 189-191でさらに説明される。
【0069】
第1の態様の具体的な実施形態では、任意に上または下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、ナノモーターは、カーゴをさらに含む。具体的な実施形態では、カーゴは、薬物からなるリストから選択され、薬物は、小分子、核酸、治療用酵素、ペプチド、タンパク質、またはホルモンからなる群から選択される。「カーゴ」について、ナノモーター内で輸送された任意の分子が所望の標的で送達されることが理解される。粒子の表面材料および多孔性に応じて、カーゴは、粒子の内部にあるか、またはその表面に吸着され得る。
【0070】
具体的な実施形態では、薬物は、細胞毒性薬である。より具体的には、それは、抗癌薬である。
【0071】
第1の態様の具体的な実施形態では、任意に上または下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、酵素および異種分子は、直接またはリンカーを通して粒子の表面に付着する。より具体的な実施形態では、リンカーは、無水物、アルコール、酸、アミン、エポキシ、イソシアネート、シラン、ハロゲン化基、および重合性基、好ましくは3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)からなる群から選択される。さらにより具体的な実施形態では、リンカーは、グルタルアルデヒドである。
【0072】
そのような態様では、リンカーの一部分は、粒子の表面に結合し、リンカーの別の部分は、酵素または異種分子に結合し、それによって酵素または異種分子と表面との間に共有結合を形成する。リンカーと当該表面および当該酵素または異種分子との間の結合は、リンカーと酵素または異種分子との間で発生する化学反応によってもたらされ、それによって表面と当該酵素または異種分子との間の共有結合を確保する。一実施形態では、酵素および/または異種分子は、粒子の表面に、粒子の当該表面の化学的前処理の後に付着する。
【0073】
上記のように、第2の態様では、本発明は、治療有効量の第1の態様のナノモーターと、薬学的に許容される賦形剤および/または担体と、を含む、薬学的組成物を提供する。
【0074】
本明細書で使用される「治療有効量」という表現は、投与される場合、対処される疾患または障害の症状のうちの1つ以上の発症を予防するか、またはこれをある程度緩和するのに十分なナノモーターの量を指す。本発明に従って投与される薬剤の特定の用量は、もちろん、投与されるナノモーター、投与経路、治療されている特定の病態、および同様の考慮事項を含む、症例を取り巻く特定の状況によって決定されるであろう。
【0075】
「薬学的組成物」という表現は、ヒトおよび非ヒト動物(すなわち、獣医学的組成物)用に意図された両方の組成物を包含する。
【0076】
「薬学的に許容される担体または賦形剤」という表現は、薬学的に許容される材料、組成物、またはビヒクルを指す。各成分は、薬学的組成物の他の成分と適合性があるという意味で薬学的に許容可能でなければならない。それはまた、過度の毒性、炎症、アレルギー反応、免疫原性、または合理的なベネフィット/リスク比と相応する他の問題もしくは合併症なしに、ヒトおよび非ヒト動物の組織または器官と接触する使用に好適でなければならない。
【0077】
好適な薬学的に許容される賦形剤の例は、溶媒、分散媒体、希釈剤、または他の液体ビヒクル、分散剤もしくは懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤もしくは乳化剤、防腐剤、固体結合剤、潤滑剤などである。任意の従来の賦形剤媒体が、任意の望ましくない生物学的効果を生成すること、または他の方法で薬学的組成物の任意の他の成分(複数可)と有害な様式で相互作用することなどによって、物質またはその誘導体と不適合である限りを除いて、その使用は、本発明の範囲内であることが企図される。
【0078】
本発明の薬学的組成物中のナノモーター、薬学的に許容される賦形剤、および/または任意の追加の成分の相対量は、治療される対象の同一性、サイズ、および/または病態に応じて、かつさらに組成物が投与される経路に応じて変化するであろう。
【0079】
薬学的組成物の製造に使用される薬学的に許容される賦形剤には、不活性希釈剤、分散剤および/または造粒剤、界面活性剤および/または乳化剤、崩壊剤、結合剤、防腐剤、緩衝剤、潤滑剤、および/または油が挙げられるが、これらに限定されない。配合者の判断に従って、着色剤、コーティング剤、甘味剤、および香味剤などの賦形剤が組成物中に存在し得る。
【0080】
本発明のナノモーターを含有する薬学的組成物は、任意の剤形、例えば、固体または液体で提示することができ、任意の好適な経路、例えば、経口、非経口、直腸、局所、鼻腔内、または舌下経路によって投与することができ、そのため、それらは所望の剤形の製剤、例えば、局所製剤(軟膏、クリーム、リポゲル、ヒドロゲルなど)、点眼薬、エアロゾルスプレー、注射可能な溶液、浸透圧ポンプなどに必要な薬学的に許容される賦形剤を含むであろう。
【0081】
例示的な希釈剤には、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸ナトリウムラクトース、スクロース、セルロース、微結晶性セルロース、カオリン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、トウモロコシデンプン、粉糖、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
例示的な造粒剤および/または分散剤には、ジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン、タピオカデンプン、デンプングリコレール酸ナトリウム、クレー、アルギン酸、グアーガム、柑橘パルプ、寒天、ベントナイト、セルロースおよび木製品、天然スポンジ、カチオン交換樹脂、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、炭酸ナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン)(クロスポビドン)、カルボキシメチルデンプンナトリウム(デンプングリコール酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロース)、メチルセルロース、アルファ化デンプン(デンプン1500)、微結晶性デンプン、水不溶性デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(Veegum)、ラウリル硫酸ナトリウム、第四級アンモニウム化合物、ならびにそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
例示的な結合賦形剤には、デンプン(例えば、トウモロコシデンプンおよびデンプンペースト);ゼラチン;糖(例えば、スクロース、グルコース、デキストロース、デキストリン、糖蜜、ラクトース、ラクチトール、マンニトール);天然および合成ガム(例えば、アカシア、アルギン酸ナトリウム、アイリッシュモスの抽出物、パンワーガム、ガッティガム、イサポールハスクの粘液、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶性セルロース、酢酸セルロース、ポリビニルピロリドン)、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(Veegum)、およびカラマツアラボガラクタン);アルギン酸塩;酸化ポリエチレン;ポリエチレングリコール;無機カルシウム塩;ケイ酸;ポリメタクリレート;ワックス;水;アルコール;ならびにそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
