(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】3次元付加印刷方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/112 20170101AFI20240806BHJP
B29C 64/245 20170101ALI20240806BHJP
B29C 64/268 20170101ALI20240806BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240806BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240806BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240806BHJP
C12N 5/02 20060101ALI20240806BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20240806BHJP
【FI】
B29C64/112
B29C64/245
B29C64/268
B33Y10/00
B33Y70/00
C12M1/00 Z
C12N5/02
C12N5/07
(21)【出願番号】P 2021556743
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(86)【国際出願番号】 FR2020050616
(87)【国際公開番号】W WO2020193927
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-20
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】519333974
【氏名又は名称】ポワティス
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダン ソト
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ギュイモ
(72)【発明者】
【氏名】ベルトラン ヴィエルローブ
(72)【発明者】
【氏名】オード クラピース
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0199507(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0313306(US,A1)
【文献】特表2013-521033(JP,A)
【文献】国際公開第2016/097619(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/097620(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/061024(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
C12M 1/00
C12N 5/02
C12N 5/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な相互作用領域を有する印刷媒体上に堆積されて不均一性を含有し得る少なくとも1つのインクと点状の相互作用を生じさせるエネルギー送達励起手段を含む一部の装置を、前記インクの対象となる部分をレシーバーに移送させる目的で、実施する印刷方法であって、前記透明な相互作用領域を少なくとも部分的に被覆する湿潤膜を生成するステップと、続いて前記湿潤膜の表面に前記インクを堆積させるステップと、移送するステップとを含むことを特徴とする、印刷方法。
【請求項2】
前記湿潤膜を形成す
るステップは、湿潤液体をシリンダ状の空間の周縁部で注入することにより行われ、その底部は前記透明な相互作用領域により形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
前記湿
潤膜が、配向性エネルギー励起の連続的な適用による前記移送するステップ中に、前記シリンダ状の空間の前記周縁部に部分的にのみ接触することを特徴とする、請求項2に記載の印刷方法。
【請求項4】
前記湿潤膜が、前記湿潤膜に湿潤性以外の特性を与える目的で、光重合、温度変化またはゲル化を含む中間処理ステップにより、改質されることを特徴とする、請求項
1に記載の印刷方法。
【請求項5】
続いて前記透明な相互作用領域を被覆する前記インクを除去するステップが、前記
移送するステップの後に行われることを特徴とする、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項6】
前記湿潤膜を除去するステップが、前記シリンダ状の空間の周縁部からの吸引によって行われることを特徴とする、請求項
2に記載の印刷方法。
【請求項7】
前記湿潤膜を除去す
るステップが、その上部から外部アスピレーターを介して吸引することによって行われることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項8】
前記湿
潤膜を形成するステップが、加圧された湿潤
液体の量を受け入れる少なくとも1つのチャネルで
前記透明な相互作用領域に供給することによって行われることを特徴とする、請求項
1に記載の印刷方法。
【請求項9】
前記湿
潤膜を形成するステップが、コーティングにより、電気湿潤によりまたは遠心分離により行われることを特徴とする、請求項
1に記載の印刷方法。
【請求項10】
前記湿
潤膜を形成するステップが、非接触での分散を可能にする空気流によって行われることを特徴とする、請求項
1に記載の印刷方法。
【請求項11】
前記湿潤膜を除去す
るステップが、大気圧未満の圧力源に接続された少なくとも1つのチャネルによって前記
透明な相互作用領域を接続することにより実施されることを特徴とする、請求項1または2に記載の印刷方法。
【請求項12】
前記湿潤膜を除去す
るステップが、シリンジポンプおよび/または蠕動ポンプ、あるいはマイクロ流体力学用のMEMSシステムを介して、流れの中で作動する源に接続された少なくとも1つのチャネルによって
前記透明な相互作用領域を接続することにより実施されることを特徴とする、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項13】
前記
湿潤膜を除去するステップが、シリンダ状の開口部(11、21)を大気圧に対して過圧下に置くことによって行われることを特徴とする、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項14】
前記インクを堆積するステップは、
前記湿
潤膜の上面から行われる、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項15】
前記インクを堆積するステップは、前記装置の下部から、中央のシリンダ状の
前記透明な相互作用領域(11、21、30)上に開口するオリフィスを介して行われる、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項16】
温度、pH、粘度またはアセンブリ(10、20、30)の位置および向きを含む少なくとも1つの物理的特性の変化を測定するステップを含む、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項17】
アセンブリ(10、20、30)が、サーボモーターおよびフィードバックループのシステムにより、レーザービームの伝搬の軸に関して特定の方向に位置付けられる、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項18】
アセンブリ(10、20、30)がプラットフォームに直接接続されている、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項19】
前記インクが不均一性を備え
、前記インクが、内径寸法
が30μm~1mmの範囲
