(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】塗布部材および含浸材
(51)【国際特許分類】
A61M 35/00 20060101AFI20240806BHJP
A45D 34/04 20060101ALI20240806BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20240806BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240806BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240806BHJP
A61L 15/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
A61M35/00 Z
A45D34/04 535Z
A61K8/02
A61Q19/00
A61K47/32
A61L15/00
(21)【出願番号】P 2021548900
(86)(22)【出願日】2020-09-23
(86)【国際出願番号】 JP2020035657
(87)【国際公開番号】W WO2021060224
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2019177956
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【氏名又は名称】井上 知哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148493
【氏名又は名称】加藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】崎川 伸基
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-546723(JP,A)
【文献】特開2003-128587(JP,A)
【文献】特開昭62-283920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 35/00
A45D 34/04
A61K 8/02
A61Q 19/00
A61K 47/32
A61L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分を
含み、
外部刺激の程度が所定のレベル未満となる状態では
親水性を示し、前記外部刺激の程度が前記レベル以上となる状態では
疎水性を示す刺激応答性高分子と、親水性高分子とを含む刺激応答性高分子ゲル
とを含
み、
前記刺激応答性高分子と、前記親水性高分子とが、相互浸入高分子網目構造またはセミ相互浸入高分子網目構造を形成している含浸材。
【請求項2】
一部の前記刺激応答性高分子ゲルの前記レベルは他の前記刺激応答性高分子ゲルと異なっていることを特徴とする請求項1に記載の含浸材。
【請求項3】
前記一部の前記刺激応答性高分子ゲルは、前記他の前記刺激応答性高分子ゲルと当接して配置される請求項2に記載の含浸材。
【請求項4】
前記一部の前記刺激応答性高分子ゲルは、前記他の前記刺激応答性高分子ゲルと異なる有効成分を含む請求項2に記載の含浸材。
【請求項5】
有効成分を含浸しており、
外部刺激の程度が所定のレベル未満となる状態では前記有効成分を吸収する一方、前記外部刺激の程度が前記レベル以上となる状態では前記有効成分を放出する刺激応答性高分子ゲルを含んでおり、
前記刺激応答性高分子ゲルは、複数が平面状に配置され、かつ相互に接合されており、
前記レベルは、一部の前記刺激応答性高分子ゲルで他の前記刺激応答性高分子ゲルと異なっていることを特徴とす
る含浸材。
【請求項6】
有効成分を含浸しており、
外部刺激の程度が所定のレベル未満となる状態では前記有効成分を吸収する一方、前記外部刺激の程度が前記レベル以上となる状態では前記有効成分を放出する刺激応答性高分子ゲルを含んでおり、
前記刺激応答性高分子ゲルは、粒子状に形成され、かつ複数設けられ、前記有効成分を透過させることが可能な材料に保持されており、
前記レベルは、一部の前記刺激応答性高分子ゲルで他の前記刺激応答性高分子ゲルと異なっていることを特徴とす
る含浸材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、有効成分を含浸しうる塗布部材および有効成分を含浸した含浸材に関する。本願は、2019年9月27日に日本で出願された特願2019-177956号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているように、皮膚に化粧水などの液状成分を与えるために、スポンジなどの含浸材に液状成分を含浸させた製品が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような製品は、液状成分を含浸材から染みださせるために、含浸材を肌に押し付けたり、肌に擦りつけたりしなければならない。このため、敏感な肌に負担を与えるという問題がある。
【0005】
本発明の一態様は、外力を加えることなく、または僅かな外力の補助のみで、有効成分を身体の部位、体温、または熱、光などの刺激に応じて放出させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る塗布部材は、皮膚に付与する有効成分の含浸および放出が可能となるように、外部刺激に応答して親水性と疎水性とに可逆的に変化する刺激応答性高分子を含んでいる。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の他の態様に係る含浸材は、有効成分を含浸しており、外部刺激の程度が所定のレベル未満となる状態では前記有効成分を吸収する一方、前記外部刺激の程度が前記レベル以上となる状態では前記有効成分を放出する刺激応答性高分子ゲルを含んでいる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、外力を加えることなく、または僅かな外力の補助のみで、有効成分を身体の部位、体温、または熱、光などの刺激に応じて放出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態1に係る含浸材の構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態2に係る含浸材の構成を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態3に係る含浸材の構成を示す斜視図である。
【
図4】(a)は実施形態3に係る第1の変形例の含浸材の構成を示す平面図であり、(b)は当該含浸材の構成を示す斜視図である。
【
図5】(a)は実施形態3に係る第2の変形例の含浸材の構成を示す平面図であり、(b)は当該含浸材の構成を示す斜視図である。
【
図6】実施形態3に係る第3の変形例の含浸材の構成を示す斜視図である。
【
図7】実施形態3に係る第4の変形例の含浸材の構成を示す斜視図である。
【
図8】本発明の実施形態4に係る含浸材の構成を示す斜視図である。
【
図9】本発明の実施形態5に係る含浸材の構成を示す斜視図である。
【
図10】本発明の実施形態6に係る塗布部材の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(刺激応答性高分子ゲル)
刺激応答性高分子ゲルは、外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子と、親水性高分子とを含んでいる。刺激応答性高分子と、親水性高分子とは、相互浸入高分子網目(IPN:interpenetrating polymer network)構造またはセミ相互浸入高分子網目(セミIPN)構造あるいはランダム網目構造やブロック構造を形成している。
【0011】
ここで、相互浸入高分子網目構造とは、異なる種類の高分子が、いずれも架橋高分子であり、それぞれの高分子の架橋網目が化学的に結合することなく独立に存在する状態で相互に絡み合った構造をいう。また、セミ相互浸入高分子網目構造とは、異なる種類の高分子の一方が架橋高分子であり、他方が直鎖状高分子であり、それぞれの高分子が化学的に結合することなく、独立に存在する状態で相互に絡み合った構造をいう。
【0012】
前者の場合、刺激応答性高分子と親水性高分子とは、いずれも架橋網目を有する架橋高分子である。この場合、刺激応答性高分子の架橋網目と、親水性高分子の架橋網目とが、化学的に結合することなく相互に絡み合った構造、すなわち、相互浸入高分子網目構造を形成している。
【0013】
後者の場合、刺激応答性高分子および親水性高分子の何れかが、架橋網目を有する架橋高分子である。この場合、他方は直鎖状高分子であり、刺激応答性高分子と、親水性高分子とが、化学的に結合することなく相互に絡み合った構造、すなわち、セミ相互浸入高分子網目構造を形成している。
【0014】
あるいは、刺激応答性高分子ゲルは、刺激応答性高分子および親水性高分子のランダム網目構造やブロック網目構造を持つ共重合体であってもよい。さらに、刺激応答性高分子ゲルは、単一もしくは複数の刺激応答性高分子の共重合体であってもよい。
【0015】
(刺激応答性高分子)
刺激応答性高分子とは、外部刺激に応答して、その性質を可逆的に変化させる高分子をいう。本実施の形態においては、外部刺激に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子を用いる。
【0016】
外部刺激としては、特に限定されるものではないが、例えば、熱、光、電場、pHを挙げることができる。
【0017】
また、外部刺激の程度に応答して水との親和性が可逆的に変化するとは、外部刺激に応答して、その外部刺激に晒された高分子が、親水性と疎水性との間で可逆的に変化することをいう。
【0018】
中でも、熱に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子、すなわち、温度応答性高分子は、温度の変化により、水分の吸収と吸収した水分の放出とを可逆的に行なう。このような温度応答性高分子は、下限臨界溶液温度(LCST:Lower Critical Solution Temperature、以下の説明において「LCST」と称することがある)を有する高分子であれば特に限定されるものではない。
【0019】