例示的な防腐剤には、抗酸化剤、キレート剤、抗菌性防腐剤、抗真菌性防腐剤、アルコール防腐剤、酸性防腐剤、および他の防腐剤が挙げられ得る。例示的な抗酸化剤には、アルファトコフェロール、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、オレイン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、および亜硫酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。例示的なキレート剤には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸一水和物、エデト酸二ナトリウム、エデト酸二カリウム、エデト酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、エデト酸ナトリウム、酒石酸、およびエデト酸三ナトリウムが挙げられる。
【0085】
例示的な緩衝剤には、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルセプチン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、D-グルコン酸、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、プロパン酸、レブリン酸カルシウム、ペンタン酸、二塩基性リン酸カルシウム、リン酸、三塩基性リン酸カルシウム、水酸化リン酸カルシウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、グルコン酸カリウム、カリウム混合物、二塩基性リン酸カリウム、一塩基性リン酸カリウム、リン酸カリウム混合物、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム、一塩基性リン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム混合物、トロメタミン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルギン酸、パイロジェンフリー水、等張食塩水、リンガー溶液、エチルアルコール、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
例示的な潤滑剤には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、シリカ、タルク、モルト、ベヘン酸グリセリル、水素化植物油、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ロイシン、ラウリル硫酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
前述のように、本発明はまた、第3の態様では、療法、診断、または予後における使用のための本発明のナノモーターまたは薬学的組成物を提供する。
【0088】
ウレアーゼ推進ナノモーターは、尿などの液体媒体だけではなく、ヒアルロン酸などの粘性媒体中でも移動することができる。さらに、それらは粘液分泌物中でも活性である。したがって、本発明のナノモーターは、眼の房水などの液体および粘性組織の両方で使用することができる。
【0089】
第3の態様の特定の実施形態では、任意に上または下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、第1の態様のナノモーターまたは第2の態様の薬学的組成物は、癌の治療における使用のためのものである。
【0090】
この実施形態はまた、癌の治療および/または予防のための医薬品の製造のための、第1の態様のナノモーター、または第2の態様の薬学的組成物の使用として製剤化することができる。この態様はまた、癌を治療および/または予防するための方法として製剤化することができ、方法は、治療有効量の第1の態様のナノモーターまたは第2の態様の薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0091】
本発明のナノモーターまたは薬学的組成物で治療することができる癌の例示的な非限定的な例には、乳頭腫、腺腫、脂肪腫、骨腫、筋腫、血管腫、母斑、成熟奇形腫、癌腫、肉腫、未熟奇形腫、黒色腫、骨髄腫、白血病、ホジキンリンパ腫、基底細胞腫、棘細胞腫、乳癌、卵巣癌、子宮癌、膀胱癌、肺癌、気管支癌、前立腺癌、結腸癌、膵臓癌、腎臓癌、食道癌、肝細胞癌、頭頸部癌などが挙げられるが、これらに限定されない。第3の態様の特定の実施形態では、癌は、膀胱癌である。
本明細書で提供されるデータから、当業者であれば、本発明のナノモーターおよび薬学的組成物が、代謝性、神経性、および炎症性疾患などの他の疾患の治療にも有用であり得ることを理解するであろう。
【0092】
上記のように、第5の態様では、本発明は、単離された試料中の分析物を検出するインビトロ方法を提供し、これは第1の態様において定義されるナノモーターを試料と接触させることを含む。当業者であれば、本発明のナノモーターが、当該分析物のセンサーでのそれらの機能化を通して、異なる分析物を検出するように適合され得ることを理解するであろう。
【0093】
第5の態様の具体的な実施形態では、任意に上または下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、試料は、生物学的に単離された試料である。より具体的には、生物学的に単離された試料は、血液、血漿、または血清である。
【0094】
上記のように、第6の態様では、本発明は、単離された試料中の分析物を検出するためのインビトロ方法における第1の態様において定義されるナノモーターの使用を提供する。
【0095】
第5または第6の態様の具体的な実施形態では、任意に上または下に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、試料は、液体試料である。前述のように、本発明者らのナノモーターは、様々な粘度を有する液体中で移動することができる。例えば、それらは尿中を移動することができ、これは(Inman et al.,“The impact of temperature and urinary constituents on urine viscosity and its relevance to bladder hyperthermia treatment”,Int J Hyperthermia,2013,vol.29(3),pp.206-10によって測定される)20℃で1.0700cStの動粘度、および滑液に見られる濃度のヒアルロン酸(1mg/ml、レオメーターで測定される、1~10Hzの範囲のせん断速度について約10-2Pa*s)を有する。
【0096】
本発明のナノモーターは、汚染物質またはバイオマーカーなどの多種多様な分析物の検出に特に有用である。
【0097】
本明細書および特許請求の範囲全体を通して、「含む」という単語および単語の変形は、他の技術的特徴、添加剤、成分、またはステップを除外することを意図しない。さらに、「含む」という単語は、「からなる」の場合を包含する。本発明の追加の目的、利点、および特徴は、本明細書の検討後に当業者に明らかになるか、または本発明の実施によって習得され得る。以下の実施例および図面は、例示として提供されており、本発明を限定することを意図しない。図面に関連し、特許請求の範囲の括弧内に配置される参照記号は、単に特許請求の範囲の明瞭性を増加させることを試みるためであり、特許請求の範囲の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。さらに、本発明は、本明細書に記載される具体的かつ好ましい実施形態のすべての可能な組み合わせをカバーする。
【実施例】
【0098】
1.ウレアーゼ駆動ナノモーターでの3D膀胱癌スフェロイドの標的化
1.1.方法
材料