であるチューブに収納されている、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項20】
前記レシーバーが、前記印刷媒体の上方に配置されている、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項21】
前記インクが粒子を担持し
、前記インクが生物学的インクである、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項22】
請求項1~
19の少なくとも1項に記載の方法を実施するための、配向可能なエネルギー送達励起手段と相互作用して点状の相互作用を生じさせるインク用の印刷媒体であって、前記媒体は、シリンダ状の空間を形成する目的で境界で囲まれた透明な相互作用領域を有する、印刷媒体において、前記透明な相互作用領域の湿潤液体を注入するために前記シリンダ状の空間の前記境界内に開口する複数のチャネルと、前記シリンダ状の空間の前記境界内に開口する1つまたは複数の吸引チャネルとを有することを特徴とする、印刷媒体。
【請求項23】
前記吸引チャネルは、フレアゾーンを介して前記シリンダ状の空間の前記境界内に開口していることを特徴とする、請求項
22に記載の印刷媒体。
【請求項24】
複数の技術的液体が使用され
、前記技術的液体は、印刷方法に有用な他の特
性を有することができ、エネルギー源との相互作用後の洗浄に有利な技術的液体が使用されることを特徴とする、請求項
22に記載の印刷媒体。
【請求項25】
前記インクが側方チャネルを介して中央の相互作用空間に送られている、請求項
22に記載の印刷媒体。
【請求項26】
前記湿潤膜が、蒸気凝縮、キャピラリー湿潤および電気湿潤を含む方法で形成されている、請求項
22に記載の印刷媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元付加印刷、特にレーザー支援型の分野に関し、より詳細には、生物学的印刷(組織工学、再生医療、薬物動態学、およびより一般的な生物学的研究のために生体組織や臓器を開発するために、コンピュータ支援の層ごとの堆積法を用いて、生細胞や他の生物学的産物を組み立てて空間的に組織化する技術)に関するが、これに限定されない。レーザー支援3次元付加印刷は、例えばレーザーパルスによる基板の局所的な気化によって生成されたジェットにより、移送可能な要素を含むインクを搭載したスライドから、ターゲットまたは「レシーバー」に要素を移送するもので、インクに含まれる液体、移送可能な粒子または粒子の集合体の一部を局所的に駆動して、インクに直接移送された運動エネルギーを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
インクに含まれる移送可能な粒子または不均一性は、異なる性質を持つことができる。本発明の目的のために、用語「不均一性」は、有機、無機または生体組成の生物学的インクとより一般的に呼ばれるインクの関心領域を意味し、特に
- 細胞が作り出すエクソソームなどの小胞、または生体材料(ハイドロキシアパタイト)のナノ粒子、あるいは生体分子(成長因子)のナノカプセルなどのナノスコピック粒子、
- 生細胞(真核細胞、幹細胞、グロビュールなど)、生体材料の微粒子、生体分子(成長因子)のマイクロカプセルなどの微細な粒子、
- 細胞のクラスターで形成されたスフェロイドなどのメゾスコピック粒子、表面が細胞でコーティングされたマイクロキャリアおよび/または生物学的材料、
- カプセル内で、または粘性のある液体あるいはゲルによって凝集性を確保した粒子のクラスター。好ましくは、生物学的印刷の文脈では、「粒子」という用語は、例えば、生細胞、エクソソーム、またはその他の生体分子(例えば、高分子、タンパク質、ペプチド)など、生物学的特性を有する物体を意味すると理解される。
【0003】
しかし、この装置および対応する方法は、本発明によればこの定義に留まらない。実際、粒子は非生物的(つまり不活性)で、例えば1つまたは複数の生体材料からなり、その性質は意図された用途に応じて異なる。組織工学は、本来の組織(表皮、角膜、軟骨、心外膜、心内膜など)、あるいは臓器の機能を生物学的に置換、回復、維持することができる代替物を設計および開発することを目的としている。その一例が、Griffith,L.G.,&Naughton,G.(2002),Tissue Engineering-current challenges and expanding opportunities.Science,295(5557),1009-1014(非特許文献1)の論文に記載されている。
【0004】
このような欠点を克服するために、生物学的要素の印刷、より一般的に知られている生物学的印刷が考えられるようになり、以下の文献で議論されている:Klebe,R.(1988).Cytoscribing:A Method for Micropositioning Cells and the Construction of Two-and Three-Dimensional Synthetic Tissues.Experimental Cell Research,179(2):362-373.(非特許文献2)および、Klebe,R.,Thomas,C,Grant,G.,Grant,A.and Gosh,P.(1994).Cytoscription:Computer controlled micropositioning of cell adhesion proteins and cells.Methods in Cell Science,16(3):189-192.(非特許文献3)
【0005】
本発明は、「LIFT(Laser-Induced Forward Transfer)」と呼ばれる印刷技術に関するもので、LAB(Laser Assisted Bioprinting)やBioLP(Bio Laser Printing)とも呼ばれ、上向きに照射されたレーザービームを備え、レシーバーがインク媒体の上に配置されているものである。
【0006】
インクが載っている媒体は、レーザーエネルギーの吸収率を高めることでジェット発生プロセスを助けるために、例えば金の層などの犠牲吸収層でコーティングされ得る。この場合、レーザーパルスはドナー界面で吸収される。
【0007】
代替的に、吸収層を持たないインク媒体を用いてレーザー印刷を行うこともできる。この場合、レーザーとそれに関連する集束手段の特性は、ジェットを発生させる目的で、例えば、印刷ジェットの発生に必要なプラズマを発生させたり、衝撃波や熱効果によって直接キャビテーションバブルを発生させたりする目的で、レーザー放射を弱く吸収する液体(インク)のアブレーション閾値を超えて、最適化されなければならない。
【0008】
インクは、作業者がマイクロピペットを用いて媒体上にインク膜を形成することにより、または入口チャネルと出口チャネルの間でインクをスライド上で循環させることにより、媒体上に一般的に堆積させる。
【0009】
先行技術
上向きに方向付けられたパルスレーザーにより生物学的インクを印刷する一般原理は、仏国特許発明第3030361号明細書(特許文献1)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】仏国特許発明第3030361号明細書
【文献】国際公開第2018/193446号
【文献】国際公開第2017/004615号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Griffith,L.G.,&Naughton,G.(2002),Tissue Engineering-current challenges and expanding opportunities.Science,295(5557),1009-1014
【文献】Klebe,R.(1988).Cytoscribing:A Method for Micropositioning Cells and the Construction of Two-and Three-Dimensional Synthetic Tissues.Experimental Cell Research,179(2):362-373.