(温度応答性高分子)
温度応答性高分子は、温度が所定のレベルである感温点すなわちLCST未満の低温では親水性を示すが、LCST以上になると疎水性を示す。ここで、LCSTとは、高分子を水に溶解したときに、低温では親水性となって水に溶解するが、ある温度以上になると疎水性となって不溶化する場合の、その境となる温度をいう。
【0020】
温度応答性高分子としては、より具体的には、例えば、ポリ(N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-ノルマルプロピル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-メチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-エチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-ノルマルブチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-イソブチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド)等のポリ(N-アルキル(メタ)アクリルアミド);ポリ(N-ビニルイソプロピルアミド)、ポリ(N-ビニルノルマルプロピルアミド)、ポリ(N-ビニルノルマルブチルアミド)、ポリ(N-ビニルイソブチルアミド)、ポリ(N-ビニル-t-ブチルアミド)等のポリ(N-ビニルアルキルアミド);ポリ(N-ビニルピロリドン);ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-イソプロピル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-ノルマルプロピル-2-オキサゾリン)等のポリ(2-アルキル-2-オキサゾリン);ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル等のポリビニルアルキルエーテル;ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドの共重合体;ポリ(オキシエチレンビニルエーテル);メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等、および上記のポリマーの共重合体を挙げることができる。温度応答性高分子は、これらの高分子の架橋体であることがより好ましい。特に、上記のセルロース誘導体等の多糖類の高分子は、刺激が少なく、後述するように、人間の皮膚に接触させる点で好ましい。
【0021】
ここで、本実施形態においては、上述したように、刺激応答性高分子と親水性高分子とは、相互浸入高分子網目構造またはセミ相互浸入高分子網目構造を形成する。以下に、刺激応答性高分子が架橋体である例について説明する。
【0022】
温度応答性高分子の架橋体としては、例えば、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ノルマルプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-ノルマルブチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N-ビニルイソプロピルアミド、N-ビニルノルマルプロピルアミド、N-ビニルノルマルブチルアミド、N-ビニルイソブチルアミド、N-ビニル-t-ブチルアミド等のN-ビニルアルキルアミド;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルアルキルエーテル;エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド;2-エチル-2-オキサゾリン、2-イソプロピル-2-オキサゾリン、2-ノルマルプロピル-2-オキサゾリン等の2-アルキル-2-オキサゾリン等のモノマーまたはこれらのモノマーの2種類以上を、架橋剤の存在下で重合して得られる高分子を挙げることができる。
【0023】
上記の架橋剤としては、従来公知のものを適宜選択して用いればよい。このような架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリレンジイソシアネート、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の重合性官能基を有する架橋性モノマー;グルタールアルデヒド;多価アルコール;多価アミン;多価カルボン酸;カルシウムイオン、亜鉛イオン等の金属イオン、塩化カルシウム等を好適に用いることができる。これらの架橋剤は単独で用いてもよく、また2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
また、温度応答性高分子の架橋体としては、架橋されていない温度応答性高分子、例えば上述した温度応答性高分子を、上記の架橋剤と反応させて網目構造を形成させることによって得られた架橋体であってもよい。
【0025】
また、光に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子としては、アゾベンゼン誘導体、スピロピラン誘導体等の、光により親水性または極性が変化する光応答性高分子、それらと温度応答性高分子およびpH応答性高分子の少なくともいずれかとの共重合体、前記光応答性高分子の架橋体、または、前記共重合体の架橋体を挙げることができる。
【0026】
また、電場に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基等の解離基を有する高分子、カルボキシル基含有高分子とアミノ基含有高分子との複合体のような静電相互作用や水素結合などによって複合体を形成した高分子、または、これらの架橋体を挙げることができる。
【0027】
また、pHに応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基等の解離基を有する高分子、カルボキシル基含有高分子とアミノ基含有高分子との複合体のような静電相互作用や水素結合などによって複合体を形成した高分子、または、これらの架橋体を挙げることができる。
【0028】
前記刺激応答性高分子の分子量は、特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により決定された数平均分子量が3000以上であることが好ましい。
【0029】
(親水性高分子)
本実施形態において、親水性高分子は、当該親水性高分子とともに、相互浸入高分子網目構造またはセミ相互浸入高分子網目構造を形成している刺激応答性高分子以外の親水性の高分子であれば特に限定されるものではない。
【0030】
当該親水性高分子としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基等の親水性基を側鎖または主鎖に有する高分子を挙げることができる。親水性高分子のより具体的な一例としては、例えば、アルギン酸、ヒアルロン酸等の多糖類;キトサン;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルベンゼンスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、これらと(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等との共重合体、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドとポリビニルアルコールとの複合体、ポリビニルアルコールとポリ(メタ)アクリル酸との複合体、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリアリルアミン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ-N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ-アルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリロニトリルおよび上記ポリマーの共重合体等を挙げることができる。また、親水性高分子は、これらの架橋体であることがより好ましい。
【0031】
ここで、本実施形態では、上述したように、刺激応答性高分子と親水性高分子とは、相互浸入高分子網目構造またはセミ相互浸入高分子網目構造を形成する。以下に、親水性高分子が架橋体である例について説明する。
【0032】
親水性高分子の架橋体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、アリルアミン、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、マレイン酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、アクリルアミドアルキルスルホン酸、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等のモノマーを、架橋剤の存在下で重合して得られる高分子を挙げることができる。
【0033】
上記の架橋剤としては、従来公知のものを適宜選択して用いればよいが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリレンジイソシアネート、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の重合性官能基を有する架橋性モノマー;グルタールアルデヒド;多価アルコール;多価アミン;多価カルボン酸;カルシウムイオン、亜鉛イオン等の金属イオン、塩化カルシウム等を好適に用いることができる。これらの架橋剤は単独で用いてもよく、また2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
また、親水性高分子の架橋体としては、架橋されていない前記親水性高分子、例えば、前記モノマーを重合して得られた高分子、または、アルギン酸、ヒアルロン酸等の多糖類;キトサン;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体を、上記の架橋剤と反応させて網目構造を形成させることによって得られた架橋体であってもよい。