エタノール(EtOH、99%)、メタノール(MeOH、99%)、塩酸(水中37%)、水酸化アンモニウム(水中25%)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS、99%)、トリエタノールアミン(TEOA、99%)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB、99%)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES、99%)、グルタルアルデヒド(GA、水中25%)、ウレアーゼ(Canavalia ensiformis、タイプIX、粉末、50,000-100,000ユニット/g固体)、ウレアーゼ活性アッセイキット(Sigma-Aldrich)、尿素(99.9%)、グリセロール(99%)、水素化ホウ素ナトリウム粉末(NaBH4、98.0%)、ホルムアルデヒド溶液(水中37%)、ウシ血清アルブミン(凍結乾燥粉末)、4-ニトロフェノール溶液(10mM)、塩化ナトリウムpuriss.(NaCl)、無水塩化カリウム(KCI)、一塩基性リン酸ナトリウム(NaH2PO4)、重炭酸ナトリウムBioXtra(99.5-100.5%、NaHCO3)、ジメチルスルホキシド(DMSO、99.9%)、およびHS-PEG5K-NH2(HCI塩)は、Sigma-Aldrichから購入した。Pierce(商標).BCAタンパク質アッセイキット、小麦胚芽凝集素(WGA AlexaFluor(商標)647コンジュゲート)、ヤギ抗マウスIgG(H+L)Alexa FluorTM 488コンジュゲート、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウム臭化物(MTT)、およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、Thermo Fisher Scientificから購入した。Matrigel(商標)基底マトリックスは、Corningから購入した。抗FGFR3抗体(ab89660)は、Abcamから購入した。Hoechst 33342は、Life Sciencesから購入した。Spectra/Por(登録商標)7標準RC前処理済み透析チュービング(3.5kD)は、Spectrumから購入した。Cyanine3 NHSエステルは、Lumiprobeから購入した。McCoyの5A(改変)培地、ペニシリンストレプトマイシン溶液、ウシ胎児血清(FBS)、およびトリプシン0.5%EDTAは、Gibcoから購入した。LIVE/DEAD(登録商標)生存率/細胞毒性キットは、Invitrogenから購入した。ヒト膀胱移行上皮乳頭腫RT4細胞は、ATCC(Rockville、MA)から入手した。
【0099】
装置
透過電子顕微鏡法(TEM)画像は、JEOL JEM-2100顕微鏡を使用して捕捉した。走査電子顕微鏡法(SEM)画像は、10kVでFEI NOVA NanoSEM 230を使用して捕捉した。流体力学的半径および電気泳動移動度の測定は、Atlasセル加圧システムと組み合わせたWyatt Mobiusを使用して行った。Brunauer-Emmett-Teller(BET)分析は、Micromeritics Tristar II Plus自動分析装置を使用して実施した。光学ビデオおよび細胞培養イメージングは、63倍水浸対物レンズ、ガルボステージ、ならびにFITC、ローダミン、DAPI、およびCY5用のフィルターキューブを備えた倒立光学顕微鏡(Leica DMi8)を使用して行った。タンパク質定量化および酵素活性アッセイは、Infinite M200 PRO Multimode Microplate Readerを使用して実施した。共焦点顕微鏡法分析は、63倍油浸対物レンズを備えたLSM 800-Zeissを使用して行った。
【0100】
メソポーラスシリカナノ粒子(MSNP)の合成:MSNPはゾルゲル法を使用して調製された。簡潔には、CTAB(570mg)、TEOA(35g)、および水(20mL)を含有する溶液をシリコンオイルバスで95℃まで加熱した。この混合物を30分間撹拌し、その後TEOS(1.5mL)を滴下した。混合物をさらに95℃で2時間撹拌した。生成された粒子を遠心分離によって収集し、エタノール(3回、1350g、10分)で洗浄した。次いで、粒子をMeOH:HCl混合物(30mL、10:0.6)に懸濁し、MSNPの細孔からのCTABの除去のために、80℃で24時間還流した。最後に、粒子を遠心分離によって収集し、エタノール(3回、1350g、10分)中で洗浄し、各遠心分離間に20分超音波処理した。アリコート(0.5mL)を収集し、遠心分離し、風乾して、MSNP懸濁液の濃度を決定した。
【0101】
MSNPのアミン機能化(MSNP-NH2):以前に合成されたMSNPをEtOH(2mg/mL)に懸濁した。次いで、APTESを懸濁液(10μL/mgのMSNP)に加え、エンドツーエンドのロータリーシェーカーを使用して、室温で24時間振盪した。最後に、粒子を遠心分離によって収集し、エタノール(3回、1350g 10分)および水(3回、1928g 10分)中で洗浄し、各遠心分離間に20分超音波処理した。アリコート(0.5mL)を収集し、遠心分離し、風乾して、MSNP懸濁液の濃度を決定した。ウレアーゼおよびヘテロ二機能性H2N-PEG-SH(MSNP-UR/PEG)でのMSNP-NH2の機能化:MSNP-NH2を1340gで10分間遠心分離し、900μLのPBS(2mg/ml)に懸濁し、20分間超音波処理した。この後、100μLのグルタルアルデヒドを添加し、混合物を30秒間ボルテックスして、良好な分散液を得た。混合物を、室温で、エンドツーエンドのロータリーシェーカーに2.5時間置いた。次いで、ナノ粒子を収集し、PBSで3回洗浄し(1340g、10分)、各洗浄間に20分間超音波処理した。次に、GA活性化ナノ粒子を、ウレアーゼ(3mg/mL)およびH2N-PEG-SH(1μg/mgのMSNP-NH2)を含有するPBSの溶液に懸濁した。次いで、混合物を、室温で、エンドツーエンドのロータリーシェーカーに一晩置いた。得られたナノモーターを遠心分離(1340g、10分)によってPBSで3回洗浄し、洗浄間に3分の超音波処理を入れた。
【0102】
抗FGFR3抗体(MSNP-Ur/PEG-Ab)でのPEG化ウレアーゼナノモーターの機能化:ナノモーターをPBS(2mg/mL)に懸濁し、抗FGFR3抗体(ナノモーター1mgあたり30μgの抗体)を添加した。次いで、混合物を、室温で、ロータリーシェーカーにおいて一晩インキュベートした。最後に、抗体修飾ナノモーターを遠心分離(1340g、10分)によって収集し、PBSで3回洗浄し、洗浄間に3分の超音波処理を入れた。流体力学的半径および表面電荷の分析:ATLAS加圧器に連結された、Wyatt Mobius DLSを使用して、MSNP、MSNP-NH2、MSNP-Ur/PEG、およびMSNP-Ur/PEG-Abのサイズ分布および表面電荷を特徴付けた。装置は、532nmの波長のレーザーおよび163.5°の検出器角度を使用する。分析された試料を0.3mg/mLの濃度に希釈し、5秒の取得時間で、光散乱および電気泳動移動度について同時に分析し、測定ごとに3回実行した。統計関連データを得るために、合計9回の測定を行った。
【0103】
MSNP上のウレアーゼおよび抗体の量の定量化:MSNP-Ur/PEG上に存在するウレアーゼの濃度は、Thermo Fisher ScientificからのBCA Protein Assay Kitを使用して、製造業者の指示に従って測定した。このキットは、タンパク質の量をペプチド結合による銅の還元と相関する。ナノモーターに結合した抗体の量を定量化するために、MSNP-Ur/PEG-Abについて同じ手順を繰り返した。
【0104】