【文献】Klebe,R.,Thomas,C,Grant,G.,Grant,A.and Gosh,P.(1994).Cytoscription:Computer controlled micropositioning of cell adhesion proteins and cells.Methods in Cell Science,16(3):189-192.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
国際公開第2018/193446号(特許文献2)には、マイクロ流体チップが印刷ヘッドとして使用されるレーザー誘起直接移送法が記載されている。ヘッドは、透明な上部領域と、中間層チャネルと、当該中間層チャネルと流体連通するインクチャネルとを有する中間領域と、インクチャネルと流体連通するオリフィスを有する下部層とを備える。中間層チャネル内の材料が、オリフィスに対向する位置でエネルギー源(通常はパルスレーザー)にさらされると、材料が部分的に蒸発してキャビテーションバブルを発生させ、これが破裂すると過渡的な圧力上昇を生じさせ、それによってインクをオリフィスからスライドの下にある受容基板に押し出す。
【0013】
この解決策は、スライドの上に配置されたレーザーからの印刷でのみ機能するため、完全に満足できるものではなく、これは、穴を通って粒子を「強制的に」通過させるようにエネルギーを供給し、この断面はキャリア流体が流れないように小さくなければならない。これにより、複数の制約が発生し、「移送流体/移送要素」の組み合わせが大きく制限される。
【0014】
国際公開第2017/004615号(特許文献3)には、レシーバー基板を使用することと、光透過性媒体、媒体上にコーティングされた光吸収性中間膜、および媒体に対向する中間膜の上にコーティングされた固相微小生物学的サンプルの移送材料を有するターゲット基板を使用することと、光エネルギーが中間膜に当たるように、透明媒体を通して光エネルギーを方向付けることとからなる材料印刷システムが記載されている。中間膜の一部が光子エネルギーの吸収によりエネルギーを与えられ、エネルギーを与えられた中間膜が、ターゲット基板と受容基板の間のギャップを越えてレシーバー基板上に、移送材料の一部の移送を引き起こす。
【0015】
この解決策も満足できるものではない。なぜなら、マイクロウェルを形成する媒体に関するため、対象となる要素を置換させるキャリア流体の循環が可能でないからである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明により提供される解決策
これらの欠点を解決するために、本発明は、最も一般的な意味で、請求項1による、方法、装置、および流体印刷媒体に関するものである。
【0017】
本特許の目的のため、「インク」という用語は、均一な流体または粒子あるいは不均一性を含む流体あるいはレーザーパルスの影響下で移送可能な生物学的インクを意味するものと理解される。
【0018】
一般的に、この方法は、上方に方向付けられたパルスレーザーショットを適用することによる移送ステップと、続いて前記透明な相互作用領域を被覆する湿潤膜を(前記流体を除去または再編成することにより)再生する後続ステップとを含む。レーザーショットは、好ましくは上向きに方向付けられる。
【0019】
本特許の目的のために、「透明な相互作用領域」は、前記レーザーの波長帯でレーザービームを通過させる固体の非穿刺領域を意味すると理解される。他の波長については、領域は透明または不透明のいずれかであってよい。
【0020】
本発明の目的のために、インクの「不均一性」という用語は、有機、無機または生体組成物のインクの対象の領域を意味し、特に:
-細胞によって生産されるエクソソームまたは他の小胞などのナノスコピック粒子、あるいは生体分子(成長因子)のナノカプセル、あるいは生体材料(ハイドロキシアパタイト)のナノ粒子、
-生細胞(真核細胞、幹細胞、グロビュールなど)、生体材料の微粒子、生体分子(成長因子)のマイクロカプセルなどの微細な粒子、
-細胞のクラスターによって形成されたようなメゾスコピック粒子、表面が細胞および/または生体材料でコーティングされたマイクロキャリア(生分解性の可能性あり)
-カプセル内または粘性のある液体あるいはゲルによって凝集性が確保された粒子のクラスター。
【0021】
好ましくは、生物学的印刷の文脈では、「粒子」という用語は、例えば、生細胞、エクソソーム、またはその他の生体分子(高分子、タンパク質、ペプチド、成長因子、メッセンジャーRNA、マイクロRNA、DNAなど)のような、生物学的特性を有する物体を意味すると理解される。
【0022】
粒子は、非生物的(つまり不活性)で、例えば1つまたは複数の生体材料からなることもあり、その性質は意図された用途に依存する。有利には、湿潤液体の膜を形成する前記ステップは、前記湿潤液体を、前記透明な相互作用領域によって底部が形成されているシリンダ状の空間の周縁部に注入することにより、行われる。本発明の特定の変形実施形態によれば、
-前記湿潤液体の膜は、配向可能なエネルギー励起の連続的な適用により、移送ステップ中に前記シリンダ状の空間の周縁部に部分的にのみ接触する。
【0023】
-湿潤膜は、光重合、温度変化またはゲル化からなる中間処理ステップによって、前記流体に湿潤性以外の特定の特性を与える目的で、修正することができ、例えば、犠牲層として機能させ、またはスライドにテクスチャーを付けてマイクロウェルを作る目的で、生物学的インク膜内の粒子の空間分布を制御するように、フィルムをフォトパターン化することができる。このステップは、インクのエネルギーを与える印刷手段との相互作用の前または最中に実施することができる。