【0035】
親水性高分子の分子量は、特に限定されないが、GPCにより決定された数平均分子量が3000以上であることが好ましい。
【0036】
(含浸材)
上記の温度応答性高分子および親水性高分子によって形成される温度応答性高分子ゲルによって含浸材を構成し、当該含浸材に、美容液、薬液等の、有効成分を含む溶液を含浸させる。当該温度応答性高分子ゲルは、温度がLCST未満では上記溶液を吸収する一方、温度がLCST以上では上記溶液を放出する。
【0037】
有効成分は、美容的に有効な美容成分、医療的に有効な薬効成分等の成分である。美容成分としては、保湿成分、紫外線防止成分、美白成分、抗酸化性成分、皮脂コントロール成分、消臭成分等が挙げられる。また、薬効成分としては、抗炎症成分、鎮痛成分、血行促進成分、殺菌成分、ビタミン剤、ステロイド剤、抗生物質等が挙げられる。
【0038】
含浸材に当該溶液を含浸させるには、溶液中に含浸材を浸漬させる。また、それに限らず、溶液の含浸量を調整しやすい観点から、含浸材に溶液を噴霧してもよい。また、含浸材を調製するときに溶液を混合しておいてもよい。この場合、含浸材は乾燥体となるが、後述するように、気中で水分を吸収し湿潤状態となり、溶液を含浸させた場合と同様な態様を示す。
【0039】
あるいは、含浸材は、乾燥体ではなく、以下の第1ないし第3の膨潤なゲル状態であっても溶液を含浸させた場合と同様な態様を示す。第1のゲル状態は、含浸材の材料と溶液との混合液から調製したゲルを乾燥させて吸湿させることによって得られる。第2のゲル状態は、調製したゲルが乾燥しない湿潤なゲル状態を保持することによって得られる。第3のゲル状態は、有効成分を混合せずに刺激応答性ゲルつまり含浸材の調製後に乾燥体と成し、それに美容・医用有効成分を含浸させた状態である。
【0040】
以上のようにして有効成分を含浸した含浸材に熱を加えるだけで、水分を吸収した含浸材は疎水性となり、ゲルの調製前または調製後に含浸した有効成分を放出する。例えば、刺激応答性高分子ゲルとして、人間の体温の37℃よりやや低いLCSTを有する温度応答性高分子ゲルを含浸材として用いる。これにより、含浸材は、人間の皮膚に触れることにより、温度がLCST以上になると、溶液を放出して皮膚に与えることができる。したがって、有効成分を皮膚に与えるために、含浸材を皮膚に押し付けたり擦りつけたりする必要がなくなる。
【0041】
なお、含浸材として用いる刺激応答性高分子ゲルは、温度応答性高分子ゲルに限らず、光、電場、pH等の刺激に応答する刺激応答性高分子ゲルであってもよい。例えば、光応答性高分子ゲルを含浸材として用いると、含浸材は、所定の強度(レベル)未満の強度の光しか照射されない状態(通常の室内照明の強度程度)では、有効成分を保持した膨潤状態となり、所定の強度以上の光が照射された状態では、溶液を放出する。また、光応答性高分子ゲルは、光の波長に応じて親水性と疎水性とを可逆的に変化させてもよい。
【0042】
光応答性高分子ゲルは、そのものが光に応答するが、内部に光熱変換物質(カーボンブラックや導電性ポリマーのような光熱変換子)を含んでいてもよい。導電性ポリマーは、光を受けると発熱する。このような光応答性高分子ゲルは、光熱変換物質によって光を熱に変換した上で、その熱に感温性高分子ゲルを応答させるという手段をとる。
【0043】
以下、本発明に係る含浸材の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0044】
(含浸材の製造方法)
上述した含浸材は、例えば下記の第1の製造方法ないし第5の製造方法によって製造される。
【0045】
第1の製造方法では、まず、以下の(1)~(4)のいずれかの方法により、高分子ゲルを調製する(調製工程)。下記の(1)~(4)の方法においては、刺激応答性高分子および親水性高分子の少なくともいずれか一方を架橋することにより、刺激応答性高分子ゲルを調製する。
【0046】
(1)前記の刺激応答性を有する高分子材料と強い吸湿・吸水性を有する親水性高分子とをそれぞれ架橋する相互侵入高分子網目(IPN)構造とする。
【0047】
この方法では、刺激応答性高分子を構成するモノマーを重合および架橋することにより、刺激応答性高分子の架橋体の架橋網目を形成し(第1工程)、当該架橋網目の存在下で、親水性高分子を構成するモノマーを重合および架橋する(第2工程)。
【0048】
(2)刺激応答性高分子および親水性高分子のいずれかのみを架橋するセミIPN構造とする。
【0049】
この方法では、刺激応答性高分子を構成するモノマーを重合および架橋することにより、刺激応答性高分子の架橋体の架橋網目を形成し(第1工程)、当該架橋網目の存在下で、親水性高分子を構成するモノマーを重合することにより、上記架橋網目と、直鎖状の親水性高分子とからなるセミ相互浸入高分子網目構造を形成する(第2工程)。あるいは、上記の方法では、刺激応答性高分子を構成するモノマーを重合することにより、直鎖状の刺激応答性高分子を製造し(第1工程)、当該直鎖状の刺激応答性高分子の存在下で、親水性高分子を構成するモノマーを重合および架橋することにより、直鎖状の刺激応答性高分子と、親水性高分子の架橋体の架橋網目とからなるセミ相互浸入高分子網目構造を形成する(第2工程)。
【0050】
(3)刺激応答性高分子のみを架橋する。
【0051】
(4)刺激応答性高分子および親水性高分子の両方を共に架橋する(共重合)。
【0052】
(1)~(4)の方法において、モノマーを重合するための重合方法としては、特に限定されるものではなく、ラジカル重合、イオン重合、重縮合、開環重合等を好適に用いることができる。また、重合に用いられる溶媒としても、モノマーに応じて適宜選択すればよいが、例えば、水、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、酢酸緩衝液、メタノール、エタノール等を好適に用いることができる。
【0053】
重合開始剤としても、特に限定されるものではなく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;t-ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のパーオキシド類、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等を好適に使用することができる。これらの重合開始剤の中でも、特に、過硫酸塩やパーオキシド類等のような酸化性を示す開始剤は、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン等とのレドックス開始剤としても用いることができる。あるいは、光、放射線等を開始剤として用いてもよい。
【0054】
また、重合温度は、特に限定されるものではないが、通常、5℃~80℃である。また、重合時間も、特に限定されるものではないが、通常、4時間~48時間である。
【0055】
重合の際の、モノマー、架橋剤等の濃度は、前記刺激応答性高分子、前記親水性高分子またはこれらの架橋体が得られる濃度であれば特に限定されるものではない。また、前記重合開始剤の濃度も特に限定されるものではなく適宜選択すればよい。
【0056】
上記の(1)および(2)の方法において、モノマーを重合および架橋することにより、刺激応答性高分子または親水性高分子の架橋体の架橋網目を形成する方法とは、モノマーを架橋剤の存在下で重合する方法であってもよいし、モノマーを重合して高分子とした後に架橋剤により架橋する方法であってもよい。
【0057】
上記の(1)および(2)の方法において、第1工程では、第2工程で形成された高分子またはその架橋体との間に、架橋が形成されないような重合条件または架橋条件を適宜選択すればよい。
【0058】
前記(1)および(2)の方法における、刺激応答性高分子を構成するモノマー、親水性高分子を構成するモノマー、および架橋剤については、前述した「温度応答性高分子の架橋体」および「親水性高分子の架橋体」の説明において言及した通りである。
【0059】
また、(1)および(2)の方法においては、刺激応答性高分子またはその架橋体を製造し(第1工程)、その後に、得られた刺激応答性高分子またはその架橋体の存在下で、親水性高分子またはその架橋体を製造している(第2工程)。(1)および(2)の方法においては、これに限らず、親水性高分子またはその架橋体を製造した後に、得られた親水性高分子またはその架橋体の存在下で、刺激応答性高分子またはその架橋体を製造してもよい。
【0060】
上記のようにして調製した高分子ゲルを乾燥させることにより、乾燥体を作成し(乾燥工程)、その乾燥体に有効成分を含有する溶液を吸収させる(吸収工程)。
【0061】
調製工程においては、含浸材の成分となる複数または単数の刺激応答性高分子材料と、複数または単数の親水性高分子とを混合した後、それぞれを架橋してゲル化したり、一方を架橋ゲル化した後に他方の水溶液中に浸漬して水溶液を含浸させた状態で架橋したり、他方のみを架橋したりする。乾燥工程においては、ゲル化によって得られたIPN構造またはセミIPN構造の刺激応答性高分子ゲルを凍結乾燥や熱乾燥で乾燥体を作成する。
【0062】
吸収工程においては、乾燥体となった刺激応答性高分子ゲルから成る乾燥ゲルを外部刺激のない状態に置き、含浸させる溶液に浸すか、あるいは含浸させる溶液を噴霧して、乾燥ゲルに有効成分を含む溶液を含浸させる。温度応答性高分子ゲルの場合、使用時に外部刺激として熱を与えるために、LCST以下の温度条件の下で、有効成分を含む水溶液を浸漬または噴霧によって含浸させる。
【0063】
第2の製造方法では、まず、IPN構造、セミIPN構造または共重合構造を有する刺激応答性高分子ゲルの架橋前の成分である刺激応答性高分子および親水性高分子と、含浸させたい有効成分とを混合することにより混合物を作成する(混合工程)。ここで混合する有効成分としては、後述する実施形態6にて説明するように、水溶性であってもよいし、非水溶性あるいは疎水性であってもよい。
【0064】
次いで、当該混合物に架橋成分(架橋剤、架橋促進剤等)を加えるか、あるいは当該混合物を架橋剤に浸漬することで混合物をゲル化して、有効成分を含浸する刺激応答性高分子ゲルを作成する(ゲル化工程)。このとき、架橋によってゲル構造にするのは、含浸材の構成材であり、含浸させたい有効成分は架橋しない。
【0065】