ウレアーゼ活性アッセイ:MSNPに結合している間のウレアーゼの酵素活性は、Berthelotの方法によって生成されたアンモニアの濃度を決定する市販のキットを使用して評価された(Patton,C.J.et al.,“Spectrophotometric and Kinetics Investigation of the Berthelot Reaction for the Determination of Ammonia”,Anal.Chem.,1977,vol.49,pp.464-469)。ナノモーターは0.5mg/mLの濃度であり、実験は製造業者の指示に従って実施された。
【0105】
Cy3でのウレアーゼ標識:ウレアーゼ(22mg)を1mLの重炭酸ナトリウムバッファー(100mM)に溶解した。次に、DMSO(5mM)中の7μLのCy3溶液をウレアーゼ溶液に加え、混合物を室温で暗所で振盪しながら4時間インキュベートした。次いで、標識されたウレアーゼの溶液を24時間透析して(3.5kD細孔膜)、非反応Cy3分子を排除した。
【0106】
MSNP-Ur/PEGによるアンモニア生成の定量化:ナノモーターによって生成されたアンモニアは、滴定法を使用して定量化した。このために、ナノモーターを異なる尿素濃度(12.5、25、50、100、200、および300mM)でインキュベートし、試料を異なる時点で(5、15、60、120、240分、および24時間で)分析した。各時点で、ナノモーターの懸濁液を遠心分離し、p-ニトロフェノールを指標として使用して、上清をHCl(10mM)で滴定した。
【0107】
ナノモーターの光学ビデオ記録およびMSD分析:63倍水浸対物レンズを備えた倒立顕微鏡を使用して、ナノモーター移動のビデオを観察および記録した。ナノモーターを含有する模擬尿の水性溶液の試料をガラススライドに入れ、様々な尿素濃度(12.5、25、50、100、200、および300mM)で模擬尿と十分に混合した。次いで、ドリフトによって引き起こされるアーチファクトを回避するために試料をガラススライドで覆い、30秒のビデオを記録した。ビデオは、浜松カメラを使用して、50fpsのフレームレートで明視野において取得した。条件あたり少なくとも20個のナノモーターが分析される。Pythonベースのコードを使用してビデオを分析して、ナノモーターの軌道を取得し、以下のように平均二乗変位(MSD)を計算した。
MSD(Δt)=<(x_i(t+Δt)-x_i(t))^2>、2D分析についてi=2
【0108】
この後、拡散係数(De)は、MSDデータを式2に当てはめることによって得られたが、これは低い回転拡散で、小粒子について短い時間間隔で有効である。3D細胞培養:ヒト膀胱移行上皮乳頭腫RT4細胞を、FBS(10%)およびペニシリン-ストレプトマイシン溶液(1%)で補足された、McCoyの5A(改変)培地において、37℃および5%CO2雰囲気で培養した。細胞を4日毎に1:2比で分割した。3D RT4細胞培養物を得るために、8ウェルibidi皿に23μLのMatrigel(商標)(5mg/mL)を予めコーティングし、37℃で30分間インキュベートし、ゲルを形成させた。次に、5×106細胞/mLの密度の30μLのRT4細胞の懸濁液を各ウェルに均等に分散し、皿を37℃で30分間インキュベートした。最後に、10%のMatrigel(商標)を含有する150μLのRT4 McCoyの培地を添加した。培養物を実験前に7日間成長させ、2日毎に培地を交換した。
【0109】
3D RT4細胞培養物におけるFGFR3膜貫通タンパク質の免疫染色:上記の3D培養物をPBS 1×で3回洗浄した。次いで、ウェルの表面をピペット先端でそっと引っ掻き、培養物をチューブにおいてMcCoyの培地に懸濁させた。チューブを短時間回転させ、上清を除去した。次に、細胞をホルムアルデヒド(3.7%)に懸濁させ、8ウェル皿に入れ、室温で15分間インキュベートした。続いて、培養物をPBS 1×で洗浄し、PBS-BSAの溶液(5%)を加え、皿を室温で40分間インキュベートした。次いで、抗FGFR3を1:50の割合で培養物に添加し、皿を5%CO2雰囲気中、37℃で24時間インキュベートした。その後、培養物をPBS 1×で3回洗浄し、二次抗体(AlexaFluor 488で標識)を1:500の割合で添加し、皿を暗所において室温で40分間インキュベートした。最後に、培養物をPBS 1×で3回洗浄し、核をHoeschtで標識し、PBS中のグリセロールの溶液(70%)を加えた。共焦点顕微鏡法を使用して培養物を観察した。
【0110】
細胞毒性アッセイ:RT4 3D培養物の生存率を、Alamar Blueアッセイを使用して定量化し、LIVE/DEAD生存率キットを製造業者の指示に従って使用して視覚化した。このために、RT4細胞を上記のように培養し、7日目に各処理でインキュベートした:アンモニア(1mM、1.5mM、3mM、5mM、10mM、および20mM、24時間)、尿素(25mM、30mM、40mM、および50mM、24時間)、MSNP-Ur/PEG(12.5μg/mL、尿素濃度の範囲-25mM、30mM、40mM、および50mM、1、2および4時間)。その後、培養物を培地で洗浄し、24時間静置し続け、製造業者の指示に従って生存率を調査した。
【0111】
さらに、生存率はまた、48時間の時点で評価された。
【0112】
RT4 3D培養物およびナノモーターのイメージング:7日目に、3D細胞培養物を各処理(MSNP-Ur/PEGまたはMSNP-Ur/PEG-Ab、12.5μg/mL)で4時間インキュベートした。各時点で、培養物を洗浄し、37℃および5%CO2雰囲気で24時間保持した。次いで、培養物をWGA 647(膜)で標識し、63倍対物レンズおよびガルボステージ、ならびにローダミン、FITC、DAPI、およびCy5用のフィルターキューブを備えた倒立蛍光顕微鏡を使用して撮像した。
【0113】
1.2.結果および考察
完全メソポーラスシリカナノ粒子(MSNP)は、ゾルゲル化学を使用して調製し、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)をポロゲン剤として使用し、トリエタノールアミン(TEOA)を塩基触媒として使用した。調製されたMSNPは、走査電子顕微鏡法(SEM)によって特徴付けられた。SEM分析は、試料の良好な単分散性(多分散性指数=0.114)および481±2nmの平均直径(N=150、平均サイズ±平均の標準誤差(SE))を明らかにした。さらに、MSNPの多孔質構造を透過電子顕微鏡法によって評価した。明確な放射孔性がTEMによって証明された。この結晶構成は、多孔質パターンの周期性を示した、高速フーリエ変換によってさらに確認された。ナノ粒子の表面積は、Brunauer-Emmett-Teller分析(BET)法を使用して、窒素吸着/脱着を行うことによって研究された。MSNPは、メソポーラスシリカ構造に典型的な、IV型等温線、および2nmの平均孔径で、1184.8m2/gのBET比表面積を示した。
【0114】
次いで、生成された粒子は、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を使用することによってアミン基で機能化された。MSNPの表面上のアミン基は、その後グルタルアルデヒド(GA)で活性化し、それは粒子とウレアーゼおよびヘテロ二機能性ポリエチレングリコール(PEG)分子との間のリンカーとして作用する(
図1A)。PEGの末端チオール基は、標的化部分、抗線維芽細胞成長因子3(抗FGFR3)の組み合わせを可能する。
【0115】
機能化ステップに続いて、動的光散乱(DLS)および電気泳動移動度分析を行って、それぞれ流体力学的半径および表面電荷を得た。合成されたままのMSNPのDLS分析は、懸濁液中の凝集体の存在を示す幅広いピークを示した。MSNPの電気泳動移動度分析は、シリカナノ粒子に典型的な、-26.81±0.35mV(N=9、平均±SE)の表面電荷を示した。アミンでの機能化の成功は、表面上の遊離アミン基の存在に特徴的な、表面電荷における強い正の値(33.6±1.0mM、N=9、平均±SE)への顕著な変化によって証明された。アミン機能化MSNP(MSNP-NH2)の流体力学的半径は、表面電荷および表面化学の両方による粒子の安定化に起因し得る、より鋭いピークを示した。