【0024】
-前記流体を除去するステップは、前記シリンダ状の空間の周縁部からの吸引によって行われる。
【0025】
-前記流体を除去するステップは、外部アスピレーターを介して頂部から吸引することによって行われる。
【0026】
-前記湿潤流体のフィルムの断面は、前記湿潤流体の毛細管長さよりも大きい。
【0027】
-続いて前記透明な相互作用領域を被覆する流体を除去するステップが、前記印刷ステップの後に行われる。
【0028】
-前記湿潤液体の膜を形成するステップは、加圧された湿潤液体の量を受け入れる少なくとも1つのチャネルを相互作用領域に供給することによって行われる。
【0029】
-湿潤液体の膜を形成する前記ステップは、コーティング、電気湿潤、または遠心分離によって行われる。
【0030】
-前記湿潤液体の膜を形成するステップは、非接触での分散を可能にする気流によって行われる。
【0031】
-液体の膜を除去する前記ステップは、大気圧を下回る圧力源に接続された少なくとも1つのチャネルによって相互作用領域を接続することにより行われる。
【0032】
-液体の膜を除去する前記ステップは、シリンジポンプおよび/または蠕動ポンプ、あるいはマイクロ流体用のMEMSシステムを介して流れている源に接続された少なくとも1つのチャネルにより、相互作用領域を接続することによって行われる。
【0033】
-前記液体の膜を除去するステップは、前記シリンダ状の開口部を大気圧に対して過圧下に置くことによって行われる。
【0034】
-前記インクを堆積するステップは、前記湿潤液体の膜の上面から行われる。
【0035】
-前記インクを堆積するステップは、装置の下部から、中央のシリンダ状の相互作用領域に開口するオリフィスを介して行われる。
【0036】
-方法は、温度、pH、粘度、またはアセンブリの位置および配向を含む少なくとも1つの物理的特性の変化を測定するステップを含む。
【0037】
-前記アセンブリは、サーボモーターおよびフィードバックループのシステムにより、レーザービームの伝搬の軸に関して特定の方向に位置付けられる。
【0038】
-前記アセンブリは、プラットフォームに直接接続されている。この接続は、それらを前記印刷媒体に組み込むことを必須とすることなく、流体接続を迅速に確立することを可能にする。
【0039】
-不均一な生物学的インクは、内径が100~300μmであることが好ましいが、30μm~1mmの範囲とすることができるチューブに収納される。
【0040】
-本発明はまた、前述の方法を実施するための、配向可能なエネルギー送達励起手段と相互作用して点状の相互作用を生じさせるインクの印刷媒体にも関連し、前記媒体は、シリンダ状の空間を形成する目的で、境界で囲まれた透明な相互作用領域を有し、前記透明な相互作用領域の湿潤液体を注入するためにシリンダ状の空間の前記境界に開口する複数のチャネルと、シリンダ状の空間の前記境界内に開口する1つ以上の吸引チャネルとを有する。
【0041】
-有利なことに、前記吸引チャネルは、フレアゾーンを介して、前記シリンダ状の空間の前記境界に開口している。
【0042】
変形例によれば、
-いくつかの技術的液体が使用され、特に、最初の湿潤に望ましいタイプの技術的液体で、前記液体は印刷方法に有用な他の特性(温度、ゲル化、吸収など)を有することができ、エネルギー源との相互作用の後の洗浄に望ましい技術的液体が使用される。
【0043】
-インクは、サイドチャネルを介して中央の相互作用空間に送られる。
【0044】
-湿潤膜は、蒸気凝縮、キャピラリー湿潤および電気湿潤を含む方法により形成される。
【0045】
本発明による異なる装置の実施形態の詳細な説明
本発明は、非限定的な実施形態を示す添付の図を参照しながら、以下の説明を読むことでよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図4】
図4は、本発明の変形実施形態に係る媒体の分解図を示す。
【
図5】
図5は、本発明による生物学的印刷設備の概略図を示す。
【
図6】
図6は、本発明による印刷ヘッド把持部の斜視図を示す。
【
図7】
図7は、本発明による印刷ヘッド把持部の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
移送媒体
図1は、移送媒体の一実施形態を示す分解図である。これは、3つの切断されたスライド(10、20、30)を接合してブロックを形成したアセンブリからなり、レーザービームとの相互作用領域と、相互作用領域に存在する液体を除去するための湿潤および吸引液体の供給チャネルとを有している。
【0048】
これらのスライド(10、20、30)は、通常、ガラスまたはシリコン、および/または、例えばCOC、PMMA、ポリエーテルエーテルケトンPEEKなどのポリマー(殺菌可能または非殺菌可能)で作られている。あるいは、下部スライド(30)は、1030nm(使用するレーザーの波長)で透明な材料で作られており、他のスライド(10、20)は、透明または不透明にすることができる。
【0049】
上部スライド(10)は、例えば100マイクロメートルから数ミリメートルの厚さを持つ長方形の部品である。これは丸い切り込み(11)を有し、中間スライド(20)の切り込みと同じ位置に設けられた切り込み(21)に対応している。この中間スライド(20)も、100マイクロメートルから数ミリメートルの厚さを有している。スライド(10)の開口部(11)は、開口部(20)の形状と異なる形状を有していてもよい。特に、円形であってより大きなまたは小さな半径を有していてもよい。