混合工程においては、含浸材の成分である複数の刺激応答性高分子材料や親水性高分子材料を混合している途中で有効成分を混入させる。そして、その混合物を架橋して有効成分を高分子網目構造に内包した状態でゲル化する。
【0066】
第2の製造方法によって作製されたゲルでは、架橋によって得られた、有効成分を内包する刺激応答性高分子ゲルをそのまま(湿潤状態を保ったまま)使用してもよいが、刺激応答性高分子ゲルをさらに乾燥させてもよい(乾燥工程)。第2の製造方法では、乾燥体となっていても湿潤状態であっても、ゲルは有効成分を内包しており、湿潤ゲルの状態であれば、そのまま刺激により水と共に有効成分が放出される。また、乾燥体を使う場合でも、一旦水に浸漬させたり、水を適量噴霧したり、さらには高湿低温(感温温度以下)の環境下に置いたりすることで吸水または吸湿して水溶性の有効成分を含浸した状態になる。
【0067】
第3の製造方法では、まず、上述した調製工程の(3)の方法において、親水性高分子を用いなくてもよい。また、この方法において、刺激応答性高分子を架橋する以外に、刺激応答性高分子を混合してもよい。
【0068】
次いで、このように調製した高分子ゲルと含浸させたい有効成分とを混合することにより混合物を作成する(混合工程)。
【0069】
そして、当該混合物に架橋成分(架橋剤、架橋促進剤等)を加えるか、あるいは当該混合物を架橋剤に浸漬することで混合物をゲル化して、有効成分を含浸する刺激応答性高分子ゲルを作成する(ゲル化工程)。このとき、架橋によってゲル構造にするのは、含浸材の構成材であり、含浸させたい有効成分は架橋しない。
【0070】
第4の製造方法では、まず、刺激応答性高分子と含浸させたい有効成分とを混合することにより混合物を作成する(混合工程)。次いで、当該混合物に架橋成分(架橋剤、架橋促進剤等)を加えるか、あるいは当該混合物を架橋剤に浸漬することで混合物をゲル化して、有効成分を含浸する刺激応答性高分子ゲルを作成する(ゲル化工程)。このときも、第3の製造方法におけるゲル化工程と同じく、架橋によってゲル構造にするのは、含浸材の構成材であり、有効成分は架橋しない。
【0071】
なお、第3および第4の製造方法においては、ゲル化工程の後、刺激応答性高分子を乾燥してもよい(乾燥工程)。
【0072】
第5の製造方法では、まず、第3の製造方法と同じく、刺激応答性高分子を架橋または混合することにより、刺激応答性高分子ゲルを調製する(調製工程)。次いで、このように調製した高分子ゲルを乾燥させることにより乾燥体を作成する(乾燥工程)。そして、その乾燥体に有効成分を含有する溶液を吸収させる(吸収工程)。
【0073】
〔実施形態1〕
本発明の実施形態1について、
図1に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0074】
図1は、本実施形態に係る含浸材1の構成を示す斜視図である。
【0075】
図1に示すように、含浸材1は、方形をなす板状に形成されている。含浸材1は、上述した温度応答性高分子ゲルである温度応答性高分子ゲル11を含んでいる。温度応答性高分子ゲル11は、そのもので含浸材1を構成してもよいが、基材(金属、プラスチック、木材、紙等)上に形成されることにより含浸材1を構成してもよい。
【0076】
温度応答性高分子ゲル11は、人間の体温(皮膚の温度)よりやや低い温度のLCSTを有するような材料や組成で形成されている。
【0077】
このように、LCSTが人間の体温よりやや低い温度応答性高分子ゲル11は、環境温度がLCST未満であるときに、親水性を示して、美容液、薬液等の、有効成分を含む溶液を保持する。また、当該温度応答性高分子ゲル11は、人間の皮膚に当てられることで温められて、その温度がLCSTを超えると、疎水性を示して、溶液(有効成分)を放出する。
【0078】
これにより、含浸材1は、皮膚に押し付けられたり擦り付けられたりすることなく、有効成分を皮膚に与えることができる。
【0079】
また、美容用途や医療用途において、含浸材1に含浸される溶液がなくなったときには再び、LCST未満の温度環境下で含浸材1に溶液を再び含浸させることにより、1回の施術で含浸材1を複数回使用することができる。また、溶液の再含浸時に、異なる有効成分を含浸材1に含浸させることにより、各回で異なる有効成分を与えることもできる。
【0080】
なお、含浸材1は、ユーザが手に持って使用するので、手で触れられた部分の温度がLCST以上になると、その部分から溶液を放出してしまう。このような不都合を抑制するために、含浸材1は、皮膚に当たる部分のみを露出し、かつ、その部分の周囲の部分に手の温度が伝わらないように、容器などによってカバーされていることが好ましい。このような構成は、後述する実施形態2~5についても同様に採用されてもよい。
【0081】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2について、
図2に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0082】
図2は、本実施形態に係る含浸材2の構成を示す斜視図である。
【0083】
上述した実施形態1の含浸材1は、環境温度の低い状態では、皮膚に触れるなどしてLCST以上の温度に温められない限り、親水性を維持して溶液を保持できる。しかしながら、含浸材1は、環境温度がLCST以上となる状態では、皮膚に触れていないにも関わらず溶液を放出するという不都合がある。
【0084】
本実施形態では、そのような不都合を抑制できる構成について説明する。
【0085】
図2に示すように、含浸材2は、方形をなす板状に形成されている。含浸材2は、上述したLCSTを有する温度応答性高分子ゲルである温度応答性高分子ゲル21と、温度応答性高分子ゲル22(補助刺激応答性高分子ゲル)とを含んでいる。温度応答性高分子ゲル21,22は積層されている。
【0086】
温度応答性高分子ゲル22は、温度応答性高分子ゲル21と同じく、熱に応答して水との親和性が可逆的に変化する刺激応答性高分子ゲルであり、温度の変化により、水分の吸収と吸収した水分の放出とを可逆的に行なう。ただし、温度応答性高分子ゲル22は、上限臨界溶液温度(UCST:Upper Critical Solution Temperature、以下の説明において「UCST」と称することがある)を有する高分子ゲルである点で、温度応答性高分子ゲル21と異なる。
【0087】
温度応答性高分子ゲル22は、温度が所定のレベルであるUCST(相変化レベル)未満の低温では疎水性を示すが、UCST以上になると親水性を示す。ここで、UCSTとは、高分子を水に溶解したときに、低温では疎水性で水に溶解するが、ある温度以上になると親水性となって不溶化する場合の、その境となる温度をいう。
【0088】
また、温度応答性高分子ゲル22を構成する温度応答性高分子としては、双極性高分子であるベタインポリマーがある。ベタインポリマーは、同一側鎖に正電荷を持つアミノ基と、負電荷を持つスルホン酸基の両方のイオン基とを持つ。ベタインポリマーの代表的なものとしてスルフォベタイン、カルボベタイン、ホスホベタインの各ポリマーがある。スルフォベタインポリマーは、メタクリル酸の4級エステルまたはアミド、4級化ポリピロリジニウム化合物、アイオネン、ポリビニルピロリジニウム、ポリビニルイミダゾリウム化合物などがある。
【0089】
このスルフォベタインをメチレンビスアクリルアミドなどで架橋して調製すると、UCSTを示すゲルが得られる。当該ゲルの一例としては、DMAAPS(N,N-dimethyl acrylamide propyl ammonium propanesulfonate)がある。さらに、当該ゲルの例としては、双性イオンポリマー、メタクリル酸のアミドまたはエステル、4級化ピロリジニウム化合物などがある。双性イオンポリマーは、カルボベタインポリマーにも同一側鎖上に負電荷を持つカルボキシル基と、正電荷を持つアミノ基とを持ち、その構造から、複素環式または芳香族ビニル化合物からなる。メタクリル酸のアミドまたはエステルは、4級化窒素が鎖長の異なるアルコキシ基で置換されている。4級化ピロリジニウム化合物は、直鎖または分岐アルキルカルボキシル基を含む。
【0090】
カルボベタインポリマーの一例としては、エチル‐3‐プロピルアミノクロトネートアクリル酸(Ethyl‐3-propylaminocrotonate acrylic acid:CROPRO-AA)がある。ホスホベタインポリマーの一例としては、o‐[[2-(メタクリロイルオキシ)エチルオキシ]ホスホニル]コリン(2-Methacryloyloxyethyl phosphoryl choline)所謂MPCがある。当該MPCは、活性アニオン基としてリン酸基、活性カチオン基として4級化アンモニウム基を含む。
【0091】
ホスホベタインポリマーの例としては、その他に、両性高分子電解質なども挙げられる。当該両性高分子電解質は、負電荷を持つ親水的な成分のスチレンスルホン酸ナトリウム(sodium styrene sulfonate:SSS)と正電荷を持つ疎水的な成分の塩化ビニルベンジルトリメチルアミン(vinylbenzyl trimethylammonium chloride:VBTA)との共重合によって形成される。さらに、ホスホベタインポリマーの例としては、水素結合性のモノマーと疎水性のモノマーとの共重合体がある。このような共重合体には、ポリN-アクリロイルグリシンアミドやポリN-アクリロイルアスパラギンアミド、ポリアクリルアミド‐co‐アクリロニトリルやポリ(N-ビニルイミダゾール‐co‐1‐ビニル‐2‐ヒドロキシメチルイミダゾール)などがある。
【0092】
その他の温度応答性高分子としては、核酸塩基のウラシルを側鎖に持つ高分子、ポリエチレンオキシドとポリL乳酸とのトリブロック共重合体、ウレイド基含有モノマーと架橋剤モノマーを共重合することで合成できるゲル、スチレン-メタクリル酸共重合体、オルトクロロスチレン-パラクロロスチレン共重合体、塩素化ポリエチレン等、さらにこれらの誘導体が挙げられる。ウレイド高分子は、一級アミンを有する高分子に対してシアン酸カリウムを添加することで得られ、ポリ(アリルアミン‐co‐アリルウレア)(PAU)はポリアリルアミンの一級アミノ基をシアン酸カリウムによりウレイド化することで調製できる。PAAmとPAAcとのIPNゲルのように、これらのUCST型ポリマーと、アクリル酸、アルギン酸などの親水性ポリマーとのIPNまたはセミIPNあるいは共重合によって、適切な条件の下に低温下で水を放出し、高温下で膨潤して水を吸収するUCST型ゲルを調製できる。UCST型ゲルは、ここで言及した以外にも、多種存在するとともに、様々な物質の組み合わせによって調製することができる。