【0116】
その後の機能化ステップは、ウレアーゼ酵素およびヘテロ二機能性PEGの両方の組み合わせに関した。典型的には、PEGは、スペーサーとして、または粒子間に立体障害を提供することによって懸濁液中での凝集を防止する手段として使用される。我々は、鋭い単一集団ピークが観察された、DLS分析によって、MSNP-Ur/PEGのコロイド安定性に対するこの効果を確認した。さらに、PEG分子は、PEGの外端における遊離チオール基を抗体のシステイン残基に結合することによって、抗体のナノ粒子へのコンジュゲーションを可能にした。このアプローチは、重鎖の定常領域上に存在するシステイン残基の高い含有量のため、IgG抗体の結合に対してより特異性を提供する(
図1A)。MSNP-Ur/PEGの抗FGFR3抗体とのコンジュゲーション(MSNP-Ur/PEG-Ab)もDLSによって分析し、観察された単一ピークは、抗体の存在が溶液中の粒子の安定性に影響を与えなかったことを示した。我々は、タンパク質のペプチド結合による銅の還元に基づいてタンパク質を定量化するキットを使用して、MSNPの表面上のウレアーゼ、および抗体の存在を確認し、ナノモーターに結合した状態でのウレアーゼ酵素活性を評価した。
【0117】
MSNP-Ur/PEGおよびMSNP-Ur/PEG-Abの表面上に存在するウレアーゼは、以下の式に従って、尿素のアンモニアおよび二酸化炭素への生体触媒変換を可能にする。
(NH2)2CO+H2O→CO2+2 NH3
【0118】
典型的には、力の非対称生成を達成するために、マイクロ/ナノ構造(例えば、ヤヌス粒子)に幾何学的非対称が誘導され、これは低レイノルズ数で運動を生成するための重要な要件である。しかしながら、最近、生体触媒変換を介して推進されるモーターについて、酵素の分子不均衡分布が、正味運動を生成するために必要な非対称性の生成には十分であることが報告されている。それでも、その以前の研究は、ミクロンサイズのモーターについて報告された。この研究で報告されるMSNP-Ur/PEGおよびMSNP-Ur/PEG-Abナノモーターは、ナノスケールのモーターの自己推進のためのそのような固有の非対称性に依存する。MSNP-Ur/PEGおよびMSNP-Ur/PEG-Abの運動プロファイルは、模擬尿中で、様々な尿素濃度(0mM、12.5mM、25mM、50mM、100mM、200mM、および300mM)の存在下で評価された。光学追跡技法を使用して、ナノモーターの追跡軌道を取得し(
図2AおよびB)、次いでそれを使用して平均二乗変位(MSD)を計算した。
図2Cは、模擬尿中のウレアーゼ/PEGナノモーターおよび抗体修飾ナノモーターの典型的なMSDを示す。我々は、MSDが時間とともに線形増加することを観察し、これは拡散運動に特徴的であり、MSDを以下の式に当てはめることによって各所与の条件について有効拡散係数を求めた。
MSD(Δt)=4 D
eΔt
式中、D
eは有効拡散係数を表し、Δtは時間間隔を表す。
【0119】
図2Dは、MSNP-Ur/PEGおよびMSNP-Ur/PEG-Abの両方について計算された有効拡散係数を示し、50mMの尿素濃度で有意な拡散の増加が達成されたことを証明した(p<0.001)。拡散係数は、模擬尿中の増加する尿素濃度でさらに増加し、プラトーに達した。増加する尿素濃度に対する拡散の増加は、以下の式に従う、ウレアーゼ酵素ミカエリス-メンテン動力学に関連し得る。
【数1】
式中、V
最大は最大反応速度を表し、Sは基質濃度を表し、K
mはミカエリス-メンテン定数を表す。
図2Dに示されるように、MSNP-Ur/PEGおよびMSNP-Ur/PEG-Abの運動プロファイル間に有意差は見られず、この標的化部分の存在がナノモーターの運動能力を妨げないことを示す。
【0120】
我々は、ヒト膀胱移行上皮乳頭腫RT4細胞の3D培養物(スフェロイド)を使用することによって、ナノモーターの運動に必要な基質(尿素)および生体触媒作用の副産物(アンモニア)のインビトロ生体適合性を研究した。スフェロイドは、細胞外マトリックスに似ており、細胞成長のための3D環境を提供する、Matrigel(商標)でコーティングされた皿にRT4細胞を播種することによって得た。次いで、培養物を7日間増殖させ、スフェロイド成長を毎日監視した。次いで、スフェロイドを各条件で24時間インキュベートすることによって、様々な濃度の尿素(0mM、25mM、50mM、および100mM)ならびにアンモニア(0mM、20mM、30mM、40mM、および50mM)の効果を調査した。その後、培養物を培地で洗浄し、細胞生存率および増殖を、Alamar Blueアッセイを使用して評価した。このアッセイは、代謝的に活性な細胞による蛍光化合物レゾルフィンへのレサズリンの還元に基づく。
【0121】
尿素は、良好な生体適合性を示し、我々が研究した最高濃度でさえもスフェロイド生存率に影響を与えなかったが、アンモニアは、増加する濃度とともに増加した細胞毒性の傾向を明らかにした。それにもかかわらず、スフェロイドは、試験されたすべてのアンモニア濃度で生存可能(>70%生存率)のままであった。
【0122】
様々な濃度の尿素下、かつ異なるインキュベーション期間で、ナノモーター(MSNP-Ur/PEG)に曝露された場合のスフェロイドの生存率をさらに調査した。スフェロイドは、12.5μg/mLのベアナノモーターまたは抗体修飾ナノモーターと、0mM、25mM、30mM、および40mMの尿素で、1、2および4時間インキュベートした。次に、培養物を培地で完全に洗浄して、ナノモーターおよび未触媒尿素を除去し、分析前に24時間保持した。膀胱癌スフェロイドの生存率に対するナノモーターの効果は、LIVE/DEAD(登録商標)生存率キットを使用して視覚化され、Alamar Blueアッセイを使用して定量化された(
図3)。尿素の不在下、ナノモーターは毒性ではないことが観察され、これはナノモーターのシャーシ(メソポーラスシリカ、タイプMCM-41)、ならびにPEGおよび酵素の良好な生体適合性を示す。増加する濃度の尿素の存在下、細胞毒性効果が両方のナノモーターについて示され、抗体修飾ナノモーターでより顕著である(
図3)。ベアナノモーターについて観察された毒性は、尿素の生体触媒変換に起因するアンモニアの生成によるものである。しかしながら、抗体を運ぶナノモーターについて確認されたより高い細胞毒性効果は、スフェロイドの膜上に存在する抗FGFR3および抗原の間の相互作用から生じ得る。これらの部分間の相互作用は、細胞成長および増殖に関与する、FGFシグナル伝達経路を遮断することが報告されている。
【0123】
スフェロイドで観察される細胞毒性効果へのアンモニアの寄与をよりよく理解するために、異なる濃度の尿素で定義された期間にナノモーターによって生成されたアンモニアの有効濃度が研究された。12.5μg/mLのナノモーターを様々な濃度の尿素(0mM、12.5mM、25mM、50mM、100mM、200mM、および300mM)とインキュベートし、pHの指標としてp-ニトロフェノールを使用した。ナノモーターによるアンモニアおよび二酸化炭素への尿素の変換は、pHの急激な上昇をもたらすため、ナノモーターを含有する溶液は、p-ニトロフェノールの存在によって黄色に変わり、HClで滴定して、以下の式に従って、存在するアンモニアの量を定量化することができる。
NH3+HCI→NH4CI
この濃度のナノモーターでは、到達した最大アンモニア出力は、17mMであることがわかり、これは膀胱癌スフェロイドに対して生体適合性であることがわかった(20mMのアンモニアについて>70%生存率)。それにもかかわらず、ナノモーターおよび尿素とのインキュベーション後、観察された細胞毒性効果は、遊離アンモニアよりも強い。この結果は、スフェロイドの近くのナノモーターによる局所的に高濃度のアンモニアの生成から生じ得、よって、より高い細胞毒性につながる。