【0050】
丸い切り込み(21)に加えて、それは丸い切り込み(21)に対して半径方向に延びる3つの切り込み(22、23、24)を有しており、それぞれ円形の膨出部の反対側の端で終端している(25、26、27)。これらの膨出部のある切り込みはチャネルを形成し、そのうちの1つはスライド(20)の長手方向の軸に沿って配向され、他のものは中央のチャネルの両側に配置され、外側のチャネルの切り込み(22、24)の軸は、切り込み(21)のシリンダ状の壁に約90°の供給の弧を画定する目的で、中央チャネルの切り込み(23)の軸と約45°の角度を形成している。これらの値は、
図1に示した例に関するものであり、必要に応じて他の構成(チャネルの数、チャネルの位置、スライドの厚さなど)を想定することができる。
【0051】
切り込み(11)および(21)の断面は、湿潤流体の毛細管長さの関数として決定される。それは、毛細管現象を抑制し、湿潤液体の最適な分散を促進するために、湿潤液体の毛細管長さLよりもわずかに大きい。上限値は、指向性パルスレーザーでスキャンされた領域によって決定される。
【0052】
毛細管長さLは以下のように決定される:
【0053】
【0054】
ここで:
- TSは湿潤流体の表面張力を示す
- MVは湿潤流体の密度を示す
- gは重力加速度9.806m.s-2を示す
【0055】
20°の純水からなる湿潤液体の場合、この毛細管長さLは、表面張力が70.10-3N.m-1の2.7mmに相当する。
【0056】
切り込み(22から24)の反対側に、スライド(20)は、スライド(20)の長手方向に沿って半径方向に配向された膨出部(29)によって延長された別の切り込み(28)を有する。この切り込み(28)は、フレア状のゾーン(8)によって丸い切り込み(21)の端部に接続されて、切り込み(21)によって画定されるシリンダ状の空間に堆積した液体の吸引を容易にする漏斗を形成している。なお、ここで示した例は一実施形態に過ぎず、必要に応じて他の構成(出口チャネルの数、出口チャネルの位置、形状など)を想定することができる。
【0057】
下部スライド(30)は、中央に切り込みがなく、切り込み(11、21)によって画定されるシリンダ状の空間の底部を形成している。それは例えばパルスレーザー光の波長に対して透明な材料で作られている。
【0058】
それは中間スライド(20)の膨出部(25,26,27)それぞれに合わせて位置づけられた3つの穴(35,36,37)を有し、それぞれの切り込み(22,23,24)に供給するための鉛直チャネルを形成している。
【0059】
第4の穴(39)は、中間スライド(20)の膨出部(29)に合わせて配置されていて、切り込み(28)によって形成されたダクト内に開口する鉛直吸引チャネルを画定するようになっている。
【0060】
スライドは、例えば接着によって関連付けられていて(スライド(20)の材料は、それ自体が熱活性化可能または熱結合可能なポリマーとして作用することができる)、中間スライド(20)の切り込み(22、23、24、28および8)は、上部(10)および下部(30)のスライドによってその上面および下面がそれぞれ閉じられ、中間スライド(20)の丸い切り込み(21)を囲む環状の壁内に開口するチャネルを形成するようになっている。
【0061】
このアセンブリは、供給ユニット(40)と吸引ユニット(50)によって完成する。
【0062】
供給ユニット(40)は、横チャネル(41)を有していて、その中に垂直チャネル(45、46、47)が開口し、これは下部スライド(30)の穴(35、36、37)内に開口するように位置付けられている。
【0063】
吸引ユニット(50)は、鉛直チャネル(59)を有しており、その位置は下部プレート(30)の膨出部(39)に開口するように決定されている。このチャネル(59)の他端は、2つの垂直チャネル(51、52)内に開口しており、一方は中間スライド(20)の切り込み(21)によって画定されたシリンダ状の空間に含まれる液体の吸引のために役立ち、他方はオプションで洗浄液の選択的な注入のために使用される。吸引ユニット(50)は、したがって、特定の構成では供給ユニット(40)の役割も果たすことができる。チャネル(59)の端部の周囲には、余分な接着剤を収容することを可能にする凹部が設けられている。
【0064】
供給システム
図2に示す流体システムは、供給サブアセンブリ(100)と吸引サブアセンブリ(200)とからなる。様々な解決策、特に蠕動運動による解決策が考えられる。
【0065】
湿潤流体供給システム(100)は、バイアル(110)、典型的には無菌ポリスチレンバイアルをポンプ(120)に接続し、湿潤流体容器(130)、例えば無菌水またはPBSあるいはHEPESなどの生物学的緩衝溶液を供給することで構成され、これは細胞の浸透圧ショックを回避することを可能にしている。
【0066】
第1通常閉じた電磁弁(140)は、ポンプによるバイアル(110)の供給を制御する。
【0067】
第2通常開放電磁弁(150)は、空気吸入口(151)と、バイアル(110)の内部容積部に開放したコネクタ(152)との間に配置されている。
【0068】
静止状態では、電磁弁(140)が閉じられており、電磁弁(150)は開放しているため、バイアルの容積部は大気圧にさらされている。
【0069】