【0093】
続いて、温度応答性高分子ゲル21のLCSTの設定と、温度応答性高分子ゲル22のUCSTの設定との組み合わせの例について説明する。この例では、体温37℃、LCST33℃、UCST38℃の場合とする。
【0094】
環境温度が27℃である場合、温度応答性高分子ゲル21が親水性を示す一方、温度応答性高分子ゲル22が疎水性を示す。このとき、温度応答性高分子ゲル21は溶液を保持している膨潤状態となり、温度応答性高分子ゲル22は溶液を吸収しない収縮状態となる。
【0095】
含浸材2が人間の皮膚に触れた状態では、温度応答性高分子ゲル21が、LCSTを超える温度まで温められて疎水性を示すので、溶液を放出する。一方、温度応答性高分子ゲル22は、UCST未満の温度までしか温められずに疎水性を維持しているので、温度応答性高分子ゲル21から放出された溶液を吸収しない。これにより、含浸材2から溶液が染み出して皮膚に与えられる。
【0096】
体温を超えるような環境温度(例えば41℃)の下に含浸材2が放置されるような場合、温度応答性高分子ゲル21がLCSTを超える温度にまで温められて疎水性を示す一方、温度応答性高分子ゲル22がUCSTを超える温度にまで温められて親水性を示す。このとき、温度応答性高分子ゲル21は、溶液を吸収しない収縮状態となって溶液を放出する。一方、温度応答性高分子ゲル22は、膨潤状態となって、温度応答性高分子ゲル21から放出された溶液を吸収する。
【0097】
この温度環境において、含浸材2が人間の皮膚に触れた状態では、温度応答性高分子ゲル21の温度が皮膚の温度にまで低下するが、LCSTを超えたままであるので、温度応答性高分子ゲル21は収縮状態を維持する。一方、温度応答性高分子ゲル22の温度は、UCST未満にまで低下するので、温度応答性高分子ゲル22は、親水性から疎水性に転じて収縮状態に変化して、保持している溶液を放出する。これにより、含浸材2から溶液が染み出して皮膚に与えられる。このとき、主に溶液を含浸しているのが温度応答性高分子ゲル22であるので、表面の温度応答性高分子ゲル21に対する裏面の温度応答性高分子ゲル22の面が皮膚に触れることで、より効果的に皮膚への溶液供給がなされる。
【0098】
また、含浸材2が冷所に移されるなどして、含浸材2が置かれる環境温度が上記のような高温からLCST未満となる温度まで低下すると、温度応答性高分子ゲル21が親水性を示す一方、温度応答性高分子ゲル22が疎水性を示す。このとき、温度応答性高分子ゲル22は、収縮状態となって保持していた溶液を放出する一方、温度応答性高分子ゲル21は、親水性となって、温度応答性高分子ゲル22から放出された溶液を吸収する。この冷所保存した含浸材2が皮膚に触れると、温度応答性高分子ゲル21は、皮膚温度により疎水性に転移するので、含浸していた溶液を滲みださせ、皮膚に供給する。
【0099】
このように、本実施形態の含浸材2は、異なる温度のLCSTとUCSTとをそれぞれ有する温度応答性高分子ゲル21,22とが積層されている。
【0100】
これにより、刺激としての温度がLCST以上になったときに、温度応答性高分子ゲル21から放出された溶液を温度応答性高分子ゲル22に吸収させることができる。また、温度がUCST未満になったときに、温度応答性高分子ゲル22から放出された溶液を温度応答性高分子ゲル21に吸収させることもできる。したがって、含浸材2が皮膚に触れていないにも関わらず、温度応答性高分子ゲル21が環境温度によって溶液を放出しても回収できないという無駄を少なくすることができる。
【0101】
〔実施形態3〕
本発明の実施形態3について、
図3~
図7に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0102】
図3は、本実施形態に係る含浸材3の構成を示す斜視図である。
【0103】
上述した実施形態2の含浸材2は、温度応答性高分子ゲル21,22の間では、溶液を放出および吸収する方向が決まっており、積層面でのみ溶液の授受が行なわれる。このため、特に環境温度が高温になった場合に温度応答性高分子ゲル21から温度応答性高分子ゲル22への溶液の移動効率が良くない。したがって、環境温度の変化が繰り返されると、皮膚に供給できる溶液の量が低下するという不都合が生じる。
【0104】
本実施形態では、そのような不都合が生じることを抑えることができる構成について説明する。
【0105】
図3に示すように、含浸材3は、方形をなすシート状に形成されている。含浸材3は、上述した温度応答性高分子ゲルである複数の温度応答性高分子ゲル31と、複数の温度応答性高分子ゲル32(補助刺激応答性高分子ゲル)とを含んでいる。温度応答性高分子ゲル31,32は、平面状に配置され、かつ相互に側面で接合されることにより、平板を形成している。また、温度応答性高分子ゲル31,32は、同形の板状に形成されており、市松模様(チェッカー柄)を形成するように、行方向および列方向に交互に現れるように配置されている。
【0106】
温度応答性高分子ゲル31は、実施形態2における温度応答性高分子ゲル21と同じく、LCSTを有する温度応答性高分子ゲルである。温度応答性高分子ゲル32は、実施形態2における温度応答性高分子ゲル22と同じく、UCSTを有する刺激応答性高分子ゲルである。
【0107】
このように構成される含浸材3は、実施形態2の含浸材2と同様、LCST以上の温度になったときに、温度応答性高分子ゲル31から放出された溶液を温度応答性高分子ゲル31,32の接合面を介して温度応答性高分子ゲル32に吸収させることができる。また、含浸材3は、UCST未満の温度になったときに、温度応答性高分子ゲル32から放出された溶液を上記の接合面を介して温度応答性高分子ゲル31に吸収させることもできる。したがって、含浸材3が皮膚に触れていないにも関わらず、温度応答性高分子ゲル31が環境温度によって溶液を放出しても回収できないという無駄の発生を抑えることができる。
【0108】
また、含浸材3において、温度応答性高分子ゲル31は、側面で4つの温度応答性高分子ゲル32の側面と接し、温度応答性高分子ゲル32は、側面で4つの温度応答性高分子ゲル31の側面と接している。温度応答性高分子ゲル31,32は、側面において自由に溶液の移動が可能である。
【0109】
それゆえ、温度応答性高分子ゲル31,32の個々を、含浸材2の温度応答性高分子ゲル21,22と比べて十分小さく形成する。これにより、温度応答性高分子ゲル31,32の側面での接触面積を、温度応答性高分子ゲル21,22の接触面積より大きくすることができる。したがって、温度応答性高分子ゲル31,32の間で効率的に溶液を授受することができる。
【0110】
水分および有効成分を含む水分のゲル間の移動、例えば温度応答性高分子ゲル31から温度応答性高分子ゲル32への移動の量や、温度応答性高分子ゲル32から温度応答性高分子ゲル31への移動の量を調製することもできる。この場合、温度などの刺激のほかに、ゲル界面の形状も作用する。
【0111】
水分の移動量を増やすには、温度応答性高分子ゲル31,32が接合する接合面を、温度応答性高分子ゲル31,32の接合により形成される面に垂直な接合面よりも広くする。その方法としては、温度応答性高分子ゲル31,32の底面に対して接合面を垂直にするのではなく、接合面を底面に対して傾斜させたり、接合面を凹凸による複雑な形状に形成したりすることが挙げられる。
【0112】
接合面の傾斜は、それぞれの側面が傾斜するように温度応答性高分子ゲル31,32を形成したり、温度応答性高分子ゲル31,32の側面を斜めにカットしたりすることで行われる。また、接合面を凹凸形状に形成するには、凹凸有する型内でゲルを形成することなどによって行われる。このように接合面の面積を広くすることで、異種のゲル間での水分の移動量を増加させる。
【0113】
逆に、水分の移動量を減らすには、接合面を底面に対して垂直にするほかに、接合面に別のゲル、例えば、刺激応答性のないゲル、または刺激応答性はあるが有効成分を含まないゲルを一部でも挟むことで移動を抑制できる。いわばシャッターとして機能するように水分の移動に対する遮蔽性を有する温度応答性高分子ゲルを例えば温度応答性高分子ゲル31,32の間に挟んだ場合、その温度応答性高分子ゲルを遮蔽性高分子ゲルと称する。遮蔽性高分子ゲルの感温点を温度応答性高分子ゲル31の感温点以下にすると、疎水性への変化が先に生じ、温度応答性高分子ゲル31から温度応答性高分子ゲル32への水分の移動を阻むことになる。このようなシャッターとして機能するゲルのサイズにより移動量を制御することができる。
【0114】
遮蔽性高分子ゲルを作製するには、温度応答性高分子ゲル31,32の接合面に、刺激応答性を有さない高分子ゲルを挿入して架橋するか、または同じ温度刺激で相変化するゲルを接合面に挿入して架橋する。
【0115】
なお、本実施形態では、LCSTを有する複数の温度応答性高分子ゲル31とUCSTを有する複数の温度応答性高分子ゲル32とが混在して配置される構成について説明した。これに限らず、含浸材3は、複数の温度応答性高分子ゲル31のみを含んでいてもよい。
【0116】
また、複数の温度応答性高分子ゲル31のLCSTは、全て同じではなく、一部の温度応答性高分子ゲル31で他の温度応答性高分子ゲル31と異なっていてもよい。これにより、温度(刺激のレベル)を変化させることで、LCSTの異なる温度応答性高分子ゲル31から異なるタイミングで有効成分を放出させることができる。したがって、有効成分を放出させる期間を広げることができる。加えて、温度応答性高分子ゲル31は、LCSTに応じて異なる有効成分を含む溶液を含浸していてもよい。これにより、異なるタイミングで異なる有効成分を放出することができる。
【0117】
上記のような場合、上述したように、LCSTの異なる複数の温度応答性高分子ゲル31の接合面の形状によって制御することで、互いの成分の混合を防ぐことができる。その他、遮蔽性高分子ゲルを活用して、あえて適量混合させて直前まで別々の成分であったものを、皮膚などの対象物へ与える際に混合させることもできる。
【0118】
また、本実施形態では、水分の移動量を増やすために、温度応答性高分子ゲル31,32が接合する接合面を、温度応答性高分子ゲル31,32の接合により形成される面に垂直な接合面よりも広くすることを説明した。これ以外に、温度応答性高分子ゲル31と同等の隣接する温度応答性高分子ゲル同士の接合面を、当該温度応答性高分子ゲルの接合により形成される面に垂直な接合面よりも広くしてもよい。これにより、これらの温度応答性高分子ゲルの間での水分の移動量を増やすことができる。