【0124】
ナノモーターの強化された拡散能力および生体適合性を考慮して、膀胱癌スフェロイドを標的にし、これに浸透するそれらの潜在性がその後調査された(
図4)。まず、蛍光標識抗体によって試料上の特定のタンパク質の場所を視覚的に検出するために使用される技法である免疫細胞化学によって、膀胱癌スフェロイドの表面での標的化抗原(FGFR3)の発現が確認された。膀胱癌スフェロイドの免疫細胞化学は、細胞膜上に緑色の蛍光を示し、膜貫通タンパク質FGFR3の存在を確認し、青色は、Hoechstで標識された細胞核を表す。
【0125】
次いで、膀胱癌スフェロイドに浸透するナノモーターの能力、および内在化効率に対する標的化部分の存在の効果が調査された。さらに、40mMの尿素の存在下で、スフェロイドをベアナノモーターまたは抗体修飾ナノモーターとインキュベートすることによって、内在化効率における能動的運動の影響が評価された。このため、ウレアーゼは、MSNP-NH
2上へのその機能化の前に蛍光マーカーであるシアニン3(Cy3)で標識して、蛍光顕微鏡法を使用してナノモーターを正確に局限した。次いで、ナノモーターを純粋ウレアーゼおよび標識ウレアーゼ(5%)の両方で機能化し、標識酵素の存在にもかかわらず運動能力が保持されていることを確認した。次に、3D培養物を12.5μg/mLのMSNP-Ur/PEG-Ab、または標的化のための陰性対照としてのMSNP-Ur/PEGと、尿素(40mM)の不在および存在下で、4時間インキュベートした。その後、培養物を洗浄し、細胞膜を小麦胚芽凝集素(WGA)で標識した。スフェロイド(直径50~100pm)内のCy3の蛍光強度の定量化は、能動的モーターが、尿素の不在下よりも3倍高い内在化効率を示すことを明らかにし、これは能動的な運動によって生成される推進力のためであり得る。さらに、尿素の存在下では、抗体修飾ナノモーターは、抗体なしのナノモーターよりも4倍高い内在化効率を示す(
図4)。これは、ナノモーターが能動的に動いている場合、抗体が標的抗原と相互作用する確率が、ブラウン拡散のみが起こっている場合よりも高いためであり得る。我々の場合、40mMの尿素で推進するナノモーターは、MSDによって証明されるように、ブラウン拡散を単に経験するナノモーターよりも1秒で53%広い面積をカバーし、これは抗体が抗原と接触し、スフェロイドに浸透する可能性を高める。
【0126】
使用された抗体が抗原に結合した場合に細胞のFGFシグナル伝達経路を遮断することを考慮して、細胞増殖を分析することによって、抗体修飾ナノモーターの潜在的な治療効果がさらに調査された(挿入
図4)。このために、膀胱癌スフェロイドを、対照として抗体を含まないナノモーターを使用して、尿素ありおよびなしで、MSNP-Ur/PEG-Abと4時間インキュベートした。その後、スフェロイドを洗浄して、未触媒尿素および非内在化ナノモーターを除去し、Alamar Blueアッセイを使用して48時間の休止期間後に増殖を測定した。ベアナノモーター(抗体なし)とインキュベートされたスフェロイドは、24時間で観察された生存率レベルを維持したが、抗体修飾ナノモーターとインキュベートされたスフェロイドは、生存率を低下させたことが観察され、細胞増殖が停止されたことを示した。これらの結果は、標的化膀胱癌療法のためのツールとしての抗FGFR3抗体を運ぶナノモーターの適用可能性を示す。
【0127】
1.3.結論
PEGが、凝集を防止する立体障害およびナノモーターの表面上の特定の膀胱癌抗体(抗FGFR3)を接続するリンカーの両方として作用する、PEGを含むウレアーゼ駆動ナノモーターが開発された。ナノモーターは、抗体ありおよびなしで、膀胱に見られる様々な濃度の尿素での模擬尿中の強化された拡散を示し、これはこの臓器における生物医学的用途でのそれらの使用を可能にすることができる。私は、従来の2D培養物と比較される場合、より良好な模倣腫瘍環境であると考えられる、ヒト膀胱癌細胞(3D培養物)に由来するスフェロイドを使用して、これらの酵素ナノモーターの基質依存性誘導毒性を実証した。内在化現象は、膀胱排尿間隔と同様の期間で監視され、能動的運動がナノモーター浸透を3倍強化することが観察された。さらに、活性抗体修飾ナノモーターは、抗体なしの活性ナノモーターよりも4倍高い内在化効率を示し、これはスフェロイドに浸透する活性粒子の能力に対する自己推進および標的化の影響を反映した。スフェロイドについての細胞増殖研究は、標的化ナノモーターがベアナノモーター(抗体なし)よりも高い生存率の損失を誘導することを示し、細胞増殖の抑制およびより高いナノモーター内在化率の両方に起因し得る抗FGFR3の治療効果を示した。これらの結果は、粒子の標的化能力が能動的運動で強化され、抗FGFR3抗体の治療効果の改善をもたらすため、標的化膀胱癌療法におけるツールとしてのそのような抗体修飾ナノモーターの可能性を示す。
【0128】
2.局所pH監視のためのDNAナノスイッチで修飾された酵素駆動マイクロモーター
2.1.材料および方法
化学品
未修飾およびフルオロフォアタグ付きDNAオリゴヌクレオチドは、IBA GmBH(Gottingen、Germany)によって合成および精製され(HPLC精製)、さらなる精製なしに使用された。DNA構築物の配列を以下に報告する。
【0129】
DNA配列
pH応答性DNAナノスイッチ
(配列表1)
アミノ修飾DNA足場
5’-GACAGACAGACAGACAAGGA-NH
2-3’
対照スイッチ
(配列表2)
【表1】
上記のすべての配列について、太字の塩基は、二重鎖部分のループを表し、下線が引かれた塩基は、平行三重鎖領域のループを表す。pH応答性DNAナノスイッチおよび対照スイッチの両方は、アミノ修飾DNA足場に完全に相補的な(20塩基)部分(ここではイタリック体)を有する。
【0130】
バッファー条件
すべてのDNAオリゴマーは、1×PBS中で保存した(100μM)。
【0131】
蛍光測定
蛍光測定は、Cary Eclipse Fluorimeter(Varian)で行い、励起波長をλex=530nm(slitex=5nm)および取得を540~700nm(slitem=5nm)に設定し、低減した体積(100μL)の石英キュベットを使用した。すべての測定は、10mMのHEPESにおいてT=25℃で行った。スイッチは、まず1μMの濃度でHEPES 10mMに希釈した。次いで、このストック溶液を同じバッファーで20nMに希釈し、そのpHを所望の値(pH5.0~9.0)に調整した。
【0132】
蛍光データ分析
レシオメトリックFRETは、以下のように計算された。
【数2】
式中、F
Cy5は、Cy5の最大蛍光発光(λ
em=670nm)であり、F
Cy3は、Cy3の最大蛍光発光(λ
em=570nm)である。Rat.FRET対ヒドロニウムイオン濃度をプロットし、データを以下のラングミュアタイプの式で当てはめることによって、pH滴定曲線を得た。
【数3】
式中、Rat.FRET
TRIPLEXおよびRat.FRET
DUPLEXは、それぞれ、三重鎖状態(閉)および二重鎖状態(開)におけるスイッチのFRETシグナルを表し、[H
+]は、水素イオンの総濃度を表し、
【数4】
は、スイッチについて観察された酸定数である。
【0133】
マイクロカプセル製造