バイアル(110)から相互作用領域(15)へ流体を移送させたい場合には、第1電磁弁(140)の開放を制御してバイアル(110)内に大気圧よりも大きな圧力をかけ、第2電磁弁(150)を制御して閉じることで供給が制御され、相互作用領域(15)の表面に湿潤膜(16)を形成するようにする。
【0070】
吸引回路(200)は、媒体の出口に接続された第2のバイアル(210)を備える。この第2のバイアル(210)は、ポンプ(220)または真空容器によって真空下に置くことができる。通気口(241)上に開放する通常開放電磁弁(240)は、静止状態ではバイアル(210)を大気圧にする。相互作用領域(15)に堆積した液体(16)を吸引する必要がある場合には、電磁弁(240)が閉じられ、吸引された液体がバイアル(210)内に回収される。
【0071】
図3に示すように、湿潤液体は、まず(23)と(28)を接続する膜を形成した後、相互作用領域上の液体を吸引することで修正(縮小)され、切り込み(11、21)によって画定されるシリンダ状の空間の端部と、予備湿潤膜と呼ばれる膜(250)の端部との間に半環状の空間(255)が残る。その結果、相互作用領域に堆積されたメニスカス(250)が供給路(22~24)に含まれる液体と連通しないことがあり、これは液体が供給回路に戻るのを妨げる。また、(250)と(22~24)との間に連通があるバージョンも可能であり、特に蠕動ポンプを用いた推力および吸引システムが考えられる。
【0072】
湿潤流体の流れは比較的高いレイノルズ数を示し、一部の領域では2000を超えている。このパラメータにより、相互作用領域上に乱流を形成する境界層の進化(evolution)を表現することができる。
【0073】
(吸引後の)残留予備湿潤膜(250)は、その上に堆積されるインク膜の厚さよりも小さい厚さを有している。さらに、予備湿潤液体の性質は、生物学的インクの細胞に対して完全に無害でなければならず、これがなぜそれが生体適合性および/または無菌性からなるかの理由である。例えば、光重合によってハニカム構造を生成する光のフラッシュを使用して、カートリッジ上に画定されたマイクロウェルを作成することができる。
【0074】
湿潤表面は、生化学的グラフト法、薄層の堆積法、あるいは予備湿潤流体を使用しない材料の処理法によっても生成することができる。
【0075】
予備湿潤膜(250)が形成されると、例えばピペット(300)やシリンジポンプシステムを用いて、流体(250)の表面に生物学的インクのドロップ(310)が堆積される。
【0076】
生物学的インクは、湿潤流体(250)を介して、得られた湿潤表面上に分散される。
【0077】
その後、レーザーパルスを発射することができる。
【0078】
ショットのシーケンスの後、液体が吸引回路で吸引され、および/またはそれは推力回路により押し出されて、洗浄液体が新しいシーケンスの開始前に注入され得る。
【0079】
媒体の変形実施形態
図4は、移送媒体の変形実施形態の分解斜視図である。これは、
図1を参照して説明した第1の実施形態と同様に、接合された3つの切断されたスライド(10、20、30)のアセンブリによって形成されていて、レーザービームとの相互作用領域(11)を有するブロックを形成するようになっており、また、レーザービームを除去するための湿潤液体および吸引液体の供給チャネルを有している。これらのスライド(10、20、30)は、典型的には、ガラスまたはシリコンおよび/またはポリマー(滅菌可能または非滅菌可能)、例えばCOC、PMMA、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)で作られている。あるいは、下側のスライド(30)は、1030nm(使用するレーザーの波長)で透明な材料で作られており、他のスライド(10、20)は、透明または不透明にすることができる。
【0080】
上部スライド(10)は、41.5×23.5ミリメートルの長方形の片で、厚さは0.5ミリメートルである。それは直径17.5ミリメートルの丸い切り込み(11)を有している。
【0081】
中間スライド(20)は、シリコンやプラスチック、あるいはガラスなどの素材のシートから切り取られていて、これは同じ幅と長さを有し、0.15~0.16ミリメートル、典型的には0.1~0.35ミリメートルの厚さを有する。それはまた、切り込み(21)を備えていて、これは切り込み(11)と重ね合わせることができる。この薄いシートはまた、2ミリメートルの断面を有する2つの円形の切り込み(216、217)を有し、1ミリメートルの幅で切断されたトラックにより円形の切り込み(21)に接続されている。
【0082】
切り込み(20)と円形の切り込み(216)とを接続するトラックは、切り込み(20)に対して横方向、半径方向に延びる第1のアーム(212)と、このアーム(212)の端部と切り込み(216)とを接続する切り込み(218)とを有している。
【0083】
切り込み(20)と円形の切り込み(217)を接続するトラックは、切り込み(20)に対して横方向、半径方向に延びる第1のアーム(213)と、このアーム(212)の端部と切り込み(217)を接続する切り込み(219)とを有している。
【0084】
下部スライド(30)は、第1のスライド(10)と同じ41.5×23.5ミリメートル、厚さ0.5ミリメートルの直方体の片である。それは、レーザーの波長帯では透明、その他の波長帯では透明または不透明なこのスライドである。それは、直径17.5ミリメートルの2つの円形の貫通した切り込み(11)を有し、これらは中間スライド(20)の切り込み(216、217)と重ね合わせることができる。切り込み(11、21)に対応する円形の領域は、想定されるレーザー励起の種類に応じて、例えば金などの犠牲層で任意にコーティングすることができる。