【0119】
続いて、本実施形態の変形例について説明する。
【0120】
図4の(a)は、第1の変形例に係る含浸材3Aの構成を示す平面図であり、
図4の(b)は含浸材3Aの構成を示す斜視図である。
図5の(a)は、第2の変形例に係る含浸材3Bの構成を示す平面図であり、
図5の(b)は、含浸材3Bの構成を示す斜視図である。
図6は、第3の変形例に係る含浸材3Cの構成を示す斜視図である。
図7は、第4の変形例に係る含浸材3Dの構成を示す斜視図である。
【0121】
まず、第1の変形例について説明する。
図4の(a)および(b)に示すように、第1の変形例に係る含浸材3Aは、方形をなすシート状に形成されており、複数の温度応答性高分子ゲル31と、温度応答性高分子ゲル32とを含んでいる。
【0122】
温度応答性高分子ゲル32は、含浸材3Aの全体の外形をなす方形に形成されている。温度応答性高分子ゲル31は、温度応答性高分子ゲル32の表面に露出するように、温度応答性高分子ゲル32の表面から温度応答性高分子ゲル32の厚さ方向の中間位置の範囲の厚さに複数形成されている。また、温度応答性高分子ゲル31は、それぞれ、交互に所定の間隔をおいて配列されるとともに、温度応答性高分子ゲル32の外周端部と所定の間隔をおいて配置されている。
【0123】
なお、
図4の(a)および(b)に示す例では、含浸材3Aは、温度応答性高分子ゲル32に温度応答性高分子ゲル31が分散した海島構造をなしている。これに対し、図示はしないが、含浸材3Aは、温度応答性高分子ゲル31,32の配置関係が上記の配置関係と逆になった、温度応答性高分子ゲル31に温度応答性高分子ゲル32が分散した海島構造をなしていてもよい。
【0124】
次に、第2の変形例について説明する。
図5の(a)および(b)に示すように、第2の変形例に係る含浸材3Bは、方形をなすシート状に形成されている。含浸材3Bは、上述した温度応答性高分子ゲルである複数の温度応答性高分子ゲル31と、複数の温度応答性高分子ゲル32とを含んでいる。
【0125】
含浸材3Bは、第1部301と、第2部302とを有し、第1部301と第2部302とが側面で相互に接合される構造をなしている。第1部301は、温度応答性高分子ゲル31に対して温度応答性高分子ゲル32を多く含む海島構造をなしている。第2部302は、温度応答性高分子ゲル32に対して温度応答性高分子ゲル31を多く含む海島構造をなしている。
【0126】
第1部301は、表面層301aと、表面層301aの下側に設けられる下地層301bとで構成される。第2部302は、表面層302aと、表面層302aの下側に設けられる下地層302bとで構成される。
【0127】
表面層301aは、同形の方形状に形成された板状の温度応答性高分子ゲル31,32で構成されている。表面層301aにおいて、温度応答性高分子ゲル31,32は、平面状に配置され、かつ相互に側面で接合されることにより、平板を形成している。また、表面層301aにおける温度応答性高分子ゲル31,32は、例えば3列かつ3行に配置されており、中央に温度応答性高分子ゲル31が配置され、温度応答性高分子ゲル31の周囲を取り囲むように8個の温度応答性高分子ゲル32が配置されている。
【0128】
下地層301bは、温度応答性高分子ゲル32からなり、表面層301aと同じ形状をなす平板に形成されている。
【0129】
表面層302aも、温度応答性高分子ゲル31,32で構成されている。表面層302aにおいて、温度応答性高分子ゲル31,32は、平面状に配置され、かつ相互に側面で接合されることにより、平板を形成している。また、表面層302aにおける温度応答性高分子ゲル31,32も、例えば3列かつ3行に配置されており、中央に温度応答性高分子ゲル32が配置され、温度応答性高分子ゲル32の周囲を取り囲むように8個の温度応答性高分子ゲル31が配置されている。
【0130】
下地層302bは、温度応答性高分子ゲル31からなり、表面層302aと同じ形状をなす平板に形成されている。
【0131】
次に、第3の変形例について説明する。
図6に示すように、第3の変形例に係る含浸材3Cも、方形をなすシート状に形成されており、複数の温度応答性高分子ゲル31と、複数の温度応答性高分子ゲル32とを含んでいる。温度応答性高分子ゲル31,32は、細長い板状に形成されており、交互に並ぶように、長辺側の側面で相互に接合される縞状構造となることにより、平板を形成している。
【0132】
さらに、第4の変形例について説明する。
図7に示すように、第4の変形例に係る含浸材3Dも、方形をなすシート状に形成されており、複数の温度応答性高分子ゲル31と、複数の温度応答性高分子ゲル32とを含んでいる。含浸材3Dは、第1部311と、第2部312とを有し、第1部311と第2部312とが側面で相互に接合される構造である。第1部311は、温度応答性高分子ゲル32に対して温度応答性高分子ゲル31を多く含む海島構造をなしている。第2部312は、温度応答性高分子ゲル31に対して温度応答性高分子ゲル32を多く含む海島構造をなしている。
【0133】
第1部311は、表面層311aと、表面層311aの下側に設けられる下地層311bとで構成される。表面層311aは、細長い板状に形成された温度応答性高分子ゲル31,32で構成されており、温度応答性高分子ゲル31の両側に温度応答性高分子ゲル32が配置されている。温度応答性高分子ゲル31,32は、長辺側の側面で相互に接合されることにより、平板を形成している。下地層311bは、温度応答性高分子ゲル32からなり、表面層311aと同じ幅かつ同じ長さを有する平板に形成されている。
【0134】
第2部312は、表面層312aと、表面層312aの下側に設けられる下地層312bとで構成される。表面層312aは、細長い板状に形成された温度応答性高分子ゲル31,32で構成されており、温度応答性高分子ゲル32の両側に温度応答性高分子ゲル31が配置されている。温度応答性高分子ゲル31,32は、長辺側の側面で相互に接合されることにより、平板を形成している。下地層312bは、温度応答性高分子ゲル31からなり、表面層312aと同じ幅かつ同じ長さを有する平板に形成されている。
【0135】
なお、下地層311bは、表面層311aと同じ幅かつ同じ長さを有していなくてもよい。同様に、下地層312bも、表面層312aと同じ幅かつ同じ長さを有していなくてもよい。保水性の観点からは、LCSTの層のサイズがUCSTの層のサイズより小さい方がより望ましい。これは、現在の技術水準では、LCST材料の方が一般的であって保水性の高い材料が作れるからである。
【0136】
以上のように構成される含浸材3A~3Dも、含浸材3と同様の上述した効果を得ることができる。
【0137】
〔実施形態4〕
本発明の実施形態4について、
図8に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0138】
図8は、本実施形態に係る含浸材4の構成を示す斜視図である。
【0139】
図8に示すように、含浸材4は、複数の温度応答性高分子ゲル41,42と、透水膜43(透過膜)とを有している。温度応答性高分子ゲル41,42は、それぞれ粒子状に形成されており、透水膜43内にランダムに配置されるように分散されている。温度応答性高分子ゲル41,42を粒子状に形成することは、ゾルの滴下架橋や乳化重合などの公知の方法によって行なうことができる。
【0140】
温度応答性高分子ゲル41は、実施形態2における温度応答性高分子ゲル21と同じく、LCSTを有する刺激応答性高分子ゲルである。温度応答性高分子ゲル42は、実施形態2における温度応答性高分子ゲル22と同じく、UCSTを有する刺激応答性高分子ゲルである。
【0141】
透水膜43は、水分を透過させる膜であり、有効成分を含む溶液も透過させる。透水膜43は、透水性を有する高分子膜などの材料によって形成されている。また、透水膜43は、皮膚に接触させることから生体適合性に優れた材料で形成されることが好ましい。
【0142】
透水膜43は、多孔性のポリマーシート、メッシュ、ガーゼ、透水布等の有効成分を透過させることができる多孔性の材料で構成されていてもよい。これらの材料でゲル群(粒子の集合体)を包み込むことで、粒子状の温度応答性高分子ゲル41,42をランダムに配置することができる。あるいは、厚めの多孔性透水膜やブロックの中に予め温度応答性高分子ゲル41,42を挿入または形成することで含浸材4を構成してもよい。
【0143】
このように構成される含浸材4は、実施形態2の含浸材2と同様、LCST以上の温度になったときに、温度応答性高分子ゲル41から放出された溶液を温度応答性高分子ゲル42に吸収させることができる。また、含浸材4は、UCST未満の温度になったときに、温度応答性高分子ゲル42から放出された溶液を温度応答性高分子ゲル41に吸収させることもできる。したがって、温度環境によって含浸材4が皮膚に触れていないにも関わらず、温度応答性高分子ゲル41が環境温度によって溶液を放出しても回収できないという無駄を抑制することができる。
【0144】
また、温度応答性高分子ゲル41,42は、粒子状に形成されているので、溶液の吸収および放出の方向に指向性がない。これにより、温度応答性高分子ゲル41,42の間で効率的に溶液の授受を行なうことができる。
【0145】
なお、本実施形態の含浸材4では、異種の温度応答性高分子ゲル41,42が複数設けられているが、温度応答性高分子ゲル41のみが複数設けられてもよい。
【0146】
また、温度応答性高分子ゲル41のみが複数設けられる構成では、複数の温度応答性高分子ゲル41のLCSTが、全て同じではなく、一部の温度応答性高分子ゲル41で他の温度応答性高分子ゲル41と異なっていてもよい。これにより、環境温度を変化させることで、LCSTの異なる温度応答性高分子ゲル41から異なるタイミングで有効成分を放出させることができる。したがって、有効成分を放出させる期間を広げることができる。加えて、温度応答性高分子ゲル31は、LCSTに応じて異なる有効成分を含む溶液を含浸していてもよい。これにより、異なるタイミングで異なる有効成分を放出することができる。
【0147】
また、温度応答性高分子ゲル41,42を透水膜43ではなくゾルに分散させることにより、軟膏として利用することができる。
【0148】
〔実施形態5〕
本発明の実施形態5について、