ポリスチレン(PS)をベースとする市販の2μm粒子(Sigma-Aldrichカタログ番号78452)を、以前に報告された共縮合法(Ref.Ma Xing ACS Nano 2016)によって二酸化ケイ素シェルに使用した。簡潔には、250μLのポリスチレン粒子(ストック溶液、10%固体)を0.5mLの99%エタノール(Panreac Applichemカタログ番号131086-1214)、0.4mLのMilli-Q水、および25ulの水酸化アンモニウム(Sigma-Aldrichカタログ番号221228)と混合した。混合物を室温(RT)で5分間撹拌した。次いで、2.5μLの3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)99%(Sigma-Aldrichカタログ番号440140)を溶液に添加し、これを撹拌しながら室温で6時間インキュベートした。次に、7.5μlのテトラエチルオルトシリケート(TEOS)≧99%(Sigma-Aldrichカタログ番号86578)を添加し、得られた混合物を磁気撹拌下、室温で一晩反応させた。二酸化ケイ素シェルでコーティングされたポリスチレンからなる得られたマイクロ粒子を、3500rpmで3.5分間遠心分離することによって、エタノール中で3回洗浄した。次いで、ポリスチレンコアを、ジメチルホルムアミド(DMF)≧99.8%(Acros Organicsカタログ番号423640010)中で15分間、4回の洗浄を行うことによって粒子をインキュベートすることによって除去した。得られたマイクロカプセルをエタノール中で3回洗浄し、それらの使用まで室温で保存した。マイクロカプセルのサイズおよび形態を特徴付けるために、走査電子顕微鏡法(SEM)(FEI NOVA NanoSEM 230)および透過電子顕微鏡法を実施した。
【0134】
ウレアーゼおよびDNAナノスイッチ機能化
中空シリカマイクロカプセルは、ウレアーゼで機能化されて、自己推進を備えた。このために、SiO2マイクロカプセルを、3500rpmで3.5分間遠心分離することによってMilli-Qで3回洗浄した。その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH=7.4)(Thermo Fischer Scientificカタログ番号70011-036)中でのさらに3回の洗浄を行った。次いで、マイクロカプセルを、PBS中の2.5%(重量)グルタルアルデヒド溶液(Sigma-Aldrichカタログ番号G6257)に懸濁させ、エンドツーエンド混合下室温で3時間放置した。GA機能化粒子をPBS1×中で3回洗浄し、PBS中の、200μg/mlのCanavalia ensiformis(タチナタマメ)由来のウレアーゼ(Sigma-Aldrichカタログ番号U4002)、および1μMのDNA足場を含有する溶液に懸濁させた。得られた溶液を、2時間エンドツーエンド混合下に保持した。次いで、3回の洗浄をPBS中で行い、機能化粒子をそれらの使用まで4℃で保持した。
【0135】
運動分析
マイクロモーターは、63倍水浸対物レンズおよび浜松カメラを備えた倒立光学顕微鏡(Leica DMi8)下で、毎秒25フレームの割合で20秒間記録された。各条件について、少なくとも15個の粒子が記録された。マイクロモーター軌道は、以下の式を適用することによって、モーターのMSDおよび速度を計算することを可能にしたカスタムメイドのPhytonベースのコードによって分析した。
MSD(Δt)=<(xi(t+Δt)-xi(t))2>(1)
MSDを式1に当てはめることによって、速度を求めた。
【0136】
ウレアーゼ活性測定
酵素活性は、ウレアーゼ活性によるアンモニア生成を測定する比色アッセイであるBarthelot法に基づく、Urease Activity Kit(Sigma-Aldrich)を使用して、製造業者の指示に従うことによって測定された。まず、マイクロモーターを100mMの尿素とインキュベートした。次いで、異なる時点で、製造業者の指示に従って酵素反応を停止させた。その後、測定による粒子の干渉を回避するために、試料を3500rpmで3.5分間遠心分離した。各試料からの上清を収集し、670nmで吸光度を測定して、ウレアーゼ活性を決定した。
【0137】
2.2.結果および考察
表面上にアミン基を有する中空シリカマイクロカプセルは、
図5Aに示されるように、以前に報告された共縮合法(Ma,X.et al.,“Motion Control of Urea-Powered Biocompatible Hollow Microcapsules”,ACS Nano,2016,vol.10(3),pp.3597-3605)に従って、シリカ前駆体として3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)およびテトラエチルオルトシリケート(TEOS)を使用して2μmの
(記号1)
市販ポリスチレンマイクロ粒子上でのSiO
2シェルの成長、続いてジメチルホルムアミドによるポリスチレンコアの除去に基づいて合成された。
【0138】
実施例1に記載されるように、リンカーとしてグルタルアルデヒド(GA)を使用して、ウレアーゼをマイクロモーター表面に共有結合でコンジュゲートした。このステップ中、pH応答性DNAナノスイッチのアンカー部分として機能した、アミノ修飾一本鎖DNA(DNAss、20塩基)もコンジュゲートされた(
図5B)。
図5Cは、DNAナノスイッチの開放/閉鎖状態に基づくpH検知戦略の概略図を示し、これはそれぞれ、低または高FRET効率をもたらす。得られる中空マイクロカプセルは、走査および透過電子顕微鏡法(それぞれ、SEMおよびTEM)の両方によって研究された。
図5Dは、非常に単分散のサイズ(2.04±0.06μm、平均±平均の標準誤差)および粗い表面を有するマイクロカプセルを観察することができるSEM顕微鏡写真を示す。マイクロカプセルは、おそらく以前に報告されたようなシリカシェルの成長中の粒子の近接性のために、それらの表面上に穴を示し、これは構造的非対称性を提供する。
図5Eは、TEMによって取得されたトポグラフィー画像を示し、異なる疑似カラーは、高さをμmで示す。
【0139】
機能化プロセスは、各ステップ後にマイクロ粒子のζ電位を測定することによって特徴付けられた(
図5F)。最初に、マイクロカプセルは、アミン基の存在のために正に帯電した表面を示し、これは次いでGAでの修飾のために負帯電にシフトされた。ウレアーゼ添加後、表面電荷は、わずかに低減した。ウレアーゼおよびDNAss(UR+DNAss)の両方での機能化も、GAに関してζ電位の低下をもたらした。
【0140】
最後に、マイクロ粒子をDNAナノスイッチ(すなわち、1μM)を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でインキュベートした。ナノスイッチの酵素/アンカー鎖コンジュゲートモーターとの15分のインキュベーションは、pH応答性ナノスイッチでシリカ粒子を機能化するのに十分であった。注目すべきことに、スイッチは、シリカマイクロカプセルに共有結合でコンジュゲートしたDNAssと相補的な配列の5’末端に20塩基長の隣接テールを示す。コンジュゲーションの結果として、表面電荷のさらなる低下が測定されており、スイッチでのモーターの効果的な機能化を確認する。ここで採用されるpH応答性DNAナノスイッチが、ワトソン-クリックおよび平行フーグスティーン相互作用の両方で安定化された分子内DNAヘアピンを含有する三重鎖形成一本鎖DNAであることも注目に値する。ワトソン-クリック(W-C)相互作用はpHに対して効果的に非感受性であるが、フーグスティーン相互作用は強力でプログラム可能なpH依存性を示す(
図6A)。ナノスイッチをFRETペアで標識することによって、我々は、マイクロモーターの近くの溶液のpHを決定するために使用することができるpH依存性の三重鎖から二重鎖への遷移を監視することができる。より具体的には、シアニン-3フルオロフォア(Cy3)は、ヘアピン二重鎖DNAのループにおいて内部でコンジュゲートされ、シアニン-5フルオロフォア(Cy5)は、三重鎖形成DNA部分の3’末端で結合する。
【0141】
蛍光マイクロキュベット中の緩衝溶液(100μL溶液)のpHを変動させることによって、DNAスイッチの固定濃度(すなわち、50nM)で行われる蛍光アッセイは、pHの関数としてのFRET効率の変化を明確に示す。予想通り、酸性pH値では、分子内三重鎖構造が優先され、高いFRET効率(Cy3およびCy5が近接している)が観察される。溶液のpHを増加させると、三重鎖構造が不安定になり、三重鎖から二重鎖への遷移(アンフォールディング)によるFRETシグナルの段階的な減少が観察される(