【0085】
これら3つのスライド(10、20、30)を組み合わせることで、マイクロ流体媒体が、下部スライド(30)と中間スライド(20)を通過して上部スライド(10)で閉じられた2つの流体入口-出口オリフィスで、画定される。また、この媒体は、上部スライド(10)および中間スライド(20)を通過して下部スライド(30)によって形成される透明な底部によって閉じられる切り込み(11、21)によって画定される相互作用領域を有する。2つのチャンネルが、スライド(10)の上面とスライド(20)の下面で切り込み(212、218、213、219)によって形成されている。
【0086】
媒体は、このようにして、相互作用領域上にメニスカスを形成した後、オリフィス(216、217)の1つを通って相互作用領域に入り、他方のオリフィスを通って出る技術的インク(technical ink)を循環させる回路を備えた流体ヘッドを形成する。
【0087】
製造方法
このような流体媒体の製造は、50x75x1または50x75x1.6mmの長方形のガラススライド、あるいは直径6または8インチのガラスウェハを用意することで始まる。第2ステップは、ガラススライドの上に、その温度が上がると硬化するポリマーを流し込むことからなる。このポリマーは、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)であり、これは室温で液体であり加熱すると硬化するという特徴を有している。硬化ステップは、PDMSを固めることを可能にする。0.1~0.2ミリメートルの薄くて均一な層を形成するために、高速スピンコーティングが行なわれる。
【0088】
第3ステップは、一方で、上部層(10)を形成するためのガラススライドに、例えばドリルで、円形の切り込みを入れることからなる。円形の切り込み(21)とトラック(212、216、218、213、217、219)は、他方で、レーザーにより、湿潤化学エッチング(「湿潤エッチング」)により、または切断により製造される。
【0089】
次のステップは、例えばPDMS層の固化温度での圧力により、3つの層を結合することからなる。中間のガラス層は、ガラス層で置き換えることができ、この場合、関連付けは熱接着で行うことができる。
【0090】
下部スライド(30)の円形表面に金の層を堆積するステップが、次に切り込み(11、21)で区切られたゾーンで、真空堆積により行われる。
【0091】
その後、流体媒体は洗浄、包装および滅菌される。
【0092】
印刷機の説明
図5は、前述の流体ヘッド(1000)を使用する印刷機のブロック図である。相互作用領域は、供給ダクト(5011)と排水ダクト(5010)を接続するための流体コネクタを備えた把持部(2000)上に位置づけられている。
【0093】
把持部(2000)は、流体媒体(1000)の相互作用領域にレーザービーム(3100)を通過させるために、鉛直貫通チャネル(3210)を有する界面プレート(3200)に載置されている。ロボットアームに支持されたピペット(4000)は、流体媒体(1000)の相互作用領域に細胞性インクのドロップを堆積させることを可能にする。
【0094】
生物学的インク回路は、容器(5004)から流体媒体(1000)の相互作用領域を供給するための第1の蠕動ポンプ(5001)と、流体媒体(1000)の相互作用領域の内容物を吸引して収集器(5003)に排出するための第2の蠕動ポンプ(5002)を備えている。電子制御回路(6000)は、2つの蠕動ポンプ(5001、5002)、ピペット(4000)、および流体媒体(1000)に対する位置を制御するロボットアームの動作を制御する。装置はまた、把持部(2000)に接続された真空ポンプを備えている。
【0095】
この装置では、細胞性インクと接触する要素を、単一のピペット(4000)と流体媒体(1000)、および供給容器(5004)と収集器(5005)に限定することができ、装置の他のすべての要素は生物学的インクと接触しない。
【0096】
把持部の詳細な説明
図6および
図7は、流体媒体(1000)用の把持部(2000)の一実施形態の詳細図である。印刷媒体上に形成された活性キャビティは、レーザーパルスによってレシーバーに移送されるべき対象となる粒子が存在する、一種のペトリ皿を形成する。難しいのは、流体媒体(1000)の有用な相互作用領域全体において、レーザーの焦点に対して流体媒体(1000)の相対的な位置を非常に正確に確保することである。期待される精度は、典型的には±20μmである。そのような精度を達成するために、流体媒体(1000)が交換可能であることを知ることは、その都度、励起レーザーの焦点面に対する正確な位置決めを有しながら、繰り返し配置され、除去されることを意図している。
【0097】
そのために、把持部(2000)は、磁化可能な金属ブロックから加工されている。この固体ブロックは、完全に平坦な上面(2010)を有し、その中に4つのシリンダ状のシールハウジング(2011~2014)が現れている。曲がりチャネル(2021、2023)の第1の対は、キャビティ(2o11、2013)のうちの2つを、側面に設けられた流体コネクタ(2033)に接続している。
【0098】
角度付きチャネル(2022、2024)の第2の対は、他の2つのキャビティ(2012、2014)を、前面に設けられた空圧コネクタ(2032、2034)に接続している。
【0099】