図9に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0149】
図9は、本実施形態に係る含浸材5の構成を示す斜視図である。
【0150】
図9に示すように、含浸材5は、方形をなすシート状に形成されている。含浸材5は、実施形態2における温度応答性高分子ゲル21と同じく、LCSTを有する温度応答性高分子ゲルである複数の温度応答性高分子ゲル51~53を含んでいる。温度応答性高分子ゲル51~53は、平面状に配置され、かつ相互に側面で接合されることにより、平板を形成している。また、温度応答性高分子ゲル51~53は、同形の板状に形成されており、行方向および列方向に同じ順に現れ、かつ、それぞれが異なる温度応答性高分子ゲル51~53と接合されるように配置されている。
【0151】
温度応答性高分子ゲル51~53のLCSTは、それぞれ異なっている。例えば、温度応答性高分子ゲル51のLCSTは33℃であり、温度応答性高分子ゲル52のLCSTは38℃であり、温度応答性高分子ゲル53のLCSTは41℃である。これらのLCSTはあくまでも一例であって、温度応答性高分子ゲル51~53のLCSTは、この一例に限定されない。
【0152】
このように構成される含浸材5は、それぞれのLCSTが異なる温度応答性高分子ゲル51~53を含んでいる。これにより、環境温度を変化させることで、LCSTの異なる温度応答性高分子ゲル51~53から、それぞれ異なるタイミングで有効成分を放出させることができる。これにより、時間差を設けて有効成分を皮膚に与えることができる。また、患部、部位の温度(炎症などの発熱)に応じた有効成分をピンポイントで与えることができる。
【0153】
具体的には、含浸材5の表面が皮膚に触れることにより、含浸材5の温度が、温度応答性高分子ゲル51のLCST以上かつ温度応答性高分子ゲル52,53のLCST未満となったとき、温度応答性高分子ゲル51の表面から溶液が放出される。また、含浸材5をヒーターなどで加熱することによって、含浸材5の温度が、温度応答性高分子ゲル52のLCST以上かつ温度応答性高分子ゲル53のLCST未満となったとき、温度応答性高分子ゲル52の表面から溶液が放出される。さらに、含浸材5の加熱温度を上げることによって、含浸材5の温度が、温度応答性高分子ゲル53のLCST以上となったとき、温度応答性高分子ゲル53の表面から溶液が放出される。
【0154】
ここで、含浸材5の表面が皮膚に触れることにより、含浸材5の温度が、温度応答性高分子ゲル52,53のLCSTを超えない状態になったとする。この状態では、温度応答性高分子ゲル51から放出された溶液が、温度応答性高分子ゲル51と、温度応答性高分子ゲル52,53との接合面を介して、温度応答性高分子ゲル52,53に移動する。しかしながら、温度応答性高分子ゲル51は、温度応答性高分子ゲル52,53と接合している側面よりも、皮膚に直接触れている表面から、より多くの溶液を放出する。これにより、温度応答性高分子ゲル51から温度応答性高分子ゲル52,53への溶液の移動量は少ない。
【0155】
また、含浸材5が、温度応答性高分子ゲル53のLCST以上となる高温の環境温度下で静置されると、温度応答性高分子ゲル51~53の表面からの溶液の放出と、それぞれの接合面における溶液の移動とが広い範囲で生じる。このような現象は、人間の体温よりも低い温度環境下では生じない。
【0156】
上記の高温の温度環境下では、疎水化した温度応答性高分子ゲル51~53の表面にスキン層(疎水化した層)が形成される。高温の温度環境となった初期に表面近傍の溶液が放出された後、温度応答性高分子ゲル51~53の奥の部分にある溶液は、LCSTの高い領域に移動する。つまり、温度応答性高分子ゲル51の溶液は隣の温度応答性高分子ゲル52に移動し、温度応答性高分子ゲル52の溶液は温度応答性高分子ゲル53に移動する。このため、溶液の全ては放出されず、表面から放出されて使われずに失われる溶液のロスを抑えることができる。
【0157】
水分および有効成分を含む水分のゲル間の移動、例えば温度応答性高分子ゲル51から温度応答性高分子ゲル52への移動の量や、温度応答性高分子ゲル52から温度応答性高分子ゲル53への移動の量を、実施形態3と同様にして調製することができる。この場合、水分の移動量を増やすには、温度応答性高分子ゲル51,52が接合する接合面、または温度応答性高分子ゲル52,53が接合する接合面を広くする。水分の移動量を減らすには、接合面を底面に対して垂直にするほかに、温度応答性高分子ゲル51~52のそれぞれの接合面に遮蔽性高分子ゲルを挿入する。
【0158】
なお、温度応答性高分子ゲル51~53は、それぞれ異なる有効成分を含む溶液を含浸していてもよい。これにより、温度応答性高分子ゲル51~53から、それぞれ異なるタイミングで異なる有効成分を放出させることができる。この場合、上述したように、LCSTの異なる複数の温度応答性高分子ゲル51~53の接合面の形状によって制御することで、互いの成分の混合を防ぐことができる。その他、遮蔽性高分子ゲルを活用して、あえて適量混合させて直前まで別々の成分であったものを、皮膚などの対象物へ与える際に混合させることもできる。
【0159】
また、含浸材5は、3種類のLCSTを有する温度応答性高分子ゲル51~53を含んでいるが、2種類または4種類以上の温度応答性高分子ゲルを含んでいてもよい。
【0160】
また、刺激応答性高分子ゲルを光応答性高分子ゲルにする。これにより、温度応答性高分子ゲルの場合と同様またはより細かく制御した光の照射部分のみから有効成分を放出させるか、あるいは光の強度によって有効成分の放出を促進したり抑制したりというように制御することもできる。光応答性高分子ゲルを広い面またはピンポイントで使うことにより患部の適切な治療に資することが可能となる。なお、光応答性高分子ゲルには、カーボンブラック、電気伝導性高分子、金属粒子など、光熱変換子として機能する材料を内部に加えた温度応答性高分子ゲルも含まれる。
【0161】
〔実施形態6〕
本発明の実施形態6について、
図10に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0162】
図10は、本実施形態に係る塗布部材6の構成を示す斜視図である。
【0163】
図10に示すように、塗布部材6は、方形をなす板状に形成されている。塗布部材6は、外部刺激に応答して親水性と疎水性とに可逆的に変化する刺激応答性高分子を含む吸収材61から構成されている。
【0164】
刺激応答性高分子としては、皮膚に付与する有効成分の含浸および放出が可能となるような、上述した刺激応答性高分子ゲルを構成する高分子が挙げられる。また、刺激応答性高分子は、外部刺激の程度が所定のレベル未満である場合は水分を吸収する傾向が高く、外部刺激の程度が所定のレベル以上である場合は水分を放出する傾向が高い。
【0165】
有効成分は、上述したような、美容的に有効な美容成分、医療的に有効な薬効成分等であって、水溶性の場合が多いが、非水溶性、油性および疎水性のいずれかの成分である場合も界面活性剤を適宜使用すれば、ゲル内に含浸・内包することができる。例えば、界面活性剤を用いて親水基と疎水基による二重層を使えば、有効成分を含侵させる場合、有効成分は、周囲の水や水溶成分とともに導入され、ゲルが刺激を受けて相転移したときに、ゲルの収縮と共に放出される。ゲル調製時に有効成分を含む場合も、有効成分は、乾燥させたゲルに、吸湿または噴霧などで水分による膨潤で導入された後に、刺激を受けた後のゲルの収縮に伴って放出される。また、有効成分を、エマルジョンを用いて非水溶性・油性成分を水溶性成分内に内包させることもできる。
【0166】
上記のように構成される塗布部材6は、外部刺激の程度が所定のレベル未満となる状態では、美容液、薬液等の有効成分を保持しやすくする一方、外部刺激の程度が所定のレベル以上となる状態では有効成分を放出しやすくする。これにより、塗布部材6を使用しないときには、塗布部材6に対して与える刺激を所定のレベル未満とすることにより、含浸材に有効成分を保持させやすくする。また、塗布部材6に対して所定のレベル以上の刺激を与えることにより、含浸材から有効成分を放出させやすくすることができる。
【0167】
また、外部刺激が熱であることにより、例えば、人間の体温(皮膚の温度)を外部刺激とすることにより、皮膚に接触させるだけで、塗布部材に含浸させた有効成分を放出させるということも可能となる。例えば、高熱を発しているとき、風邪をひいたとき、何らかの炎症が続いているときなどの患部の温度が高くなった状態で、当該患部にのみに有効成分を放出させることもできる。
【0168】
以上のように、塗布部材6によれば、ユーザが用途に応じて所望の有効成分を含む上述のような溶液を含浸させて使用することができる。したがって、皮膚に有効成分を付与するための美容用途、医療用途等に好適に用いることができる。また、上述した含浸材1~5と同様、皮膚に押し付けられたり擦り付けられたりすることなく、有効成分を皮膚に与えることができることは勿論である。
【0169】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る塗布部材は、皮膚に付与する有効成分の含浸および放出が可能となるように、外部刺激に応答して親水性と疎水性とに可逆的に変化する刺激応答性高分子を含んでいる。
【0170】
上記の構成によれば、適度な外部刺激を与えることにより、有効成分を含浸させたり、有効成分を放出させたりすることができる。
【0171】
本発明の態様2に係る塗布部材は、上記態様1において、前記外部刺激の程度が所定のレベル未満である場合は水分を吸収する傾向が高く、前記外部刺激の程度が所定のレベル以上である場合は水分を放出する傾向が高くてもよい。
【0172】
上記の構成によれば、外部刺激の程度が所定のレベル未満となる状態では、美容液、薬液等の有効成分を保持しやすくする一方、外部刺激の程度が所定のレベル以上となる状態では有効成分を放出しやすくする。これにより、塗布部材を使用しないときには、塗布部材6に対して与える刺激を所定のレベル未満とすることにより、含浸材に有効成分を保持させやすくする。また、塗布部材に対して所定のレベル以上の刺激を与えることにより、含浸材から有効成分を放出させやすくすることができる。
【0173】
本発明の態様3に係る塗布部材は、上記態様1または2において、前記有効成分が水溶性、非水溶性、油性または疎水性であってもよい。
【0174】
上記の構成によれば、有効成分を塗布部材に含浸させやすくすることができる。
【0175】