図6A)。注意として、ここで使用されるフルオロフォアは、シグナルにおける任意の干渉を回避するために、調査されたpHの範囲(pH5.0~pH9.5)のpHに感受性ではない。このクラスの三重鎖ベースのスイッチは、pH変動のリアルタイム監視を可能にするのに十分な速さで開放/閉鎖動力学を示すことに注意することが重要である(平均時定数約100ms)。
【0142】
マイクロモーターにコンジュゲートした時点のスイッチの機能性を試験するために、63倍油浸対物レンズを備えたLeica-SP5共焦点レーザー走査顕微鏡(CSLM)を通してFRET効率を監視した(
図6B)。このために、マイクロモーターをpH5またはpH9のいずれかでPBS中に懸濁させ、CSLM下でのそれらの分析のために8ウェルガラス底皿に入れた。ドナー(Cy3)の発光は、564nmのダイオードレーザーを使用して記録した。FRET画像は、Cy3フルオロフォアを励起し、アクセプター(Cy5)発光を検出することによって取得した。カスタムメイドのImageJプラグインを使用して、FRET/Cy3比を計算することによってFRET効率の定量化を達成した。
【0143】
これらの結果は、DNAナノスイッチ修飾マイクロモーターが、それらの周囲環境においてpH変化を検出することができることを示した。pH検出の特異性を実証し、蛍光強度におけるpHの任意の効果を破棄するために、マイクロモーターは、pH変化に応答しない、対照スイッチで修飾した。
図6Cおよび6Dは、pH応答性DNAナノスイッチ(
図6C)または非pH応答性DNAナノスイッチ(
図6D)のいずれかで修飾されたマイクロモーターからのFRET/Cy3発光の定量化を示す。具体的には、非pH応答性プローブとして、WC相互作用を通して安定化された同じ分子内DNAヘアピンおよび三重鎖フォールディングを可能にしないスクランブルDNAテールを含有する一本鎖DNAが選択された。予想通り、評価されたすべてのpHで高いFRET効率を示す非pH応答性ナノスイッチを使用する場合、有意差は見られなかった。
【0144】
ウレアーゼおよびDNAナノスイッチで二重機能化された中空マイクロモーターの運動ダイナミクスを、燃料として作用する100mMの尿素の不在下または存在下のいずれかでの光学的記録によって分析した。このために、63倍水浸対物レンズおよび浜松カメラを備えたLeica DMi8倒立蛍光顕微鏡を使用した。条件あたり少なくとも15個のマイクロ粒子が、20秒間に25フレーム/秒(FPS)の割合で記録された。Pythonベースのコードを使用して、マイクロモーターの軌道を追跡し、軌道から、MSDを以下の式に従って計算され、
MSD(Δt)=<(xi(t+Δt)-xi(t))2>(1)
式中、2D分析についてi=2である。尿素基質の添加後、MSDは放物形を示し、これは活性マイクロ粒子の推進レジームに対応する。
【0145】
しかしながら、燃料の不在下では、ブラウン運動のみが観察され、ライナーフィットをもたらし、運動がマイクロモーターの表面での触媒反応から生じることを示す。推進粒子の速度は、以下の式を適用することによって計算される、6.4±0.6μm/s(平均±平均の標準誤差)であることがわかり、
MSD(t)=4Dtt+v2t2 (2)
式中、Dt=拡散係数、v=速度、およびt=時間である。
【0146】
驚くべきことに、この速度は、以前に報告された非対称ヤヌス酵素駆動マイクロカプセル(Ma X.et al.、上記)に匹敵し、非ヤヌスマイクロ粒子(Patino T.et al.、上記)よりもわずかに高い。いかなる理論によっても縛られることなく、この効果は、確率論的に粒子の周りのDNAナノスイッチおよび酵素を共固定化することによって提供される非対称性によって引き起こされ得る。
【0147】
自己推進している間に生成される局所的pH変化を同時に記録するマイクロモーターの能力は、CSLMを使用した光学追跡およびFRETイメージングの両方を組み合わせることによって評価し、25秒ビデオを3FPSで記録した。燃料の不在下、1.8±0.09(平均±平均の標準誤差)の平均FRET/Cy3比が観察された。尿素が溶液に添加されると、FRET/Cy3比はすぐに1.5±0.05まで低下し、マイクロモーター活性によるpH増加を示した。25秒の記録中に、FRET/Cy3比に有意差は観察されなかった。燃料の不在下、マイクロモーターは、ブラウン運動および2に近いFRET/Cy3比のみを示した。対照的に、尿素に曝露されたマイクロモーターの場合、FRET/Cy3比は、分析の瞬間(0秒)ですでに低下しており、尿素基質を添加した直後にウレアーゼベースの酵素反応が起こり、粒子の周りの局所的なpH変化を誘導し、それは瞬時に検出されるため、pHがすでに変化していることを示した。
【0148】
これらの結果は、自己推進のための継続的な化学反応を生成しながら、それらの周りの微小環境を感知する能動的なDNA修飾マイクロモーターの能力を示す。
【0149】
反応の最初の瞬間からのマイクロモーター周辺の瞬間的なpH変化への洞察を得るために、コーティング剤としてAPTESを使用してマイクロモーターをガラス表面に固定化して、正の表面電荷を提供し、負に帯電したマイクロモーターとの静電相互作用を安定させた。マイクロモーターを固定化することは、燃料の追加前および後で同じマイクロモーターを視覚化すること、ならびに目的の領域を除外する前により長い時間(2分および10分)での分析を可能にした。
【0150】
図7Aおよび7Bは、モーターの光学的追跡から得られる、それぞれ、平均MSDおよび速度を示す。MSDおよび速度の継続的な低下をはっきりと観察することができる。興味深いことに、速度は時間の経過とともに低下したが、速度が0に近いことがわかったとき、pHは10分まで上昇し続けた。
【0151】
これらの結果は、速度の低下が酵素活性の低下に直接起因するものではなく、尿素分解時のイオン生成物の生成または酵素反応に理想的ではない高pHなどの他の因子が運動ダイナミクスに影響を及ぼし得ることを示す。
【0152】
DNAスイッチナノテクノロジーの使用は、モーターの微小環境におけるpHの検知を可能にし、ウレアーゼなどのpH変化を誘導する酵素を使用する場合にそれら自体の活性を監視するためにも使用することができる。よって、バイオセンシングツールの酵素駆動モーターへの統合は、センサーとしてのそれらの用途だけでなく、マイクロモーターのそれらの固有の活性も監視して、それらの運動ダイナミクスおよびメカニズムを理解するための新しい洞察を提供する。加えて、DNAおよび酵素の高い汎用性は、幅広い用途のためのマイクロモーター特性の調整を可能にする。
【0153】
2.3.結論
本明細書で提供されるデータは、DNA技術を生体触媒マイクロスイマーと組み合わせて、それらの周囲の環境を検出しながら同時に自己推進することができる能動的でスマートなシステムを生成する可能性を示す。燃料の存在下でのそれらの活性化後のマイクロモーターの表面周辺のpH変化の正確で定量的な分析は、pH感受性DNAナノスイッチおよび共焦点顕微鏡法によるFRETイメージングの使用を通して達成した。マイクロモーターの局所的pH変化および運動ダイナミクスは、30秒、2分、および10分で燃料の存在下で同時に分析された。速度が指数関数的に低減される間、pHは継続的に増加し、酵素活性ではなく他の因子がマイクロモーターの自己推進に影響を及ぼし得ることを示す。
【0154】
これらの結果は、微小環境の変化を監視するだけでなく、活性指標としても、正確かつ定量的な様式でマイクロモーターによる同時検知の関連性を強調する。将来の方向性は、細胞内または局在化組織pH変化、および他の分析物の検出につながるであろう。さらに、この相乗的な技術は、pH変化がセンスアクトプラットフォームによるカーゴの放出を引き起こす多機能性マイクロモーターへの分野を開くであろう。
引用リスト
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【配列表】