これらの流体コネクタのうち2つは、真空ポンプ(7000)に接続された真空ダクトを接続するために使用され、これは把持部(2000)の上面(2010)に塗布された流体媒体(1000)を、吸引効果によって、大きな力と精度で維持する窪みを作ることを意図している。真空ポンプ(7000)の制御に応じて、流体媒体は所定の位置に保たれたり、解放されたりする。
【0100】
他の2つのキャビティ(2011、2013)は、流体媒体(1000)に入る及びこれから出る流体を伝達することを意図されている。それらの位置は、オリフィス(216、217)の位置に対応している。これらのキャビティ(2011、2013)は、シールを構成し、蠕動ポンプ(5001、5002)を接続するダクトの接続を目的とした流体コネクタ(2031、2033)と連通する。
【0101】
把持部は、磁気的な接続、またはタブ(2061、2062)に設けられた通路(2051、2052)を通るボルトによって、励起ヘッドに、特に励起レーザービームを通す窓の縁に、固定される。
【0102】
流体媒体(1000)の上面は、流体媒体(1000)のキャビティに形成された流体膜上に目的の物質を堆積させるための自動ピペット(4000)と、生物学的印刷プロセスによって目的の物質が堆積されるレシーバーとを交互に対向させて配置される。この2つの要素は、ロボットアームを用いて位置付けられる。
【0103】
操作原理
本発明によるシステムでは、無菌で閉じられたチャンバー内で生物学的印刷サイクルを人手を介さずに完全に自動で実施することが可能であり、これによりレシーバーの汚染や公害のリスクを回避することができる。
【0104】
全手法は、5つのステップに明確に分かれており、それぞれのステップが一定の制約に対応している。
【0105】
第1ステップ-消耗品の供給
操作の開始時に、実験者は、液体チューブ、技術的インク、特に技術的インク源(5004)と廃液容器(5003)、細胞性インク、ピペット用コーン、レシーバー、ヘッドおよび把持部で構成される使い捨ての消耗品を、これらの接続部に取り付ける。
【0106】
ユーザーによる設置を容易にするため、システムは蠕動ポンプ(5001、5002)を使用し、これらの流体チューブと簡単に接続できるようになっている。
【0107】
40cm2の組織を印刷するには、約40回の印刷サイクルが必要である。1mlの技術的インクが1サイクルに使用される場合、これは40mlの技術的インクが必要とされることを意味する。サイクル毎に使用されるインクの体積は、最小化されなければならない。
【0108】
第2ステップ:流体媒体の相互作用キャビティのプライミング
プライミングの目的は、チューブ、流体媒体(1000)の入口チャネル、およびキャビティを満たすことである。
【0109】
気泡は充填時にチューブとキャビティシールに入らないようにすべきである。これらの気泡は、方法の間に容器内に移動し、そのスムーズな進行を妨げることになる。そのため、2台の蠕動式注入(5001)および吸引(5002)ポンプが協調して制御され、プライミング時に吸引しながら強く押すことで気泡を除去する。
【0110】
第3ステップ:パターン印刷サイクル
このステップは、同じカートリッジで発射することが可能な回数だけ繰り返される。2つの蠕動ポンプ(5001、5002)を使用することで、流体媒体の入口(212)と出口(213)の間に連続的な流体ブリッジを確立することができ、技術的インクの流れに対して障壁を形成する局所的な乾燥に起因する障害を回避することができる。この流体ブリッジにより、流体媒体の入口と出口の間に接触を確立することができる。この流体ブリッジにより、特に、相互作用キャビティを完全に湿潤させる目的で、接触ラインを押し戻すことが可能になる。
【0111】
吸引は、膜の厚さを減らして膜と流体システムの残りの部分(チャネルおよびキャビティのエッジ)との間の接触を断つ目的で行われる。
【0112】
膜の再現性を確保することが望ましい。それは常に同じプロファイルおよび同じ厚さを有していなければならない。予備湿潤膜の管理が分散の再現性のために重要である。
【0113】
さらに、流体接触は断ち切らなければならない。そうしないと、細胞が毛細管現象によってチャネルに吸い込まれ得る。このため、アンカーラインが、予備湿潤膜の接触線を固定する目的で、キャビティ上にエッチングされ得る。
【0114】
第4ステップ:細胞性インクの堆積
この蒸着はロボットアームによって行われる。堆積中に細胞のクラスターが形成され、分散の均一性に悪影響を及ぼすのを防ぐため、ピペットは堆積の直前に細胞性インク溶液を均質化しなければならない。
【0115】
第5ステップ:レシーバーの設置
このステップは、ロボットアームによって行われる。
【0116】
生物学的印刷ステップ
連続したレーザー照射が、次に、レシーバーにパターンを印刷する目的で、流体媒体(1000)のキャビティ上に行われる。
【0117】
サイクルは、カートリッジが引き出せる限り、またサイクルの最初から開始される。
【0118】
犠牲層を用いた溶液の場合、流体ヘッド上で可能なショット数は、レーザー印刷法では金のアブレーションにより制限される。実際、金がないとパターンの移送ができないため、同じ場所で発射することができない。500μm間隔で滴下する正方形のパターンで、電流スポットが50μmの場合、100パターンが理論的に可能である。ただし、焼成後のスポット周辺での金表面の変形が確認されており、この部分での除去は印刷の品質が低下させる可能性がある。
【0119】
組織の印刷が終了したとき、チューブはそれらの両方を使用して吸引されて空にされ、消耗品を捨てることができる。