本発明の態様4に係る塗布部材は、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記外部刺激が熱または光であってもよい。
【0176】
上記の構成によれば、例えば、人間の体温(皮膚の温度)を外部刺激とすることにより、皮膚に接触させるだけで、塗布部材に含浸させた有効成分を放出させるということも可能となる。また、患部に光を照射することによって、塗布部材に含浸させた有効成分を放出させることも可能になる。
【0177】
本発明の態様5に係る含浸材は、有効成分を含浸しており、外部刺激の程度が所定のレベル未満となる状態では前記有効成分を吸収する一方、前記外部刺激の程度が前記レベル以上となる状態では前記有効成分を放出する刺激応答性高分子ゲル(温度応答性高分子ゲル11,21,31,41,51~53)を含んでいる。
【0178】
上記の構成によれば、含浸材は、外部刺激の程度が所定のレベル未満となる状態では、美容液、薬液等の有効成分を保持する一方、外部刺激の程度が所定のレベル以上となる状態では有効成分を放出する。これにより、含浸材を使用しないときには、含浸材に対して与える刺激を所定のレベル未満とすることにより、含浸材に有効成分を保持させる。また、含浸材に対して所定のレベル以上の刺激を与えることにより、含浸材から有効成分を放出させることができる。
【0179】
本発明の態様6に係る含浸材は、上記態様5において、前記外部刺激が熱または光であってもよい。
【0180】
上記の構成によれば、温度が上記レベルとしての温度未満である状態では、美容液、薬液等の有効成分を保持する一方、温度が上記レベルとしての温度以上である状態では有効成分を放出する。これにより、例えば、上記レベルを人間の体温(皮膚の温度)程度に設定することにより、皮膚に接触させるだけで、含浸材の温度が上記レベルを超えて、含浸材から有効成分を放出させることができる。また、患部に光を照射することによって、含浸材に含浸させた有効成分を放出させることも可能になる。
【0181】
本発明の態様7に係る含浸材は、上記態様5または6において、前記刺激応答性高分子ゲルの複数が平面状に配置され、かつ相互に平面状に接合されており、各刺激応答性高分子ゲルの前記レベルが異なっていてもよい。
【0182】
上記の構成によれば、各刺激応答性高分子ゲルの間で有効成分を放出する刺激のレベルが異なる。これにより、刺激のレベルを変化させることで、各刺激応答性高分子ゲルから有効成分を放出させるタイミングを異ならせることができる。それゆえ、有効成分を放出させる期間を広げることができる。
【0183】
本発明の態様8に係る含浸材は、上記態様5または6において、前記刺激応答性高分子ゲルの複数が、平面状に配置され、かつ相互に接合されており、前記レベルが、一部の刺激応答性高分子ゲルで他の刺激応答性高分子ゲルと異なっていてもよい。
【0184】
上記の構成によれば、各刺激応答性高分子ゲルの間で有効成分を放出する刺激のレベルが異なる。これにより、刺激のレベルを変化させることで、各刺激応答性高分子ゲルから有効成分を放出させるタイミングを異ならせることができる。それゆえ、有効成分を放出させる期間を広げることができる。
【0185】
本発明の態様9に係る含浸材は、上記態様5または6において、前記刺激応答性高分子ゲルが、粒子状に形成され、かつ複数設けられ、有効成分を透過させることが可能な材料(透水膜43)に保持されており、前記レベルが、一部の刺激応答性高分子ゲルで他の刺激応答性高分子ゲルと異なっていてもよい。
【0186】
上記の構成によれば、レベルが一部の刺激応答性高分子ゲルで他の刺激応答性高分子ゲルと異なっているので、刺激の程度を変化させることで、異なるレベルにそれぞれ達した異なるタイミングで、刺激応答性高分子ゲルから有効成分を放出させることができる。これにより、有効成分を放出させる期間を広げることができる。
【0187】
本発明の態様10に係る含浸材は、上記態様7から9のいずれかにおいて、前記刺激応答性高分子ゲルが、前記レベルに応じて異なる有効成分を含んでいてもよい。
【0188】
上記の構成により、刺激のレベルを変化させることで、各刺激応答性高分子ゲルから異なるタイミングで異なる有効成分を放出させることができる。
【0189】
本発明の態様11に係る含浸材は、上記態様5または6において、前記外部刺激の強度が前記レベルと異なる所定の相変化レベル未満となる状態では前記有効成分を放出する一方、前記外部刺激の強度が前記相変化レベル以上となる状態では前記有効成分を放出する補助刺激応答性高分子ゲル(温度応答性高分子ゲル22,32,42)をさらに含んでいてもよい。
【0190】
上記の構成によれば、刺激応答性高分子ゲルが性質を変化させるレベルと、補助刺激応答性高分子ゲルが性質を変化させる相変化レベルとが異なる。これにより、刺激がレベル以上になったときに、刺激応答性高分子ゲルから放出された有効成分を補助刺激応答性高分子ゲルに吸収させることができる。また、刺激がレベル未満になったときに、補助刺激応答性高分子ゲルから放出された有効成分を刺激応答性高分子ゲルに吸収させることもできる。
【0191】
本発明の態様12に係る含浸材は、上記態様11において、前記刺激応答性高分子ゲルと前記補助刺激応答性高分子ゲルとが積層されていてもよい。
【0192】
上記の構成によれば、刺激応答性高分子ゲルと補助刺激応答性高分子ゲルとの間で有効成分の授受が行なわれる。
【0193】
本発明の態様13に係る含浸材は、上記態様11において、複数の前記刺激応答性高分子ゲルと、複数の前記補助刺激応答性高分子ゲルとが、平板を形成するように配置され、かつ相互に接触していてもよい。
【0194】
上記の構成によれば、刺激応答性高分子ゲルと補助刺激応答性高分子ゲルとの間で有効成分の授受が行なわれる。また、平板状の刺激応答性高分子ゲルおよび補助刺激応答性高分子ゲルは、側面方向への有効成分の移動が比較的容易であるので、刺激応答性高分子ゲルと補助刺激応答性高分子ゲルとの間で効率的に有効成分の授受を行なうことができる。
【0195】
本発明の態様14に係る含浸材は、上記態様13において、前記刺激応答性高分子ゲルと前記補助刺激応答性高分子ゲルとが接合する接合面が、前記刺激応答性高分子ゲルと前記補助刺激応答性高分子ゲルとの接合により形成される面に垂直な接合面よりも広くてもよい。
【0196】
上記の構成によれば、刺激応答性高分子ゲルと補助刺激応答性高分子ゲルとの間の有効成分の移動を促進するように制御することができる。
【0197】
本発明の態様15に係る含浸材は、上記態様13において、前記刺激応答性高分子ゲルと前記刺激応答性高分子ゲルとの間に、水分の移動に対する遮蔽性を有する遮蔽性高分子ゲルが設けられていてもよい。
【0198】
上記の構成によれば、刺激応答性高分子ゲルと補助刺激応答性高分子ゲルとの間の有効成分の移動を抑制するように制御することができる。
【0199】
本発明の態様16に係る含浸材は、上記態様11において、前記刺激応答性高分子ゲルおよび前記補助刺激応答性高分子ゲルが、それぞれ粒子状に形成され、有効成分を透過させることが可能な透過膜に保持されていてもよい。
【0200】
上記の構成によれば、粒子状に形成された刺激応答性高分子ゲルおよび補助刺激応答性高分子ゲルは、有効成分を吸収および放出する方向に指向性がない。これにより、刺激応答性高分子ゲルと補助刺激応答性高分子ゲルとの間で効率的に有効成分の授受を行なうことができる。
【0201】
本発明の態様17に係る含浸材の製造方法は、上記態様5から16のいずれか1つの含浸材を製造する含浸材の製造方法であって、刺激応答性高分子および親水性高分子の少なくともいずれか一方を架橋することにより前記刺激応答性高分子ゲルを調製する調製工程と、前記刺激応答性高分子ゲルを乾燥させることにより、乾燥体を作成する乾燥工程と、前記乾燥体に前記有効成分を吸収させる吸収工程と、を含んでいる。
【0202】
あるいは、当該製造方法は、乾燥工程および吸収工程に代えて、前記刺激応答性高分子ゲルを構成する刺激応答性高分子と前記有効成分とを混合することにより混合物を作成する混合工程と、前記混合物をゲル化することにより、前記有効成分を含浸する前記刺激応答性高分子ゲルを作成するゲル化工程と、を含んでいてもよい。
【0203】
本発明の態様18に係る含浸材の製造方法は、上記態様5から16のいずれか1つの含浸材を製造する含浸材の製造方法であって、刺激応答性高分子および親水性高分子と前記有効成分とを混合することにより混合物を作成する混合工程と、前記混合物における刺激応答性高分子および親水性高分子の両方を共に架橋するか、あるいは前記混合物における刺激応答性高分子および親水性高分子の一方を架橋することにより前記混合物をゲル化して、乾燥した状態または乾燥しない状態で、前記有効成分を含浸する前記刺激応答性高分子ゲルを作成するゲル化工程と、を含んでいる。
【0204】
本発明の態様19に係る含浸材の製造方法は、上記態様5から16のいずれか1つの含浸材を製造する含浸材の製造方法であって、刺激応答性高分子を架橋または混合することにより前記刺激応答性高分子ゲルを調製する調製工程と、前記刺激応答性高分子ゲルを構成する前記刺激応答性高分子と前記有効成分とを混合することにより混合物を作成する混合工程と、前記混合物をゲル化することにより、前記有効成分を含浸する前記刺激応答性高分子ゲルを作成するゲル化工程と、を含んでいる。
【0205】
本発明の態様20に係る含浸材の製造方法は、上記態様5から16のいずれか1つの含浸材を製造する含浸材の製造方法であって、刺激応答性高分子と前記有効成分とを混合することにより混合物を作成する混合工程と、前記混合物における刺激応答性高分子を架橋することにより前記混合物をゲル化して、前記有効成分を含浸する前記刺激応答性高分子ゲルを作成するゲル化工程と、を含んでいる。
【0206】
本発明の態様21に係る含浸材の製造方法は、上記態様19または20において、前記刺激応答性高分子ゲルを乾燥させる乾燥工程をさらに含んでいてもよい。
【0207】
本発明の態様22に係る含浸材の製造方法は、上記態様5から16のいずれか1つの含浸材を製造する含浸材の製造方法であって、刺激応答性高分子を架橋または混合することにより前記刺激応答性高分子ゲルを調製する調製工程と、前記刺激応答性高分子ゲルを乾燥させることにより、乾燥体を作成する乾燥工程と、前記乾燥体に前記有効成分を吸収させる吸収工程と、を含んでいる。
【0208】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。